先端計測分析技術・機器開発プログラム平成25年度におけるプログラム実施の基本方針

2013年1月29日
科学技術・学術審議会先端研究基盤部会研究開発プラットフォーム委員会先端計測分析技術・機器開発小委員会

独立行政法人科学技術振興機構(以下、「JST」)の研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム(以下、「プログラム」)の平成25年度の実施にあたっては、以下の事項を踏まえた上で推進することが求められる。

1.プログラムの現状

 先端的な計測分析技術・機器は、最先端かつ独創的な研究開発成果や、医療等の社会的な重要課題の達成に資する革新的技術などを創出するための重要なキーテクノロジーであり、我が国の科学技術の共通基盤である。プログラムの実施を通じて、オンリーワン・ナンバーワンの計測分析技術に基づく機器を生み出し、現場に普及させ、科学技術イノベーションを牽引していくことが重要である。
 本プログラムは、取組開始以降、革新的な要素技術の開発課題を幅広く選定しながら、優れた開発課題については産学連携によるプロトタイプ機器開発、企業主導の実証・実用化開発へとつなげる枠組みを用いて推進を図ってきた。しかしながら、科学技術イノベーション活動の実施主体を担う研究現場や医療現場からの計測分析ニーズに対応するための取組は必ずしも十分では無く、平成24年度より、開発者とユーザーとの連携を強めることを目的として、ターゲット指向型の開発取組の強化(重点開発領域の設定)と、JSTにおける推進体制の再構築を求めてきたところである。
 現在、これらの改革取組は道半ばにある。このため、平成25年度も引き続き、ユーザーを意識した計測分析技術・機器・システムの開発取組を強化していくことが重要となる。JSTにおいては、平成24年度に再構築した推進体制を最大限活用し、社会からの要請に応えイノベーションの創出に貢献するという強い意志を持って、プログラムを戦略的に推進していくことが望まれる。

2.重点開発領域における新規公募について

 本プログラムでは、現在、重点開発領域として「グリーンイノベーション領域」及び「放射線計測領域」を設定している。一方、第4期科学技術基本計画においては、我が国の将来にわたる成長と社会の発展を実現するための主要なターゲットとして、「グリーンイノベーション」、「震災からの復興、再生」に加えて、「ライフイノベーション」の3本柱を掲げており、本プログラムにおいても「ライフイノベーション」に関連する取組の更なる強化が必要となる。加えて、これまでのプログラムにおける開発課題の約半数はライフサイエンス系の計測分析技術・機器であり、幾つかの優れた成果が出始めているものの、医療現場やライフサイエンス系の研究現場における国産機器の割合の低下傾向は続き、ライフイノベーションの根幹を担う基盤が諸外国の技術・機器・システムに頼らざるを得ない状況となっていることから、プログラムの枠組みを改めて見直し強化する必要性に直面している。
 以上を踏まえ、プログラムの新規公募の実施にあたって、重点開発領域として新たに「ライフイノベーション領域」を設定し、開発者とユーザーが密に連携した体制の下で取組を推進していく。
 重点開発領域において設定する具体的な開発対象課題は、社会や研究現場からのニーズに対応し、第4期科学技術基本計画が掲げる「重要課題の達成」に直結する取組である。このため、重点開発領域における新規公募にあたっては、当該領域の開発課題の採択率を高めるなど、プログラム全体の中での予算配分の明確な重点化が求められる。

2-1.ライフイノベーション領域について

 医療現場等のユーザーニーズに適合し、診断技術の向上、患者の負担軽減及び医療費の抑制に貢献することを可能とする計測分析技術・機器・システムの開発を行う。 

<具体的な開発対象課題>
 以下のア)、イ)の二つのカテゴリーにおいて、それぞれ異なる役割を有する技術・機器・システムの開発を進める。
ア)ターゲットを測定するための診断機器・システムの開発
診断方法が確立され、同定されているターゲット(診断マーカー)について、医師等にとって扱いやすく、患者にとって負担が軽く(非侵襲、低侵襲等)、正確かつ低コストに測定できる診断機器・システムを開発する。
特に、生命にかかわる疾病や、社会的にも大きな問題となっている難病等、治療満足度を高める上で早期診断が重要となる疾病について、新たな診断機器・システムが開発・普及されることで、健康長寿の増進と、患者の負担軽減や医療費の抑制に飛躍的に貢献できることが重要となる。
プログラムの実施を通じて、医療現場の要請に応える開発成果を生み出し、国内外の市場の獲得につなげていく。 
イ)ターゲットを解明するための計測分析技術・機器の開発
診断・治療の飛躍的高度化につながる未知のターゲットを探索・解明するための革新的な計測分析技術・機器を開発する。
開発された技術・機器は、生命システムと各種疾病の本態解明や、新しいターゲットの探索・発見と同定のための研究に結び付け、新たな診断方法の創出等に貢献していく。

