先行きの見通しが立ちにくい「大変革時代」において、直面する様々な経済・社会的な課題に対応していくとともに、未来の産業創造や社会変革に向けて挑戦し、我が国の繁栄と持続的発展を実現させていくためには、不確実な将来の変化に対応し挑戦を可能とする基盤的な力を培い、強化することが必要である。また、その基盤的な力をイノベーションの連鎖の原動力とするには、人材、知、資金のグローバルな好循環が欠かせない。
このため、若手人材を巡る諸問題への対応、基礎研究力の強化、国際共同研究の更なる推進、大学改革と研究資金改革の一体的推進や国立研究開発法人の機能強化の必要性などが指摘されているほか、人材流動化の妨げとなる壁の打破、優れた技術シーズを事業化に結びつける橋渡しなど、我が国の科学技術イノベーションのシステム全体の強化を図る包括的な取組が欠かせない。
こうしたことから、そのポテンシャルを最大限発揮する上で、効果的・効率的な政策の推進を阻害している様々な「壁」を取り払い、オープンなイノベーションシステムの最適化に取り組むことで、イノベーションの連鎖を生み出し、持続的で発展性のあるイノベーションシステムを実現する環境を整備する。
イノベーションの連鎖を生み出していくには、イノベーションの源となる「知」を生み出す科学技術の基盤的な力を強化するとともに、知を育み、新たな課題に挑戦する「場」を強化し、人材、知、資金のグローバルな好循環を促し、オープンなイノベーションシステムを構築することが重要となる。
本格的な人口減少・少子高齢化社会の到来やグローバルな人材獲得競争の激化により、科学技術イノベーション活動を担う人材の確保が一層困難になることが予想される。このような中で、高度な専門性と能力を有し、「知」の創出に向けて強い意欲・能力を持った人材や、イノベーションの構想力を持って事業化を含むマネジメントを行う多様な人材が年齢、性別、国籍にかかわらず知的プロフェッショナルとして、研究開発やイノベーションに関わる多様な場で活躍することが重要である。特に、知的プロフェッショナルとしての将来の大きなポテンシャルを有する若手や女性に対して、挑戦の機会をいかに拡大していくかという点は取り組むべき喫緊の課題である。
また、このような人材の強化に合わせて、知の創出、人材育成の場である大学の改革とその機能の強化に取り組む必要がある。国立大学の運営に関しては、基盤的経費と公募型資金によるデュアルサポートシステムの機能不全が示唆される中で、その対応が喫緊の課題となっており、大学改革と研究資金改革の一体的な推進が求められている。
また、我が国の基礎研究力の国際的な低下傾向が指摘される中で、持続的なイノベーションの創出のためには、多様で卓越した知識や価値を生み出す研究基盤の強化が不可欠である。
一方、イノベーションの創出には、大学、産業界、公的研究機関等の多様な組織や人材がそれぞれの役割を適切に果たしつつ「相互作用」することが欠かせない。このため、様々な関係者の立場・文化・価値観等に起因する壁を超えて、「相互作用」を生み出し、イノベーションを進める仕組みの展開や共創の場の形成に取り組んでいくことが求められており、その中核を担うことが期待される研究開発法人についても、その機能強化や研究開発成果の最大化に向けて研究開発業務の適正かつ効果的な運営が重要となっている。
また、民間企業は、新事業や新製品等の形でイノベーションを実装し経済的価値を実現していくドライバーである。しかしながら、中小・中堅・ベンチャー企業においてイノベーションの担い手として重要な役割を期待されているものの、そのポテンシャルは十分に活用されておらず、中小・中堅・ベンチャー企業の挑戦の機会の拡大に向け引き続き取り組むことが重要である。
さらに、これらの取組を進めていくに当たっては、必要となる研究開発能力、技術的知見、人的資源及び資金を広くオープンな外部市場から調達し、効率的なイノベーションを目指すオープンイノベーションを推進することが重要である。その際、オープンイノベーションの成功事例の共有や海外動向の把握、普及啓発活動などを実施していくことが有効である。また、「国境」の壁に制約されることなく、グローバルな視野の下に対応していくとともに、科学技術イノベーションの社会実装において、産業競争力の源泉として知的財産戦略の重要性はより一層高まっていることを踏まえ、知的財産を活用した事業化促進のため、「知的財産推進計画2015」(知的財産戦略本部)に基づく取組と連動しつつ、研究開発に着手する当初から、将来的な知的財産の権利化・標準化・秘匿化といった取扱いを見据えて戦略的に取り組むことが重要である。
以上から、イノベーションの連鎖を生み出すため、これまでの取組の進展も踏まえ、重点的に取り組むべき課題として、次の5つの課題を設定する。
上記の各課題に対して、それぞれ以下の重点的取組を設定する。
科学技術イノベーションを担うのは「人」である。専門分野をリードする卓越した研究者はもとより、イノベーションの構想力、事業化も含めたマネジメント力を持つ人材、イノベーションの現場を支える人材等が知的プロフェッショナルとして、多様な場において、それぞれの能力を、適材適所で発揮していくことが、イノベーションを創出し、我が国の持続的発展を支えていく上で不可欠である。
そのためには、多様で優秀な人材を継続的に育成・確保し社会に供給することが必要であり、特に若手研究者や博士課程学生などの若手人材に対して教育や活躍の場を提供することが重要である。また、女性の活躍促進は、男女共同参画の観点のみならず、多様な視点や発想を取り入れ、研究活動を活性化し、創造力を発揮する観点からも、科学技術イノベーション政策上、極めて重要である。さらに、これらの人材の海外での活躍を促進するとともに、海外の優秀な人材を積極的に取り込むことは、我が国の人材がグローバルで多様な視野を身に付けることにつながるとともに、国際的な頭脳循環や研究ネットワークにおける我が国の位置づけを高め、人材育成とイノベーション創出の好循環を生み出すことにつながる重要な取組である。
一方で、産業界が求める人材と大学が送り出す人材との間に質的・量的ギャップが存在し、人材配置の適材適所を可能にするキャリアパスの多様化が十分でないこと、また、科学技術イノベーション活動の中核となるべき若手研究者においては、世代間の壁により不安定な環境にあり、キャリアパスが不明確であることなどから、優秀な学生が博士課程を敬遠し、進学者数が減少傾向にあることは、我が国の科学技術イノベーションにとって危機的状況である。
また、我が国の研究者全体に占める女性の割合は増加傾向にあるが、主要国と比較すると未だに低い水準に留まる上に、特に指導的地位に就いている女性研究者が少ないという現状にある。
このような状況を踏まえると、我が国の将来の担い手である若手人材や、これまで十分に活躍の機会を得ることができる状況になかった女性人材に対して、科学技術イノベーションへの参入障壁を下げ、スキルアップをサポートし、社会での活躍を促進することが非常に重要かつ喫緊の課題である。
○若手人材の育成
○若手人材のキャリアパスの確立
○女性の参画の促進
イノベーションの源である多様な「知」と、それを生み出す「人材」を育む場として、大学の重要性はますます増大している。とりわけ、多くの公的研究資金が投じられている国立大学には、研究力の強化、産業界や地域などとの連携強化などを図り、イノベーション創出に貢献することが期待される。
しかし、国立大学を巡る課題は山積している。例えば、大学内のガバナンスをより効果的・効率的に機能させていく必要がある、適切な大学間競争が起こっていないといった指摘がある。また、基盤的な経費が年々減少する中、組織の裁量経費が減少してきた結果、研究の多様性や基礎研究力の相対的低下、若手人材の雇用の不安定化といった問題が生じ、デュアルサポートシステムが機能不全に陥っていることが示唆される。
このような国立大学の抱える様々な課題を解決し、その機能の強化を図るためには、国立大学の改革と政府の資金制度の改革を全体最適の視点から一体的に進め、大学自らがガバナンスの強化等の改革を行うとともに、資金を効果的・効率的に活用する必要がある。
このため、国立大学の運営・組織の在り方や運営費交付金の改革を進め、各大学自らの強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築するとともに、学長のリーダーシップによる学内のマネジメントを強化していくことが重要である。こうした取組を通じ、持続的な「競争力」を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学の実現を目指す。
また、大学における基盤的経費と公募型資金の役割を明確化するとともに、それぞれの役割を踏まえつつ、一体的に資金の有効活用を図ることにより、デュアルサポートシステムの再構築を図ることが必要である。
さらに、競争的資金については、関係府省全体で、不正対応や不合理な重複・過度な集中への対応、間接経費の措置、使い勝手の改善に資する使用ルールの簡素化・統一化の検討など着実に改善を進めている。今後は、競争的資金の使い勝手の改善やより効果的・効率的な資金の活用を目指し、研究機器の共用化の促進、使用ルールの統一化等を着実に実施していく。
加えて、大学独自の特色ある取組を進めるためには、政府からの資金のみならず、民間資金の活用促進などの多元的な資金確保が重要である。その際、研究機関の財務状況の透明性向上を前提に、民間資金の間接経費について、産学連携を加速する観点も踏まえて柔軟に措置されることが期待される。
一方で、競争的資金等は、科学技術イノベーション活動の根幹をなすものである。その改革は、研究力・研究成果の最大化に資する方向で進めるとともに、研究費を獲得した機関における組織の機能向上や所属研究者の育成にも資するものであり、ひいては我が国全体の科学技術イノベーションの推進に貢献するということに留意することが必要である。
また、競争的資金等の在り方は、若手人材の育成にも大きな影響を及ぼすものであり、我が国の人材力の強化の観点も踏まえ、その改革を進めていくことが重要である。なお、人材育成の観点からの取組については、本章(1)で記載する。
○国立大学法人運営費交付金等の改革による国立大学の機能強化の推進
〇デュアルサポートシステムの再構築
○研究力強化に資する研究資金の改革
○自律的な国立大学法人の経営を支える制度の構築
持続的なイノベーションの創出のためには、多様で卓越した知識や価値を生み出す研究基盤の強化が不可欠である。既存の知識やその応用にとどまらないブレークスルーを産み出すためには、柔軟な思考や斬新な発想に基づいた学術研究と出口を見据えた目的基礎研究の充実が重要である。
しかしながら、我が国の論文数、高被引用度論文数は共に伸びが十分でなく、国際的な地位が相対的に低下するなど、我が国の基礎研究力の低下が懸念される。また、我が国は、諸外国と比較して、学際的・分野融合的な領域において存在感が薄く、国際的に注目を集めている研究領域や既存の研究領域から独立した新しい研究領域への参画が少ない状況にある。さらに、世界全体で国際共著論文が大きく増えている中、我が国の国際共著論文の伸びは相対的に少ない。
これらの問題を解決し、イノベーションの源泉である学術研究・基礎研究を推進するための取組が早急に求められている。このため、研究者の内在的動機に基づき独創的で質の高い多様な成果を生み出す学術研究と、政策的な戦略や要請に基づく戦略的な基礎研究のバランスをとりながら推進することに留意しながら、特に、我が国の学術研究を支える最も基礎的な競争的資金である科学研究費助成事業(以下、「科研費」という。)や、戦略的な基礎研究を推進する代表的な事業である戦略的創造研究推進事業のさらなる改革・強化に取り組むことが重要である。
