平成20年2月7日(木曜日) 10時~12時
文部科学省 東館13F 2会議室
板生 清委員主査、井上 孝太郎委員主査代理、大野 浩之委員、岡田 義光委員、岸 徹委員、奈良 由美子委員、原 早苗委員、堀井 秀之委員
森口 泰孝科学技術・学術政策局長、岩瀬 公一科学技術・学術総括官、戸渡 速志科学技術・学術政策局政策課長、生川 浩史科学技術・学術政策局戦略官、水元 伸一科学技術・学術政策局政策課安全・安心科学技術企画室長
飯塚 悦功 東京大学大学院工学系研究科教授、水流 聡子 東京大学大学院工学系研究科准教授
岩瀬科学技術・学術総括官着任の紹介と挨拶。
配付資料確認。
【水元室長】
当委員会の運営規則第5条に、委員会の議事録の作成、公開、5条の2に、委員会に諮った上で一部非公表とすることができるという規定がある。第12回の議事録について、テロ対策の具体的な技術開発にかかわる部分があるので、この部分については非公表とし、そのほかの部分をホームページに掲載するというのはいかがか。
【板生主査】
テロに関連する分野について非公表とするということに関しては、合意して頂けますか。(一同了)
【岸委員】
議事録をそのまま公開しても分かりづらい部分も多いと思うので、適切な公表のあり方について、検討をお願いする。
水元室長が、資料1、資料2、資料3を用いて平成20年度の安全・予算案および安全・安心科学技術プロジェクトについて説明した。特に平成20年度から新たに取り組みを開始したいと考えている地域社会の安全・安心の確保に係る研究開発について説明した。
【板生主査】
今年度の委員会の提案をもとにいろいろと議論をしていただき、予算措置もされた。この結果については、委員会の提案が、政策に反映されたと見ることができるが、不充分ではないかという意見もあるだろう。
今年度の安全・安心科学技術プロジェクトについては、おおむね順調にいっているとみてよいか。
【岸委員】
プロジェクトの推進委員会の委員長をしている。今年度は始まるのがおそかったということもあり、まだ十分な結果が出ていないが、おおむね順調にいっていると思う。ただ一部、こちらが意図していたことと食い違うところもあるので、担当者と推進委員がそのすり合わせをし、いい方向に進めたい。
3カ年の計画でアウトプットが基本で、研究者には若干無理を言うこともあると思うが、研究の出口をしっかりする方向で進めたい。
【板生主査】
安全・安心にかかわる知識・技術の共有化については、とにかく長い時間をかけて、データを蓄積していくことが大事だと思う。
地域社会の安全・安心の確保に係る研究開発については、平成20年度に新規に開始することになる。具体的な課題に関して、ご提案があれば、ぜひ挙げていただきたい。
【岡田委員】
私どもの研究所で、来年度から、災害リスク情報プラットフォームの構築に関する研究というプロジェクトが新たに始まる。イノベーション25に絡め、地震・防災研究課の後押しを得て開始される5年間のものであり、重複しているのではないか。
各自治体の情報システムは昔からあるが、なかなか標準化ができない。内閣府等が中心になって進めていくという方法が必要。その点、うまく進められたらと常々思っている。
【大野委員】
災害時における地域の安全・安心確保ということを考えたときに、GISをベースにしたこういうシステムは大変重要だが、住民、あるいは行政担当官レベルで必要なことは他にもある。例えば能登半島地震の体験では、災害基本法等の関連法案とその運営・運用について、要点だけでも携帯電話に転送するなど、簡単に見られるだけで、市役所の行政職員は非常に助かると聞いた。
【原委員】
福田総理は、安全・安心というものをすごく強調した所信表明や施政演説をなさっている。国民生活審議会の総合企画部会で5つのワーキンググループをつくり、その中で全部の政策の総点検をやっている。そこで挙がっているのと同じ問題点の指摘があるので、そういった動きと連携して、世の中にアピールしていくのも、非常に重要だと思う。
災害、地域、情報基盤システムという3つのワードでくくられていると、提案もしやすいし、消費者側のニーズもこういったところにあるので、ぜひ期待したい。