<開発タイプ>
 上記ア)、イ)の二つのカテゴリーの開発課題を対象として、それぞれ「要素技術タイプ」、「機器開発タイプ」、「プロトタイプ実証・実用化タイプ」における新規公募を実施する。
 なお、開発チーム体制については、現在の申請条件と原則同じ条件とする(産と学・官が連携したチームとする。「プロトタイプ実証・実用化タイプ」はチームリーダーを企業側とする。)。ただし、いずれの開発タイプにおいても、開発者と医療従事者等ユーザーが連携したチームで研究開発が進められることが望ましく、公募時にこれを申請者に明確に周知し、開発チーム体制を適切に評価していくことが求められる。

<選考の観点>
 現在の「要素技術タイプ」「機器開発タイプ」「プロトタイプ実証・実用化タイプ」の観点に、以下の要素を加味した上で、それぞれの開発タイプの「選考の観点」を再設定することが求められる。
【ア)のカテゴリーの開発課題に関して、3タイプ全てにおいて追加すべき観点】

  • 医療現場における診断機器・システムへのニーズとの適合性
  • 対象疾病、診断マーカーに関して、現在の診断機器・システムと比較した際の「患者の負担軽減」「医療費の削減」への貢献度(インパクト)

【ア)のカテゴリーの開発課題に関して、「機器開発タイプ」及び「実証・実用化タイプ」において追加すべき観点】 

  • 薬事法の承認プロセスを含めた、開発機器・システムの国内外への確実かつ速やかな普及のための戦略性

【イ)のカテゴリーの開発課題に関して、3タイプ全てにおいて追加すべき観点】

  • 開発技術・機器等を用いることによる未知のターゲット探索・発見への貢献度
  • 新たなターゲットによる「診断方法の革新」「患者の負担軽減」「医療費の削減」への貢献度(インパクト)

<公募及び開発推進体制>
 本領域の公募及び開発推進にあたって、JST推進委員会の下に新たに「ライフイノベーション領域分科会」を設置することが求められる。当該分科会が扱う開発課題全体を俯瞰できる領域総括を置き、計測分析の専門家のみならず、ユーザー側の専門家(特に、医師をはじめとする医療従事者)や、関係府省の担当者に分科会への参画を求めることにより、医療現場や社会からの開発要求に確実に応えることのできる開発課題を選定、推進する。なお、特に考慮すべき点は以下の通りである。

  • 当該分科会で公募を実施する際、申請者から提案される開発課題が対象とする疾病は、相当の広がりを持つことが想定される。審査にあたっては、分科会委員に加えて、当該疾病に関する国内外の最新の診断技術・機器の動向や現場で求められている新たな診断方法等に対する高い知見を有する者を機動的に加えていくことが適切である。
  • 開発された機器・システムが速やかに現場で普及するためには、薬事法承認等の制度的なプロセスを経る必要があり、分科会は、当該プロセスに関して開発者を適切にサポートしていくことが望まれる。
  • これまで、ライフサイエンス系の開発課題は、総合評価分科会が選定・評価し、開発総括が推進を担う「領域非特定」の取組として実施されてきている。平成25年度より、ライフイノベーション領域分科会が、「医療現場等のユーザーニーズに適合し、診断技術の向上、患者の負担軽減及び医療費の抑制に貢献することを可能とする計測分析技術・機器・システム」に関連する開発課題の公募・開発推進を担うこととなるが、両分科会及び開発総括の機能を最大限有効に活用できるよう、両分科会及び開発総括は常に連携し、これまで領域非特定として実施されてきた開発課題の評価状況等も含めた相互の取組状況を把握していくとともに、開発課題の特性や進展に応じて、分科会の担当開発課題を柔軟に入れ替える、同一の開発課題に対して複数者(開発総括及び分科会委員)が開発推進を受け持つ等の工夫を今後検討していくことが求められる。

 なお、これらの内容については、JST推進委員会及びライフイノベーション領域分科会での更なる検討結果を踏まえた上で、公募要領等に明示していくことが望まれる。

2-2.グリーンイノベーション領域について

 地球規模の気候変動への対応と持続可能なクリーンエネルギーの確保といった社会的課題に対応するため、太陽光発電、蓄電池、燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化を推進するための計測分析技術・機器・システムの開発を行う。

<具体的な開発対象課題>
異相界面におけるパワーフロー現象解明のための計測分析技術・機器の開発とシステム化に重点を置きつつ、グリーンイノベーション領域分科会での更なる検討結果を踏まえた上で、公募要領等に明示していくことが望まれる。
(想定される開発課題例)

  • 太陽電池のナノレベル表面・界面現象の解明に貢献する技術・機器・システム
  • 蓄電池における固体内反応現象の解明に貢献する技術・機器・システム、劣化状況のモニタリングと可視化を可能とする機器・システム
  • 燃料電池の内部における物質系の3次元挙動解析技術・機器・システム

