参考資料9 平成23年度科学・技術重要施策アクション・プランへの貢献等について

平成23年1月31日
科学技術・学術審議会
技術・研究基盤部会
知的基盤整備委員会
先端計測分析技術・機器開発小委員会

総合科学技術会議が平成22年8月に策定した、「平成23年度科学・技術重要施策アクション・プラン」(以下「アクション・プラン」という。)において、産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】※(以下「本事業」という。)は次の2つの施策パッケージの中に位置づけられている。

  1. 太陽光発電の飛躍的な性能向上と低コスト化の研究開発
  2. 蓄電池/燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化の研究開発

また、アクション・プランでは、平成23年度に特に実施すべき事項として、「文部科学省は経済産業省の施策等で生じた基礎研究への立ち返りが必要となった課題の解決に向けた先端的・革新的研究開発を実施する」こととされている。
このため、以上の内容を踏まえつつ、アクション・プランへの対応に向けた平成23年度の本事業における新規開発課題公募等については、以下の方針に基づき進めていくことが適当である。
※平成23年度は、研究成果展開事業(仮称)(先端計測分析技術・機器開発プログラム)に名称変更

1.基本的な方針

総合科学技術会議による「アクション・プランの施策パッケージの概算要求とりまとめ」等を踏まえ、「アクション・プランに掲げる、太陽光発電、蓄電池または燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化を目指した研究開発プロジェクトの成果創出に資する先端的な計測分析技術・機器開発を行い、研究開発現場での活用促進を図る」ことを目指すこと。

2.公募対象領域

異相界面※におけるパワーフロー現象解明のための計測技術
-太陽光発電、蓄電池/燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化を推進するための先端計測分析評価技術-
※物質の状態が異なる層の界面及び異物質間の界面

3.公募対象とすべき開発課題

  1. アクション・プランに掲げる太陽光発電、蓄電池または燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化を目指した優れた研究開発成果創出を図る上でのボトルネックとなっている計測分析技術・機器のうち、研究開発現場の利用ニーズに応えることが可能で、かつ、高い独創性・新規性が認められる開発課題とすること※
    ※公募要領等の中に開発課題及び開発の必要性を例示すること等により、応募者サイドに対し本件開発趣旨(狙い)が適確に伝わるよう工夫すること
     
  2. 実施にあたり、アクション・プラン実現を目指した研究開発プロジェクトとの協力・連携関係を構築できる開発課題とすること

(参考 別添1「太陽光発電、蓄電池/燃料電池の研究開発に必要とされる先端計測分析技術・機器の開発課題例一覧」) 

4.応募課題の評価・選考

応募課題の選考に当たっては、太陽光発電、蓄電池及び燃料電池関係の研究開発の現状・課題等について知見を有する専門家を評価委員に追加するなど、開発課題の評価が適切に行える体制を確保するとともに、次の1.~7.の観点を考慮した課題評価を行うこと。

  1. 開発を行う技術・機器に新規性・独創性があり、かつ、アクション・プランの施策パッケージの成果目標達成への貢献が見込まれるものであること※
  2. 太陽光発電、蓄電池または燃料電池関係の研究開発において、利用される分野、ユーザーが明確で、研究開発現場の利用ニーズに応えるものであること
  3. 研究開発現場での活用に至るまでのプロセスが明確で、本事業の支援終了後、速やかに研究開発現場での活用が期待できること
  4. 開発構想の実現に向けた科学的・技術的な見通しがあること
  5. 具体的かつ実施可能な開発計画が立案されていること
  6. 開発計画の遂行に必要な実施体制を構築できていること
  7. 知的財産権の管理体制が明確になっており、取得やライセンスの方針が適切であること

