第9期ナノテクノロジー・材料科学技術委員会(第4回) 議事録

1.日時

平成30年4月11日(水曜日) 15時~18時

2.場所

15F特別会議室

3.議題

  1. ナノテクノロジー・材料分野の取組について
  2. 物質・材料研究機構の最近の取組について
  3. その他

4.議事録

【三島主査】  皆様、こんにちは。定刻となりましたので、ただいまから第9期のナノテクノロジー・材料科学技術委員会、第4回目を開催させていただきます。お忙しい中、多数の方にお集まりいただきまして、本当にありがとうございます。

 本日、議題、その他を入れて3つございますが、初めがナノテクノロジー・材料分野の取組についてとして、豊田理化学研究所から玉尾先生、それから、ナノ材の委員から加藤委員と瀬戸山委員に御発表いただきたいと思います。議題2では、物質・材料研究機構の最近の取組についてとして、橋本委員及びソフトバンク株式会社の太田様、トヨタ自動車の岡島様から御発表いただく予定でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、早速でございますが、事務局から、委員の出欠と配付資料の確認をお願いしたいと思います。田村係長、よろしくお願いします。

【田村係長】  本日は、上杉委員、菅野委員が御欠席でございます。また、前田委員が、所用により遅れて出席されるという御連絡を頂いております。また、当省より磯谷研究振興局長が出席しております。また、弊省の研究振興局の審議官の板倉が退任しまして、新たに千原が着任しております。一言御挨拶させていただきます。

【千原審議官】  千原でございます。先生方には大変お世話になります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【田村係長】  また、配付資料でございますが、本日、資料1-1、1-2、1-3と、資料2-1、2-2が配付資料としてございます。また、机上配付資料といたしまして、資料が3つほど用意されております。資料に欠落等ございましたら、事務局までお知らせください。

 以上でございます。

【三島主査】  よろしゅうございましょうか。

 それでは、早速、議題1に入らせていただきます。

 現在、作業部会で御検討いただいている研究開発戦略の検討状況を踏まえた当委員会の議論でも、重要な領域については引き続き取り組むべきとの発言も頂いておりました。そこで、本日は、今まで取り組まれてきました研究領域をレビューする観点からも、玉尾先生から「元素戦略」について、そして、加藤委員から「分子技術」について、そして、瀬戸山委員から「超空間」についてということで御報告を頂きたいと考えてございます。それぞれの御発表後に10分程度の質疑時間を設けますが、3人の発表が終わりましたところで、まとまった質疑時間も取りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、まずは玉尾先生から御説明いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【玉尾様】  皆さん、こんにちは。御紹介いただきました豊田理化学研究所の玉尾でございます。私、十数年前、この委員会のメンバーをしておりましたが、きょうは久々に呼んでいただきましたけど、大変物々しい感じがしておって、大変緊張しておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 きょうは、「元素戦略」の意義、それから、これまでの取組、成果と今後という、こういうタイトルで話をするようにという依頼を頂きました。こういう機会を作っていただきまして、本当にありがとうございます。よろしくお願いいたします。

 この「元素戦略」に関してですが、CRESTは3月で終わりましたので、研究総括でしたという立場と、それから、文科省の拠点形成型のPDに、この4月から着任いたしましたという、そういう立場で話をさせていただくことになります。

 実は、13年間、理化学研究所で働いておりましたけれども、この3月で退職いたしまして、客員主幹研究員という所属になりました。本務の方は、公益財団法人豊田理化学研究所の方の所長になっていますが、活動拠点は東京の方に置いております。またよろしくお願いいたします。

 これがJSTのCRDSで作っている「元素戦略」関連の研究開発政策全体の図ですね。それを使わせていただきます。少しモディファイさせていただいておりますけれども、このような状況であります。私自身は、この最初のいわゆる「箱根会議」のJSTのワークショップ、それから、次の文科省の産学連携型の元素戦略プロジェクト、そして、その次のJSTのCRESTの元素戦略、そして、最近の文科省の拠点形成型のプロジェクトと、切れ目なくずっと関わらせていただいているというところで、どっぷりという感じがしますが、この「元素戦略」、文科省では、まだ2021年度までずっと続くという、そういうプロジェクトになっています。

 この「元素戦略」なんですけれども、2004年の箱根会議で提案されたキーワードなんですけれども、その前に、私が京大化学研究所にいましたときに、2000年に元素科学とサイエンスというものを提唱させていただきました。文科省にも予算を付けていただいて、2003年に「元素科学国際研究センター」というものが設立されて、今もこれは活動しています。ですから、この「元素戦略」というのは、「元素科学」、学術研究コンセプトからイノベーション創出の国家戦略に、ここにステップアップした、トランスファーした、アップしたというふうに位置付けております。ですから、基本は、「元素科学」が基本になった戦略になっていますので、元素資源問題は、サイエンスで解決するというのが、この「元素戦略」の基本的な概念というふうにずっとキープし続けております。

 これが、今では有名になっていると思いますが、「箱根会議」というもので、2004年に、当時の上席フェローの村井先生に要請を受けて、私が議長を務めて、一泊二日の泊まり込みの勉強会をやったものです。橋本先生もいらっしゃいます。北澤先生もいらっしゃる。中山さんもいらっしゃいます。細野先生もいらっしゃいますという、こういうそうそうたるメンバーが一晩泊まりで勉強会をやって、その中で、中村栄一先生が、この「元素戦略」というキーワードを提唱されたものであります。

 これが先ほどの年表をもう一度書き直したものでありますけれども、2007年から予算が付いて、これが省庁を超えた共同プロジェクトとなりました。それから、CREST、さきがけ、それで、今の拠点形成型ということであります。この順番に少し話をさせていただきたいと思います。

 経産省は、御存じのとおり、このような戦略元素というものを指定して、「希少元素代替材料開発プロジェクト」というものを行いました。それに対して、文科省の「元素戦略」というのは、元素は特定しないということが基本の概念になっています。そういうことで、どういう元素もまずは使ってもいいんだよと。それで、サイエンスに基づいて新しい物質材料科学の基盤を築く戦略、そういうことをしっかりとやりましょうということになっています。

 元素戦略の5要素、「減量」「代替」「循環」「規制」、そして、「新機能戦略」というものを基にして、しっかりと研究テーマを立てましょう。その中で強調したい点は、戦略元素の有効機能の高度活用ということで、特に元素は特定しないで、しっかりとサイエンスベースで進めるということに取り組んでいるものであります。

 次に、2010年には、さきがけとCRESTが始まりました。

 まず、さきがけについて御紹介いたします。細野先生が代表者で、“生意気な研究者”というものを34名選定いたしました。それで、採択分野も非常に広いですね。その中で、5年間の中で、34名中、24名が昇進をするという、若手育成という点で、非常に重要な役割を担っていただいたと思っております。

 代表的な成果を、これは参考までに挙げてございます。後で見ていただければと思いますが、非常にすばらしい、大事な重要な成果を出しておられます。

 特に、次のページの中野さんの豊田中研の「大気中で安定的に取り扱うことができる二層シリセンの合成に成功」というもの、これはグラフェンのケイ素版、そういうものも作れるようになりましたという、それから、分子研の小林玄器さんは、「ヒドリドイオンの伝導体」を発見しましたという、このあたり、非常に重要な成果が生み出されていると思っています。

 それから、CRESTの「元素戦略」ですけれども、これは8年間、私が率いてまいりましたが、12課題ですね。テーマ別の順番に並べてあります。硬いものから軟らかいものという感じで並べてありまして、磁石拠点、それから、鉄鋼材料、元素間融合、現代版の錬金術、これは北川宏さんですね。それから、酸化物の物質、それから、軽元素電子材料、長谷川さんとか、炭素系のもの、堀内、栄長、森田さん。栄長さんのホウ素ドープダイヤモンド電極というのは、非常に発展をしています。後に紹介をいたします。それから、炭素系の二次電池、それから、有機合成用の鉄系触媒反応の開発、永島さん。それで、もう一つは、理論も入っていただいて、相対論的電子論というものを中井先生に進めていただきました。

 先ほど来強調していますように、サイエンスベースで、次につながる「新しい芽やコンセプト」というものが生み出されたかという視点ですけれども、ここにまとめましたとおり、それぞれのチームがしっかりとした新しいコンセプト等を作り上げて、次につないでいます。

 それから、科学技術イノベーション創出への貢献というものを2枚で紹介いたしますけれども、1つは、もう実際に社会実装されているのは、栄長チームのホウ素ドープダイヤモンド電極のものでして、卓上型の重金属イオンの分析、それから、残留塩素濃度センサーであるとか、オゾン水生成装置(消毒用)という、こういうものがもう実装されています。経済効果も、このようなものが予想されるということであります。

 それから、これからの取組の中でも、北川宏さんの元素間融合物質なんですけれども、こういうものも、もしも排ガス触媒などに使われれば、非常に大きな経済効果があるだろうと予想されています。

 それから、鉄鋼材料なんですけれども、微量のホウ素を添加したHAZボンド脆化の克服したもの、こういう技術も実際にもう使われようとしていると思います。

 それから、Dyフリーネオジム磁石、新しい方法論、それから、ヒドロシルカ触媒、白金を鉄に置き換えましたというようなことまででき上がっているということになっています。これはもう信越などで実用化しようかというところまで来ていると思います。

 「元素戦略」領域を設定したことの意義として、少しまとめさせていただきました。これは今までの十何年間の中で、8年間という非常に長い、一番長い期間、元素戦略の研究活動を担ってまいりましたという意味で、中核を担ってまいりました。そういうことで、新しい領域として形成されたのではないかと思っています。

 さらに、「元素戦略」の研究領域が科学技術の進展及びイノベーション創出の源泉であるということが認識されたのではないかと思っています。ネットワーク型のバーチャルラボという、この3つ、「物質創製」「解析」「理論」というグループを配置することの有効性が証明されたとも思います。それから、こういうこと全体をまとめますと、「元素戦略」研究領域は解決されるべき課題の宝庫であって、新たなサイエンスの源泉として、引き続き国を挙げて取り組むべき領域だと思っています。

 それから、「元素戦略」の周知への更なる取組が必要であるということですね。裾野の更なる拡大が必要だと思います。先ほどのさきがけなどで、若手が非常に広がった、あるいは、CRESTでも、800名ほどの研究者、学生たちがこれに参画したという実績になっています。ですけれども、更に広げる必要があろうと思います。特に、産業界への更なる認知度向上というものが重要ではないかと思っています。

 それから、拠点形成型ですね。村井先生、澤岡先生がPDをお務めでしたけれども、今年度から私がPDを引き継ぐことになりました。最後の4年間ということになります。

 この元素戦略拠点型のプロジェクトというものの設置目標は、学理構築から「試作」までというふうに最初に書かれています。それを経産省へ橋渡しし、そして、社会実装を目指そうということになっています。

 ここに書きました4つの点は、2018年度からの残り4年間の各拠点の達成目標であります。磁石材料のところは、2-14-1系Dyフリーネオジム磁石と1-12系の究極高性能磁石材料の実現。それから、触媒・電池(京都大学)の方は、自動車用触媒のPd、Rh、Ptの減量・代替、それから、二次電池のLi、CoからNa、Feへの代替ということ。それから、電子材料(東工大)の方は、物質の構造・化学状態の多様性と多存元素を活用、実用に耐える材料を作る、マテリアルインフォマティクスの活用をしましょうということですね。それから、構造材料の方は、バルクナノメタル化による鉄鋼、Ti、Mg、Cu構造材料の高強度/高延性の両立の実現ということを目指しています。

 どんな構成かということをずっとただ見ていくことにしますが、「磁性材料」のところは、こういう企業のアドバイザーをしっかりと一緒になってやっているということが、非常に大きな強みかと思います。

 もうあとは見ていきましょう。こんなミッションでやって、今言ったようなものを、ターゲットの物質の何を解決しないといけないかということが言われています。

 特に、この1-12系は、今、薄膜でしかできていないんですけど、これをバルクにしないといけないねという、ここは非常にバリアが高いけど頑張ろうということになっています。

 磁石業界、御存じのように、技術革新は大変にスピードアップしています。ですけれども、そのスピードアップの基になるところ、これは磁石拠点での知見であるということをちょっと強調しておきたいと思います。特に宝野グループによるネオジム磁石の結晶粒界相の組成・磁性の精密解析法の確立ということが非常に重要であり貢献していると思います。研究拠点の貢献は絶大であると強調しておきたいと思います。

 これは2016年、御存じのように、脱ジスプロシウム、脱レアアース磁石、革命の年とも言える年になったと思います。ホンダ、大同特殊鋼が、こういう脱レアアース、脱ジスプロシウムの磁石を開発しました。それから、東芝は、これはサマリウムコバルト系の重金属を含まない、重希土類を含まない磁石を開発いたしました。

 さらに、今年になって、2月には、トヨタが、御存じのとおり、重希土類フリーでネオジム使用量を半減した車載モーター用磁石を開発しましたということになっています。この写真を見ると、すごいということが分かりますが、倍率が違ってですね。でも、すごい磁石を開発しています。

 これを小さくして、それから、更に二層構造にして、中心をランタン、セリウムで混ぜて、ネオジムの量を半減したという技術になっています。

 それから、「触媒・電池」の方ですけれども、こういうオールジャパンの体制でもってやっていますが、御存じのとおり、この二次電池用の消火性電解液を開発した東大の山田先生の成果は、非常に期待を持たれています。リチウム系にも適用可能であるということ。

 さらに、今年、今度は2月16日ですけれども、日立製作所が、「燃えにくいリチウムイオン二次電池」というようなものも開発しました。非常に競争の激しい分野になってきているので、是非、このプロジェクトの更なるサポートを国として行う必要があるのではないかと思っています。

 「電子材料」のところですね。ここも非常にしっかりとした体制、若々しい人たちを集めて、引っ張っておられます。もうたくさんデータが、物質が出てきますけれども、これはほんの最近の、今年になって発表されたものを3つだけ挙げてあります。大いに期待のできる拠点だと言えるかと思います。

 「構造材料」ですね。ここはいろいろな大きいプロジェクトと一体となって運用しているところですが、超微細化するということで、変形子の粒界核生成を制御するというようなことで、延性と靱性を両立しようということで、これが1つの実例ですね。チタンの場合、バルクナノチタンにおいて、こういう強さと粘りが実現できたということで、これをしっかりと理論的にも解明したいということに取り組んでいます。

 「元素戦略」というのは、こんなようなことで、我が国発で始まりましたけれども、最初、国際協調からだんだん国際競争の時代に入ってきつつあるのではないかということをちょっとだけコメントしておきたいと思います。2010年、日米欧三極会議ができて、このあたりは協調だと思いますね。2012年に米国DOEがInnovation Hub for Critical MaterialsをAmesに作りました。アメリカがこのCritical Materialsというキーワードを導入したことによって、世界中は今はCritical Materialsということで進んでいると思います。ですが、この米国版の「元素戦略」、トランプ政権の重点政策になってきました。競争時代に入ったかなということかと思います。

 これは協調のときの最初の三極会議ですね。ワシントン、中山さんも出席されました。そのときの朝6時のNHKのニュース番組の画面を写したものがこれなんですけど、私、テレビ画面を写真で撮る名人でして、こういうものを幾つも集めてあります。ということで、8回目になって、今年日本で開かれます。

 これが先ほどのAmesの拠点ですね。昨年末に、米国の大統領令で、各省庁に対して、希少元素対応方策をレポート作成をせよということになってきました。Critical Mineralsというふうに、ここはもう明らかに金属を狙っています。こんなような時代になってきます。我が国としてどうするかということですね。是非、しっかりと議論していただければと思っております。

 もう1点、最後に申し上げておきたいことがありますが、「元素戦略」はSDGsに直結しているということですね。これも御存じのように、これだけありますが、元素戦略は全部とまでは言いませんが、8割以上に関係しているということになります。

 ポイントとして、もう一つ強調したい点は、このキャッチフレーズは、誰一人取り残さないということなんですが、我が国の研究者を見ていますと、研究者だけが取り残されているというふうに危機感を持っています。是非、これは国としても、一体となって、こういうことをしっかりと進めていっていただく。「元素戦略」を例に挙げていただいてもよいと思いますけれども、是非、そのような取組をしていただければと思います。

