資料49-7-2 第4期科学技術基本計画の策定に向けた検討の視点(防災分野)

 1.検討に当たっての基本的な考え方(現状及び考え方の大前提)

 自然災害による被害を防止・軽減する防災科学技術は、安全・安心な社会を構築する上で必要不可欠なものであり、第3期科学技術基本計画において「社会基盤分野」に位置づけられているところである。防災科学技術の研究開発については、これまで、緊急地震速報やMPレーダー、全国を概観した地震動予測地図の実現等一定の成果が上げられてきているが、さらに今後は、研究開発分野間の連携を図り、一層の社会還元を図っていくべきなどの課題もある。

 科学技術基本法の成立以降、本法に基づき策定される科学技術基本計画に沿って我が国の科学技術政策が進められてきている。現在の第3期科学技術基本計画の期間は、平成18年度から22年度となっており、今年度から第4期科学技術基本計画策定への動きがスタートしつつあるところである。このため、現計画における課題の進捗評価や基本計画策定以降に顕在化した喫緊の課題等を踏まえ、今後の防災科学技術政策の重要課題等について、総合的に検討を行い、第4期科学技術基本計画の策定に資することを目指す。

2.基本認識

(1)我が国を巡る諸情勢(防災をとりまく現状)

・東海・東南海・南海地震の発生の可能性等、巨大災害の発生の可能性が指摘されている。

・地球温暖化が原因で、我が国周辺で台風が以前より巨大化すること等が想定されたり、また、この10年で、竜巻やゲリラ豪雨など自然災害の発生が約1.5倍になっている。

・我が国において、これまで、大規模地震が発生した場合には大きな被害が発生している一方で、この10年の自然災害による犠牲者数を見ると、土砂災害をはじめとした風水害、雪害によるものが毎年平均的に約9割を占めている。

・この100年間において、大規模な火山噴火は発生しておらず、今世紀は火山噴火が多くなるのではないかという指摘がある。

・都市部では人口や資本・情報等の集積が進むとともに、社会基盤インフラやライフライン等が密に張り巡らされており、災害等によりそれらの機能の一部が止まることによる社会全体の脆弱性が進行している。

・一方で、地方では過疎化の進行によるコミュニティの崩壊が顕著であり、地域の防災力が低下しつつある。

・我が国では、2025年頃には65歳以上の人口が1/3を占めるようになり、また国内での人口分布の偏在化が進展するという社会構造の大きな変化の中で、新たな防災対策の検討が必要となっている。

・海外で、集中豪雨による災害や巨大な地震・津波被害等が増加してきているなど、国際的に防災の重要性が向上している。

・我が国は、国際的に見て防災分野の研究開発が進んでおり、発展途上国等への国際貢献が求められているとともに、国内的にも外交手段として活用しようという動きがある。

・社会経済活動のグローバル化が進んでおり、その中で、防災科学技術についても、日中韓、ASEAN等の国際連携のスキームができつつあるなど国内にとどまらないグローバルな取組が進展している。

(2)これまでの防災科学技術推進に当たっての課題

・防災分野の研究開発は、利用者のニーズの把握が必ずしも十分ではなく、研究成果が現場で活用されやすいものとはなっていないのではないか。

・防災対策に有効な研究開発成果であっても、防災の現場での実証や普及活動等社会で適用されるような積極的な取組が十分ではないのではないか。

・防災分野は、総合的な研究開発が必要であるにもかかわらず、理学、工学、人文・社会科学等の連携が必ずしも十分とは言えないのではないか。

・近年、社会構造(都市の過密化、地方の過疎化、少子高齢化等)等が変化してきており、これに対応した研究開発課題の設定が必要なのではないか。

3.第4期科学技術基本計画における防災科学技術の位置づけの方向性

(1)防災科学技術の理念

・防災科学技術の推進に当たっての理念を明確にした上で、第4期科学技術基本計画に反映させる。

(2)社会に還元される防災科学技術の推進

・防災科学技術の成果が速やかに社会の防災対策として組み込まれるよう、社会における活用までを見据え、理学・工学的な課題のみならずそれを取り巻く社会システム上の課題を一体として研究開発を推進する必要がある。具体的には、「研究開発分野を融合させた一体的な推進」、「実証研究を重視した社会システムとしての実効性の検証」を不可欠な柱として推進する。