ただ、災害が起きたときすぐにほしい情報、1週間ぐらいたったときにほしい情報、1カ月ぐらいたったときにほしい情報というように、時系列的に考えたときに、得たい情報というのは違うので、そのめりはりをつけた課題を公募すればもう少し提案者は提案しやすいのではないか。
【大野委員】
まさにそのとおりだと思う。おそらく災害の規模によって時間軸が変わる。自助・共助・公助といったキーワードを出していただくといいのではないか。
なぜかというと、災害の規模によって、公助に至るまでの時間が変わる。能登の場合には大体72時間ぐらいで公助のフェーズに入ったが、大都市で災害が起きた場合は、混乱期が増えて、もう少し時間がかかると思う。推測は難しいが、自助に使える科学技術、共助のときに有効な科学技術、公助、行政に要請するような技術というような整理ができるといいのではないか。
【堀井委員】
社会的要素技術もあわせてシステム化していくことが重要と書かれており、これは非常によい。形だけ人文社会科学の研究者を加えるのではなく、実質的に書いてあることが実現できるような体制になっているかどうか、研究計画になっているかどうかということを審査することが重要だと思う。
資料3に昨年議論した内容がまとめてあるが、国民がリスクの実態を理解しどう対処すれば安全かを知ることによって安心するということと、実際に危機が発生したときに社会として冷静・的確に対処することによって被害を最小限にとどめること、こういうことを考えてシステム化を進めることとある。提案されたシステムを評価するときに、こういう観点で見る必要があるのかと思う。
また、このシステムは平時も使用するシステムだということが書いてあり、これは非常に重要だと思う。先ほど指摘した、国民がリスクの実態を理解し、どう対処すれば安全かを知るということによって安心するということを平時から行うという意味もある。提案のシステムが、平時使う上で、例えば行政サービスの向上につながるかどうかというのが、このシステムが本当に機能するかどうかというところにかかわっていると思うので、これも評価の視点に入れていただきたい。
【奈良委員】
情報管理という意味では、標準化というものは絶対必要なことであるので、そういった視点を盛り込んでいただきたい。
また、地域住民の情報ニーズと情報リテラシーを十分配慮した計画、研究プロジェクトにしてくださいということを書くべきである。災害弱者は情報弱者でもあり、災害時の混乱期にどれぐらい情報を受けることができるのかという住民のリテラシーの問題がある。なおかつ、生活情報ニーズは時間的なフェーズの中で移っていく。ニーズとリテラシーを盛り込んでいただくと、安心の実現をも射程に入れた研究になってくると思う。
【井上主査代理】
災害時の情報基盤システムに類似なものとしては、例えば原子力施設などの安全情報システムがある。情報を受ける側からすれば、いろいろなシステムで情報を受けとるのは混乱するので、整合性等を考えてシステムを構築していく必要があると思う。
【板生主査】
他の省庁でやっている話と重複しないか、水元室長のほうで精査してもらいたい。
【水元室長】
防災科研が中心となって社会関連のプロジェクトを進めているのは承知している。全国に配れるようなすばらしいものをつくるということで、それは非常に大事だと思っている。一方私どもの視点は、地域社会の安全・安心ということで、自治体やその地域の社会の実情に沿った形で、全国規模というよりももっと小さな取り組みができればと思っている。
標準化の件は大事な視点であり、システムを公開というのは必ず入れていただく。また、その自治体で閉じるのではなく、ほかの自治体とも連携、連動するシステムということを審査の項目に入れて対処する。
【板生主査】
災害時等における地域の安全・安心確保のための情報基盤システムの構築という具体的な課題に関しては、おおむねこれでよかろうという意見をいただいた。
災害時等という「等」が大事であり、堀井委員からもあったように、「平時にも使われるシステムであってかつ災害時にも使われる」という、非常に難しい課題であるが、それを考えないと、災害時だけでは使えない。
