最先端フォトニクス・レーザー(光源の先鋭化、新たな光機能の発現・制御)に係る議論(平成28年12月27日、第7回)の骨子案

平成29年1月26日
科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会 量子科学技術委員会

最先端フォトニクス・レーザー(光源の先鋭化、新たな光機能の発現・制御)
に係る議論(平成28年12月27日、第7回)の骨子案

研究動向

○ 光と光技術は古来より現在まで、人間の生活や産業を支えてきたが、IoTの利活用や将来の超スマート社会(Society5.0)の実現に向けた新たな価値創出にとって、ますます重要となる基盤技術であり、欧米政府をはじめ、アジアでも中国を筆頭に投資が拡大されている。

○ フォトニクス・レーザー技術では、レーザーの発明以来、精力的に研究開発が行われてきたが、近年、光源の先鋭化や新たな光機能の発現・制御への応用に大きな進展があり、レーザーの極短パルス化や高強度化、半導体構造を用いた光の制御などによって、物質の電子状態の観測、物性や光の高度な制御などが可能となる世界が見えてきている。

○ これまでにもフォトニクス・レーザー技術は、光速に基づいた世界統一的な長さの標準化や重力波、ボーズ=アインシュタイン凝縮の発見に繋がるなど、物理学の進展や自然科学上の発見を支えてきた。それらはまた、光による高速インターネット通信や、ものづくりにおけるレーザー切断、医療におけるレーザーメスや血流計などの生体モニターなど、我々の身近な生活を含む社会において様々に活用されている。このように、フォトニクス・レーザーは歴史的に、科学の進展や経済・社会的利用のフロンティアを常に切り拓いてきたが、光源の先鋭化、新たな光機能の発現・制御が更なる革新を与える可能性がある。

(極短パルスレーザーとアト秒科学)

○ 極(ごく)短パルスレーザーは、1つのパルスの時間幅が数ピコ(10のマイナス12乗)秒から数フェムト(10のマイナス15乗)秒という非常に短いレーザーである。例えば100フェムト秒は、宇宙で最大の速度を持つ光(約30万km毎秒)でも30μmしか進まない。そのようなオーダーの極めて短い時間幅のパルスレーザーは、1960年に初めてルビー結晶でレーザーが発振して以降、精力的に基礎研究がなされてきたが、この10年ほどで小型化が大きく進み、現在ではパルス幅が10~100フェムト秒のものも市販されており、意識しない身近な所でも活用されている。

○ 極短パルスレーザーの特徴は、瞬間的な出力が大きくても照射時間が極めて短いため、周りへの熱の伝わりを抑えながら狙った所にレーザーを照射できることである。そのため、例えば眼科のレーシック治療法や白内障手術、歯科治療、燃料噴射ノズルの穴空け、スマートフォン用ガラスの切断、生体観察用の強力なツールとなっている多光子顕微鏡等に応用されるなど、我々の生活を支えるものとなっている。

○ プラスチックや化粧品の製造、電池、燃焼過程や生体内活動など、我々の生活に不可欠なもの・現象は、様々な分子の化学反応に基づいているが、反応における分子の化学結合の切断・生成・変化はフェムト秒の時間スケールで起こっている。化学反応をフェムト秒オーダーで見る研究法を創始したアハメッド・ズウェイルは1999年にノーベル化学賞を受賞しており、近年では、フェムト秒パルスレーザーで分子の運動を追跡し、なぜ特定の化学反応が起こりやすいかなどを明らかにする研究が可能になっている。

○ このような超高速の現象を対象とする研究は、安定的なアト(10のマイナス18乗)秒パルスレーザー光源の実現などにより、現在はフェムト秒より更に短い時間スケールであるアト秒の科学へと進展をみせている。アト秒は、原子や分子の中の電子が動く時間スケールであり、その電子状態は磁性や超伝導などの物性に深く関連する。そのため、アト秒パルスレーザーを含めた極短パルスレーザーにより、化学反応や材料の電子や磁性体の運動をアト秒スケールで計測、制御できるようになれば、光合成反応といった化学反応メカニズムや材料物性の発現機構の解明、電子状態の制御による高性能電池、超高密度磁気デバイス、新材料等の開発に繋がると期待される。

