基本計画推進委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成24年11月30日(金曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学技術・学術審議会の各分科会等における議論の状況について
  2. 「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的考え方について(有識者からのヒアリング、取りまとめ案の審議)
  3. その他

4.出席者

委員

野依主査,野間口主査代理,井上委員,大垣委員,國井委員,黒田委員,佐々木委員,柘植委員,平野委員

文部科学省

(大臣官房)田中総括審議官,川端総務課長
(科学技術・学術政策局)土屋局長,磯谷科学技術・学術総括官 兼 政策課長,阿蘇計画官,藤原計画官補佐
(研究振興局)森本審議官
(研究開発局)鬼澤審議官

オブザーバー

大阪大学 小林教授、京都大学 吉川教授

5.議事録

【野依主査】 
 それでは,時間でございますので,まだお着きでない方もいらっしゃいますが,ただいまから科学技術・学術審議会第7回基本計画推進委員会を開催いたします。
 本日は,有川委員が御欠席ということでございます。それから,大阪大学のコミュニケーションデザイン・センターの小林教授,京都大学こころの未来研究センターの吉川教授においでいただいております。
 それでは,まず事務局から資料の確認をお願いします。

【藤原計画官補佐】 
 おはようございます。確認させていただきます。
 お手元の資料でございますけれども,まず議事次第と書いております1枚紙がございまして,その後ろに資料のリストがございます。
 簡単に確認させていただきますが,まず資料1-1のホチキスどめの資料,その後1-2-1から1-2-3までをクリップどめにした資料がございます。その下に資料2-1-1から2-1-3までクリップどめにした資料がございます。その次ですが,資料2-2のパワーポイントの資料,その後ろに資料2-3-1のA3の資料がございます。最後に2-3-2のクリップどめの資料がございます。
 これが配付資料でございまして,その次,クリップどめの参考資料と机上配付として白表紙の基本計画を置いてございます。もし過不足ございましたら,途中でも構いませので,事務局までよろしくお願いします。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは,議題1「科学技術・学術審議会の各分科会における議論の状況について」に入ります。
 まず,前回,委員会を開催いたしました9月26日以降の各分科会の審議状況について,事務局から報告してもらいます。

【阿蘇計画官】 
 それでは,資料1-1をごらんください。9月26日以降に進捗のあった箇所を前回同様,斜体太字にて記載してございます。主な項目について御報告いたします。
 まず1ページ目ですけれども,研究計画・評価分科会の研究開発評価部会では研究開発評価システム改革についての審議が行われております。
 続きまして,2ページ目をごらんください。学術分科会では,大学を中心とする学術研究の在り方について審議を行っておりまして,今後取りまとめる予定となっております。
 続きまして,資料の4ページ目です。海洋開発分科会のほうでは,次期海洋基本計画策定に向けた検討の取りまとめに向けて審議が行われているところです。
 続きまして,5ページ目,測地学分科会におきましては,地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の見直しについて取りまとめが行われまして,先日開催されました総会において審議され,決定されております。
 また,7ページ目でございます。技術士分科会では,技術士制度の在り方について審議が行われているところでございます。
 続きまして,10ページ目の産業連携・地域支援部会におきましては,イノベーション・エコシステムの確立に向けて早急に措置すべき施策という報告がなされております。
 一番最後のページ,12ページ目をごらんください。国際委員会におきましては,科学技術の戦略的国際展開の方向性などについて,年末を目途に報告書を取りまとめる予定ということで議論が行われております。
 説明,以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 資料1-1にもありますように,国際委員会では,科学技術国際活動の戦略的展開について報告書の取りまとめに向けて作業を行っている状況でございます。そこで,国際委員会主査の大垣委員から国際委員会における検討状況等について御報告いただきたいと思います。
 それでは,よろしくお願いします。

【大垣委員】 
 資料の1-2-1と1-2-2,それから1-2-3を使って説明を申し上げます。今御報告がありましたように,1-2-1をごらんいただきますと,10月31日に開いた委員会で報告書の案をほぼ決めました。これは年末までに報告書としてまとめる予定であります。副題は,「科学技術国際活動の戦略的展開について」ということでございます。
 目次を見ていただきますと,1の基本認識の(3)にありますように,「世界と一体化した国際活動の戦略的展開」,あるいは(4)にある「基礎研究及び人材育成の強化」という議論しておりまして,2のところにあります(1)ですが,「分野や相手国に応じた多様で重層的な協力」が必要という議論をしております。
 なお,附属書1と附属書2がついておりますが,附属書1は,若手研究者の国際活動の低調化ということが去年から大分議論になっておりましたので,その実態の調査と状況の把握をしたものでございます。それから,附属書2は,東日本大震災による国際交流への影響の調査をした,それを取りまとめたものでございます。本文は,2ページ以下ずっと書いてございます。
 その背景となる資料に関しましては1-2-2にありますような様々なデータが出ておりまして,国際的な論文などを見ますと,相対的に中国の台頭があるというようなことが把握されているわけであります。
 時間も限られておりますので,1-2-3のパワーポイントのプリントをごらんいただきたいと思います。
 これは,この報告書を取りまとめたというよりも,この報告書の議論の中で私個人が感じたものを取りまとめたものでありまして,あくまでも個人的見解でありますが,議論を非常に単純化した絵を幾つか作ってみました。
 資料1-2-3の1ページをごらんいただきますと,下のほうにあります「新しい科学技術イノベーション」ということを議論しているわけでありますが,要するに非常に包括的,全体的,総合的な科学技術イノベーション政策が必要で,従来の悪い面だけいえば,細分化されたものから変化しないといけないということかと思います。特に,ここ近年現れているのは不確実性という条件でありまして,地球規模気候変動,あるいは経済のグローバル化など,サイエンスとしてはそれぞれ論理的にいろいろあるわけですが,社会へどう影響するかというのが不確実なわけであります。それから,不連続性,これはもう言うまでもなく想定外事象であります。災害,事故は当然でありますが,一方,良い事例としてはインフォメーション・コミュニケーション・テクノロジーの急激な変化とか,遺伝子工学等の急激な技術革新が新しい科学技術に対する変化を及ぼしている。
 こういう状況の中で,両方ともグローバルな問題ですので,国際的視点が重要ということになりまして,その重要性にどう対応するかということで議論して出てきたのが重層的政策と人材育成であるという絵でございます。
 次の2ページ目をごらんいただきますと,重層的な国際戦略の展開という議論をしているわけでありますが,非常に単純な絵を描きますと,横軸は左側に科学技術発展途上の地域が対象,それから,右側は先進地域が対象というふうに分け,縦軸は,上に施設的な大型施設,大型装置というような大規模なもの。下に人を中心にした小規模なもの。この図に報告書の中の様々な文科省の事業が入っております。
 それをマッピングするとこんなふうになるかなということで,赤い字が直接的人材育成関連であります。また,上のほうに幾つかありますのは大きな規模で,かつ国際的な日本がリードしているものであります。真ん中にGOSATという人工衛星があります。これは,現在,私がたまたま関わっている法人が扱っているものなので書かせていただきました。これは,地球温暖化ガスを測定する世界で唯一の人工衛星で,NASAもこのデータを今も使っておりますし,ヨーロッパも使っています。同様に各省の事業も入れるといろいろあると思います。
 こういう活動の中で,下のほうの赤い活動から,上のほうの様々な大規模を使った国際的な展開とどう結びつけて,重層的に日本の政策を考えるかということを議論していることかと思います。
 それから,3ページ目をごらんいただきますと,これは国際的な人材養成の姿でありますが,横軸は年齢であります。20歳から始まって60歳ぐらいまで。下のバーは,勉強なり,研究なり,職場なりがどこにあるかということであります。緑色のHis/her Countryというのが日本で,other countriesがアメリカというような形が多いわけですが,日本とアジア,特にアジア等の関係を見ますと,例えばHis/her Countryがスリランカという私の知人は,学部はスリランカを出て,修士はバンコクにあるアジア工科大学を出て,ドクターは東京大学のドクターをとっています。その後,30歳のところにポスドクみたいラインがありますが,ここはJSPSのポスドクをやったのち,国に帰って,今度はいろんなプロジェクトに参加している。例えば現在,SATREPSの文科省,JICAのプロジェクトの相手国のカウンターパートをやっているというような人材につながっているわけです。それを重層的にうまく育てていくことが重要かと思います。
 真ん中に「雇用創出の必要性」と書いているのは,ポスドクが終わったあたりの雇用創出をすることが非常に重要であるということです。これは,単に日本の研究者ばかりでなくて,国際的にも雇用創出を図って,日本がそこを担うというぐらいのつもりでやる必要があるかなと思います。
 4ページ目をごらんいただくと,今の図をちょっと変えたものであります。下のほうの赤い部分を見ていただくと,Same Batchの学生同士の場合だと10年後はプロフェッショナルとして仲間になる。教員と学生の関係であれば,初めは学生と教員でありますが,10年たてばシニアな研究者とプロフェッショナルの関係になる。それから,Partner in Projectの場合,若いときにプロジェクトを一緒にやれば将来また生きてくる。当たり前のことでありますが,これを国際的に,意識的に展開するのも重要かなということであります。
 最後の絵は少々古いデータでありますが,左下の絵は1977年~2006年までの自然災害に伴う死者の数でありますが,30年間に230万人が亡くなっておりまして,その6割がアジアであります。国際関係の議論をするときにアジアという言葉を使うと,経済的なもの,あるいは開発途上国,日本の経済圏とか,いろんな議論がありますが,最も国際的な社会的課題としては人口が集中していて災害が多い地域であって,日本も実は去年は2万人を加えたような形になっているわけです。そういう意識も含めて,これに対する日本の貢献というのは重要で,先進国からアジア地域まで,全体を重層的に考えないといけないという議論をしております。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 何か御質問ございますでしょうか。柘植委員,どうぞ。

