安全・安心科学技術委員会(第19回) 議事録

1.日時

平成21年5月29日(金曜日) 9時10分~11時10分

2.場所

文部科学省 科学技術・学術政策局 局会議室1

3.議題

  1. 安全・安心科学技術の課題の検討
  2. その他

4.出席者

委員

板生清委員主査、岸徹委員主査代理、大野浩之委員、四ノ宮成祥委員(説明)、土井美和子委員、奈良由美子委員、橋本敏彦委員、札野順委員、村山裕三委員

文部科学省

泉紳一郎 科学技術・学術政策局長
戸渡速志 科学技術・学術政策局政策課長
西田亮三 科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室長

オブザーバー

牧野守邦 経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易検査官室長(説明)

5.議事録

 事務局が、配付資料と、前回議事録案(資料1)の確認を行った。

 

1) 安全・安心科学技術の課題の検討

【板生主査】  今回は、安全・安心科学技術の課題の中でも特に、バイオセキュリティと安全保障貿易管理を取り上げ、それぞれの課題についてお話をいただき、議論をしたい。 

 

 防衛医科大学校分子生体制御学講座教授の四ノ宮委員が、「悪用可能なバイオ科学技術に関する取組の必要性」について、資料2を用いて説明した。

【板生主査】  特にデュアルユースの問題は非常に大きな問題を含んでいる。この辺を安全・安心科学技術委員会では、どういうふうなルールづくりをすればいいのかを含めて意見交換していただきたい。

【札野委員】  私はもともと科学史家で、今は科学技術倫理ということをやっているので、四ノ宮先生がおっしゃったようなことを授業の中で取り入れたり、講演で話したりしていて、すべて同意する。生物、バイオテクノロジーを中心にお話をいただいたが、デュアルユースの問題はほかの領域でも幾らでもある。9.11(同時多発テロ)は、安全に多くの人を遠くまで運ぼうとしてつくり上げた旅客機で、目的を変えれば個人や少数のグループがアメリカや世界全体に戦争を仕掛けることができるということで、科学技術のデュアルユースということを広く理解してもらうためにはいい例だと私は思う。2000年4月、Bill JoyというUNIXをつくった科学者が「Why the future doesn't need us(未来はなぜ我々を必要としないのか)」という衝撃的な論文を書いた。その論文の中で、21世紀の世界というのは、1人1人が自爆装置のスイッチを持って飛行機に乗っているような状況である、だからこそ1人1人の科学者・技術者がより高い倫理観を持って仕事をしていかなければいけないということを言っている。ユネスコの仕事でナノテクノロジーの問題に関しての議論をしたときも同じようなデュアルユースの問題が出てきた。今日は特に生物の領域でお話をいただいたが、現在の先端科学技術のすべての領域においてデュアルユースの問題は多かれ少なかれはらんでおり、もっと広く議論する必要があるのではないか。

【岸主査代理】  デュアルユースという言葉の定義の共通認識は何か。私にはデュアルユースというと、民間用のものと軍用のものというイメージが強い。今のお話だと、民に対するテロ、デュアルのAとBといろいろなパターンがあるようだが、そういう解釈でのデュアルユースという使い方なのか。

【四ノ宮委員】  もともとは民間のものが軍事に転用されるというのがデュアルユースの一義的な定義だったと思うが、それをもう少し広く解釈をして、一般的にいい目的で使われているものが悪用される、意図せざる、あるいはテロリストが意図的に悪用するという可能性が出てくるものをデュアルユースというふうにお話しした。

【岸主査代理】  昔から、あっちのものをこっちに使うという二面性のものはある。例えば犯罪の分野で、農薬は生活のために活用するものだが、それを使うと殺人ができる。だから、そういうものもデュアルユースということになるのだが。

【村山委員】  もちろん技術というのはもとから両用性があり、これが政治的にどう取り扱われるかというので、両用性(デュアルユース)という言葉自体が出てきた。冷戦時代は軍事から民間にインターネットのような形でだんだん伝わっていった。そのころはあまりデュアルユースというのは言われなかった。デュアルユースが言われ始めたのは、1970年代の終わりから80年代にかけてのアメリカで、日本の技術にいいものが出てきて、これは軍事に使えるのではないかということで、デュアルユースというふうに言われ始めて、政治問題化してきた。そこから言葉が使われ始めて、軍と民の両方に使える技術をデュアルユースと呼ぼうというふうに広がっていって、最近、テロが起こってからは、安全・安心というところにもデュアルユースという考え方がだんだん広がってきた。だから、これは政治に動かされた定義のような部分があると思う。技術的には最初から両用性の問題である。

