基本計画推進委員会(第6回) 議事録

1.日時

平成24年9月26日(水曜日)13時~15時30分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学技術・学術審議会の各分科会等における議論の状況について
  2. 「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的考え方について(有識者からのヒアリング)
  3. 最近の科学技術政策の動向について(文部科学省における研究開発評価,平成25年度科学技術関係概算要求,平成25年度科学技術重要施策アクションプランの対象施策について)
  4. その他

4.出席者

委員

野依主査,野間口主査代理,有川委員,井上委員,大垣委員,國井委員,黒田委員,佐々木委員,柘植委員

文部科学省

森口事務次官,山中文部科学審議官,藤木文部科学審議官
  (大臣官房)田中総括審議官,德久政策評価審議官
  (科学技術・学術政策局)土屋局長,田中次長,磯谷科学技術・学術総括官 兼 政策課長,阿蘇計画官,藤原計画官補佐
  (研究振興局)吉田局長,森本審議官
  (研究開発局)鬼澤審議官

オブザーバー

東京大学 小川特任研究員,株式会社フューチャーセッションズ 野村代表取締役社長

5.議事録

【野依主査】  
 ただいまから科学技術・学術審議会第6回の基本計画推進委員会を開催いたします。
 本日は,平野委員が御欠席,柘植委員が遅れて御出席とのことです。また,東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センターの小川特任研究員,株式会社フューチャーセッションズの野村代表取締役社長においでいただいております。
 それでは,事務局から資料の確認をお願いします。


【藤原計画官補佐】  
 それでは,資料の確認をさせていただきます。
 机上に大きく二つに分けて置いてございます。
 一つが,議事次第が上になっている束でございます。議事次第の1枚紙,裏に配付資料を書いてございます。本日の配付資料といたしまして,資料1関係が資料1-1と1-2,資料2の関係が2-1,2-2,2-3の3点。それから,資料3の関係では,こちらも3-1,3-2,3-3と3点,御用意してございます。
 それから,小さなほうの束でございますけれども,そちらに参考資料が1から10まで御用意しております。また,科学技術基本計画の冊子を御用意させていただいております。
 もし足りないものなどございましたら,いつでも結構でございます。事務局のほうまでお申しつけくださいませ。
 以上でございます。


【野依主査】  
 ありがとうございました。
 それでは,議題1,「科学技術・学術審議会の各分科会における議論の状況について」に入ります。
 まず,前回,委員会を開催した7月24日以降の各分科会の審議状況について,事務局から報告いただきたいと思います。


【阿蘇計画官】  
 それでは,資料1-1をごらんください。前回,7月24日以降に進ちょくのあった箇所,斜体の太字,青色の字で示してございます。細かい点を省きますけれども,各分科会,委員会で報告が取りまとめられております。具体的には,研究計画・評価分科会,それから学術分科会,海洋開発分科会,先端研究基盤部会,産業連携・地域支援部会で取りまとめられておりますので,御報告いたします。
 以上でございます。


【野依主査】  
 ありがとうございました。
 続きまして,研究計画・評価分科会において研究開発方策が取りまとめられましたので,同分科会長の大垣委員から御報告いただきたいと思います。
 それでは,大垣委員,お願いします。


【大垣委員】  
 大垣でございます。
 研究計画・評価分科会では,これまでの分野別の検討に加えて,課題領域ごとに関連する他の分科会などとも連携・協力し,研究開発方策の検討を進めてまいりました。このたび,8月23日に開催された第42回研究計画・評価分科会におきまして研究開発方策の取りまとめを行いましたので,報告させていただきます。
 資料1-2として,配付させていただいております。ただいまから簡単に説明いたします。資料に沿った形での御説明はいたしません。
 既に四つの課題領域として,「環境・エネルギー」「医療・健康・介護」「安全かつ豊かで質の高い国民生活」「科学技術基盤」において検討を進めていること。それから,各領域で課題達成のためのふかん図を作成することについては,御報告しております。全体をふかんする図につきましては,既存の枠にとらわれず,分野横断的な視点から課題を掘り起こすこと,及び課題領域ごとに課題を達成するために分野間連携をできる限り明確にし,必要な手段・方策を明らかにするという観点で作成しております。同様に,施策マップを作成し,課題解決に向けたタイムスケジュールが見えるように取りまとめております。
 この取りまとめについて議論を行った際に委員の方々から出た意見を申し上げますと,例えば「分野横断的な研究開発を検討して取りまとめるということは,恐らく今回が初めてであると思われるが,非常に大事であり,いいやり方をスタートさせたと思う」,別の御意見で,「課題を解決するためにふかん図を用いたことについては,社会の重要課題を解決するために必要な課題が見やすくなっており,それぞれの課題を達成すれば大目標を達成できるような図になっていることから,国民にもこういう図で説明することはわかりやすいと思われる」,3番目に「研究開発方策については,関連する分科会・委員会が,期限が限定されていたにもかかわらず,連携して取り組んだことの意義は大きく,今回の取りまとめがゴールではなくて出発点であって,このような分野横断的な取組を,今後も維持・継続していくことが重要である」という御意見をいただいております。
 研究計画・評価分科会といたしましては,この委員の方々の御意見を受けとめまして,今後ともこのような分野横断的な考え方を整理・発展させていくこととして,研究開発を推進していきたいと考えております。
 以上でございます。ありがとうございました。


【野依主査】
 ありがとうございました。研究開発方策の取りまとめに当たっては,分科会の枠を超えて議論する場の設定,ふかん図の作成など,新しい試みをしていただき,ありがとうございました。大変な試行錯誤があったのではないかと思っております。
 関連する分科会や委員会が連携して,分野横断的に取り組んでいただくことは大変重要です。今後ともこのような取組を続けていただきたいと思います。
 ほかの分科会から御報告はございますでしょうか。ございませんでしょうか。
 それでは,議題2,「「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的考え方について」に移ります。
 前回,柘植委員からは,教育/研究/イノベーションの一体的推進などについて,黒田委員からはエビデンスに基づく政策立案の必要性などについて御意見をいただきました。また,社会と科学技術イノベーションの関係を議論するに当たっては,将来,科学技術イノベーションでどのような社会を実現するのかという視点も大変重要であると考えております。
 そのような問題意識に基づいて,今日は,これまでと少し異なる視点からお二人の御意見を伺うことにしております。先にお二人の御発表,その後質疑応答の時間をまとめてとりたいと思っております。
 まず,東京大学の小川紘一特任研究員から御発表いただきます。
 小川特任研究員は,企業の研究所で基礎研究に従事した後に事業部へ転じ,商品設計,海外生産からマーケティング,国際標準の制定などに従事されました。その後,東京大学の経済学部において産業競争力の強化の方策などに関する研究をなさっています。今日は,社会構造や産業構造の変化を前提に,日本がとるべき科学技術イノベーション戦略あるいは科学技術イノベーションにかかわる人材養成の必要性などについて御発表いただくことになっております。
 それでは,よろしくお願いいたします。