【柘植委員】 
 ありがとうございます。大変大事な話でありまして,今聞かせていただいて二つ,やはりこれは政策的にサポートしないといけないなということを感じました。一つは,まさに後ほど説明があるのでしょうが,今日の資料2-3-2の「社会の要請に応える科学技術イノベーション政策の推進に向けた議論」の中の非常に大事な話だと思うのです。日本の中だけで人材を育てるだけではだめで,アジアを中心とした,そういう面で今の大垣先生の御説明は位置付けて推進するのが政策の役目かなと思います。もう一つは大垣先生の資料の4ページのキャリアのことです。これは,個人個人としてこういう形で,いろんな仕組みで多様なキャリアを歩んでいくということが時間軸上で考えられていますが,同時に,ちょっと言い方に語弊があるかもしれませんが,日本の財産としてネットワークというものをきちんと保っていくのも政策誘導型の重要な観点かなというふうに思います。
 以上です。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 平野委員,中国に最近いらっしゃいますが,中国の国際化に関する考え方は基本的にどうなっているのでしょうか。

【平野委員】 
 私が昔いろいろつき合っていたところから見ますと,報道にもよくあるように大変幅広く人材を海外に送りながら,海外で育った人で,国内に必要な人は戻れる環境を作って戻すという方策をとっており,今,大垣先生がおっしゃったのと同じような意味で,彼らは海外にネットワークを持って,そのネットワークを総合して,戦略的にやっているなと見ています。
 例えば私が今関係している上海交通大学では33%ぐらいの学生が海外へ出ています。そういう点では,内向きだと言われる日本から見ると逆でありまして,大学の教員に戻るには海外でまず活躍しないと目にとめてもらえないという意識が強いです。だから,大垣先生がまとめられたところと,日本の場合もいいリンクがとれるのではないかと私は思う。

【野依主査】 
 中国は毎年四千人ぐらいアメリカでPhDとらせています。その何十%が帰国するのか知りませんが,帰ってくることが政治の安定性にどんな影響を及ぼすのか,あるいは科学技術や学術では,どのような影響があるのでしょう。

【平野委員】 
 これは,もう全く私の主観でありますし,彼らと腹を割って食事をしながら話をするときの内容でありますが,上海ですから北京とはまた違うかもしれませんが,私が見ておりますと戦略的に送り出す高度高水準学生派遣制度があります。初年度,2年目ぐらいは日本の大学に少なくとも上位の方々が見えたのですが,最近は言いにくいですが,欧米系の大学へ行ってしまう。海外で学ぶというのも国の完全な戦略でありますし,仕事をきちんとするというのは当たり前ですが,ネットワークをきちっと育てるというのは,政府から見ると将来を見据えた戦略の重要なところであると考えます。60%ぐらいの学生が何かの段階で行くのですが,そのうち30%ぐらいが完全に向こうで,かなりの年数学んで帰ってくる。帰るような環境が今できつつあります。
 私は,以前,二階氏が経済産業大臣のときにお邪魔してお願いしたことがあります。戦後の戦略であるとかは別にして,いいネットワークが日本の方々を呼んでもらってできたのがフルブライトの制度じゃないか,と話しました。私は高く評価するけれども,そのような長く続くネットワークを作ってもらいたい。それから,日本から送った人たちのネットワークを,きちんと日本でいい形でアフターケアもしてもらいたい,と思います。どうもこのあたりも,ちょっと心配なところです。

【野依主査】 
 ありがとうございました。急に御意見を伺って恐縮です。またいずれ中国の生の現状を伺えればと思っております。
 国際委員会でも我が国の科学技術イノベーション推進の観点から,国際活動,あるいは科学技術外交を進めていくことが,大変重要であるという指摘がなされておりますけれども,世界規模の問題,あるいは経済のグローバル化に直面している現在,国際戦略の重要性はますます高まっています。引き続き議論を進めていかなければいけないと思っております。
 ほかの分科会から御報告事項はございますでしょうか。なければ議題2「『社会と科学技術イノベーションとの関係深化』に関する基本的考え方について」に移ります。
 前回申し上げましたとおり,今回は,これまでの審議の取りまとめを行います。本日もお二人の有識者をお招きしております。先にお二人の御発表,その後,まとめて質疑応答の時間を取りたいと思います。
 まず,大阪大学コミュニケーションデザイン・センターの小林傅司教授に御発表いただきます。
 小林教授には,科学技術振興機構で総括補佐として取りまとめを進めております「科学技術と人間」の領域成果報告書,あるいは人材育成の観点からデザイン思考の教育の必要性について御発表いただきます。
 それでは,よろしくお願いいたします。