【大野委員】  技術の二面性は、技術の本質的な話題としてはいろいろなところで言われている。私が学部2年で初めて機械系の専門の授業を受けたときに、金属を加工するというのは同時にメスとドスをつくるのだと言われた。メスをつくれば人々の命を救い、ドスをつくれば人々の命を奪うのだと。それは基本的なエンジニアリングの持つ二面性だということを教わった。ただ、メスとドスだと見ればわかるし、金属を削ってこっちに向かって突進してくればドスだし、横に寝かせて繊細に操作してもらえばメスだとわかる。だから、人を殺すようなことであっても、今までのものはよくわかった。情報セキュリティもメスとドスだと言われていて、いろいろな人に情報を提供すると同時に、セキュリティの問題はあり、セキュリティは見えないが、今のところ直接的には人は死なない。今回のお話を聞いていて一番怖いと思ったのは、見えなくて人が死ぬというケースだ。

【札野委員】  Bill Joyが言っているのは、20世紀の生物兵器、化学兵器、原子力というのは一過性だったが、21世紀の新しく生み出される生物兵器というのは自己増殖性を持たせることができるということが大きな違いだろうということである。最後に教育の話があったが、生物、医学系の人たちはかなり一生懸命そういう教育をやっているが、残念ながら工学系はまだまだというところがある。ところが、遺伝子操作の技術が広まってくると、今まで工学系だった人が突然遺伝子をさわり始めるということがある。こういう人たちはほとんど生命倫理に関しての教育を受けていない。

【村山委員】  企業では、両用技術というのは意識して、わりと管理をやっている。ところが、大きな穴があいているのは大学研究者で、今まで意識していなかった。アカデミックはオープンで、みんなでシェアしてやろうというカルチャーである。ところが、セキュリティになると管理しなければならない。それで、アカデミックの場合は、完全にオープンで論文を書くというカルチャーができているので、なかなか理解してもらえない。だから、四ノ宮委員が言われたように地道な教育から始めていかなければならないので、ここは文科省が力を入れていかなければならないところだと思う。

 それで、教育においてどういう形で教育していくか。おそらく、正面からセキュリティ問題を話し始めたら、嫌がる人が非常に多いと思う。だから、四ノ宮委員が指摘されたように、倫理の問題から入っていって、そこに入れ込んでいくというのは、非常にいいアプローチだと思う。私もビジネススクールでCSR(企業の社会的責任)の授業を持っていて、そこに両用技術の問題を入れている。社会的責任として、こういうことを企業は責任を負わなければいけないと言ったら、非常によくわかってもらえる。ところが、大学の授業のときに、国際情勢からセキュリティ情勢はこうなっているから我々はこうすべきだと言っても、わかってもらえない。だから、教育のやり方というのは、大学においては非常に重要ではないか。

【板生主査】  最後のスライドのOption 1、2、3、4、5をどういうふうに考えていくかということがポイントになる。その中で、Option 1は完全に個人の倫理に任せるという話。これはなかなか難しいという話から始まって、規制がだんだん強化していくわけだが、この辺はどういうふうに考えるか。

【奈良委員】  デュアルユースの責任は科学者だけの問題ではなく、世界全体で共有すべき問題だ、責任だと先生が主張されたのはまさにそうだと思った。質問の1つは、こういった考え、メッセージは、どのぐらい生命科学の分野で科学者たちに共有されている認識なのかということ。

 2つ目は、社会全体を生活者というところまで広げた場合に、生活者も含めて共有する体制づくり、管理の仕組みづくりというのについてのイメージを先生はどれぐらいお持ちなのかということ。

 なぜこういうことをお伺いするかというと、理由は2つある。1つは、とりわけ日本の生活者は、不安感を強く抱く国民性であり、ベネフィットがたとえあってもゼロリスクにすごく固執する傾向があるということがわかっていて、そういう中で、今日いただいたようなお話を生活者が共有してしまうと、科学に対しての反発というのか、こんなベネフィットは要らないからリスクを小さくしてくださいというような議論が出てくるような気がする。米国の科学アカデミーの7つの基準では到底納得してくれないのではないかという気がする。