【小川特任研究員】 
 承知いたしました。小川でございます。民間企業の研究所中で18年ほど研究に従事してから実ビジネスに携わり,それから大学の経済学部で日本の産業競争力に関する研究をしてきました。
 事務局の方から“社会と科学技術イノベーションとの関係”という大きなテーマをいただきました。前述の私の経験を踏まえて,スライド1にあるようにいただいたテーマを【グローバルな社会構造・産業構造の転換と 我が国イノベーションシステムの方向性】という演題に置き変え,以下の三つの視点からお話をさせていただきます。
 まず最初に科学及び技術と経済成長に関するこれまでの考え方とその適用限界をお話します。2番目には,今までの常識が通用しない産業領域が急拡大していること,その背景に,社会構造あるいは産業構造の転換があったということをお話します。これを踏まえて3番目に,今後のイノベーションシステムの方向性について私見を述べ,皆さまに御意見をたまわりたいと思います。
 スライド2で,我々は何のために巨額のお金を科学と技術に投資するのかについて,整理してみました。
 まず第一に,人類の知の資産の継承・拡張・蓄積です。これは科学技術基本計画に記載された知のフロンティアの開拓,という表現に相当するでしょう。
 第二に,今回の第四期基本計画で特に重視なさった,いわゆる人類共通の課題や我が国の課題を克服するために科学技術の力を使う,という目的がございます。そういう意味では,例え基礎研究であってもヨーロッパのFramework Program(FP)が採る目的基礎研究が中心になるはずであり,また課題克服には巨大な技術体系の組合せ融合が必要になるという意味で,技術サイドだけでなく政策側のイノベーションが特に重要となります。
 しかしながら今日の講演では,次に第三として,企業活動や政策を介して科学技術の成果を国の持続的成長や雇用にどう結びつけるか,という視点に着目してお話をしたい。この件については,まだ大まかなことしか分かっていないようですので,企業で基礎研究から実ビジネスまで担当した経験を生かしながら,私なりの解釈でお話し申し上げたいと思います。
いずれにせよ,今回の第四期基本計画がスライド2の第二番目と第三番をも重視する方策になっているという点で,日本のイノベーションシステムにとって画期的な思想の転換ではないでしょうか。皆さまの御尽力に対して深く敬意を表します。
既科学技術が経済成長にどうつながるかについては,これまで多くの経済学者によって議論され,いろいろな説があります。これをスライド3で紹介しますが,代表的な例として1957年にR.Solowが提案した外生的経済成長論があります。Solow氏はこれでノーベル経済学賞をもらっています。この理論で有名なのが,「経済成長の85%が実は技術進歩によるものなのだ」と言う指摘であり,これをSolow残差という言葉で表現しました。残差,つまり従来の資本投下や労働人口だけでは説明できない残りの成長を,科学技術の貢献による成長と考えたのです。
しかしながらSolowは,この技術進歩を「過去の知の蓄積の派生物」とか「空間的・時間的に外部から伝ぱしてくる」という形で理論に取り込みました。ですから,アメリカの科学アカデミーなどは,特定の企業や特定の国というより,むしろ人類社会の発展に貢献する基礎研究の重要性を,Solowの考え方を利用して訴えました。
確かにインドや中国,台湾,タイなどへ行きますと,技術の伝ぱ・導入・着床によって経済が急成長している実態を身近で見ることができますので,Solowの考えが基本的は正しいように思われます。
 2番の重要な学説はP.Romerが1986年に発表した内生的経済成長論です。この人は,まだノーベル経済学賞をもらっていないようですが,技術進歩は確かに技術成長に貢献するという事実を認めた上で,技術進歩というのは,どこからか飛んでくるのではなくて,自ら投資して行う研究開発活動や学習経験,知識ストック,人的資本から生まれる,と主張しています。この意味で,国が補助金,減税などの政策手段によって企業の研究開発を奨励することに,お墨付きを与えました。これが現在の先進国の科学技術政策モデルを支える基礎思想になっているのではないかと思います。例えば売上げに対する研究開発投資の比率やGDPに対する研究開発投資の比率が重視される背景がここにありました。
 あまり表に出てこないのですが,Romerの学説から導きだされるもう一つの重要なことは,技術開発で必要とされる費用は最初の1回だけであって,開発されてしまえば,後から使う人がほとんど費用を負担することなくこの技術を活用できる,という点です。したがって,技術知識の相互交換が経済活動を活性化する,という考え方が生まれます。
第二に,技術が進歩すれば必ず需要が生まれるというリニアモデルが,暗黙のうちに仮定されています。
 Romerの欠点を克服して提案された代表的な理論が,スライド4で示す青木先生と吉川先生たちの需要創出型イノベーションです。1999年から2002年ころに提案されました。ここでは,どんな産業でもある時間がたつと必ず需要が減っていく,つまり収穫逓減するのだから,新しい需要を生み出す産業セクターをどんどん創出し続けることが雇用や経済成長を維持する上で必須である,と主張されています。言われてみれば当たり前かもしれませんが,技術イノベーションと経済成長の論体系の中で需要創出の重要性を明確に位置付けたのが,このモデルの大きな貢献だと思います。特に吉川先生は,先ほど御説明がありました“課題領域”とほぼ同じ領域を,日本が取り組むべきイノベーションの方向であると主張なさっています。
 ここで我々が留意しなければならないのは,技術イノベーションや製品イノベーションを主導し,その結果として需要が生まれれば,需要を生み出した国や企業が最も恩恵を受けるはずであるという,広い意味でのリニアモデルが青木・吉川モデルで暗黙の前提になっています。我々が経験するところによりますと,確かに80年代までならこの前提が確かに正しかった。あるいは国内の市場だけでこれを語るのであれば,現在でも正しい。しかしながら,吉川先生の前提が常識として通用しない産業領域が,特に21世紀になって急拡大しています。
 その実例をスライド5で紹介します。例えば液晶パネルとか電池,テレビも,DVDプレーヤーやカーナビ,太陽電池もみんな同じですが,例えば日本は液晶技術とその応用技術に,産官学連携で巨額のお金を注ぎ込みました。したがって,確かに初期のころなら日本企業が市場で優位に立ちましたが,大量普及しはじめると,見事に同じカーブを描いて日本企業が勝てなくなる,という現実です。1990年代の半導体も相当ひどいと思ったのですけれども,それ以上に2000年代に起きたスライド5の現実がはるかにひどい。この酷さがいろいろな製品で共通に現れますので,企業経営が悪いという話では決してありません。我々が知らなかった,あるいはまだ顕在化していない構造的な問題が,日本の製造業の中に顕在化して来たのです。この問題は,グローバル市場の産業構造転換によって現れた,というのが今回の私のお話の基本メッセージです。
 これを別な視点から,特に製造業に焦点を当て考えてみます。スライド6の横軸を研究開発投資額にし,縦軸を営業利益にして両者の関係を見ますと,先ほど申し上げたデジタル型のエレクトロニクス産業では,研究開発投資をすればするほど利益はほとんど出ない状況になっていました。雇用にも成長にもつながらないという状況が生まれているのです。
スライド6で左下から右上に向かって利益が増える工作機械,半導体の設備,建設機械,事務機械,そしてスライドには載せませんでしたが,この延長線の更に右上にある化学産業や,さらにその右上の自動車産業では,企業が研究開発に力を入れれば入れるほど,技術イノベーションの成果が大きな利益を生んでいます。これらの正常な産業とスライド6の右下のデジタル型エレクトロニクス産業とで,何が違うのでしょうか。
 同じ電機産業であっても,三菱電機や東芝,日立などの産業機械部門及びインフラ・システム系の事業部門では,その左側にある正常な産業と全く同じように,研究投資が利益に直接結びついています。つまり,右下に位置取りされた産業だけで,これまでの常識が全く通用しなくなってしまったのです。
 日本の製造業が厳しくなった原因をリーマンショックや円高のせいにする意見もありますが,円安が続いた2000年代の初めからこういうことが起きていたのです。円安の時代であっても常識が通用しなくなっていた,と言ってもよいでしょう。これをスライド7に要約しました。
まず第一に,常に最先端の技術に挑戦して,次々に技術イノベーションを生み出せば産業競争力が生まれるという常識が通用しなくなっています。もし通用するのなら,スライド5に示すような,日本企業の市場シェアが同じカーブを描いて落ちることはないはずです。
 第二に,グローバル市場で大量普及する製品開発をリードすれば産業競争力が生まれる,と我々は信じてきましたが,これもスライド5のデータでおわかりのように,常識で無くなりました。
 第三に,重要特許をいっぱい持っていれば勝てる,という常識も既に成立しなくなりました。例えば液晶関連で日本は世界の特許の80%以上を持っています。DVDは何と90%以上でした。太陽電池では70%以上の特許が日本企業によって出願・登録されています。しかしながら日本企業はグローバル市場で全く勝てません。インバータなどの省エネ型のデバイスではなんと90%に近い特許が日本から出願されています。
 第四に,国際標準の規格で主導権をとれば競争力が生まれる,という常識は,測定法の標準化とか基準認証という,産業構造が変わらない領域であれば確かに常識が通用します。しかしながら大部分のケースで常識が通用しなくなりました。このような経済環境が日本で最初に現れたのが1990年代後半のエレクトロニクス産業でした。現在の目でこれを見ると,背後で大きな産業構造の転換が起きていたのです。
これが単にエレクトロニクス産業だけのことなら放置しておけばよい,と言えるかもしれませんが,市場の現場では21世紀になってから他の多くの産業領域へも同じ現象が急拡大しているのです。
 このような経済環境の到来をアカデミアが分析していないので,まだ名前がありません。とりあえず第三の産業構造転換と定義して,スライド8に示しました。私の調査によれば,産業構造を転換させた要因として三つ挙げられます。まず第一に製品のアーキテクチャをモジュール型へ転換させるデジタル化の進展と,技術モジュールをグローバル市場へ瞬時に伝ぱさせるオープン標準化の進展です。第二にヨーロッパ,アメリカが強制的に変えた1980年代の産業構造改革が挙げられます。これを主導したのがサッチャーさんであり,レーガンであり,少し遅れてフランスのミッテランでした。
第三に挙げるべきことは,欧米の構造改革に呼応する形で立案・実施されたアジア諸国の競争政策です。これらが影響しあいながらグローバル市場でビジネス・エコシステムが急拡大しました。
例えばグローバル化という言葉が学術論文に出てきたのは1990年代の初めであり,ごく最近のことでした。
 スライド9に示したように,これまで語られる産業構造の転換とは,農業から工業,工業から脱工業社会への転換,あるいは同じ工業の中で,繊維,機械,造船,化学,電機への転換でした。全く別の産業セクターへ構造転換していたのです。またこれらの産業セクターでは,明らかに青木・吉川モデルが成立しています。次々と新たな技術イノベーションが生まれて新たな需要が創出されれば,必ず雇用や経済成長に寄与していたのです。
しかしながら1990年代の終わりごろから,我々が今まで経験して来なかった第三の産業構造の転換が起き,競争のル-ルが一瞬に変わりました。第三の産業構造転換は,同時にグローバルなビジネス・エコシステムをこの世に創りました。フルセットの自前主義で全てを囲い込むやりかたから,オープンな分業構造の中でお互いにウィンウィンの関係を築いて成長していくやり方への転換が圧倒的な経済合理性を持つ,という事実が誰の目にも明らかになったのです。
しかしながらこの第三の産業構造転換は,我々の目に見えずしかも瞬時に起きので,わずか4年から6年で日本企業のシェアを80%から20%へ激減させてしまいました。例えば液晶テレビですと,日本の市場シェアが80%から20%へ激減するのにわずか6年しかかかりません。DVDや液晶パネルでは,僅か4年でした。これまで日本企業が全く経験したことのない事態なのです。
 最近,大手テレビメーカーのトップにお会いしたところ,デジタル化によってこんな大規模に競争ルールが変わり,産業構造を変えてしまうことなど全く予想できなかった,と言っていました。別のテレビメーカーの幹部も同じことをおっしゃっていました。
 なぜ産業構造が変わったかについて,これから三つの要因に分けて御説明します。まず第一の要因は,スライド10に示すようにデジタル技術が製品設計の深部へ広く介在するようになったからです。デジタル技術を象徴するのがマイコンですが,皆さんの御自宅で恐らく100個から150個ぐらいのマイコンが使われているはずです。パソコンは当然ですが,テレビや携帯端末にも,冷蔵庫やエアコンにも多数のマイコンが使われています。デジタル技術がないと人間の生活が成り立たなくなったのです。
デジタル化を製品設計という視点から言えば,擦り合わせ型の暗黙知を瞬時に形式知へ変えてしまうことを意味します。これを我々はモジュール化と言います。積み木細工で製品をつくれるようになる,と言ってもいいでしょう。
 ここで国際標準化は,技術モジュールの結合インタフェース,すなわち結合ルールを公開させることを意味しますので,積み木細工用の技術モジュールが瞬時にグローバル市場で流通するようになる。したがって技術蓄積がなかった途上国の企業でも,流通する積み木細工の部品,つまり技術モジュールを調達して組み合わせるだけで,製品設計・量産ができてしまう。1900年代の初めごろから続くフルセット垂直統合型の経済合理性が,デジタル化と国際標準化が結びつくことによって,100年ぶりに崩れていくわけです。
 一方,別の視点でこれを見れば,技術知識とか技術モジュールのインタフェースを公開すれば,世界中の知識・知恵を,日本の国プロへ,あるいは日本企業へ,非常に低いコストで集められる時代が到来した,ということになります。いわゆるオープン・イノベーションの時代の到来です。
いずれにしろ,グローバルな分業型のビジネス・エコシステムが圧倒的な経済合理性を持つようになりますので,開発投資あるいは研究開発投資を付加価値に転換するメカニズムも全く変わってしまいました。
 産業構造が変わったもう一つの背景に,テクノロジーの問題ではなく,欧米諸国の産業政策がありました。スライド11に示すように,1980年代に,ヨーロッパとアメリカが産業構造を強制的に変えていったのです。その背後に,サッチャーやレーガン,ミッテランなどによる市場メカニズムへの回帰や小さな政府運動がありました。
なぜかといいますと,欧米諸国の経済が1970年代の二度にわたる石油ショックで異常事態となり,これ以前の政策,例えばケインズ政策が全く機能しなくなったのです。我々日本人には思いもよらなかったのですが,欧米ではケインズ反革命とかシュンペーター反革命という社会思想運動が起きていました。イノベーションでは1940年代のシュンペーターを否定する政策を,経済成長や雇用ではケインズを完全に否定する政策へと大きく舵を切ったのです。これを象徴するのが小さな政府運動であり,ナショナルチャンピオン政策をやめて市場原理を働かせる政策が強く打ち出されます。リーマンショック後に一部寄り戻しがありましたが,長期的には基本政策が変わっていないと思います。
これを支えたのが,ハイエクとかミルトンフリードマンの社会経済思想です。この二人はともにケインズを批判し続けてノーベル経済学賞を受賞しました。しかしながら,この二人の考え方は,ごく一部の専門家を除いて,日本では影響力を持ちませんでした。
 このような政策転換が1980年代に起きたのですが,歴史の偶然で,コンピューターに代表されるようなデジタル化やインターネットに代表されるネットワーク化が同時進行しましたので,産業政策の転換に呼応したベンチャー企業が数多く輩出したり,あるいはデジタル化を象徴する大規模なコンピュータ・メーカーが力を失っていく事態となりました。しかしながら当時の日本は,Japan as No.1と呼ばれた全盛時代でしたので,産業構造を変える必然性が全くなかった。
 スライド12でレーガン大統領のときの政策に焦点を当てながら,アメリカで起きたことをもう少し詳しくお話したい。レーガンは,1981年1月に大統領になり,産業競争力政策を大きく変えました。スライド12には関連法案とその成立した年を列記しました。ここで注目していただきたいのは,法案成立の年が1985年のヤング・レポートの前だったという事実です。日本はヤング・レポートを参考にしながら1990年代にイノベーション関連政策を推進したと言われていますが,アメリカではヤング・レポートの前にイノベーションの為の基本インフラを全て変えていました。日本はインフラには手を付けずに,ヤング・レポートを手本にしたのです。
 アメリカの競争力強化政策で重要なのは,1981年の独禁法の大幅緩和と1984年の国家共同研究法です。それまでのアメリカは,独禁法が非常に厳しかったので,例え二つの会社であっても技術や製品を共同開発すると,当然違法の原則によって罰せられます。しかしながら日本では1976年から多くの企業が超エル・エス・アイ研究組合に結集して半導体を共同開発し,その成果が日本企業の国際競争力を支えました。
これを知ったアメリカの半導体業界は,日本だけが独禁法違反じゃなくてなぜアメリカだけが違反なのだと政府に訴え,国家共同研究法が成立します。これによって合理の原則というルールになり,独禁法が極めて弾力的に運用されるようになりました。複数の会社が同じ方向性を持って共同開発したり,共同して業界標準を決めて行くことも合法となったのです。オープン・イノベーションやオープン標準化というキーワードも1980年代に生まれています。
