産業連携・地域支援部会 イノベーション創出機能強化作業部会(第4回) 議事録

1.日時

平成25年8月26日(月曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省 東館 15F1会議室

3.議題

  1. 大学等発のイノベーション創出機能の強化について
  2. その他

4.議事録

【馬場主査】  それでは、大体定刻になりましたので、ただいまから科学技術・学術審議会産業連携・地域支援部会のイノベーション創出機能強化作業部会の第4回を開催させていただきます。
 前回までに、コーディネーターやURAの機能の在り方、その組織あるいは体制構築の方向性、そしてそれに関わる人材の教育・研修等について御審議を頂いたところでございます。本日は、前半ではこれまでの議論を踏まえながら、産学連携活動の情報発信及び研究成果の社会への提示方法について審議を行います。後半では、本作業部会の報告書の骨子案について審議をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いをいたします。
 それでは最初に、事務局の方から配付資料の確認をお願いいたします。
【鷲崎大学技術移転推進室専門官】  では、資料の確認をさせていただきます。
 資料1といたしまして、「横浜国立大学のプロトタイピング推進事業について」というところで、村富先生より資料を頂いてございます。
 続きまして資料2といたしまして、「多摩美ハッカースペースからFabLabへ」ということで、久保田先生から資料を頂いてございます。
 続きまして資料3でございます。こちら報告書の骨子(案)という形でございます。「イノベーション創出機能強化作業部会取りまとめ骨子」というA4の資料でございます。
 続きまして資料4でございます。イノベーション創出機能強化作業部会の予定ということで、今後の予定を書かせていただいてございます。
 残り、参考資料1から6までございまして、取りまとめ骨子の参考資料でございます。一つ一つ御説明は省略させていただきますが、必要に応じて参照させていただきたいと考えている資料でございます。もし過不足等ございましたら会議の途中でも結構ですので、事務局の方までお問い合わせいただければと思います。
 以上でございます。
【馬場主査】  よろしいでしょうか。それでは、早速審議に入らせていただきます。
 これまで産学連携組織、それからコーディネーター、URAに関する議論を行ってまいりましたけれども、その組織とか人材にとって今後どのような行動が必要なのかという観点から審議を進めさせていただきたいと思います。
 もちろん数多く必要なことはあるかと思いますけれども、本日は、先ほど申し上げましたように、産学連携活動の情報発信と、それから研究成果への社会への提示方法について審議を進めまいりたいと思います。
 審議に当たりまして、横浜国立大学の村富先生と多摩美術大学の久保田先生をお招きしております。お二人からプロトタイピングを中心にした取組について御紹介を頂いた後、議論を深めてまいりたいと思います。お二人続けて御報告を頂きたいと思います。
 それでは、村富先生からよろしくお願いをいたします。
【村富横浜国立大学教授】  了解しました。横浜国立大学の共同研究推進センターの村富と申します。よろしくお願いします。
 きょうの話は、3年前から横浜国立大学が初めて始めたプロトタイピング推進事業ついて御紹介させていただきたいと思っております。
 目次ですが、当初、事業の紹介との御依頼でしたが、イノベーション創出機能強化の作業部会なので、前半は紹介に徹しまして、後半、イノベーションに対する本事業の位置付けやイノベーション創出への提言についても触れさせていただきたいと思っております。
 プロトタイピング推進事業の狙いから御説明します。当然、地域イノベーションの創出に寄与したいという狙いが第一でございます。次に、横浜国大はいろいろ展示会等にシーズを発信しているんですが、モノの展示が少ないのでモノを出したい、モノの訴求力に期待してシーズを発信し、ニーズを発掘したいという狙いが第二にございました。
 それから第三に、大学が資金を投入して地域の企業を動かして、見栄えの良いものを作り、潜在ニーズを発掘したいという考え方がございます。
 次は、特許戦略なんですが、大学のシーズに関する基本特許が前提でございますが、そこから、応用特許を企業と共願で取得して特許の連鎖を生みたいという第四の狙いを持っております。
 最後に、助成金を獲得ということなんですが、プロトタイピングというのは1回の試作だけでは不十分なことが多く、2次試作、3次試作と繰り返す必要が出てきます。継続的に試作を行うには助成金を獲得する必要性が出てきます。そのときに地域の産学連携機関の協力を得ることもポイントと考えております。
 事業全体の流れにつきまして御説明差し上げます。まずは研究者のシーズから、製品イメージを持って応募していただくことから始まります。なかなかシーズからモノにつながらないことも多いですが、雑談している中で、私の研究は世の中にこういうふうに役に立つんだという話が出たときに、「作ってみましょう!」と促して応募してもらうこともあります。原資を年間300万円用意しておりまして、1件100万円未満で運営をするということにしておりますので、予算内で運営できるように共同研究センターで選考を致します。
 応募案件ごとに担当のコーディネーターを配置しまして、地域の産学連携の支援機関からそれぞれの案件に対応した企業を紹介していただきます。
その企業を集めて説明会を開催します。説明会では、大学のシーズとこの企画のコンセプトを御説明し、企業には持ち帰って開発提案をお願いします。
 提案をしていただいた内容に対して、学内で共同研究センターと担当の教員と相談しながら、最もとがった開発ができるような企業かどうかということを判定して、随意契約で発注するという段取りになっています。
 随意契約ということで、先の1件100万円未満はそこから決めたものです。明確な仕様はなく、企業とアイデアを出しながら試作を行いますので、公開入札ができませんのでこのようよう形をとっております。 ところで、地域の支援機関ですが、企業を紹介して終わりではなく、開発段階も一緒に参加してもらうことで、試作の意義を共有してもらい、最後は支援機関に協力していただき、先ほど申し上げた資金獲得という流れになるわけです。
 全体の体制ですが、大学の研究者と、共同研究センターのコーディネーター、地域での産学連携の支援機関のコーディネーター、及び試作企業、この4者が常に連携を取り合って開発につなげていく体制が一番のポイントかなと思います。
 これから事業の具体的紹介というか、これまで7件、モノを作りました。これらにはそれぞれ感慨深い物語があり、たくさん語りたいところですが、時間の制約上、さらっと進めさせていただきます。これは一番出世頭の、電気自動車等に活用されるパワー半導体デバイスでございます。3次試作を完了し、現在、企業からの資金で4次試作へと続いています。
 これは瞬間的に500℃の高温水蒸気を発生する、多孔質を利用した新しい技術ですけれども、調理器に利用しようとして考えた案件でございます。
 高温水蒸気を利用した調理器には、シャープのヘルシオがございますが、ボイラーを使っていて蒸気が出るまでに時間がかかります。これに対して、瞬間に蒸気が出て、すぐ調理ができる装置を試作しました。この画像のように、スイッチをオンにすると水蒸気が発生して肉が焦げる様子がおわかりになるかと思います。
 資金が少し余ったので、デモ用にこういう機械も作りました。このようにスイッチを入れるとすぐにノズルから高温水蒸気が発生し、紙が焦げるということを見せています。ちょっと焦げているのが見えますかね。 これは車椅子からベッド、ベッドから車椅子等、トイレにも使える介護士の負担が軽い車いす用移乗機です。これも試作が続いています。
 これは工業炉ですけれども、この中に水蒸気を充満させると輻射(ふくしゃ)伝熱で熱効率が非常によくなるということで、実際に20%ぐらいエネルギーの節約になることを実際の装置で検証しています。23年度はこれ1件でした。
 それから、昨年度は3件ありますが、面白い1件をお見せしたいと思います。非常に単純で低コストのアクチュエータです。ばねがモーター軸に付いてこれを回しますが、もう一方にもばねがあり、ネジのようにからみついて動くというものでございます。
 安くて、非常に俊敏な動きをして、簡単な構造であるという特徴と、ばねを使っていますので、このようにやわらかく、人に優しい点が大きな特徴です。いわゆる産業用ではなく、人間との関係の中で使う機械に利用できると思います。おもちゃメーカー2社とばねメーカー1社が実用化のための応用検討を始めているとのことでございます。
 これらの成果を単純に整理しました。初年度、それぞれ100万円未満で3件の事業を行いました。その後、共同研究で継続しています。例えばパワー半導体デバイスは年間200万円で3年続いて、今度も2年間まで話がつながっています。いわゆる投資に対して共同研究で十分に元を取っているよというようなことを学内向けには紹介しています。本当はイノベーション創出が目的なので、企業利益がどうあがったかを示すべきですが、その点ではまだ実績がなく、そのための途上過程であると御理解いただければと思います。
 課題ですが、1つは、大学の研究者が論文投稿への意識が強く、ものづくりへの意識が薄くなってきていまして、何らかのインセンティブが必要かなと思っています。
 それから企業側も、調理器もそうなんですが、専業メーカーが主に参加していますが、私としてはもっととがった開発をするには異業種企業が参入して、いいアイデアを出してもらいたいと思っているんですが、まだなかなかそうはいかない状況です。 また、企業に発注する際に、請負体質があって、開発マインドがある中小企業が少ないという悩みがあります。明確な仕様と発注という形でなく、失敗してもよい挑戦的な開発への発注に対する信頼関係をつくるのがこれからも大事だなと思っています。うまくいっている企業が今回契約した企業なんですけれども、なかなか見つけにくいという悩みがあります。
 もう1つは金額の問題なんですが、随意契約で進めるとやりやすいのですが、100万円を超えるような案件も出てくる可能性があります。それに対してはまだ解がありませんので今後の課題と思っております。
 以上で紹介を終わらせていただいて、プロトタイピング推進事業の延長線上にあるイノベーション創出との関係について、お話させていただきたいと思います。まずはプロトタイピング推進事業のイノベーション上の位置付けについて御紹介した上で、イノベーション創出への課題と提言についてお話して終わらせたいと思っています。
 まず、この図ですが、横軸にニーズ、縦軸にシーズを書いております。こちら側が潜在的なニーズ、こちら側が顕在化されたニーズ、縦軸はシーズで、潜在、顕在とありますが、でき上がっている完成されたシーズと未完成なシーズという意味です。この領域は第1象限ですけども、シーズとニーズが顕在化されているので、シーズとニーズは即マッチングして共同研究も進む領域です。個別の問題点に対して対応していくことになる、多くの問題解決型の共同研究活動です。
 一方、第4象限はニーズが明確で、シーズがまだ十分でない領域です。例えばかつての半導体事業などはロードマップが明確で、来年は記憶容量が倍だとか、そういう世界に関して企業が激烈に戦っていくものです。開発競争が非常に激しく年々の目標が明確なので長期的で管理された計画の中で戦っていく分野でございます。
 この分野は国の存亡を賭けて進める事業が多いので、資金も大きく流れます。最近ではリチウムイオン電池とかEV用のバッテリーの容量アップ、軽量化などの課題がこの分野かと思います。かなり激烈な競争の中にあり、言い方を変えるとレッドオーシャンの領域でございます。
 一方、こちらは第2象限ですけれども、ニーズは潜在的で見えていない、シーズはある程度できている分野です。実はこの領域をプロトタイピング推進事業の狙いとしています。ここでは、他に競合相手がいないので、言葉を換えるとブルーオーシャンと入れる領域です。新しい知恵を出し合って新しい価値を作っていく領域です。 以上をまとめますと、第2象限がプロトタイピング推進事業の着目点でとがったイノベーション創出の分野だと思っております。第4象限は従来型のニーズに対応した課題解決型の産学連携で、横浜国大におきましても多くの共同研究の資金が流れ込むため、非常に重要ですが、視点を変えて第2象限にも力を入れたいということでございます。
 第3象限は、キュリオシティ・ドリブンの領域ですが、シーズ、ニーズともに顕在化していないので工業的にはすぐには実用化が困難な領域と考えています。 
 今度は製品開発ステージの視点で、プロトタイピング推進事業を考えてみましょう。これはMOTの教科書によく出てくる絵なんですけれども、研究、開発、事業化、産業化のそれぞれのステージに対して、プロトタイピング推進事業はまさに研究から開発までの試作の段階です。この研究と開発の間には、魔の川という産みの苦しみがあるわけですけれども、これができても、死の谷、ダーウィンの海という障壁があり、事業化、産業化まではまだまだ道のりが遠いという認識をしております。先ほどの第4象限の領域は、既に初期開発を完了して、事業化、産業化への開発競争のステージであるので、激烈な競争の中で大きな資金が回る構造となっているわけです。
