安全・安心科学技術委員会(第27回) 議事録

1.日時

平成23年6月17日(金曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省15階 科学技術・学術政策局会議室1

3.議題

  1. 安全・安心科学技術に関する重要課題について
  2. その他

4.出席者

委員

板生 清 主査、岸 徹 主査代理、青木 節子 委員、河本 志朗 委員、四ノ宮 成祥 委員、篠村 知子 委員、奈良 由美子 委員、堀井 秀之 委員、村山 裕三 委員

文部科学省

常盤 豊 科学技術・学術政策局科学技術・学術総括官
大山 真未 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(調整・システム改革担当)
沼田 勉 科学技術・学術政策局政策課課長補佐

5.議事録

【板生主査】  開会

【沼田補佐】  配付資料確認

<議題1.安全・安心科学技術に関する重要課題について>

【板生主査】  本日はまず安全・安心科学技術プロジェクトの地域社会分野の自己評価報告書について、本プロジェクト推進委員会委員長でもある堀井委員から発表をお願いする。

【堀井推進委員長】  資料1-1,1-2,1-3に基づき説明。

【板生主査】  質問等があればお願いしたい。

【村山委員】  3課題とも実装されたのか、また1課題あたりの研究費は幾らか。

【堀井推進委員長】  3課題とも実装されている。

【沼田補佐】  研究費は、22年度の予算が3課題合わせて約1億円である。

【村山委員】  1課題あたり3,000万円ぐらいだが、プロジェクト終了後のランニングコストは、どこが負担しているのか。

【堀井推進委員長】  各課題には、サステナビリティー、永続性ということを随分考えてもらった。例えば、東京工業大学のケースでは、通常の行政システムに緊急時の対応を可能にする機能を組み込む。また、そのシステムを地元の業者が開発し、メンテナンスできるようにした。そうすると、自治体では、いろいろな種類の行政システムを1つにすることができる。そこでかなり自治体の費用が浮く部分もある。そういうインセンティブがあって、このプロジェクトが終了した後も、続いていくということを考えている。

【村山委員】  それではランニングコストは追加的にはそんなにかからないのか。

【堀井推進委員長】  当然このプロジェクト終了後も各種競争的資金を獲得する努力はされると思うが、基本的には継続していくメカニズムを、この3年間で見つけていただいた。

【四ノ宮委員】  サステナビリティーは非常に重要だと思うが、資金面以外に人材をどのようにしてつないでいくかということに関しては、推進委員会で助言もされたと書かれているが、その辺はいかがか。

【堀井推進委員長】  地元の方と信頼関係をつくって、日々の活動として続けていくということが重要なので、地域の方々の中からプロジェクトを進めていく人を育て、大学との信頼関係を築いていくということについては、どの課題にも心を砕いていただいた。例えば、熊本大学では、必ずしも防災だけではなく、地域活性化の拠点というものを大学として目指しており、その先行事例として本プロジェクトが進んでいる。本プロジェクトが大学の1つの重要な活動として位置づけられていけば、大学側の人材もそこで育って、続いていくと考えている。
 もう1点、推進委員会では、3課題の成果を踏まえ、同種のプロジェクトを社会に実装していくときに、どういうことに配慮して、どういうプロセスを踏んでいけばよいかを方法論化しようと随分議論をした。この成果がまとまり、奈良先生のご努力により、放送大学で「安全・安心と地域マネジメント」という科目ができることになった。その紹介を奈良委員にお願いしたい。

【奈良委員】  放送大学では、基礎的な科目に加え、社会人が関心のあるテーマを授業にしている。今回の地域安全というのは、それに値するテーマであり、ある地域が安全・安心をキーとして、人を育て、お金を回し、そのコミュニケーションデザインをどう行っていったのかという、そういったプロセスをきちんと科学的に教材化して、日本中の方々にお届けして、活用していただこうと、そういう趣旨で授業を企画している。2014年4月1日からのオンエアで、BSデジタルで日本中に放送され、放送大学の学生でない方々の目にも広く見られるものになると思う。