また、国内外から第一線の研究者を引き付け、国際頭脳循環の中核となる世界トップレベルの研究拠点の形成や、世界の学術研究を先導する大型プロジェクトの推進は、我が国が世界の中で存在感を発揮するとともに、国際共同研究や学際的・分野融合的な研究を促進し、基礎研究を向上させるために重要である。
さらに、我が国の研究成果を最大限活用し、また、制度間のシームレスな連携に資するため、研究情報・成果の一層の可視化のための取組を進めることが重要である。加えて、知の創出に新たな道を開くとともに、イノベーションの創出につながるオープンサイエンスの世界的な流れに適切に対応していくことも重要である。
○科学研究費助成事業の改革・強化
○戦略的な基礎研究の改革・強化
○研究情報・成果の可視化
○共同利用・共同研究体制の改革・強化
※大学共同利用機関及び国公私立大学における附置研究所等に端を発する共同利用・共同研究拠点を中心に構成される体制
○世界トップレベルの研究拠点の形成等の促進
○オープンサイエンスの推進
その際、個人のプライバシー、商業的目的で収集されたデータ、国家安全保障等に関わるものについては、公開対象適用外にする等の対応を講じる。【関係府省】
研究開発法人は、国家的あるいは国際的な要請に基づき、民間では困難な基礎・基盤的研究及び応用・開発研究、実証実験、技術基準の策定等、社会的・公共的・国民経済的価値に資するための研究開発等に、最大限の成果の確保を目的として取り組む組織である。
一方で、昨今のイノベーションを巡る国際競争が激化する中、優れた技術シーズを事業化に結びつける「橋渡し」機能の強化や、大学、研究開発法人、企業等の多様な組織や人材が、それぞれの枠を超えて連携しながら、イノベーションに向けた「相互作用」を起こすようなイノベーションハブの形成などにより、国際競争に打ち勝つ強靱なイノベーションシステムの構築が求められている。とりわけ、機関の長のトップダウンによる研究開発や、長期的・計画的な取組が継続的に実施できるといった特性を有するとともに、優れた研究者が多数在籍し、また、研究開発インフラが整備されている研究開発法人においては、こうしたイノベーションの中核機能を担うことが求められている。
こうした要請にも対応し、国家的なミッションを踏まえ、イノベーションシステム構築に向けた「橋渡し」機能や拠点機能の強化や研究開発成果の最大化を図るためには、研究開発法人の適正かつ効果的な運営が図られることが重要である。
研究開発成果の最大化は、個別事業の最適化とともに、研究開発法人がマネジメント力を最大限に発揮することにより確保されるものである。このため、研究開発環境の整備とともに、法人全体での適切な資源配分や分野間での連携・融合の推進等のマネジメントが求められている。他方で、一定の事業等のまとまりごとの区分に基づくセグメント情報を含む財務情報の開示といった独立行政法人全体の会計基準の運用が進められていく中でも、円滑に研究開発成果の最大化が図られるよう、研究開発の特性に応じた適切なマネジメントが法人の長に求められる。
また、国家的に重要な技術開発を推進するに当たって、産学官の技術・人材を糾合したイノベーションハブの形成などにより研究開発成果の最大化に向けた取組を推進することが重要である。
加えて、我が国におけるイノベーションシステムの強化に資する観点から、人材の育成や流動性の向上、「橋渡し」機能の強化、研究資金の確保、研究インフラの適切な維持更新と整備・共用、マネジメント体制の強化等に重点を置いた取組が求められる。
○研究開発法人制度の適切な運用
○最先端の研究インフラの整備・共用
○優れた人材の確保・育成と流動性の向上
○「橋渡し」機能の強化
○研究資金源の多様化
○戦略的なマネジメント体制の構築
○特定国立研究開発法人(仮称)制度の創設と運用
イノベーションの社会実装の主役は民間企業である。政府の役割は、事業化の支援やイノベーションの促進に向けた規制・制度の活用など、自らリスクをとって新しい価値の創出に挑む民間企業の意欲を更に喚起し、多様な「挑戦」が連鎖的に起こる環境を整備することが中心となる。
特に、中小・中堅・ベンチャー企業(以下、「ベンチャー企業等」という。)は、新製品開発時に狙う市場規模の大きさや意志決定スピードの速さなど大企業とは異なる優れた特性を有し、イノベーションの担い手として重要な役割を果たすことが期待されている。他方、先進諸国と比較して、我が国は政府から企業へ提供された研究開発資金における中小企業の割合が低いなど、十分な活躍の「機会」が提供されていない。また、新たな価値創造は多くの失敗の上に成り立つというイノベーションの本質に対して、我が国では失敗に対する社会的許容度は未だ低く、起業家精神の醸成が浸透しておらず、新規産業やベンチャー企業の興隆に対する「壁」となっている。
したがって、国内の企業、大学、公的研究機関等はもとより、シリコンバレー等の海外のベンチャー企業が集積する地域に挑戦意欲のある人材を積極的に送り込むことなど、新事業の創出を促進する人材を育成する。また、ベンチャー企業等の活性化のために、経営・事業化のサポートをハンズオンで行うリスクマネー供給者が活動しやすくなることが必要である。その上で、国は研究開発型のベンチャー企業等に「挑戦」の機会を提供する施策の充実、規制・制度の改革などに取り組むことで、これらがイノベーション創出の一翼としてより積極的に活動し、国内はもとより海外市場にも果敢に挑戦するなど、社会の閉塞感を打破していくことが重要である。
さらに、ベンチャー企業等の活動のように先進的な技術やサービスとして提供されるイノベーションに関しては、特に初期市場構築が高い壁となっており、壁を打破するための呼び水として初期需要の確保等の需要面からのサポートや大企業等によるベンチャー企業等の研究開発成果の活用や共同研究等の連携も重要となっている。なお、本総合戦略第1部第2章の地方創生のための重点的取組は、ベンチャー企業等の挑戦の機会を拡大する観点からも重要なものであり、重点的に推進することが必要である。
○起業家マインドを持つ人材の育成
○リスクマネーの供給、税制の活用
○技術の実用化・事業化のための環境の整備
○知的財産戦略の強化
○公共部門におけるデマンドサイド施策の促進
○オープンイノベーションの促進
総合科学技術・イノベーション会議は、イノベーション連鎖を生み出す環境の整備において設定した重点的に取り組むべき課題について、全体を俯瞰して状況を把握し、取組の方向性や重点を置くべき事項を定めていくことが必要である。
このため、個々の施策の進捗を評価するために指標を定めるのではなく、各府省の施策群や産学等の関係者の活動の結果として、我が国の状況がどのようになっているのかを理解することを目的として、以下の方針により指標を策定し、課題の状況の把握・分析を推進する。
把握・分析は、各指標が期待する方向に変化しているか、加速しているかを確認し、定量的に把握できない側面のあることにも留意した上で、俯瞰的な観点から行うこととする。その際、基本計画及び総合戦略2014で設定された目標のうち関連するもの(例:女性研究者の採用割合等)の達成状況等についても併せて確認する。
また、これらの把握分析と並行して、関係府省においては個々の施策の進捗について指標の活用等によって効果的な評価に努めるとともに、大学、公的研究機関、民間企業といった多様なイノベーションの担い手の動向を的確に把握するための調査を継続的に実施することが重要である。
具体的な指標については、「若手・女性の挑戦の機会の拡大」、「大学改革と研究資金改革の一体的推進」、「学術研究・基礎研究の推進」、「研究開発法人の機能強化」、「中小・中堅・ベンチャー企業の挑戦の機会の拡大」の5つの重点的課題について、課題の状況の俯瞰的な把握・分析の方針、指標を以下のように設定する。
○若手・女性の挑戦の機会の拡大
研究者に限らず多様な活躍の場が提供され、それに挑戦する若手人材が育成されているか、また、若手研究者として必要な研究資金を確保し、自立した環境のもとで活躍できているかについて把握・分析する。
女性が研究者としてのキャリアを選択でき、研究活動を通じて管理職として登用されているかについても把握・分析する。
○大学改革と研究資金改革の一体的推進
各大学が、自らの強み・特色を最大限に生かした全学的な資金や人材のマネジメント強化、財源の多様化等により、自律的な経営を進めるとともに、お互いの強みを補完するような大学間の連携を促進し、我が国の研究力向上、持続的なイノベーション創出しているかについて把握・分析する。
○学術研究・基礎研究の推進
イノベーションの源泉としての学術研究・基礎研究の推進により、多様で卓越した知識や価値が生み出され、国際社会の中で存在感を発揮しているかについて把握・分析する。
○研究開発法人の機能強化
優秀な人材の相互作用が起きるような流動性が確保され、また、分野や組織を越えた研究者等が利用できるようなインフラが適切に整備あるいは維持・更新され、有効に活用されるとともに、イノベーション創出に向けて橋渡しによる民間資金等の呼び込みや共同研究等の取組が進められているかについて把握・分析する。
これらの結果として特定国立研究開発法人に係る世界トップレベルのものを含め、質の高い研究開発成果の創出や実用化が図られているかについても把握・分析する。
○中小・中堅・ベンチャー企業の挑戦の機会の拡大
研究開発型の中小・ベンチャー企業に対して、人・技術・資金が投入されることで、イノベーション活動が実施され、その結果として新製品・新サービスが市場に導入されているかについて把握・分析する。
基本計画は科学技術基本法に基づき、10年程度を見通しつつ5年間の科学技術イノベーション政策の姿を示すものであり、一方総合戦略において、毎年の状況変化を踏まえ翌年度に特に重点を置くべき取組を示すことで、中長期的な継続性を確保しつつ、相乗効果を引き出すことを目指している。
したがって、本総合戦略の「経済・社会的課題の解決に向けた重要な取組」を策定するに当たっては、第5期基本計画策定に向けて検討されている「経済・社会的な課題への対応」を軸とし、特に来年度に向けて予算の重点化を図りながら科学技術イノベーションを通じて解決を図るという観点や、成長戦略の改定に合わせて検討すべき課題も踏まえ、政策課題を設定することとなる。
以上の方針に基づき、来年度に向けて、設定された政策課題解決に向けた取組の加速化に向け、以下に示すような昨年度より更に進化させた視点で、経済・社会的課題の解決に取り組む。
政策課題の解決に向けては、昨年度は、必要となる研究開発事項を列挙し、これに対して「府省横断」でかつ「政策課題解決を先導する体制を構築する」ものとして各府省より提案のあったものに対して予算の重点化を図っていくことを基本方針とし、これに該当する府省連携施策についてアクションプラン対象施策として特定を行った。この際、先導役として中心的役割をするものとして位置づけられる戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と、これを補完し相乗効果をもたらす各府省関連施策を一体として推進するとともに、これに加え「新たな先導役」を誘導するものとして各府省関連施策を大括り化して、これらについて予算の重点化を行った。
その結果、政策課題解決に向けた府省横断な体制を構築したが、SIPを中核として誘導した連携施策群に比して、新たな先導役を期待して連携提案された施策群については、相乗効果や網羅性について今一歩踏み込んだパッケージ化(研究開発~実証事業~規制改革)が必要であり、政策課題全体に対して部分最適に留まったところもあった。これを打破するためには、将来のありたい姿を描き、これの実現に向け、SIPも含め研究開発成果を社会実装することにより生み出される価値を組み合わせたバリューチェーンによって、あるべき経済・社会システムを構想し、システム全体で醸成する価値を見定め、どこで産業競争力を生み出していくのか、官民一体で共通認識を持つことが必要である。その上で、このシステム全体でパッケージ化を設定していくことにより、確実に各政策課題を解決するばかりでなく、大きな科学技術イノベーションを生み出すことが可能となる。このようなシステム化を推進する上では、研究開発から実証事業、規制改革までの全体像を明確化するとともに、人間行動との関わりはますます強くなるため、人文社会科学的な取組も組み込み、ユーザー側の行動を科学的に分析する必要がある。
