資料44−2

防災科学技術の研究開発を取り巻く現状について

(第43回委員会における意見等をもとに作成)

1.背景

(防災に関する研究開発の推進方策)

 現在、防災分野の研究開発は、第3期科学技術基本計画等に基づき科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会において策定した「防災に関する研究開発の推進方策について」(以下、「推進方策」)に基づき進められている。
 推進方策においては、社会の防災力の向上への貢献、幅広い分野間の連携による総合科学技術としての推進、防災関係機関との連携強化と成果等の発信等を基本的考え方とし、戦略重点科学技術に対応した重点的課題が列挙されている。

<防災分野の研究開発の推進方策について>

  • 第1章 3.推進方策の基本的考え方
    • (1)社会の防災力の向上への貢献
    • (2)幅広い分野間の連携による総合科学技術として推進
    • (3)防災関係機関との連携強化と成果等の普及
    • (4)地震災害への重点化とその他の災害への取組
    • (5)研究開発基盤の強化と競争的資金の拡充等研究開発環境の整備
  • 第2章 文部科学省における今後5年間の重点的課題
    • 社会の脆弱性とその原因の把握、経済的影響評価等、社会科学分野との連携の確立
    • 耐震性評価のための実大破壊実験及び破壊シミュレーション技術開発
    • 地殻構造調査、地震観測、GPS連続観測等、観測技術開発と観測網整備

<委員意見>

  •  地震調査研究推進本部のような組織がない段階では、地震以外ではこの委員会が役割を担うと思うが、ここで策定した推進方策は総花的である。
  •  防災に関する研究開発は、科学技術基本計画とこの委員会が定めた推進方策に照らして、主に防災科学技術研究所が実施しているが、一方で選択と集中を毎年のように言われている。

(選択と集中)

 長期戦略指針「イノベーション25」においては、限られた資源の中で政策課題に適確に対応するため、最優先の科学技術等に関する選択的かつ集中的な研究開発を重視し、特に災害対策における関係府省庁の連携強化や、社会・国民のための確実な成果還元のための実証の推進等の必要性が指摘されている。

<長期戦略指針「イノベーション25」>

 限られた資源の中で政策課題に適確に対応するためには、個別分野ごとに最先端の科学技術等に関する研究開発を選択的かつ集中的に実施することが必要である。−中略−2006年3月に総合科学技術会議が策定した「分野別推進戦略」を基本とし、「戦略重点科学技術」を中心として5つの社会実現に向けた研究開発ロードマップを策定した。
 −中略−なお、分野別の戦略的な研究開発を推進するに際し、特に以下の事項について所要の措置を講じていくことが必要である。

  • <社会基盤>
    • 災害対策における関係府省の連携強化
    • 社会・国民への確実な成果還元のための実証の推進 等

(自然環境の変化)

 経済財政改革の基本方針2007においては、自然環境の変化を考慮しつつ、大規模地震、大規模水害・土砂災害、津波・高潮、豪雪等への対策の推進や、耐震化等のハードとハザードマップ等のソフトの連携災害情報共有システム等の科学技術の研究開発・利活用の必要性が指摘されている。

<経済財政改革の基本方針2007>

  • 【改革のポイント】
    • 2.集中豪雨の増加等の自然環境の変化も考慮しつつ、災害から国民の生命、財産及び生活を守るため、防災・減災対策を着実に推進する。
  • 【具体的手段】
    • 大規模地震、大規模水害・土砂災害、津波・高潮、豪雪等への対策を推進する。その際、学校の耐震化等防災拠点の機能強化の推進、ハザードマップの普及促進等ハード・ソフトの連携を図る。また、消防等地域の災害応急対応力の充実を図る。
    • 宇宙に関する基本法制の整備に向けた動き及び「地理空間情報活用推進基本法の成立を踏まえ、宇宙の利用・産業化を推進し、衛星を活用した測位・監視やインテリジェンス機能の強化、災害情報共有システム等の治安・防災等に資する科学技術の研究開発・利活用を図る。

(独立行政法人の整理合理化)

