平成23年9月
情報科学技術委員会
本委員会においては、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会の問題提起を受けて、第4期科学技術基本計画を踏まえた情報科学技術分野の研究開発推進方策について議論を行い、そこでの委員の意見を中間報告として取りまとめることとした。
まず、「1.情報科学技術分野において今後求められる「革新」の基本的な方向性」の(1)において、近年の世界情勢と我が国の置かれた状況を概観した。
その上で、(2)において、情報科学技術分野に今後求められる方向性を明確にした。
A)課題達成のために必要な情報を得るための情報科学技術を活用した効果的かつ効率的な情報収集・情報集約・情報統合・情報管理・情報分析・情報流通・情報共有システムの高度化
B)情報科学技術を活用した的確な科学的分析・解明・予測の高度化
C)課題達成に役立つ方向でのITシステム及びITを組み込んだ技術の高機能化
D)変化する状況に対応して課題達成のために最適化できるITシステムのリアルタイム性、機動性と柔軟性の向上
E)課題達成型IT統合システム(実社会情報を集約し、課題達成に最適な解や方向性を導き出し実社会にフィードバックする高度に連携、統合されたITシステム)の構築
F)ITシステムの超低消費電力化(グリーン化)
G)ITシステムのディペンダビリティ(災害等に強いシステム)の向上
さらに、「2.具体的課題の達成に向けて」において、各課題ごとの研究開発推進方策を記述した。課題の項目立てについては、研究計画・評価分科会の示した課題を基に、情報科学技術分野のイノベーションを考える上で必須の課題として下記に(6)(7)を加えることとした。
(1)環境・エネルギー問題への対応
(2)医療・健康問題等への対応
(3)災害等に強い安全安心な社会の実現
(4)豊かで質の高い国民生活の実現、文化的価値の向上
(5)科学技術基盤の高度化
(6)国際競争力の強化
(7)情報化社会の進展への対応
近年、地球温暖化や環境、エネルギー問題など、複雑かつ困難な状況が顕在化し、こうした全世界的な人類共通の課題への対応が求められている。また、経済におけるグローバル化の一層の進展、新興国市場における競争の激化が進む中、産業・経済面での国際競争力の強化が一層重要となってきている。国内的には、少子高齢化や人口減少等の社会的、経済的活力の減退につながる問題にも直面している。さらに、今般の東日本大震災は多大な被害をもたらし、その影響は東日本のみならず、我が国の社会経済及び国民生活の広範囲に及んでいる。このような大震災から復興し、持続可能で活力のある社会を再構築するとともに、災害に強くエネルギー不足等の問題にも柔軟に対応できる社会に立て直すことが急務となっている。
このような世界情勢や我が国社会の根幹に関わる課題に対応するため、今まさに科学技術イノベーションの力が必要とされている。
情報科学技術は科学技術全体の中でも基盤性という特徴を有している。これまでにも社会経済活動における基盤や、科学技術の研究開発の推進における基盤の形成という観点から大いに貢献してきた。具体的には、ライフサイエンス、ナノテク材料、環境、ものづくり等の科学技術分野から交通、医療、教育、防災、エネルギー等の社会応用分野にいたるまで、極めて広範な範囲にわたり基盤的技術としてその役割を果たしてきた。
平成23年度は、科学技術分野の新たな国家戦略である第4期科学技術基本計画が開始され、我が国の科学技術政策における大きな転換期にあたる。情報科学技術は、今後の様々な社会的な課題の達成のために科学技術が貢献していく上で重要な鍵を握る共通基盤的な技術であり、これまで以上に高度な役割が期待されることとなる。社会的に重要な課題の達成に向けて情報科学技術に今後求められる方向性は以下のとおりと考えられる。