○ 複数波長のレーザーが重ね合わせで構成される極短パルスレーザーの発生には、固体レーザーの一つであるチタンサファイヤレーザーが広く利用されており、1980年代に約5フェムト秒までの時間幅を持つパルスレーザーを発振できるまで進展した。その後、1990年代前半に、より短い時間幅のパルスレーザーを発振するブレークスルーがあり、アト秒パルスレーザーが実現したものである。これは、高次高調波の発生技術と呼ばれ、フェムト秒レーザーをガスに照射することで、元の光の100倍以上の振動数を持つ光が発生し、条件が整えば数百アト秒のパルス列を持ったレーザーが得られるものである。照射するレーザーを数フェムト秒の単一周期のパルスにすると、単一のアト秒パルスレーザーが得られるが、パルスエネルギーの向上には限界があった。我が国では、複数波長のフェムト秒レーザーの合成により、従来の100倍のエネルギーを持ち、計測の精度を向上させられる単一アト秒パルス発生技術が開発されるなど、世界最先端の研究が進められている。高次高調波によるコヒーレント光の波長範囲の拡大は、それを光源として活用する新たな研究分野や応用分野の開拓を促進すると期待されている。

○ 物質の電子状態や磁性の計測では、アト秒パルスレーザーにより、これまで困難だった水素分子のイオン化時間(1フェムト秒)の計測や、分子内の電子状態変化の直接計測が行われている。今後、磁性材料の電子スピン運動、タンパク質等の電荷移動計測や放射線によるダメージの解明等に向けた、更なる単一アト秒パルスレーザーの高エネルギー化や円偏光発生、それら先端アト秒レーザー光源を用いた観測手法の開発が課題である。

○ 極短パルスレーザーを物質の制御に用いる最大の意義の一つは、物質に現れた量子性(波動性)が失われる前にそのふるまいを制御できることである。このような制御は「コヒーレント制御」として物理、化学、生命科学、量子情報科学などの多岐にわたる分野で世界的に開発が進められ、我が国もパイオニアとして世界をリードしてきた。極短パルスレーザーによるコヒーレント制御は、気体の分子など、周囲の影響を受けない孤立系と呼ばれる系での研究が進展しており、単一分子の波動関数の振幅と位相を用いて超高速な情報処理が可能となることが我が国の研究者によって示されている。一方で、重要な物理・化学現象は固体や液体のように、多数の電子・原子・分子が相互作用し合う凝縮系で起きているものが多く、また固体や液体は、気体に比べ量子性の寿命が格段に短いため、コヒーレント制御はまだ十分に対応できていない。コヒーレント制御には、量子性の寿命よりも短いパルス幅が必要だが、短過ぎると物質をイオン化(破壊)してしまい制御できないため、今後は、量子性の寿命よりも十分に短くかつ物質をイオン化しない光パルスを安定して供給できる極短パルスレーザーの発展が望まれる。

○ レーザーは現在、材料の切断や、集積回路を作るためのシリコンウェハーへのパターン露光といった加工にも活用されているが、より微細で高精度の加工を目指し、より短い波長を持つEUV光源の開発が進められているところである。EUVによるリソグラフィの実用化は、Society5.0実現に向けての喫緊の課題であり、この技術を本格的に実用化するためには、前述の高次高調波を利用したコヒーレントEUVレーザーを用いた様々な検査技術が周辺技術としても必須である。将来的には、多様な材料を超微細かつ超高精度に加工にするために、ものが切断される際の化学反応過程を含む電子状態の理解が必要である。このような学理解明においてもアト秒科学の貢献が期待されており、光を超高速で制御する技術が産業界に更に大きなインパクトを与える時代がやってくる。

(パワーレーザー)

○ 一つのパルスが持っているエネルギーを変えずに、パルス時間幅を非常に短くしていくと、瞬間的に示す最大出力が極めて高い超高強度レーザーであるパワーレーザーを得ることができる。我が国では、超高強度レーザーとしては世界最高最大出力2ペタ(10の15乗)ワット(W)でパルス幅0.5ピコ秒/出力1kJのレーザーや、単パルスのエネルギーが10キロジュール(kJ)でパルス幅1ナノ(10-9)秒及び最大出力15テラ(10の12乗)Wのパワーレーザー施設が稼働しており、新たな学術やイノベーションを創成するための研究に活用されている。

○ 一方、欧米や中国、韓国においてもパワーレーザー施設が稼働しているが、特に欧州のチェコ、ハンガリー及びルーマニアにおいて、Extreme Light Infrastructure(ELI)と呼ばれる施設が現在建設中であり、そこで使用する超高強度レーザーは、既存のパワーレーザーよりも非常に性能の高い目標を掲げて開発中である。また、中国と韓国においても最大出力10ペタWに向けた計画が進んでいる。