 もう1つは、国際的に見て日本はどうなのか。例えばアメリカ、また特に中国などは今、テクノロジー・テクノクラシー重視の傾向にあり、リスクを負担してでも科学技術で国をという考えがある。一方で日本がすごく慎重に取り運ぶと、いろいろな意味で日本の競争力、ひいては国民のQOLあたりに何か影響が出るのではないかと懸念する。

【四ノ宮委員】  まず、デュアルユースという言葉自体を知らない方もたくさんいて、認識の度合いが非常に低いので、まず認識をしてもらう教育からスタートせざるを得ないのではないか。何となく漠然としたイメージは皆さん多分抱いていて、デュアルユースという言葉を聞いたことがなくても、あるものが非常にいいことと危険なことの両方に使われる可能性があるというのはもちろん承知していると思う。過去どういう場合にこういう形で使われてきたという事例を幾つか研究したり、今現在進行中の科学技術はどういうふうなことに利用できるかというふうなことを、まず1人1人に考えてもらうことが必要だと思う。学生らに対してはそういう観念でやってもらいたいと思っている。一方、研究するのは科学者であって、そういうものを生み出した科学者が悪いというふうな批判を受ける体制は好ましくないと考えているので、そういう観点からも、もしデュアルユース性があって危険性があるのであれば、それは社会とその危険性をシェアしてやっていきましょうというふうなことで、提案させていただいた。どういう体制づくりがいいかというのは、まだ始まったばかりで、私も確固たるこういうのがいいというふうにはわからないが、まず教育としては、倫理的な面の中に少し加えていって、すそ野を広げるところから始めるべきではないかと考える。

 もう1つ、国によっていろいろ違いがあるということであるが、例えば、兵器の中でも、人を殺さないで、一時的に弱らせるとか、あるいは一時的に無能力化させるというインキャパシテイティング・エージェントというのがある。モスクワの劇場占拠事件のときに実際にテロリストに対して、確か麻薬の誘導剤のようなフェンタニールが使われた。それは、殺しはしないがテロリストを一時的に意識を失わせて、占拠されている人質たちを救うことができるという名目で使われたが、実際は濃度がコントロールできずたくさん死んだ。日本の政府であれば、そういうことをすることはかなり躊躇したと思うが、ロシアは簡単にそういうふうなことは国の意思としてできる。あるいは、ある程度周りの国民も、犠牲者が多少出ても仕方がないというふうな、考え方のベースの違いがあるのではないか。日本はテロリストはたとえ逃げても、人質は死なないほうがいいという考え方だと思うが、国によっては、人質が多少死んでも仕方ないがテロリストは全員拘束するという考え方もある。そういうふうな考え方の、社会的な基盤の違いによって国民から得られる感情というのも違うのではないかと思う。

【泉局長】  ポックスウイルスの論文については、バイオセキュリティ上のレビューがあり、追加の記載がなされたのか。

【四ノ宮委員】  主立ったジャーナルは、学術的な審査だけではなく、セキュリティ上の審査をやる二層構造である。これは特にその審査が必要と認められた場合だと思うが、例えば、『Nature』、『Science』は既にこういう体制をとるということをしっかり出版元として言っている。

 非常に難しい問題で、米国のセキュリティボード(註:NSABB, National Science Advisory Board for Biosecurityのこと)でも、どういうものがデュアルユース性があるかということを考えることにはなっていて、幾つかそういうリストも挙げられているが、最終的に何をもって決定するかというと、非常に漠然としている。得られるメリットと危険性とを天秤にかけて、メリットが大きい場合には出版するというふうな。では何がメリットで何が危険性か、それをどういうふうな形で天秤にかけているかというのは、わかりにくい。その辺も非常にもやもやっとしたところがある。

 

 経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易検査官室の牧野室長が、「安全保障貿易管理と対応について」、資料3を用いて説明した。