 ということで、「元素戦略」、我が国の国家基盤戦略として、引き続き、しっかりと取り組むべき領域だということを強調させていただいて、ちょっと長くなったかもしれません、以上で発表を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【三島主査】  玉尾先生、どうもありがとうございました。

 私も、拠点型の元素戦略を作るときは、先生と一緒に委員会でずっとやっていたので、懐かしく伺いました。その後ずっと成果が出続けているというところは、やっぱりすごいなと思います。本当にありがとうございました。

【玉尾様】  いや、もう国のサポートのおかげでした。

 拠点型の方も、今年度予算は減額されていません。だから、非常に期待感の大きい、それも実感しつつ、しっかりと進めたいと思っています。どうもありがとうございます。

【三島主査】  本当にありがとうございます。

 それでは、委員の皆様、御質問や御意見がございましたら、どうぞ。

【高梨委員】  どうもありがとうございます。

 ナイーブな質問なんですが、最後、研究者だけが取り残されているというのを、もうちょっと具体的に、どういうことを意味されているのか、教えていただけますか。

【玉尾様】  ほとんど研究者レベルまで、このSDGsというキーワードすら行き届いていないということですね。そのような危機感を持って、今年、日本化学会で実は論説フォーラムというものをやりました。このSDGsを科学が主体になってやりましょうというようなこともやったんですが、そのときの一番重要なポイントは、研究者たちにこのコンセプトをしっかりと浸透させるということです。各大学で、特に我々が知っている化学系の教授に聞いても、ほとんどが知りません。聞いたこともないと。本当に多いんですよ。研究者になると、そうなりますね。恥ずかしいことなんですが、理化学研究所も、全体の今後の政策の基盤の中にキーワードとしては入っています。ですけれども、研究者レベルのところまでは、ほとんど何のことか分からない状況だと思います。東京大学も、もちろん全体で非常に大きな取組をしておられるとも思いますけれども、なかなか現場まで届いていない、そういうことですね。

 なので、僕の周りの若い研究者たちが特に遅れているのかもしれませんが、ほとんど行き届いていないですね。だから、PRをしっかりやる必要もあるし、これはJSTの皆さん方と一緒になって、これをしっかりやろうという。先ほどの日本化学会のシンポジウムも、JSTとのコラボでやりました。有本さんとか大竹さんにもおいでいただいて、しっかりとそういうことをやり、野依先生にもお話しいただくといったこともやっていく。だから、何かのプロジェクトなどをしっかりと組み上げないと、研究者にまでは浸透しないということだと思っています。現状はそうだと認識をしています。

 どうでしょう、東北大学はそのようなことはないのでしょうか。

【高梨委員】  いや、分かりません。研究所に戻って、どのぐらい知られていたか確認したいと思いますが。

【玉尾様】  是非、聞いてみてください。ほとんど知らないということなので。

【高梨委員】  そんなに知られていないのかというのは、ちょっとびっくりだったんですけど。

【玉尾様】  いや、そのぐらい知られていません。それはもう僕も大分確認はしました。

【高梨委員】  もちろん取り組むんだけれども、まず知らないとしょうがないですからね。

【玉尾様】  そうですね。もし知っても、そうすると研究者はどうしたらよいのかが、今のところ、何の施策もありませんのですね。だから、そのあたりのところをしっかりと僕はやる必要があろうかと思いますが。あれ、2030年ですから、もうあと10年ちょっとしかないので、どうしたらよいか。

 元素戦略など、こういうものも1つの大きな、先ほども言いましたように、ほとんどをカバーするようなものですから、一体となって、SDGsなども掲げつつやっていく政策にした方がよいかなとも思っています。というのが最後のポイントです。

【三島主査】  ありがとうございました。

 確かに、私も同感でございまして、研究者の方、自分の研究のことに閉じこもっているので、SDGsが何だって、本当に私もそう思いました。もうあれが国連で出てから、そろそろ3年経ちますけどね。

【玉尾様】  15年ですからね。

【三島主査】  だから、やはり科学技術と社会との関わりみたいなことをもっとみんなが意識をすべきであろうと思います。ありがとうございます。

 ほかに御意見ございますか。

【射場委員】  今のことに関連するんですけれど、先日の論説フォーラム、私も出席させてもらったんですけど、結構広い会場でした。300人ぐらいの広い会場で、すごい雨の寒い日でしたけど、ほとんど満席でした。だから、皆さん、関心はあるんですよね。取り残されている。関心はあるので、実際取り組まれている研究がSDGsにどう関連するかみたいな関連付けをすれば、ほとんどの研究は多分関連付けされていって、じゃ、その上で、やれていないところはどこかみたいな議論になっていくといいのかなと思いました。

【玉尾様】  そうですね。ありがとうございます。おっしゃるとおりです。

【三島主査】  ほか、よろしいでしょうか。それでは、中山さん。

【中山委員】  2点ございます。

 1つはこれまでの反省です。CRESTやさきがけの御紹介を頂きましたが、それは文科省が策定する戦略目標の下にできています。それを文科省が作りっぱなしで、評価して次につなげるという視点が余りなかったと思うのです。研究期間が終わると評価はされますが、それはJSTの中のローカルな評価で、それが文科省やナノ材委員会にフィードバックされて議論されることはほとんどなかったです。今回は、研究期間が終わる頃、成果が出たところでナノ材委員会において議論がなされたということで、非常に良かったと思います。今後も、施策が推進された結果がここに出てきて、それを基に次を考えるという流れが生まれてくることが非常に健全ではないかと思います。きょうは非常に良かったと思います。この後のプレゼンもその流れだと思います。

【三島主査】  きょうは、あとまた2つございますので。

【中山委員】  もう1点は国際的なところです。国際動向をウオッチしている中で、トランプ政権で行われた大統領令のことです。十数年前のNational Nanotechnology Initiative(NNI)というのは、OSTPというアメリカの科学技術村が作ったものだったですね。科学技術大統領補佐官がヘッドになって作ったもの。今回はトランプ大統領がより上位の視点で、科学技術も含めて外務とか防衛とかコマースとか、そういうところに全体に指示をしたというものです。日本で言えば、官邸主導の包括戦略のような感じです。文部科学省だけではなく経産省やそのほかの省庁も含めて、注視して、継続的にウオッチする必要があると思います。

 以上です。

【三島主査】  ありがとうございます。

【玉尾様】  どうも、中山さん、ありがとうございます。

 これ、トランプさんのサインですね。よくテレビで見ますね。間違いなくトランプさん。

【三島主査】  いつまでも使っていますよね。

 ほかに御意見ございますか。よろしいですか。

 それでは、何かございましたら、また後でも時間を取ろうと思います。

【玉尾様】  どうもありがとうございました。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして、加藤委員にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【加藤委員】  東大の加藤です。時間が15分以内ということですので、「分子技術」に関しまして、特に私が総括をやっておりました「さきがけ」に焦点をあてて、「分子技術」が、どのようなものについて御紹介させていただきます。

 まず基本的なところからですが、「分子技術」というのは、「環境・エネルギー材料や電子材料、健康・医療用材料に革新をもたらす分子の自在設計『分子技術』の構築」ということで、新しい材料の創製を目的とするための革新的・挑戦的及び独創的な技術です。皆さんの体とか、使っておられる電子機器・エレクトロニクス材料などの多くは、分子からできている、あるいは分子を使って作ります。このような分子を基盤とする材料創成である「分子技術」を推進するという戦略目標が2012年に始まりました。

 背景にありますのは、我が国の素材産業、特に機能化学品が非常に強いということですね。例えば、中国や台湾、韓国が今エレクトロニクス製品を盛んに作っていますが、日本の化学メーカーの素材なくしては成り立ちません。これは今でもそうです。それから、自動車・航空機などの重要な輸送機器についても、化学製品が非常に役に立ち使われています。さらに、化学製品の輸出量は、単独でも、輸送機器に次いで、我が国で2位でありまして、我が国を非常に強く支えているということになります。

 それから、今お話ししたように、多くの材料は分子でできていて、生命体も分子から成り立っているわけですけが、「分子技術」に関しましては、分子の応用展開に向けたサイエンス、テクノロジーが今はばらばらなので、それを物理でも化学でも生物でもない、「分子技術」という名前で統一しようとしているのが重要です。技術というのは目的を持ってやることを意味しています。すなわち、「分子技術」は、分子を自在に合成・配列を自在に制御して望む機能を発揮させることが究極の目標であります。すなわち、「分子技術」を通して、人類の持続的発展への貢献する、また、SDGsの話がありましたが、我が国の発展と国民の幸福に寄与するということが目標であります。

 特に重要なのは、先ほど中山委員のお話にもありましたとおり、やはり長期的な視野、それから、異分野の協業の促進、それに伴う産学連携、人材育成であると考えています。例えば、炭素繊維ですとか、海水淡水化膜などは今非常に注目を浴びている技術であり、航空機用の炭素繊維コンポジットは、我が国しか作れません。世界中の航空機を作るのに、我が国の炭素繊維がないとできない。それも「分子技術」の一つなのですが、それは50年以上の研究の歴史があるから、現在の優位性があるわけです。そういった意味で、継続的な長期的な視野が必要であると考えております。

 そのようなことで、JSTの方で「CREST」、「さきがけ」を立ち上げまして、名古屋大学名誉教授で、現中部大教授の山本尚先生と私がCREST、さきがけの研究総括を拝命して、分子技術という領域を推進してまいりました。

 この分子技術というのは、皆様の知恵を絞った、我が国の造語であります。ここに示しますのが最初にJSTの研究開発戦略センターから出た図で、いまだに良い図なので、これを基本として使っているのですが、この図の一番下には、物理や化学、それから、計算科学などの多様な基本的な重要な学問があるわけです。それを統合していき、横串でつないで、このようなグリーンプロセス、それから、フレキシブルディスプレイ、新素材、電池、医療、創薬などに向けて、目的に向かって必要な学問を統合して、分子の合成・集合化からやっていくという応用を指向した分子の科学技術であります。

 今、玉尾先生が、大学の先生はSDGsを知らないとおっしゃいましたが、私は忘れずに入れておりますので、忘れないで良かったなと思います。「分子技術」は、Society5.0、それから、持続可能な開発目標SDGsにも貢献。例えば、3、6、7、9、13を中心に、これは非常に分かりやすく、うまくまとめてあると思います。

 それを実現にするためには、各研究者が、自分の狭い専門にとどまることなく、一人が全部できませんが、一人がある程度はカバーしあいながら、皆で、分子の設計、合成、集合、配列化、機能発現制御、材料化、それから、デバイス化を進める。最終的には、新しい学問・産業化・社会への貢献を目指すという一連の流れを作っていることが大事です。そのためには、こういった作る側だけではなくて、計測や解析、それから、理論・シミュレーションの研究者とも密接に協力するということも視野に入れて行ってきました。

 分子技術というのは、化学でも物理という既存のカテゴリーに入っていないので、一体何人応募するか、すなわち応募する研究者が少ないのではないかという意見があったと聞いています。しかし、これは杞憂でした。ここに示しますのは「さきがけ」「分子技術」の応募データです。これはお手元の資料にはないのすが、我が国の「分子技術」関連分野の裾野の広さを示すために示すデータとしてお示しします。2012年度にさきがけで公募数10件に対して、359件の応募がありまして、35.9倍という倍率で、私は、この359の書類を全部読みました。ちょっと見るだけで十数時間掛かりますし、全部読もうと思うと、1か月ぐらい掛かるのですけど、そういったような、毎年すごく多い応募がありました。我が国のこういった分子関連の科学技術の裾野の広さ、強さ、そういったものを感じていただければと思います。

 それから、ここで採択された若手のメンバーを、分野を分けて2次元的に配置したものです。結果的に43名のメンバーとなりました。横軸で言いますと、右が理論・計測、それから、左は機能素子、縦軸で言いますと、上が合成的なデバイス、下がバイオです。このように、分子というキーワードで、いろんな分野の人に入ってもらったわけです。様々な分野の研究者を集めて一緒に研究することによって、相乗効果も狙いました。これは、CRESTの分子技術でも同じかと思います。。

 その中で、幾つかの研究を紹介させていただきます。

 例えば、「グリーンプロセス」・「新素材」のための分子技術ということでは、現京都大学の齊藤研究者が、新しく光で接着を制御する材料、光液晶接着という分野を開発しました。これは、例えば、いろな産業界の加工等で重要な技術です。ふだんはしっかり付いていて、そこで光を当てると構造が変わって、ぱっとはがれる、それがすぐに元に戻る。要するに、触らないで、力を加えないで、自在に接着と剥離ができるという技術です。そこに、世界で一番電子線回折が、時間分解に強い現岡山大の羽田研究者が加わって、このような分子の動きをピコ秒単位で見て、それで解析するというような協業もできております。

 それから、東工大の宍戸研究者の研究です。例えば、現在の液晶分子配列技術は、ラビングとか、力を加えたりして、表面との相互作用でやるのですが、彼は、この分子技術の間に、光を単純に、さっと流すだけで、反応しながら分子が勝手に配列するという新しい分子配列法を開発しまして、これも産業界から非常に大きな注目を浴びています。これは全く触らないで、分子が非常に広い面積で均一に配向するという技術です。

 それから、これは九大の楊井研究者ですが、今、エネルギー関係で重要な、アップコンバージョンの研究です。分子集合体の場におきまして、アクセプターおよびドナー分子を配列させることによって、エネルギーを集めて、強いエネルギーに変えて、そこでエネルギーを得ようということで成果が出ています。これもエネルギー、太陽電池のための分子技術の代表的な成果であります。

 また、これは理研の田中研究者ですが、今度は「医療と治療技術」の分子技術です。彼の研究では、まず腫瘍を感じる糖鎖でクラスターを作ります。そのクラスターに、反応する触媒を付けておいて、体の中へ入れますと、このクラスターは癌細胞を認識して、癌のところに集中的に行きます。その後に、化学合成に使うAとBという原料を静脈に注射します。AとBは体の中を回っているときは反応しませんが、クラスターに仕込んだ癌細胞の上の触媒と出会ったときに反応して薬になり、選択的に薬を癌細胞に集中することが出来ます。「体の中で反応させるって何を考えているんだ」というような反応はあったわけですが、こういった非常に優れた独創的な開発も分子技術の新しい成果であります。このように分子をいかにコントロールして、いかに必要な場で機能を出すかという分子技術の芽が出てきております。

 また、東大の酒井研究者は、ゲルの研究者なのですが、自分のゲルの特徴を使い、どのように応用するかということを考えて、例えば、目の病気の方の眼球の人工ガラス、代替品として使える材料を開発しています。今、ウサギでもう既に成功しています。なぜこれがうまくいったかというと、普通のゲルを眼球として入れても、浸透圧の関係でどんどん膨らんでいくんですね。これに対して、非常に薄い濃度でゲル化するような、浸透圧を非常に低い状態でゲルを目に入れるという分子技術で、こういった医療に役に立つという材料を作っております。

 このように、デバイスからバイオ、理論から構造構築、こういった縦軸、横軸の中で、いろいろな研究者がインタラクションすることによって、新しい分野を作ってきております。これは山本先生の分子技術でも一緒であります。

 それから、国際的な広がりも出ておりまして、数年前にオランド大統領が来日されたときに、日仏の分子技術というのが始まるということが決まりまして、現在、私とCRESTの山本先生が総括で、私も総括という立場で、フランスのファンディングエージェンシーのANRというところと一緒に分子技術の共同研究を立ち上げています。フランスと日本側の代表者が一緒に応募して、そこで採択されてやるということです。モレキュラーテクノロジーという言葉が非常に海外受けも良いです。フランスの研究者も、我々に言わずに勝手にモレキュラーテクノロジーのシンポジウムを開催したりしていますから、国際的な広がりも非常にあります。我が国発の概念、あるいは造語、それから、我が国は強いということで、「分子技術」は、非常に良い優れた分野だと思います。

 これはドイツのDFG、これも日本のJSTに相当しますけど、そこにさきがけの若手を連れていって、ベルリンで、フンボルトのフェクト教授、ウルム大学のバイエル教授にお願いして、向こうの若手と交流して、分子技術の交流のためのシンポジウムを開催してきました。

