平成22年度の我が国における地球観測の実施方針(素案)

平成21年7月10日

はじめに

 地球観測推進部会は、総合科学技術会議の「地球観測の推進戦略」(平成16年12月。以下「推進戦略」という。)を受けて平成17年2月に文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会に設置された。本部会は、地球観測の推進に関する重要事項について調査審議し、地球観測に対する利用ニーズや国際的動向を的確に踏まえ、「推進戦略」に沿って地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等を内容とする具体的な実施方針を毎年策定することとされている。なお、実施方針は、平成17年の第3回地球観測サミットにおいて策定された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」等の国際的な枠組みとの連携を確保するものとされている。
 「平成22年度の我が国における地球観測の実施方針」では、気候変動への対応が世界的な政策課題として浮上しており、気候変動に伴う地球環境の変化を具体的かつ正確に把握することが、社会からの要請の高い喫緊の課題であることにかんがみて、気候変動及びその影響の監視・予測に求められる地球観測体制の強化を重点事項として提示した。
 本部会の提言及び実施方針を踏まえて、各府省・機関においては、平成22年度予算などを通じて地球観測の推進を図ることを期待する。

 第1章 気候変動への対応のために必要な地球観測の在り方

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(AR4)(2007年11月)による指摘や、G8北海道洞爺湖サミット(2008年7月)における合意等から明らかなように、地球温暖化をはじめとする気候変動への対応が世界的な政策課題として浮上しており、温室効果ガスの排出抑制に代表される気候変動の緩和策に加え、適応策についても緊急な対応が必要な状況にある。
 気候変動への適切な対応のために、気候変動に伴う地球環境の変化を具体的かつ正確に把握することは必要不可欠かつ社会からの要請の高い喫緊の課題であり、気候変動の監視・予測や対策に寄与するための地球観測の役割はますます重要になっている。

 「推進戦略」では、国民の安心・安全の確保、経済社会の発展と国民生活の質の向上、国際社会への貢献の3つの観点から、国の地球観測推進において喫緊の対応が求められているニーズとして、地球環境保全、水資源管理、自然災害の被害軽減等を挙げ、「地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応」、「水循環の把握と水管理」、「対流圏大気変化の把握」、「風水害被害の軽減」及び「地震・津波被害の軽減」の5つのニーズに応える重点的な取組が必要であるとしている。加えて地球システムの包括的な理解に向けて、「地球温暖化」、「地球規模水循環」等の15の分野において、体系的に取り組むべき課題を整理している。
 これら5つのニーズの1つ「地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応」では、人間活動に起因する地球温暖化が進むにつれ、その影響が顕著に現れると予測されており、そのため、地球温暖化にかかわる事象の全球的かつ包括的な把握を国際連携の下で行うことが必要であるとされている。
 気候変動は水循環や生態系・生物多様性などに影響を与え、さらに、風水害被害の増大を引き起こす可能性や、農業生産量にも大きな影響を与えるなど、気候変動が地球環境及び人間環境に与える影響は多岐にわたる。したがって、気候変動問題への対応のためには、気温・海水温の上昇、海面水位の上昇等といった気候変動の直接的な影響の観測のみならず、水循環、生態系・生物多様性など関連する分野における観測を密接に連携させ推進していく必要がある。
 そのため、「推進戦略」の15分野における「地球温暖化」分野の推進のみならず、「地球規模水循環」、「地球環境」、「生態系」、「風水害」などの各分野における観測を気候変動の観点から再整理し、分野を横断した観測体制の構築、観測データの共有を推進する必要がある。また、様々な分野における観測データと予測データ、さらに社会経済データをも含めた多種多様なデータの統融合によって、気候変動問題に関する行政の意志決定をはじめとする、一般社会の人々の生活に密接に関わる情報を提供していくことが重要であり、そのための研究開発を促進する必要がある。

 本章では、こうした状況を踏まえ、気候変動のプロセス・メカニズムの理解と気候変動の適応、分野横断的なデータの共有・統融合の3つの観点から、必要とされる地球観測についてまとめた。