また、すぐ実用になるようなものを公募するのであって、大学の先生方は何か文科省の研究だからゆっくりやればいいという間違った考えを持つ人が多いので、その辺のところがはっきりわかるように提案していく必要がある。
【水元室長】
きょうのご意見を踏まえ、公募要領の作成、また審査委員会等の設置等を進め、できるだけ早い段階で公募を開始し、審査委員会で選定をしていただく。その選定結果については当委員会にご報告をさせていただく。
【板生主査】
文案そのものは事務局にお任せするということでよいか。(一同了)
【飯塚教授】
主に、社会全体として安全・安心のために持つべき技術基盤、知識基盤を共有できるような仕組みについて、どんなことが考えられるかをお話ししたい。安全にかかわる技術・知識を持ち、見えるようにし、本質的な知識を抽出し、構造化し、共有しなければいけない。役割を認識し、社会制度とした上で、それを支える文化・風土があって初めて社会技術として確立すると思っている。
飯塚教授と水流准教授が資料4を用いて「健康・医療・福祉に関する安全・安心科学技術」について説明した。
【板生主査】
飯塚先生は、品質管理の権威で、学会の会長もされていた。医療に品質管理を導入することや、またもっと幅広く社会全体に対してのこういう考え方を社会の安全・安心のために提供、研究していこうというお考えをお話いただいた。ありがとうございました。
【井上主査代理】
こういう技術やシステムは、全国的には普及していないが、トップ技術やトップ機関はどうなっているのか。特にアメリカでは、どういう状況にあるのか。
個々の病院内の情報については、かなりの部分が情報システムとして開発されていると思うが、その辺の状況はどうか。
【飯塚教授】
私たちの関心は臨床にあり、そこそこ確立している分野についてその成果をみんなで使えるように進めている。最先端の分野について各部の比較を綿密にやっているわけではない。
【水流准教授】
医療の電子化や標準化の点に関しては、各国とも苦しんでおり、診療プロセスを可視化する作業は進んでいない。患者さんによる状態適応、多様性というものをうまく表現できない事情があるようだ。こういうクリニカル・パスウェイというものは電子的に展開することによって何でもできるはずだが、なかなかできていない。
【井上主査代理】
トップレベルの病院でもそうか。アメリカではどうか。
【水流准教授】
ハーバードでやればハーバードの、テキサスでやればテキサスのやり方になるという形。一応その病院内標準というのは決めようとしていて、その中では一応完結する形にはなるが、患者さんはそこだけにいるわけではなく、病院に来て、その後地域にまた帰っていくのでなかなか難しい。
イギリスでは、NHSでトータルに管理されているはずだが、コミュニティー・ベースの非常に慢性期のところはまだある程度は標準化ができるが、急性期のところは状態変化が激し過ぎて追っかけ切れないという現状にあるようだ。電子処方と処方せんを書くところも、コミュニティー・ベースではいいが、やはり急性期の病院の電子処方はできていないということが、今の状態のようだ。各国とも標準化を進めているところだが、まだ非常によい解というものが見つけられていない。
こういうパスウェイの考え方の計画系を用いて設計図を書くことで、その後に引き続く実施やリソースなどへのひもづけが可能となることが少しずつわかってきており、この分野は今注目されている。
電子関係では、オーダリングシステムとか電子カルテとかいう形になっているが、この患者さんにはどういった治療を提供しますよという計画系のところの全貌が可視化されていない。今あるパスと言われているものは、表形式のスケジュール表になっていて、患者さんの状態が変わったら計画を変更しないといけないが、うまく対応できていないという問題点がある。
災害時の計画においても、今までの経験値をもとにして、こういった災害が起こったら、こういう条件の地域であれば、あるいは、こういうリソースがないところであれば、どういう状態になってしまう、そうすると次に何をすべきか、そこが落ちついたら次に何をすべきかというような臨床プロセスチャートみたいなものが書ける。このモデル・フレームを複雑系の急性期のところで展開することで、災害やテロなどのほか、コンテンツを落とし込んでいくことはおそらくできるだろうと思っている。