課題達成のためには、適切な情報に基づき有効な判断を行うことが成功の鍵である。課題達成の成否に影響を与える情報は広汎多岐にわたっており、正確な集約が難しい。課題の複雑性に応じて人間の五感では直接把握しがたい広域にわたる大量かつ多面的な情報を情報科学技術を用いて効果的かつ効率的に収集・集約・統合・管理することがこれまで以上に必要となってきている。また、心豊かな人と人との交流、きずなを大切にした社会の創成のためには、情報流通・共有システムの質的な充実が求められる。このため、これらを可能とするセンサーネットワーク、クラウドコンピューティング、データベース、データ検索技術、データマイニング、ストレージ、ヒューマンインターフェイス等の最先端のIT及びこれらを統合するシステム技術は重要であり、これまで以上にさらなる高度化が求められる。
社会的な課題の達成のためには、その前提として自然や社会の構造、本質、メカニズム、成り立ち、変化、将来の姿をこれまで以上に科学的に精密かつ高度に分析・解明・予測することが求められる。ものづくり等の産業競争力強化や、防災、創薬、医療等においても同様である。そのための方法論として、ハイパフォーマンスコンピューティング技術を用いて行われるシミュレーションをはじめとした計算科学、データ科学、統計数理、データ同化等は極めて重要であり、これまで以上に科学技術としてのさらなる高度化が求められる。
課題達成のためには、高度化するユーザニーズにこたえ、情報科学技術を組み込んだシステムの性能及び機能の高度化が必要である。これらを構成するデバイス、ネットワーク、システムソフトウェア等の要素技術について、当該システムに求められている具体的な課題達成の方向性に応じた性能及び機能の高度化が求められる。例えば、情報科学技術を組み込んだ高度先進医療機器の性能向上、コンテンツ分野のさらなる向上に資する高次感性情報システムの構築、国際競争力の強化につながるソフトウェア開発プロセスの抜本的見直し等が必要とされる。
課題達成のためには、刻々と変化する状況に応じた対応、最適化を図ることのできるリアルタイム性、機動性と柔軟性の向上が求められる。このことは、ITシステムを構成するセンサーネットワーク、クラウドコンピューティング、データベース、ストレージ等のあらゆる要素技術と統合システム全体に求められる。
防災や省エネルギーをはじめとした様々な課題達成に資するシステムとして実社会から広汎かつ刻々と変化する情報を集約し、コンピューティング技術、最適化理論、統計理論等を用いて最適な解や方向性を導き出し、さらにそれを現実の社会にフィードバックし、課題達成に結びつけることのできる高度に連携・統合化されたITシステムあるいは仕組みの構築が必要とされる。そのためには、これまでの様々な要素技術を集約、統合化したうえで応用分野の違いを超えて横断的に適用できるような統合基盤技術の構築に向けた応用的な取組が求められる。統合基盤技術の高度化、実証や標準化を進め、普及実用化に繋げていくという過程をより具体的なシナリオとして描いていくことが不可欠である。総合科学技術会議による第3期科学技術基本計画の総括的フォローアップ(平成23年3月)においても、『重点課題8分野の重点的な研究開発が推進され、多くの革新的な技術が創出されてきたものの、個々の成果が社会的課題の達成に必ずしも結びついてない』と指摘されており、課題達成型IT統合システムは、こうした指摘にも応えるものとなる。
課題達成のためにITシステムが有効性を発揮するにはシステムを動かすエネルギーが必要となる。しかしながら、低炭素社会の実現のためには省エネルギーが必要不可欠であり、さらに東日本大震災後のエネルギー不足等の状況下においては、消費できるエネルギー量が大きく制限される状況にある。にもかかわらず、今日、先進国のみならず新興国でもIT機器やデータセンターが急速に普及しており、情報通信・処理機器の電力効率は今後のIT機器等の高機能化のボトルネックになると考えられる。このため、ITシステムの超低消費電力化(グリーン化)が必要不可欠である。