○ パワーレーザーは、物質に高いエネルギー密度の極限状態を引き起こすことができる。1000万気圧を超える超高圧状態を物質に発生させたり、ピコ秒の超高速での加圧や減圧、加熱や冷却、レーザーによって発生する圧力波の時空間制御が可能となる。これまでに、パワーレーザーによって、ダイヤモンドより硬いスーパーダイヤモンドの瞬間的な実現が我が国から報告されているが、このスーパーダイヤモンドが、ものづくりに使用できれば、加工時間の大幅な短縮が期待できる。また、シリコン等の半導体を加圧して金属化しても、圧力を除くと元の物性に戻ることが常識であったが、パワーレーザーを用いた超高圧化により、金属化した物性のままとり出せる可能性の示唆等の成果が報告されている。このように、パワーレーザー技術の応用は、新たな物性及び機能性を発現する新材料の創成を通じた産業イノベーションに繋がると期待される。更にパワーレーザーは、惑星内部や核融合燃焼等といった高エネルギー密度状態の極限世界を地上に生み出すことができるため、地球惑星物理学といった学術分野や核融合工学など、幅広い分野において新たな知見の獲得を加速するツールとなる。

○ その他、パワーレーザーにより作り出される、気体や固体のプラズマ状態も、新たなフォトニックデバイスとして利用することでイノベーションを生み出す可能性がある。例として、従来の光学素子と比べて1000倍以上の強度の光を制御可能なプラズマミラーが挙げられ、1kHzで繰り返し動作する製品が実用化され始めている。他の例としては、プラズマによる粒子加速がある。現在、高周波電圧を利用した加速器によって加速される電子やイオンといった粒子は、殺菌や材料加工への応用、非破壊検査や物質の原子配列を構造解析するためのX線源、がんの治療等の広範な分野で活用されているが、パワーレーザーによって発生するプラズマを応用することで、粒子加速器を超小型化できる。そのため、世界的に精力的な研究が推進されており、我が国においては、世界で最も安定なレーザー加速電子ビームを実現しており、1-2mのサイズでGeV級の安定な電子ビームを供給できるシステムの開発が進んでいる。

○ また、パワーレーザーに関して、高出力化するために複数ビームを結合するコヒーレントビーム結合技術やレーザー増幅の高繰返し化技術の研究開発が進められている。今後、世界的にも強みを持っているレーザー用セラミックや超高耐力光学素子、独自のプラズマフォトニックデバイスを活用した国際競争力のあるパワーレーザーシステムの実現が次のマイルストーンである。パワーレーザー技術の研究は、世界的には主に学術的なフロンティア開拓を念頭に置いて進められているが、我が国においては、光源の高性能化の他、産業利用も含めた活用を念頭に置いた、独自のパワーレーザーシステムの実現を目指すことが重要である。

(光周波数コム)

○ 光周波数コムは、精密に等間隔な多数の狭線幅レーザーの集合で、その波形の見え方が櫛(英語で「コム」)に似ていることからこの名前が付いた。1999年に、それまで困難だった光の周波数の高精度な絶対計測を実現した光の「ものさし」であり、2005年にはノーベル物理学賞を受賞している。光の領域の周波数を高精度に計測できるため、2009年には産業技術総合研究所が開発した光周波数コム装置が我が国の「長さ」の計測器の国家標準に指定され、長さの国家標準として発生する「波長」が従来に比べ300倍高精度になっている。

○ また、光周波数コムは、マイクロ波から光、EUVの周波数に及ぶ広範囲で大きく離れた周波数の精密な比較や相互変換が可能である。そのため、周波数帯が大きく離れているために独自に技術進展してきた電気や電波と、光に関する技術を、光周波数コムの応用によって繋ぐことができる。また、周波数の他、広いダイナミックレンジの時間や長さも相互に変換できるため、単なる周波数のものさしを超えた応用の可能性が広がりつつあり、計測、物性制御、加工や天文、宇宙といった広範な分野への展開が期待される基盤技術と言える。

○ 例えば、周波数にわずかな差のある2つの光周波数コムを組み合わせるデュアルコム分光法により、電波領域の周波数に変換して高速・高精度・広範囲に計測することができるようになってきている。また、200ナノメートルの距離の違いを300m先から計測できるなど、超高分解能を持つ距離の計測にも応用が可能であることが屋外実験により得られているが、光周波数コムを周波数計測以外に応用するこのアイディアは、我が国で最初に発表されたものである。現在は、これをより発展させ、レーザーを一度照射するだけで3次元形状が計測可能な技術等の研究が進められており、将来的には環境モニタリングや産業ラインにおける高速・高精度計測、究極的には宇宙での超長距離測定といった展開が考えられる。