 いくらオープンと言っても自動車産業や鉄鋼産業はこれに全く無関心でした。しかしながら歴史の偶然で,オープン化や標準化と相性が良いデジタル型の産業,インターネットやパソコンの産業,が1980年代から興隆してきましたので,デジタル型の産業がアメリカの新規政策をどんどん活用することになり,デジタル型産業が産業構造を転換させるドライビング・フォースとなったのです。
 例えば当時IBMは,現在の日本の大手エレクトロニクス企業と同じフルセット垂直統合型の企業でしたが,アメリカ政府が強力に進めるオープン化や標準化に全く対応できなくなって,遂に市場撤退の道を歩むようになります。信じられないことですけれども,あれだけ基礎研究・応用研究で世界のトップ企業であり,また技術力で世界ナンバーワンだった超優良企業が,15万人の人をレイオフせざるを得なくなりました。
この事実を見たこの当時のアメリカの世論は,圧倒的な技術イノベーションを生み出す企業が何で見返りを得られないのか,世界最高レベルの研究開発能力を持っているIBMがなぜ凋落するのか,と言いはじめました。
このようなIBMの話を日本の大手電機企業へ紹介すると,今の我が社はまさに当時のIBMと同じではないか,と皆さんがおっしゃる。当時のIBMで,基礎研究に従事していた江崎玲於奈氏も,IBMが基礎研究を大幅に縮小したので,このときに日本に帰ってきました。IBMが基礎研究を大幅に縮小したからです。いずれにしろ,現在のエレクトロニクス産業あるいはその関連が,当時のIBMと非常によく似ているのです。1990年代の後半から,欧州のシーメンスもフィリップスも,デジタル携帯電話の興隆とその後に続く液晶テレビの興隆で同じ状況に陥りました。
 次にスライド13を使い,ヨーロッパのイノベーションシステムについて御説明します。ヨーロッパもアメリカと同じように1980年代から国家間のオープン・イノベーションへ転換しました。その代表的な事例が1984年に発足したFramework Program(FP)です。例えば2007年にスタートした第7次FP(FP7)の構造をスライド14に示しますが,恐らく世界最大規模の基礎研究基幹であるこのFP7は,総予算が1,000億ユーロ,日本円にして約10兆円と巨額なだけでなく,ここに世界中の知恵が集める仕組みとしてEuropean Research Area構想(ERA)を持ち,強力なインセンティブを与えて世界中のイノベーション成果を集めています。日本との関係では,せいぜい数十件ぐらいのプログラムしかありませんが,例えばアメリカはもとよりロシア,インド,中国との共同プログラムが日本の10倍以上もあります。
 もう一つ重要な点は,FP7で生まれたイノベーションの成果をヨーロッパだけで使うのではなくて,世界中に移転させる仕組みとして国際標準化を大規模に使っている,という事実です。これによって途上国の成長へヨーロッパが貢献しやすくなるのはもちろんのこと,途上国の成長をヨーロッパの成長に取り込む仕組みが見事にでき上がっています。
 もう少しFP7の内部構造を見てみますと,スライド15に示すように,European Technology Platform(ETP),Cooperation,Joint Technology Initiative(JTI)の三つの機能に分割されています。まずETPで10年後の欧州のあるべき姿をVisionとして定め,この実現に必要な技術をリストアップし,技術開発に必要な目的基礎研究をロードマップとして決めます。
それ以外で特に重要なのは,市場化に向けたImplementation Action Plan(IAP)の策定が必須になっていることです。このIAPが無いとETPとして認められません。ETPに認められれば,次にそれを支える資金が必要ですので,欧州銀行などが精査して助成金を出します。
次にJTIがイノベーションシステムを構成するための枠組みを決め,執行プロセスを管理します。以上のように,欧州のFP7は明らかに出口を明確にした目的指向の基礎研究プロジェクトと言えるでしょう 
スライド16にJTI相互の関係をスケッチしましたが,非常に特徴的なのは,ソフトウエア,組み込みシステムが非常に重視されている点です。次に注目したいのは,JTIに選ばれた全てのテクノロジーが互いにサプライチェーンを構成して依存しあっている,という点です。例えばナノエレクトロニクスの上位レイヤーに組み込みシステムがあります。ナノテクで素晴らしい成果が出れば上位の組み込みシステムをそのインフラで活用し,これらの組合せが更に上位の社会インフラ系に適用される構図となっています。
組み込みシステムの基礎研究には,何と27億ユーロ,約3000億円の資金が投入されて基礎理論,アーキテクチャ,記述言語,モデリングなどの基礎研究が行われています。ソフトウエア主体の基礎研究にこれだけのお金を使う国家プロジェクトは日本にありませんが,アメリカでも中国ですら巨額の研究費がソフトウエア関係に使われているのです。
 それは,多種多様なテクノロジーを,社会インフラや社会システムという巨大な技術体系へ結合させていく手段が,ソフトウエアを起点にした組み込みシステムだからなのです。と同時に,ヨーロッパが生み出すテクノロジーイノベーションの成果をグローバル市場の競争力につなげる仕組み,もっとはっきり言えば,グローバル市場へ強い影響力を持たせる仕組み構築の基本ツールとして,組み込みシステムが明快に位置付けられているのです。だから彼らは,組み込みシステムの研究に巨額のお金を使っている。
 グローバル市場の産業が変わった3番目の理由として,スライド17に要約したアジア諸国の競争政策があります。彼らの競争政策の基本は,技術を自分で開発するのではなくて,先進国から伝ぱしてくることを前提としています。21世紀になって力をつけた中国は,2007年ころから自主創進運動を展開していますが,基本的には技術を先進国から伝ぱさせて着床させる運動から抜け出ていません。まさしくR.Solowの外生的経済成長理論がここで立派に成立している,と言ってもよいでしょう。
 アジアの競争政策は,技術が先進国から伝ぱすることが前提になっていますので,モジュール化やオープン化,オープン標準化などのキーワードが飛び交う産業領域,すなわちエレクトロニクス産業で,この政策が大きな成功をおさめました。このスライドに書いたパソコンや半導体,携帯電話,液晶パネル,液晶テレビ,DVDなどがその代表的な事例です。
しかしながらこれらの全ての製品セクターで結果的に日本企業が何度も市場撤退を繰り返しました。この撤退の姿は,1980年代から1990年にかけてIBMがパソコン市場から撤退する姿と同じです。IBMにはアメリカのベンチャー企業群が対峙し,現在の日本には同じキャッチアップ型の途上国企業が対峙して同じ状況を作り出しました。モジュール化,オープン標準化が作るビジネス・エコシステム型の産業構造に対応できない当時のIBMも,現在の日本企業も,次から次へと市場から消えて行くのです。
 代表的な例として半導体デバイスのケースをスライド18に挙げました。このスライドは,1997年から2006年の10年間に,日本の制度設計を基準にしたときに,韓国のサムソンと台湾のTSMCがどのぐらいの優位に立っているかを,フリーキャッシュフローの視点から見たものです。スライドからおわかりのように,サムソンが3,000億円も,そしてTSMCが2,000億円も優位に立っています。この間,日本企業で大手5社の半導体部門の合計フリーキャッシュフローが,マイナス2,000億円でした。国のビジネス制度設計でこれだけ大きな違いが生まれるのです。
半導体で成功したキャッチアップ型の途上国企業は,リチウムイオン電池,太陽電池,燃料電池でも同じ行動パターンを何度も繰り返して成功するのですが,逆に日本企業は,これらの多くで何度も市場撤退を繰り返すことになります。
 以上の事例からお分かりのように,これらはいずれもテクノロジーの問題ではありませんでした。トータルなイノベーション・システムに関する国の仕組みづくりの問題,と言ったらいいのでしょうか。
以上のような問題意識を踏まえて言えば,我々はグローバルな産業構造が基本的に変わってしまった事実を,そろそろイノベーション・システムの中へ取り込むべきではないでしょうか。例えばスライド19に示すように,日本は経済成長率,GDPを維持する手段として技術やモノづくりに頼って企業の付加価値を挙げようとしてきた。
一方,途上国は,技術を導入するプロセスで徹底したオープン・イノベーション政策を支援し,製品としての出口サイドでは,特区や税制を駆使してトータルなビジネスコストを下げる政策イノベーションを重視しました。そしてグローバル市場の勝ちパタ-ンを完成させたのです。ここで日本のイノベーションシステムは,結果的にアジアの中央研究所,という役割を担ったことになる。技術イノベーションの成果を国の経済成長や雇用に結びつけるメカニズムが,第三の産業構造転換によって既に一変してしまっていた,と言い換えてもよいでしょう。
 このような経済環境で我々が最も注目しなければならないのは,技術イノベーションの成果を競争力につなげるツールとしての組み込みソフトウエアの役割です。これをスライド21に要約しました。ソフトウエアというのは,人工的な論理体系で構成された人工物です。我々はこれまで,物理法則,電気も化学もその仲間ですが,それと機械的な法則を上手に活用しながら製品を設計・製造して工業を発展させてきた。
一方,ソフトウエアは人間が勝手につくった論理体系ですから,自然法則や機械法則と全く異なり,法則を人工的なルールとして自由自在に決められる,あるいは自由自在に変えられるのです。人間がこうしたいと思う意思を,設計プロセスを介して製品の中へ自由自在に取り込める。更には製品のアーキテクチャやビジネス・エコシステムを介して社会システムや産業構造をもダイナミックに設計することが,可能になります。
 組み込みソフトウエアの作用によって生み出される新たな付加価値と,ソフトウエアがもたらす市場支配のメカニズムについて,概要だけを紹介したい。
 例えばスライド22に挙げたiPhoneの事例で言えば,店頭価格:560ドルに対して工場のものづくりが生み出す付加価値がわずか1.8%に過ぎません。付加価値の大部分をアップルが取る仕組みが,事前に設計されているのです。iPhoneではアップルのグロスマージンが約50%,また大部分の製品をアップルショップで売りますので,アップルが獲得する付加価値が,全体の60%から70%にも及ぶ,と言われています。工場のモノづくりから付加価値が消え,アップルの仕掛けつくりに巨額の付加価値が集中している,と言ってもよいでしょう。
これを可能にしたのが,アップル,つまり企業と市場の境界設計であり,アップルのコア領域から市場をコントロールする仕掛けが,知財マネージメントによって支えられています。組み込みソフトウエアが持つ基本的な作用によって,日本を含むアジア企業が作るハードウエア部品の設計・製造・流通を完全にコントロールする仕組みが,見事にでき上がっている,と言い換えてもよいでしょう。
物理法則や機械法則を巧みに生かして作るハードウエア・デバイスは,アプリケーションソフトによって動かされます。このアプリはアップル以外に秘して公開されることのないCOCOAソフトウエア・プラットフォムを介さないと動きません。このCOCOAプラットフォームがiOSというOSのカーネルによって動くようになっています。
Open & Close戦略の境界設計も,自社のコア領域(Close)からOpen化する市場へ伸びる市場コントロールの仕掛けなどが,全て人工的な倫理体系で構成される組み込みソフトによって事前設計されています。組み込みシステム,すなわちソフトウエアが持つ基本的な力とは,自社のコア領域からグローバル市場をコントロールする強烈なメカニズムを人為的に,自由自在に構築できることだったのです。
組み込みシステムが持つこのような力は,現在の日本の国プロはもとより,市場の前線に立つ企業にも認識されて来ませんでした。日本ではソフトウエアが重視されてきませんでしたので,組み込みソフトを経営の視点から捉える議論が,アカデミアにもソフトウエア関連業界にも,無かったのです。
 ここで問題を整理する為に,科学技術基本政策が生み出す技術イノベーションの成果が,国の経済成長を表す指針としての名目GDPへどのようなメカニズムでつながるかをスライド23に示しましました。
いわゆる国の経済成長率,GDPというのは,それぞれの企業の従業員の報酬と営業利益の和,すなわち企業が生み出す付加価値と,設備投資に対する減価償却および税金という三つからなります。ここで国プロの成果を成長に結びつけるための必要条件は,少なくとも国プロとそのパートナー企業が,圧倒的な技術成果をどんどん生み出すことに尽きます。この意味で技術イノベーションが非常に重要なのです。しかしながらこれだけではGDPに貢献しません。技術イノベーションの成果を取り込んだ企業が,自らの手で高い付加価値をどんどん生み出す,すなわち技術を付加価値に転換されなければ経済成長にも雇用にも結び付きません。
これまでの日本の製造業は,付加価値を生み出す手段として,よりよいものを,低コストで大量量産する,いわゆるモノづくりによって実現してきました。しかしながらこれまで私が今回取り上げた第三の産業構造転換では,技術優位を起点にした市場と企業の境界を設計と,エコシステムを介して市場に影響力を持たせる仕組みを作る,いわゆるビジネスモデルの事前設計が,まず必要になります。その代表的な事例が先にお話をしたアップルですが,航空機産業のボーイングでも,全く同じなのです。
例えばボーイングは,ジェットエンジンすら一切開発しませんが,見事なグローバルなエコシステム型の産業構造を,自社優位に自らの手で構築していました。ボーイングのモノづくりとは,安全安心を保障した飛行機のモジュール化設計と組立生産になります。このように,エレクトロニクス以外の産業でも第三の産業構造転換が広範囲に急拡大しているのです。確かに日本は炭素繊維など,次世代航空機に必須の要素技術をたくさん生み出しましたが,ボーイングが事前に設定した枠組みの中でしかビジネスができない構造になっています。
 これは,別な表現をしますと,技術イノベーションの成果を企業収益や経済成長に貢献させるには,まず市場と企業の境界設計を起点にするビジネスモデルが必須であり,このモデルを長期にわたって安定化させる知財マネージメント,これは特許の数では無いですが,が必須となりました。これらの仕組みを背後で支えるのが人工的な論理体系で構築されるソフトウエアの力なのです。
スライド24に要約したように,急速に拡大するグローバルなビジネス・エコシステム型の産業構造では,市場と企業の境界設計に関する先手必勝の位置取り戦略が勝者と敗者を決めます。これは文科省の興味の対象ではないと思いますが,技術を経済成長に結び付けるメカニズムという視点から,この現実を御理解いただきたい。また文科省にはぜひ,国の産業競争力や企業の国際競争力を強化するために組み込みソフトの研究強化とこれを担う人材育成が必須であることを,ぜひ御理解いただきたい。
何度も繰り返すようですが,これまでの技術イノベーションが物理法則と機械法則などの組み合わせ活用によって生まれるとすれば,組み込みソフトウエアが持つ基本的な作用とは,グローバルなオープン・エコシステムの中で,この成果を付加価値へ結び付けるという強力な役割を担う,と言えるでしょう。国家プロジェクトを起案する場合には,ぜひこのメカニズムを産学官が共有してから実行に移すことを期待します。
 次に,これらをふかんしながらプロジェクトを起案・実施する人材の育成をどうするかが我々の課題となりますが,日本ではスティーブ・ジョブズのような天才を育成することはできませんので,多くの人が知恵を出し合う以外に手はありません。スライド25に要約したように,いろいろな人が知恵を出し合いながら,このプロジェクトの立ち位置,すなわち他との境界設計,技術優位性の維持・拡大,そのための知財マネージメント,そして世界の知恵をいかに日本に集めるか,などについて,国プロの企画段階あるいは企業における製品開発の段階から,参加メンバーが共有する必要があります。そのためには,それぞれの技術モジュールの部分最適を追求するメンバーだけでなく,常に全体最適を追求し,部分最適の成果を社会システムへの貢献や経済成長へ貢献に結び付ける方向性を,具体的に示すことのできる軍師型の人材が必要になります。
 最後のスライド26に,科学技術基本政策の成果を経済成長・雇用に結びつける仕組みを多くの人が共有すれば,日本が2020年までにこんな姿になるのではないか,という期待を書きました。あと8年です。
 特にこのスライドでお話をしたいのは,日本の地域経済の酷さです。これまで何度か九州,四国,北陸,東北地方へ行きましたが,大学や研究機関の皆様から研究成果として立派な研究論文や開発された要素技術の説明を受けます。この事実をふまえながら,若者を地域に残すにはどうやったらいいのだろうか,という思いを持ってこのスライドを作りました。立派な研究業績を挙げているその大学や研究機関のある地域からも,工場がアジア地域へ移転し,雇用がどんどん減少しているからです。地方の町はシャッター通りになってしまいました。人々の働く場所が無く,所得が非常に少なくなったからです。
2011年の日本は,貿易収支がマイナス1.6兆円になりました。2012年は上期だけで既にマイナス3兆円を越えました。GDPに対する輸出額も,日本は僅か15%で非常に少ない。国債発行も一般会計の20%を切るようになってほしい。こんなことを期待して以上の報告をさせていただきました。これで終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。