 このように、分子技術とは、さまざまな分子を自在に設計して、望む機能を自由に発現させるということなのですが、今お話ししたように、具体的ないろいろな方面での成果が出ています。今後の成果目標としては、例えば、CRESTの山本尚先生がまとめられた「分子技術の夢」というのがJSTのホームページに出ておりますけど、例えば、いろな気体が共存する中で特定の気体のみを選択的に補足・分離する材料や原理ですとか、それから、例えば、自己修復型の機能デバイス、もちろん、高効率の太陽電池、それから、理論と合成の融合、新しい材料をどんどん理論的に予測して構造を作っていくとか、それから、低濃度海水から海洋資源を濃縮するとか、膜から水の汚染を選択的に分離する、あるいは、健康・医療ですと、先ほどの治療ですとか、バイオ系のセンサー、それから、再生を助ける分子、そういったものが分子技術の夢として語られておりまして、まだまだ今後分子技術でやることはたくさんあると。

 そのためには、先ほどここでデバイス化までお話ししましたけど、今後は、部品・部材、それから、最終製品に使用して、最後の処理をどうするかといった再資源化の方までウイングを広げてやっていきたいと考えております。このようなことで、分子技術というものが、今後も我が国にとってますます重要な分野であると思いますし、長期的な視野で取り組んでいくようにしていただければと考えております。

 以上です。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、委員の皆様、御質問なり御意見なりをお願いいたします。

 どうぞ、馬場先生。

【馬場委員】  分子技術は大変すばらしい成果が上がっていると思いました。

 先生も途中でおっしゃったように、実際に分子を合成したり扱っている人と、あと理論とか物理の人も一緒におられたということですが、その辺の理論とか計算科学との共同で何か成果が出たという例もございますでしょうか。

【加藤委員】  今ここには直接的な図はもっていないのですが、例えば、フレキシブルディスプレイの研究の、この部分に使う有機半導体があります。そういった材料を、例えば、理論の研究者が扱おうとするわけです。しかし、世界で様々な分子が報告されているのですけが、彼は理論に使いやすい分子である、ペンタセンという分子しか研究していませんでした。しかし、例えば、さきがけの分子技術のメンバーになることにより、より複雑ないろいろな分子があることを知って、例えば、様々な分子の化学構造からその分子からなる材料の伝導性を理論的に示そうとしています。これは口で言うのは簡単ですし、皆さん重要だと言うのですが、全くできていませんでした。それを合成の研究者とうまく共同研究をやって、かなり良い理論の研究になって、合成の研究者が一緒に物理系のジャーナルに論文を出すとか、そういった成果も上がっています。このような共同研究は、研究者が使う言葉が全然違うので、理解し合うのにやはり時間が掛かります。このような領域を作っていただいて、一緒に様々な分野の研究者を放り込んだことが非常に良かったと思います。これはCRESTでも一緒だと思います。このような成果も上がっております。

【三島主査】  栗原先生、どうぞ。

【栗原委員】  通常であるとなかなか考えないようなことが、いろいろ実現している。特に、生体内の合成などというのは、非常にシンプルな場合は、プローブなどでもあるとは思うのですが、普通ではなかなかできるという――確信がもてないと思いますが、そのあたりは、どういうふうな仕組み、ドライビングフォースでこういうことが実現していったということについて、何かお考えはあるでしょうか。

【加藤委員】  田中先生の場合は、彼が言っていましたけど、研究の当初、さきがけに採択される前には、やはり理解してもらえなくて、なかなか論文も通らなかったと言っていました。私はちょっとおもしろいと思って、採択したのですけど。彼は糖の合成の専門家だったのですね。糖って、生体分子で最も開拓の遅れた分野と言われています。、彼の合成したある種の糖が癌細胞を認識するというところから始まったのですね。新しい分子技術の医療分野に自分の合成技術をどうやって入れるかと考えながらたどりついた結果とのことです。

 そのときに、かなり荒唐無稽なのですけど、触媒を付けて体の中に入れて、触媒が、先ほども言いましたように、癌の上で待っていると。それで、害のないAとBを体の中に入れて、触媒の上で薬に合成されると。実際に、これが今マウスですとか、ウサギですとか、それで成功していまして、そうやって自分の分子技術をいろいろ組み合わせていって、周りの合成の人とかと協議したりすることでできていったという形になってきていると思います。

【栗原委員】  そうすると、環境と、それから、チャレンジしてみると、いろいろなテーマがあるということですね。

【加藤委員】  そうですね。おっしゃるとおりで、糖のサイエンス、合成のサイエンス、それから、体のバイオのサイエンスがうまく融合した、非常にいい例だと思っています。ありがとうございます。

【三島主査】  ほかにございますでしょうか。射場さん、どうぞ。

【射場委員】  マップがあって、いっぱい線が引いてあったのがあったんですけど、あれはテーマ間で連携をしているという意味ですよね。この連携というのは、統括が、そうやって連携しろとマネジメントしているのか、あるいは、研究者同士が自主的に連携していっているのかというのは、どんな形なんですか。

【加藤委員】  両方だと思います。この線は、ただやっていますではなくて、特許とか共著になったところを線でつないであるんですけど、どのようにやったかと言いますと、メンバーが43名、領域会議に集まります。個室で泊まるようなホテルには行かないで、5人ぐらいで同じ部屋で寝るようなホテルに行って、分野が違う人が一緒に寝るようにします。そこで話しをしてもらうような自然に交流する体制を作ったり、いろいろとディスカッションできる時間を多く作るような工夫をしました。

【射場委員】  なるほど。そういう場を設けて、中身の議論は本人たちにさせると。

【加藤委員】  はい。特にJSTの領域会議ですと、義務がありますので、逃げられませんから。そういう場に置かれると、自然に話し合って、2年ぐらいすると、いろな共同研究が、もう普通には考えられないような共同研究が生まれてきました。

【射場委員】  やっぱり事例にあったように、合成の研究と解析の研究みたいな組合せが多いんですかね。

【加藤委員】  そうですね。最初やっぱりアプローチしやすいのが、合成と理論、計測ですね。それから、合成と構造化。あとは、合成とバイオがこれから伸びていくというふうに思います。

【射場委員】  なるほど。そういうところで新しい発見があったり、好テーマが出たりするのもいいですよね。

【加藤委員】  そうですね。合成と計測とバイオとか、より複数の分野も組み合わさっていく芽も出ておりますので、そういったのが非常に。

 日本の強いところは、こういったいろいろな分野に優れた研究者がいまして、そのような人たちが、こんな狭い国なのに、まだ十分に出会っていないなというのが、私の感想です。学会がいろいろと分かれていますから。

【射場委員】  そうです。さきがけって個人研究のイメージなんだけど、こうやってチーム化していくのはすごく新しいやり方で、おもしろいと思います。

【加藤委員】  分子技術という統一した名の下に、すごく意識してやらせていただきました。

【射場委員】  ありがとうございます。

【加藤委員】  ありがとうございます。

【三島主査】  それでは、まだあるかと思いますけれども、後程まとめのところで再度御質問をお受けいたしたいと思いますので、加藤先生、どうもありがとうございました。

【加藤委員】  どうもありがとうございました。

【三島主査】  それでは、続いて、瀬戸山委員からお願いいたします。

【瀬戸山委員】  三菱ケミカルの瀬戸山です。JSTの超空間制御のCRESTを私が研究統括、さきがけの方は早稲田の黒田先生が統括です。

 私、いつも表紙を作るのを忘れるんで、今回しまったなと思うんですけど、いきなり直裁な話をしますけれども、この領域、超空間制御って何かと言いますと、これ、立ち上がるときが、ちょうど日本のナノテクブームが一旦終わって、ブームが終わって、ナノテクって役に立つんかいというような、これが産業界からすごく聞こえたときなんですね。なので、ナノテクというのは、サイエンスのところから含めて、研究を継続していかなければいけないんだけれども、何かいいネーミングがないかねというんで、知恵を絞って作ったのが、この超空間制御という名前です。

 なので、基本的に私らのミッションは、ナノテク材料、ナノテクのシステムをどうやって上手に作っていくかということを中心にしてやってきました。そのときに、私、産業界の人間なので、じゃ、それはどういうところに役に立つのというふうに見たときに、ここに下にありますけれども、エネルギー変換とか、こういうふうな領域ですね。貯蔵とか、合成とか、こういう領域、こういうところで結構使えるんじゃないのということ、具体的な、社会に出たときに、こんなふうな有り様があるよということを見せて、その中で皆さんどんなことを考えますかというような形で提案して、やらせていただきました。こういうふうなことです。

 先に、CREST“超空間制御”の研究ポートフォリオと出ましたけれども、大きく分けて、エネルギー変換、分離・貯蔵、物質変換、ライフサイエンス、新材料・新合成法、こんな分け方をしました。きょう、この後トピックスで紹介するのは、この黄色いところなので、それ以外のところをまずこの1枚で紹介します。

 1つは、これはまさに、日本は昔液晶がすごく強かったですね。ディスプレイ材料は。ところが、当時、もう沈没寸前だったということがあって、じゃ、日本の液晶産業をもう一回立ち直させるにはどんなことをやったらいいか。ですから、そういう意味で、新しい概念でそういう液晶材料を作るというようなことを研究してもらうということで、これはかなり支援的な意味があります。

 2つ目のこれは、これは3期生ですけれども、東北大の水口先生、ここは異常ネルンスト効果を使って熱電変換をやるというふうな話で、東北大は、その後、現在スピントロニクスのメッカになっていますね。なので、これは、そういう意味では、良かったかなと思っています。

 一杉先生のこれは、薄膜の結晶性材料をいろいろ作って、電子記憶とかやっているんですけれども、ここで出たのは、1秒充電でできるような全固体電池。1秒です。3600Cです。そういうふうな電池とか、あるいは、三元系の記録材料とか、そんなふうなことをやっていただいています。

 櫻井先生のこれは結構おもしろくて、プラトニックミセルというんですけれども、これは20世紀の教科書のミセルの概念というのがあるんですけれども、その概念ができたのが1913年なんですね。これは、ある特定の条件では、ミセルというのは単分散します。要するに、分散度、dispersityが1ですね。そういうふうな材料。そのときに作るのは、多面体、4面体、6面体、8面体、12面体、20面体、それしかとらないという、そんな概念なんです。そういうふうなことを、これはおもしろくて採りました。

 あとは、植村先生、京大から東大へ移られましたけれども、模倣を利用して、空間の中で新しい材料を作るということをやっていただいています。

 野崎先生のは、プラスチックを鉄並みに、ピアノ線ぐらいに強くしましょうというような研究ですね。

 あとは、高田先生のは、普通のポリマーを高機能ポリマーに変えるというような、新しい概念のことをやっています。

 これ以外の先生の、この黄色い部分について、次に紹介します。

 1つ目は、これは信州大の手嶋先生、ちょっと若い先生なんですけれども、フラックスの専門家です。それで、どんなことをやったかというと、基本的に言いますと、東京-大阪を無充電走行できるようなEV用の全固体電池を発明するぞと、こんなことを掲げられました。ですから、これ、今の電池の能力の7倍の性能をある空間内に詰め込むという、こんなふうな概念です。先生はフラックスの専門家なので、これで超薄膜、配向性の酸化物を作るというのが基本的な考え方です。

 次のページへ行くと、皆さんの資料にありましたかね。これ、その場限りとしたんですけれども、どんなふうなことができたかと言いますと、大体、性能に関して言うと、今現在で、目標を超えたものもあります。実際、全固体電池として動くようになってきています。先生は、正極材、負極材、固体電解質、3つやって、電池を組むところまでやってきています。ここに共同研究とか、いろいろ書いてありますけれども、この1枚は少し省略したバージョンで、本当を言いますと、これ、若手なのに本当に精力的な方で、これ全部成果なんですよ。この中で、例えば、今の正極材、これは相当高性能な正極材ができたんですけれども、今のLIBの液系の電池にも正極材として応用が可能とか、あるいは、こっちの方では、負極としてこんなものを作っているとか、あと、国からお金を集めるとか、とにかく人を巻き込んで研究をやるという意味ではすごく優れた人で、こういう人はいいなと私は思うんですけれども、こんなふうな人を見つけることができました。

 2つ目は、これは代表研究者は京大の蔭山先生なんですけれども、その中で、もう片方、これは二頭体制でやっていて、もう一人、阿部先生という、京大の若くてすごく元気な先生がいらしたんですけれども、有機ペロブスカイトの太陽電池はもう手あかが付き過ぎたねというのが私の印象で、その中でやったときに、この人たちがやっているのは、Scaife plotのDilemmaを打ち破る新奇光半導体、要するに、バンドギャップと電位差というのは、ある直線上にしか乗らないというのが普通なんですけれども、それから外れたような材料群を見つけることができた。その原理というのは、ここにちょっと書いてありますけれども、クロルが間に入って、酸素の電子レベルが広がっているんですね。それによって、ここが狭くなって、使えますよというようなことを見つけてくれました。この概念で新しい材料を作る上で、いろんな応用が効くんで、この種類でまだこれから材料が増えてくる。

 何でこういう現象が起こるかというのをいろいろやっていたときに、これ、Madelung解析と書いてありますけれども、この原理を見つけたのは、阿部研のB4の学生だったんです。B4というのは、要するに、4年生だったんですね。4年生がやっぱりこういうことを発見するんですね。若い人はすごいなと、これで思いました。

 2つ目は、代表研究者は早稲田の関根先生なんですけれども、この中であった、これは横国大の窪田先生が見つけられたんですけれども、8R環と12R環と12R環の3次元のAl-silicate、これは世界で初めてこんなものが作れました。これまでの材料だと、この程度しかないんですね。3次元多孔体で、こういうもの。これは、10と12の組合せとか――これ、最後8です、すみません――あるんですけれども、これはどういう意義があるかと言いますと、これは8R環というのは、多くの基幹分子の窒素とかメタンとか、そこら辺を通すか通さないかという、ぎりぎりのところの大きさになります。12R環というのは、それが拡散するパスになってくるんで、分子フリツが理想的なんですね。そんなふうなものを作れたということと、それが耐熱性がすごくあるAl-silicateを作れたということ。もう一つは、こんな安い、これ、構造規定剤というんですけど、こういうもので作れたということ。これ、全部舶来物です。これを初めて日本人が作ったということですね。ですから、これ、産業的なインパクトは、これからずっと出てくるのではないのかなと期待しています。

 3つ目は、これは加藤先生のやつで、先ほどちょっと先生の方から紹介ありましたけれども、このチームの特徴は、東レさんとしっかり組んでやっているということです。ここで水の浄化として、こういうアニオンを分離するとか、ウイルス分離、この中で言うと、ノロウイルス等は35ナノ、インフルエンザのウイルスは120ナノ、そして、25ナノのこのサイズのQβ、こういうものをほぼ100%除去。こうやって、ウイルスというのは、ちょっとでも抜けちゃうと増殖してしまうので、100%抜かなければいけないんですけど、そんなことができたとか、あるいは、リチウムイオンの濃縮。先生はすぐに、これ、海水の濃縮とおっしゃるんですけど、私は、そんな必要はなくて、ボリビアの湖、塩湖の塩水を濃縮するのに十分だと思うんです。こんなふうなことができる。なので、こういうふうな分離技術、特に、これまでは分子の分離ってあったんですけど、イオンの分離という意味では、これは新しい概念に近くて、こんなふうなこともできてきています。

 最後のこれは無機の膜ですけれども、1つは、代表研究者の松方さんが自分でやられているオレフィン/パラフィンの分離で、これ、プロピレンとプロパンを分けるというやつなんですけれども、こういうときには、プロパンの分離というのは、蒸留段数200段以上要ります。とんでもなくエネルギーを使うプロセスなんですけれども、これを一応こういう膜でちゃんと分けることができそうだということをやって、NEDOの方のエネ環先導というプロジェクトで、これの経済性をはじいて、これ、いけそうだなということが分かりました。

 あとは、支持体として、分離膜のボトルネックである単位体積当たりの透過量を上げるということで、こういうものを3Dプリンタで作るような、これは工学的な研究ですけれども、こんなふうなものとか、あるいは、量子分子篩、これは分子サイズが全く同じ同位体を分離するという概念です。これはどういう意味があるかと言いますと、同位体の分離もいいんですけれども、作動原理は、低い温度をやっていくと、軽いものの方が激しく動いて、重たいものは動きが悪い。ですから、小さい軽い分子ほど大きく認識されます。そういう原理を使って、これは分離します。ですから、ここら辺は実際分子量がかなり違います。違っていて、サイズが一緒ぐらいですから、こういうものが、こういう分子篩として分けることができる可能性を示しています。そんなことが一応できるということが確認できました。

