安全・安心科学技術委員会(第15回) 議事録

1.日時

平成20年8月21日(木曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省 16F 1会議室

3.議題

  1. 安全・安心科学技術プロジェクト等の今後の取組について
    <有識者ヒアリング>
     山口 英 内閣官房情報セキュリティセンター 情報セキュリティ補佐官
     高瀬 義昌 医療法人社団至高会 たかせクリニック理事長・院長
  2. 安全・安心科学技術プロジェクトの平成21年度の取組に関する評価について
  3. その他

4.出席者

委員

 板生 清 委員主査、井上 孝太郎 委員主査代理、大野 浩之 委員、岡田 義光 委員、岸 徹 委員、土井 美和子 委員、奈良 由美子 委員、堀井 秀之 委員、松尾 亜紀子 委員

文部科学省

 泉 紳一郎 科学技術・学術政策局長、岩瀬 公一 科学技術・学術総括官、戸渡 速志 科学技術・学術政策局政策課長、岡谷 重雄 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(推進調整担当)、西田 亮三 科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室長

オブザーバー

 山口 英 内閣官房情報セキュリティセンター 情報セキュリティ補佐官、高瀬 義昌 医療法人社団至高会 たかせクリニック理事長・院長

5.議事録

(1)安全・安心科学技術プロジェクト等の今後の取組について

【板生主査】
 前回に引き続き、安全・安心科学技術プロジェクトの今後の取り組みについて議論を行う。

有識者ヒアリング1

 内閣官房情報セキュリティセンターの山口補佐官が、資料1を用いて情報セキュリティに関して国全体のフレームワークでどういう取り組みが行われてきたか、どういった技術開発が情報セキュリティ政策の側から求められているのか、特にグランドチャレンジ型の研究開発、技術開発をどのように実現したらよいのかについて報告した。

【堀井委員】
 全般的にマネジメント系の研究、組織論的、人間行動理論的な研究が不足していて、開発した技術を実装しようとするといろいろな問題が発生するという印象を持つがいかがか。

【山口補佐官】
 マネジメント系の研究者自体がまず少ない。経営研究をする人たちはいるが、例えば組織研究をして、そこから得られた知見を実装まで見たことのある研究者が非常に少ない。そこで、研究自身をアクティベートしていくとともに、社会実装や技術者とともにマネジメント系の人たちが動ける基盤をどういうふうにこの研究推進体制の中に組み込んでいくのかが、1つチャレンジになるのではないか。

【堀井委員】
 私が東大の工学系研究科の情報セキュリティの責任者をさせられているので、マネジメント系、組織論的な部分をITでいかに効率化していくかが大きな課題だと思っている。そうでないとセキュリティが徹底できない。そこは通常の競争的資金とは違った枠組みで研究を実施することがあり得るのではないか。

【山口補佐官】
 1つは、それぞれの研究者が持っている知見が体系化されるということと、もう一つは、その体系化されたものが本当に再適用可能な仕掛けになっているのかということを検証していくトライアルがないと、マネジメント系の成果は出しにくい。

【井上主査代理】
 こういう情報のセキュリティの問題では、頑丈に守りましょう、頑丈にシステムをつくりましょう、かぎを何重にもつくりましょうという話が多いが、守ることと同時に犯人を捕まえるということが非常に重要。犯罪者を摘出すると言った方がいいか。そういうようなことが入っているか。

【山口補佐官】
 今回は、犯罪捜査に資する技術という意味では書いておらず、研究のフレームワークの話をしている。現実には情報セキュリティ領域でのデジタル・フォレンジックスは2004年、2005年ぐらいから国内でもかなり広く研究が始められているし、内部統制での責任追及のための情報基盤などの研究も始まっている。
 ただ、攻撃側と防御側の非対称性というところが非常に大きな問題になっていて、守る側のツールは社会的、法的、技術的に制限されている中で、攻撃側は自由度をますます増している。そういった意味でも、いわゆる一般的なテロ対策と同じなので、テロ対策に資する技術開発と同様の情報セキュリティの中での技術開発とともに、社会展開への取り組みというのも考えていかないと、情報セキュリティは守れない。