○ 光周波数コムの技術は極短パルスレーザーやアト秒科学とも共通する技術であり、それらの進展に大きく貢献するとともに、広い分野に波及効果をもたらす可能性がある。今後は、光源のさらなる広帯域化に加え、応用分野の開拓を進めながら、光源と応用分野をつなぐ高機能な計測や制御技術の開発を継続するとともに、応用システムを目指した小型化や低コスト化を進めることが次のマイルストーンである。光周波数コムにより高精度に制御された光を光ファイバーに乗せ、必要な場所で所要の周波数の光を取り出して実験や計測に使用するネットワークインフラといった応用も考えられる。

(フォトニック結晶)

○ フォトニック結晶は、屈折率が光の波長程度の大きさで周期的に変化する構造をもった結晶である。この構造により、多彩な光制御が可能となると期待されている。作製には高度な結晶作製技術が必要であったが、我が国の研究者による、世界初の三次元結晶の実現(2000年頃)と二次元結晶への展開、さらにはその後の光制御技術の発展を経て、現在では30を超える研究機関により、全世界的に研究が進められている。

○ フォトニック結晶を用いた技術の中で、特筆すべきものの一つは半導体レーザーにフォトニック結晶を導入したフォトニック結晶レーザーである。フォトニック結晶により発光面全体が共振しているため、通常の半導体レーザーと比べてビーム品質が高く、レンズを用いなくても絞られた範囲にレーザーを照射することができるという特長をもつ。0.2W級の出力を持つものが2014年に実用化されており、実験では1W級のものが実現できているが、これを10-100W級、さらにはkW級まで高出力化することができれば、レーザー加工機で用いられている気体レーザー(CO2レーザーやエキシマレーザー)やファイバーレーザーをフォトニック結晶レーザーに置き換えることが可能となり、その結果、装置を大幅に小型化できるため、レーザー加工機市場を塗り替える可能性も見えてきている。加えて、ミラーを使わず電子的にビーム方向を二次元的に変化させることが可能なフォトニック結晶レーザーが開発されるなど、種々の応用展開も広がりつつある。

○ レーザーの他にも、特定の波長帯の光の伝搬を禁止するフォトニック結晶を用いて、光メモリーや、離れた2つの共振器間で光を自在にやりとりする技術など、将来の光量子通信・情報処理のための高機能光回路の実現にとって鍵となる技術が次々と開発されている。また、フォトニック結晶を熱輻射制御に応用し、高効率太陽光発電を実現する技術等の開発や、通常、極めて応答が遅い熱輻射を4桁も速く変調できる技術の開発も行われている。

日本の強み・課題

○ 加工用レーザーとして広く用いられているCO2レーザーやリソグラフィ用のエキシマレーザーについて、我が国はこれまでの技術開発に立脚した一定の競争力を持っている一方、今後の加工用レーザーとしての成長が予測されているファイバーレーザーについては米国と独国の後塵を拝している。また、極短パルスレーザー用として広く使用されているチタンサファイヤレーザーは米国と、仏国など欧州の技術力が高い。我が国においては、ファイバーレーザーと並び成長が期待されるセラミックスレーザーについて、材料研究から要素技術化、レーザー全体システムへのインテグレーションに強みがあり、異なるセラミックを光学的に接続するコンポジットセラミック技術などが開発されている。また、励起用半導体レーザーや超高耐力の光学素子、大型回折格子や、それらを支える量子光学に強みがある。

○ 極短パルスレーザーについて、アト秒パルスレーザー光源に関係する圧力勾配型中空ファイバーやルーズフォーカシング法等の、我が国で開発された技術が、世界初のアト秒レーザー光源共同利用施設として、2018年からの利用を目指してハンガリーに建設中のELI-ALPSに適用されるなど、関連要素技術に強みがある。一方で、システムとして組み上げれば中規模の装置となるため、研究者以外にも技術者の持つ技術の継承を含めた人材育成が課題である。極短パルスレーザーの特性を活かした先端的な光技術の開拓において、我が国はコヒーレント制御の研究で分野を先導しており、世界的なプレゼンスが高い。