【堀井推進委員長】  群馬大学の片田先生にはこの推進委員会の委員として随分ご協力いただいた。片田先生が釜石市で防災アドバイザーとして行われた活動は、まさにこのプロジェクトの先行事例という形で進めていただいたもので、今回この放送大学の教材をつくるときにも、片田先生にぜひご参加いただければと考えている。

【奈良委員】  科目は全部で15回。本も出版され、最低4年間は開講されるので、片田先生の成果については、そういうところで公表していきたいと思う。

【板生主査】  まずは手探りで3課題やってみたが、ほんとうはここからさらにパターンの違う課題をやらないと、一般化は難しく、抽象化はなかなか困難だろうと思う。そういう意味で、情報システムの連携をさらに深めていく必要があると思うが、その点はどのように考えているか。

【堀井推進委員長】  これまではそういう連携については、あまり意識せずにいたが、ご指摘のとおり、そこは得るものも多いと思う。今後、もしこういうことを進めていけるのであれば、いろいろな分野との連携を考えていきたい。

【村山委員】  各課題が実装されたのは1つの都市とか1つの地区ということで、今後の方向性としては、「ほかの地区」に、ほかのシステムをつくるということなのか、それともこのシステムを例えば県レベルまで広げていきたいということなのか。

【堀井推進委員長】  後者である。

【村山委員】  そういう方向で、より大きく一般化して広げていく努力がこれから必要だと思う。

【堀井推進委員長】  各課題にはそういう工夫をお願いしている。

【村山委員】  実際に、ほかからこういうことをやってみたいという声は出てきているのか。

【奈良委員】  山梨大学では、山梨県が最初から入っていたので、おそらく自動的に県レベルに広がっていくと思う。
 また東京工業大学では、北海道遠軽町の小さな地区でやり始めたが、あの地区がこんないいことやっているというのがどんどん広がって、今は遠軽町全体で活用することが決定しており、さらに近隣の2カ所が手を挙げている。また、東日本大震災の後は、栃木県那須烏山市からぜひ手伝ってほしいという要望があり、着実に多地域に広がっている。もともと、ほかの地域が十分運用できるような汎用性の高いものをつくっているので、無理なく広げられると思う。

【村山委員】  なるほど、すばらしい。

【堀井推進委員長】  熊本大学でも、ある地区でやり始めて、ほかの地区に水平展開するときにどういうPDCAを回せばいいか、水平展開のための方法論が構築されている。

【篠村委員】  プロジェクトをほかの地域にも導入しようとするときに、かなめとなるのはなにか。例えばキーパーソンとしてどういった職務の人を最初につかまえればいいとか、行政を引っ張り込むとか、あるいはNPOなどを通じて地域のニーズを拾い上げるとか、何かそういうコツがあるのか。

【堀井推進委員長】  多分両方であろう。例えば、防災関係の人々が集まるシンポジウム等で紹介することもあるし、それから実際に見学をさせてほしいという依頼が来ているようなので、そういう機会やいろいろなチャンネルを活用することを考えていきたい。

【河本委員】  ほかの地域に広げるときに、3課題の方々が、技術的にもシェアをしていくことは考えているのか。そのときに費用が発生する場合はどうするか。その辺は何か展望はあるか。

【堀井推進委員長】  これから予想される東海・東南海・南海地震の被害が予測される地域において類似の地域と大学と行政が一体となってコミュニティーをつくり、適切な対応ができるようになるために、例えばプロジェクトが公募されれば、そのときに経費の中から3課題の方々が協力できるような枠組みをつくっていただくと、とても良いと思う。

【岸主査代理】  最終的にコマーシャルベースのシステムができ、納入され、どこかがメインで運用するとか、そういうイメージか。

【堀井推進委員長】  システムについてどうコストを負担していくのかという話はあると思うが、一番重要なのは地域の方々とPDCAサイクルを回して信頼感をつくり上げて一緒に活動していくということ。システムだけを展開しようとしても、うまくいかない。