標準をつくるということと個別化ということは矛盾しない。類型化したパターンをつくり、前もって想定されている経験値を全部入れた標準系を作っておくことで、網羅した的確な計画ができる。
目の前にあらわれた患者さんの年齢、性別、病態などの条件によって、編集をかけて個別化に切りかえていく。そうすると、落ちが少ない状態になるし、行き先はすべて一応想定されているので、それを患者さんごとにつくり変えて、たくさんの医療者に対して指示を出していく。それを見ながら、1人の患者さんに対して数十名の医療者が動いている状態になっている。その医療者たちが、設計図を見ながら自分たちの役割を果たしていく実施系で、患者さんの反応を見ていくという形ができる。同じことは、典型的な災害などにも使えるのではないかと思う。
【原委員】
一市民から考えると、医療はすごく専門性が高いのでなかなか素人からアプローチができないが、医療の質の安全確保というところは、まだ未整備の分野だということを感じる。
電子カルテ化が進むので、今ご提案になったような形での医療情報とか、それに基づいた診断とか診療とかをシステムとして組み込んでいくというのは、将来的には考えていっていただきたい。ぜひ汎用性を高めて、厚生労働省でも採用していただけるようにと思う。
搬送の調査についても説明されていたが、救急の患者の扱いは、今大変大きな課題である。患者のたらい回しといったところでもこの仕組みがうまくいかせるよう考えていただけたらと思う。
【飯塚教授】
知事、市長は、地域の医療に関して責任を持っているわけで、仕組みを実際につくっていけばいいと思う。実は技術的な基盤は存在しているのでシステム化すればいい。
【水流准教授】
一見、搬送だけの問題に見えるが、実際には全部つくり込まないと、安全・安心というのは確保できない。リソースという一言では片づけられない問題があり、救急患者の重症度に応じては、手術室とかICUといった部屋のベッドが確保できるかどうかということが、非常に重要になってくる。
【堀井委員】
飯塚先生の品質管理の技術というのは、安全・安心科学技術の1つの典型だと思うし、社会的技術要素を組み入れたシステム技術、すなわち、社会技術としても典型的だと思う。一番いいのは、汎用性がある、一般性があるということで、医療サービスを防災行政サービスに置きかえて、先生の品質管理技術を防災に適応するというようなことができるのか。できるとしたらどういうふうにしたらいいのか。
【飯塚教授】
私たちが品質を考えるときは、必ず、だれに対して、何を提供していて、その質はと考える。何をというのは、広い意味の製品、アウトプット、価値。その価値の状況がほんとうに満足できるかということを、気にしている。
方法論というのは、結局は品質という意味を達成するためのさまざまな方法論。そういうふうに品質を定義したら、結局は目的志向と全く同じ外的基準で物を考えており、何をすればいいのかは、アウトプットイメージで考えている。
固有の技術のレベルがそこそこにあるならば、すべてはその枠組みで語れると思っている。今、災害に関しては、多面的で矛盾する目的がたくさんあるが、それをきちんと書き下すことは重要。それを達成するための方法論は、いろいろな技術があり、どう使うのかということを設計していく。それは、社会シーズの設計かもしれないし、ある種の技術を確立させることかもしれない。やってみなければわからないが、できると思っている。
【板生主査】
今後の安全・安心科学技術のあり方についてということを、残りの時間で少し意見交換をさせていただきたい。
【堀井委員】
例えば2002年の食品パニック以降、必ずしも食品にかかわらず、人々の安全・安心を脅かす事柄が随分あった。もうそろそろそれを冷静にレビューしてみる時期ではないか。原因、対象もさまざまだが、それらを俯瞰的に眺めてみると、少し共通性というのも見えてきている。社会が普遍的に改善するべきもの、あるいは、導入すべき社会的なシステムがあるのではないか。