また、システム化を進めていくには、第5期基本計画策定に向けて検討されている「未来の産業創造・社会変革に向けた取組」を念頭に先行してこの考えを取り入れ、各政策課題の解決に当たって、センサ、ロボット、ナノテクノロジー等我が国が技術面で強みを有し、幅広いビジネス創出の可能性を秘める基盤技術や、統合的なシステムを支えるIoT、ビッグデータ解析、AI、サイバーセキュリティ等の基盤技術について、各政策課題の解決に横断的に活用できる観点も踏まえて、研究開発を推進する。
以上を踏まえ、重点対象として示された取組を実行するため、総合科学技術・イノベーション会議は、関係府省からの提案も含め施策を把握し、必要に応じて各府省と調整した上で、本総合戦略に基づく重点化の対象施策を決定する。その際、2020年までの成果目標として設定されたKPIに対し、単年度の目標を明確化するとともに、行政事業レビューとの連動を図るため、国費投入の必要性、事業の効率性・有効性について限られた財源の中での重点化や工夫・改善したポイントについて確認する。
なお、昨年度の政策課題として設定した、“東日本大震災からの早期の復興再生”については、必要な施策は総合戦略2014のもと網羅されて実施されているところであるが、復興状況等を鑑み、将来的な新技術、被災地の新産業につながるイノベーション・コースト構想 の国、自治体が一体となった取組を含め、今般の視点の中で引き続き強力に推進するものである。
我が国の電力エネルギー事情は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機として、原子力発電所の停止に伴い火力発電に大きく依存しており、これにより二酸化炭素排出量が増加している。一方、エネルギー技術の開発、実用化、普及には10年単位の時間がかかることから、新たなエネルギー源の普及・拡大にも時間を要することが想定される。したがって、化石燃料は中長期的にも我が国のエネルギー供給において重要である。今後、新興国が牽引する形で世界のエネルギー需要の増加も見込まれ、地球環境への多大な影響も懸念される。
これらの状況の中、平成26年4月に策定された第四次エネルギー基本計画の方向性に沿って、将来のエネルギーシステムを俯瞰しシステム全体を最適化することが求められる。そのためには、エネルギー・資源の安定的な確保を前提に、エネルギーミックスの観点を踏まえ、低コストでの再生可能エネルギー導入の最大化、化石資源を中心としたエネルギー利用の高効率化、新規制基準へ適合していることが確認された原子力発電の利用、及び徹底した省エネルギーの推進を含め、バランスの取れたエネルギーシステムの構築に取り組む必要がある。一方、今後も中長期的に利用が見込まれる化石燃料の消費等による温室効果ガスの排出量の増加は、更なる温暖化をもたらし、深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を社会や経済に与える。そのため、温室効果ガスの排出の削減と気候変動への適応などの環境問題への対応にも取り組む必要がある。なお、原子力に係る科学技術イノベーションについても、第四次エネルギー基本計画に沿って取り組むものとする。
エネルギー政策の要諦は、安全を前提とした上で、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給、並びに環境への適合を実現することであり、将来のエネルギー需給構造を見据えたエネルギーミックスを、再生可能エネルギーや原子力発電を含めたエネルギー源の多様化と徹底した省エネルギーの推進によりバランスよく構築することが求められる。加えて、エネルギー供給の事業形態、需要家ニーズが今後多様化していくことが想定され、供給側と需要側の情報統合による需要家ニーズに応じたエネルギー供給等、柔軟なエネルギーの利活用が求められる。このため、ICTや蓄エネルギー技術等を活用して生産、流通、消費をネットワーク化し、エネルギー需給を予測・把握するとともに総合的に管理・制御し、エネルギーバリューチェーンの最適化に向けたシステムの構築を目標とする。エネルギー利活用の最適化を通じて、クリーンなエネルギーを安全かつ安定的に低コストで供給される社会を構築することは、産業競争力の強化に資するとともに、豊かな国民生活を持続的に営むためにも中長期的に重要な課題である。また、化石燃料消費に代表される温室効果ガスの発生等環境負荷の抑制に最大限配慮するとともに革新的な省エネルギーに資する部素材等、新規技術によりエネルギー利用効率を向上し、エネルギー消費を抑制する社会を実現することも必要である。さらに、電気だけではなく熱や化学といった形態で流通するエネルギーに関連する技術を有機的に融合した社会を構築することで、多様なエネルギー源の利用を促進することが可能となる。
化石燃料等の海外依存度が高い我が国において上記方針を推進することにより、国富流出の抑制という直接的な価値を創出することに加え、分散型エネルギーシステムの導入促進により、エネルギーの地産地消が進み地域活性化にも貢献する。また、デマンドレスポンスの活用により、抑制効果に応じたインセンティブを需要家に付与する仕組みを通じ、需要量の制御を効果的に行うことが可能になるとともに、エネルギー供給事業者は安定供給に必要な供給容量を合理的な規模に維持した事業が可能となる等、エネルギーシステムにおける価値の好循環を生み出す。
ここでは、エネルギーシステムを、従来の生産、消費、流通の3つの段階に運用の視点を加えて総合的にとらえ、それぞれの特性を考慮しつつ、「エネルギーバリューチェーンの最適化」に向けた重点的課題を設定した。
エネルギーの運用段階からは、「高度エネルギーネットワークの統合化」を重点的課題とした。ここでは、地域又は広域の各レベルで構築されたエネルギーネットワークを連繋することでエネルギー利活用の最適化を目指す。特に分散型エネルギーを相当量想定するため、出力変動を克服するための系統需給計画・制御システム技術、情報通信技術等によりネットワーク化されたエネルギーシステムの安定稼働に資する情報・通信網のセキュリティ確保、企業や個人等の需要家情報の取扱い、さらにはここで得られる様々なデータの解析、活用に係る取組が重要である。このうち情報セキュリティ※2については、電力を含む重要インフラ各分野※3で安定的・持続的なサービス提供を困難にするサイバー攻撃の脅威が日々高まっていることから、その対策に必要となる技術開発とともに、重要インフラの情報セキュリティ対策に係る第3次行動計画※4を踏まえ、国際標準に基づくセキュリティ認証の推進や、各重要インフラ企業への認証機器導入を図る。これにより、総合的なセキュリティが確保された安全・安心なIoTシステムを構築し、重要インフラを支えるネットワーク基盤を強固なものとする。なお、情報セキュリティの推進に当たっては、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)との密な連携により、サイバーセキュリティ戦略※5や情報セキュリティ研究開発戦略※6も踏まえた上で具現化を図る。
生産段階では「クリーンなエネルギー供給の安定化と低コスト化」を重点的課題とした。資源小国である我が国は、再生可能エネルギーや化石燃料等の一次エネルギー供給源を安全かつ安定的・経済的に確保し、効率よく利用することが必要である。再生可能エネルギー利用システムの大幅な経済性向上を図るとともに、気象条件等に左右される出力の不安定性を補う取組や再生可能エネルギー利用の拡大に適した送配電網の構築に係る取組、環境影響や安全性に係る取組を実施する。また、温室効果ガス排出量が少なく経済性に優れたクリーンエネルギー供給技術を発展させることは、気候変動への対応という面でも有効であり、火力発電の燃焼効率向上や高温化によるエネルギー変換効率の向上、燃料電池発電の効率向上、熱のカスケード利用の高度化等によるエネルギー利用効率の向上を図るとともに、二酸化炭素の回収貯留技術の実用化と合わせ、クリーンな化石資源エネルギーシステムの構築を図る。さらに、エネルギー資源確保の多様化という観点から、原子力安全と核セキュリティの確保を前提とした原子力発電システムの構築を図るとともに、海洋エネルギー・資源など未開発エネルギー技術開発も重要な取組となり、海底資源の探査・生産技術やこれに係る通信技術の研究開発、低品位炭素資源を有効に活用する技術開発及び輸送・貯蔵等の技術開発を環境影響評価と併せて取り組む。また、シェールガス、非在来型原油や二酸化炭素等多様な原料から効率的にエネルギー・化学品の生産を図る革新的触媒技術等及び微生物やバイオマスによるエネルギー資源の生産技術の研究開発に取り組む。生産段階においては、広大な海域の鉱物資源を効率良く調査する技術開発であるSIP「次世代海洋資源調査技術」を重点的課題解決の先導役として位置づける。
消費段階については、需要側からの視点で「新規技術によるエネルギー利用効率の向上と消費の削減」を重点的課題とした。我が国は、石油危機以降エネルギー効率※7を4割改善し産業競争力の向上にも貢献してきた。さらに、東日本大震災以降のエネルギー制約に対して、省エネルギーや電力需要のピーク平準化にも取り組んだ。今後も、生活の質を維持・向上しつつ大幅な省エネルギー・節電対策が図れる製品が求められることから、その基本となる革新的なデバイス・構造材料の技術開発を推進し、需要側のエネルギー消費をより効率的にする制御技術の開発・普及を図ることは重要な課題である。革新的デバイスでは、モーターや情報機器等の消費電力を大幅に低減する超低損失パワーデバイス(SiC、GaN等)、超低消費電力デバイス(三次元半導体、不揮発性素子等)、光デバイス等の研究開発及びシステム化を推進し、また次世代自動車用モーター等に適用される高性能磁石に必要な希少元素を削減若しくは代替する技術を開発する。また、革新的構造材料では、炭素繊維等炭素系材料、マグネシウム、チタン等金属系材料、革新鋼板、複合材等の新材料開発、部材特性に適した材料設計及び接合技術等の研究開発を行う。同時に継続的なイノベーションの創出、研究開発期間と研究開発コストの大幅削減を目的に、マテリアルズインテグレーションを構築する。さらに、住宅やビル、コミュニティ単位の需要側におけるエネルギー利用の高度化を促進する技術の実証を行うとともに、工場・プラント等の生産プロセスにおけるエネルギー利用効率向上に係る技術開発、内燃機関の燃焼効率向上及び燃料・潤滑油の高度化、排気ガスのクリーン化等にも取り組む。消費段階においては、強い国際競争力を有する省エネルギー化のためのキーテクノロジーであるSIP「次世代パワーエレクトロニクス」、構造材料に係る技術革新に取り組むSIP「革新的構造材料」、エネルギー資源のさらなる利用効率向上のために重要な燃焼技術の研究開発を行うSIP「革新的燃焼技術」を重点的課題解決の先導役として位置づける。
