光・量子ビーム研究開発作業部会(第2回) 議事録

1.日時

平成24年3月28日

2.場所

文部科学省 16階 特別会議室

3.議題

  1. 前回の議論等について
  2. 委員及び有識者からのプレゼンテーション
  3. 今後の光・量子ビーム研究開発の推進方策の検討
  4. その他

4.出席者

委員

家主査、井上委員、加藤委員、兒玉委員、五神委員、佐野委員、辛委員、高原委員、南波委員、三木委員、村上委員、吉澤委員

文部科学省

原量子放射線研究推進室長、阿部量子放射線研究推進室室長補佐

オブザーバー

独立行政法人理化学研究所 緑川克美氏

5.議事録

【家主査】

 本日はまず、前回の議論のポイントを委員の間で共有するとともに、前回の議論に関連して、今回は光・量子ビーム研究開発の推進方策について、より掘り下げた形で委員及び有識者の皆様からプレゼンテーションをいただくことにしております。

 そして、最後に本日の発表を踏まえまして光・量子ビーム研究開発の推進方策について引き続きご議論いただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

 それでは、事務局より本日の資料の確認などをお願いいたします。

【事務局】  

 お手元の資料をご覧ください。議事次第にありますとおり、資料1-1から資料4まで全部で7点。それから、参考資料として3つ置かせていただいております。お手元にないものがございましたら、事務局まで一言いただければと思いますが、よろしいでしょうか。

 それから、旅費の手続きが必要な委員の先生の方には机上に書類を置かせていただいておりますので、該当個所2か所ございますけれども、押印の上、お帰りになる前に事務局までご提出いただきますよう、よろしくお願いいたします。

【家主査】  

 それでは、議事に移ります。先ほど耳打ちされたのですが、今日は速記の方が入っていないということで、後ほどテープ起こしをするということでテープを回させていただいております。ご発言のとき、できるだけお名前をおっしゃって発言していただくと、後が楽になるということでありました。

 では、議事に移ります。皆様に一度ご確認いただいたものですが、まず資料1-1及び1-2に基づきまして事務局より前回の議論のポイントを説明いただくとともに、今回の議論の全体の進め方の中での本日の位置づけについてご説明をいただきたいと思います。では、よろしくお願いいたします。

【事務局】  

 お手元に資料1-1と1-2をご準備ください。まず、資料1-1でございます。前回第1回のときにいただきましたご意見の主なものをまとめさせていただいております。大きな柱としましては人材育成について。それから2ページ目になりますけれども、研究開発の方向性について。それと産業界による光・量子ビーム施設の利用についてといった中身をご議論いただいたと思います。

 簡単に中身をご紹介させていただきます。人材育成につきましては、装置の大型化と集中化が進み人材を育成する場がなくなっている。施設側と大学の連携が必要であり、戦略的に育てることが必要ではないか。世界で活躍できる研究者を育てるには、分野に閉じこもるべきではない。産業界とも連携した育成が必要で、またキャリアをどう展開するかという視点も必要ではないか。トライアルユースなどの新規利用者の啓蒙の中で育成していく施策も必要ではないか。測定原理まで踏み込んで要素技術を発展させるような育成が必要ではないかといったご議論をいただいたところでございます。

 また、2ページ目ですけれども、研究開発の方向性につきましては、要素技術を開発するための支援や要素技術の有効利活用という視点が重要ではないか。基礎科学、産業界に展開されたというように政策が国民社会に還元されていることを示すことが重要ではないか。光科学技術と量子ビーム技術は歴史的な融合点であり、総合的に使うような技術開発や基盤開発の応用可能性を重視して行うべきではないか。量子ビームと計算科学の連携が重要ではないか。産業利用へつなぐベーシックリサーチが重要で、出口まで成果を見せていくことが重要ではないか。コアコンピタンスとなる技術の融合も重要ではないか。要素技術開発とサイエンスの目的のバランスが重要ではないかといったご議論をいただきました。

 3点目になりますけれども、産業界による光・量子ビーム施策の利用について、産業界に更に使ってもらう施策を打つべきではないか。シミュレーション技術や簡易的な実験設備での代用が進めば企業の利用が進むのではないか。そもそもの利用機会が少ない。小型線源の開発がトレンドになっており、実現すれば競争力が格段に上るのではないか。研究開発だけが目的の大型装置利用というモデルは既に成り立たず、経済に影響するところの利用率を上げる仕組みや産業利用までつなげるシステムが重要ではないか。開発段階から企業を巻き込んだ活動をし、企業とのコミュニケーションの場を多く設けることが重要ではないかといったようなご議論をいただきました。

 続きまして、資料1-2をご覧ください。今後の作業部会の進め方の案でございます。前回、大まかにスケジュールのイメージをお示しさせていただきましたけれども、その後、少し中身を書かせていただいております。本日第2回、3月28日につきましてはプレゼンテーションを3名の方からいただいて、その後、今後の推進方策の検討を行ってはいかがかと考えております。

 次、第3回は4月20日を予定しておりまして、こちらでもまた2名から3名の方からプレゼンテーションをいただきながら検討及び論点の整理を進めてはどうかと考えております。

 その後ですけれども、4回もしくは5回になるかと思いますが、これまでの議論を踏まえながら、またプレゼンテーションをいただいて、報告書の案についてご議論をいただければと考えております。

 それから、机上に置いております参考資料1~3をご覧ください。前回の資料にも入れさせていただいておりますけれども、本作業部会でどういったことを検討しなければいけないのかということの位置づけ等々を改めてご説明させていただきます。まず、参考資料1「光・量子ビーム関連施策マップ」と書いてございます。主に国の方で行っております施策が、ここに書いてあるような取組が行われているところですが、この中で黄色に塗られております戦略的創造研究推進事業につきましては、いくつかプログラムが走っておりますが、新たな公募等々が今後あまり予定されていないというような状況があります。

 それから、その右にございます光の創成を目指したネットワーク拠点形成プログラムと量子ビーム基盤技術開発プログラム。特に下にあります量子ビームのプログラムにつきましては、24年度で事業が終了する予定となっているところでございます。こういったことも踏まえまして、全体の光・量子の施策をどういうふうに進めていくべきか。また、そのためにはどういった取組が必要なのかといったようなことをご議論いただきたいと考えているところでございます。

 参考資料2につきましては、これまでの主な報告書の概要が書いてございますけれども、これまでも何か施策を始める前にはこういった議論がなされ、今後5年または10年といった期間の中でどういったことを重点的に取り組むべきかということをご提言いただいてきたところでございます。

 そういったところを踏まえまして、参考資料3にございますように本部会の検討概要ということで検討の視点が真ん中にございますが、J-PARCやSACLAといった多様な量子ビーム施設の利用が可能になったほか、技術の発展により発生原理が違う放射光とレーザーで達成できる光の波長が近似してきているなど、取り巻く状況が大きく変化している状況において、量子ビーム技術や光科学技術、こういったものをこれまでの成果を活かしながら重点的、戦略的にどのように推進していくのかといったことをご議論いただきたいと考えている次第でございます。資料の説明は以上になります。

【家主査】  

 どうもありがとうございました。資料1-1に関しましては事前にご覧いただいているかと思いますけれども、前回第1回で委員の方々からお出しいただいたいろいろな意見を事務局で要領よくまとめていただいたものです。もし何かこれについてご意見があればということですが。

 それと、資料1-2は、事務局とご相談いたしまして、今後の進め方について一応のガイドラインのようなものを作成しております。今回と次回については、実際にこの分野で研究を推進しておられる方々からのプレゼンテーションをいただきまして、それに基づいて意見交換を引き続き行いたいと思います。第4回、第5回あたりでとりまとめの方向に向けていきたいと思っております。これはこちらで作ったたたき台ですので、このとおり必ずしも進める必要はございませんけれども、これについてもご意見があれば承りたいと思います。

 いかがでしょうか。どなたか。

【高原委員】 

 九州大学の高原でございます。私は現在、SPring-8でフロンティアソフトマター・ビームラインの運営委員長をやっておりまして、日本の19社とビームラインの運営をやっております。非常にうまく動いております。

 その中でこの人材育成と研究開発の方向性、それから産学連携という3つについて、いくつか私自身の意見があるのですが。1つは、産業界でこういった量子ビーム等の解析等を理解されている方というのは非常に少ない。FSBLでは特に産業連携ということで、企業に対して大学と学術がペアを組んでビームラインの運営に臨むということで、学術の方が企業の方の解析等も含めてサポートするという体制をとっております。それでも、大学の方がサポートしても、大学側で、私は化学系ですので特にそうですが、量子ビームについての基礎教育が昔に比べるときちんとなされていないといいますか、基礎的な教育のところで、例えばX線でいうと逆格子というところがほとんど教えられていないという状況になっています。私が学生の頃はそういったものがきちんとカリキュラムに入っていたのが、入っていない。学術の方も若干そのあたりが不安なところがあるというところ。そういったところで基礎教育の点からサポートしていく必要があると考えております。

 それと関連するのですが、次の研究開発の方向性というところでは、私たちのところで問題になっているのは、日本が非常に優れた半導体の技術とか持っているのに、例えばX線の検出器ではピラタスというスイスが出している装置が非常に高い値段、高性能ですが、それが売られていまして、そういった非常に高い技術が日本にあるにも関わらず、そういう検出器が入手できない。20センチメートル×20センチメートルで1億円するということで。

 もう1つは、それを解析していくソフトですね。ソフトが充実していないといいますか、そういうソフトが書ける人材がなかなかいないということです。そのあたりが私自身はこの研究開発の方向性も含めて、これから考えていくべき課題ではないかと考えています。

 産学連携に関しましては、産業界の方も非常に基礎的な部分が重要であることを認識していただいて、FSBLの方に参加していただいています。企業の方も24時間といいますか、終夜の実験にも付き合っていただくような形で、必要性といいますか、それを十分理解していただければ産業界には大いに量子ビームを活用していただけると考えております。特に、私たちのところではビームラインの中にプロセッシングの装置ですね。成形装置とか紡糸装置とか、それから膜を引く装置をそのままセットできるような、従来のビームラインとは違った設備を導入いたしました。ですから、ハッチの大きさを非常に大きくしました。そういった形で産業界のニーズに応えたビームラインの運営ができるという形で現在運用しております。これから成果が表に出てくるというように、製品開発にフィードバックできると考えております。

 以上でございます。

【家主査】  

 どうもありがとうございます。大変重要なご指摘をいただいたと思います。

 ほかにございますか。この点につきましても、後ほど最後に少し時間をとって意見交換をさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。