 プロトタイピング推進事業でのステージを御理解いただきたいと思います。これは後の提案のところでまた申し上げたいと思いますが、このステージは、競争がなく資金投入にも余裕があることを御理解いただきたいと思います。
 私が感じている問題点ですが、先ほども申しましたように、大学の問題点としては、やはり論文優先ということでございます。ただ、第4象限の分野というのは研究に多額の資金が投入されますので、そちらに注目している研究者は多くおられるので、我々もそこには力は抜いてはおりません。ただ、顕在ニーズだけでなく潜在ニーズに対する意識も必要と思っていまして、この意識も持ってほしいなと思っています。
 それから、やはり研究資金へのインセンティブは前提条件のようなところがありますので、これに対する手当は必要と思っています。
 一方、企業側の問題点もありまして、企業側は大企業と中小企業に分けて考えます。私は大企業出身なんですが、私が研究所に勤務していた時代は潜在ニーズについても会社内で議論していたのですが、最近の大企業の研究者は顕在化されたニーズに集中せざるを得ない状況に陥っているんじゃないかなと思います。非常に多忙で余裕がないということがございます。
 その中でも、大企業の研究者を集めて、研究部会を開くこともありますが、研究者のレベルでは潜在ニーズに対しての意識もあり、議論が盛り上がることもあります。面白いなという話が出て、「いざ、やってみようよ」という話をすると、「ちょっと持ち帰って検討」とか、要するに企業レベルでの参加には躊躇(ちゅうちょ)する傾向があります。大企業は、やはり慣性が大きく簡単には試作などの行動を促すには強い理由が必要で「遊び心」のようなものでは動きにくいようです。大企業との関係の中でオープン・イノベーションとか対話型で潜在ニーズを発掘して試作を進めていくにはまだ壁があるなというのを今、実感として感じております。
 一方、中小企業ですが、中小企業は一般にはイノベーション創出に対して向いている企業は余りないように思っていましたけれども、社長の気持ち次第のところがあります。経営に余裕があって、社長が非常にやる気になれば、試行錯誤にも付き合ってくれるということがございます。そういう点では行動も早く、イノベーションの可能性はあると思います。
 ただ、ブレーンストーミングをやりましょうとか、そういう話をしたときに、ニーズ発掘手法、例えばKJ法みたいな感じで付箋紙を貼る作業などは、なかなか慣れていないんですね。リテラシーの問題というか、ニーズ発掘手法とか開発手法に対して経験が少ない気がします。大企業の方々はさっと話がつけられることが、中小企業の方はちょっと時間が掛かる場合があるように感じています。
 このような問題点に対して、やっぱり産学連携のコーディネーター、今回もコーディネーターの方にいろいろ協力していただいているんですが、非常に期待が大きいです。特に第2象限型のイノベーション創出に関しては、年配のコーディネーターに期待することは大だと思っております。そういう方々は、日本で70年代後半から80年代に次々といいアイデア商品が生まれた頃に開発研究者として担当した企業出身者です。 能力としては、この部会の過去の資料にファシリティーマネジメントの話がありましたようですが、この力が私も非常に重要だと思っております。
 さらに、コーディネーターを中心に地域の産学連携支援機関のコーディネーターと併せて、n対nの集合知を作るようなスキームを作っていけないかなという期待感を持っております。
 最後に、提言ということでちょっとまとめさせていただきたいと思います。まずは、第2象限のことを私はお話ししましたが、これはコストを要しません。というか、100万円ぐらいでできますよということを、まず御理解いただきたいと思います。
 しかし、先ほども申しましたが、ステージとしては試作段階ですので、商業化までは非常に時間も掛かるし、タイミングもあるし、うまくいかない可能性が高いですね。ですから、100万円×100件で1件当たればオーケーぐらいのおおらかな気持ちで割り切る必要があるんじゃないかなと私は思っております。数をこなす必要があるということでございます。
 このために産学連携部門への予算化等を是非とも御検討いただければと思います。特に今回のプロトタイピング推進事業では、大学が300万のお金を出すので、みんなびっくりするんですけれども、そういう場を提供して、潜在ニーズを発掘する姿勢を示すことが大事だと思っています。大学は企業からお金を取ることばかり考えているのではなく、対話により共に考え、共にモノを作り上げる活動を行っていると示すための資金提供も御検討いただけると幸いです。 その中で、ステージゲートは非常に重要だと思っています。商業化の可能性が低いので、ステージゲートとしては、基本特許は大学が持つことを前提として、その後、開発段階では応用特許を産学連携で獲得するということをファーストステージに持っていければなというふうに考えております。
 先ほども申しましたが、商業化して利益を生みだすまでの道のりは長く、確率は低いわけです。成功するためには、時代の流れ、はやりなり、時代のニーズや要請もございます。タイミングが必要で、試作が成功しても、それを社会が受け入れるには時間が掛かる可能性もあります。そういう意味では、特許を獲得した上で、時代を見て、タイミングを計って、再チャレンジに動くことが必要ではないかなと思っております。過去の大ヒット商品などもそのような経過の上でうまれているものも少なくないと思います。
 最後に、コーディネーターに関しては、ファシリテーションスキルなんですが、これはプロトタイピング推進事業を通じて経験を積むことが最も近道かと思います。100万円で1件を実行して失敗しても余り痛くもないでしょうが、経験を積むことでイノベーションへの道筋ができれば安いものだと思っています。これらの経験を、ベテランのコーディネータとともに若手も参加させて人材を流動させることも重要ではないかと思います。
 以上で私の御報告と提言は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
【馬場主査】  村富先生、どうもありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、久保田先生の方からお願いをしたいと思います。
【久保田多摩美術大学教授】  よろしくお願いします。多摩美術大学の久保田です。きょうは「多摩美ハッカースペースからFabLabへ」というタイトルで、ここ三、四年やってきた取組から御紹介したいと思います。
 これが多摩美ハッカースペースという場所で、2010年4月に設けました。情報デザイン棟の2階にあるのですが、ここは制作のためのオープンな実験場です。メイカー・ムーブメントや,DIYからDIWO(Do It With Others)という動きに関連して登場した、パーソナルな3Dプリンタやカッティングマシンのような新たなものづくりのためのツールをみなで試してみるなど、様々な触発の場を作るために設けました。
 大事なことは、授業の枠の外にある場所だということです。授業の枠の中、つまり教室の場合、何曜日の何時間目はここを使うだとか、使用する時間が限られてしまうのですが、教室でなければいつでも使用できることと、更にどんな学科、どんな学年の学生でも興味を持ってくれた人が参加できる、そういう場所を作りました。
 この写真を見れば分かるように、ここはもともとは廊下のくぼみのようなところでした。そこにホームセンターでパイプや構造用合板を買ってきて、その他機材なども個人研究費から算段して、なるべく資本を掛けずに作りました。手前にある机や椅子も、横浜で開催された国際映像祭が終わった後に譲ってもらったり、イケアで安い木の脚を買ってきてサブロクの板を乗せて机を作ったり、なるべく敷居を低くしてライトに始めることで、逆に何か面白いことが起こるのではないか、そんな気持ちで始めました。
 この写真の左側にあるのが3Dプリンターなんですが、学生がこんな風に集まったり、夜な夜な制作をしたり、みんなでパーソナルな3Dプリンターのキットを作ってみたり、レーザー加工機を導入してパンを刻印してみたりと、ちょっとした実験を日常的にできるようにしました。その他にも、ペーパーカッターやデジタルミシンのような、ライトなパーソナル機器をいろいろ組み合わせて試行錯誤ができるようにしました。
 あとは、コーヒーメーカーを入れて、みんなが日常的に集まっていろいろな話をすることができたり、すると学生たちが、ハッカーズカフェと呼んで、みんなでコーヒーを飲める仕組みを作ったり、何でも自由に試そうという気持ちになりやすい場になっています。せっかくだからこのコーヒーメーカーもハックして、いろいろ改良しています。
 これは、部屋に掲げているハッカースペースのモットーです。一番冒頭にあるのが、何か面白いことを見付けたらみんなで共有しようということです。これまでは制作というと、一人個人で籠もって行うことが多かったのですけれども、困っていたら助けてあげる、何か分かったら人に伝えるという、先ほどのDIYからDIWOへといったような動き、つまりソーシャルなものづくりを作る文化を育てていくことを考えてきました。
 ここまでいけばあとは、学生自らが「じゃあ、畑もやりたい」と、たまび畑部を立ち上げ、実際に畑を作って野菜や果物を育てて収穫したり、東京デザイナーズウィークや地元のアートラボはしもとで展覧会活動を行ったり、だんだん外ともつながり始めています。
 HACKERSPACE@TAMABIのウエブページ(http://dp.idd.tamabi.ac.jp/hackerspace/)がありますので、興味ある方は是非御覧ください。
 最初に話した通り、こうした場所を作った背景には、ここ何年かのメイカー・ムーブメント、ハードウエア・ハッキングだとかサーキット・ベンディングといった社会の動きがありました。
 これはオライリーという出版社が出している『Make:』という雑誌の日本語版です。この雑誌に関連したMake Tokyo Meetingの2回目を、2008年に多摩美で開催したところ、1日で1,200人もの人に来ていただきました。他にもアップルストア渋谷で改造楽器のコンサートをやったり、『ハンドメイド・エレクトロニック・ミュージック』という本を書いたシカゴ美術大学のニック・コリンズを招いて、八王子セミナーハウスでインタラクション・ワークショップを行ったり、更にこれはハッカースペースができた後なんですけれども、産廃業者のナカダイさんと一緒に産廃サミットを行ったり、こうした今の時代のイノベーションやクリエーションと密接に関係した一連の活動を行うための拠点として、活用してきました。
 僕個人の話をすれば、こうした試みの起源は、1992年から5年間所属した東京大学の人工物工学研究センターという、吉川弘之さんという当時の東大総長の先生が提唱した人工物工学を推進する学際的なプロジェクトにありました。
 この写真は、駒場の16号館です。人工物工学研究センターはこの古い建物の2階をリノベーションしたところにありました。その3階や屋上のあいているところに、勝手に工房を作ったんです。当時の工学部には何で図工室がないんだろうと思って、最初に何かものを作れる場所を作りました。そこで桐山先生と有限設計ワークショップという授業を始めて、当時の学生たちとブレーンストーミングやプロトタイピングをしながら、これは屋上でやっている写真ですけれども、実際に手を動かしながらものをつくっていくワークショップを行ってきました。この写真は、人力飛行機を作ろうとしたときの、実験飛行の様子です。当然飛ばないんですけれども、とにかく作って動かしてみる。
 その人工物工学研究センターに3Dプリンターがありました。ラピッドプロトタイピングが研究テーマのひとつになっていたのです。当時、これは確かソニーの2,000万円ぐらいしたものだと思うんですけれども、3Dプリンターが導入され、更に小型の3Dスキャナー、左にあるコンピューターがNECの98なので時代がしのばれますが、この2つの機材を使って、まずは物体のコピーをしてみると「おおっ、できた!」と。
 僕は当時からずっと工学と芸術のコラボレーションが大事だと思っていて、東京大学と芸大のコラボレーションで、アブダクション・マシンという、クリエーティブな環境を作るための可動型モジュラー家具を作りました。制作する際に、芸大の方が作った手作りの木製プロトタイプを先ほどのようにコピーして、離れた場所でもプロトタイプを共有できるようにしました。それをだんだん詳細化していって、スケールモデルを作り、実際のモノを作る。このようにして今から20年前に、デザインプロセスに3Dプリンターや3Dスキャナーを活用したことが、僕の貴重な体験になっています。
