平成24年 月 日
科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会
光・量子ビーム研究開発作業部会
参考1:今後の方向性等について(イメージ図)
参考2:今後5年程度に集中して取り組むべき研究開発について
参考3:委員及び有識者のプレゼンテーション(概要)
参考4:光・量子科学技術分野の研究ポテンシャルマップ(仮称)
参考5:過去の関係報告書(概要)について
参考6:光・量子ビーム研究開発作業部会の設置について
参考7:光・量子ビーム研究開発作業部会の開催経緯
参考8:光・量子ビーム研究開発作業部会の委員一覧
○我が国では、放射光、電子、ミュオン、中性子、イオンなどのビームを利用する「量子ビーム技術」や、電波に近いテラヘルツ光から可視光、X線にわたる広い波長領域の電磁波である光を利用した「光科学技術」は、新しい原理・現象の解明にとどまらず、新素材の開発や品種改良、創薬などに活用されており、産業分野を高度化し、国際競争力を強化していくために非常に重要な基盤技術となっている。
○光科学技術については、特に半導体エレクトロニクス技術、光ファイバー技術といった我が国の得意技術をベースとしたレーザー技術の高度化が近年加速している。最先端レーザーは高精度、非接触、高いエネルギー集中性、高効率エネルギー変換性等の特徴を持ち、幅広い分野の先端科学技術分野を大きく先導する基盤技術である。このような光科学の先端研究は、国立大学法人大阪大学のレーザーエネルギー学研究センターや光科学センター、国立大学法人電気通信大学のレーザー新世代研究センター、東京大学の光量子科学研究センターや物性研究所、独立行政法人日本原子力研究開発機構(JAEA)関西光科学研究所、自然科学研究機構分子科学研究所、理化学研究所(理研)など多くの研究拠点で、様々な基礎分野の技術革新を支える研究インフラとしての光源開発や新しい利用技術の先端研究として活発に進められている。一方、産業技術への応用についても、情報通信、太陽電池、加工や製品評価技術等の分野において、我が国は国際競争力が極めて高い状況にある。
○量子ビーム技術については、「観る」「創る」「治す」という機能を利用することにより、基礎科学から産業応用まで幅広い分野を支える基盤技術となっている。例えば、我が国にはSPring-8やフォトンファクトリー(PF)等の放射光施設、RIビームファクトリーやTIARA等のイオンビーム照射施設、JRR-3等の中性子利用施設などの多様な量子ビーム施設がある。加えて、X線自由電子レーザー施設SACRAや大強度陽子加速器施設J-PARCの特定中性子線施設が平成23年度末に共用を開始したところであり、量子ビームを利用した研究開発がいよいよ次の新しい時代に突入し、多様なビームを選んで使える本格的な利用期に入ろうとしている状況にある。特に、SACRAは量子ビーム技術が生み出したコヒーレント光源技術であり、これが光科学技術との融合によって高度化されることが期待され、今後飛躍的な発展が見込まれる重要技術となっている。
○これまで、光科学技術及び量子ビーム技術(以下「光・量子技術」という。)については、それぞれが別々の観点から研究開発の推進方策が検討され、それに基づく事業が実施されてきた。しかしながら、最近の技術や理論の進展によりこれらの利用研究の領域が重なりを持つようになってきた。例えば、これまでは放射光施設を利用して行われてきた軟X線による計測が、レーザーによる高次高調波で発生可能になるなど、光科学技術の利用分野と量子ビーム技術の利用分野が近接する領域が出現し、その研究が活況を呈している。
○また、光・量子技術は、産業技術や社会インフラストラクチャー技術の利用も含め広範な分野の技術革新を支える重要な基盤技術であり、これらの技術は科学技術の基盤的インフラとみなすことができる。しかし、この先端技術を牽引する施設は、その整備・運営に多額の経費を要するものが多く、施設・設備等の効率的な運営や効果的な環境整備とその活用、着実な人材育成・確保等の推進を計画的に行うことが不可欠である。
○光・量子技術は、物理学、化学、生物学、天文学などの理学分野から、材料工学、応用化学、電気電子工学、機械工学、エネルギー工学、原子力工学、土木建築工学など多岐にわたる応用分野に広がりを持つ。このような分野横断的性格により、既存の分野を超えた俯瞰力を育てる分野融合的な人材育成の場として最適であることが注目されている。