【小林教授】 
 大阪大学の小林です。お手元に資料3点準備いたしましたので,御確認いただきたいと思います。私がこれからお話しするのは2-1-1を中心としたものです。また,今御紹介にもありました科学技術振興機構の中の社会技術研究開発センターの「科学技術と人間」の領域成果報告書の抜粋が資料の2-1-2でございます。それから,2-1-3は,フィンランドのアールト大学という大学のブローシャーです。本日は,この領域成果報告書については手短にいたしまして,その後のお話を少しさせていただきたいと思っております。
 まず,領域成果報告書ですが,これは2-1-1にございますように,この領域では目標を二つ掲げておりました。その目標の一つ目が科学技術と社会の間に生ずる問題について,関与者が協働して評価・意思決定し,対処する方法及びシステムの構築に資する成果を創出するということ。二つ目が社会との相互作用を通して,科学技術の変容の実態と課題を把握し,対応方策を提言するということ。平成19年度から24年度にかけまして12のプロジェクトを採択いたしまして実施してきました。私は,その12のプロジェクト全体及び領域全体のマネジメントで関わって参りました。
 この研究開発が今年度で終了いたしますので,全体としてどのようなことができたのかということについての領域成果報告書を作成し,そこに提言というものを加えることにいたしました。その提言が資料2-1-2の冒頭にございます。この領域の活動自体は5年かけた12のプロジェクトからなっており,これを丁寧に説明いたしますと到底時間がございませんので,その詳しい部分については資料2-1-2のほうを見ていただきたいのですが,その提言の部分だけが最初の4ページほどにございます。そして,6ページ以降は,12のプロジェクトをコンパクトに見開き2ページで整理したものになっておりますので,具体の話はそちらのほうで見ていただきたいと思います。
 この報告書の提言,内容は,資料2-1-1の2ぽつのところにございますとおり,4点の提言をつけております。この領域そのものをやっていて気がついたこと,あるいは採択したテーマからも見えてきたことは,科学技術と社会の関わりというものが極めて多様であるということです。その多様性をもちろん全部網羅したわけではありませんが,少なくとも従来のファンディング,研究の支援の資金ではなかなか採択できないようなタイプのテーマが扱えたのではないかと思っております。そのこと自体が一つの成果なのだろうと思っております。
 その証拠といたしましては,研究プロジェクトの代表の所属ですが,やはりどうしても通常のファンディングですと大学及び研究機関の人間,PIがリーダーになるわけですが,私どもの場合には行政関係者とか,弁護士とか,あるいは現場の医師,そういった方々が代表になる例をかなり採択してきた。また,評価する際にも,いわゆるアカデミックペーパーの量だけで評価するのではなくて,そこからどのような新しい問題を見つけ出し,どのように解こうとしたのかというところを評価するというやり方をして参りました。
 4点の提言です。一つ目は,基本的には科学技術の知を社会で活用するために,科学技術の専門家だけで閉じているのではもう回らなくなっているようなタイプの問題がいろいろあり,その場合には多様な関与者,そして生活知を組み合わせる必要があるということ。この関与者というのは,別に一般市民だけを意味しているのではなくて,本来関わるべき例えば行政関係者や弁護士など,従来の科学技術の場面ではあまり出てこなかったアクターも一緒になって議論することが大事なのだと。そうすると,そこで培われているような知識というのは,いわゆる科学技術の知という形では今まで取り上げられてこなかったわけですが,科学技術の専門家がやはり学ぶべきものがかなりあるということが発見できる。
 二つ目は,そういうことをやろうとすると専門家の意識も少しは変わっていただかなくてはいけないということ。つまり,自分の専門家としての分野に閉じこもって,そこから一歩も出ないという形では,このような研究はできないわけです。これは言いかえますと,社会の中で科学技術を活用するときの阻害要因にさえなり得るわけです。そういう意味では,新しいタイプの専門家が必要になっているということが我々の提言です。それを「一緒に考えてくれる専門家が必要」という言い方をしております。
 三つ目は,やはりこういう研究のスタイルというのは先行事例もそれほどない,そして,世界各国が模索している状態ですので,ある程度失敗を覚悟するというか,それを過度に恐れない心構えが必要であろうということ。そして,専門家が実際にその場でいろいろなことをやっていくことを通じて,それぞれが学んでいくという場面を一定作っていく必要があるだろう。
 そして,四つ目に,応答の継続の必要性を指摘しました。権威を持っているサイドの科学技術の専門家とクライアントの間で,一方的につき従う,あるいは教えていただくという関係ではなくて,相互にやりとりをするところでのレスポンスで責任を果たし合う。それこそが信頼につながっていくのだということを申し上げたいわけです。
 これは,幾つか例はございますが,例えば,レジデント型科学者というふうな言い方をしたプロジェクトがございました。このようなタイプの研究者は環境問題につきましては,環境問題の起こっている現場で地道にその地域のデータを取り続ける。そして,その地域の人々がその環境を守りたいと思ったときに必要なデータ,あるいはそのためにどういうことを研究することが必要かというのを一緒に考える,そういうタイプの研究者が実は既に存在している。
 ところが,そういう方々は,いわゆるアカデミックペーパーの評価基準だと評価されない。しかし,そういうものがこれから大事になってくるだろう。言い方を変えますと,例えば野依先生のようなノーベル賞の科学者に憧れを持って若手は科学に向かう。それはたくさんあると思いますが,同時に,その地域でそういう活動をしているレジデント型の科学者を見て科学に憧れを持つ,そういうルートもあっていいだろう。そういう多面的な科学の在り方というものが一つ見つかってきたわけであります。
 また,いろんな人々と専門家が交流することによって,例えばライフサイエンスの人々は,市民と実際に議論したことによって自分の研究の持つ意味を改めて考え直すなんていう形で,専門家のほうが少し変わっていくという経験もいろいろございました。そういったあたりをかなり発見したということでございます。
 ですから,要点といたしましては,これから科学技術を社会で活用するためには科学技術の専門家だけではなくて,もう少し多様な関与者が関われるような研究の仕方があるだろう。そうすると,専門家の側も,そういう方々と一緒にやるという心構えを持つ新しいタイプの専門家像というものを評価しなくてはいけないだろう。そして,そういうことが実際に継続できるような場が必要であろうと思っております。
 このような報告書を書くと同時に,この1ページのところで四角に書きましたように,このような考え方というものをより若い世代に理解してもらいたいと思いまして,中学生,高校生,大学生の1,2年生を想定した形で,かなり表現に気を使ったウェブサイトまで作っております。そういうことがこれから求められるだろうと思っております。
 2ページに参ります。どうしてこのような領域報告書ができてきたのかということで,3点ほど書きました。一つは,既に申し上げましたように,科学観というものはかなり多面的になってきているということであります。これは,ブダペスト会議で,“Science for knowledge”とか,“Science for science”と言われてきたものから,“Science in/for society”という言葉が出て参りました。今回の第4期の基本計画でも,第5章は「社会とともに創り進める政策」というふうに言っておりますが,今後は,さらに“Science with society”というところにまで,そろそろウイングを伸ばす時期だろうと思います。
 そういたしますと,例えば“Regulatory Science”のような新しいタイプの科学も生まれているということに我々は意を払うべきだと思います。つまり,IPCC報告書とか,被ばく線量のICRPとかECRRなどは純然たる伝統的な意味での科学のペーパーではなく,ある種の政策的判断が込められたり,勧告が含まれていたりするものですが,やはり科学でもあるわけです。こういうタイプのものが我々の社会,政治に決定的な影響を持つような時代になっている。こういう活動を意識した科学者をどれほど我々は生産しているか。いわゆるレビューのペーパーを書くことにしか意識のない科学者が,急にこういうところに呼び出されてびっくりする,そういう状況になっているだろうと思います。
 そういう状況を,“Post Normal Science”とか“Trans-science”という形で私は問題提起してきたつもりであります。そういう場面では,科学的にも不確実性が伴っていて,社会的な判断がどうしても伴うので,そういうタイプの科学の在り方をどのように位置付け,活用していくかという問題がある。それから,政策に関しては,もう皆様ご存じだと思いますが,イノベーション政策において社会とともに創り進めるということですが,これは,まさしくステークホルダー,関与者の拡大を必要としていくものだと思っております。
 もう一つ,やはり忘れてならないのは3.11以降という文脈であります。もちろん不確実性のハンドリングが課題になっていることは御承知のとおりですが,政府・専門家の信頼が崩壊したということの意味はかなり重いと思います。もっと一般的にいえば,いわゆる偉い人の信頼が崩れてしまったということであります。かつては「末は博士か大臣か」といっておりましたが,どの程度信頼が残っているかという状況であります。そこでは,科学技術コミュニティというもののガバナンスがどうしても問われていくだろうと思います。
 もう一点,福島原発事故は,先進民主主義国における史上最大の原発事故でございます。これは,日本の誇る技術的対応で済ませるだけの問題ではないわけであります。最近,国際学会などにも行きましたけれども,日本はこれから科学技術というものを社会の中でどう位置付けるのかという言い方で問いを差し向けられた経験がございます。つまり,民主主義国家が科学技術をどのように使っていくか,どのようにステアリングするかという問題が問われているんだろうと思います。
 その典型的な例として,今年の夏にエネルギー・環境政策形成のための国民的議論というものが行われました。そこにも私は少しかかわったわけですが,実は例えばRISTEXなどでやっていた様々な国民的議論のやり方とか討議のやり方についての成果というのは,ほとんどここには生かされなかった。それは省庁の縦割り構造もあったし,政治の動きもあったんだと思いますが,せっかくやってきた研究成果がこういうところでうまく使われなかったのは大変残念に思いました。このエネルギー・環境政策の国民的議論については大変難しい問題が含まれておりますが,我々は,これからずっとこの問題を抱えていくことになるだろうと思います。