【板生主査】  安全保障貿易管理は企業や大学で対応していかなければならない個別の問題がいろいろ出てくると思うが、それに対応する人材の育成が大きな問題ではないか。

【牧野室長】  経済産業省としては、文科省と連携をしながら全国47都道府県単位で大学や研究機関向けに安全保障貿易管理の説明会を開いて、どういうことをやっていったら良いのかを説明し、個別の大学とも体制作り、管理上の工夫について相談をしている。大学の中の人材の確保になると、そこは大学において工夫をしていくことになると思う。人材共有の観点から、複数の大学が連携をしながら対応していく方策を模索し始めている事例もある。あるいは、民間の安全保障貿易管理に関する団体でも大学向けの支援サービスを始めており、そのようなところと相談しながら、人材の教育・育成も含めて対応している大学もある。

【村山委員】  まさにこの問題をやっている安全保障貿易学会というのがあり、私がその会長をやっていてこのあたりの経緯を知っているので若干説明させていただく。大企業というのは輸出管理がわりとちゃんとしている。穴があいているのは、中小企業と大学、研究機関である。学会としても、中小企業に対してどうするか、それから大学に対してどうするかということを非常に気にしていて、去年2回、大学に関する輸出管理についてセッションを持った。1回目のときは声をかけたけれども大学関係者はだれも来られなかった。2回目は、東北大学のこれについてリサーチをやられたグループの方を呼んで話をしていただいたら、大学の方がぱらぱら来られて、こういう問題は大学でも取り上げていかなければならないという機運も若干高まってきた。経産省さんのほうもガイドラインをつくられた。それから、CISTECという経産省の外郭団体で、産業と経産省の間にあって情報提供をするような機関が、大学に対しても、輸出管理をやりたければ、登録してもらったら知識などを与えるというのができ上がった。そういう形でようやくこの分野は動き始めた。

 ところが問題は、大学は企業のようにはうまくいかない。というのは、企業というのは、上が言って、上から管理すれば、何とかなる部分はある。ところが、大学の場合は上から押さえつけたら反発が出るのが目に見えているので、大学で適切な輸出管理の方法というのはあるはずだということでようやく議論が始まった段階である。ただ、輸出管理はこれからしっかり整備していくべき領域で、非常に大きな課題と言える。

【板生主査】  企業には、そういう点で人材はそろってきつつあるのか。

【村山委員】  企業ではいわゆる東芝機械事件のときから人材を育成し、かなり大きなストックがある。その第一世代が今、もうリタイアされているくらいである。CISTECにしても、そういうリタイアされた輸出管理のノウハウを持った人を活用して大学向けにもサービスしていきたいという視点もあると思う。

【牧野室長】  民間の企業から知的財産関係の経験が豊富な人材を雇用して産学連携を進めている大学も出てきており、民間企業の経験者が大学にも入り始めている。今後、そのような部署が中心となって安全保障貿易管理も意識を持ってやっていくということも考えられる。

【大野委員】  少し拡大して聞くと、安全、安心を確保する際に、1人1人がどういう意識を持ってその情報や機微なものに取り組んだらいいか、組織はそれをどう提供したらいいかという話になる。企業や研究所は大分いいが、大学は意識の差が相当激しいのと、企業では、あるサンプルを幾つかとれば、それが企業の傾向だと思っていいが、大学は多分無理で、例えば機微の情報を取り扱っている人、医学部の人などはそういうことに関してすごく敏感だが、逆にそういうのに全然関係ない意識の人たちもいて、情報はそういうところから漏れる可能性がある。極端な話で言うと、プロジェクト制に近い形で研究をしていて、1年間の研究計画がはっきりしていて、だれとだれが何をやっているか、ちゃんとマネジメントされているところもあれば、1年たってみないとだれが何をやったか、学科レベルでも把握できていないというスタイルのところが今もある。どうやってみんなの意識を向けるかというのに関しては、1大学の1部門あたりの努力では無理なので、ケーススタディーをうまく示して意識改革を図らなければだめだと思う。今回のバイオの問題、輸出の問題をよく議論した上で、もう少し一般論の形で抽出した上で大学にフィードバックしていけたらと思う。そうしないと、大学の各研究者レベルの意識改革がまだらのままで、意識の高い人はすごく高いが、意識の低い人は意識が低いという意識がない。ほうっておくと何もならない。

【板生主査】  それは大学だけの問題ではなく、企業も含めて、いろいろ危機管理の問題はまだまだ不十分で、人材の育成がかなり大事なポイントではないかと思われる。

【札野委員】  今日の朝の読売新聞では、技術情報の流出監視をやるということで、外為法で大学や企業に対していろいろな義務づけが始まるということだが、今回の改正というのは、具体的なイメージとしては、管理部門を大学等に設置させて、そこがちゃんと機能していることを大学側に担保させるということか。

