資料2 核融合研究推進のためのロードマップについて(これまでの審議状況)(案)

 太陽のエネルギー源である核融合を地上で実現し、恒久的なエネルギー源として利用を目指す研究開発は、現在、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標とした段階(第三段階)にある。

 商用炉による実用化に向けては、この第三段階から今後、研究者・技術者コミュニティからの知的ベースを基に、社会や国民の理解を得て、国が第四段階(原型炉によって技術的実証と経済的実現性を検証する研究開発段階)への移行を含めた適切な可否判断を下していく必要がある。このため、現在の第三段階における進展を踏まえて、核融合研究の現状と課題を把握し、研究開発項目の優先度や合理的戦略化を明示するためにロードマップとして整理すべく検討してきたところである。これにより、効率的に原型炉を開発するためのチェックポイントやその時期、及び推進体制とこれらを支える基礎研究の重要性について今以上の明確化を図ろうとするものである。

1. 核融合研究開発の意義・有用性

 我が国は、現在、グリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)の促進などを積極的に図ることにより、地球温暖化問題を解決するとともに、その世界最先端の科学技術によって、低炭素社会の実現を図り、世界ナンバーワンの「環境・エネルギー大国」を目指そうとしている。

 この「環境・エネルギー大国」」や「低炭素社会」の実現を図るためには、化石燃料資源に依存することなく、資源量が十分に確保され、供給面においても安定性があり国民の安心・安全を保障する新たなエネルギーの実現が必要不可欠である。

 核融合研究開発は太陽のエネルギー源である核融合を地上で実現し、恒久的なエネルギー源として利用を目指す取組である。

 この核融合エネルギーは、資源量・供給安定性、安全性、環境適合性、核拡散抵抗性、放射性廃棄物の処理・処分等の観点で優れた可能性を有すると考えられており、恒久的な基幹エネルギー源として魅力的な候補である。

 「今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年10月26日原子力委員会核融合専門部会)によると、日本エネルギー経済研究所の評価では、省エネや再生可能エネルギーの利用に加えて、高い経済性を持つ核融合炉が早期に利用されれば、今世紀末の温室効果ガス削減に大きく貢献できる可能性が指摘されており、化石燃料が抱える問題からの脱却のために最適なエネルギー供給構成を考える上で、核融合エネルギーが実現すれば、革新的な代替エネルギーの一つとなりえる。

 また、国内に留まらない温室効果削減に代表される地球環境問題への世界貢献を考えた場合、技術の国際的普及という観点から、発電過程で温室効果ガスを排出しない核融合エネルギーの開発を我が国が積極的に進めることは、地球環境問題解決に向け、我が国が主導性を発揮することにもなり、その意義は極めて大きいと考えられる。

2.核融合研究開発の現状

 我が国の核融合研究開発については、平成4年に「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月9日 原子力委員会決定)が策定され、自己点火条件の達成、長時間燃焼の実現並びに原型炉の炉工学技術の基礎形成を主目標とし、この目標達成のため、トカマク型の実験炉を開発するとともに、それ以外の装置についても研究を進めることとされた。続く平成8年の原子力委員会核融合会議では、「ITER計画を「実験炉」として位置付け、開発することが適当である。」とされ、その方針に沿って研究開発が進められてきた。

 また、平成15年の「今後の我が国の核融合研究の在り方について」(平成15年1月8日 科学技術・学術審議会学術分科会核融合研究ワーキング・グループ)においては、我が国における核融合研究のグランドデザインとして、ITERと連携する開発研究と学問的体系化を目指す学術研究という2つの側面を併せ持つ総合的研究として捉え、第三段階の基本計画と整合性を取りつつ展開することやトカマク、ヘリカル、レーザー、炉工学の4つについては、研究計画の中でも重点化を図るべきものとされた。

 さらに、平成17年の原子力委員会核融合専門委員会報告書「今後の核融合研究開発の推進方策等について」において、第三段階計画の進捗状況について、原子力委員会が必要に応じて、総合的なチェックアンドレビューを実施することとされ、ITER建設が具体化した時点以降における第三段階計画については、当該報告書に基づき推進されている状況にある。

3.核融合研究開発推進のためのロードマップの必要性

(1)ロードマップ上の目標としての原型炉の位置づけ

 平成17年の原子力委員会核融合専門委員会報告書においては、核融合エネルギー早期実現のための開発戦略として、トカマク方式において、一定の経済性を念頭においた原型炉に向けての開発研究をITERと並行して進めることが妥当であり、ITERの基本性能の達成を受けて原型炉の建設を進めることが望ましいことから、ITERの主要な基本性能が達成される時期までに原型炉段階への移行の可否を判断するため、原型炉建設に必要な研究開発を総合的に進める必要があるとされた。

