はじめに
○ 核融合エネルギーの実用化に向けた長期的研究開発戦略においては、特に「原型炉」の建設に至るまでの研究開発のロードマップを総合的、体系的かつ詳細に検討し、合理的かつ高い国際的競争力を有する推進体制を実現するための施策を明らかにすることが必要。
○ 本作業部会では、これまでも国際協力を軸とした大規模プロジェクトの推進と、一方で我が国の研究開発を担い国際的な研究のリーダーシップを取れる人材育成の在り方について具体的で詳細なプランを議論。
・ 平成19年6月27日「ITER計画、幅広いアプローチを始めとする我が国の核融合研究の推進方策について」
・ 平成20年7月31日「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」
○ 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会「学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会」では、学術研究の大型プロジェクトに関し、中長期的な視点も含め、計画的な推進を図るための方策について審議が行われており、その中で大型プロジェクト推進の具体的方策(ロードマップの策定)について議論が行われているところ。
○ このような状況も踏まえ、本部会では核融合研究の目標達成のために必要不可欠な課題を明らかにして、国をあげた取組に研究者・技術者の自主的な参画・取組を得つつ、効果的な組織・体制のあり方を示すとともに、研究の進展をチェック&レビューする具体的な手続きの制度設計について取りまとめていくことしているが、本文書はその概要とこれまでの審議内容を中間的に取りまとめたもの。
○ 本部会が描こうとする「ロードマップ」には、「原型炉」を目標と定めた場合に、とくに我が国において行われるべき研究開発項目を総覧し、それぞれの項目の関係を分析にすることによって、全体としての研究開発計画を可能ならしめる戦略を具体化して明示。
1 核融合研究推進のためのロードマップ
(1)原型炉とは
○ 核融合エネルギーが文明社会の持続的発展を支える新しいエネルギー源として国際社会に受け入れられ、かつ我が国のエネルギー戦略において確固たる役割を担うものとして、産業界において積極的に実用化されるためには、その礎となる技術的要件を総合して試験する「原型炉」の開発を、国をあげたプロジェクトとして実施することが必要。
○「原型炉」とは発電プラントとしての技術的成立性の実証を目指すもの。
○ 平成12年5月17日「核融合エネルギーの技術的実現性、計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」原子力委員会・核融合会議開発戦略検討分科会より
「発電プラント原型炉に求められることは、1) 核融合エネルギーによる発電を実用化に繋がり得る技術において実証すること、 2) 実用化に繋がり得る経済性についての見通しが盛り込まれていること、であり、このためには装置がコンパクトで、高いエネルギー増倍率で定常的な炉心プラズマの運転ができ、発電を行いつつトリチウム燃料の自己供給が可能で、かつ材料についての基本的な課題が解決され、実用化への見通しが出来ていることが求められる。」
「このような原型炉を開発段階の最終目標としたときの具体的な技術課題は、炉心プラズマについては、まず正味のエネルギー供給を可能とするQが30程度以上の定常連続核燃焼、高い自発電流率、駆動電流制御、中心プラズマ性能とダイバータの定常状態での両立性などが目標となる。炉工学分野では、超伝導コイルなど炉本体を構成する主要機器技術、遠隔保守技術、高い積算中性子照射に耐える材料、発電ブランケット技術、初装荷・増殖・廃棄物処理処分を含めたトリチウム燃料サイクル、低放射化材料、加熱・電流駆動装置技術、計測・制御技術が中心であり、それぞれについて技術的な実証試験が進められる。」
○「目標」の意味づけを、エネルギー・環境問題の視点も含めて記述する必要。
(2)ITER計画及びBA活動の位置づけと役割
○ 第三段階核融合研究開発基本計画(平成4年 原子力委員会決定)では、核融合研究開発の目標として、「第三段階の研究開発は、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標として実施する。これを実施するための研究開発の中核を担う装置として、トカマク型の実験炉を開発する。」
○ 原子力委員会核融合会議では、「ITER計画を「実験炉」として位置付け、開発することが適当であるものと考える。」(平成8年)と結論
○ ITER計画を具体的なテーマに分節化し、チェックポイントを定義して、それぞれがもつ意味を原型炉へ至るロードマップ上に位置づける。
(3)国内で解決すべき研究課題
○ ITER及びBAは国際協力で進められるプロジェクトであるが、これらの推進において我が国がリーダーシップを発揮し、またその成果をもって原型炉開発から実用化にいたる我が国独自の開発戦略に資するためには、国内の研究基盤を盤石なものとし、いわば前線と後方の関係を構築しつつ、人材育成と技術の継承を行う必要
