安全・安心科学技術委員会(第29回) 議事録

1.日時

平成23年9月30日(金曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省15階 科学技術・学術政策局会議室1

3.議題

  1. 安全・安心科学技術に関する重要課題について
  2. 平成23年度 科学技術戦略推進費(安全・安心な社会のための犯罪テロ・対策技術等を実用化するプログラム)の採択について
  3. その他

4.出席者

委員

板生 清 主査、岸 徹 主査代理、青木 節子 委員、河本 志朗 委員、篠村 知子 委員、奈良 由美子 委員、橋本 敏彦 委員、堀井 秀之 委員

文部科学省

合田 隆史 科学技術・学術政策局長
渡辺 格 科学技術・学術政策局次長
大山 真未 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(調整・システム改革担当)
沼田 勉 科学技術・学術政策局政策課課長補佐

5.議事録

【板生主査】  開会

 本日は、安全・安心科学技術に関する重要課題についてご審議いただくとともに、科学技術戦略推進費で今年度採択したプロジェクトについて報告をいただく。

【沼田補佐】  配付資料確認

 

<議題1.安全・安心科学技術に関する重要課題について>

【板生主査】 本日と次回で最終取りまとめに向けたご審議をいただきたい。事務局から、資料の説明をお願いする。

【大山戦略官】  資料1-1、1-2、1-3に基づき説明。

【板生主査】  まず1番目に、資料1-2、検討の背景から東日本大震災で明らかになった課題、特に3ページの3.(2)今後の大規模災害に向けた取り組みあたりについてご意見をいただければと思う。

【岸主査代理】  3ページの(1)、前回の審議経過の整理では、マルをかいて「今回の大震災では」と、箇条書きになっていた。今回、箇条書きでなく、箇条書きだと不自然でなかったところの不自然さが出てきている。もう1点、3ページの(2)の下から4行目の「このため今後は、ハード面に加え」から3ページの最後までの文章は、どちらかというと4ページ6行目の「前記リスクコミュニケーションや、」からの文章とまとめたほうがいい。

【大山戦略官】  整理したいと思う。

【板生主査】  7月21日に研究計画・評価分科会が開催され、私が出席し、「審議経過の整理」という、この資料の前のバージョンを説明した。そのときに出てきた意見の中で、原子力の問題も安全・安心科学技術委員会で扱ってほしいという話が出た。ここには「本委員会においては分野横断的な観点に立って検討を行った」と書いている。

 そのほかにも、安全・安心に関して議論・質問が結構出ていた。それぞれ、リスクをどう考えるかとか、リスクというものに関してどう見るか、全体的な議論でまたお話しできるかもしれないが、そういう話があったことを報告する。

 次に、4番目の今後取り組むべき当面の課題というところについて、特に6ページの(2)の社会への実装化ついて議論をお願いする。

 7ページの下から2つ目の段落、「今回の震災では、国内レベルで潜在的な工学技術を持ちながら、実装の面で未熟であったために現場に導入できなかった事例が見られた」という婉曲な表現をしている。技術が社会実装という点でどこまで完全なものになっているか、要するに何かあったときに技術が使えないというような批判がいろいろなところで出てきた。大事な科学技術が役に立ったか、立たなかったかという議論は、重要と思うが、こういう表現でよろしいか。技術を実装するのが本委員会の役割なので、安全・安心な科学技術を扱っているにもかかわらず、いざとなったら役に立たないという意見に関しては、きちんと物を言っておかないといけない場合もあるし、そのとおりでしたと言わなければならない場合もある。そういうところがニュアンスとしてこういう表現になっている。

【岸主査代理】  研究成果が活用されない理由といっても、分野でかなり異なると思う。例えば、犯罪やテロ対策の機器がうまく導入されなかったとすればその理由だとか、あるいは地域において導入されなかったその理由というのは、それぞれ異なると思う。そういう部分を除いて書いたものだから、少しぼけ過ぎているのかなというのが私の印象である。要するに、研究成果が活用されてないということでまとめてしまうところに、違和感を感じる。