 ここにいう原型炉とは発電プラントとしての技術的成立性の実証を目指すものであり、閉じ込め方式によらず原型炉に求められることは、

1) 核融合エネルギーによる発電を実用化に繋がり得る技術において実証すること、 2) 実用化に繋がり得る一定の経済性についての見通しが盛り込まれていること、である。このために、原型炉には、高いエネルギー増倍率で定常・連続的な炉心プラズマの運転ができ、発電を行いつつトリチウム燃料の自己供給が可能で、かつ材料についての基本的な課題が解決され、実用化への見通しがついていることが求められる。

 平成17年の報告書においては、最短でITER運転開始後約7年程度経った2020年代初頭において主要な基本性能が達成され、原型炉段階への移行を行い、速やかに原型炉の建設を進めることができれば、2030年代から連続的な発電、安全性と経済性、運転信頼性の見通しを得ることを目的として原型炉による試験研究と改良を進めることが可能となり、今世紀中葉までに実用化の見通しを得ることも可能と判断されていた。その後の諸状況の変化も踏まえて、今後の核融合研究開発を、原型炉を目標としたロードマップとして全体的に俯瞰し、より合理的に実行していく必要性が益々増している。

(2)原型炉段階への移行の可否判断に向けたロードマップの必要性

 現在、文部科学省では、核融合研究について、平成15年の報告書で重点化等の方針が示された以降、その基本方針に沿って核融合研究開発に関わる施策を進めているが、その後、ITER計画やBA活動が進捗したこと、あるいはトカマク方式以外の研究も進展してきていることから、改めて発電技術の実証を行う原型炉段階への移行の合理的な可否判断を行うために、原型炉の開発に向けた具体的道筋を示すロードマップを描き、原型炉という目標に向け、科学研究と技術開発を統合させていくことが必要となっている。

 一方、核融合エネルギー研究開発は、太陽中心核の10倍という超高温の世界で起こる様々な未知の現象を、実験的・理論的に解明していくという学術研究とともに進展してきたことから、原型炉段階への移行の合理的可否判断を行うための収斂の過程においても、学術的に多様で新しい研究の展開と大型研究開発計画とを相補的かつ合理的に一体化した戦略の構築が必要である。さらに、原型炉開発の最終段階となる原型炉建設に直結する開発段階では、それまで広角的に展開してきた研究開発を巧みに収斂させ、人材と研究資源の集中化を図ることが必要であることから、やはり今後の行程を今から示していく必要がある。

 本作業部会が描こうとする「ロードマップ」においては、今後30年程度内での原型炉開発を目標と定めた場合に、特に我が国において行われるべき研究開発項目を総覧し、それぞれの項目の関係を分析することによって、全体としての研究開発計画を可能ならしめる戦略を、平成15年に示された核融合研究に関わる重点化施策(トカマク、ヘリカル、レーザーの3計画及び炉工学)の方針に依りながら、その後の進捗を踏まえて、原型炉開発に向けたより適切な在り方として明示を試みようとするものである。

 また、ロードマップの策定に関しては、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会「学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会」においても、学術研究の大型プロジェクトに関し、中長期的な視点も含め、計画的な推進を図るための方策について審議が行われ、平成22年8月に大型プロジェクト推進の具体的方策(ロードマップ)が取りまとめられたところである。

 このような状況も踏まえ、本作業部会では核融合研究の目標達成のために必要不可欠な課題を明らかにして、国を挙げた取組を研究者・技術者の自主的な参画・取組を得つつ進めるための効果的な組織・体制の在り方を示すとともに、研究の進展をチェック&レビューする具体的なチェックポイントや体制等について取りまとめていくことしている。

4.ロードマップ策定に当たっての考え方

 原型炉に向けた目標、具体像を明確に定義し、この目標に向けて様々な学術研究や技術開発を統合していくことこそが、核融合炉という巨大な複雑系を可能ならしめる必要条件であり、そのために広範に及ぶ要素研究開発の推進の整合性と合理性について不断の検証が求められる。

 とりわけ現時点において、重点化された4計画のうちの3計画(トカマク、ヘリカル、レーザー)については、大型装置研究のより合理的な展開が求められているところであり、今後の原型炉段階への移行の可否判断に向けての具体的なスケジュールと体制を明確にしておくことが必要であるが、そのためにも、具体的技術課題について整理を行っておく必要がある。

