~2020年に世界をリードするデータ・セントリック・イノベーションの創出を目指して~
平成23年9月作成
平成26年6月改訂
情報科学技術委員会
本委員会においては、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会の問題提起を受けて、第4期科学技術基本計画を踏まえた情報科学技術分野の研究開発推進方策について議論を行い、そこでの委員の意見を平成23年(2011年)9月に中間報告として取りまとめた。
本推進方策に基づき、第4期科学技術基本計画における情報科学技術分野の研究開発が推進されてきたが、社会の変化と科学技術の進展は国際的にみても著しく、年々変化していることから、この取りまとめに関しても、毎年フォローアップを行い、最新の議論を付け加えることとしていた。
このたび、情報科学技術委員会においては、これまで行ってきたフォローアップを踏まえ、第80回~第84回までの委員会で意見交換を行い、推進方策を改訂することとした。本改訂では、第4期基本計画(平成23年度~平成27年度(2011年度~2015年度))のみならず、同計画期間後の5年間(平成28年度~平成32年度(2016年度~2020年度))も視野に入れて、情報科学技術分野の研究開発推進方策の検討を行った。まず、「1.世界をリードするデータ・セントリック・イノベーションの創出を目指す上で、今後求められる研究開発の基本的な方向性」の(1)において、近年の世界情勢と我が国の置かれた状況を概観した。
その上で、(2)において、2020年に世界をリードするデータ・セントリック・イノベーションの創出を目指すため、情報科学技術分野に今後求められる方向性を明確にした。
※情報科学技術に今後求められる方向性
A)情報科学技術の利活用による新たな知の獲得と創造
○課題達成のために必要な情報を得るための情報科学技術を活用した効果的かつ効率的な情報収集・情報集約・情報統合・情報管理・情報分析・情報流通・情報共有システムの高度化
○情報科学技術を活用した的確な科学的分析・解明・予測の高度化
B)情報科学技術の利活用による情報システムと社会システムが高度に連携した社会の実現
○課題達成型IT統合システム(実社会情報を集約し、課題達成に最適な解や方向性を導き出し実社会にフィードバックする高度に連携、統合されたITシステム)の構築
○ITシステムの超低消費電力化(グリーン化)
○ITシステムのセキュリティ・ディペンダビリティ(攻撃・災害等に強いシステム)の向上
C)情報科学技術の利活用による社会モデルの変革
○課題達成に役立つ方向でのITシステム及びITを組み込んだ技術の高機能化
○変化する状況に対応して課題達成のために最適化できるITシステムのリアルタイム性、機動性と柔軟性の向上
さらに、「2.具体的課題の達成に向けて」において、課題ごとの研究開発推進方策を記述した。課題の項目立てについては、研究計画・評価分科会の示した課題を基に、
情報科学技術分野のイノベーションを考える上で必須の課題として下記に<6><7>を加えることとした。
※具体的課題
<1> 環境・エネルギー問題への対応
<2> 医療・健康問題等への対応
<3> 災害等に強い安全安心な社会の実現
<4> 豊かで質の高い国民生活の実現、教育の質・文化的価値の向上
<5> 科学技術基盤の高度化
<6> 国際競争力の強化
<7> 情報化社会の進展への対応
(1) 近年の世界情勢と我が国の置かれた状況
近年、地球温暖化や環境、エネルギー問題など、複雑かつ困難な状況が顕在化し、こうした全世界的な人類共通の課題への対応が求められている。また、経済における グローバル化の一層の進展、新興国市場における競争の激化が進む中、産業・経済面での国際競争力の強化が一層重要となってきている。国内的には、少子高齢化や人口減少等の社会的、経済的活力の減退につながる問題にも直面している。さらに、平成23年(2011年)3月に発生した東日本大震災は多大な被害をもたらし、現在でもその影響は東日本のみならず、我が国の社会経済及び国民生活の広範囲に及んでいる。このような大震災から復興し、持続可能で活力のある社会を再構築するとともに、災害に強くエネルギー不足等の問題にも柔軟に対応できる社会に立て直すことが急務となっている。
このような世界情勢や我が国社会の根幹に関わる課題に対応するため、今まさに科学技術イノベーションの力が必要とされている。
(2) 情報科学技術に今後求められる方向性
情報科学技術は科学技術全体の中でも基盤性という特徴を有している。これまでにも社会経済活動における基盤や、科学技術の研究開発の推進における基盤の形成という観点から大いに貢献してきた。具体的には、ライフサイエンス、ナノテク材料、環境、ものづくり等の科学技術分野から交通、医療、教育、防災、エネルギー等の社会応用分野にいたるまで、極めて広範な範囲にわたり基盤的技術としてその役割を果たしてきた。
科学技術分野の国家戦略である第4期科学技術基本計画が平成23年度(2011年度)から開始されたが、国として取り組むべき重要課題を設定し、その達成に向けた施策を重点的に推進するという基本方針は、我が国の科学技術政策における大きな転換期となった。情報科学技術は、様々な社会的な課題の達成のために科学技術が貢献していく上で重要な鍵を握る共通基盤的な技術であり、これまで以上に高度な役割が期待されることとなる。
(データ・セントリック・ソサイエティの実現を目指して)
センサ技術、データ処理技術の進展により、今後とも様々な分野で質的・量的に膨大なデータが生まれ、これらの異分野の超大量データを連携し、高度に処理・活用することができれば、社会・経済システムが革新的に変化していくことが見込まれる。情報科学技術分野においては、現在、こうしたデータ利活用に向け基礎レベルで取り組まれている研究開発に5~10年かけて取り組み、2020年代に当該技術を確立することによって世界をリードするイノベーションを創出し、防災・減災対策、エネルギー対策、犯罪・テロ対策、高齢者支援などの社会的な課題の達成に貢献していくことが重要である。さらに、2030年頃には、研究開発成果が社会で幅広く利用され、すべての人が安心・安全かつ豊かで質の高い生活を送ることができる社会基盤を構築するとともに、国際社会における社会的・科学的課題を解決し、我が国が持続的成長を遂げるのみならず、人類の未来社会に貢献することのできる世界最高水準の高品質で高信頼なデータに基づく社会(以下「データ・セントリック・ソサイエティ」という。)の実現を目指すべきである。
(2020年に向けて当面取り組むべき研究開発課題)
情報科学技術の研究開発の推進に当たっては、2020年の東京オリンピック・パラリンピックは先端科学技術を我が国の魅力として発信する好機であり、2030年頃のデータ・セントリック・ソサイエティの実現に向け、2020年を新たな成長に向かうターゲットイヤーと位置づけ、イノベーション創出のための基盤技術の確立に積極的に取り組むべきである。