 最終的には、アクシスギャラリーで展覧会を行いましたが、20年たった今でもアブダクションマシンは多摩美で活用されています。人工物工学研究センターの場所が柏に移り、廃棄するというのでもらってきて、これはアカマツの木なんですけれども、20年たつと味も出てきて立派に使えています。やはり木は良いです。
 こういう経験から感じているのは、創造は常に周辺や狭間(はざま)から起こるということです。ですから、人工物工学研究センターと言いましたが、「センター」で本当によかったのかなという思いが今でもあります。「センター」にしてしまうことで、失われるものが非常にたくさんあったんじゃないかと思います。
 それからもう1つは「やりながら決める」ことです。でも、実際にこれを実行するのは非常に難しい。行動する前に決めた方が、楽なんですね。「やりながら決めていく」ためには、かなり精神的なコストが掛かります。でも、その難しさを乗り越えて、日課や習慣に落とし込まないようにするのが非常に大切だと思います。それは「事前に枠を設けない」ということでもあります。センター化するためには、枠を設けざるを得ません。でも周辺の大事な部分は、いつも枠の外にあるのです。
 ハッカースペースの現在として、今僕が取り組んでいる、最も大きなプロジェクトが、多摩美と東大のコラボレーションで進めている「衛星芸術プロジェクト」です。
 『Make:』のようなDIY文化は、今や生命や宇宙といった、新たな世界に目が向いています。僕らも今、芸術を主目的とする「芸術衛星」を打ち上げようとしています。10センチ角の世界最小の超小型衛星ですが、実際にH-2Aロケットの相乗りで地球の周回軌道に打ち上げて、宇宙からのデータを使ってメディアアート作品を作ろうとするものです。2年前ぐらいから始めていて、来年の1月末に打ち上げ予定です。
 プロジェクトは、幾つかのメディアも取り上げていただきました。このプロジェクトの一番のポイントは、それが多摩美と東大の学生だけでなく、アマチュア無線家、アーティストやデザイナー、プログラマー、筐体(きょうたい)を制作加工する町工場の職人さんといった、たくさんの分野の人が関わる異分野コラボレーションの場になっているということです。
 異分野コラボレーションも人工物工学研究センター時代からいろいろやってきましたが、大事なことは「最初から一緒にやる」ことです。これまでは往々にして、何かものができてからデザイナーに何か発注するなど、製品そのものではなく外観やパッケージだけに関わるデザイナーが多かったのですが、いろいろなスキルを持った人が最初から一緒にやることで、始めて異分野コラボレーションの真価が発揮されます。
 最初から一緒に行うことで、分野を超えた共通言語が生まれます。異分野コラボレーションの一番のネックは「言葉が通じない」ということです。どんな分野にも領域固有の用語があって、それが他の分野には伝わらない。ですから、なるべく早い段階でプロジェクトの共通言語を作っていくことが必要です。
 この写真は、衛星芸術を始めた当時の、ハッカースペースで行ったミーティングの様子です。まずは多摩美の学生と東大の学生が出会うことから出発して、今度は逆に多摩美の学生が東大に行ってプレゼンテーションするなど、たくさんの地道なミーティングを重ねていくと、だんだん混ざってきて、東大だけでも、いろいろな学科の学生がプロジェクトに参加してくれるようになりました。同じ工学部でも、学科が違うと用語や課題に対する取り組み方が違って、それだけでもたくさんの発見が生まれる、貴重な場になっていると思います。
 これが開発部屋の様子です。人工衛星の開発はもちろん最終的なひとつの目標でもあるのですが、ものを作ることで、ものそのものが共通言語となって、異分野コラボレーションが更に進んでいきます。こうした相乗効果が大事だと思っています。
 先ほどの村富先生の発表にもあったように、打ち上げる衛星はプロトタイプでは駄目で、JAXAの安全審査を通って、宇宙という過酷な環境で確実に機能する製品でなくてはいけません。更に1度打ち上げたらもう2度と修理したり改良したりすることはできません。12月10日にJAXAにシッピングするので、今まさに製品へ向けた死の谷を越えようとしているところで、これから何箇月間かが一番ハードな時期だと思っています。
 今日の話題に戻ります。ハッカースペースの今後の課題は、こうして大学の中でクリエイティブなことをやってくれた学生が、卒業した後はどうなるかということです。
 これは去年の12月に科学未来館で行った、メイカー・フェア東京の風景です。おかげさまで、先ほどのメイカー・ムーブメントも、毎年毎年たくさんの人に関心を持ってもらえるようになり、今年はこうしたカンファレンスも開かれました。様々な関連ムーブメントがそれぞれ大きくなっていく中で、今後はどうやってこれらをビジネスと結び付けていけるか。そのためにもハッカースペースでの活動を、卒業後もそのまま長く続けて仕事にしていける社会をつくらないといけません。
 そうしたときに「ファブラボ」が非常に重要な役割を担ってくると思っています。今ちょうどFAB9という世界ファブラボ代表者会議が行われていて、その発表が今日の午後、横浜で行われます。30日には日本ファブラボ会議が六本木のデザインハブで行われます。
 「ファブラボ渋谷」には、僕らの学科の卒業生でもある助手や副手のメンバーが参加しています。そこからファブラボを、卒業後も続けてハッカースペース文化を社会の中で機能させるための場にできないか、と考えています。
 ファブラボ渋谷は渋谷にあって、co-lab渋谷アトリエというシェアオフィスの中に、プラグイン型のファブラボとして機能しています。co-lab渋谷には、co-factoryという共通工房があって、その運営に協力しています。co-factoryの中には、先ほど多摩美ハッカースペースでも紹介したレーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタル・ファブリケーション機器があって、その中で様々なものづくりが行われています。今日は、ファブラボ渋谷代表の梅澤さんや、多摩美卒業生の参画メンバーも来てくれています。今言ったように、大学で一緒にやってきた人が、卒業したり退職したりした後も同じ仕事を続けていけるような場所が、社会の中でたくさんできていくと、今ハッカースペースで起こっているようなことが、どんどん広がっていくんじゃないかと思います。
 どうしても大学は大学、就職は就職と分けてしまう学生が多いので、それが一番もったいないことだと思っています。幸い、昨夜もファブラボ運動をNHKの番組で取り上げていただくなど、今多くの人が注目してくれているので、今後この動きをどうやって根付かせていくか、今日はそのあたりに関しても、いろいろ御意見を伺えればと思っています。
 今後の目標は、今お話ししたように、ハッカースペースでの活動を卒業後もそのまま続けられるようにする、ということなんですけれども、大学の内情を正直にいえば、やはり就職活動が大きなネックになっています。というのも、一番学生が伸びる3年生の時期に就職活動しちゃうんですよね。それは学生たちが、今やっていることがどう社会につながるのか、ということに対するある種の不安の裏返しでもあります。
 少し前にNHKで、国連高等弁務官の緒方貞子さんの生涯を描く番組がありました。そこに聖心女子大学の初代学長マザー・ブリットさんの言葉が出てきます。そこにはまず「自立せよ」とあり、更に「ともしびを掲げる女性となれ」「鍋の底を磨くだけの女性になってはいけない」「結婚のことを考えるくらいなら勉強しなさい」と続きます。この言葉を聞いて緒方さんは燃えて猛勉強して、ああいうすばらしい活動をされました。
 これはそのまま、別に女性だけではなくて、今の学生全員にあてはまると思います。「自立せよ」これは今も同じです。「ともしびを掲げる人間となれ」「会社に勤めるだけの人間になってはいけない」そして、僕がいつも学生に言っているのは「就職のことを考えるくらいなら制作しなさい」と。
 それはどういうことかというと、手に職をつけていいものを作るというのが、美大生の一番のポイントです。だから、とにかくいい卒業制作を作ることに自分の全能力、全時間をささげれば、就職は後から付いてくる。作品を制作する前に就職活動しても意味がありません。でも、やはり社会一般のムードとして、どうしても本末転倒になってしまいがちです。だから、僕は大学からイノベーションを創出するためには、就職活動を不要にできるかどうかがポイントだと思っています。実際、美術大学では、優れた学生であればあるほど、就職活動をしなくとも就職しています。それが今ハッカースペースで行っていることがそのまま社会の中のいろいろなところで起こる、ということにつながっていくのです。
 それからもう1つは重要なのは、アマチュアリズムを再定義することです。先ほどのメーカームーブメントだけでなく、広くDIY/DIWOムーブメントを推進している人たちのほとんどはアマチュアです。アマチュア無線であったり、日曜大工であったり、昔から個人でイノヴェイティブなことを続けていたアマチュアの人たちの活動を、イノベーションの視点からもう一度、再定義したいと思っています。
 学問も、仕事も、スポーツも、アートやデザインもみなそうなんですけれども、プロになることを目指すのはいいことだとされてきました。一般にアマチュアは素人で、プロより下のものだと思われています。でも本当はアマチュアは決してプロの卵ではなく、むしろプロ化されていない新たなテーマを攻めることができる自由人なのです。ひとつの専門としていまだに確立されていない何か、先ほどの周辺や狭間(はざま)を攻めることができるのがアマチュアです。つまりアマチュアリズムというのは新たな価値観を生むためには必要不可欠の、とても重要なアプローチなんです。だから僕は、アマチュアリズムをその視点から、もう一度、再定義してみたいと思うのです。
 先ほど論文の話も出ましたが、幸い美術大学というのは論文とは無関係なので、イノベーション創出にはとても向いています。美大の業績は論文ではなく、創作や著作なので、こうした一連の動きを非常にやりやすい場なんです。こうした美術大学の特長を生かしながら、今日お話しした活動を今後も続けていき、更にそれをファブラボのような場を通じて社会とつなげていきたいと思っています。
 これで僕の方からの話は終わりますが、ファブラボ渋谷のメンバーが制作した資料を、今日の配付資料の中に一緒に入れさせていただきました。この資料も含めて、もし何か質問等があれば遠慮なくいただければ、と思います。
 以上でプレゼンテーションは終わりです。どうもありがとうございました。
【馬場主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、お二人の御発表に対して何か御質問とか御意見とかございましたら、お願いをしたいと思います。どうぞ。
【野口委員】  本日は御説明どうもありがとうございました。村富先生、久保田先生、それぞれに御質問がございます。
 村富先生につきましては、新たなイノベーション創出の在り方ということで、非常にわかりやすい説明だったと思います。特に学内でスタートアップ資金を用意して、それを学外資金獲得につなげていく、また企業との連携につなげていくということで、小さく産んで大きく育てるというようなイメージが非常にしました。
 その中で、特にコーディネーターについても期待という点で触れておられましたけれども、大きな成果を上げるためには判断できる裁量も重要だと思います。コーディネーターに与えられている、又は与えている権限、こういう契約までなら任せているとか、ここまでの金額ならジャッジメントさせているとか、そういったコーディネーターに与えられている責任、権限のところを教えていただきたいのが、第1点です。
 2点目は、企業との共同研究となりますと、共同出願になってくると思います。ただし、共同出願の場合、出願した後、大学側の実施料収入の分配について、かなりにもめることもあると思います。その場合、どういった取扱いをどうされているかというのをお伺いしたいと思います。
 それから久保田先生につきましては、今御紹介がありましたイノベーション創出の場は本当に多様性があるなという感じがしております。その中で、イノベーション創出の場であるラボにおいては、意匠権とか実用新案権とか結構出てくると思うんですけれども、そういった産業財産権への取扱いをどのようにマネジメントされているかということ、そして、研究成果の具体的な活用として、産業界と連携するための仕組みの構築というのが非常に重要だと思うんですけれども、何か仕掛けをされているか、例えばコーディネーターみたいな方がいるのかというのをお伺いしたいとと思います。最後に、両先生に共通の御質問なんですけれども、異分野を融合していくために、学生の参加、柔軟な頭で考えるのはとても重要だと思うんですけれども、そういった学生が研究に参加する場合、注意している点とか、特に指導している点とかありましたら、教えていただきたいと思います。以上です。
【村富横浜国立大学教授】  私の方から御説明したいと思いますが、最初のお話としては、コーディネーターの権限ということですね。コーディネーターの権限は、プロトタイピング推進事業に限定したものでよろしいですか?
