資料2 科学技術イノベーションを牽引する研究基盤戦略について(仮称)~研究開発プラットフォームによる研究開発力強化策~中間報告(案)

成24年 月 日
科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会
(研究開発プラットフォーム委員会による暫定取りまとめ)

はじめに~検討の背景

 第4期科学技術基本計画(以下、「基本計画」)が平成23年8月に策定され約1年が経過した。基本計画では、政策の位置付けを科学技術政策から科学技術イノベーション政策へと拡大するとともに、研究開発について、これまでの分野別推進から重要課題達成を標榜した取組の推進へと大きく転換した。
 研究開発活動を実施する上で、研究開発プロジェクトとそれを支える研究基盤(※1)は車の両輪である。研究開発プロジェクトについては、基本計画策定以降、総合科学技術会議を中心に、重要課題達成に向けた基礎研究からイノベーションに至るまでの推進方策が策定され、具体的取組が進められている。
 他方、研究基盤に関しては、多くは分野別の議論に基づき、あるいは個々の研究開発プロジェクトに付随して大小さまざまな施設・設備等の整備や技術開発が進められてきているのが実態である。つまり、科学技術イノベーション政策が目指す重要課題の達成という観点から、分野を越えて、我が国の研究基盤全体を俯瞰した議論は実施されてきていない。
 我が国の研究開発力は、厳しい財政状況の中にあっても、国際的に見て辛うじて高い水準を維持していると言える。しかしながら、我が国の研究開発力が国際競争力、特に産業競争力の強化に繋がっていないという認識が年々高まっているのも事実である。世界2位(※2)の強みを持つ我が国の研究基盤の力を最大化するための戦略を持つことにより、このような状況から脱却し、我が国が世界の中で競争力を更に高めていくことが、今求められている。

 このような状況を踏まえ、先端研究基盤部会及び研究開発プラットフォーム委員会では、これまで計○回にわたる審議・検討を行い、研究開発プラットフォームという新たなシステムの提案を軸とする、我が国全体の研究基盤の強化に向けての中間報告を取りまとめた。
 本報告では、国費により整備された研究基盤は「公共財」であるという考え方の下で、我が国が保有する研究基盤の力を最大化し、今後限りある投資の中で国際競争力の強化に確実に繋げていくために必要となる具体的取組の提案を行っている。
 本部会においては、今後も更なる審議・検討を行い、議論を深めていく予定としているが、本報告が示す基本的理念や取組の方向性について、まずは国、大学・独立行政法人等の研究機関、研究者などが認識を共有することが重要であると考えている。今後、関係者一丸となって本報告が示す取組が実行されることを期待したい。


※1 本報告で用いる「研究基盤」とは、研究開発活動を支える研究施設・設備、基盤技術・機器(知的基盤を含む)の総称をいう。

※2 国際経営開発研究所(IMD)「国際競争力ランキング(2012年版)」における「科学インフラ(Science Infrastructure)」のランキング。なお、総合ランキングは27位。

1.研究基盤を巡る現状と課題

(研究施設、設備に関する基本認識)

○ 我が国の研究施設・設備を個々に見ると、オンリーワン、ナンバーワンの施設・設備は数多く、卓越した研究成果が日々生み出されている。特に、本年はJ-PARC、SACLA、京(※3)と世界最先端の研究施設が次々と共用を開始しており、これらの施設が一国に整備されている状況は、研究開発活動を実施する上で極めて大きな優位性である。

○ 大学、独立行政法人等が所有する研究施設・設備は、運営費交付金、施設整備費補助金、研究開発プロジェクト遂行のための委託費、補助金など、主として国費により整備導入又は貸付けられたものである。これらの施設・設備は、科学技術政策や高等教育政策の実行に伴って年々増加している「公共財」である。

○ 一方で、大学、独立行政法人等の基盤的経費は近年減少傾向にあり、科学技術イノベーションを支える重要な研究施設・設備について、十分に利用するための運転費やスペース、人的リソース等が確保できないために最大限活用できていないとの指摘がある。


※3 京に関しては平成24年9月末の共用開始を予定している。

(研究施設・設備の効果的利用に向けた取組の進展)

○ 先端的な研究施設・設備を効果的に利用するための取組はこれまでも幾つか実施されてきている。

○ 例えば、我が国の学術研究全体への貢献のために、大学共同利用機関及び共同利用・共同研究拠点として認定された研究施設では、個々の大学では整備・維持が困難な最先端の大型装置等が全国の研究者に無償で提供されている。