○こうした光・量子技術分野を取り巻く環境の変化等を踏まえ、平成23年 12月、科学技術・学術審議会先端研究基盤部会の下に「光・量子ビーム研究開発作業部会」を設置し、研究開発の現状や国内外の状況等を踏まえつつ、現在の課題と今後の推進方策等について、またこれまでの成果や日本の強みなどを活かしつつ、今後、重点的・戦略的に推進する方策の在り方等について、検討を行った。
○本中間報告書は、本作業部会でのこれまでの検討を整理し、特に来年度以降早急に取り組むべきことを中心にまとめたものである。今後、本中間報告書を踏まえつつ、光・量子ビーム研究開発の更なる推進に向け取り組んで行くことを期待する。
○第4期科学技術基本計画(平成23年8月、閣議決定)においては、これまでの分野別の重点化科学技術から問題解決型あるいは課題対応型で科学技術を進め、更にイノベーションを推進することが示されている。特に、分野融合やイノベーションの促進に向け、飛躍的な技術革新をもたらし、幅広い研究開発課題に共通して用いられる基盤技術の高度化や施設及び設備のネットワーク化、研究開発の促進、相互補完性の向上等が指摘されている。
○光・量子技術は、このような研究開発のための共通基盤としてのキーテクノロジーであり、イノベーションを支える基盤技術としてその重要性が益々高まっている状況にある。また、これまでも新しい光がノーベル賞に代表される新しい科学の発見や画期的な成果を生み出してきたように、我が国の科学技術全体を支える基盤技術として、先導的な技術開発や利用研究を推進するとともに、様々な可能性にチャレンジし、分野融合や境界領域を開拓していくことが期待されている。
○基礎研究から産業応用に至る国際競争が激しさを増す中、光・量子技術の果たす役割は極めて高い。特に我が国は光学機器、テレビなどのイメージング・ビジョン技術において先導的な産業技術を多数擁している。最先端の研究開発を推進しつつ、この分野の持続的な発展を支える人材育成を促進し、我が国の優位性を更に確固とする仕組みを構築していくことが必要となっている。
○将来にわたって経済的な発展を促し、国民生活を豊かにしていくためには、基礎科学を振興し、その成果を社会に還元していくことはもちろん、我が国が有する最先端の研究基盤施設を有効かつ効率的に活用し、優位性のある光・量子技術の関連産業技術をライフ・グリーンイノベーションにつなげ、技術革新により産業の国際競争力を向上させることが重要である。
○放射光施設等の先端研究基盤施設は、最先端の基礎研究から製品に直結する技術開発まで広い範囲で活用されており、産業界自身あるいは共同研究による利活用を通して、国内産業界にも計り知れない恩恵をもたらしている。これに加えて、光・量子技術それ自体が産業界による製品化を通じて、我が国の国際競争力の向上に大きく寄与することが可能となっており、有効性の高いものである。
○一方で、最先端の科学技術である光・量子技術の推進においては、大型の最先端装置の開発が不可欠である。その初期投資の規模の増大や、成果が社会に還元されるまで一定の期間が必要となることから、産業界による先行投資だけではまかなうことが期待できず、国の投資が有効であり必要不可欠である。
○この分野における先端技術の研究開発は、世界のトップレベルに位置しているだけでなく、我が国のもつ高い製造技術力を活用することで、今後の日本の成長を支える大きな柱とすることが強く期待できる。従って、国として集中的・戦略的な投資を行うことが効率的・効果的であり必要である。
○我が国においては、光・量子技術に関連する様々な施設・装置等が存在し、研究開発の多様化が進むとともに、世界トップレベルの要素技術も生まれている。
○光科学技術については、平成20年度から10年間の計画で「最先端の光の創成を目指したネットワーク拠点プログラム」によるネットワーク拠点型研究開発(光拠点事業)が進められている。プログラム開始後5年を経て光科学技術の研究機関のネットワーク化は大きく進み、基盤的な要素技術の開発における研究機関相互の連携や人材育成が進展してきた。一方で、今後は更なる進展に向けて課題解決の核となる長期的視点に立った総合的・戦略的なプロジェクトが求められている。また、これまでに整備した共同利用施設を十二分に活用し、若手や女性研究者の国際的な交流を促す頭脳循環の拠点とし、ライフ・グリーンイノベーションを先導する人類社会の課題解決に向かう研究を活発に進めることが求められている。