 それから、参考資料も付けていただきました。参考資料1を改めて見ますと、光・量子ビームの関連の施策で、一番左の方は競争的資金によりボトムアップ、いわゆる研究者の自由な発想によるものとか、多少政策誘導型だけれどもプロポーザルベースのそういう研究活動。一番右の方は産業界における実用化につながるような研究。ここで議論する、現在走っている光・量子ビームのプログラムはその間といいますか、そういったいろいろなものが全国的な体制としてうまくいくような、補完するようなプログラムかなと理解しております。そういう中で産業界にどうやって使ってもらうとか、人材育成とか、世界との太刀打ちの戦略とか、そういうものが問題になかと思っております。いかがでしょうか。前回の議論、それから今後この作業部会の進め方についてですが、一応こういうことを共通理解として進めさせていただいてよろしいでしょうか。

 もしよろしければ、次に議題2に入りたいと思います。本日は前回の議論を踏まえまして光・量子ビーム施設をめぐる状況とか今後必要とされる方策等について、3人の方からプレゼンテーションをいただきたいと思います。辛委員、三木委員、それから川合委員は今日ご欠席ですけれども、川合委員からご推薦をいただいております理化学研究所の緑川先生に今日ご出席いただいておりますので、この3人の方々にそれぞれ20分程度でプレゼンをいただきまして、それからそれぞれ質疑の時間を5分程度とりたいと思っております。

 それでは、まず辛委員からお願いしたいと思います。

【辛委員】  

 ご紹介ありがとうございました。普段から思っていることがあるのでユーザーの立場から話をさせていただければと思います。この光量子ビーム科学の発展、施設利用の推進、人材育成の3点について話させていただきます。

 私は東大物性研究所の辛といいます。ちなみに私は放射光と軟X線領域のレーザーの両方の分野に属しています。物性研の中で両方やっています。最近、特に放射光及びレーザーで技術革新がものすごく進んで、巨大な施設にも関わらずユーザーの方としてはサンプルさえ持っていけばポンと測れるような時代になっています。これは逆に言うと装置建設が可能な有力な大学というのが要らなくなりつつあって、それが逆に将来こういう分野を支えていくような人材供給源がどんどん減少しつつある。特に放射光とか中性子で多分将来深刻になる可能性があります。私は放射光で、日本でSOR-RINGという物性研がつくったリングの最初のドクターの学生でした。その頃、ユーザーといえどもリングが故障すると突然施設の人間に早変わりして、施設の修理をしなくてはいけない。このユーザーコミュニティと施設というのはほとんど一体化していたのですが、ここがだんだん分離していって、むしろサンプルさえ持っていけば実験できるという一般の研究者がどんどん増えています。

 もう1つは、技術革新がどんどん進んできて、今日はこのことについて主として話したいと思っているのですが、異なる施設でも同じ実験が可能になりつつあります。例えば放射光でやっていた実験がレーザーでできるようになり、中性子を使っていた実験が放射光で可能になる。ユーザーコミュニティがどんどん変化しつつあります。こういう技術革新というのは量子ビーム間のプラットフォームをどんどん推進していくと個人的には考えています。一方、SACLAとかJ-PARCのような新しい量子ビーム施設が出現しつつあります。今のことをまとめると、このような図になっているのではないかと思っています。どんどん技術が進歩していくと、このユーザーコミュニティの間の重なりがどんどん増えていって、ユーザーコミュニティ間の境目が段々なくなっていくのだろうと考えています。

 まず、最初に放射光とレーザーの関係の例を考えてみたいと思います。私がやっているような高分解能の光電子分光という例を考えますと、昔は、これは放射光の専売特許でした。この写真はその例として、KEKを代表するBL28というビームライン、巨大なビームラインです。写真のこっち側にリングがあって、その後に巨大なビームラインがあって、最後に実験装置がある。一方、私が物性研でやっているレーザーを用いた光電子だと、この部分がレーザーで、非常にコンパクトな装置になっています。これらの図は例えば1つの例として、細野先生が見つけた超伝導体の光電子分光スペクトルで、放射光とレーザーを比較した図です。放射光で用いた光電子分光ですと、超伝導ピークが1つであると思われていたのが、レーザーを用いて著しく、分解能を上げると実は2つあって、内側が超伝導ピークで、外側がマグノンの構造だとか、そういうことがクリアに分かります。ちなみに超伝導を測ると何が分かるかというと、このギャップの大きさが大体の超伝導転移を決めていて、大きい方が実用化には望ましいわけです。我々の夢は室温に近い超伝導というわけです。

 同じ実験をこのようにレーザーを用いたり放射光を用いたりする時代になっています。この図はシンクロトロン放射光とレーザーの輝度を比較してみました。UVSOR、PF、SPring-8という代表する日本の放射光施設のアンジュレータの輝度です。こっちはベンディングマグネットの輝度です。7eVの我々が使っているようなレーザーですと、ほぼ同等以上の輝度を持っています。しかし、レーザーのエネルギーを7eVから8eVするようなことは今までできなかったのですが、去年物性研のレーザーグループが成功させてくれました。いきなりFluxが落ちます。ですから、レーザーとしては今この辺が閾値で、8eVぐらいですね。8eVぐらいですと放射光と同等、あるいはそれ以上の性能を持っているということになります。

 もっと高いエネルギーを得ることができないかというと、物性研でいうと小林研というファイバーレーザーとエンハンスメント共振器という技術を用いると8eVから20eVで、サブマイクロワットの光が出ることが分かっています。これは先日出たネイチャーの論文から取ってきた図ですが、これですとサブマイクロワット程度で実際に30eVまで実現しています。今、物性研で建設中の30メートルのcavityを用いるとサブマイクロワット程度になりますから、先ほどの輝度の比較のグラフで言うと大体20eVぐらいまで放射光と同等な光を得ることができるようになります。

 装置開発の例として、分解能の向上を上げてみます。この図は分縦軸が光電子分光器の分解能で横軸が西暦です。私の学生の頃は300 meVという分解能でしたが、近年では、ほぼ指数関数的に分解能が向上しています。これは半分冗談ですが、ムーアの法則というのがあります。半導体の微細加工は指数関数的に微細加工の細かさが上がっていくというのですが、装置開発においてもやはり指数関数的に分解能がだんだん上がっていっています。

 今は放射光とレーザーの間の話です。今度はレーザーとFELの関係を話してみます。この図は、我々が使っているレーザーを用いたフェムト秒のレーザー光電子分光です。この原理については、あとで緑川先生がお話になると思いますけれども、我々のところですと大体60eVぐらいまで、実際に使える光が出ています。これを用いてフェムト秒の緩和ダイナミクスを測るような時間分解過程を測ることができます。この写真ですと、こちら側が大きなレーザーで、この辺に光電子分光器があります。

 1つの例として、TaS2でお話ししてみます。この図ではタンタルの4f内殻を示しています。これを強い可視光レーザーでポンプすると、この4f内殻分裂のエネルギー間隔が振動します。これをプロットすると、こういうふうにサインカーブを描いた振動を見ることができます。これはこの物質が電荷密度波というものを生じる物質で、その電荷密度波に関係するようなフォノンを放出していることが分かります。素粒子実験の例を用いていいますと、素粒子をほかの粒子で大きく叩いたりすると、中に入っているクォークとかそういうものがいろいろ飛び出してきます。この実験はそれに対応するような実験で、物質に強い光のレーザーを当てると物質中に存在している電荷密度波を壊すことによって、電荷密度波を作っているフォノンが放出されて出てくるということに近いです。

 実はドイツがFELで同じ物質で同じ時間分解光電子分光実験をしています。レーザーとFELのスペクトルを比較してみたのがこの図です。実験はドイツのプロトタイプFELのFLASHで行われました。レーザーで測定されたスペクトルもFELで測定されたスペクトルも全く同じスペクトルのように見えます。しかし、レーザーの場合ですとコヒーレントフォノンがサインカーブを描いてきれいに振動しているのが見えますが、FELですと、時間分解能が悪く振動構造までは観測することができていません。一方、同じ実験でもFELの方が、強度が強いので非常にきれいに見えるし、広いエネルギー範囲で非常にきれいに観測することができます。放射光を用いても同様に時間分解光電子分光が同じようにできます。ただし、それは50psより非常に長いところです。レーザーとFELはフェムト秒の緩和時間まで観測することができる世界です。超高速分光というのは、放射光、レーザー及びFELの連携あるいは役割分担が非常に重要で、1つだけではうまくいかなくて、それぞれの光が時間スケールとかエネルギー範囲とか安定性とかいろいろあると思いますが、繰り返しとか、そういうものを利用して総合的に研究していく分野だと思っています。超高速分光は化学反応そのものですから、光合成の反応とか、タンパクの視神経、視覚の問題とかあるいは水の光分解とか分子内の電荷移動とか、あるいは表面の触媒反応とか、非常に夢のある世界をこういう3つの量子ビーム施設で役割分担してやっていけることが重要と考えています。

 もう1つ、最後に中性子と放射光の関係を考えてみます。この図は物性研が関与しているSPring-8にある東大のアウトステーションです。世界で最大の長さである27メートルのアンジュレータがあります。このアンジュレータを用いて、軟X線の発光分光を行っています。軟X線発光分光は多分放射光で最も技術革新が激しい分野で、最近、分解能が極端に上がったために、これまで、中性子でないと観測できなかったようなマグノンを観測することができるようになりました。海外もこの分野はものすごく盛んです。例えばSLSだとこの倍の大きさの5メートル。ESRFは10メートルで、NSLSは15メートルで、放射光リングはもともと大きいのですが、発光分光器が大きくなって、ついに最近ではリングからはみ出して、別な建物にこういうものを作る。そのぐらい有益なビームラインということになります。この図は高温超伝導体の例です。マグノンの分散を、横軸運動量で、縦軸をエネルギーで測ったものです。図中の丸が放射光で測ったものですが、この赤い点線の中性子で測ったマグノンとほとんどぴったり重なってしまいます。今までは中性子でないと測定できなかったものが放射光で観測できるようになるというわけです。こちらの図もやはり高温超伝導体のマグノンを詳しく比較した図です。エネルギーが低いところは中性子で測ったものですが、エネルギーが高い方は放射光を使った軟X線発光分光で行ったマグノンの分散です。今の段階では放射光発光分光の分解能が50meVぐらいまでしかいかないので、ここより上の高いエネルギー領域は放射光、ここより下の低いエネルギー領域は中性子と使い分けていることになります。現在では分光器を大きくして、もっと分解能をよくしていこうという方向になっています。中性子は、私は専門家ではないので、吉澤先生からいただいた図で示しますと、こういう中性子の大きな実験装置でマグノンの分散がきれいに観測されています。この分野は中性子のオハコというか独壇場だったのですが、こういうものが放射光を用いても最近できるようになってきています。こういうスピンの分野というのは、情報を電流ではなくてスピンで伝達すると省エネ社会とか、あるいは高度な社会を作ることができます。スピンの観測は、今でも中性子が一番有力ですが、放射光、レーザー、軟X線FELとか、いろいろな量子ビーム間の連携、あるいは役割分担が今後非常に大事になってくると考えています。

 これは最後のパワーポイントです。今までは放射光しかできなかったと思っていたのがレーザーでできるし、中性子でなければだめだったと思ったのが放射光でもできる。こういう施設間の連携とかそういうのが非常に大事になってくると思っています。