【板生主査】
 短期的な課題のところで、防犯、盗聴、盗撮などに実際に対応されているのかどうか。要するに各省庁、政府の中で、どこで実質的な研究または対策が打たれているのか。

【山口補佐官】
 情報セキュリティよりもう少し広い意味で、例えば個人の生活を守っていくというところと、情報技術という関係で言うと、1つは内閣官房の内政のITグループの中にIT安心・安全会議というものが設置されており、その中でインターネットにおける詐欺、オレオレ詐欺、オークション詐欺、それから有害情報、違法情報に関してどう考えていくのかを検討している。
 それからもう一つは、内閣府の国民生活審議会に個人情報保護の部会があり、こちらのほうでプライバシー保護まで拡大したところでの議論をしているというふうに聞いている。それから、防犯に関しては、国家公安委員会配下の警察庁が一番強くやっており、国民にとっても喫緊の課題であるということで内閣官房ともいろいろな形で連携しながら政策に展開しているという状況だと理解している。

【板生主査】
 どのぐらい十分なのかということをどうお考えになるか。

【山口補佐官】
 現実問題として被害者が減っていないというところで言えば、これは足りないのであろう。ただ、それはやり方が悪く質的に足りないのか、量的に足りないのかというのは、精査しないと言いにくい。

【井上主査代理】
 情報セキュリティの関係で、国が主導的にやるべきことと、主に学とか産とかに任せて国は支援にとどまるべき、あるいは完全に産・学に任せるというものがあり得ると思う。このような区分けはできていないのか。

【山口補佐官】
 13ページの第1次情報セキュリティ基本計画の中で、現実に政府が主導して行うべきものと、官民の連携で行うものと、民で動いていくべきものという、政策の展開の中で区分けをしている。政策の区分けをして全体のポートフォリオをマネージしている。
 技術戦略専門委員会の中の議論で出ているのは、情報セキュリティのプロダクトが仮に民間で生まれたときに、多くの国ではビッグバイヤーは国や軍であり、行政機関が成果である製品やサービスを買うという作業が行われることが多いということ。ところが、我が国では情報、ITに係るセキュリティに関しては、必ずしも政府のお金を出して研究開発したものが実際に政府内で活用できるという基盤にはない。国家安全保障にかかわる領域の兵器生産は、実際に研究開発からロールアウトまで一本化できるが、情報セキュリティというのは民生技術なので、それはできない。そういったところも障害になっている中で、どうやって国がビッグバイヤーになって研究開発を鼓舞していけるのか、これを考えるべきではないかという意見も技術戦略専門委員会で出ている。

【岸委員】
 犯罪という点で、スピード、緊急性というような観点からは、研究開発はどのようになっているのか。

【山口補佐官】
 今の喫緊の課題を解いていく短期的な研究が全くないというわけではなく、いろいろな形で展開している。例えば2ページで、CCC体制(セキュリティ対応体制)では、いわゆるBOT(一般のユーザーのコンピュータに忍び込んで悪いことをリモートからやれるようにする。国内でも大体40万台ぐらい感染しているのではないかと言われている)などに対応していくときに、当然、短期的にそれらの構造解析などをやっている。
 そういったところの喫緊の課題に対して機動的に各省庁が持っている研究開発、あるいは政策の予算を投入していくということは今でもやっている。だれも手を出さない、あるいは喫緊なのに商業性がなくてどうしようもないというところには、政府の金が行かないといけないというのは事実で、それは各省庁が頑張っている。
 一般の研究者の方から、喫緊の課題としてたくさん出ているかに関しては、我々から見ると少ない。政策的な予算ではない科研費は額が小さい。喫緊の課題には、短期集中でガサッと入れないといけない。