【板生主査】  それは、活用されたものがあるというのをきちんと書くべきだということか。

【岸主査代理】  活用されたものがあるならば、ある程度はあってもいいかなと思う。すべてが活用されなかったというイメージにはとられたくない。

【大山戦略官】  活用された事例もあれば、必ずしも活かされなかった事例もあると言えば、もう少し具体的にわかるという感じになる。

【岸主査代理】  もう1つは必要な研究開発自体がなされていなかったという部分もある。具体的な話がでないが、読んだ印象として。

【板生主査】  堀井先生は、どうですか。この辺は十分やってきたから活用されているというのをもっと具体的に書いたほうがいいということはあるか。

【堀井委員】  具体的にどう書けるかという問題もある。少し、別な観点でいいか。

4ページの4.今後取り組むべき当面の課題ということで、地域社会の安全・安心を担保する総合的なシステムの構築と、6ページの(2)研究開発成果の社会への実装化とあるが、これは総合的なシステムの構築の中に入ることなのか、よくわからない。危機発生後の情報提示のあり方というのは、今回のことを踏まえると、やはりしっかりと議論し、研究し、検討し、そうした総合的なシステムの中に組み込んでおくべきことと思う。これはなかなか難しい問題だが、重要だと思う。例えば、がんの告知ということのアナロジーで考えると、昔は、がんの告知は全くタブーだったわけであるが、患者がほんとうのことを知って、自分の人生を自分の意思のもとで全うしたいというようなことがあり、実際に告知を始めてみると、患者が非常に弱ってしまうということではなく、充実した最期を迎える方も結構おられるということを観察した経験を踏まえて、現在のがん告知というのができてきたと思う。

 そう考えると、災害時のような事態のときに、パニックを心配するというのは当然のことだと思うが、どこまで情報を提示することが適切なのか。それを提示することによってリスクを避けることができる可能性を尊重するという考え方もあるだろうし、そのあたりは結構重要なテーマである。特に安全・安心には信頼ということが大きなキーワードになってくるので、事業者なり、行政なり、専門家なりに対する信頼がどうやって築かれるのかということを考えたときに、情報提供のあり方というのは結構根本的な問題だと思う。その辺りを少し明記しておくのがいいと思う。

【大山戦略官】  例えば4ページの上から2つ目の段落のあたりに、「今回の大震災においては、特に、情報収集、情報共有、情報発信が大きな課題となった」という指摘をしている。当然ながら、このシステムの構築の中での重要なファクターになると思っており、他には、9ページの(2)にも、まさに堀井先生がおっしゃったような、正確な情報判断が非常に大きいということも書いている。

【河本委員】  今、堀井先生がご指摘になったように、3ページの3.東日本大震災で明らかになった課題は、(1)、(2)になっているが、リスクコミュニケーションと安心の確保というのは、(3)として独立して記載してもいいと思う。 東日本大震災とそれに続く原発の事故で大きな問題になったのは「安全」ですが、「安心」についても、今回非常に大きくクローズアップされている。放射能の問題も、これまでの災害の中ではあまりなかったことだと思うが、ここは、今回明らかになった課題として(3)で独立させて、リスクコミュニケーションも含めて安心の確保を大きく取り上げるのがいいと思う。

【大山戦略官】  おっしゃるように、不安感によって風評被害が発生するのは、客観的・科学的な情報の不足によるということを書いているが、少し整理する。

【河本委員】  情報提供もそうだが、相互性というか、インタラクティブな問題だとか、まさにリスクコミュニケーションとしてそこが今回大きく問題になっているということでは。

【堀井委員】  「災害復旧に対する信頼が大きく損なわれた」ぐらい、書いてもいいかもしれない。

【四ノ宮委員】  情報を正確に伝えていくということは非常に重要だが、わかりやすく伝えていくという、その観点も大事である。いくら正確に伝えようと思っても、わかりにくい言葉であったり、あるいは基本的なコンセンサスがないような状況で発言をしてしまうと、間違ってとらえられたりということがある。正しく発信するということプラス、わかりやすく発信するためにはどう工夫をしたらいいのか、少しソフト的な面になるが、そういうところを盛り込んでいく。日ごろのいろいろなアプローチの中で、例えば地域社会であれば、住民の意識レベルとか、理解度とか、そういうものも現段階よりもワンレベルアップしたもので、何かあったときにすぐ対応しやすいような形で日ごろの行動なり知識なりが育成されていくと思う。そういう観点も少し、ここに入れていただきたい。

【大山戦略官】   今回、堀井先生にご指摘いただいたソフト面やコミュニケーションという側面、これまでのハードだけではなく、住民の特性とか、意識とか、そういう部分も重要だと思う。それも組み入れた形でのシステムづくりというのを考えていかなければならないというポイントを盛り込みたい。

