科学技術、特に情報通信技術の飛躍的な発展により、あらゆるものが相互に結びつき、情報が共有され、相互に影響を及ぼし合う世界へと加速度的に移行しつつあり、既存の枠組みを超えて、新たな価値が生み出されている。こうした状況の下で、価値や知識の創造プロセスが大きく変化し、経済や社会の在り方、産業の構造が急速に大きく変化する大変革時代が到来している。
このような大変革時代においては、次々に生み出される新しい知識やアイデアが、組織や国の競争力を大きく左右し、いわゆるゲームチェンジが頻繁に起こることが想定される。ますますグローバル化する世界情勢の中、我が国の国際競争力を強化し持続的な発展を実現していくためには、新しいことに果敢に挑戦し、新たな価値を積極的に生み出していくことが一層重要になる。
また、このように先行きの見通しを立てにくい大変革時代にあっては、現時点で未来の産業や社会の将来像を明確に示すことは困難だが、現在発展しつつある個別のシステムが更に高度化し分野や地域を超えて結び付き、あらゆるものがネットワーク化されることにより、必要なもの・こと(サービス)を、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供でき、社会の様々なニーズに対し、きめ細やかに、かつ、効率良く対応できる「超スマート社会」ともいうべき社会が向かう方向性と考えられる。そのような社会では、個別の製品や要素技術のみならず、それらが有する個々の機能を結びつけ、一つの統合体として機能させる「システム化」によって、新たな価値が生み出されると考えられる。世界では、ドイツのインダストリー4.0や米国の先進製造技術開発の取組が示すように、この大変革の時代を先導すべく科学技術イノベーション政策の競争が繰り広げられている。このような背景を踏まえ、我が国は、こうした時代の流れを先取りし、総合科学技術・イノベーション会議とIT総合戦略本部、サイバーセキュリティ戦略本部との連携を強化しながら、日本が強みを有する研究や技術を伸ばしつつ、「超スマート社会」の形成を世界に先駆けて目指すことが必要である。
一方、我が国では大変革時代に対応するこれらの取組は必ずしも十分とは言えず、リスクをとって新しいことに挑戦し革新的な成果を生み出す研究はImPACTで先行的に取り組んでいるものの、その推進は緒に就いたばかりである。また、我が国は個別の要素技術や製品で強みを持つものの、それらを組み合わせ、潜在的なニーズも踏まえ、統合したシステムとしてデザインする力が十分ではなく、それぞれの強みを生かし切れていないとも指摘されている。
こうした問題に対処していくため、総合科学技術・イノベーション会議が他の司令塔との連携、府省・産学官連携を一層強化しつつ、必要となる取組を総合的に推進することが重要である。
未来の産業創造・社会変革に向けた取組を始動し早急に軌道に乗せるには、第一に、幅広いステークホルダーにより、未来の産業や社会について構想し、それを念頭に置きながら取り組んでいくことが重要になる。
また一方で、未来に向けて果敢に挑戦する人材を育成していくことが重要であり、特に次世代をリードしていく若手による未来の社会に向けた取組のアイデアの提案・挑戦を支援すべく、未来の産業創造と社会変革の種となるチャレンジングな研究開発への投資、そしてそれに取り組む研究人材やプログラムマネージャーとしてリードする人材などの強化に着手する必要がある。
さらに、世界に先駆けた「超スマート社会」の実現に向ける第一歩として、未来の社会や産業の構想の下で、我が国の強みを有する技術を強化し、それらを組み込んだサービスや事業の「システム化」に取り組むとともに、個々のシステムの更なる統合化を検討していくことが重要である。その際、「システム化」により創造される新たな価値・産業はグローバルな展開が前提となることから、国際的な場で各国と連携しつつ、国際標準、行動規範の策定等に主導性を発揮することが必要である。
あわせて、「システム化」が進むとともに、より大量なデータをリアルタイムで取得し、高度かつ大規模なデータ処理等を行うことが求められる。このため、将来を見据え、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ解析、数理科学、計算科学技術、AI(Artificial Intelligence)、サイバーセキュリティ等の先導的な基盤技術の強化が必須である。また、「超スマート社会」において我が国の強みを活かし幅広い分野でのビジネス創出の可能性を秘めるセンサ、ロボット、先端計測、光・量子技術、素材、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー等の共通基盤的な技術の先導的推進を図ることも重要である。