2020年に向けて当面取り組むべき研究開発課題としては、後述の情報科学技術に求められる今後の方向性A)、B)及びC)も踏まえつつ、特に、<1>身の回りのあらゆるモノにコンピュータが組み込まれ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測を行う技術の開発、<2>質的・量的に膨大なデータから意味のある情報をリアルタイムかつ自動的に抽出・処理する統合解析技術の開発をはじめとしたビッグデータ利活用のための技術、<3>膨大な計算量を要する数値計算を高速に処理するために必要となるハイパフォーマンスコンピューティング技術、<4>実世界の多様な情報をサイバー空間上にリアルタイムに集約し、集約した情報からコンピュータが自ら学習すること等により社会システムを効率化する最適解を導き出し、実世界へフィードバックする技術、及び<5>サイバー空間が急速に拡大する中で、サイバー空間を取り巻くリスクに対処するための情報セキュリティ技術の研究開発などが挙げられる。
世界をリードするデータ・セントリック・イノベーションの創出に向けて情報科学技術に今後求められる方向性は以下のとおりと考えられる。
A)情報科学技術の利活用による新たな知の獲得と創造
○課題達成のために必要な情報を得るための情報科学技術を活用した効果的かつ効率的な情報収集・情報集約・情報統合・情報管理・情報分析・情報流通・情報共有システムの高度化
課題達成のためには、適切な情報に基づき有効な判断を行うことが成功の鍵である。課題達成の成否に影響を与える情報は広汎多岐にわたっており、正確な集約が難しい。課題の複雑性に応じて人間の五感では直接把握し難い広域にわたる大量かつ多面的な情報を情報科学技術を用いて効果的かつ効率的に収集・集約・統合・管理することがこれまで以上に必要となってきている。また、心豊かな人と人との交流、きずなを大切にした社会の創成のためには、情報流通・共有システムの質的な充実が求められる。このため、これらを可能とするセンサーネットワーク、クラウドコンピューティング、データベース、データ検索技術、データマイニング、ストレージ、ヒューマンインターフェイス、セキュリティ等の最先端のIT及びこれらを統合するシステム技術は重要であり、これまで以上に更なる高度化が求められる。
○情報科学技術を活用した的確な科学的分析・解明・予測の高度化
社会的な課題の達成のためには、その前提として自然や社会の構造、本質、メカニズム、成り立ち、変化、将来の姿をこれまで以上に科学的に精密かつ高度に分析・解明・予測することが求められる。ものづくり等の産業競争力強化や、防災、創薬、医療等においても同様である。そのための方法論として、ハイパフォーマンスコンピューティング技術を用いて行われるシミュレーションをはじめとした計算科学、データ科学、統計数理、データ同化等は極めて重要であり、これまで以上に科学技術としての更なる高度化が求められる。
B)情報科学技術の利活用による情報システムと社会システムが高度に連携した社会の実現
○課題達成型IT統合システム(実社会情報を集約し、課題達成に最適な解や方向性を導き出し実社会にフィードバックする高度に連携、統合されたITシステム)の構築
防災や省エネルギーをはじめとした様々な課題達成に資するシステムとして実社会から広汎かつ刻々と変化する情報を集約し、コンピューティング技術、最適化理論、統計理論等 を用いて最適な解や方向性を導き出し、更にそれを現実の社会にフィードバックし、課題達成に結びつけることのできる高度に連携・統合化されたITシステムあるいは仕組みの構築が必要とされる。そのためには、これまでの様々な要素技術を集約、統合化した上で応用分野の違いを超えて横断的に適用できるような統合基盤技術の構築に向けた応用的な取組が求められる。統合基盤技術の高度化、実証や標準化、完全性・検証性技術の研究を進め、普及実用化につなげていくという過程をより具体的なシナリオとして描いていくことが不可欠である。
○ITシステムの超低消費電力化(グリーン化)
課題達成のためにITシステムが有効性を発揮するにはシステムを動かすエネルギーが必要となる。しかしながら、低炭素社会の実現のためには省エネルギーが必要不可欠であり、更に東日本大震災後のエネルギー不足等の状況下においては、消費できるエネルギー量が大きく制限される状況にある。にもかかわらず、今日、先進国のみならず新興国でもIT機器やデータセンターが急速に普及しており、情報通信・処理機器の電力効率はIT機器等の高機能化のボトルネックになると考えられる。このため、ITシステムの超低消費電力化(グリーン化)が必要不可欠である。
○ITシステムのセキュリティ・ディペンダビリティ(攻撃・災害等に強いシステム)の向上
今日、あらゆる社会の課題達成のためにその役割が期待されているITシステムには、システムとしてのディペンダビリティが最も必要とされる。大規模な自然災害発生時など過酷な条件下においてもITシステムが社会のライフラインとして機能し、危機的状況下でも課題達成のためのシステムとしての役割を維持することは、国民の生命や安全安心にとって大変重要である。災害等に強いディペンダビリティの向上が必要不可欠となる。そのために、最低限の機能を維持するためのエネルギー供給系との統合、応急的な復旧、保守の容易(たやす)さなどの機能を強化して、社会の神経系としての自律性を確保することも必要となる。なお、「ロバスト」、「レジリエント」といった言葉も使われている。それぞれニュアンスは異なるものの、ほぼ同様の概念である。
C)情報科学技術の利活用による社会モデルの変革
○課題達成に役立つ方向でのITシステム及びITを組み込んだ技術の高機能化
課題達成のためには、高度化するユーザニーズにこたえ、情報科学技術を組み込んだシステムの性能及び機能の高度化が必要である。これらを構成するデバイス、ネットワーク、 システムソフトウェア等の要素技術について、当該システムに求められている具体的な課題達成の方向性に応じた性能及び機能の高度化が求められる。例えば、情報科学技術を組み込んだ高度先進医療機器の性能向上、コンテンツ分野の更なる向上に資する高次感性情報システムの構築、国際競争力の強化につながるソフトウェア開発プロセスの抜本的見直し等が必要とされる。また、医療、社会インフラ、地球観測等に用いられる多様な計測機器に情報科学技術を組み込むことにより、これまで勘と経験に頼っていた計測作業の効率を格段に向上させることが期待されている。
○変化する状況に対応して課題達成のために最適化できるITシステムのリアルタイム性、機動性と柔軟性の向上
課題達成のためには、刻々と変化する状況に応じた対応、最適化を図ることのできるリアルタイム性、機動性と柔軟性の向上が求められる。このことは、ITシステムを構成するセンサーネットワーク、クラウドコンピューティング、データベース、ストレージ、セキュリティ等のあらゆる要素技術と統合システム全体に求められる。
(3)留意すべき事項
過去の情報科学技術委員会においても、情報科学技術の効果的な利活用によって社会全体の効率化や生活の質の向上に貢献するというby-ITの観点とともに情報科学技術そのものを高度化していくというof-ITの視点を重視してきた。第4期科学技術基本計画の掲げる課題達成型の研究開発という基本戦略に沿って、情報科学技術政策を推進していくに当たり、by-ITとof-ITの関係を考慮することが必要である。情報科学技術の利活用を通じて世界的な環境問題やエネルギー問題などのグローバル課題を解決し、安全・安心な社会生活の基盤を構築するという視点は重要である。その重要性(by-ITの重要性)は、of-ITの重要性に帰結する。このような様々な社会的課題に対する技術開発の必要性が大きなモチベーションになってof-ITの技術開発が推進され、大きな成果やイノベーション創出につながるという点をしっかりと認識した上で研究開発投資を進めていく必要がある。