 もう1つ言いたいことはユーザーコミュニティがどんどん変質し始めて来ていることです。最近の量子ビーム施設は著しい技術革新によって、一般の研究者あるいは企業の方でも簡単に利用しやすいようになっています。しかし、各量子ビーム施設と一般ユーザーの中間のパワーユーザーの部分をきちんと育てないと将来は量子ビームの施設にとって非常に困ることになると思っています。特にユーザーコミュニティに属していながら、装置建設可能なユーザーの開拓が非常に大事です。まず、そういうユーザーを開拓しないと、こういう施設を担うような若い研究者が育ってこないということになります。今、このパワーユーザーの部分がどんどんやせ細っている状況ですので、ここを拡充することが重要です。

 あともう1つ言いたいのは、同じ研究、例えばマグノンをやるにしても中性子、放射光、レーザー、FEL、こういう各量子ビームの施設の垣根を超えられるような自由な研究が大事です。これを施設主導でやれと言ってもちょっと無理ですから、ユーザー側が垣根を超えるようなパワーユーザー、スーパーユーザーかもしれませんが、そういうスーパーユーザーみたいなものを育成していくことは大事だと考えています。ユーザーコミュニティ及びパワーユーザーを育成していくことによって、それが一番の人材育成だと考えています。以上です。

【家主査】 

 どうもありがとうございました。それでは、今のプレゼンテーションに対してご質問、コメントをいただければと思います。

【南波委員】

 大変興味深い話をありがとうございました。最後のまとめのところでありましたユーザーコミュニティが大事。これはまさしくそのとおりだと思いますが、私の方から見ておりますと、ここで言うユーザーコミュニティというのは、そこに書かれているところの一般の研究者あるいは放射光ユーザーコミュニティ、多分ここでのイメージがかなり違ってきているのではないか。つまり今言っているユーザーコミュニティというのは、ここにいらっしゃる方々はそれぞれ専門の放射光なり、レーザーなり中性子なりの部分のバックグラウンドを持った方ですが、今増えてきているのは一般の産業界の人で材料の専門家であったり、あるいは半導体の専門家であったりというような形で、そういう人が今の量子ビームの中に入ってくる。そうすると、従来言っていたところのユーザーコミュニティというものと、その専門分野のユーザーコミュニティが違ってきているというか、そこが今混じってきている状況だと思います。この先、この状況を更に今の量子ビーム、光の部分を増やしていこうとするときに、ここの乖離をどう埋めていくのか。一般の研究者とか、今私が言った材料とか半導体のようなイメージなのかもしれませんが、そういった研究者の方が今ユーザーコミュニティの中に入ってきていると状況だと思うので。

【辛委員】 

 そうですね。コミュニティと言っていたのがだんだん変質してきて、昔は放射光だったら放射光のサポーターでしたが、むしろ材料を開発している人がユーザーコミュニティ、最近はそういうふうになりつつあります。一般研究者というのはタンパクとか、あるいは何か結晶を作って持っていけば、施設の人が非常に親切にサポートして一緒に測ってくれる。場合によっては全部測ってもらう。場合によっては研究室にいて、データだけ転送してもらって、研究室でデータ処理してしまう。そういう考えも重要ですが、施設と一緒になって装置を開発できるようなユーザー層の育成もすごく大事だと考えています。大学の研究室が法人化して、だんだんやりにくくなっているのですが、装置建設が可能なユーザーをもっと大事にしていく。施設が装置開発するというよりはユーザーが先頭に立ってこういう研究をしていく必要があると思っています。そうすれば優秀な弟子が育って、将来はまたそういう施設に還元していく。それがものすごく大事です。今やっているようなサンプルを持っていってポンは測るようなことだと将来はどんどん便利になってきますが、研究者や産業界と施設の間がどんどん乖離していって、将来はいきなり後継者がいなくなって、分野全体が困るという恐れさえあります。ですから、むしろこの間を埋めるような、むしろユーザーが発信するような装置開発。今はどんどん施設に注ぎ込んでいますが、ユーザーにどんどんお金を付けて逆に施設側に作ってもらうような、むしろそっちの方が大事と考えています。そうすれば大学の中でも装置が開発できるようなユーザーがどんどん育っていくと思っています。

 あともう1つは、両側をまたげるような、これも施設ではちょっと駄目なのでパワーユーザーが必要です。装置ができるユーザーというよりは、更にもうちょっと大きな規模のパワーユーザー、スーパーユーザーが育たないと、この両側の間を埋めるような健全な量子ビームの育成ということにはならないと考えています。

【家主査】 

 まだほかにもあろうと思いますが、一応ここで区切らせていただいて、次の三木委員からお話をお聞きしたいと思います。

 今のお話にもあるように、施設が使いやすくなってユーザーの層が増えるのは大変結構なことですが、中身を知らなくても使えるようになったというのはいいことだけれども、そうすると中身を知らずに使う。そこの人材開発は、例えば材料開発の研究室が放射光なら放射光を使うときに、そこの研究室の若い人、学生さんがそこに行って実験の様子を学んでということもある。でも、それだとスーパーユーザーにはなかなか難しいです。スーパーユーザーとなるような研究室が今大学の研究科等ではどんどん減っているという印象もあります。

 では、三木委員お願いいたします。

【三木委員】 

 京都大学理学研究科の三木でございます。今日は「大型量子ビーム施設による生命科学構造研究の現状と将来」と題しましてお話しさせていただきます。私どもの分野の現状をまずお話しさせていただきたいと思います。私どもの研究対象はタンパク質で、これは申し上げるまでもなく生体内の化学反応のほとんどを担っているものでございますが、それの基本となる情報は立体構造でございまして、この分野を研究する学問分野を構造生物学と申します。この十数年来、この分野はすごく成長いたしまして、そのベースになりますのはタンパク質の結晶構造解析ですから、放射光、X線、ほとんど放射光ですが、放射光によるタンパク質の構造解析は現在7万を超えるまでになっております。

 一方、今日お話しするように中性子によりましてもタンパク質の構造研究はできるわけでございます。これは現在49例あるとなっています。主に放射光で行われておりますような構造研究でありますが、まず従来一番重要なことはタンパク質の形を知る。形を知りますと、例えば重要な病気に関係するようなタンパク質でも、そこに結合するリガンドがわかり、その部分に同じように薬剤が入りますとそれを治すような効果も起こるわけです。その結果、どこに何が結合して、全体がどういう形をしているか一目で分かります。ですから、形を理解することがその機能を理解する上での一番基本的な情報であります。そういうことをこれまで広く研究してきたわけでございます。ところが、今日これからお話しするように、そういう過程で、これから単に形を理解していたことにとどまらずに、その形から更にその構造が持っている情報を引き出しまして、細胞内で起こる化学反応のプロセス、タンパク質の細胞内での化学反応の解明ができるようになって、反応のダイナミックを知り、あるいは反応に直接関与いたします反応内の電子の振る舞いもその結晶構造から知るということができるようになってまいりました。その中で水素原子でありますとか水分子の挙動が非常に重要な役割を果たしております。中性子でございますが、こういう研究例は結晶構造の解析では少ないのですが、水素や水の解析には中性子の利用が不可欠、非常に重要でございます。そういう観点で見てまいりますと、放射光と中性子の連携ということはこれまで私たちの分野ではあまり十分に行われていなかったと思いますが、これからそういうことを進めることが非常に重要であるということを今日お話しさせていただきたいと思います。

 その連携によって、例えば先ほど薬剤のことを申しましたが、薬がタンパク質に結合するときの分子論的な理解を進めることができまして、これまでよりもより精巧な創薬、薬を開発していくことが可能になろうかと思います。それから、昨年話題になりましたが、光合成におきまして水を分解して酸素を発生するというプロセス、このキーとなるタンパク質の構造が分かったわけでございます。そういうプロセスを化学的に解明いたしますが、ここにも水素は非常に重要な役割を果たしております。そういうものを解明できますと、人工光合成の一段階を踏みあがるようなステップアップになるかと思います。

 放射光によるタンパク質の構造研究の現状ということで紹介させていただきます。これはタンパク質の構造データベース、Protein Data Bank(PDB)と申します。これは立体構造が、結晶構造が決まりますと、このデータベースに登録するわけでございます。1972年ぐらいから現在までの登録数で、濃い方のグラフが、その年に登録された数、それからやや薄い棒グラフはその累計でございます。先ほど申しましたが、これにはほかの方法も含めておりますので、現在その数は8万を超えております。ご覧いただきますように、1990年を超えましてからこのように非常に急激に立ち上がっておりまして、これはまさに放射光が汎用的に利用できるようになったという時代と呼応しております。今のデータベースの中でどういう方法で構造が決まったかといいますと、87%以上がX線、このX線は現在放射光と置き換えてもよろしいわけでございますが、放射光で決まっております。その大部分を放射光、X線が占めていると言ってよろしいかと思います。こういうタンパク質の構造研究でございますが、これまでとこれからを見てまいります。基本的に3つの重要な方向性、これらはどれも重要ですが、方向性というか、方策があると思います。まず最初は、ここにありますように多様な対象の構造解析ということです。これは10年ほど前から5年間行われましたタンパク3000プロジェクトに象徴されますように、構造ゲノム科学、遺伝産物でありますタンパク質の構造をでるだけ網羅的に決めて、そこから全部情報を分析するということでございます。また、構造プロテオミクスと申してもよろしいかと思います。構造ゲノム科学では、先ほど申しましたタンパク質の形、いろいろな形をしておりますそれぞれの形が、機能を表しているわけでございます。こういうものがそれぞれのタンパク質について明らかになってまいります。

 更に、構造情報の蓄積が進みますと、今度はそれが細胞の中で働くときの「働く仕組み」を知るということが必要になってまいります。そのときにはタンパク質とは、単独で働く場合もございますが、複数のタンパク質が集まって、いわゆる複合体を作って働き、あるいはほかの分子と協調して働くという、そういう過渡的な複合状態、実際の反応を追うような複合体状態を見ることが重要になってまいります。それは、こういういろいろな種類の複合体の構造を知るということは、実際の細胞内の反応の瞬間を見る、そういうことが可能になります。当然、構造を知るという点では難しいわけですが、今年度で終了いたしますが、ターゲットタンパクプロジェクトというのは、こういうところを目指してやってきたわけでございます。ご覧いただきました3種類のタンパク質、それぞれ単独でこういう形をしておりますが、実はこの3つは実際に細胞内で働くときには、それぞれが2つずつ集まって、こういう複合体を作って、この複合体状態をうまくコントロールいたしますと、この状態で結晶を作って、こういう構造を決めることができるわけでございます。こういう1と2のプロジェクトを含めまして、この方向で進んでまいりますと、その間にいろいろな技術開発が進展してまいります。この技術開発は当初予想していなかった部分もございますが、構造の研究の新たな局面を示すことになるわけです。それがこの3にあります、含まれる情報を最大限に引き出す構造解析ということで、今までの技術開発の上に立っている方向性でございます。最大限に情報をとるというのは、高分解能あるいは高精度の構造情報ということです。タンパク質では従来無理だったと思われているような精度の高い情報を現在得ることができるようになってまいりまして、水素原子・水分子の挙動だけではなくて、電子の挙動やタンパク質のダイナミクスや化学反応プロセスまで踏み込めるような、より深い構造を得ることができるようになってまいりました。

