資料2-2 第4期科学技術基本計画策定に向けた総合科学技術会議答申見直し案(パブリックコメント募集文書)における重要課題達成のための施策

2.将来にわたる持続的な成長と社会の発展の実現

2.震災からの復興、再生の実現

(2)重要課題達成のための施策の推進

1)被災地の産業の復興、再生

 東日本大震災により、東北、関東地方の沿岸域を中心として、広範囲にわたり、地場産業である農林水産業等の第一次産業が甚大な被害を受けた。これを踏まえ、これら産業の復興、再生、さらには成長の実現に向けて、【1】汚染された土壌や水質等の調査及び改善改良、海洋生態系の回復、生産性の向上、農林水産物の安全性の向上等に関する研究開発を推進するとともに、その利活用を促進する。
 また、被害地域は、先端材料や部品等の生産と研究開発の拠点として、我が国のみならず、世界的なサプライチェーンの中で重要な役割を担っており、その被害を踏まえ、サプライチェーンの再建が、国内的にも国際的にも急速に進みつつある。これに鑑み、【2】先端材料、部品等の拠点の再構築に向けて、その高品質化、生産設備、機器等の再生と高度化、安定的な供給体制の構築に資する研究開発等の取組を推進する。
 さらに、新しい産業の創成と雇用の創出に向けて、被災地域を中心に、【3】再生可能エネルギーや医療・介護、情報通信技術等の領域における研究開発等の取組を促進する。

2)社会インフラの復旧、再生

 被災地域では、地震と津波、さらには液状化等によって、多くの建築構造物等が倒壊あるいは流出し、社会インフラが寸断され、甚大な被害が発生した。これを踏まえ、家屋やビル、公園等の修繕や修復、港湾、空港、鉄道、橋梁、道路等の【4】交通インフラ、さらに、電気、ガス、上下水道、情報通信等の生活インフラの復旧、再生とその機能性、利便性、安全性の向上等に資する研究開発等の取組を進める。
 また、【5】公共施設等の防災機能の強化、民間も含めたネットワークの強化に向けた研究開発等の取組を進める。

3)被災地における安全な生活の実現

 東日本では、東北地方太平洋沖地震の後も、余震活動が継続している。また、こうした大震災は他の地域でもおこり得る。これに鑑み、【6】地震、津波等の調査観測等を充実、強化するとともに、二次災害防止のため、地方公共団体と連携しつつ、被災地における【7】防災、減災対策に関する取組を強化する。
 また、福島第一原子力発電所の事故を受け、【8】周辺地域における放射線モニタリングを強化すると共に、こうした情報を国内外に正確かつ迅速に発信する。さらに、国際協力も得て【9】汚染された土壌、水等の除染、放射性廃棄物の処理、処分等に関する取組を推進する。
 被災地域における感染症の拡大、地震や津波の恐怖、長時間の避難生活等による心身の疲労や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、福島第一原子力発電所の事故に関連した懸念など、人々の健康不安を解消し、精神的な安定を確保するため、【10】被災地の人々を対象とする長期間の健康調査と分析、心理学や精神医学等に基づく診断、治療、研究等を強化する。

3.グリーンイノベーションの推進

(2)重要課題達成のための施策の推進

1)安定的なエネルギー供給と低炭素化の実現

 我が国全体のエネルギー供給の安定性、経済性、持続可能性と整合的な形で、再生可能エネルギーの普及の大幅な拡大に向けた革新技術の研究開発、分散エネルギーシステムの革新を目指した研究開発等の取組を促進する。
 【1】太陽光発電、バイオマス利用、風力発電、小水力発電、地熱発電、潮力・波力発電等の再生可能エネルギー技術の研究開発については、これまでの技術を飛躍的に向上させるとともに、新たなブレークスルーとなる革新的技術の獲得を目指した戦略的な取組を推進する。さらに、これらの技術の温室効果ガス排出削減ポテンシャルを最大限に活かし、それぞれの特徴や地域の特性に応じて、海外展開を図る。
 また、【2】分散エネルギーシステムの革新を目指し、燃料電池や蓄電池等のエネルギーの創出、蓄積システム、製造・輸送・貯蔵にわたる水素供給システム、超電導送電の研究開発、さらに基幹エネルギーと分散エネルギーの両供給システム及びエネルギー需要システムを総合的に最適制御するスマートグリッド等のエネルギーマネジメントに関する研究開発や自律分散エネルギーシステムの研究開発を促進し、これらの海外展開を図る。
 さらに、基幹エネルギー供給源の効率化と低炭素化に向けて、【3】火力発電の高効率化、高効率石油精製に加え、石炭ガス化複合発電等と二酸化炭素の回収及び貯留を組み合わせたゼロエミッション火力発電の実現に向けた研究開発等の取組を推進する。原子力に関する研究開発等については、福島第一原子力発電所の事故の検証を踏まえ、今後の我が国のエネルギー政策や原子力政策の方向性を見据えつつ実施する。また、【4】原子力に係る安全及び防災研究、放射線モニタリング、放射性廃棄物や汚染水の除染や処理、処分等に関する研究開発等の取組を進める。