なお、情報科学技術戦略の推進に当たっては、このような第4期科学技術基本計画をはじめ、政府の日本再興戦略、科学技術イノベーション総合戦略、世界最先端IT国家創造宣言等の様々な政府戦略についても留意する必要がある。
さらに、ネットワーク技術等の標準化や研究開発を推進する総務省、高信頼なシステムソフトウェア開発やソフトウェアエンジニアリング等の推進に取り組んでいる経済産業省、科学技術政策の司令塔である内閣府総合科学技術・イノベーション会議等とも連携し、政府全体として効率的な施策運営に努めるべきである。
全世界的な人類共通の課題である「環境・エネルギー問題」への対応のため、再生可能エネルギーに関する技術革新や省エネルギーが極めて重要である。 |
<1>太陽光発電や燃料電池の性能向上等に資するシミュレーションの高度化
(グリーンイノベーションに貢献するハイパフォーマンスコンピューティングの高度化)(方向性A:新たな知の獲得と創造)
太陽光発電や燃料電池の性能向上等に資するシミュレーションを高度化するため、エクサスケールに向けてのハイパフォーマンス・コンピューティング技術の高度化や、データ同化による実社会情報の取り込みの強化等
<2>社会システムの高効率化のためのIT統合システムの構築(方向性B:高度に連携した社会の実現)
様々な社会活動を、これまで以上により一層高効率な状態に最適化していくためには、分散配置された多数の各種センシングデバイスによりリアルタイムに実世界の情報を集約し、コンピューティング技術等を用いてリアルタイムの解析を行い、社会システムを高効率化するための最適な解を導き出し、実社会にフィードバックするIT統合システムが必要である。こうしたシステムを支える情報統合基盤技術を高度化することで、広く様々な社会システムやサービスへの応用を促進することが必要である。
<3>実社会のライフラインであるITシステムの超低消費電力化(方向性C:社会モデルの変革)
ITシステムの超低消費電力化のため以下の様な技術を確立する必要がある。
ア)ITシステムの超低消費電力化を更に一層進めるためのデバイス、回路、アーキテクチャ技術の創出
イ)超低消費電力メニーコアプロセッサとそれを複数接続したサーバアーキテクチャ技術、それらのプロセッサ用の並列プログラムを逐次プログラムから自動生成するコンパイラ技術の研究開発(高性能サーバの開発では冷却システムを含めた消費電力が最重要課題となっており、我が国の組込技術で培った低消費電力プロセッサをベースとしたメニーコアプロセッサとそのメニーコアプロセッサ用の並列プログラムを自動生成するとともに、各プロセッサの周波数・電圧制御、電源遮断制御を行うことができるコンパイラを用いることにより、現在世界最高の電力当たりの処理性能を100倍以上向上させるメニーコアプロセッサ及びコンパイラ技術の確立が期待できる。これにより、災害・病気から命を救うための技術が確立できるとともに、携帯端末、情報家電、電気自動車等への応用により、我が国の産業基軸である情報家電・自動車産業などの競争力を持続的に強化できる。)
ウ)その他、ネットワーク技術、システムソフトウェア技術の各技術分野における技術開発や、それらを統合した技術開発による情報システムの電力当たり処理性能の飛躍的向上(特に強化させるべきポイントとして、例えば、LSI等の部品だけではなく、システムレベルの低電力化や、複数のレイヤや装置間を跨(また)がったクロスレイヤの低電力化技術の開発が重要。その際、システムを利用するサービスの在り方やその性質まで考慮する必要がある。)
エ)災害時において、昼間は太陽電力で動作・充電でき、計画停電時あるいは電力事情が悪い場所でも、信頼性の低下なく安心してコンピュータシステムを動作させるシステムの開発(例えば、太陽電池で動作可能な超低消費電力メニーコアプロセッサの研究開発。サーバをはじめ、情報家電、自動車などに組み込む。)こうした個別的なデバイス等に加えて、システムとしての自律性を確保することが重要である。
<4>効果的かつ効率的なインフラ維持管理・更新の実現(方向性B:高度に連携した社会の実現、方向性C:社会モデルの変革)
国民生活やあらゆる社会経済活動を支えるインフラは、我が国では、高度成長期以降に集中的に整備されたため、今後一斉に老朽化する。老朽化するインフラを長寿命化するには、これまでの人手による点検・診断から、センサやITの新技術も活用したインフラの効率的・効果的な点検・診断・補修補強に切り替えていくことが重要であり、ITに関する技術研究開発や新技術の導入を積極的に推進することが必要である。
医療・健康問題等への対応のための重要なポイントとして、医療・健康問題に関連する膨大な個人単位の情報の高度な利活用、医療や創薬に関連する科学的分析、メカニズムの解明、予測の高度化、さらには高度先端医療機器の性能向上が挙げられる。 |
<1>ライフイノベーションに貢献する情報収集・情報集約・情報管理・情報分析の高度化(方向性A:新たな知の獲得と創造)
ア)医療費の高騰と高齢化による保険制度や医療制度の経済的破綻は先進国だけでなく途上国においても大きなリスクとなりつつあり、遺伝子情報、生活習慣情報、地域に関する情報、食料や環境情報を有機的に結びつけ、リスク管理と連携。
イ)日常の個人の行動情報を健康管理に利用できるシステム構築(生活習慣に関わる様々な疾病発症の要因分析を可能とし、保険料や医療費の大幅な削減にもつながる。また、症例が少ない疾患に対する予防や治療方法の解明が進められる。)
ウ)あらゆる病気に関して、ゲノム情報を含む患者情報と治療記録をデータベース化し、組織を超えて共有化できるように個人情報を保護する技術と制度を開発(個々の病気に関する多くの症例と治療記録が蓄積され共有される。これらに統計処理や可視化、さらにはデータマイニングやテキストマイニングなどの知識発見技術をインタラクティブに適用することにより、特定のプロパティを持った患者の特定の症例に限って極めて有効に効く治療法を見つけ出すことが可能になる。)
<2>医療、創薬、臓器やウィルス等の解析等に資するシミュレーションの高度化
(ライフイノベーションに貢献するハイパフォーマンスコンピューティングの高度化)(方向性A:新たな知の獲得と創造)
ア)医療・創薬・臓器やウィルス等の解析等に資するシミュレーションを高度化するため、エクサスケールに向けてのハイパフォーマンスコンピューティング技術の高度化等
イ)患者の身体的負荷を軽減した治療の実現に資するため、全身レベルの人体シミュレーションを医療現場に導入するシステムを開発
<3>高度先進医療機器の性能向上(方向性B:高度に連携した社会の実現、方向性C:社会モデルの変革)
ア)重粒子線ガン治療をはじめとする近年の高度医療については、治療装置の価格が極めて高価であることや、治療時の照射計画の計算等に莫大な時間を要し治療患者数が限定されたり、消費電力が大きいなどの課題がある。我が国の組込プロセッサで培った低消費電力化技術に加え、照射計画の並列化や自然冷却できる我が国独自の低消費電力指向型ITが実現されれば、治療患者数の大幅な拡大や施術費用低減が期待できるほか、ITを活用した医療現場の効率化や低消費電力化、現場で静粛な安心して使える医療機器の提供が可能となる。