【野口委員】  はい。
【村富横浜国立大学教授】  プロトタイピング推進事業に関しては、基本的には、期限内に試作を完了し、特許のアイデア出しをしてまとめた上で、展示会等で成果をモノとして公表するということがミッション(責任)としてあります。そのための運営や計画、ステークホルダとの交渉などのすべてに対して権限を持っていただいています。基本的には、全てお任せしています。
最初に随意契約しますので、企業との金銭授受の権限はありません。出張費等は予算内で自由に使うような形態にしています。トラブルがあったときには私も対応させていただくことはありますけれども、プロトタイピング推進事業に関しては、担当のコーディネーターに全てお任せして、完成するところまでやるという形で動いています。
 それで答えになっていますか?よろしいでしょうか。
 それから知財の問題ですが、基本特許を大学で獲得した上で、プロトタイピングにて共同出願をしますので、大学としては有利な展開ではあります。よくもめるのは大学の不実施補償についてですが、大企業は結構うるさい企業が多いのですけれども、中小企業の方々は余り特許を出される経験も少ないので、余りないようです。
 残念ながら、大きく利益を生んではいないので、相手の企業とはうまくいって利益が出たら分け合いましょうねという形のレベルでしか、現状ではお話していません。御紹介した調理器は、製品化を検討されているので、基本特許についてオプション契約で年間50万円程度を頂いています。
 特許を初めて出願するというような企業もありまして、そういう問題点はまだ顕在化していなかったものですから、余り考えていなかったんですが、大学としては、共同出願をして特許も整備することが企業のためになって、利益が上がれば結構だなというふうに考えております。
 あと学生に関してなんですが、一般的な産学連携活動でも結構悩むことが多いんですね。1つは、学生の発明は職務発明ではなく教育の一つであるとの認識があります。秘密保持の問題もあります。その管理は非常に難しくて、内容によって学生の参加を遠慮する場合もありますが、基本的には、担当研究者の教員と相談して、その責任の下にやっていただくということに今はしております。
 ただ、リサーチアシスタントとか、要するにアルバイト的にお金を払うケースがありますけれども、その場合には特許の権利も一応職務発明的な形でお願いするとか、それに対しての守秘義務の責任も負うこともあります。 以上でございます。
【久保田多摩美術大学教授】  今のお話ですが、非常に重要なポイントを含んでいると思います。それではどういうことかというと、オープン・イノベーションと言ったときに、オープンが何を意味しているかということとすごく関係していて、例えば先ほどの衛星芸術プロジェクトの場合は、全部オープンソースでデータを公開しています。
 つまり、アイデアをクローズドな特許や著作権で固めるというやり方と、オープンソースにして、ソフトウエアの世界で起こっているようなイノベーションとつなげていくやり方の双方を、どのような形で関連させていくのか、あるいは先ほどお話ししたように社会の中に展開していくのか、ということと密接に関係していると思うのです。
 基本的にハッカースペースはオープンソースに代表される、オープンなライセンスをベースにしていますし、学生たちにはそうした文化をもっと知ってもらって参加してもらいたい。ただ、実際には大学と企業の産学共同プロジェクトもありますし、守秘義務を必要とされる活動にハッカースペースを使うこともあります。
 先ほど社会の受皿と言ったことのひとつには、オープンソースの文化できちっと御飯が食べられるような社会になるのかどうか、という問題があって、大学ではオープンにできたけれども、卒業後は伝統的な企業のクローズな特許や著作権の中でビジネスをやっていくだけになってしまうと、結局は先ほどのようなムーブメントが根付いていかないし、世界で起きているオープン・イノベーションからも取り残されてしまうのではないかなという懸念があります。
 コーディネーションということについては、産学共同に関しては大学の中に研究支援部という部署があって、先ほどの守秘義務を含めて、書類の締結やお金のやり取りを支援していただいています。これまで美術大学の中で研究支援は余り重きを置かれていなかったのですが、ここ何年か、美術大学でも研究の重要性が認識されてきました。特に「美術大学における研究とは何か」ということを考える人も現れてきて、大学の中でそうした部署が充実してきたのは僕としてはとても有り難いことだと思っています。
 あと芸術衛星のプロジェクトに関しては、学内に他大学や外部との制作研究を支援する共同研究費という予算があって、そのサポートを頂くことで始められました。今年からは、科研費も頂くことができたので少し助かっています。
【馬場主査】  じゃ、柘植先生、どうぞ。
【柘植主査代理】  ありがとうございます。横浜国大のチャレンジ、それから多摩美のチャレンジ、この作業部会、イノベーション創出機能強化という目的を持った作業部会、今からお話しする話の点でつなげていく価値があるなと思うし、また横浜国大、多摩美でも今からお話しする話を参考にして、アップグレーディングしていただけたらなということを感じます。
 私の発言の背景は、イノベーション創出機能強化、産業界の上位でまさに日本の産学官連携によるイノベーションの、エコシステムという言葉をきょうの参考資料にも使っていますけれども、エコシステムをどうするかということを参考資料2ではかなり概念的に書いているだけで、ずっと私はそれを具体的に教育の現場、産業の現場、あるいはそれを支えている行政の現場というものを入れたイノベーションの牽引、エンジンの構造がいまひとつ具体的にないままで、各種の制作が現場の方にお金も含めて流れている。
 何とかイノベーション牽引エンジンをもうちょっと具体的に共有化したい、見える化して、現場とも共有化した方が投資効果がますますよく上がるんじゃないか。そういうことをずっと思っていまして、このイノベーション・エコシステムの参考資料2でも提言されていたと思いますが、これは科学技術投資と、それから産業が担うけれども、やはり大学等が参画するイノベーションの振興と、それから大学が本来の目的である教育振興と、この3つが三位一体的に回っていく仕組みが多分イノベーション・エコシステムの牽引エンジンになるんじゃないか。
 こういうところまではこの参考資料2で来ているんですけれども、そういう認識の下で、横浜国大のこの取組は非常に具体的な話と、エンジン構造の中のどこを担っていて、これがエコシステムとなるにはどうしたらいいか、こういう観点で聞かせていただきました。
 特に、20ページの第2象限型のイノベーション創出の提言、ここのあたりが一番大事だと思うんですけれども、まさに成功確率が非常に低いわけですので、この活動を、イノベーション・エコシステムというのを私流にすると、ストキャスティック、確率論的で、それからノンリニア、非線形なんでけす。だから、いかにその確率を増やしていくかというと、この活動を横浜国大なり、それぞれの大学も頑張るけれども、それを全国ネットワークで情報も含めて、それから人材のネットワークも含めて、全国ネットワークの重要性、メリットに生かしていく、こういう施策が非常に大事かなと、このイノベーション創出能力強化の作業部会としての視点にとらまえています。
 何もそれは新しい話じゃなくて、全国のコーディネーターのネットワークというのは今でもあるし、かつてはもっとよくあったんですけれども、事業仕分で潰されちゃって、せっかく100人規模の人材を育てたものが今は霧散しているんですけれども、今また別なやり方で文科省が全国コーディネーターのネットワークを生かそうとしていますので、ですから、それにこの横浜国大でやられている第2象限型のイノベーション創出のものを乗せていくという話が非常に効果的な施策かなと思うし、また横浜国大にせよ、この1%の確率をより増していくというのにも役に立つかなというのが1点目です。
 それから、同じ横浜国大の場合は、ここでは余りイクスプリシットに書いていないですけれども、大学院教育の実質化とリンクしている、多分これは学内で抵抗勢力もあるわけなんですけれども、さっき言いました教育と科学技術とイノベーションの一体推進となると、これだけやっているのに大学院教育の実質化、中教審が実質化という言葉を使っていますけれども、これとリンクしていくということは、学内の抵抗勢力も含めて、どうやってそれを壊していくのかとか、そういう視点が強化する、これがイノベーション・エコシステムの持続牽引エンジンの1つだなと。その大学院教育の実質化へのリンクの仕方がちょっとまだ欠けているなと。
 それから、多摩美の方のお話ですと、これも本当にまさにもうちょっと広げると、いわゆる、私、工学系ですけど、デザイン教育というものに対する学部教育段階からの、何を身に付けたかというアウトカムの話で非常に大事な教育であると思うので、惜しむらくは、2ページの4つ目に授業の枠の外でと書いてあるんですね。
 これは美大ですけれども、私は工学教育においてもデザインという面での学部教育を実質化するには、むしろ必修化、カリキュラムの体系の1つにあって、これはちゃんとやらないといけませんよと、シラバスにもそういう思想がちゃんと伝わるようにということで、ちょっと授業の枠の外では駄目だぞと、私のメモを書きました。
 問題は学生の時間、久保田先生がおっしゃったように、学生の時間は本当に3年生になってからは就職活動で走り回っていて、授業の枠の外ではこれに参加する学生ってものすごく少なくなってきて、こんなもったいないものはない。
 そういうことも含めて、必修化ですけれども、やはり先生もおっしゃったように、就職活動との一石二鳥とか一石三鳥の仕組み、これをすれば、学生たちはあんな確率の悪い駆け回りしなくても、ここに行けば自分の道が見付けられる、あるいは会社も見える、こういう話が結局エコシステム化に必要かなと。
 具体的には結局、ここでは余り触れていないですけれども、このハッカースペースを場として産学連携の活動がもうちょっと活発化していくと、学生たちはここに参画することでまさに就職活動も含めた一石二鳥か三鳥になる。こういうことが多摩美のこのハッカースペースの進化の方向かなと思って見ました。
 そんなことで是非、横浜国大、多摩美も参考にしていただく同時に、我々のこの作業部会でも今のような考え方で今までも既にかなりやっている施策がありますが、その施策をつないだり、欠けているところを補う施策を考え出したりして、このイノベーション創出機能の強化につながっていくのではないかなと今思っています。
 感想になりましたけど、もしお二方、何か感想がありましたら。
【村富横浜国立大学教授】  イノベーション・エコシステムの中で、確率を上げるというお話と、全体を巻き込むようなネットワークのお話、大学院教育とのリンクのお話だったと思います。第一の、確率論については、これを強くだすと、とがった開発が生まれにくい場合もあるかなという気もします。余談なんですが、ソニーなどは70年代から80年代にかけて次々といいものを出していたと思います。ソニーの連中とも仲良くしていたことがあるんですが、彼らはむしろ成功例よりも失敗例の方が多いという実態だと思うんですね。ソニーがだんだんその成功率を上げるために、価値経営とか何か、そういう形で管理されたことがあって、そこからだんだん開発者の意識がシュリンクして、今のソニーのような状態に陥ったのではないかとの意見はよく聞きます。かなり自由に発想する、多摩美のお話みたいにかなり自由にやるというか、制約条件なしでやるような環境というのがすごく大事かなという気がしています。成功確率を高める努力は必要ですが、それを強く求め管理し過ぎると開発者の意識が、成功しなくちゃいけないというプレッシャーとなり、冒険や遊び心が失われ、結果として魅力のある開発ができない可能性が高くなり、凡庸な開発になる危険性があると思います。 次のネットワークのお話ですが、御紹介をしなかったんですが、実は文部科学省の産学官連携自立化促進プログラムでコーディネーターを導入させていただいた中の1つの成果として、神奈川の産学公連携推進協議会があります。補足資料に書いてあるんですが、最初は当初10大学で発足させたのですが、現在は13大学に増加していますが、これと神奈川県内6つの産学連携支援機関との人的なネットワークを狙いとした活動をしております。横浜国大だけでものづくりが全部できるかというと、クローズシステムでは何もできないので、参加している組織のコーディネータ間のネットワークを大事にしたいと思っています。全国のネットワークも大切ですが、やっぱり近い方が動きやすいので、まず近場からつながりを持って、いろいろと対話や議論を進めてきているということを御紹介したいと思います。
 それから、3番目の大学院における教育の実質化というお話ですが、非常にこれは難しく感じています。実態としては、工学系はものを作って何ぼという話がありますので、理学系と工学系で文化の違いがあると思っています。
 工学系の先生方で、特に機械工学とか古い電気工学、古いと言っちゃいけないですね、昔からあるマチュアな分野のものと材料系を中心とした最先端の分野とでもアプローチが異なると思うんですね。また、いわゆる産業基盤を抱えるような分野の先生方は減少傾向にありあるものの、もっと盛り上げないといけないと思います。この辺の文化の違いを理解した上で良い環境を整えることが工学教育の実質化だと思います。そこら辺をどう産業界と連携していかに盛り上げていくかというところが大きな課題かなと思っています。
 学生を導入するところにも大きな課題があります。先ほど言われていたように、やはり彼らも就職活動と論文作成に追われているので、そこをどうするかというのは大きな課題だなと思って感じています。御指摘は非常に理解できます。ありがとうございました。
【久保田多摩美術大学教授】  今のお話ですが、非常に重要なポイントを含んでいると思います。それではどういうことかというと、オープン・イノベーションと言ったときに、オープンが何を意味しているかということとすごく関係していて、例えば先ほどの衛星芸術プロジェクトの場合は、全部オープンソースでデータを公開しています。
 つまり、アイデアをクローズドな特許や著作権で固めるというやり方と、オープンソースにして、ソフトウエアの世界で起こっているようなイノベーションとつなげていくやり方の双方を、どのような形で関連させていくのか、あるいは先ほどお話ししたように社会の中に展開していくのか、ということと密接に関係していると思うのです。