(1)原型炉段階への移行の可否判断に向けた技術課題

 平成15年に示された重点化施策のうち、まず、トカマク方式については、核燃焼の実証と制御を問う工学的実証段階にあり、現段階では最も進展しているとの国際的認識が持たれている。ヘリカル方式についても、原型炉概念としての確立に向けた基礎研究の新たな研究局面に入ろうとしている。一方、原型炉段階への移行の可否を判断するための技術課題が数多く残されており、これらは、建設開始前に克服、あるいは原型炉建設に向けた工学設計活動として解決を図っていく必要がある。

 また、レーザー方式の場合、原理実証を目指す基礎的段階にあるが、磁場閉じ込め方式とは異なったアプローチとして、新たな角度から代替する可能性を有している。

それぞれの方式における技術課題としては、

1)  磁場閉じ込め方式の場合

 炉心プラズマについては、まず正味のエネルギー供給を可能とするエネルギー増倍率Qが30程度以上の定常核燃焼、中心プラズマ性能とダイバータの定常状態での両立性、炉工学分野では、超伝導コイルなど炉本体を構成する主要機器技術、遠隔保守技術、高い積算中性子照射に耐える材料、発電ブランケット技術、初装荷・増殖・廃棄物処理処分を含めたトリチウム燃料サイクル、低放射化材料、加熱・電流駆動装置技術の実証が挙げられる。

2) レーザー方式の場合

 レーザー方式の核融合においては、レーザーに固有の要素技術である繰り返し率の高い炉用レーザー技術,ターゲット注入・追尾・レーザー照射技術,炉チャンバー・ブランケット技術が課題である。

 また、原型炉開発にあたっては、ITER計画やBA活動のみで解決できない課題があ  ることから、原型炉に必要十分な開発技術を我が国でも立ち上げておくべきであり、  そのための綿密な開発戦略を持つことが必要である。

 研究者コミュニティにおいて、精力的な検討がなされてきた。

核融合エネルギーフォーラムにおいては、ITER・BA技術推進委員会報告書「核融合エネルギー実用化に向けたロードマップと技術戦略」(平成20年6月)として、トカマクで原型炉を実現する場合を想定したケーススタディーの上に、ITER計画およびBA活動以外に原型炉建設に際して必要となる技術開発9項目への取組の必要性を指摘している。この9項目とは、

1.ITER-TBMの開発及び原型炉用ブランケットの開発、2.ITER用超伝導コイルの性能を越える原型炉用コイルの開発、3.原型炉用ダイバータ、4.Li-6の濃縮・量産技術ならびに初期装荷トリチウムの入手方法の検討、5.冷却系の  トリチウム管理技術、6.メンテナンス手法開発、7.核融合炉の規格基準検討開始、8.環境安全性評価手法の開発、9.国内重点化トカマク装置としてのJT-60SAを利用した実験研究である。

 また、核融合ネットワークにおいては、核融合研究開発全体から原型炉の炉形式を問わず、必要な研究開発の課題が検討されてきている。

 そこでは個別の研究課題をITERの建設期・運転開始期・燃焼実験期、原型炉の設計時期・建設開始時期・運転開始時期をマイルストーンとし、必要な課題、設備、規模等が整理されている。

  

 本作業部会ではこれらの検討を踏まえ、技術課題をロードマップとし図示し、整理することを試みている。

 原型炉段階への移行の可否判断に向けた技術課題には、様々なものがあるが、以下については、特に喫緊の技術課題としての検討が必要である。

(1)項目 ITERテストブランケット開発の開始

 ITERテストブランケットモジュール(TBM)については、平成22年中にITER機構と各極が締結する取決案が提示され、今後最終化が図られる予定である。当該取決と平成22年7月の臨時ITER理事会において合意されたITER開発のスケジュールに基づき、TBM開発に着手することが求められる。      

(2)既存の各プロジェクトの位置づけと今後の方向性

 原型炉の開発の検討を行うに当たっては、現在の核融合研究の状況を十分認識した上で、その検討を進める必要がある。核融合研究開発において、ITER計画は開発研究の一番高い階層として定義され、重点化された4計画のうち、トカマク、ヘリカル、レーザーについては、それぞれ現在、JT-60SA計画、LHD計画、FIREX-I計画として日本原子力研究開発機構、核融合科学研究所、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターが実施主体となり、コミュニティの参画あるいは協力を得て、着実に進められている。これらの重点化計画は、物理研究の進展と工学技術のけん引をもたらしてきており、それぞれ、目標の完遂に向けた研究の継続が必要である。したがって、ロードマップ上においてもその役割は基幹計画として位置づけるべきものである。これらの各計画の位置付けと現状について、以下に述べる。