流通段階では、「水素社会の実現に向けた新規技術や蓄電池の活用等によるエネルギー利用の安定化」を重点的課題とした。分散型エネルギーの需要と供給の時間的変動や空間的偏りを克服し、安定的にエネルギーを供給するために、水素等の二次エネルギーを化学物質へ転換して貯蔵・輸送するエネルギーキャリア利用技術、電気エネルギーを有効に貯蔵する次世代蓄電技術、熱エネルギーに対応する蓄熱・断熱・熱回収・熱電変換技術、送電ロスを低減する超電導送電技術等に取り組む。流通段階においては、将来の二次エネルギーとして、電気、熱に加えて中心的役割を担うことが期待される水素の製造、輸送・貯蔵技術を確立し、化石燃料と同等のコスト競争力の実現を目指すSIP「エネルギーキャリア」を重点的課題解決の先導役として位置づける。副生水素や化石燃料の改質によって製造した水素の利用にとどまらず、二酸化炭素を排出せずに製造した水素を大量に輸送・貯蔵し発電等に利用する本格的な水素社会の実現を目指した研究開発を推進し、大会プロジェクト5.により再生可能エネルギー由来の水素を介してエネルギーを供給し、二酸化炭素を出さないクリーンな大会を実現する。
上記の重点的取組を推進するに当たり、系統安定化等のインフラ整備のために発生する追加的コストや事業リスクについては、官・民の適切な役割分担の下、エネルギーシステム全体を最適化する俯瞰的な視点に基づき、各技術の研究開発の方向性を見極め推進する。エネルギーバリューチェーンの最適化により創出される価値は、生産段階では効率的な供給体制の構築、消費段階では抑制効果に応じたインセンティブ、運用段階ではリアルタイム取引市場の形成等により分配され、さらに、コア技術の国際競争力の強化により関連産業の振興・創出を図り、所得・雇用の拡大にも貢献する。
また、技術の普及・展開を加速化するためには、規制対応や標準化推進等も含めた総合的なアプローチが必要である。特に、需要側におけるエネルギー利用のスマート化を効果的に促進するためには、需要側に対するエネルギー以外の健康維持や快適性確保等の付加価値を創出し、見える化する取組が重要であり、データフォーマットや通信技術の標準化等、様々な分野における取組との連携・融合を図ることが必要である。
(1)高度エネルギーネットワークの統合化【総務省、文部科学省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
○電力系統の高度化技術の実装
○重要インフラ等に適用できる情報セキュリティシステムの構築
(2)クリーンなエネルギー供給の安定化と低コスト化(SIP含む)【内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
○再生可能エネルギーの技術課題の解決と普及・展開
○革新的高効率発電システムの実用化と二酸化炭素回収・貯留技術の実用化
○エネルギー源の多様化実現
(3)新規技術によるエネルギー利用効率の向上と消費の削減(SIP含む)【内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
○次世代パワーエレクトロニクスの実現
○革新的電子デバイスによるエネルギー効率向上及びエネルギー消費の削減
○革新的構造材料によるエネルギー効率向上及びエネルギー消費の削減
○住宅、ビル、地域におけるエネルギー利用の高度化
○革新的省エネルギー生産プロセス技術の開発
○革新的燃焼技術の確立と二酸化炭素排出量の低減
(4)水素社会の実現に向けた新規技術や蓄電池の活用等によるエネルギー利用の安定化(SIP及び大会プロジェクト5.を含む)【内閣府、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
○水素インフラの普及、整備
○次世代蓄電池技術の実用化
○高性能断熱材・蓄熱材や熱マネジメント技術の実用化
○超電導送電技術の実用化
(5)社会実装に向けた主な取組【総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省】
○規制対応及び法制度
○標準化及び周辺環境整備
温室効果ガス濃度の増加に伴う地球温暖化に代表される気候変動によって、自然災害の増加や水資源の減少、食料生産や生態系への悪影響が危惧されている。その影響を低減するために、気候変動への適応とともに、温室効果ガスの排出量削減による気候変動の緩和が求められている。そのための取り組みとして、地球環境情報をビッグデータとして捉え、国際的に協調して様々な環境問題の解決へ活用することが注目されている。そこで、大気・海域・陸域に対する観測データを用いた気候変動のモデル化・シミュレーションによる予測技術を高度化し、それらの情報を統合したプラットフォームを構築するとともに、これにより、再生可能エネルギーの導入と利用を進めることが必要である。
まず、高解像度で予測された近未来の日射量と風況から発電量を予想し、発電企業等に情報提供する。太陽光・風力発電などの予想発電量から調整電力の必要量を算定することで、高効率で安定性に優れた電力需給が可能となる。また、流域における中長期的な河川水等の蓄積・循環量を推定することで、揚水発電等の適切な管理に貢献する。これらの再生可能エネルギーの大量導入と調整電源の運用最適化により、我が国の化石燃料の消費量及び温室効果ガス排出量が削減され、気候変動の緩和というバリューが創出される。
これらの取組を達成するために、2015年に本格的な活動が始まる「フューチャーアース」の枠組みを活用し、研究者コミュニティと社会の様々なステークホルダーとの超学際的な連携と協働を図る。
気候変動の監視と対策のために、地球環境の観測技術と予測技術を高度化し、地球環境情報プラットフォームを構築する。地球規模の気候変動の観測技術を高度化するために、温室効果ガスや大気汚染物質の全球分布を測定する衛星搭載分光センサを開発するとともに、海洋や極域の観測を強化する。また、地域の日射量、風況、温度、降雨、エアロゾル等を高精度で計測する。さらに、スーパーコンピュータ等を用いたモデル化やシミュレーション技術を高度化し、時間・空間分解能を高めた予測を可能にする。これらの観測データと予測結果をICT技術によりプラットフォームとして統合し、観測と予測双方の技術開発にフィードバックさせる。このプラットフォームの設計のために、ネットワーク型データベースを相互に関連付けるメタデータ利用技術や高速データアクセス技術等を開発する。また、様々な観測主体から提供されるデータを共有するために、オープン化を見据えたデータポリシーを確立する。さらに、地方公共団体や企業、市民がこのシステムを適切に利用するためのルールを定め、産官学共同運用・利用体制を構築する。
上記の課題に取り組むためには、多様なステークホルダーのニーズの把握、地球科学・情報科学・社会科学等にまたがる共同研究の促進、企業等へのビッグデータの提供により技術開発を推進し、モデル地域における社会実装を行い、その成果を波及させる必要がある。
(1)地球環境観測・予測技術を統合した情報プラットフォームの構築【総務省、文部科学省、国土交通省、環境省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
○地球環境の観測技術の開発
○地球環境の予測技術の高度化
○地球環境情報プラットフォームの運用
○再生可能エネルギーの発電量予測技術の実証
(2)社会実装に向けた主な取組【文部科学省、環境省】
○「フューチャーアース」の枠組みの活用
○地球環境情報プラットフォームの活用
○再生可能エネルギーの発電量予測技術を実証するための環境整備
我が国は既に世界に先駆けて超高齢社会を迎えた。人口構成の変化は既に日本の社会や経済に対して様々な影響を与えているが、今後より広範な分野で一層大きな影響をもたらすと予想されている。
近年の科学技術の進歩により、世界的に革新的な医療技術が相次いで開発され、我が国でも医療におけるイノベーションが期待されるようになった。特に、疾病の制圧と健康な社会の構築を目標とする医学研究においては、臨床現場で活用される医療技術の開発が研究の目標となる。基礎科学の成果を疾患の克服に向けて具体的に生かすためには、基礎研究と臨床現場の間の循環を構築しなければならない。
こうした社会的背景と医学研究の在り方を踏まえ、我が国の基礎科学研究を展開して世界最先端の医療技術の開発を推進し、その成果を活用した医療による健康寿命の延伸を実現するとともに、医療制度の持続性を確保することが、焦眉の課題とされるようになった。
あわせて、健康・医療分野に係る産業を戦略産業として育成し、経済成長への寄与によって超高齢社会を乗り越えるモデルを世界に発信することが求められる。こうした問題意識から、新たな医療分野の研究開発の取組が検討され、具体的な対応が開始されることとなった。
このため、平成25年8月2日に、健康・医療に関する成長戦略の推進及び医療分野の研究開発の司令塔機能の本部として、内閣総理大臣を本部長とする「健康・医療戦略推進本部」の内閣への設置を閣議決定した。
また、同年8月8日の健康・医療戦略推進本部は、医療分野の研究開発に関する総合戦略の策定に係る専門的な事項の調査・検討を学術的・技術的観点から行うため、医療分野の研究開発に関する専門調査会を開催することを決定した。その後、専門調査会において検討が進められ、平成26年1月22日に、「医療分野の研究開発に関する総合戦略(報告書)」が取りまとめられた。
健康・医療戦略推進本部を法定化する等の「健康・医療戦略推進法」と、医療分野の研究開発及びその環境整備等の業務を行う独立行政法人を設立するための「独立行政法人日本医療研究開発機構法」が、平成26年5月23日に成立した。「健康・医療戦略推進法」に基づき、「健康・医療戦略」が平成26年7月22日に閣議決定されるとともに、同日、「医療分野研究開発推進計画」が健康・医療戦略推進本部により決定された。
平成27年4月1日に国立研究開発法人日本医療研究開発機構を設立し、当該機構は健康・医療戦略推進本部の下、「医療分野研究開発推進計画」に基づき、基礎から実用化までの一貫した研究開発を推進する。
こうした体制の下、国民の健康寿命の延伸、国民・社会の期待に応える医療や、我が国の技術力を最大限生かした医療の実現を図るとともに、医薬品、医療機器開発分野における産業競争力の向上、医療の国際連携、国際貢献を進める。
それに際して、総合科学技術・イノベーション会議は健康・医療戦略推進本部と協働し、国際社会に先駆けた健康長寿社会の実現に向けて相乗的な効果を生み出すことができるよう、連携を図る。
新たな医療分野の研究開発体制の構築は、基礎研究からの優れたシーズを見出し、これを実用化へ一貫して繋ぎ、具体的な成果を目指すものである。このため、取組の当初から、臨床研究・治験への橋渡しや産業界への導出に向けた戦略と周到な準備に基づく実施が求められる。
多岐に広がる医療分野の研究開発への取組の中でも、平成26年度から開始した「各省連携プロジェクト」として、平成25年8月30日に健康・医療戦略推進本部により決定された取組は、各省の関連する研究開発プログラムを統合的に連携し1つのプロジェクトとして一体的な運用を図るものとなっている。具体的には、医薬品創出、医療機器開発、革新的医療技術創出拠点の整備、再生医療の実現、オーダーメイド・ゲノム医療の実現、がんに関する研究、精神・神経疾患に関する研究、新興・再興感染症に関する研究、難病に関する研究について重点的に取り組む。当該連携プロジェクトは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構において集約して管理し、統合的に推進する。実施に当たっては、個々のプロジェクト毎に成果目標(KPI)を設定し、その達成に向けて個々の研究開発の開始・方針の転換等について権限と裁量をPDに付与し、PDの下に各研究チームが、出口を見据えて、シーズの探索・選択や個々のシーズごとの戦略に基づく開発研究を行うとともに、シーズが頓挫した場合にはそれに替わる新たなシーズを随時選択することで、各チームの下で常に複数のシーズの開発研究が行われるようなマネジメントが構築される。なお、当該連携プロジェクトに関しては、次のようなKPIが掲げられている。今後、これらのKPIについては、状況に応じて、更なる検討・検証等がなされ、必要な見直しがなされることもあり得る。また、今後開始される各省連携プロジェクト等についても、KPIを設定し、取り組むものとする。