 基本的にハッカースペースはオープンソースに代表される、オープンなライセンスをベースにしていますし、学生たちにはそうした文化をもっと知ってもらって参加してもらいたい。ただ、実際には大学と企業の産学共同プロジェクトもありますし、守秘義務を必要とされる活動にハッカースペースを使うこともあります。
 先ほど社会の受皿と言ったことのひとつには、オープンソースの文化できちっと御飯が食べられるような社会になるのかどうか、という問題があって、大学ではオープンにできたけれども、卒業後は伝統的な企業のクローズな特許や著作権の中でビジネスをやっていくだけになってしまうと、結局は先ほどのようなムーブメントが根付いていかないし、世界で起きているオープン・イノベーションからも取り残されてしまうのではないかなという懸念があります。
 コーディネーションということについては、産学共同に関しては大学の中に研究支援部という部署があって、先ほどの守秘義務を含めて、書類の締結やお金のやり取りを支援していただいています。これまで美術大学の中で研究支援はあまり重きを置かれていなかったのですが、ここ何年か、美術大学でも研究の重要性が認識されてきました。特に「美術大学における研究とは何か」ということを考える人も現れてきて、大学の中でそうした部署が充実してきたのは僕としてはとても有り難いことだと思っています。
 あと芸術衛星のプロジェクトに関しては、学内に他大学や外部との制作研究を支援する共同研究費という予算があって、そのサポートを頂くことで始められました。今年からは、科研費も頂くことができたので少し助かっています。
【村富横浜国立大学教授】  是非お願いいたします。
【久保田多摩美術大学教授】  その時に著作権の問題、つまりオープンソースで公開できるのか、という話がハードルにならないようにしなければいけません。高温水蒸気の技術を広く社会に提示することで、ヘルシオとは全く違う何かが生まれるかもしれない。そうした具体的な事例を社会の中で進めていくための方法や場づくりを、最近よく考えています。
【馬場主査】  ありがとうございます。そのほか。どうぞ。
【永里委員】  久保田先生にちょっとお尋ねします。渋谷のラボも見て非常に感銘はいたしましたけれど、きょうの御説明の中で、就活しない学生を要求なさっている場合に、その学生は就職に関して、どう考えているのでしょうか。親がある程度援助してくれて、一所懸命研究というか、ものづくりするということで、資金援助を親がしているのは、これは当たり前でしょうけれども、そうではなくて自分で稼ぐということを考えた場合に、どうやって就職するのか、あるいはそういう学生というのは自分で起業するんでしょうかということと、それから、例えば、まだ多摩美のそういう取り組みはそんなに広く知られていないので、大企業とかあるいは中小企業でおたくの学生を採りたいというようなニーズはまだそこまで行っていないような気がします。いや、これは私が勝手に思っているだけなんですけど。
【久保田多摩美術大学教授】  そうです。はい。
【永里委員】  それで、例えば、一生懸命やっている秋田教養大学みたいなところは就職率が100%近いですね。そこは就活を余りしなくても企業の方から行っているということで、多摩美の卒業生はものづくりという観点で優れていると思うんですが、その場合に応用動作が利かないと、企業というのは困るんですよね。多摩美の場合にはその応用動作が利くような、そういう指導をなさっているというか、あるいはオープンソースそのものが実は応用動作だと思います。いろんなところからいろんな技術を持ってくるので応用が利くんだと思うんですけど、多摩美の卒業生を採ったら、なかなか応用力があって企業に役立つものづくりをしてくれるというようなふうに企業に思わせるためには、今の仕事をそのままなさったら、そうなっていきますでしょうか。
【久保田多摩美術大学教授】  はい、それこそがまさに社会全体の変革と連動していなければいけないところだと思っています。今、メイカー革命やファブラボ、あるいはパーソナル・ファブリケーションというキーワードで、個人によるものづくりができる社会を作ろうという話が広く議論されています。そうした運動の中核メンバーになれるような学生を育てたいというのが、ハッカースペース設立の際の1つのビジョンでした。
 もちろん、既存の大きな企業に就職するということも否定はしてはいません。でも、会社を立ち上げるというような、小さいグループで活動していくことの可能性をもっと掘り下げていきたいと思っています。その結果、それが社会の中で製品の販売やビジネスに結び付いて、自分で自分の生活費を稼いでいけるようになる。そこのところが、社会全体におけるユーザーの側と作るがわ、メーカー側との関係の変化と連動していってほしいと考えています。
 美術大学に限らず、工学系でも人文系でも、これから必要なのは「手に職」ということだと思うんですね。自分でできるということが、最後は一番自分を救ってくれる、これも学生にずっと言っていることですが「学問はサバイバルのためのツールである」と。うまくいくときは、例えばデザイン理論やマネージメント理論のような学問は、余り要らないんです。力の限り行けるところまで行けばいい。でも、必ずどんな人も、僕も含めてですが、壁にぶつかったり、困ったりするときがある。そういうときにこそ本当に学問、大学で身につけたことが役に立つのかどうかが問われると思うんです。
 そういう意味で僕は、タフなクリエイターを育てていきたいのです。そのことを、学生たちといつもフェイス・トゥ・フェイスで向かい合いながら考えています。今日、大きな企業も変わろうとしているところが多いと思いますが、ファブラボだけではなく、スモールグループによる活動拠点が、東京だけでなく日本全国に増え始めています。ある種の量の関係として、そもそも美術大学そのものがパイとしては大きくないのですが、就職活動することなく、大学でやっていることをそのままグレードアップすれば、仕事をして生活できるような社会にしていきたいと思っています。
【馬場主査】  ありがとうございました。そのほか何か。どうぞ。
【堀部委員】  どうもありがとうございました。
 まず村富先生の御紹介についての感想なんですけれども、イノベーションの領域の分類とか、あるいは大企業、中小企業、ベンチャー、どういう相手と組むことを考えるかという、そういうことを整理して考えるというのはとても参考になりました。
 イノベーションを考えたときに、人によっていろいろ捉え方があって、例えば飛行機とかテレビとかパソコンとか、そういったものの発明とかイノベーションを考える人もいるかもしれないですし、フェイスブックとかのように、発想次第で比較的容易に実現できるものを対象とする人もいると思いますし、そういうことを考える上でもすごく役立ちました。どうもありがとうございました。
 それからあと久保田先生についてなんですけれども、異分野の融合ということになりますと、どうしても自由度が高くなるような気がしますので、参画者たちのモチベーションを保つことがすごく難しかったり、あるいは重要になってくると思うんですけれども、その辺で何か工夫とかいろいろ試みられていることがありましたら教えていただきたいんですけれども。
【久保田多摩美術大学教授】  異分野コラボレーションの際は、何をテーマにするかが重要です。今回は宇宙や衛星をテーマにしていますが、みんなが求心力を持てるような高いテーマを設定するのが、一番重要なポイントだと思います。モチベーションを維持し続けないと、異分野コラボレーションは基本的には大変なんですね。
 身内でやっていて、あうんの呼吸だとか、言わなくても分かるというのは実はものすごく楽な世界です。異分野の人には、自分がやっていることを否定されるときもあるし、本当にそれでいいのかと改めて問われることは、なかなか勇気の要ることでもあります。
 だけど、そこを超えられるかどうかがイノベーションにとっては大事なことだと思っています。そのためのエンジンとなるようなテーマを設定し、モチベーションを維持するというのが、ある種のリーダーやまとめ役が果たすべき役割だと思っています。
 リーダーにはバジェットを持ってくるという役割もありますが、そのバジェットでモノを作ると良いのは、先ほどお話したように、モノそのものが異分野コラボレーションのための共通言語になるからです。描いたり図にして見えるようにすることと同じように、モノを作ってみることで、言語による領域化を超えることができる。プロトタイプは製品を良くするためのものでもあるけれども、共通言語を作るためのものでもあると思うんですね。
 だから、異分野がコラボレーションする場であればあるほど、モノを作ってプロトタイピングすることの意味や役割が増していると思います。うまくそこを相乗的に活用しなければなりません。先ほどの3Dプリンターだったり、レーザー加工機のようなプロトタイピングツールを使って、モノを作り触れてみることで「ああ、そうか」と互いに分かり合う瞬間を、数多く目にしてきました。
【村富横浜国立大学教授】  ちょっと一言。今の久保田先生のお話でも感じることがあります。ものづくりというのは根源的には人間の本能的なものがあるのに、それをいろんな制約条件の中で諦めているところがあって、ちょっと背中を押すとブレイクするものもあるのではないかと思っています。久保田先生が言われるとおりだと思うんですが、自由な発想の中で自然に生まれるモチベーションをどう引き出すかということも大きなポイントになるんじゃないかという気はしております。
 それから、就職の問題とか学生が抱える問題も多いのですが、特にコメントしたいのは、この問題の背景にある原因は、人・物・金の流動化が少ない社会であるということです。特に人の流動性の問題というのが日本の国内では一番問題で、例えば、就職しないで起業した人は、大企業には行ける可能性が非常に低いということです。学生はそういう社会を意識しているので冒険がしにくいですよね。
 だから、それが問題で、久保田先生が言われるように、技術を持っていたら別のところを渡り歩くことも自由にできるような環境というのは非常に大切だと思っています。これは、社会人の場合ですが、総務省の統計データを見ると、大学から企業に移る人は年間数百人しかいません。逆に企業から大学に来る人は多く、比率が全然違うというところに大きな問題があると思います。中小企業―大企業間の異動のデータは不明ですが、これも極端に比率が異なると思います。そういう流動化の仕組みというのを少しずつ考えていく必要があるというのが私の問題提起であります。
 以上でございます。
【久保田多摩美術大学教授】  先ほど御紹介したメイカー・カンファレンスで、メーカーフレンドリーなものづくりというセッションを行ったときに、コルグとローランドDGという企業内でユニークな製品を開発した人に話をしていただいたのですが、みんな自分は「社内のはぐれ者でした」と言っているんですね。
 だから、企業が今どんどんどんどんシェイプアップして無駄をなくしていった時に、一体どこで誰がイノベーションを起こしていくのかが心配です。ハッカースペースも、いってみればいろいろな学科のはぐれ者を集めたかったんです。どの学科にも、各学科のドグマから外れてしまう、でも意識の高い学生がいて、そうした学生が集まれば、それだけでも何か面白いことが起こるんじゃないかと思っています。
 先ほどの認証制度もそうですが、枠は必要かもしれないけれど、その枠の外のはぐれ者を許容していかないといけない。何だか分からないけどそこにいる、といった人が、分野を超えたイノベーションの際には、結構重要な役割を果たします。
 80年代に始めてMITやスタンフォードに行ったとき、必ずといっていいほど、何でここにいるのか良くわからない人がいて、面白いなぁと思った経験がありますが、大学だからこそ「何この人?」みたいな人が、もっといてほしいと思うんです。
【馬場主査】  どうもありがとうございます。そのほかに何か。どうぞ。
【山本(佳)委員】  村富先生にお伺いします。試作プロジェクトというのはいろんなグループでされていると思うんですけれども、こちらの取組の特色として、大学が最初にきっかけを与える、つまりお金を出すというのがあるのかと思うんですがいかがでしょうか。
【村富横浜国立大学教授】  きっかけですか。
【山本(佳)委員】  試作プロジェクトは、ほかの組織の取組もいろいろなところであると思うんですけれども。
【村富横浜国立大学教授】  ほかというのは、ほかの大学という意味ですか。
【山本(佳)委員】  そうです。地域連携する中で試作をやってみましょう、という動きはあると思うので、そういったものに対してこの取組の特色をお伺いしたいです。
 もう1つ、2つ目は、試作から製品化へ発展させるスピード感や、先ほども出ました確率についてです。産業に早く結び付いてほしいという気持ちがあるんですけれども、そのあたりがどうなのか。「まだ試作をやっているのか」というような、一般的にはそういうのんびりとした活動も多いので、どんなふうに行っているか、お願いできますか。
【村富横浜国立大学教授】  最初のお話は、他との違いというのは、多分、助成金をもらって試作をする案件とかプログラムは、基本的には第4象限というか、ロードマップなり世の中のニーズが明確なものをやろうとしていると思いますね。
 我々の特色は、ニーズが明確でないんですね。シーズ・オリエンテッドに近い第2象限の開発を目指し、誰もお金を出さないから自分たちで出そうというのが特徴です。大学に技術があって、教員が勝手に「こうやったら私の研究は役に立つんだ」と言っているんだけど、だったら役に立つようなものを作ってみましょうよと、そういうスタンスなんですね。世の中で見えていないニーズをどうやって発掘するかというのを地域の企業の力を借りて発掘し、ものを作って逆にニーズを理解してもらうということでございます。
 ですから、そういう意味では、誰もが売れるかどうかは分からないニーズということです。だから、そういう新しいものに対して皆さんが理解されるにも時間が要るだろうし、受け入れられないこともあるということで、成功確率を上げるのは難しいと思っています。しかし、ロードマップに乗って売れるとわかっているものは競争も激しいわけで、早く作るための開発投資や価格競争があって大きな利益を生むことは逆に難しいと思います。多くの地域連携での取り組みもこのような領域のものだと思います。
 プロトタイピング推進事業はそうじゃないというところを御理解いただければと思います。