1)ITER計画(トカマク方式)

 国際協力事業であるITER計画は、協定が平成19年10月に発効、ITER機構が発足し、平成22年7月にはベースライン文書に参加極が合意し、今後、その建設が進められることになっている。計画では、平成31年(2019年)に実験を開始し、50万キロワットの熱を発生させる核燃焼実証が平成39年(2027年)に見込まれている。このITER計画から得られる知見は、「原型炉」開発において極めて重要であり、決定的な課題ごとに、チェックポイントを定義して、それぞれが持つ意義・必要性を原型炉に至るロードマップ上に位置づけることが「原型炉」の開発のために有効である。

2) BA活動(トカマク方式 JT-60SA及び炉工学)

  BA活動は、日欧間のBA協定が平成19年6月に発効、平成22年3月には国際核融合エネルギー研究センターが青森県六ヶ所村に完成し、 今後、活動が本格化する見込みである。このBA活動は、ITER計画の効果的・効率的な推進に資するとともに、実験炉であるITERの次の発電実証を行う原型炉に必要な技術基盤を確立するための先進的な研究開発等を日欧間で行い、原型炉実現に向けて世界をリードするためのプロジェクトであり、大きく3つのプロジェクト、すなわち、国際核融合エネルギー研究センター事業に係る(IFERC)、国際核融合材料照射施設に関する工学実証及び工学設計活動に係る事業(IFMIF/EVEDA)及びサテライト・トカマク計画に係る事業から成っている。

 IFERCについては、原型炉の早期実現に資するため、原型炉の概念設計や必要な材料や発電のための研究開発(R&D)あるいはこれらに関連するシミュレーションを平成24年から実施する予定である。また、IFMIF/EVEDAはIFMIFの建設に向け、工学設計を行うとともに、IFMIFで必要となる強力な重陽子イオンビームの加速器や液体リチウムのループについての工学実証試験を行うプロジェクトであるが、大洗のリチウムループ設備の設置が進展するとともに、平成24年度に原型加速器関連の機器を同センターに搬入の予定である。IFERC及びIFMIF/EVEDAで得られた知見、技術、設備は原型炉建設に向けた重要な基盤であり、BA活動終了後に有効に活用する必要がある。

 サテライト・トカマク計画は、ITERを支えつつ、将来の原型炉に飛躍するための先進的プラズマ研究の最先端を切り拓くもので、既存のJT-60SAを改造した機動的なトカマク実験装置JT-60SAを活用して、経済的な原型炉について研究を進めるものである。

 JT-60SA計画は、BA活動のサテライト・トカマク計画と、わが国のトカマク国内重点化装置計画の合同計画であり、国際計画であると同時に原型炉に向けた国内トカマク研究計画の中核としての役割を担う。原型炉の早期実現に向けて、臨界プラズマ試験装置JT-60を超伝導装置に改修し、ITERの技術目標達成のための支援研究と原型炉に向けたITERの補完研究を行なうこと、これらによってITER・原型炉開発を主導する人材を全日本で育成することがその目的である。ITERの支援では、臨界条件クラスの高性能プラズマを長時間(100秒程度)維持する実験をITERに先行あるいは並行して実施し、その成果によってITER計画を効率的に進める。ITERの補完では、原型炉において実用化に繋がり得る一定の経済性についての見通しを得るために、ITERでは行うことの難しい「原型炉で必要となる高出力密度を可能とする高圧力プラズマの長時間維持」を実現し、原型炉の運転手法を確立する。

3) LHD(ヘリカル方式)