各省連携プロジェクト以外の取組についても、「健康・医療戦略」及び「医療分野研究開発推進計画」の主旨を踏まえつつ、着実に推進する。
さらに、リスクはあるが、飛躍的な可能性を秘めた課題に対しても、画期的なイノベーションの実現を目指す支援を行うことが期待される。
なお、これらの推進に当たっては、疾患の基礎研究の発展を図りつつ、研究の急激な進捗や、関係する科学技術の画期的な発展などに機動的に対応できるような資源配分やマネジメント、レギュラトリーサイエンスの充実を実現する。
また、科学技術イノベーション創造推進費※11を活用して創設した医療分野の研究開発に関する調整費により、研究の進捗状況や新規に募集する研究の内容などを踏まえた予算配分を各省間をまたいで機動的かつ効率的に行う。
1.取組の内容
創薬支援ネットワーク等の医薬品創出のための支援基盤の整備及び基礎研究から医薬品としての実用化につなげるまでの切れ目のない支援を推進する。
2.2020年頃までの達成目標
1.取組の内容
我が国発の優れた医療機器について、医療ニーズを確実に踏まえて、日本の強みとなるものづくり技術も生かしながら、開発・実用化を推進し、研究開発から実用化につなげる体制整備を進める。
2.2020年頃までの達成目標
1.取組の内容
アカデミア等における画期的な基礎研究成果を一貫して実用化につなぐ体制を構築するとともに、各開発段階のシーズについて国際水準の質の高い臨床研究・治験を実施・支援する体制の整備も行う。
2.2020年頃までの達成目標
1.取組の内容
基礎から臨床段階まで切れ目なく一貫した支援を行うとともに、再生医療関連事業のための基盤整備ならびに、iPS細胞等の創薬支援ツールとしての活用に向けた支援を進め、新薬開発の効率性の向上を図る。
2.2020年頃までの達成目標
1.取組の内容
急速に進むゲノムレベルの解析技術の進展を踏まえ、疾患と遺伝的要因や環境要因等の関連性の解明の成果を迅速に国民に還元するため、解析基盤の強化を図るとともに、特定の疾患の解明及びこれに対する臨床応用の推進を図る。
2.2020-30年頃までの達成目標
1.取組の内容
がん対策推進基本計画(平成24年6月閣議決定)に基づき策定された「がん研究10か年戦略」(平成26年3月関係3大臣確認)を踏まえ、関係省庁の所管する研究関連事業の連携のもと、がんの本態解明等に係る基礎研究から実用化に向けた研究まで一体的に推進する。
2.2020年頃までの達成目標
1.取組の内容
認知症やうつ病などの精神疾患等の発症に関わる脳神経回路・機能の解明に向けた研究開発及び基盤整備を各省連携のもとに強力に進めることにより、革新的診断・予防・治療法を確立し、認知症・精神疾患等を克服する。
2.2020年頃までの達成目標
1.取組の内容
新型インフルエンザ等の感染症から国民及び世界の人々を守るため、感染症に関する国内外での研究を各省連携して推進するとともに、その成果をより効率的・効果的に治療薬・診断薬・ワクチンの開発等につなげることで、感染症対策を強化する。
2.2020年頃までの達成目標
3.2030年頃までの達成目標
1.取組の内容
希少・難治性疾患(難病)の克服を目指すため、患者数が希少ゆえに研究が進まない分野において、各省が連携して全ての研究プロセスで切れ目ない援助を行うことで、難病の病態を解明するとともに、効果的な新規治療薬の開発、既存薬剤の適応拡大等を一体的に推進する。
2.2020年頃までの達成目標
近年の我が国では、国民生活・社会経済活動を支えている公共インフラの高齢化や老朽化が深刻な問題となっているが、インフラ関連事業主体の財政悪化や人材不足によりインフラの適正な管理が十分に行われていない。また、異常気象や大地震などの自然災害による甚大な被害が発生しており、災害の発生を予測する技術や発生後の被害を最小限に抑える技術開発と実フィールドへの適用が求められている。さらに国土強靱化基本計画※12では、自然災害や老朽化に関する対策における技術的課題の解決に積極的に貢献する優れた技術の普及、活用を促進することとしている。これらのことから、インフラ分野における喫緊の課題を解決するため、インフラの効率的な維持管理・更新技術の開発により持続的な社会の成長と発展を実現し、自然災害に対するレジリエント(強靱)な社会の実現を通じて国民生活に安全・安心を与える基盤を築いていくという、世界に先駆けた次世代インフラの構築を推進する事が重要である。
課題解決の推進に際しては、重点的課題の整理とその解決のための技術開発を国が主導し、インフラ事業主体が取り組みやすい環境を整備することで新たな産業や雇用を創出するなどの地域経済活性化に資することも必要である。
国内インフラストックは2009年度には786兆円の規模に達しており※13、その内社会資本10分野※14においては、2013年度に約3.6兆円と推計された維持管理・更新費が、2023年度には約4.3~5.1兆円、2033年度には約4.6~5.5兆円程度になるものと推計されている※15。今後は高度経済成長期に整備された道路等のインフラが一斉に更新期を迎え、多額の維持管理・更新に係る投資需要が発生することが想定されるが、財政状況の悪化などにより公的部門のインフラ管理余力が低下している。
これまでのインフラの維持管理・更新技術は、「点検」、「評価」、「対応」の各要素技術の水準については一定の成果(価値)が見られたが、今後は個々の要素技術の水準の更なる向上と、それぞれの技術の組合せ(システム化)による維持管理・更新技術全体としての最適化を図るべく、対象となるインフラに求められる長寿命化水準等に応じたアセットマネジメント技術を開発する。これにより限られた財源と人材で最適なインフラ維持管理・更新が実現できるという新たな価値が創出される。
研究開発段階からインフラに関する地域特性やアジア諸国の開発状況を考慮し、開発された技術を地方自治体やアジア諸国のインフラ管理者等が適用可能な技術の性能(技術完成度)とコストのバランスが重要である。それにより開発された技術の実効性が高まる。併せてパイロット事業の推進などの試験的な取組による事業の評価、技術開発へのフィードバックにより、価値の創出をスピーディーに実現することで、地域経済の活性化を支え、アジア諸国へのインフラ輸出の付加価値を高める。
インフラ維持管理・更新の研究開発を推進する上では、1.様々なデータを正確に検出して現状の健全度/劣化状況を適切に調査・把握し、従来見えずに把握困難だった箇所を可視化可能とするなどの点検技術、2.点検結果に基づき使用状況・環境条件を踏まえて今後の劣化進行過程を統計・確率的に予測して補修・更新の必要性を判断する評価技術、3.補修や更新の対象となる構造物に必要な強度や耐久性を効果的に付与する対応技術、4.対象となるインフラの特性や環境条件、災害時のリスク評価等を考慮して1.から3.の各要素技術をシステム化し、継続的にインフラの維持管理・更新を実行していくためのアセットマネジメント技術の導入により、発揮される効果や価値を最大化する事が求められる。
今後は、インフラの点検データやモニタリングデータなど、様々なデータが地方自治体や国の機関、あるいはインフラ事業主体に集積されてくることが予測される。これらのデータを生かしてインフラの維持管理・更新を行う場合、インフラ側のデータ(劣化状況等)の高度利活用だけではなく、交通量や通行車両の種類などの物流情報、周辺人口の推移、環境や地域特性などの社会データと関連づけを行った上で、限られた予算の中で実行可能な計画を策定する必要がある。
特に、システム化された高度なインフラマネジメントを実現するため、緊密な府省連携により基礎・基盤技術、応用技術とアセットマネジメント技術の研究開発を推進することが重要であり、SIP「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」を重点的課題解決の先導役として位置づける。
(1)構造物の劣化・損傷等を正確に把握する技術(点検)(SIPを含む)【内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(2)点検結果に基づき補修・更新の必要性を判断する評価技術(SIPを含む)【内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(3)構造物に必要な強度や耐久性を効果的に付与する技術(対応)(SIPを含む)【内閣府、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(4)アセットマネジメントシステムの構築(SIPを含む)【内閣府、農林水産省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(5)社会実装に向けた主な取組(SIPを含む)【内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省】
東北地方に未曾有の被害をもたらした東日本大震災、広島県などに甚大な被害をもたらした土砂災害、御嶽山において戦後最悪の被害をもたらした火山災害などから得られた教訓は、今後の発生が懸念される南海トラフ地震(経済被害想定額約220兆円※16)や首都及びその周辺地域における首都直下地震(同約95兆円※17)、また、土砂災害、火山災害などへの備えに生かしていかなければならない。平成27年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議では仙台防災枠組2015-2030※18が採択され、災害により失われる生命・財産・生活を減らすべく、全てのステークホルダーに対し行動を起こすことが求められた。
このような背景のもと、大規模自然災害等に対しては、様々な備えを行うことと発災後できるだけ早急かつ有効な災害情報を提供することが、予想されている莫大な経済的損失・人的損失等を最小化し、あらゆる組織や個人に安全・安心という価値をもたらす。
そのためには、1.最先端の科学技術の最大活用、2.災害関連情報の官民あげての共有に取り組むことが望まれる。特に、災害に負けない都市・インフラ構築といった「予防力」や災害を察知しその正体を知る「予測力」、ICTの利活用により国民の適切な避難行動を支援するなどの「対応力」について、それぞれの技術をより高めた上でシステム化することで災害関連情報のリアルタイム共有化という価値が創出され、国民の安全・安心をより高い次元で実現する。
上述のようなレジリエントな防災・減災システムにおいても、民間の資金やノウハウの活用による防災インフラの整備事業や防災に関する情報提供サービス産業などの創出が期待される。
自然災害に対する我が国のレジリエンス(強靱性)を高めるために、1.インフラ耐震性等の強化技術や液状化対策技術とともに、被害最小化のため予防対策の限界を事前把握し、適切な対策を立てる取組(予防力の向上)、2.人工衛星、レーダ、センサ等の観測技術により得られたデータと地理空間情報等を適切に組み合わせ、予測・分析技術により地震・津波や豪雨等の早期かつ有効な情報を提供する取組(予測力の向上)、3.発災時に災害情報の迅速かつ確実な把握・伝達により住民一人ひとりの安全な避難行動を促すなどの被害を最小化することや、発災後の迅速な復旧・復興を可能とする取組(対応力の向上)、が重要である。
さらに地方では、都市と比較して情報を利活用するための人材不足などの問題があるため、自然災害におけるICTの利活用の効率化を推進し、地域防災に関する情報が適切に展開されるなどの環境を整備する必要がある。