○ 一方、産業界を含めた、更に幅広い利用ニーズがある研究施設・設備については、受益者負担の原則の下で共用取組を実施することにより、革新的な研究成果を創出し、我が国の産業競争力強化に向けた大きな効果が期待できる。

○ しかしながら、産業利用等の促進に向けた高度な利用者支援体制を構築することは、施設管理者や研究者にとって負担が大きく、特に、大学教員や若手研究者から見た場合、共用取組を実施することが自らのインセンティブにならないという問題点も指摘されている。

○ このため、国は、優れた研究施設・設備を安定的に運用することの重要性等から、比類なき性能を有し、産学官の広範な分野の研究者に活用されることが想定される大型研究施設について、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(※4)(以下、「共用法」)」を定め、SPring-8、J-PARC(中性子線施設)、SACLA、京の4施設を対象としている。各施設は登録機関制度による安定的な利用体制の下で広く研究者の利用に供されており、利用者は着実に拡大し、革新的な成果が生み出されてきている(※5)。

○ また、これらの4施設に続くような先端研究施設については、平成19年度から「先端研究施設共用促進事業」において産学官への共用取組に必要となる経費の時限的支援を実施しており、外部研究者による利用件数は着実に増加し、産学連携による研究開発や人材育成が進んできている。

○ 共用に積極的な施設における取組は着実に進展しているが、大学、独立行政法人等における研究施設・設備は年々新たに増加している中で、共用可能な施設・設備の割合は必ずしも高くはない。平成21年に国立大学と研究開発法人等への共用取組実施の努力義務を定めた法令が制定(※6)されているものの、研究施設・設備を外部研究者に積極的に開放していこうとする意識は未だ施設管理者や研究者の一部の意識にとどまっているとの指摘がある。

○ 受益者負担に基づく産学官への共用取組が進まない理由として、大学共同利用の枠組みと産学官への共用の枠組みがこれまで別々に整備されており、国が双方の枠組みの関係を整理し関係者に周知してこなかったためとの指摘もある。


※4 平成6年の法律制定時は「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」。平成18年の法律改正時に名称変更。

※5 SACLAは平成24年3月に共用開始されたばかりであり、また、京に関しては共用の実績はない。

※6 「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」において「研究開発法人及び国立大学法人等は、その保有する研究開発施設等及び知的基盤のうち研究者等の利用に供するものについて、可能な限り、広く研究者等の利用に供するよう努めるものとする」と規定されている。

(施設間連携、ネットワーク構築の進展)

○ 共用法対象の4施設の登録機関間、「先端研究施設共用促進事業」の実施機関間において、相互連携の取組が進んできている。例えば、4施設の登録機関では、相互連携に向けた協定が結ばれ、今後、具体的な連携取組の検討が開始される予定である。また、「先端研究施設共用促進事業」の実施機関間においては、公募審査の共同実施、利用システムの標準化、研究者の相互紹介等の取組が進んできている。

○ ナノテクノロジー分野においては、「ナノテクノロジーネットワーク」、「ナノテクノロジープラットフォーム」の実施を通じて、産学官に開かれた共用基盤プラットフォームの形成を実現している。ナノテクノロジー関連の先端研究設備を有する様々な大学、独立行政法人等がプラットフォーム形成に参画しているが、プラットフォームの利用者からの高い満足度の獲得及び産業界の技術課題の解決といった目標を達成するために、センター機関を中核とする運営、技術領域毎のプラットフォームの構築、参画機関における共用設備の運用を目的とした組織の設置促進等、我が国の研究基盤全体を俯瞰した強化策を検討していく上で参考となる取組が数多く先行実施されている。

(利用者視点に立った取組の不足)

○ 企業から見て、大学等の研究施設・設備を利用することは未だ敷居が高い印象があるとの指摘もある。近年、例えばスーパーコンピュータの利用者等を幅広く取り入れたHPCIコンソーシアムの設立をはじめ、利用者視点に立った取組は着実に拡がってきているが、多くの研究施設・設備では、アクセスのきっかけが研究者個人の人間関係に依存している傾向にあり、企業研究者が簡単に各施設・設備にアクセスできるような仕組みは必ずしも十分には構築されていない。

○ また、研究者が外部の研究機器等を利用するきっかけとして場所が近いという条件も重視されているが、利用者ニーズに合わせて研究機器等を機関間で移転するような取組は十分でない。

○ 研究施設・設備の利用システムが多種多様で共通的な考え方が明確になっておらず、特に複数の施設・設備を利用したい研究者にとっては、その度に公募申請を行う必要があるなど、手続きが煩雑になっている。