    ※ 詳細な技術レビューなど、適切な評価に必要となる情報を提案者から求めることも必要

5.本事業の既存プログラムとの関係

アクション・プランへの貢献を目指した上記の開発は、1.で示したように「研究開発プロジェクトの成果創出に資する先端的な計測分析技術・機器開発を行い、研究開発現場での活用促進を図る」ことを目指すものであることをふまえ、プロトタイプ機の完成を目指した「機器開発プログラム※」の現行の枠組みをベースとしつつ、応募条件、評価の観点など「機器開発プログラム」とは一部異なる点についても十分に留意し、公募及び課題評価を行うこと。特に、公募の際には、既存プログラムと異なる点について、提案者が理解できるよう、十分な周知を行うこと。
※平成23年度は、「機器開発タイプ」に名称変更

6.機器開発プログラム「領域特定型」で指定する領域の扱い

重点開発領域として定めている現行領域については、領域特定を継続し、我が国発のオンリーワン・ナンバーワンとなる計測分析技術・機器の創出につながる開発課題を公募により広く募集を行い、優れた開発課題の採択に引き続き務めること。
(参考 別添2「平成22年度「機器開発プログラム」重点開発領域」)

(別添1)

太陽光発電、蓄電池/燃料電池の研究開発に必要とされる先端計測分析技術・機器の開発課題例一覧※

分野名

No

開発課題例

太陽光発電

1

太陽電池のナノレベルでの表面・界面の計測分析

2

太陽電池の大面積基板上での物性計測分析

3

太陽光発電システムの分析評価

4

太陽電池の光照射場における表面・界面の動的計測分析

5

有機系太陽電池における電流・電圧特性の高速な計測分析

蓄電池

1

蓄電池における固体内反応計測分析

2

次世代蓄電池における電極界面の計測分析

燃料電池

1

燃料電池における物質・材料の3次元構造解析

2

燃料電池における触媒層の精密評価のための計測分析

3

燃料電池作動環境での触媒反応の計測分析

4

燃料電池における電極反応のリアルタイム計測分析

5

固体高分子形燃料電池における電解質の酸性度計測分析

太陽光発電分野

【開発課題例1】太陽電池のナノレベルでの表面・界面の計測分析

(概要)
太陽電池の高効率化・高信頼化確保に向け、表面・界面のナノレベルでの結晶欠陥、キャリア再結合、電気的性質等の評価のための計測分析システムを開発する。

(開発の必要性)
太陽光発電による発電コストを7円/kWh以下まで下げるため、太陽電池の高効率化、高信頼化が喫緊の課題

  • 太陽電池の高効率化、高信頼化確保のボトルネックは表面・界面やバルク内でのキャリア再結合の抑制技術開発、欠陥を終端している結合構造の安定性向上の技術開発等。中でも、高効率化への寄与が極めて大きいパッシベーション膜の開発が必要不可欠で、表面・界面での再結合を極限までゼロに近付ける膜構造の解明と、その構造を実現する製膜技術開発が必要。
    このため、これまで無かった、表面・界面での原子レベルでの欠陥評価法や組成分析法を開発することで、表面・界面でのキャリア再結合を極限まで減少させる、新しいパッシベーション膜構造を実現。また、未だ無い、キャリア寿命時間の深さ方向での分布測定技術の開発により、パッシベーション膜の性能をバルク欠陥と分離し精密評価することを可能とする。さらに、光第二次高調波測定などにより、これまで無かった、表面・界面における原子レベルでの電界強度分布の計測装置を開発し、固定電荷発生のメカニズムを解明。
    高効率化、高信頼化(光劣化や高温劣化を起こさない構造)が確保されたパッシベーション膜が実現され、変換効率25パーセント以上と理論限界近くまで向上。
     
