資料4-1 研究開発計画(案)

ナノテクノロジ―・材料科学技術委員会作成分

全体の目次

第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化

  • 情報科学技術委員会
  • (脳科学委員会、安全・安心科学技術及び社会連携委員会)
  • ナノテクノロジー・材料科学技術委員会
  • 先端研究基盤部会量子科学技術委員会

第2章 環境・エネルギーに関する課題への対応

  • 環境エネルギー科学技術委員会
  • 核融合科学技術委員会
  • (ナノテクノロジー・材料科学技術委員会、宇宙開発利用部会)

第3章 健康・医療・ライフサイエンスに関する課題への対応

  • ライフサイエンス委員会
  • (脳科学委員会、ナノテクノロジー・材料科学技術委員会)

第4章 安全・安心の確保に関する課題への対応

  • 防災科学技術委員会
  • (安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

第5章 国家戦略上重要な基幹技術の推進

  • 航空科学技術委員会
  • 原子力科学技術委員会
  • (宇宙開発利用部会)

※・:主な委員会、( )内:関係委員会等

ナノテクノロジ―・材料科学技術委員会作成部分  目次

第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化

1.大目標

1.大目標達成のために必要な中目標(情報科学技術分野)<省略>
2.大目標達成のために必要な中目標(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)
(1)中目標達成状況の評価のため指標(目標値)
(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組
1.未来社会における新たな価値創出に向けた研究開発の推進
ア.機能性材料・構造材料研究
イ.新たな研究開発手法の開発
(1)社会システムを俯瞰した材料開発(仮)
(2)データ駆動型の材料設計
(3)材料開発に資するプロセス技術の開発
(4)先端材料解析技術
ウ.未来社会創出に向けた挑戦的な研究開発
(1)ナノ構造の自在制御による新規材料技術の創出(仮)
(2)新たな技術領域を切り拓く基礎・基盤研究の強化
2.広範な社会的課題の解決に資する研究開発の推進
ア.エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化
イ.資源の安定的な確保と循環的な利用
ウ.効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策/国及び国民の安全・安心の確保と豊かで室の高い生活の実現
エ.ものづくり・コトづくりの競争力向上
オ.ナノテクノロジー・材料分野が貢献できる更なる社会課題とその対応

2.研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策

(1)人材育成
(2)オープンイノベーション(産学連携)の推進
(3)知的財産・標準化戦略(国際的な知的財産・標準化の戦略的活用)
(4)社会との関係深化
ア.ナノテクノロジーにおけるELSIおよびEHS
イ.研究動向調査及び情報発信・アウトリーチ
(5)ナノテクノロジー・材料科学技術を支える基盤の強化
ア.研究施設・設備の整備・共用等
イ.知的基盤としてのデータプラットフォームの整備・利活用
(6)国内外の研究ネットワーク構築の強化
(7)研究開発の加速に向けた取組

第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化

連携を取った委員会:

□:研究開発方策(追補)より抽出
□:委員等の指摘を抽出

1.大目標

 ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組により、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来社会の姿として共有し、その実現に向けた一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0」として強力に推進し、世界に先駆けて超スマート社会を実現していく。このため、国は、超スマート社会サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術及び個別システムにおいて新たな価値創出のコアとなり現実世界で機能する基盤技術について強化を図る。

【基本的認識】

ナノテクノロジー・材料科学技術が果たす役割
  • ナノテクノロジー・材料科学技術は、我が国の基幹産業を支える要であり、高い国際競争力を有している
  • 広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤であり、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵
  • 未来の超スマート社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術
  • 特に、ビッグデータやIoT、AIの台頭といった経済社会の新たな潮流を踏まえた革新として期待
ナノテクノロジー・材料科学技術の推進に向けた基本的な考え方

(1)圧倒的な広がりのある基礎的、基盤的研究としての振興

  • ナノテクノロジー・材料科学技術は、広範な分野の先端を切り拓くために必須であり、その広がりを意識した研究振興方策を取るべき
  • 新たな指導原理に基づく材料開発により世界をリードし続けることが重要
  • セレンディピティを生み出しやすい環境を整えることが極めて重要
  • ハイリスクの研究を根気強く支援することも効果的
  • 異分野融合研究の触発、若手研究者の柔軟な発想、能力を十分に活用