○ 大規模災害が発生した際においても、研究基盤全体が一層有効に機能し、研究開発活動に停滞を与えないための仕組みを構築する必要がある。

(国の制度への誤解に基づく共用取組の停滞)

○ 競争的研究資金等で整備した施設・設備等について有効活用が図られていないとの指摘があるが、その原因として、国の制度に対する関係者からの誤解の存在が指摘されている。

○ 具体的には、競争的研究資金等で整備された施設・設備等を産学官問わず外部研究者に共用するという取組は、法令上過度に規制がかかっているものでは無い。それにも関わらず、その基本的なルールが国等で事業を所管する担当者、あるいは、研究機関側の研究者や事務職員等に正しく認識されておらず、結果として施設・設備等の有効活用のための取組が、必要以上に規制されているのではないかとの指摘がある。

(開発者側と研究者側の取組の分離)

○ これまで、「研究基盤の開発・整備」と「研究の推進」が別々に議論され、これらの取組が一体的に推進されていないとの指摘がある。

○ 計測分析技術、光・量子技術等の先端的な開発取組が進められているが、これらの技術・機器の開発については、主として開発者側からの提案(シーズ)に基づいて進められており、近年改善が図られつつあるものの、利用者側の視点に立って「何に使うか」ということ(ニーズ)を踏まえた開発取組は必ずしも十分に実施されてきていない。

○ また、国等が実施する研究開発プロジェクト、特に重要課題の達成に向けた分野横断的な研究開発プロジェクトにおいて、数ある優れた研究施設・設備や、国等のプロジェクトで開発された研究機器等を有効に組み合わせて活用するという取組は不十分である。

(研究費の海外流出と国内ものづくり産業の危機)

○ 研究者が研究機器を調達する際に、研究者自ら又は国内企業が開発した機器ではなく、海外企業が開発した機器を整備導入する例が数多く見られている。これを要因として、計測分析等の研究機器は、ライフサイエンス分野を中心に国内メーカーの競争力の低下傾向が続いており、我が国のものづくり産業は危機に直面している。この結果、多額の国費が海外へと流出している事実がある。

(研究施設の整備に関する国家戦略の不足)

○ 学術研究を目的とし、個々の大学では整備困難な最先端の大型装置等の整備に関しては、研究者コミュニティによる議論に基づき、大学共同利用機関や大学附置研究所を中心に整備が進められている。最近では、日本学術会議が純粋な科学的視点から策定した「学術の大型施設計画・大規模研究計画マスタープラン」に掲載されている大型施設計画について、学術分科会において優先度を明らかにした「ロードマップ」を策定し、その優先順位付け等に基づいた整備が進められている。

○ 他方、国の政策的な意志決定に基づき施設整備を行う取組が近年実施されていないとの指摘がある。平成22年度に「最先端研究基盤事業」として大学、独立行政法人等への重点的な設備整備を実施する取組が実施されたが、第3期科学技術基本計画に掲げられた「国家基幹技術」のような、科学技術イノベーションに向けて産学官の広範な研究者が利用可能となる最先端の研究施設について、分野横断的な検討や優先順位付け、具体的取組は実施されていない状況にある。

(研究基盤を支える人材の不足)

○ 大学、独立行政法人等の研究機関において、研究基盤を支える技術者や研究支援者等の雇用が削減されており、施設・設備の運転や技術の高度化に必要となる人材が不足している。

○ 多くの大学、独立行政法人等において、研究基盤を支える技術者や研究支援者等のキャリアパスが準備されていない。各機関が人件費抑制を求められている中でこれらの人材が一層不安定な立場に置かれており、優れた学生が技術者や研究支援者等を目指す意識が高まらないとの指摘がある。

(研究機関における組織的な取組の不足)

○ 大学、独立行政法人等の研究機関が、自ら所有する研究施設・設備の全体像を把握できていないとの指摘がある。「先端研究施設共用促進事業」において、機関内の研究機器を集約し産学官に共用する体制構築を支援しているが、研究機器が年々増加する中で、このような取組を実施する機関の拡がりは必ずしも十分でない。

○ 大学や独立行政法人において、共用取組、産学連携のための取組を積極的に実施する教員、研究者等が、機関内で必ずしも十分な評価を得られていないとの指摘がある。

○ 大学や独立行政法人において、所有する研究基盤を用いて収入を獲得しようという意識が醸成されにくいとの指摘がある。

(調査分析とデータの不足)