 ここまでが紹介なんですけれども、この研究、私のところのCRESTを見ていきますと、特に、この書いている赤字の分、これは民間企業の人が実際研究者としてフルに働いているという領域です。私はNEDOの方もやっているんで、どれだけ人があって、金が掛かっているのか、ちょっとはじいてみました。CRESTというのは、研究員1人当たりで年250万です。NEDOの場合には、フルの委託で、その5倍です。これぐらいお金が掛かっています。掛かっているんだけれども、実際どれだけ特許が出るかとか、次のページで紹介しますけど、見ると、これだけでこれだけの効果が出るんだったら、まあこれはいいプログラムではないのかなと私自身は思っています。

 実際は、論文の数はこんな感じで、これは4年目、3年目、2年目ですから、差はあるんですけれども、2年目の採択の人たちは、若い先生が多かったせいで、やっぱり数が多いですね。3年目は、かなりチャレンジングなテーマだけだったので、特許は少ないですけど、多分これもこれから解消されていくのかなと思います。もう一つは、この特許は、企業と組んでやってもらっているところは、特許は出しやすくなってきているんで、やっぱりそういうことも意識してやった方がいいのかなと思っています。

 これは私がどんなふうに思っているかということをちょっと絵にしたんですけれども、CRESTの研究を開始したときに、先生の立ち位置はどこですか。それを、テクノロジーあるいはイノベーションという軸で見るのか、サイエンスあるいは最先端技術として見るのかというので、ポジションを決めてくださいと。5年間でどんなふうに先生の研究は発展しましたかというのを書いてください。テクノロジーに行くのもいいし、サイエンスの方に行く、どっちでも構いません、そこはもう自由にやってください。先生自身の判断として、それは社会的インパクトはどれぐらいですかというのが、この楕円の大きさです。その中のごく一部で実用化できそうなものというのは何年ぐらいですかというので、作ってもらいました。そういう意味で、加藤先生のは結構書いてありますけれども、私はもうちょっと時間は掛かると思っていますけれども、これはこれから産業界の人間と議論しながら、こういうことを進めていくのも1つのやり方ではないのかなと思っています。

 こっちはさきがけの黒田先生のやつで、これだけ、全部で38課題ありますので、先生に選んでくださいと言ったときの、この4つを軽く紹介します。

 1つ目は、これは炭素材料で規則性多孔体が作れたという話です。カテコールあるいはキノンを出発物質として、それをこういうふうに組み合わせていくと、こういう六角形とか五角形の形でずっと組んでいって、2次元シート、3次元ベシクルという形で、炭素材料でそういう規則性の多孔体というのは初めての絵だと思うんですが、こんなふうなものが作れたというのが、この例です。

 2つ目が、これは西原先生の仕事ですけれども、鋳型としてゼオライトを用いて、その中に炭素源を流し込んで、蒸し焼きにして、後でゼオライトを酸で飛ばしてしまうと、スポンジみたいなカーボンができますという話です。これを利用して、自動車会社と今共同開発をするとか、いろんな応用ができる、1つの新しい考え方の材料だと思います。

 3つ目が、これは名古屋大学の松田先生の仕事ですけれども、MOFを反応場として、合成の場として使って、普通はフラスコの中で絶対作れないようなものを作ってみたという例です。ですから、これ、中で擬高圧相とか、強電場効果とか、束縛効果、こんなふうなものを利用して、全くこれまで作れなかったようなものとか、作れなかった現象が発現できるということを、こういうふうなことでしようと。黒田先生の場合、私と違って、すごくサイエンティフィックなところに重きを置かれるので、そういうふうなことを4つ取り上げていただいています。

 ただし、1個だけ違っていて、がん転移メカニズム解明に向けた人工超空間の創製ということで、これは少量のおしっこを、あるこういうふうな、RNAを分析するようなことをナノデバイスとして作ったという、そういう例で、この1個だけ、すごく応用に近いようなことをやっている研究です。ですから、これは原理が書いてありますけれども、こういうふうに、ナノの領域で、あるいはキャプチャーして、その中で解析するような仕組みです。こんなふうなことをやっている。

 ここもJSTのCRESTの紹介なんですけれども、元素戦略ということがあったので、細野先生の仕事をちょっと紹介させていただきます。東工大の細野先生のこのプログラムは、元素戦略の電子材料からスタートして、ACCELに来て、今、これをACCELから発展した「つばめ」というプロジェクト、ベンチャー事業に今発展してきていますけれども、そんなふうなことで。これ、アンモニア合成の、先生のところの触媒の変遷で見ると、最初にC12A7という、いわゆるセメントから始まって、それを活性化して、さらに、こういう窒化物系、こういうふうな材料を使って、最近出ているのは、ルテニウム、カルシウム、ナイトライド、我々はアミノ触媒と呼んでいますが、こんなものをやっている。

 この仕事は、先生から私の方に依頼が来て、一緒にやらんかということで始めたんですけれども、この触媒活性がどれぐらいかということを工業的に高温高圧条件で見るということで、5メガパスカルで評価したのがこれで、これ、普通は、固体触媒なので、Turnover Frequencyは使わないんですけれども、鉄当たり、あるいは、ルテニウム当たりで見ると、これぐらい活性が高い。見方としては、340度ぐらいでも十分な活性が出るような触媒が作れたと、ここがすごくポイントになります。

 これを私の方で先生に提案したのは、じゃ、先生、これ、アンモニアだけ抜ける種を見たらどうですかと。窒素とアンモニアって、アンモニアが小さいですよね。だから、アンモニアだけ抜けるような膜があれば、これって反応分離できますよねということで始めました。先生から聞いた事前の情報で、これ反応、熱い依存性があって、窒素には正、アンモニアにはマイナス、水素にはほとんどゼロなんで、分離膜向きですよねということで始めました。

 実際やってみたら、おもしろいことに、これって、実際は、今の分子篩じゃなくて、吸着で分かるんですね。最終的にはどこまで性能が上がったかというと、これ、今の時点ですけれども、アンモニアと水素の分離選択性、これ、1300度です。アンモニアと水素は、200を超えます。要するに、大きさが一緒ぐらいの水素とアンモニアでも、アンモニアしか抜けないんですよ。こんなふうな膜の開発ができていて、これ、どれぐらいかというと、250度からですから、反応条件に近いところでもこれだけの分離係数が出るという、そんなことができます。

 これ、どうなるかと言いますと、次のページ、動画をお見せしますけれども、これ、1メガパスカルって、まだラボでやったやつですけれども、触媒のみと、分離膜を入れたやつ、左側が触媒のみ、こっち側が、ここに分離膜が入っています。こんなふうなやつでやりますと、この中に今2つ並べていますけれども、液が入っていて、これ、フェノールフタレインが入っていますから、アンモニアの濃度がだんだん高くなってくると、これは赤く変色します。スタートします。ぶくぶく出ています。これはアンモニアが今出ているわけですね。だんだん色が違ってきていますよね。こっちの方がだんだん濃くなってくる。ということで、これは、この条件での平衡を超えています。ですから、これ、反応分離という概念が、こういう分離膜を使うことによって実証できたという例になります。

 これはどれだけのインパクトがあるかということなんですけれども、ハーバーボッシュというのは、実は、1913年に今のBSFで公表されています。今、どれだけになっているかというと、全世界の生産量、1年間当たり、大体1.5億トンぐらいになっています。20世紀最大の発明と言われたのは、これで肥料が作れたので、食料が増産できたということで、20世紀最大の発明と言われていますけれども、まだ年間600万トンぐらい、人口は増えていますから、増えています。昔の技術というのはここだったんですね。15メガピクセルで430度でやりますので、平衡があるんで、収率20%しかない。だから、80%はリサイクルするわけです。それを触媒だけ持ってくると、ここまでいきます。340度で30%ぐらいまでいきます。さらに、分離膜を持ってくると、ここまでいっちゃうんです。ですから、100年ぶりぐらいのインパクトがある技術だと私は思っていて、これを、この後、つばめさんを含めて、大きなプロジェクトに仕上げていくというようなことが必要ではないのかなと思っています。

 まだやっているプロジェクトが現在進行形ですので、私、まとめることはしませんけれども、トピックスとして、以上紹介させていただきました。終わりです。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、ただいまの瀬戸山委員の御発表、それから、その前の加藤委員、玉尾先生のものも含めまして、御質問や御意見がございましたら、何なりとお願いいたします。

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】  ありがとうございます。とてもすばらしい成果だと思います。

 私がナノテク材料分野の研究推進方策の作業部会をやっているなかでの関連団体の皆様からの御意見で、空間材料に更に時間軸を足したような概念での研究が、世界的に出だしたようなのがありました。将来のことを考える上で、どのようにお考えになられるかというのをお教えください。

【瀬戸山委員】  これ、採択したときに、応募が194件あったうちに、やっぱりそれに近いようなことをおっしゃっている方も何件かありました。なので、そういう概念というのは、たしかそうだなというふうにその当時は思ったんですけれども、それはかなりスペシフィックな課題だったので、そのまま取り上げなかったんですけれども、多くの場合で、そういうナノ材料を作るような場合とかであれば、これって、準安定相を作るというような話が結構多いんですね。その過程をどういうふうに理解するかということに関して言うと、やっぱりそういう概念はすごく必要ですし、あるいは、時間的な変化によって構造が変わっていくものを利用するという、加藤先生の話の中でも、合成の話がありましたけど、ああいうのがそれに近い概念だと思うんですね。そういうことを含めて、いろんな切り口で見れば、そういう概念というのは、更にナノ材料を発展させるという意味では有効ではないのかなと思います。

【中山委員】  ありがとうございます。

【三島主査】  ほかにいかがでしょうか。

【瀬戸山委員】  自分で言うとあれですけれども、やっぱり民間が入って、いろいろがしゃがしゃものを言われながら、先生にいろいろやっていただくと、ちょっと違った見方もできるのかなというのは思いましたね。

【三島主査】  いろんな異分野の融合みたいなことを、やり方として、さっき加藤先生が、もうみんなでシングルルームじゃなくて大部屋で話すとか、そういう話ですね。それから、玉尾先生のところでも異分野融合のお話が出てきて、それがうまくいくと、やっぱりいろんな新しいものが、思っていなかったようなものまで出てきて、しかも、これだけ長い時間続いていくということで、このやり方というのは、やっぱりこれからの、特に我々の分野のところでは非常に有効なんだろうなと思いますけれども、やっぱり若い人じゃないとだめですかね。

【瀬戸山委員】  若い人の方がいいと思いますね。これ、何回か、アドバイザーの先生から、これって、1つのチームなんだけど、別々なところでやっているじゃないか。なので、偽装結婚でもいいから結婚させろと言われたんですね。そのときに、年寄りと、片方がすごく若い人だったんですよ。若い人が中心になって、いろいろ材料を提供して、年寄りの先生方がそれをやってみたら、こんなことが起こるのかということが生まれてきますから、必ずしも若ければいいというだけでもないんですけれども、だけど、元気があります、どんどんやりますから、先ほどの特許、論文の数にしてみても、やっぱり若い方がどんどん出ますよね。そこはやっぱり考えた方がいいのかなと思います。

【三島主査】  そうですね。

【加藤委員】  よろしいですか。先ほど委員長から御質問ありました、どういうふうにいろな分野をまたいでやるか。先ほど瀬戸山委員からもありましたように、さきほどのさきがけとか、それから、山本先生のCRESTの分子技術、両方、企業のアドバイザーの人がすごく多いのですね。

 私が感動するのは、企業の方も、要するに、自分の会社のことだけではなくて、社会のことをすごく考えてくださって、さきがけのときでも、すごく教育的な意見をたくさんおっしゃってくださって、例えば、こんなの全く役に立たないとか、意味が無いとか研究者に言って、研究者が相当へこむのですけど、もうずっと領域会議に付き合っていただいて、すごくいい見方を頂けます。やはり、今、瀬戸山委員がおっしゃったように、実際仕掛けとしても、そういう企業の方やさまざまな方を一緒にするという、その仕掛けを工夫すると、本当に新しいものが出てくると思います。

【三島主査】  玉尾先生、どうぞ。

【玉尾様】  その異分野交流のCRESTで導入したのを1つ話します。

 私たちは、泊まり込みで領域会議をやりまして、地酒パーティーというのをやります。それは、全国に研究者が散らばっていますので、おいしいお酒を持ってきてくださいと言って、みんなで持ち寄って、一晩、一晩までは飲み明かさないかもしれませんが、一緒になって、さっきの加藤さんのように、何人かで泊まり込む。一部屋で閉じ込めるというのではなくて、全員でディスカッションをする。それで、テーブルで同じグループで飲むんじゃないよ。全部混在しなさいということをやる。

 共同研究が始まった場合に、裁量経費でサポートしていきました。だから、非常に多くの共同研究というのが生まれて、新しい方向性が出ていったと思っています。是非、皆さん、試してみられたらと思います。地酒パーティーと言わないで、地酒研究会と言っておるんですけれども。

【三島主査】  橋本委員、お願いします。

【橋本委員】  今のお話にあったように、いろんな分野の人が集まって、共同研究をしてということは大変すばらしいことで、是非玉尾先生がおっしゃったことも含めてやるべきだと思います。

 ただ一方で、ネガティブとは言わないけれども、そういう視点で物事を見たときに、今日のお話3つだけではなく、私もさきがけやCRESTのPD等の経験がありますが、自分の経験も考慮して全く共通して思うのは、やはりばらばら感がすごいということです。テーマがばらばら。しかし、おもしろい研究成果がいろいろ出てくる。それらを組み合わせたり、共同研究で発展させる。それは大変すばらしいのですが、研究のステージを考える必要があります。、多くの場合、そういった際には素人が素人を褒めているというケースがとても多いと思います。

 いろいろな芽を出すためにイニシャルはそれでいいと思います。しかし、その次の段階では今のような状態でやれるわけではなくて、やはり今度はしっかりとしたピアレビューの下に、またそれは産業界でも産業界の方が全部分かるわけではないので、その分野の専門家の意見も入れながらやっていくという、そういうステージごとの取組を考えないといけないと思います。

 今のような議論だと、我々の中では「すばらしいですね」で終わりますが、文科省、例えば齊藤参事官が予算要求のために財務省と議論すると多分全く理解されず、予算が全然付きません。研究者はおかしいと言うかもしれませんが、それはやはりステージごとに、ここのステージでは、このようないろんな芽出しをすることが重要ですと言い、次にこういったことをたくさんやっていますと言う。しかし、そこから次のステージへ行くときには、また違った仕組みの中でそれを本当に発展させることが必要です、といった事を言わないと、予算が付かないだけではなく、実際に技術としても、次のステージに進まないことがほとんどです。過去、自分自身のことも含めてもそうですけど、いろんな成果が出たとしても、結局専門家の興味を引く論文を書いて、そこで終わることがほとんどになってしまいます。

 だから、そこで出たものを発展させるステージというものは、違った仕組みが必要なんだということを明確に認識する必要があります。今日の話も、やはり最初の出だしは大変すばらしいと思います。ただそれはそういうものだという認識をして、次に展開するのはまた別の仕組みが必要なんだと考えて、全体的な政策提言をしていかないといけないと思います。

 特に、ナノ技術というのは各論です。なので、特にこの傾向が強いため、しっかりしておかないとなかなか理解してもらえないと思われますし、実際にものにつながっていきません。今お話しいただいている瀬戸山さんのいらっしゃる三菱化学の小林会長が今とてもそれを厳しく言っておられていて、多くの投資をしてきたけれども、無駄ばかりだったと言われていると思います。。それは国もそうなのではないかということです。

 確かに我々から言うと、研究で何でも当たりが出るはずがないということは理解しているのですが、だからと言ってどんどんやればいいという論理でもありません。よって、私は、そういう意味での時間軸、研究開発投資に対する時間軸を考えた、そういう設計をナノ材料についてもしっかり政策提言としてはする必要があると思っています。