今日、あらゆる社会の課題達成のためにその役割が期待されているITシステムには、システムとしてのディペンダビリティが最も必要とされる。大規模な自然災害発生時など過酷な条件下においてもITシステムが社会のライフラインとして機能し、危機的状況下でも課題達成のためのシステムとしての役割を維持することは、国民の生命や安全安心にとって大変重要である。災害等に強いディペンダビリティの向上が必要不可欠となる。そのために、最低限の機能を維持するためのエネルギー供給系との統合、応急的な復旧、保守の容易さなどの機能を強化して、社会の神経系としての自律性を確保することも必要となる。なお、「ロバスト」、「レジリエント」といった言葉も使われている。それぞれニュアンスは異なるものの、ほぼ同様の概念である。
過去の情報科学技術委員会においても、情報科学技術の効果的な利活用によって社会全体の効率化や生活の質の向上に貢献するというby-ITの観点とともに情報科学技術そのものを高度化していくというof-ITの視点を重視してきた。第4期科学技術基本計画の掲げる課題達成型の研究開発という基本戦略に沿って、情報科学技術政策を推進していくにあたり、by-ITとof-ITの関係を考慮することが必要である。情報科学技術の利活用を通じて世界的な環境問題やエネルギー問題などのグローバル課題を解決し、安全・安心な社会生活の基盤を構築するという視点は重要である。その重要性(by-ITの重要性)は、of-ITの重要性に帰結する。このような様々な社会的課題に対する技術開発の必要性が大きなモチベーションになってof-ITの技術開発が推進され、大きな成果やイノベーション創出に繋がるという点をしっかりと認識したうえで研究開発投資を進めていく必要がある。
なお、情報科学技術戦略の推進にあたっては、このような第4期科学技術基本計画をはじめ、政府の新成長戦略、政府全体の情報通信分野の中長期的戦略を定めた「新たな情報通信技術戦略」(平成22年5月IT戦略本部)等の様々な政府戦略においても、情報科学技術により経済社会全体を改革して新しい活力を生み出す必要性や、基礎研究も含めた科学技術の総合的振興の必要性に言及しており、このような政府戦略等にも留意する必要がある。
さらに、ネットワーク技術等の標準化や研究開発を推進する総務省、高信頼なシステムソフトウェア開発やソフトウェアエンジニアリング等の推進に取り組んでいる経済産業省、科学技術政策の司令塔である内閣府総合科学技術会議等とも連携し、政府全体として効率的な施策運営に努めるべきである。
全世界的な人類共通の課題である「環境・エネルギー問題」への対応のため、再生可能エネルギーに関する技術革新や省エネルギーが極めて重要である。 |
太陽光発電や燃料電池の性能向上等に資するシミュレーションを高度化するため、エクサスケールに向けてのハイパフォーマンス・コンピューティング技術の高度化や、データ同化による実社会情報の取り込みの強化等
様々な社会活動を、これまで以上により一層高効率な状態に最適化していくためには、分散配置された多数の各種センシングデバイスによりリアルタイムに実世界の情報を集約し、コンピューティング技術等を用いてリアルタイムの解析を行い、社会システムを高効率化するための最適な解を導き出し、実社会にフィードバックするIT統合システムが必要である。こうしたシステムを支える情報統合基盤技術を高度化することで、広く様々な社会システムやサービスへの応用を促進することが必要である。
ITシステムの超低消費電力化のため以下の様な技術を確立する必要がある。
医療・健康問題等への対応のための重要なポイントとして、医療・健康問題に関連する膨大な個人単位の情報の高度な利活用、医療や創薬に関連する科学的分析、メカニズムの解明、予測の高度化、さらには高度先端医療機器の性能向上が挙げられる。 |
地震・津波等の大規模自然災害に関する防災・減災を巡る問題点は多岐にわたるが、例えば地震・津波等の被害予測等の限界、社会のパイプラインとなるインフラやシステムの機能不全、防災オペレーションに欠かせない関連情報の集約についての混乱、さらには風評被害等の問題点が指摘される。東日本大震災においては、こうした問題点が顕著に見られた。 |