イ)脳活動を計測する先進的画像データであるMRI(Magnetic Resonance Imaging system。磁気共鳴画像装置)、PET(Positron Emission Tomography。ポジトロン断層法)、X線CT等の画像データを、ビジュアルデータマイニング等の統計解析手法を用いて統合的に分析できる新しい手法等が開発されれば、新たな病気の早期発見につながり、QOL(Quality of Life)の改善や医療費の低減が期待できる。
ウ)ITシステムを活用した遠隔医療システムの高度化
地震・津波等の大規模自然災害に関する防災・減災を巡る問題点は多岐にわたるが、例えば地震・津波等の被害予測等の限界、社会のパイプラインとなるインフラやシステムの機能不全、防災オペレーションに欠かせない関連情報の集約についての混乱、さらには風評被害等の問題点が指摘される。東日本大震災においては、こうした問題点が顕著に見られた。 |
<1>災害に強いITシステム及び社会基盤の構築(方向性C:社会モデルの変革)
東日本大震災によって被災地域の情報通信インフラが瓦解したため社会の重要なライフラインであるITシステムが複合的な機能不全に陥った。重要な情報の消失等の問題も起こった。このような災害に対する脆弱(ぜいじゃく)性を改善するために、ダメージを回避して、システムとして最低限の機能を維持し、自己調整・自己修復等のできる情報システムが必要となる。そのためには、個人の認識に係るシステムの平時と非常時の使い分け、例えば平時には重視されるプライバシーについて、非常時には特別措置を可能にすることなどが求められる。
<2>地震・津波の被害軽減、高度な気象予測、全地球的な長期気候変動予測等のシミュレーションの高度化(国民生活の安全・安心に貢献するハイパフォーマンスコンピューティング技術の高度化)(方向性A:新たな知の獲得と創造、方向性B:高度に連携した社会の実現)
ア)地震・津波の被害軽減、高度な気象予測、全地球的な長期気候変動予測等のためのシミュレーションを高度化するため、エクサスケールに向けてのハイパフォーマンスコンピューティング技術の高度化等
イ)近年、観測データを数値計算に直接的に取り込むことで予測性能を高めるデータ同化と呼ばれる計算技術の先行利用が気象予報等で開始されている。観測データをリアルタイムで搬送し、高速度・高精度で同化計算が実現できる情報計算システムがあれば、他の災害予測や減災にも有用である。例えば、震源に近いところに到達した津波のデータを用いることで、他の地点の到達時刻と波高に関するより精度の高い予測が期待できる。
<3>防災オペレーションに応用するIT統合システムの構築(方向性A:新たな知の獲得と創造、方向性B:高度に連携した社会の実現)
今回の震災では広域な範囲に被害が及び、災害発生直後の広範囲に及ぶモノや人の動き、インフラの状況を十分に集約・整理できなかったり、必要な情報が異なる機関の間で共有されず、統合できないといった問題が見られた。その結果、防災オペレーションの混乱や、被災者の間での混乱を招いたことが指摘されている。災害時及び災害後の広範囲かつ多岐にわたるリアルタイム情報を集約整理、統合化し、状況の変化を最適な避難活動・救援活動・防災活動及び被災者の最適行動の判断材料にフィードバックできるようなIT統合システムが必要である。更にこうしたシステムを支える情報統合基盤技術の高度化が必要である。
<4>人とコンテンツの対話を促す次世代型情報インターフェイス技術(方向性A:新たな知の獲得と創造)
近年、ITを使いこなせる人と使いこなせない人との間の情報デバイドが問題となっている。さらに、今回の東日本震災時の人々の行動でも明らかにされつつあるように、緊急時のパニックに陥りがちな心理状態でも冷静に扱えるITシステムや、社会体制や組織構造の事情を踏まえた上での複数人での緊急情報共有を支援する機構、更に操作や判断の誤りを誘因しないようなインタフェースは、喫緊の課題である。利用者の探索行動や視線情報、表情や振る舞いからの意図推定技術や、情報要求を推測する情報インターフェイス技術に加えて、それらの技術を利用者の認知的状態や社会心理的状態を考慮して組み合わせデザインする技法を確立し、人とコンテンツとの対話を促すインタラクションのデザインとそれを支える技術とを確立することは、ITを、平時においてもまた緊急時においても真に国民生活を支える基盤として活用するための課題達成に必須の事項である。
<5>風評被害等を避けるためのリアルタイムメディア解析技術の構築(方向性A:新たな知の獲得と創造)
東日本大震災においては携帯電話が不通となる中で、避難場所の周知等ITメディアが大きな役割を担った。一方で誤報も見られた。災害時におけるリアルタイムITメディアの活用及びメディアの伝搬解析技術の確立は急務と言える。更に、消費者に気づかれないように行う宣伝活動による問題も起こっている。今後、風評被害等を避け、国民に情報を適切に発信できるような仕組みの構築が課題となってくるが、その際にもこうした解析技術による分析が必要不可欠となる。
教育や文化はこれからの日本を支える国家基盤であり、さらには産業・経済基盤としても重要である。コンテンツ分野の進展も日本の強みである。また、人と人とのつながり、コミュニケーションの豊かさも大切な価値である。 |
<1>教育におけるITの利用と教育サービスの改善(方向性C:社会モデルの変革)
世代を超えた知識や情報の伝達手段として、極めて重要な意味を持つ教育におけるITの活用に関しては、現在、MOOCs(Massively Open On-Line Course)などによる講義の配信やOCW(オープンコースウェア)による教育内容の発信など、教育の方法、教材の在り方を革新し、教育サービスの高度化を図る取組が国際的に加速しつつある。
我が国が国際競争力を高めるためには、初等中等教育、高等教育、社会人教育などにおいて、ITを利用した教育サービスの質的転換を図ることが重要である。電子教材の利用、遠隔講義の配信や教育情報の収集•分析•評価による教育手法の改善などの実践に資する研究開発と、それらを通じて新たに顕在化する情報科学技術の課題への対応が求められる。
<2>伝統文化・文化遺産保存のためのアーカイブ化技術や、文化・芸術の創造を支援する情報科学技術の高度化(方向性A:新たな知の獲得と創造、方向性C:社会モデルの変革)
未来へつながる新たな価値観の創出へ向けて、また未来の心豊かな生活基盤を実現するためにも文化をキーワードとした科学技術の振興が強く望まれる。文化はこれからの日本を支える国家基盤であり、さらには産業・経済基盤としても重要である。科学技術が文化に貢献できる分野として、「文化の保存」、「文化の創造」、「文化の発信」などがある。具体的には、我が国が誇る伝統文化・文化遺産の保存へ向けたアーカイブ化技術をはじめ、コンピュータグラフィックス・アニメーション技術、3D技術、超高精細映像/画像技術、VR技術等の現代文化の創造を支援する科学技術、これらの文化資源を国民一人一人がより身近なものに感じられるようにし、同時に世界へ向けて広く発信するための科学技術などが挙げられる。我が国には世界に誇るべき伝統文化の蓄積があり、さらに、アニメ等の日本のコンテンツ文化等も世界的に注目されている。これを国際社会に対して積極的に発信することは、「文化立国」を目指す日本にとっての重要課題であり、観光も含めた産業・経済基盤としても期待される。