  • 多結晶太陽電池での高効率化のボトルネックは、結晶粒の究極的な品質向上や、粒界での再結合抑制技術。多結晶太陽電池では、多結晶粒毎に結晶方位が異なり、品質も結晶粒毎に異なる。どのような方位の結晶粒を優先的に成長させればよいか解明し、それらの結晶粒を優先的に成長させる技術開発が必要。
    結晶粒ごとの結晶方位や、キャリア濃度、キャリアライフタイムなどの電気的特性などをナノレベルで評価する計測技術は未だ無く、この計測技術の開発により、多結晶太陽電池の変換効率を、単結晶太陽電池の変換効率に限りなく近づけることができ、シリコン多結晶太陽電池ならびにCu(InGa)Se2多結晶薄膜太陽電池では、変換効率が25パーセントまで向上。
     
  • 微結晶、ナノ結晶材料太陽電池での高効率化、高信頼化のボトルネックは、ナノ粒子内部や粒界での大きく異なる電気的性質。
    これまで無かった、粒界の導電率、バンドプロファイル、再結合速度などのナノレベルでの評価や、ギャップ内準位の超精密測定技術を開発。キャリア損失過程の原因となっている構造の制御を可能とし、太陽電池の高効率化、高信頼化(光劣化や高温での劣化を起こさない構造の開発)を確保することで、シリコン系ナノ結晶太陽電池では、トリプル接合構造により18パーセントを超える変換効率を達成。 

太陽光発電分野

【開発課題例2】太陽電池の大面積基板上での物性計測分析

(概要)
太陽電池の生産性向上、高効率化に向け、大面積基板上での屈折率、膜厚、結晶化率の分布等の評価を高速に行うための計測分析システムを開発する。

(開発の必要性)
薄膜太陽電池を用いた太陽光発電システムによる発電コストを7円/kWh以 下まで安くするには、大面積基板上への製造過程における歩留まり向上と、それに伴う太陽電池の生産性向上、高効率化が不可欠

  • 面積5m2にも及ぶ大面積シリコン薄膜太陽電池の製造ラインにおける、変換効率向上のボトルネックは、大面積基板上での均一性の確保。
    歩留まり向上のキーテクノロジーとして、これまで無かった、生産現場における大面積基板上での屈折率、膜厚、結晶化率の分布等、薄膜の均一性を高速で評価する計測システムを開発。
    大面積モジュールでの変換効率制限要因を解明し、98パーセント以上まで歩留まりが向上。太陽電池の生産性が一気に向上し、大面積シリコン系薄膜太陽電池の変換効率を15パーセント以上まで向上。 

太陽光発電分野

【開発課題例3】太陽光発電システムの分析評価

(概要)
太陽光発電システムの年間発電量向上に向け、太陽光発電システムの屋外環境における発電性能の評価技術の開発、ならびに運用時における故障検出等を行う分析評価システムを開発する。

(開発の必要性)
太陽光発電による発電コストを7円/kWh以下まで下げるためには、年間発電量を向上させる技術開発が喫緊の課題

  • 年間発電量向上のボトルネックは、設置地域の気象条件による年間発電量の違いや、モジュールの故障部分を瞬時に検出するシステム開発。太陽電池の材料(種類)によって、気象条件に対する性能変化が大きく異なる。また、外観では見分けられない、太陽光発電システムの一部での故障で、発電特性に大きな影響を及ぼす。
    種類の異なる複数のモジュールからなる太陽光発電システムの屋外発電性能として、1秒ごとの太陽電池出力や入力エネルギーとなる日射強度や分光放射照度分布などの気象データを精密に評価・比較する技術を実現。また、太陽光発電システムを対象とした故障検出等を行う分析評価システムを開発。
    設置地域の気象に最適な太陽電池材料、モジュール構造等に関する知見を獲得。また、モジュール交換を迅速に行うことを可能とし、システム内部での電力損失を低減。現在実用化されている太陽光発電システムと比較し、年間発電量を15パーセント以上まで向上。 

太陽光発電分野

【開発課題例4】太陽電池の光照射場における表面・界面の動的計測分析

(概要)
次世代太陽光発電システムの高効率化、長寿命化に向け、光照射場における界面構造、状態、反応メカニズムを、時間分解かつ原子・分子レベルで解析する、新しい計測分析システムを開発する

