世界最高水準の高度情報通信システム形成のための鍵となるソフトウェア開発を実現させ、いつでもどこでもだれでも安心して参加できるIT 社会を構築することを目的とし、産業界からのニーズに基づき、大学等が持つ研究ポテンシャル及び人材養成機能を最大限活用しつつ、社会の基盤となるような以下の二つの領域のソフトウェアの研究開発及び研究者養成を一体的に推進する。
(1)高い生産性を持つ高信頼ソフトウェア作成技術の開発
(2)情報の高信頼蓄積・検索技術等の開発
本プロジェクトでは、今後のIT社会に重要なソフトウェアの開発を、適切な産学連携体制により実施し、当初の目標を達成する成果を上げたと評価する。
高い生産性を持つ高信頼ソフトウェア作成技術の開発については、プログラミング言語、OS記述言語及び構造化文書の利用や、組込みソフトウェア及びWebアプリケーションを含む幅広いソフトウェアの開発において、高信頼化を実現する技術や手法が開発された。これらの技術は、社会基盤であるソフトウェアの不具合を軽減し、国民がIT社会に安心して参加するために重要なものである。
また、情報の高信頼蓄積・検索技術等の開発については、インターネット情報の収集・解析、ストレージの高速化及び耐障害性の向上、並びに自然な音声対話の実現に関する技術が開発された。これらの技術は、インターネットから獲得される大量の情報の経済活動等への活用や、ディジタルディバイドの解消に大いに貢献するものである。
これらの成果を効果的に社会に役立てていくためには、プロジェクトの中で進められた、成果の普及に向けた取り組みを引き続き進めていくことが期待される。
本プロジェクトでは、合計で363人(学部生:25人、大学院生:252人、研究員・ポスドク:56人、企業研究者:30人)と、多くの人材が育成されたことから、我が国が国際的に競争力が弱いと指摘されているソフトウェア分野の技術力を高める上で非常に大きな役割を担ってきたと、高く評価する。
(研究代表者:北陸先端科学技術大学院大学 片山 卓也 教授)
組込みシステムの信頼性を向上させるためには、単に分析設計方法論の改善や実行環境の整備、あるいは実行基盤の構築だけで問題は解決せず、それらの組み合わせや連携が不可欠であることから、本研究開発では、組込みシステム特有の計算資源・実時間処理といった制約を考慮しつつ、組み合わせの効果が期待できる分析・設計環境、実行環境ソフトウェア、実行基盤ソフトウェアを開発する。
分析・設計環境に関してはUML 設計検証ツールを、実行環境ソフトウェアに関してはアカウンティングシステムを、実行基盤ソフトウェアに関しては実時間ゴミ集め技術をそれぞれのグループにおいて開発するとともに、それらの統合による相乗効果を確認し、実用レベルに達していることから、目標を達成する成果を上げたと評価できる。
また、標準化に向けた取り組みや、実時間ゴミ集め機能を搭載した組込み機器の製品化など成果普及にも努めており、評価できる。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
組込みシステムの高信頼化を分析・設計環境、実行環境ソフトウェア、実行基盤ソフトウェアの3テーマの研究開発に分け、それぞれにおいて産学連携体制を構築し、実施したことは適当である。
イ)研究開発の達成目標
組込みソフトウェアの高信頼化に科学的手法を適用するため、各グループにおける開発内容と、それらを連携させることについて適切な目標設定を行っており、適当である。
ウ)研究開発の成果
分析・設計環境に関してはバグを1/3に減少させるUML 設計検証ツールを、実行環境ソフトウェアに関してはアプリケーションの暴走などを抑えるアカウンティングシステムを、実行基盤ソフトウェアに関しては実時間ゴミ集め技術をそれぞれのグループにおいて開発するとともに、それらの統合による相乗効果を確認し、実用レベルに達していることから、目標を達成する成果を上げたと評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
組込みリナックスの普及と周辺技術の標準化を目指しているNPO 法人である日本エンベッド・リナックス・コンソーシアムにおいて、アカウンティング機能(CABI)の仕様の標準化に向けた取り組みや、企業による実時間ゴミ集め機能を搭載した組込み機器の製品化を図るなど、成果普及に努めており、評価できる。
オ)人材育成の状況
企業と連携しつつ、多くの大学院生やポスドク等を育成しており、評価できる。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
学会における論文発表だけでなく、新聞報道やデモンストレーション等も含め、積極的な情報発信を行っており、評価できる。
キ)中間評価指摘事項への対応
中間評価の指摘を受け、3つのサブプロジェクトの成果を統合し、その結果として相乗効果を確認しており、対応は適切である。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