東日本大震災によって被災地域の情報通信インフラが瓦解したため社会の重要なライフラインであるITシステムが複合的な機能不全に陥った。重要な情報の消失等の問題も起こった。このような災害に対する脆弱性を改善するために、ダメージを回避して、システムとして最低限の機能を維持し、自己調整・自己修復等のできる情報システムが必要となる。そのためには、個人の認識に係るシステムの平時と非常時の使い分け、例えば平時には重視されるプライバシーについて、非常時には特別措置を可能にすることなどが求められる。
今回の震災では広域な範囲に被害が及び、災害発生直後の広範囲に及ぶモノや人の動き、インフラの状況を十分に集約・整理できなかったり、必要な情報が異なる機関の間で共有されず、統合できないといった問題が見られた。その結果、防災オペレーションの混乱や、被災者の間での混乱を招いたことが指摘されている。災害時および災害後の広範囲かつ多岐にわたるリアルタイム情報を集約整理、統合化し、状況の変化を最適な避難活動・救援活動・防災活動及び被災者の最適行動の判断材料にフィードバックできるようなIT統合システムが必要である。さらにこうしたシステムを支える情報統合基盤技術の高度化が必要である。
近年、ITを使いこなせる人と使いこなせない人との間の情報デバイドが問題となっているさらに、今回の東日本震災時の人々の行動でも明らかにされつつあるように、緊急時のパニックに陥りがちな心理状態でも冷静に扱えるITシステムや、社会体制や組織構造の事情を踏まえた上での複数人での緊急情報共有を支援する機構、さらに操作や判断の誤りを誘因しないようなインタフェースは、喫緊の課題である。利用者の探索行動や視線情報、表情や振る舞いからの意図推定技術や、情報要求を推測する情報インターフェイス技術に加えて、それらの技術を利用者の認知的状態や社会心理的状態を考慮して組み合わせデザインする技法を確立し、人とコンテンツとの対話を促すインタラクションのデザインとそれを支える技術とを確立することは、ITを、平時においてもまた緊急時においても真に国民生活を支える基盤として活用するための課題達成に必須の事項である。
東日本大震災においては携帯電話が不通となる中で、避難場所の周知等ITメディアが大きな役割を担った。一方で誤報も見られた。災害時におけるリアルタイムITメディアの活用ならびにメディアの伝搬解析技術の確立は急務と言える。今後、風評被害等を避け、国民に情報を適切に発信できるような仕組みの構築が課題となってくるが、その際にもこうした解析技術による分析が必要不可欠となる。
文化はこれからの日本を支える国家基盤であり、さらには産業・経済基盤としても重要である。コンテンツ分野の進展も日本の強みである。また、人と人とのつながり、コミュニケーションの豊かさも大切な価値である。 情報科学技術においても、IT技術を活用して、高度なアーカイブ化や文化・芸術の創造への支援等により、課題達成に貢献することが期待される。 |
未来へつながる新たな価値観の創出へ向けて、また未来の心豊かな生活基盤を実現するためにも文化をキーワードとした科学技術の振興が強く望まれる。文化はこれからの日本を支える国家基盤であり、さらには産業・経済基盤としても重要である。科学技術が文化に貢献できる分野として、「文化の保存」、「文化の創造」、「文化の発信」などがある。具体的には、我が国が誇る伝統文化・文化遺産の保存へ向けたアーカイブ化技術をはじめ、コンピュータグラフィックス・アニメーション技術、3D技術、超高精細映像/画像技術、VR技術等の現代文化の創造を支援する科学技術、これらの文化資源を国民一人一人がより身近なものに感じられるようにし、同時に世界へ向けて広く発信するための科学技術などが挙げられる。我が国には世界に誇るべき伝統文化の蓄積があり、さらに、アニメ等の日本のコンテンツ文化等も世界的に注目されている。これを国際社会に対して積極的に発信することは、「文化立国」を目指す日本にとっての重要課題であり、観光も含めた産業・経済基盤としても期待される。