(開発の必要性)
次世代太陽光発電における発電コストを、火力発電並のコスト(7円/kWh)に下げるため、特に、色素増感太陽電池における高効率化と長寿命化、量子ドット型太陽電池における高効率化が実用課題

  • 色素増感太陽電池の高効率化のため、酸化チタン電極の表面積を大きく とらなければならず、大きな表面積の固液界面での表面・界面の構造やエネルギー状態と電子移動との関係の解明が困難であることがボトルネックとなっている。光照射下で励起電子は色素から酸化チタン電極へ注入されるが、その注入過程の解明のため、電極表面における色素の吸着配列構造と電子移動過程の同時計測が必要。
    これまで無かった、表面・界面での電極表面構造や材料のエネルギー準位、色素や量子ドットなどの増感体の吸着配列構造、エネルギー状態(吸着された色素の最高被占分子軌道、最低非占有分子軌道エネルギー)、電子励起状態(キャリア寿命)を詳細に把握し、電極、増感体そして電解液からなる表面・界面での電子移動過程を高い時間分解能で計測分析を行うシステムを開発。
    光電変換メカニズムの解明により材料最適化の指針を得て、現行の色素増感太陽電池から変換効率を15パーセントまで増加させる。
     
  • 色素増感太陽電池の長寿命化のボトルネックは、劣化メカニズムの解明。
    制御された環境場(光照射、温度、湿度など)での、固液界面での色素や添加物の離着及び吸着分子配列の変化、また、表面・界面における水分子や酸素原子の吸着脱離状態の、原子・分子レベルでの計測が必要となるが、その計測技術は未だ無い。
    この計測技術の実現により、表面・界面における吸着脱離状態と電子移動などの発電機構との関係を分析し、劣化メカニズムを解明。新たな材料開発や劣化防止技術などの指針を得て、現行の色素増感太陽電池の寿命を20年以上に伸ばす。
     
  • 量子ドット型次世代太陽電池の高効率化のボトルネックは、量子効果の観測とその効果的な利用。そのためには、光照射場での内部界面における量子ドットの構造やエネルギー状態(材料のエネルギー準位、キャリア寿命)、電位分布などを、原子・分子レベルで三次元計測する必要であるが、その計測技術は未だ無い。
    この計測技術の実現により、光閉じ込め効果やキャリア輸送最適化などの量子効果を有効利用するための指針を得て、変換効率を40パーセント以上まで向上。

太陽光発電分野

【開発課題例5】有機系太陽電池における電流・電圧特性の高速な計測分析

(概要)
色素増感太陽電池等、次世代太陽電池の生産ラインにおいて、太陽電池モジュールの電流・電圧特性を高速に計測分析するシステムを開発する。

(開発の必要性)
次世代太陽光発電における発電コストを、火力発電並のコスト(7円/kWh)に下げるため、生産ラインのスループット向上が喫緊の課題

  • 生産ラインのスループット向上のボトルネックは太陽電池セルとモジュ ールの光電変換特性の高速計測。色素増感太陽電池を代表とする有機系太陽電池の電流・電圧特性の応答速度は非常に遅いため、従来の太陽電池の測定機器では対応できない。
    これまで無かった、太陽電池モジュールの電流・電圧特性をサブ秒程度で計測・評価可能な高速計測分析システムを開発。現行計測時間を5分から約千分の一程度に短縮し、太陽電池生産の高スループット化実現。 

蓄電池分野

【開発課題例1】蓄電池における固体内反応計測分析

(概要)
リチウムイオン電池等のロッキングチェア型電池の充放電に伴う、固体内のリチウムイオン挿入・脱離反応のダイナミクスとそれに伴う副反応を計測分析する技術を開発

(開発の必要性)
自動車や電力貯蔵用途にリチウムイオン電池が広く使用されるためには、耐久性と発火しない安全性、レート特性、エネルギー密度の向上、コストの低減が喫緊の課題