【野依主査】 
 大変貴重なお話,ありがとうございました。
 それでは,引き続き,株式会社フューチャーセッションズの野村恭彦社長に御発表いただきます。野村社長は,企業において知識経営コンサルティング事業の立ち上げに従事された後,今年,株式会社フューチャーセッションズを設立され,知識創造の場づくりに関する活動をされています。今日は,創意形成の場の重要性などについて,御自身の御経験を踏まえながらお話をいただきます。
 それでは,よろしくお願いいたします。


【野村代表取締役社長】 
 よろしくお願いします。私の話はすごく易しいことなので,リラックスして聞いていただければと思います。
 複雑な問題を解決すると書いてありますけれども,今,私自身がフューチャーセッションというセッションをやります。今日,皆さんにお集まりいただいています。この場で言うのも変ですけれども,こういう感じの会議をしないというか,部屋に集まった人たちができるだけたくさん発言する場をつくるというものをやります。いろいろな目的の会議があるので,全てそれがいいとは限らないのですけれども,今までの日本のいろいろなやり方というものが,どうしても複雑な問題を何か最適解があるという前提に立って,その最適解を有識者の人たちが決めて,それを国民に対して適用していく。
 適用していくときは,落としどころに対してみんなを納得させていくという順番で,いろいろなことが比較的なされていたと思うのですけれども,もともと最適解がないものを複雑な問題と呼んでいるわけです。その複雑な問題を解決していくためには,いろいろな人たちが態度を変えていくとか,お互いの関係性を変えていくといったことを含めてでないと,その問題は解決しないと。では,そういう問題を我々は解決していかなきゃいけない時代になったのではないか。科学技術イノベーションも,科学技術のイノベーションというものが既にあるわけではなくて,人々が自分たちの行動を変えていくことと,イノベーションというものは同時に行われていかなければいけないのではないかということを少しお話したいと思います。
 フューチャーセンターという活動が,ヨーロッパのほうで特にパブリックセクターを中心に広がっているわけです。おととしぐらいの時点で40ぐらいのフューチャーセンターというものが,特にオランダとかデンマークとかイギリスにもありますけれども,官公庁が中心になってつくって,そこでクリエーティブな対話をして複雑な問題を解決していこうという活動が少しずつ広がってきています。とは言っても,すごく成果が出て,物すごい勢いでぐんぐん伸びているというよりは,地道な活動としてフューチャーセンターを運営している。この絵が,まさにフューチャーセンターを表現した絵です。これは,イスラエルでフューチャーセンターをやっているロンさんという方と,お父さん2人で描いた絵です。
 丸いのがフューチャーセンターなのですけれども,フューチャーセンターがあるのとないので,まちはこんなに違うじゃないかということを表現しようとした絵です。この丸いフューチャーセンターの中のAというところには,多様な人たちが集まっています。宗教も違いそうだし,年齢も性別も違う人たちがみんなでわいわいとやっています。Bというところで,このフューチャーセンターの中はいろいろな情報が可視化されていて,みんなで情報を書き込んだり,クリエーティブに活動しています。Cは,子どもが遊んでいるようにしか見えませんけれども,あそこは実験をしている。Dのところは,将来を見越して物見台からいろいろなものをリサーチしている。Eはトルネードなのですけれども,ここで出てきたいろいろな仮説が次々と生まれて,最後にFで社会実験が行われて,それが社会に戻っていくというためのフューチャーセンターであると。
 フューチャーセンターというのは,何か特別な人たちがここで活動している場所ではなくて,市民が誰でも集まれる場所である。誰かが世の中をこんなふうにしたいとか,あるいは今,この地域でこんな問題が起きているのだけれどもというものを,お役所に陳情に行ってサービスを求めるのではなく,フューチャーセンターに持ち込む。そうすると,フューチャーセンターには私のようなファシリテーターと呼ばれる人が待っていまして,その課題というのは,もう少しこんなふうに捉え直すといろいろな人が一緒にやれるのではないかというコーチングをして,そこで問題を定義し直してステークホルダーを集めてきます。この役所の人もいいね。あの企業の人もこういうことに関心があるかもしれない。あるいは,あのNPOを入れたらどうといって集めて,その人たちが一緒になって問題を解決していくというのが基本的な考え方です。
 実際にイノベーションをどんどん起こしていこうというためにフューチャーセンターがあるのですけれども,例えばオランダですと,日本で言う国土交通省に当たるような水利建設交通省というところがフューチャーセンターを持っていて,そこではいろいろな公共投資をするときに,かなり上流の企画段階でいろいろな企業とか研究者を集めて,この渋滞の問題はどうしたらベストに解決できるのだろうかということを話し合うところからスタートして,公共投資の費用を下げた上で創造的な解決をしようとしています。
 あるいは,非常におもしろい例としては,オランダの日本で言う国税庁みたいなところもフューチャーセンターを持っているのですけれども,そこは麻薬の密輸とか脱税を摘発するために,職員がクリエーティブにならなきゃいけないというプロジェクトをやっています。このフューチャーセンターというものは,必ずしも公共投資をどうしようかということだけではありません。デンマークにあるマインド・ラボというフューチャーセンターは,本当にイノベーションを起こしていくためのところなのですけれども,そこは日本で言うところの経済産業省と国税庁と雇用を見ている三つの省庁がファウンディングをしていて,いろいろなイノベーションのプロジェクトをやっています。
 例えばデンマークですと,豚肉とかが中心的な産業としてありますけれども,養豚業のバリューチェーンの中でイノベーションの可能性はどういうものがあるのだろうかというプロジェクトをやったり,あるいは若者が税金を払わないのだけれども,どうしたらもっと払うようになるのだろうかというテーマで様々なステークホルダーを集めて,そこでデザイン思考を使ってイノベーションを起こしていこうという活動をしています。
 そういったフューチャーセンターがまず広がっているという前提があって,日本では経産省が随分前にこのフューチャーセンターを日本に紹介してくださったのですけれども,産官学連携みたいなところでちょっととどまっていて,省庁を越えて社会の課題を解決していこうという形では,国レベルではまだあまり使われていないというのが今の日本の現状になります。
 フューチャーセンターというものをもう少し詳細に見ていきますと,フューチャーセンターはどうしても空間が目立ち過ぎるところがあるのですけれども,クリエーティブな空間を持っていることが多いです。実際は本当の専用空間を持つ必然性はなくて,人が集まって,そこでクリエーティブな対話をするための専用の機構ができればいいのです。ファシリテーターが必ず介在して対話を進めていきます。様々な方法論を使います。今日,この後に少しお話をするような未来思考の方法論を使って,既存の発想の延長ではないところにみんなでどうやって発想を持っていくかという対話の仕方をしていきます。
 もう一つ大事なのは,おもてなしなのですけれども,いつもの議論をお互いぶつけ合うのではなくて,お互いがお互いを人としてきちっと大切にし合う関係性をつくっていくための場であるところが,非常に重要なポイントになります。
 私自身が20年間,富士ゼロックスという会社で,こういったフューチャーセンターを企業の中につくったり,地域に行政がフューチャーセンターをつくったりということを促進しようとしてきました。それが3.11の震災以降,企業がイノベーションを起こすということ以上に,地域からイノベーションを起こしていく,あるいは社会問題の解決からイノベーションを起こしていくことの要請が物すごく強くなって,私自身もそういった活動を随分増やすようになりました。そして,今年の6月にそちらを本当に自分の仕事にしようということで会社をやめまして,フューチャーセッションズという会社をつくって,企業が自分たちのCSRにとどめずに,社会問題の解決を自分たちの事業にしていこうと考えました。
 ちょっと前であれば,例えばBOPビジネスがあったと思いますけれども,今だと,日本の地域コミュニティを活性化しながら,自分たちの新しい事業を立ち上げていこうという企業がすごく増えてきています。そういったところをサポートしたり,あるいは地域そのものを活性化していく。それは,行政であったり,旅館組合であったり,そういったいろいろな住民の代表の人たちが一緒になって,その地域をどういうふうに良くしていこうかという場をつくったり,あるいは高齢者の問題とか認知症の問題,あるいは女性の問題,子どもの問題をテーマにフューチャーセンターをつくっていきたいという社会企業家に対してセンターをつくっていく。
 私自身がすごく強みを感じているのは,この三つのセクターが別々にやっていると,なかなか解決しないのですね。ずっとNPOの人はNPOの人だけでやっていると愚痴を言っているだけになってしまったり,企業は企業でやっているとマーケットがないねというところで終わってしまったり。では,このセクターを越えた関係性をつくっていったときに,価値のあるものが経済的に可能になっていく。その矛盾を解決していくこと自体がイノベーションなのではないかと思っています。そういう意味で,地域の行政と消費者でもある市民と企業が一緒になって新しいビジョンをつくって,そしてそれを一緒になって実行していく。それをある地域でプロトタイプして,それを広げていくことが可能になることを目指してやっています。
 先ほど複雑な問題というお話を少ししましたけれども,どれだけ難しい問題でも,答えが一つある問題は単純な問題と,ここでは定義します。数学の問題は,幾ら難しい問題であっても,単純な問題です。時間がかかっても,いつかは解ける問題がありますね。名寄せの問題みたいに,たくさんあるけれども,いつかは解けるだろうという問題があります。それは煩雑な問題ということになります。けれども,複雑な問題というのは,今,得している人が損をしなきゃいけないとか,時間的に今はそれがいいのだけれども,将来はよくないというエネルギーの問題,あるいは東京ではいいのだけれども,地方ではよくないといった,地理とか時間とか人間関係のトレードオフが必ず存在する問題です。こういった問題はすごくたくさんあるわけです。
 我々の生活の中にある重要な問題の多くが複雑な問題で,複雑な問題を複雑な問題として取り扱わないと,一番ひどいのが,煩雑な問題として扱ってしまうと,新しい問題を更に生み出してしまうということがあります。ですから,複雑な問題を解くための方法論が我々には必要になっています。
 今日の話と少し寄せて考えると,ソーシャルイノベーションには複雑な問題に対するアプローチが必ず必要なのではないかと思っています。科学技術のほうは,学問分野という意味でのディシプリンがあって,それぞれきちっとした考え方で進めていると思うのですけれども,社会問題に対してのディシプリンというのはほとんどないわけですね。いわゆる哲学というのがそうなのですけれども,非常に抽象的なところではあるのですけれども,我々が例えば女性の雇用をもっと創出していこうという問題と,高齢化の問題をどうしようか,介護の問題をどうしようか,どういう子どもを育てていこうか,教育はどうしていくのだろうか,あるいは地域をどういうふうに盛り上げていくのだろうか,都心と地域の関係性をどう変えていくのだろうか。いろいろな問題は,それぞれすごく関係づいているのですけれども,それに対してきちっとしたディシプリンはないので,それぞれがそれぞれの問題を一生懸命解こうとしていて,連携していないということになります。
 では,本当に解くべき社会の課題の本当のツボを突けば,いろいろなものが解決していくというところはあるかもしれない。誰がそれを見ているのだろうか。それを横断的に見て,それを一遍に解決しようという人はいるのだろうかということがすごく心配になります。そこがないと,我々のこの社会の中で問題や課題がたくさんあり過ぎて,その課題のリストを一個一個つぶしているのですけれども,全部つぶしたら本当に社会がよくなるのだろうかということに対して,誰も責任を持てていないという状態があるのではないかと思います。
 ですから,我々ができることは,市民力を高めるというロマンチックな言葉で言ってもいいのですけれども,我々自身がこの社会の問題に対してどうやって立ち向かっていくのかということを,一人一人が本気で考える社会をつくっていくということと,その中で横断的に問題を捉えて,そこをつなぎ合わせて,本当に一番大切な問題を国としてしっかりとアプローチしていく。それも政策レベルではなくて,問題の本質レベルでそれを議論していって,そこに対して科学技術を適切にアプライする社会実験をしていくということが必要なのではないか。
 非常に難しい話かと思いますけれども,こういった考え方を持たない限り,幾ら科学技術が優れていたとしても,私自身は売れる技術をつくるのが科学技術イノベーションだとは思っていないのです。本当に我々の社会,我々の生活を豊かにするようなイノベーションを起こしていくということが,どうやったらできるのだろうかということをもっと考えるためには,社会問題,社会課題に対するディシプリンをつくっていく必要が我々にはあるだろうと思っています。
 創意形成という言葉を使っているのですけれども,合意形成というのは,下にあるようにタウンミーティングというものがあります。一般的には,こうやって有識者会議で何か答えを決める。最近の話題だと,例えば防潮堤の高さを幾つにするかみたいな話を有識者が15メートルとか決めると,15メートルでいいよねみたいなタウンミーティングが行われてしまう。でも,そうではなくて,本当に当事者の人たちもゼロから一緒になって考えて,彼らにも情報が入って,一緒になって考える中で,我々はどうしていきたいのかということをゼロから一緒につくり上げていく。それは,勝手なことを話すのではなくて,みんなでつくっていったものが最後に一つ形成されていくという場をつくっていくのが,フューチャーセッションの一番の目的になります。
 ですから,それをやる上で,有識者の方々は,みんなの知らない情報をインプットしていくことになると思いますし,素人は素人としての生活者としての立場でそれを定義していく。そして,それが組み合わさって新しいアイデアになっていく。極端な話,それが本当にベストの解かどうか,誰にもわからないのですけれども,最適解がもともとないという前提に立つと,創意形成をしていって一緒にアクションを起こしていくことが,複雑な問題にとっては一番大事だと思うわけです。
 このフューチャーセッションのプロセスというものがあるのですけれども,最初にどんな問いを設定すれば人々が集まるのかが極めて重要になります。今まで我々の中で,社会問題や課題の定義というのが,問いの設定が悪いものがたくさんあったと思います。例えば,女性の雇用をどうふやすかというのも,いい問いだとは思いません。問いの設定が,ほかの課題を生み出すような問いだと,その問題を解こうとすればするほど,かえって悪いことも起きていく。そうすると,それに対して反対する人が出てくる。その問い自体が本当に我々が大切にしている,様々な問題を抱えている人たち,みんなが確かにこの問題は大切だという問いをしっかりと設定して,その問題に関心のある人だけではなくて,いろいろなほかの問題に関心のある人も,そこにいろいろなステークホルダーを集める。
 ですから,ステークホルダーという言葉をすごく広い意味で使っているのですけれども,既存のステークホルダーではなく,未来,この人たちが係ってこないと,この問題は解決しないという人たちまで広げて参加者を集めます。そして,一緒になって,今まであれば,イシューに対して意見を言って,お互いどちらかというと闘って議論をしていた人たちが,なぜあなたはそう思うのだろうかと考える。例えば女性の働き方を支援している人は,できるだけ効率的に家事が済むようにしようとします。例えば子どもの教育のことをやっている人は,逆に子どもに対して効率的にアプローチするのはどうなのかと考える。これは一見対立してしまうのですけれども,こういう人たちがお互いがお互いを理解し合う場をつくって対話をしながら,一番大切なものは何だろうかということを考えていく。そして,一緒になってアクションを起こしていく。ですから,それが対立している人同士であればあるほど,パワフルなアクションが起こせるということになります。
 想いを持った人の,誰の,どんな大切な問いから始まるのかということが,科学技術をつくっていくときにもすごく問われてくると思います。そして,多様性を多様な中に入れていくのか。そして,どんな対話をしていくのか。そして,どうやって関係性を変えていくのか。最後に,最初はわからなかった,どんな創発を起こしていくのかということになります。
 なぜ,こんなアプローチが必要なのかというときに,未来というのは何だろうかというところに非常に重要なポイントがあるのではないかと思います。未来を一言で言えば,不確実であるということが唯一の特徴だと思います。我々,未来というものを既存の延長で考えやすいと思います。なぜなら,幾つか未来のシナリオをつくったときに,それにならない理由をたくさん挙げられるわけです。だけれども,ならない理由というのが突然消えてしまうこともあります。いつの間にか,そのシナリオになることもあるかもしれない。これは,リスク管理の場合が一番わかりやすいと思いますけれども,ポジティブなシナリオであっても,ならなそうな理由があっても,なるかもしれないのですね。
 では,そのなるかもしれないシナリオというのを,どれだけたくさん想定して,今,自分たちがアクションを考えられるか,あるいは科学技術をつくっていけるか。自分があり得そうな未来のシナリオだけを見て科学技術をつくってしまうと,結局,今まであった価値をただ追いかけるだけになってしまう。そうすると,より速くとか,よりきれいにとか,より小さくはできても,新しい価値をそこに生み出すことはできません。新しい価値を生み出すということは,起きなそうなシナリオを信じて,そこに向かって科学技術をつくることではないかなと思います。
 あと,そこには思想が問われます。社会をこうしたいという思想が問われることになります。
 現状から予測していこうとすると,現状が変わらない理由,変えられない理由にからめとられてしまって自由な発想ができません。バックキャスティングというのは,未来,こんなことが起きるかもしれない。たくさんの仮説を置いて,それら全部が起きるかもしれないとしたときに,自分たちは何ができるだろうかということを考えていく発想法になります。
 通信機器メーカーの人で,幾つかの携帯電話会社が合併して,かなり追い詰められている会社の人なのですけれども,「もっと売れるスマホという問いがあまりにも先が見えない。どうしたものだろうか。フューチャーセッションをやりたい」と言って,いろいろな企業の人が集まっているときにそういう相談を受けました。「あなたは本当は何がやりたいの」という質問をしていくと,ちょうど震災の後だったというのもあるのですけれども,「私は家族のきずなをもっと強くすることが本当はできたらといいなと思うのです」と。
 「それ,いいじゃないか。それをテーマにもし人が集まるとしたら,どうだろう」と。その部屋に自動車メーカーの人,ハウスメーカーの人,食品・飲料メーカーの人,自治体の人もいたので,みんな集まってもらって,「この家族のきずなをもっと強くしたいというテーマで通信機器メーカーさんがやると言ったら一緒にやるかい」と聞くと,「やるやる,すごく関心がある」と,どのメーカーさんも言うのです。ということは,この通信機器メーカーさんがもっと売れるスマホというのを考えようと思ったら,iPhoneを見ながら,どの機能をよくしようかということを思っていたのが,そうではなくて,家族のきずなを強くするために一体何ができるだろうかと,自動車メーカーや飲料メーカーの人と一緒に話す中で,これは通信機器でできるのではないかというところを見つけていくわけですね。
 これは本当に発想の転換で,今までは自分たちの会社にとって都合のよい未来を一生懸命探していたのが,本当に社会にとっていいことをほかの業界の人と一緒に考えると,自分たちの持っているリソースがすごく大きなものだということに気づく。このプロセスを踏んで,こういったセッションを開いていくことになります。
 例えば,今,富士通研究所の方と認知症のNPOをやっている方と一緒に認知症のフューチャーセッションをやっています。これは偶然から生まれたような場なのですけれども,NHKでずっと認知症の番組をつくられていたディレクターの方が,2年越しでもう一回その番組をつくったら問題がさらに悪化していた。ショックを受けて,これは幾らテレビで言ってもだめだと,会社を飛び出して自分でNPOをやって,認知症の人にとって住みやすいまちをつくっていこうという活動をしているのです。科学技術的に言うと認知症というのは病気だと。アルツハイマーとかの薬をつくろうとなるわけですけれども,認知症の問題はそれ以上に社会問題,社会現象である。つまり,認知症だと言われた途端に社会から完全に切り離されて,お店にも行けなくなって,旅行にも行けなくなって,みんな家に引きこもるわけです。それを解決することが一番大事なのではないかということで,それを誰か一緒にやってくれと,そのNPOの人たちは言った。
 我々はいろいろな企業の人たちを集めて,これを一緒に解決できないだろうかという話をしたときに,富士通研究所のある一人の人が,「俺,やる」と言い出して,彼はいろいろ屁理屈を考えたわけです。富士通は,銀行のATMのシステムもつくっているし,郵便局のシステムもつくっているし,宅急便のシステムもつくっているし,スマホもつくっているし,認知症の問題に対して備えることは絶対いいことなのだと会社を説得して,このプロジェクトを彼一人が始めたわけです。実は,こういう話をすると,海外の人も驚くわけです。「えっ,富士通が認知症の問題をやっているの,すごいね」と。たった一人の人がやろうと思って,ちょっと周りを説得して予算をとってきただけなのですけれども,実はこういう一人の人が思いついて,そしてその社会問題を定義して,周りの人たちを集めてセッションをし出すと,物すごくインパクトがあるのです。一人の人が科学技術を研究してブレークスルーすることもあるのですけれども,一人の人が社会問題に注目して人を集めてセッションをやることによって,ブレークスルーが起こることもあるということをこれから実証しようとしています。
 そういう意味では,例えばアサヒさんが食というものを通して,単に食品ではなくて,食べるという行為が一体これからどんなふうに変わっていくだろうかというイノベーションをやろうとしている。そんな活動がいろいろ出てきています。
 私の周囲では,このFuture Center Weekということをやったりして,いろいろな人たちがいます。企業の人もいますし,NPOの人もいますし,本当に個人でやる方もいます。たくさんのフューチャーセッションを企画して,それを私のほうでは応援して,それをつないでいっています。
 例えば,お寺のお坊さんたちが,お寺というのはフューチャーセンターにならなきゃいけないということで,フューチャーセッションをお寺でやったりするわけです。これは神谷町の光明寺というお寺でやっているのですけれども,お寺は日本中に3万5,000とかあるらしいのです。物すごいリソースなのですけれども,この日はビジネスマンとお寺の人が集まってやったのです。お寺が自分たちの本堂やお寺のリソースをまちのために役立てたいと思っているということは,誰も思いもつかなかったのですね。このときは神谷町だったので,森ビルの人にも来てもらって,こういうリソースを使って我々は何ができるかという対話を始めていったり。
 あるいは,これは5歳児の視野を体験するためのメガネというものがあるのですけれども,みんなでそれを体験してから,5歳児の立場で今の日本の交通とかサービスとか商品を見直したら,どう変わらなきゃいけないのだろうかみたいな話をしたり。
 あるいは,これは地域の小平のフューチャーセッションで,70代,80代の方たちも大勢集まって,一緒になって小平で何ができるだろうかという話合いを始めたりしております。
 こういった様々な活動が起きているわけですけれども,根本にあるうまくいかない原因をどう変えていこうかというところは,私はこれにあるのではないかと思っています。これは,私自身がマネージメントを変えていこうと企業の中でずっとしていたときに到達したものなのですけれども,すごく単純な話として,目標が決まったときに仕事をみんなにリスト化して分配して,一人一人の目標値を決めて達成レベルを管理して,達成しない人に罰を与える。これがマネージメントである。こうしない限り,責任の所在が明確じゃないので物事が進まないと,みんな思い込み過ぎているのではないかと,すごく思っています。
 これを逆に回せば,目標があったら,目標が達成したときのイメージをみんなで共有して,でもうまくいかない可能性もあるという不安をみんなで共有して,それを助け合おうじゃないか。助けた人は偉いじゃないかというやり方も可能なのですね。今までは,負のスパイラルじゃないと物事は進まない。プロジェクトマネージメントや管理はそうやるものだと思い込んできたのですけれども,そうすると目標ややり方がわかり切ったものしかうまくいかないということがだんだんわかってきたのです。ですから,複雑な問題や,我々自身が考えながら,行動を変えながら進んでいかなきゃいけないものは,この正のスパイラルでなければ進まない。
 では,この正のスパイラルで我々社会が動き出すときに,それを後押しするような科学技術のイノベーションというのは,どういう形で推進すればいいのだろうかと思いますと,科学技術のイノベーション自体がそういったフューチャーセンターという場を使って,あるいはフューチャーセッションという場を使って,日本の社会を変えていくという行為と科学技術をつくっていくという行為を同時に動かしていかないと,そういったイノベーションは起こせないのではないかと思います。
 最後のスライドになりますけれども,企業は単体の1社で,あるいは1業界でイノベーションを起こすのは非常に難しくなってきています。自治体は,自分たちの予算だけではまちをよくすることは難しくなってきています。市民も,市民だけで世の中にインパクトを与えるのは非常に難しくなっています。でも,この三つを越えるとイノベーションが起こせる余地がすごくたくさんあるのに,今はこういった三つをまたぐようなところにはお金が流れてこない。みんな私に,「野村君,会社をやめてどうやって食っているの」と必ず質問するわけですけれども,「大事なことだからやろうよ」と私は今,言っているわけです。こういったところからイノベーションが起きていくということがあれば,まだまだ日本も捨てたものではないと私は思います。
 済みません,皆さんのレベルに合った話ではないかもわかりませんけれども,どうもありがとうございました。