<3>高次感性情報システムの構築(方向性C:社会モデルの変革)
我が国が誇るデザイン、コンテンツ、アート等のコンテンツ分野の更なる向上を図るには、メディア情報が持つ臨場感や、迫真性、自然性等の高次感性情報を自由に操作する技術の確立が重要である。味覚、臭覚、触覚などの実世界の多感覚情報(マルチモーダル情報)を正確に評価して符号化・保存し、さらに、遠隔地や、時間を隔てた形で的確に取得・提示するとともに、精密に創成、操作する情報科学技術である。このような技術が実現すれば、我が国が誇るコンテンツ分野において、メディア情報のみならず、実世界情報の創成、デザイン、修整などの自由度が遙かに向上し、他国の追随を許さない競争力の確立に資する。さらに、臨場感・自然性の高い情報共有が可能となることから、自宅勤務や遠隔協働作業の高度化・円滑化が可能となり、低炭素社会の構築にも資する。
<4>豊かな地域社会創成のための社会活動支援情報システム(方向性A:新たな知の獲得と創造)
地域住人の生活パターン把握のためのプライバシーに配慮したソーシャルセンサの設置や、地域住人のコミュニケーションの促進や子供と高齢者の対話の場の実現のための対話ロボットの導入など、様々な社会的活動を支援する情報システムが構築されれば、国民の一人一人が情報社会の恩恵を受け、生活の豊かさや安全性が感じられる地域社会が創成される。
<5>人間の多様な知的活動を支援するシステムの開発(方向性A:新たな知の獲得と創造)
人間は複雑化した社会において、様々な情報や価値判断から適切な問題解決や創造活動を行うなど、多様な知的活動を行っている。現在の情報科学技術では人間の知的活動を工学的に実現するために、音声認識、自然言語処理など個別タスクごとの研究開発や音声対話などの研究開発が進んでいる。これらの研究開発を推進することにより、場の状況や話の流れに応じた対話を可能とするシステムの開発など、人間と機械の創造的協働を実現するための取組が求められている。
今日、クラウドコンピューティングは、社会のあらゆるシステムの高機能化に貢献し、知識社会を牽引する高度な科学技術基盤としての役割を果たしている。 |
<1>質的・量的に膨大なデータ(ビッグデータ)の利活用を推進するための取組(方向性A:新たな知の獲得と創造)
高度情報化社会の進展に伴い、デジタルデータが爆発的に増大するビッグデータ(情報爆発)時代が到来した。世界のデジタルデータの量は、民間調査機関の推計によれば、2020年には、約40ゼタバイト(2010年度時の約50倍)へ拡大する見込みである。その質的・量的に膨大なデータ(ビッグデータ)の中には新たな知識や洞察が埋もれているが、現況においては、その多くの情報が整理・構造化されておらず、有効に利活用できていない状況であり、ビッグデータを効果的・効率的に収集・集約し、革新的な科学的手法により知識発見や新たな価値を創造することの重要性が、国際的に認識されている。
情報科学技術分野では、質的・量的に膨大なデータを連携し、高度に処理・活用するためには、新たな方法論等が必要であり、これらを研究開発することにより、新たな知の創造、第四の科学的手法としてのデータ科学の確立や科学技術イノベーション創出、社会的・科学的課題の解決が図られると期待されている。
このため、実社会のニーズを踏まえて、異分野の質的・量的に膨大なデータから意味ある情報をリアルタイムかつ自動的に抽出・処理する技術等の確立が求められている。
<2>クラウドの高度化(方向性A:新たな知の獲得と創造)
クラウドの利用は多岐にわたるが、そのきっかけは大規模なデータ解析や負荷変動が大きく動的に変動するサービスの実証の場として利用されたことが挙げられる。浮動小数点の演算は必ずしも多く必要とされず、また、Hadoopを中心とした大容量データ処理ではCPUの利用率すら低いことが散見されている。このような現状のクラウドから次世代クラウドを睨(にら)み、データインテンシブアプリケーションに求められる新しいアーキテクチャ、膨大な資源を柔軟且つ動的に再構成する仮想化技術、ミドルウエア、資源管理ポリシー、ウエアハウスレベルでの省エネルギー管理、広帯域高信頼ストレージシステム、クラウド間バックアップ機構、アクセス制御、運用技術など、その要素技術の開発及びクラウド実装は喫緊の課題と言える。
また、大学等の学術基盤としてクラウドを積極的に導入し、その利用を推進することにより、日本独自の国際的優位性のある情報科学技術を育てるプラットフォームとしての役割を発揮することが必要である。
<3>未来を予測する高度な科学技術基盤であるハイパフォーマンス・コンピューティング技術の高度化(方向性A:新たな知の獲得と創造)
スーパーコンピュータ等の高性能計算技術は、科学技術のあらゆる分野において新たな発見や真理の探究を効率的に実現するために重要な基盤的技術である。特に、国家安全保障を支える基幹技術としてのハイパフォーマンスコンピューティング技術の重要性は一層増大しており、東日本大震災において示されたとおり、地震や津波に対する防災・減災の予測、原子力システムの安全性の検証等、複雑な自然現象や人工物の挙動を信頼度高く予測する能力は、大きな社会的・国際的責任を伴う科学技術である。
また近年では、加速器やDNAシーケンサなどの各種計測装置の進化に加え、インターネットやセンシングデバイスの発展により、膨大なデータを収集する基盤が整い、これらの膨大なデータを活用するデータ中心科学が注目を集めつつある。このため、将来のスーパーコンピュータでは、演算性能に加え、ストレージ装置や外部ネットワークなどとの緊密な連携による大規模データ処理性能がより重要になる。そこで、高い演算性能を限られた消費電力で実現し、ストレージ装置や外部ネットワークと緊密に連携し大規模データを高速に処理するスーパーコンピュータの構築技術や、スーパーコンピュータを利用する際の生産性向上等を実現するソフトウェア技術の開発が必要である。
そこで、次世代スーパーコンピュータを中心とするHPCI(ハイパフォーマンスコンピューティングインフラ)の着実な整備と活用によりポストペタスケールの計算科学技術の成果を着実に蓄積するとともに、計算科学技術の持続的かつ総合的な発展を支える推進体制を整備充実し、エクサスケール計算科学技術の研究開発に将来的につなげることが不可欠である。世界トップクラスのスーパーコンピュータの構築は、最先端科学の探求や環境・エネルギー問題の解決で世界を牽引(けんいん)する基盤になるとともに、知的ものづくりなど産業応用の更なる開拓を通じて我が国産業の国際競争力強化にもつながる。また、データ中心科学に向けた新しい基盤を有することで、これまでの計算科学を凌駕(りょうが)する新たな科学や産業を可能にし、ゲノム解析に基づくテーラーメイド医療や、大量のセンサ情報を活用した高精度気象予測による高度防災の実現など国民生活に大きく寄与することが必要である。このように、具体的な課題達成に向けた研究開発への取組が重要であり、研究開発をより加速させるためにも分野横断的な研究活動についても力を入れていくべきである。