 独立行政法人整理合理化計画の策定に係る基本方針においては、事務・事業及び組織の見直し、運営の徹底した効率化、自主性・自律性の確保の視点から横断的な見直しが実施されるとともに、法人の類型別視点から、国の方針との関係についての精査や成果チェック等の整理合理化が実施される見通しである。

<行政減量・効率化有識者会議とりまとめ(要旨)>

  1. 総論(横断的視点)
    • (1)事務・事業及び組織の見直し(独立行政法人の徹底的な縮減)
    • (2)運営の徹底した効率化(独立行政法人の効率化)
    • (3)自主性・自立性の確保(独立行政法人の自律化)
  2. 各論(事務・事業及び法人の類型別の視点)
    • 4 研究開発型:研究開発に係る国の方針等との関係について精査、研究開発に係る成果チェックの厳格化 等

<委員意見>

  •  防災に関する研究開発は、科学技術基本計画とこの委員会が定めた推進方策に照らして、主に防災科学技術研究所が実施しているが、一方で選択と集中を毎年のように言われている。[再掲]
  •  研究所が国の方針を受けることになるので、各分野の地震調査研究推進本部ができれば望ましいが、前段階として、地震の場合でいう総合的かつ基本的な施策にあたるようなものを委員会で作っていくということが必要ではないか。
  •  防災科学技術研究所や大学に比べ、他府省庁にはより実利に近い研究もある。その中で、文部科学省の所管する防災研究はいかにあるべきかの議論をしないと、国としての整理合理化の流れが来たときに太刀打ちできない。
  •  研究所の統合は、日本ではどこの府省庁が管轄するのかということになりがちだが、異なる府省庁が複数で一つの研究所を支えあうシステムにすればいい。

2.今後の在り方を検討する上で重要な視点

(必要性の明確化)

 防災に関し万全の措置を講ずる責務が国にあることは論を待たないが、そのための研究開発の重要性は必ずしも社会全体の共通認識であるとは言えない。世界に誇る最先端の技術を広く主張していくことはもちろん、その必要性及び経済効果等を社会に対し明確に示していくことが重要である。

<委員意見>

  •  防災は絶対に国家の名において、行政がやらなければ誰もやらない、民間にはできないと我々は思っているが、社会全体が本当にそう思っているかというと、必ずしもそうではない。
  •  社会にまだ十分認知されていないのであれば、十分な認知を得ることもミッションの一つに置いて、どのような活動を考えるべきかというグランドデザインの設計をやるべきなのではないか。
  •  防災の専門家は、防災を大変重要だと思っているが、やはり社会に対してかなり理論武装が必要になってくる。そういう中で、経済効果をどう見せるかを含め、いくつか理論武装の参考にするところを見ておいた方がいい。
  •  世界に誇れる最先端の研究が日本にはあり、それをもっと主張することと、何となく分かる防災ではなく、研究と同じレベルで国民が理解できるようにすることが重要。そのためには災害リスク情報プラットフォームも使える。

(個別施策の整理と体系化)

 防災に関しては基礎研究から応用研究、実践に至るまで、各府省庁や研究機関、大学等における個別施策が数多く展開されている。防災科学技術研究所や大学を含め、文部科学省の所管する防災研究の在り方を議論するにあたり、選択と集中の意味においては、その整理と体系化に係る合理的な説明も求められる。

<委員意見>

  •  防災は、来年度の予算案を見ていても予測する、伝える、理解する、の個別要素が多くの府省庁で展開されていることもあり、社会的にも理論武装を要求されている。
  •  防災科学技術研究所や大学に比べ、他府省庁のような実利に近い研究もある。その中で、文部科学省の所管する防災研究はいかにあるべきかの議論をしないと、国としての整理合理化の流れが来たときに太刀打ちできない。[再掲]
  •  基礎データの収集から基礎研究、応用研究、現場の災害、教育の一連において、文部科学省は両サイド、基礎データの収集と教育ということになる。防災科学技術研究所でも応用研究をやっているが、風水害の観点では重点が低い。
  •  オールジャパンの研究所も一つの考え方だが、基礎研究なり応用研究、社会科学研究を含めた学術的な観点からも、大学の防災、災害科学関連の研究組織、人材というものは当然維持されるべきである。