 それで、後半の御質問はスピード感というお話ですかね。そういう意味では、スピード感というのはかなり難しいと思っています。先ほどのロードマップに乗った開発は競争の中で大きな投資をしてスピードを求められますが、競争のない社会はそれほど、スピード感はいらないのではないかと思います。かつて聞いた話ではゼロックスなんかは15%ルールというのがあって、ニーズやシーズが明確じゃないものに対して、ある程度の範囲内で自由に挑戦することができたようです。日本の社会の中でそのようなアプローチが一番不足しているんじゃないかと思います。
 半導体開発もそうですが、決まったロードマップにのっとったものに対してはみんな集中してやって、いい成果を上げているのが日本社会ですが、アメリカ型というのは逆に誰もやっていない新しいものを作ろうとするという意識が強いので、それに挑戦したいなというのが意図でございます。
 そういう意味では、スピード感というよりも認知されるのにも時間が必要だと思っています。そういう点で御理解いただきたいと思います。以上でございます。
【山本(佳)委員】  ありがとうございます。
【馬場主査】  ありがとうございます。そのほか何かございますでしょうか。どうぞ。
【米沢委員】  どうもありがとうございます。高尚な議論に行っているところでちょっと引き戻して申し訳ないんですけど、村富先生の方に、説明会の参加企業の数というのは1回当たりどのくらいなのかということと、これ選定されるときにどういう基準で誰が選定されているのかということですね。
 それから、試作を進めていくと多分、だんだんものが、事業が死の谷を越えていくようなところになってくると、横浜・東京近辺ですとたくさんあるのかもしれないんですが、地域の企業だけじゃ足らないという事態が起きてくると思うんですが、そういう事態があったか、なかったかという例だけちょっと教えていただけますか。
【村富横浜国立大学教授】  まず、説明会が何社かということなんですが、基本的にはこちらに書いている支援機関、6機関あるんですが、6機関に一応声を掛けて、各機関に1社紹介してもらうようにしています。その中で案件によっては紹介できない機関もあって、大体5社とか4社ぐらいが説明会に参加します。
 説明会では意図とシーズを説明するんですが、それに対する提案の中身が最も重要です。できるかどうかではなく、とがったものかどうかが重要な基準です。実は企業によっては普通の発注業務と同じように明確な仕様を要求する場合があるんですね。構想の方が大事で失敗を恐れずに仕様はお互いでこれから作り上げましょうというスタンスなわけです。それなので随意契約をするわけですね。新しいものなので、新しい価値をどんどん作っていくということが必要なので、下請体質のように仕様を求めるような会社は選定されません。
 対話プログラムということもありましたが、対話をしながら、お互いにものづくりに対する意識、とがったものを作りたいという意識が出てくるかどうかというところが一番のポイントだとも思っています。でも、最後までちゃんと作る努力をしてくれる会社であってほしいという希望はあります。
【米沢委員】  広がったときに地域外の企業との連携があるか、ないか。
【村富横浜国立大学教授】  地域外との連携というのは、私は意図しているんですが、今のところは単機能のものが多いんですね。そういう意味では、今後もうちょっとシステム化して、ITを入れようだとか、そういうふうな広がりを見せたら、そういうアプローチをしたいと思います。そういうところもこの支援機関がいろいろ企業のデータベースを持っていますので、この機関に依頼したいと思います。
 それからもう1つは、横浜国大だけで対応できないシーズ案件は、かながわ産学公連携協議会の仕組みを使って、ほかの適切な大学に依頼することもあってよいと思っています。この点ではこの事業の成功確率を高める努力の一つと考えております。
【米沢委員】  ありがとうございます。
【馬場主査】  ありがとうございます。まだまだいろんな御意見あるかと思いますが、予定の時間を大分オーバーしておりますので、この辺にさせていただきたいと思います。
 私も実は感想だけ申し上げますと、ごく最近、企業のトップの方とお話をしたときに、私たち団塊の世代の人間は会社に就職したらそれで終わりと。企業の中でイノベーションを起こそうなどと思ったことは一度もないと。そういう時代に生きてこられたわけですね。ただ、その方が、これからは企業の中で新たなイノベーションを起こせる学生を大学が育ててほしいと、そういう言い方をされます。
 多分それのやり方として、柘植先生がよく言われている、大学の中でも、大学だけではなくて、社会と一緒になって育てていくいろんな試みをやると。それが今、お二人にお話を頂いた1つの例、大学によっていろいろ違うけれども、いろんなもの、それが、今回のテーマは情報発信とか提示方法とか書かれていますが、やはり三位一体の形で活動をやっていく、そういうことが情報発信であり、新たにこういうふうにやるんですよという1つの提示方法になるかと思って聞かせていただきました。
 後半のまとめも時間が必要ですので、これで前半の方を終わらせていただきたいと思います。どうもお二人の先生ありがとうございました。
 それでは、後半の報告書の骨子案についてということですが、まず事務局の方からこの案に関しての説明をお願いいたします。
【横井大学技術移転推進室長】  大学技術移転推進室長の横井でございます。それでは、資料3の方に基づいて説明をいたします。
 それから、資料3の後ろに資料4があって、資料4の後ろに順に、先ほど資料配付の確認のときにも御紹介しましたけれども、参考資料1から6までございます。骨子の中で参考資料1から6に触れております。皆さん既に御案内のことばかりかもしれませんけれども、備忘録代わりに使っていただければと思っております。
 それでは、資料3に基づきまして、骨子案について説明申し上げます。
 まず、1.「はじめに」のところでございますが、本作業部会としての問題意識の方を整理いたしました。1つ目の○でございますけれども、大学等における産学連携活動の体制整備の進展、それから自立的・持続的な活動基盤の構築といったことを書かせていただいております。
 2つ目の○でございますけれども、新たな市場創出等につながるイノベーション創出システムが構築できていないことが課題となっていて、産学官連携が強く期待されていると。
 3つ目の○でございますが、大学等は来るべき社会のデザイン実現のために必要なイノベーションの創出を図るためにどのような貢献ができるか、自ら問い続けるシステムを整備することが必要。
 4つ目の○ですけれども、これまでに構築された大学等における産学官連携機能をイノベーション創出推進の観点から再整理し、これを担う人材育成等の強化策について検討するということでございます。
 次に、2.の「大学等発のイノベーション創出の現状認識」のところですが、これはこれまでほかの審議会等において議論されてきたものを整理させていただいております。
 1つ目の○でございますが、第4期科学技術基本計画の科学技術イノベーションの提示、詳細については参考資料1の方を御参照ください。
 それから2つ目の○でございますが、昨年12月のイノベーション・エコシステム推進の報告書において、産学官連携活動における体制整備の施策の成果と課題を指摘している。詳細についてはこれも参考資料2の方でお示ししているところでございます。
 それから3つ目の○でございますが、本年5月の大学等発イノベーションの対話促進の報告書でイノベーション対話促進プログラムを指摘しております。これにつきましても参考資料3の方を御参照いただければと思います。
 それから2ページ目の方に参りまして、1つ目の○でございますが、本年4月の我が国の研究開発力の抜本的強化のための基本方針においても、産学官連携の具体的な方策の検討を指摘していると。詳細につきましては参考資料4の方を御覧いただければと思います。
 続きまして、3の「大学等発のイノベーションの創出に必要となる機能について」のところでございますが、1つ目の○でございますけれども、産学官連携の拡大、多様化についての記述でございます。
 それから2つ目の○でございますが、産学官連携本部の機能強化の必要性について言及しております。先ほども議論の中で出てきておりましたが、教育研究イノベーションを三位一体で推進するイノベーション・エコシステムを確立するということについて言及しております。
 それから3つ目の○でございますが、機能強化のうち、特に大学等の研究成果を社会へ提示する機能を強化する観点から、情報収集力、分析力、発信力の向上、窓口のワンストップサービス化等を図るなどの外部からアクセスしやすい環境作りが重要であるとしております。
 それから4つ目の○でございますが、産学官連携機能は各大学等が自らの選択で機能の比重の置き方を決めて、その比重の見直しを不断に行っていくことの必要性について言及しております。
 機能の例示としましては、以下の丸数字4つ掲げております。
 マル1としまして、国際的な教育研究拠点として、将来の有望なニーズの先見性に基づいて社会を大きく変えるイノベーションを創出する産学官連携。マル2としまして、企業や社会のニーズと大学等のシーズのマッチングにより、イノベーションを創出する産学官連携。マル3としまして、企業や社会のニーズに対して提案型の研究開発を行うことで、企業や社会のイノベーションを支援する産学官連携。マル4としまして、各地域における現在のニーズに応える知識・技術を提供し、企業や社会のイノベーションを支援する産学官連携。
 2ページ目の一番下の○でございますが、大学等のネットワークや産学官のネットワークの構築を通じた大学等間の連携、協働の推進、各機能の補完、充実強化の重要性について記述しております。
 3ページ目の方に参りまして、4.「イノベーション促進人材について」のところでございますが、まず1つ目の○のところでございますけれども、こちらにつきましては、イノベーションの創造のための人材全体像につきましては、平成21年8月に「知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて」という報告書で整理されているところでございます。詳細については、参考資料5の方を御覧いただけますと抜粋が載せてございます。
 それから2つ目の○でございますが、本作業部会では、このうち産学官連携コーディネーター、URA、事務職員等のイノベーション促進人材について整理するということにしております。
 それから3つ目の○でございますが、昨年12月のイノベーション・エコシステムの推進の報告書では、シーズ・ニーズ創出をコーディネートする人材の育成、それからリサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備のそれぞれにつきまして、現状、課題及びその対応策について整理しているところでございます。詳細については、これも資料6の方を御覧いただきますと報告書の抜粋の方が載っているところでございますので、御参照ください。
 4つ目の○でございますが、イノベーション促進人材の間の協働関係、イノベーション促進人材と教員との協働関係の構築の重要性について言及しております。
 それから5つ目の○でございますが、協働関係について様々な形が可能として例示をさせていただいております。また、協働関係の構築のためにそれぞれの大学等において産学官連携コーディネーターやURAのミッションを再確認、再定義することの必要性について言及しております。
 6つ目の○でございますが、各大学において協働関係が適切に構築されることによって、教員が研究に専念できる環境の整備、それから教員のイノベーションマインドを育む、イノベーションマインドを醸成するような、そういったこと、それからイノベーションの源泉となる知の創出力の強化が可能となり、体制整備、チームとして機能することが重要と整理しております。
 それから7つ目の○でございますが、イノベーション促進人材の育成確保に当たっては、スキル標準や教育研修プログラムの整備を引き続き進めることが必要と。また、イノベーション促進人材については大学等を超えたネットワークを構築することが重要であると。
 それから、3ページの一番下の○ですが、イノベーション創出人材の一部につきましては、任期付きの人材であることから、流動性確保のための情報共有ができるデータベースの整備、充実の必要性、優秀な人材確保のための雇用の安定が課題と整理しております。
 続きまして、4ページ目の方へ参りまして、1つ目の○でございますが、産学官連携コーディネーターの大学等と外部との窓口機能、社会的ニーズの把握の機能は必要ながら、そのノウハウが組織として継承されてきていないことが課題としております。それから、外部からの人材登用が有用であること、更に大学が全ての機能を担うのではなくて、外部のコーディネーターの活用もまた有用としております。
 それから2つ目の○でございますが、URAについては、知名度を上げる、資格等による認定制度を設けるなどによりキャリアパスを確立することが必要としております。
 それから3つ目の○でございますが、URAに必要な知識・技術を博士課程の教育に組み込むことにより、ポスドクのキャリアパスの1つとなる可能性としておりますが、日本においては博士課程の大学院生が研究を支えていることに留意することが必要としております。
 それから4つ目の○でございますけれども、イノベーション支援人材が産学官連携の重要性を伝える講義を学部や大学院生の学生に対して行うことも一考としております。
 次に、5.の大学発のイノベーション創出のための具体的手法につきましては、もう既に御議論いただいたところでございますが、骨子案では1つ目、2つ目の○のところ、相互に協力する仕組みの構築の重要性、中核となる人材の育成が鍵であり、社会の支援を得ることの重要性について言及した上で、3つ目の○でございますけれども、大学等の産学官連携本部がイノベーション創出の中心として関係者間の情報共有、外部への情報発信を行うことの重要性に言及しております。
 以上で説明を終わります。
【馬場主査】  どうもありがとうございました。
 この骨子案について御議論を頂きたいんですが、その前に、このまとめは今回で終わるのではなくて、今回少し御議論いただいて、少し時間を置きまして最終的にまとめたいと思っておりますので、そのことを前提に、ここではフリーな立場で結構ですので、御意見を頂ければと思います。どうぞ。