○量子ビーム技術については、例えば平成24年度で終了する「量子ビーム基盤技術開発プログラム」による装置等を高度化し供用へ繋げる取組が行われ、また、放射光施設等においては試料の自動測定装置などのユーザーフレンドリーな装置や測定技術の導入、トライアルユースの実施などにより産業界をはじめ広い分野で利活用が進められてきた。一方で、今後は将来を見据えた新たな加速器技術の開発や施設・装置等が連携した研究開発及び人材育成、更なる利用研究の開拓と利便性向上等の取組が求められている。
○特に、中性子分野については、JRR-3やJ-PARCをはじめとした大型施設において、利用の拡大や応用分野の開拓等が取り組まれているが、一方で、小回りが利き個人の発想を重視した萌芽的研究や、長時間の継続実験を想定したオンデマンド研究、学生などが実物に触れ工夫をしながら研究・測定などを簡便に行うことができる環境の整備が求められている。
○この分野の研究開発及び施設整備の進展により、複数施設を利用した研究開発や、融合領域・境界領域・分野横断的な研究開発が進み始めてきており、技術革新が施設間の相補利用を一層推進する状況となっている。
○また、施設・組織間の連携を更に緊密化することにより、単独の施設を利用するだけでは得られないイノベーションが創出される余地があるとの指摘がある。
○一方、利用者の利便性を追求し、試料を持って行きさえすれば測定ができるようになった施設においては、利用者が装置に深く関わる機会が減少し、将来の装置開発を支える人材が育つ場が無くなってきているという指摘がある。
○我が国の光・量子技術を次代の人材とイノベーションを生み出す源泉として、更に発展させ、国家プロジェクトへの貢献と我が国の成長に資する活動として定着させていくべきである。そのためには、限りある資源を最大限有効に活用していくことが必要である。
○施設・組織間での情報共有や人事交流等による連携・協力の強化をはじめ、互いの施設等の特長を最大限活かすために研究開発コーディネーター等の配置による利用者への支援等を強化することが必要である。
○また、様々な光・量子ビーム施設の垣根を越えるようなユーザー育成は、施設側だけで考えることは難しく、ユーザーを交えた自由な議論が重要である。
○新たな研究分野の開拓や利用研究の発展と、施設等の開発・高度化は、科学技術の発展において両輪を成すものであり、施設側と利用者が一体となった取組が必要である。両者が明確な目標を共有した上で連携・協力して課題に取り組むとともに、施設・装置等を使いこなし利用研究を開拓していくパワーユーザーが必要である。そうした利用者を育てていくことも念頭に置いた上で、研究開発をより強化していくことが必要である。
○光・量子ビーム施設間の垣根を越えた取組が、新しい科学を生み出すキーワードとなっており、先導的な取組等を通じて、光・量子技術におけるプラットフォーム化を更に推進していくことが重要である。両者の相補的な活用について、最新の科学技術知見をもとに最適化していくことが必要である。
○光・量子ビームで同じターゲットを目指している場合も出てきていることから、両者が相補的な研究体制になるような統合的な議論や、研究のすみわけを学術的に明確にしていくことも効率的な科学研究推進のために必要とされている。こうした背景をうけ、例えば現行の「最先端の光の創成を目指したネットワーク拠点プログラム」と「量子ビーム基盤技術開発プログラム」のPD・POでそれぞれのプロジェクトに関する情報共有や人事交流等による連携・協力の強化を検討することが重要となっている。また、この取組の更なる推進のために、プロジェクト運営についての方策を検討すべきである。
○さらに、ビームタイムの効率性(スループット)向上を進めるため、例えば、装置や技術の効率化・高度化や計算科学(シミュレーション)との連携による高速解析の実現などに取り組んでいくことが必要である。
○光科学技術については、ネットワーク拠点型研究開発の成果として、構築されつつあるオールジャパンの連携による技術基盤の強化を今後も手を緩めることなく進め、さらに産業展開も視野に入れて進めるべきである。これまでの事業の成果として生み出された「繰り返しレーザー増幅技術」や「スーパーコヒーレント制御技術」などの革新技術については、更なる発展を目指した技術開発・利用研究を一層推進していくことが必要である。