2)エネルギー利用の高効率化及びスマート化

 製鉄部門における化石資源の一層の効率的利用を図るため、【5】製鉄等における革新的な製造プロセスや、ここで用いられる材料の高機能化、グリーンサスティナブルケミストリー、バイオリファイナリー、革新的触媒技術に関する研究開発を推進する。
 我が国の最終エネルギー消費の約半分を占める民生(家庭、業務)、運輸部門の一層の低炭素化、省エネルギー化に向けて、【6】住宅及び建設物の高断熱化、高効率家電及び照明、高効率給湯器(コジェネレーション、次世代型ヒートポンプシステム)、定置用燃料電池、パワー半導体、ナノカーボン材料等の技術に関する研究開発、普及に関する取組を推進する。また、【7】次世代自動車に用いられる蓄電池、燃料電池、パワーエレクトロニクスによる電力制御等のエネルギー利用の革新を目指した研究開発、普及に関する取組を推進する。さらに、【8】高効率輸送機器(次世代自動車、鉄道、船舶、航空機)やモーダルシフト等の物流効率化に関する研究開発、導入を推進する。
 また、情報通信技術は、エネルギーの供給、利用や社会インフラの革新を進める上で不可欠な基盤的技術であり、【9】次世代の情報通信ネットワークに関する研究開発、【10】情報通信機器やシステム構成機器の一層の省エネルギー化、ネットワークシステム全体の最適制御に関する技術開発を進める。

3)社会インフラのグリーン化

 環境先進都市の構築に向けて、【11】高高率な交通及び輸送システムの構築に向けた研究開発を推進する。また、これまで人が通信主体であったネットワークに生活の中のすべての電力で作動する人工物が通信主体として接続し、電力、ガス、水道、交通等の社会インフラと一体となった【12】巨大ネットワークシステムに関する研究開発を推進する。さらに、【13】高度水処理技術を含む総合水資源管理システムの構築に向けた研究開発等を、実証実験も含めて推進する。同時に、これらの普及、拡大に向けて、統合システムとしての海外展開を推進する。
 また、【14】資源再生技術の革新、レアメタル、レアアース等の代替材料の創出に向けた取組を推進する。
 さらに、【15】地球観測、予測、統合解析により得られる情報は、グリーンイノベーションを推進する上で重要な社会的・公共的インフラであり、これらに関する技術を飛躍的に強化するとともに、地球観測等から得られる情報の多様な領域における活用を促進する。これらも含め、気候変動や大規模自然災害に対応した、都市や地域の形成、自然環境や生物多様性の保全、森林等における自然循環の維持、自然災害の軽減、持続可能な循環型食料生産の実現等に向けた取組を進める。

4.ライフイノベーションの推進

(2)重要課題達成のための施策の推進

1)革新的な予防法の開発

 国民の健康状態を長期間追跡し、食などの生活習慣や生活環境の影響を調査するとともに、臨床データ、メタボローム、ゲノム配列の解析等のコホート研究を推進し、生活習慣病等の発症と進行の仕組みを解明することで、【1】客観的根拠(エビデンス)に基づいた予防法の開発を進める。さらに、【2】疾患の予兆を発見し、先制介入治療(先制医療)による予防法の確立を目指す。東日本大震災を受けて、【3】被災地の人々を中心に長期間の健康調査を行い、疾病等の予防法開発に活用する。また、大規模疫学研究の推進のために、【4】医療情報の電子化、標準化、データベース化等の基盤整備を推進するとともに、個人情報保護に配慮しつつ、これらの情報の有効利用、活用を促進する。
 【5】社会的影響の大きい感染症や、自然災害の発生時等に急速に影響が拡大する感染症等を対象として、予防効果の高いワクチンの研究開発を推進するとともに、これらの国内外への普及、展開を促進する。
 さらに、認知症等による社会的、経済的な損失や負担の大きさを踏まえ、積極介入研究を推進することにより、【6】認知症等の発症防止や、早期診断、進行の遅延技術等の研究開発を推進する。