 次に,「ELSI的視点からの科学技術政策の再検討」と書きましたが,結局のところ,社会の価値観が非常に大きく変わってきている中で,科学技術がどのような役割を果たすかということを考えるためには,やはり人々がどのような社会を求めているかということと切り離せなくなってきている。かつては物質的な豊かさの実現,あるいは先進国に追いつくという目標を立てれば,皆さんが燃え上がったわけですが,今,そういう燃え方をしなくなっている。若い世代は,特にそういう形での燃え方はしない。
 したがって,どういう志,どういう誇りを持って科学技術を使うのかというところを丁寧に見ていかなければ,おそらく空回りするだろうと思います。
 4ページのところの参考のところを見ていただきたいのですが,これは,統計数理研究所が行ってきた長年にわたるアンケート調査です。人間が幸福になるためには自然との関係をどうすればいいと思いますかという問いを,「自然に従う」と「自然を利用する」と「自然を征服する」という3択で聞いてきたものです。このグラフを見ていただきますと,黄緑の色が「自然を利用する」という,ある意味で合理的な考え方になります。ピンクが「自然を征服する」であり,そして青色が「自然に従う」であります。この推移を見ていただきますと,1968年と73年のところで「自然を征服する」ががたっと減りまして,「自然に従う」がどんと上がります。そして,それ以降,両者はどんどん離れていくばかりであります。
 世界的に行われた価値観調査や日本の調査などでも1970年前後が先進国の人々の意識の大きな変容の時期であったというのは通説でございますが,これは,それを証明するものであります。
 科学技術というのは,どこかで自然を天然の状態とは違った状態にするという営みであります。そのことに対して人々が極めて肯定的な価値観を持っていた時代というのは,おそらく1970年代まで。このころは,科学技術の専門家の意識と一般国民の意識とが同じ方向を向いていたと思います。しかし,70年代以降は,実は人々の意識と科学技術の専門家の意識がひょっとするとずれているのかもしれない。その中で,科学技術をどのように生かすかという問題の立て方をするべきなのだろう思います。ただ,日本の場合はバブルがありましたので,一瞬その問題を忘れたわけですが,今,改めてその問題に直面しているのだろうと思います。
 4番目,科学技術イノベーション政策との関わりで,今日の資料の2-3-2の別添のところに7月に配付された資料がございます。「これからの社会における科学技術イノベーション政策の意志決定について(検討用)」というものが資料の2-3-2の3枚目のところにございます。A3の紙で入っております。これについて若干のコメントをさせていただきたいと思います。
 いろいろなポイント,非常に面白く重要なことが書いてございますが,その中で幾つか私として申し上げたいことをコメントさせていただきます。
 まず一つ目は,配付資料の左側の「国民を一括りで議論して政策を展開しようとしていないか?」というふうに赤で書いたところの4番目です。「国民の意志決定への主体的参画がどの程度可能かについては分析が必要」というふうに書いてあります。それはそのとおりだと思います。ただ,これは避けて通れなくなってきたなというふうに私は思っております。つまり,世界共通の課題として民主主義そのものが実験に付される状況でありまして,代表制民主主義というものが機能不全をしているというのは先進国の共通の悩みでございます。それはジャスミン革命であれ,“Occupy Wall Street”であれ,官邸包囲デモであれ,結局,「私たちの声を聞け」「応答せよ」「選挙しかチャンネルはないのか」という声でございます。
 こういう状況の中で,先ほど申した国民的議論によるエネルギー・環境政策の問題もございました。そういうことを考えますと,やはり,これは様々な社会的試行を,勇気を持ってやっていく以外に解はないだろうというのが私のコメントでございます。
 二つ目は,今の別添の資料の一番下,「専門家の発信ルールを定める必要があるのではないか?」というところであります。これの1番目で,「科学的判断と価値判断を区別して話すように心がける必要があるのではないか?」。これは,そのとおりだと思います。ただ,科学的判断にとどまる場合,不確実な状況でははっきりしたことが言えないというのが科学的には正しい対応になります。それは,結果的に社会的意志決定の場面では判断の先送りという役割を果たしてしまいます。そしてこれは一つの価値判断と同じになってしまうわけです。ですから,科学的判断にとどまるということ自体が一つの価値判断になってしまう。そういった例は水俣病などでかなり顕著に現れたということは,もう歴史的事実だろうと思います。
 そういう意味では,単純に科学的判断にとどまれない場合には,国民との対話を踏まえて,しかし,決定者の責任を明示した上で判断を行うということをやらざるを得ない。それが“Regulatory Science”的な役割なのだろうと思います。
 三つ目は,「『信任』を得て政府・行政が判断していいのか?」。別添の右側の図の行政の横にある項目です。ここの4番目です。「リスクコミュニケーションやレギュラトリーサイエンスは,科学技術イノベーション創発の阻害要因になる可能性があるのではないか」。これは昔から言われております。日本でテクノロジーアセスメントが定着しなかったのも,こういう議論だったわけですが,まず,やはり3.11によって政府・行政への信任が決定的に奪われたということだという事実から出発すべきであります。
 そして,政府や行政は,そもそも国民を信用しているのかが問われているだろう。自分たちが信頼されていないというだけではなくて,では,逆に信頼しているのかということになります。それから,リスクだけを議論したがっているわけではなくて,どういう社会像を将来持ちたいかということを人々は非常に議論したがっていることに,もう少し注意すべきだろうと思います。
 それから,リスクコミュニケーションなどを行うと反科学技術になるのではないかという議論がよくあるのですが,その種の客観的根拠はございません。これは,様々な世界の社会学者がそういう結論を出しております。むしろ,そういう必要な場面での対話を怠って,専門家,行政がパターナリズム的な対応をしたことで,後で問題がこじれて,その分コストが余計にかかるということが起こるわけです。
 ですから,これからは,こういうものを義務として通過していくことが後々のコストを下げていくのだという考え方も取り入れるべきだろうと思います。
 最後に五つ目です。これから考えなくてはいけないことというので,やはり日本は結果的に課題先進国になっている。つまり,キャッチアップモデルはもう成立しなくなっていると思います。そして,先進国というのはまさしく自分で考える国のことだろうと思います。
 まず,確実な未来予測としての人口構造の変化という問題,それから3.11,低成長とデフレという状況,しかも価値観が多様化している中で,一律的な政策対応というのは極めて困難だという問題が,日本には先鋭的に現れております。
 そして,豊かさというものを再定義しなくてはいけない。人々は,物質的なものをどんどん買いたいという欲望はもうそれほど持っておりません。若い世代,つまり,彼らは未来の主人公ですが,彼らがどのような社会を求めているかということをもう少し積極的に聞かなくてはならないのではないか。例えば私も58歳になるわけですが,私がせいぜい元気で頑張れるのは後15年ぐらいですか。2050年ぐらいのイメージは,その時代に活躍する人々に委ねざるを得ない。その人たちの声をもう少し聞かなくてはいけない。それを踏まえて,何のためのイノベーションが必要なのかというのを考えましょう。
 それから,内外の課題は複合的性格を持つというのは皆さんご存じのとおりであります。つまり,縦割りの専門分野と課題はもう対応していないということを皆さん分かっている。では,どうするかというと,一人が全部の専門分野を抱えることは無理ですので,複数の専門分野の人々を動員して協働する能力が必要ということになります。
 そうすると,人材育成が決定的に重要であります。これは,世界各国がイノベーション人材の育成を競っているということからも明らかであります。日本ももちろんその問題を考えてきたわけでありまして,例えばリーディング大学院というのを今,各大学がやっております。私も,それにも巻き込まれております。科学技術・学術政策局で行っているセンター・オブ・イノベーションとこのリーディング大学院のベクトルはほとんど同じだと私は思います。私は,大阪大学にいますと両方に関わってしまうのですが,二つはほとんど同じ発想なので,結びつけたらもっとうまくいくのにと思います。そして,政策のための科学についても私はやっておりますが,これも同じ方向を向いているんです。
 ところが,文部科学省へ来ると分かれてしまっている。しかし,現場は一つでやったほうがいいと私は思います。そのあたり何とかしないと,もったいないというふうに思います。例えばアメリカの場合で言えば,マサチューセッツ・インスティチュート・オブ・テクノロジーは,学部生にはアート科目を準必修のような形で学ばせたりしている。それから,後に資料を添付いたしましたが,アールト大学は芸術大学と工科大学とビジネススクールを合併して新しい人材育成をやろうとしている。これ,うまくいくかどうかわかりません。だけれども,この種のかけをしなくてはもうだめな時代に来ているだろうと思います。
 北欧諸国は,イノベーション大学院や学際的なテーマを掲げた大学院をどんどん作っていて,例えばノルウェーでは全国の既存の大学から大学院学生を集めて学際的教育を行うようなシステムを作っています。リーディング大学院と発想は似ていると思います。それから,イギリスもDoctoral Training Centreというものを2008年ぐらいから作って,これもやはりインターディシプリナリーなタイプの大学院を新たに整備しようとしている。
 こういう構造の中で気が付くことは,いかに社会的価値を発見し,そして,科学技術とビジネスをつなぐ想像力やデザインをする力をどうやって与えるかということを各国が競い合っているという状況だということです。これは,もちろん一種のかけです。しかし,従来の改良路線とかPDCA的な発想ではまずもたない,イノベーションというのはそういうところから生まれないと思います。
 イノベーションというのは基本的に多様性から生まれるものでございます。ですから,将来への投資として想像力やデザイン力を重視するという石を置くことは大事だと思います。全ての政策が同じ方向を向いているのが一番危ないわけでありまして,すぐに成果が出るかどうかわからないけれども,各国が試みているように,想像力とかデザイン,企画といった能力をどうやって生み出すかという人材育成もあわせて置いておく。そういう複合的というか,多層性のある科学技術政策という観点から見ていただきますと,RISTEXのような試みの意味が少しおわかりいただけるのではないかと思います。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございます。
 それでは,引き続きまして京都大学こころの未来研究センターの吉川左紀子教授に御発表いただきます。
 吉川教授は,認知心理学の専門家でいらっしゃいます。第4期基本計画では発明や発見を価値に結びつける科学技術イノベーション政策へと転換しています。価値について考えるに当たりまして,心理学的な観点から御示唆いただければと思っております。
 それでは,よろしくお願いします。