マイクロプロセッサは社会のあらゆる場面で使用されていることから、組込みソフトの信頼性の向上及び効率化に対する社会及び企業のニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
形式的手法の大規模システムへの適用は海外が先行しているが、組込みソフトウェアへの適用は従来行われなかったところ、本研究開発では、組込みソフトウェアの開発に形式的手法を適用するUML 設計検証ツールが開発された。また、組込みシステムにおいて従来よりはるかに高いリアルタイム性を実現するアカウンティングシステム、及び従来と比較してゴミ集め処理にかかるアプリケーションの停止時間を削減する実時間ゴミ集め技術を実用化するなど、それぞれにおいて優位性があり、評価できる。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
分析・設計環境については、組込みシステムに対して、情報処理推進機構(IPA)のソフトウェアエンジニアリングセンター(SEC)と形式手法の適用に関する検討を行った。実行環境については、日本エンベッデットリナックスコンソーシアムにおいて、アカウンティングシステムの仕様の標準化について検討を行った。実行基盤については、東京大学の二足歩行ロボットの制御システムに実時間ゴミ集め機能を搭載した。以上のように、本研究課題においては各機関と適切に連携しており、評価できる。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
手戻り作業の減少や、リソース管理の解決等により、ソフトウェア開発において、大きなコスト削減が見込めるなど、高い効果が期待できる。
(研究代表者:東京大学 石川 裕 教授)
次世代の高性能コンピュータシステム上で高い信頼性を実現するシステムソフトウェアを効率的に開発するための支援技術として、ハードウェアやネットワークの障害等を模擬するためのソフトウェア環境を構築する。また、次世代高性能アーキテクチャ用システムソフトウェアの開発に必要となる基盤ソフトウェアとして、OS核間で使用する高速通信機構や保守・監視系のための通信機構の開発を行う。
故障模擬システム及び障害解析を行う通信プロトコル開発支援ツールの開発について目標を達成する成果を上げた点は評価できる。
本成果は10Gb Ethernet の開発及び普及への貢献を通して社会のニーズに応えるものであったが、特許申請数は多いとは言えず、今後の製品化に向けた取り組みについても不明確であるなど、普及への取り組みについては必ずしも十分ではない。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
企業から研究員を受け入れる形態で、共同研究を実施したことは適当であるが、連携をより広範囲とすべきであった。
イ)研究開発の達成目標
ハードウェアやネットワーク故障を模擬するソフトウェアやリモート核間高速通信機構を開発するという達成目標は妥当であった。
ウ)研究開発の成果
故障模擬システム及び障害解析を行う通信プロトコル開発支援ツールの開発については、目標を達成する成果を上げており、評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
本事業の成果について、特許申請数が多いとは言えず、今後どのように普及・活用させるかについても不明確であるため、普及への取り組みについては、必ずしも十分とは言えない。
オ)人材育成の状況
人数は少ないが、携わった学生及び研究員は、情報基盤センターの教員や次世代スパコンプロジェクトのソフトウェア開発エンジニアとなる等、スーパーコンピューティング分野の専門家の人材育成が行われた。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
SC05への展示等、国際的に成果をアピールしている点は評価できる。しかし、論文数や招待講演数などは十分とは言えない。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
研究開始当時、10Gb Ethernet は十分普及しておらず、本研究の成果は10Gb Ethernet に対応した機器の開発と普及に貢献するものであり、社会的なニーズは有する。
イ)国内外における類似研究との比較
基本通信機構を提供するモジュール及びツールとして開発したTenjinと類似するシステムであるIBMのTivoliとの比較を本研究開発において実施したが、優位性について十分な確認はできなかった。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
他のプロジェクト等との連携協力は行われていない。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
研究開発終了後の製品化などの展開が見えておらず、中長期的な効果は明確でない。
(研究代表者:東北大学 大堀 淳 教授)
高機能・高信頼ソフトウェアシステムを効率よく開発する技術の確立と、そのための高信頼ソフトウェア構築基盤の整備を実現するため、型理論に基づくプログラム解析技術を基礎に、次世代高信頼プログラミング言語及びその高信頼言語を既存の言語とともに使用することで、高信頼ソフトウェアを効率よく生産することを可能とするためのプログラム開発環境を構築する。