(2)広範な社会的課題の解決に資する研究開発の推進

  • これまでにない応用先の開拓も重要

(3)未来社会における新たな価値創出の推進

  • 我が国の強みである「ナノテク・材料」を活かしながら、超スマート社会を実現していくという観点が必要

(4)我が国の強みを伸ばす戦略的な研究開発の推進

  • 機能性材料研究:機能に着目しつつ材料横断的に研究を推進
  • 構造材料研究:総合的なアプローチが必要
  • 情報科学と材料科学を融合した新たなデータ駆動型の材料設計技術(マテリアルズ・インフォマティクス)を確立
  • 希少元素を全く用いないことのみを至上主義とせず、あらゆる元素の無限の組み合わせの中から未知なる革新的機能を探索
  • 研究の対象材料が有する特徴や関連産業の国内外動向等に応じた適切な国際標準化戦略や知的財産戦略を持つことが重要

(5)「基礎から応用へ」、「応用から基礎へ」の循環

  • 「循環研究」が行われることが、課題の解決とサイエンスの発展の双方にとって重要
  • 革新的な技術の実現や新たな科学の創出に向け、社会実装に向けた開発と基礎研究が相互に刺激し合いスパイラル的に研究開発を進めることが重要
  • プロジェクトの初期段階・企画段階から産学官が膝詰めで議論・協働を行うことが重要
  • デバイスやシステムを理解する研究者層が必須であり、産業界のみならず学術界においてもこのような人材を育成することが必要
  • 材料が社会にどのような影響を与えるかという「システム」的な視点と特定の材料機能を追及する「材料科学」的な視点を分けるのではなく融合しながら進めることが重要
  • 「サイエンス」と「テクノロジー」の階層構造と関係性を把握しながら進めることが重要

(6)人材の育成・確保

  • 広範な分野の基礎的素養を身に付け、俯瞰的視野を持った上で研究を推進できる人材を育成することが重要
  • 産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを育成すること、新たな知見の創出にとどまらず社会的価値への展開を戦略的に推進するリーダーを、世界最先端の研究拠点の中で育成することが重要
  • 優れた技術支援者を育成・確保する

1.大目標達成のために必要な中目標(情報科学技術分野)<省略>

2.大目標達成のために必要な中目標(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)

 ナノテクノロジー・材料科学技術分野は我が国が高い競争力を有する分野であるとともに、広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤であり、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として広範な社会的課題の解決に資すると共に、未来の社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術である。また、革新的な技術の実現や新たな科学の創出に向けては、社会実装に向けた開発と基礎研究が相互に刺激し合いスパイラル的に研究開発を進めることが重要である。
 これらを踏まえ、中長期的視点での基礎的な研究の推進や社会ニーズを踏まえた技術シーズの展開等に取り組むことにより、本分野の強化を図る。

(1)中目標達成状況の評価のため指標(目標値)

 中目標に向け、各分野の研究開発がうまく実施されているかどうかを評価するための指標(アウトプット指標、アウトカム指標(例:論文数、特許件数))を設定。達成すべき状況を定量的に明記することが可能な場合は、目標値も定める。

(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組

1.未来社会における新たな価値創出に向けた研究開発の推進

 我が国の強みであるナノテクノロジー・材料科学技術を活かしながら未来社会を実現していくことが求められている。また、不確実な状況にも対応可能な基盤技術に関する研究開発や複数領域に横断的に活用可能な科学に関する研究開発を行うことも重要である。これらの実現の為に必要となる機能性材料や構造材料等の研究やデータ駆動型の材料設計等の新たな研究手法の開発等を推進する。

【論点】

  • 未来社会の実現に向け強く求められる機能性材料、構造材料分野において重点的に推進すべき研究開発領域について
  • 例えば、着目すべき異分野融合研究(ナノ×ICT、ナノ×バイオ 等)
  • 目指すべき社会の姿を踏まえた技術シナリオ設計が重要
  • データ駆動型の材料設計の進め方(情報科学者との連携や産学官のデータ連携 等)
  • 求められる研究開発の進め方について(社会実装と基礎研究とが相互に刺激し合うスパイラル的な研究開発の推進等)  等
ア.機能性材料・構造材料研究