【板生主査】  では、関連している9ページの6.重要課題の推進に当たって留意すべき観点について、お願いします。

【堀井委員】  12ページの(5)人材育成について。今回の震災で私が感じているのは、分業の弊害ということである。科学技術が高度化していくに従って、専門性を高める必要があり、そのために専門分化が行われることは、当然の帰結なのでしかたがない部分はある。例えば、大学で問題解決というトレーニングはしているが、自分の分野の知識を使った問題解決しかやっていない。実際に必要となってくる技術は、機械とか、電気とか、土木とかであり、対象としては津波とか、施設とか、原子炉とか、違った分野の人たちが協力して複数の分野の知識を活用して問題解決するということが実は重要である。だから、自分達だけでは解決できない、ほかの分野の人と協力しなければ解決できないような問題を協力して解決するような教育が必要だが、大学ではやっていない。これは大きな反省点だと思う。社会はどうかというと、土木学科を出れば土木学会があり、土木者の土木技術集団があって、彼らは彼らの中で人事が進み、彼らの中で問題解決するという仕組みになっている。だから、大学だけの問題ではないけれども、複数の分野の知識を活用して、俯瞰的に、そういう人材を育成することが、今の日本社会に求められていると思う。また、それと重なることだが、意思決定を行うというトレーニングを受けていない。要するに、知識があれば意思決定ができると思い込んでいるところがあるが、知識だけでは意思決定はできなくて、トレードオフにある、相剋する価値の中でどれを優先してどの解をとるかということを決めなければならないわけで、それはやはりトレーニングを受けないとなかなかできない。しかし、さきほどの分業制度と一緒で、その立場になるまでトレーニングはあまり受けず、指示に従って動いていればいいところから、突然、意思決定が必要な場面に遭遇することになる。人材育成の中でそういうトレーニングが必要な点も触れていただきたい。

【河本委員】  どういう人材を育成するかということは入れたほうがいい。今、堀井先生がおっしゃったようなことや、四ノ宮先生がおっしゃった、情報をわかりやすく伝えるということに関連して、サイエンスインタープリターというか、技術的なことを一般の人にわかりやすく伝える訓練を受けた人が必要だと思う。要するに、技術者と専門家と一般の国民の間をつなぐ、翻訳をする立場の人が育成されていないように思う。専門に研究している方がそれをやさしく言えるかというと、自分は詳しく理解しているが、「国民はどこまでわからないのか」ということがなかなかわからないことが問題だと思う。どういった人材を育成することが、我々が議論していることに資するかという具体例を、人材育成に入れておいたほうがわかりやすい。

【板生主査】  先ほどの堀井先生の話について。実は、専門職大学院の技術経営というところは、ある意味ではその目的に近い実践教育を行っている。そういう制度ができているが、その大学院をつくる大学は少ない。私は東京理科大学でその大学院に所属しており、あらゆる技術を持ちながらソリューションをどう考えていくか、課題に対してどうこたえていくか、ある意味で安全・安心に関する専門職大学院みたいなものができている。社会人が中心になっていくというのも1つの方法かもしれない。

【堀井委員】  そういう横断的な分野の重要性を社会として十分認識できていない、企業として認識できていないということである。企業が認識すればリスク管理の点からもそういうところに社員を送るようになるし、そこでニーズがあれば、そういう大学院をつくろうと考える大学が増えていくと思う。

【板生主査】  大学自体がそういう教育をしてほしいのだが。マスターまたはドクターのところで。ただ、先生方からの質問でよくあるのは、安全・安心の専門教育とは具体的にどうやるのか、という話になってしまう。その答えをここで出せれば一番いいのであるが。

【堀井委員】  リーディング大学院というものがある。

【板生主査】  そういう設置申請をすれば、支援をしてもらえる。そこでどういう教育をするかという提案をしないといけないのだが、提案する側が戸惑っているケースが多いように思われる。

【青木委員】  人材育成に関連したところで、先ほどの情報に基づく同意や選択、広い意味でのインフォームド・コンセントについては、正確な情報でわかりやすく伝える、実体面での明確化や内容の拡充を進めるとともに、その情報を手に入れるための手続面を整えていくということも、あわせて書いておくほうがいいと思う。初等・中等教育における防災教育というのも手続面の1つだと思うが、それだけではなく、一般的にどのように正確な情報を入手することができるのか、それを整備していくことが文部科学省の努めだというような形であったほうがいいと思う。

【板生主査】  かなりの部分は情報に関するご指摘ですね。その情報を、どうとらえるかということ。

 国際連携については、何かありますか。テロ対策技術をどういうふうに国際的に波及させていくかとか、岸先生はどうですか。

【岸主査代理】  テロ対策技術というのは、外に出すか出さないかという機微な情報があるので、なかなか難しいところだと思う。ただ、日本としていろんな開発をしていれば、お互い情報交換ができるというところはあると思う。ただ、外国も市場と考えることになると、また次のハードルが出てくると思う。現実には幾つか、開発した装置を外国に出していると思う。日本で使える装置ができたら、それを国際協力に使えるという形かなということは思っている。