【板生主査】
 情報セキュリティの問題は、国家の安全・安心と、それから、生活の安全・安心と両方またがっている非常に幅広い問題だと思う。

有識者ヒアリング2

高瀬医師が、資料2とテレビで放映された番組のビデオを用いて、今の医療の現場の大変な状況、訪問診療の実際を報告した。
たかせクリニックは、在宅医療専門で3年前に開業し、今現在の患者数は大体140人程度。認知症が7割で、10組20名ほどが認認介護(認知症の患者が、認知症の家族の介護をしている状態)をしている。緊急往診は月15回ぐらい。
夜間の電話対応など、ITで何とかならないのか。認知症患者がなくしてしまう保険証、医師の印が必要とされる紹介状などのシステムを改良できないのか。

【板生主査】
 実際にどういうふうにITが在宅医療の現場で対応可能であるかを議論したい。

【高瀬医師】
 マンパワー不足は特に在宅医療、あるいは介護系のところで叫ばれてはいるが、本来の医者の仕事ではない書類仕事が非常に多く、うまく情報が流れる管理システムができればと思う。
 また、お看取りの時間帯がある程度わかる、あるいはお看取りが近いというのがわかるだけでも大変助かる。看取りの直前までは訪問看護でいいだろう。医者の仕事は本当に看取りの直前か、あるいは看取り終わって死亡確認させていただいて、死亡診断書を書く、あるいは死体検案書を書くというところが本来の医者の仕事である。誤解を恐れずに言えば、医者の仕事は死後始まるわけだから、この亡くなられた時点がわかる呼吸、心拍などのモニタリングというのは非常にありがたい。

【井上主査代理】
 在宅医療に携わっている医療機関がどれくらいあるのか。それから、在宅医療の支援技術、あるいは支援システムについて、既存の技術、システムでいけるものと、新たに何か研究開発をしなければいけないものを見分けるのも大変だと思う。こういう技術とニーズとのマッチングについて何か意見があれば教えて欲しい。

【高瀬医師】
 私の意見としては、できるだけ簡便に、安価に技術的な支援をいただけることがあればいいと思う。結構、技術はそれなりにはあるが、その組み合わせがうまくいっていない気がする。例えばモニターも結構いろいろな会社でつくられてはいるが、1台数千万円では、とても各家庭にそれを使わせていただくというにはまだまだ無理。
 実際に僕たちが本当に欲しいのは、個人情報や保険証を電話なり、ファクスなりで病院と診療所でやりとりするだけをもう少しスピーディーにやる技術で、既にあるのではないか。あるいは私どもが使っている日立のダイナミクスという電子カルテが非常によくつくられてはいるが、訪問診療に特化して、もう少しつくり込みしていただければというようなこともある。今あるものをうまく組み合わせることで、僕たちのいろいろな事務作業量は大分減るのではないか。
 それから、バイタルセンサーは法的なところとも絡んでくるので、そこは板生先生が研究開発されているところに期待をしている。それ以外に取り立てて何か新規の技術というのは、先生方から何かこういうのはどうだというのを、むしろお聞かせいただければと思う。

【井上主査代理】
 研究者はニーズを知る機会があまりないのだと思う。

【高瀬医師】
 私のクリニックに、厚労省の方、工学系の方が来られても、きちっと現場を見ていただけるのでぜひ利用して欲しい。

安全・安心科学技術プロジェクトの取組における考え方

【板生主査】
 平成21年度の安全・安心科学技術のプロジェクトの取り組みについて議論を行いたい。
・前回、安全・安心に係る科学技術について、広い分野がある中で、安全・安心科学技術プロジェクトにおいてどういったものに取り組んでいくのかという考え方について1回整理をすべきという指摘に対し、西田室長が資料3を用いて、安全・安心科学技術プロジェクトの特徴を持ちながら、分野的にはどういったものを重点的に取り組んでいくのかということについて、考え方を説明した。国民の安全・安心の確保上重要であるが、経済的な側面からのインセンティブが働きにくい課題。また、既存の国の施策での取り組みが十分でない課題。また、産学官の技術シーズの活用が有効な課題。そして、成果物の社会への実装、成果の技術的・政策的展開に当たり、関係省庁との連携、国の関与の必要性が高い課題といったものが優先順位として高い課題ではないかと考えている。
 経済的なインセンティブ、または国の取り組みが大きいもの、小さいものという軸。それから、技術のニーズが国レベル、そして国民生活、地域レベルに近いという大まかな考え方で、平成18年7月におまとめいただいた重点課題を便宜上整理させていただいた。
 21年度については、破線で囲ってある部分について取り組んでいければということで、今回、検討をお願いしたい。