【牧野室長】  基本的には、今回の外国貿易法(外国為替及び外国貿易法)の一部改正は、そもそも輸出者全般に対する法律なので、大学や研究機関だけを対象に考えて行ったものではない。輸出する者に対する必要最低限の法令要求事項として、例えば、自分の輸出しようとしている資機材又は提供しようとしている技術が、法律上許可を要するものであるか否か、それに該当するか否かということを物や技術の仕様を見て判断をしていく、これは法令上ある種当然のことではあるが、その責任の所在、即ち責任者を明確にしてくださいということなどを義務付けることになる。法律は4月30日に公布され、1年以内に施行とされている。安全保障に係る重要な問題なので1年と言わずに早く対応するべき旨国会では指摘されており、今後、できるだけ速やかに政・省令等の整備をパブリックコメントにも付しながら進めていく予定。本日の新聞記事にあるように、法律上管理部門の設置を義務付けるというものではなく、法令に該当するか否かという判定を行う責任者を明確にするとか、法律があることを機関の中に周知するとか、そのような内容を盛り込む方向で進めているところ。

【泉局長】  資料3の10ページにあるように、例えばNSG(原子力供給国会合)だとインドが核実験をやったとか、MTCR(ミサイル関連機材技術輸出規制)だとイラン・イラク戦争でサリンが使われたとか、大きな国際政治上のいろいろな節目の中で、そういうことを防ぐために規制体系が国際的な合意のもとでできているというふうに理解される。最初は貿管令で規制をやって、その後は、個々のいろいろな技術進歩などでリストの規制体制の見直しなど、どういうふうなトリガーで規制対象を見直すことになっているのか。

【牧野室長】  資料3の11ページに国際輸出管理レジームの概要があるが、安全保障貿易管理は各国と政策協調しながら進めている。それぞれの関連分野ごとに毎年多様な会議が行われており、技術的にはもはや規制の対象から外しても良いものとか、新たに出てきているので規制の対象に入れるべきものなどについて議論をし、合意がなされたものについては、各国がそれぞれ持ち帰って国内法制を改正して、取り込んでいく、又は削除していくということになっている。我が国でも外国貿易法の関係法令を大体毎年1回ぐらい、そのような合意事項を踏まえて改正をしている。現在も、関連の政省令改正案がパブリックコメントにかかっているところ。

【橋本委員】  この委員会は安全・安心に資する研究を盛り上げていきましょう、進めていきましょうという話で、武器をつくる研究を進めましょうという委員会ではないので、直接は大きくさわるところはないとは思うが、一方で、非接触で爆発物かどうかをチェックするとか、あるいは静脈認証でテロリストであるかないかをチェックするとかという装置を開発して、それがなるべく市場性があるような形に持っていければいい、研究者のモチベーションも上げたい、そういう話がベースになっていると思う。そういう意味では、あるいはその装置を研究することでそれをすり抜けてしまうような、つまり静脈認証の装置というのは、例えば日本の製品に関してはここを見ているなとかいうのを解析すればわかってしまうとか、あるいは非接触のものに関しては、こういう方法でやっているので、これは別の方法だったらすり抜けられるなとかいうようなことは、大きな意味では安全保障に入るかと思うが、そういうものも含めて対象にしているのか、あるいは直接的にこれは武器の一部になるという部分だけを見て貿易の規制をかけているのか、その辺はどうなのか。

【牧野室長】  例えば、安全・安心科学技術のプロジェクトのうちテロ対策に関する研究開発をしている部分については、国内だけで実施している場合には外国貿易法は関係しないが、海外とのやりとりを行う場合には、関係が出てくる。例えば、生物剤の検知用バイオセンサーシステムは、まさに生物兵器の製造にも使える技術である場合がある。このため、海外の技術者と共同研究をして当該技術を提供する場合には、許可を要することがあり得る。それは何で決まっているかというと、各国が国際輸出管理レジームの中で合意をした事項によるが、かなり細かい技術的な仕様まで議論をした上で決められている。我が国では、外国貿易法の関係政省令等において、性能上、構造上、あるいは材料上の細かい仕様まで限定する形で、これに該当する場合には許可の申請をしてくださいということを示している。そういった資機材に該当するもの、あるいはそういった資機材を作る、又は使うような技術であれば、許可の申請をしてくださいということになる。また、個別の事案で不明な点がある場合等は、経済産業省に御相談していただければ良い。