外国のものを買うにしても、ある程度こちらが技術を持ってないと情報もくれないので、ほんとうにいいものかどうかという見定めもできないということになる。そういう意味で、継続して技術開発を進めるというのは必要だと思っている。また一般論になるが、9ページの6.重要課題のところも、ある分野の話が、次の項目に行ったら別の分野の話になって、次の項目に行ったらまた別の分野の話になってということで、気をつけないと誤解を招くかなという感じはする。さきほどの人材育成でも、どの分野の人材育成をするのかとか、あるいは機材開発でも、どの分野の機材開発をするのかとか、システムでは、どの分野のシステムをつくるのかというところが、それぞれ分けられており、あちこちに書かれているので。ここで言う重要課題というのは、前半の、3.や4.を含んだ、かなり大きな部分ですね。

【大山戦略官】  はい、そうです。

【板生主査】  12ページの(6)安心文化の構築はいかがか。この辺はユニークなところである。

【河本委員】  安心文化の構築という言葉が出ているが、唐突感がある。何が安心文化か、という説明があってもいいと思う。

【板生主査】  安心文化の構築に科学技術が不可欠だと言う必要がある。

【河本委員】  そうですね。それから、文化という言葉をつけてしまうと非常にカラフルになってきてしまうので、とらえ方がいろいろ変わってきたりするおそれがあると思う。

【板生主査】  奈良先生、安心文化という言葉についてはどうか。。

【奈良委員】  災害文化とか、安全文化という言葉はある。災害文化がポピュラーだと思うが、それも含めての安心文化だということであれば、確かに少し説明があったほうがいいと思う。

【大山戦略官】  安心文化という単語がこれまでにどこかで使われている例はあるのか。

【奈良委員】  私が見た限りは、今のところないと思う。

【河本委員】  セキュリティ文化はある。まだ日本では一般的ではないかもしれないが。

【奈良委員】  でも、日本には、安心文化という考え方は非常になじむと思う。

【大山戦略官】  何か社会に向けて発信できるようなことを言えるキーワードのようなものが提言できればいいと考えている。

【板生主査】  安全に関しては、研究計画・評価分科会における各委員会で議論している。しかし、安心というところになると、言葉を濁しているというか、できていない。だから、本委員会の1つの特徴は、安全・安心の「安心」のほうをきちっと議論しているということであると、私も思う。

【奈良委員】  堀井先生や他の先生方がおっしゃっている信頼やリスクコミュニケーションという議論は、安心というキーワードと非常にマッチする内容である。本委員会から安心文化という言葉を出してみるのもいいかもしれない。ただ、説明はできるようにしておいたほうがいいと思う。

【堀井委員】  安心文化の構築について、私には意味が充分理解できていないが、絶対安全から決別するということか。リスクがあることを認めた上でどう安心するかという、それは大きな課題だと思うし、絶対安全ということを人々が求めるがために、こうせざるを得なかった、こうしてきたということは山ほどあって、それが必ずしもプラスでないということは、とても多い。だから、絶対安全ということから決別して、リスク社会の中でどう生きていくのかということをきちんと社会として考えるということは大切だと思う。しかし、そのこととここに書かれていることは少し違うだろう。

【大山戦略官】  そうですね。どちらかというと正確な情報の提供によって不安感を解消できないかというイメージで書いている。

【奈良委員】  ゼロリスクは不可能だということを広く国民が学び、リスクと向き合う、それも含めた安心文化というふうに言えばいいと思うが、その前提として正しい情報提示のあり方というのがある。

【青木委員】  主体的な選択のための正しい情報ですね。納得のいく選択ができるような状態を、実態・手続面で整備していくということが安心文化に通じると思う。

【岸主査代理】  安心というのは日本独自の感覚なのか。英語では、安全・安心をsafety and secureと訳すが、安心というのは英語的な何かがあるのか。

【堀井委員】  昔探したことがあるが、なかなか難しかった。

【板生主査】  ないと言われている。安心というのは、堀井先生がおっしゃったように、リスクを覚悟してプロフィット(利益)を享受しようというのが本来の姿である。しかし、日本では、リスクはゼロにしてプロフィットを享受したいというのがほとんどで、リスクはゼロでなければ困ると言われるが、欧米では、リスクはゼロとは言わず、プロフィットがこれだけあるからいいというような考え方だと聞く。そう考えたら、だから、99パーセント安全ですが、1パーセントは危険です、それでも使いますかといって使ってもらうというのが本来の姿だが、そういった安全・安心の考え方が日本人にはあまりないので、どうしても安全ですと言わざるを得なくなっている。安心ということを考えたら、完全な安全はないということを、だれかが言わないといけない。本委員会でそういうことを述べるとなると、どうですか。