【野依主査】 
 貴重なお話をいただき,ありがとうございました。最後に御自身で食べていけるか問いを出されましたけれども,いかがですか。


【野村代表取締役社長】 
 いや,私自身が食べていくぐらい大丈夫なのです。しかし,世の中でこういうことをやりたいという若者はたくさんいるのですけれども,みんなが食べていくような社会にはまだなっていないと思います。


【野依主査】 
 そういう状況ですか。これまでの御意見を踏まえて,しばらく議論してまいりたいと思います。イノベーションの話が出てきましたので,野間口主査代理から口火を切っていただければと思います。


【野間口主査代理】 
 お二人の大変貴重な御意見を賜り,ありがとうございました。
 小川先生のお話は様々なところで聞かせていただいていますが,特に今日のお話は簡明でした。何度もお話を伺っていると,徐々に理解できるようになります。ただ,私,小川先生のお話に90%程度までは賛同するのですが,電機メーカーを中心とした日本企業が大変苦労している状況の根本は,現在の経済環境にあると思います。円高,高い法人税率,EPAへの対応の遅れ,特に重要なエネルギーソースである電力が非常に窮屈であり,それから,レイバーコストが高いなど,「六重苦」と言われています。このような高コスト国になったことで,コンポーネントを非常に調達しやすいビジネス領域で顕著に問題が出ています。これは先ほど市民力というお話が出ましたが,日本がそういう経済社会にしてしまったということを,政治家の方々も含めて等しく考えていかなければならないと思います。
 しかし,現在の状況に納得してしまっても仕方がないので,小川先生が御指摘になったような点で,非常に厳しい経済環境の状況の中でも,まだまだやりようがあるのだということを小川先生は力説したのだと私は思います。狭き門ではありますが,そのようなところを追求していく必要があろうかと思っております。
 また,お二人の先生のお話で非常に印象深かったことは,地域に注目して,多様なプレーヤーの方々がオープン・イノベーションの時代で参加できるとの御指摘があったことです。特に,小川先生の説明資料の26ページの2番目のアスタリスクに,都市圏だけではなく,農村といえども,非常に活性化する余地があるという御指摘は,これからのイノベーション政策を考える上で重要な視点ではないかと思います。私,産総研理事長として,よく地域に出向きますが,理事長就任当時は,半導体,重電,自動車のような中央集権型のビジネスをいかに地方に持ってくる,そのために,公的金融機関も大いにサポートをしてしかるべしという話が多かったと思います。しかし,最近では,地域資源をコアにし,様々な工夫を凝らして,地域の特徴を発揮していくのだという活動が出てきており,そして,地域において雇用も創出されるという芽が出てきていると思います。
 これらの活動にもう少し科学技術的なサポートを行い,あるいは,現在苦戦していますが,これまで力を培ってきた電機産業,素材産業などが,地域資源で一生懸命頑張っている方々と連携ができれば,日本らしくて非常に良いチャレンジができるのではないかと考えています。地域でそのような芽が出てきているところだと思っていまして,そういう点では,まだまだ捨てたものではないと考えています。
 もう一点,野村先生が創意形成と言われましたが,私も市民参加型で非常に良いところを活性化していただいていると思っております。そこで取り上げられたような問題のみではなく,例えば我が国の原子力の課題に対しても,創意形成につながるような議論の場を考えていただければと思います。現在,政界のみならず各界の状況を見てみたら,様々な意見は出るものの,全然まとまらない状況です。文科省も苦労しておられると思いますけれども,その辺をもう少しリードする必要があるのではないかと考えます。


【野依主査】 
 何か御意見はございますか。


【小川特任研究員】 
 90%賛成で10%とおっしゃいましたが,経済環境による影響というのであれば全くそのとおりです。しかしながら,私の主張は,今の経済環境になる10年も前の円安の時代,すなわちリーマンショックも無く,せいぜい二から三重苦の時代から,現在に至る事態が進んでいたのだ,という点です。現在の六重苦が事態の進行を加速させたのではないでしょうか。その背後にあったのが1990年代の後半から始まる,恐らく100年に一度の産業構造転換であり,その背後のデジタル化とオープン標準化があったという意味で,デジタル型のエレクトロニクス産業が最も大きな影響を受けたということです。
 それから,御指摘なさった日本の地域経済に関する御指摘は全く同感です。いつも九州や四国,東北地域を訪ねていますと,大変僣越な言い方かもしれませんが,いろいろな研究機関が立派な論文を書き,立派な要素技術も開発されているものの,その研究機関や大学の近くから工場がみんな消えてしまい,雇用を維持できなくなっているのです。この問題をどうやって解けばいいのかについてまだ御提案できないのですが,野間口委員の視点も取り入れて来年から考えてみたいと思っています。


【野依主査】 
 よろしいですか。
 では,イノベーションのことで,國井委員,どうぞ。


【國井委員】 
 お二人の話,とても感銘しましたし,心強く思いました。私は,情報産業分野にいますので,まさにこの問題が重要であると認識しています。
 お話をされたように,ヨーロッパでは組み込みソフトの大学院をつくるなど,強化しています。二,三コメントしたいのですけれども,一つは,先生は余り強調されなかったのですけれども,これから重要なのは,何をつくるか,ホワットのところが極めて重要だと思います。日本が課題先進国ですから,まさにそこのところはいっぱいあるし,野村様のお話の中でも,何を解決すべきかというところが極めて重要。これがなくて,いろいろな研究開発をしていても,社会的な価値を生むイノベーションというのはなかなか起きないと思うのです。
 そこのところは,社会科学者とか,もっといろいろな人を巻き込む必要があります。社会課題に対するディシプリンが余りないとおっしゃっていましたけれども,まさにそこだと思うのです。そこの強化が極めて重要なのかと思います。日本の今の教育・研究体制だと,文理融合が重要と言いながら,ともかく文理分離型がベースになっていますので,そこのところを置きかえていかないといけないし,課題をどう設定していくかが重要です。
 それから,IBMのお話が出ましたが,IBMがあのときイノベーションを進めるに当たって,構造を変えていくに当たって重要な課題として取り組んだのが人材の多様性です。この人材の多様性ということが,今,重要だとは言われていますけれども,アクションになかなか落ちていない。特に女性の問題はそうなのです。軍師型の人が重要とおっしゃっていましたが,多分システムを統合するようなリーダーシップを発揮する人が,重要だとおっしゃっているように思えます。もちろん,そういう方も必要ですけれども,いろいろなニーズを抱えている人,課題に対してセンシティブな人も必要です。例えば,IBMとかGoogleとか,非常にビジネスに成功している会社は,マイノリティをいかに活用するかとか,日本は非常に遅れていますけれども,LGBTのセクシュアルマイノリティの人をどううまく活用するかというところにすごく腐心していますよね。こういうことが非常に重要で,そういう中でイノベーションの文化ができてくると思います。運営の仕方については,フューチャーセッションズとかいうところでやっていけると思うのですけれども,その辺をもう少し強調して,オープンな世界でユニークな解決方法がなかなかない中,トライアルアンドエラーが必要で,よく言われるリーンスタートアップのような環境をつくってトライしていくという場が極めて重要かと思います。以上です。