【村山委員】  これは大学にとっては非常に厄介な問題で、今は、技術の持ち出しとかいう話だけだが、実はこの問題は留学生とも絡んでいる。留学生がやってきて、核物理などのかなり機微な授業を受けて、それを民生用の原子力のほうに利用してもらったらいいが、自国に帰って原子爆弾をつくる研究所で働き始めたとなると、これは非常に厄介である。だから、留学生をどう扱うかという問題にまで絡んできている。実はアメリカではこれは非常に大きな問題になっていて、授業によってはとらせない授業というのをつくるべきじゃないかと保守派は言う。それに対してリベラルは、いや、アメリカの教育の基本というのは、人種に関係なく、すべて教育の平等ってあるのだということを言い返す。これはアメリカの根幹にかかわるような問題にまで発展していて、おそらく日本も留学生の受け入れに対してこの問題は出てくると思う。実は、これは考え始めたら、大学にとっては非常に深い問題があるということを指摘しておきたい。

【板生主査】  そういう意味では、技術だけの問題ではなく、社会的な問題も含めた、安全・安心に関する、我々が考えるべき対象としての大きな問題であろうと、私も思う。

 

2)安全・安心に資する科学技術の推進について

 西田室長が、6月の中間的な取りまとめに向け、事務局がつくった骨子案(資料4)を説明した。

【板生主査】  大分まとまってきたと言うべきか、安全・安心というのはあまりにも間口が広いので、まとまったようで何もまとまってないと言うべきなのか、皆さんの人生観とも関係していると思う。ここを強調しようとか、ここはもういいから外そうとか、そういう議論も歓迎したい。

【村山委員】  1つ強調していただきたいのは、研究開発体制である。安全・安心というのは、国民の現場に届けて、安心感、安全感が高まって初めて成功したと言えるもので、ただ基礎研究だけやって終わりというのは意味がない。ノーベル賞を取るのなら基礎研究だけでもいいが、全く違うカテゴリーで、ともかく現場に持っていかないと意味がない。研究開発体制のある程度のめど、仕組みはぜひとも提示していただきたい。

【板生主査】  行政ニーズに対応し、技術シーズを実装するというのが非常に大きなポイント。

【村山委員】  抽象的にではなく、こうしてこうしてこうすれば現場へももって行けるんだよという、その辺まで掘り下げて考えていただければ。

【板生主査】  それの仕組みをつくるというか、そこでどういうふうな提言をしていくのがよろしいか。

【村山委員】  この前の会合で、振興調整費が途中で切れてしまっている、それを最後まで持っていくためには技術移転のメカニズムが必要だという議論があった。技術移転のためにはどういう仕組みをつくらなければならないか、そこまで踏み込んだ提言をしたい。

【札野委員】  基本的な考え方のところで、従来の分野縦割り型ではなく、総合的な科学技術の推進の重要性ということを強調しているが、「総合的」と言ったときに、安心ということを考えたときには、一般に科学技術という言葉でイメージされるような科学技術だけではなく、心理学、社会科学、その他人文・社会科学系の知見が重要だと思うので、その辺をさらに強調していっていただければありがたい。

【板生主査】  「研究開発だけでなく、規制、制度等の社会システムの改善と連動した」、この辺のところを強調していきたいという考え方。

【札野委員】  もう1つは、人材の育成のところで目ききやプロデューサー人材の育成は重要だと思うが、さらに、継続的に日本の高等教育機関の中に安全・安心を自分の主題として考えていけるような人材を育てる制度をつくり上げていくということが必要ではないか。

【板生主査】  知見の蓄積、そのための拠点形成、人材の育成、この辺も非常に大事なポイントだと理解する。

【大野委員】  すばらしい形で、すごく形が具体的になってきた。人材育成ということで、目ききとか、プロデューサー人材の育成とか、そういうキーワードがはっきりすると、あるテクノロジーに対してどういう視点の人が必要とされているかという視点がはっきりする。そういうふうな拠点がすべての大学にある必要はないと思うが、こういうことを得意とする大学が拠点を形成して、人材を育てる。そこに学ぶことによって、安全・安心自体はあまねく必要な技術や知識なので、それぞれの出自のところへ帰っていって広めてくれればいいのではないか。国際協力の話も入っているし、大変的確にまとまってきている。