<4>Web社会分析基盤ソフトウェアの研究開発(方向性A:新たな知の獲得と創造)
実世界の様々な事象が網羅的かつ即時的にWeb上の情報として反映され、貴重な文化資産として形成されつつある今日、それらのWeb情報の収集・分析による高度利用は学術、文化及び社会活動等において非常に有益である。
<5>課題達成型IT統合システム構築のための統合基盤技術の高度化(方向性B:高度に連携した社会の実現)
実社会から広範かつ刻々と変化する情報を集約し、コンピューティング技術等により最適な解や方向性を導き出し、更にそれを現実の社会にフィードバックし、課題達成に結びつけることのできる「課題達成型IT統合システム」の構築が必要とされる。多様なイノベーションを組み合わせたITの技術革新が国際的に進行している中で、デバイス・システム・ソフトウェアの革新を垂直統合したIT基盤技術の開発が重要である。国として達成すべき課題を明確にした上で、これらの課題達成に有効であり、かつ様々な分野に応用可能なIT統合システムを構築し、普及を促進する観点から、最先端のセンサーネットワーク、モバイル系IT、コンピューティング技術、制御技術、アプリケーション・ソフトウェア等を統合した情報統合基盤技術の高度化を進める必要がある。さらに、深層学習等の機械学習技術の高度化とそれを可能にする脳型コンピュータ等の革新的計算・記憶原理に基づくコンピュータシステムの開発を推進し、実社会から集約した情報からコンピュータが自ら学習するための技術の高度化が必要である。その上で最終的には、こうしたITの運用から政策や経営といった社会的意思決定につないでいく必要がある。
<6>知識フェデレーション型の統合的分析・知識創成技術の構築(方向性A:新たな知の獲得と創造)
今日、学問分野は高度に専門化が進み、分野が異なると同種のデータや情報であっても表現形式が異なるほか、利用したいツールもインターフェイスや入出力データ形式が異なるために利用できないという事態が起こっている。さらには、異なる分野のリソースに関してはどのようなものが存在するかもよくわからない状況である。このような状況が、学問分野では学際的研究分野の創成の障害となり、地球規模の問題といった複雑な対象を扱う場合には、関連する分野のリソースを有機的に結び付けて高度に連携した情報処理を行うなどの総合的分析を困難にしている。新フロンティア開拓を目指すような新しい学際領域の創成においては、異分野のリソース間の関係付けや連携そのものが試行錯誤的に模索されることとなり、動的に定義可能な柔軟な関連付けや連携定義を行うための知識フェデレーションの基盤が必要となりつつある。様々な分野における情報が集積され、ITによる様々な分野の活動の増幅の事例が蓄積されていく中で、ITと他分野が融合した新しい学問領域が創出され、分野間の人材交流により新しい問題の発見・イノベーション創成の機会が増大し、政策立案や経営の意思決定に反映させることを期待したい。
<7>高度な科学技術基盤の構築の大前提となるITシステムの超低消費電力化(方向性B:高度に連携した社会の実現)
高度な科学技術基盤として、その構築が必要とされるITシステムの実現のためには、ITシステムの超低消費電力化が欠かせない。このため、2の(1)の<3>に掲げられているア)~エ)の技術の確立が必要である。
<8>国際競争力の強化につながるソフトウェア開発プロセスの抜本的見直し(方向性C:社会モデルの変革)
日本は「ものづくり」において、極めて高い国際競争力があると言われてきたが、これからのものづくりを考察すると、日本が生産性において遅れているソフトウェア分野の比重がますます高まることが予想され、このままでは日本の国際競争力は非常に低くなると予想される。ソフトウェア開発プロセスを抜本的に見直し、最先端のソフトウェア工学を応用、発展させ、効率的な分業も可能なソフトウェア開発の基盤技術を構築することが不可欠となりつつある。特に、組込ソフトウェアに焦点を当てることにより、ソフトウェア産業のみならず、幅広く製造業全般において国際競争力を向上することができる。さらに、安心安全な日本を確立するには安定した高品質で価格競争力のあるITの活用は必須であり、総合的なソフトウェアプロダクトライン工学は信頼性や安定性の観点からも効果は大きい。
国際競争力強化のためには、日本国内の情報科学技術及び情報産業が、独自性と国際的通用性を有し国際競争力を有する技術・システムを持つことが必要である。特に国際的に進展の著しい新しい情報サービス領域では、世界をリードするプラットフォームレベルでの国際的主導力を持つことが一層重要となってきている。また、このことは国内の産業全般の競争力強化にも寄与するところである。 |
<1>クラウド等の新しい情報サービス領域における国際競争力のある技術の育成・強化(方向性A:新たな知の獲得と創造)
国際競争力強化のためには、情報科学技術に関する国内の学術研究が発展し、研究成果をあげることのみならず、国際的に強い国内情報産業も育ち、これらの相互作用により、スパイラル的な強化、発展が図られることが必要である。
情報産業のグローバル化の中で、国内情報産業が独自性と国際的通用性を併せ持ち、国際的に見ても強い競争力を有する技術、システムを持つことが必要不可欠となる。特にクラウドや国際的に進展著しいソフトウェアや情報流通・巨大なデータの利活用、さらにはフェイスブックやツイッターのようなソーシャルメディアといった新しい情報サービス領域では、世界をリードするプラットフォーム・レベルでの国際的主導力を持つことが一層重要となってきている。
このため、研究開発の成果目標となる技術やシステムが広く世界に喜んで受入れられるものであるかどうかを考慮するグローバルな戦略的視点が重要である。今後、情報科学技術分野におけるいくつかの領域で、日本の技術が国際的な優位性を持ち、ひいては国内産業全体の競争力強化にもつなげる必要がある。
<2>ハイパフォーマンス・コンピューティング技術を用いた国内産業等の技術開発力の向上等(方向性A:新たな知の獲得と創造)
ハイパフォーマンス・コンピューティング技術を高度化し、国内産業や大学、研究機関のスパコン開発技術等の向上に役立てるとともにHPCIの利用の促進、特にHPCIの産業利用や人材育成の充実に展開することにより、多方面の業種にわたる国内産業の技術開発力の向上や科学的・社会的意義のある成果の創出に寄与することが必要である。技術の高度化に当たっては、それによる利用成果の早期創出、波及効果、人材の育成・継承等の効果も勘案する必要があるが、国内のIT産業の現状に鑑みると、費用対効果を最大化する観点からは、国際協力・協業を検討していく必要がある。
<3>その他
上記<1><2>のほか、課題達成型IT統合システムの構築、ITシステムの超低消費電力化、高度先進医療機器の性能向上、高次感性情報システムの構築、次世代型情報インターフェイス技術、ソフトウェア開発プロセスの抜本的見直し等についても技術革新の成果を国内情報産業に円滑に展開することにより、国内情報産業の競争力強化、国内産業全体の競争力強化、ひいては日本の国際競争力強化に寄与することが必要であり、ITシステムの技術とハードウェア技術を組み合わせて競争力を向上させることも効果的と考えられる。