また、我が国では欧米等と比較し、データ分析のスキルを有する人材や統計科学を専攻する人材が極めて少なく、我が国の多くの民間企業が情報通信分野の人材不足を感じており、危機的な状況にある。「超スマート社会」の実現には、サービスや事業のシステム化による新たな価値創出に従事できる人材を強化することが不可欠である。それと同時に、情報通信及び数理科学等の基本的知識を持ちつつ、適用分野を把握し、課題の発見・解決を、統合システム全体を見通して行える人材の強化も求められる。
上記の課題に対して、以下の取組を実施する。
総合科学技術・イノベーション会議は、幅広いステークホルダーの参画を得て未来の社会・産業を共に構想し、これからバックキャストしながら未来の産業創造・社会変革に向けた取組を先導するプロジェクトを推進する検討の場を設置し、その検討状況を第5期基本計画へ反映する。【内閣府】
チャレンジングな研究開発に取り組む人材やプログラムマネージャーとしてリードする人材の強化にも資するよう、総合科学技術・イノベーション会議が推進するImPACTの更なる発展・展開を検討するとともに、その手法を参考にしつつ、未来に果敢に挑戦するチャレンジングな研究開発の推進に取り組む。【関係府省】
我が国の強みを活かし、個別の技術の高度化を図りつつ、それらを統合して様々なサービスや事業の「システム化」を進めるプロジェクトを推進する(第2部第2章「経済・社会的課題の解決に向けた重要な取組」の一環として実施)。また、(1)で設置する検討の場において、これらのシステムの更なる統合に向けた検討を進める。
「超スマート社会」の実現に向け、様々なサービスや事業に係る「システム化」の推進・高度化及びそれらの統合、さらには様々な分野での新たなビジネス創出において鍵となる共通基盤技術、例えば、IoT、ビッグデータ解析、数理科学、AI、サイバーセキュリティ、センサ、ロボット、素材、ナノテクノロジー等について、それらの技術の重要性や我が国の強み・弱み等を勘案し、重点的に取り組むべき技術課題と達成目標及び時期を明確にし、関係府省の連携の下で戦略的に研究開発を推進する。このため、来年度からの実施に向け、具体的な推進方策について検討を進め、その内容を第5期基本計画に反映する。
また、情報通信及び数理科学等の基本的知識を持ちつつ課題の発見・解決ができる人材の強化にも合わせて取り組む。【内閣府、関係省庁】
人口減少と高齢化は我が国が直面する大きな課題であるが、とりわけ地方においては、特に若年層を中心とした人口の著しい流出が顕在化しており、地域の社会経済の活力低下に追い打ちをかけている。このような課題に対して、「まち・ひと・しごと創生総合戦略(平成26年12月27日閣議決定)」において、1.「しごとの創生」と「ひとの創生」の好循環等の実現による東京一極集中の是正、2.若い世代が安心して就労し、希望どおり結婚し、妊娠・出産・子育てができるような社会経済環境の実現、3.地域が直面する課題を解決し、地域の中において安全・安心で心豊かな生活が将来にわたって確保されること等を基本的な考え方として掲げ、取組が進められているところである。
一方で、地域経済を支える産業の一つであるものづくり産業の分野においては、これまで、卓越した技術を有する中堅・中小企業が我が国の産業競争力を下支えしてきたが、長引く日本経済の低迷や為替変動等の影響により、地域の企業は大きな打撃を受けている。地域が持つ強みを生かし、高付加価値な製品やサービスを創出しビジネスとして展開する、イノベーションの核となる事業あるいは企業を育てることで、地域経済全体の引上げを図り、雇用創出や人口流入を促し、地域の活力を再生することが期待される。
このため、地域が主体となり、地域の強みを生かした科学技術イノベーション創出の観点からの地方創生に取り組むことが重要である。その際、国は地域の取組に対して適切な形で支援施策を講じる必要があるが、総合科学技術・イノベーション会議においては、まち・ひと・しごと創生本部をはじめ、知的財産戦略本部などの司令塔との連携を強化し、関係施策を総動員して取り組む。
地域イノベーションの推進に当たっては、地域主導によるビジョンや戦略の構築・遂行、また、大学、研究機関、企業等の地域における多様な主体が集まるイノベーション創出の「場」の形成の取組を進める一方で、地域外のリソースも活用しつつ、地域が持つ様々な技術シーズや人材を流動化し、それを新たな産業や事業の創出に結びつける仕組みの構築が重要となる。