高信頼言語であるSML#言語及びコンパイラの開発並びにプログラミング環境の構築に成功し、目標を達成する成果を上げた点は評価できる。また、その成果をWeb上に公開し、オープンソースとして配布している点も評価できる。
なお、本研究開発課題の成果を大規模ソフトウェアの高信頼化につなげていくため、今後は、企業への普及活動など実用化に向けた取り組みを期待する。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
高信頼プログラミング言語の開発と、産業界における実証を図るため、大学、ベンダー及びベンチャー企業からなる適切な体制を構築した。
イ)研究開発の達成目標
ソフトウェアの脆弱性の原因となる信頼性のボトルネックを打破するために、プログラムの自動解析を可能とする高信頼プログラミング言語を開発し、実用化を図ることは、独自性があり、学術的にレベルが高いと評価できる。
ウ)研究開発の成果
高信頼プログラミング言語としてのSML#言語及びコンパイラの開発並びにプログラミング環境の構築に成功し、目標を達成する成果を上げたことから、評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
言語仕様や機能の解説及びプログラミング例やチュートリアル等のWeb上への公開や、コンパイラ等をオープンソース化し、ライセンス提供(ダウンロード件数:700〜800件)が行われている点は評価できる。今後は、企業への普及活動など、実用化に向けた取り組みを期待する。
オ)人材育成の状況
本研究開発に参画している学生数は年々減少し、総数としては少ないが、優れた人材の育成が行われた。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
論文発表数は少ないものの、国際的に評価の高い論文誌及び国際会議へ採択されるとともに、学会の大会での招待講演も行われた点は評価できる。
キ)中間評価指摘事項への対応
中間評価の指摘を基に、研究成果のWebへの公開、ライセンスの提供、他のプロジェクトとの連携を行う等の適切な対応をとった。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
大規模ソフトウェアの高信頼化に対する社会的ニーズは高いことから、本研究開発課題は、そのニーズに応えるものである。
イ)国内外における類似研究との比較
本研究開発の成果は、既存のML 言語が有するレコードの扱いの制限やJAVA などのオブジェクト言語との相互運用性の欠如などの弱点を克服するものであり、優位性を有するものである。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
SML#言語を利用したディペンダブルOS等の共同研究を行う筑波大学など、成果を他の大学における研究開発につなげる努力が行われており、今後、更なる展開が期待される。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
長期的に高い経済的、社会的効果が期待できるため、今後は更にSML#言語の完成度を高め、実用化を推進することが期待される。
(研究代表者:東京大学 米澤 明憲 教授)
C言語はソフトウェアの安全性の問題が社会的に顕在化する以前に開発された基盤ソフトウェアであるが、未だに多くのプログラムはC言語で記述されている。それらのプログラムの安全性を確保するため、C言語で記述されたプログラムに対して、安全に実行されるバイナリーコードを生成するコンパイラ及びライブラリを研究開発する。また、安全・高信頼な OSを構築するため、型理論に基づいた記述システムを開発する。更に、これに深く関わりのある、OSの基本機能の実装の安全性を理論的に保証する方法の研究を行う。
安全性の高いC言語のコンパイラやライブラリ、型理論に基づいた新しいOS記述用アセンブリ言語を開発することで目標を達成する成果を上げており、評価できる。また、我が国では層が薄いコンパイラ分野で多くの研究者を輩出するなど、積極的な人材育成を行っている点も評価できる。
今後は、コンパイルに要する時間を短縮させるための取り組みを行うとともに、普及を後押しする策を講ずるべきである。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
バランスのとれた産学連携体制が構築されており、適切である。
イ)研究開発の達成目標
安全なC言語システムコンパイラの構築という目標は明確である。また、開発対象言語を基盤ソフトウェアの開発において広く普及しているC 言語としており、汎用性、有効性の観点から適切である。
ウ)研究開発の成果
安全なコードを生成する2種類のC言語コンパイラの開発や型理論に基づいた新しいOS記述用アセンブリ言語の設計と実装により、C言語で書かれたプログラムの信頼性を高めることを可能としたことは、評価できる。なお、OS記述用アセンブリ言語については、コンパイルに要する時間を短縮させるための性能を高めるべく、更なる取り組みを期待する。