【野依主査】 
 どうぞ。


【小川特任研究員】 
 御指摘の点に賛同申し上げます。
 ただ,一つだけ言いますと,何をつくるか,あるいは何を解決するかという点については,私がお話をする前に御説明いただいた資料にある四つの課題領域で言えば,何を解決すべきかのマクロな方向性については既に共有されていると思います。しかし日本の現状を踏まえてこれを語れば,社会インフラ/社会システムに関係する課題をどう具体的に実行へ移すか,という具体化へ結び付ける諸問題こそが解決すべき課題ではないかと思います。何れも巨大な技術体系で構築されており,しかも基礎技術・要素技術・製品化技術を開発し,あるいは導入し,これをツールに社会イノベーションとして推進していくには,全体最適をふかんできる人が必要です。個別最適をいくらつなげても社会システムのイノベーションが日本で起きません。したがって全体最適を担う人材という意味で軍師が必要だと申しました。行政機関が余りにも分業化されており,国としての全体最適を目指してリードする人を見たことがないので,敢えて軍師と申しました。
 それからフューチャーセッションの件も全く同感ですが,国家レベルになりますと,何をやりたいのかの方向付けに長い議論が必要で,決めるまでに何年もかかってしまいます。現在のヨーロッパEUのFramework Programの最大の問題はそこですね。確かに向かうべき方向が決まれば強力な力が結集されます。個別の企業ではこの手法が機能すると思うものの,国家レベルでは非常に難しいと思います。確かEUの次のフレームワーク8では,別の方法を採ろうといしていると思います。


【野依主査】 
 少しお知恵を貸していただきたい。ここは文部科学省の科学技術・学術審議会ですが,第4期科学技術基本計画において,今までは科学と技術の振興をやってきており,さらにイノベーションをしっかりやりなさいということになっています。一方で,文部科学省では,科学と技術を推進してきて,イノベーションの経験がない。科学と技術を推進してきた。今後もそうじゃないかと思います。イノベーションのドライバーは,言うまでもなく民間セクターです。我々もそれに向けてエンジンぐらいはつくらなきゃいけないと思っております。ほかの省庁も来られていますが,文部科学省として,イノベーションを推進するために,具体的に何をやればいいのでしょうか。
 大変難しい問題です。これからもサイエンスとテクノロジーに重心があります。しかし,これをイノベーションに続けていかないといけない。官庁がかかわったらイノベーションなんかできるはずがないと言う人もいますが,社会は連続的であるわけですから,何とか大学セクターとして,あるいは公共研究機関セクターとして国民の期待に応えていきたい。事務次官も局長も計画官もどうしたらいいか,大変苦慮していると思います。少しアドバイスをいただければと思います。


【野村代表取締役社長】 
 ちょっといいですか。私自身がすごく思うのは,国として問いを出してほしいなと思うのですね。どんな研究をするかとかは任せていただいて,何を解決したいのかという問いが出てくることがすごく大事だと思っていて。それで,問いが固定されていることが結構大事じゃないかなと思っています。1企業の中で起きることは,せっかく設定した問いが,解決策がうまくいかないと問いから放り投げてしまうのですね。でも,問いをきちんと継続的にしていかないと,人は育たないし,学問も育たないし,あるいは新しい商品が二枚腰,三枚腰が出てこないと思います。
 スティーブ・ジョブズもビジネスモデルで今日は褒められていましたけれども,彼の持っているホワイの部分が,ずっとそれをやりたいという人たちが層をなしてアップルを愛してやってきているわけです。日本の科学者や技術やビジネスをやっている人が,日本の文科省が出す問いにしびれて,それを実現したいなと。ハウツーの方向性ではなくて,こういうことを実現するのだという問いを出していくということがすごく大事ではないかなと。
 どうしても今ある問題を解決しよう,なかったことにしようとする。しかし例えば原発問題もなかったことにしたいじゃなくて,こういうことはできないだろうかとみんなが考え始めてしまうような問いを出していくのがすごく大事だと。そこに本当に英知を結集していただけたらなと思います。


【野依主査】 
 小川特任研究員,お願いします。


【小川特任研究員】 
 今の御質問は非常に難しくて,恐らく誰もまだ解いていない課題ではないでしょうか。だからみんな困っているのだと思います。
今日の私のお話の枠組みで申しますと,キャッチアップ型であったこれまでの日本とフロントランナーに立った現在の日本では,野依先生の問題提起である社会へ貢献する為の具体的な取組が全く違ってしまうと思います。今の中国や韓国はキャッチアップ型ですので,1980年代までの日本のように極めて効率的にやれます。しかし,技術蓄積が深くて広い欧米と急速にキャッチアップしてくる途上国との中間にいて,フロントランナーになってしまった現在の日本は,これまでのやり方が通用しない。野依先生がエンジンとおっしゃった基礎研究の成果を,社会イノベーションのエンジンに結び付ける具体的なメカニズムを我々はまだ手に入れていないので,今日の講演の冒頭で,“なぜ我々は科学と技術に巨額の投資をするのか”という切り口からお話をしました。
 言葉では幾らでも言えますが,具体的に機能するような形のメカニズムを,私もまだ見つけていないのです。ただ,強いて言えば,文科省が輪の中心になり,ほかの省と強く連携したイノベーションシステムが必要だと思います。例えば政府のいろいろな委員会で高齢化・福祉社会の到来に対応するためのロボットが話題になりますが,ロボットの要素技術開発も製品化に必要な基本技術の開発はもう終わっています。問題は,それを低コストで大量普及させるための規制緩和などが,どの委員会でもほとんど議論の対象にならない。府省の個別最適を単に組み合わせるだけでは,決して国としての全体最適につながらないのです。基礎技術や要素技術の開発はもちろん重要ですが,府省が連携しないと社会システムのイノベーションにつながらない。例えばJSTとNEDOが具体的に連携しあう構造を,まず作ることでしょうか。


【野依主査】 
 私も各省庁をつながなければいけないと思っております。土屋局長,イノベーション基盤局をつくる構想もあると聞きますが,何かございますか。


【土屋局長】 
 ありがとうございます。組織のほうはなかなか難しいのですが,先ほど野村先生がおっしゃられたイノベーションのために何を解決すべきかという問いを国が示すべきだとおっしゃったことは,全くそのとおりだと思っていまして,実は来年度の新規の施策で,革新的イノベーション創出事業というものを始めようと思っているわけです。それの一番の肝の部分,ポイントは,我々は今,顕在化しない問題をどう設定していくか。社会のビジョンとしてどうあるべきかという設定をした上で,テーマを起こしていく。その際には,社会システムと技術と,これが一体にならないとイノベーションが起こらないという認識を十分しておりますので,自然科学の中だけの異分野融合ではなくて,心理学とか,場合によっては宗教まで含めた形の異分野融合の体制を組んで,新しい課題に取り組みたいと思っております。
 実は,今日会議に出ましたのは,どうやって一番最初の課題設定をすればいいのかということを質問させていただきたいなと思ってきていたのですが,ビジョンは幾つかあると思うのですね。例えば死ぬまで一定のQOL,生活の水準を維持していく,死ぬということはよく言われるわけですが,そういう課題設定,それは余り革新的じゃないと思うのですが,似たようなことでどういうふうにしたらいいかというのは,何かサゼスチョンいただければと思うのですが,お願いします。

【野村代表取締役社長】  

  私自身は,皆さんお一人お一人で,土屋さん自身が本当に何をしたいのかということを聞きたいのですね。ここに集まっている皆さんは,すごくいろいろな知識をお持ちで,そういう方がそういう知識を持った上で,本当は俺はこうしたいのだと御自分の言葉で語られたものに対して,人はぶるっと震えるのだと思うのです。ですから,この部屋の中のお一人お一人が本当にしたいことというのを自分の言葉で伝えて,それを実現してくれということが言えたならば,それは本当にいいビジョンになる可能性があると思います。ですから,こういった場で,我々はこの日本をどうしたいのだという本当の対話ができたら,ちょっと雰囲気が変わるのではないかなと思うのですね。今,お話をされたのは,何となく客観的に,こういう社会にしたらいいのではないかと他人事っぽくおっしゃっていました。そういうものは問いの設定としては人に響かないというか。そこをぜひ,心の対話を。


【野依主査】 
 では,小川特任研究員,どうぞ。


【小川特任研究員】 
 私は,個人的に野村社長と同じ意見なのですが,そうは言っても一人の人間には限界がありますので,いろいろな国でどういうことをやっているかを,かなり体系的に調べたほうがいいのではないか。この問題を最も早くから本格的に検討したのは,ヨーロッパじゃないかと思います。Framework Program(FP)を舞台に試行錯誤して,彼らは深いノウハウを身に付けたのではないでしょうか。例えば2007年から始まるFP-7のテーマを選ぶまでに,どれだけの議論がされているか。
例えばグリーンイノベーションの政策は,既に1998年か1999年ごろからオープンな議論が始まっています。これを経てある課題をちゃんと設定していくという合意形成を我々にも必要ではないでしょうか。私もいろいろな委員会に参加し,このテーマをなぜ選んだと質問しますと,失礼ながら行政側から明確なお答えをいただいたことがございません。文科省は例外かもしれませんが。そういうことが余りにも多いものですから,ヨーロッパ人が試行錯誤して身に付けたことをぜひお調べになったほうがいいのではないかと思います。


【野依主査】 
 ありがとうございます。
 では,黒田委員。


【黒田委員】 
 今日のお二人のお話,非常に興味深く伺わせていただきました。今の課題,今の問題ともつながっているのですが,将来どんな社会にしたいかということを考える前に,現代のグローバル化と一言でおっしゃったし,それから複雑化という言葉も使われたと思うのですが,一体そういう社会はなぜ来ているのか,どこからそうなってきたのか。恐らくグローバル社会と言っても,17世紀,18世紀もある種のグローバルな社会を実現してきたわけですから,20世紀,21世紀になって入ってきたICTがグローバルなものを持ち出しているのですが,恐らくそのグローバルな社会に対する対応の仕方が,科学技術の進歩においても,それから社会のシステムの進歩においても,日本が非常に遅れてしまったというのが,残念ながらこの失われた20年という期間の非常に大きなギャップになってきているのだろうと思っています。
 例えば,グローバル社会の中で,経済学では分業というのが今までずっと言われてきているわけですが,それによって経済システムとしては非常にうまくいってきた部分があるのですけれども,アップルと台湾の鴻海がやっている分業体系というのは,恐らく今までの発想から出てくるものづくりの分業体系とは全く違った分業体系を水平にやっているということだろうと思います。そうすると,日本は半導体をつくって,半導体ということで過当競争をやって国内需要を中心につくってきたことが,実は開いてみたら半導体メーカーとソフトメーカー,若しくはアップルのようなコンテンツビジネスとが全然違った分業をやっていて,こちらは鴻海のメリットを最大に生かして部品を買い,こちらはグローバル化した社会の中で情報が瞬時に広がるということのメリットを最大に使ってマーケットを広げるという形の分業をうまくやってきた。それを,日本は従来型のものづくり,従来型の分業体制に固執してきたという嫌いが物すごくあるのではないかと私自身は思っています。
 それを科学技術の政策としてどう解決できるのかという部分と,それから社会のシステムとして,どういう部分をどうしたら,地方と中央のあり方とか,地方の中での中央依存体質をどうやって変えていくかも含めて,地方とのあり方,社会システムの問題。それから従来の日本の例えば社会保障制度というのは,完全にピラミッド型の人口構造を前提にしてきたシステムですから,もう完全にピラミッド型でない逆ピラミッドになっている人口構造の中でそれを保とうとするから,財政をどんどん圧迫していく構造になっている。そういう意味では,現在起こっている現象がどういうことから起こってきて,どこが問題なのかということをきちんと精査することがまず必要で,その上で,そこの問題を解決すればこんな時代になるとか,もっとこういう時代を求めるというフォアキャスティングのやり方もあれば,バックキャスティングのやり方もあって,両方から問題解決する手段を見つけていくということだろうと思っております。
 まず,小川先生にお伺いしたいのは,先生の中でグローバル社会というのをどう認識されているかということ。
 それから,野村先生にお尋ねしたいのは,同じことかもしれないですが,複雑化する問題というのは,一体どういう社会構造から出てきているのか,その辺をお伺いできたら。


【小川特任研究員】 
 非常に難しい御質問ですが,私は21世紀のグローバル社会を,驚くほど急速に進むビジネス・エコシステムとオープンな分業によって捉えようとしています。分業が持つ経済合理性をアダム・スミスが最初に体系化しましたが,アダム・スミスは市場の規模が分業のあり方を決める,と主張しました。しかしながら私が観察する現在のグローバル社会では,人工物,すなわち製品設計やシステム設計のあり方とオープン標準化の在り方がグローバル社会の分業構造を決めています。アダム・スミスと全く逆の構造になった現在のグローバル分業が初めてこの世に現れたのは,1980年代から1990年代に発達したデジタル化,すなわちソフトウエア化と,オープン標準化とが急速に進展してからではないでしょうか。
これまでのように産業構造が自然発生的に決まってくるのではなくて,企業人が自らの手で設計できる時代になった,と言ってもよいでしょう。私は民間企業で10年も事業部長をやってきましたので,アメリカはもとより,中国でもインドでも,この事実を何度も目にしました。グローバル化というのは,そういう意味で今までの100年と全く違ってしまいました。ソフトウエアの介在は,技術の伝ぱスピードと着床スピードを本質的に変えてしまい,中国もインドも伝ぱ/着床スピードの早い産業領域から経済成長の軌道に載ったのです。人工物の設計の在り方によって決まるオープンなビジネス・エコシステム型の分業が無ければ,このような成長も無かったのではないでしょうか。
残念ながら日本のモノづくり思想は,黒田先生がおっしゃるように,企業グループの中に閉じた分業でした。1980年代のIBMのメインフレームコンピュータと同じ分業思想を,現在でも日本企業が維持しているのです。
 実はこれらのテーマについて来年から手を付けたいと思っていましたので,また頭の整理ができていません。とりあえずこれぐらいで終わらせていただきます。