【村山委員】  文部科学省には、次にそういう展開をしていく、継続のための資金援助や枠組みはないのか。

【大山戦略官】  直接的にそういう経費が今あるかと言えば、ないというのが正直なところであるが、文部科学省として、この成果を次の施策の中で活かしていきたいと思っている。

【奈良委員】  今回被災地に行って、3課題は相当使えると思った。今のうちに早目に準備をして、東海・東南海・南海地震に備えておけば、例えばほんとうにワンストップサービスが住民に提供できる。これはいいのができたではなく、さらに社会実装していきたいと強く思っている。

【村山委員】  ぜひともそういう枠組みをつくっていただきたい。特にこういう時期に、科学技術自体がだめなのではないかとか言われている中で、こういう形できちんと大きく育っていくのが出てくることは非常に意義がある。ぜひとも継続的なサポートをお願いしたい。

【大山戦略官】  新しい予算要求なり施策を考えていく上で、うまく活用できるようにしていきたいと思っている。

【板生主査】  この成果を踏まえた提言の3番目にある情報通信技術と社会工学的技術の一層の連携は、まさに大きな課題で、この委員会でも議論を深めていきたいところだが、どこまで議論されているか。

【堀井推進委員長】  プロジェクトの推進に関して議論する中で、中心課題はそこのところで、やはりシステムが先行しても住民の方はついてこられない。熊本大学の例で見ますと、毎年PDCAサイクルを1周ずつ回しているが、最初の1周目はあまりシステムの話をせず、まずは信頼関係をつくる。2週目を回すときに、今度はシステムの話に入っていく。3周目でそれが本格実装される。システムと、そのシステムを使う人たちの関係性、そこの仕組みをどうやって築き上げていくか、多分ほかの科学技術についても同様のことが言えて、そういうもの考え方が定着していくことが重要なのではないかと思う。

【板生主査】  要するに科学技術というか情報技術というか、そういうものが使えない人がほとんどなので、使い勝手が悪過ぎるという問題を克服しないといけない。そこが科学技術の本来やるべきことの1つである。その辺のところが、一体何をやればほんとうに使いやすいシステムになるのか。本来情報の専門家の人たちが議論すべきことかもしれないが。どうしてもその情報が置き去りにされて、一緒にみんなが不安になっているという現象がある。危険であるということももちろんあるので、専門的にどこまで具体化するか考えて、深掘りするか、場合によっては情報の専門家に来てもらって、安全・安心という観点から議論してもらうことも必要かもしれない。

【板生主査】  次の話題に移らせていただく。科学技術振興機構社会技術研究センターの野呂アソシエイト・フェローから東日本大震災からの復興に関する提言について説明をお願いする。

【野呂アソシエイト・フェロー】  資料2-1、2-2に基づき説明。

【板生主査】  この提言は、だれに対して提言しているのか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  これは科学技術コミュニティーが復興でどういうことをしなくてはいけないというものなので、一般の方に向けてでもあるが、科学技術コミュニティーに向けての提言である。

【板生主査】  アカデミックな人たちという意味か。

【野呂アソシエイト・フェロー】  アカデミックな研究機関、科学者、そういうところである。

【板生主査】  社会に喚起するということで、この提言はまとめられているので、我々もこの委員会で、そしゃくしながら現実的なものにしていく必要がある。

【野呂アソシエイト・フェロー】  科学技術振興機構では、実際の研究開発、社会技術研究開発をやっているので、こういった提言を踏まえて、我々のほうも内部でしっかり活用して、研究開発の資金援助等に結びつけていく必要があると考えている。

【奈良委員】  具体的に提言を活かして公募等を計画しているのか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  本提言と連動してという形ではないが、震災の後に東日本大震災・緊急「研究開発成果実装支援プログラム」という公募を行った。短期だが緊急時に使えるような技術の実装に関して資金援助するというプログラムはできている。