第1節 気候変動のプロセス・メカニズム理解のための地球観測

 気候変動の監視・予測・影響評価・対策のいずれにおいても、気温上昇量を正確に予測することが重要であり、このためには放射収支や炭素循環などの気候予測において不確実性が高いプロセス・メカニズムの解明に必要となる様々な物理量を、全球規模で長期継続的に観測することが必要である。
 雲物理過程や台風・熱帯低気圧の発生など、その科学的要因が充分に明らかでない現象については、科学的理解の不足が、気候変動に伴う影響予測に大きな不確実性をもたらしている。また、気候変動の温室効果ガス収支へのフィードバックに大きな不確実性が含まれることから、フィードバックの大きさによっては、現在検討されている排出規制の目標値を大きく変更させる可能性がある。
 したがって、これらの不確実性の低減は、精度の高い温暖化予測やその予測に基づく政策立案のために必要かつ緊急の課題であるため、今後より一層の推進が求められている。
 また、IPCCをはじめとする気候変動に関わる国際社会へのこれまでの我が国の貢献、特に優れた気候予測モデルなどによる信頼性の高い成果を発信してきた経緯を考慮すると、それら気候変動予測研究の取組をさらに推進するとともに、不確実性の低減などの残された課題に取り組むことは、「先進者」である我が国の責務である。さらに、日本が持つ地球シミュレータ等の世界最高水準のスーパーコンピュータの性能を最大限に発揮させるためにも、予測の科学における不確実性の低減が不可欠である。

 本節では、気候変動のプロセス・メカニズム理解のために特に取り組むべき課題として、炭素循環の解明、雲物理・降水過程の解明、対流圏大気変化の把握、海洋への影響に焦点をあてて整理した。
 これらの課題は、地球システムの理解のみならず、次節でまとめている、気候変動の適応のためにも必要となるものである。また、水循環、生態系等の分野とも深く関係するため分野横断的な取組が求められる。
 予測の高度化・不確実性の低減から適応のための影響評価、適応策の策定に関わる基本的課題の解決のために、これら予測の科学から意志決定までを一貫した研究体制を確立して、推進することが期待される。

◆炭素循環の解明
 気候変動を予測し、人間社会や生態系への気候変動の影響を評価する上で、炭素循環を正確に予測することが喫緊の課題である。
 IPCC AR4では、気候変動と炭素循環の間の正のフィードバックの大きさの不確実性から、大気中の二酸化炭素濃度をある特定の水準に安定化させるために必要な二酸化炭素排出量の経路も不確実になると指摘し、将来の炭素循環のフィードバックの大きさの決定が解決すべき課題として挙げられている。
 現在、温室効果ガス排出削減策の一つとしてREDD(森林減少と森林劣化による排出の削減)が注目されており、二酸化炭素吸収源となる森林の観測を含めた炭素循環の観測の重要性が増している。また、森林火災による二酸化炭素放出については、衛星観測で評価した地上バイオマスの喪失から推定されているケースが多いため不確実性が高く、その評価を正確に行い、森林保全が温暖化防止策として果たす役割を適切に評価することが求められている。
 こうしたことから、炭素循環の一層の理解と、現在のモデルで見落としている部分を探査することを目的とした観測を強化することが必要である。
 なお、炭素循環の観測のうち、人間活動による二酸化炭素等の排出等、全球の温室効果ガス濃度分布の観測については、平成21年1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測が始まったところである。現在、宇宙から温室効果ガスを観測できる衛星は「いぶき」しかないため、本分野における取組については、我が国が国際的なリーダーシップを発揮し、推進することが期待される。

 また、地球観測連携拠点(温暖化分野)は、ワークショップの開催等により、今後の連携施策の検討を行い、陸域炭素・水・熱収支に関する温暖化影響と生態系フィードバックを検出するため、以下に示す取組により、陸域炭素循環観測と生態系観測の統合を実現し、連携施策を推進することが必要であるとまとめた。

  • 炭素循環、水循環、生態系、衛星観測を長期的に行うプラットフォームの共同利用
  • 衛星観測との直接的な対比を行うために十分な空間代表性をもつ地上観測網の共同利用
  • 地上・衛星観測データの品質管理と統合解析を総合的かつ長期的に行う体制の確立