  • 耐久性・安全性向上のボトルネックとなっているのは、電極活物質の表面での反応の未解明。活物質固体表面近傍のリチウムイオン量変化、遷移金属の価数変化と酸素種の安定性、表面構造変化等、固体内での計測が必要であるが、その計測技術は未だ無い。
    固体内の高い位置・時間分解能を持つ高輝度X線計測や中性子、電子線を用いて、この計測技術を実現。活物質固体内の反応等の詳細な解明を行い、蓄電池の設計を最適化するとともに作動条件の限界制御を可能とすることで、10年以上の寿命を達成。また、安全性は現在実用化されている蓄電池と比較し、2~5倍程度向上。
     
  • レート特性向上のボトルネックとなっているのは、界面反応過程と固相内の反応のダイナミクスの未解明。リチウムイオン電池のレート性能の制限要因である固体内の拡散、相変化のダイナミクス解明が必要。
    固体内の高い位置・時間分解能を持つ高輝度X線計測や中性子、電子線を用いて、これまで無かった、固体内で酸化物内の遷移金属の価数の変化をミリ秒以下の時間分解能、数十マイクロメートル以下の空間分解能で計測する技術を開発。
    自動車用途などの蓄電池に要求される出入力性能を、エネルギー密度を保ちながら、現在実用化されている小型リチウムイオン電池の2~4倍程度の2000W/kgまで向上。耐久性と安全性を確保しながら高出力、急速充電を実現。
     
  • リチウムイオン電池のエネルギー密度向上、コスト低減のボトルネックは、資源制約を受けない新しい電池活物質の材料開発。
    これまで無かった、正極活物質の遷移金属の価数変化の分布と進行を測定し、拡散と相変化をカップルさせて考察するための計測分析技術を開発。現行の構造解析技術と組み合わせた、固相内の拡散定数と構造変化速度の計測により、活物質の設計を可能とし、資源制約を受けない新しい電池活物質の材料開発を可能とする。
    これによって、汎用遷移金属に基づく安価で安全、高耐久、高エネルギー密度の正極活物質を実現することで、エネルギー密度250Wh/kg、コスト7万円/kWhまで向上。

蓄電池分野

【開発課題例2】次世代蓄電池における電極界面の計測分析

(概要)
リチウムやマグネシウム等の金属負極でのデンドライト析出のメカニズムを解明し、その抑制に貢献する計測システムを開発する。特に、電解液と電極の界面でその場測定ができ、高い空間分解能と時間分解能を持つFT-IR, Raman, XPS, MS, TEM, SPM等, 表面形状と表面の物理的・化学的性質を観察できる計測分析システムを開発

(開発の必要性)
電気自動車の一充電走行距離の飛躍的増大には、高エネルギー密度の蓄電池開発が不可欠

  • 高エネルギー密度の蓄電池開発のボトルネックは、充電時における金属
    負極でのデンドライド析出。デンドライト析出抑制には、活物質の表面物性を含めたデンドライト析出メカニズム解明が必要。
    これまで無かった、金属析出過程のモーフォロジーと界面張力、表面エネルギー、表面拡散速度、金属イオンの吸着形態、吸着状態、析出金属表面被膜、などの電解液/金属界面の物性の関係を計測分析する技術を開発。金属負極のデンドライト析出の抑制技術が開発され、次世代蓄電池の高容量負極候補であるLiやMg, Ca, AL等の金属負極を可能とする。
    デンドライト生成の測定技術は、リチウムイオン電池の界面反応の観察も可能とし、電解液添加物、電極表面被覆などの高性能化、低電位負極に必須のSEI(Solid Electrolyte Interface)を安定化。Li-Air電池等、エネルギー密度が300~700Wh/kgまで向上。 