【奈良委員】  あのプログラムよりこの提言のほうが後ではないか。この提言の中のどこにプログラムは位置づけられるのか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  提言の中に被災地域の復興という分野があり、その中で具体的にこの項目のどこというふうに当てはまるわけではないが、さまざまな技術開発、要素技術、すぐに使える技術開発、そういう点をもっと重視していかなければならないというところと連動すると思っている。

【岸主査代理】  最初のイントロダクションのところで、情報発信がうまくいかなかったという話があった。だれに対する情報発信がうまくいかなかったのか。いわゆる科学技術を担当している人に対する情報発信がうまくいかなかったという視点なのか、あるいは国民に対する情報発信がうまくいかなかったということか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  科学技術コミュニティーからの情報を欲しがっていた方々に伝わっていなかったということである。

【岸主査代理】  それは一般の人ということか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  一般市民もそうであるし、メディア、省庁などである。どういった専門家が今まで研究していて、どういう知見がどこにあるのか、参考となる論文はどこにあるのかとか、そういった情報が求められていた。情報を求める側が独自で探してみたけれども、見つけられたかったという話も聞いている。

【村山委員】  災害に関する研究開発成果がなぜ実装されなかったのか。国産ロボットの話など。

【野呂アソシエイト・フェロー】  まず、そもそもリスク評価をどうしていたのかという問題があると思う。実際どういうリスクがあって、どういった対応をすべきだと社会が受け取って、そのためにどういった技術が必要なのか。そういったところまでやった上での研究開発だったのか。そこはやはり見直してみるべきところであると感じている。あとはよくニーズとシーズのマッチングということが言われるが、それがどこまでできていたか、そういうところの検証もあるし、また実際に使う側のニーズというのは変わっていくので、そういったニーズにどこまで対応できていたのかというような、さまざまな点が考えられると思っている。

【村山委員】  特にロボットの場合は、なぜアメリカ製のロボットがどんどん導入されて、国産で研究開発していたにもかかわらず、なかなか導入されなかったのか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  1999年東海村JCO臨界事故の後1年間は研究開発資金が出ていたが、その後はなくなったというような話もあり、また実際に被災現場での投入実績がないこともあると思う。実践で使った経験がなく、実際に使えるかどうかわからないので使われなかったのではないかと指摘をする方もいる。
 そもそも国内にそういったロボット技術があるということを知らなかったという意見もあるので、実にさまざまな要素が絡んでくると思う。アメリカやフランスのロボット技術は、軍事技術から出てきているものがほとんどであり、いろいろなデータがそろっている。

【村山委員】  実際使うとなると、実際に使った経験というか実績がないと使えない。ところが日本は安全保障の技術も含めて、ほとんど演習でしか使ってないようなものばかりなので、実際に使う場面で使えないものが非常に多い。そのあたりをどうするかは、ほんとうに大きな問題。

【野呂アソシエイト・フェロー】  我々は今までテロ対策のための科学技術というものを見てきたが、現場での実験がなかなかできないという課題がある。いろいろな在剤を使って実験ができないという制約があるので、やはり実験インフラを整える必要がある。あるいはその技術の認証の問題もある。製品の認証システムが海外にはあるが、そういったものの導入の可否の検討とか、あるいは実際日本で実験ができないなら、海外との連携はできないのか。そういうようなさまざまな制度的にクリアしていかなければならない問題も出てくると思う。

【堀井委員】  今回の震災で専門家に対する信頼が損なわれたと、私は思っている。専門家に対する信頼がほんとうにどの程度損なわれているのか、だれかが調べてみる必要があると思う。また、どうして信頼が損なわれたのか、原因の分析が必要である。さらに、それを回復することが可能なのか、可能だとすれば、どういうことをすれば良いのか。そして今後どういうことに気をつければ、その信頼を失うようなことがないのか。もしそういう問題意識を持ってないとすると、科学技術コミュニティー自身に相当の問題があるのではないかと思う。