今後、我が国が誇るデザイン、コンテンツ、アート等のコンテンツ分野のさらなる向上を図るには、メディア情報が持つ臨場感や、迫真性、自然性等の高次感性情報を自由に操作する技術の確立が重要である。実世界の多感覚情報(マルチモーダル情報)を正確に評価して符号化・保存し、更に、遠隔地や、時間を隔てた形で的確に取得・提示するとともに、精密に創成、操作する情報科学技術である。このような技術が実現すれば、我が国が誇るコンテンツ分野において、メディア情報のみならず、実世界情報の創成、デザイン、修整などの自由度が遙かに向上し、他国の追随を許さない競争力の確立に資する。さらに、臨場感・自然性の高い情報共有が可能となることから、自宅勤務や遠隔協働作業の高度化・円滑化が可能となり、低炭素社会の構築にも資する。
プライバシーを保護するようなソーシャルセンサの設置による地域住人の生活パターン蓄積をはじめ、対話ロボットなどを活用したコミュニケーションの促進、子供と高齢者の対話の場の実現などさまざまな社会的活動を支援する情報システムが構築されれば、国民の一人一人が情報社会の恩恵を受け、生活の豊かさや安全性が感じられる地域社会が創成される。
今日、クラウドコンピューティングは、社会のあらゆるシステムの高機能化に貢献し、知識社会を牽引する高度な科学技術基盤としての役割を果たしている。 |
クラウドの利用は多岐に亘るが、そのきっかけは大規模なデータ解析や負荷変動が大きく動的に変動するサービスの実証の場として利用されたことが挙げられる。浮動小数点の演算は必ずしも多く必要とされず、また、Hadoopを中心とした大容量データ処理ではCPUの利用率すら低いことが散見されている。このような現状のクラウドから次世代クラウドを睨み、データインテンシブアプリケーションに求められる新しいアーキテクチャ、膨大な資源を柔軟且つ動的に再構成する仮想化技術、ミドルウエア、資源管理ポリシー、ウエアハウスレベルでの省エネルギー管理、広帯域高信頼ストレージシステム、クラウド間バックアップ機構、運用技術など、その要素技術の開発ならびに、クラウド実装は喫緊の課題と言える。また、大学等の学術基盤としてクラウドを積極的に導入し、その利用を推進することにより、日本独自の国際的優位性のある情報科学技術を育てるプラットフォームとしての役割を発揮することが必要である。
スーパーコンピュータ等の高性能計算技術は、科学技術のあらゆる分野において新たな発見や真理の探究を効率的に実現するために重要な基盤的技術である。特に、国家安全保障を支える基幹技術としてのハイパフォーマンスコンピューティング技術の重要性は一層増大しており、東日本大震災において示されたとおり、地震や津波に対する防災・減災の予測、原子力システムの安全性の検証等、複雑な自然現象や人工物の挙動を信頼度高く予測する能力は、大きな社会的・国際的責任を伴う科学技術である。
また近年では、加速器やDNAシーケンサなどの各種計測装置の進化に加え、インターネットやセンシングデバイスの発展により、膨大なデータを収集する基盤が整い、これらの膨大なデータを活用するデータ中心科学が注目を集めつつある。このため、将来のスーパーコンピュータでは、演算性能に加え、ストレージ装置や外部ネットワークなどとの緊密な連携による大規模データ処理性能がより重要になる。そこで、高い演算性能を限られた消費電力で実現し、ストレージ装置や外部ネットワークと緊密に連携し大規模データを高速に処理するスーパーコンピュータの構築技術や、スーパーコンピュータを利用する際の生産性向上等を実現するソフトウェア技術の開発が必要である。
そこで、次世代スーパーコンピュータを中心とするHPCI(ハイパフォーマンスコンピューティングインフラ)の着実な整備と活用によりポストペタスケールの計算科学技術の成果を着実に蓄積するとともに、計算科学技術の持続的かつ総合的な発展を支える推進体制を整備充実し、エクサスケール計算科学技術の研究開発に将来的に繋げることが不可欠である。世界トップクラスのスーパーコンピュータの構築は、最先端科学の探求や環境・エネルギー問題の解決で世界を牽引する基盤になるとともに、知的ものづくりなど産業応用のさらなる開拓を通じて我が国産業の国際競争力強化にも繋がる。また、データ中心科学に向けた新しい基盤を有することで、これまでの計算科学を凌駕する新たな科学や産業を可能にし、ゲノム解析に基づくテーラーメイド医療や、大量のセンサ情報を活用した高精度気象予測による高度防災の実現など国民生活に大きく寄与することが必要である。