○ 我が国全体として、研究基盤がどこにどれだけあるのか把握できておらず、結果として、研究開発の実施の段階で、各機関において、必要以上の研究機器が整備導入されることに繋がっているとの指摘もある。

(諸外国の参考となる取組)

○ 米国エネルギー省では、研究施設・設備の整備運用に関する方策と研究開発プロジェクトの推進方策を一体的に検討し、重要課題の達成を戦略的に目指す取組が行われている。具体的には、「未来の安定したエネルギー保障」という課題の解決に向けた戦略を立案し、それを踏まえて研究施設・設備のネットワーク化と強化を図り、これらを最大限活用した研究開発プロジェクトが実行されている。

○ 大型施設の優先順位付けの取組事例として、米国では、エネルギー省が2003年に「科学の未来を支えるための施設:20年展望」を取りまとめ28の重点施設についての優先順位を定め、その後随時改定を行っている。また英国では、英国研究会議が主体となって研究基盤ロードマップを作成し、「健康・長寿・生活の質」、「エネルギー」など6つの重要課題達成を念頭においた優先順位付けが実施されている。

(文部科学省所管の研究開発系独立行政法人の統合の動き)

○ 文部科学省所管の5つの研究開発系独立行政法人(物質・材料研究機構、防災科学技術研究所、科学技術振興機構、理化学研究所及び海洋研究開発機構)は、平成26年4月に統合し、新たな法人が設立される予定となっている。当該法人は、我が国を代表する研究機関であるとともに、国家的にも重要な研究基盤を擁する機関である。今後の我が国の研究開発力の強化、とりわけ研究基盤に関する政策を講じていく上で、当該法人が担うべき役割、機能は極めて重要である。

(現状と課題から見えてくるもの)

○ 研究基盤を巡る問題点は複雑に絡み合っており、予算を伴う施策とシステム改革を適切に組み合わせた取組を実行しなければ、研究基盤を活かした研究開発力、国際競争力の最大化を図ることは困難である。

○ これまで国において研究基盤全体を俯瞰した政策的議論と取組が実施されておらず、研究基盤全体を取り巻く真のボトルネックが解決されてこなかったことは重要な問題点である。

○ 諸外国が研究基盤に関連する戦略的な取組を実行する中で、我が国においても、分野の壁、大学と企業の壁、省庁と省庁の壁を越えた、科学技術イノベーション政策を牽引するための俯瞰的かつ一体的な研究基盤戦略の策定と実行が不可欠である。 

2.必要となる取組

 現状と課題の整理を踏まえ、我が国の研究開発力と国際競争力の強化に向けて、研究基盤が効果的に機能していくために今後特に必要となる取組は以下の5つである。

(1)産学官が共用可能な研究施設・設備の拡大

(2)研究施設・設備間のネットワーク構築による研究開発成果と利便性の向上

(3)ニーズに基づく基盤技術・機器の開発とその効果的利用

(4)大型研究施設の整備に関する国家戦略の立案

(5)研究基盤を支える人材の育成・確保

(1)産学官が共用可能な研究施設・設備の拡大

(共用の意義・効果)

○ 大学、独立行政法人等の研究機関が有する研究施設・設備を外部に開放し、複数の研究者が利用できるようにすることは、当該施設・設備の有効利用に役立つのみならず、共同研究の進展や融合領域の開拓など、新たな知の創出と人材交流に効果をもたらす。特に、若手研究者にとって魅力ある研究環境を提供する意味において、外部に開放された研究施設・設備の存在は重要となる。

○ 更に、それらの施設・設備を広く産学官の研究者等の利用に供することは、研究機関、利用者双方から見て極めて大きな意義・効果をもたらす。

○ 具体的には、共用取組を実施する施設・設備側にとっては、企業ニーズの把握、産学・産独連携による共同研究の進展、技術の蓄積と高度化、研究レベルの向上、新たな研究領域の開拓、施設・設備の認知度の拡大、社会貢献へのアピール、機関の収入増加といった効果の獲得が期待できる。また、大学が優れた施設・設備を産学官の利用に供する場合、イノベーションマインドを有する人材の養成、産業界における学生のキャリアパスの確保等にも繋げることができる。

○ 利用者側、特に企業にとっては、先端研究施設の利用機会の獲得、最新の学術研究の動向把握、新たな研究開発への着手、知的財産獲得による新製品開発と産業競争力強化への寄与といった効果の獲得が期待できる。