人々の安全・安心を脅かす要因には、不確実性が伴っていて科学的合理性がすぐに明確にならない、どういう対処をとることが安全・安心につながるかが明確でないようなときに、不安が増幅されて過剰な社会的な反応というのを導き、パニックと呼ばれるような現象につながり、合理的な社会的な行動を阻害するような側面があるのではないか。合理的に対応できるような社会に近づけていくために、どんな安全・安心科学技術が必要なのかを考えるとのも、1つの方向性ではないか。
【板生主査】
昨年、委員会として出した1つの提案は、社会を構成している人間そのものの行動をもっと科学的に解明しようということがあった。これは来年度にまた引き継いで議論すべきことなのかもしれない。
【大野委員】
もっとメタに考えたほうが大きいメリットがある。安全・安心が脅かされる多くの場合は予期せぬものが起きたことへの対処なので、短期間にその問題を解決する道づけ、ソリューション、方法論というのを、整備する時期に来ている気がする。
本日の発表にもあった標準化というのは、実は、言うがやすし、行うが難しである。特に国際標準化は大変である。標準化を強力に推し進めることは、国益に非常にプラスだが、日本は必ずしも得意ではない。語学だけの問題ではなく、ロビー活動とか、そういった総合的なプレーができない。
きょう両先生がおっしゃった標準化という分野や世界は、僕が思っている情報通信の標準化とは全く違う世界のはずではあるが、抱えている問題に共通点がある。いろいろな違う分野人が集まって、標準化のためにどうしたらよいかという知恵を共有するというのが重要になってきたと思う。
安全・安心の場合の標準化というのは、突然発生して、突然みんなが対応してしまうというところが特徴的なので、そういうところでちょっとメタなことをやりましょうと言っている。
【板生主査】
デファクト・スタンダードでいくのか、それとも実際にいろいろなものが出てきたらその中から標準化をやっていくのか。
いろいろな事例をたくさん重ねていくことも非常に大事だし、理論的に正しい線に沿って、全部それにまとめていこうじゃないかということも言えるが、安全・安心というのは、かなり人間的な要素とか、社会的な要素が入るので、そういうものをどういうふうに知恵を出して標準化していくか。標準化は絶対大事なことなので、それをどういう形でやっていくか。これは、非常に研究に値する話になるかもしれない。
【飯塚教授】
安全・安心と言うときは、社会そのものの安定性というか、不満というのが、ものすごく影響すると僕は思う。不満というのは、貧しいこともあるし、知りたいことを知れないとか、いざというとき何かしてもらえないとか、そういう状況というのはどんなものがあるのかということを、つまり不安な状況のタイプみたいなものを整理し直したものをみたいと思う。
しかし、あまりこの調子で進めて行くと今後は政治の話になってしまうので、それに対してどこまで科学技術でもって対処できるかということを考えなければいけないと思う。
【井上主査代理】
今までの私たちの議論の中で、リスクを7分類して、大規模災害、重大事故、感染症、食品安全、テロ、情報セキュリティー、各種犯罪という格好で、事象別に整理してきた。
昨年度からは生活者の視点、あるいは、社会的な視点からの議論を始めたが、それが今のお話につながっているように思う。個別のリスク、ハザード、それに共通的なものが何かあるのか。生活者、社会側から見ると、どういうふうに見えるのか。今、標準化というお話があったが、そういう共通的なものがあれば取り上げる価値はあると思う。
【原委員】
今、冷凍ギョーザ問題が本当に大変で、電車に乗ると、週刊誌の中吊り広告にも過激な見出しが躍っていて、なおさら不安をあおられている感じがする。
2002年、2003年ごろのBSEの問題を契機に、内閣府の中に食品安全委員会をつくり、リスク管理とリスク評価を分け、2004年ぐらいからやっている。その際リスク・コミュニケーションに関する話を聞いた一般消費者は、聞けば聞くほど不安になったということだ。リスク・コミュニケーションがうまくいかないままに、今度は冷凍ギョーザが出てきたという印象がある。安全性というのは、人々が共通的に安全の認識が持てるようなものもあるが、食や医薬品などの問題は、消費者と事業者や研究者等の専門家とは大変なレベルの差がある。ここをどのように埋めるかというのが、リスク・コミュニケーションのあり方の大きな課題かと思う。