 「Society5.0」(超スマート社会)の実現に向けて鍵となるサイバー空間関連技術やフィジカル空間(現実空間)関連技術を横断的に支える基盤技術である素材・ナノテクノロジーとして、エネルギー、インフラ、健康医療等を支える機能性材料や革新的構造材料の開発を推進し、それらを適用したコンポーネントの高度化を進めることが重要である。
 そこで、個別システムの高度化※(エネルギーバリューチェーンの最適化等)に資する高効率な電力制御につながるパワー半導体技術や工業プロセスの革新に資する反応・合成技術、省エネルギーのための高輝度発光材料、クリーンで経済的なエネルギーシステムの実現に貢献する磁性材料、燃料電池、電力貯蔵用二次電池等の開発や太陽光発電技術の高度化、情報通信技術分野の省エネに繋がる大容量メモリ、ストレージ技術に不可欠なスピントロニクス素子、省エネルギー・低環境負荷の実現のため、輸送機器材料の軽量化・高強度化、自動運転や安全確保のためのセンサデバイス、省資源のための物質分離技術・高性能吸着材や希少元素を抜本的に削減した代替材料の開発、再生医療のための生体接着剤や骨折治癒材料等、幅広い分野に貢献する機能性材料における研究開発を引き続き強化し、その機能のさらなる顕在化を図る。
 また、構造材料については、精緻な特性評価技術や組織解析技術等を活用して材料の劣化機構の解明を進めるとともに、その知見に基づいた材料の高信頼性化を進めるなど、総合的なアプローチを行う。具体的には、エネルギーインフラ材料の耐熱性向上や輸送機器からインフラ構造体まであらゆる分野でのマルチマテリアル化の急速な進展に対応するため、金属と樹脂等の異種材料を構造体化するための高信頼性接合・接着技術等の開発を進める。

※科学技術イノベーション総合戦略2015で定められた超スマート社会の実現に向けて先行的に進める11のシステム(エネルギーバリューチェーンの最適化、地球環境情報プラットフォームの構築、効率的かつ効果的なインフラ維持管理・更新の実現、自然災害に対する強靱な社会の実現、高度道路交通システム、新たなものづくりシステム、統合型材料開発システム、地域包括ケアシステムの推進、おもてなしシステム、スマート・フードチェーンシステム、スマート生産システム)。

イ. 新たな研究開発手法の開発

(1)社会システムを俯瞰した材料開発(仮)

 持続可能な未来社会を実現するためには、既存の研究開発の延長ではなく、「ズームアウト」の視点による社会システム全体を俯瞰した目標設定と、「ズームイン」の視点による要素技術課題へのブレークダウンの双方が必要である。研究開発に当たっては、未来社会のニーズと材料シーズの適切なマッチングを図るため、社会システム全体を俯瞰した技術統合と理論・計測・材料創製を融合した材料研究との協働による研究開発が重要であり、これを踏まえ、太陽光エネルギーから出発するエネルギーフローに関わる一連の材料を一つの研究対象とし、技術シーズの源泉となる基礎基盤研究を強化し、出口課題の実用化に向けた研究開発を推進する。

(2)データ駆動型の材料設計

 新たなデータ駆動型の材料設計技術「マテリアルズ・インフォマティクス」は、物質・材料分野における膨大なデータ群に、最先端のデータ科学・情報科学の手法を組み合わせることにより物質・材料の研究開発を飛躍的に加速させ、材料の開発手法にパラダイムシフトをもたらす可能性を持つ。本研究領域の開拓は、国際的な潮流の観点からも、我が国の物質・材料研究の発展にとって重要であることから、基盤の整備も含め、これを活用した材料開発に積極的に取り組む。
 具体的には、様々な研究を通じて蓄積された膨大・高品質なデータを産学官で共有・利活用を行うためのデータプラットフォームを構築し、最先端のデータ科学、情報科学等の多様な手法やツールを駆使した情報統合型の材料開発システムの整備を行い、物質探索・設計の成功事例の創出等に取り組む。本研究の知的基盤となるデータベースの整備を進め、材料研究のニーズに合った形で提供するためのデータ収集・管理・提供技術の開発を継続的に行い、材料データプラットフォームの効率化も推進する。データプラットフォームの構築にあたっては、様々な研究機関からデータを集めるための制度設計や体制整備等に取り組む。