【堀井委員】  難しいと思う。

【板生主査】  哲学論争になって、「日本人は」とかいう議論になってしまうか。

【青木委員】  欧米がどうかわからないが、今の日本についても、ほんとうにそうなのかというところも、よくわからない。日本とはこういうものだと思って進めていいものか疑問を感じるし、難しい。安心という概念は、かなり日本固有の文化に根差しているものであろうことは直感的に思うが、それを言語化して定義づけるのは難しい。

【板生主査】  なるほど、確かに固有のものかもしれない。

【四ノ宮委員】  やはり安心をどう考えるかという側面は非常に重要だと思う。例えば、私は医学とか生物学関係を専門にしているが、バイオに関してはバイオセーフティという言葉とバイオセキュリティという言葉がある。バイオセーフティというのは、技術面や手続面で安全を担保するという考え方で、それをきちっと守っていれば理論的には安全だが、どうしてもそこに落とし穴があるので、バイオセキュリティという考え方がでてくる。いろいろな不測の事態を重ね合わせて、セキュリティという面にどうセーフティを補強していくかということになる。科学技術の進歩や、人的ファクターに関する知見や、社会科学技術など、いろいろなものに裏打ちされた説明と、それをどうやって理解していくか。説明するほうは、いかに理解しやすく説明するかということだし、理解するほうにとっては、いかに理解度を上げるためにどうしたらいいのかという、そういう全体的な側面から、安全であったものをいかに安心として受けとめるかという流れになるのではないかなと思う。

 ゼロリスクは当然無理で、何かのリスクを認めなければならない、どこまでどういう形で正しくリスクを理解していくか、ということも含めて、この安心感を持つというところにつなげていくように思う。

【堀井委員】  ここにどう書くかというのは難しいと思う。例えば、13ページに「現在各地で問題となっている“風評被害”についても、科学的には「安全」なものが、心理的には「安心」でないものとして受け取られている」と書いてあるが、今問題になっているのは、“風評被害”だと言っているものがほんとうは危ないのではないかと。危ないものを“風評被害”だと言っているところに問題があると思っている人もいる。

だから、こう書き切ってしまうと、正しく問題をとらえているのかという印象がある。

【大山戦略官】  特に、原子力の問題、国の情報提供のあり方に対していろいろご批判いただいているときでもあるので、おっしゃるような点は確かにある。

【岸主査代理】  13ページの最後のパラグラフ「「安心」の形成のためには~科学技術そのものが「安全」であるという正しい評価が必要である。」というところも、どう解釈するのかと考えてしまうが。

【板生主査】  科学技術は正しい、と言っているように見えてしまうか。

【岸主査代理】  私はそういう印象を受ける。

【板生主査】  科学技術は絶対安全だというのは、だれも言えないはず。表現はかなり難しくなる。

【篠村委員】  東日本大震災で「えっ、そうだったの?」ということもあるとはいえ、日本国民の、日本の科学技術に対する信頼というのは、やはりあると思う。時間はかかるけれども、原発の問題も必ず解決に向けてやっていくだろうという、そういう国民の信頼感、そして、それにこたえようとする行政と、それに関わる民間企業、そういうアクティビティに対する信頼はあると思う。それは我々国民のとても貴重な財産だと思う。それをベースにして、新たに安心文化としてどう築き直していくという流れなのかなと思っている。

 科学技術は、国が主導して研究機関が持っているだけではなく、民間企業がたくさん持っている。安心文化という基礎には、国が主導してやることだけでなく、何かトラブルがあったとしても、民間企業で持っている技術もあるし、複数の対策ラインがあるということも、非常に大きな安心のもとになっていると思う。そういうことをうまく表現してもらえるといい。

【板生主査】  国民の力みたいな、そういうものがよく見えるような形を考えると。

【篠村委員】  そうですね。風評被害については、民間企業の場合には、風評被害は非常に恐れる。そういうことがあると、ほんとうに会社が潰れてしまうので。企業の社会的責任というような面からも、自分たちの利益を一方的に集めればいいというものではなくて、長く継続していく企業というのは、社会にきちんと受け入れられるような、さまざまなことをする。その意味で、もちろん情報の管理も行う。一定以上の規模の企業だとそれが普通なことになっており、リスクマネジメント、情報のマネジメントも普通に行っている。しかし、今、こういう事態になると、そういう考え方をあまりしたことのない自治体なり、あるいは農業団体なり、そういったところがもろにリスクマネジメントなり情報のマネジメントなりということにさらされてしまっているというところがあると思う。そういう意味では、風評被害は、事実を正しく知って、それを知らさなきゃいけないという面と、もう一つ、マネジメントという視点からもきっと不足していることがあるだろうと思う。それはもしかすると人材育成のところに関係するのかもしれない。