○ また、多くの施設・設備が空き時間なく有効利用されることで、我が国全体として研究開発投資の効率化を実現するとともに、共用、すなわち産学官連携の促進により、我が国の高い研究開発力を産業競争力の強化とイノベーションの創出に繋げていくことが可能となる。

(基本的方向性)

○ 上記の意義・効果を踏まえると、国費で整備され、幅広い研究分野・領域や産業界を含めた幅広い研究者等の利用が見込まれるような研究施設・設備については、積極的に産学官の研究者の利用に供していくべきである。

○ しかしながら、現在、先端的な研究施設・設備を有する大学、独立行政法人等における取組の実施状況は十分でなく、国は、共用取組を実施する機関への支援を抜本的に強化するとともに、研究基盤に関わる関係者がこれまで以上に共用取組を進める意欲を高めるためのシステム改革を行っていくことが必要である。

(共用取組への支援)

○ 大学、独立行政法人等の研究機関が、所有する研究施設・設備を広く産学官の共用に供するためには、外部利用体制を構築するとともに、共用に必要となる施設・設備の運転費及び人的リソースを確保すること等が必要となる。特に、企業研究者が施設・設備を利用する際には、高度利用支援体制の整備、すなわち実験方法への具体的な助言などきめ細かなサポートができる研究者・技術者の配置、作業スペースの確保、秘密保持規程の整備、迅速な手続きの実施等が求められ、このような高いニーズへの適切な対応が必要となる。

○ このため、国は、産学官への共用取組を実施する研究施設・設備に対する支援を行う必要がある。なお、その際、施設の規模や先端性に応じた適切な支援を行うことが重要となる。

○ まず、科学技術イノベーション政策にとって重要となる先端的な大規模・中規模施設については、施設の稼働率、外部共用率を最大限高めていくとともに、利用者ニーズを汲みつつ施設の先端性を維持し続けていくことが重要となる。

○ 他方、研究機関に数多く存在する比較的小規模かつ汎用性の高い研究機器については、機器を一定程度集約した外部利用体制の構築に重点を置いた支援を行うことが望ましい。集約された研究機器群が、地域における拠点となることも重要であり、必要に応じて研究機器を地域に分散させていくような取組も促進する必要がある。研究開発プロジェクト等で毎年度整備される設備・機器等を適切に入れ替えていくことで、機器群としての魅力を保つことは可能であり、将来的には国の支援に頼らない姿を目指していくことを推奨すべきである。

○ なお、共用取組の実施にあたっては、トライアルユースの充実等により、新たなユーザーの発掘・拡大に取り組んでいくことが重要となる。特に最先端研究施設においては、施設が有する機能(スペック)を最大限発揮した研究開発を行うことのできるユーザーを増やしていくことが重要となる。

○ また、大学共同利用機関及び共同利用・共同研究拠点に認定されている研究施設の中には、先端的かつ企業研究者の利用に価値を持つ施設も存在することから、これらの施設が産業界を含めた外部利用体制を構築するような場合にあっては、国は、施設の設置目的を踏まえつつ、積極的に支援していくことが望まれる。これにより、我が国の高い研究開発力を産業競争力の強化とイノベーションの創出に繋げていくことができ、異分野融合と人材交流が進展することで、学術研究の更なる発展への貢献も期待できる。

○ 企業においては、優れた研究施設・設備を成果占有枠で利用する際に、自らの利益を追求するのみならず、施設所有者、更には社会全体にとって多くのメリットが残るよう、施設所有者と密に意見交換を実施しながら取組に参画していく姿勢が求められる。

(共用を促進するためのシステム改革)

○ 「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」及び関連する文部科学省令(以下、「適化法等」)に基づくと、補助金で整備導入した研究設備等に関しては、事業実施期間中であっても本来目的に支障の無い範囲で共用取組を実施することが可能である。また、事業終了後にあっては、委託費、補助金いずれの場合であっても共用取組を実施することが可能である。

○ しかしながら、国等の研究開発プロジェクト(競争的研究資金を含む)の多くは、目的外使用を制限する観点から、当該経費で整備された施設・設備等の利用方法に過度に制限を設ける事例が多い。また、適化法等が掲げる基本的原則を、大学、独立行政法人等の研究者や事務職員等が正しく認識しておらず、例えば、事業終了後の有効利用でさえ躊躇しているなどの事例も報告されている。

○ このため、まずは適化法等が掲げる基本的原則を、全ての関係者が正しく認識することが重要となる。特に、国等の事業実施担当者は、必要以上に効果的利用に対する制限を設けている場合は、速やかに経費利用のルール変更を行うことが求められる。