○そのため、それぞれの研究機関の垣根を越えて、多くの光科学技術・量子ビーム技術の研究者が参画した研究開発・利用研究を行うことで、要素技術の集約を目指すことが必要である。
○量子ビーム分野については、高度に制御されたイオンビームやミュオンなどの有用性が十分に周知されていないため、利用者がまだ少ないこうした分野の開拓が重要である。
○また、量子ビームの利用者の拡大のみならず、萌芽的研究や教育・人材育成の場を設けるためには、小型で維持管理の容易なビーム光源や次世代の加速技術の開発が必要である。
○例えば中性子分野ついては、X線のように研究室規模で使用できる小型線源がないため、その利用が大型施設に限られている。装置の小型化とともに、 学生やメーカー等産業界の研究者にも簡便に利用できる解析ソフト等を備えたシステムを構築し、中性子を使用できる人材や中性子装置を開発できる人材の育成、応用分野の開拓や潜在的利用者の掘り起こし等に貢献することが重要であり、中性子科学を支える研究基盤インフラの整備が必要である。
○課題解決型の研究開発・利用研究を進めるに当たって、施設・装置等の高度化につながる要素技術開発については、産業界をはじめとした課題を抱えるユーザーのニーズを踏まえた取組がこれまで以上に重要となっている。
○光科学技術の更なる高度化には、高強度の光を制御操作するため欠かせない光学素子の材料劣化など本質的な課題がある。これらの課題を産業界及び研究の現場から効果的に抽出することと、解決に向けた研究の成果を広く共有する仕組みを構築することが重要である。
○これまで行われてきた量子ビーム施設におけるトライアルユースでは、間口を広げることで業種に関わらず多くの取組が行われ目覚ましい成果を出す事例が見られた。様々な分野で潜在的な利用者は多いものの、マッチングを更に強化することにより、新規の利用者を更に掘り起こす余地がある。特に、ミュオンなどの新しいビームについては、利用開拓の強化が課題である。
○また、欧米に比べ、解析ソフトウェアとの連携による利用環境の高度化や周辺機器の高度化が遅れているとの指摘がある。
○課題解決型の研究開発の推進には、産業界を含め課題を抱えるユーザーのニーズに即した装置開発や技術開発の推進が必要である。
○また、利用者がニーズに即した施設・装置等を選択できるようにするためには、施設側のコーディネート機能の強化が必要であり、利用支援の更なる強化が必要である。
○新たな課題への対応や潜在的利用者の掘り起こしを進めるためには、例えば、分野融合の促進、境界領域や中間領域の開拓、複数施設の相補的・統合的利用の推進、高度に制御されたイオンビームやミュオンなどの利用者がまだ少ない分野の開拓などの先導的事例研究の推進が必要である。
○また、トライアルユースは産業利用の拡大に非常に有効であり、このような取組を強化することが重要である。こうした成果も参考に、施設側では利用者の掘り起こしや分野の開拓に向けた取組を積極的に進める必要がある。
○併せて、失敗事例を含め取組事例について広報を強化するなど、量子ビーム技術に対する理解を増進することが必要である。
○さらに、原子・分子レベルの解析等においては、実験から膨大なデータが生じるため、計算科学・計算機科学の融合による高度な実験・解析の実現、そのため解析手法の開拓などソフト面の強化が必要である。
○高度なコヒーレント光源施設の活用において、その利用を促進していくための支援を行う必要がある。また、その利用技術の開発も重要である。
○我が国においては、産業面で活用可能な先端研究の成果が必ずしも産業利用に活かされていない状況があった。
○そのため、開発・整備・高度化された施設・装置等を効果的に活用し、その成果を技術移転や産業応用へと展開していくことが課題となっている。
○産業界にとっては、独立行政法人や大学等が所有する先端研究施設は、利用機会が少ないため製品開発や品質保証に使いづらく、また、施設利用の公募時期や知的財産の制約などにより、製品開発に近付くほど使いにくい仕組みになっているとの指摘がある。