【板生主査】
 「地域」という言葉が前回からずっとあるが、地域というものと国民生活をある意味では一体で考え、国家ということに対しての地域であり、国家に対しての生活でありというようなとらえ方で整理するということか。

【西田室長】
 安全・安心科学技術プロジェクトの出発点では、当初、国家安全保障のような考え方があったが、やはり国民生活に近い部分の安全・安心というものもきちんとやっていくことが我々としても必要と考える。国家の部分、国民生活の部分という2本立てでできればと考えている。

【板生主査】
 この安全・安心科学技術委員会における基本的なスタンスに関連することになるが、ここに整理されているように18年度、19年度で、結果的には生活レベルの話と国レベルの話というのが、ある程度分散をして、それなりに分布しているということになるが、これらに関してどういうふうにウエートをつけていくかを議論をしていただきたい。
 特にテロ、大規模災害、それから情報セキュリティというような国レベルの話を重点的にやっていくのは、安全・安心科学技術委員会としては大変大事なことだろう。そこにお金を全部使ってしまうと、今度は地域または生活レベルの安全・安心というのが、今の段階でも非常に少ない。この辺のところをどういうふうに分布させればどうだというようなこともご意見をいただきたい。

【岸委員】
 参考の縦横の図について、これは縦軸が経済的インセンティブまたは国の取り組みということで、例えばテロリズムが小さいという形になっていて、これは文科省の関与の必要性の観点が小さいということだろうが、一方核防護の必要性は大きい。その辺のイメージがもうちょっとわきにくい。

【西田室長】
 ここでは基本的に国の取り組みがあまりなされていないものを上の方に挙げ、あるいは経済的インセンティブが少ないもの、または国の取り組みが小さいものというのが基本的に上のほうに来るように考えた。例えば核物質防護であれば、文科省として各国内施設ごとの、原子力発電所などの核物質防護という形では一生懸命取り組んでいるので、下のほうに整理をした。
 ただ、前回、内藤専務からもお話があったように、IAEAが使うような汎用的な保障措置の技術開発といったものは、これは取り組みがあまりなされていないので、同じ核物質防護でも分けて、上のほうに整理をしている。

【土井委員】
 経済的にインセンティブが大きいものは、民間でも取り組むと思うので、この縦軸は、国の取り組みが本当に必要なもの、経済的にはインセンティブは小さいかも知れないが、事が起こったときにはやはり国が取り組むべきものということで考えると上が大になって、下が小になるべきだというのが1点。
 あともう1点、技術的にはできるが、法律が変わらない限りできないという話がたくさんある。健康モニタリングのような話も、技術はできているがまだ薬事認定がとれないでいるなど、難しいところがある。
 あともう一つは、文科省のプロジェクトでせっかくいい成果が出たとしても、実際の現場に入っていこうとすると、法律の壁に阻まれてしまってうまくいかない。経済的に高ければ、それを乗り越えてやっていくのだとは思うが、そういうところに阻まれていてできない、そこをどうするかというのは、この委員会だけではどうしようもできない部分があるので非常に悩ましい。
 あともう一つ、地域というのは、実は一括りにできないところがあり、同じ不審者検知でも、市街地で人が多いようなところと人が少ないようなところでは全然やり方も違ってきて、どちらが経済的にいいのかとか、どっちが見守らなければいけないかとか、そういうところが実はニーズがよくわかっていない。特に見守りをしようと思うとカメラを設置しないといけないが、非常に反発があるとか、実際にこういうものがどれくらい役に立つかという実証をやっていこうとすると、地域の皆様の理解をいただかないといけないので、そこはそこでまた大変である。技術だけで解決できる問題はかなり解決できていて、その最後の一歩のところをどうするかというところがかなり悩ましい部分がある。