【松永委員】  いきなり細かい話になってしまうかもしれませんが、議論の最初の方にコーディネーターなのかURAなのかという話があったかと思います。つまり、この部会としてはそういう人材のことをイノベーション促進人材と定義しようというのが取りまとめ骨子の1つの提案かと私は受け取ったのですけれども、まずそういう理解でよろしいでしょうか。
【横井大学技術移転推進室長】  今の御質問につきましては、古い話になりますけれども、1回目に検討課題というものをお示ししたところに、一応事務局としてはイノベーション促進人材ということで、その括弧書きの中に産学官連携コーディネーター、URA、事務職員等という形にしたので、その整理を生かしておりますが、これから更にはみ出た議論をしていただいても構いませんし、今の定義としてはそのような形で整理したところです。
【馬場主査】 「はじめに」のところとか現状認識のところにはそういうのが出ていない、そういうことですね。
【松永委員】  おっしゃるとおりです。
【馬場主査】  だから、最初の方にもう少しURAとかいうものを具体的な名前として入れたらいかがかという。
【松永委員】  はい。1つはそういう項目なり注意書きが必要かと。
【馬場主査】  そのほか。じゃ、野口先生、お願いします。
【野口委員】  2点ありまして、1点目は、3ページの4.のイノベーション促進人材の上から5つ目の○のところ、非常に重要な部分と思います。その文中で「協働関係としては」ということで始めている文面のところなんですけれども、そこの3行目で「それぞれの大学等において、産学官連携コーディネーターやURAのミッションを再確認することが必要」と記述しています。この記述なんですけれども、逆に、ここを見ると、定義付けというのは大学に任せるというように取れるんです。
 我々の発信する提言というものは、“こうあるべきではないか”というような、それぞれの立ち位置について、積極的に発信することの方が大事ではなかろうかというのが1点です。
 2点目が、目的が、1.の「はじめに」にある4つ目の○、ここは今回の部会の目的だと思います。人材育成等の強化策等についての検討ということで、この強化策について今回のまとめのところで具体的に、3ページの4.のところの下から2つ目の○にもありますスキル標準とか教育研修プログラムの一定の枠組みにまで言及していくのか、それとも提言だけにとどめるのかというところははっきりさせる必要があると思っています。今回、骨子ですので、今後まとめに入っていくときに広がりを持たす必要性も出てくると思いますが、今次の骨子において、“どこまで踏み込むか”など少し濃淡をつけた表現を考える必要があるのではないかという感じがします。
【横井大学技術移転推進室長】  事務局から少し補足をさせていただきますと、まず再定義のところですが、先生方、再定義は必要だということであれば、この場で御議論を深めていただいてということも考えておりますけれども、参考資料6の方を御覧いただきますと、昨年の12月に、この作業部会とは別のところになりますけれども、産学官連携委員会というものがございまして、その中でイノベーション・エコシステム推進についてということで、1つ目はコーディネーター人材、産学官連携コーディネーターについて(1)で整理しております。
 それから(2)で、URAを育成・確保するシステムの整備という点で、それぞれコーディネーター人材のこと、URAについては、この産学官連携推進委員会としては整理されているところで、これをいろいろな積み上げをされている大学の中で、コーディネーターを生かしながらなのか、URAを活(い)かしながらというところで、これからどのように再定義していただく必要があるのかどうかという問題意識でこの骨子の方を書いておりますので、もう一度、何かこの場で定義をして示した方がいいのかということと、それとも、この定義は定義として、例えば24年12月に書かれているようなものを踏まえた上で、それぞれの大学において、この定義を踏まえた各大学等でのURAと呼ばれている方の役割、それからコーディネーターと呼ばれる方の役割というのを決めていくのかということかという、そういう骨子になっているところです。
【馬場主査】  ありがとうございます。今の点は、文章では3ページのところ、先ほど問題になった再確認ということで、定義は今回はしていないつもりで進めてきていますが、そういう認識でよろしいでしょうか。改めてURAとかコーディネーターの定義をしたという議論は、この部会ではしていないと思いますので、再定義ということはちょっと控えていただきたいというふうに思いますが、よろしいですか。
【横井大学技術移転推進室長】  はい。
【馬場主査】  ありがとうございます。そのほか何か御意見ございますか。
【永里委員】  報告書は、これは私の希望ですけれど、一般の人にも読んでもらいたいと考えます。非常に難しいことがたくさん並べてあっても読まないと思いますので、実は、一般的にはエグゼクティブ・サマリーと言いますけれど、A4、1枚ぐらいに何を言いたいか、提言も含めてまとめるということ、そのほかに、今度は本文においては、参考資料6を見てくださいと書いてありますね。これについてある程度内容を紹介したような書き方をしてほしいということですね。
 それからもう1つ、新聞とかマスコミにとりあげもらうためには、索引というか、定義とか、あるいは用語解説、これを最後の方に付けてもらいたい、こう思います。
 それが私の報告書のまとめかたの提案ですけど、そのほかに、直接報告書と関係ないんですけど、きょうの議論も踏まえまして申し上げたいのは、実は、先ほど久保田先生の方からもありましたけど、申し訳ございませんが、大企業の立場で申し上げます。
 会社は非常に成果を求めていまして、シェープアップしていまして、半歩先のことしかやらないんです。半歩先の研究開発とか何とか、二、三歩先というようなのはやりません。というのは、成果が出てこないから。かつ、株主からいろいろ指摘がありますので、株価の問題で、赤字をずっと出していて、成果がいつ出てくるか分からないというようなのはだめなので、必要であっても、数歩先のことはやらないんです、最近は。
 ということは、そこは大学とか大学院がやるべきなので、ここのところが非常に重要だろうと思います。そこに、大企業の欲しがるシーズ、そういうものが反映されるような仕組みが必要だろうと思います。
 それからもう1つ、人材の流動化というのも重要でして、今の技術は明日は陳腐化する可能性があるので、応用力の利く人たちが必要です。ところが、人材の流動化におきまして、実はもう大企業においては行われております。中途の採用ですね。これが行われているので、人材の流動化は行われているんですが、先ほどの御指摘のあった、学生が起業して、そして実績がない人たちは、残念ながらそういう中途採用で採用される可能性が非常に少ない。なぜならば、企業側に目利きがいない、人事採用の方に目利きがいないので、採用されないのです。
 私も含めてちょっと反省をもって言いますけれど、日本は高度成長でそれ行けどんどんでやっていたときには、いろんな人材が輩出したんですが、しょせんこれは今求められている人材とは違うんです。元気のいいリスクを恐れない人たちが成功していったんです。だけど、今はそういう時代じゃないんで、まさしく新しい人材が求められていて、そういう意味で人材の流動化が重要だと。
 この場合、多様性が重要だと。イノベーションを起こすのは多様性ですから、非常に居心地が悪いんですけれど、仲間でそういう多様性のある人たちでイノベーションを起こしていくことが必要だと思います。
 それから最後に、大企業でブレークスルーするようなイノベーションを起こしたのはどういうときかというと、実は強力なリーダーシップがあったということで、イノベ-ションを生むのは強力なリーダーシップが必要だということ、若しくは強力なパトロンがいなきゃ駄目だということで、ここはこの報告書にはちょっと書けないと思うんですけれど、本当はそういうことなんです。
 以上、ちょっと感想を含めて言いました。
【馬場主査】  ありがとうございます。今のことは非常に本質ではあるんですけれども、とてもそこまでこの報告書に盛り込めない部分が多分相当含まれていたかのように思います。
 今の永里先生の議論の中で、1つだけ確認をさせてください。大企業ではやらない、できないから、大学、大学院がやるべきということを申されましたけれども、私はいつもそれが気になっているので。一緒にやるべきというのはよく分かります。
【永里委員】  これは実は久保田先生にエールを送ったのですが、私は化学業界の人間なんですけど、今もうかっていて、どんどん新しい芽が出ているのは、大企業の上部が研究をやめさせて、実は、係長以下の人たちが内緒でやっていた研究なのです。ということは、事業化には何年もかかっているわけですね。だから、昔はそういう余裕があったんです。今はものすごくコストを圧縮し研究開発のアウトプットをぎりぎりやっているので、なかなか余裕がないです。
 馬場先生のおっしゃるのはよく分かっていて、大企業こそそういうことをやらなきゃいかんのだと思うんですけど、その余裕がないというのは、昔と違って株主からの指摘があるんですよ。そんなことをやるよりはもっと株価を上げるようなことをした方がいい。ということは何もしないで、内部留保を、内部留保というのは研究開発の設備投資のためにあるんですけれども、それを全部配当に回せというような指摘が行われているのが昨今です。
 これはアメリカ型経営の典型的な悪い点なんですけれど、実際はそれが行われているのです。大企業は株主を重要視しますから。中小企業は、オーナーだったら別ですけど、そのことを言っております。以上です。
【馬場主査】  ありがとうございます。そのほか何か御意見ございますか。
【柘植主査代理】  何点か、こうやって読んでみると、前よりは大分読む人が文脈がよく分かるということになってきたなと思います。特に、文脈がよく分かるようになってきたというのは、3ページ、4.ですね。イノベーション促進人材ということに対して、最初にイノベーションの創造に不可欠な、社会基盤を牽引する人材の育成と活躍、これはいわゆるイノベーションを創出するフルスペクトルの人材というものが当然あって、ここでは2つ目の○のようにイノベーション促進人材について整理していく、そのところが分かりやすくなったなと思います。
 今後の話で少しリワーディングを提案したいのは、そのページで5個目の○ですね、協働関係についてはということで幾つかの例が書いてあります。特に注目すべきなのは、URAをコーディネーター的に活用するとか、教員や職員もURAの機能を持たせるとか、起用するとか様々な形が可能、こう書いてある。
 これは非常に大事な記述でありまして、リワーディングの提案の前に、なぜリワーディングするかという、結局、現在は教員、職員、それからURA、コーディネーター、こういう公式用語に近い言葉になっていますけれども、本当に日本の大学、社会的な使命を果たす意味の大学はこういう職種の分け方でいいんだろうかというのは私自身持っていて、結論すると、究極は、教員と職員は多分分けざるを得ないかもしれないけれども、職員の中にコーディネーターもありURAもあるという、そういうストラクチャーにいずれ日本の大学はなっていかざるを得ないんじゃないかなと予感はしています。しかし、それは私の主観であります。ですから、そういう意味で様々な形が可能であるという、この記述は私は非常に大事な記述として残したいと思います。
 そういう中で、その次にリワーディングの提案ですけれども、「そのため、それぞれの大学等において」というこの文章がありますけれども、原案の「産学官連携コーディネーターやURAのミッション」、この間に「本来持つべき社会的ミッションの発揮の一層の強化の視座に立ち」と。つまり、原文の「それぞれの大学等において、本来持つべき社会的ミッションの発揮」、「の」が多過ぎるかな、「ミッション発揮の一層の強化の視座に立ち」で、原文に戻って「産学官連携コーディネーターやURAのミッションを再確認する」と。
 この再確認の意味が、さっき私が申し上げたように、どんなふうになっていくのかということは、当然、基盤にあるのが、大学等が持つ、本来の持つ教育研究、社会貢献という使命が、それが今イノベーションという面で足りないぞと、こう言われているわけですね。一方じゃ研究者は、自分はそんなことをやっている時間がないと。本来持つべき社会的ミッションの発揮の一層の強化の視点というのが全ての基盤じゃないかなと、コーディネーターにしてもURAにしても。そういうことで、再確認というのが最終的にどうなっていくのか、まだ分からないけれども、今のような記述においてディファインしておきたいなと思うので。
 それからもう1つ、提案ですから、また審議いただきたい、その下の下から2つ目のネットワークのところです。大学等を超えたネットワークを構築することが重要と。これは本当に間違いないんですが、何も我々これブランドニューの構築のことじゃなくて、我々やってきたわけですね。
 ですから、この文章に追加して、「構築することが重要。このためにネットワークの現状の見える化と要強化策の具体策が必要である」ということを書けば、今まで結構やってきたし、それから一部事業仕分で瓦解されちゃったこともあるんですけれども、そういうことで「要強化策の具体化」、この文章を入れた方がいいんじゃないかなと思います。
 以上です。
【馬場主査】  ありがとうございます。きょうはいろんな御意見を頂いておいた方がいいと思いますので、そのほか御意見ございますか。どうぞ。
【山本(外)委員】  前の第1部の方からずっと頭ぐるぐる回しながらイノベーション・エコシステムの絵柄を描きつつ、いろいろ考えていました。イノベーション促進に当たっては基本的に人でしかないわけで、非常に人が重要というのは今更言うまでもないんですが、それぞれのセクターの中にいる人材がその中で閉じこもるんではなくて、むしろそうした人材をセクター間で基本的に流動化させるという仕掛けを重視していった方がいいのではないかと。
 先ほどファブラボで活躍している人材の話があるとか、あるいは大学の中に今でも残って、あるいは地域の中に残っているコーディネーターが活躍されている実態も承知しました。大学所属とかどこどこ所属とかそういうふうにセクターで切っていくんではなくて、セクターに必要な人材の機能定義をして、先ほど柘植先生がおっしゃったように、個々の人材がそういうセクターを動いていくような、そういうふうなことの方がむしろいいのではないかと思います。セクター所属人材のネットワークを組むより人材そのものをセクター間で流動化させていく仕掛けを考えてはどうか。