最先端の科学技術の最大活用によってリアルタイムの予測を行い、リアルタイム災害情報を共有することにより、被害最小化を実現することが重要であることから、府省が有機的に連携し、研究開発を推進するSIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」を重点的課題解決の先導役として位置づける。
大会の機会を活用した科学技術イノベーションの推進「大会プロジェクト6.ゲリラ豪雨・竜巻事前予測」は防災・減災分野の最先端技術を社会実装し国際社会へ我が国の技術を展開する試金石となると同時に、あらゆる自然災害対策の即時的な対策立案の一助になることが期待できる。大会で実用化された技術をはじめ、開発された成果については順次地域特性を考慮した最適化を図り、国際展開を強力に推進することが重要である。
(1)「予防力」関連技術(SIPを含む)【内閣府、総務省、消防庁、文部科学省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(2)「予測力」関連技術(SIP及び大会プロジェクト6.を含む)【内閣府、総務省、消防庁、文部科学省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(3)「対応力」関連技術(SIPを含む)【内閣府、総務省、消防庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、防衛省】
1.取組内容
2.2020年までの成果目標
(4)社会実装に向けた主な取組(SIPを含む)【内閣官房、内閣府、総務省、外務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省】
アジアを中心とした新興国の台頭等により、我が国の経済を支えてきた様々な製造分野では、コスト競争力の優位性を失い、セットメーカ工場の海外移転が起こり、それに伴い国内・地場産業の空洞化が進むとともに、少子化による生産年齢人口の縮小が見込まれ経済成長のための産業基盤が危ぶまれている。また、国内生産回帰を狙う国家イニシアティブを強力に進めつつある欧米主要国に対し、我が国の産業は、コスト競争力のみならず新たな製品・サービスの開発力においても、その相対的な優位性を失うリスクに直面している。さらに、高齢化が進む地域の活力は低下し、持続可能な都市・地域そのものの社会基盤自身も危うくなっている。
こういった経済社会変化に応じて生じる様々な課題に対応するため、従来の慣習や常識にとらわれない柔軟な構想力のもと、経済社会システムを再構築することにより、第5期基本計画の策定に先駆けて新たな価値を創造し、競争力を高め地域社会を再生し、日本経済の新たな稼ぎ頭を作っていく必要がある。
このため、センサやロボット技術、素材技術、ナノテクノロジーなど、我が国が強みとする技術を強力に磨き、これらをIoTの構成要素として組み込んだ社会経済システムから得られるビッグデータに対しAI等の情報処理技術を適用し新たな価値を創造する仕組みを作っていく。これにより、グローバル競争力強化や生産性の向上を図り、持続的な社会基盤づくりにつなげていくことが重要である。また、この際に、データサイエンティストやビジネスプロデューサー等の人材育成・活用も合わせて行う必要がある。
なお、昨今の個人情報保護法改正に係る議論でも見られるように、ビッグデータを駆使するには、個人情報を安全かつ適切に取り扱うことが不可欠となっている。個人情報を情報資産化し、他国に先駆け社会経済活動に適用することで国際競争力の源泉とすることも重要である。加えて、IoT時代においては全てのものがネットワークにつながることとなるため、新たな価値創造、持続的な社会基盤づくりを安定的に進めるためには、様々な分野に共通化できる情報セキュリティ技術の確立が必須である※19。
我が国では、交通事故死者数低減を国家目標※20として掲げており、2014年末まで14年連続で減少傾向となっているが、交通事故死者数全体に占める65歳以上の高齢者の割合は高い水準で推移しており※21、その対策が急務となっている。さらに、社会問題の一つである交通渋滞は渋滞損失時間を発生させ、経済機会そのものの損失につながっている。これらの課題に対する究極の解決策として期待されるのが自動走行システムであり、欧米各国とICT関連企業などの新規参入事業者を巻き込んだ熾烈な競争が繰り広げられている。
様々なセンサによって収集される自動車そのものの動きや人の動きなどのデータが一つの地図基盤上にリアルタイムで統合され、統合されたこれらのデータ等を自動車が認知し、AI等によって一歩先を読んで判断、動作を制御する自動走行システムの実現により、交通事故や交通渋滞の低減を価値として提供できる。また、技術の適用範囲を拡大することで公共交通機関の定時運行や、誰もがストレスなく移動できる手段等を新たな価値として提供できる。さらに、道路交通分野の利便性向上だけでなく他分野においても利活用することで、新たな産業創出や地方創生も含めた社会経済全体の活性化が期待される。そこで、世界との競争に打ち勝つために、自動走行システムを自動車やインフラ設備などのハード面のみで機能を充実させるのではなく、公共交通サービスや交通データ利活用といったソフト面まで統合・高度化させた高度道路交通システムの実現を図る。
我が国の自動車産業は、2012年度にガソリン車の世界シェアが26%を占め、さらに、部品製造から自動車を活用した各種サービスといった関連産業が裾野広く展開されている※22など、我が国が世界に対する競争力を維持している基幹産業のひとつである。世界に先駆けた高度道路交通システムの実現により、この優位性を維持し続けることが我が国の経済発展にとっても重要である。
高度道路交通システムの実現に向け、まず第一に、自動車が認知・判断・制御するための技術やインフラ設備を統合した自動走行システムの確立が必要となる。このうち、判断・制御に係る要素技術の多くは、既に民間各社が競争領域として独自に研究開発を進めていることから、ここでは認知を中心に、国が取り組むべき協調領域として位置づけられる要素技術や新産業創出に向けた取り組みを重点的に推進する。具体的には、自動走行システムの基盤となる高度な地図(ダイナミックマップ)の開発をはじめ、地図上にマッピングされる自動車、歩行者、インフラ設備等が互いの意思疎通のために安全に通信する技術、地図上に未反映の不測事態への対応等、自動車が自身で判断・制御できない状況下でドライバーが適切に対応するためのヒューマンマシンインタフェース等の要素技術の開発を図る。また、これら多岐にわたる要素技術をシステムとして最適に統合するためには、各要素技術の導入効果の測定が必要であり、それに資するシミュレーション技術の開発を図る。なお、これら一連の取り組みに当たっては、国際連携の構築による国際標準化の推進や市民に対する社会受容性の向上が不可欠となる。
次に、過疎地における公共交通機関の運転手不足等への問題に対応するため、地域内を高齢者等の交通制約者が気軽に移動できるよう原則、自律型のほか管制制御型等との併用を志向した地域コミュニティ向け小型自動走行システムの実現を図る。
さらに、高度道路交通システムがエネルギー利用のスマート化やインフラアセットマネジメントシステム、地域包括ケアシステムなどの他システムと相乗効果を発揮し、データ利活用による新産業創出と経済活性化のために必要となるルールや仕組み作りに取り組む。
ところで、大会の機会は、高度道路交通システムの実現に向けた重要な一里塚として位置付けることができる。そこで、この機会を活用した先駆的プロジェクトとして、東京臨海部における輸送力向上を目指し、従来のバスを基盤とした交通システム(BRT:Bus Rapid Transit)に自動走行システムの要素技術を組み込んだ次世代都市交通システム(ART:Advanced Rapid Transit)を実現する。さらに、ARTのパッケージ化により都市の規模に合わせたシステムを構築し、地方や海外への展開を目指す。
なお、高度道路交通システムを構成する自動走行システム及びARTは、SIP「自動走行システム」を先導役と位置付け、研究開発から現場実証、社会実装までを一気通貫で強力に推進する。
(1)自動走行システム(SIPを含む)【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(2)地域コミュニティ向け小型自動走行システム【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(3)交通データ利活用【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(4)次世代都市交通システム(ART)(SIP及び大会プロジェクト4.を含む)【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(5)社会実装に向けた主な取組(SIPを含む)【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、経済産業省、国土交通省】
我が国はJIT生産システム※25、セル生産システム※26、e-Factory※27、熟練技術者の匠の技術等、世界に冠たる製造技術を開発し、性能、品質、コストの三位一体で優れた工業製品を世界中の国々に供給してきた。現在、自動車や電気機器を中心とした工業製品は、我が国の品目別輸出額において約40兆円※28となっており、我が国のものづくり産業は、産業基盤として重要な位置を占めている。しかし近年、安い生産コストを武器とした中国等の新興国の追い上げと、インダストリー4.0等の国家イニシアティブを掲げ、製造業の徹底的なICT化を目指すドイツをはじめとした欧米諸国のグローバル戦略に対して、我が国のものづくり産業は競争力・収益力の強化が必要とされている。このような厳しいグローバル競争を勝ち抜くためのものづくりの原点は、製品の機能・性能、品質、コスト、サービス等の競争優位性を図ることである。そのためには、これまでの強みであるCAD/CAM※29、工作機械や産業用ロボット等の設計・生産技術のさらなる進化に加え、IoTやビッグデータ、AI、ロボット等を活用し、顧客のニーズやサービス産業との連携を可能とするサプライチェーン全体にまたがる新たなものづくりシステムの開発が必要である。
我が国のものづくり産業は前述したように、高品質かつ効率的な設計・生産技術と、熟練技術者の持つ高度な技術(匠の技術)を強みとして成長してきた。新たなものづくりシステムでは、製品企画、設計、生産、メンテナンスまでをICTで繋げるエンジニアリングシステムチェーン、製品の加工・組立てプロセスをICTでつなぐ生産プロセスチェーン、部素材の調達や在庫管理・ユーザーの情報管理等を行う情報ネットワークに関するプラットフォームの構築が必要である。特にこのプラットフォームでは、IoTやビッグデータ、AIを活用し、顕在化していないユーザーニーズを先取りする仕組みも必要である。また、各企業に蓄積された設計・生産ノウハウや、生産現場を知り尽くした熟練技術者の匠の技術(暗黙知)を形式知化し、ロボットや工作機械を知能化することで、大企業に加え、中小・中堅企業、ベンチャー等が、独自のものづくり技術を有し、グローバル市場において優位な地位を築くことができる。これらによって、ユーザーに対して感動や喜びを与える高品質・高付加価値の製品・サービスを迅速に提供できるバリューを創出する。
これにより、ものづくり企業の生産効率向上、事業の拡大やニュービジネスの創出が見込まれ、我が国の産業競争力の強化、地域の雇用の拡大、ひいては経済社会の活性化が実現される。