エ)研究成果普及への取り組み
ソフトウェアをWebで公開している点は評価できる。今後は、研究成果の普及状況を把握するとともに、必要に応じて、普及を後押しする策を講ずるべきである。
オ)人材育成の状況
我が国では層が薄いコンパイラ分野で多くの研究者を輩出するなど、積極的な人材育成が行われた。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
論文数は多くはないものの、適切な成果の公表を行っており、かつ論文に対する受賞歴もあるなど、評価できる。また、メディアやメールマガジンによる対外的な情報発信を活発に行っている。
キ)中間評価指摘事項への対応
中間評価の指摘に適切に対応し、C言語コンパイラの開発とOS記述用アセンブリ言語の開発の位置づけを明確にして研究開発が進められた。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
近年、システムソフトウェアの開発言語はCから別の言語に移行しつつあるが、依然34%はC言語であり、C言語の高安全コンパイラに対するニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
メモリ安全なC言語などの研究開発は他にも例があるものの、本研究開発の成果のように、プログラムが脆弱性に直面するなど、異常が発生した場合でも安全にプログラムの実行を継続するものは他になく、優位性を有するものである。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
ソフトウェアを産業技術総合研究所と協力して公開しており、成果を円滑に引き継ぐ観点で適切な連携が行われている。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
本成果による、社会のリスク軽減等の効果は大きいと期待されるが、より実効性を高めるためには、安全なC言語コンパイラを用いても従来と同様の時間でコンパイルできるように性能を高めるなど、課題の解決に向けた取り組みを検討すべきである。
(研究代表者:奈良先端大学院大学 鳥居 宏次 教授)
社会の基盤であるソフトウェアの品質を向上させるとともに、我が国のソフトウェア産業の競争力強化を図るため、ソフトウェア開発に関する諸データを収集・蓄積するデータ収集システムと、収集したデータを解析・評価するデータ分析システムを構築する。また、評価したデータに基づき、開発の指針を提示するソフトウェア開発支援システムの構築を行う。
緊密な生産現場との協働の下、データ収集システムの構築やデータ分析評価システムの構築等を実施し、目標を達成するとともに、実用に向けた技術移転会社の設立や研究会の運営など、成果の普及に向けた取り組みを積極的に行っており、高く評価できる。
本研究開発課題に対する社会的ニーズは高く、実用化に向けた取り組みを継続的に進めることにより、ソフトウェアの開発コストの削減や品質の向上、ひいては高い経済的な便益につながることを期待する。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
従来のソフトウェア開発における産学連携体制の課題の分析結果に基づき、大学と企業との橋渡し役としてのエンピリカルソフトウェア工学ラボを設置するとともに、海外アドバイザーからの意見を集めて研究開発に活用する工夫がなされており、高く評価できる。
イ)研究開発の達成目標
データ収集・分析等のエンピリカルアプローチ(実証的手法)の実践は、ソフトウェア工学分野において極めて重要な課題であり、適切な目標設定である。
ウ)研究開発の成果
生産現場と緊密に協働し、データ収集システムの構築、データ分析評価システムの構築、ソフトウェア開発支援システムの構築及び一部のオープンソース化を着実に実施し、目標を達成するとともに、実用化に向けた技術移転会社を設立するなどの成果を上げており、高く評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
技術移転会社の設立や研究会の運営、セミナーの開催などの普及に向けた取り組みを積極的に行っており、評価できる。
オ)人材育成の状況
多くの学位取得者を輩出するとともに、関連分野の研究者を多く育成しており、評価できる。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
論文発表や解説本の出版、講演及び研究会発表など、積極的な情報発信を行っている。更に、受賞件数も多く、評価できる。
キ)中間評価指摘事項への対応
エンピリカルという新しい概念を提供しようとするがゆえに効果が分かりにくいとの指摘に対し、論文発表や企業の事例報告など、積極的な情報発信を行っている。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
