「ITER(イーター)計画(建設段階)の推進」の概要

1.課題実施期間

平成18年度〜平成28年度

2.研究開発概要・目的

 国際共同プロジェクトであるITER(イーター)計画において核融合実験炉ITER(イーター)を用いて燃焼プラズマを実現し、統合された核融合工学技術の有効性の実証及び将来の核融合炉のための工学機器の試験を行うため、わが国が調達を分担する装置・機器の製作、ITER(イーター)の建設・運転等の実施主体となるITER(イーター)国際核融合エネルギー機構(以下「ITER(イーター)機構」という。)の運営の支援等を行う。
 また、ITER(イーター)計画と並行して原型炉の早期実現に向けた技術基盤の構築及びITER(イーター)計画の支援・補完的研究を目的とした研究開発プロジェクトである「幅広いアプローチ」を日欧協力により我が国において実施する。幅広いアプローチでは、1国際核融合エネルギー研究センター(ITER(イーター)の次の原型炉の設計・研究開発、スーパーコンピュータによる核融合シミュレーション、高速ネットワークによるITER(イーター)の遠隔実験)、2国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動(原型炉や将来の核融合炉に必要となる核融合材料の照射施設の工学設計活動)、3サテライト・トカマク(原子力研究開発機構のプラズマ試験装置JT−60を超伝導化改修し、ITER(イーター)運転シナリオの検討や原型炉に向けた先進的プラズマ研究を実施)の3プロジェクトを日欧協力により実施し、核融合エネルギーの実用化に向けた大きな前進を図る。
 平成19年度には、幅広いアプローチ協定が6月に発効し、また、ITER(イーター)協定も年内の発効が見込まれているなど、計画の順調な進展が見られることから、平成20年度においては、主として以下の取組を通じて活動を拡充する。

3.研究開発の必要性等

(1)必要性

 核融合エネルギーは、豊富な資源、固有の安全性、高い環境保全性等の特長を有しており、今後のエネルギー源の一つとして有望な選択肢である。
 ITER(イーター)計画は、核融合エネルギー実現のための重要なステップとして、世界人口の半数以上を占める国と地域(日、欧、米、露、中、韓、印)により進められる国際共同プロジェクトであり、ITER(イーター)協定(わが国は本年5月に協定受諾書を寄託)に基づき国際的に合意された内容とスケジュールに従い実施されるものである。ITER(イーター)は、世界で初めて重水素・三重水素を用いた本格的な燃焼プラズマを実現させるものであり、そこで得られる知見は、ITER(イーター)の次の、定常的なプラズマ燃焼を実現し、同時にプラント規模での発電実証を一定の経済性を念頭に置いて実現する原型炉の実現に大きく貢献することになる。
 また、幅広いアプローチ活動は、将来の原型炉の実現を目指して、プラズマ物理研究、核融合炉材料・工学研究、原型炉の設計などを行うものであり、ITER(イーター)計画を補完し、核融合エネルギーの実現の鍵を握る重要プロジェクトである。幅広いアプローチについても、本年6月に発効した実施協定により合意された内容とスケジュールに従い実施されている。
 核融合は、原子力委員会ITER(イーター)計画懇談会(平成13年)で「核融合エネルギーは、その特徴から将来のエネルギー源の一つとして有望な選択肢」と評価されており、21世紀後半のエネルギー選択肢の幅を広げその実現可能性を高める観点から、その研究開発の経済的・社会的意義は大きく、また、国際貢献の観点からも、国際共同事業であるITER(イーター)計画及び幅広いアプローチの推進の意義は大きい。
 また、本計画は、「国際熱核融合実験炉(ITER(イーター))計画について」(平成14年5月閣議了解)、「国際熱核融合実験炉(ITER(イーター))計画について」(平成14年5月総合科学技術会議)、「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月)、「国際熱核融合実験炉(ITER(イーター))計画の推進について」(平成13年5月)、「今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年11月)「原子力政策大綱」(平成17年10月11日)(以上原子力委員会)、「今後の我が国の核融合研究の在り方について(報告)」(平成15年1月文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会基本問題特別委員会核融合研究WG)、「ITER(イーター)計画、幅広いアプローチをはじめとする我が国の核融合研究の推進方策について」(平成19年6月科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力分野の研究開発に関する委員会核融合研究作業部会)等に基づいて実施されるものであり、第三期科学技術基本計画期間における戦略重点科学技術として位置づけられている。