実世界の様々な事象が網羅的かつ即時的にWeb上の情報として反映され、貴重な文化資産として形成されつつある今日、それらのWeb情報の収集・分析による高度利用は学術、文化及び社会活動等において非常に有益である。現在、「Web社会分析基盤ソフトウェアの研究開発」が文部科学省のプロジェクトとして実施されているところであるが、引き続き成果の実証に努める必要がある。
実社会から広汎かつ刻々と変化する情報を集約し、コンピューティング技術等により最適な解や方向性を導き出し、さらにそれを現実の社会にフィードバックし、課題達成に結びつけることのできる『課題達成型IT統合システム』の構築が必要とされる。国として達成すべき課題を明確にしたうえで、これらの課題達成に有効であり、かつ様々な分野に応用可能なIT統合システムを構築し、普及を促進する観点から、最先端のセンサーネットワーク、モバイル系IT、コンピューティング技術、制御技術、アプリケーション・ソフトウェア等を統合した情報統合基盤技術の高度化を進める必要がある。その上で最終的には、こうしたITの運用から政策や経営といった社会的意思決定につないでいく必要がある。
今日、学問分野は高度に専門化が進み、分野が異なると同種のデータや情報であっても表現形式が異なるほか、利用したいツールもインターフェイスや入出力データ形式が異なるために利用できないという事態が起こっている。さらには、異なる分野のリソースに関してはどのようなものが存在するかもよくわからない状況である。このような状況が、学問分野では学際的研究分野の創成の障害となり、地球規模の問題といった複雑な対象を扱う場合には、関連する分野のリソースを有機的に結び付けて高度に連携した情報処理を行うなどの総合的分析を困難にしている。新フロンティア開拓を目指すような新しい学際領域の創成においては、異分野のリソース間の関係付けや連携そのものが試行錯誤的に模索されることとなり、動的に定義可能な柔軟な関連付けや連携定義を行うための知識フェデレーションの基盤が必要となりつつある。様々な分野における情報が集積され、ITによる様々な分野の活動の増幅の事例が蓄積されていく中で、ITと他分野が融合した新しい学問領域が創出され、分野間の人材交流により新しい問題の発見・イノベーション創成の機会が増大し、政策立案や経営の意志決定に反映させることを期待したい。
高度な科学技術基盤として、その構築が必要とされるITシステムの実現のためには、ITシステムの超低消費電力化が欠かせない。このため、2の(1)の(3)に掲げられている1~4の技術の確立が必要である。
日本は『ものづくり』において、極めて高い国際競争力があると言われてきたが、これからのものづくりを考察すると、日本が生産性において遅れているソフトウェア分野の比重がますます高まることが予想され、このままでは日本の国際競争力は非常に低くなると予想される。ソフトウェア開発プロセスを抜本的に見直し、最先端のソフトウェア工学を応用、発展させ、効率的な分業も可能なソフトウェア開発の基盤技術を構築することが不可欠となりつつある。特に、組込ソフトウェアに焦点を当てることにより、ソフトウェア産業のみならず、幅広く製造業全般において国際競争力を向上することができる。さらに、安心安全な日本を確立するには安定した高品質で価格競争力のあるITの活用は必須であり、総合的なソフトウェアプロダクトライン工学は信頼性や安定性の観点からも効果は大きい。
国際競争力強化のためには、日本国内の情報科学技術及び情報産業が、独自性と国際的通用性を有し国際競争力を有する技術・システムを持つことが必要である。特に国際的に進展の著しい新しい情報サービス領域では、世界をリードするプラットフォームレベルでの国際的主導力を持つことが一層重要となってきている。また、このことは国内の産業全般の競争力強化にも寄与するところである。 |
国際競争力強化のためには、情報科学技術に関する国内の学術研究が発展し、研究成果をあげることのみならず、国際的に強い国内情報産業も育ち、これらの相互作用により、スパイラル的な強化、発展が図られることが必要である。