【野呂アソシエイト・フェロー】  まさにおっしゃるとおりだと思う。自分たちに社会的責任があるということをまず認識しているかどうかというところも、やはり問い直すというか、聞いてみる必要があると思う。その信頼が低下した場合に、今後それを回復するのは非常に難しいので、どうしていったらいいかというものを、みんなで議論する必要があるのではないか。特にリスクコミュニケーションの研究をしている方もいるが、平時からどうやって科学技術に対する信頼を高めていくか。それは緊急時に何かできるというよりは、平時から積み上げていくしかないと私は思っているので、やはりそういった認識を皆で共有していくというのは、非常に重要なことだと思う。

【河本委員】  情報発信の問題をもし解決するとすれば、どこかに情報をまとめたウェブを立ち上げるということだと思うが、それをやるのは科学コミュニティーの中の人たちなのか、あるいは外の人たちになるのか。どういうやり方がいいのかということが1つある。
 もう1つは学際連携の話で、こういう問題を解決したいというニーズに対して、だれか手を挙げる人いませんかという形でいろいろな人に手を挙げさせ、集めていく方法もある。ある問題の解決に向けてどういう技術が、それに寄与できるか、幅広い視点で集めていくやり方をしたほうがいいだろうと思う。これも、だれがやるのかという話になる。その辺をどう思うか。

【野呂アソシエイト・フェロー】  まず情報の集約については、科学技術コミュニティーでしかわからない情報のあり場というのがあると思うので、コミュニティーの外からだけというのはやはり限界があると思う。両方がうまい連携の形を考えなければいけない。例えば、私どものホームページで今回、震災・原発対応に関連する情報を発信している関連ウェブサイトのリンク集をつくった。そういうところはひとつ可能な媒体なのかと思う。
 いろいろな学会、研究開発機関の情報を集約する場として、1つの情報元があり、そこに当たればすべての情報が入るといった仕組みがあれば、可能だと思う。
 そのためにはやはり科学技術コミュニティーのほうから積極的に自分たちで情報を収集して発表していく。それに対して外からコメント、フィードバック、インプットがあって、さらにそれを改善していく。そういった双方向のものが必要ではないかとは思う。
 ニーズとシーズの件では、ニーズを訴える側からの情報提供というのはもちろん重要である。しかし、アメリカ国土安全保障省の方から聞いたところ、ニーズを訴える側のほうが自分のニーズを正しくわかっていないことや、ニーズを訴える側がどういった科学技術があるのかわかっていないという指摘もあった。そのためアメリカでは、消防や警察など、実際に使うユーザー側のところに科学技術の研究者側・メーカーが訪ねて行き、彼らの活動を実際に見て、“そんな装備をしているけれどもそれでほんとうにいいのか、うちにはこういう技術があるよ”、と指摘することがあり、実際にお互いに顔を合わせて実際の活動を見た上で、本来ユーザー側も気づかなかったことを科学技術側からインプットできる、そういったコミュニケーションのインターフェースがあると聞いた。そういうのは参考になるのではないかと思う。双方向からアプローチするのが重要だと思いう。

【板生主査】  科学技術には、本来限界があるはず。実はできないことが多数あるのではないか。それにもかかわらず、幻想があり、みんなできると思いこみ、そういうことを期待されている。もっと、限界はここまで、それ以上のことはできないということを言う勇気のある科学技術者が出てくる必要があるのではないかと思う。
 もちろん経済的な原則や科学だけではない問題は相当あるが、科学技術は本来ここまではできるが、これはできないというのをもっと明確に線引きをしていかないと、何か起きたときに全部科学技術の責任になってしまう。

【野呂アソシエイト・フェロー】  確かにそうだと思う。科学技術にはこういった限界があり、こういうリスクがあり、社会がそのリスクをどこまで受け入れるか、そういう認識を共有できる相互コミュニケーションの場が、平時から重要だと感じる。

【板生主査】  次は論点の審議に入る。事務局から資料の説明をお願いする。

【大山戦略官】  資料3-1、3-2、3-3、3-4に基づき説明。

【板生主査】  この論点の案は、前回までにいただいた意見を集約している。これをベースにして、今回も自由に意見を述べていただければと思う。
 よく、安全と安心は議論の中でセットになっているが、安心というのは科学ではないという人もいる。安心の科学とは一体なにかといえば、情報をきちんと正確に把握して、それを知らしめることであり、それが安心科学という分野を推進することになるのではないかと、個人的には思っている。