○ 加えて、今後整備される研究施設・設備等を有効利用するためには、公募型研究費の事業目的に「施設・設備等の有効利用」を入れることで、委託費、補助金のいずれであっても研究期間中から当該研究費で整備導入した施設・設備等に関する共用取組を研究実施者の判断で行うことが可能となる。このため、国等は、公募型研究費への当該規定の導入を積極的に進めていくことが求められる。また、全ての公募型研究費において、現在科学研究費助成事業で取り入れられているような、共用可能な研究設備等を整備導入する際の経費の合算使用を可能とする改革を進めていくべきである。

○ なお、各機関が共用取組を実施する際、利用料収入を当該年度の活動に充てることは可能であるが、利用料収入を更に効果的に活用できるための方策、利用料収入を獲得することのインセンティブを高める方策について、国は、今後更なる検討を進めていくことが望まれる。

○ また、大学や独立行政法人における共用取組が一層進展するよう、各機関において、例えば、機関全体の研究施設・設備等に関する情報の一元的把握、共用取組を専門に担う組織の整備、論文のみに依存しない研究者等の評価システムの導入等の取組が一層進むことが望まれ、国は、このような取組を促進していくことが求められる。

(国等の研究開発プロジェクトにおける利用促進)

○ 大学、独立行政法人等が共用する研究施設・設備等を、国等の研究開発プロジェクト(競争的研究資金を含む)において効果的に利用可能となる仕組みを積極的に導入していくべきである。特に、重要課題の達成に向けた分野横断的な研究開発プロジェクトに関しては、一層の仕組みの強化が必要となる。これにより、研究開発プロジェクトの加速・発展に繋げることが可能となり、研究施設・設備側にとっても高水準の研究成果の獲得が可能になると思われる。加えて、研究開発プロジェクトにおいて過剰な研究機器等の整備導入を抑制する効果も期待できる。

(2)研究施設・設備間のネットワーク構築による研究開発成果と利便性の向上

(ネットワーク構築の意義・効果)

○ 施設・設備の利用満足度を高めていくには、利用者が、可能な限り多くの選択肢の中から、最もニーズに適した施設・設備を利用できるようになることが重要である。特に今後は、重要課題達成を目指した分野横断的な研究開発プロジェクトの拡大により、複数施設を利用した研究開発実施へのニーズの増加が見込まれることからも、施設間連携を促していくことは極めて重要である。なお、複数施設の効果的利用により、異分野融合や人材交流、新たな科学的知見の獲得といった効果が期待できる。

○ 共用取組を実施する研究施設・設備の側にとっても、他の施設等とネットワークを構築することで、有益な情報共有と意見交換が可能になるとともに、外部機関との効果的な連携、情報発信、異分野融合、人材交流といった効果の獲得が期待できる。また、利用システムの共通化、利用者の共同開拓など、共用取組のマネジメントの最適化を図ることも可能となる。

○ 加えて、大規模災害が発生した際に、研究基盤全体が有効に機能し、研究開発活動に停滞を与えないセーフティネット構築、リスク分散の観点からも施設・設備間のネットワークを構築する意義・効果は高い。

(基本的方向性)

○ 共用取組を実施する研究施設・設備は、積極的に他の施設・設備とのネットワーク構築を行い、適切な形態の共用基盤プラットフォームを形成していくべきである。

○ 加えて、我が国の研究施設・設備全体を俯瞰したネットワーク構築も重要となる。

(最先端の大型施設間の連携)

○ 先端研究施設・設備を複数利用する研究を実施することで、革新的成果の創出が期待できることから、これらの施設・設備間の連携、特に共用法対象の4施設間の連携取組を一層進めていくべきである。国は、4施設の施設間連携のために必要となる基盤整備や、複数施設を利用した研究開発の取組を着実に実施していくことが求められる。

(共用基盤プラットフォームの構築)

○ 各共用施設・設備がネットワーク構築によりプラットフォームを形成する際には、その目的は「技術先導型」「課題達成型」「地域連携型」の3つに分類できる。

○ 「技術先導型プラットフォーム」は、「京」を中核とするHPCIのように、明確な施設利用ニーズに基づき、最先端技術を中核とした同一技術領域の施設・設備群の提供を目的とするものである。技術先導型のプラットフォームの構築により、最先端の技術開発の動向を踏まえた上での研究開発や人材育成が可能となる。