【板生主査】
 いろいろな問題が山積みになっていると思うが、技術の解決というのはある意味では目標が明確になって動くが、それ以外の制度的なものは非線形の世界に入ってしまう。そこをどういうふうに突破するか。これは安全・安心委員会でどういうふうに扱うかという問題になるかとは思うが、ここで扱うには限りがある。
 したがって、できるだけユーザーさん、例えば高瀬先生のようなお医者さんと一緒になってシステム提案をしていくということで、これだったらこんなにうまくいくではないかというようなことができればいいのかと思う。これは一筋縄でいく話ではないので、またいろいろ議論をしていただきたい。

【大野委員】
 いろいろな問題が目の前にあるということを多くの人があまり気づいていないというところに大きい問題があると思う。医療問題も厚生労働省が政府広報としてやると、やたら深刻になるか、やたら政治的な絡みが出てきてしまうが、例えばみのもんたさんの「朝ズバッ!」、NHKの「週刊こどもニュース」、CNN スチューデントニュースなどでは本音を報道できるのでは。
 資料3の図について、非常におもしろくできているが、経済的インセンティブの大小と国の取り組みの大小が同じ軸になっているのは無理で、これは多分、軸が違う。本当は三次元のグラフか何かにしなければいけない。

【板生主査】
 情報セキュリティに関しては?

【大野委員】
 実社会の経験をもとに新しい社会の問題を伝えるということはよくやるが、その比喩は日本全体の中でコンセンサスが得られていない。安全・安心とか、生活安全とか、それが通じないところの人にどう情報セキュリティを伝えていくかというのは重要になると思う。

【堀井委員】
 病児保育などのソーシャル・エンタープライズ、社会的起業というのが社会的課題の解決にはこれから大きな役割を果たしていくと思う。結局、最後は人なので、ITとかの技術だけでは問題は解決できず、人をどう組み込んでいくかということだろう。これからは国が、あるいは公的な機関が直接問題を解決するのではなく、また、単なるボランティアでもなく、経済活動を通じて問題を解決していく。
 そういう活動を支援するインフラとなるような、ITをベースとしたシステムのようなものがあると活動が楽になるのかと思う。制度的な支援ということもあるだろうし、そういう基盤となるような技術、システムを国として提供するというのがあり得るのではないか。在宅医療や高齢者の介護だけでなく、さまざまな分野で使える汎用的なシステムになると思うので、安全・安心に資すると思う。

【板生主査】
 社会的課題を解決するための社会貢献というのは、国のレベルでのインフラ作りなどの支援するシステムをどうつくるかということですね。

【岡田委員】
 考え方の中に社会への実装までを目標とするというのがあり、例えばどこかのサンプルを選んで実装の実験をするところまではいいが、それがどんどん果てしなくなる。研究所にほとんどいなくて、あちこちの地方自治体を飛び回ってというようなことになると、どこまでが研究でどこまで実務になるかというところのクライテリアがあるかどうか、いつも悩んでいる。

【岡田委員】
 認知症の患者のように、郵便物の理解ができない、ファクスやましてや携帯なども使えないという人たちもたくさんおり、世の中の情報時代から完全に取り残されていると思う。素人が一番単純に考えるのはWebカメラみたいな物を置くということがあるが、プライバシーの問題で家族以外はそういう画像や何かを見ることはできないのだろうか。

【高瀬医師】
 そうだと思う。とにかく未曾有の超高齢者大国、超認知症大国に、世界に先駆けてあと10年後になることは間違いないので、各関係省庁が一緒になって何かできないか。かぎを開けてもらうのに15分、20分かかってしまったりするので、何かキーレス・エントリーのようなことができないかと思うことはある。

【松尾委員】
 高齢者の問題はここの安全・安心だけの問題ではなく、あまりに大きい。こちらのプロジェクトとして動くのが比較的短期のもので、実装を目指すということであると、できることが非常に限られているし、またあまり大きなことはまだいろいろな条件でできない。やれることを探りながら、でも1つ1つ進んでいく必要があるかと思う。
 大きな技術がドンと進まなければいけないのではなくて、今ある技術でも、手の静脈でお金までおろせるぐらいなのだから、それで保険証のかわりになるとか、何かそんなふうなこととかでもすればいい。ITに限らず小さい技術でも、本当に短いスパンでもできるものをやるといいのではないか。