(3)材料開発に資するプロセス技術の開発

 材料を開発し、社会実装へと繋げるため、スマート生産システムへの対応や経済合理性等を考慮した製造(プロセス)技術の開発等に注力する。これらの開発を一体で推進することにより、機能発現の本質と製造プロセスに用いられる要素反応・要素過程の理解を同時に進め、その知見に基づき高機能材料を開発する。計算科学・データ科学との融合によるプロセス・インフォマティクスにも取り組む。

(4)先端材料解析技術

 革新的な機能を持つ材料の開発には、その機能発現メカニズムの根源的かつ効率的な解明が重要であり、最先端の材料計測解析技術を包括的かつ相補的に開発することが求められる。
 そのため、ナノからマクロまでの様々なスケールでの計測技術、実使用環境下(オペランド)での計測技術・解析システムを開発するとともに、計算科学との融合による計測インフォマティクス等に取り組む。また、新規計測手法のシーズとなる独創的な計測解析手法の開拓を推進し、得られたシーズを基盤技術化することで、革新的な計測技術の実現を目指す。

ウ.未来社会創出に向けた挑戦的な研究開発

(1)ナノ構造の自在制御による新規材料技術の創出(仮)

 物質をナノメートルレンジのサイズ、形状に制御することにより先鋭化された形で現れる機能性や反応性を高度に制御・変調する新しいナノ材料創製技術、「ナノアーキテクトニクス(ナノの建築学)」を確立し、経済・社会的課題の解決や超スマート社会実現の鍵となる、エレクトロニクス、環境・エネルギー技術、バイオ技術等の革新に繋がる新材料、デバイスの創製を行う。具体的には、有機-無機-金属にわたる広範な材料系において、組成、構造、サイズ、形状が精密制御されたナノ物質を高度に配列、集積化、複合化するとともに、それにより設計・構築された人工ナノ材料、ナノシステムにより、斬新な機能の創発を図る。ナノ材料科学者を中心に、物理、化学、生体材料、デバイス、理論計算等、多彩な専門家集団を本領域に結集し、異分野間の連携・融合を通じて、様々な技術分野に新展開をもたらす新規材料技術の創出を行う。

(2)新たな技術領域を切り拓く基礎・基盤研究の強化

 研究者の自由な発想による研究を格段に発展させる学術研究から、社会経済や科学技術の発展、国民生活の向上に寄与する研究成果の実用化を見据えた研究までを総合的に支援するとともに、国内外の研究動向を踏まえ、組織や分野の枠を超えた研究体制の下、将来社会に大きな影響をもたらす新技術シーズの創出や将来のプロジェクトの芽を創出するような探索型研究に取り組む。その際、異分野融合を重視しつつ、先導的で挑戦的な課題を積極的に取り上げることで、革新的な技術シーズの創出を促進する。
 具体的には、高度な熱マネジメントで重要となるナノ領域の熱制御技術、材料研究等における計測・診断・イメージングの高度化、有用物質創成等に資するバイオテクノロジー、多様な天然炭素資源を活用する革新的触媒の創製、二次元機能性原子や分子薄膜による部素材・デバイスの創製、物質中の微細な空間空隙構造制御や界面制御技術、分子の自在設計・制御を実現する分子技術、素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成等の基礎研究を中長期視点に立って推進する。
 この他、不確実性への対応も見据え、文理融合や技術融合等の異分野融合による新領域の開拓や、世界最高水準の研究成果の創出に向けた特定領域の先鋭化にも取り組む。

2.広範な社会的課題の解決に資する研究開発の推進

 第5期科学技術基本計画も踏まえ、エネルギーの一層の効率的利用や医療分野への応用、社会インフラの老朽化対策等、近年顕在化している社会的課題への解決の鍵となるナノテクノロジー・材料科学技術分野の研究開発を、実用化も見据えつつ推進する。
 具体的には、第5期科学技術基本計画に掲げられている13の重要政策課題のうち、特にナノテクノロジー・材料分野として大きな貢献が見込まれる以下の課題を中心に、その解決を実現すべく、必要な取組を推進する。また、これまでに解決できていない課題や新たな課題等、応用先の開拓にも取り組む。