◆ 雲物理・降水過程の解明
 IPCC AR4でも指摘されているように、気候変動予測に利用される気候モデルにおいて、雲・降水過程の扱い(特に熱帯域の雲降水過程)には不確定要素が多い。放射収支に関する雲・エアロゾルは、温暖化を和らげる(冷却する)効果を持つものの、その大きさが不確定であり、現在主流の気候モデルに内在する最大の不確定要因となっている。気候変動の予測精度向上のためにはこれらの全球規模での観測が必須であるが、現状は十分な観測が行われていない状態であり、衛星による観測を開始することが必要である。

◆ 対流圏大気変化の把握
 近年のアジア地域の急速な経済発展に伴い、化石燃料の燃焼に伴う大気汚染物質の放出量が増大し、我が国を含む広範囲の地域の環境への影響が懸念されている。さらに大気汚染物質は、二酸化炭素以外の微量温室効果ガスの大気寿命に重要な影響を及ぼすことから、気候変動の観点からもその観測が求められている。
 大気化学の観測では、大気組成の空間的・時間的変動の常時監視が重要であり、そのためには、静止衛星によるアジア地域の広域的な大気汚染・大気変化の監視が必要であるが、欧米も含めてまだ実現していない。そのため、静止衛星への搭載を目指した、大気環境観測センサの研究を促進することが必要である。

◆海洋深層水形成メカニズムの理解
 近年、気候変動の影響の一つとして、海洋深層の水温上昇が各大洋で報告されており、深層水形成量の変化に結びついていると考えられている。深層水形成量の変化は、大気との熱交換を通じて人間の生活圏の気温に急激な影響を与える可能性があること、人為起源二酸化炭素の海洋深層への移送量に影響することから、その変化の実態とメカニズムを解明し、気候モデルへの応用を可能とすることが求められている。

第2節 気候変動への適応のための地球観測

 IPCC AR4において、『過去30年間にわたる人為起源の温暖化が、地球規模で、多くの物理・生物システムにおいて観測された変化に識別可能な影響をすでに及ぼしている可能性が非常に高い』と指摘されているように、気候変動の影響はすでに顕在化している。さらに、『最も厳しい緩和努力をもってしても、今後数十年の気候変動のさらなる影響を回避することができないため、適応は、特に至近の影響への対処において不可欠となる。』と指摘されているように、気候変動に対する適切な適応策の立案が大きな政策的課題となっている。
 適切な適応のためには気候変動の影響を正確に知る必要があることから、観測体制の構築、観測技術の研究開発の推進が求められている。さらに、適応策や緩和策の効果を評価・検証し、より適切な対策に繋げるためにも、地球観測が果たす役割は大きい。
 気候変動、地球温暖化の観測は、一義的には気温、水温、地表面温度などの観測が中心となるものの、その影響がいつ、どこに現れるのかなど未知な点も多い。したがって、影響が現れると考えられる項目(変数、時間・空間スケールなど)を整理した上で、観測システムの検討を進めることが必要である。