情報科学技術の高度化に伴い情報化社会が著しく進展した。その結果、情報流通の必要性とプライバシー保護やセキュリティ確保との調和をどのように図るべきかという課題が生じてきている。また、サイバー攻撃など、情報システムの信頼性を揺るがす脅威が増大しているが、その対応はアドホックとなっていることがほとんどであり、将来の情報化社会を見据え、次世代新技術による抜本的な対応が求められている。 |
<1>ITシステムにおけるプライバシー保護やセキュリティ確保の問題の解決のための技術開発(方向性A:新たな知の獲得と創造、方向性B:高度に連携した社会の実現、方向性C:社会モデルの変革)
情報爆発時代において、情報システムは社会システムとしてますます重要性が高くなっている。今後、情報システムは災害やサイバー攻撃への耐性を持つと同時に、動的に変化する多様な社会的な要求に対し柔軟に対処することが求められている。また、クラウドコンピューティングの進展により、収集されたデータの複合的利活用は国家経済に大きく影響を与えるようになっており、プライバシーを守るための研究を早急に加速し、情報流通の必要性とプライバシー保護やセキュリティ確保の調和を図るための取組が必要である。さらに、アクセスしている情報の正しさの検証、個人のプライバシーの利用・運用を本人が制御できる社会であってほしいなど、ネットワークにおける社会的要請が強まっており、大量データを、プライバシーを保護しつつ利活用する技術をはじめ、情報漏洩(ろうえい)・不正アクセスなどのサイバー犯罪を事前に検知し、未然に防御する技術、あるいは、サイバー犯罪の被害を最小限に抑え早急に復旧する技術、一般ユーザからも分かりやすい基本原理の構築と自己責任の範囲の明確化など、情報の安全・安心を担保するための次世代新技術が求められている。このため、セキュアな情報化社会を構築するためにも、次世代情報セキュリティ基盤技術の研究開発が必要である。
<2>人とコンテンツの対話を促す次世代型情報インターフェイス技術(方向性A:新たな知の獲得と創造)((3)<4>の再掲)
<3>ITメディアのアーカイブ技術の確立(方向性A:新たな知の獲得と創造)
諸外国では、その社会変革にITメディアが大きな役割を果たした。ウェブやブログ、マイクロブログ等我が国におけるITメディアのアーカイブ技術の確立は国家の社会活動を記録し社会学者等との学際研究を推進する上で極めて重要と言える。
<4>法制度上生ずる問題への対応(方向性A:新たな知の獲得と創造、方向性B:高度に連携した社会の実現、方向性C:社会モデルの変革)
情報化社会の進展に伴いITシステムにおけるプライバシー保護に関する社会的合意の熟成と法制度の在り方も問題となってきている。また、例えば、医療・健康問題に関連する膨大な個人単位の情報の高度な利活用を目指す研究開発プロジェクトを国際協力で進めるに当たって、個人情報の法的な取扱いが問題となっている。
さらに、ITメディアのアーカイブ等のための著作権の在り方も問題となっている。
以上のような情報化社会の進展に伴う法制度上の問題点についても十分検討する必要がある。
<5>ITによる権利や価値の移動や循環の社会システムと社会科学の構築(方向性A:新たな知の獲得と創造)
情報化社会は、モノの所有を基本とした社会システムを根源的に変え、不動産や移動手段、耐久消費財などの社会全体での共有化を可能とし、一つのイノベーションの方向を先導している。交通系の電子乗車券、電子マネー、金融商品の信用取引などITの上での権利や価値の移動や流通が社会の実体経済のかなり大きな部分を占めるようになっている。経済指標の在り方、市民の価値観の変化などを情報技術と一体化して議論する新しい情報化社会学の構築とそれに基づく情報技術の方向性の検討が必要である。
社会の様々な課題の達成に貢献するため情報科学技術の技術革新を推進するに当たっては以下の点について留意が必要である。
(1)情報科学技術の推進のためには研究開発の推進のみならず、社会への実装、トライアルを通じて常に要素技術及びシステムを改善する仕組みが重要であり、若手研究者も含む人材の育成や産業界との連携を強化する視点も必要となる。
(2)情報科学技術が様々な課題の達成に貢献するためには、あらかじめプロジェクト企画段階から、解決すべき具体的な課題を的確に捉えた上で研究開発目標を設定し、課題達成にふさわしい研究内容・体制を構築することが必要である。その上で、研究成果が適切かつ効果的に実用化され円滑に社会還元されることが必要である。
ア)このため、目標設定の段階から応用分野の研究者や人文・社会学者との連携の場を設け、あらかじめ課題と関係するセクターにおける問題意識、課題を巡る状況、情報科学技術への具体的期待、さらには研究成果に期待される社会的意義や社会的効果、考えられる社会的影響やマイナス面、研究成果を実用化するに当たっての社会制度・システム面での課題等について十分把握し、課題達成としての妥当性を議論し、共通理解を得ることが必要である。
イ)また、研究成果の実用化への受渡しや実用化された後のユーザニーズへの適合を可能にする仕組みが必要である。研究内容の企画や具体の研究実施段階において、必要に応じ実用化に当たる企業等の関係者の意見が聞けるよう、協議会やワークショップ等の場を設定し、実用化につながる研究成果を生み出すための技術的なポイント等について情報を共有することが大切である。プロジェクト実施主体に応用分野の研究機関や実用化を担う企業が参画することも有効である。以上のような研究成果の実用化を支援する仕組みを国が研究資金を投じる研究開発プロジェクトにおいて、課題採択の条件とすることも考えられる。
(3)研究開発を推進していくに当たっては、大型施設やスーパーコンピュータの遠隔利用、大学間連携での大容量データ転送のニーズ等に応えるための学術情報ネットワーク(SINET)の整備が不可欠である。このため、科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会(研究・教育の高度化を支える学術情報の普及・活用等に関わる事項について総合的に調査)の検討を踏まえ、適切に整備・強化していくことが求められる。
(4)社会への発信・対話については、各研究分野や各研究者、コミュニティの代表又は拠点となり得る学協会や大学、大学共同利用機関、独立行政法人等が一定の役割を担うことも考えられる。また、社会における情報科学技術の研究開発の重要性について、理解を深めるため、ITの社会的・経済的インパクトの適切な効果測定を行うことも重要である。
(1) 第4期科学技術基本計画において重視している「課題達成型」及び「科学技術イノベーション」という観点から、今後、情報科学技術分野に求められる研究開発の基本的な方向性及び具体的課題の達成に向けての研究開発推進方策について、本委員会として取りまとめた。政府においては、この意見を踏まえて情報科学技術分野の研究開発を進めることが望ましい。特に、防災・エネルギー分野など緊急性の高い課題の達成に留意すべきである。また、情報科学技術の特性として、科学技術全体に寄与する、課題達成型の取組を進めるに当たっての共通性・汎用性のある波及効果の大きい技術革新を多く含んでいると考えられるので、そうした技術革新には積極的に取り組むべきである。