新たなものづくりシステムを実現するためのコア技術として、IoTやビッグデータ、AI、ロボット技術等の開発を行う。これらのICTを活用して、人と人、現場と現場(マーケティング、企画、設計、調達、生産、品質管理等)を繋ぎ、人とITが協調するサプライチェーンのプラットフォームを開発する。ここでは、需要予測から生産設備の稼働管理、メンテナンスや在庫管理等を一括して行う、前述したエンジニアリングチェーン、生産プロセスチェーン、調達及び販売に関する情報ネットワークを統合したプラットフォームを構築する。その際、サプライチェーン全体で現場における問題を設計・生産にフィードバックする技術開発を行い、日本ならではの競争力(例外事象への現場対応力、摺り合わせ等)強化に取り組む。また製品企画、設計において、潜在化したユーザーニーズを先取りした顧客満足度の高い製品、サービスを生み出すため、グローバル市場を含むユーザーからの情報収集技術、ユーザーニーズの分析技術、人の無意識の価値判断を脳活動から客観的に評価可能とする技術等の開発に取り組む。
さらに生産システムにおいては、多様化したユーザーニーズに迅速かつ柔軟に対応して、高性能、高品質な製品を提供するため、AI、ビックデータ処理、制御技術を活用して複雑形状を高速かつ高精度で加工する3Dプリンタ等の革新的な生産技術の開発に取り組む。また、企業内に蓄積された生産のノウハウや熟練技術者の匠の技術(暗黙知)を形式知化し、それを活用した生産の自動化や人と安全に協調する生産ロボット等の開発にも取り組む。
なお、IoT、ビッグデータ等を活用し、潜在的なニーズを先取りした製品企画・設計や、高速・高精度な加工技術等の開発に関して、SIP「革新的設計生産技術」を先導役として実施する。
また、中小・中堅企業、ベンチャーなどの卓越した技術とユーザーニーズをマッチングするため、研究開発法人や公設試等での共創の場の構築や産学官連携の推進、人材の育成、そして企業間の連携のための情報管理システムの構築に取り組む。
(1)サプライチェーンシステムのプラットフォーム構築(SIPを含む)【内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(2)革新的な生産技術の開発(SIPを含む)【内閣府、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(3)社会実装に向けた主な取組【総務省、文部科学省、経済産業省】
我が国の素材産業は、世界トップクラスの国際競争力を有し、その高い技術力を基に開発される新機能材料は、革新的な製品を通じて社会に大きな変革をもたらしてきた。また、2014年の輸出総額(約73兆円)にしめる工業素材の割合は20%を超え※30素材産業は輸出産業の中でも重要な位置を占めている。しかしながら、製造業同様に、素材産業の分野においても、新興国は我が国を激しく追い上げている。素材産業が、引き続き国際競争力を維持していくためには、他国が容易に追従できない材料及び製品を、いち早く、低コストで生み出し続けることが必要である。
そのためにはイノベーションを継続的に創出する仕組みが求められるが、材料開発の新たな手法として、従来型の研究開発手法を補完する計算・データ科学をフル活用したデータ駆動型の研究開発手法(マテリアルズ・インフォマティクス)が注目され、米国を筆頭に取組が開始されている。材料分野に強みがある我が国には、金属、セラミックス、高分子をはじめ、信頼性の高い膨大な量の材料データ(材料・実験・設計データ等)が存在する優位性がある。よって、その高信頼性データに基づいてマテリアルズ・インフォマティクスに取り組むことが重要であり、更にこれを拡張して、寿命予測を含む要求性能から、それを実現する材料及び製造プロセスを予測可能な統合型材料開発システム(以下、「マテリアルズインテグレーションシステム」という。)を構築する必要がある。このシステムに生産、流通、顧客などから得られるビッグデータが融合されることで、生産課題や顧客ニーズさらには世界的な研究開発動向等を反映した研究開発が可能となる。
これらの取組により、ニーズを先取りした革新的な材料の創製、研究開発期間の短縮を実現し、最終製品の市場投入の加速等により、素材産業の競争力強化を実現することができる。また、新機能材料は、省エネ部材、軽量化部材などとして早期に社会実装されることにより、エネルギー、地球環境問題等の社会課題の解決をもたらす。
マテリアルズインテグレーションシステムの構築には、まず、産学官それぞれが保有する多様かつ膨大な材料情報を整理・統合して、信頼性の高い材料データベースを構築する必要がある。あわせて、新材料の迅速な抽出のためのデータ駆動型の材料探索技術や材料性能予測技術を確立し、さらには、製品化につなげるため、予測結果を素早く検証する試作・計測・評価技術も必要となる。また、ニーズの先取りを可能とするビッグデータ収集・解析システムを開発することも重要であり、最終的にこれらのシステムを統合することで、マテリアルズインテグレーションシステムを実現し、材料開発期間の短縮による製品開発の加速、さらには新市場の創出を通して経済的な効果が生み出される。
今後、あらゆる分野の材料開発でデータ駆動型研究を用いた開発競争が展開される中、我が国が材料開発で他国をリードしていくために、本取組では、自動車用蓄電池・モーターなどの電池材料や磁性材料さらに伝熱制御材料など、機能性材料を含む種々の材料開発に適用可能なマテリアルズインテグレーションシステムを実現する。これに際しては、SIP「革新的構造材料」で実施している構造材料用「マテリアルズインテグレーション」で整備されるデータベースや各種材料予測技術と整合させる。
社会実装に向けては、材料データベースの構築等に企業、大学及び公的研究機関の協力体制の構築が必須であり、材料と計算・情報・数理科学に精通した人材の育成に向けた国の役割も重要となる。
(1)信頼性の高い材料データベースの構築【文部科学省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(2)データベースを活用したニーズ対応型材料開発技術の確立【文部科学省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(3)高速で高効率な材料試作、計測・評価技術の確立【文部科学省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(4)社会実装に向けた主な取組【文部科学省、経済産業省】
世界に先駆けて超高齢社会となる中、高齢者が住み慣れた地域で生きがいを持って自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、それぞれの生活環境に根差した予防、医療、介護サービスを一体的に提供することでその効果を最大にするとともに、社会参画や住居、地域環境の調整によって高齢者の自立を支援し、健康寿命の延伸を図ることが必要である。
予防、医療、介護分野の各種データをICTにより共有し、これらの分野に関わる種々の職種の連携を可能とするとともに、集積されたデータの解析に基づいて、AI、ロボット技術等の先端技術も応用し、高齢者に適した予防、医療、介護のサービス提供を行う。また、得られたデータの分析や、介護作業支援ロボット技術等の導入により、介護従事者等の負担軽減を目指す。あわせて、高齢者の自立を支援するための3次元地図情報等の地域環境基盤の構築を進める。
また、高齢者が能動的に情報や経験の発信を可能とする社会を構築していく。高齢者が地域の交流の場での情報発信、社会活動等を行いやすい環境を整え、住み慣れた地域の中での自己実現の可能性や社会的役割を自覚することによって、高齢者の生きがいを育み、活力に満ちた超高齢社会の構築を目指す。
さらに、介護保険外として、要介護状態に陥らないことを目指したセルフケア等が可能となるサービス市場を構築するとともに、システム化されたサービスの海外展開等、新たな市場の開拓も行う。
地域包括ケアシステムを推進していくために、まず「予防・医療・介護分野等の次世代基盤構築、環境整備」に取り組む。
様々なデータを統合するための次世代ICT基盤の構築、それを支える革新的なネットワーク基盤技術の開発、及びセンシング技術の開発により、各種センサ機器から得られた情報に基づくサービスを高齢者本人に還元し、個々人に最適なセルフケアを可能とする。また、センサ機器を用いた管理により、一人暮らしの高齢者の状態を確認することができるようにする。
また、自立行動支援システム、ロボット技術等の革新的個人支援技術開発、3次元地図情報等の地域環境基盤の整備等を重点的に進め、高齢者の自立を支援するとともに、これらの技術仕様を世界規模で普及させることを目指す。世界に対して情報発信及び世界展開を図るために、各国での導入が行いやすい個人支援技術開発を先行させ、大会プロジェクトと研究開発を連動し、2020年に開催される大会会場において、直接これらの技術を活用した製品等の品質や有効性を身近に感じてもらうことを目指す。
これらの取組により要介護者の自立を支援することによる家族の負担軽減や、介護従事者へのロボット等の活動支援技術の応用による負担の軽減が期待される。
次に、整備される基盤、環境を用いて「次世代予防・医療・介護サービスの提供」を可能としていくために、多職種関係者の対話を促進し認識を共有し深める等の人材育成プログラムを開発、導入することによって、人材育成の観点からも介護サービスの充実を図る。
さらには「データの収集、共有、解析、検証」を通じ、新たなサービス提供に向けて、既存の解析技術のみならず、AI、ロボット技術等の先端技術を適用することで、集積されたデータにより有効性を明確化するとともに、各種情報共有により介護従事者の負担を軽減する。
なお、高齢者から受けた医療、介護等に関する情報については、個人情報保護の観点から取扱い・活用等に関する基準を策定するとともに、情報共有の観点からセンサ機器等のデータ転送のフォーマットの標準化(ISO等による国際標準化を含む。)等の整備が必要不可欠である。
これらの、連携された一連の基盤整備及び活用によって、高齢者の自立支援のためのサービスが拡充され、関連経費の効率化等に対する効果も期待される。さらには高齢化の進展する他国に対して、個別技術をパッケージ化したサービスとして輸出していく。
(1)予防・医療・介護分野等の次世代基盤構築、環境整備(大会プロジェクト1.及び3.の一部を含む)【内閣官房、警察庁、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(2)次世代予防・医療・介護サービスの提供【厚生労働省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(3)データの収集、共有、解析、検証【内閣官房、総務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(4)社会実装に向けた主な取組【内閣官房、総務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省】
大会開催決定をひとつのきっかけとし、我が国への関心の高まりとともに訪日客が増加することが予測されている。
大会開催期間中は、国外から様々な人々が観戦のために我が国に訪れる。その際、国籍に関わらず、大会観戦や観光を楽しめるような日本ならではのおもてなしを提供する。おもてなしは、日本の文化であり、世界に誇るべきものである。観光競争力ランキング※31においても客の待遇の項目で首位となっており、おもてなしが高く評価されている。したがって更にこれを発展させ、来日客に対して移動や会話に伴うストレスのない、やさしい誘導を行い、イベント・観光における感動共有を、都心部や観光地だけではなく日本のどこでも提供できる継続的取組につなげていくことが必要である。おもてなしの提供を受けた訪日客が日本のファンとなれば、更にその訪日客がそのおもてなし体験を母国等で共有することにより、日本のファンが世界中に増え、継続的な訪日客の増加、日本ブランドの向上(クールジャパンの実現)につながる。