【吉川教授】 
 御紹介ありがとうございました。京都大学のこころの未来研究センターの吉川でございます。
 本日は,「科学技術」というテーマで「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関連するお話をさせていただくということで参りました。副題は「心や文化の視点から価値を見直す」で,パワーポイントを用意して参りましたけれども,今の大阪大学の小林先生のお話と重なる部分が多く驚いております。
 私の専門は認知心理学です。主なテーマは顔や表情の認識,コミュニケーションの基礎過程について研究しております。2007年に京都大学に新しくできましたこころの未来研究センターで,センター長をしております。今年で5年半という新しいセンターです。センターの研究者の専門は,脳科学,認知科学,臨床心理学,文化心理学,宗教学,倫理学と非常に多様で,学際的な研究組織です。「こころ」という中心的なキーワードとともに「つなぐ」ということも重視して,様々な研究をやって参りました。
 まず,センターの「つなぐ」プロジェクトについて,少しお話いたします。融合とか連携といった言葉が飛び交っても,実際にそれがうまく研究成果につながっていくのかということがいろんな領域で問題になっております。うちのセンターでは,三つのつなぐ試みをやっています。異なる研究領域をつなぐ研究,社会と基礎研究をつなぐ研究,過去の知,伝統の知と現代社会をつなぐような研究,です。それから,大学と社会をつなぐ,ということで「こころ学」というグローバルな学問を考えたときに,そういう知識を必要としている専門職の人たちに対する教育事業はできないかとセンター内で現在話し合っております。
 もう少し具体的に言いますと,異なる研究領域をつなぐとき,どことどこをつないでいるのかといいますと,カウンセリングの研究と認知科学をつないだ基礎研究ということをやっております。それから,心理学と脳科学をつなぐ研究をやっております。それから,社会と基礎研究をつなぐというところですけれども,これは医学領域の “Translational Research”とか“Translational Science”という考え方をもう少し進めて,“Inverse Translational Research”というものを考えようとしています。これは,問題のもともとの発想は社会の中から取り上げて,それを大学の研究者が研究して,それをまた社会に戻そうという試みです。ここ数年取り組んでいるのは,「社会資本としての農業改良普及」という研究プロジェクトです。近畿農政局の方からある日突然連絡があって,「農業普及指導員の人たちのやっている仕事はまさにつなぐ仕事なのだ,それを心理学的に分析していただくことはできないか」という依頼がありました。心理学と農業改良普及,全く分野が違いますから,どうやってつなぐのかというところから話を始めて,去年一つの成果が出ております。それから,看護師と患者のコミュニケーションの研究。これは,結核専門病院の看護師さんから,患者さんに対する接遇の仕方に関する心理学の研究をやりたいという要望がセンターのほうに来て,その研究を行い,成果が出始めたというところです。
 さらに,過去の知と現代をつなぐということでは,2010年から京都大学ブータン友好プログラムというものが始まりました。現在,第9隊までブータンに行っておりまして,京都大学のいろいろな分野の研究者がブータンに行き,一国を対象にしたアウトリーチをやろうということで取り組んでいます。うちのセンターにはブータン仏教の専門家がおりまして,ブータン仏教,チベット仏教の古文書の研究を行うと同時に,文化講座を開催したり,ブータンでフィールドワークをするという取組をやっております。 
 次に,異なる分野をつなぐ学際研究の例として,カウンセリングと認知科学の研究例をごく簡単に紹介したいと思います。
 カウンセリングの対話というのは,一対一でやりとりしながら,クライアントの心の問題を時間をかけて解決していく,そのときに専門家のカウンセラーが聞き役となって,専門的な役割を果たすということがあるわけですけれども,実際のやりとりの中で一体何が起こって,クライアントの心がいい方向に変わっていくのか,あるいは変わっていかないのかということに関する実証研究は今までほとんどありませんでした。それで,臨床心理学者と実験系の心理学者が協働して実証研究をやってみようということで,数年前から研究をスタートしています。
 高校の先生と相談者,カウンセラーと相談者という組み合わせで悩みごと相談のやりとりをしてもらい,そのときの2者の発話を文字に起こして比べてみると,非常に異なる
ことが分かりました。高校の先生は,聞き役というよりは,アドバイザーという感じで,自分のほうがどんどん話をしてしまっていました。一方,心理カウンセラーのやりとりでは,相談者の発話が圧倒的に多いことと,話の間に沈黙が多いということも分かってきました。ここから,日常的な会話とはかなり違ったやりとりをカウンセラーとクライアントはやっているということが分かってきたわけです。発話時間の長さを計測して,専門家と非専門家とでは50分間のやりとりがどのように違っているのかということを調べていく。そうすると,専門家が聞いているときには相談者の話す時間が圧倒的に長いであるとか,あるいは話し始めて,2,30分あたりで沈黙の時間が非常に長くなっているとか,そういう専門家のカウンセラーの聞き方の特徴が分かってきました。2人の体の動きの同調性を分析するというようなこともやっています。評価の高かったカウンセリング対話とそうでない対話で同調の強さの比較をすると,評価の高かった対話事例ではやはり2,30分あたりのところでカウンセラーとクライアントの体の動きがシンクロしていることが分かってきました。こうした研究結果を,臨床心理学の学会で話しましたところ,カウンセラーの人たちから,自分たちが今まで主観的な経験として感じていたことが,目に見える形で明確に分かるということで喜んでいただきました。
 ここから,今日のメインのお話になります。
科学技術や科学技術イノベーションと,人の心や文化がどうつながるかを考えてみます。科学技術というのは,それを開発した人と利用する人の間にあり,その両者を結ぶ媒介物,メディアであるといえると思います。そう考えると,科学技術をめぐる問題というのは,先ほどの小林先生のお話にもありましたように,全て人間や人間の心の問題とつながっていることが分かります。それぞれが別にあって,二つをどうつなげるかという問題ではなくて,もともと一つのものとして考えるのが自然であると思います。
 科学や技術という言葉から連想するもの,思いつく言葉を考えてみます。例えば科学と言われてすぐに思いつくものとして,人間の英知とか,欧米主導であるとか,両刃の刃であるとか,そういったことがあります。では技術という言葉から何を思い浮かべるか,これは,私の連想ですが,わざとか,匠とか,伝承とか,訓練とか,そういう言葉が思い浮かびました。皆様はいかがでしょうか。
 科学技術というふうに二つの言葉をつなげたときはどうなのかというと,便利さとか進歩とか,日本のお家芸というふうな言葉が浮かびます。科学からの連想はグローバルといいますか,普遍的といいますか,そういう感じがしますけれども,技術という言葉からは,日本の伝統とか文化につながるような言葉が思い浮かびます。こうした二つの言葉が結び付いた科学技術に関して,日本は今まで非常に力を入れてきましたし,発展してきたところだと思います。
 日本の中で生まれた科学技術は,それを作っている人も,使っている人も,日本の文化という土壌の中でそれを生み出してきたわけです。ですからそこのベースの部分には日本人としての価値観であるとか,考え方とか,そういったものが否応無しに含まれた中で,今まで発展してきたのだろうと思います。そうした中で,今,価値の見直しということが非常に重要になってきている。科学技術の中にある価値の問題を考えるときに,それを創った日本人の心や考え方,そういったものからもう一度一つ一つの科学技術の持っている意味合いを見直してみる。それが一つの方法ではないかと考えました。例えば,日本人の持っている幸福観とか,人生観であるとか,伝統文化に対する考え方をもう一度見直してみる。あるいは日本人が今までモデルやお手本にしてきたものは一体何だったのか,それは良かったのだろうかと問い直してみる。
つまり,日本人の特性というところからもう一回見直す。日本人がモデル,お手本としてきたものを見直す。そういう二つの軸で考えてみたらどうだろうかという提案です。
 これは,横軸がGDP,縦軸が主観的幸福感(SWB)のグラフです。一つ一つの小さな文字は国の名前です。GDPが低いところから高いところまで,SWBの尺度が低いものから高いものまであります。その二つがどういう関係にあるかということがこの曲線で表されています。
 図の中の日本の位置はここでして,GDPの高いところにあるのだけれども,その高い中では主観的な幸福感は低いという位置付けになっています。ラテンアメリカの国々がこの辺にありまして,GDPは低いのだけれども幸福感は高い。左下はかつての共産主義国家で,GDPが低く,主観的な幸福感も低い。こういう関係になっています。
 それともう一つこのグラフが示すのは,GDPに伴って幸福感が上がっていくのはあるところまでであって,そこから先はあまり上がらないということです。GDPが上がれば上がるほど主観的な幸福感もそれに伴って上がっていくというのは,GDPが低いところはそうだけれども,高いところではそうなっていない。
 日本人の主観的な幸福感はなぜこんなふうに低いんだろうか,という点は,よく考える必要があると思います。内閣府が,2011年から幸福感の調査を計画・準備しています。内閣府が何をやろうとしているかというと,主観的な幸福感を複数の指標で調べていこう,文化比較もやってみよう,自分は幸福だと思える主観的感覚についても調べてみようということです。それから,この調査には三つのコアコンセプトがあって,一つ目は客観的な指標で調べられる社会と経済の状況。二つ目はつながり。地域のつながりもありますし,家族のつながりもあります。それから三つ目が,身体的及び精神的な心の健康。こういうものを世代別の比較ができるように集めていこう,客観的な指標と主観的な指標と両方を使って調べていこうとしています。
 これは,具体的な尺度なのですけれども,ここで注目していただきたい,面白い結果があります。6,451人ですから,それほど大きな調査ではありませんけれども,「どれくらいあなたは幸せですか」と聞くと,日本人の平均は10点満点で6.64なのです。これは国際的にみても,そんなに高い数値ではありません。
 ところが,あなたの理想の幸福のレベルというのはどれくらいですかと聞くと,10点満点で10ではないのです。日本人の理想の幸福度は10点満点で聞くと7.24です。つまり,この二つはそんなに違わないじゃないかということになります。普通は,6.64しかあまり表に出てこないので,日本人の幸福度は非常に低いというふうな議論になったりするわけです。
 では,日本人の理想の幸福度の7.24はどういうふうに考えたらいいのか。例えば20歳ぐらいの学生に,「あなたの今の幸福度はどれくらいか」と聞くと「6ぐらい」と言う。「あまり幸せじゃないのですか」と聞くと,「私はまだ20歳なので,これから少しずつ幸福になっていきたいから,今は6ぐらいなんです」というふうな答えが返ってきました。そういうことで,こういう統計的な数字の意味を解釈するときは,ちょっと気をつけないといけない。こういうシンプルな調査でも,質問を上手に組み合わせると,日本人の幸福感というものが,見えてきます。
 調べてみましたら,複数の地方自治体が主観的幸福度に関わる意識調査を行っています。例えば東京都の荒川区,京都府,熊本県,兵庫県,福井県,福岡県,三重県,それぞれがかなり大規模な幸福度調査を計画しているか,既に実施していました。
 例えば京都では,京都指標というのがありまして,これは昨年からやっているのです。震災の後です。これは府民の生活実感に係る指標で,府民の心の豊かさ,満足度をはかる目的で行われるそうです。説明の中に,これは,京都府社会が心豊かで満足度の高い,誰もが幸せを実感できる社会へと向かっているかを点検するための指標ですとか,主観的な側面を持つので,社会情勢や府民の意識変化などを考慮しながら,その都度指標を柔軟に見直していく進化する指標です,といったことが書かれています。
 つまり,今までのような,比較的固定した,通り一遍の調査ではなくて,かなり踏み込んだ意識調査を,既に地方自治体はやっています。
 次に,京大ブータン友好プログラムという,京都大学を挙げて進めているプロジェクトについて,ちょっとお話をしたいと思います。このプログラムは霊長類研究所の松沢哲郎先生の発案で京大の中で立ち上がったものです。私は副代表として,3回ほどブータンに行きまして,いろいろ考えるところがありました。ブータンというのは,ヒマラヤ山系の南側に位置する,九州ぐらいの面積,人口70万人弱という非常に小さな国です。ここを見ていただいたらわかりますように,中国とインドに挟まれた国です。横にネパールがあります。ブータンとネパールの間に,昔,シッキムという国があったのですけれども,この国はインドに併合されてしまって,今はありません。ブータンは,昨年,国王夫妻が来日して以来,日本でブームになりました。
 ブータンは発展途上国ですけれども,国民総幸福(GNH)という先進的な政策を掲げて,もう40年ぐらいやってきています。GNHには四つの柱があり,さらに九つの側面から詳細な指標を使って国民の幸福度の調査をやっています。
 日本と比較をしてみるためにブータン人の幸福感について少し紹介します。1年間ブータンで公務員をした日本人の女性が『ブータン,これでいいのだ』という本を出しています。この本にでている図ですが,幸せを考えるうえで,時間軸と社会的な空間軸を使っている。日本人にとって,まずは自分がこの世で幸せになりたい,幸せな人生を過ごしたいというのが普通の意味での幸福についての考えだろうと思います。一方ブータンの人たちは,来世まで時間軸が伸びているというのです。例えば,現世で徳を積めば来世でいい人生が過ごせる,現世であまりいいことがなくても,来世で幸せに過ごせればいいという輪廻転生の考えがあります。仏教的な価値観です。また,共同体感が強く,家族や友人が幸せであれば自分も幸せだという考えもある。ですから,幸福を考えるときの時間軸とか,社会的空間軸の広がりは,日本人よりも大きいことがわかります。
 それから,人間がどうにかできる範囲というものを考えたときに,どうも日本人は,頑張れば何とかできるというふうに思っていて,運とか運命や自然の力というものを小さいものと考えている節がある。だから失敗したときに自分を責めることになり,幸福感は低くなってしまう。ブータンの人たちは,うまくいかなかったときにも,しようがなかったと割り切る力が強い。こういうマインドセット,心構えがあるから,現状でもそれほど不幸せに感じないのじゃないか,と御手洗さんは書いています。
 ブータンの国教は仏教です。GDPは低いのになぜ国民の幸福感が強いのかということを考えたときに,仏教の価値観というものを考えざるを得ません。この写真でガイドさんが説明しているのは,ブータンでよく見る仏画です。象がいて,猿がいて,ウサギがいて,鳥がいて,横に果物のなる木が植わっている。この絵が至るところにあって,土産物屋にもたくさんあります。これは,何を表しているかというと,それぞれ違う能力を持ったものたちがお互いに協力して土地を耕したり,守ったり,水をやったり,種を植えたりする,そうすることによって果実という実りが得られる,ということを教える絵です。こうした仏画は,多様性のある社会の中で,自然と調和しながら,協力し合って暮らしていく社会がいい社会であるということを,文字の読めない人たちにもわかりやすく教える教材にもなっていますし,人の生活の中に溶け込んだものになっています。
 最後は,モデルの見直しということについて,一言お話ししたいと思います。これからの日本の科学技術は,欧米モデルからアジアモデル,あるいは日本のモデルへ移行する,という方向が考えられるかもしれません。あるいは欧米モデルにアジアのモデルをつないでいく,という考え方です。どちらか一方を選ぶのではなくて,両方のいいところを組み合わせていくという発想が,特に日本の場合は重要だろうと思います。
 それから,社会の様々な組織のモデルである,階層構造モデルをネットワークモデルに変えていかないといけないかもしれない。大学の組織もこういう階層構造になっていますし,官公庁もこういう組織になっています。なぜこういう組織形態をみんなが好むのでしょうか。心理学の記憶実験にヒントがあるように思います。こういう階層構造の一つ一つの位置に単語を書いて覚えてもらうと,ただ1列にずらっと並べて覚えてもらうよりも,記憶の成績が圧倒的に高いというデータがあるのです。記憶するときにこの形で覚えると,成績がよくなるのです。順番に覚えていくよりも,3倍ぐらい成績がいい。つまり,人間の脳は,階層構造になじむというか,階層構造を好む傾向が非常に強い。ですが,自分がこういう階層の1要素になると想像してみると,隣同士は全然つながっていませんから共有する情報がない状態ですし,ひたすら上と下を見ながら,上がっていくということを考えざるを得ない形になっているのです。ですが,人間の心とか脳はそういう仕組みになっていないことは,脳科学の教科書を開けばすぐ分かることです。脳というのは細胞構築学的に幾つかグループ分けできる仕組みにはなっていますけれども,前頭葉だけで何かをするとか,後頭葉だけで何かをするということはなくて,見ても,聞いても,いろんなところが全部ネットワークでつながっていまして,情報がはいるとあちこちが活性化するわけです。ニューロン同士がつながり合って全体で仕事をする,そういう仕組みを私たちの脳が持っているのだとしたら,こういうネットワークの仕組みをうまく社会の中に取り入れていくことはとても大事なのじゃないだろうかと考えます。
 これは最後のスライドですが,これからの社会ということです。
農業の世界に普及指導員という人がいて,いろんな人や組織をつなぐ仕事をしてきた。それと同じように科学技術の普及指導員のような役割を持った専門家を育てる。作る人と使う人をつなぐ役割の専門家がいてもいいんじゃないかということを思いました。実際にそういう方,サイエンスコミュニケーターとか,いろんな名前で既に活躍しておられるのかもしれません。そういう仕事がますます重要になってくると思います。
 さらに,物と心というものもそれぞれを別々に考えて,後でつなごうということではなくて,最初からワンセットで考える。物を作るときに,それを作った人がどういうところまで考えて作ったのか。今の世の中だけのものなのか,次の世代まで残そうとして作っているのか。そういった情報の伝達が非常に大事になると思います。
 それから,分業の見直しです。階層構造の中に横のつながりを強める仕組みをつくり,さらに,それをネットワーク化していくという発想が重要になってくると思います。
 もう一つ,これは,ブータンに行って考えたことの一つなのですけれども,日本人の心に合った科学技術というものがおそらくあるに違いないと思うのです。ブータンには日本人が技術提供して造った頑丈な橋があちこちにあります。ほかの国からも技術者が来て橋を造っているのですが,日本人が造った橋はとても頑丈ということで,ブータンの人たちに評判がいい。きっちりやる,几帳面に,真面目に作るということが日本人のメンタリティーとしてあるとすれば,日本人が提供する技術は,日本以外の社会でも信用されて,日本に対する,あるいは日本文化に対する評価や憧れにもつながるのじゃないか,双方にとって意義のある科学技術イノベーションということもこれからの課題だろうと思います。
 欧米に勝つとか負けるとか,そういう競争のメタファーで考えてきた姿勢から,今はもっと日本人に合った価値観を取り入れて考え直す時期なのではないかと思います。誰に役に立ててもらえる技術なのか,利用する人が喜んでくれて自分もうれしい,そういう利他の技術というのはどういうものなのか。こういった視点から,日本の科学技術の価値をもう一度考え直してみると,今,日本が持っているいろいろなリソースは,日本だけではなくて,世界中でもっと活用できるのではないかというふうに思っています。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。役所の仕組みがいかに自然の人間の思考過程と合わないかということを明確に御説明いただき,よく理解できました。
 御質問を伺う前に,一つ申し上げますと,科学技術という言葉は一般社会では,おそらくサイエンス・ベースド・テクノロジー,科学の知識を活用した技術ととられていると思います。しかし,法律用語で例えば科学技術基本計画などの科学技術という言葉はサイエンス・アンド・テクノロジーです。そのため,科学と技術の間に点を入れるべきなどの議論があるのです。それから,科学技術イノベーションという語も,科学と技術とイノベーション,となっておりまして,文部科学省用語辞典というのを作って発行しなければいけないと思っています。先生は大変影響力のある方ですので,定義の問題を一言申し上げておきます。
 科学技術イノベーションといったときに,もう科学も技術もやめて,イノベーションだけするのかと,特に大学等で受けとめられているところがあります。それは,科学と技術とイノベーションを総合的に振興するという意味ですので,誤解のないようにお願いしたいと思います。
 大変有益なお話をお二人から伺いましたが,何か御質問ございますでしょうか。