(2) また、過去に「情報爆発」をテーマにして科研費特定領域で行ったように、若手のポテンシャルを有する研究者の幅広い方面からの積極的な参画を促し、アクティビティーの高い研究活動と優れた研究成果を生み出すような人材育成機能も併せ持つ研究プロジェクトは極めて有意義と評価できる。こうした点も含めた研究体制の在り方についても前向きな議論を行う必要があることを付言したい。
(3) 社会の変化と科学技術の進展は国際的にみても著しく、年々変化している。今回の意見の取りまとめに関しては、高品質・高信頼のデータに基づくデータ・セントリックの考え方を基本としたが、今後の技術発展によっては、“Beyond Big Data”とも言うべき、さらに高次の処理が可能となり、人類にとってより有益な知識に根ざした社会が実現されることも考えられる。そのため、今後も毎年フォローアップを行い、最新の議論を付け加えることとしたい。
以上
敬称略
主査
有川 節夫 九州大学総長
主査代理
原島 博 東京大学名誉教授
委員
阿草 清滋 京都大学学術情報メディアセンター客員教授
安達 淳 情報・システム研究機構国立情報学研究所教授
石塚 満 東京大学大学院情報科学研究科教授
伊藤 公平 慶應義塾大学理工学部教授
宇川 彰 筑波大学副学長
笠原 博徳 早稲田大学理工学術院教授
喜連川 優 東京大学生産技術研究所教授
國井 秀子 リコーITソリューションズ株式会社取締役会長執行役員
小谷 元子 東北大学大学院理学研究科教授
下條 真司 大阪大学サイバーメディアセンター教授
田中 譲 北海道大学大学院情報科学研究科教授
辻 ゆかり NTT情報流通基盤総合研究所企画部研究推進担当部長
東嶋 和子 サイエンスジャーナリスト
中小路 久美代 株式会社SRA先端技術研究所所長
丹羽 邦彦 科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー
東野 輝夫 大阪大学大学院情報科学研究科教授
樋口 知之 統計数理研究所所長
宮内 淑子 メディアスティック株式会社代表取締役社長
村岡 裕明 東北大学電気通信研究所教授
村上 和彰 九州大学大学院システム情報科学研究院教授
安信 千津子 株式会社日立製作所情報・通信システム社経営戦略室主管
合計23名
(平成24年5月現在)
敬称略
主査
有川 節夫 九州大学総長
主査代理
喜連川 優 国立情報学研究所所長、東京大学生産技術研究所教授
委員
伊藤 公平 慶應義塾大学理工学部教授
岩野 和生 科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー
宇川 彰 理化学研究所計算科学研究機構副機構長
碓井 照子 奈良大学名誉教授
押山 淳 東京大学大学院工学系研究科教授
笠原 博徳 早稲田大学理工学術院教授
國井 秀子 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授
五條堀 孝 国立遺伝学研究所副所長
辻 ゆかり 西日本電信電話株式会社技術革新部研究開発センタ開発戦略担当部長
中小路 久美代 京都大学 学際融合教育研究推進センター特定教授/株式会社SRA 先端技術研究所長
樋口 知之 統計数理研究所長
松岡 茂登 大阪大学サイバーメディアセンター教授
宮内 淑子 メディアスティック株式会社代表取締役社長
宮地 充子 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授
村岡 裕明 東北大学電気通信研究所教授
村上 和彰 九州大学大学院システム情報科学研究院教授
安浦 寛人 九州大学理事・副学長
矢野 和男 株式会社日立製作所中央研究所主管研究長
合計20名
(平成26年6月現在)
第69回(平成23年4月8日)
・(議題1)情報科学技術委員会主査代理の指名について
・(議題2)情報科学技術委員会の議事運営等について
・(議題3)第6期情報科学技術委員会における当面の審議事項について
・(議題4)第4期科学技術基本計画を踏まえた今後の情報科学技術分野の研究開発推進方策について
・(議題5)「目的解決型のIT統合技術研究開発の実現に向けたフィージビリティ・スタディ」について
・(議題6)平成23年度に実施する研究開発課題の評価の進め方について
・(議題7)その他
第70回(平成23年5月18日)
・(議題1)第4期科学技術基本計画を踏まえた今後の情報科学技術分野の研究開発推進方策の検討について
・(議題2)その他
第71回(平成23年6月29日)
・(議題1)第4期科学技術基本計画を踏まえた情報科学技術分野の研究開発推進方策の検討について
・(議題2)次世代IT基盤構築のための研究開発「Web社会分析基盤ソフトウェアの研究開発」中間評価報告会
・(議題3)その他
第72回(平成23年7月20日)
・(議題1)第4期科学技術基本計画を踏まえた情報科学技術分野の研究開発推進方策について(中間とりまとめ)
・(議題2)平成24年度における情報科学技術分野の取り組みについて
・(議題3)「Web社会分析基盤ソフトウェアの研究開発」中間評価について
・(議題4)「目的解決型のIT統合基盤技術研究開発の実現に向けたフィージビリティ・スタディ」中間報告会
・(議題5)その他
第73回(平成23年9月16日)
・(議題1)第4期科学技術基本計画を踏まえた情報科学技術分野の研究開発推進方策(中間報告)について
・(議題2)平成24年度新規要求課題事前評価
・(議題3)JST文献情報提供事業の今後の方向性について
第80回(平成25年4月12日)
・(議題1)情報科学技術委員会主査代理の指名について
・(議題2)情報科学技術委員会の議事運営等について
・(議題3)第7期情報科学技術委員会における当面の審議事項及び平成25年度に実施する研究開発課題の評価の進め方について
・(議題4)情報科学技術に関する研究開発課題の事後評価について
・(議題5)その他
第81回(平成25年5月17日)
・(議題1)平成24年度で終了した課題の成果報告
・(議題2)今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループ中間報告(案)
・(議題3)平成25年度以降に取り組むべき情報科学技術分野の研究開発課題について
・(議題4)その他
第82回(平成25年8月7日)
・(議題1)平成24年度終了課題の事後評価結果(案)について
・(議題2)平成26年度概算要求の方向性(案)及び事前評価について
・(議題3)JST情報事業に関する平成26年度概算要求の方向性について
・(議題4)情報科学技術に関する推進方策(中間報告)改訂に向けた方針(案)について
・(議題5)その他
第83回(平成26年2月14日)
・(議題1)情報科学技術分野の平成26年度政府予算案について
・(議題2)HPCI戦略プログラムの中間評価について
・(議題3)情報科学技術に関する推進方策(案)について
・(議題4)その他
第84回(平成26年5月1日)
・(議題1)平成26年度情報科学技術分野における研究評価計画の審議
・(議題2)「次世代IT基盤構築のための研究開発」中間報告会
・(議題3)情報科学技術に関する推進方策(案)について
・(議題4)その他
今田、三坂
電話番号:03-5253-4111(内線:4286)
-- 登録:平成26年07月 --