【野村代表取締役社長】 
 複雑というのは,つまりパラメータが多いということですね。日本の子どもたちは一つの答えしかない算数を教わって,北欧の子どもたちは複数答えがある算数の問題を解くと,よく言われますけれども,我々は一つの答えがあるものが好きなのだと思うのですね。プロダクトイノベーションがすごく大好きで,この製品をつくったのは俺だというのがみんなすごく好きなわけですね。
 でも,BOPビジネスはデリバリーのイノベーションだとずっと言われています。プロダクトや技術は古いものでもいいけれども,流通網がない状態で,どうやって仕事をつくって,その地域の人たちがそれをデリバリーするという産業をつくっていって,システムを育てていくかというビジネスであると言われていて。今,眺めてみると,多分アップルもそうじゃないかと思います。デリバリーのイノベーションがそこには絶対存在していると思います。アップルと同じ製品を,もしほかの会社がつくっても,あれをヤマダ電機に置いていたら価格のコントロールは難しいのではないかと思います。そのデリバリーのイノベーションというのは,パラメータがたくさんあって,やってみないと何が一番いいのかわからないですね。プロダクトのイノベーションは,比較的こうやって,うん,これはいいなと何となく自分でわかると。そういう最適解があるものを日本人はすごく一生懸命やっていて,それをやることがあこがれの仕事になって。
 でも,その複雑なデリバリーイノベーション,流通の仕事というのは,日本の中では最先端の仕事だと多分思われてこなかったかもしれない。そういったデリバリーというもの,あるいは流通というものが最先端だとするならば,我々はどんな社会を創造するのかといったときに,これは私見なのですけれども,私は日本人が今,描く一つのビジョンとして,人が最大限移動する国というのをつくってみたらどうかなと思うのです。つまり,IT化,グローバル化の流れというのは,どちらかというと人が動く必要がなくなっていくのですけれども,今,地域を元気にしようとか,地域の資源が大事だとか,いろいろな意見が出ましたけれども,一番地域を元気にするのは,人が行くことなのですね。
 人が動き回ることを前提としたときに,この我々の社会はどうなるのだろう。人と人が会うということが一番大事だと。多様な人たちが交流することが一番価値が生まれるのだという前提を置いたときに,我々の社会インフラはどう変わるべきなのかということをビジョンに置いたときに,産業の見方はすっかり変わると思うのですね。その延長では絶対起きないので,そういう社会が来るとしたら,どんな産業がこれから伸びるのか,どんな雇用が生まれるのか,どんなところに我々は投資すべきなのかが全部変わってくるので,そういったバックキャストができると,今までとは違う見方ができるのではないか。そのときに,人が最大限動き回る国でプロダクトは多分メインではないと思います。それは,人をどう動かすか,動いた先にある価値というものが一番格好いい仕事に変わると思うので,そういうところを変えていく必要があるのではないかなと思います。


【野依主査】 
 ありがとうございました。
 柘植委員,どうぞ。


【柘植委員】 
 先ほど野依主査が言われた,どんなイノベーションを起こすのか,あるいはエンジンという言葉を言われましたけれども,今のその後の議論を私なりに整理しますと,論点が二つに分かれるべきだと。
 一つは,野村先生,おっしゃったように,どんな日本をつくるのかとか社会をつくるのか。いわゆるどういうイノベーションをつくるかというホワットの話があると思います。これについては,まだ足りないぞと言われたのですけれども,少なくとも第4期の科学技術基本計画,それから5年前の第3期の科学技術基本計画ですら,最初にどんな日本をつくるかという大課題,中課題,それから個別の課題ということを設定して,それが科学技術の投資とが結びついていないままで,第4期に科学技術イノベーション政策というものをつくったので,どんな日本をつくるべきかというのは,かなり入り口だと言われるかもしれないのですけれども,設定はされていたと言えます。後は社会がもうちょっと議論すべきだというのがあるのですが。
 もちろん,私はホワットじゃなくて,ハウという,野依主査がおっしゃったエンジンということも大切と考えます。今日の資料2-1で,これは事務局がつくった資料だと思うのですけれども,まさに今日の野村先生のバックキャストとフロントキャストの話と,人材の中で小川先生がおっしゃった人材育成の話と関連するこの絵は,非常に含蓄のある絵です。というか,今,如何に実現するかというハウというのは,この絵の真ん中だと思うのです。野依主査がおっしゃったエンジンというのは,この真ん中の楕円の中であると言えます。
 もう一つ同じ考えで,野村先生の17ページを見ました。この絵と資料2-1の絵は,私には同じに見えます。問題は,17ページの絵のバックキャスティングとフォアキャスティングの真ん中の空白の部分にエンジンがあるべきだと思います。それが,この資料2-1と同じと言える理由です。
 私がこの委員会の中で,あるいは私も人材委員会と産学連携推進委員会を見ているのですけれども,その課題でありますのは,このエンジンをイノベーションけん引エンジンとあえて名前をつけてみますと,イノベーションけん引エンジンを今の日本は見える化する必要があるのではないか。そうすると,当然良いところもありますし,弱いところもあると思うのです。そこからどう強くするのかというハウをしないといけません。今までの知の創造に立脚して,次のホワット,どのようなイノベーションを創るかとハウ,イノベーションを如何に創出するかを見える化して,弱いところをどうして強くするのだ。その中で,我々行政側としてはどういう役目があるのだ,産業の役目は,こういう進め方をしたいのです。まずお二方にお聞きしたいのは,真ん中のイノベーションけん引エンジンの日本の現状について,どんなふうにお考えになっているか。それは,間違いなく小川先生がおっしゃった軍師型人材の育成の必要性ともリンクしているので,小川先生には今のイノベーションけん引エンジンの中で軍師型人材の育成というのは関係があるのかどうか,コメントをいただきたいと思います。


【小川特任研究員】 
 この問題も非常に難しいのですが,軍師とあえて言ったのは,今,先生がおっしゃった“第3期,第4期で,我々は何をすべきかの方向付けをした”,ということに関係しています。第3期で既に方向付けしたことは私も存じ上げております。
問題は,予算がなかったからなのかという事以外に,言葉としては決めたが具体的にどうすべきかを,関係者が共有できなかったからではないでしょか。再度繰り返して申し上げて申しわけないのですが,まずは文科省と経産省や総務省や農水省などと協業するイノベーション構造を“見える化”する制度設計が必要ではないかと思います。
 これはNEDOと企業の間でも全く同じです。これまで個々の部門が追求した局所最適を全体最適へ導く人が誰かいないと,野依先生のおっしゃるエンジンが如何に素晴らしくても,社会イノベーションへ貢献するメカニズムが見えてこない。


【野村代表取締役社長】 
 未来思考と過去からの積み上げと両方やっていくというのは,一つのプロジェクトの中でみんなやっていると思います。フューチャーセンターというのは,みんなばらばらにやっていたそういう活動が全部同じ場所で蓄積されるということなのですね。ですから,みんなが勝手に自分で未来を描いて,いろいろな調査をして,何かプロジェクトを立ち上げる。でも,ほかの人はほかの人で違う未来を見て,違うプロジェクトをやって,みんなばらばらにやっているわけですね。同じ企業の中でも,それぞれの企画をやっている人が,みんなが自分で勝手なフォアキャストをやっているわけですね。
 それをフューチャーセッションという,別に空間があってもなくてもいいですけれども,同じところに全部集めてみたら,未来が一体どう見えるのだろうかということが鳥かんできるわけですね。ですから,今,先生がおっしゃったように,情報を集めるというのでもいいですし,みんなが同じ場所で,あるいは同じ機構でそれをやることができたならば,自然にそれぞれがやっているものが集まってきますので,そういったものもフューチャーセンターという一つのア・プロジェクトではなくて,たくさんのプロジェクトがその場を共有して,それを可視化していくフューチャーセンターであるということで,まさに真ん中にある丸いもの,これこそがフューチャーセンターではないかと私は思っています。


【野依主査】 
 各セクターの連携の問題は,これから国立研究開発法人の整備が行われると思いますので,それに期待しております。
 井上委員,どうぞ。


【井上委員】 
 多くの委員がおっしゃったことと,ある種共通なのですけれども,まず小川先生が,7ページで,最初にこれまでの常識が通用しなくなってきたとおっしゃられて,最後に22ページでしたか,アップルがこうやったからうまくいっているとおっしゃられたことについてです。7ページに戻ってみると,文言は少し違うかもしれませんけれども,結局,7ページに書かれていることをアップルはやった結果,勝っているということのように思えるのです。6ページのR&Dをたくさんかけたほうが必ずしも得にならないということとも関係するのでしょうけれども,結局のところ,R&Dの内容が,これまでの「新しい技術をただ作って市場に出せばいい」というのではなくて,もっと長期的,あるいはグローバルな,今の状況に即した広い視点でR&Dということを製品につなげていかなければいけないということなのだろうと私は理解しました。それで理解はよろしいでしょうかというのが一つ目です。
 二つ目は,野村先生のお話のほうです。大変いいお話を聞かせていただいたと思うのですけれども,私が多分最後は難しいだろうと思うところは,8ページの「参加者自身が目的をつくり出し,主体的に実行することを促す」という点です。理想的にいけば大変いいことだと思うのですけれども,そのインセンティブをいかに持たせて,誰が責任を持って,それをやっていくかということがはっきりしないと動いていかないのではないかと思います。先ほど文科省が課題を出してとおっしゃられたわけですが,その課題解決にむけて,こういう有識者が集まって議論する場はあるわけですけれども,自分で言うのも変ですけれども,このままでは現実にはなかなか動かない。
 多分,野村さんのような立場の方にこういうところへ入っていただいて,そこがある種のインセンティブを持って,ちょっと長期的な視点で方向性を出していく。多分,課題解決の依頼者である文科省の側は,その場の予算の状況とか,いろいろなことで現実に縛られるので,もっと大きなテーマで動くときは,長期的で広い視点が必要になって,それに長期的に責任を持ちつつ,強いインセンティブを持って課題解決を図っていくところが,依頼者とは別のどこかになくてはならず,何かの形で野村さんのような方がおっしゃるようなやり方でそこへうまく入ることが必要なのではないかと思います。それが企業という形がいいのか,国としての形を考えることがいいのかわかりませんけれども,そういう意味で非常にいいサゼスチョンをいただいたのではないかと思いました。


【野依主査】 
 ありがとうございました。確かにR&Dが経済成長に直結していないことは事実だと思います。しかし,日本の国力の源泉としてR&D力を維持し強化していくことは大変大事だと思っておりますので,マスメディア等が誤った誘導をしないように御指導いただければと思います。
 有川委員,どうぞ。


【有川委員】 
 今,野依先生がおっしゃったことですけれども,私は,今日は非常にいいお話を小川先生からお聞きしたと思っております。それは,第4期基本計画は科学技術イノベーションということでございまして,このイノベーションというのは,その中に人文社会のことも入るのだということを初期のころにかなり議論したわけですね。そして,いわゆる科学技術ということに関しては,結構頑張ってきたのだけれども,人文社会科学,特に社会学あるいは経済学はそうかもしれませんけれども,そうしたところが頑張る分野が残されている。ですから,むしろ非常に将来性のある,期待される大きいことを言っていただいたのかなと強く思いました。
 それから,ある意味でお二人に共通するのかもしれないのですが,なぜR&Dは一番もうかるときに徹底してできないのかということについて,この辺は,日本人の民族性とか文化,あるいは倫理観みたいなものが関係していないのかなと思うのです。例えば我々は,一貫してとか一途にといったことで人を褒めたりするわけでして,途中で余計なことを言ったり,全然違う見方をしたりということを排除してしまっているのです。実は,そこに大きなビジネスのチャンスがあったかもしれないということを御指摘いただいたのかもしれませんし,もしそうだとすると,今度は人文科学的な活躍の場があるのかなと思うわけです。
 もう一つは,先ほど組み込みソフトの話がありましたけれども,これについては,日本は相当力を持っているし,いろいろな実績もあると思うのですが,今日のお話は,個々の製品とかではなくて,もう少し広い意味でのことを御指摘いただいたのだと思います。これは,情報をやる人が自分たちのところに閉じこもらないで,そういったもう少し広い感覚で物を見る必要があるということをおっしゃっていただいたのかなと思います。
 それから,私の専門は情報なのですけれども,國井先生もいらっしゃいますが,情報の世界では,デザインという言葉が非常に大事で,そのデザインという言葉とアブストラクションという言葉は非常に近いところにあるのです。つまり,物を何か設計するということは,アブストラクトする,抽象するということは捨てなければいけないわけです。捨てるということがいかに大事か。
 アップルといいますか,最近のiPhoneの成功というのは,その捨て切ったところにあると思います。何を捨てたかというと,キーボードを捨てることによって無限のキーボードをつくってしまった。こういったことがあるわけです。いろいろな要求が出てきますと,それをどうまとめ上げようかとするのですけれども,その中で捨てるということの大事さがあるのではないか。捨てることによって際立たせる。この辺も今日お聞きしたことに加えて,あるいは入っているのかもしれませんけれども,大事なのではないかなと思いました。


【野依主査】 
 何かございますか。


【小川特任研究員】 
 野依先生が先ほどおっしゃった,科学技術に対する投資が今後も必要だというのはもちろんでございます。ただ,21世紀になると,これがそのままリニアモデルで国の成長や雇用につながらなくなった,という事実とその背景を,私が今回お話し申し上げました。科学と技術が必要条件であって,決して必要にして必要な十分では無くなった,ということです。それを強く認識したイノベーション政策が現在の日本で必要になった,というのが私の主張です。
 先ほどの井上委員の御質問に対してお答えします。7ページと22ページが矛盾しているかもしれないとおっしゃったアップルの件です。御説明が不十分だったかもしれません。まず7ページの,国際標準の規格づくりで主導権を握れば勝てるというのは,野間口委員がやっておられる測定法とか基準認証のように,産業構造を変えず,むしろ強化させるケースでは,国際標準化が間違いなく競争力に寄与しています。
しかし日本が国際標準化を完全に主導したDVDでは実ビジネスで全く勝てませんでした。それ以外にも負けた事例が余りにも多いのは,国際標準化が自己目的になっていて競争力に結びつける仕組み作りを理解していないことが原因です。
 次に特許ですが,今回紹介し申し上げた製品だけでなく,非常に多くの製品で,日本が世界の70%,場合によっては90%もの特許を出願し,登録しています。しかし,例え圧倒的な特許を誇っても実ビジネスではことごとく負けています。実はアップルの特許は非常に少なく,年間にせいぜい数百件です。恐らく日本の10分の1もないでしょう。
なぜ非常に少ない特許で,あれだけグローバル市場を完全にコントロールする仕組みをつくっているのか。この事実のほうが重要ですね。そもそもアップルは携帯電話関連の特許を殆ど持っていませんが,スマートフォンやiPhoneで圧倒的な市場競争力を持っています。この事実もぜひ御理解下さい。また太陽電池も,日本企業はそれぞれ数千件の特許を持っています。しかし,ほとんど負けていますね。勝っている企業はせいぜい数百件の特許しか持っていません。日本企業だけがなぜか異常なのです。ですから,あえて7ページで常識③と常識④が通用しない,と申しました。
 それから,常識②ですが,アップルがまさしくこれを常識にするために,独自のビジネスモデルと知財マネージメントを駆使しているのです。彼らがやっているのは,市場と企業(アップル)の境界を明確に決め,アップルのコア領域でクロスライセンスを徹底して排除しながら,後追いの模倣企業を市場から合法的に排除してきました。
またハードウエア部品の製造を日本やアジア企業に任せると同時に,アップル自身がハードウエア側をコントロールする仕組みも組み込みシステムの作用によって完成させています。ですから,世界の工場があたかもアップルの専用工場のようになっているのです。アップルは垂直統合型の企業ですが,フルセット自前主義では決してない。グローバル市場を上手に使うオープンな統合型企業です。このような視点を踏まえて7ページに日本企業の現状を列記しました。
なお再度繰り返しますが,7ページの事例はこれまでデジタル型のエレクトロニクス産業で起きたことですが,問題なのは同じことが他の多くの産業領域へ急拡大しているという事実です。ぜひこれを御理解いただきたいと思います。