【野間口主査代理】 
 よろしいですか。
【野依主査】  では,野間口主査代理。

【野間口主査代理】 
 お二人の先生から,大変素晴らしいお話をいただきありがとうございました。私,産業界の経験が長いのですけれども,日本が世界で産業という面で競争をするやり方がこれからどんどん変わっていかなければならないということで,小林先生,吉川先生のような考えが広がってきていると私は思いますが,まだ主流にはなり得ていないという気がいたします。
 それで,吉川先生のお話の中でブータンの話題がございました。私は国際的な標準化機関であるISOのナショナルコミッティの会長を務めておりますが,ブータンは国民総幸福量(GNH)をISOの機関誌で堂々と紹介しまして,私はそれを読ませていただき,全てを把握することはできませんでしたが,吉川先生がおっしゃったような議論を堂々と展開しているのです。
 ただ,世界のすう勢から申し上げれば,まだあまり賛同者が出てこないというのが現状かと思います。しかし,GDPやGNPなどによる把握だけでは,これからの社会においては不十分ですので,国民総幸福量あるいは主観的幸福感(SWB)というようなコンセプトを入れていかないといけないと考えます。京都大学におけるブータンでのそのような活動をしておられる方々をより応援していただきたいと思います。これらの活動については世界への発信力というのはどうしても低いと考えられますので,ぜひそういう視点も入れていただければと思います。

【吉川教授】 
 ブータンには,これまで京大の研究者や学生が60人ぐらい行きました。みんな,不思議に元気になって帰ってきます。それが心理学者としてはとても印象深く感じています。そういう力がブータンにあるということです。発展途上で,厳しい環境で,資源はほとんどない国だと思うのですが,精神的な価値の部分がしっかりしている。日本人にも何かヒントになる要素がいろいろあると思いました。

【野間口主査代理】 
 ハピネスというと,人それぞれ捉え方が違うと思いますが,サティスファクションという考えも入れていった方が良いのではないかと考えます。

【吉川教授】 
 そうですね。

【野依主査】 
 柘植委員,どうぞ。

【柘植委員】
 私はどちらかというと工学,しかも古いというか,伝統的な工学の中でやってきた者なんですけれども,特に東日本大震災以降,まさに小林先生,吉川先生のおっしゃる方向を開拓しないと,やはり工学の社会的な使命はもう果たせないという考えで,今,日本工学会でも捉まえて,いわゆる一つの工学の社会的な使命を開いていこうと模索している中で,今日のお二人の話というのは,本当にその方向だなということで目を開かされました。
 そんな中で,後ほども説明があるんでしょうが,資料2-3-2,社会の要請に応える科学技術イノベーション政策の議論の中で,ちょっと先取りしてしまいましたけれども,4ページのまとめの②です。「異なる世代や立場の者が共創するという観点から議論を行える場の活用と人材育成」,ここではどうしても人材育成という言葉になってしまうのですけれども,実際は学術の場としての人材育成の上流側に高等教育と初等中等教育というのがあった上で,学術の場での人材育成というのができるわけです。そうなってくると初等中等教育の段階で,小林先生がおっしゃったいわゆる素地,やはり専門性もきちんと教えていかなければいけないわけですけれども,複数の専門分野を動員して協働する能力,この素養もやはり初等中等教育でも何らかの教え方があるんではないかと私は思うのです。
 そういう意味で,教育方法,それから教育のカリキュラムについて,もうちょっと研究していく必要があろうかな。そして,それを今度は我々の場じゃなくて,教育の場のほうでそれを生かしていただく。教育側としては,そんなこと言ったって教えることが多過ぎるよという論理がありますが,教育の場との橋渡しというものも,文部科学省は責任を持っていますので,そこにつないでいきたいなと思いまして,ぜひそういう分野の研究をまた教えていただきたいと思います。

【野依主査】 
 今,小林教授が科学技術に携わる人たちの価値観の変換ということで,科学技術セクターと大学セクターとの間で少し人材育成のかい離があるとおっしゃいました。私も今,科学技術セクターにいますが,そこでは,この問題が相当取り上げられております。尾身幸次元議員がSTSフォーラム,“Science and Technology in Society forum”という国際会議を京都で毎年やっていらっしゃいます。いわゆる研究開発独法ではこの意識が非常に強くなって,社会との関わりについて随分一生懸命やっております。研究者たちも,なかなか進みませんが,そういう意識は深まっているように思います。
 むしろ,若い研究者,これは大学から来るのですけれども,そういう人たちのほうが保守的というか,伝統的な学術にこだわる傾向が大変あるように感じます。これは,個人それぞれの意識の問題もありますが,大学あるいは独法などの機関が総力を挙げて,その方向にもっていく,経営,運営,指導をしなければいけないと思っております。