○レーザー技術をベースとするテラヘルツから軟X線におよぶコヒーレント光源技術とそれを利用する計測技術は、産業技術としても高いポテンシャルを持つものである。その基礎となる高強度半導体レーザー技術、光学部品開発、高耐性素子技術など、産業展開を視野にいれた戦略的な開発体制を整えていくことが重要である。
○先端的な加速器や中性子の装置などについては、産業界とも連携しながら戦略的な研究開発に取り組むことにより、開発の成果を輸出できるような技術として育てることが可能である。例えば、J-PARC中性子源は世界最高性能を達成しており、新規に提案される海外の中性子源のモデルとなっているが、国内の中性子線施設は限られているため、国内で産業に活かされる機会は極めて限られている。
○また、研究開発の成果が社会に還元されていることが見えづらいとの指摘があり、要素技術の開発がどのように基礎科学に展開され、産業利用に進展していくのかを積極的に国民に説明する取組が求められている。
○成果や出口までの産業応用へと繋ぐ基礎的研究が重要であり、具体的成果を示すとともに、要素技術開発とサイエンスの目的のバランスをとることも重要である。
○また、大学や研究機関で行われている研究開発を、実際の実用化・製品化まで切れ目無く繋いでいくには、産業界との連携が欠かせない。役割分担と各開発段階での問題解決のためには、基礎的な段階へのフィードバックが重要であり、それぞれが役割を意識しつつ連携して研究を進めることが必要である。
○光科学技術の技術開発は国境を越えてグローバルに進められている。そのため、グローバルかつオープンイノベーションの促進に資する知財の確保・活用を考慮した新しい形の産学連携の仕組みを構築していくことが必要である。さらに、光科学技術分野での取組が他の分野の先例となり、我が国の産業の革新を導く新しいモデルを提示するものとなることが望まれる。
○出口を見据えた研究開発の推進には、大学や研究機関がコーディネーターとなり、大学教育や研究開発の段階から、企業が参画し共同で実施するプロジェクト等の推進が必要である。
○産業界においても、現状行われている基礎研究や要素技術開発を調査・検討し、大学や研究機関における研究開発に参画していくことで、製品開発につなげていくことも求められる。同時に、大学や研究機関において産業界等のニーズを吸い上げる仕組みを構築することが必要であり、両者のコミュニケーションの場を多く設けていくことが必要である。
○新たな加速器技術や小型中性子源の研究開発を進めるとともに、その成果を産業界へ移転し、我が国の産業競争力の強化につなげる取組が重要である。
○さらに、シミュレーション技術の高度化や小型線源の開発、遠隔地からの実験操作などよる施設・装置等の使いやすい仕組みの導入も必要である。
○また、光・量子技術は、幅広い分野の基盤技術であり、出口を見据えた研究開発には、省庁連携や関係機関の協力のもと進めることが必要である。
○限られた資源を有効に活用するため、課題の優先順位を戦略的に検討するとともに、得られた研究成果を強くアピールしていくことが必要である。
○光科学技術の分野横断的な性質を利用した、俯瞰力のある高度科学技術人材の育成や起業のモデルトレーニングを行う教育の舞台として、これまでの取組は成果を上げつつある。この成果を生かし、次代を担う人材育成の場として一層活用していくことが課題である。
○一方、量子ビーム施設では、装置等の大型化と集中化が進み、大学の学部等では維持管理できなくなってきたために学生が装置に直接触れる機会が減り、装置がブラックボックス化してしまう傾向がある。その結果、装置開発そのものの魅力を学生が感じる機会が減少している。
○さらに、測定装置であるビームラインの維持管理や高度化を行うビームラインサイエンティスト、テクニシャンなどの施設や装置を支える人材の安定的な受け入れ先が十分ではない。
○そのため、測定原理まで踏み込んだ要素技術開発を発展させられる人材の育成を継続的に行っていく必要があることから、今後、大型施設側と大学の連携が一層求められる状況にある。
○これは、量子ビーム技術の中核である加速器において、特に大切である。我が国がこれまで培ってきた高度な技術の資源を活用しそれを発展させることを戦略的に進めるという視点をもって、人材育成を大学や研究機関、装置メーカーの連携のもとで計画的に進めることが求められている。
○光・量子技術のような幅広い分野を支える基盤分野の人材育成においては、広く産業界や様々な基礎科学の世界で活躍できる人材の育成を図るべきである。