情報産業のグローバル化の中で、国内情報産業が独自性と国際的通用性を併せ持ち、国際的に見ても強い競争力を有する技術、システムを持つことが必要不可欠となる。特にクラウドや国際的に進展著しいソフトウェアや情報流通・巨大なデータの利活用、さらにはフェイスブックやツイッターのようなソーシャルメディアといった新しい情報サービス領域では、世界をリードするプラットフォーム・レベルでの国際的主導力を持つことが一層重要となってきている。
このため、研究開発の成果目標となる技術やシステムが広く世界に喜んで受入れられるものであるかどうかを考慮するグローバルな戦略的視点が重要である。今後、情報科学技術分野におけるいくつかの領域で、日本の技術が国際的な優位性を持ち、ひいては国内産業全体の競争力強化にも繋げる必要がある。
ハイパフォーマンス・コンピューティング技術を高度化し、国内産業や大学、研究機関のスパコン開発技術等の向上に役立てるとともにHPCIの利用の促進、特にHPCIの産業利用や人材育成の充実に展開することにより、多方面の業種にわたる国内産業の技術開発力の向上や科学的・社会的意義のある成果の創出に寄与することが必要である。
上記(1)(2)のほか、課題達成型IT統合システムの構築、ITシステムの超低消費電力化、高度先進医療機器の性能向上、高次感性情報システムの構築、次世代型情報インターフェイス技術、ソフトウェア開発プロセスの抜本的見直し等についても技術革新の成果を国内情報産業に円滑に展開することにより、国内情報産業の競争力強化、国内産業全体の競争力強化、ひいては日本の国際競争力強化に寄与することが必要である。
情報科学技術の高度化に伴い情報化社会が著しく進展した。その結果、情報流通の必要性とプライバシー保護との調和をどのように図るべきかという課題が生じてきている。また、ITを使いこなせる人と使いこなせない人との間の情報デバイドの問題が生じている。さらに、諸外国において社会変革に大きな役割を果たしているITメディアのアーカイブ化も課題である。 |
情報爆発時代において、情報の安全を確保し、プライバシーを保護するためには不断の取組が必要である。一方で、特に、クラウドコンピューティングの進展により、収集されたデータの複合的利用が促進される状況になっており、プライバシーを守るための研究を早急に加速し、情報流通の必要性とプライバシー保護の調和を図る必要がある。さらに、自分がアクセスしている情報が信頼できるものであるかを確かめたい、個人のプライバシーが守られる社会であって欲しいなど、ネットワークにおける社会的要請が強まっており、大量データを、プライバシーを保護しつつマイニングする技術をはじめ、情報漏洩・不正アクセスなどの電子的証拠(コンピュータ内のログや通信のログ、ハードディスクの状況)を保全・分析する技術、一般ユーザからも分かりやすい基本原理の構築と自己責任の範囲の明確化など、情報の安全・安心を担保するための研究開発が必要である。
諸外国では、その社会変革にITメディアが大きな役割を果たした。ウェブやブログ、マイクロブログ等我が国におけるITメディアのアーカイブ技術の確立は国家の社会活動を記録し社会学者等との学際研究を推進する上で極めて重要と言える。
情報化社会の進展に伴いITシステムにおけるプライバシー保護に関する社会的合意の熟成と法制度のあり方も問題となってきている。また、例えば、医療・健康問題に関連する膨大な個人単位の情報の高度な利活用を目指す研究開発プロジェクトを国際協力で進めるにあたって、個人情報の法的な取扱いが問題となっている。
さらに、ITメディアのアーカイブ等のための著作権のあり方も問題となっている。
以上の様な情報化社会の進展に伴う法制度上の問題点についても今後十分検討する必要がある。
社会の様々な課題の達成に貢献するため情報科学技術の技術革新を推進するにあたっては以下の点について留意が必要である。
以上
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-- 登録:平成25年05月 --