 本節では、特に社会的要請の高い、水循環変動・風水害被害及び生態系・生物多様性における影響の評価、緩和に向け取り組むべき地球観測課題を掲げた。

1 水循環・風水害

 現在、世界各地で水不足、水質汚染、洪水被害の増大等の水問題が発生しており、特に経済成長に伴い水・食料需要が急増しているアジア地域等の開発途上国では水問題は非常に深刻である。
 自然災害による人的・経済的被害の2/3は水循環の極端事象(風水害、渇水)によって生じており、これらの極端現象への対策は喫緊の課題となっている。我が国を含むアジアでは水害による人的被害が、またアフリカでは干ばつによる人的被害が極めて大きい。
 さらに、気候変動による降水分布や降水タイプの変化は、これらの極端現象の発生に影響を与える。IPCC AR4では、多くの地域で大雨の頻度や干ばつの影響が増加する可能性が高いと指摘されており、気候変動により激化する水災害の影響低減のための適応策の支援情報の提供が求められている。
 地球規模での気候変動予測の不確実性は改善されてきたものの、地域規模の水循環の予測には大きな不確実性が存在する。適応策の意思決定のためには、予測の不確実性の低減とともに、不確実性を定量的に評価する手法の確立が不可欠である。
 さらに、水問題は社会・経済問題であるため、自然科学的なアプローチに加え、産業や生活、環境に与える経済的な影響評価が求められる。生活や環境などへの影響については、人々の意識に深く関連しており、各地域の人々の意識調査を含む、社会科学的評価も実施も必要となる。
 このように、気候変動による水循環の変化に対する適応策支援のためには、渇水、平水、洪水の全段階を含む水量・水質の変化の評価、及び産業や生活、環境に与える経済的・社会科学的影響の定量的評価、さらには産業構造・社会の発展、政策、住民意識の変化なども考慮した包括的な影響評価が必要であり、地球科学的視点、河川工学的視点、水環境工学的視点、地域経済並びに人文・社会科学的な視点を実質的に補完、共有することにより、理学的アプローチ、工学的アプローチ、人文・社会学的アプローチを融合して推進することが必要である。

 このような観点から、水循環の実態を正確に把握するとともに集中豪雨等の極端現象の予報に結びつけることが求められており、以下の取組の推進が期待される。

◆水循環・気候変動・気象の統合衛星観測による水災害の軽減
 水災害による人的被害を減らすことは、我が国を含むアジア及びアフリカの安全保障上不可欠な課題であり、極端事象の予測(台風・前線性等による豪雨の1-3日先程度の予測、局所豪雨などの1-3時間先程度の予測、少雨・高温傾向の季節予測)精度の向上、気候の変動傾向のモニタリング、及び地域的に生じる偏差の観測が不可欠である。
 そのためには、水循環の衛星観測技術基盤の高度化(高頻度、高空間分解能)と統合的利用、数値気象予測モデル・気候予測モデルと衛星観測データの統合的利用などについての今後の推進が必要である。

◆集中豪雨などの極端降水現象の発現メカニズムの解明
 極端現象の観測は、現在地上レーダ観測などが中心である。また、熱帯降雨観測衛星(TRMM)などの、雨の高精度観測は極端現象を事例的に良く捉えるが、メカニズム理解のためには統計的な把握が必要であり、観測頻度が不足している。災害の減少のためにはリアルタイムの雨観測のみならず、豪雨などの極端現象を広域の気象状態に照らして予測できるようなメカニズムの解明が必要であるが、そのための観測データが足りないため、不確実性の高い数値モデルに頼らざるを得ない状況である。
 そのため、GPM(Global Precipitation Measurement)の推進、衛星観測と地上観測及びモデル利用研究との連携に基づくメカニズム研究の充実などが必要である。

◆総合的流域土地水管理システムの構築
 水環境の保全、持続可能な水管理の実現、風水害被害の軽減等のために、気候変動に対応する、健康や生態系、食料生産をも包括する総合的評価システムの開発が必要であり、その基礎となる土地・水管理システムの整備が求められている。
 そのため、地域性の強い現象に関わる情報、特に数値モデル化が容易でない事象を、関連する国際的な枠組・組織との連携を図りながら、地球規模で収集していく必要がある。
 現在、基礎となる詳細な土地利用情報の整備が不十分である。特に季節や年代で大きな変化のある植生や農地・作目などは、気候変動の影響評価や適応策の検討のために、多くの分野・関係者が共通して必要とする情報であり、これらの情報のための長期継続観測やデータ整備が求められている。