2)新しい早期診断法の開発

 国民の健康を守るためには、疾患の早期発見につながる診断手法の開発が重要であることから、【7】早期診断に資する微量物質の同定技術等の新たな検出法と検出機器の開発、新たなマーカーの探索や同定など、制度の高い早期診断技術の開発を推進する。
 また、【8】より小型で侵襲が少ない高性能の内視鏡等の肉眼視技術・機器の開発、3次元映像法などの早期診断に視する新たなイメージング技術の開発を推進する。
 さらに、これらを有機的に統合し、早期診断の新技術開発を促進する。

3)安全で有効性の高い治療の実現

 新薬の開発においては、【9】動物疾患モデルやiPS細胞による疾患細胞等を駆使して疾患や治療のメカニズムを解明し、新規創薬ターゲットの探索を行う必要があり、そのために生命科学の基礎的な研究を充実、強化する。
 また、【10】核酸医薬、ドラッグデリバリーシステム等の革新的な治療方法の確立を目指した研究開発を推進する。治療の質と安全性と有効性の向上に向けて、疾患の層別化、階層化等に基づく創薬を推進し、【11】国民の遺伝背景に基づいた副作用の少ない医薬品の投与法の開発を進める。
 【12】放射線治療機器、ロボット手術機器等の新しい治療機器の開発、内視鏡と治療薬の融合など診断と治療を融合させる薬剤や機器の開発、さらに【13】遠隔診断、遠隔治療技術の開発、それを支援する画像情報処理技術の開発を進める。
 疾患の治療や失われた機能の補助、再生につながる【14】再生医療に関しては、iPS細胞、ES細胞、体性幹細胞等の体内及び体外での細胞増殖・分化技術を開発するとともに、その標準化と利用技術の開発、安全性評価技術に関する研究開発を推進する。また、【15】生命動態システム科学研究を推進する。

4)高齢者、障害者、患者の生活の質(QOL)の向上

 高齢者や障害者のQOLの向上や介護者の負担軽減を図るため、生活支援ロボットやブレインマシンインターフェース(BMI)機器、高齢者用のパーソナルモビリティなど、【16】高齢者や障害者の身体機能を代償する技術、自立支援や生活支援を行う技術、高度なコミュニケーション支援に関する技術、さらには介護者を支援する技術に関して、安全性評価手法の確立も含めた研究開発を推進する。
 また、【17】がん患者や高齢者の終末期における精神的、肉体的苦痛を取り除く緩和医療に関する研究を推進する。

3.我が国が直面する重要課題への対応

2.重要課題達成のための施策の推進

(1)安全、かつ豊かで質の高い国民生活の実現

1)生活の安全性と利便性の向上

 自然災害をはじめとする様々な災害等から、人々の生活の安全を守るため、地震、火山、津波、高波・高潮、風水害、土砂災害等に関する調査観測や【1】予測、防災、減災に関する研究開発を推進する。特に、東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえ、震災前に想定していた内容を検証した上で、【2】将来、発生が予想される海溝型巨大地震とそれに伴う津波等に関する調査観測等の充実、強化を図る。同時に、これらの成果を積極的に活用し、国や地方公共団体における防災マップの作成等を通じた防災体制の強化、災害発生の際の迅速な被害状況の把握及び情報伝達、リスク管理も含めた【3】災害対応能力の強化に向けた研究開発等の取組を促進する。さらに、【4】火災や重大事故、犯罪への対策に関する研究開発を推進し、国や自治体等における対策等の取組を促進する。
 また、人の健康保護や生態系の保全に向けて、【5】大気、水、土壌における環境汚染物質の有害性やリスクの評価、その管理及び対策に関する研究を推進する。
 さらに、安全性の向上と、利便性及び快適性の向上の両立に向けて、【6】交通・輸送システムの高度化及び安全性評価に関する研究開発、【7】老朽化対応のための住宅・社会資本ストックの高度化、長寿命化に関する研究開発を推進する。

2)食料、水、資源、エネルギーの安定的確保

 我が国の食料自給率の向上や食品の安全性向上、水の安定的確保に向けて、【8】安全で高品質な食料や食品の生産、流通及び消費、さらに食料や水の安定確保に関する研究開発を、遺伝子組換え生物(GMO)等の先端技術の活用や産業的な観点も取り入れつつ、推進する。
 また、【9】新たな資源の獲得に向けた探査や技術開発、その効率的、循環的な利用、廃棄物の抑制や適正管理、再利用に関する研究開発を推進するとともに、成果の普及、展開を促進する。
 さらに、エネルギーに関する安全保障の観点から、2.2.(2)で掲げた方針に基づき、我が国のエネルギー政策の方向性を見据えつつ、【10】再生可能エネルギーの大幅な普及の拡大に向けた取組を促進するとともに、新たなエネルギー源の獲得に向けた研究開発等の取組を推進する。

