安心・安全なユビキタス社会の実現を見据え、電子タグにより、音声、動画等の高付加価値情報を安全かつリアルタイムに利活用するために必要な基盤技術として、
(1)大容量データを扱う計算能力、記憶容量を持ち、耐攻撃性のある電子タグ
(2)(1)で開発した電子タグと協調し、高付加価値情報を安全に扱うことのできる組込み型の基本ソフトウェア
の研究開発を行うとともに、その成果物を病院内の医療情報や食品の安全に関わる情報システムに適用し、成果物の有効性を検証するため、公募により、株式会社横須賀テレコムリサーチパークユビキタスネットワーキング研究所(以下「YRP UNL」という。)(研究代表者:坂村 健所長)を中核拠点とする研究開発課題を選定し、平成17年度から平成19年度まで実施した。
安心・安全なユビキタス社会を実現するために必要な技術であるセキュアチップ及び組み込み向けセキュアOSを開発するとともに、医療等の分野の団体と連携した実証実験によりその有効性を確認することで、成果の利活用への道筋を開いた。
成果の普及に向けては、開発した技術の製品化に加え、実証実験の成果についての口頭発表やニュースリリースなどを積極的に行った。また、本成果に基づき電子タグを用いるネットワーク型情報サービスの国際標準化を行った点は、本成果の展開を図る上で重要であることから、高く評価できる。
しかし、本成果の実用化技術の担い手となる新たな人材の育成は、人数及び質の面で不十分であった。
安全なユビキタス社会の実現は中長期的に見て極めて重要である。本成果は医療、食品等の分野で応用が期待でき、大きな経済的・社会的便益につながる可能性があることから、引き続き標準化を進める等、実用化に向けた更なる取り組みを期待する。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
YRP UNLと東京大学の連携体制において研究開発を行うことに加え、他のプロジェクトへの成果利用も積極的に行うことで、医療、流通及び建設分野での利活用を行う団体と連携した点は適切である。
イ)研究開発の達成目標
安心・安全なユビキタスネットワーク社会の実現に向け重要な具体的課題を目標にしており、適切である。
ウ)研究開発の成果
具体的な成果物としてセキュアチップ及び組み込み向けセキュアOSを開発し、その成果物を用いた病院内の医療情報システムや食品トレーサビリティ等の幅広い実証実験を行ったことから、評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
セキュアチップ及び組み込み向けセキュアOSの製品化を行うとともに、本成果に基づき電子タグを用いるネットワーク型情報サービスの標準化を目指した活動を行い、国際電気通信連合における国際標準として合意に至った点は、本成果の展開を図る上で重要であることから、高く評価できる。今後、より詳細な標準化に向けた取り組みと実用化を推進することを期待する。
オ)人材育成の状況
修士課程及び博士課程の学生によるセキュアチップのクラッキングを実施して堅牢性の確認が行われたが、本成果の実用化技術などの担い手となる人材の育成は、人数及び質の面で不十分である。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
実証実験や国際標準化に重点が置かれていたことから、口頭発表やニュースリリースは充実していたが、論文発表及び国際会議での発表は少なく、不十分である。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
電子タグを用いるユビキタス社会において安心・安全の確保は非常に重要であることから、本プロジェクトにおいてその実現に資する基幹技術を開発することに対するニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
国内外においてPC用のセキュリティチップやセキュアOSは存在するが、PCを対象としていることから、必ずしも携帯端末での使用に適しているものではない。本プロジェクトで開発したセキュアチップと組み込み型セキュアOSは、携帯端末のような情報処理性能が限られる機器でも高いセキュリティを確保できることから、可搬性において優位性がある。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
ユビキタス食の安全・安心開発事業(農林水産省)や21世紀COE次世代ユビキタス社会情報基盤の形成(文部科学省)等において、本成果が利用されたことは適切である。しかしより幅広い領域の技術との融合を目指すようなプロジェクト間連携は行われなかった。今後は本成果が様々な分野で利用されることにより、将来のユビキタス社会において高いセキュリティが確保されることを期待する。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
安全なユビキタス社会の実現は中長期的に見て極めて重要である。本施策で開発したセキュアチップ及びセキュアOSは医療、食品等の分野で応用が期待でき、大きな経済的・社会的便益につながる可能性があることから、引き続き標準化を進める等、実用化に向けた更なる取り組みを期待する。
研究振興局情報課
-- 登録:平成21年以前 --