2 生態系・生物多様性

 生態系・生物多様性に対する気候変動の影響はすでに顕在化しており、今後はその影響が加速することから、その影響変化をできるだけ即時的に把握し対策を打つこと、及びその対策の有効性をモニタリングすることが求められている。特に、開発途上国における環境の変化が著しいこと、気候変動などによる影響が早期に顕在化する可能性が高いことなどから早急に観測体制を構築する必要がある。また、クリーン開発メカニズム(CDM)のクレジット検証や、REDDの基準作りなどにおいても、生態系のモニタリングが必要とされている。
 平成22年に名古屋で開催される生物多様性条約(CBD)第10回締約国会合(COP10)では、「生物多様性の損失速度を 2010 年までに顕著に減少させる」という2010年目標に代わる次期目標が採択される予定である。次期目標の指標・監視のためにも地球観測の果たす役割は大きく、国際的な連携による生物多様性モニタリング体制の構築が求められている。
 なお、生物圏に関する観測は時間スケールが長いことから、必ずしも短時間にその結果の評価を行うことができないため、適切な機関間連携を図ること等により、長期的な観測体制・評価体制の整備が必要となる。

 気候変動による生態系機能(植物や土壌の炭素固定など)の変化については未知の部分が多く、また生物多様性への影響の観測はまだまだ不十分である。そのため、以下の取組の推進が期待される。

◆温暖化に伴う生態系・生物多様性の変化とその適応策の監視
 生態系の変動、生物多様性の減少の人間生活への影響と有効な適応策を順応的に確立するために、関連して劣化する生態系サービス(自然災害、水、生物生産など)との複合的モニタリングが必要である。現在、二酸化炭素と生態系データ(とくに生産力)などは連携が進んできているものの、生物多様性、栄養塩循環、生態系動態などのほかの生態系データと合わせたスーパーサイト形成と連携が遅れており、その推進が期待される。
 また、生物圏の観測は個別独立に行われることが多く、その知見が必ずしも集約化されていないことから、個別独立な観測を集約化することが重要であり、官公庁、大学、企業、NGOなどが所有しているデータの電子化、公開を進めることが求められている。さらにそれらデータのネットワーク化等を行うための実施主体としての拠点を作ることが必要である。

◆ 海洋酸性化のメカニズムの理解と水産資源への影響評価
 海洋の酸性化は現在確実に進行している。過去の実験室内における限定的な研究によれば、海洋酸性化が低次生態系に大きな影響を及ぼし、さらに、海洋の二酸化炭素吸収能にも変化をもたらす可能性が指摘されている。我が国近傍の北部太平洋海域は海洋酸性化の低次生態系への影響が急速に現れると考えられているものの、海洋現場での酸性化の実態と生態系変動との相互関連についての知見はきわめて乏しい。
 水産資源に対する温暖化適応策の策定のために、速やかに海洋酸性化と生態系の構造と機能の変化に関する観測研究を開始し、低次生態系及び水産資源への影響を評価する必要がある。

第3節 分野横断的なデータの共有・統融合

 地球観測を推進するにあたっては、衛星、海洋、陸上観測などの様々な観測データを科学的・社会的に有用な情報に変換し、全人類的課題である地球環境問題の解決、自然災害の低減に有用な情報として広く社会に提供することが重要である。
 超大容量で多様な地球観測・予測データの統合化と解析システムを構築して、温室効果ガスの地域排出量のモニタリング体制の確立、気候変動予測モデルの相互比較・統合化、地域気候変動の予測・影響評価の高度化、気候変動への緩和策と適応策の健全な意思決定、人口減少下の効果的な国土管理など、最先端科学技術を応用した国民目線の成果を創出することが期待されている。
 具体的には、水-衛生-保健、気候変動-水-農業、気候変動-感染症-生態系、気候変動-災害-農業、気候変動-水産資源などの異分野間のデータを統融合し、河川管理、農業支援情報、水産資源情報、生物多様性の保全、感染症情報、気候変動適応策、大規模災害軽減などに資する有用な情報を創出し、その成果を関係府省・機関の連携によって社会に還元していくことが求められる。
 なお、観測データから有用な情報を創出し、その情報を用いて政策決定を行うという一連のプロセスにおいては、それぞれのステップの間にモデル等を使うことで、情報を変換している。そのため、同じ観測データを用いていても、モデルの違いによる解釈の違いによって、最終的な政策が全く別のものになってしまうことがありうる。このようなことから、データを統合し情報を生み出していく上で、利用するモデルが非常に重要な役割を果たすため、モデルの持つ不確実性を評価し、結果として出てくる情報・施策の妥当性が評価できるよう留意する必要がある。