燃料電池分野

【開発課題例1】燃料電池における物質・材料の3次元構造解析

(概要)
作動中の燃料電池内部の任意箇所に、必要個数のマイクロサイズの検出プローブ(X線、可視、紫外線等の各種電磁波用導波管、各種物質・物理量測定素子、或いは反応物、温度等に官能性の色素塗布検出素子)を挿入して、アノード、電解質、カソードにかけての深さ方向の反応や物理現象を高時間分解能(ミリ秒)・高空間分解能(マイクロメートル)で測定を行い、任意運転状況下の電池内の現象を三次元計測し可視化するシステムを開発

(開発の必要性)
燃料電池の実用化には、新規材料および最適構造開発による発電性能と耐久性の向上、コスト削減が不可欠。また、構成材料の性能・耐久性・信頼性を最大限活かす燃料電池システム運転の最適化が不可欠。

  • 発電性能と耐久性向上のボトルネックは、発電中の燃料電池で、何の反応が、どこで、どのように、なぜ進行しているか未解明なために新規材料および最適構造開発が容易に進まない点。解決には燃料電池の心臓部で厚さ数10μm以下の膜電極接合体(アノード触媒層/電解質膜/カソード触媒層)と、これを両端からはさむ厚さ200μm程度のガス拡散層の内部において、燃料・酸素・水蒸気・液体水・二酸化炭素・温度・電位などの分布を、マイクロメートルレベルの空間分解能とミリ秒レベルの時間分解能で計測する技術が必要。
    これまで無かった、この非破壊計測技術の実現により、発電中の燃料電池内での実空間・実時間での構造及び反応の解析を初めて可能とし、手探り研究から状態把握に基づく発電性能・耐久性向上研究へと大きく転換する。
     
  • コスト削減のボトルネックの一つは、触媒層における高価な白金の使用量の低減と低加湿・高温運転可能な低コスト電解質の開発。単セル構成各層の三次元構造・成分・組成の分布・挙動の把握により、触媒の有効利用が図れる各層の材料、マイクロサイズでの構造開発と、電解質内の輸送挙動や液・固水、電気抵抗の定常及び過渡現象解析による、高温・低加湿下で高い導電性、高耐久性を示す新しい炭化水素系電解質の開発が必要。
    これまで無かった、触媒層内の気・液・固水、反応物、温度、電位、電気抵抗の分布に関する定常及び過渡現象解析、特に,起動停止,負荷変動等の過渡現象時に刻々と変化する反応領域の詳細解析技術を開発することで、白金使用量を現状の1/10化。また、反応関与物質拡散挙動の抜本的改善や、燃料電池の氷点下起動の問題を解決。
    以上により、燃料電池車やエネファームの本格普及を可能とするシステムコストと耐久性の実現に大きく貢献。
     
  • 燃料電池システム運転の最適化のボトルネックは、構成材料の性能・耐久性・信頼性を最大限活かした燃料電池システム制御技術。
    このシステム実現に必要となるセル構成各層の三次元構造・成分・組成の分布・挙動等に関する三次元計測情報とシミュレーションを活用した各種運転条件下のシステム挙動のフレキシブル可視化技術を開発。
    任意条件下の電池内の現象、状態の詳細解析により、構成材料の性能・耐久性・信頼性を最大限活かす燃料電池システム運転の最適化を実現。 

燃料電池分野

【開発課題例2】燃料電池における触媒層の精密評価のための計測分析

(概要)
燃料電池の性能、寿命等の要因となる触媒層の超微少空孔体積・表面積の精密評価のための計測分析システムを開発する。

(開発の必要性)
燃料電池の実用化には、電池性能の向上が不可欠

  • 電池性能向上のボトルネックは、触媒性能の向上。触媒層内のガス拡散・プロトン輸送の向上による反応性向上が必要となる。従来のピクノメータでは、別途多量にサンプルを作成する必要があり、開発段階での多くの種類のサンプル測定が不可能。
    これまで無かった、厚さ20μm以下の触媒層におけるサブマイクロメータ、ナノメータの細孔分布、細孔体積の精密測定技術を開発。極微量の試料での、燃料電池触媒層内の物質移動に関わるサブマイクロレベルの細孔径・体積の計測・評価を可能とし、触媒層の設計・作成の指針が得られる。さらに、燃料電池の動作試験後の実際の極微少サンプル評価を可能とする。
    電池性能および応答性の向上により、実用レベルを実現している現在の燃料電池実証車やエネファームと比較して性能低下なく、これらの本格普及を可能とするシステムコスト、耐久性を実現することに大きく寄与。