 分解能が上るということは、具体的にこういう例で恐縮でございますが、次のようなことです。X線の構造解析ですと、X線は電子と相互作用しますので、こういう電子雲の形が得られるわけです。分解能は数字が小さい方が上がっていくわけでございますが、この4オングストロームの分解能では電子雲が非常にあやふやな曖昧な形をしております。それが、分解能が上るに従いまして、だんだんアミノ酸の形をより忠実に再現するようにできています。ところが、こういうものにつきましても、アミノ酸の基本的な化学情報、それは小さなアミノ酸分子で得られた情報が必要で、それを基にモデルを組み立てまして、こういうふうにモデルを組み上げていくわけでございますが、この1オングストロームよりも更に分解能が上ってまいりますと、個々の原子の上に電子密度が表れて、それで原子を完全に分離できるようになり、そういたしますと結合距離の情報に関しましても、今までは枠ではめていたものが、それぞれの原子を自由に決めることができるので、より高い精度で、本当の、真の姿を見ることができるようになります。それから、このやや薄い青、これは水素でございます。水素の位置にもきちんと電子密度が出るという、水素の位置も表現できるという形になってまいります。このように非常に分解能の高いデータというのは、先ほど7万も8万もあると申しました構造のうちのほんの1%にも満たない数しか現在はございません。逆に申しますと、この1%も、最近の放射光技術の進歩がこういう状態を可能にしたわけです。こういう方向は、より精度の高い構造は、これから向かうべき道の1つであると思います。

 あと、私どもの研究のことを紹介させていただきます。先ほども出てまいりましたが、光合成の電子伝達に関しましては、光合成の膜の中に存在するこういうタンパク質が光を吸収して、それを化学エネルギーに変換するというところが、重要な役割を果たしております。こういうタンパク質の中に1つHiPIPというタンパク質がございます。このタンパク質は非常に分解能の高い結晶を作ることができます。ここにございますが、この結晶は0.48オングストローム分解能という、これは世界最高分解能でございますけれども、そういう結晶で、その回折データが、SPring-8のデータでございますが測定することができます。そういうふうになりますと、先ほども申しましたように水素原子は、この薄い青が水素でございますが、水素の位置をきちんと電子密度として確認することができるようになります。それだけではなくて、例えばこれは先ほどのトリプトファンですが、トリプトファンのこの炭素、炭素の間の結合電子、外殻の電子である結合電子とか、ここではカルボニルのローンペアの電子、あるいは、これは鉄を含んでおり、この鉄・硫黄クラスターを持っておりますので、そのd電子と思われるような電子密度までタンパク質でありながら見ることができる、こういう非常に高精度の高分解能の解析が可能になってまいります。

 水素に戻りまして、水素の決定は非常に重要でございます。しかし、ここではX線で水素を決める場合、どうしても宿命的なことがございまして、これは専門家の皆様の前で申し上げるのは大変恐縮ですが、そもそもX線は電子との相互作用ですので、電子が1つしかない水素は原子散乱因子、原子散乱能としては非常に小さいもので、炭素に比べますと3%程度の散乱能しか持たないわけです。ところが、このことに関しましては中性子を使いますと、これは炭素と水素にしましても重水素につきましても非常に同じ程度の散乱能を示しますので、水素の観測に関しましては、中性子を利用するということが非常に大きな利点でございます。

 それで、中性子によるタンパク質の構造研究、それから特に水素原子を決定することの重要性ということを少しお話しさせていただきます。これはちょっと分かりにくい図ですが、これはHIV-プロテアーゼの活性部位だけを示しております。この部分がHIVのプロテアーゼの部分でございます。ここに阻害剤を結合できる。この阻害剤を結合しますと、この機能を殺すことができるわけです。

 そういうときに、ここにはアスパラギン酸が4つございます。本来、X線ですと水素の位置は分かりませんので、上も見てもどれも同じ、すなわち水素の位置がなければこの3つは同じ状態ですが、実はこれに水素情報が加わりますと、このように水素がそもそもこの酸素についていない解離型であるか、あるいは左側の酸素についている場合、右の酸素についている場合というふうに、非解離型でどちら側についているかという、こういう区別がはっきりできるわけです。この区別ができますと、ここでそういう区別をしますと、この阻害剤との相互作用をより正確に見積もることが可能になって、薬剤を作るときにターゲットを絞り込める、そういう利点がございます。

 実際には、その例ですが、先ほどのアスパラギン酸が125番と25番がございます。実際には左側の125番にはHはついていませんが、右側の25番にはHがついている。その結果、CとOの距離も長くなっている、そういうことが分かります。この阻害剤との相互作用も非常に正確な決定が可能になっております。こういうふうに活性部に存在する2つの水素の位置を明確に観測できているというわけでございます。

 同じことでございますけれども、一般的に創薬の標的タンパク質ですと、こういうくぼみ、クレフトがございます。ここが薬剤、医薬品の候補分子が結合する場所ですが、そもそもはこういう水に覆われていることが非常に多くて、水和水が結合しております。こういう医薬品分子というのは、水を追い出してここに結合するわけでございます。もともとX線で決める場合の多くは、こういう水素の位置が決まりませんので、例えば水の場合には酸素ですが、酸素の結合の位置が分かるわけで、水素の位置に関しては予測するしかなかったわけでございます。

 ところが実際に中性子を使いまして、この水素を決めますと、実際に、予測ではなくて本当に合う位置に、水にしましても医薬品の候補分子にしましてもその水素の位置を決定することができて、それで医薬品の候補分子が結合する前と結合する後での熱力学的な変化の解析というものも非常に精密に行うことができます。

 それから、こういうことにおきまして、X線と中性子の相補的な関係というのは、例えば通常、これは中性子で水を、H2Oを見ますと、こんな形に、H-O-Hと見えますが、場合によってはこういう形に見えます。これは、実はこのO-Hの周りに水のHが回転することによって、この回転するHが見えないのでこういう形をしているわけですが、X線では酸素の位置だけを正確に見られますので、それと組み合わせることによって、どういう動きを水がしているかということもこの相補的な利用で可能になっております。実際にそういうことを使って決めたのがこの例でございます。この中性子の回折におきましては、原子力機構の中性子回折計は非常に大きな貢献をしておりまして、49個の世界中で決めた構造のうち18個が原子力機構で決められております。

 これがその1例です。こういうふうに非常に大きな寄与をしているわけでございますけれども、実は、これはいずれもタンパク質としては非常に小さなタンパク質ばかりがここに上げられているということがございます。そのことでございますけれども、この図は横軸に結晶の格子の長さ、それはほとんどタンパク質分子の大きさと思っていただいていいわけですが、それに対して、縦軸に分解能を示し、下にいくほど分解能が良くなっている、というグラフでございます。先ほどの図でたくさんのタンパクを見ていただきましたが、主にJRR-3の原子炉で取られたものでございます。このように比較的分子量の小さなものばかりが取られております。 実はJ-PARCに1つ、唯一の生命科学のビームラインでございますけれども、iBIXという回折計がございます。これは茨城県のビームラインで産業利用を主にしているものでございます。このJRR-3のBIXにいたしましても、これは今構造が分かっている全タンパク質の42%しか測定できない、あるいはJ-PARCのものにいたしましても、67%しかできないという、つまり主に小さな分子あるいは小さなタンパク質のみを対象としているような、そういう回折計が現在設置されております。

 私たち構造生物学のコミュニティといたしましては、今カバーされていない領域、ここは非常に重要だと思っております。ここに、J-PARCにそういう新しい回折計を設置できることができればと思っており、原子力機構の方ではそういう計画を現在立てておられます。こういうあたりになりますと、先ほど少し申し上げましたようなタンパク質研究の花形領域といいますか、一番中核的な領域であります膜タンパク質とかタンパク質複合体はこの領域に含まれます。こういうふうにこれが実現いたしますと、95%ぐらいのものが測定可能になると予測しております。

 我が国の研究成果として非常に重要なものがございます。月原先生、吉川先生が研究されておりますシトクロムcオキシデースという呼吸鎖酵素ですが、これはプロトンのポンピングを行いますので、プロトンの水素の位置が非常に重要になってまいります。こういうシトクロムcオキシデース、あるいは先ほど最初にご紹介したような光化学系、光合成の水を分解する光化学系におきましても、これにはマンガンクラスターがございますが、マンガンクラスターで水を分解するような仕組み、そういうものがこの測定の対象になってまいりますので、非常に価値は重要になってくるかと思います。

 これは、詳しくは申しませんが、回折装置の略図です。こういう装置が設置されますと、そういうことが可能になるというわけであります。高分解能、高精度の構造解析ですが、非常に高精度の原子座標が得られて、水素の位置も決定でき、更には外殻電子、結合電子、d電子にも踏み込めるという、そういう分野が確立できようとしております。この水素原子に関しましては、先ほど申しました理由で中性子の利用ということが、検出能に関しましても、位置の正確性に際しましても中性子の利用が非常に重要でございます。実験的にこういうタンパク質分子のダイナミクスを含めた研究を進める、それには理論化学との連携も非常に重要でございますが、こういう分野を量子構造生物学と名付けまして、こういう分野の創成が非常に重要であると考えております。これは高精度の構造情報から機能原理を直接導き、既存の化学情報に依存するのではなくて、タンパク質でこういう情報を導きだして、タンパク質科学の常識を再構築するという、そういうことを目指しております。

 光・量子ビーム研究開発の今後に対しての考えでございます。光・量子ビーム施設の今後に施設の相補利用は極めて重要で、今日お話をさせていただきましたように、放射光と中性子の相補利用はこれまで議論されてまいりました。しかしながら、現実には具体的にどういうテーマをターゲットにするかについて、特に利用者の立場、利用の立場からの議論はあまり活発にはされていなかったように思います。生命科学、私どもの分野に限っていいますと、相補利用もあまり進んでいないと言わざるを得ないかと思います。その原因の1つは、その施設の技術開発が私たちの分野の要求にはまだ十分に応えられていないような状況にあろうかと思います。昨今の技術の進歩でタンパク質構造解析の相補利用が、私どもの立場から今日お話をさせていただいたものを含めまして、新しい局面を提唱できるような状況になっております。こういう新しい取組を着実に行いますと、こういう相補的な利用が推進すると考えている次第でございます。以上でございます。