【奈良委員】
 資料3のマッピングは、経済的インセンティブと国の取り組みというのが混在しているが、このマップの役割を考える必要がある。つまり、このマップを何のためにだれに見せるのか、何のためにこれを使うのかということ。文科省が税金を使ってやるにあたって、国の、あるいは国民のこういった問題にちゃんと目配りをしていますよということをきちんと言うためにつくりましょうというのが、当初の議論の発端にあったと思う。そういう趣旨からすると、このように国レベルと国民レベル、それから、放っておいたらだれもやらないから、国がやらなければいけないということでつくられた軸は、これはこれでいいのではないかと考える。
 そうは言うものの、このマッピングの中にいろいろ欠けている要素があり、例えば堀井先生がおっしゃったように、マネジメント局面が弱い。そのマネジメント局面が弱いか強いかとか、逆に言えば、強めなければいけないか、このままでいいのかという軸もない。また、法によるバリアの程度が大きいか小さいかという軸も入っていないし、関係省庁との連携が弱い、それとも強いという軸も、高瀬先生のお話のような個別の生々しさというのも全然入っていないわけで、そういうのを全部、1個のマップに入れるのはどうしても無理である。別のマップをつくるか、あるいは個別の記述に落とし込むかというふうにしないとできないと思う。
 このマップはマップで国民を説得するのでなら使うとしても、落ちている軸について我々は短期間でちゃんとやっていかなくてはいけない。

【土井委員】
 資料3の実施プロジェクトのところで、ニーズに対応するという話と社会に実装するという話は、先ほど高瀬先生が言われたように、技術的にものすごく新しいものである必要はなく、今ある技術を組み合わせて対応していけばいいレベルのものがたくさんあると思う。という話と、産学官の技術シーズの活用が有効な課題とはすごく矛盾する。技術があって、これをあるニーズに押しつけようとすると、実際はうまくいかない。ここをきちんと考えないと、技術的に新しいことをやるという話で通そうとすると、ニーズに沿うとか、社会への実装という話は落ちていくのだと思う。逆に、今ある技術で対応していくのをやりますというと、財務省が、技術的に新しいことがないのに何で文科省がやるんだという話になり、いや、それはシステム全体で組み上げることが新しい、大事なんですと言っても、それがなかなか通らない。それが如実に出た資料になっているのに気がついた。

【高瀬医師】
 在宅医療でも同じ思いをする。決してロボット施設とかをしているわけではなく、いろいろなものの組み合わせで、いろいろな素材、僕の麻酔科の経験、小児科の経験とかの全部の総体としてあるのだが、大学の医者から見ると、デリバリーの医者かぐらいの認識でしかない。

【板生主査】
 土井先生のご意見は全くもっともで、我々のスタンスとしてはやはり実装というものを重んじて、社会の安全・安心を実現する手段としての技術を開発する。それから、制度改革、法律まで含めて、実現するために必要な手段も研究課題の1つである。

【土井委員】
 法的にどういうところを改正しないといけないかとか、そういう洗い出しができれば、社会への実装にこういうところをやらないとだめなんだということがわかるというのも、それはそれですごく大きい。そうしないと、先生が言われていることは実現できない。

【井上主査代理】
 それが行き過ぎても困る。ここのプロジェクトで取り上げるべきものは科学技術をベースにするというのは、1つの原則だと思う。これは社会全体の安全・安心という広いとらえ方をすると、金融不安、個人資産の問題、教育問題、そんなことまでいろいろあり得る。しかしここのプロジェクトで挙げるのは、やはり科学技術を有効に使ってやるということだと思う。その研究開発、個々の要素の研究開発の新しさだけには必ずしもとらわれない。その組み合わせの新しさ、あるいはシステム化、そういうことも含めるのはいいと思う。ただし、科学技術ということはやはり崩さないほうがいい。ここで何ができるのか、科学技術では何ができるのかということはやはり重要な要素だと思う。