 ヘリカル方式は本質的に定常運転に優れた概念である。超伝導コイルを有した大型へリカル装置(LHD)という実験設備と、実施主体である核融合科学研究所の大学共同利用機関としての共同利用・共同研究という手法の特長を活かして、特に、プラズマの定常性に関わる学理の構築を図る。JT-60SAの稼働が見込まれる平成28年(2016年)までは、国内唯一の大型実験装置であり、我が国の磁場閉じ込め物理研究における国際的リーダーシップと人材育成を確保するための役割は極めて大きい。LHDを用いた研究によってヘリカル方式による原型炉の可能性を追求するとともに、トカマク方式をも包含する環状プラズマの総合的理解を深め、炉型式によらない学術体系としての知的ベースをITERやJT-60SAの事前検討から第四段階へ進む判断のために提供する。このためには、より核融合条件に近い高性能の定常プラズマを実現することが必要であり、今後、ダイバータ改造による熱粒子制御の向上や重水素の使用のための実験設備の拡充と定常及び安定性の学術的に重要な課題の解明に一層の努力を払う研究展開が必要である。

4)FIREX(レーザー方式)

 レーザー方式では、NIF(国立点火施設、米国)においてQ=10以上の核燃焼が、両3年の間に実証されると予測される状況にある。

 レーザー核融合は、最先端のレーザー技術と極限状態の物質科学に基づくことか    ら、新たな学術分野と先端産業を切り拓きながら核融合実用化に至る、新しいス   タイルのエネルギー開発研究である。炉心プラズマについては、わが国の高速点火    実証実験第1期(FIREX-I)での点火温度への加熱と、米国立点火施設NIFでの点火    ・燃焼の実証により、核融合炉心プラズマが概ね実現される見込みである。また、   炉工学技術については、炉用レーザー材料であるセラミッククリスタルの透明化   と、励起用レーザーダイオードの長時間運転に成功するなど、わが国発の大きなブ    レークスルーがあり、炉用レーザー開発の見通しが明確となった。これらの成果に    基づき、レーザー核融合原型炉の設計を検討できる状況になってきている。併せて、次段階のFIREX-IIを原型炉の前駆的研究と位置づけ、そこで得られる新しい知見   を原型炉開発に柔軟に取り入れていくことが構想されている。

 以上、既存の各プロジェクトの現状及び今後の主な方向性を概略記したが、具体的には、以下の事項について、それぞれ最も適した時期とはいつかを明らかにした上で、技術的選択を行う必要がある。

1)炉心プラズマ閉じ込め方式

 トカマク方式では基本的諸元を想定した概念設計を進めつつ、ITERとJT-60SAによるプラズマ閉じ込め性能の同定及び、電流駆動、ディスプラション制御の課題を見極めることができる時期が、原型炉計画開始の是非を決定するチェックポイントとなる。ヘリカル方式においてもLHDによるプラズマの高性能化によって原型炉への可能性を追求するとともに、トカマク方式との相補的・互恵的研究によって、磁場閉じ込め方式の研究開発を加速する。核燃焼への見通しを見極めることがヘリカル方式の原型炉につながる工学実証段階への移行のチェックポイントとなる。レーザー方式では,NIFの点火とFIREX-I計画による点火温度への加熱の結果をもって,原型炉のさきがけの研究となるFIREX-II計画の開始を判断することとなる。

2)ブランケットの方式

 水冷却固体ブランケット方式の基盤技術をITERのテストブランケットモジュール試験によって確立することをめざすとともに、並行して高性能ブランケットの可能性の検討も進める。これらの展開の中から、原型炉炉心の概念設計と整合性のとれたシステム実証試験実施への移行を判断する。

 また、今後の方向性については、以下の事項などについて、他分野との交流    と相乗効果を強く意識した積極的な展開が必要と考えられる。

1)原型炉の設計・建設への判断へと進む状況において、学術研究から今後も重要なインプットが必要である。炉心プラズマの非線形性、非平衡性、自律性といった特徴は現代科学の諸分野を横断するキーワードであり、上記の「選択と収斂」を行う時の根本的な判断基準を与える。そのために活発な分野連携を進め、概念の構築に努める必要がある。たとえば「炉心予測科学」という目標を掲げ、他分野を巻き込む学術研究を企画することなどが有効である。

2)レーザー方式が取り組む超高密度エネルギー物理は現代科学を横断する新しい分野であり、「実験室宇宙物理学」や「極限高強度場科学」など、天文学や加速器科学などと新たな学術分野を展開していくことが有効である。

3)基幹技術

 国際的産業力にもつながる工学基盤における展開が必要である。例えば、超伝導、高熱負荷材料、高繰り返しレーザー技術は基幹技術であるからこそ汎用が効くと同時に先鋭的な開発が可能である。これらは核融合からの主要な派生技術であるとともに,その成果を核融合研究に還元することが重要である。