【河本委員】  同じ安全対策をとっていても、さらにプラスして人を安心させるすべというのは別に存在し得るということか。

【篠村委員】  そうだと思う。

【河本委員】  昔、グリコ・森永事件があったが、あのときに製菓会社は何をしたかというと、完全密封をして少しでも穴が開けられたらすぐわかるようにして、安全ですよという対策をとった、それから、ジョンソン・エンド・ジョンソンのタイレノールという頭痛薬に青酸だったか何かが混入されて死者が出た事件でも、全品回収をして、とにかく危ないものは一切市場にはないんだということを示して消費者に安心を与えたとか。それは、安全策をとると同時に、プラスで、企業としてはもっとコストがかかるが、安心させるという手を打ったというところである。

【篠村委員】  リコールみたいなこともそうで、最後の1台まで必ずリコールし切る。ほんとうにできるのかというのはあるとはいえ、トップがそういう強い意思を持ってマスコミにもそういう宣言をするという、これも意思決定の一種かもしれない。そういうことで小ずるいことをしていると、民間企業の場合には必ず消えてしまう。正しいことをやってないと、長いことには必ずばれてしまうというところがあって、そういう自然の浄化作用というか、選択がなされていくというところに、私は日本社会の健全さがあると思う。

【堀井委員】  その作用が、民間企業だけでなく、日本のすべての組織にそういう仕組みがきちんと機能しているといいと思う。

【篠村委員】  もちろん企業でも全部が全部そうではないが、でも長い目で見るとそうなる。もし今回の原発の問題なり震災の問題なりにうまくいっていない部分があるとしたならば、我々国民がもともと持っている力とがきちんと働くように、よくないところは直していかなければならない、足りない科学技術はもっと強力に進めなければならないと思う。

【板生主査】  だから、情報を隠している人がいると問題が起こる。透明性ということが一番求められるのではないか。

【堀井委員】  安心文化の構築をどう定義したら腑に落ちるかというので、例えば、リスクの実態を把握した上で、みずからに及ぶ危害の程度や対処の方法を理解し、適切な行動を選択することによって不安を抱くことがないことが担保されるような社会環境を安心文化と言うとすると、納得できる。

 どういうことが満足されるとそういう社会環境になるかというと、1つは、正しい情報が提示されていることが信じられることである。要するに、正しい情報が提示されるということを言ってもあまり意味がなくて、正しい情報が提示されているということが信じられるということが重要であるということ。だから、正しい情報が提示されていることをどうやったら信じてもらえるかというところが実は重要で、私たちは正しい情報を伝えているといくら言ってみても、ほんとうですかと疑っているところが、今の安心文化でないところなのかもしれないと思う。

【河本委員】  特に今回の原発事故では、放射能は見えなく、人の五感では感知できない。ほかの危機、例えば火事ならばリスクというのは五感で感知することが可能である。今回はそこが一番大きな要因なので、そこの部分というのはよく議論している一般的に安心を確保するという問題の中でのある意味例外的な問題なのかどうかということがある。そこだけ議論してしまうと、非常に例外的なことを我々は議論しているのかもしれないし、もっと一般的に議論をしたほうがいいのかもしれない。放射線の問題というのは少し難しい気がする。

【板生主査】  今の堀井先生のぎりぎりの表現でいいと思うが、難しいのは、ああ言えばこう言うという感じのものが必ず出てくるから、どこまで安心というものはこうだという定義をするかということである。この委員会でそういうことを記述することに責任を持てるか。最後の安心文化ということの表現について皆さんのコンセンサスを得ておきたいと思う。

【堀井委員】  先ほど私は「不安を抱かない」という言い方をしたが、安心というと定義しにくいが不安は、学術用語として計測できて、定義されている。不安というのは、怒りとか、そういう感情と同じで測ろうと思えば測れる。

【板生主査】  不安でないことが安心ということか。不安を計測すると言ったときに、人間の状態を計測するのか。

【堀井委員】  はい、計測の方法はいろいろある。

【奈良委員】  社会心理学的な尺度もたくさんある。

【堀井委員】  安心はどうやって測るのかと言われる。だから、不安でないのが安心と言っておくのが、私としてはわかりやすい定義である。

【板生主査】  その計測の方法をもう少し詳しく入れませんか。今のような、不安を計測する計測の問題がまだ不完全であるとか。

【堀井委員】  昔から感情の研究というのは行われている。だから、生得的な感情にはどんな感情があって、恐れであるとかいうのは非常に小さいときからあって、生得的な感情だと言われていて、それを質問して聞くこともできるし、脈拍を測る、いろいろなものを測ってその人の生理的な状態から心理的状態を推測するということはできるので、そこはそんなに心配要らない話だと思う。