○ 「課題達成型プラットフォーム」は、創薬や新材料開発といった達成すべき重要課題に基づき、必要となる施設・設備群の提供を目的とするものである。課題達成型のプラットフォームの構築により、重要課題達成の加速化が期待できるとともに、融合分野における人材育成が可能となる。なお、重要課題達成を目指した研究開発プロジェクトとの連携を図っていくことも不可欠である。

○ 「地域連携型プラットフォーム」は、一定地域内の多種多様な汎用型の研究機器に関するネットワークを構築し、適切に地元大学や地元企業等のニーズを汲み取り、当該地域の研究者の利用に供していくことを目的とするものである。

○ 各プラットフォームにおいては、利用システムの標準化、プラットフォーム内での人材流動等を積極的に図っていくことが求められる。加えて、プラットフォームの取りまとめ機関を位置付ける等の工夫により、企業ニーズの把握やコーディネーターの配備、外部機関や社会との連携等を効果的に進めていくことが望ましい。

○ 共用取組を実施する研究施設・設備においては、このようなプラットフォーム構築に向けた取組を積極的に進めていくことが求められ、国はこれを促進していくべきである。

(全体ネットワークの構築)

○ 共用取組を実施する施設・設備全体による包括的なネットワークを構築することも重要である。国の事業単位での、事業参画機関によるネットワーク作りは着実に進んできてはいるが、今後、事業単位、あるいは上記の個別の共通基盤プラットフォームの枠を越えた、全体を俯瞰したネットワーク構築を進めていくことにより、一層効果的な機能の発揮が可能になると思われる。

○ その際、研究者に対する施設・設備利用のワンストップサービスの窓口となり、国内外への情報発信・広報活動を一元的に担えるような機関の整備も重要となる。

○ 国は、我が国全体として、共用施設・設備のネットワーク作りを促進していくとともに、全体ネットワークの中核的機関整備に向けた検討を進めていくことが求められる。

(3)ニーズに基づく基盤技術・機器の開発とその効果的利用

(ユーザーとメーカーの連携)

○ 我が国の研究開発投資効果を向上させるためには、研究側(ユーザー)と技術・機器開発側(メーカー)の連携を促進させることが極めて重要である。

○ このため、基盤技術・機器の開発を実施する際には、「何に使うか」というユーザー視点に立ったターゲット志向型の取組を一層重視していくことが求められる。また、開発された基盤技術・機器が、国等の研究開発プロジェクトにおいて積極的に利用されるよう、ターゲットを設定する際にはユーザー側の意見を積極的に取り入れ、また、技術・機器の開発段階からユーザーが積極的に関与していくようなシステムの構築が求められる。

(ものづくり産業の復権)

○ 我が国の「研究基盤の強み」を維持・強化していくためには、ユーザーや先端的な研究施設等からの技術的要求を踏まえつつ、革新的な技術・機器を持続的に生み出していくことが重要であり、国は、先端的な共通基盤技術・機器の開発と実用化を推進していく必要がある。

○ 国のプロジェクト等で開発された国産の研究機器等が、我が国の研究開発において積極的に利用され、その結果、日本企業の産業競争力の強化と研究開発投資の効率化等に繋げることのできる新たな調達システムを、国は今後検討していくことが望まれる。

(4)大型研究施設の整備に関する国家戦略の立案

○ 我が国が科学技術を国家戦略の柱として推進していく以上、今後も最先端の技術開発と基盤整備を持続的に進め、世界に先駆けて新たな科学的知見を獲得し重要課題の達成に導いていく、国際的な頭脳循環の拠点として大型研究施設を強化し続けていく、といった国としての強い意志を持ち続けるべきである。

○ 国として重要となる最先端の大型研究施設については、既設施設が最大限の機能を発揮するために、計画的な高度化を進めていく必要がある。加えて、最先端の研究施設については、計画的なライフサイクルモデル構築に向けた検討を進めていくことも求められる。

○ また、今後、先端研究基盤部会においては、研究計画・評価分科会等とも連携し、学術分科会において策定された「ロードマップ」を活用しながら、科学技術イノベーションに向けて産学官の広範な研究者が利用可能となる、今後戦略的に整備すべき大型研究施設の検討に着手していくことが必要である。検討の際には、国内外の研究基盤の整備利用状況を俯瞰した上で、社会・国民に対して新たな大型研究施設の技術的価値、利用価値等をエビデンスとともに明確に提示することが望まれる。

(5)研究基盤を支える人材の育成・確保

○ 研究基盤を支える人材として、施設・設備の利用者を支援する技術者及び研究支援者、高い研究力を有し産業界等の活動にも精通したコーディネーター、研究基盤を生み出す研究者等、様々な人材の不足が指摘されており、必要な解決策を明示していく必要がある。