5.ロードマップで示された研究開発の推進体制

   核融合の研究開発戦略のロードマップとは、いわば原型炉開発のための「地形図」すなわち諸学の総覧の上に、開発目標へ向かう進路を大まかに示すものである。改めていうならば、全体計画が目標達成可能であるための必要要件を洗い出すとともに、多様に展開する研究開発を一つの目標に向けて収斂させるための方向付けを行うことが目的である。また、現段階では未決定の事項について、どの時期にどのような基準で判断を行うかの手順を示すものとなる。

 このため、最終的には、総覧・分析した全体計画を「ロードマップ」としてダイヤグラムにして示すこととしている。また、それぞれの研究計画・プロジェクトのつながりを「チェックポイント」を介して示し、原型炉に至る研究開発の「流れ」を明示するものとする予定である。このロードマップが単に策定に留まらず、実際にその実現が図られるためには、我が国の核融合研究全体が整合性や合理性を持って効率的に推進される必要があり、そのための検証、推進体制並びに研究を支える幅広い支援体制の構築が図られる必要がある。

(1)研究推進の整合性と合理性の検証

 第四段階(原型炉により技術的実証と経済的実現性を明らかとする)への移行を判断するに至るITER計画及びBA活動を含む工学研究の整合性、合理性、完備性などに関する不断の検討・検証体制が必要である。

 また、我が国の核融合研究が国際的にトップの水準であるためには、核融合に関連する広範な学術・技術の重厚な知的ストック及び諸分野との有機的な融合を維持・発展させることが必要である。長期的展望に基づく大規模で計画的な研究開発とともに、未開発の可能性にチャレンジする独創的研究や、成果を他分野へ転換する学際的研究が重層的に構想されることも必要である。

 原型炉に向けた収斂とともに、核融合研究から生まれる学術や技術の知が新たな展開と循環を継続的にもたらすことによって、研究の加速や革新、基盤の強化、長期にわたる人材の育成が可能となる。

 本作業部会では、これまでも国際協力を軸とした大規模プロジェクトの推進と、一方で我が国の研究開発を担い、国際的な研究のリーダーシップを取れる人材育成の在り方について具体的で詳細な計画を議論してきたが、平成20年7月の「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」で分析したように、今後より多くの人材を投入する必要があることから、この分野の研究開発が孤立化するのではなく、境界領域を一層幅広くし、他分野との連携や融合による機動的な人材確保が必要である。

 こうしたことから、ITER計画及びBA活動に対する学術コミュニティの意見、知見の一層の反映がなされたり、産業界との円滑な連携協力の一層の強化を図るなどの方策や体制について検討する必要がある。

 さらに、核融合研究については、以下のような基幹技術としての波及効果を有することから、収斂の他方で展開の戦略が必要である。

 21世紀をリードする戦略的な基幹技術としての波及効果を有するものとしては、例えば、以下のようなものがある。

      レーザーによるEUV光源開発 

      高熱負荷材料

      低放射化材料

      イオンビーム技術

      マイクロ波による焼結技術や新材料創成

(2)進路決定の仕組みづくりとそのサポート体制について

 核融合エネルギー研究開発は、国の長期的な環境エネルギー戦略のビジョンに基づいて推進される必要があるとともに、核融合研究開発に携わるコミュニティーの協力と支持、さらには、この分野の研究開発に対する幅広い社会からの理解と賛同を得ることが必要である。一方、長期計画が固定化・硬直化しないために、全体計画の方針作りと研究開発最前線の状況とが、常に綿密なコミュニケーションによって整合化されるための体制が必要である。また、判断のプロセスは、研究開発に携わるコミュニティーの協力と支持を受けるものである。このためには、大型プロジェクトの実施主体となっている日本原子力研究開発機構と核融合科学研究所を中心とした大学及び産業界との連携の強化と、核融合エネルギーフォーラム及び核融合ネットワークなどによるコミュニティの合意形成が鍵となる。

 さらには、長期的ビジョンに基づいて、研究開発を円滑に進めるためには、幅広い社会からの理解や、継続的な支持がその基盤となる。こうした核融合研究を後押ししてくれる継続的な支持基盤を構築するための戦略も必要である。

 なお、継続性の観点からいえば、展開させるべき研究を競争的資金のみに依存することは、原型炉を含む核融合研究開発全体のリスクとなることから、ポートフォリオとして一定規模の継続的な支援が必要となるが、こうした継続的な支援を得るためにも、まずは、科学技術全般における核融合研究の位置づけをいかにして上げ、社会・国民の理解と支持を得ていくかについて戦略的に考えていく必要がある。

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