ソフトウェアが社会や市民生活に果たしている役割の重要性を踏まえ、ソフトウェア開発に科学的視点を持ち込む本研究開発課題に対する社会的ニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
本研究開発のようにリアルタイムでソフトウェア開発に係るデータを収集し提示するようなシステム構築の研究開発は従来行われておらず、既存の開発環境との整合性の高さとデータ収集にかかるコストの低さ、リアルタイム性の面において優位性を有する。また、新たにインドにおいて同様な趣旨の技術開発の立ち上げを促すなど、世界を先導する水準にあり、評価できる。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
IPA/SEC との連携により、多数の企業との連携事例が多く、また、先導的IT スペシャリスト育成プログラムの科目として成果の展開も行っており、評価できる。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
エンピリカルアプローチを実用化するコミュニティが形成され、活発な活動が行われている。その実用化に向けた取り組みが継続的に進められることで、ソフトウェア開発コストの削減や品質の向上、ひいては高い経済的な便益につながることを期待する。
(研究代表者:東京大学 武市 正人 教授)
インターネット等での情報流通に重要な構造化文書における信頼性に欠ける情報蓄積を防ぐため、文書処理に信頼性の高い技術基盤を与えるとともに、文書を作成する一般利用者に簡便な文書作成ツールを提供し、文書情報変換プログラムの開発を高い信頼性と生産性で可能とする先進的ツールを開発する。
高信頼XML 文書処理技術の基盤としてプログラマブル構造化文書の枠組みと構造化文書の双方向変換技術を確立するとともに、文書作成ツールとしてWebサイトの文書変換システム等を開発し、目標を達成する成果を上げていることから、評価できる。
ソフトウェアの公開や特許出願等の取り組みについては適切に行っており、評価できる。今後は更なる成果普及を図り、信頼性の高い構造化文書情報の蓄積・流通の促進につなげることを期待する。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
小規模であるが、産学連携体制を構築して研究開発が進められた。
イ)研究開発の達成目標
文書を作成する一般利用者のニーズを考慮した達成目標であり、適当である。
ウ)研究開発の成果
高信頼XML文書処理技術の基盤としてプログラマブル構造化文書の枠組みと構造化文書の双方向変換技術を確立するとともに、文書作成ツールとしてWebサイトの文書変換システム等を開発し、目標を達成する成果を上げていることから、評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
製品化については不十分であるものの、ソフトウェアの公開や特許出願等の取り組みを適切に行っており、評価できる。今後は、成果普及への課題の明確化と解決を行い、信頼性の高い構造化文書情報の蓄積・流通の促進につなげることを期待する。
オ)人材育成の状況
国内外の大学や研究機関で活躍する人材を輩出しており、人材育成は適切に行われた。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
論文数は多く、国際会議も開催するなど、学術的成果の情報発信を積極的に行っており、評価できる。
キ)中間評価指摘事項への対応
中間評価において、協力企業が一社だけで研究対象が限定的であるため、以後、協力企業を増やすなど、研究成果の普及を意識した取組みを行うべきとの指摘がなされた。これに対し、研究実施者は、本研究課題の推進に当たり協力企業を増やす必然性がないと判断し、そのまま引き続き共同開発を進めたものの、結果として成果の普及について顕著な進展は見られなかったことから、今後は普及に向けた更なる取り組みを期待する。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
普及が進んだXMLにより構築したWeb情報の高信頼化とホームページ作成作業の効率化を行う上で、本研究課題で開発した双方向変換技術は重要である。
イ)国内外における類似研究との比較
形式の異なる住所録やWebブラウザのブックマークを同期させるなど、同種の文書間の比較的単純な相互変換を対象とする研究が他に見られるが、本研究開発の成果は項目間に重複のある変換を可能とするものであることから、優位性を有すると認められる。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
研究交流ワークショップにより、海外の複数のプロジェクトと連携を行っており、妥当である。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
本研究の成果が、今後普及し続けるとともに、継続的な進化が図られれば、大きな経済的・社会的効果が期待できる。
(研究代表者:名古屋大学 阿草 清滋)
