分散した高性能コンピュータを高速ネットワークで結び、100テラフロップス級の計算処理能力を持つ世界水準の高速グリッドコンピューティング環境を構築(異機種計算機、実験装置、データベース、アプリケーション、研究者等の協働を可能にする)するためのミドルウェアの研究開発を情報・システム研究機構国立情報学研究所(研究代表者、三浦謙一教授)を中核拠点とし平成15〜19年度に実施した。また、これを活用して、ナノ分野と情報通信分野との異分野間の融合領域研究の加速、産学官連携の推進等を図り、先端科学技術の研究や製品開発プロセスを革新(「知的ものづくり」)することによって、我が国の国際競争力が強化され、大きな経済効果が期待される。
(平成17年度の中間評価による追加課題)
グリッド基盤ソフトウェアの完成を目指すとともに、100テラフロップスの研究グリッド環境におけるナノ分野のアプリケーションの実証に重点を移し、目標であるサイエンスグリッド技術の有効性を産業界や学術界に向け実証できるよう、研究開発をさらに推進する。加えて、他のグリッドプロジェクトとのさらなる協調・連携を進めるとともに、計算能力の進展に伴い、100テラフロップスを超える計算機システムが稼動し始めている現在、数年後に実現するものと予想されるペタフロップス超級の計算環境にも対応可能とするよう、研究開発目標を上方修正することが望まれる。
国立情報学研究所、分子科学研究所を中心とした、大学、研究機関、さらには企業等を加えた大規模な産学連携体制の下、高速グリッドコンピューティング環境を構築するためのNAREGIミドルウェアVer1.0を開発、公開したことは評価できる。また、NAREGIミドルウェアの国際標準化提案や国際連携・オープン化、加えて一部機能の製品化等、産業応用にまで至る成果の拡がりは評価できる。さらに、国立情報学研究所、分子科学研究所、および4つの大学を中心として大規模実証実験を行い、連成計算が実際に50テラフロップスのグリッド環境で実現できることを実証し、計算リソースさえ確保できれば100テラフロップス級の計算処理能力を持つ世界水準の高速グリッド環境の構築も可能であることを確認した事は評価できる。中間評価時の指摘事項である、産業界や学術界における実証環境構築、およびペタフロップス超級計算環境への対応等に関し対応が十分でない点も見られたが、現在も国立情報学研究所において継続している研究開発体制において問題解決が図られることを期待する。
1 プロジェクトの検討
(1)研究開発の実施体制
国立情報学研究所、分子科学研究所を中心として、大学、研究機関、さらには企業等を加えた大規模な産学連携体制でのグリッド研究開発推進拠点が形成されたことは評価できる。
(2)研究開発の達成目標
プロジェクト期間中の状況変化および中間評価の結果に応じ、上方修正および一部追加された達成目標については評価できる。
(3)研究開発の成果
NAREGIミドルウェアVer1.0を開発、公開したことは評価できる。また、分子科学研究所、大学等と連携して大規模実証実験を行い、連成計算が実際に50テラフロップスのグリッド環境で実現できることを実証し、計算リソースさえ確保できれば100テラフロップス級のグリッド環境構築も可能であることを確認したことも評価できる。さらに、NAREGIミドルウェアを国際標準化として提案した事は、評価できる。なお中間評価において指摘されている、サイエンスグリッド技術の有効性を産業界や学術界に向け実証するための環境構築やペタフロップス超級の計算環境にも対応可能とする事項について、今後の研究開発の進展に期待する。
(4)研究成果普及への取り組み
広報活動、特許戦略等をよく考えた上で、実証実験を通して成果の普及に努めていること、および OGF (Open Grid Forum) への標準化提案、EGEE(The Enabling Grids for E-sciencE)との国際連携・オープン化は評価できる。研究成果の一部については、すでに民間へ波及し、製品化等の実績が出ていることは評価できる。今後とも学界及び産業界に対するさらなる普及活動が期待される。
(5)人材育成の状況
38名に上るポスドク研究員を育成し、大学院、学部生の参画も59名に上っていることは、当初の計画通りの人材育成がなされていると評価できる。
(6)学術的成果の情報発信活動状況
約100件の学術論文、国内外で200件を超える招待講演、更に5件の受賞が実現されており、SC(Supercomputing)での展示や、プレス発表も含め、積極的な情報発信が行われていることは評価できる。
(7)中間評価指摘事項への対応
WSRF(Web Service Resource Framework)への対応、バーチャル研究環境の実現等、指摘事項に対し、見直しを行い改善策を採った事は評価できる。一方、技術課題の取り組みが強調され、社会のニーズや解決すべき問題の明確化並びに開発成果の位置づけが弱い面があり、今後の研究開発に期待する。
2 研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
(1)研究開発課題に対する社会的なニーズ
ナショナルリーダシップ級大規模計算システムから、研究室単位の小規模システムまでをグリッド環境にて効率よく利用することへの社会的ニーズは高い。具体的なニーズや解決すべき問題の明確化について十分整理し、把握することを期待する。
(2)国内外における類似研究との比較
単なる検証実験に終わらず、グリッド環境での実証、運用での検証を重ねており、TeraGrid(米)、EGEE(EU)等、世界の類似プロジェクトと比較しても高水準のミドルウェアの実用化を図っている事は評価できる。
(3)他のプロジェクト等との連携協力
経産省BGC プロジェクト、文科省ITBL 等の国内プロジェクト、及び国際的なプロジェクトとの標準化、連携システム開発等における連携体制が構築されていることは評価できる。
(4)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
計算科学は日本の国際競争力強化のカギの一つであり、NAREGI ミドルウェアの開発やその普及・活用によるグリッド環境の強化を通じた経済的、社会的効果が期待できる。なお、今後の国際的な計算機環境の変化にも留意する必要がある。
研究振興局情報課
-- 登録:平成21年以前 --