また、特定の製品分野において国内外で高いシェアと収益力を誇るグローバルニッチトップ(GNT)と言われる企業は、地域で多数の取引先を有するなど地域経済の牽引役として重要な役割を果たすものであるが、こうした企業も含め、地域の経済を牽引し、域外さらには海外の市場に向けて事業を展開するポテンシャルを持つ中核企業を発掘し、これに対する支援を行うことが必要である。また、地域外との人材流動をもたらす役割も期待される地域の大学や高等専門学校、研究機関や企業、更には自治体や金融機関等が連携して、地域発のイノベーションをリードできる人材を育成しつつ、知的財産の活用に係るものも含め、地域の資源、特性、強みを活かした取組を推進することが重要である。「知的財産推進計画2015」(知的財産戦略本部)に基づく地方における知財活用の推進の取組とも連動しつつ、こうした取組を包括的に推進し、それぞれの地域において、自律的に科学技術イノベーション活動を展開する仕組みが構築されることを目指す。
上記の課題に対して、以下の取組を実施する。
研究開発は、実用化時期が設定されていないシーズ中心の取組に陥りやすい傾向にあるが、イノベーションを起こすためには現実的な実用化(出口)を見定めたニーズ中心の研究開発を行い、「産業化」という明確な成果を求めていくことも重要である。
第5期基本計画の終了時期に当たる2020年は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「大会」という。)の開催年でもある。このため、基本計画の最終年に向けて大会での実用化に照準を合わせた取組を推進し、大会を通して日本発の科学技術イノベーションを国内外へ発信することにより、我が国産業の世界展開や海外企業の対日投資等を喚起し、2020年以降も引き続き日本全体で経済の好循環を引き起こしていくためのトリガーとすることが期待される。
本総合戦略第2部第2章では、経済・社会的課題の解決に向けてバリューチェーンのシステム化を行い、課題解決と産業競争力強化を一挙に進めていく取組を提唱していくが、大会の機会をその第一段階の足がかりとして活用し、その後の取組の加速化にもつながるよう、関係する全てのステークホルダーの協力のもと、オールジャパンで科学技術イノベーションを推進していく。
2014年8月より、内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)主催のもと、外部有識者や総合科学技術・イノベーション会議議員等により構成される「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関するタスクフォース」(以下、「タスクフォース」という。)を開催し、各府省や東京都、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、「組織委員会」という。)等の協力のもと、大会に向けて取組を加速化していくべき日本発の科学技術イノベーションの課題について検討を行った。
この中では、大会に向けた科学技術イノベーションの取組に関する基本理念や発信の考え方、スローガンのほか、取り組むべき9つのプロジェクトを以下の通り整理し、取組内容や想定する実施主体、工程表を含めた「実施計画書」をとりまとめたところであり、本総合戦略では、これらを重点的に取り組むべき課題として、その推進に取り組んでいく。
Innovation for Everyone 2020 ~すべての人が主役になれる社会づくりへ~
(以下、「大会プロジェクト」という。)
※東京都、組織委員会は上記の関連するプロジェクトに担当部署が参画
上記の課題を進める際に、2020年の大会やその周辺の取組のみを見据えるのではなく、大会後もレガシーとなって日本が抱える経済・社会課題の解決に資する取組として全国に普及・展開され、新たな産業創出や地方創生、科学技術人材の育成等につながることで、日本経済の好循環が誘導されることを目指す。
このためには、大会での研究開発成果の活用促進や積極的な発信の取組はもとより、大会後も継続的に取組が推進・発展するよう、民間企業が主体的に各事業へ関与し、サービス提供と利益創出が循環するビジネスモデルを構築していくことが鍵となる。したがって、今後は各府省や東京都、組織委員会がより一層協力し、タスクフォースで作成した実施計画書をもとに、プロジェクト毎に大会での活用シーンを踏まえて取組内容を具体化した「事業計画」の作成を進めていくが、その過程において民間企業への声かけ・参加を求め、民間の発意を盛り込んだ計画作りを行う。この際、政府は事業計画の具体化を踏まえ各プロジェクトの研究開発内容を適宜修正し、また民間企業が安心して将来への投資として事業に参画できるよう、研究開発成果の有効活用や規制改革、大会に関連する事業としての位置づけの整理等を東京都、組織委員会ほか関係機関と協力して進めていく。
今後、組織委員会が作成する「アクション&レガシープラン」や各機関で検討する大会に向けた計画等にこれらの取組に関する検討結果を反映し、大会に関連する事業等においてその技術が効果的に活用されるよう、関係機関と調整を図っていく。
研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付