【家主査】 

 どうもありがとうございました。生命科学分野での量子ビームの活用について。

 ただいまのお話に対して何かご質問等はございますか。

【兒玉委員】 

 先ほど辛先生からパワーユーザーのことを伺いました。要するに、施設に入り込んで一緒にやるというところが少なくなっていると。それはよく分かりました。このタンパク質は、私から見ると一般ユーザーのビッグユーザーに見えていたのですね。いわゆる大型プロジェクトを抱えていて、一般ユーザーとして強い意見を持てると思っていました。それなのにこの分野の要求に応えられていないというのは。でも、一般的にはいろいろなビームの施設でタンパク、タンパクということで施設にミッションでありますね。それなのになぜ要求に応えられていないのか。

【三木委員】 

 1つは放射光と中性子とかなり事情が異なってまいります。おっしゃいましたように放射光の利用に関しましては、今おっしゃられたような状況が多分現実になっておりまして、タンパクの分野は放射光利用の中でもある1つの大きなグループを占めるようになっております。ところが、中性子というのは今申しましたような重要性があるわけですが、こういう重要性は私が最初にお話ししましたような放射光の利用の技術の進歩が起こってきて、それからみんなが認識するようになった、本当にこの2、3年だと思いますが、3、4年でしょうか、認識するようになってきた、そういう分野です。それまではそういう方向に目が向けられていなかったということもございます。それから、中性子の利用というのは1つの実験が、放射光に比べますと時間的なものとか結晶の準備の難しさとか、そういうことが非常に難しくて、階段が高かったと思われます。そういうところで放射光と中性子の間での違いがございます。今、施設の技術開発はと申しましたのは、ここの書き方は誤解があってまずかったと思いますが、特に中性子施設に関してはこれからもっといろいろ考えていけるし、ユーザーとしても入り込んでいけると思っております。

【家主査】  ほかにいかがでしょうか。

【井上委員】  門外漢ですが、今のお話ですが、歴史的に言うとX線のタンパク質の方はパワーユーザーだったわけです。むしろそこから始まったと言っていいぐらいです。阪大の赤堀先生などがやられた頃は何か月もかかって1つのタンパク質を決める。今では、すぐに解析できるわけでが、当時は何か月もやっているのだからパワーユーザーになるんですよ、1つを一生懸命にやればね。当時はX線装置も手作りですね、大学で。そうやってきていいものをつくって、今は進んだメーカーさんが既製品を入れておられるけれども、各研究室でも持っておられる。だから、X線のユーザーはたくさんいたわけです。それでSPring-8ができて、SPring-8を使うようになってもうまく使える人が多かったのだと思います。

 中性子の人は、私の印象ですが、磁性の研究者がかなりパワーユーザーです。ですから無機物ですよね、ほとんどが。今はもうちょっと有機のものがあるかもしれませんが。それなりにパワーユーザーで、だから東海研の原子炉あるいは熊取の原子炉を使えるようになってから、そういう人たちが散乱実験に関して言えば中心。もちろん原子炉は散乱実験だけではなくて、ほかの放射化とかいろいろなことに使いますが、今の話題に関して言えば、その人たちがやはりパワーユーザー。というのはほかにはないものだから、当時、自分で作って持っていかざるを得なかったわけです。その人たちは今でも放射光を使うのも相補的にちゃんと使っておられると思います。これはX線でやった方がいいというものは使っておられると思います。でも、その以後、瞬間的に構造が決まるような時代になってから放射光を使う人たちはそういう状況でなくなっているという、そういう背景があるのではないかという気がします。

 だから、さっきもお話がありましたが、パワーユーザーを求められるのはよく分かるのですが、何となく縄文時代に戻るみたいな話になってはうまくいかないですよね。そういうものを求めているのではないので。昔の人はだって自分で火をおこしていたわけでしょう。今の子どもはマッチだってすれないのが多いからね。だから、そういうことを求めるのではなくて、今の時代で更にパワーユーザーをどうやって構築していくかということですよね。あるいは相補利用を。かなり新しい局面を迎えているので、そう簡単ではないかもしれませんが、考えるべき課題だと思います。

【三木委員】 

 私も若いときにはまさしくマッチで火をおこしていて、そういう装置を自分で組み上げていかなければ仕事ができないという時代を過ごしてまいりました。先生ご指摘のように今はそういうことは格段に進歩したわけでございます。ですから、ユーザーも非常にバラエティに富んでおりまして、その分野に精通している研究室もあれば、医学的な利用の方から入ってこられるという、もちろん、そういう方面からの参入も非常に重要ですが、ユーザーが幅広くなっているということが現実にございます。

 ですから、その中で例えば相補利用を実現するところですと少し元に戻って、タンパク質の結晶構造、結晶学というところ、基本的なところをやるような立場の研究室が中心になって、それで組み上げていくことが必要です。ただ、そういう研究室もかなりございますので、そういう研究室が中心になりますと相補的な技術開発をやっていくことは可能だろうと思っております。

【家主査】 

 座長から1つ質問です。構造解析の技術開発という場合に、分解能向上ということとソフト面はいかがなものでしょうか。大体確立しているのでしょうか。まだまだ開発要素があるのでしょうか。

【三木委員】 

 ソフト面についてですが、この分野は先ほどもご紹介しましたように、タンパク質のそういう対象になった数からいきますと全体の1%に満たないような、数的には非常にマイナーでございます。ですけれども、確かにその分野でこういう分野を進めようという動きがございますので、先生のご質問に関しましては、ソフト開発に関しましても核となるものはかなり出ております。ただし、それを成熟したものにしたり、あるいは違う視点からものを導入するという余地は非常にございますので、そういうところの開発を中性子の利用も視野に入れて行うことがこれから重要ではないかと思っております。

【家主査】 

 それは、今はユーザー側がやらなければいけないのですか。施設側がやらなければいけないのですか。

【三木委員】 

 どちらもできます。その意味で協力的にやるということが一番必要ではないかと思います。

【家主査】 

 ほかに何か。

【加藤委員】 

 中性子に関して、中性子のフラックスを上げるというのはなかなか難しい。しかし、検出器の感度をあげることはできます。そういう面で先生の大面積検出器は、非常に重要であると思います。あとタンパク質の場合、大きな結晶が必要なのですね。これは最近、ずいぶん改良されていると思うのですが、大きいタンパク質の結晶をつくることができるようになっています。そういう周辺技術をどんどん実現すれば、まだまだ改良の余地はあるのかなと。

【三木委員】 

 今の点は非常に重要なご指摘だと思います。例えばタンパク質の調製、タンパク質を作る側、結晶を作る側からいきましても、私ども最近やっておりますが、大きな結晶はかなりできるというか、従来とちょっと違うようなスタンスで結晶化を見ると十分可能なわけです。そういうところの技術的な開発もまだ多くやられているわけではございません。でも、着実にそういうふうに目を向けるとそれが可能だということはよく分かりますので、そういう点は是非押し進めていくべきだと思います。

【家主査】 

 よろしいでしょうか。それでは、この話題についてはここで区切らせていただきます。

 最後に緑川先生からお話を伺いたいと思います。

【緑川氏】 

 ご紹介いただきました理化学研究所の緑川でございます。今日は理研における光科学研究という内容で、理研の現状と、これから光科学研究をどのように理研で拡大させていくかということをご紹介いたしまして、理研の光科学の紹介をすることで量子ビームですか、その他のビームとの連携の参考にしていただけたらと思います。我々は光科学自体もやっていますが、SPring-8とか、あるいはXFEL、中性子グループなどとも連携しておりますので、その辺もご紹介できればと思っております。

 この図は、理研の光科学研究、あるいは光量子科学と言われる研究を大体網羅したものでございます。波長の長い方からいきますと、テラヘルツという電波と光の中間ぐらい、電波から光に変わる領域ですね。これは主に仙台の方でやっています。それから可視あるいは近赤というのは主に和光を中心でやっておりまして、そこでは超高速光科学、それから半導体を使ったLED紫外発光材料。それから、可視を使ってナノメータを見ようというナノフォトニクス。それから、もう1つは特殊な環境で働くレーザー、例えばスバルの望遠鏡とか極地のレーザーレーダー。それから、レーザーの生物への応用としては、一番大きいのはバイオイメージングです。これはレーザー顕微鏡、あるいは多光子顕微鏡と言われるものですね。それから、エンジニアリングとしてはそういうレーザーを使った加工。波長の短い方、これはX線領域にいきますと播磨の放射光施設と自由電子レーザー、こんなことを理研ではやっております。主に放射光とか電子ビームを使わないものとしてまとめているものがこれでございます。まとめ方はいろいろありますが、レーザーが1960年に出たとき、大体1マイクロメートルぐらいの波長で、エネルギーでいうと1eVぐらいのものが出ましたが、その後、今50年ぐらいたちまして、レーザーの開発の方向は、1つは私がやっているエネルギーをどんどん大きくしていき、X線領域まで持っていく、あるいはレーザー加速器のようなエレクトロン加速していく、すなわち加熱、加速していくという方向。それと反対方向に、今度はレーザーで原子、分子あるいは電子を止めてしまう。つまり冷却する方向ですね。これは超精密分光の方にいきます。これは最近、理研に東大から香取先生に来ていただきまして、理研では非常に弱かったのですが、これが入ることによってバランスがとれるようになってきました。それから、この軸とはもう1つ違う方向で、1マイクロメートルの光、これは可視の光を用いてナノメートルの分解能を出そうというもので、プラズモニクスとかニアフィールドという分野でございます。これは河田主任がやられています。今、可視域で光を使っても10ナノメートルの分解能ぐらいは出せる。それから、もう1つの方向は、今度は波長を長い方に持っていくということでございます。これがテラヘルツグループでございます。これは透視のイメージングですとか、あるいは深い宇宙を見るためのディテクターとか、そういうところに発展しておりまして、今、理研ではこういう4つの方向に大きく光を発展させようと考えています。レーザーは最初に申し上げましたように50年の歴史がありますが、40年ぐらいはこの1マイクロメートルの周りに止まっていました。この10年ぐらいで、それが非常に大きく発展してきて、理研としてはそれを更に拡大して、いろいろなサイエンティフィックな応用から最終的には社会の課題を解決するような方向に持っていこうというものでございます。まず初めに、資料とは順序が違いますが、この4つのグループの現状といいますか、どんな活動をしているか紹介したいと思います。

 これは私がやっているアト秒科学とか、あるいはコヒーレントX線の発生でございますが、これは実際何をやっているかというと、強いレーザー場を原子や分子に当てて、そこでエレクトロンを加速して、もう1回原子にぶつけています。それが原子や分子内で行っていますから、本当にナノスケールの中の加速器です。ただ、ここで従来の加速器と全く違うのは、出てきたエレクトロン、あるいはぶつけるエレクトロンがレーザーからもらったコヒーレンスを持っている。位相あるいは運動量がそろっているということです。例えば50eVぐらいまで加速しますと、電子のド・ブロイ波長というのは2オングストロームぐらいになります。そうすると、これはちょうど分子の核間距離と同じぐらいになりますので、相互作用すると分子や原子の構造の情報を持ったものが出てくるわけです。それをX線としてとらえればアト秒あるいは高次高調波になります。エレクトロンは再結合してX線が出る場合と、あとは散乱される場合があります。そのエレクトロンを見てやると、今度は電子の干渉計として使うことができます。それで原子や分子の構造を見ることができる。ただ、重要なのはその現象が、ここに書いていますが、1フェムト秒以内に起こります。ですから、非常に高速に原子や分子のダイナミクスを見ることができるということです。