○ 技術者及び研究支援者を育成・確保するためには、短期的には個々の研究施設・設備において雇用を確保していくことが重要となるが、中長期的には、例えば、大学、独立行政法人等において、これらの人材に適切な「職階」を用意し、安定的な雇用と適切な評価の下で人材育成を行っていくような取組が重要となる。国は、このような取組を促進していくことが求められる。

○ 優れたコーディネーターを育成・確保するためには、技術者、研究支援者の育成に加えて、例えば、優れた研究実績を有するシニアな研究者・教員の共用取組への参画を促進すること、大学等の研究機関において関連する大学・大学院教育、職員の再教育、企業研究者の教育を促進すること等が望まれる。国は、このような取組を促進していくことが求められる。

○ また、若手研究者が最先端の研究施設・設備に触れる機会を増やすことも重要であり、例えば、若手向け研究費において、最先端の研究施設・設備の利用を促進する仕組みを構築するなど、新たな取組の検討を進めていくことが望まれる。

○ 今後、先端研究基盤部会においては、人材委員会、研究計画・評価分科会等とも連携し、研究基盤を支える人材のキャリアパスに関する検討を実施していくことが必要である。

3.研究開発プラットフォームの構築

 ここでは、「研究開発プラットフォーム」という、我が国の研究基盤全体を俯瞰し、これまでに提言した様々な具体的取組について効果的に実施・実現することが可能となるシステムの提案を行う。

(研究開発プラットフォームの定義)

○ 研究開発プラットフォームについて、「科学技術イノベーションを支える多様な研究基盤を俯瞰的、包括的に捉えた上で必要な取組を行うことにより、全体としての効果、効率を上げるとともに、新たな価値を生み出すシステム」と定義する。

(研究開発プラットフォームの構成要素)

○ 研究開発プラットフォームの構成要素には、以下が含まれる。

  1. 産学官に開かれた高度利用支援体制を有する先端研究施設・設備(先端性を有し、幅広い研究分野・領域や産業界を含めた幅広い研究者等の利用が見込まれるもの)
  2. 研究開発プラットフォームを機能させるために必要となる取組を行う中核的機関

○ 複数の研究施設・設備から形成された共用基盤プラットフォーム(サブプラットフォーム)が主な活動単位となり、それを俯瞰した全体ネットワークを構築する。

○ 研究開発に共通的に必要となる研究材料やデータベース、更にはビッグデータ等のソフトインフラについても、一つのサブプラットフォームとして、研究開発プラットフォームの構成要素に位置付けていく。

(中核的機関の整備)

○ 研究開発プラットフォームの重要な構成要素の一つである中核的機関に求められる役割は以下の通りである。

  • 研究基盤に関する国内外の調査分析(我が国の研究基盤に関する詳細データの   把握、次に必要となる大型研究施設の検討に必要となるエビデンスの収集等)
  • 利用者に対する総合案内(初めての利用者への適切な施設の紹介、研究課題に合わせた複数施設の効果的利用をアドバイスするコーディネート機能の充実、優れたコーディネーターの配備等)
  • 国内外への情報発信の充実
  • 研究開発プロジェクト、研究施設・設備、共通基盤技術開発の連携の取組の実施(関係者が意見交換を行う場の提供と充実、具体的な連携システムの構築等)
  • 研究基盤を支える人材の育成・確保に向けた取組
  • 利用システム(公募、課金、成果取扱等)標準化や災害等に伴うリスク分散に関する基本的考え方の提示

○ 平成26年4月に統合し新たに設立される法人は、国家的に重要な研究基盤を擁する機関であると同時に、研究開発プロジェクトを実施する機関でもある。このため、当該法人発足時に、研究開発プラットフォームの中核的機関としての機能を新たに備えることが適当である。

(研究開発プラットフォームの効果)

○ 中核的機関を中心とする全体ネットワーク、目的別のサブプラットフォーム、個々の共用施設・設備といった単位で必要な具体的取組を実行することにより、我が国が保有する研究基盤の力の最大化と国際競争力の強化に繋げることが可能となる。

○ 「研究開発プラットフォーム」というシステムの構築を通じて、我が国の研究基盤戦略の「あるべき姿」を明確化することで、科学技術イノベーション政策における研究基盤に関する取組が目指すべき方向性について、全ての関係者の間で共通認識が図られていくことが重要である。

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研究振興局基盤研究課