社会のインフラとして用いられるWebWareの脆弱性を改善することは社会的課題であることから、WebWareの信頼性と安全性を保証しつつ、デザイナーが行うレンダリング・エディトリアル作業とエンジニアが行なうシステム構築作業を高度に統合するためのWebWare 開発環境を構築し、WebWare のテストに必要な工数を従来の1/5に削減する。
WebWare の解析ツール、テスト支援システム及び作成支援システムを開発し、WebWare 開発におけるテスト工数の大幅な削減を実現するなど、目標を達成する実践的な成果を上げたことは評価できる。
Webアプリケーションの高信頼化に対する社会のニーズ、及び工数の削減に対する企業のニーズは高く、成果の活用によりそれらのニーズに対応可能であることから、今後は成果の普及に向けた取り組みを期待する。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
3大学及び民間企業3社との産学連携体制で研究開発を実施することで、産業界のニーズを踏まえた研究開発の推進と、成果の実証・商用化が実施されており、適切である。
イ)研究開発の達成目標
WebWareの信頼性を確保することは社会において現在も当面している重要なテーマであり、WebWareの解析ツール、テスト支援システム及び作成支援システムを開発する目標設定は適切である。
ウ)研究開発の成果
WebWareの解析ツール、テスト支援システム及び作成支援システムを開発し、特にテスト支援システムについては、WebWareの開発におけるテスト工数の大幅な削減(従来の1/5)を実現するなど、目標を達成する実践的な成果を上げており、評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
成果の普及を図るために、開発したソフトウェアをオープンソース化して公開し、商用化も行った点は評価できる。今後は成果の普及に向けた取り組みを期待する。
オ)人材育成の状況
多くの学部生、大学院生を対象に企業のソフトウェア開発現場と同様のプロセスで実践的な教育を行っている点は評価できる。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
学術論文数や招待講演などの学術的成果の情報発信は十分に行ったとは言えず、今後の努力を期待する。
キ)中間評価指摘事項への対応
他の関連プロジェクト等との連携を検討すべきとの指摘を受け、他のプロジェクトの成果を取り込む努力は行っているが、十分に対応したとは言い難い。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
社会の基盤となるWebアプリケーションの高信頼化に対する社会のニーズは高い。また本研究開発課題において達成した工数の削減に対する企業のニーズも高い。
イ)国内外における類似研究との比較
WebWareをブロック図等から自動生成するような開発手法の研究については海外においても行われており、実装技術に依存しない点で本成果より進んでいるものもある。しかし、それらはソフトウェアを作成する方法論や支援ツールに関する研究に留まっており、本研究開発は既に存在する WebWare を解析し、設計復元や可視化にも重点を置いた点で、優位性を有するものと認められる。また、実装言語の進化に対して柔軟性がある点も評価できる。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
「センサ情報の社会利用のためのコンテンツ化」(科学技術振興調整費・科学技術連携施策群「情報の巨大集積化と利活用基盤技術開発」補完的課題)に本成果が活用されており、評価できる。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
研究開発成果は、WebWareの開発過程におけるテスト工数の削減など、生産性の向上につながるとともに、社会で利用されるWebアプリケーションの信頼性の向上にもつながることが期待できる。
(研究代表者:早稲田大学 村岡 洋一 教授)
全世界のWeb情報を「瞬時」に収集し、その情報を基に各種の企業活動、研究活動などの知的活動を支援するための知識を抽出・構成し、それを提供するための知識提供システムを開発することにより、情報の「網羅性・鮮度・質」で、従来技術を大きく凌駕することを目指す。
複数の研究機関や企業がそれぞれの特質を活かして大学と連携することにより、約144億のWebページのデータ収集を行い、世界一の再収集効率を達成するなど、当初の目標を上回る成果を上げており、高く評価できる。
また、ソフトウェアの無償提供、データベースの公開、ベンチャー企業の設立と技術移転等、多様な方法で成果普及の取り組みを行った点も、評価できる。
開発された技術が、今後の知識社会に役立てられるよう、収集したデータの利活用を進める取り組みが必要である。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
複数の研究機関や企業がそれぞれの特質を活かして大学と連携し、バランスのとれた実効的な体制を構築して研究開発を行った点は評価できる。