 X線の発生に関しては、我々は世界をリードする技術を持っております。例えば高次高調波と言われるコヒーレントなX線ですと、今どの辺までいっていますかといいますと、大体500eVぐらいまでは発生させられまして、これは多分1keVぐらいまではかなり強いのが出せます。1keVというのは、1つは、この辺は水の窓と言われますが、実は1keVまでいくといろいろな磁性の材料の吸収端に合わせることができますので、今、1keV分ぐらいまで出すことが非常に重要になっています。それから、もう1つはアト秒パルスですが、アト秒パルスはもう出て10年ぐらいになりますが、実はなかなか強いものが出せなかった。それでアト秒のダイナミクスを見ようとするとき、必ず従来の可視のパルスを重畳して、それの力を借りないと見られなかったのですが、最近、我々のところでは非常に強いマイクロジュール、アト秒でマイクロジュールですから、ピークパワーで言うとギガワットクラスのものが出せるようになりました。これは実は今あるフリーエレクトロンレーザーと同じぐらいのピークパワーが出せます。波長はいろいろなところを出せるのですが、一番問題はミラーです。ミラーによってパルス幅とか、そういうのが制限される。これは今申しましたように1つの原子あるいは1つの分子内で加速して、100eVとかkeVぐらいでやりますが、これをもう少し大きなスケールでやろうとすればセンチメータぐらい加速すればいいわけです。そうすると、もともと加速勾配が今までの高周波加速の1000倍、1万倍ぐらいありますから、そういうものを1センチメートルから10センチメートルにわたって加速してやると高エネルギーのGeVあるいは100GeVぐらいの電子が出てくる。あるいはイオンも加速される。電子ビームあるいはイオンを加速したものをターゲットに当てればガンマ線、あるいは中性子も出せるということです。ただ、この辺をやっていこうとするとレーザーの方にもいくつか問題があります。1つは単発現象ならいいのですが、こういうもので測定しているのは、繰り返しがメガヘルツとか、そのぐらい要るので、ルミノシィティという問題が出てくる。それから安定性。それと実は高周波加速というのはレーザーに比べるとはるかに効率がいいのです。レーザーの効率はまだそこまでいっていないので、本当にアベレージパワーを稼ごうとすると、それが問題になってきます。それで、我々は将来加速器と融合していく、あるいは加速器でやっていたものをレーザーでやってみたいということで、第1ステップとして放射光に代わるような、放射光をイメージしたような光源ができないかということです。放射光というのはエレクトロンをグルグル回して、それの軌道をちょっと変えることによってX線が出てくるわけですが、この場合は可視のフォトンをグルグル回しておいて、ガスとインタラクションして高調波を出そうというような、先ほど辛先生がお示ししたものと似ています。ここで違うのは、あれは完全にパッシブですが、ここにはゲイン媒質を入れてアクティブに動かすようになっています。今、これを五神先生と一緒に開発しておりまして、プロトタイプのものがこんなもので、共振器長が30メートルの長さがあります。そこをフォトンがグルグル回って、何回も相互作用して、XUVとか、テラヘルツとか、放射光のようにいろいろな波長が出せるというような装置を設計しております。これが1つの現状です。それから、もう1つは香取先生に来ていただいたおかげで、レーザーを使った光格子時計というのが始まっています。格子時計自体は香取先生が発明されて、東大を中心にやられていますが、理研ではむしろこれをコンパクトなものにまとめて、いろいろな物理定数を測りたい。例えば、コンパクトに持ち歩けるようにすると重力場の変化が見える。あるいは、重力が変わるということは多分地下の密度が変わっていますから、資源も探査できる。あるいはプレートの動きがリアルタイムで分かる。この研究自体は原子時計の研究ですから、実は我々のやってきたX線の技術とかそういうのとか最初にお見せしたように1960年からずっと離れていく方向だったのです。ところが2000年ぐらいに光コムというのができました。これが実は原子時計の精度をきっちり決めるキーテクノロジーでノーベル賞になった。実はこれが超短パルスの技術から生れています。その頃から超短パルスとこういう精密分光が手を結ぶようになってきた。今、光格子時計は可視でやっています。昔のはセシウム原子、これはマイクロ波ですから、マイクロ波から可視にいけば3桁、4桁精度が上るのは分かりますが、光の次は多分XUVとか、X線までいけるかどうか分かりませんが、そういうのも世界的に始まっています。そういう研究と我々は手を結べるのではないかということを考えています。繰り返しになりますが、理研でやるのは時計というより、むしろ時計を使った物理学、あるいは応用をやりたいということで、資源探査、地殻変動の監視、そういうものにこういうものが使えるのではないかということをやっていきたいと考えております。

 次はテラヘルツでございます。テラヘルツ自体は、ここ10年ぐらい急速に進展した技術です。本来テラヘルツというのはレーザーができた当初に研究されていたのですが、マイクロ波から実は一気に皆さん可視の方に行ってしまって、テラヘルツは数十年置き去られた電磁波の領域でした。ところが、最近理研の、元東北大ですが、伊藤先生を中心にしたグループが非常にハイパワーでチューナブルな光源を開発しまして、それを分光に役立てるということをしますと、いろいろな応用が広がってきました。理研の方では、まず光源を作るチームがあります。この特徴は波長が可変、ほとんどテラヘルツの領域、1テラヘルツから40テラヘルツまでチューナブルにカバーできる。それでいろいろな材料あるいは化学物質、薬品とかを分光しています。それから、そういうデータを今度は応用して、いろいろなイメージングに使うというのがイメージング応用です。ここでは二次元のディクターやビームの走査法はとか、そういうことを研究しています。それから、最終的には一番重要になってくるのは、こういうところで開発された技術が社会に役立っていかなければいけない。そのためにはどうしても半導体でそれを実現したいというので、量子デバイスチームというのがカンタムカスケードレーザー、つまりテラヘルツを半導体で出すという研究をしています。このグループは特に産業界との連携が非常に強くて、いくつか特許を持っていたり、いろいろな技術を持っています。例えばここにお示ししたのは理研が開発したテラヘルツのレンズです。普通、テラヘルツのレンズはプラスチックとか使っていますから透明ではないんです。テラヘルツ自体は見えないので、テラヘルツのビームを伝播させるときに、テラヘルツと可視で屈折率が同じで、かつ透明だというのは、例えば赤いレーザーを同軸に通していくとちゃんとテラヘルツとビームが合わせられる。これは今世界の標準になっています。この会社は仙台にあります。仙台のベンチャーやそういうのに役立っています。光源自体は新しく仙台でベンチャーを立ち上げまして、またそれも販売するようになっています。この辺は大阪大学とかいろいろなところと連携していて、例えばこれは半導体の検査装置です。これは最初にアイデアを出したのは多分阪大の斗内先生だと思いますが、斗内先生と一緒にLSIの検査装置を開発しており、これは多分浜松ホトニクスから売り出されるのではないかと思います。それから、これは税関と一緒にやった封筒の中の違法薬物の検査装置です。そのほかにこのグループではカンタムカスケードとかやっていますが、そこでは紫外の半導体レーザーもやっています。これもいろいろな企業と今共同で活発にやっているところです。

 次はナノフォトニクスとか、あるいは超解像イメージングというグループです。これは2つの大きなグループがあります。1つは、河田主任が中心になっているプラズモニクスとかニアフィールドという分野です。可視でその波長の限界をはるかに超えた、数ナノメータのものを見ようというので、今そういう方法を使いますとチップの先に光を集めるような技術ですとか、そういうものを作って10ナノメートルぐらいの分解能で見える。これは実は生物にも重要です。これは多分DNAとか見ているのだと思います。もう1つは、これは私のグループでやっています。生物では見る、イメージングで解決できることが非常に多いので、いろいろなグループが、理研では光タンパク質とかナノ物質を生体内に入れて、それで構造を見たり、神経の反応を見たり、いろいろなタンパク質の働きを見たりしています。そのときに、今発展している分野はマルチカラーで見てみるということと、深いところを見る。この深いところを見るというのは、1光子ですと散乱が入ってきますので多光子を使います。多光子で、これはマルチカラーで細胞の色を制御できるようにしました。普通、皆さん細胞をマルチカラーで見ているときれいに見えていると思いますが、あれは実はひとつひとつのタンパクとか、1つひとつの蛍光の効率が違うので、同じような強度で見せるためにはpHを変えたり、いろいろな濃度を変えたり、実は本当に生きている状態でないような状態をつくり出してやっています。ところが、実際に見たいのは本当に生きているような状態なので、それは蛍光の濃度とかpHを変えずにレーザーだけでできればいい。というので、我々の方ではこういうアト秒レーザーをつくるために開発した特殊なレーザーに位相制御という技術を入れ込んで、2つのタンパク質を自由に、こちらは黄色だけを一定にしておいて、青を変えていますが、逆もできまして、青を一定にしておいて黄色を変えるとか、そういうのがマルチカラーで今できるようになりました。それから、これは最近始めました。非常に深いところ、今、ミリメーターぐらいまで見えるようになっています。こちらが従来法でやっています。従来法でやって、深くなってくると、こういう散乱光が入ってきてよく見えないと思いますが、これはレーザービームを特殊な形で振っています。そうすると散乱光がほとんど入ってこないで、深いところまで見えるという技術です。こういうレーザーの技術と生物の方の要求をうまくカップリングさせて理研の方では新しい技術を開発しています。もう1つは、こういう技術開発を、実際にはデバイスとして、エンジニアリングとしてそれを確立していかなければいけないのです。そのための基盤開発グループというのが理研にございます。例えば1つ有名なのはスバルの望遠鏡に入れたレーザーガイドスターというものです。それから、これは次の望遠鏡あるいは宇宙から地球をのぞくときのための望遠鏡のレンズです。こういう大型光学素子。それからSPring-8用の長いX線のミラー。そういう特殊光学素子とかレーザーを開発する技術があります。それに加えて超精密、微細加工技術。こういう技術を組み合わせることによって、初めて研究として立ち上げた機器がデバイスとなっていろいろなところに使えるようになっているということでございます。

