我が国の経済社会は、エネルギー・資源・食料の制約や、少子高齢化・人口減少などの課題、地域社会の疲弊といった構造的な問題を抱えている。また、大規模地震、サイバー攻撃を含む安全保障環境の変化など、国及び国民の安全・安心を脅かすリスクへの対応が求められるとともに、地球温暖化問題やパンデミックといった地球規模の課題へも国際社会と協調しながら対応していくことも求められる。さらに、東日本大震災後、被災地域には力強い再生が見られる一方、いまだ苦難を強いられている被災者も多い中、復興の加速化に引き続き取り組んでいく必要がある。
そのため、新たな時代に対応できる「知」の資産を基に、生産性の向上、地域ひいては国の国際産業競争力を引き上げ、持続的な成長と地域社会の自律的な発展を実現していくとともに、安全・安心、豊かで質の高い生活を実感でき、さらには地球規模の課題解決にも貢献していく国を目指し、我が国を取り巻く目下の様々な課題に的確に対応していく必要がある。
目指すべき国の姿を踏まえ、研究開発等の推進に当たって、(1)持続的な成長と地域社会の自律的な発展、(2)安全・安心な生活の実現、(3)地球規模の問題への対応と世界の発展への貢献という3つの理念を掲げ、その実現のために国として取り組むべき重要課題を設定し、その達成に向けて推進すべき研究開発を始めとする関連施策の基本的方向性を提示する。
我が国の持続的な成長と地域社会の自律的な発展のためには、経済社会の基盤となるエネルギー、資源、食料等の安定的な確保はもとより、その確保に伴う国富の流出への対応の視点や地産地消の視点も重要となる。また、高齢化の進行に伴う社会保障費の増大やインフラの老朽化等によって将来大幅に拡大する「社会のコスト」への適切な対応を図ることが求められる。さらに、今後、急激な人口減少社会が到来する中で、国際産業競争力の低下や地域活力の低下という課題に対処するため、大変革時代に対応した生産性の向上や新たな価値の付与等による産業競争力の向上も重要である。以上から、次の課題を重要課題として設定する。
エネルギー・資源・食料の安定的な確保に向けて、研究開発等の関連施策を重点的に推進すべき課題として以下に掲げるようなものが挙げられる。
超高齢化・人口減少社会、インフラの老朽化等に対応する持続可能な社会の実現に向けて、研究開発等の関連施策を重点的に推進すべき課題として以下に掲げるようなものが挙げられる。
産業競争力、地域活力の向上に向けて、研究開発等の関連施策を重点的に推進すべき課題として以下に掲げるようなものが挙げられる。
持続的な成長と社会の発展の中で、豊かで質の高い生活を確保するとともに、大規模地震や火山噴火などの自然災害のリスクや、厳しさを増す安全保障環境の中で、国民の生命、財産を守り、安全・安心な社会を継続的に実現していくことが重要である。このため、「国及び国民の安全・安心の確保」を重要課題として設定する。
国及び国民の安全・安心の確保に向けて、研究開発等の関連施策を重点的に推進すべき課題として、以下に掲げるようなものが挙げられる。
気候変動への対応など地球規模での対応を要する環境問題に対して、国際的な協調を図りながら我が国の強みを活かして取り組んでいかなくてはならない。また、我が国の経験とこれまで培ってきた知見を活かし、課題先進国として世界で急速に進む深刻な社会問題の解決に貢献していく必要がある。このため、「地球規模の問題への対応と世界の発展への貢献」を重要課題として設定する。
地球規模の問題への対応と世界の発展への貢献に向けて、研究開発等の関連施策を重点的に推進すべき課題として、以下に掲げるようなものが挙げられる。
なお、上記の取組と並行して、それらの取組を横断的に支える基盤的な技術について先導的な研究開発を進めることは、様々な経済・社会的課題の解決に貢献するのみならず、我が国の中長期的な視点から未来の産業創造・社会変革という観点からも重要である。このため、本基本計画の最終取りまとめに向け、4.に記載した「超スマート社会」の形成に向けた技術開発や国家戦略上重要な技術開発を含め、こうした基盤的な技術の研究開発の推進方策について更に検討を行うこととする。
本基本計画の終了年は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」という。)の開催年でもある。このため、経済・社会的な課題への対応の第一段階の足掛かりとして大会の機会を活用し、基本計画の最終年に向けて、大会の実用化に照準を合わせた取組を促進し、大会を通して日本発の科学技術イノベーションを国内外へ発信することにより、我が国産業の世界展開や海外企業の対日投資等を喚起し、2020年以降も引き続き日本全体で経済の好循環を引き起こしていくためのトリガーとすることが期待される。
既に、大会に向けて取組を加速していくべき日本発の科学技術イノベーションの課題について検討を行い、スマートホスピタリティをはじめとした9つのプロジェクト※1を選定している。今後、これら9プロジェクトに関し、民間企業の参画を促しつつ、大会に向けて、プロジェクトの具体化と着実な推進を図っていくことが重要である。
※1 1.スマートホスピタリティ、2.感染症サーベイランス強化、3. 社会参加アシストシステム、4. 次世代都市交通システム、5.水素エネルギーシステム、6.ゲリラ豪雨・竜巻事前予測、7.移動最適化システム、8.新・臨場体験映像システム、9.ジャパンフラワープロジェクト
研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付