【小林教授】 
 よろしいですか。

【野依主査】 
 どうぞ。

【小林教授】 
 柘植先生の御指摘,本当に大事なポイントだと思います。若手の研究者が意外と保守的であるというのもよく分かる状況でして,それは,多分,評価システムの問題です。非常に短期間の競争的な構造に追い込まれますと,成果の出やすいところにどうしても集中する,そういう行動が合理的だということです。
 教育の部分で初等教育・中等教育,それから高等教育,その二つについて簡単にお話しします。
 高等教育の一つの試みとして,私の所属するコミュニケーションデザイン・センターというのは耳なれない名前の組織では,大学院生に対する共通教育をやっております。違う研究科の学生を一つの教室に入れて,そして,どの研究科にとっても自分の専門性が圧倒的に有利にならないようなタイプのテーマを選んで,ひたすらディスカッションをやらせます。
 そういうことをやることによって,自分が持っている専門性が一定の癖を伴う考え方であって,ほかの考え方があるのだということ。そして,それが協働すると面白いのだということを経験させる,そういうプログラムをずっとやっております。
 ある工学部の学生が言った,非常に印象的な感想をちょっと申します。彼は工学部として専門をやっているわけですが,「この授業で学んだことの一つを,例えば椅子を作るという観点を比喩にして説明させてください」といって,こう言ったのです。
 「今まで自分は椅子を作るというと,素材とか,強度とか,価格とか,そういうことだけを考えて設計するという発想だったけれども,この授業に出たことによって,この椅子を買う人はどんなことを求めているのだろうか。あるいは,この椅子はどんな場面で使われるのだろうかということまで考えることが大事だということに気がついた」という言い方をしました。そういう視野の広がりを若いうちから与えるのが,これからの工学教育やサイエンスでも物すごく大事だと思っています。
 初等教育・中等教育のところでは,やはりPISAのテストの問題が非常に大きいと思います。PISAテストの例えば科学リテラシーというものをテストしていますが,そのときの目標というのは,市民として社会に対してちゃんと参加するという能力を科学教育を通じてやるといっているわけです。
 そういう発想が埋め込まれているものがOECDで考えられている。日本の学校教育もPISA的な発想,社会に関わるという視点を入れていこうということで,ワークショップ型の授業を少し導入するなど,国語とか社会では始まっているのです。しかし,理科が一番だめなのです。日本の理科教育は,そういうものをなかなか取り入れようとせずに,やはり専門性の基礎になる知識を与えるというところに,まだ焦点が行き過ぎていると思います。
 私は,従来型の専門知識の教育を全部やめろなんて言うつもりはない,両方要るので,そのバランスをもう少し考える時期が来ているということが大事だと思います。

【野依主査】 
 これから議論をまだ続けていく前に,まず,事務局から取りまとめの案を説明していただき,その後で議論を続けさせていただきたいと思います。
 では,よろしくお願いします。

【阿蘇計画官】 
 ありがとうございます。既にこれまでの御議論の中で出てきておりますけれども,資料の2-3-1をごらんください。本日,取りまとめに当たりまして,これまで御議論いただいてきたことを事務局でまとめました。こちらの資料を使って御説明いたします。
 左上のところでございますが,これまで技術の進歩が需要を生み出すというリニアモデル,あるいはキャッチアップ型,あるいはディシプリンの深化を重視してきた,あるいは分野別の重点化というところから,本日も大垣先生,小林先生,吉川先生から御指摘ありましたように,変化する社会,先の見えない社会,課題先進国へというふうに言われております。
 このような中で,第4期科学技術基本計画では,社会的課題に対応するための科学技術,あるいは価値の創造をしていくのだということがございました。そのためには,今日も御指摘ありましたように,社会との連携が不可欠であって,既存のディシプリンにとらわれない発想や研究が必要になってくるのではないかということ。さらに,これからは,自らの行き先,ルートを探して決める必要,ともに創り進めるという共創という考え方が必要ではないかという御指摘もありました。
 真ん中のほうでございますけれども,これから将来ビジョンの実現に向けて,エビデンスを踏まえた政策形成をしていくことが必要ではないかという御指摘をいただいております。
 そのために,前回,前々回,野村先生,柘植先生から御指摘いただいたように,科学技術,価値,社会実装,これらをつなぐデザイン思考を有する者が,ともに課題を発見・発掘し,克服するためのアイデアを創り出す場の活用,それとともに人材育成があわせて必要ではないかということ。また,先ほどもありましたように,この7月の基本計画推進委員会で御報告しましたけれども,国民・専門家・行政の役割といった中で,様々な御意見をいただきました。これまでの科学技術の理解の増進,あるいは共通認識の醸成に加えて,これからは「社会とともに創り進める」ということが必要であるということ。そのための相互の信用,信任に基づく政策形成が重要であって,対話の充実と継続,あるいは政策形成過程への取組についても御意見をいただいて参りました。
 さらに,こういったこととあわせまして,国民の科学技術リテラシー,あるいは専門家の社会リテラシーの向上,エビデンスの基盤の蓄積と研究の推進をしていくことが必要ではないかという御意見もいただいておりました。
 最後,まとめでございますけれども,先ほど柘植先生からもございましたが,一つとして,将来ビジョンの実現に向けて,エビデンスを踏まえて政策の選択肢を形成することが重要であること。二つ目として,異なる世代や立場の者がともに議論を行える場の活用と,人材育成をしていくことが重要であること。三つ目として,対話について多様な取組を通じて,手法の蓄積・改善をしていくことが重要であるということ。
 この三つのまとめでございますけれども,さらに各分科会等において,こういった点に留意した議論を今後とも進めていく必要があるということ。あるいは本件,非常に重要な事項でございますので,今後も継続して議論していく必要があるということで,まとめとさせていただきたいと考えております。
 今,御説明したことを文章でまとめたものが資料2-3-2の4枚紙でございます。さらに,先ほども小林先生から御指摘いただきましたけども,これまで出された御意見を,別添につけてございます。
 事務局のほうの説明は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 これを受けまして,ここにいらっしゃいます土屋局長が,COI,センター・オブ・イノベーションを実際の施策に取り入れられていかれることになります。後で決意のほどを伺いたいと思います。
 その前に,今の事務局の説明を踏まえまして,もう少し議論を続けます。今の取りまとめに,お二人の先生のお考えもつけ加えさせていただきたいと思います。御質問はございますか。佐々木委員,どうぞ。

【佐々木委員】 
 この取りまとめそのものについては,これまでの議論を踏まえて整理がなされているというふうに思っております。
 ただ,先ほど両先生からのお話にも触発されて,特に思うんですけども,実際社会の要請とか技術という問題について,我々が直面している具体的な課題について,どういうふうに切り分けるかという問題をどうするかという話です。ここでやる必要はないかもしれないですけれど。
 ですから,小林先生が繰り返し言われたことなのだけども,例えば原発に関わる問題がいろいろ社会との関係で,難しい問題は残るだろうと思います。しかし,これがクリアできなければ前に進めないという話だといかがなものか,というような切り分け,それと,これも先ほど両先生からのお話の中で出てきましたけども,やはり具体的な課題設定をどうするかという問題をどこでやるのか。
 ですから,例えば一例を挙げれば2050年の日本でもいいですよね。それと科学技術だけじゃないと思いますけど,それこそ人文社会も含めて,それから宗教,あるいは価値観も含めてどうするんだいというような,焦点を誰が設定するのか。設定した以上は,責任を負わなければいけない。しかし,私の見ている限りでは,結局,両先生から出されたいろんな議論に合わせたような焦点の設定が政策的には必ずしもはっきりしなくて,ブレーキをかけたり,アクセルを踏んだりしている。先ほどの満足度が低いという話も,だから,低くしておくともっと頑張るだろうからいいじゃないかという話に容易に読みかえられる,そういう議論の力学というのは延々と続いてきた。これは,小林さんが言われた例の自然との関係,あれだけのギャップがあるわけですよね。これがあるのに,じゃあどうするんだという話になると,そこの歯車がなかなか回らない。
 これは,非常にはっきりしているわけで,そういう中で我々,あるいは野依会長をヘッドとして我々がどの程度の範囲を自分たちの決定をやれるのか。できれば,次期におかれましてはぜひ,誰がどういうふうな形で具体の問題を扱うのかについて議論をしてもらいたい。一般論の問題は,今回の取りまとめで一段落させていただいて,次期にはぜひ次のステップに踏み込んだような話をしてもらいたいという希望です。

【野依主査】 
 今までのサイエンスとテクノロジーにつきましては,今までの枠組みで国として推進していくことができると思いますが,イノベーションになりますと,やはり社会横断型で価値観を変えていく,あるいは新しい価値観を創っていくことをしなければいけません。そのときに国としていかにして推進していくか,あるいは価値を作ることに国が関わっていくかということに大変悩ましいところがあろうかと思います。
 土屋局長,今の佐々木委員の御質問,何かお考えありますか。

【土屋局長】 
 今,佐々木先生おっしゃられたことに関連してなんですが,今日の小林先生からのお話も科学技術をどう進めていくかということで,従前のやり方,新しい知識とか,技術を生み出していくことを目指す活動に加えて,今後必要になってくるのは,社会が求めるものは何であって,社会が求めることの課題を達成する,そういう進め方が重要になってきているというふうに我々も認識しております。
 先ほど言及していただいたセンター・オブ・イノベーション構想については,社会が何を求めているかという,そこからバックキャスティングで新しい研究開発を進めたいということで取り組んでいます。しかし,先ほど佐々木先生がおっしゃられたように,では何を目指したらいいのかというところが,本来は一定の目標を皆さん共有されているべきだろうと思うんですが,世界の中でも,あるいは日本の中でも,そこがはっきりしていない。技術の発展が非常に早いにもかかわらず,技術の発展方向に目指すべきものはなくて,多分,違うわけですが,どこを目指したらいいのかというのは非常に難しくて,我々も中で毎日いろいろ議論しております。
 今日,ただいま,今のこの時間に,実はそのためのトライアルの第1弾を始めていまして,フューチャー・ワークショップということで,多様な背景を持った方々に,未来はどうあるべきかというビジョンについての議論を相当やっていただいております。私もここが終わったら,すぐに行こうかと思っているのですが,多分,非常に発散した状態になるんじゃないかと思うんですが,発散の中からどう整理していくかということで,また,今日の議論,さらにずっと続けていきたいと思いますので,節目節目でそちらの議論についても,この委員会で御報告させていただいて,さらに御議論を詰めていただければというふうに思っております。

【野依主査】 
 やはり主たるイノベーターは,おそらく民間だと思います。国が何を提供できるかといえば,その場を提供する,触媒を投入する,あるいは人材養成,そのようなことではないでしょうか。
 しかし,非常に難しいのは,アカデミックセクター側では,やはり公開性,公平性,中立性あるいは独立性が社会から求められることです。一方で,イノベーションには知財の問題や研究の秘匿性,資金を公的ではなくて私的に集めるということがあり,ベクトルが違っている。それをいかにして国が推進していくのかということで,佐々木委員おっしゃったように,ブレーキを踏む,あるいは,そこに大きな障壁を作るということが得てして起こりかねない。大変難しい問題ですが,ぜひ考えていただきたいと思います。
 柘植委員,どうぞ。