【板生主査】  そうすると、個々の人たちが不安に思うか、思わないかは、計測のネットワークというか、情報システムの中でいかに計測するかというような問題にまで行くのか。

【堀井委員】  問題は、要するに喚起される不安をどうやって解消するかということ。喚起された不安を解消する方法というのが幾つかあって、一番中心ルートと言われている情報をきちんと提示して、本人が理解して、判断して、自分には危害が及ばないということを理解して、だから自分は大丈夫だと思って、不安でなくなる、不安が解消される、だから安心するというパターンと、それから、信頼できる人がいて、この人の言うことだったら僕は信じますよと、その人が大丈夫と言っているので、じゃあ大丈夫なんだと思って信頼する。あるいは安心する。そういうのができないと、不協和理論だが、とれないブドウを酸っぱいと思うように、これは自分には全然関係ない話だと、だから別に気にしないで食べちゃおうという、そういう安心の仕方と、とにかく絶対嫌い、だれが何と言おうと嫌い、理屈じゃなく嫌いだという嫌いになることによって安心するという不安の解消の仕方があって、最後のパターンになると非常に非合理的な社会的行動というのを導くわけである。いかにそれを避けて、より合理的な社会的な行動を導くかというのが課題になっているということである。だから、絶対安全と言うことによって安心しようと言ったのは、要するに最後のルートとなる。

【板生主査】  それはちょっと難しいのではないか。

【堀井委員】  絶対安全から決別するというのは、もう少し上の信頼できる組織なりをつくるということか、あるいはリテラシーを上げて本人が自分で安心できるようにするということか、どちらかしかない。だけど、自分で安心できる人はそうはいないので、社会的仕組みとして不安を喚起できるような仕組みをつくる必要がある。そのためには信頼というのがすごく重要というのが、一応、安全・安心にかかわる基本的なストーリーだと思う。絶対安全ではなく、合理的に不安を解消できるような社会環境というのは、私がさっき言った、安心文化というのがこの国にあるということと思う。

【板生主査】  それを実現するためにはどうあるべきかというのをここで書こうとすると、不安そのものの計測をもう少しするのか。もうできているからいいのか。

【堀井委員】  それは必要ないと思う。

【板生主査】  そうすると、そこから先は、情報提示とか、透明性の話になってくる。

【堀井委員】  さっき発言したように、例えば、正しい情報が提示されていることが信じられるということになる。

【河本委員】  安心が不安の解消というのは、わかりやすい。災害があっても、何か危機事態があっても、そのときにまずは不安を感じるわけだが、それを解消してあげるということが安心を与えるということだというのは非常にわかりやすい。おそらく不安を解消する方法としていろいろなものがあるだろうし、正しい情報が出ているとか、それが信頼できるとか、あるいは、板生先生がおっしゃたように便益との均衡で、確かにリスクはあるけれども、それを不安と感じない心理状態にあるとか。例えば、交通事故だけで年間4,500人ぐらいが亡くなるが、そこのリスクがはっきりわかっていて、なおかつ自分は便益を受けている場合、その均衡で大きな不安を感じない。いろいろな要素があるが、そういうリスクがはっきりわかっている、あるいはわからせてあげるということが不安の解消につながるということは、あるのかもしれない。

【板生主査】  この議論は、後ほどまたいただくとして、今までのところで何か他にあるか。次回もこの議題で委員会を行うので、また議論をお願いする。

【沼田補佐】  (別添)の表で何かあればお願いします。

【板生主査】  (別添)の表について、7月の研究計画・評価分科会での審議内容を事務局から簡単に説明願います。

【沼田補佐】  前回、研究計画・評価分科会の中では、この表の事例の中で病気とか老化というのは避けられないリスクであって、安心などないのではないか。安心が期待できるものと期待できないものを並べてしまうとなかなか難しい、というご意見をいただいた。

【板生主査】  この表はもう少し構成を考え直しますか。安全・安心を脅かす新たな要因という意味では、確かにたくさん平面的に並べてあるが。

【堀井委員】  今の点はむしろ、とにかく不安を喚起するような要因はすべて挙げるが、不安を喚起するものにはいろんな性格の違うものがあるので、その中で分類をするということのほうが、病気や老化を削除するよりはいい。