そのことにより、訪日客は都心部や観光地だけでなく日本各地を訪れ、2014年4月に44年ぶりに黒字化した旅行収支※32が更に向上するばかりでなく、政府が目標として掲げる2020年に訪日外国人旅行者数を2000万人まで増加させる目標※33に貢献し、地方経済の活性化によって消費が国内全体で高まることが期待できる。
日本文化を具現化したおもてなしシステムによって、訪日客が持ち合わせる文化・習慣を理解した上で適切な翻訳結果の導出を実現するストレスフリーなコミュニケーションの実現、臨場感あふれるバーチャル体験による感動の共有、駅や空港、競技・イベント会場などの人が集まる場所で必要に応じて情報を提供し、人の流れの円滑化や危険回避を図る安全・安心・快適を価値として提供する。
そのための第一段階として、大会を重要なショーケースと位置付ける。このため、コーパス※34の充実により翻訳精度を追求した多言語音声翻訳技術を搭載したロボットやウェアラブル端末等利用シーンに応じた様々な端末をホテル、旅館などの観光業やタクシーなどの公共交通機関等で活用する。また、表現サイズと精細度を拡大した超臨場空間映像技術とコンテンツの充実化による新たなエンターテインメントビジネスを創出し、海外からのリピータを呼び込む空間映像システムを実現する。さらに、センシングされた様々なデータをリアルタイムで収集し、個人情報を含むデータとして解析・利活用し、警備の効率化・高度化、交通機関等での活用を行うため、人びとの安全・安心・快適のために必要な情報を必要な時に提供するサイバーフィジカルシステムを実現する。
次に、おもてなしシステムを構成する各システムを利用することにより多用途でのビジネスの創出を図る。具体的には、医療機関等で多言語音声翻訳システムを活用する等、インバウンド(外国人旅行者を自国へ誘致すること)の取組による地域活性化等の価値提供に資するサービスの創出を図る。また、空間映像システムを利用し、遠隔教育や遠隔医療サービスの創出を図る。さらに、サイバーフィジカルシステムを個人情報を取り扱うシステムの共通プラットフォームとして位置付け、エネルギー利用のスマート化、レジリエント防災・減災システム、高度道路交通システム、地域包括ケアシステム等のシステム間でのデータ利活用による新たな価値の創出を図る。
(1)多言語音声翻訳システム(大会プロジェクト1.の一部を含む)【総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(2)空間映像システム(大会プロジェクト8.)【総務省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(3)サイバーフィジカルシステム(大会プロジェクト7.の一部を含む)【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省】
1.取組の内容
2.2020 年までの成果目標
(4)社会実装に向けた主な取組【内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省】
世界規模での人口増加と地球環境の温暖化による将来的な食料不足が顕在化しつつある状況の下、特に食料供給の多くを輸入に頼っている我が国においては、国民に食料の安定供給を確保することは喫緊の課題であり、かつ国の重要な責務である。
一方で我が国の地域経済を支える基盤産業である農林水産業を取り巻く現状は、人口減少による超高齢社会の到来により、地方、とりわけ農山漁村では、就業者の減少や高齢化が都市部に先駆けて急速に進行している状況にある。それに対して、自ら地域の強みを見つめ直し、多様な業種の人材を取り込みつつ、新たな価値の創出や市場の開拓に取り組むことで、農林水産業を若い世代や女性など新規就業者にとり魅力的で豊かさを実感できる産業へと変革することが求められている。
このため、ICTやロボット技術などの最先端の技術を導入し、誰もが取り組みやすく、安定した営農等を可能とする低コスト省力生産システムや、海外市場も視野に入れた、生産から加工、流通に至る新たなバリューチェーンを構築することにより、生産量の拡大による食料自給率の向上やジャパンブランドでの海外展開による輸出促進などを実現し、農林水産業の競争力強化と成長産業化を目指す。
我が国の農林水産業における国内総生産(GDP)は、約5兆円であるが、関連する加工、流通、外食産業等を含む食品産業のGDP約38兆円を加えた総額は、約43兆円の市場規模(平成24年度)※35となる。
現在の農林水産業や食品産業を巡る状況は、素材産業である農林水産業から加工、流通、外食の関連産業を経由して消費者の下に食料・食品が届けられる構造(フードチェーン)に厚みが増したことで、農業・食品産業全体にまたがり多様化する消費者のニーズや購買意識の動向が、各産業レベルにダイレクトに伝達されにくい環境へと変化してきている。また、物流の効率化による食料・食品の品質概念の拡張(定時・定量・定品質)が生じたことにより、農林水産業・食品産業の成長産業化に向けては、国内・海外市場のニーズを見据えた新たな品質概念にも応える商品の高付加価値化による農林水産物や食品の市場への対応が急務とされている。
これらに対応するために、ICTの活用により、国内・海外市場のニーズ、機能性食品等の多様化する消費者ニーズや購買意識を、商品開発や技術開発(育種、生産・栽培、加工技術、品質管理、鮮度保持等)にフィードバックし、フードチェーンを構築する加工、流通、外食など異分野の企業体の情報連携を実現するスマート・フードチェーンシステムを構築する。
本システム構築により、消費者の多様なニーズに応じた農林水産物・食品の提供、また、その特徴を生かした商品のブランド化による付加価値の高い、魅力ある商品(バリュー)の創出が可能となる。
また、生産者が息の長い利益を得、競争力の高い持続可能な農業経営体を育成することが可能となり、農林水産業を成長産業へと変革し、GDPの増大への貢献が期待される。
スマート・フードチェーンシステムの実現に向けて、生産段階においては、流通・外食産業、消費者等のニーズに応じた多収性など重要な形質を持つ品目の育種や、良食味や有効成分を多く含む新品種の育成等による多様な商品提供を可能とするよう、オミクス解析技術やゲノム編集技術の体系化等の次世代育種システムの開発を行う。あわせて、それらの品目・品種を定時・定量・定品質で生産・供給することを可能とするシステムのスマート化にも取り組む必要がある。加工・流通段階においては、長期間の鮮度保持技術の開発や国際的品質管理基準への対応等による高付加価値商品の開発に取り組むことで、国内の需要促進や輸出の拡大を目指す。さらに、バリューチェーンを構成する基盤として、生産、加工、流通、消費の各段階での有益情報を効果的に伝達できる情報プラットフォームの構築・整備に取り組む。
なお、大会に向けては、花きの日持ち性品種の育成技術の開発、海外展開を視野に入れた加工・流通システムでの鮮度保持や品質管理技術の開発を進め、これらの研究開発成果である国産花きの品質や育種技術などの日本の技術力の高さと安全性を、大会において先行的に世界に向けてアピールすることで、我が国の次世代育種技術の信頼性の高さを示すとともに、国内花き産業の振興につなげる。
また、SIP「次世代農林水産業創造技術」の研究課題である、次世代育種の開発、植物工場における体系的栽培管理技術の開発及び次世代機能性農林水産物・食品の開発と連携することで、次世代育種システム、ニーズオリエンティッドな生産システム及び加工・流通システムの各段階での新たな価値の創出に取り組む。
(1)次世代育種システム(SIP及び大会プロジェクト9.を含む)【内閣府、文部科学省、農林水産省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
加工・業務用に求められる品質・規格に適合した野菜の新品種の開発・普及、多収性イネ(単収1.5トン/10a;2024年度末目標)、加工適性に優れた麦など新品種の育成
(2)ニーズオリエンティッドな生産システム(SIPを含む)【内閣府、文部科学省、農林水産省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
消費者ニーズの変化に対応した品目・品種への速やかな転換が可能な生産システムの確立
(3)加工・流通システム(SIP及び大会プロジェクト9.を含む)【農林水産省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
農作物や花きの品質保持期間延長技術の高度化やHACCP等安全・品質管理体制の構築によるジャパンブランドの確立と、農林水産物の輸出促進(目標:輸出額1兆円)
(4)実需者や消費者への有益情報伝達システム【農林水産省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
標準化された情報提供プラットフォームの実用化
(5)社会実装に向けた主な取組【内閣府、文部科学省、農林水産省、経済産業省】
地域の基盤産業である農林水産業においては、就業者の減少や高齢化が急速に進む中、特に意欲のある若い世代の就業者の増加が農林水産業の活性化に向けて喫緊の課題となっている。
そのため、ICTやロボット技術等を活用した大規模生産システム、ベテラン就農者のノウハウの形式知化や作業の軽労化など、省力化された効率的な生産システムを構築することで、高齢者や女性、若い世代など誰もが取り組みやすく、安定した営農と収益性の向上を可能とし、農業経営の魅力化を図る必要がある。
それにより新規就農者の増加等による地域の雇用増と農林水産業の競争力強化を実現し、国内農業の生産力の増進による食料自給率(2013年カロリーベースで39%:2025年目標45%)※36の向上にもつなげる。
スマート生産システムの実現のためには、圃場における栽培・生産システムの低コスト化、高度化を進めるとともに、農作業の軽労化や自動化を通じた就農者の負荷軽減を実現し、更に栽培・生産ノウハウや経営ノウハウを新規就農者にもわかりやすい形で提供するための仕組みを作り、それらを総合的に提供することが必要である。
栽培・生産システムに関しては、衛星測位システムの位置情報等を利用し農業機械の自動走行や高精度制御を用いた農作業の無人化、並びにセンサを用いた圃場の作物生育状況や土壌水分などの生産データ、病害虫発生・気象障害予測等のデータに基づく栽培管理を可能とする、大規模生産システム(稲、麦類の低コスト省力生産システム等)の構築が必要である。農作業の軽労化、自動化に関しては、アシストスーツや除草ロボット等の導入が期待される。また、農業経営に必要なノウハウの提供に関しては、熟練就農者の栽培管理・生産管理に関する技術やノウハウを形式知化し、経験の少ない労働者でも営農可能な経営支援システムを構築する。
これらの研究開発のうち、農業機械等の無人化作業及びセンサによる収益性の向上については、SIP「次世代農林水産業創造技術」を先導役として推進する。
(1)栽培・生産・経営支援システム(SIPを含む)【内閣官房、内閣府、総務省、農林水産省、経済産業省】
1.取組の内容
2.2020年までの成果目標
(2)社会実装に向けた主な取組【内閣官房、農林水産省】
研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付