【三島主査】  ありがとうございます。

 ある意味、バックキャスト型みたいなものに進展するとかいうようなことにもつながるんでしょうか。

【橋本委員】  2つあって、1つはボトムアップ型で、おもしろいものが出てきたのをどうやって展開させるのかという話と、もう1つは、ある出口があって、それに対してバックキャストをどうするのか、どういうテクノロジーが必要なのかという話との2つのアプローチがあります。当然両方用意していて、今日のお話は明らかにボトムアップ型です。そこで出てきたものをどのように展開させるのかという中においては、理想型に向かって発展させるということもありますし、あるいはいろんなところに出ていって、バックキャストで、この技術はこういうふうに使えるのではないかという提案をもらい、そこで次のものにしていくということも大変有効なことかなと思います。

【三島主査】  ありがとうございます。玉尾先生。

【玉尾様】  その点は非常に重要だと思う。きょうは発展しなかったんですけれども、私どもの元素戦略、CRESTの場合、12テーマのうち、3件がACCELの方に言っています。だから、僕はJSTの取組がしっかりとしていたと思っていますけれども、やはり今、橋本先生言われたように、ボトムアップで上がってきたものをしっかりと見ていって、それをチェックしながら、ヒアリングもしながら、次につなげていくというような仕組みは非常にうまく、少なくとも、私のやったこのCRESTでは、非常に効果的に働いたかというふうには思っていますので、やはりそのようなことをしっかりと全部取り込む必要があるのかなと。その辺を橋本先生は御指摘されたのかなとは思っていますが、それで合っていますか。橋本先生の御指摘とちょっとずれているかもしれませんが。

【橋本委員】  元素戦略では、ある意味で比較的最初から組み込まれてきました。文科省と経産省のプロジェクトが一緒にやると言っても、なかなかうまくいかないことが多いのですが。

【玉尾様】  いや、初めてのケースですね。

【橋本委員】  この元素戦略については、そこに最初から力が入っていました。またすり合わせをしながらというわけでもないのですが、受け取り先を比較しやすいようになっていました。

【玉尾様】  そこは、最初の審査のときに、これは経産の方がいいだろうと、これは文科省の方がいいだろうというようなことまで最初はやりましたね。うまくいったというふうには思います。

【三島主査】  ほかに御意見、林先生、どうぞ。

【林委員】  NEDOの林です。

 今、橋本先生がおっしゃられたことも、私も同じように大事だと思っていまして、個人の研究からチームの研究になって、チームの研究から、今度、コンソーシアムとかクラスターの研究にどんどん発展していくものがあると思いますので、やっぱりそれに合わせたファンドの仕方、それから、情報の取り扱い方ということを意識して施策を立案しておくのがいいのではないかなと。

 NEDOのプロジェクトの中でも、やはり最後、産業につなげていくときに、知財をどう押さえていくかということを意識します。初めに論文として公開されてしまっていると、それが特許につながらないということもありますので、アカデミアの研究をされる先生方にも、最後にどういうふうに産業に届けるか、あるいは、社会に届けるかということを少し意識しながら研究をしていくと同時に、どうやって成果を発表していくかということにも気を付けていただくようなことを盛り込んでおくのがいいのではないかなと思っております。

【三島主査】  ありがとうございます。

 それでは、栗原委員。

【栗原委員】  一部は瀬戸山委員への御質問でもあるのですが、産業界とパートナーということで、今のバックキャスト、ボトムアップということで言うと、産業界の若い人たちにも一緒に入ってもらって開発をするという連携体制がうまくできると、比較的出口につながるという意味でも、それから、将来的に長く新しいものの考え方や技術を社会として全体として継続的に育てていく上でもいいのではないかと思います。先生のところの産学連携のパートナーでは、どういうふうな形でやっていらっしゃるんでしょう。

【瀬戸山委員】  私の場合には、大学の結構有名な先生と長いことやってきているんですね。長いことやることによって、その下にいる学生さんとこっちの若手研究者というのが交流できるような仕組みを続けています。例えば、辰巳先生とは25年共同研究をやりましたし、細野先生とは10年以上やっているんですね。そういうような中で、研究室に自由に行って、東工大の設備でも、東大の設備でも、自由に自分たちが行って使えるような仕組みというのをやっていくと、学生、あるいは、うちの若手研究者もなじんでくるんですね。

 そういうことがある一方で、やっぱり企業というのはもうかって何ぼなので、それを調子が悪いときはどうしても削るんですよ。削るんだけれども、会社の中でも我慢して、そういうことを、裏でぺろっと舌を出しながらでもいいんで、研究を続けていくような仕組みというか、気持ちがないと、やっぱりそれはできない場合が多い。だから、それはもう、トヨタさんなんかぐらいにどーんとでかければいいんでしょうけれども、うちみたいに大して利益も出ないような会社だったら、それはなかなか難しいんですね。なので、そこはすごく悩ましいですけれども、基本的には、やっぱり企業として健全であるということがまず前提であって、それであれば、研究というのはしっかり続けていけると思います。答えになっていませんけど、それが実態です。

【栗原委員】  私の視点は、必ずしもそんなに難しいことを伺ったというよりは、企業の研究者も大学に来てもらって、そういう中で一緒にやっていくと、割とバックキャストとボトムアップの効率的な研究が進むのではないかという、そういうシンプルな意見なんです。

【瀬戸山委員】  もうちょっと物理的なことを言いますと、今回も苦労しているんですけれども、大学と企業が共同研究する場合に、例えば、国プロに参画した場合でも、結構企業の持ち出し分って多いんですよ。要するに、100%委託を請けましたといっても、実際に企業に1人当たり掛かっている研究費の半分ぐらいしか出ないんです。多くの場合、労務費しか取れない場合が多いので。

 なので、もうちょっと上手にやってもらうと、このレベルの研究のときに、企業でこれだけのことができる、これはどう見てもやっぱりやるべきだというふうなマインドに変わるはずなんです。そこの金額がどれぐらいかというあたりのところはもうちょっと議論した方がいいのかなと思います。

【三島主査】  よろしいですか。

【栗原委員】  はい。

【三島主査】  ほかにございましょうか。それでは、五十嵐委員、どうぞ。

【五十嵐主査代理】  CREST、さきがけの研究というのは、国が重点領域を決めて、そこで長期展望の研究ができると。その下で、非常にいろんなイノベーション、ブレークスルーの技術が出てきていると思います。橋本先生もおっしゃられたように、そういう形でシーズ研究はしっかりと担保されているという、日本の仕組みとしてすばらしいと思うんですね。

 ただ、やはり知的財産という観点で言いますと、恐らく基本特許が出ても、それに続く、実装化を目指したそういう応用研究に基づいた特許というのがまだまだ十分出ていないのではないかなと。企業と組むと特許が出やすく、そういう開発が進むというお話があったんですけれども、それは企業が長期展望を持って、瀬戸山さんのところのように、長期展望を持ってそういう開発に取り組めるところはいいんですけれども、やはり中小の会社は、5年先にもうからない研究はできないという、そういう宿命があります。そうなりますと、せっかくいいブレークスルー技術があっても、なかなか一緒にできない。もう少し様子を見てからやろうと。そうなると、基本特許が出願されてから、大学の先生方が、それに続く応用研究もやって特許を出していくというのが非常に難しいですよ。そこが一番の課題かなと思っております。

 例えば、4年前に基本特許が出たと。それが、企業で少し味見をしたら、何とかものになりそうだと。そうしたら、4年、5年後にようやく周辺特許が出願されるんですけれども、その時点では、やはり海外も、日本のすばらしい技術を見て、もう開発をどんどんやっています。そしたら、もう物量で全くかなわないという状況になってしまいますので、やはり企業がさきがけやCRESTの研究成果を見て、一緒にできる仕組みというのは、企業サイドだけでは、お金も含めて、なかなか難しい面がある。そういうところの仕組みをもし作っていただければ、非常に開発、特に、いい技術をしっかりと国際技術として発展させることができるのではないかなと感じます。

【三島主査】  ありがとうございました。どうぞ。

【玉尾様】  おっしゃるように、なかなか知財の扱いが難しいとも思います。CRESTでやった実例を申し上げます。

 国がINPITという組織を持っていまして、研究拠点に特許の申請までしっかりとやる人を派遣するシステムがあります。それを2拠点に配置いたしました。常駐します。それによって、特許の質も変わり、出す量も変わったという実例があります。その際に、CRESTの現場に、やはり企業のアドバイザーが必ず参画している状況にするということをやっていっています。

 先ほど、社会実装に近づいているという話を幾つか例を挙げましたけれども、北川宏先生のところの元素間融合の件は、たくさん特許も出していて、企業と一体となって共同研究が始まっており、ACCELに行って、本当に何かものにしようという段階までは至っているので、そこから出てきている特許はかなり来ているのではないかと思います。

 それと、もう一つの、九州大学の永島先生、鉄触媒に大転換をしたという、あのヒドロシリル化のケースは、もともと信越化学からの、企業からのアドバイザーが一緒になって研究を進めているような状況のところに、更にINPITからの人が行って、特許の出し方をしっかりと指導したというような取組もやりました。

 なので、おっしゃるように、それが全てのCRESTのチームにうまくできたかどうかということになると、なかなか難しいとも思いますけれども、そういう、うまくいかせるような取組ということも、一体となって考えていく、システムとして導入する必要はやっぱりあるかなと思っています。どうもありがとうございます。

【三島主査】  それでは、まだあるかと思いますけど、3人の御講演、どうもありがとうございました。研究の進み方もございますし、やり方の工夫みたいなものも非常にたくさん盛り込まれていたので、いいヒントになったかと思います。どうもありがとうございました。

 それでは、きょうは長丁場で6時までやりますので、一旦ここで5分ほど休憩をして、議題2に移りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

( 休憩 )

【三島主査】  それでは、議題2に参ります。議題としては、物質・材料研究機構の最近の取組についてということでございますけれども、やはり研究開発戦略の検討を進めていく上で、我が国の物質・材料研究分野の中核機関である物質・材料研究機構の最近の取組について少し伺っておきたいと思いますので、NIMSの理事長でございます橋本委員から御発言いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【橋本委員】  お時間を取っていただき、ありがとうございます。

 資料2-1を御覧ください。資料、紙ベースで説明させていただきます。

 今、三島座長から御紹介あったように、ここでは物質・材料研究機構の最近の取組についてお話しします。実は私たちは産学連携も含め様々な取組を行っておりますし、研究テーマもたくさんありますので、NIMS全体をお話しするという選択肢もあったのですが、今日はあえて1つに絞り、革新的蓄電池研究の最近の展開を御紹介させていただこうと思います。

 なぜここに集中してお話しするかというと、この事業はまさに研究振興局の委託事業として行っているものです。その委託事業で私たちはプラットフォームを作っていますが、そのプラットフォームに各大学、さらには、企業からいろいろな人に来ていただいております。またJSTのALCA事業の助成金でもまかなっています。そういう意味においては、まさに国、文科省がやる委託事業等のプラットフォーム事業と助成金、さらに、そこで産学連携という3つがそろった場として、またもう一つ申し上げると、私たち物質・材料研究機構のメインテーマは物質と材料ですが、実は一歩前に踏み出し、新しい取組としてデバイスまで踏み込んでいます。ですので、新たな展開という中において、どのように動いているかということを御紹介させていただくことに意味があるかと思い、共有いたします。

 1ページ目ですが、実は今日、この会議の直前に文科省でソフトバンクさんと一緒に記者会見を行いました。そのときまとめたものがこの資料ですが、NIMSの中にソフトバンクの先端技術開発センターを設置するという契約を締結し、その記者会見をさせていただいたものであります。

 大変記者の方も驚かれたのですが、ソフトバンクさんが、私たちのような材料研究所と組むということだけで極めて不思議なことで、かつ、実は資料に書かれていませんが、かなり大きな研究資金を出していただけます。ファーストステージが2年間で、まず2年間の契約をさせていただきましたが、そのファーストステージは2年間で11億円を超える額となっています。その規模のお金をファーストステージ、もちろんファーストステージで終わってしまう可能性もありますが、2年間に毎年5億円強のお金を出してくださり、しかも、今日は代表取締役の副社長、宮川さんに来ていただいたのですが、記者からの質問に対して、明確に、「これは基礎研究である」とおっしゃいました。まだ実用化は遠いと見えている、ただ遠いと見えているが、ソフトバンクが基礎研究に資金を投入することによって加速化し、それをソフトバンクの利益だけではなく、人類の利益のために使いたいとおっしゃいました。

 重要なのは、非常に基礎研究の段階であって、実用はかなり先だということを分かった上で、それだけ大きなお金を出してくれたということです。、御案内のように、政府は2025年までに民間の、大学や国研への投資を3倍増するという目標を掲げています。、まさに我々としては、今までサービス業を行っていた会社で、かつ、世界を相手にしている会社が、日本の国研にこのような巨額のお金を出していただけることは、画期的であり我々としては身の引き締まる思いです。

 記者の方から、なぜNIMSを選んだのかと聞かれた際に、ソフトバンクは「別に日本にこだわっていないので、世界中を全部調査してきた」とおっしゃいました。またなぜ電池かというと、「電池が今後の技術を制する」ともおっしゃいました。ソフトバンクは様々な技術、3Dあるいはバーチャルにしても、電池を小さくして、埋め込めるかどうかが重要だと考えているとのことです。Pepperも、今、充電器の近くにPepperがいるんですと。そういうようなことを変えていかなければいけないので、技術として電池は極めて重要なのですが、いろいろ調べたところ革新的な電池というものはかなり先の目標になっていました。だから、自分たちがそれに対して応援することによって、自分たちのサービスを展開したいと思っているという中において、世界中を調べたところ、日本が強いということに気付かれたそうです。そこで様々な調査を行った結果、先ほど申し上げたGREEN事業で委託されているNIMSの電池基盤が実にしっかりしていて、研究成果も世界のトップを走っているということが分かり、そういった観点でNIMSと組むことにしたとのことです。また私たちもこれからは、日本の企業と日本の企業とが組んだ形で世界を引っ張っていくということをやってみたいと記者さんに言っておられました。

 資料を御覧いただきまして、研究目的のところに書かれていますが、ターゲットはリチウム空気電池です。リチウム空気電池というのはまだまだ実用化に遠いと思われており課題もたくさんあるのですが、しかし現状のリチウムイオン電池に比べて画期的であり、我々が目標としているものは、既存に比べ5倍の性能のものとなります。

 しかし、たくさんの課題があるためNEDOの作っている線表では、まだ20年以上先のものということになっています。それに対して、ソフトバンクは、5年から10年でものにしたいと考え、そのためにお金を投入しようという決断をしたと言っておられます。

 資料の1ページ目に書いてありますが、例えば、下から2つ目のポツのところにある、来たるべきIoT時代において、長時間使えて軽量な電池というのは非常に重要であり、その応用分野としては例えば無人航空機、ドローンタクシー等、様々なものがあり、それらに対して電池が根本であると考え、よって2025年までの実用化を彼らとしては目指したいと言っています。

 次のページを御覧いただきまして、これはNIMSの中にソフトバンクがNIMS-Softbank開発センターを作り、NIMS側も組織対組織の産学連携なので、NIMSの電池関係の研究者を多数参画させます。NIMSとソフトバンク双方から数十名出して、合わせて50名程度の規模です。今日の宮川副社長の話では、比率は1対1ぐらいと言いましたから、、ソフトバンクは25名も参画させるということになり、私は驚きましたが、NIMSとしては、もちろんそれ以上参画させるつもりでおります。

 NIMSが行うことはあくまでも基礎研究です。これまで電池分野に関しては、いろんな大学の方がNIMSに来ていろいろと研究を実施いただいていますし、NIMS自身も独自に研究しております。また先ほど申し上げましたJSTのALCAの助成金の中に空気電池チームがありますので、そこと共同研究を今までしてきた成果があります。その成果をしっかりと使えるものにするまでの段階を、まず電池試作・評価・解析グループがセル試作・電池性能評価、電極反応・劣化要因を担当し、一方、同時に実用化開発研究グループがニーズに合うコンセプト設計、実際の電池の形を設定する。特にスタックの基本設計が重要ですが、こういうことを同時並行でやります。2年の間に、セカンドステップとして電池メーカーを入れると今日明言されていました。