(3)防災科学技術の国家基幹技術等への位置づけ

・世界的に巨大災害の発生が増加しており、防災が世界規模での課題になってきている状況に鑑み、防災科学技術の推進が、地球規模課題・人類共通の課題解決の推進における我が国のリーダーシップの発揮と我が国の危機管理能力の向上、災害に強い国作り等に貢献する。このような観点のもと、国家存亡の危機につながるような大規模災害への対策や地球規模の課題解決につながるような重要な防災科学技術の課題については、国家的な大規模プロジェクトとして一体的に推進すべきものであり、国家基幹技術(※)など、最重要課題としての位置づけを図る。

(※)基本理念への寄与度が高く、国民の期待や関心が高く、各国の趨勢を踏まえた、概ね300億円程度の技術。

4.防災科学技術の推進に当たっての主要な論点

第4期科学技術基本計画の策定に際し、「防災科学技術」を重点的な柱として位置づけるため、以下の論点について検討する。

・防災科学技術を推進するための理念はどのようなものが適切か。

・防災科学技術において国家基幹技術(※)に据えるべき技術は何か。

・第4期科学技術基本計画において、国家基幹技術の他、特に重点化して推進すべき、国民の安全・安心の維持・増進および国家の総合的な安全保障上必要な課題とは何か。また、推進体制も含め、それはどのように進めていくべきか。

5.防災科学技術の検討に当たっての視点

(1)政府の重要計画等との関係

・地震調査研究の今後10年の基本方針を定めた「新たな地震調査研究の推進について」(平成21年4月21日地震調査研究推進本部決定)

・2025年までを視野に入れた成長に貢献するイノベーションの創造のための長期的戦略指針「イノベーション25」(平成19年6月1日閣議決定)に基づく「社会還元プロジェクト」

・「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について」(平成15年7月科学技術・学術審議会建議)

(2)対象とする災害について

・これまでの、地震防災対策を中心とした防災科学技術の推進で問題はないか。

・巨大災害ではないが風水害や雪氷災害のように毎年平均的に発生し、被害が積み重ねられて被害量が大きくなる災害をどう捉えるか。

・国家存亡の危機につながるような大規模災害に対応する上で、どのような研究開発に取り組んでいくべきか。

・火山研究分野等これまで国としてプロジェクトを推進してこなかった分野についても、国として推進していくべきではないか。

(3)防災上のニーズを踏まえた成果の社会還元の在り方

・防災上のニーズを的確に捉え、必要な研究開発課題を抽出し、効果的・効率的に研究開発を実施し、その成果を速やかに還元するというサイクルをどうすれば確立できるか。

・地震予知のように、社会からのニーズは高いが、すぐに実現が難しいものについては、実現可能性や実効性などを勘案して課題設定を行うべきではないか。

・基本的には、防災科学技術はニーズ対応型であるべきものであるが、シーズによる研究テーマでも有望なものはないか。

・全く新しい技術や概念を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化(イノベーション)を起こす可能性のあるものはないか。(防災分野におけるイノベーション)

※ 第3期科学技術基本計画において、イノベーションとは、「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」とされている。

(4)その他

・人材の育成・確保

地震や火山を対象とする防災の研究開発分野は、人材の受け皿として関係する産業分野が狭い一方、公的には着実に推進していく必要があり、そのための人材をいかに確保していくか。

・国際協力

我が国の防災科学技術の成果や人材を、今後どのように外交に活用していくのか。

・研究開発環境の整備

今後、整備充実を図るべき研究施設や制度は何か。

以上

<参考>

科学技術基本計画においては、我が国が直面している諸情勢を踏まえ、今後推進していくべき科学技術の基本的な方向性である「理念」、及びその理念を実現するための重点政策等について「理念を実現するための目標」として示される。

第3期科学技術基本計画では、目指すべき国の姿として3つの理念が掲げられた。

  理念1 人類の英知を生む。

      ~知の創造と活用により世界に貢献できる国の実現に向けて~

  理念2 国力の源泉を創る。

      ~国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて~

  理念3 健康と安全を守る。

      ~安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて~

 また、理念を実現するために、6つの大目標と12の中目標が設けられ、防災分野に関連するものとしては、理念3に関わるものとして以下のものが設定された。

  大目標6 安全が誇りとなる国 -世界一安全な国・日本を実現

    中目標(11) 国土と社会の安全確保

    中目標(12) 暮らしの安全確保

 

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(研究開発局地震・防災研究課)