<開発タイプ>
平成25年度の新規公募は、「要素技術タイプ」、「機器開発タイプ」に加えて、「プロトタイプ実証・実用化タイプ」を対象として実施する。

2-3.放射線計測領域について

 本領域は、復興庁が所管する「東日本大震災復興特別会計」(以下、「復興特会」)で実施する取組であることに鑑み、被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生に直結する、放射線量及び放射能濃度の迅速かつ高精度・高感度な把握を可能とする機器・システムの開発を行う。

<具体的な開発対象課題>
被災地ニーズ、行政ニーズの高い開発課題に取り組む。以下に掲げる開発課題を中心に、放射線計測領域分科会での更なる検討結果を踏まえた上で、公募要領等に明示していくことが望まれる。
(想定される開発課題例)

  • 魚介類等の形状の複雑な一般食品を非破壊かつ簡易に測定できるスクリーニング検査用機器・システム
  • 大量の瓦礫、廃棄物中の放射性物質を高効率で測定できる機器・システム
  • 廃棄物から排出される液体やガスに含まれる放射性物質を高感度でモニタリングできる機器・システム
  • 工業製品の表面線量を高効率で測定できる機器・システム
  • 既存のゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーに代わり得る革新的な測定機器・システム

<開発タイプ>
平成25年度の新規公募は、「実用化タイプ(最大3年間)」のみを対象として実施する。また、復興特会を用いた当該領域における新規公募の実施は、平成25年度限りで終了することとする。

3.重点開発領域以外(領域非特定)の新規公募について

 本プログラムが掲げる「オンリーワン・ナンバーワンの計測分析技術に基づく機器」を生み出していくためには、重点開発領域以外の「領域非特定」の取組も引き続き必要であり、「要素技術タイプ」、「機器開発タイプ」、「プロトタイプ実証・実用化タイプ」における新規公募を実施する。
 特に、領域非特定の「要素技術タイプ」に関しては、革新的な提案を幅広く募ることの重要性に鑑み、産と学・官が参画した体制構築を開発者に求めることを基本としつつ、申請要件の工夫を図ることが望まれる。

4.その他の重要事項について

  • 開発した先端的な計測分析機器を社会に普及させていくためには、システムとしての性能や利便性を兼ね備えていることが不可欠であり、ハードウェアのみならずソフトウェアの開発が極めて重要となる。このため、「機器開発タイプ」及び「プロトタイプ実証・実用化タイプ」においては、全ての申請開発課題について、ソフトウェア開発に関する考え方を明確に提示してもらうことが必要である。
  • 近年、開発課題1件あたりの研究開発費が小規模化している傾向にあるが、国内外での大きな市場獲得が見込まれる機器等について、開発途中で重点投資を行うことで、デファクトスタンダードや国際標準の獲得、薬事法の早期承認、実用化の前倒し等につなげることが可能となる場合、柔軟かつめりはりのある予算配分を実施していくことが望まれる。
  • 特に、「プロトタイプ実証・実用化タイプ」においては、参画企業とのマッチングファンド形式により、プロトタイプ機を複製し、複数の研究機関、医療機関に配備し、ユーザーによる利用を通じた実用化開発を進めるという取組も有効であり、平成25年度の当該開発タイプの実施の際に取組を試行することが望まれる。また、放射線計測領域の開発課題においても同様の取組は有効であり、実施が望まれる。
  • 「開発成果の活用・普及促進」の取組について新規公募を実施する。現在は、「機器開発タイプ」や「プロトタイプ実証・実用化タイプ」で開発されたプロトタイプ機について、有力なユーザーの利用に供した上で機器の高度化、標準化を行い、広く産学官に共用可能な状態まで仕上げていく取組を実施しているが、人材養成やソフトウェアを含めたシステム化の観点を更に重視した取組へと強化することが望まれる。なお、公募審査にあたっては、領域別分科会とも適切な連携を図っていくことが望まれる。
  • 総合評価分科会とライフイノベーション領域分科会における連携のみならず、各分科会と開発総括の力を最大化させ、各開発課題にとって最も適したサポート体制を提供することが望まれる。JST推進委員会の役割は極めて重要であり、傘下の分科会等の活動状況を俯瞰し、適切なマネジメントを実施していくことが強く求められる。
  • 重点開発領域の開発課題の中間評価は、課題選定を行った領域別分科会を実施主体とするとともに、事後評価は、評価の透明性確保の観点から総合評価分科会を実施主体とすることが望ましい。
  • JSTは、開発成果情報等を検索・一覧できるデータベースを作成・更新するとともに、これまでの開発成果を適切に検証し、外部への成果発信を戦略的に行うなど、プログラムの広報の一層の強化に努めることが求められる。
  • 先端的な計測分析技術・機器は、我が国全体としての「研究開発プラットフォーム」の構築・発展にとって極めて重要な要素となる。この重要性を踏まえた上で、国及びJSTは、本プログラムによる開発成果が、国の重要な研究開発プロジェクトや共用施設・設備の高度化に着実に活用されていくよう、関係者との連携を一層強化していくことが求められる。

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