 そのためには、私たちがずっと培ってきた新材料はもちろんのことながら、計算・計測による解析等々も入れており、しかも、セルを作るところまで私たちは実はやっておりますし、またGREEN事業、ALCA事業によって大変良い基盤が整備されております。本当にいろんな企業の方が来て使われておりますので、そういった場を活用して実施するということです。

 次のページを御覧ください。これは基礎・基盤研究の成果を実用化へとつなげる1つのポイントだと思うのですが、GREENで基礎・基盤的研究が行われていて、またプラットフォームの整備も行われております。それから、JSTのALCA SPRING、これは研究開発局の予算をJSTがマネージしてくれているのですが、実用を意識した基礎研究です。またそこでNIMSだけではなくいろんな大学の方が来て研究を行っていますが、今度、ソフトバンク連携センターでは、それをまさに実装するのための橋渡しの研究を民間資金で実施するということになります。

 次に下から3行目ですが電池は本当にデバイスを作ってみないと分からないものです。作ってみると、事前評価等では大変良かったものが、実はデバイスを作ってみると全然使えないといったことは普通にあります。よってデバイスを作り、しっかりと解析して、サイエンス・複雑な現象を解明する、そういった基礎・基盤研究が重要です。商用電池における共通課題を解決する仕組みというのが本当に重要です。今回の基盤となっている我々のプラットフォームに対してソフトバンクからかなり巨額のお金をいただけますので、プラットフォームにおいて、空気電池についての基礎・基盤研究を実施したいと思っております。

 4ページ目を御覧ください。ここから先は一般論となりますが、今たまたま空気電池でこのような大きな取組をやっているところ、それ以外に全固体電池は当然NIMSとしては非常に強く力を入れてやっているところであります。今日この後、トヨタの岡島さんのお話があると思いますが、固体電池は硫化物系でトヨタさんが非常に進んでおられます。さらに酸化物系のものもあり、それらもNIMSでかなり力を入れて研究しております。今、酸化物系の全固体電池には、非常に多くの企業が興味を示しています。トヨタの固体電池の開発責任者の射場さんが前にいらっしゃるので言いにくいですが、おそらくトヨタさんに刺激されてだと思いますが非常に多くの企業が固体電池に対して興味を持ち、トヨタさんが余りにも進んでいるためにまずNIMSに非常に多くの声が掛かっています。また、実際にプラットフォームを使うために、たくさん産業界の方が来ておられます。

 さらに日本だけではなく、お隣の国からもたくさん依頼があります。今はまだやっていませんが、お隣の国はすごく大きなお金を出してくれると言ってきます。民間からの資金3倍増という目的を達成するためには、お隣の国と組むことが一番早いと思うくらいです。 それだけやはり電池が将来のサービスのrate-determining stepになる、1つの非常に大きなターゲットです。ですので、そういう意味においては個別の材料をやっていても、結局、電池を作り、かつ、商用の電池まで行ったときに初めて、この資料の下にあるように、非常に基礎的な問題が出てきます。これは電池に限らないと思いますが、特に電池に顕著です。非常に基礎・基盤的な技術等をNIMSに持たせていただけたことは日本の産業界のためにも意味があったと思いますし、一方、私たちNIMSにとっても、材料から一歩出てデバイスまで行ったことによって、電池研究を中核に置くことができたということは、大変意義があったと思っています。

 最後に下の行に書いていますが、産業競争力強化のためには、この電池研究を更に集中的にやることが必要だと思っています。と申し上げますのは、次のページで御覧いただきますように、今のような状況は、我が国の会社、我が国の人たちが考えているだけではなく世界中で考えている状況であり、韓国やアメリカ、ドイツが熱心なのは御案内のとおりですが、研究が非常に加速しています。さらに、最近はイギリスもEUから抜けてやはりかなり戦略を変えていかなければいけないということだと考えますが、2017年に製造業の電池産業をイギリスの中に作ろうと考え、現在はものすごい勢いで予算を投入しています。

 また、中国も力を入れていますが、中国は基盤的なことはまだ行っていないという状況です。良いものや技術を持ちよっての研究はやっていますし、少数の大学は基礎研究をやっておりますが私が述べてきたような基盤的なものを共通的に実施する、オープンプラットフォーム的な動きは、まだ中国にはありませんが、近々できてくるのでしょう。

 このように大変国際的な競争も厳しい中にありますが、おかげさまで、今のところNIMSは世界のトップを走っている機関の一つだと思っておりますし、日本の強い産業の基盤でもあると思っております。最後のページ、6ページ目ですが、自動車のEVシフトが加速しており、それ以外の分野においても、電池開発は産業競争力を左右するキーテクノロジーになっていると思っていました。今回ソフトバンクさんが本当にこれだけの協力を行っていただけるということは、本当に重要な分野なのだと思いました。

 2番目ですが、我が国は大変強い基盤技術があり、世界を先導してきたという実績があると考えます。

 3番目ですが、しかし、これまでの個別的な界面の研究から、実際の電池を作り、その上でデバイス全体を作成する、さらに、そこから課題をしっかりともう一回括り出して基礎研究に戻すという流れで実施すれば、世界のトップを引っ張っていけると考えます。

4番目で、私たちのところは、今のところ、そういうような形でできていると思いますが、赤字で書いているように、実電池における諸現象の理解と制御に焦点を当てながらも、非常に基礎・基盤研究が重要な分野だと。そういうことが今まさに電池に限らずNIMSに求められていることなだかと思います。今回は電池が大変良い事例として出てきたため絞って御紹介させていただきました。

 以上です。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 大型の産官学連携というのが今非常に叫ばれている中で、

これはうまくいくようにお祈りしたいと思います。

 今の御説明に対しまして、企業サイドからの御意見を頂戴したいと思います。本日は、ソフトバンクの太田様、それから、トヨタ自動車の岡島様にお越しいただいております。

 まず太田様からお話を聞かせていただければと思います。よろしくお願いいたします。

【太田様】  御紹介いただきました太田です。

 きょうは、ソフトバンクという、名前で出ておりますけれども。実は、私、長い間といいますか、50年以上電池分野の技術開発に従事し、その間、国プロ関係にも携わっておりまして、その経験を踏まえ、今、橋本先生がおっしゃった内容をフォローするような内容になるんですけれども、電池技術開発の現場からのお話をさせていただきたいと思います。

 図に電池化技術の重要性ということで書いてあります。先ほど言いましたように、電池が実用化される場合、この図の下に書いてあるような、原料の問題、エネルギー密度、充放電特性、入出力、それから、寿命、サイクル寿命、温度特性等、こういう全ての条件を満足しないと、実用電池はならないということです。

 先生方を前に大変失礼な言い方ですみませんけれども、電池は、基本的に言うと、いわゆる正極と負極と電解液からできる化学システムです。それぞれのものが単独で評価されても、3つを合わせると、どういう性能になるかということが非常に分かりにくいということがございます。是非、こういう多岐にわたって諸要因の検討、評価する場所が要るなということでございます。

 もう8年ぐらい前になるんですけれども、リチウムイオン電池の材料が、今後非常に伸びる、材料評価をきちんとやる体制が必要という要望がでてきました。当時、その材料評価を主体的にするのは電池会社でしたが、それぞれ事業の目標、方向性等にも関わるんでしょうけど、材料会社の要望に対して余りできないという状況になりました。経産省の指導の下で、LIBTECという技術研究組合を作りまして、そこでこの課題の解決を行うということにいたしました。

 図にございますように、大学、公的機関は材料のみの評価が中心ですけれども、化学システムとして、そのものがどういうことになるかということを、特性評価を行うことは勿論ですが、電池性能だけでなく、最適製造プロセスはどうだとか、実用化に必要な各要因の抽出、ハンドリングや不具合についても検証するという機能を持って今、LIBTECが動いているという状況です。

 そういう中で、次世代蓄電池研究、ALCA-SPRINGが今から5年前に発足いたしました。文科省、経産省と未来事業ということの共同でやろうという話になりまして、LIBTECもここに参画する形になっております。

 ALCA-SPRINGですけれども、私たちメーカーの人間が見ていると、従来のアカデミアの取組からすると非常に特色のあるプロジェクトチームでございます。特にPD・POが、材料研究の次に起こってくるシステムの問題に関しまして、先手をということで、組織の機能の一部に電池化をする部門が付加されてきております。しかしながら、もう少しものづくり的なファクター、デバイスを作る充実が欲しいなというのが、私の現時点での考えです。

 次が、少し角度を変えまして、現在ALCA-SPRINGで取り組んでおります次世代電池をプロダクトポートフォリオ的な表現しております。縦軸に化学システムの研究完成度、いわゆる正極、負極、電解液の完成度という視点で、どのぐらいのステージにあるかという切り口です。これは非常に簡単な表現ですけれども、補足資料の中に挙げております。横軸に社会的期待度、貢献というものを挙げて、現在取り組んでいる5つの電池系について掲げた図です。第一象限に、例えば、ステージアップ、第四象限の場合は、ここは資源を投入しなければいかんという分類をしています。

 今、橋本先生の話にもありましたが、酸化物系固体電解質電池というのは、非常に期待度は大きいわけです。期待度は大きい。しかしながら、化学システムとしての研究ベースはほとんどゼロに……。ゼロというか、電池の研究度というベースでいきますと、それぞれの部材はできていますが、電池システムはできていないと、こういう状況にあります。

 実は、ここで、もう一つ抜けていますのは、この方向といいますか、この面に向かって、軸といいましょうか、いわゆる実電池化というファクターをどう考えるかということが大切なんです。それに関しまして、表しようがないものですから、絵を描くときの遠近法ではないんですけれども、手前は濃く、向こうの方は薄くという表現で線で表しました。

 この中で極端に太い線で書かれているのが、硫化物系固体電解質電池です。この電池は、トヨタさんが非常に将来の電池として注力された電池系です。ALCA-SPRINGにおきましても、この電池はテーマに挙げております。このテーマを、経産省関係のLIBTECもコンカレントに協力して進めようということで行いまして、現状のレベルは、LIBTECから言いますと、大体電極面積が2掛ける2、それから、7掛ける7cmぐらいまでの評価用電池が作れるステージまでに、試作レベルぐらいには達してきているというところでございます。

 これを見ていただきますと、新しい電池系開発が非常に進む背景、実は、このz軸というのは、ある意味で言いますと、民間が将来この事業を大きくできるだろうとかいう思いがありますと、ここに資源が投下されてくるという、そういう内容でして、アカデミアではなかなか実用電池に仕上げていくことが厳しいというふうに考えています。そういう意味では、ここにリチウム空気電池にソフトバンクが資源を投下するというのは、この分野はz軸方向はかなり進むのではないかというふうに予想されます。

 最後になりましたけれども、まとめは、今までの話から、ALCA-SPRINGというのは、PD、PO、TLが、従来の大学組織の研究取組を一新しましたプロジェクトだというふうに私は思います。先ほどから出ています、表現は適切でないかも分かりませんけれども、ペーパーに加えてパテントを評価中心に置いて進められているということ、それぞれいろんな大学の先生方が集まって、実は、先ほどから話が出ていますけれども、ミーティングをやると、必ずその後は懇親会で、それぞれの生の情報を交換するというような動きも行っているという状況です。

 先ほど言いましたように、実は、新しい次世代電池系、また遠くに見える電池をもう少しレベルアップしたものづくりが必要ではないかなと思っています。できるだけひな形の魅力あるものを作りまして、日本には非常にベンチャーは少ないんですけれども、世界中のベンチャーをみていますと、眩惑的な魅力ある内容の発表のデータが多いです。やっぱりNIMSがそういうふうな役割を示すながら、ベンチャーと一味違った、そういう将来に大きくなるひな形を作るような、そういう体制が必要ではないかなと思っています。

 そういうことで、解決策としては、実は、いろんな技術が総合的に必要です。NIMSさんは、もともと材料開発、解析技術中心でしたけれども、最近、電池研究経験人材と、それから、もともと強い科学的解析もできますので、このあたりを中心に機能拡充をされてはどうだろうかというのを提案させていただきまして、雑駁ですけれども、一つの提案とさせていただきます。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、続きまして、岡島様、よろしくお願いいたします。

【岡島様】  トヨタ自動車の岡島です。

 前半は、昨年末、副社長の寺師から報告させていただいた内容なので、簡単におさらいと、最後に、電池基盤研究のところへの期待と要望というのを申し上げたいと思います。

 持続可能な社会のために、我々、いろんな活動をしていく。最後はお客様の「笑顔」につながるようにということで。一方で、お客様のニーズはますます多様化するし、社会産業の姿は大きく変わってきます。

 1つ大きなことというのは、やはり新しい価値ということで、電動化、情報化、知能化というところに重きを置いていかないといけないということであります。

 我々、これをGlobal1,000万台の量販メーカーとしてお届けするためには、しっかりEVへの取組というのをやっていきます。

 まず第一に、2020年には本格展開を、中国を皮切りに量産型EVを本格導入します。2020年代前半には、10車種以上をラインナップします。2025年頃には、全車種に電動グレードを設定します。これ、誤解がないように申し上げると、いわゆるハイブリッド車も含めた電動モーター、バッテリーを持たないエンジン専用車をなしにします。ハイブリッド車のグレードがありますというような意味合いですね。さらには、電動専用車も増やしていきますということです。

 2030年には、電動車比率50%以上、EV・FCの比率を10%以上。マスコミを含めた社会の期待からは若干期待外れのような控え目な目標ではありますが、なぜ大変かというと、やはりキーとなる電池のところの性能・コストというところがポイント、まだまだ未成熟ということではあります。

 今後、ますます多様化が必要が必要なんですけれども、モーター・バッテリー・インバーター、全ての電動車で使用可能であり、EVがまだだからといって、電池の開発に手を緩めていいというわけではございません。

 我々、100年に一度の車変革の時期だということでありますが、実は、100年近く前に、操業者の豊田佐吉が電池の公募をしております。これから世の中を変えていくためには、電池が大変重要だと。我々、そのときから重要性を認識し、現在、皆さん、この委員会でも先ほど議論になっていますけれども、精力的に電池の研究開発を行っております。2020年代、どこかとは明言しておりませんが、全固体電池を実用化しようという目標を持って開発をしております。NIMS、ソフトバンクさんに先を越されないように、頑張らないといけないなと、改めて気は引き締まっております。

 革新電池の競争力強化に向けて必要なことなんですけれども、我々、先行してはおりますが、一方で、当初、この革新電池の研究を本格的に着手したときのマイルストーン、目標値で言うと、もうそろそろ実用化しないといけない計画であったのにもかかわらず、残念ながら、2020年代のどこかでというような、また言葉を濁している状態でもあります。

 やはり必要なのは、更なる電池性能向上のための新しい材料探索・研究、それから、プロセス技術の研究、それから、具体的に電池の特性と使い方ですね。社会ニーズに合致したシステム研究。実際に、太田先生からもありましたけれども、電池は大きな化学システムでありまして、実際、組み合わせると思ったようにいかない。あるいは、実用化に近づけば近づくほど、大きな壁にぶつかるといった経験をしております。最後に、電池の内部反応機構をちゃんと正しく理解しないと、設計指針を獲得できないということで、ここをしっかり基礎・基盤から解明する必要を我々はひしひしと感じております。

 最後まとめると、こうなります。シーズ研究、文科省を中心にたくさん先生方にやっていただいて、大変いい結果も出ておるのですが、これを企業のところで更にスケールアップをして、システム化して、社会実装に持っていくためには、やっぱり後戻り、手戻りというのがたくさんありまして、基礎・基盤の理解というのをしっかりしないと、なかなかその壁をブレークスルーできないということで、研究拠点として、この基礎・基盤をしっかりやっていただくようなところを整備していただき、研究開発環境を整えるとともに、人材をしっかり厚いものにしていただきたいというのが要望であります。

 以上です。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、今の橋本理事長、そして、太田様、岡島様からの御説明に対して、御質問や御意見がございましたら、どうぞ。

 前田さん、どうぞ。

【前田委員】  御説明ありがとうございました。

 私ごとで申し訳ないんですが、私、ブリヂストンに1984年に入って、リチウム電池の研究をしておりまして、市場に出て8年間、ブリヂストンがリチウム電池を売っていたということを余り御存じない方が多いかもしれないんですけれど、まだリチウムイオンではなく、リチウム金属電池の時代にやって、市場まで出した経験を持っております。