○ ITER計画及びBA活動は原型炉へ至るロードマップ上の最大級の研究プロジェクトであるが、これらだけでは解決できない課題も多くあることから、我が国独自の研究開発を行い、国際的に高い競争力をもつ「原型炉」を実現するための綿密な開発戦略をもつことが必要。
○ 核融合エネルギーフォーラムITER・BA技術推進委員会ロードマップ等検討WGから指摘された9項目を検討することが必要。
1. ITER-TBMの開発、2.ITER用超伝導コイルの性能を越える原型炉用コイルの開発、3.原型炉用ダイバータ、4.Li-6の濃縮・量産技術、5.トリチウム関連技術、6.メンテナンス手法開発、7.規格基準検討開始、8.環境安全性評価手法の開発、9.JT-60SAの国内重点化装置としての実験研究
○ 核融合ネットワークにおいて原型炉に至るために必要な研究開発の課題を総括され、特に国内で解決すべき研究課題を下記の通りリストアップ。
1. ブランケット
2. ダイバータ
3. 加熱・電流駆動機器(NBI)
4. 加熱・電流駆動機器(ECH)
5. 計算機シミュレーション
6.トカマク原型炉設計
7.ヘリカル原型炉設計
8.レーザー原型炉設計
9.炉心プラズマ研究
10.超伝導・低温工学
11.トリチウム
12.低放射化材料
13.計装・制御システム
14.メインテナンス
これらについて、以下の時点における必要な課題、設備、規模(予算、人員を含む)を整理。
1.ITER建設中
2.ITER運転開始
3.ITERにおけるDT運転、
4.原型炉設計時期(原型炉工学R&D開始まで)
5.原型炉建設開始
6.原型炉運転開始
(4)研究推進の整合性と合理性の検証
○ 我が国の核融合研究が国際的にトップの水準であるためには、核融合に関連する広範な学術・技術の重厚な知的ストック及び諸分野との有機的な融合を維持・発展させることが必要
○ 長期的展望に基づく大規模で計画的な研究開発とともに未発の可能性にチャレンジする独創的研究や、成果を他分野へ転換する学際的研究が重層的に構想されることが必要。
○ 様々な学術研究や技術開発を「束ねること」の成功こそが、核融合炉という巨大な複雑系を可能ならしめる必要条件であり、そのために広範に及ぶ要素研究開発の推進の整合性と合理性について不断の検証が求められる。とりわけ現時点において、下記の事項について検討するための具体的なスケジュールと体制を明確にしておくことが必要。
○ 大型装置研究の合理的な展開
トカマク(JT-60SA)、 ヘリカル(LHD)、 レーザー(高速点火)
○ 原型炉方式決定のための検討体制の確立。
○ 工学研究の整合性、合理性、完備性などに関する検証が常に必要。
(5)ロードマップとチェックポイント
○ 研究開発戦略のロードマップは、精密な「地形図」すなわち諸学の総覧の上に、開発目標へ向かう進路を線引きしたもの。全体計画が目標達成可能であるための必要要件を洗い出すとともに、多様に展開する研究開発を一つの目標に向けて収斂させるための方向付けを行うことが目的。また、現段階では未決定の事項について、どの時期にどのような基準で判断を行うかの手順でもある。
○ 上記(3)および(4)で総覧・分析した全体計画を「ロードマップ」としてダイヤグラムにして示す。それぞれの研究計画・プロジェクトの連関を「チェックポイント」を連接点とする交差として示し、原型炉に至る研究開発の「流れ」を明示。
2 残された課題と必要な施策
(1)収斂させるべき研究、展開させるべき研究
○ 原型炉建設に直結する開発段階では、これまで広角的に展開してきた研究開発を巧みに収斂させ、人材と研究資源の集中化をはかることが必要。
○「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」で分析したように、今後より多くの人材を投入する必要があることから、この分野の研究開発が独立化するのではなく、境界領域を一層幅広くし、他分野との連携や融合によって機動的な人材確保が必要。このために、収斂の他方で展開の戦略が必要。
○ 収斂させるべき研究:原型炉の具体像を想定し、その実現に向けた研究開発を通じて常に原型炉概念を見直しつつ、その最終形に収斂してゆく諸技術の選択と集中を果敢に行うことが必要。
○ 具体的には、以下の事項について、それぞれ最も適した時期とは何かを明らかにした上で、技術的選択を行う必要。
1)炉心プラズマ閉じ込め方式:現状においてはトカマク型を想定して概念設計を進め、ITERのプラズマ閉じ込め性能を見極める時期をもって、原型炉における炉心プラズマの基本的緒元を決定する必要。
2)ブランケットの方式:現状においては水冷却固体ブランケット方式を想定して概念設計を進め、ITER/BAを通じて基盤技術の確立をめざすとともに、それを補完する研究として高性能ブランケットの可能性を模索。これらの展開の中から、原型炉炉心の概念設計と整合性のとれたシステム実証試験実施への移行。
3)超伝導マグネットの線材等。
4)この他の強調すべき項目は?