燃料電池分野

【開発課題例3】燃料電池作動環境での触媒反応の計測分析

(概要)
燃料電池作動環境で、触媒における電子状態変化等の計測分析を行うシステムを開発する。

(開発の必要性)
燃料電池の実用化には、発電効率向上、低価格化、高出力化が不可欠。また、用途拡大と普及促進のため、常温で高効率に作動する低温型燃料電池開発が不可欠。

  • 発電効率向上のボトルネックとなっているのは、各要素の電圧損失であり、中でも酸素極の電圧損失が最も大きく、大幅な削減を可能とする。この削減には、酸素電極近傍のマイクロサイズでのその場の酸素濃度、水分布等の計測が必要であるが、その計測技術は未だ確立されていない。
    この技術の確立により、電極近傍でのマイクロサイズでの物質、電子の挙動が解明でき、現在実用化されている燃料電池より30パーセント以上の発電効率の向上を実現。
     
  • 低価格化のボトルネックとなっているのは、高価格の白金触媒であり、その使用低減への指針、さらには脱白金を含む新規材料開発が必要となるが、これの性能評価基準となる電極反応面積の計測技術が未だ無い。
    電極/電解質界面の電気二重層容量、水分子の状態変化などを利用して、触媒と電解質の接する界面の定量化、触媒利用率の正確な見積もりを可能とし、これにより高コストの要因である白金触媒低減への指針を得、さらには脱白金を含む新規材料を開発することで、現在実用化されている酸素極材料のコストを百分の1以下にし、燃料電池の低価格化を実現。
     
  • 高出力化のボトルネックとなっているのは、触媒層の高機能化であり、これを実現するためには反応に伴う電子移動の計測が必要となるが、この計測技術は未だ無い。
    電子の移動に伴う微弱磁場変動などの物性変動を検出し、燃料電池発電時の触媒層内の電子伝導パスの可視化により、触媒層内での触媒活性分布の測定評価を可能とする。これにより、触媒層を高機能化し、高出力化を実現。
     
  • 常温で高効率に作動する低温型燃料電池開発のボトルネックは、活性化分極による過電圧のため電極反応が遅く、電極反応を促進するために白金触媒を利用することにある。脱白金触媒を実現するには、実際に反応を起こしている反応活性点での電子状態や吸着種の計測が必要となるが、この計測技術は未だ無い。
    触媒の最表面の電子状態変化や反応中間体のin situ 観測を行うことにより、非白金(非貴金属)触媒の最表面における反応解析を進めて高活性触媒を開発。非白金触媒を用いて、常温で高効率に作動する低温型燃料電池を実現する。

燃料電池分野

【開発課題例4】燃料電池における電極反応のリアルタイム計測分析

(概要)
短時間分割を可能とする高輝度放射光により、燃料電池で進行する反応を、触媒1粒子毎で計測するシステムを開発する。

(開発の必要性)
燃料電池での理論効率達成には、触媒反応のリアルタイム計測が不可欠

  • 燃料電池での理論効率達成のボトルネックとして、酸素極反応抵抗の削減が最も大きな課題となっている。この抜本的な解決には酸素極反応の反応機構解析のため、反応中間体を含めてフェムトからピコ秒台のリアルタイムでの酸素極反応の計測が必要である。しかし、現状ではこのような短時間での中間反応種の計測技術が未だ無い。
    このような計測技術確立により、触媒反応のリアルタイムな直接観測を実現し、燃料電池触媒電極のリアルタイムな動作状況の把握を可能とする。
    触媒反応の高効率化を阻む現象の直接測定により、反応機構の詳細な解明が進み、理論起電力を発現する新規触媒の開発、燃料電池の持つ高い理論効率を実現する。 