【橋本委員】  仕組みづくりという意味は、テロ対策に関しては、やはり外国の機微情報がないと全く手足が出ないのではないか。ではそれを研究レベルで海外と協力できる体制をつくりなさいというのもどうかと思うので、この辺の体制づくりというものも、例えば文科省が橋渡しをするとかも含めて、もうちょっと具体的に強調していただけるといいのではないか。

【板生主査】  研究開発体制の整備のところをさらに深く掘り下げてほしいという宿題ということでよろしいか。

【泉局長】  牧野室長からのご説明や、村山先生からの安全保障貿易学会というようなこと自体がある種の安全・安心サイエンスになるということはないのだろうか。そういう分野の研究開発課題自体がある種のサイエンスというのか。

【板生主査】  社会そのものの研究。

【村山委員】  六、七年前、安全・安心の議論を始めたときはわりと安全・安心についてまとまったコンセプトがあって、何かこの安全・安心で1つ動くのではないか、まとまったものができるのではないかと、それこそ学会でもできるのではないかという感じがあった。ところが、その後どんどん安全・安心のコンセプトが広がっていった。だから、そこをどう絞るかという問題である。すべて含めた安全・安心というのはサイエンスとしてあり得ないので、オリジナルのところで我々が議論をし始めた部分が、まさに文科省がスポンサーされてやられた報告書にある、ああいうところを核にしたら、サイエンスという可能性はあると思う。ところが、今のような形で安全・安心と言っても、広がり過ぎてどうしようもない。だから、そこをどう整理をつけるか。

【板生主査】  その整理をする体系学から始めるのか。

【村山委員】  文科省でレポートを書いたときも、最初は、相当苦労して絞り込んでいった。そういう絞り込みが非常に重要。ただ単に安全・安心ということでは、なかなか物事は動かない。

【板生主査】  社会システムをどうとらえるかということ一つとっても、そこから何か切り口があるかもしれない。

【村山委員】  まさにそういう切り口で、一本、筋が通らないとどうしようもない。

【泉局長】  しばらく前の日経新聞に、この世界の人たちの人脈図があった。村山先生の名前もあったか?筑波大学の先生もそういうことを熱心に勉強していた。いろいろなことのきっかけが東芝機械問題だった。そういう人たちが一種のコミュニティーを形成しつつある。

【板生主査】  安全・安心の人脈を形成するという話は、安全・安心科学技術委員会でも最初のころはよくやっていた。そういう人脈をどうつくるか。何か事があったら、すぐそちらにアクセスしたら専門家が出てくるようなネットワークをどうつくるかという話があったが、その辺はまた対応しなければいけない。

【村山委員】  安全保障貿易管理という分野に限ったら、わりとうまくできている。人脈図ができたぐらいだから、産学官、すべてメンバーがそろっている。学会もそれを包括した学会があるし、まとまっている。安全・安心でそういうことができたら理想的。学会のようなものが立ち上がって、関係する産学官の方が1つのセッションで産学官の立場から議論をする。そういう場があれば非常にすばらしい。

【板生主査】  そういう課題は前からあったし、また、ほんとうはそういうことをやらなければいけない時期に来ているのかもしれないが、一つの課題としてとどめておきたい。

【四ノ宮委員】  科学技術の推進がもたらすデュアルユース性の話もしたが、開発する側と、ユーザー側と、いろいろな問題をシェアできるような枠組みは、今後考えていく必要があるのではないかと思う。

 それから、できるだけ安全・安心の、いろいろな部門のすそ野を広げていくためには、人材の話もあったが、教育システムの構築も大事だと思う。

【奈良委員】  この委員会の仕事は現場におろしていかないとやったということにはならないので、そういう意味では、例えばリスクコミュニケーションというのは大きなキーワードになってくると思う。別に言われている表現としてはサイエンス・フォー・オールジャパニーズのような発想で、国民がいろいろなことを知って判断できるという枠組みをつくることは大事だと思う。それをするために、先ほど村山先生がおっしゃった、一種の絞り込みが重要だというのは、1つであると思う。