○ 展開させるべき研究:核融合研究から生まれる学術知や技術知が広範な外延をもつことで、この分野の活動は様々な先端分野と共鳴しあい、知の流通や人材の交流を生みだしながら、学術・技術の多様性の中で最適な進化を模索。単に役立つものを選択し吸収するというだけの活動はやがて孤立し枯渇。
○ 分野内に活動が留まってしまうと、硬直化や惰性化あるいは階層化といった最も忌避すべき事態に。核融合研究は大型研究プロジェクトのほかに、大規模研究ネットワーク、あるいは地道な基礎研究や先駆的・萌芽的なチャレンジに至るまで、様々な知的活動の参加によってはじめて持続可能。固定観念に縛られない知の多様化は、核融合という挑戦は何世代もの研究者を巻き込む知の活動に極めて重要。
○ 以下の事項については、他分野との結節点を強く意識した積極的な展開が必要。
1)基盤学術:原型炉の構想・設計への判断へと進む状況で、学術研究から今後も重要なインプットが必要。炉心プラズマの非線形性、非平衡性、自律性といった特徴は現代科学の諸分野を横断するキーワードであり、上記の「選択と集中」を行うときの根本的な判断基準を与える。そのために活発な分野連携を進め、概念の構築に努める必要。たとえば「炉心予測科学」という目標を掲げ、他分野を巻き込む学術研究を企画することなどが有効。
2)基幹技術:国際的産業力にもつながる工学基盤における展開が必要。例えば、超伝導や高熱負荷材料は基幹技術であるからこそ汎用が効くと同時に先鋭的な開発が可能。
(2)進路決定の仕組みづくり(そのサポート体制)
○ 核融合エネルギー研究開発は、国の長期的な環境エネルギー戦略のビジョンに基づいて推進される必要があるとともに、核融合研究開発に携わるコミュニティーの協力と支持、さらには、この分野の研究開発に対する幅広い社会からの理解と賛同を得ることが必要。長期計画が固定化・硬直化しないために、全体計画の方針作りと研究開発最前線の状況とが、常に綿密なコミュニケーションによって整合化されるための体制が必要。また、判断のプロセスは、研究開発に携わるコミュニティーの協力と支持を受けるもの。長期的ビジョンに基づいて、研究開発を円滑に進めるためには、幅広い社会からの理解や、継続的な支持がその基盤となる。
○ チェック体制の在り方を提示するのはどうか。具体例のたたき台として
1)技術的事項の選択・判断は「原型炉開発機構」に諸課題ごとの専門委員会を設置して実施し、核融合作業部会へ報告して承認を得ることはどうか。
2)大局的な開発戦略に係る選択・判断は、核融合作業部会の承認を得ることはどうか。
3)専門委員会の活動は、核融合ネットワーク、核融合エネルギーフォーラム、関連学会などの専門家集団から適宜委員を選任し、研究者コミュニティーの意見聴取・集約に努めることはどうか。
(3)喫緊の課題とその解決に向けた施策
○ 研究開発戦略のロードマップ上で分析された喫緊の課題について、具体的な施策を提示してはどうか。
○ 具体例のたたき台として
1)原型炉設計を担う組織
2)工学研究開発の加速プロジェクト
3)ITER/BA活動への取組
4)核融合炉の社会的認知のための活動
最所
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