 そのときに、皆さんがおっしゃっていらっしゃいますように、一つ一つの正極材料、負極材料がどんなに良くても、実電池になるとうまくいかなかったり、大きくしていくと問題にぶち当たったり、いろいろしていまして、実際に実電池で研究をされるという、NIMSさんとソフトバンクさんの大きなお金で研究するというプロジェクト、すばらしいなと思っております。最近、やっぱりどんなに大きな会社でも、なかなか本業ではないところに大きなお金を投入するのは難しい時代ですので、とてもとても期待しています。

 また、コンソーシアムということで、いろいろな会社さんが入ってやるという研究もあるんですけれど、どうしてもコンソーシアムというのは、特許の絡みであったりして、オープンとクローズドと言いながらも、なかなか本音の奥のところまでが全部持ち出せないというところもありますので、是非是非、NIMSさんとソフトバンクさんで、大きなお金ですばらしいものができたらいいななんて思っているところです。

 その後、私、東京医科歯科大学の方で産学連携のセンター長をやっていたんですが、医学系の先生と、それこそ材料の基礎研究をやっていらっしゃる方を上手にかけ合わせると、思いもよらなかったところで、それ必要なんだけどというのが結構出てまいりまして、異分野融合の大事さというのをすごく感じさせていただきました。

 実レベルに行く段階と全然違うんですけれど、是非是非、医療系とナノテクの材料をやっていらっしゃる方が上手に組めると、もっといろいろなものが出てくるのかなと思っています。自分で専門が電気化学なものですから、わくわくしながら聞かせていただきました。ありがとうございます。

【三島主査】  大変エールを送っていただきましたけれども、ほかに、どうぞ。

【瀬戸山委員】  トヨタさんにお聞きしたいんですけれども、全固体ないし空気含めて、現戦略というふうな観点でどう考えていられるんですか。

 というのは、今、例えば、テスラで使っているような電池がありますよね。ああやって考えるときに、これ、何台作れるかというのを計算したときに、とてもじゃないけど、今のような遷移金属、あるいは、リチウムを使うような形だと、多分、量産ができないはずなんですよね。なので、そこら辺をどう考えておられるのかというのをお聞きしたいんですけど。

【岡島様】  おっしゃるとおりでして、我々も、まず一番高額で、希少で言うと、コバルトが希少でもありますし、リチウムはすぐすぐ枯渇するものではないですが、採掘、権益を含めて、そんな大量にたくさん、弊社が1,000万台全部EVになったらどうなんだという、世界中の車が全部EVになったらという話、とてもとても生産できるものではありませんので、おっしゃるとおり、リチウムに頼らないバッテリーというのも、今、実際研究も盛んにされていますし、我々、期待はしております。

【瀬戸山委員】  正極の方はどうなんですか。

【岡島様】  正極材料についてですか。

【瀬戸山委員】  コバルトにしてみても、ニッケルにしてみても、年間の生産量を考えると、やっぱり限界はありますよね。

【岡島様】  おっしゃるとおりだと思います。

【瀬戸山委員】  そこは、いろいろやっているという程度で、あんまり言えないですか。

【岡島様】  これがというのはありませんが、もちろん、遷移金属に関しても、例えば、鉄系とかというのも世の中にありますので、先ほど車のバリエーションもありますけど、使い方によっては、鉄系の正極材料を使うというのも当然ありだと思います。

【瀬戸山委員】  ありがとうございます。

【三島主査】  ほかにございますか。萬先生、どうぞ。

【萬委員】  橋本先生、どうもありがとうございました。

 非常にチャレンジングな基礎研究という話ですけれど、2年間ファーストステージだというふうなお話で、この2年間のファーストステージの設定の考え方というか、どこをもってこういう基礎研究のファーストステージを超えたというふうに考えるのかという、そのあたりのポリシーを教えていただければと思うんですけれど。

【橋本委員】   2年間をファーストステージと言ったのは、私たちではなくソフトバンクです。そういったスケジュール感で実施していただきたいができますかと問われ、できますと答えました

ちなみに、NIMSとしてソフトバンクとの協力は非常に重要だと思っているのですが、一方で、酸化物型全固体に対しても非常に力を入れており、オープンプラットフォームと、オープンとクローズド戦略をうまく組み合わせて取り組んでいます。

 なぜならば、現在非常に多くの企業が、一緒に組んでほしいと来ています。ただ全部は対応出来ませんし、日本の会社が非常に非効率だということもあります。よって、まだ検討中ですが、酸化物型全固体に関してはうまくオープン領域を設定し、その上にクローズド領域を設定するという形で、オープン・クローズド戦略を用いてしっかりとやっていきたいと思っています。

【三島主査】  射場委員、どうぞ。

【射場委員】  これまでもそうなんですけど、NIMSさんが電池に重点化されるというのは、前から大変ありがたいと思っていて、今回の取組もすごく楽しみにしています。

 我々の、岡島が説明したとおりなんですけど、リチウム空気も、結構グローバルの連携体制で、相当の資金もつぎ込んでやりましたし、現在進行形ですけどね。酸化物に関しては、NEDOさんのプロジェクトをやらせてもらって、それはNIMSさんも一緒に入ってやって、それも相当酸化物の中では進んだかなと思っていて、やっぱり両方ともまだ大きい電池になっていないというのは、ボトルネックの課題はやっぱり材料に帰る。材料がそこをブレークスルーしないと、なかなか難しいんじゃないですか。

 材料の課題の最も根っこのところでやっぱりサイエンスの課題があって、空気電池の正極のカーボンがちゃんと構造制御できないのは、やっぱりサイエンスのところで課題があるよねとか、硫化物だとよく流れるのに、酸化物はなぜ流れないのみたいなところにやっぱり戻っていくので、そういうところをやるのにソフトバンクさんが材料の総本山のNIMSさんを選んだというのは、確かな選択なんだなというふうに私は思いました。

 ですので、そこのサイエンスのところは、我々のうまくいかなかったこともパブリッシュして、オープンにしていますので、そういうことも、どれだけ一緒に議論できるかは分かりませんけれども、結果も楽しみにしながら、ソフトバンクさんとうちだと、ソフトバンクは車を作るんですかね。車を作るんだと競合になりますけど、作らないなら、その電池で車に使うというのもありかなと思うので、また議論させてもらえればと思います。

【橋本委員】  積極的に外部にも利用いただくとおっしゃっていました。

【射場委員】  基礎研究でやられるというのは、そういう考え方だと思う。その後のスッテージは、またクローズにしないといかんと思いますね。

【三島主査】  ほかにございますでしょうか。馬場委員、どうぞ。

【馬場委員】  御説明どうもありがとうございます。

 大変すばらしい取組だと思うんですけれども、こういう取組が蓄電池だけではなくて、先ほどもおっしゃいましたけれども、ほかの分野に拡大することは非常に重要だと思うんですが、これはほかの分野でも何かあるんでしょうか。例えば、NIMS。

【橋本委員】  NIMSでは様々な取組を行っていますが、現在デバイスまで一歩踏み出すという意味においては、実はセンサーに一歩踏み出すことを決めまして、NIMS内にセンサー・アクチュエーター拠点を作っているところです。齊藤参事官をはじめとして大変ご支援いただき、NIMSの交付金事業の中に入れ込みます。来年度は磯谷局長、千原審議官のお力で、大幅増としていただけることを期待しています。この拠点も材料から一歩踏み出し、デバイスまで行うという事業であり、そういう意味においては、電池と同様かと考えます。

 我々は物質・材料研究所ですので、物質・材料が基本ですが、そこだけで閉じないで、一歩踏み出すということを試みています。射場さんからも御指摘いただいたように、材料がボトルネックというケースが非常に多いのですが、材料の研究だけをしていても何が問題かが分からないため、NIMSとしては一歩踏み出すということを行っています。

 もう一点ご参考情報ですが、最近、イギリスの有名な2つの大学がNIMSと組みたいという話がスタートしたところです。そのような有名な大学がなぜNIMSと組みたいと考えたのかを調べたところ、やはり材料がボトルネックとなっている課題が様々存在し、材料に対して極めて興味があるとのことでした。その課題を解決しようとした際、NIMSは材料に特化した機関としては、おそらく世界最大なのだろうと思われることから、組む相手としてNIMSを選びたいということでした。まだ正式に決まっていませんけれども、そういう方向で話し合いが進んでいます。

 ちなみに、シンガポールのトップの大学からも、同様の打診があり、NIMSの研究成果の需要を感じます。それだけ材料というものが重要だということに対して、私たちには実力があるかどうかというのは甚だ不安なので、しっかりとNIMSとしても足腰を鍛えなければいけないと思っています。

【三島主査】  それでは、ちょうど今そういうお話なので、齊藤参事官から、文科省としてのある意味研究戦略の位置付けのようなところでお話しいただければと思います。

【齊藤参事官】  御意見を頂戴いたしまして、気付かなければいけない、気付くべきだという課題があろうかと思い、急遽ですが、紙にいたしました。A4・1枚の紙で、机上配付とさせていただいております。

 これはまさに今の現状でございまして、以前にもそういう御議論はあったところかとは思いますが、実用化されるというところでものがゼロから100になると表現しております。ゼロから1、これはグリーンのところ、従来からのアカデミアの研究範囲というところであろうと考えております。そして、それを企業化する、10から100というところが、黄色のところでしょうと。現状、この赤線が引いてあるところは、ないのではないかというところです。

 今般のNIMS、ソフトバンクさんの協定におきましても、まだまだ基礎研究が重要だというところ、そして、それを実用につなげるためのステージが必要だというところで、非常にいい実例で、逆に勇気付けられたところでございます。

 そのアカデミアの研究範囲の中で、何が足らないか、赤字で大きく書いてございますけれども、このような課題があるだろうということです。当然、実用化する上で、大型化・ボリューム化が必要であろう。理想系だけ追い求めるのではなくて、非理想系もあろうかと。そして、企業化するのにシステム化がある。当然、それを量産するには、製造プロセス開発が必要だと。人様に使っていただくには、当然、安全という技術評価があろうと。

 要するに、企業が望む、欲する基礎研究が足らないのではないかと。真に産学連携がそろった場がまだまだ必要ではないかといったところを感じているところでございます。

 役人として、施策を考えなければいけないところでございますので、是非、こういった点を我々、しっかりとやっていきたいと思っておりますので、今般、作業部会で御議論していただく中で、こういったものも御助言として是非頂けたらなと思ってございます。

 以上でございます。

【三島主査】  ただいまの参事官の机上配付資料でのお話ですが、何か御質問や御意見ございますか。

 きょうは、話の流れとしては、本当にこういうことにこれからどういうふうにナノテク材料として取り組んでいくかということがうまく導入されているなと思いますけれども、よろしいでしょうか。

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】  齊藤参事官、ありがとうございます。

 作業部会でも議論していることですが、基礎研究と産業応用、あるいは、大学等の研究と産業による応用開発があって、間を埋めるための一気通貫であるとか、産学連携を活発にするとか、そういうことは考えられています。しかし、システマティックに間を埋めていかないと、次につながらないと考えます。どのようにこの間を施策で埋めていくかというところが最もやるべきところです。研究室ではたくさん研究がなされていて、すごくいい成果が出るけれども、論文を書いて終わってしまって、産業界につながらなかったというのが山ほどあるとの意見が多いです。その中で、何か運が良くて企業と一緒にやっていたり、その先生が非常にそこに執着して執念でものにしたりしているものもあります。ですが、ものになっていないけど大事なものが、ものになったらすごいものが非常に多く埋もれているのではないかなという問題意識があります。それで、その間のところをどのようにシステマティックに埋められるかということ、それこそが施策の出番ではないかなと思います。

 そうすることによって、今までの成果がものになる確率が高まれば、少ない限られた予算であっても、我が国としては相当なアウトプットを世に出すことができるのではないか。そんなことを作業部会でも考えておりました。ナノ材委員会の先生方の御意見も頂ければと思っているところです。齊藤参事官のおっしゃるとおりだと思います。

【三島主査】  ありがとうございます。

 そうしますと、ちょうどここで中山委員から作業部会の検討状況をまとめてお話しいただきますが、今、発足して1年弱ぐらいですかね。作業部会、大変に活発に動いていただいて、5回ぐらいの検討会があったと伺っておりますが、それを机上配付の1枚ものにまとめていただいたということですので、中山委員から御説明いただければと思います。

【中山委員】  続けて、失礼させていただきます。なるべく簡潔に致します。

 これまで何度も御議論や御指摘を頂きました。それに対しての作業部会を重ねてきて素案をまとめました。その概要を簡単に説明させていただきます。

 最初の1ポツでございますが、まずはこの分野を取り巻く状況の変化をまとめました。これまでのナノテクノロジー・材料の役割と、社会に出すためのシステム、あるいは、ボトルネックをどうやって打ち破っていくか。それは材料の役目であろうと、そういう議論をたくさんさせていただきました。

 また、研究開発環境は大きく変化してきているということ。

 さらに、(3)では、政策上、こういう取組がなされてきましたと。また、政策上の位置付けを、昔から今に至るまで記載しております。

 さらに、我が国のナノテクノロジー・材料分野の強みを分析して書きます。

 次は諸外国の動向です。先ほど玉尾先生の御発表にもありましたが、注目すべき世界の動きもあり、また、先ほど岡島様の御説明にもありましたが、実際に材料をどうしていこうかということを、世界中で戦略的に考えていることを書かせていただきます。

 また、新たな未来社会等の実現に向けてということで、Society5.0の話。そして、SDGsの観点です。それを我が国としてどう消化して、どのように競争力に変えていくか。ただSDGsをやればいいというわけではなくて、それをいかに我が国として取り組み、我が国の国益に返していくかということが、我が国の戦略なのであろうと思います。

 2ポツですが、そのための目標と基本的なスタンスということで、未来の社会の実現に向けて多くの壁を次々と打破し、産業振興、そして、人類の「幸せ」の両方に貢献するということ。そのためには、魅力的な機能を持つマテリアルの創出を推進し、「マテリアルによる社会革命」を実現したいと考えます。

 3ポツでございますが、そのための課題でございます。

 マテリアルの高度化は当然のことでございます。

 あとは、研究の長期性への対応をどうするか。浮ついた、その場その場の施策ではなくて、ちゃんと長期的なことを見ながらしなければいけないと思います。

 また、データ対応。担い手の確保とか、あるいは、ラボラトリーの生産性の向上は世界的な流れでございます。

 また、事業化へのギャップ、間のところをどう埋めていくか。

 そして、産業界の抱える基礎研究フェーズへの対応。これも事業化へのギャップに近い話でございます。出てきた新しい材料、新機能をいかに次のフェーズに展開していくかということです。

 また、そのためのサポートの体制が不足しているのをどうするか。

 また、論文になりにくい技術領域ですね。先ほど言いました、間のところというのは論文になりにくい。なりにくいけれども、ここをきちんと埋めることによって、世に出ていく材料を飛躍的に増やすことができるのではないかという仮説に基づいております。

 そういうことにどのように取り組んでいくか、具体なところが4ポツでございます。

右下でございます。

 4つに分けておりますけど、(1)と(2)は、要は、どのような研究開発を進めていこうかということで、(1)は、新たな切り口に基づくマテリアル機能の拡張です。時代の流れの中での新しいコンセプトを出していかなければいけないと。これまで元素戦略とか、分子技術とか、あるいは、空間空隙・超空間のような、世界に先駆けて我が国の強いところを打ち出して、世界を先導してきたという実績もあります。そういうものが、次の世代、どういうものがあるか、ここは産みの苦しみもございます。我が国が世界に先駆けて問うていくものがどんどん出てこないと、活発にならないだろうと思います。ここは頑張りどころです。

 (2)でございますが、戦略的・持続的に進めるべき研究開発。これは、強いものを更にしっかりとやり続けるということです。何でも新しい施策を作ればいいというものではなく、きちんとした評価の下に、いいものはきちんと長く続けていくことが重要と思います。プログラムが何でも5年で終わってしまって、日本で先に始めたのに、日本が先に止めたから、諸外国が相対的に強くなるような、そういうナンセンスなことは避けたいということです。きょうの3件のプレゼンテーションも、そういう位置付けで文部科学省によって設計されたものだと考えております。