○本分野を担っていく若手の人材育成には、学生を含め若手を惹きつける魅力ある最先端研究を推進することに加え、産業界や産業技術を研究する機関を巻き込んで、具体的な出口や成果を提示していくことが重要である。
○また、若手が先端の施設・装置等に直接触れる機会を増やすことが重要であり、研究施設と大学が連携し、先導的なプロジェクト等の研究開発や産学連携の共同研究と連動した若手人材の育成を推進していくことが必要である。
○利用を促進するためには、きめ細かい利用支援が不可欠である。そのための人材は、利用者コミュニティから育成していくことが最適であり、利用者との連携を密にして人材の発掘と積極的な登用を行うべきと考える。
○さらに、当該分野への新規参入者や利用者の掘り起こしによる裾野の拡大という観点から、トライアルユースなどの活用による利用機会の提供も必要である。
○特に、若手については、研究の場や触れる機会だけではなく、大学教育の場や研究機関において、例えば企業との共同講座を開設することなどによりキャリアの展開をイメージさせることが有効である。
○また、光科学技術と量子ビーム技術が、本格的な利用期になってきたことを踏まえると、光や量子ビームを総合的に使った技術開発や基盤技術開発を行うことで、広く光や量子ビームを活用できる人材を育成すべきであり、また、学際的に応用可能性を重視して取り組んでいくことも重要である。
○光拠点事業においては、「光科学」を題材にして、真に新しいものを生み出すことを目的とした研究活動を行える人材、基礎科学から産業界まで幅広く活躍できる人材を育てる取組を行っており、こうしたことも参考にしつつ、産業界とも連携した人材育成により、国全体の課題解決や日本の成長につなげていくことが必要である。
○光・量子技術は、あらゆる科学技術の基盤的要素として利用されている。これらの利用する研究者・技術者が、単なるユーザーではなく、光・量子技術そのものを理解し、さらに高い要求を光・量子技術分野にフィードバックすることが、新しい分野を生み出すためにも重要である。そのためには、これらユーザーに対する教育も推進すべき課題となる。
○また、国際的な共同研究、欧米やアジアの研究者が集う研究集会を主導して開催することにより、次世代の光・量子科学を支える優秀で国際的な人材を我が国から多く輩出することを目指すことが重要である。
○光・量子技術の研究開発は、欧米を中心とした各国においてもイノベーションの源泉として積極的に進められているが、一国では人も資源が限られている。今後、大型施設の建設や関連する設備等の設計・製作等については、一国で整備しなければならない施設と、アジア地域をはじめとした国外との共同プロジェクトで進めていける可能性のある施設を精査するなど、戦略的な国際協力が重要となってきている。
○我が国においては、各研究機関において二国間協力や多国間協力により研究開発や人材交流が個々に進めているが、我が国全体としての戦略的な取組は図られていない。特に、アジア・オセアニア地域については、これまでもアジア・オセアニア放射光フォーラム(AOFSRR)やアジア・オセアニア中性子散乱協会(AONSA)などに積極的に参画しているところであるが、我が国のプレゼンスの向上、国際競争力の強化に向けて、一層の連携や主導的な取組の強化を図っていくことが課題である。
○また、研究開発の着実な高度化のためには、施設間の相補・融合利用によるサイエンスのピークを引き上げ新たな研究分野を切り開く技術開発の推進が必要であり、そのためにも主要な海外の研究機関との積極的な連携・協力の更なる推進が重要である。
○中国、台湾、韓国、シンガポールなどアジア諸地域において、光・量子技術に積極的な投資が進められ、めざましい成果が上げられている。そういった状況を踏まえ、我が国でも戦略的な連携体制をとっていくことで、アジア地域における我が国の優位性を維持することが急務である。
○当該分野における国際協力を戦略的に進めていくためには、いくつかの研究開発領域ごとに国内関係機関をネットワーク化し、国際協力の進め方や各機関の果たすべき役割について、検討し調整できる仕組みの構築が必要である。
○基盤技術として横断的・統合的利用に供される光・量子技術は、最先端の技術であり続ける必要がある。新規アイディアに基づく先端的な基盤技術開発を継続し、将来の利用研究の礎とするとともに、課題解決に向けた研究開発を強化し、開発の成果を社会に還元していくことが重要である。