 これはいくつか光グループで連携した例です。先ほど申し上げましたが我々のところといくつか生物のグループとかとやっています。そのほかに播磨とやっているのは、播磨のXFELに高調波を打ち込んで制御するという連携研究です。XFELというのは、レーザーと言われていますがX線の共振器がないんです。共振器を持っていないのでノイズを増幅しているという形なので、ノイズから始まりますと1ショット、1ショットごとに、ここに青で書いたようにスペクトルとか、これはパルスの形と思ってもよろしいですが、すごく揺らぎます。それを安定化させることによって、分光やもちろん構造解析にも多分安定したものができると思います。ただ、そのための発振器がない。発振器は我々の高調波を使えます。これは高調波を打ち込んだ例ですが、高調波を打ち込みますと、周波数が決まって形状もぴたっと止まるということです。これは今のSCSSという小さい方で実験しています。この技術が大体確立しましたので、次は本器の方でこれをやろうと計画しています。まだ波長はオングストロームまでいきませんが、まず13ナノメートル。その次に1keVぐらいまで持っていきたい。そのためにはもう1つクリアしなければいけない問題が、電子ビームのゆらぎを測らなくてはいけない。電子ビームはXFELの本器になりますと150フェムト秒から40フェムト秒ぐらいのバンチが1km飛んできます。そうするとちょっとしたエネルギーのゆらぎとか、あるいは高周波の電場のゆらぎですぐに数十から百フェムト秒も変わってしまう。それがちゃんと飛んできたことをモニタするために、テラヘルツのグループが開発したDASTという有機非線形結晶をビームの横に置くことにした。電子ビームはラジアルな電場を持っていますので、外向きですね、ビームの外側に非線形結晶を置いておくと、その電場でレーザー光が偏光する。偏光回転する。そういう原理を使うと、非破壊で、ビームの横に結晶を置いておくだけでビームをモニタできる。この原理自体は理研でやったわけではないですが、実はこのダストという結晶を使いますと、40フェムト秒ぐらいのビームが見える。これは世界で初めての超高速のリアルタイムモニタになるので、こういう技術と、これを組み合わせてやると本当に完全なインジェクションができるのではないかということを考えています。

 もう時間ですので最後には、もう1つ、高調波というのはサイエンスの道具として非常に発展しています。しかし、とても産業には使えないのではないかとか、そういう印象を持たれる方もいらっしゃるので、1つ産業応用の例としてリソグラフィに応用している例をいいます。EUVリソグラフィというのは13ナノメートルという波長で半導体のパターンで焼き付けます。そのときにミラーとかオプティックスやマスクの欠陥をちゃんと把握しなくてはいけない。そのために放射光を使った、こういうディフラクションのイメージをとるわけです。これは兵庫県立大の木下先生と共同でやっております。我々は高調波を使っておりまして、木下先生は、もともとはNewSUARUの放射光です。放射光でやりますと、この2ナノメートルぐらいの欠陥を見るためにはピンホールを1マイクロメートルぐらいにして放射光を絞らないといけない。そのために、出てくるパワーというのはピコワットぐらいに最終的にはなってします。これですと、とてもマスクをスキャンするようなことはできない。それも1マイクロメートルぐらいのピンホールを使ったとしてもバンド幅が0.3ナノメートルぐらいあります。ところがレーザーは先ほど辛先生が言われたように全くアパーチャーも何も要らない。直接出てきたので、もう放射光よりもはるかにバンド幅が狭い。ですから、アベレージパワーでいうと、今1000倍ぐらいとれています。1000倍というのは実はこれは普通のコマーシャルのミリジュールクラスの1kHzのレーザーなので、本格的に100倍ぐらいのレーザーを作ると、これでちゃんとスキャンできるようになるのだろうということです。産業用にも使えるという紹介です。

 それで、理研では平成25年度から組織が新しくなるので、今我々がやっているような光の研究を少し強化しようということで先端光科学基盤研究の構想とここで書きました。そのときに言われるのは、そういう研究は何に使えるのだとか、あるいはどういう社会的課題を解決するのかということです。光はテラヘルツからX線までありますが、必ずしもそれが十分に使えていないということで、あらゆる光をいろいろな方法で使いきろう。ですから光全体を、可能性を秘めた資源として捉えて、それをテラヘルツからX線まで使いたい。そのための研究をする。同時に、もう1つはこれをエンジニアリングとして確立することによって、先ほどのように半導体の生産に使ったり、あるいは医療や健診等に使うとか、そういうことを目指しています。実際にどんなことをやっていこうかというのですが、大きな流れとしては電子技術から光。ですから、今まで電子でやってきたものをできるだけ光でやってみたい。1つが加速器です。今の高周波加速から光の加速。マイクロ波から光へというのがこの光格子時計です。半導体光源に関しては、今までの電子管で出していたようなもの、蛍光灯からLEDと思っていただければいいのですが、これをあらゆる波長でやろうということです。それから、光を資源ととらえて、その光の資源の開拓としては未開拓の波長域がまだまだあるわけです。特に半導体では出る領域が限られているので、そういう深紫外の半導体とか、あるいはテラヘルツ領域の半導体、そういうものを作っていこうということです。それから、光の周波数域の拡大だけではなくて、光をいろいろ制御することによって本当に使いやすい形に、例えば超短パルスがいいのか、長いパルスがいいのか。あるいはミキシングするのがいいのか。そんな技術をやっていく。もう1つは、これは三木先生もおっしゃいましたが、今、放射光ができて構造というのはだいたい決まってきた。次は全てダイナミクスです。ダイナミクスも電子から大きな構造まで、アト秒からミリセカンドぐらいまでいろいろなものがあるわけです。今までダイナミクスと言われていなかったようなものにダイナミクスを持ち込もうというのがこの研究です。

 最後、まとめになります。今まで未踏光源と言われる領域を分やってきましたので、これからはそれを使った未踏計測、特にイメージングということを意識してやっていくというのが理研の今の考え方です。ちょっと長くなりました。申し訳ありません。

【家主査】 

 どうもありがとうございました。では、ただいまのお話に何かご意見等ございましたらお願いします。

【佐野委員】 

 東芝の佐野でございます。どうもありがとうございました。XFELのシーディングについてお聞きしたいのですが、XFELの特徴を生かすためにポインティングスタビリティというのが非常に重要だと思います。先ほどのシーディングの技術で、それがかなり解決できるという印象を持ちました。例えば硬X線までやろうとすると、将来どれぐらいの時期に使えるようになると思っていいのでしょうか。

【緑川氏】 

 いくつかやり方がありまして、高調波を使わないやり方もXFEL自体では考えていますが、我々の高調波ですと、今入れられるのが1keVかもう少し長い500eVぐらいです。ただ、500eVぐらいまで入れられますと、すぐにサチュレーションして、そのハーモニクスが出てきます。それを入れてやると大分短いところまで、2keVまでは行けるといいう見込みです。何年と言われてもちょっと難しいのですが、その辺の実験は今計画して2年後ぐらいに1keVぐらいの実験ができればと。

【家主査】 

 ほかに何か。

【高原委員】 

 九大の高原でございます。リアルタイム、ダイナミクスのことについて最後に触れられました。その場合、検出器の速度と、そのあたりの技術開発というのは今のところ、例えば先ほどの例ですと、近接場ラマンですと20秒/エクセルということで、リアルタイムの観測からするともう少し速い速度が必要であるのかなと思われますけれども、そのあたりに関してはいかがなものでしょうか。

【緑川氏】 

 いろいろな計測がございまして、例えば生物関係ですと一番はやはりレーザーのパワーとスキャンのスピードの関係です。例えばミリ秒ぐらいの動きを追おうとしますと、やはり10GHzぐらいでビームを振ってやらなくてはいけない。そのためのEO素子をどうするとか、そういう技術。ですから、ディテクターの方は今、浜松ホトニクスさんとかあの辺で大分速いのが開発されているので、それは何とかなるのではないかと。むしろレーザーの方が遅いというのが現状だと思います。

【家主査】 

 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

 それでは、このお話に関してはここで閉じさせていただきまして、全体討議です。それぞれのお話が大変興味深かったのと、私のタイムマネジメントが非常にまずくて、予定のタイムテーブルよりも大分時間が過ぎてしまいまして、全体討議の時間が少なくなってしまいました。10分ほどの超過をお許しいただいて、15分ほど全体の意見交換をさせていただければと存じます。それに際して、若干復習させていただきたいと思いますが、本日の参考資料3のところに本部会の検討概要という資料を付けていただいております。ここにありますように本作業部会のミッションとしては、量子ビームが事業を終了する。光の方のプログラムも折り返し点に来ている。一方で、検討の視点のところにありますようにJ-PARCとかSACLAとか新たな施設ができている。それから、今日の話にもありましたように放射光とレーザーがオーバーラップするような時代になっている。状況がかなり変化しているという現状において、この両プログラムをもう少し広い立場から俯瞰して、今後のあり方を考えるというのがこの部会のミッションかなと思っております。

 今日の資料3に、赤字が入ったものですけれども、事務局の方で検討の視点ということでまとめていただいております。私は本日のお話を伺いまして、この中にも有効利用とか人材育成のところでパワーユーザーという言葉が1つのキーワードになっているかと思いました。それから、この中に入っていないかなと思ったのは、相補利用ということですね。放射光とレーザーとか、放射光と中性子、こういったものをどう進めていくかという話。それから、冒頭の高原委員のご意見にもありましたが、施設の周辺というわけではないけれども装置ですね。例えば分光器とかそういったものは日本産製のものが少なくて、特定の外国のものになってしまっているという傾向があるように私も感じておりますし、そういったものの問題点ということが挙げられるかと思います。これからは委員の先生方からご自由にご発言いただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

【村上委員】 

 今日3人の先生方のお話を聞きまして前回の議論との兼ね合いで強く思ったことは、先ほど家先生もおっしゃいましたように相補利用ということが1つのキーワードだろうと思います。辛先生のところで放射光、レーザー、FEL、そういったものとの境界領域が非常に有望であるということ。三木先生も放射光、中性子が非常に相補的な情報をもたらすということで、そこの相互利用のところにかなり力を入れてやっていけるようなピークを出せる施策が非常に重要ではないかと感じました。一方、そのピークを出すためにどうしたらいいかというのは、辛先生の絵が非常に面白かったです。各円の弦のところを多分ギュッと引っ張り上げるのだと思うのですが、それぞれのピークを出す。ところが、今日の議論で問題になったのは、ピークを引っ張り上げたときに、こちらの一般ユーザーとの間が引きちぎられるというところ。もう既に引きちぎりかけているというのを非常に問題意識として出されたと思います。私自身も今日それを非常にはっきりと認識できて良かったと思います。それを引きちぎらないためにはどうすべきかというところで、ピークを出すところというのは多分相補的な利用だと施設間の連携であるということで、かなりいきますが、引きちぎるところを埋めるのは施設側と大学との間のうまい連携をシステムとしてうまくつくっていかなければいけないのではないか。辛先生でしたか、三木先生だったか忘れましたが、今までは施設の方にお金を入れて、ここの引っ張り上げるところをやっていたけれども、むしろユーザーの方にお金が入って、お金というかいろいろな意味での援助が入って、それをまた施設の方に持っていくというようなループも要るのではないか。そういう施設と大学及び他の機関、利用する機関もそうですが、利用する側と施設側との連携を強めつつピークを出していく、この2点を両方同時にやっていくのがぜひとも必要なのではないかと感じました。