【四ノ宮委員】  科学技術の可能性と、その潜在的リスクという言葉や、信頼を担保するというところが、今回非常に大きく問題になってきたところだと思う。今まで我々は科学技術を使って、いかにその安全や安心を担保するかという側面で考えてきた。片や原発事故を例にとると、科学技術自体があったことによって、それがリスクになってしまったという側面がある。いかに安全に科学技術を運用できるか、あるいは科学技術をいかに安全な方向に持っていくかということ自体も、また問い直されたと思う。
 私は医療をやっており、病院のことを考えると、今回津波とかで病院が大きなダメージを受けて、患者さんの情報が一気にダウンしてしまった。その患者さんを外から入ってきた医師が実際に治療しようとしたときに、今までの記録がなくて非常に対処に困るということがあった。
 今回の津波では怪我をされた方はわりと少数で、亡くなったか、生き残ったかという形になった。そうすると生き残った方の医療ケアというのは、慢性的な疾患に対するケアや、精神的なことに対するケアが、むしろ救急災害よりも重要ということが浮き彫りになって、そういうときにいろいろな医療情報が一気に災害でダウンしてしまって、本来であれば得られる情報がなかなか得られなくて、対処に困ったということがある。デジタル化していろいろな情報をうまく使うというのは大事だが、それがだめになったときのバックアップをどうするか、また、いかに日常に近い形に早急に戻すのか、あるいは別の形で保存していつでも取り出すことができるようにするかという技術も、医療面において大事だと考えた。日ごろの対処によって、何かあったときの信頼を高いものにするという観点で、そういう技術も必要だと感じた。

【岸主査代理】  安全・安心の話について、いわゆる科学技術に対して100%物事を要求するとか、あるいは1かゼロか決めてくれという感覚が、かなり最近強いような気がする。要するに白か黒か決めてほしい、と。科学技術というのは、あくまである程度方向性を示すということで、そういうことをもう少し理解していただける環境が必要である。

【堀井委員】  安心という言葉が入っているということは、要するに人を大切に考えているというメッセージだと私は思う。安全というのは必ずしも人がかかわらなくても成り立つ話かもしれないが、安心というのは、人との関わりになる。また、今回の震災の被害を考えたときに、復旧・復興のための科学技術というところは、もう少し何かできることがありそうな気がする。例えば避難訓練は今までもやられているが、避難した後に避難所でどう過ごしていくかという訓練も必要なのかもしれない。そう考えると、ボランティアや、NPOの方がどういう関わり方をするとうまくいくかはまだできてないところであり、その部分で科学技術ができることは結構あるのではないか。

【村山委員】  安全・安心を定義する際、今までの科学技術とはここが違うという、そういう総論みたいなものがあれば、我々の委員会の存在価値は高まると思う。

【青木委員】  安心ということは、安全だけではやはり足りないと思う。日本は地震だけに限っても非常に危険な場所なので、そこで折り合って生きなくてはいけない。ある程度危険がある中であきらめの面も含めて、やれるところまではやり、あとは個人の決断も含めて、総合的に判断しなければならない。情報発信をしていただいて、その情報の中で、どれだけのリスクをとって自分は生きるのかというところまでの指針になるような形を提示することが、この委員会の役目ではないかと思う。また、日常の防災として、避難訓練キャンプが修学旅行にかわるようなものとして、あってもいいのかもしれない。そういう新しい安心文化のようなものを、特に子供のときにつくることができないか。それを地域で連携して支えていけないか。そういうところを深めていけないかと思う。

【板生主査】  ますます人間に近いほうの話になってきている。安心は欠かせないもので、皆さんのご意見のとおりである。

【奈良委員】  私も安心文化というのはすばらしい言葉だと思う。それをこの委員会から提唱していければと思う。日本人は、そもそも不確実性回避傾向が強い。だから1かゼロを求める。