3.文部科学省が重点的に取り組むべき課題

(基盤整備の重要性)

 具体的に国に求められる役割では、特に重要なものとして防災に関する各種の基盤整備が考えられる。これには情報プラットフォームやE−ディフェンス等の大型プロジェクト、地震観測網、教育等も含まれるが、各府省庁の連携体制の構築や民間との連携を前提に、文部科学省がどの部分で貢献を担うことが最も重要かについて検討しておく必要がある。

<委員意見>

  •  国土交通省もプラットフォームを作っているが、文部科学省の特徴とするところを出していく、そしてそれが民間で維持管理できないのであれば、防災科学技術研究所の一つの使命だ、という書き方をしないといけない。
  •  E−ディフェンス等のプロジェクトは、やはりここの中だけでやっているのではなく、民間という話もあるが、せめて他省庁が乗ってきて利用するということをもう少し考える必要がある。
  •  プラットフォームについては、各府省庁が連携しながら各々が得意なところでデータを出すことが基盤整備の大きな柱。文部科学省の地震観測網のデータが常時更新されて載っており、他でも使えるようになるということが重要。
  •  政府としては基盤整備が重要である。教育も基盤であり、初等中等教育のように、やはり文部科学省として他の府省庁にはないところをもう少し整理して、どう貢献できるかを考える必要がある。

(災害を理解するための研究:情報発信側の視点から)

 防災科学技術の研究開発の成果を国民の防災力の向上につなげるためには、まず研究内容に対する国民の理解が不可欠である。他府省庁における防災に関する研究開発には実務的な要素が多い一方で、災害そのものを「理解する」ことに関する科学的な研究が必ずしも十分ではなく、国民が災害時にとるべき的確な行動への影響が懸念されることから、この分野で文部科学省に期待される役割は大きいと考えられる。

<委員意見>

  •  国民一人ひとりに適確に・迅速に・正確に伝える道具を開発することだけで世界一安全な国・日本は実現できない。一番遅れているところが「理解する」ことに関する、いわゆる科学的な研究である。
  •  他府省庁の調査研究は、直接的に政策に生かせるような実務的なものが多く、伝え、伝えた情報をどう理解し、どう最善の行動を一人ひとりの国民が振舞えるようになるのかという科学的な研究はなされていない。

(教育・普及啓発:情報の受け手・活用側の視点から)

 災害そのものに対する理解に加え、防災科学技術の研究開発から得られる情報を防災力の向上に活かす方法の開発も不可欠である。このための普及啓発方法に、研究の開始段階から配慮されている例は決して多いとは言えない。これらの情報は、防災教育と連携させなければ国民の防災意識の向上にはつながらず、当該分野の人材育成の観点からも問題である。また、児童・生徒だけでなく、大人を教育するフィールドとして、これらの研究開発成果を活用していく必要がある。

<委員意見>

  •  災害認知型社会における基礎教育について、地学や地理が衰退してきている。ハザードマップや災害リスク情報プラットフォームの様々なリスク情報は、学校教育とリンクさせなければ、防災教育はなかなか難しい。
  •  被災した人でさえも防災意識が風化し、国民もなかなか防災意識が向上しないという現実がある。その中で、子どもを教育するフィールドは学校があるが、大人を教育するフィールドは十分ではない。
  •  災害地震国なのに、地球の内部構造も知らない、地形も分からない子どもが増えている。文部科学省はやはり人材、次の科学者を担うところであり、そこが脆弱になっているところは問題である。
  •  災害リスクのデータが我々にとっては有効と認識していても、国民からすれば、そのデータをどうやって自分の防災力の向上につなげればいいのか、その抽出と理解力の向上、実際の防災につなげていくことが技術として難しい。
  •  我々が伝えていくということも大事だが、一方でそういう技術を自分の防災力の向上に生かす方法を国民に持ってもらう必要もあり、そういう意味での防災教育も推進していく必要がある。
  •  世界に誇れる日本の研究分野を衰退させることは、国力、国民の安全に関係するという柱を持って、それから教育をやっていかなければならない。