【論点】

  • 重点的に推進すべき研究開発領域について(効果的な選択と集中のあり方)
  • 重点推進分野の選定に向けた科学技術インテリジェンスの活用について
  • 優れた技術シーズを展開していく仕組みづくり
  • サイエンスベースでの到達点を意識しながらシナリオ設計し評価する仕組みが必要。
  • 「システム」的な視点と特定の材料機能の特性発現を追求する「材料」的な視点を分けるのではなく融合しながら進める仕組み。その際の人材の新陳代謝の促進

【参考(「ナノテクノロジー・材料科学技術の研究開発方策について<追補>より」)】

 近年顕在化した社会的課題や、昔から認識されていつつも未解決な課題・命題に革新的なアプローチを提供し、解決に導く取組を推進する。一例として以下のものが挙げられる。

  • 将来の一層の省エネルギー化やエネルギー源の多様化を推進するため、革新的な熱電変換材料や圧電変換材料、触媒、パワー半導体等、今後の一層の高効率なエネルギー変換を可能とする材料の研究を推進する。
  • 先進諸国に先駆けて高齢化を迎える我が国においては、非侵襲治療や高精度診断等の高付加価値な医療が広く普及した社会の実現に向け、微細加工技術や分子合成技術等を駆使し、医療分野のニーズを踏まえたナノテクノロジー・材料の研究開発を推進する。
ア.エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化

 再生可能エネルギーの活用と、エネルギー貯蔵、輸送システムの革新によるエネルギー利用の効率化は、資源の少ない我が国にとってエネルギー安全保障上重要であるとともに、地球温暖化抑止に向けた低炭素社会の実現と持続可能な社会の構築にも大きく貢献する。そのため、多様なエネルギー利用を実現するための研究開発として、システム化・デバイス化を念頭に、太陽電池や燃料電池、エネルギー変換・貯蔵等のための材料開発を行うものとする。また、最終システムを意識しつつ、エネルギーの高効率変換等に関わる大きなブレークスルーに繋がる次世代の技術シーズを探索する。
 さらに、低環境負荷社会に資する高効率・高性能な輸送機器材料やエネルギーインフラ材料の開発を推進する。

イ.資源の安定的な確保と循環的な利用

 レアアース等の材料の高性能化に必須な希少元素の世界的な需要急増や資源国の輸出管理政策により、深刻な供給不足を経験した我が国では、資源リスクを克服・超越する「元素戦略」が必要不可欠である。特に、ナノレベル(原子・分子レベル)での理論・解析・制御によって元素の秘めた機能を自在に活用することが、新たな高機能材料の創製や希少元素代替・減量の実現、ひいては産業競争力の鍵となる。そこで、希少元素を用いない、全く新しい代替材料の創製等に取り組む。

ウ.効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策/国及び国民の安全・安心の確保と豊かで室の高い生活の実現

 国民生活や経済・社会活動を支えている公共インフラはその多くが高度経済成長期に建設されているため、高齢化が進んでおり、重大事故の可能性が上昇するとともに、維持補修に必要な経費も増大していくことが大きな社会的課題となっている。また、我が国は、地震・津波、水害・土砂災害、火山噴火などの大規模な自然災害により数多くの被害を受けており、このような自然災害に対して、国民の安全・安心を確保してレジリエントな社会を構築することが課題となっている。
 そのため、公共インフラの効率的な維持管理・更新や、国土強靭化に資する社会インフラ材料の高性能化・高信頼性化のための基礎・基盤技術の開発等を推進する。具体的には、維持管理・更新技術として、構造物の劣化・損傷等を正確に判断するためのセンサ・ロボット・非破壊検査技術や計測データを収集・伝送する通信技術等の点検技術、点検結果に基づき補修・更新の必要性を判断する評価技術、構造物に必要な強度や耐熱性を効率的に付与する補修補強技術等の研究開発を進める。また、エネルギーインフラ材料の耐熱性向上や輸送機器からインフラ構造体まであらゆる分野でのマルチマテリアル化の急速な進展への対応として、金属と樹脂等の異種材料を構造体化するための高信頼性接合・接着技術の開発を進める。

