(平成19年8月現在)
アジアにおける原子力基盤に係わる研究・協力の中核機能強化
平成20年度〜平成26年度
発展途上国の生活水準の向上に伴い、アジアを中心として世界のエネルギー消費量は増大を続けている。特に化石燃料の需要増大は、エネルギー価格の高騰を招くとともに二酸化炭素の排出の増加は地球環境に重大な影響を及ぼすことが懸念されている。
さらに、化石燃料の使用量に伴う大気汚染の影響は、当該国に留まらず、直接的に我が国の酸性雨等の原因のみならず、生態系への影響等を通じて間接的に我が国の環境に対して悪影響を与えることが懸念される。
今後、これらの国々とともに我が国が持続可能な発展を続けるためには、地域全体で化石燃料への依存度を下げていくことが必要であり、原子力の平和利用によるエネルギーの安定供給を実現してゆくことは、地域の安定性確保の観点からも高い意義をもつ。
現在、これらの国の原子力発電の導入については、官民を上げて協力を実施しているところであるが、これらの炉が導入国において安全に運用されてゆくためには、各国が安全に関する技術基盤及び当該基盤を支える高度な人材を保持することが必要である。
日本原子力研究開発機構においては、これまでも国内を主な対象としたこれらの技術基盤及び人材の育成を試験炉と用いて実施してきたところである。
これまでも、日本原子力研究開発機構においては、アジア地域の人材を対象とした研修事業等を試験炉等を活用して実施してきた。現在、研究・研修において、重要な役割を果たしてきた照射試験炉JMTR(Japan Materials Testing Reactor)の高経年化対策の改修を行っている。今般これに加え、材料試験炉としての機能の高度化を行うが、当該改修を含め、アジアの人材を受け入れ、アジア・ゲートウェイ構想の「研究・協力の中核機能の強化」の一環として、アジア諸国の原子力エネルギーの平和利用を支える中核的な原子力基盤研究拠点としてJMTRを位置付け、技術開発を通じた原子力人材育成を行い、アジア諸国への原子力導入のための基盤の形成・技術力の向上に貢献する。
アジアにおけるエネルギー需要の増加に伴う地球温暖化等の環境問題の克服は、アジア共通の課題である。この課題の克服には原子力の導入が重要である。原子力政策大綱においては、我が国は、開発途上国に対し原子力発電導入のための準備活動等に関する協力を進めるべきで、我が国が主体的・能動的に協力を行う国・地域は、地政学的にも経済的にも緊密な関係を有するアジアを中心とするとしている。したがって、我が国は、原子力先進国としてアジアにおける課題克服にリーダーシップを発揮していく必要がある。
アジア・ゲートウェイ戦略会議の報告書においては、各分野における協力・研究ネットワークを構築することが「重点的に進める取り組み」とされており、アジアの核となるような高度人材の受入・育成を進め、研究拠点を国際的に魅力あるものとしていくことが求められている。したがって、アジアの優秀な人材を得て技術開発を通じた育成を行い、アジアにおける原子力基盤に関する研究ネットワークを構築し、我が国がその知恵と技術を活かし、アジアに貢献していくことは大きな意義がある。
材料試験炉としての機能の高度化に関する技術開発を、アジア諸国からの優秀な人材とともにJMTRの改修期間に実施し、JMTR運転にて検証を行いさらなる改良につなげる。この結果、JMTRの照射試験炉としての機能強化と照射技術や運転に関わる人材の育成が可能となる。
ここで育成された人材を核とする研究・協力ネットワークを形成することにより、アジア諸国の原子力技術レベルの向上を期待できる。これは原子力への理解を深めることにつながり原子力発電の導入促進による環境問題の解決や地球温暖化の抑制が期待できるとともに、これらの活動を通じ、我が国のリーダーシップを示すことが可能となる。
JMTRは、これまで約40年にわたる照射試験で培ってきた経験と技術を有し、アジアの中核試験炉として国際的に活用される研究基盤の構築に貢献していくことができる国内唯一の照射試験炉であり、平成19年度に改修に着手したところである。
ここで開発される技術は原子炉の機器または照射設備の改造を必要とする技術であるため、これらを更新する改修期間に開発して改造を行うことが最も効率的である。技術開発が早期に開始されればさらに効率的である。また、改修期間中にアジアの研究者・技術者が技術開発を行うことにより、JMTR改修に関する知見を得ることも可能となり、その知見は、自国の試験研究炉の改修に役立つ貴重な経験となる。
以上から、国際研究拠点としてのJMTRの機能強化の技術開発を改修期間から行うことが効率的であり、この期間からアジアの中核的な人材を受け入れて技術開発等をともに行うことで効率的な人材育成が可能となる。
アジアにおけるエネルギー需要の増加に伴う地球温暖化等の環境問題の克服はアジア共通の課題であり、これらの問題は、アジア各国と協調して対応していくことが必要である。このため、高度照射技術を付加することで、JMTRをアジアの中核的な原子力基盤研究拠点として位置付け、技術開発を通じてアジア諸国の原子力人材育成を行い、アジア諸国への原子力導入のための基盤の形成・技術力の向上に貢献することは重要であり、本課題を実施することは妥当である。なお、「材料試験炉としての機能の高度化に関する技術開発」と「アジア諸国の人材育成」及び既存の研修事業との効果的な連携方策については、計画段階で十分に検討することが必要である。