○そのため、今後の研究開発に関しては、これまで注力した研究開発の成果を最大限に活用し、先導的な取組として今後5年程度で一定の成果が出るものを重点的に支援していくべきである。
○これにより、これまでの優位性を活用し、開発開始から5~10年程度の間で、開発された技術を活用した世界トップクラスの研究が行われ、イノベーションを促進することを目指す必要である。
○なお、光・量子技術では利用される光源の性質が近似してきている部分があり、一部の研究分野では連携が進んでいる。しかしながら、光源それぞれの目的や性質等は異なり、技術課題が共通する課題がある一方で、個別の課題もある。このことに留意した連携体制を整え、相補性を最大限に活用できるようにすることが必要である。
○以上を踏まえ、今後の当面の光・量子ビーム研究開発においては、下記の事項を重点的に推進することが必要である。
○上記の重点的推進事項を具体的に実現するものとして、今後5年程度に集中して取り組むべき研究開発は、以下のとおりである。
○これら先導的研究開発については、国の公募型研究費により実施することが適切である。
○また、これら課題を強力に推進し、着実に成果へと繋げていくために、プロジェクト全体の進捗管理や評価等を行っていく体制の構築が必要である。
○光・量子技術は、先端科学を支える基盤技術であるため、成果の創出にはある程度の時間を要するものである。同様に、人材育成等については、中・長期的な観点で戦略的な取組が必要である。
○一方で、国際競争が激しく、研究開発の動向は日夜進捗しており、そうした状況の変化に柔軟に対応していくことも重要である。特に、アジア諸地域の情勢について配慮するべきである。
○そのため、施策の断絶を行うことなく、当該分野の研究開発を推進するとともに、中長期的な課題や国内外の状況の変化等を踏まえ、更なる検討を進めることが必要である。
○先導的な取組とその成果の蓄積により、光・量子ビーム研究開発に関連する分野でのプラットフォームの構築、多種光源の利用に通じた研究コーディネーターの育成、また施設の研究開発を担うことのできる人材育成、これまで光・量子ビーム施設を利用したことのない若手人材を含めた新たな利用者・研究者の掘り起こし、さらには施設の申請審査システムなど、光・量子ビーム研究開発の推進における多くの課題が解決され、光・量子技術が我が国のイノベーションの源泉としての先端研究基盤となることを強く期待する。
参考1:今後の方向性等について(イメージ図)
参考2:今後5年程度に集中して取り組むべき研究開発について
参考3:委員及び有識者のプレゼンテーション(概要)
参考4:光・量子科学技術分野の研究ポテンシャルマップ(仮称)
参考5:過去の関係報告書(概要)について
参考6:光・量子ビーム研究開発作業部会の設置について
参考7:光・量子ビーム研究開発作業部会の開催経緯
参考8:光・量子ビーム研究開発作業部会の委員一覧
(概要)
(補足)
上記報告書に関して、J-PARCについては、中性子線施設が「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(以下「共用法」という。)の対象施設となり、ビームライン整備が加速され、平成24年5月現在、23本中20本のビームラインが稼働/建設中となっている。また、共用法における登録施設利用推進機関である総合科学研究機構(CROSS)による利用促進業務が開始され、平成24年下期からトライアルユースも導入される予定である。また、理研のRIビームファクトリー(RIBF)については、平成18年度にビーム発生系の施設整備が完了し、基幹実験設備の整備が一部残されているところではあるが、原子核物理分野において国際頭脳循環の核となる研究拠点として、研究開発が順調に行われているところである。
(概要)
(補足)
この提言を受けて平成20年度から5年間の「量子ビーム基盤技術開発プログラム第Ⅰ期」が開始された。基盤技術としての量子ビーム技術の発展と普及に資するべく、汎用性、革新性と応用性が広く、5年程度で実現可能な量子ビーム技術の研究開発を行い、量子ビーム技術を担う若手人材の育成を図っているところであり、平成22年度に中間評価を実施しており、採択された課題については、一定の成果が得られている旨評価されているところである。