【野依主査】 
 ありがとうございました。
 野間口主査代理。


【野間口主査代理】 
 先ほど,小川先生より国際標準のお話がありましたが,フレームワークプログラム7の出口としては国際標準戦略の方向もとっているわけでして,小川先生の説明資料の7ページにあるように国際標準化が間違っているような印象のお話をされると,私には少し違和感があります。これは,全て洗いざらいオープンにしてしまうような国際標準化の方法が良くないということだと考えます。オープン化する部分とクローズにする部分の連携ということについては,先生のお話をよく聞いていると理解できるのですが,専門外の方には少し理解されにくいかと思います。
 それから,これは野依先生のお話にもありましたが,私は小川先生の説明資料の6ページはよく注意して見ていただきたいと思うのは,横軸は研究開発費で良いのですが,縦軸は営業利益となっています。利益は,大体四半期毎又は1年毎に見るわけでして,言うなれば刹那的な数値です。したがって,そういう数値に惑わされて,もう投資しても仕方がないのだという結論にならないようにしなければなりません。小川先生の御説明をよく聞いていると理解できますが,この種のデータが外に出ると非常に困る面があります。実際に社長をやっているとそうではなく,事業の評価や研究の評価もそうですが,5年単位,10年単位,場合によっては20年単位で評価しなければいけないものがありますから,注意して見ていただきたいなと思います。


【野依主査】 
 大垣委員,どうぞ。


【大垣委員】 
 野村先生にちょっと感想を伺いたいのですが,私,水問題とか都市問題,水資源を扱うエンジニアリングをやってきたのですが,そういう立場から見ますと,ある種の社会的課題の問いは明快です。例えば,今日の小川先生の26ページにあるように,都会から若者が戻るとか,地域に心豊かなコミュニティが戻るという未来のある種の姿は,非常に合意ができているのではないかという気もするのですね。そういう観点から,例えば文科省の,私,今日の最初の議題で研究計画・評価分科会の報告をいたしまして,現在のいろいろな技術政策のふかんみたいなことを横断的にやらなきゃいけないとやっているわけですが,このフューチャーセッションを実施されている立場からそういうものをごらんになって,どんな感じ,あるいは別の方法論があるのではないかという御提案があるか,ちょっとお伺いできればありがたいなと。


【野村代表取締役社長】 
 ありがとうございます。
 問いと言っているのは,ジャンルとかとはちょっと違うのですね。それは,問いそのものが非常にクリエーティブに出てくるものだと思っているのです。例えばでよく言うのが,「コップをデザインしなさい」と言っても,「何をデザインしていいかわからない」と。でも,「スターバックスのカップのふたのデザインをしろ」と言われても,ちょっと狭過ぎてあまりおもしろくない。でも,「歩きながら飲むコップをデザインしろ」と言われると,一番たくさんアイデアが出てくるのですね。つまり,問いというのは,言い尽くされている,何かこういうことが大事だよねということとか,ふかんしたときについている医療とかヘルスケアとか高齢者というものではなくて,「こんなことができたらどう」と言われたときに,はっとして,「なるほど。そんな視点で今まで見たことがなかった。でも,それを考えたらおもしろいね」というのを問いと呼んでいます。
 ですから,その問いがないと,例えば地域に行って,さあ,地域のみんなで考えようと言っても,いつもと同じ話しかしないのですね。そこで,今までとは違うフレッシュな問いを立てて,その地域の人たちが一緒に考え始める,あるいは企業のトップの人が出す問いが今までと違う角度で出てきて,それはどうやったらできるのだろうというのを一生懸命考え始める。そういった問いを出せるかどうかがすごく大事で。
 今まで私が経験してきた,いろいろな企業のトップの方々に,「社員が毎日考えたくなってしまうようなビジネスの問いを出してください」と言うと,みんな,うーんと言って,もっともうかるビジネスモデルとか,全然わくわくしない問いが出てくるのです。考えたくなってしまう問いというのは,つまりその問い自体がすごく練られているわけですね。そういう問いを出していくかどうかがすごく重要で,ふかんしてラベルをつけるのとはちょっと違うのではないかと思っております。


【野依主査】 
 先ほどから国の姿を考えるような意見が出ておりましたが,佐々木委員,何か日本のあるべき姿について御意見はございますか。


【佐々木委員】 
 何がイノベーションか,だんだんわからなくなってきました。また機会がありましたら。


【野依主査】 
 では,國井委員,どうぞ。


【國井委員】 
 これまでの研究開発投資がなかなか有効に働いていないというお話があるなか,でも研究開発は極めて重要ですということは,私もそうだと思います。重要なことは,どういうテーマに投資していくかというところの話ですよね。
 それで,柘植先生は,ホワットはもうわかっているとおっしゃったのですけれども,多分ホワットのレベルが違うと思うのです。結局,イノベーションは目的思考で,すごく集中して考える,R&Dも含めていろいろやっていかないと成功しないわけで,研究者の方たちが論文になりやすい部分とかだけ研究する。例えばバイオの創薬だと臨床だとか,もっと下流のところもおやりにならないといけないわけですね。そういうところのウェートが低かったりとか,バランスが悪いと思うのですね。ですから,目的思考でやるということ,そこを私はホワットというイメージで言っていたのですけれども,そこが極めて重要かと思います。


【野依主査】 
 先ほどから質問が出て,なかなか答えが出てこないところですが,文部科学省として,イノベーションに向けて,どこにどのようなサポートをしたらいいとお考えでしょうか。総論ではなく,プレーヤーが主に大学であり,あるいは独法の研究機関であるとした場合に,文部科学省としてどのような施策,あるいはどのような資金投入をすればいいとお考えでしょうか。


【國井委員】 
 私は,先ほどちょっと申し上げた課題のほうですね。社会の課題とかビジネスの根源も,何か解決して価値を生むから,そこでビジネスができてくるわけなので,そこについてもっとリソースを配分すべきで,それはビジネススクールであり,社会の問題をいろいろ扱っていらっしゃる研究者の人たちが,従来の研究スタイルだとそれもだめだと思うのですけれども,社会科学の方たちがもっと変わって,社会問題について具体的にどうするかというところまで実践的なリサーチをしていくことによって,テーマがもっとはっきりしてくると思うのです。
 抽象的なレベルのホワットじゃなくて,システムで言えば要求仕様がかっちりと書けるレベルのところまで押さえていけば,いろいろなテーマが出てくると思うのですけれども,そこでリソースのバランスをちょっと変えていく必要があると思います。


【野依主査】 
 阿蘇計画官,せっかくの機会ですから何かお伺いすることはありますか。


【阿蘇計画官】 
 本日,大垣先生から研究計画・評価分科会の研究開発方策の取りまとめを御報告いただきましたけれども,まさしく事務局として課題対応型の研究開発方策といったところについて,今回は横断的なところ,あるいは連携,掘り起こしというテーマでやったのですけれども,あの取組で,先ほど野村先生がおっしゃったような,誰もが考えたくなるような問いというのが,なかなか出てきづらいなというのを事務局は実感しておりましたので,科学技術・学術審議会の中で何かそういった取組ができるようなヒントをいただければありがたいなと思っております。


【野依主査】 
 柘植委員,そして,野間口主査代理,どうぞ。


【柘植委員】 
 主査の文部科学省がどういうところにエフェクティブな投資をすべきかという質問への回答です。それは,大垣先生のレポートの課題を解決するのと関係しますので言いますと,私は今日の資料2-1の真ん中のところに汗を流す人へ投資をすべきと思います。この人には,当然経済的,社会的な支援も要ります。やがて彼は学術的な価値のあるものまで持っていくでしょうけれども,少なくとも真ん中の人を経済的にも社会的にも評価するような制度が必要。
 それは,野村先生の17ページの真ん中,空白ですね。当面は,論文にはならないかもしれません。しかし,いずれは学術として確立できると思うのですけれども,当面,学術としては価値がない,そういうディベートですると多分ファウンディングはつかないでしょうけれども,違う場で評価し,育てていく政策を私は文科省はやるべきだと思います。


【野依主査】 
 このような科学技術イノベーション政策をマネージするということは,大事ですよね。プログラム,プロジェクト。今までは,学術,学術ということになっておりまして,プレーヤーのほうに,あるいは大学なり研究所に,とにかくやっておいてくださいと丸投げだった。それももちろん大事ですけれども,文部科学省としてもう少し全体の活動をグリップしてマネージしていくことが私は大事だろうと思っておりますけれども,いかがでございますか。


【黒田委員】 
 野依先生のおっしゃるとおりで,従来型の発想で科学技術をプロモートしても,本当に課題解決にうまくリニアに結びつくのかどうかわからないというのが,先ほど来出ていく複雑性だと思いますので,課題を発見すると同時に,そこを解決するためには,現在,何が足りないのかをはっきりさせて,そこまでの戦略を国が立てていくということが非常に重要だろうと思います。


【野依主査】 
 それでは野間口主査代理。


【野間口主査代理】 
 小川先生と野村先生のお話を聞いた上でと思いますが,先ほど黒田先生から大変良い御指摘がありました。小川先生と野村先生のお二人の話は,産業サイド,あるいは産業技術に関わるイノベーションという形でどのように取り組んでいくのかというお話であったと思いますが,それに対して,黒田先生からは社会の制度や仕組みという形で,どのように向き合うかという観点も必要なのではないかというお話がありました。
 それは,社会構造と制度の問題であります。先ほどの投資効果の話にいろいろと関連しますが,せっかく良いところまで来ても,そこから先へ進めないという課題が非常に多いと聞きます。例えば,以前にも話題となりました臨床試験の問題とか,日本側は特に社会構造や精度が窮屈であると思います。投資効果を実際のイノベーションにつなげるために,どの部分を突破すべきか,文科省がそれを全て行えるわけではないのですが,我が国が抱えている課題を提案することは非常に重要ではないかと考えます。がんの研究においてこの部分で止まったなどの個々の課題としてではなく,それらをまとめて,科学技術政策の出口をスムーズに成果につなげていく形で,提案し,主張すべきではないかと考えます。これからのメッセージを発信するときに,そのような形に持っていきたいなと思います。皆様方にぜひお願いしたいと思います。


【野依主査】 
 ほかに御意見,ございますか。特になければ,このあたりで打ち切らせていただきたいと思います。小川特任研究員,野村社長には大変貴重な御意見を賜りました。ありがとうございました。
 これまでこの委員会では,科学技術社会論,科学技術コミュニケーションなどの専門家からのお話を伺ってまいりましたが,本日はどのように科学技術イノベーション政策のビジョンを描いていくべきかという新しい視点を追加していただけたと思います。これまでの有識者からの御意見,今日お二人からいただいた御意見を組み合わせまして,次回は社会と科学イノベーションとの関係について,取りまとめの議論をしてまいりたいと思います。
 続きまして,議題3,「最近の科学技術政策の動向について」です。事務局から資料を説明してください。


【阿蘇計画官】 
 まず,文部科学省における研究開発評価について,1点御報告がございます。
 資料3-1をごらんください。文部科学省における研究開発評価は,文部科学省における研究及び開発に関する評価指針に基づきまして実施しているところでございますけれども,このたび,総合科学技術会議が実施する国家的に重要な研究開発の評価において,文部科学省が行った事後評価について,評価者となる外部有識者・専門家による評価項目,基準などについての事前の検討や,これに基づく意見聴取が十分に行われることなく評価結果が取りまとめられたという指摘がございまして,さらに文部科学省で実施されているほかの研究開発事業の評価についても検証し,必要な改善,見直しを行っていく必要があるという指摘がございました。これを踏まえまして,省内の関係各部署,各委員会の事務局に対しまして,研究開発評価の実施状況について確認したところ,その他の研究開発評価については,この文部科学省の評価指針に基づき,適切に実施されているということを確認いたしました。
 このような指摘を受けましたので,研究開発評価が適切に実施されますよう,資料3-1をもって関係各部署に周知しておりますので,この点,御報告させていただきます。
 また,そのほかですけれども,資料3-2に平成25年度の科学技術関係概算要求の概要という冊子。それから,資料3-3でございますけれども,平成25年度科学技術重要施策アクションプランの対象施策について,9月13日,決定しておりますので,あわせて配付させていただいております。
 以上でございます。


【野依主査】 
 ありがとうございました。
 続きまして,議題4,「その他」となります。今後の委員会の日程などについて事務局から説明いただきます。


【藤原計画官補佐】 
 それでは,事務局から次回の日程のほうを確認させていただきます。
 本日はありがとうございました。次回,第7回の基本計画推進委員会でございますけれども,11月30日金曜日の午前中を予定いたしております。会場など,詳細につきましては,また後日,先生方のほうに御案内させていただきたいと思ってございます。
 また,本日の議事録,後ほど事務局より委員の皆様にメールでお送りいたします。皆様に御確認いただいた上で,文科省ホームページに掲載させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
 以上でございます。


【野依主査】 
 どうもありがとうございました。
 今日は,大変長時間にわたりいろいろな議論をしていただき,ありがとうございました。以上で科学技術・学術審議会第6回基本計画推進委員会,終了させていただきます。 

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)