平成26年7月4日
HPCI計画推進委員会
次期フラッグシップシステムに係るシステム検討WG
【基本認識】
最先端のスーパーコンピュータは,科学技術の振興,産業競争力の強化,国民生活の安全・安心の確保等に不可欠な「国家基幹技術」であり,各国がその開発競争にしのぎを削っている。
その様な中でも,CPU等の要素技術からシステム全体までを開発できる国は現時点では日本と米国のみであり,我が国では,「京」の開発・整備を進め,10ペタフロップスという高い演算性能を実現するのみならず,Linpackの計算において実行効率93%,また全プロセッサフル稼働時の連続実行時間29時間以上を達成し,高い実行効率や信頼性を実現した。さらに,高信頼性にも資する水冷システムの構築やプロセッサの効率化により,消費電力についても優れた性能(12.7MW)を実現した。
しかし,スーパーコンピュータの性能は非常に速いスピードで進展しており,欧米や中国では,既に100ペタフロップス級のシステムが見えてきている。
我が国としても,2020年を1つのターゲットイヤーとし,諸外国に対して競争力のあるフラッグシップシステム(我が国が直面する社会的・科学的課題を解決するため,世界トップレベルの高い計算性能を持ち,多くの分野のアプリケーションが高い実効性能で利用できるシステム)を国家基幹技術として開発するとともに,その開発成果を国内外に展開することにより,社会的・科学的課題の解決に貢献していくことが必要である。
【これまでの検討状況等】
○ 次期フラッグシップシステム(通称,ポスト「京」)のシステム構成や性能については,HPCI計画推進委員会や総合科学技術会議(当時)の事前評価において,以下の様に指摘されている。
・ フラッグシップシステムに求められる性能を,適切な根拠に基づいて明確化する必要がある。その際,求められる性能を精緻化するのみならず,解決すべき社会的・科学的課題について,引き続きその妥当性や十分性を検証するとともに,優先順位を検討する必要がある。
・ 現段階では,汎用部と演算加速部からなるシステムの構成が検討されているが,今後ターゲットとするアプリケーションの絞り込みを行った上で,Co-design(協調設計)の考え方に基づき,システム構成についての検討を進めることが求められる。
・ 加速部については,有効に機能するアプリケーションの見積りの精査やCooperation Model及びOffloading Modelでの活用可能性の検証を含め,引き続き必要性・有効性を検討する必要がある。
・ 社会的・科学的課題が要求する性能,将来展望も含めた課題の妥当性・十分性,コストやシステム設計の詳細については,「将来のHPCI システムのあり方の調査研究」や基本設計の中で引き続き検討していくものである。
○ このため,文部科学省では,『ポスト「京」で重点的に取り組むべき社会的・科学的課題についての検討委員会』(以下「重点課題検討委員会」という。)を立ち上げ,現在のところ,重点的に取り組むべき社会的・科学的課題(以下「重点課題」という。)について,別紙の重点課題(案)をたたき台として議論している。
○ また,「将来のHPCI システムのあり方の調査研究」(以下「FS」という。)の中で,加速部については,以下の様な技術評価結果となっている。
・ 幾つかの重要な社会的・科学的課題の達成において有効活用が期待できるが,現時点では,それ以外の課題における有効活用に限界がある。
・ 消費電力については,基本的に妥当である。
・ 技術自体の実現可能性は十分に見込まれるが,開発・製造経費が多額であり,システムとして競争力を持つためには広い需要を得る必要がある。
【基本設計の方向性に係る中間的評価】
本WGはこれまでに2回開催し, FSの結果等を踏まえた開発主体(理化学研究所)の提案を聴取したうえで,“基本的なシステム構成”及び“性能”等に係る評価を以下のとおり中間的に取りまとめた。
<開発主体の提案>
○ “基本的なシステム構成”については,重点課題(案)が幅広い分野にわたり,幅広いアプリケーションが高い実行性能で利用できるシステムとする必要があることから,汎用部によるシステムを前提として,Co-designに基づく基本設計を進めることが提案されている。なお,安全・安心の実現や産業競争力の強化に資する課題では,総じて汎用部を中心とした利用が想定されることから,高い実行性能を得ることができるとの分析が示されている。
○ その他,以下の提案理由も示されている。
・ 加速部については,技術自体の実現可能性は認められるが,必要となる開発・製造経費に比して,有効活用できる課題が限定される可能性が高い。
・ 「京」の後継機として,「京」で確立された技術・人材・アプリケーション等を最大限活用できる。
○ “性能”については, 重点課題(案)に対応するため,多くの分野のアプリケーションが高い実効性能で利用できるシステムとした上で,2020年までに現在の総事業費1,400億円(うち国費1,100億円)の範囲内で世界トップレベルの高い計算性能を実現し,エクサスケールを目指すことが提案されている。さらに,2020年以降も半導体技術の進展等に応じて効果的・効率的に性能拡張できるシステムとすることが提案されている。
○ その他,以下の提案理由も示されている。
・ エクサスケールに向けた諸外国の開発・整備計画を鑑みると,2020年の時点で世界トップレベルの性能を実現できる見込みが高い。
・ 現在の総事業費(国費)は「京」のプロジェクトと同程度であり,厳しい財政状況の中で,これ以上の国費を投入することはコスト・パフォーマンスの観点から合理的ではない。