 もう1つは、時間の流し方というか、フローチャートを描く作業が必要かと思う。具体的にどういうことかというと、今日四ノ宮先生のデュアルユースの話にすごく感銘を受けて、リスクコミュニケーションにおいてこういう仕事は私もちゃんとかかわってやっていかなければいけないと思ったが、一方で、科学者の専門家の認識、コンセンサスがとれていない段階でいきなりリスクコミュニケーションの枠組みの中に生活者を入れてしまうと、生活者は不安をさらに増して、ベネフィットが見えなくなって、さらに混乱するような気がする。例えばこういう問題はこういう特徴があるから、まずは専門家・大学できちっと議論をして決めましょう、ここまで来たらもう大丈夫だから国民におろしていきましょうとか、そういう時間の踏まえ方ということももう少しきめ細やかに考えていかないと、安全・安心が目指すところが本末転倒になってしまって、いたずらに国民の不安をあおるだけになるような気もする。そのあたりはとりわけ四ノ宮先生がおっしゃっている日本の国民性というものも考えながらやっていく必要があるだろうと思った。

【板生主査】  そういう意味では、人材の育成というか、生活者の前にいろいろなところに安全や危機管理に関する人材が存在していることが大事なのかもしれない。

【奈良委員】  多分それが、プリミティブにすべきことだと思う。

【札野委員】  こういう議論をしていると、専門家と生活者とか一般の人たちという分け方をどうしてもしてしまうが、そこにはいろいろなグラデーションがあると思う。例えば一般の人たちが、安心を得るためには信頼が必要なわけだが、目に見えていないところの専門家をすぐに信頼できるかというと、多分そうではない。もっと身近な、自分たちの仲間の中でこういう問題に詳しい人たちからこれなら大丈夫だよといった意見をもらったときに、信頼できるということがあると思う。だから、奈良先生がおっしゃったようなマッピングの仕方、フローチャートのつくり方もあり得ると思うが、それと同時に、最初からその問題があるということを一般の人たちと議論するような場をつくっていくというやり方もあり得るかと思う。それはどちらのほうがいいのかというのは、我々が決めるべきことではなくて、多分それも一緒に議論をしていかなければいけないのではないかと思う。市民によるテクノロジー、あるいは科学のアセスメントの手法には既にいろいろな手法が言われているが、実際にまだ日本では試されていないことがたくさんあるので、そういうことを試していく場としても、この安全・安心という領域は重要だと思う。

【奈良委員】  確かに議論の最初から市民を入れたほうが成功するリスクコミュニケーションのケースもたくさんあるわけで、だから、決めつけずに1つ1つやってみるということか。

【岸主査代理】  テロ対策の関係では、やはり国際協力も非常に大事だと思うし、向こうの技術を標準として使うのではなく、日本の技術を世界の標準として提案できるような枠組みができていくといいと思う。ただ、基礎的な部分に関してはおそらく機微情報というところには入らないと思うので、テロ対策技術イコール機微技術というのをあまり強くやり過ぎると、人材育成のような面から問題が出る気がする。

【板生主査】  この安全・安心の委員会は、国家の安全というか、政府が安全・安心をどういうふうに考えていくべきかという基本的な概念まで含めて議論をして、また、例えばそれを学術審議会に反映できるかどうかというようなことまで含めて議論をしていきましょうということになっている。今日出していただいた議論、今日お話をいただいたお二人の先生方の意見、これらを全部とらえた上で、次回はもう少し社会システムの改善を含めた社会技術的なことも含めて、最終的には6月9日にかなりの案をまとめていくという方向に持っていきたい。特に技術シーズと行政ニーズをどう対応させていくかということに関する仕組みのようなものまで含めてお考えいただいておいて次回にまたお話をいただければありがたい。

 それから、もう1つ大きく出てきたのは、こういう人材育成の拠点をどうつくっていくかということに関してもご意見がたくさんあったので、そういうことに関しても、具体的な取り組み等について次回までにお考えをまとめておいていただけると、大変ありがたい。

 そのほか大事なことは山ほどあるので、その中で何が優先順位を持つかということも含めて皆さんにも考えていただいて、次回あたりにその方向性をまとめていきたい。

 

3)その他

 西田室長から、次回会合について、6月9日午前10時から12時に開催予定であること、今回いただいた意見等を踏まえた中間取りまとめ案を提出したいこと、研究開発と社会ニーズを組み合わせたやり方についての有識者プレゼンを考えていることを述べ閉会した。

―― 了 ――

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