【柘植委員】 
 今の主査がおっしゃった話は堅持しなければいけないのですけど,やはり佐々木先生がおっしゃった,いわゆる方法論としての切り分け,具体的な社会的課題の解決というのと,それから,今日の両先生のお話というのは,社会における学術として新しいフロンティアの方向を示されたと思います。これは時間がかかると思うんです。
 一方では,待ったなしの話,社会的な課題にも,我々は直面していて,私は,その二つの進め方が課題と思います。具体的に言うと,オールマイティーかどうかわからないのですけど,第4期の科学技術基本計画が目指すべきイノベーションというのは,三つの方向性を設定したわけです。つまり,震災復興,ライフイノベーション,グリーンイノベーション。具体的な課題として進めていくに当たって,今日の両先生の指摘も含めて,それはまさに失敗を恐れずと小林先生が最後のほうで言いましたけれども,学術としての方法論がまだ確立されていないけれども,失敗を恐れずに,社会的試行を行う勇気ということを言われました。
 ですから,その道と学術の新しい領域として,これは,人材も含めてきちっと育てていくんだと。これも第4期の基本計画に基礎研究と人材育成とありますので,その二つのカテゴリーで,やはり政策はきちっと仕分けしながら進めていく。それに従う投資も行う。こういう話が資料2-3-2の最後のあたりで,もうちょっと鮮明に打ち出すべきではないかと私は思います。

【野依主査】 
 これは,やはり研究が手段となるわけですが,全体を管理する人が要ると思います。研究者に丸投げすれば食い逃げにつながりかねません。イノベーションの名において,それと似て非なる活動をするということが今まで何十年と行われてきたわけです。ですから,やはり個々の研究者も大事ですが,工程を管理するということが大変大事じゃないかと思っております。
 では,黒田委員,どうぞ。

【黒田委員】 
 今おっしゃったこと,それから両先生の今日の御発表,非常に興味深いし,非常に重要なことだと思います。しかし,根本的には,たしか小林先生がおっしゃった,3.11以来,国民の科学に対する信頼を失ったこと,それから,おそらく政治家に対する信頼も失っているというところを今,科学者がどういう方向で,それを回復しようとしているのかというメッセージをまとめの中ではきちっと送らないと,やはり国民の信頼は回復できないのではないかという気がします。
 小林先生の資料と吉川先生の資料,非常に面白い資料です。小林先生の4ページの最後のグラフですけど,これ見てびっくりしたのですが,ちょうど逆転しているときというのは1973年のオイルショックなのですよね。それまで日本経済というのは順調に,単線的に上がってきたわけです。ここへ来て初めて資源制約だとか,エネルギー制約とかというのが頭に来て,今までの科学観に対して違った見方を国民がするようになったんじゃないかという意識が非常にするのです。これからの科学観というのは,科学がどんどん進歩するとともにフレキシブルに変わってくるのじゃないかと思うのです。だから,ビジョンも変わらなきゃいけないし,目的も多分フレキシブルに変わらなきゃいけない。
 ところが,片方の科学技術そのものはどんどんハード化していって,一度作ったものはそう簡単に壊せないという状態になっている。そういう状態の関係の中で,国民のビジョンをどうやって吸い上げて,納得のいくものにしていくかというのが,これから一番重要な科学観ではないかなと私自身は思っているのです。その辺はナチュラルサイエンスの先生方と多分,随分違うのではないかという気がします。

【野依主査】 
 ほかに何かございますか。では,井上委員,どうぞ。

【井上委員】 
 いろいろな方が,これまでこの場で話をされてきたと思うのですけれども,どなたも,科学者が,野依先生のようなノーベル賞を目指していろいろなことをやっている世界から,いろいろなものが生まれてきていて,それらを社会の課題に向けて生かしていく何らかのメカニズムが必要だということをおっしゃっていて,私もそのとおりだと思います。今日のお話も,科学者の価値観ではない,別の価値観での判断に対して,科学者側が意見をきちんと出していくということは,そのとおりだと思います。しかし,まずは,科学者の論理ではない価値観に対して,まさに佐々木先生のおっしゃったとおり,科学者側がどういう価値観のもとに判断をせよと言われているのか,そこにどういう形で何に対して責任を持つかというようなことをはっきりしていかないと,もう一つ先へ進まないのだと思うのです。
 特に,この話が民間の中で,産業界みたいなところが新しい産業を発展させる技術を生み出したいという背景のもとに答えを出していくなら,多分,前回発表のあったやり方のように,いろいろなことが考えていけるのだと思うのです。しかし,ここで議論されているのは,国側が国全体としていい方向に行くためのイノベーションをどうするかということだと思うのですけども,そうだとすると,国側としては,学という立場が国のいろいろな課題に対して,継続性を持ち,非常に長期的な視点を持って,責任を持って対応していくことに対してどういうイメージを持っておられるのでしょうか。
 多分,こういう審議会という形では,ある意味,我々は責任は持ちきれないですよね。いろいろなことを申し上げるけども,責任を持つ仕組みではない。責任を持つと言う形がすごく大事だと思うのですね。そういう点の議論がもっとあっていいのではないかと思います。

【野依主査】 
 土屋局長,いかがでしょうか。

【土屋局長】 
 今の御指摘の問題ですが,一番大きな我々の反省点というか,昨年3月11日の事故を踏まえて,いろんな事柄が起きた中で我々の今の問題意識は,責任を持つという意味でいえば,科学コミュニティとして社会に対して科学的根拠を持ったオプション,可能なオプションを整理して出していただく。そこについては責任を持っていただくというのが大事じゃないかと。
 ただ,オプションが幾つかある中で,経済,社会全体のことを考えて日本の政策として何をとるかは政治の問題。政治の問題と科学コミュニティの問題との切り分けが明確にできていなかったのが昨年の混乱の原因だと思うのですね。ですから,そこのところの仕組みをしっかり作ることが必要ではないかというふうに思っております。

【野依主査】 
 ほかございますか。野間口主査代理,どうぞ。

【野間口主査代理】 
 今の土屋局長や井上先生のお話も理解できますが,やはり昨年3月11日の東日本大震災の復興も非常に重要ではありますけれども,それだけではなくて,第4期科学技術基本計画において,「目指すべき国の姿」というものを議論しました。キャッチアップの時代を卒業して,世界を先導しながら進むような国になっていこうと議論しました。そういう理念のもとで,我が国が中長期的に目指すべき五つの項目を決めたと思います。キャッチアップのときは,はっきりとしたものに追いつこうという目標がありますが,そうではない場合には課題設定は簡単ではありません。したがって,そういう国家としてのビジョンといったものは基本的な狙いとしてあるべきもので,起こってしまった東日本大震災に対してはできるだけ効果的に早急に対応するという視点で臨まなければいけないのではないかと考えます。

【野依主査】 
 ほかに。國井委員,どうぞ。

【國井委員】 
 ありがとうございます。変化が非常に速くて,いろんな価値観も変わってきている中で,イノベーションが極めて重要ですが,さっきの野依先生のお言葉がちょっと気になりました。イノベーションは民間が最終的にはやるところだということなんですけど,イノベーションを起こすためには,やはり最初の課題設定のところから研究者も技術者も一緒になって考えていく必要があり,いろいろなことをトライしながら,設定が大きくダイナミックに変わってくると思うのですね。
 だから,そういうことを考えると,リニアモデルじゃ無理です。ここで,どっちかというと,最後の結論はデザインという言葉になっているのですけど,モデルとしてプロセスに関して,リニアモデルじゃなくて,もっとダイナミックなモデルというところもきっちりと強調して,それをシステムにしましょうというポイントが重要じゃないかと思うんです。

【野依主査】 
 そうです。クラスターモデルでやらないとだめだと思います。そこは,さっき脳のモデルが,役所の組織と対応して出ていましたけども,ネットワークで,やわらかい対応ができなければいけない。ただ,そこで国が入ってくると,つながりがまた分断されてしまう。ですから,基礎科学,もちろん非常に技術も大事ですが,いかにダイナミックなクラスターを作っていくか。そこには初めからビジネスや,デザインというコンセプトが入っていないと,社会に実装できないと思います。大変難しいですが,また御指導いただきますようお願いします。

【國井委員】 
 最近の新しいイノベーションはフェイスブックにしろ,マイクロソフトのOSにしろ,学生時代にやっているんですね。19歳が重要だとかいう話がどこかでありましたけれど,そういうカルチャーを研究,教育機関の中で創っていくべき,と思います。

【野依主査】 
 国よっては大学,あるいは大学院で必要な教育を取り込んだ,研究と教育を一体にした活動ができているわけです。日本は,まだ,そこに至っていないのではないかと思っております。
 では,大垣先生。

【大垣委員】 
 今の若い人という話が出ましたけども,さっき私はキャリアの絵を描きましたけども,今,私の研究所なんかで見ていると,若い世代が3.11を受けた後の研究に対する意欲がすごく変わっているのですよね。これは,実は60代で今回の3.11を経験したのと20代で経験したのでは世代間の意識が全く違っていると私は思います。ですから,我々がやらなきゃならないのは,新しい世代に対して,そういう活動ができるような公的な場をきちんと与えていくという仕組みが必要かなという気がいたします。

【野依主査】 
 そろそろ予定した時間になりましたので,このあたりで議論を終了させていただきたいと思います。
 本日もいつも同様,様々な御意見をいただき,大変難しいですが,具体的な修正は事務局と私にお任せいただきたいと思います。よろしゅうございますか。ありがとうございます。
 それでは,そのようにさせていただきます。決定するまとめについては,後日,委員の皆様に送付させていただく予定にしています。ありがとうございました。
 続きまして,議題3「その他」,今後の委員会の日程等について事務局より説明をお願いします。

【藤原計画官補佐】 
 先生方,本日もありがとうございました。次回,第8回でございますけれども,推進委員会の開催につきまして,野依主査と御相談の上,また皆様に御連絡させていただきたいと思ってございます。
 また,いつものことでございますが,本日の議事録につきましては,後ほど事務局よりメールで皆様にお送りいたします。御確認いただいた上でホームページに掲載させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは,科学技術・学術審議会第7回の基本計画推進委員会を終了させていただきます。ありがとうございました。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)