イ)研究開発の達成目標
約119億のWebページの収集を行うという明確な目標設定がされており、適切である。
ウ)研究開発の成果
約144億のWebページの収集を行い、世界一の再収集効率を達成するなど、当初の目標を上回る成果を上げており、高く評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
ソフトウェアの無償提供、データベースの公開、ベンチャー企業の設立と技術移転等、多様な方法で成果普及の取り組みを行っており、評価できる。
オ)人材育成の状況
多くの大学院生(修士課程・博士課程)や企業人を育成しており、評価できる。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
講演による成果発表やソフトウェアコンテスト等の受賞を通し情報発信を積極的に行っており、評価できる。
キ)中間評価指摘事項への対応
海外の類似研究と必要に応じて連携するなどの取り組みが求められるとの中間評価の指摘を受け、UCLA との連携を行っており、妥当である。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
Web情報の活用技術は、今後の知識社会に不可欠であり、社会的ニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
GoogleやAmazonなど、商用ベースのデータが非公開であるため、それらとの比較はできないが、研究用途においては世界一の規模の収集を達成しており、評価できる。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
複数のプロジェクトとの連携や、海外の研究者からの助言が行われた。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
本研究の成果は、今後のWeb環境を構築するための基礎技術として有用であるが、大きな経済的・社会的効果につなげるためには、収集データがマーケティング等に利活用されることが必要である。
(研究代表者:東京大学 喜連川 優 教授)
情報爆発時代において膨大なデータの管理を容易にするため、ストレージ自身の自立的な管理機構とデータベース高速化技術との融合により、管理コストを大幅に低減し、高速アクセスと容易な障害復旧を可能とするストレージ技術の開発を行う。また、ウェブ空間の情報に基づく高度な社会知の高効率な利用を可能とするため、現在だけでなく過去の履歴も考慮したWebページ間のリンク構造を解析するとともに、Webページの自動分類、及びその時系列変化追跡等、先進的なWeb解析技術の開発を行う。
ストレージ技術の開発では、ディザスタリカバリーシステムにおいて、遠隔通信量を大幅に削減し、製品化を行うなど、当初目標を上回る成果を上げるとともに、Web解析技術では、サイバーコミュニティを抽出する技術や、Webテキストを解析する技術を開発するなど、独創性を有する優れた成果を上げており、高く評価できる。
ストレージ技術及びWeb解析技術に対する社会的ニーズは高く、大きな経済的効果につながる可能性が高い。今後はWeb解析技術について、成果を商用展開に結びつけることが重要であるとともに、動画等を含めた技術開発を期待する。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
複数企業との緊密な連携体制が構築されており、適切である。
イ)研究開発の達成目標
災害時に早急な業務回復を実現する遠隔ディザスタリカバリストレージ技術の創出や巨大Web空間の関連ページの集約構造を抽象化する技術の創出など、達成目標が明確に設定されており、適切である。
ウ)研究開発の成果
ストレージ技術の開発では、ディザスタリカバリーシステムにおいて、ログのみの同期転送方式の考案により、遠隔通信量の6割を削減し、製品化を行うなど、当初目標を上回る成果を上げており、高く評価できる。また、Web解析技術では、サイバーコミュニティを抽出する技術や、Webテキストを解析する技術を開発するなど、独創性を有する優れた成果を上げており、高く評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
多数の特許出願及びストレージ技術に関する製品化を行うとともに、Web解析技術については、多様なメディアに取り上げられ注目を集めるなど、研究成果の普及に積極的に取り組んだ点は、高く評価できる。
オ)人材育成の状況
人材育成については、大学院生やポスドクなど、多くの学生や研究者を育成しており、高く評価できる。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
論文発表や学会発表だけでなく、多くの招待講演などを通して積極的な情報発信を行っており、評価できる。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