エ.ものづくり・コトづくりの競争力向上

 安価な生産コストを武器とした中国等の新興国の追い上げや、インダストリー4.0 等の国家イニシアティブを掲げる欧米諸国における製造業の徹底的なICT化といった世界の動向に対し、我が国の製造業が更なる競争力・収益力の強化や新市場の創出等を実現するためには、これまでの我が国の強みであるフィジカル関連技術のさらなる進化に加え、それらとIoTやビッグデータ、AI等のICTとを融合させることにより、新たなものづくりシステムの開発することが課題である。
 上記の課題解決のため、ナノテクノロジー・材料分野においては、材料データベースの整備、データ解析ツールの開発、物質探索の成功事例の創出に向けた体制を整備する。さらに、理論・実験・解析・シミュレーション・データベースなどを融合して、材料のパフォーマンスを含めて性能予測が可能なマテリアルズインテグレーションとも連携し、国際的な競争の中でいち早く材料から部材までの一貫した開発を行う。

オ.ナノテクノロジー・材料分野が貢献できる更なる社会課題とその対応

今後の議論を踏まえて適宜追加

  • 社会課題を列挙+それぞれに対する取組を記載
  • 応用研究・実用化研究(研究成果展開事業等)を記載
  • (その他、関係施策が読めるように記載)

2.研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策

(1)人材育成

 クロスアポイントメントやインターンシップ、出向などの制度の積極的活用を図り各研究機関の交流を促進すると共に、産学官連携等を通じた研究者の多様なキャリアパスの確保や優秀な若手研究者が能力を発揮できる環境の整備を図る。激しい国際競争が行われる中、世界に先駆けて革新的な材料開発を行うことが求められており、広範な分野の基礎的素養を身に着け、俯瞰的視野を持った上で研究を推進できる人材の育成を支援するとともに、世界に通用する人材へと育成するために、国際的な研究者ネットワークへの参画等を促進する。さらに、ナノテクノロジー・材料科学技術の多様な研究活動を支える上で、高度な分析、加工等の専門能力を有する技術者が極めて重要な役割を果たしていることから、技術者の養成と能力開発等に着実に取り組む。

(2)オープンイノベーション(産学連携)の推進

 企業や大学、公的研究機関等の人材、知、資金が結集する産学官、グローバル拠点の形成や、全国の研究機関のネットワーク化等を通じ、人材育成や分野融合を促進すると共に、我が国全体の材料開発力の強化を図る。具体的には、世界最高水準の研究開発成果を創出し、イノベーションシステムを強力に駆動する役割を果たす特定国立研究開発法人となる物質・材料研究機構を中核として、大企業や中小・ベンチャー企業のニーズ等を踏まえつつ、我が国全体の革新材料創出力強化に向けた国際研究拠点の形成とその活用を推進する。また、成果の展開に向けて、共同研究や事業化に向けた取組等、個別の産学連携も推進する。
 また、大学共同利用機関法人や共同利用・共同研究拠点、SPring-8やスパコン「京」等の大型共用研究施設・設備や地方が有する比較的小型のシンクロトロン等、他の共用のフレームワークも一層積極的に活用し、産学官が一丸となって材料分野の研究開発を推進する体制を整備する。

【論点】

  • 出口も意識した上でのオープンイノベーションの進め方
  • 大学を含めた仕組みを検討し、場を活用した人材育成の観点が重要
  • 各研究機関における知財を含めた技術戦略や事業戦略策定が必要

(3)知的財産・標準化戦略

 日本再興戦略等で掲げられている「GDP600兆円経済」の実現には、経済的波及効果の大きい社会システムに関連する分野であり、国際的な競争が激化しているナノテクノロジー・材料分野については、研究の対象材料が有する特徴や関連産業の国内外動向等に応じた適切な知的財産・標準化戦略が重要となる。

今後の議論を踏まえて適宜追加

(4)社会との関係深化

ア.ナノテクノロジーにおけるELSIおよびEHS

ナノテクノロジーの倫理的法的社会的影響(ELSI)、環境・健康・安全(EHS)に係る検討等を図ることが重要である。

イ.情報発信・アウトリーチ

 得られた研究成果を新たな価値創造に結びつけるため、成果の社会における認知度を高め、社会還元に繋げていく。また、産学官連携による研究情報の蓄積・発信体制の強化を図り、我が国における研究情報の好循環と戦略的な社会実装を促す。