 (3)でございますが、研究開発の効率化・高速化を実現するラボ改革です。研究開発の効率化を図っていこうという世界的な流れがございます。スマートラボラトリとか、ロボットによる研究開発とか、あるいは、データ駆動型の流れ、あるいは、共用設備をいかに充実化していくかというあたりです。一個一個の政策がいい悪いというよりも、このようなことを、ポートフォリオを組んでしっかりとシステマティックに取り組むべきと思います。各々の施策間、あるいは、取組間もしっかり連携させながら進んでいかなければ、その施策だけが頑張ってもだめです。大きなポートフォリオを組んで考えでいかなければいけないということを書いていければと思います。

 また、(4)は、マテリアル革命のための推進方策。研究開発をしっかりと行うためには、推進方策もしっかりしていなければいけない。どういうコンセプトで、どういう土壌の下にそれらの研究開発をしていく。社会実装をどうするか、人材の確保をどうするか、あるいは、ELSIの話とか。産業と研究のギャップを埋める話もそうですが、全体としていかなるポートフォリオを組んで、この材料研究をしていくかということをここに書いていきたいと思います。

 全体として、我が国として、どのようにこの分野を進めていくかということを、我が国、あるいは、世界に対しても問うような内容が、先生方の御指摘を受けた形で出せればと思っております。

 どうもありがとうございます。

【三島主査】  どうもありがとうございました。まとめていただいて、ありがとうございました。

 それでは、この研究開発戦略、まだまだ素案の案ということですが、御意見がございましたら是非伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。どうぞ。

【瀬戸山委員】  研究の価値を維持するという視点で見たときに、先ほど知財の話をしていたんですけれども、国内出願ではなくて、本当にこの価値が将来どれだけ大きくなるかということ、海外出願を考えなければいけない場合が、ほとんどなんですね。

 そうしたときに、民間企業がやるときに、1件出すだけで1,000万円掛かります。それで、どれだけ出すかという話になると相当難しくなってくるので、例えば、全然違う仕組みの中で、海外出願の費用を大学でも普通に出せるぐらいのレベルにするとか、何かそういう仕組み、1,000万円ではなくて、200万円か、300万円か、それぐらいで海外出願できるような仕組みを作るなどに取組み、日本が、まだはっきり見えないものの将来大化けするようなものの価値を維持するというようなことを入れていかないと、こういうふうに研究を続けます、開発も続けますというだけではなくて、もう既に作ってしまったものなんだけれども、それの価値を維持するという視点がなければ、やっぱり真似されますよね。そこをどういうふうに考えるかというあたりを、考えがあればお聞きしたいと思います。

【中山委員】  おっしゃるとおりです。ただ、これも材料だけのところで解決する話ではなくて、我が国として、いかに投資したものを価値に換えていくかという話です。多分、これは文科省だけではなくて、経済産業省とか、内閣府とか、それこそ我が国全体のレベルで、国家戦略として考えていく内容でしょう。諸外国は、特許戦略は国家戦略だと考えて実行しています。無邪気に特許を書いて、他国に開示してしまうようなことではなくて、しかも、使いたいときには、特許切れみたいな、良くない例もあるようです。どのぐらい実効性があるか分かりませんが、そういう問題は意識しながら検討します。そういうことを次の第6期科学技術基本計画でしっかり議論していただくとか、大事な話だと思います。

【瀬戸山委員】  特許庁の管轄というのは、経産省ですよね。

【中山委員】  もちろんそうで、一義的には経産省だと思います。

【瀬戸山委員】  そこはやっぱり仕組みを変えていくようなことをやらないと、できないのではないのかなと思うんですけど。

【中山委員】  そうですね。

【三島主査】  どうぞ。

【五十嵐主査代理】  今のお話に関連するんですが、基本特許に関しては、私は1,000万円掛かっても、PCT出願で是非海外に出していただきたいと思っています。

 例えば、1つ新しい機能がナノマテリアルで発見されたと。それが実際にデバイスに組み込まれるのに、恐らく10年掛かります。ただ、その間に、企業がその技術に目を付ければ、必ず周辺特許をたくさん出願します。例えば、30件、50件出願すると。それを全て海外出願しようと思うと、膨大な費用が掛かるんですけれども、基本特許1件を明確に最初に出願しておけば、海外の技術者は、ちゃんとそれをリスペクトして、必ずそれを踏まえた応用開発をしてきます。ですから、日本オリジナルな技術として、まず海外にPCT出願をしていただくと、それが将来絶対に効率的に有効に効くと私は考えますので、是非、最初躊躇せずに、1,000万円掛かってでもやっていただきたいと思います。

【橋本委員】  よろしいですか。

 今のような議論は様々なところで行っており、その際経産省も入って一緒に行っていたり、内閣府の方でもそういう議論を出していたりします。おっしゃるとおりなのですが、結局、出願費用が厳しく、もっと厳しいのが維持費です。プロジェクトが行われているときには、プロジェクトのお金で維持できますが、プロジェクトが終了してしまうと維持費が出せません。そういった現状に対して経産省は、それは産業界から出してもらうものだと言います。

 しかし産業界は、やはりすぐに予算を出しません。かなり短期的なものには出してくれますが、長期的に役に立つか分からないものに対しては、現実としてなかなか出してはいただけませんし、出す仕組みがない状態です。

 そういった現状を打開すべく、例えば特許料の維持費を下げるとか、あるいは、出し方を考えるといったことを、特許庁の人を呼んで議論をしているのですが、現時点ではいい案がなく、大学なり国研に任されているのですが、もうとっても無理なことを言われています。

 その理由は、対応案が出せないというものです。今申し上げた通り、経産省の言い分は明確で、維持費等は企業が出すものであり、出さなければ企業が悪いと言われます。ただ、産業界もやはり確実に利益になるもの等にはもちろん絶対取っていくでしょうけど、どうなるか分からないがおそらく重要であろうというものには予算を出しませんし、重要度がどの程度あれば投資できるのかと言ったときに、その判断は現実的には難しいと考えます。

 だからといって、黙っているだけでは問題は解決しませんので、開発局環エネ課でも経産省と合同で議論をしておられるところですが、まだ良い解はない状況とのことです。よって様々な方からどんどん言っていただくことが重要かと思っています。

 なお内閣府で検討する際も、やはり解がないものですから、そこで終わってしまい、施策に落とせません。よって是非何かアイデアがあれば出していただきたく。すぐには出ないと思いますのが、一所懸命お考えいただければと思います。

【三島主査】  じゃ、五十嵐さん。

【五十嵐主査代理】  今の件で、恐らく成功例を示してあげると、そういう施策にも反映できるのではないかなと思うんですね。やっぱり1件の基本特許が本当にそれが効果的に今でも効いているという、そういう例もありますので。

【橋本委員】  ただ財務省は納得してくれません。

【五十嵐主査代理】  そうなんですね。

【橋本委員】  よって、どの程度の基本特許があり、予算をどれだけ投入して、今出てきたのはどれだけである、グロスで利益があるということを明確に出せるならば1つの説得材料にはなるのですが、これはなかなか難しいと思います。良いところだけ取り出して説得したとしても問題かと考えます。本件は重要な問題だと理解しており、是非、いろいろなアイデアがあれば出していただきたいと思っています。

 また対応策として特許の維持費や出願料などはアカデミアの負担を減らすべきと考え、出願料に関しては、実はそれはあり得る話で、既に経産省の担当に申し入れており、前向きに検討すると聞いていますが、まだ具体的な動きにはなっていません。

【三島主査】  よろしいですか。

【瀬戸山委員】  例えば、知財の、そういう特許を書かせるソフトとか作れないんですかね。あるいは、弁理士の数を異常に増やすとか。だから、そこは手間が掛かっているんですよ。

【橋本委員】  現実として、出願より維持費の方が問題となっています。

【栗原委員】  維持費は一番難しい。

【三島主査】  ほかにございますか。馬場さん、どうぞ。

【馬場委員】  別な観点から少し意見を述べさせていただきます。

 齊藤参事官に御説明いただいた点、私も非常に重要であると思っておりますし、先ほどの橋本先生のNIMSのものが非常にいいモデルになるのかなと考えています。

 それから、中山さんから御説明いただいた開発戦略も、非常に大変な中、おまとめいただきまして、非常に分かりやすくなってきていると思います。

 その中で、きょう、各先生方のお話を聞いていて1つ思ったのが、例えば、先ほどのNIMSのお話で、電池の開発において、ナノ材料がゆえに、ナノ構造の中の、例えば、物質予想とか相互作用が重要であると。それから、瀬戸山さんがおっしゃった、細野先生との共同研究で、ゼオライト膜によるアンモニアの分離の原理も同じですよね。新しい分離が見つかって、新しいテクノロジーができると。

 先ほど瀬戸山さんに御説明いただいた、さきがけの最後の癌診断できるというやつも、私の部屋の若手の成果なんですが、あれも、ナノ構造と尿の中の生体成分の相互作用が非常に重要で、そういう意味では、ナノ材料がゆえに、いろんな分野で共通原理が多分あるはずで、それが、例えば、NIMSで電池の中で見つかったことが、ほかの分野にも十分波及しうると思うんですね。だから、そういううまい仕組みが、そういう情報が、例えば、我々がやっているようなバイオの分野にもちゃんと来ますとか、今、ものすごい量の論文が出ているので、我々のグループが電池の論文を読むなんていうことはもうほぼ不可能ですし、電池をやっている方が我々の分野の論文を読むなんて絶対不可能なんですね。

 ですから、そういう情報が、少なくとも我が国の文科省のプロジェクトの中ではうまくオープンにできる――全体にオープンする必要はないと思うんですが、それぞれのプロジェクトの中でうまく交流できるような形になると、特に大学に要求されているところは、そういう基礎的なところをちゃんと押さえて、そのメカニズムに基づいて、企業の方々が実際に製品を作るときのいろんな情報を得るということは重要だと思いますので、我々もできるだけ電池とか、もう既に進歩しているエレクトロニクスとか、そういうところの論文を少しずつは勉強しながらやるんですが、でも、専門が違うと理解できないところがあるので、やっぱりそういう形の情報が共有できるような仕組みも、この齊藤参事官から頂いた書類の中でうまくできるといいなと思います。

 このペーパーだと、例えば、電池だと、あるモデルはできて、ほかの材料だと、別なモデルができると思うんですが、ナノ材料がゆえに、そこに共通の基礎的な基盤的な原理があるというふうに我々は考えていますので、それがうまく共有できると、それぞれにうまく発展できるのかなというふうなことを思いました。

 以上です。

【三島主査】  どうもありがとうございました。

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】  馬場先生の言われたこと、ナノテクの本質のところだと思います。ナノテクの本質は融合と思います。なぜ融合かというと、ナノレベルにしていくと、共通原理にたどり着いて、共通原理はどの分野でも使える。どの分野でも使えるということは、自ずと分野融合が生まれて、そこで付加価値が生まれるでしょう。いろんな分野の人が集まることによって、新たな付加価値、新たな産業競争力、競争力が生まれるから、ナノテクは施策上で有効なのだと思います。

 その考え方に基づいて、各国が施策を競って打ちました。研究者が少ない国でも、ナノテクのところにしっかり投じておけば、競争力が高まり、原理原則のところから付加価値が生まれるからということで、積極的な投資がなされています。例えば、シンガポールとか、台湾とか、かなりお金を投入しています。そういうことにみんな気付いているわけですね。

 なので、そのような本質のところは書いていくべきと思います。非常に本質的な御指摘ありがとうございます。

【三島主査】  どうぞ。

【加藤委員】  今の議論に付け加えますけど、ナノ材料とか、教科書が全くないのですね。つまり、ナノ材料の共通基盤の統一された教科書がありません。分子技術も一見各個的に見えますけど、やっている我々は、ある程度頭の中では基盤ができていて、基盤の教科書みたいなのは頭の中にあります。しかし、他の方々の目に見えるものがまずないので、まだ体系化されていないということになります。それで、それぞれの研究者が、自分の得意なところから見ていて、ああだこうだ言っている形になっているので、例えば、今ここにありますように、「ナノテク材料は我が国が強い」と言った場合に、どう体系化していくか、技術体系として作り上げていくか、各個性を外したときの共通性を抽出して共通基盤を作っていくかというのはとても大事なことだと思います。それが単純に教科書なのか、人なのか、考えていく必要があります。

扱ってみると分かりますけど、ナノテク材料って、パラメータが多すぎるのですね。だから、予測がつかないことが多くあるのです。界面もありますし、多層系ですし、難しいとみんな言うのですね。それをどう体系化していくかというのは、我が国の英知を集めて可能になると思っております。

 それから、馬場先生の御指摘の、ほかの分野にも使えるのではないかという話がありましたが、長い材料の歴史を見ていくと、最初に作った人が使い道を分からないことが多くの事例であるのですね。すなわち、出来ていて、本人が価値を分からない場合が、幾らでも歴史にあります。きょうは時間の関係で言えませんが。要するに、本人が気付かないものを、どうやって組織的に拾い上げて活用するかというのがとても大事で、割と大学の先生はシーズ関係でいきます。シーズ研究も不連続な発展を生み出すという点で、私は極めて大事だと思っています。問題は、それをどう組織的に拾い上げるかという仕組み、偶然の出会いではなくて、どこかで使えるということを個別的ではなくてやっていく。そういうことが、そういう仕組みを作っていくのが大事ではないかと思います。

 もう一つ、先ほど指摘あったように、膨大なデータ量が出て、ロボットか何かで探すとかありましたけど、人間同士の個人的な交流も非常に重要です。それを発展させて何か組織的にやる、体系化するということをできる力が日本にあると思います。なぜかというと、かなりいろいろな分野にプロがいます。これは世界的にみても優れている点であります。それをうまくまとめていくということが、ナノテク材料をうまくやることだと思います。

 たとえば、ナノテク学科は日本にないですね。みんな、自分の得意なところから見ているのです。でも、体系がないというか、電磁気学のように基本原理の式があるわけではないので、体系化のやり方がまた違います。だから、ナノテクの在り方として、どのように体系化するかというのが、これからの課題というか、重要なことだと思います。

 以上です。

【三島主査】  どうぞ。

【栗原委員】  今の御意見は全く同感です。今回、システム、デバイスをなさるということは、非常に貴重な積み重ねになると思います。従来ナノテクで分かった知見をいかにマクロに使いこなすかというところには、結構壁があって、それが、なかなか基礎研究がデバイスにつながらなかったということの1つの理由だと思います。ただのスケールアップではできないので、どこかに断絶がある。ナノ現象とマクロ現象の間の断絶をどうつなぐかというところの知見の共有、うまくそういうところが共有できていくと、一般的な言葉で、こういうデバイスなどにつながる、本当に役に立つナノテクというのができてくるのではないかと思います。

【三島主査】  ありがとうございます。

 それでは、大体時間でございますが、よろしいでしょうか。

 あとは、今後のスケジュール等になりますが、1つだけアナウンスをしたいと思います。昨日、4月10日に平成30年度の科学技術分野の文部科学大臣賞が発表されまして、この委員会からお二人受賞者が出ておられます。栗原委員と高梨委員でございますが、栗原委員の受賞理由が、「新規表面力装置の開発と材料科学への応用に関する研究」、高梨委員の受賞理由は、「規則合金のナノ構造化とスピントロニクス機能に関する研究」となっておりますので、みんなでおめでとうございますと申し上げたいと思います。

( 拍手 )

【三島主査】  それでは、事務局から、今後のスケジュールをお願いいたします。

【田村係長】  それでは、今後のスケジュールですが、次回、第5回の委員会につきましては、後日、メールにて御連絡させていただきます。

 本日の議事録につきましては、事務局にて案を作成し、委員、それから、御発表いただいた皆様に御確認いただき、また、主査にも御確認いただいて、後程ホームページにて公開いたします。

 資料につきましても、今回配付させていただいたものを主にホームページに公開させていただきます。

 また、本日の資料につきましては、封筒にお名前を書いていただいて、机上に置いておいていただければ、後日、事務局から郵送いたします。

 以上でございます。

【三島主査】  それでは本日のナノテクノロジー・材料委員会、以上でございます。どうも御協力ありがとうございました。

 

―― 了 ――

お問合せ先

研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

(研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付)