(概要)
(補足)
この提言を受けて平成17年度から戦略的創造研究推進事業「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」が開始された。情報処理・通信、材料、ライフサイエンスなど、基礎科学から産業技術にわたる広範な科学技術の基盤である光学および量子光学に関して、光の発生、検知、制御および利用に関する革新的な技術の創出を目指す研究を行っている。
(概要)
(補足)
この報告書を受け、光科学技術分野のネットワーク型研究拠点構築や人材育成を目指して、平成20年度から10年間の「最先端の光の創製を目ざしたネットワーク研究拠点プログラム」事業が開始された。新たな発想による最先端の光源や計測手法の研究開発を進めると同時に、先端的な研究開発の実施やその利用を行い得る光科学技術に関わる若手人材の育成を図っているところである。
平成24年2月27日
科学技術・学術審議会
先端研究基盤部会
光・量子ビーム研究開発作業部会
第1条 科学技術・学術審議会先端研究基盤部会光・量子ビーム研究開発作業部会(以下「差作業部会」という。)の議事の手続その他作業部会の運営に関し必要な事項は、科学技術・学術審議会令(平成12年政令第279号)、科学技術・学術審議会運営規則(平成13年2月16日科学技術・学術審議会決定)及び科学技術・学術審議会先端研究基盤部会運営規則(平成23年4月28日科学技術・学術審議会先端研究基盤部会決定)に定めるもののほか、この規則の定めるところによる。
第2条 作業部会は、当該作業部会に属する委員の過半数が出席しなければ、会議を開くことができない。
第3条 委員が作業部会を欠席する場合、代理人を作業部会に出席させることはできない。
2 作業部会を欠席する委員等は、作業部会の主査を通じて、当該作業部会に付議される事項につき、書面により意見を提出することができる。
第4条 作業部会の会議及び会議資料は、個別利害に直結する事項に係る案件、又は調査の円滑な実施に影響の生じるものとして、作業部会において非公開とすることが適当であると認める案件を除き、公開とする。
第5条 作業部会の主査は、作業部会の会議の議事録を作成し、これを公表するものとする。
2 作業部会の会議が、前条に掲げる事項について調査審議を行った場合に限り、作業部会の主査は、当該部分の議事録を非公表とすることができる。
第6条 この規則に定めるもののほか、作業部会の議事の手続きその他作業部会の運営に関し必要な事項は、作業部会の主査が作業部会に諮って定める。
(1)部会の設置趣旨・運営・主査の紹介等について
(2)我が国における光・量子ビーム研究開発の現状について
(3)今後の光・量子ビーム研究開発の推進方策について
(4)その他
(1)前回の議論等について
(2)委員及び有識者からのプレゼンテーション
(3)今後の光・量子ビーム研究開発の推進方策の検討
(4)その他
(1)前回の議論等について
(2)委員及び有識者からのプレゼンテーション
(3)今後の光・量子ビーム研究開発の推進方策の検討及び論点整理
(4)その他
(1)前回までの議論等について
(2)委員からのプレゼンテーション
(3)中間報告(素案)について
(4)その他
(1)中間報告(案)について
(2)事前評価(案)について
(3)その他
◎:主査、五十音順
◎家 泰弘 東京大学物性研究所所長
井上 信 京都大学名誉教授
加藤 義章 光産業創成大学院大学学長
川合 眞紀 独立行政法人理化学研究所理事
兒玉 了祐 大阪大学大学院工学研究科教授
五神 真 東京大学大学院理学系研究科教授
佐野 雄二 株式会社東芝電力システム社 電力・社会システム技術センター技監
辛 埴 東京大学物性研究所教授
高原 淳 九州大学先導物質化学研究所教授
南波 秀樹 独立行政法人日本原子力研究開発機構 理事
三木 邦夫 京都大学大学院理学研究科教授
三和田 靖彦 トヨタ自動車株式会社計測技術部主査
村上 洋一 高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所教授
吉澤 英樹 東京大学物性研究所附属中性子科学研究施設教授
(平成24年4月20日現在)
研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室