第2章 地球観測の基本戦略に基づく地球観測等事業の推進

 「推進戦略」では、人類の持続可能性と福祉を確保するための健全な政策決定に資するものとして、また地球観測に関して先導的な立場にある我が国の役割を考慮し、「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築」、「国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮」、「アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立」の3つを我が国の地球観測の基本戦略として挙げている。

第1節 利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築

 利用ニーズ主導の統合された地球観測システムは、地球環境問題の解決や災害の軽減などに資するため、限られた予算や人材等の資源の下で持続的・効率的に効果的な地球観測を実現するものであり、その構築を進めることが重要である。
 第1章第3節で述べたように、地球観測データを用いて様々な社会的課題を解決していくためには、関連する分野間の連携による相乗効果によって、単独の分野のみではなしえない、新たな価値を創出していくことが重要である。
 こうした成果を生み出していくためにも、モニタリングや長期継続観測を可能とする体制(予算、連携体制等)の構築、モニタリングや長期継続観測の重要性を示す啓発活動の推進、観測資料・試料に関するデータベースの構築、データ共有・流通の促進などを進めることで、必要なデータを適切な形で利用できる体制を整える必要があり、そのためには、それぞれの地球観測システムを担っている府省・機関が相互に連携し合う必要がある。
 その手段としては、関係府省・機関間の連携を推進する機能を持った連携拠点を設置することや、関係府省・機関が具体的施策を通じて連携を図ることが必要である。

 現在、地球温暖化の分野については平成18年度に環境省及び気象庁が中心となって連携拠点(地球温暖化観測推進事務局)を設置している。また、地震・火山分野については、地震調査研究推進本部及び科学技術・学術審議会測地学分科会の事務局である文部科学省が連携拠点としての機能を果たしている。
 第1章において取り上げた、水循環・風水害や生態系・生物多様性の分野についても基礎的なデータや観測の手法などが共通している場合が多いことから、関係府省・機関において連携の促進に資する連携拠点の設置に向けた取組が一層進展することが期待される。
 各分野における連携の進捗状況は様々であるものの、現在、その取組が進んでいる分野において成功事例を創出していくことが他の分野の連携・データ共有の促進に繋がるため、引き続き、既存の連携拠点における連携の推進が期待される。

 現在の地球観測において、衛星を活用した観測の果たす役割は非常に大きい。衛星観測は、スペクトラム、電波などを観測し、物理量に変換して、さらに観測成果に対する利用要求に沿った情報に変換していくというプロセスが重要であり、そのために必要な物理量やセンサ性能をEnd to Endで検討を進めることが必要で、地上や航空機などを用いた実験も含め、総合的に様々な分野を連携させて推進していくことが必要である。
 また、衛星を活用した地球観測技術は地球科学と電波科学そして技術の融合であり、研究開発要素が非常に大きい。そのため、長期にわたる定常観測の推進とともに、こうした新しい技術開発を推進することが重要であり、この観点から大学等との連携を含め、常に科学的・技術的研究開発に重点をおくことが期待される。

 なお、地球観測の成果を効果的に社会に還元していくためには、自然科学的データのみならず、社会インフラや経済・産業といった人間活動まで考慮に入れる必要があり、人間活動に関するデータ・情報も必要となる。そのため、地球観測の実施者側の府省・機関間の連携のみならず、具体的なニーズを持つ側の府省・機関あるいは地方自治体・事業者・企業等とも連携を図ることで、利用ニーズを意識したデータの取得・整備・情報化を進めることが今後、期待される。