【岸委員】
例えば犯罪を考えた場合に、実際は犯罪は減少しているのに、治安はどうかと訊くと、悪化しているという話になってくる。おそらくそこには、不安を増幅する何か別の要因があるという気がする。安全の場合は、ある程度技術的なことでイメージができる。しかし安心の場合は、人に関係してきて、いわゆる不安を増幅する要因がある程度見つかれば、そこを抑えることが必要である。例えば犯罪が減少しているから治安がよくなっているんだというようなイメージを持たせるなど、その辺をうまく解明し表現できればと感じている。
【奈良委員】
人文社会系の研究者として、リスク・コミュニケーションのあり方は重要だと思う。大体、人間というのは、自分でコントロールできる範囲内のリスクであれば、その情報を得ても、立ち向かうというモチベーションが上がるが、もう自分にはどうしようもないと思ったら、ただただ怖がるだけというのがある。
だから、その受け手が、どれぐらいの知識を持ち、どれぐらいリスク回避能力を持っているかということによる説得の内容、情報の提示の仕方というのがある。両面的コミュニケーションによっていいことも悪いことも伝えたほうが有効な場合と、一面的コミュニケーションで、いいことしか言わないほうが効果的な場合とか、いろいろな人がいるので、社会心理学的な領域の研究がますます進まなくてはいけないということを思った。
もう一つは、生活者の立場、生活者の視点を大事にしましょうということ。しかし、やはり専門家による客観的・科学的な、今もう十分リスクは小さいとの評価を踏まえて社会をつくっていくのは、大事だと思う。生活者の不安だけを小さくしようというのは、必ずしも100パーセント合理的ではない。
そもそも日本人というのは、安心を重視する。安心を充足するためには、どんなにコストがかかってもリスクを小さくしたい。その典型的なものが、おそらく医療だと思うが、健康を阻害されるリスクを非常に怖がるので、だから医療事故など絶対許さない雰囲気がある。しかし、リスク管理にはコストがかかる。最小のコストで、なるべくリスク管理の効果を高めましょうということ。コスト意識を生活者に持ってもらうというのは、次の段階で絶対必要である。
そういったことも含めると、次に重要になってくるのは、リスク教育だと思う。リスク管理には、コストがかかる。それはお金だけではなく、時間、手間暇、個人情報の開示も含まれる。ゼロリスクというのは無理。段階的にリスクを小さくしていく中で、安心を実感しましょうということが、学校教育を含め、社会教育の中での次の段階の大事なテーマになっていくと思う。それが、ほんとうにリスクに強い国をつくっていく。
【岡田委員】
いかにしたら標準化できるかということが重大なテーマであるということは私も異存がないが、一方で、研究者というのは標準化を嫌う。人と違って、自分のほうがすぐれているということを主張する人種だから、いつも矛盾を感じてしようがない。みんな同じことをやったら、研究は成り立たなくるし、企業にしてみても、どこの会社も同じことをやっているのでは商売にならないので、差別化ということが一方では重要になる。標準化と差別化との共存も考えつつ、標準化という問題を考えることが必要ではないかと思う。
【板生主査】
昨年度は、安心ということにどう取り組むかということを十分考えて、委員会のまとめができた。端的に言えば、情報があり過ぎて不安が増しているということが、今の世の中の多くの部分で起こっているのではないか。だからといって、情報を制約するという話にはならない。
議論は尽きないが、科学技術というツールを使って、何かの形でまとめていき、前進することが大事だと思う。
【水元室長】
大変貴重なご意見をこれからの参考にさせていただきたい。
─了─
科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室