 もっと具体的に言うと、企業の出身者あるいは研究者がもっと大学の教員として教える側に立ってもいいのではないかな。あるいは、ラボオンキャンパスという話がありますが、むしろラボオンキャンパスじゃなくて、大学の研究者が企業の研究室に行ってはどうかな。これを例えば研究室単位で行ってはどうかな。あるいはサバティカルを使って教員が海外機関で研究体験をする場合、海外にいながら論文指導や教育指導が必要ならば、研究室単位で海外大学へ転々と移っていったら、指導しながらいろんな交流も生まれる。そうした流動化というものをどうやって担保する仕掛けをしていくかというのが肝じゃないのかなというふうに思っております。
【馬場主査】  ありがとうございます。そのほかございますか。どうぞ。
【内島委員】  感想というところにもなるんですけれども、今日用意いただきました骨子を拝見いたしまして、私自身が地方の小さな大学で産学官連携をやっている立場として幾つか申し上げたいなと思うことがあります。
 1つは、骨子の3ページ目にあります4.の下から2番目ですね、スキル標準や教育研修プログラムの件です。あと4ページの一番上にありますコーディネーターの外部からの人材登用ですとか、地域のコーディネーターを活用することも有用という点です。その2点に関して私の方からちょっと申し上げます。
 地域の社会において役立つ産学官連携を行っていく人材という意味では、スキル標準というものももちろん必要なんですけれども、そのほかにやはり地域ならではの地域環境ですとか、地域は自治体とのつながりが密接であったりですとか、大切にしなければいけない関係、地域ネットワークがございます。また、地域に固有のふさわしいアウトリーチ、というのもございます。どんなことを相手が必要としていて、それを解決するためにどのようなことを提供していかなければならないかという、そういうアウトリーチの質や重みは一般的に考えられる標準的なものと大きく異なります。そのあたりに対する認識と、その実行能力というのは必要だなと思っています。
 また、オープン・イノベーション、エコシステムとありますけれども、やはりリニアモデルの上流から下流というような幅広い専門知識というのも地方ではより必要になりますし、地域に焦点を当てた人材というものも育てていくことが、これまで以上に一層注力していく必要があるのではないかなというふうに感じております。
 ただ、地方の人材を、そのまま活(い)かすようなことというのも非常に考えづらいので、地道に時間を掛けてそれなりの育成が必要にはなるかなと思います。そういうことを1つ大きく感じました。
 あと1点、先ほどのCDとURAのお話もありまして、これまでのこの部会の中でも話題になっていますけれども、改めまして地方の小さな大学で行う立場としましては、やはり双方どちらの活動とも、人によって活動の要素の強弱はあるんですけれども、双方の活動を何らかの形で担っております。どちらの機能も必要で、私はコーディネーターという立場ですけれども、URAという定義の中で示されているようなものについても活動を行っております。私たちの立場から言うと、将来的にはやはり提案としてありますイノベーション促進人材というような一くくりになるような感じで、CDとURAというのは将来的には区別する必要はないのではないかなというふうに感じております。
 以上になります。
【馬場主査】  ありがとうございます。どうぞお願します。
【山本(佳)委員】  まず事務局に質問なんですけれども、取りまとめがこういうふうな文章であって、その前に、永里さんがおっしゃったエグゼクティブ・サマリーみたいな要旨が付くと考えてよろしいですか。
【横井大学技術移転推進室長】  作業部会での御意見が一致すれば、そのような形にいたします。
【山本(佳)委員】  といいますのは、この文章を読んだときに、「この報告書は何を言っていて、何が新しいの」というのがすごく分かりにくい気がします。私のようなメディアの仕事をしていて、これを読んで「社会に発信しよう」と思ったときに、「これどこが新しいの、今までのいろんな報告書もあるけど」と思ってしまうので、そこはもう1回、まとめで強調した方がいいと思います。
 私が思ったのは、「産学連携の機能にしても、CDやURAの協働関係にしても、いろいろあるんだけれども、各大学がもっと自らがこの役割でやるということを明確にしなさい」というのが1つのメッセージなのかなということです。委員である私でさえ、「かな?」と思うのは、報告書としてはまだ完成度として足りないんだろうなと感じました。もちろんこれからの議論ということですけれども、そういうふうに思いました。
 イノベーション促進人材というのがCDやURAを指すということも、今の委員であれば分かりますけれども、報告書をぱっと見た人が分かるかというと分からないので、早い段階で、一言でいいので入れた方がいいと思いました。以上です。
【山本(佳)委員】  タイトルですね。
【柘植主査代理】  うん、このタイトルがね。
【山本(佳)委員】  何の報告書か分からないですね
【柘植主査代理】  ただ、私は認識不足かもしれないですけれども、暗黙のうちに、ここはイノベーション促進人材の育成と何だろうか、つまり、大学等が持つ社会的使命の発揮の強化策とか、そういう表題になるかなと思うんですけれども、間違っていたら皆さんで。
 結局、「はじめに」とか現状認識というのは、今まで、言うならば日本のイノベーション創出能力を強化する策をよかれと思ってやってきた現状として、3.もそうですね。その中でいよいよ本論で、3ページで4.でイノベーション促進人材という新しい言葉が出てきていて、それはイノベーションを創出する様々な多様な人材の中で、2つ目の○で定義している。そこから本論に入ってきていると思うんですけれども、私はそういうふうな認識でこの議論に参加しているつもりですけれども、なるべく早くこの表題を作らないと、山本委員がおっしゃったことがみんな共通の問題だなと思います。
【永里委員】  いいですか。
【馬場主査】  どうぞ。
【永里委員】  私がエグゼクティブ・サマリーを作ってほしいと言ったのは、皆さんに理解してほしいから、社会の人たちが読んでほしいからという意味なんですけれど、それは実は山本さんがおっしゃったことなんです。要するにマスコミが取り上げてくれなきゃ意味がないわけで、マスコミに分かりやすく説明するということでもいいですから。要約すると、これが大したことじゃないというのか、あるいは非常にいいことを書いているというのは分かるわけです。
 ですから、要約することによって、自分たちはここをもっとブラッシュアップして、ここの内容を固めなきゃいけないということも逆に出てくるので、そういうことで1枚にまとめるということは非常に難しいですが、それを1枚にまとめるようなことを考えたときに、初めてその報告書の価値が出てくるんだろうと思います。
 以上です。
【馬場主査】  ありがとうございます。今、まとめ骨子というのは通常どおり「はじめに」と、それから現状認識があって、それで機能の役割があって、それから本論に入っているという筋立てになっています。この筋立て自身を少し考えたらいかがかということにもなるかもしれません。
 一番議論したイノベーションの促進人材というものをもうちょっと表に出して、まとめ直すというやり方もあるかと思います。
 どうしても私たちにとっては、バックボーンになるいろんな参考資料がたくさんあって、これを読まないとなかなか議論の中に入れない、当たり前ですけれども、そういう背景があるので、ただ、その背景を先に出すと、そこで皆さん疲れてしまうということもあるかもしれませんので、それを後ろに付けてやるという方法もちょっと考えていただきたいし、委員の方からも是非、そういう意味では、この筋立て自身についての御意見も頂きたいと思います。
 次回までに少し時間を取らせていただきますので、その間にいろんな実は情報もまた入ってくるかもしれません。そういうことも踏まえて少しやらせていただきたいと思いますが、そういう流れでよろしいでしょうか。あるいは、その流れについても御意見いただければと思いますが。
【柘植主査代理】  1つだけ、きょう決めなくていいんですけれど、私自身も迷っていますのは、この表題はどんなになるのか。つまり、我々にギブンされたのは日本のイノベーション創出機能強化策なんですね。そのアンブレラの下で今、特に我々注力しているURAとかコーディネーターを入れた促進人材、ですから、この表題をどうとらまえるかで随分後の骨子に違ってくるんですね。
 永里さんの言われるエグゼクティブ・サマリーの1枚で勝負するときも、どちらで勝負するんだということを問われているので、これについても是非早めに決めていただくといいんじゃないかなと思います。
【馬場主査】  はい。そうしましたら、今まで頂いた意見を基にして一度、骨子というのもあれですが、案を大至急作りますので、それについてのまた御意見を頂ければと思います。
 そのほか、よろしいでしょうか。どうぞ。
【村富横浜国立大学教授】  よろしいですか。1件だけ、イノベーション促進人材について申し上げたいことがございます。お作業部会としてこういう人材が欲しいとの希望は理解できるのですが、逆になり手の気持ちも考慮される必要があると思います。実際に例えば大学を卒業した若者がなりたいと思うか、企業を辞めてもなりたいと思う人がいるかという観点が必要と思います。何らかの魅力がないと、いい人材は集まらないと思うんですね。そのための仕組みというのは必要だなと思っています。
 実は、私は技術士なんですが、技術士の資格はエンジニアの目標の一つとしてあるんですが、社会的認知も低く、最近ちょっと低調なんですね。何が問題かというと、技術士は試験が難しい割には、弁護士と異なり、名称独占資格ではありますが独占業務がないんです。つまり、技術士と名乗ることは独占できても技術士じゃないとできない仕事というのはないんです。
 そこで提案なのですが、このイノベーション促進人材というのは、実は大学だけじゃなくても、例えば企業にも場合によっては必要かもしれないんですね。スキル標準もいいんですが、それをもとに国家資格を与えて、独占的な職務権限を与えることを御検討いただけるとよいと思います。例えばA-STEPの探索タイプはコーディネーターの申請案件ですが、例えば競争的資金を取るのにそういう人材を関与しないと取れないものとか、何かそういう仕掛けを作ると非常によいと思います。そうすると大学もそのような人材を積極的に組み込み地位も向上すると思います。更に企業や公的機関にも必要な人材となれば、人の流動化も促進されます。社会から尊重されると、そのなり手も増えて競争が激しくなり、職業としても認知され、イノベーションも促進される循環システムができるのではないかと常々思っております。
できるかどうか分かりませんけれども、そういう考えがあるということだけ言いたいと思いまして。よろしくお願いします。
【馬場主査】  ありがとうございます。是非その辺もまた考えさせていただきたいと思います。少し議論にはなりましたけれども。
【村富横浜国立大学教授】  そうですか、よろしくお願いいたします。
【馬場主査】  はい。
【久保田多摩美術大学教授】  僕からも1つ。
【馬場主査】  どうぞ。
【久保田多摩美術大学教授】  先ほどの永里先生からの御意見も含めて、ファブラボのような場を社会がいかに活用していけるのか、ということを是非考えていただけると、僕としては嬉(うれ)しく思います。
 ファブラボとは何か、というのは僕らの中でもいつも議論になりますが、あれが単に新手のベンチャー会社を立ち上げたという話になってしまうと、利潤を上げるだとか、売れるものをつくる、といったこと自体が目的になってしまいます。それに対して、これからのオープンな社会の中で、一体どこがR&Dを担えば良いのか、ということを考えてみると、ファブラボ自体をオープンな研究室として、つまり社会全体でR&Dをやる場所のひとつとして、皆でシェアしていくことができれば、多分そこからいろいろなイノベーションが起こり得ると思うんです。企業でも個人でもファブラボで起こっていることをどんどん盗み取ってほしいというイメージで、いろんなところにオープンな研究所ができていくことが、ソーシャルなイノベーションのためにはとても大事だと思っています。そうしたファブラボのようなオープンな場をイノベーションのためにどう支援し、どう活用したらいいかということに対して、いろいろ御意見、御提案いただければと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。
【馬場主査】  ありがとうございます。今の件、私も何かこう日本特有のそういう仕組みができたらいいなと思っています。やっぱりアメリカとは全然社会背景が違いますので、いわゆるどこの企業にも属さずにファブラボに属するということもあるかもしれませんが、例えば大企業にいる人もファブラボの中で活躍できるような、日本の場合はそういうものがあってもいいのかもしれないというふうに思っています。
 なかなかアメリカのように起業どんどんできる背景に今はありませんので、そういうのもありで、それで自分の企業にそれを持って帰ってもいいと。そのリターンをどうするかの問題はありますけれども、是非そういう逆提案もお願いをして、先ほどお伺いすると、今年から予算を少し国からもらえるようになったというふうにお伺いしましたけれども、そういう点で是非提案をしていただければと思います。よろしくお願いします。
【久保田多摩美術大学教授】  ありがとうございます。
【馬場主査】  ちょっと時間を超過していますが、この辺で終わらせてもらってよろしいでしょうか。どうもすいません、ちょっと不手際で時間を延ばしてしまいましたが、それでは、本日これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
 あっ、ごめんなさい、事務局の方から今後のスケジュールを忘れていました。ちょっと焦っています。
【鷲崎大学技術移転推進室専門官】  今後の予定だけ、すいません、最後失礼いたします。
 資料4、お手元にございますけれども、第5回といたしまして、10月中旬から下旬のところで調整させていただきたいと思います。この最後、報告書の取りまとめを御審議いただく予定でございまして、本日頂きました議論を基に報告書のこちらでたたき台なり、事前に調整させていただいた上でお示しさせていただければと思います。
 以上でございます。
【馬場主査】  改めまして、それではどうもきょうはありがとうございました。
 
 
 ―― 了 ――

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