【板生主査】
 そういう意味では、科学技術委員会ですので、それを前提とした中で、なおかつ制度とか、そういうものを含めた改革をどうやっていくか、その中でいかに課題を解決するかということが大事だろうと思う。皆さんのおっしゃっていることは基本的には同じ気がする。したがいまして、表現の問題を西田室長に検討していただくということにして、皆さんのご意見を集約させていただければと思う。

(2)安全・安心科学技術プロジェクトの平成21年度の取組に関する評価について

 もう一つ、平成21年度の概算要求に向けて安全・安心科学技術プロジェクトの事前評価について、事前評価票の案を事務局が作成している。この案について、委員からご意見をいただきたい。
 評価票の5に、安全・安心科学技術プロジェクトの今後の取り組みについての本日及び前回委員会の意見を踏まえての評価結果というところがある。これに反映して、今月29日に予定されている研究計画・評価分科会に私座長から報告をさせていただく。その事前評価票というものについての案をご審議いただきたい。

【西田室長】
 まず、事業概要については、21年度において新たに取り組む分野として、テロ対策、地域の安全・安心、3番目として国家の安全・安心の基盤となる科学技術というものを挙げている。また、安全・安心に関わる知・技術の共有化であり、現在、テロ対策とバイオテロ対策について、JSTの社会技術研究開発センター及び慶応大学等に委託して、知の共有化に係るワークショップの開催あるいは情報発信というようなことをしているので、21年度以降も継続したい。
 4.の評価の検討状況について、(1)必要性については、安全・安心科学技術プロジェクト全体の必要性を述べた。これまで経済的価値を生み出す分野に頼っていたものの、今後は国民の安全・安心の確保など、公共的価値を生み出す分野の貢献が期待される。そのため技術シーズをユーザーニーズにつなげることを支援することが必要というような形で記載させていただいた。
 重要研究開発課題の必要性については、テロ対策に係る研究開発、地域の安全・安心確保に係る研究開発、そして国家の安全・安心の基盤となる科学技術と、安全・安心に関わる知・技術の共有化というものを重要研究開発課題として取り上げさせていただきたい。
 そして、その有効性については、市場規模が大きくないために民間の研究開発に任せていては十分に取り組みが行われないものや、研究者の自由な発想に基づく研究では必ずしも実用に結びつかないため、国が主導して積極的に進めることが有効であるということ。
 効率性としては、外部の有識者・専門家で構成される審査委員会、そして推進委員会を設置し、そのもとで研究開発課題の審査及び研究開発が行われるため、効率的な事業の実施が可能である。また、我が国の研究開発能力を最大限活用するため、大学、独立行政法人、民間等の研究開発機関を対象として広く研究開発の提案を公募することで、すぐれた研究開発を選定・実施することが可能であるという記載をしている。
 また、5.の評価結果については、前回8月1日の委員会、そして本日の委員会で委員からいただいたコメント等を踏まえ、座長ともご相談しながら29日の会議にご報告させていただけきたい。

【板生主査】
 何かご意見があればぜひお伺いしたい。特にこれだけは入れておきたいことは。

【土井委員】
 資料5の(1)の2で、「平成21年度においても医療、インフラ保護等の」とあるが、前回は資料4の5ページ目に地域のところに「医療とインフラ保護と治安・犯罪」とあるので、治安も一言入れておいていただけるとありがたい。

【高瀬医師】
 認知症は暴力とか、殺人事件に発展しがちなので、内なるテロリズムをどうセキュリティしていくかという話、精神医療も含めてのセーフティーネットといった視点も入れていただければ。

【板生主査】
 資料5の評価結果の最終的な文案については座長にご一任いただいてよいか。(一同了。)では文案について事務局と調整の上、後日委員の皆様にお送りしたい。

【西田室長】
 指摘があったように、大きなテーマではなくて、個別具体的にどういうテーマに取り組んでいくかについて、安全・安心科学技術委員会を再度開催し、委員の皆様と議論をさせていただきたい。

【板生主査】
 この年度の主な議論は今回で終了し、秋口にまたご意見を伺うための委員会を開きたい。

―了―

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