我が国を取り巻く経済・社会情勢は、大きく変化している。
情報通信技術の急速な発展とグローバル化の進展に伴い、情報、人、組織、物流、金融など、あらゆるものが瞬時に結びつき、相互に影響を及ぼしあう時代に突入している。それに伴い、既存の産業構造や技術分野を軽々と超えて付加価値が生み出され、イノベーションの創造プロセスや経済・社会の構造が日々大きく変わりつつある。
また、知のフロンティアの拡大に伴い、知識や技術の全てを個人や一つの組織だけで有することが困難となっている。このため、新たな価値の創出には、多様な専門性を持つ人材が結集しチームとして活動することが鍵となっている。加えて、イノベーションのスピードを巡る競争の激化等もあり、民間企業においては、自社の保有する資源・技術のみを用いて製品開発等を行う、いわゆる「自前主義」から、戦略的に組織外の知識や技術を積極的に取り込むオープンイノベーションが、イノベーションの戦略的な展開に欠かせないものとなりつつある。
さらに、社会が成熟するとともに、人々が関心を示す価値は「もの」から「こと」へと変化している。企業には、従来のように技術革新の追求に留まることなく、ユーザーの要望や共感に応える新しい価値・サービスを創出することが求められている。
知の創造プロセスも大きく変化している。世界的な潮流となりつつあるオープンサイエンスは、分野・国境を越えて研究成果の共有・相互利用を促進することにより、従来の枠をこえた価値が生み出されるなど、サイエンスの新たな飛躍の時代が始まろうとしている。
一方、我が国及び世界が抱える課題は、増大し複雑化している。
国内的には、エネルギー・食料・資源の制約、少子高齢化や地域経済社会の疲弊と言った構造的な問題を抱え、特に急速に進行している少子化とそれに伴う人口減少は、我が国の経済や国民の生活水準の維持・向上に対する大きな脅威となりつつある。また、大規模地震など自然災害のリスク、高度成長時代に整備されたインフラの老朽化の問題、地政学的情勢をはじめとした我が国を取り巻く安全保障環境の変化などにも適切に対応していくことが求められている。特に東日本大震災からの復興再生はまだ道半ばであり、今後とも着実な対応が必要である。
さらに世界を見渡すと、世界人口は増加し続け、深刻化しているエネルギー、食料、水資源の不足等の問題や、また、感染症やテロに対する脅威、地球温暖化に代表される気候変動といった環境問題にも世界が協調して取り組んでいくことが求められている。
このように経済・社会が大きく変化していく大変革時代の中で、新たな未来を切り拓き、国内外の諸課題を解決し、我が国の持続的な発展を実現していくためには、科学技術イノベーションを推進し、社会を支える新しい価値を創造していくことが必要である。このため、時代の変化を先取りし、既存のシステムの改革を図りながら、生産性の向上や産業競争力の強化、地域社会の自律的な発展、国及び国民の安全・安心の確保、地球規模の課題の解決への貢献を目指し、科学技術イノベーション政策を積極的に進めていく必要がある。その際、技術には多義性があり、ある目的のために研究開発した成果が、他の目的にも活用できることを踏まえ、ダイナミックなイノベーションプロセスの構築を図りながら、適切に成果の活用を図っていくことが重要である。
第2次安倍内閣が発足し、科学技術イノベーション政策は大きく変化した。
科学技術基本計画(以下、「基本計画」という。)が示す大きな方向性の下、科学技術イノベーション総合戦略(以下、「総合戦略」という。)を策定し、この戦略の下、政策全体の体系化、政策の重点化、効果的・効率的な運営等を進めてきた。この一環として、総合科学技術会議を総合科学技術・イノベーション会議へと改組、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)といった「国家重点プログラム」の創設、イノベーション・ナショナルシステムの改革に向けた、新たな研究開発法人制度の創設、大学と研究資金の一体改革の検討など、府省の壁を越えて我が国全体での科学技術イノベーションへの取組を強化してきた。
来年度は、第5期基本計画の始動の年度となる。第5期基本計画期間中には、これまでの改革の成果も取り込み、政策の推進を加速していくことが求められる。
総合科学技術・イノベーション会議における第5期基本計画の策定に向けたこれまでの議論では、イノベーションの創造プロセスや経済・社会の構造が日々大きく変わる大変革時代を迎えているとの認識の下、
を第5期基本計画の3本柱として進めていくとともに、イノベーションを持続的なものとするため、人材、知、資金の好循環を誘導していくことを重要な取組として検討を進めている。
第5期基本計画の始動にあわせ、科学技術イノベーション政策の推進の在り方もより効果的・効率的なものにしていく。
具体的には、中長期的な政策の方向性を基本計画において示すとともに、その方向性の下、毎年の状況変化を踏まえ、その年に特に重点を置くべき施策を総合戦略によって示すこととする。その上で、基本計画に基づき、毎年施策の進捗を全体俯瞰するとともに、総合戦略のフォローアップも行うことにより、両者を連動させ、政策の中長期的な継続性を確保しつつ、より効果的・効率的に科学技術イノベーション政策の推進を図る。
来年度の科学技術イノベーション政策の推進に当たっては、以下の視点を重視していくものとする。
上で述べた視点を踏まえ、本総合戦略では、以下の5つを、重点を置くべき政策分野として位置付ける。その上で、各政策分野の中で、課題及び実施すべき取組を明確化し、関係府省・産学官の連携の下、国を挙げて推進していくこととする。
重点政策分野の推進に当たっては、まず、各政策分野における方向性、現状、問題点等を明らかにし、それを踏まえ、各政策分野において重点的に取り組むべき課題を明らかにする。
その上で、それらの課題達成に必要な取組を重点的取組として設定する。各重点的取組においては、実施する担い手を明示するとともに、取組の目標と時間軸を明確にすることにより、取組の推進状況を適切に把握・分析し、政策に反映する。
また、重点的取組の効果を把握するため、重点課題毎の特性を踏まえたKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)を設定する。その際、KPIとしては、基本計画が10年程度を見通した計画であることを踏まえ、10年後(2025年)~15年後(2030年)のアウトカムを意識しつつ、バックキャストして5年程度後に実現すべき指標を設定することを基本的な考え方とする。
政府全体の科学技術関係予算の編成において、総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮し、限られた資源の重要な分野や効果の高い施策への重点的な配分、それによる資源の有効活用及び政策のPDCAサイクルを確実に実行するため、本総合戦略に基づき関係府省の施策を主導していく。
このため、総合科学技術・イノベーション会議は、本総合戦略に基づく重点的取組を推進するために、関係府省からの提案も含め施策を把握し、必要に応じて各府省と調整した上で、本総合戦略に基づく重点化すべき対象施策を決定する。内閣府は、本総合戦略が政府の予算に実効的に反映されるよう、財政当局等との連携を図る。
なお、本総合戦略には、従来、総合戦略とは別に策定していた「科学技術重要施策アクションプラン」の内容を盛り込むとともに、同プランに対し指摘されていた課題を踏まえ、バリューチェーンのシステム化という観点から重点化対象を示している。よって、経済・社会的課題の解決に向け、関係府省の施策を主導するに当たっては、本総合戦略をいわば進化した「科学技術重要施策アクションプラン」として活用していく。
研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付