(5)ナノテクノロジー・材料科学技術を支える基盤の強化

 先端計測等のナノテクノロジー・材料科学技術の研究開発に当たって基盤となる技術に関する研究開発を推進すると共に、最先端の計測・加工設備の共用及びデータプラットフォームの戦略的利活用を両者の融合を図りながら推進する。データプラットフォームの構築にあたっては、材料科学のみならず、システム工学や情報科学等の人材とも連携し、様々な研究機関からデータを集めるための制度設計や体制整備等に取り組む。

【論点】

  • 共通基盤技術と研究機器の戦略的開発・利用
  • 産学官が利用する研究施設・設備及び知的基盤の整備・共用、ネットワーク化
  • サイバーとフィジカルのインターフェース
  • データベースの構築、データの戦略的な共有・利活用に向けた取組(様々な研究機関からデータを引き出してもらうことも含め事業戦略、技術戦略が重要)
ア.研究施設・設備の整備・共用等

 我が国の部素材開発の基礎力引上げとイノベーション創出に向けた強固な研究基盤を形成するために、ナノテクノロジーに関する最先端設備の有効活用、今後を見据えた更新・導入、及び相互のネットワーク化を引き続き促進する。産業界を含め幅広い研究者等の利用が見込まれる研究施設・設備間のネットワーク構築や、各施設・設備等における利用者視点基づく、あるいはそれぞれの組織の特徴・特性に応じた整備運用・共用体制の持続的な改善を促す。具体的には、利用者が必要とする支援に対して、その多様化を図るため、共用機関ネットワークを強化し、各種の支援技術の更なる向上を進めるとともに機関間での共有化を行う。また、施設共用の視点のみにとどまらず、研究施設及び設備を共用する際の多様な支援形態に対応可能な研究者及び技術者の育成やイノベーション創出に寄与する次世代の若手利用者の育成にも貢献する。これらの共用の活動を通じて、我が国のナノテクノロジー・材料研究の研究開発投資効率と成果最大化に資する。

イ.知的基盤としてのデータプラットフォームの整備・利活用

 科学研究活動の効率化と生産性の向上を目指し、オープン/シェア/クローズド等の戦略の下、適切な産学官連携・国際連携により、新たな価値の創出につなげるデータプラットフォーム拠点を構築する。この際、企業や大学が積極的にデータベースを活用する仕組みの構築やセキュリティの確保に努める。

(6)国内外の研究ネットワーク構築の強化

 公的研究機関の橋渡し機能を強化する仕組みを整備することにより、地方の優秀な研究者との共同研究等を推進し、日本における人的ネットワークを構築する。これにより、例えば地方大学の研究者と企業の出会いの場を積極的に作り出す等、新たなイノベーションの創出を誘発する環境作りを進める。また、我が国が強みを有するナノテクノロジー・材料分野の研究開発をさらに強化するために、世界中の研究機関から人・モノ・資金が集まる仕組みを構築する。
 具体的には世界中から優秀な人材を確保・育成することを通じ、海外研究機関との連携を構築・強化するとともに、その人的・機関的ネットワークを活用することで、更なる人材交流やモノ・資金が集まるような仕組み作りを進める。また、我が国の優れた研究成果を世界に発信することも視野に入れ、諸外国や地域と連携した国際共同研究等により、我が国の競争力の源泉となり得る科学技術を発展させる。

(7)戦略的研究テーマ等の提案力の向上

 政策立案や戦略策定に向けて、科学技術シーズや技術動向、特許動向、社会的ニーズ、経済社会・国際情勢を掘り下げて分析するとともに、文部科学省や政府全体、更には世界各国の政策動向の調査を行い、未開拓の領域や真に求められる研究開発領域の把握に努める。この際、現場の実際の研究活動を通じて得られる内外の研究動向や各種動向調査からの情報も活用する。
 産学官のオープンイノベーションの取組や研究施設・設備の共用、データプラットフォームの整備・活用を行い、上記取組により得られた情報や地方・海外とのネットワーク構築等を通じて得られた知見を集約するとともに、最大限活用する仕組みを整備することにより、世界に先駆けた材料開発を推進するための戦略的な研究テーマの設定や研究課題の解決のための提案力を強化し、我が国全体のナノテクノロジー・材料開発力の向上を図る。

お問合せ先

研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

(研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付)