光・量子科学技術分野における基盤技術開発のためのネットワーク型研究拠点の構築(量子ビーム基盤技術研究開発・人材育成事業)の事前評価票

(平成19年8月現在)

1.課題名

光・量子科学技術分野における基盤技術開発のためのネットワーク型研究拠点の構築(量子ビーム基盤技術研究開発・人材育成事業)

2.開発・事業期間

平成20年度〜平成24年度

3.課題概要

 汎用性・革新性と応用性が広い量子ビーム関連要素技術課題について、5年程度での実現を目指して、取りまとめ機関を中核とした参画機関のネットワークにより研究開発を行う。
 この際、ネットワークの連携を全国的かつ組織的に推進する共通基盤技術プラットフォームを構築し、オールジャパンの体制で研究開発を実施する。また、この共通基盤技術プラットフォームと量子ビーム利用プラットフォームが連携することにより、イノベーションの主体である産業界や量子ビーム施設利用者との円滑な情報交換を行う体制を整え、研究開発に反映させることにより、当該要素技術の産業応用可能性の向上を図る。また、若手研究者を積極的に導入し最先端の技術開発に従事させ人材育成を図る。

4.評価結果

(1)必要性

○事業の背景等

 量子ビーム技術はビーム発生・制御技術の高度化に伴って近年大きく発展しており、製造技術をはじめ基礎から応用にいたるまでの幅広い分野で活用され、革新的な成果を生み出している。「イノベーション25」において期待される2025年の社会の変革を実現するイノベーションの創出の起爆剤として量子ビーム技術が果たす役割は非常に大きいものと期待されている。例えば国家基幹技術であるX線自由電子レーザー(XFEL)は極めて強いX線レーザーを発振し、産業応用への発展も期待される装置であるが、これに必要な技術はリニアコライダーのための要素技術開発から派生してきたものである。このように、汎用性の高い先進的・革新的な加速器技術・計測技術を「みる」、「つくる」、「なおす」といった視点からの応用可能性や利用可能性の幅の広い共通基盤技術として開発する意義は極めて高い。
 第3期科学技術基本計画においても、「分野別推進戦略」(平成18年3月28日)の「ナノテクノロジー・材料分野」の中で、「量子ビーム高度利用計測・加工・創成技術」は、今後5年間に政府が取り組むべき「重要な研究開発課題」であると同時に、その中でも特に「ナノ領域最先端計測・加工技術」の開発は、今後5年間に集中的に資源を投入すべき「戦略重点科学技術」として位置づけられている。我が国が今後も持続的にイノベーションを創出し、国際競争力を強化して行く上で量子ビーム基盤技術の高度化は不可欠であり、国費を投入して実施すべき研究開発であるといえる。
 また、量子ビーム技術においては、装置設計・製作の実務に携わることが何よりの人材育成になるが、一方で、我が国においては今後数年で大型量子ビーム施設の整備が一段落するところであり、将来的に若手人材の空洞化が懸念される。このため、ポスドク等の若手研究者を積極的に活用し、量子ビーム関連人材を育成する必要がある。

○本事業に関係する審議会からの提言等

  • 原子力政策大綱(平成17年10月11日 原子力委員会)
  • 横断的利用の促進と先端的基盤研究開発の推進(平成19年6月 科学技術・学術審議会量子ビーム研究開発作業部会)

(2)有効性

 これまで量子ビーム技術を含む放射線利用は我が国経済において一定の規模を有しており(平成9年の放射線利用経済規模:約8兆6,000億円)、本事業などによる量子ビーム技術の高度化が大きな経済効果をもたらす状況が整っているといえる。本事業では、汎用的かつ応用性の高い要素技術の開発を進めることによって、ビームの質と強度の向上、スピンなどビームの新しい性質の利用、汎用性・普及につながる装置の小型化、精密加工の高度化、測定の信頼性の向上、エネルギー低消費型システムの実現などのための技術開発が進むことが期待される。これらによって、創薬等へつながるタンパク質の構造解析の効率化、次世代電子デバイス等の実現につながる新機能性材料の開発や超精密加工技術の実現、加速器による放射線医療の普及、有用作物の開発・食料増産等につながるイオンビーム育種の高度化など、これまで困難であった課題が実現することで、今後10年程度で我が国の社会システムを変革するような革新的計測・加工システム等を構築し、産業の発展・国民生活の質の向上、我が国の国際競争力の向上が期待される。
 さらに、本事業で選定されたネットワーク型の研究開発拠点(共通基盤技術プラットフォーム)では、量子ビーム技術のポテンシャルを結集した最先端の研究開発に取り組むため、これに参画する若手研究者にとっては自己の研究能力を研鑽・向上させる好機となるものと期待される。

(3)効率性

 本事業では我が国が取り組むべき量子ビーム関連重点課題に集中投資することで、効率的な基盤技術開発を推進する。今後10年程度で革新的計測・加工システム等を構築することを念頭におき、そのために、汎用性・革新性があり、かつ、5年間程度で実現できる要素技術の開発を実施する。
 研究開発は、取りまとめ機関を中核とした参画機関のネットワークにより行うが、その際、ネットワークの連携を全国的かつ組織的に推進する共通基盤技術プラットフォームを構築し、オールジャパンの体制で研究開発を実施する。この基盤技術プラットフォームと量子ビーム利用プラットフォームが連携することによりイノベーションの主体である産業界や量子ビーム施設利用者との円滑な情報交換を行う体制を整える。さらに、開発された要素技術は共通基盤技術プラットフォームにおいてメニュー化し、産業界・研究機関の誰もが利用可能なものにすることで、当該要素技術の産業応用可能性の向上を図る。また、優秀な若手研究者を積極的に起用することで人材育成を図り、量子ビーム分野における必要な技術レベルの維持と優秀な人材の確保に資する。
 技術開発の対象とする技術課題および技術開発のとりまとめ機関、参画機関は公募により選定する。また、ある期間経過ごとに研究開発状況の評価を行い、以後の研究開発の進め方の改善および資源配分の最適化を行うことで、事業の効率性の改善を図る。

5.評価結果

 本事業は、量子ビーム分野における先進的な要素技術開発と人材育成を通して我が国のイノベーション創出に積極的に資するものであることから、実施することが適当である。
 なお、具体的な実施体制の検討にあたっては、特に、若手研究者の人材育成について、単にポスドク等をネットワーク型拠点に取り込むだけではなく、彼らが産業利用研究にも関心を広げイノベーション創出の中核となり得る企画力を向上できる環境を整え、自主的に多様なキャリアパスを形成していけるよう配慮すべきである。