○ パワーレーザーについて、世界最高性能のレーザー用セラミックや超高耐力光学素子は、世界のマーケットでも認められている我が国の強みである。また、我が国独自のプラズマフォトニックデバイス技術は世界で最も安定なレーザー電子加速を実現している。材料開発レベルから関係機関の連携によって技術開発を推進するとともに、社会への応用展開を念頭においた技術開発を実施している点も、我が国の強みと言える。極短パルスレーザー同様、欧州のような巨額の集中投資は容易ではないと考えられ、これらの強みを活かした独自のパワーレーザーシステムをどのように構築できるか検討することが必要である。

○ 光周波数コムについて、ファイバーレーザー光源開発や距離測定への応用など、世界が追随する精密計測技術を世界に先駆けて開発し保有していることが我が国の強みである。

○ フォトニック結晶は、2000年頃、高い結晶作製技術に支えられ世界に先駆けて実現した、我が国発の技術であり、現在でも我が国のプレゼンスは極めて高い。様々な応用可能性を持つとともに、一部は産業化の段階に入りつつあり、我が国の大きな強みとなり得る光技術である。

○ 量子技術と同様に、我が国における人材流動性の確保は重要な課題であるが、これまでの光技術に関する施策等を通じて、産学及び異分野での人材交流が進んでおり、特に、若手研究者の交流には大きな期待が持てる。一方で、博士人材に安定な環境を提供することも重要である。

推進方策の検討にあたって考慮すべき点

○ 最先端フォトニクス・レーザーは、材料研究、半導体・ナノテク分野で培われた材料作製技術、量子光学など、我が国の強みを発揮している分野であり、学術の開拓、医療、エネルギーや製造業まで非常に応用範囲が広い。これまでの施策によって開発した技術、得られた成果及び育成された人材を、いかに継続的に進展させるとともに、いかに活用するかを考える良い領域である。

○ 最先端フォトニクス・レーザーは、物理、化学、計測、生命科学など分野横断的に先端研究を更に広く波及することが重要である。特に、技術シーズ側とニーズ側両方の言葉を理解して通訳できる、最先端光源をニーズ側が使いやすいように工夫できるといった両者のコーディネーションができる人材の育成が必要である。そのためには、大学や研究機関と産業界両方を経験できる人材流動性や、両者と対等にコーディネーションできる立場を確保する枠組みをいかに構築するかを検討すべきである。

○ 欧州等の近年の大規模投資に対して我が国が対抗するには、競争だけでなく、それを乗り越えて機関間を連携・協調させる拠点施策は有効である。

○ 光周波数コムは、発明された当初は3か国しか実現できず、我が国はその一つであったが、従来の重点分野の切り口に合致しにくいことなどから研究が断続的になり、国全体としては初期のアドバンテージを活かせていない。このような基盤技術に対しては長期的視点に立った継続的な研究が重要である。そのためには、光技術と量子技術ともに、技術がどのようなレベルにあるのか、その進展によってどのようなポテンシャルや可能性があるのか、どのように社会に役立ち世界が開けるのかを国民と企業に分かりやすく発信することが重要である。

注記


用語解説

コヒーレント
波の位相が揃っており、干渉性が高いこと。レーザーの光はコヒーレント性が高い。

狭線幅レーザー
波長または周波数の広がり(線幅)の狭いレーザー。

EUV
Extreme UltraViolet radiation(極端紫外放射)の略で、波長1~100nmの範囲の紫外線のこと。半導体分野のリソグラフィ技術として波長13.5nmの光源が開発されており、現在、EUV=13.5nmの光ということが定着している。

リソグラフィ
半導体や液晶パネルの基板の作成などに用いられ、回路パターンなどをレーザー光で基盤などに現像する技術。

圧力勾配型中空ファイバー
超短パルスレーザーの帯域を広げより短いパルスにする際に、希ガスが封入された中空ファイバーを用いる。この際に、ファイバーの入り口の圧力を下げて真空にちかくにすることにより、より高強度で理想的にパルスを中空ファイバー内に導入できる。

ルーズフォーカシング
高次高調波の発生において励起レーザー光を長焦点のレンズやミラーで緩やかに媒質ガス中に集光することにより、位相整合条件を満たすとともに相互作用領域を拡大することが可能になり、高出力でビーム品質のよい高調波が得られる。

多光子励起顕微鏡
物質励起に二光子吸収過程を利用した顕微鏡。光源として赤外線域を使うことができるため、生体組織表面から数百マイクロメートルといった深部の顕微鏡像を得ることができ、生きた動物の脳内で起こっている神経細胞活動などの観察も可能となる。

お問合せ先

科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室

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(科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室)