3)国民生活の豊かさの向上

 人々の生活における真の豊かさの実現に向けて、最新の情報通信技術等の科学技術を活用した教育、福祉、医療・介護、行政、観光など、公共、民間のサービスの改善・充実、人々のつながりの充実・深化など、科学技術による生活の質と豊かさの向上に資する取組を推進する。
 また、人々の感性や心の豊かさの増進に資するため、人文社会科学と自然科学の融合の観点も含め、新たな文化の創造や、【11】我が国が誇るデザイン、コンテンツの潜在力向上につながる研究開発を行うとともに、その国民生活への還元と海外展開に関する取組を推進する。

(2)我が国の産業競争力の強化

1)産業競争力の強化に向けた共通基盤の強化

 付加価値率や市場占有率が高く、今後の成長が見込まれ、【1】我が国が国際競争力のある技術を数多く有している先端材料や部材の開発及び活用に必要な基盤技術、高機能電子デバイスや情報通信の利用、活用を支える基盤技術など、革新的な共通基盤技術に関する研究開発を推進するとともに、これらの技術の適切なオープン化戦略を促進する。
 また、多様な市場のニーズに対応できるよう、【2】計測分析技術や精密加工技術、組込みシステム開発技術の高度化、要素技術の統合化、性能や安全性に関する評価手法の確立、さらには材料、部材、装置等のハードとソフトの連携に関する研究開発を促進し、新たなものづくり技術の共通基盤を構築する。

2)我が国の強みを活かした新たな産業基盤の創出

 機械や自動車、電機等の最終製品の国際競争が激化する中、新たな付加価値の創出に向けて、【3】次世代交通システム、スマートグリッド等の統合的システムの構築や、保守、運用までも含めた一体的なサービスの提供に向けた研究開発を、実証実験や国際標準化とあわせて推進するとともに、これらの海外展開を促進する。
 また、【4】我が国のサービス産業の生産性の向上に向けて、科学技術を有効に活用するための研究開発等の取組を推進する。さらに、新産業の創出とともに、経済社会システム全体の効率化を目指し、【5】次世代の情報通信ネットワークの構築、信頼性の高いクラウドコンピューティングの実現に向けた情報通信技術に関する研究開発を推進し、これらの幅広い領域での利用、活用を促進する。

(3)地球規模の問題解決への貢献

1)地球規模問題への対応促進

 大規模な気候変動等に関して、国際協調と協力の下、【1】全球での観測や予測、影響評価を推進するとともに、これに伴い発生する大規模な自然災害等の対策に関する研究開発を推進する。生物多様性の保全に向けて、【2】生態系に関する調査や観測、外的要因による影響評価、その保全、再生に関する研究開発を推進する。
 また、資源やエネルギーの安定供給に向けて、【3】新たな資源、エネルギーの探査や循環的な利用、代替資源の創出に関する研究開発を推進する。
 さらに、【4】新興・再興感染症に関する病原体の把握、予防、診断、治療に関する研究開発を推進する。
 これらの研究開発の推進とあわせて、得られた成果の国内外への普及と展開を促進するとともに、課題への対応に向けた国際社会の合意形成を先導する。

(4)国家存立の基盤の保持

1)国家安全保障・基幹技術の強化

 【1】有用資源の開発や確保に向けた海洋探査及び開発技術、【2】情報収集や通信をはじめ国の安全保障や安全な国民生活の実現等にもつながる宇宙輸送や衛星開発及び利用に関する技術、【3】地震や津波等の早期検知に向けた陸域、海域における稠密観測、監視、災害情報伝達に関する技術、【4】独自のエネルギー源確保のための新たなエネルギーに関する技術、【5】世界最高水準のハイパフォーマンスコンピューティング技術、地理空間情報に関する技術、さらに【6】能動的で信頼性の高い(ディペンダブルな)情報セキュリティに関する技術の研究開発を推進する。
 また、【7】原子力に係る安全、防災に関する技術、核不拡散及び核セキュリティに関する技術等の研究開発を大幅に強化するとともに、高速増殖炉サイクルや核融合等の原子力に関する技術の研究開発については、我が国のエネルギー政策や原子力政策の方向性を見据えつつ実施する。
 さらに、海洋、宇宙、情報(サイバー)、原子力に関する技術など、極めて高度、かつ複雑な技術システムに【8】事故あるいはトラブルが発生した場合の国としての対応や、人々の生活の安全に資する研究開発等を促進する。

2)新フロンティア開拓のための科学技術基盤の構築

 物質、生命、海洋、地球、宇宙それぞれに関する統合的な理解、解明など、【9】新たな知のフロンティアの開拓に向けた科学技術基盤を構築するため、理論研究や実験研究、調査観測、解析等の研究開発を推進する。

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研究振興局基盤研究課