(平成19年8月現在)
原子力技術の応用による低CO2(二酸化炭素)排出社会実現のための革新的技術の開発
平成20年度〜平成24年度
アジアを中心としたエネルギー需要の高まりにより、化石燃料をはじめとした資源が逼迫するとともに、環境問題、とりわけ温室効果ガスである二酸化炭素ガス(CO2(二酸化炭素))の排出量増加とそれに伴う地球温暖化が全地球的な規模の脅威となっている。
バランスのとれたエネルギー供給構造を維持するとともに化石燃料への依存度を減らし、地球レベルで持続的に経済社会を発展させていくには、原子力発電等のCO2(二酸化炭素)の排出量の少ないエネルギーを有効活用し、省エネルギー、新エネルギーの導入を最大限に進めることが期待されている。
原子力については、既に発電の分野では総発電電力量の約1/3を担い、温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)の排出量を抑制することに貢献しているが、得られるエネルギーを電気の形で供給するため、内燃機関などを代替することについては課題がある。
一方、CO2(二酸化炭素)を排出しないエネルギー源として水素の利用が将来的に期待されているが、現在水素については、水の電気分解や化石燃料の改質によって得られているのが現状であり、必ずしも完全にCO2(二酸化炭素)排出フリーとはなっていない。
日本原子力研究開発機構は、これまでの原子力における研究開発において、原子力エネルギー固有の技術に加えて、高温熱利用技術、物質創製・解析技術の分野で他の機関にない技術を開発・保有しており、これらの技術は低CO2(二酸化炭素)排出社会の推進に役立つ、極めて高いポテンシャルを有している。
本課題は、これらの多様な技術基盤を活用し、低炭素社会づくりの分野において、熱分解によって水から水素を製造する効率の改善と、製造した水素を利用した燃料電池の効率向上に関して、特色ある技術開発を行い、環境負荷を低減することにより低CO2(二酸化炭素)排出社会の推進に寄与することを目指す。
「経済財政改革の基本方針 2007」(平成19年6月19日閣議決定)では、「環境立国戦略」の推進が謳われている。京都議定書削減目標の確実な達成に向け、取組を加速する必要がある。原子力については、既に発電の分野では総発電電力量の約1/3を担い、温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)の排出量を抑制することに貢献しているが、CO2(二酸化炭素)フリーなエネルギー源としての原子力のメリットを生かし切るためには、発電以外の多様な分野への適用の拡大が必要である。また、原子力機構がこれまでの原子力エネルギーの研究を通じて切り開いてきた様々な技術要素は、環境問題の解決に役立てることができるユニークな特徴を有するものが数多くあり、これらの研究の進展を加速することは低CO2(二酸化炭素)排出社会を推進する上で極めて有益である。
発電以外の分野への原子力エネルギーの適用に関しては、水の熱分解による水素製造の効率を改善するための研究開発を行い、これはまた、多様な熱源を有効利用した水素製造への道を拓くものともなる。量子ビームの応用による燃料電池の効率向上は、輸送・交通分野でのCO2(二酸化炭素)削減に対するキーテクノロジーとなり得るポテンシャルを有している。日本原子力研究開発機構の持つ技術を低CO2(二酸化炭素)排出社会の実現という明確な目標を掲げて実施することは、施策の効率的な推進の観点から有効性を高める効果がある。
本事業の成果は、原子力エネルギーの利用拡大による地球温暖化防止のためのCO2(二酸化炭素)排出量の低減、及び原子力技術から派生した技術による環境問題の解決に極めて有効である。
また、これらの技術については、国内での利用にとどまらず、途上国などへの適用も期待でき、地球環境問題における我が国のリーダーシップの発揮に資する。
日本原子力研究開発機構は、提案している技術開発項目について、キーとなる水素の製造・利用に関する技術的蓄積があり、また、他の機関が有していない研究炉や加速器等の大型研究施設を保有している。このため、これらの研究基盤を用いて、本事業を極めて効率的に推進できる。
また、各分野における研究の推進に当たっては、産学官の連携によって、各々の特長を生かして研究を進め、また研究の方向性に関しては社会のニーズを踏まえ、不断の見直しを行いつつ進める予定である。
二酸化炭素排出量増加に伴う地球温暖化防止の観点から、原子力エネルギーを原子力発電以外の多様な分野へ適用を拡大するための研究開発や原子力技術開発のスピンオフ技術を活用したエネルギー利用効率の向上のための研究開発は極めて重要であり、本課題を実施することは妥当である。なお、水素製造技術の開発に関しては、貯蔵、輸送等に係る問題も考慮しつつ実施するとともに、研究開発に係る費用対効果を十分に評価することが重要である。