【岸主査代理】  まあまあが、日本文化かと思っていたが、そうではないのか。

【奈良委員】  そうではない。0.5とか0.4とか苦手。なので、起こるか起こらないのか、はっきりさせてほしいと希望する。また、人為的に起こったリスクは受け入れがたい。これはもう世界共通なのだが。その代表的なものが科学技術によるリスク。ゼロリスクを求めてもきりがない。ましてやそもそもゼロリスクは無理だということを、どうやってわかってもらえばいいのか、ほんとうにこれは難しいのだが。わかりやすい説明で、しかるべきタイミングで、適正な量で、発達課題に応じて、発達段階に応じた情報の出し方も重要で、青木先生がおっしゃったように、子供のころから少しずつ出していくといい。本気でやらないと、私たち日本人はゼロリスクを求めてコストばかりかかり、いつまでも不安が解消されない。

【河本委員】  情報を発信する側もそうであるが、情報を受ける側の情報リテラシー教育というのは必要である。要するにこちらから伝えたいことをそのまま理解してもらえるリテラシー基盤をつくっておくことが必要で、それが安心につながる。また、どこまで対策をすれば安心だと思ってもらえるのかという話は、例えば企業では、安全対策をするときに、お金の問題があるので、ステークホルダーに納得をしてもらえるのがいいレベルだという議論がある。そのためにはどうするかというと、ステークホルダーが順繰りに話をし、相互にコミュニケーションをしている。要するに自分たちも入って一生懸命対策をしたという、当事者意識を持ってもらうことが大切。それは安心につながるのかなという気がする。防災訓練もただ押しつけでやるのではなくて、自分も一緒になって、じゃ、どういうふうにやったらいいのかという話になる。

【四ノ宮委員】  安心を得るためにはいろいろな事象に対してわかりやすさというのが非常に重要である。それが安全だというためには、どういう形で、どういう裏づけがあって、どういう積み上げがあるから安全ですよという、その中身がよく見える化をする必要がある。

【篠村委員】  今回の震災の後にメールが2週間ぐらい使えず、つながったときに海外の研究者や学会からメールがたくさん来ていた。例えばAmerican Society of Plant Biologistという学会はいち早くホームページを立ち上げて、日本人の会員全員に、状況を掲示板に書いてほしいという要望を送ってきた。国内の学会もおいおい立ち上がったが、その辺の手厚さはアメリカには多く見習うところがある。ASPBの言葉は会員ひとりひとりに語りかけているように響いた。そのときに初めて私も被災国の一員なのだということを強く意識した。それは情報発信力の一種といえると思う。国際社会の中での科学技術コミュニティーの役割は重要であるが、国内学会では対応レベルにばらつきがあった。被災地からの情報発信ももちろん大事だが、国際社会の中での被災国からの発信の国際的な科学技術コミュニティーにむけての仕組みというのは、あってしかるべきだと思う。

【板生主査】  個人の努力でやる話なのか、それとも組織、システムとしてそういう設備、機能させるようなものをつくっていくのか。いろいろな考え方があると思う。

【村山委員】  今回の震災で研究開発の成果が活かされなかったという話はあると思うが、今度のような、500年か600年に1回起こって、起こったらすごい被害という災害は、どこか異なるのではないかという感じを持っている。だからどこにターゲットを当てるかというのは、結構重要な感じがしている。ほんとうに頻度が低くて大きな災害に対して、科学技術でどこまでできるのか、非常に疑問なところがある。そのあたり、皆さんどう考えているのか、素朴な疑問としてある。

【岸主査代理】  ある程度のところまでは科学技術で防げるが、それ以上はもう防ぐことができないものとして、それをどうするかという発想が必要と思う。幾らでも技術で抑えられるというと、先ほどの100%の話ではないが、無理がくることになると思う。今回の津波でもおそらくある程度の堤防があれば、1回目の波は抑えられた。2回目の波が乗り越えてきたということであれば、2回目の波を抑えるというのは無理に考えなくて、避難することを考える、という別の方法を探るとか。科学技術の限界というのをある程度考えないと、どこまででもコストをかけてやっていくことになってしまう。