(2)有効性

 ITER(イーター)工学設計活動(EDA)において、ITER(イーター)工学設計と工学技術の実証試験が行われ、原子力委員会の下の核融合会議及びITER(イーター)/EDA技術部会において国内の大学・産業界の専門家による審議、更に総合科学技術会議における審議を経て、その妥当性を確認してきた。また、ITER(イーター)を構成する機器は、各極で分担して製作することとなっており、参加極全てがITER(イーター)と同方式の核融合研究施設を製作した経験があるが、その中でも日本、米国、EUは特に高い技術水準を有している。したがって、ITER(イーター)参加極間において技術力に見合った機器の分担を図ることにより、ITER(イーター)の建設を完遂できると判断される。
 幅広いアプローチについては、ITER(イーター)計画参加6極(当時)で構成する国際チーム及び日欧専門家グループによる検討を踏まえ、日欧間でその実施について合意したものであり、具体的なプロジェクトについては、ITER(イーター)計画参加極で検討された後、我が国内において、文部科学省内に設置されたITER(イーター)計画推進検討会(座長:有馬朗人元文部大臣・科学技術庁長官)の報告書を踏まえて決定したものである。幅広いアプローチでは、核融合研究をこれまで先導してきた日欧が分担して事業を実施するため、プロジェクトの目標を達成できると判断できる。
 ITER(イーター)は、各種の先端技術を駆使しており、その機器製作を分担実施することにより我が国における超伝導コイルや加熱電流駆動装置等の製作技術の発展が期待できる。さらに、ITER(イーター)の建設・運転を通して燃焼プラズマの制御、放射線環境下での機器の性能実証とその高度化、及び発電ブランケットの試験が可能となり、原型炉に向けた技術基盤が形成できる。
 ITER(イーター)計画における物理・工学分野の更なる課題解決と進展は、その成果を確実・強固なものにするものであり、特にITER(イーター)の核燃焼プラズマの性能検討を国際共同研究で行っている国際トカマク物理活動(ITPA)やITER(イーター)に関する工学研究活動として実施されているテスト・ブランケット作業グループ(TBWG)の活動の果たす役割も大きい。他方、ITER(イーター)の建設・運転を通して得られる知見は我が国の学術研究の発展にも大きく貢献するものである。
 また、ITER(イーター)の建設により超伝導技術、中性粒子入射技術、高周波技術等において開発した技術が確立すれば、極低温高強度材料の大量生産、次世代半導体製造、大電力ミリ波及びマイクロ波によるセラミックス製作加工技術等への応用による新しい産業の創出が期待される。
 さらに、最終的に、革新的な核融合エネルギーに関する技術開発を通じ、我が国の将来におけるエネルギー安定供給のための基盤技術の形成が期待できる。
 また、幅広いアプローチは、炉心プラズマ及び核融合工学研究に優れた実績のある日欧が共同でITER(イーター)及び原型炉のための研究開発に取り組むものであり、この実施によりITER(イーター)の次の原型炉に向けた研究活動や技術基盤を発展させるとともに、ITER(イーター)計画における我が国の主導性の堅持・拡充に有効であると判断される。
 さらに、ITER(イーター)のカダラッシュ、幅広いアプローチの那珂市、六ヶ所村を拠点として、学生や研究者に対して国際プロジェクトへの参加を促すことにより、我が国の将来を見据えた人材育成が図られることも期待できる。

