資料3-1 次世代IT基盤構築のための研究開発「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発プロジェクト」事後評価票(案)

1.プロジェクトの概要

 地球シミュレータ等の超高速コンピュータ上で稼働する系全体最適シミュレーションプラットフォームを共通基盤として、
1.)人の個体差に応じた創薬の開発などに資する生命現象シミュレーション
2.)産業界における研究開発?設計?製造?保守における知的ものづくりでの質的・効率的な向上の実現に資するマルチスケール・マルチフィジックス連成シミュレーション
3.)安全・ 安心な社会の実現に資する都市の安全・環境シミュレーション
などの、広範な分野における世界最高水準のマルチスケール、マルチフィジックス・シミュレーションソフトウェアの研究開発を行うとともに成果の普及を進めるため、東京大学生産技術研究所(研究代表者:加藤千幸教授)を中核拠点とした研究開発課題を公募により選定し、平成17〜19年度に実施した。

2.評価結果

 大学や企業等複数の研究開発組織から多数の研究者が参加した実効的かつ強力な体制の下、バイオ分野における巨大タンパク質分子の全電子計算及びナノ・物質分野における一万原子規模の大規模第一原理計算を世界で初めて実現するとともに、数千CPUのコンピュータにおいて高速に稼働する複数の先端的なシミュレーションソフトウェアを開発するなど、これまでの性能を超える実用性の高い国産のシミュレーションソフトウェアを数多く開発した。開発したシミュレーションソフトウェアはフリーウェアとして公開するとともに、付加価値を高めたソフトウェアの事業化、ワークショップ等の開催、及び産業界を取り込んだ実証解析が積極的に行われた。また、今後のシミュレーションソフトウェアの開発や高度利用の担い手となる延べ210名の人材を育成した。これらの取り組みは、高く評価できる。
 本研究開発の成果を我が国におけるシミュレーションソフトウェア産業の進展に貢献するとともに、創薬、新材料の開発、生命現象の解明、ナノテクノロジー研究開発及び基幹産業における研究開発・設計などへの活用が進み波及効果が現れるよう、国際的な展開も含め、引き続き成果の普及に取り組むことを期待する。

【個別評価項目】

1.プロジェクトの検討

ア)研究開発の実施体制
 東京大学生産技術研究所計算科学技術連携研究センターを中核拠点として、大学や企業等複数の研究開発組織から、100名以上の計算科学研究者が参加して、実効的かつ強力な体制が構築されており、評価できる。

イ)研究開発の達成目標
 バイオ、ナノ・物質、社会安全およびデジタルエンジニアリング(ITを利用した高度設計・生産システム)分野において適切な目標が設定されている。また、構造-流体-熱-電磁場の大規模並列連成解析の実現や、非定常乱流検証解析手法の更なる大規模・高速化と連成解析対応機能の実現など、他の技術と比較して革新性が極めて高い目標も含まれており、適当である。

ウ)研究開発の成果
 バイオ分野における巨大タンパク質分子の全電子計算及びナノ・物質分野における一万原子規模の大規模第一原理計算の実現を、世界で初めて実現するシミュレーションソフトウェアを開発するとともに、数千CPUのコンピュータにおいて高速に稼働する複数の先端的なシミュレーションソフトウェアを開発するなど、これまでの性能を超える実用性の高い国産のシミュレーションソフトウェアを数多く開発したことから、高く評価できる。

エ)研究成果普及への取り組み
 開発したシミュレーションソフトウェアをフリーウェアとして公開し、4万件を超える多数のダウンロードが行われるとともに、企業において付加価値を高めたソフトウェアの事業化が行われた。更にワークショップ等の開催や産業界を取り込んだ実証解析が積極的に行われたことから、高く評価できる。

オ)人材育成の状況
 今後のシミュレーションソフトウェアの開発や、先端的なシミュレーションソフトウェアの高度利 用の担い手となる延べ210名の人材を育成したことから、高く評価できる。

カ)学術的成果の情報発信活動状況
 学術雑誌(外国誌70件、国内誌73件)での論文発表、国際会議における研究成果の展示や新聞等を通して、情報発信に積極的に対応していることから、評価できる。

2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項

ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
 創薬、もの作り技術、都市安全等、いずれも社会的ニーズが高い分野に対して、それに応えるシミュレーションソフトウェアを開発するものであることから、適切である。

イ)国内外における類似研究との比較
 幅広いアプリケーションを含む国産のシミュレーションソフトウェアは皆無に近く、国内的には独自性の高い成果が得られ、シミュレーションソフトウェアに関する我が国の技術力の向上につながった。また、世界で初めて実現するシミュレーション技術の開発も行われた。

ウ)他のプロジェクト等との連携協力
 次世代スパコンプロジェクトの概念設計におけるアプリケーション性能評価への本研究成果の利用や、地球シミュレータを利用した研究への活用など、国内の他のプロジェクトへの成果の受け渡しは行われているものの、国際的な普及展開を見すえた連携は行われておらず、世界的なデファクトスタンダードを目指すため、今後の取り組みを期待する。

エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
 本研究開発プロジェクトを通じて、シミュレーションソフトウェアの開発及び利用に係るコミュニティが形成され、ベンチャー企業の設立も行われた。これにより、今後の我が国におけるシミュレーションソフトウェア産業の進展が期待できるとともに、創薬、新材料の開発、生命現象の解明、ナノテクノロジー研究開発及び基幹産業における研究開発・設計など、多様な分野への波及効果が期待できることから、引き続き成果の普及に取り組むことを期待する。

お問合せ先

研究振興局情報課

-- 登録:平成21年以前 --