【板生主査】  今度は、当面の検討課題にフォーカスして、ご意見をお願いしたい。

【奈良委員】  情報技術というのは外せないと思っており、この委員会の中で議論の課題として必要である。震災でまずは安否確認、次は生活再建ということで、それを速やかにする技術は何かを考える。繰り返しになるが、安全・安心科学技術プロジェクト(地域社会)の3課題はどれもすぐれていたので、ああいったことを引き続きやるというのは、重要だと思う。
 それから、震災が起きて初期、それから復旧時、復興時というように少し期間的に分けて考えてみるというのも、整理をしやすくすると思う。

【板生主査】  今日、出てきた議論の中で、日常生活の中で安心を覚える活動や訓練を定着させるということが科学技術なのかという話があったが、私はあまり科学技術、科学技術と言わないほうがいいとも思う。文化をつくることと、その文化をつくるために技術があるという、ワンクッションがあると思う。それがつながってしまうと全くおかしなものになって、使いにくいものを押しつける話になるので、そこをもう少し工夫することが必要。システムまたは習慣があり、日常生活があり、それをサポートする技術があり、その三層に分けないと、安心の技術は何だかわけがわからなくなるというような気がする。そこをもう少し考えてもらうと、安心の科学というのは実はあり得るということになるのではないか。

【岸主査代理】  当面の課題に研究開発成果の社会の実装化ということで文章が書かれているが、何となく違和感がある。分野が細分化されすぎているためというのと、社会の実装化が何か関係してくるのか不明確である。むしろ、社会の実装化がなぜ行われないかという話があり、その理由は、使う側が納得するものが出てきてきてないということ、プラス費用の関係だと思う。社会の実装化ということであれば、もう少し何か違うニュアンスの書き方があるかなという感じがする。

【篠村委員】  当面の検討課題の1番に、必要な技術の例に「〇〇システム」と例が書かれているが、どれ1つとってみても大規模な危機に際しすべての組織ですべての情報がすべての通信機能を通じて、有効に連携するような広域情報システムにはできないと思う。危機の初期に何の情報が、どのぐらいの範囲で確立されたら安心を覚えるかということを少し踏み込んで定義する必要がある。的を絞らないと、やってみたが、費用ばかりかかって使いものにならないものになってしまう。人はこういうときに何があったら安心できるのかということを少し議論するといい。自治体、各省庁、民間において、どんな情報をどれぐらい集約したらいいか、そこまで踏み込まないと、安心というものが具体化しない気がする。

【板生主査】  そこを何らかの形で抽出していくべきかもしれない。

【河本委員】  情報技術について例えば災害のことを考えると、情報のシステムがいかにレジリエントであるかということだと思う。四ノ宮先生のご指摘のあったカルテがなくなったという話、アメリカでは、携帯電話に自分の医療情報を入れておくという話があり、避難するときにみんな携帯を持っているという。そうすると、病院の電子カードが全部なくなったときに、本人が携帯電話から情報を出すことができる。集中ではなくて分散することによってレジリエントにするという。そういった災害のときにレジリエントなシステムを構築するのも1つあるのかなという気がする。

【奈良委員】  東京工業大学で開発したステーブルカードと同じ。これはQRコードに既往症や薬が全部登録してあり、そのカードさえ持っていればどこかで倒れても、この人はどこのだれで、どんな病気でどんな薬を必要としているかわかる。それはすばらしいアイデアだと思う。

【板生主査】  今回の話で皆さんの総意を得たのは、安全・安心科学技術委員会の中で安心というのはやはり議論を深める必要があること。科学をベースに、技術をベースにして、安心を実現するということが重要であるということが、皆さんのご意見の中に集約されている。
 それでは、以上で本日の委員会は終了する。

── 了 ──

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