ストレージ技術は業務の安定的な提供及び管理コストの低減のために重要な技術である。また、Web解析技術は企業や商品に対する意識の変化等を把握し、マーケティングに反映するために重要な技術である。このため、これらの技術に対する社会的ニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
ストレージのディザスタリカバリ技術については、従来の手法における、通信遅延による性能低下やデータ保護の保証の困難さと行った課題を克服し、高いオンライン性能とデータ転送の完全保証を実現するものである。またWeb解析技術については、日本語の大規模Webアーカイブとしては他に例はなく、また、Web情報について時系列解析を可能とするなど、高い独創性を有しており、高く評価できる。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
ストレージ技術においてはビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトを始め、複数のプロジェクトと連携を図るとともに、Web解析技術においても成果を利用した応用解析について「ジェンダー研究のフロンティア(お茶の水女子大学21世紀COE プログラム)」を始め、数多くのプロジェクトと連携を図っており、評価できる。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
ストレージ技術の開発、Web解析技術ともに、大きな経済的効果につながる可能性が高い。Web解析技術については、成果を商用展開に結びつけることが重要である。今後は動画等を含め技術開発を期待する。
(研究代表者:奈良先端大学院大学 鹿野 清宏 教授)
人と機械との自然な対話を実現し、誰もが情報技術の恩恵を容易に享受できるようにするため、利用環境及びユーザに対する負担をかけない適応技術、マイクを意識しない自然なハンズフリー音声認識技術、自然かつ多様な声質を実現できる音声合成プログラムなどの研究開発、ソフトウェアの公開及び実証実験を行う。
教師なし話者環境適応プログラム等の技術開発について目標を達成し、それらの技術を用いた音声対話システムを駅やコミュニティーセンターなどの実環境下において実証実験を行い、高い単語認識率を達成する成果を上げた。更に、非可聴つぶやき声認識、音源分離プログラム、無音声電話など、当初目標を超える技術の開発を行っており、これらの成果について高く評価できる。
本施策において開発された技術は完成度が高く、デジタルディバイドの解消に大きく寄与するものであることから、今後、製品化や企業化に向けた取り組みを積極的に行い、実用性の高いシステムにつなげることが重要である。
1.プロジェクトの検討
ア)研究開発の実施体制
多くの大学や企業とサブテーマごとに密な連携体制を構築することにより、研究開発のほか、システムの実環境下での実証や評価を行えるようにしている点は評価できる。
イ)研究開発の達成目標
音声認識率の大幅な向上や多様な感情を表現する音声合成などを当初目標として設定した。これらは、デジタルディバイドを解消するために必要な技術であり、技術的にも発展が期待されているものであることから、適切である。
ウ)研究開発の成果
教師なし話者環境適応プログラム等の技術開発について目標を達成し、それらの技術を用いた音声対話システムを駅やコミュニティーセンターなどの実環境下において実証実験を行い、高い単語認識率を達成する成果を上げた。更に、非可聴つぶやき声認識、音源分離プログラム、無音声電話など、当初目標を超える技術の開発を行っており、これらの成果について高く評価できる。
エ)研究成果普及への取り組み
駅やコミュニティセンターで実証を行うとともに、音声認識エンジンや音声分析合成システム等のフリーソフトウェアでの公開や、製品化、企業化に積極的に取り組んでおり、高く評価できる。今後もその取り組みを続け、実用性の高いシステムにつなげることが重要である。
オ)人材育成の状況
多くの博士号取得者を輩出するとともに、開発ソフトウェアの講習会を開催することにより、技術移転を進めたことは、高く評価できる。
カ)学術的成果の情報発信活動状況
多くの論文発表や講演を行い、また多くの賞を受賞した点は高く評価できる。
2.研究開発プロジェクトの外部との関係に関連する事項
ア)研究開発課題に対する社会的なニーズ
本成果は、高齢化社会において重要な応用や、発話障害者補助の応用を実現し、デジタルディバイドの解消に資するものであることから、社会的ニーズは高い。
イ)国内外における類似研究との比較
本研究の成果であるJuliusは日本語音声認識のデファクト標準となっており、STRAIGHT等の単語認識率や音声合成技術も世界を先導する水準にある。
ウ)他のプロジェクト等との連携協力
他のプロジェクトとの連携は特に見られない。今後、開発した技術の応用に向け、様々な分野の取り組みと連携していくことが重要である。
エ)研究開発成果の有する中長期的な経済的、社会的効果
本研究の成果は、身近に使える技術として完成度が高く、デジタルディバイドの解消に効果的に役立つものと期待される。
研究振興局情報課
-- 登録:平成21年以前 --