第2節 国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮

 平成20年7月のG8北海道洞爺湖サミットでは、環境・気候変動が主要テーマの一つとして取り上げられ、首脳宣言において、地球観測データに対する需要の増大に応えるため、G8各国は、優先分野、とりわけ気候変動及び水資源管理に関し、観測、予測及びデータ共有を強化することにより全球地球観測システム (GEOSS)の努力を加速化することが合意された。
 我が国はG8メンバー国として、GEOSSに関係する取組の推進をはじめ、関連する国際機関・計画における地球観測に関する取組をより一層加速し、推進することが求められる。
 また我が国は、GEOSS推進のための組織である「地球観測に関する政府間会合(GEO)」の発足当初より執行委員会メンバーを務めた他(平成20年11月のGEO第5回本会合にて当初の任期終了)、作業計画へのリード機関・貢献機関としての参加、事務局への人的貢献、常設委員会(構造及びデータ委員会)の共同議長、主要なタスクチーム等へのメンバー派遣を行っており、次回閣僚級会合(平成22年秋、アジアにて開催予定)へ向けたイニシアティブの発揮が期待される。

第3節 アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立

 G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言では、地球観測における開発途上国の能力開発を支援することが合意されており、我が国と緊密な関係にあるアジア・オセアニア地域との連携を一層強化する必要がある。
 アジア太平洋地域におけるGEOSSの普及及びGEOSS推進に向けた情報交換を行い、共通理解を深めることを目的として、平成19年(2007年)から毎年GEOSSアジア太平洋シンポジウムが開催されている。本シンポジウムでは各国におけるGEOSS推進の報告とともに、連携の取組の推進についての議論が行われている。本シンポジウムを契機にGEOSS推進に向けた具体的な連携の取組を推進し、アジア太平洋地域の取組を世界に発信していくことで、全世界的なGEOSSの推進に繋げていくことが期待される。

 また、「平成21年度の我が国における地球観測の実施方針」では、総合科学技術会議が平成20年5月に取りまとめた「科学技術外交の強化に向けて」などを受けて、「推進戦略」における「アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立」の考え方を発展させ、アジア・オセアニア地域のみならずアフリカ地域など、広く連携を図っていくことが必要であるとした。関係府省・機関は、引き続き科学技術と外交の相乗効果等の観点から、開発途上国との科学技術協力を強化し、開発途上国の観測ニーズの把握、開発途上国の能力開発を含めた国際共同研究を推進することが期待される。

第3章 分野別の推進戦略に基づく地球観測等事業の推進

 「推進戦略」では、社会的な要請に応える包括的な地球観測の全体像を明らかにするため、「地球温暖化」、「地球規模水循環」、「地球環境」、「生態系」、「風水害」、「大規模火災」、「地震・津波・火山」、「エネルギー・鉱物資源」、「森林資源」、「農業資源」、「海洋生物資源」、「空間情報基盤」、「土地利用及び人間活動に関する地理情報」、「気象・海象」、「地球科学」の15分野において現状、観測ニーズ、今後の取組方針等を整理した分野別の推進戦略をまとめた。
 本実施方針では、第1章において重点的に取り組むべき事項として、「地球温暖化」を挙げ、さらに関連する「地球規模水循環」「地球環境」「生態系」「風水害」などの各分野における観測を気候変動の観点から再整理し、分野を横断した観測体制の構築、観測データの共有を推進するための方策についてまとめた。
 その他の分野についても、関係府省・機関は「推進戦略」に基づき、引き続きその取組を推進することが期待される。

 地震・津波・火山分野については、連携拠点である地震調査研究推進本部及び科学技術・学術審議会測地学分科会において、日本国内における地震・津波・火山被害軽減に関する取組が着実に進捗しており、観測データの流通・公開についても、国内では一部未解決の問題があるものの、体制がほぼ整備されている。また国外においては、地震データのほとんどは公開され広く利用されている。
 このように、本分野においては、連携体制の構築が着実に進んでおり、第2章第1節で述べた他分野の連携の促進のためにも、引き続きの推進が期待される。
 なお、日本列島周辺海域の地震・地殻変動観測、太平洋地域における地震観測に関してはまだ不十分であり、今後の進展、観測点の増加が望まれている。また、地震・津波・火山被害国における被害軽減に関する研究と成果の普及に関しては、科学技術外交の強化の観点からの国際研究協力の取組が進められておりその進展が期待されている。

お問合せ先

研究開発局海洋地球課地球・環境科学技術推進室

(研究開発局海洋地球課地球・環境科学技術推進室)

-- 登録:平成21年以前 --