(3)効率性

 約1.7兆円規模のITER(イーター)計画を参加7極で共同実施することと、約920億円規模の幅広いアプローチを日欧協力の下我が国において実施することにより、財政負担の軽減を図りつつ、研究成果が得ることができる。また、核融合研究の先進国である各極の技術的知見を結集することにより、計画の成功確度が向上するとともにより質の高い成果が得られ、単独で行ったときと比べてリスクを軽減することもできると期待される。さらに、最終的に核融合エネルギー開発が成功した場合、極めて大きな経済的・社会的効果が期待できる。
 ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチを、既存の我が国の核融合研究開発と有機的に連携させて実施することにより、総合的な核融合研究開発水準の向上と、我が国の核融合分野を担う研究者・技術者の育成に大きく資することが見込まれ、この分野における国際的な主導性を維持・向上させることが可能となる。

4.予算(執行額)の変遷

年度 平成18(初年度) 平成19年度 翌年度以降 総額
執行額 14億円 54億円 該当なし 該当なし
(内訳) エネ対費14億円 エネ対費54億円 該当なし 該当なし

5.課題実施機関・体制

6.これまでの成果

 平成18年11月、ITER(イーター)協定の署名が行われるとともに、同時に署名されたITER(イーター)協定の暫定適用取極に基づき、ITER(イーター)機構が暫定的に発足し、ITER(イーター)の建設に向けた活動を実質的に開始した。本協定は本年秋頃にはすべての参加極が批准等を終え、発効する見込みである。本年7月には東京で暫定ITER(イーター)理事会が開催され、ITER(イーター)協定の発効を目前に控え、ITER(イーター)協定発効後、直ちに必要な機器調達活動等を開始できるよう、今後の建設計画、プロジェクト推進体制等の方向性について決定が行われた。なお、ITER(イーター)計画を中心とした研究開発に関しては、参加極間において、同計画と国際トカマク物理活動(ITPA)との連携の重要性が認識されているほか、テストブランケットモジュール(TBM)試験に係る協力方法等についても引き続き検討が行われている。
 ITER(イーター)機構の活動開始を受け、ITER(イーター)機構の専門職員123名中、我が国からITER(イーター)機構にITER(イーター)機構長をはじめ14名の人員を派遣している(短期の派遣者を除く。平成19年7月現在)。これらの人員は、プロジェクトオフィスなどITER(イーター)機構における計画や工程等の決定を支える枢要なポストに配置されており、ITER(イーター)計画の円滑な推進という国際的貢献を果たすとともに、今後のITER(イーター)運転期における実験計画の策定のための我が国のイニシアティブの確保や将来の原型炉建設のために重要な設計統合技術や計画管理のノウハウ等の我が国への蓄積が期待される。
 我が国が分担する装置・機器の製作に関しては、ITER(イーター)協定発効後の製作開始に向けて、計画通り、製作に必要な技術を我が国において確立してきている。特に、以下については、他のITER(イーター)参加極を上回る成果を挙げている。

 幅広いアプローチについては、本年6月1日に実施協定が発効したことを受けて、日本原子力研究開発機構をその実施機関に指定し、サイト整備に着手している。6月21日には第1回幅広いアプローチ運営委員会が東京において開催され、各プロジェクトの事業長(計3名)を指名し、正式に活動が開始された。
 各プロジェクトについては、日欧で技術的調整を進めつつ、以下のとおり必要な準備が行われている。

 大学、研究機関、産業界との連携協力に関しては、ITER(イーター)建設や幅広いアプローチの本格的な実施段階への移行を踏まえ、研究活動に関する意見の集約、国内における連携協力の調整その他技術的な諸課題への対応等を機動的に行うため、「核融合フォーラム」を発展・改組し、「核融合エネルギーフォーラム」が本年7月5日に発足したところである。同フォーラム内に新設された「ITER(イーター)/BA技術推進委員会」において、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチに関する大学等の意見の集約が図られる枠組が構築された。さらに、幅広いアプローチのサイトの一つである青森県六ヶ所村に大学共同利用機関法人・自然科学研究機構・核融合科学研究所六ヶ所研究センターが設置されるなど、ITER(イーター)計画及び幅広いアプローチと大学等との連携の枠組も構築されつつある。