【河本委員】  リスクは避けられなくても、それに不安を感じるかどうかは別の話である。避けられないリスクはだめだという話ではないと思う。

【堀井委員】  3ページの番号が振ってあるところの社会不安、多元的な問題の噴出、パニック、断片的な知識、情報の隠蔽、風評被害、限られた対応手段、交通の分断や資源の枯渇、ここは少し整理をしたほうがいいと思う。

【橋本委員】  3ページで社会生活上の問題を2つに分けているのは、何か分類があるのか。

【沼田補佐】  修正し、まとめる。

【奈良委員】  2ページの健康問題の最後の中分類のところが空欄になっている。小分類が空欄なのは構わないと思うが、大、中までは何か書かれていたほうがいいと思う。

【沼田補佐】  はい、わかりました。

【岸主査代理】  細かい話になると、事故のところ、交通事故(自動車事故)って書いてあるが、ここは道路上の事故という意味だろうと思うので、自動車と特定しないほうがいい。

【堀井委員】  この表をさらにいいものにしようと思ったら、何かしかるべきメカニズムがないと難しいがいかがか。

【大山戦略官】  基本的に、7年前にまとめたものに、大震災等を踏まえてこの数年間の変化を、ご意見いただきながら書き加えたという構成になっている。

【堀井委員】  もともとは、例えば新聞記事で、不安とか、安心とか、幾つかのキーワードを使って記事を検索して、それからリストアップするような作業を行った。だから、これは例であって、すべてを網羅するということではないと思う。

【奈良委員】  前回は11項目であったのが今回、大分類で3ページ目の社会不安と複合的要因というところが新たに加わっている。、大分類というのが一番目立つので、ここはきちんと見ておいたほうがいいと思う。そうすると、「社会不安と複合的要因」って、ほかの大分類の見出しとちょっと違うような気がする。ほかのは、リスクが発生する問題領域である。

【大山戦略官】  検討する。

【堀井委員】  「安全・安心を脅かす新たな要因」と書いてあるが、新たではないものもたくさんあるので、単に「要因」としたほうがいい。このうち、新たと言えるものはあるのか。

【沼田補佐】  先生方からいただいた意見を踏まえ、社会不安とか、複合的要因とかを追加しているのと、あとは個別に細かいのを幾つか入れている。

【篠村委員】  経済問題の扱い方はこれでいいのかというのが、よくわからない。

【堀井委員】  (別添)の表は、必要なのか。つけなければならないかということを考えたときに、つけることの意味はそれほどないような気もする。

【大山戦略官】  この委員会として全体を俯瞰して見たという意味では、こういうものがあると全体像を一定程度整理し、わかりやすい。

【四ノ宮委員】  研究開発をしたりする場合に、これのどこに位置づけているという形でこの表を見るということはないのか。

【大山戦略官】  必ずしもそこまでの作業は今後想定してない。先ほど口頭で触れたが、例えば予算要求等を考えるときに、全体を見るとこうで、今回特にこことここを予算要求したというような、全体を見た上でプライオリティーづけをしたというときの前提としては活かせるのと思っている。

【板生主査】  大分類から中分類ぐらいまでをしっかり書いて、あとは全部「例」にしてはいかがか。また議論をしたいと思うので、次回までに考えておいてほしい。

ここまでで議題1を終わらせていただく。

 

<議題2.平成23年度 科学技術戦略推進費(安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム)の採択について>

【板生主査】  事務局のほうから説明をお願いする。

【沼田補佐】  資料2-1~2-4に基づいて説明。

【板生主査】  何かご質問等があればお願いする。岸先生、何か補足はありますか。

【岸主査代理】  テーマ1のほうは3件の応募があり1件採用、テーマ2のほうは5件の応募があり1件採用ということになっている。また、昨年は、9テーマあり、7テーマ9件採用している。つまり、安全・安心な社会のためのこのプログラムにおいては、今年から合計11プロジェクトが行われる。

【板生主査】  このプログラムでは、研究開発した装置を各府省庁が使っていただけるという前提のもとで実用化をやっていこうという話である。この辺のところを常にフォローしていかないと、最後、使えませんという話になると大変問題が大きいので、その辺のところは委員会を構成していろいろなことをやっていく、まだ要求されている仕様に対して技術的にも未熟なところがかなりある。それは研究代表者に頑張ってもらうしかないということですね。

【岸主査代理】  はい。

【板生主査】  それでは、よろしいか。 事務局から何かあればお願いする。

【大山戦略官】  今後の予定として資料3、次回は10月25日火曜日の15時~17時を予定、その後は、11月29日火曜日の14時~16時を予定している。引き続き、今日の議論を重ねていただくことと、安全・安心科学技術プロジェクトについての評価をお願いしたいと考えている。

【板生主査】  第29回安全・安心科学技術委員会を終了する。

 

── 了 ──

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