<中間的評価結果>
○ 本WGでは,幅広い分野における成果の創出・国際競争力・コスト・パフォーマンス等の観点から,次期フラッグシップシステムに係る開発主体(理化学研究所)の提案を評価した。その中間的評価結果は以下のとおりである。
・ システムとアプリケーションのCo-designにより,社会的・科学的課題の解決に貢献できるシステムを実現する,との基本方針は妥当である。
・ 重点課題(案)が幅広い分野にわたることから,2020年までに,世界トップレベルで多くの課題に対応できる汎用のシステムを,国際競争力のあるシステムとして実現し,エクサスケールを目指す,との方向性は現時点で妥当である。
○ なお,次期フラッグシップシステムが,成果を最大化できるシステムとなるよう,また,国際競争力のあるシステムとなるよう,その詳細については,引き続き開発主体(理化学研究所)の提案を精査する。
【今後の対応】
開発主体(理化学研究所)による検討及び本WGにおける議論を続け,また,重点課題や重点課題検討委員会における議論,開発企業からの情報等を踏まえ,さらに,エクサスケールに向けた諸外国の開発・整備計画を考慮して,本WGにおいて最終的に評価することとする。
以上
カテゴリ |
重点課題 |
健康長寿社会の実現 |
(1) 生体分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築 |
(2) 個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学 |
|
防災・環境問題 |
(3) 地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築 |
(4) 観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化 |
|
エネルギー問題 |
(5) エネルギーの高効率創出と利用の新規基盤技術の開発 |
(6)革新的クリーンエネルギーシステムの実用化 |
|
産業競争力の強化 |
(7) 社会の発展を支える高機能物質・材料の創成 |
(8) 近未来型ものづくりを先導する革新的設計プロセスの開発 |
|
基礎科学の発展 |
(9) 宇宙の基本法則と進化の解明 |
準重点課題 |
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将来性を考慮し、重点課題として具体化を検討するもの |
○ 基礎科学のフロンティア -知の衝突と共創による複合現象の理解 |
○ 複数の社会経済現象の相互作用のモデル構築とその応用研究 |
平成26年6月2日
HPCI計画推進委員会決定
1.趣旨
文部科学省においては,我が国を取り巻く社会的・科学的課題の解決に貢献するため,平成32(2020)年までに次期フラッグシップシステム(世界トップレベルの性能を持ち,多くの分野のアプリケーションが高い実効性能で利用できるシステム)を開発することを目指している。
次期フラッグシップシステムについては,平成25年度に本委員会の下で開催したワーキンググループ(※)において「基本設計に着手していくことは適当」と評価したことから,平成26年度より基本設計が開始されたところである。他方,同ワーキンググループにおいて,コストやシステム設計の詳細等については,開発主体(独立行政法人理化学研究所)が引き続き検討を続けた上で,ユーザーの意見等を踏まえ,平成26年度の前半を目途に本委員会の下で「改めて評価する」こととしている。また,平成25年秋に実施された総合科学技術会議の事前評価においても,システム構成や工程表の具体化等については,「平成26年秋頃を目途に評価を実施する」こととされている。
以上の状況を受け,次期フラッグシップシステムのシステム構成の詳細等を検討するため,本委員会の下で標記ワーキンググループを開催する。
(※)「今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループ」及び「システム検討サブワーキンググループ」
2.検討事項
○次期フラッグシップシステムに係る以下の事項
・ 要求されるシステム性能
・ 基本的なシステム構成及びその詳細
・ 研究開発の工程表
・ 開発・製造のコスト
○その他
3.開催期間
平成26年6月2日から検討の終了までとする。
浅田邦博 東京大学大規模集積システム設計教育研究センター長・教授
梅谷浩之 スーパーコンピューティング技術産業応用協議会企画委員会委員
/トヨタ自動車株式会社エンジニアリングIT部主幹
○ 小柳義夫 神戸大学計算科学教育センター特命教授
笠原博徳 早稲田大学理工学術院教授
加藤千幸 東京大学生産技術研究所教授
工藤知宏 産業技術総合研究所情報技術研究部門研究部門長
小林広明 東北大学サイバーサイエンスセンター長
善甫康成 法政大学情報科学部教授
中島 浩 京都大学学術情報メディアセンター教授
平木 敬 東京大学大学院情報理工学系研究科教授
藤井孝藏 HPCIコンソーシアム理事長
/宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所教授
松岡 聡 東京工業大学学術国際情報センター教授
宮内淑子 メディアスティック株式会社代表取締役社長
○:主査
(50音順)
今田、三坂
電話番号:03-5253-4111(内線:4286)
-- 登録:平成26年08月 --