【家主査】 

 ありがとうございました。非常に重要な視点だと思います。今のような議論をするのは、例えば施設の運営委員会とかユーザーも入ったようなところで自然発生的になされていくでしょうか。それとも何らかの誘導的なことが必要でしょうか。

【村上委員】 

 私の感じではなかなか。昔は今日も議論がありましたように施設側とユーザー側は渾然一体となっていたところがあります。今はそこがかなり分離しつつあるというところで、そこは何らかの誘導が要るのではないかと感じております。

【五神委員】 

 今のご指摘の点も含めて、それをどういうふうに動かしていくかが多分重要な視点ですが、ここではその前の段階として光・量子ビーム分野の推進の意義、投資の必要性についての位置付けを明確化するという前提が必要です。というのは、今日議論された大型施設というのはかなりコストのかかるものです。それが一体どういう効果があるのかについて十分な説得力がないといけない。

 例えば中性子の話が多分象徴的だったと思います。先端的な研究によって非常にポテンシャルが見えてきたから、研究者の立場で見れば、それをみんな非常に使いたい。だから、そのタイムマネジメントをどうするかというのは重要ですが、一方でマシンタイムも非常に限られていることは分かっている。中性子のシステムをいっぱい作るわけにはいかない。そういう中で、今我々が投資したものを最大限の効率で動かしていって、成果を大きく出していくのにどういう優先順位をつけるか。どういう戦略を持つかということをうまくやっていきながら調子の必要性をより強くアピールして延ばしていく。そのときに例えば国際連携のようなものをどういうふうに取り込んでいって、かつ日本が主導的にそれを連携できるようにしていって、そういった資源を有効に活用するかということを考える必要があると思います。それと同時に優位性という意味では、日本が現在持っている冒頭で高原先生がおっしゃったことですが、半導体産業技術とか非常に高いものがあったにもかかわらず、その先端研究の中で必ずしも生かされていない。今後はその傾向は更に悪くなるのではないかと思います。一方で、ドイツなどはそういうものが非常にうまく活用される仕組みを持っている。そういうものをうまく回していくようなことをやらないと、多分国民に対する必要性が、サイエンスの流れで見たときに非常に重要で、我々が持っているポテンシャルは高くて、こんなことができるということを我々はよく分かるし、それを進めたいが、そこをうまく伝えていくための戦略というものをここで議論しないといけないのではないか。それをやりながら施設側とユーザー側、サイエンティストとのインターフェースをどうするかという運用については、きちんと配慮のある議論ができるような議論の進め方をしていくべきだと思います。

【家主査】 

 ありがとうございます。どうぞ、ご自由にご発言ください。

【井上委員】 

 2つ脈絡のないコメントですけれども。1つは、相補性に少し関係するかもしれませんが、ビームの種類ですが、前回、今回は光と中性子というのが挙げられているわけです。ほかにイオンビーム、それからミュオンビームといったものもあります。イオンビームはずっと古い歴史があるけれども、アピール性に欠けているところがあって、理解されていないようなところがあるので、それに対してより先進的なものを求めるということが1つ。それから、ミュオンの方はやっている方々は非常に一生懸命やっておられますが、非常に小さなグループなので、こういう小さなグループの先進的な部分をどうするかというのがあるのではないかと思います。それから、先ほどの戦略の話に関係しますが、別の見方ですが、私なんかも加速器をやっている人間だから、どうしても装置の方から見てしまって、こんないい装置ができたのだから使ったらどうという感覚がどうしてもあります。今日のお話をいろいろ伺ったり、それから私が今関係している量子ビームの基盤技術開発の関係で様子を伺っていても、私たちはそういう傾向があるのだけれども、本当のところはどちらかというと物理より化学の方かもしれませんが、物質とか材料とか、そっちの方がずっとフルートフルなものを持っているように見えるのですが。でも、その人たちはいわゆる今日おっしゃったパワーユーザーではない部分がかなりある。でも、我々みたいな人間は目的が何であっても面白い加速器だとか、ビームテクノロジーだと思えば何でもやってしまうところがあります。それをやろうとする。だから、むしろそちら側にだけ何か考えろと言うよりは、化学の方だとか物性と言ってもいいかもしれませんが物質材料とかの分野の方で、もしかしたら量子ビームとか光に使えるのではないかと思っているような方に、こんなことをやりたいのだというようなものをプランニングというか出していただいて、それを解決するツールとしての加速器やビームテクノロジーをアレンジするとか、そういうことをやれば、加速器はそれがやれるのだったら何でもやるみたいなところが。ただし注意しなければいけないのは、自分の興味がものすごく強いですから、ビームテクノロジーや加速器をやっている人たちは。ですから、全く役立たないことに一生懸命になる可能性があるので、そこのところは手綱をちゃんと締めて。だから、今言ったような方向からのというのも1つの見方かなという気がします。

【家主査】 

 大変重要なご指摘だと思います。今のお話でも、先ほどの村上委員のご意見にもあるように、パワーユーザー、スーパーユーザーと言ってもピークを出すところの各施設の目玉プロジェクトのところは既に取り込まれているわけです。一方、まだ使ったこともないポテンシャルユーザーは一体そういうものを使って何ができるかをまだご存じない。その間の乖離しつつあるところの人材が非常に大事なのかなという気がいたします。この辺をどういうふうに育てていくか。

【五神委員】 

 それに関しては既にのめり込んで研究するという、そういう人たちも非常に重要なので大事にしなければいけないと思いますが、横断的に、あるいは研究分野のバリアを超えて何にでも挑戦しようというのは、若者であれば失うものも少ないし、そういう野心的な学生も最近むしろ結構増えています。ですから、博士課程からポスドクになる時にまるで分野を変えるということを辞さない学生も増えてきていると思います。ですから、そういう教育を大学院の例えば修士、博士の中に積極的に持ち込んで、施設側にもそういう人たちを例えば3か月とかある一定期間、1日、2日ではなくて取り込んで体験されるようなことをやっていって、相互に理解し合うような環境を作っていくことでいろいろな技術を存分に使って研究に参加できる次世代の人材が育てられると思います。それは例えば大学院の指導教員を複数にするとか、あるいは研究室のバリアを低くする努力は大学の方で考えればよいことで、今そういう方向で各大学、改革が進んでいると思います。そういうのを加速していって、施設側とうまくフェーズを合わせてそういうものをうまく進めていくということでかなりいくのではないかという感触を私は持っています。

【南波委員】 

 先ほどの話にちょっと戻りますと、今の部分と我々は量子ビームあるいは光の部分のところである意味でいい施設を持っていた。そこの中でユーザーといいますか、そこのところとの関係、そうすると1つはテーマをいかに選ぶべきなのか。国レベルのような考え方からすると、1つのテーマの選択の仕方、例えばライフサイエンスであり、グリーンテクノロジーであり、そういった分野から選ばれてくるような方向性が1つある。今の水素のプロジェクトであるとか、あるいはちょっと前では半導体等。そういう形でのいわゆる国策のプロジェクト的な部分が、これは日本全体の部分、量子ビームとか光と離れて、その中で必要なものがまずあって、それに我々の技術のところがどう貢献できるのかという流れが1つあるのだろうと思います。それから今1つ、これは前回、吉澤先生でしたか、トライアルユースの話をしてくださいました。これまで使ったことがないユーザーたちが入ってくる場合、それはパワーユーザーではないかもしれないけれども、まず1回入ってきて、その結果、その人たち自分たちの技術が次にいく段階のところでひょっとするとパワーユーザーになり得るかもしれない。そうすると、今の部分でまずテーマ的な部分のところ、ひょっとすると、それはピークという言い方がありましたが、何かある分野のところで、このところを延ばすべきというものがはっきり出せるのなら、それをやって、そのところにいく。例えば先ほど三木先生からお話があったタンパクのようなプロジェクトは国全体の流れの中の1つの大きな方向にいくのでしょう。あるいは、医療の部分でそういうのがあるのかもしれない。そういったものを見て、量子ビーム、光とは本来は離れていたかもしれない人たちを取り込んでいくようなテーマを重点的に立てられれば、それが多分1つの解ではないかと思います。

【家主査】 

 ありがとうございます。

【高原委員】 

 今、ご議論いろいろありますが、私たちが実際にビームラインで装置を使おうと思ったとき、日本の場合は特にビームライン・サイエンティストの数が非常に少ない。また、あとテクニシャンといわれる方々の数も非常に少ない。そういった方が非常にたくさんいらっしゃるといろいろな相談もしやすくなりますし、いろいろな分野の方も入っていきやすくなる。現状で24時間徹夜で実験を行っているときに急に相談するというか、真夜中に。そういったことが現状ですとなかなかできない。トライアルユースに関しても基本的なお世話をしてくださるサイエンティストの方がいらっしゃればかなり効率よく進むと思います。あと、私たちユーザーからビームライン・サイエンティストを見てみますと、その人たちもやはり自分たちのサイエンスをやらなければいけないので、そのためのいろいろな仕掛けも必要である。私自身はFSBLの運営に関わっていますので、そのあたりも心配しながらやっているのですが、そういったところで人材は今後のこの分野の発展には必要不可欠ではないかと考えております。

【家主査】 

 どうぞ。

【加藤委員】 

 これは光・量子ビーム研究開発の作業部会です。それに関してですが、光と放射光を結びつけて、それで非常に新しい展開を生み出した辛先生のような方がおられて、それで今世界のトップを走っている。そういう非常にいい実績があります。今、辛先生の図では放射光と光しかなかったのですが、光は放射光だけではなくて、例えば中性子とかイオンビームとか、ほかのビームにも関わるところが出てくるわけです。ですから、今までほとんど手がついていないところを積極的に開拓していくというのは新しい分野を開くという面でも、かつ研究としてフロンティアを開く、かつ人材育成と、いろいろな面で新しい動きを見出していくのではないか。具体的に今私が何を持っているというわけではないのですが、いろいろ考えたら出てきそうな気はします。この委員会でそこまで掘り下げるのはできるかどうか分かりませんが、1つの課題として提起させていただきたいと思います。

【家主査】 

 まだまだご議論があろうかと思いますが、お約束の10分を過ぎました。皆様お忙しい方ばかりでしょうと思いますので、本日のところはこれで締めさせていただきたいと思います。また次回にご発言いただくか、あるいはご意見があれば電子メールで事務局の方にお寄せいただければ何らかの形で皆さんにフィードバックさせていただきたいと思います。

 それでは、今日は閉会させていただきます。今後の予定等について事務局よりご説明をお願いいたします。

【事務局】 

 本日の議事録につきましては、後日紹介させていただきますので、ご確認等をよろしくお願いいたします。資料につきましては、卓上に置いてあります茶封筒に入れていただいて、右肩に氏名をご記入いただければ、そのまま郵送させていただきますので、置いていただければと思います。

 次回、第3回につきましては4月20日(金曜日)、16時からを予定しております。場所については未定ですが、後日ご連絡させていただきますので、よろしくお願いいたします。以上でございます。

【家主査】 

 どうもありがとうございました。

 

お問合せ先

研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室

季武(すえたけ)

(研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室)