燃料電池分野

【開発課題例5】固体高分子形燃料電池における電解質の酸性度計測分析

(概要)
固体高分子形燃料電池の電解質に使用されるイオン交換膜の酸性度を計測し、温度及び湿度の関数として評価するためのシステムを開発する。

(開発の必要性)
固体高分子形燃料電池の実用化には、耐久性向上が不可欠

  • 耐久性向上のボトルネックとなっているのは、触媒を中心とした材料劣化であり、電解質の酸性度は材料劣化や電極反応の理解のための重要な因子である。
    イオン交換膜の酸塩基について水溶液に対するpHメーターのような装置を開発することにより、電極反応、材料劣化の解析が進むが、現在ではイオン交換膜のような薄く、微少な場での酸性度測定法がない。
    この計測技術の確立により、燃料電池を含むイオン交換膜を使用する全ての分野の材料開発を加速、現在実用化されている燃料電池の10年以上の耐久性を実現。 

(別添2)

平成22年度「機器開発プログラム」重点開発領域

開発領域1

(領域名)

従来の特性を進化させた高性能レーザーを用いた計測分析システム

(概要)

中赤外光や紫外光など計測分析に有用な波長域への機能的変換や高輝度化、高繰り返し化、小型化への対応等従来のレーザーの特性を進化させ、かつ実用性が高く計測分析技術の進歩に有用な高性能レーザーを用いた新たな計測分析システムを開発する。

(区分)

【一般領域】

(期待される効果の例)

  • 物質反応過程をその場でリアルタイムに計測できる新たなシステムの実現により、次世代燃料電池、高性能リチウム電池、自動車触媒開発などへの貢献が期待される。
  • 内燃機関の高精度計測システムの実現により、低燃費・低排出ガスエンジン開発への貢献が期待される。
  • 環境物質、地球温暖化ガス、気象要素の高精度計測システムなどの実現により環境問題対策や防災対策への貢献が期待される。
  • 光を利用した脳機能モジュールの抽出と操作による高次脳機能プロセッシングの解明など、生命科学分野への貢献が期待される。
  • 高性能な次世代半導体や鉄鋼の製造に不可欠な微量元素の粒界偏析の評価分析技術からナノテクデバイスに必須となるナノ構造分析への貢献が期待される。

開発領域2

(領域名)

物質・材料の3次元構造解析及び可視化計測

(概要)

生体物質・材料、デバイス材料、素形材等の3次元構造を計測・解析し、イメージング解析等の技術を用いて、構造の可視化、または欠陥・異常部位の検出を行うシステムを開発する。

(区分)

【一般領域】【応用領域】

(期待される効果の例)

  • 生体物質・材料等の分野において、立体構造と機能との関係を解明し、新たな機能を付与した新機能生体材料の開発に貢献できる。
  • 鉄鋼材料、セラミック材料などの「ものづくり」において、スラブやインゴット等の塊状中間体の段階で異常部位を特定し、その部分を排除または無害化することにより製品歩留向上が期待される。
  • 半導体材料、デバイス材料などにおいても同様に、開発時や生産時に異常部位、異物付着等を特定することにより製品歩留向上が期待される。
  • また、ミクロ解析を併用して異常発生機構を解明し、対策を構築することで製品歩留および生産性向上が期待される。
  • さらに、解明した異常発生機構に基づき、新製品および新製造プロセスの開発促進が期待される。

※【一般領域】 主に研究現場で使われる機器に関する開発領域
  【応用領域】 主に応用現場(ものづくり現場)での将来の活用が想定される機器に関する開発領域

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