第2部 審議状況報告~産学官連携の推進に関する今後の重要課題について~

(産学官連携推進委員会における調査・検討結果の取りまとめ)

第2部 目次

はじめに

1.今後の産学官連携についての基本的な考え方

2.産学官連携の現状と課題

 1.産学官連携の進展状況
 (1)これまでの国の取組
 (2)これまでの大学等の取組
 (3)産学官連携活動の現状と成果

 2.産学官連携を取り巻く課題
 (1)大学等と産業界との協働によるイノベーション創出に向けた場の必要性
 (2)研究推進のための自由の確保と知的財産制度のバランス
 (3)研究成果の創出と活用に向けた課題
 (4)地域における産学官連携活動に関する課題
 (5)国際的な産学官連携活動に関する課題
 (6)大学等における産学官連携体制や人材の育成・確保に関する課題

3.イノベーション創出のための産学官連携の深化に向けて

 1.産学官連携の深化に向けた取組の方向性について
 (1)産学官協働によるイノベーション創出に向けた新たな場の形成
 (2)研究活性化及び活用促進に向けた知的財産開放スキームの構築
 (3)研究成果の創出と活用に向けた支援の充実
 (4)地域における産学官連携活動の推進
 (5)国際的な産学官連携活動の推進
 (6)産学官連携のための機能強化や人材育成・確保に向けた取組

 2.国として行うべき施策の方向性

おわりに

はじめに

 第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日閣議決定)においては、「科学の発展と絶えざるイノベーションの創出」を一つの重要な観点として掲げ、イノベーションを生み出すシステムの強化を目指して、産学官の持続的・発展的連携システムの構築に向けての提言を行っている。これを受けて、「長期戦略指針『イノベーション25』」(平成19年6月1日閣議決定)、「科学技術政策推進のための知的財産戦略(2009年)」(平成21年6月12日総合科学技術会議決定)、「知的財産推進計画2009」(平成21年6月24日知的財産戦略本部決定)等の政府の行政方針・計画においても、イノベーションの創出に向けた産学官連携の推進を図ることが提言されている。
 科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会(以下「本委員会」という。)では、今後の大学、大学共同利用機関及び高等専門学校(以下「大学等」という。)における産学官連携活動の推進を中心に検討を行い、平成18年8月に「審議状況報告~大学等の国際的な産学官連携活動の強化について~」を、平成19年8月に「イノベーションの創出に向けた産学官連携の戦略的な展開に向けて」(以下「平成19年報告」という。)をそれぞれ取りまとめ、公表した。この平成19年報告においては、イノベーションの創出に向け、大学等における産学官連携活動の体制の戦略的支援、国際的な産学官連携活動の推進、地域における産学官連携体制の強化等を提言している。
 平成19年報告を受けて、各大学等においては、平成20年度から実施されている「産学官連携戦略展開事業」等の支援制度も活用しながら、大学等の個性・特色に応じて、産学官連携の持続的な発展に向けた戦略的な展開を進めてきており、その成果は共同研究や特許実施料収入の増加など、着実な進捗を遂げつつある。他方、世界規模の深刻な経済不況に直面し、産学官連携をめぐる状況も厳しい局面を迎えつつある中で、新たなフェーズに向けて産学官連携を深化させていくことが求められている。
 このような状況の下で、本委員会は、平成23年度からの実施が予定されている第4期科学技術基本計画の策定に向けて、今後の科学技術政策の在り方についての審議に資するよう、産学官連携活動の推進に関する今後の重要課題について、有識者や産学官連携関係者らに対するヒアリングを実施するとともに、産学官連携に関する調査結果等の各種資料を参考にしながら審議を行ってきた。
 本委員会では、このたび、これまでの検討内容について「審議状況報告」として取りまとめ、公表することとしたものである。今後、本報告の内容が第4期科学技術基本計画の策定に向けた検討に反映されることを期待する。
 なお、現時点では、大学等における産学官連携体制の将来像、地域における産学官連携の活性化、産学官連携を通じた人材育成、分野に応じた産学官連携の在り方、国際的な産学官連携活動の発展、国際標準化への対応など、様々な中長期的な課題が残されている。今後も、本委員会においては、産学官連携をめぐる環境の変化に対応して、産学官連携のさらなる深化に向けて精力的な検討を行い、提言を行っていきたい。

1.今後の産学官連携についての基本的な考え方

1.産学官連携推進の重要性

(1)科学技術駆動型の成長戦略と産学官連携

 世界的な社会・経済のグローバル化の進展、巨大な人口と市場を抱える新興国の台頭、資源・エネルギーの需給逼迫等に伴い、国際競争が新たな局面を迎えつつある。
 我が国ではこれまで、大企業も中小企業も、自動車、先端材料、環境等あらゆる分野で研究開発に邁進し、これが国の成長の重要な原動力となってきたが、科学技術の高度化・複合化などを背景として、大学等との連携が加速度的に重要性を増してきた。
 資源が乏しく少子高齢化による人口減少に直面している我が国が、今後も持続的な成長を達成していくためには、科学技術力により企業の国際競争力を高めると共に、環境等の課題に科学技術力を応用し、全世界的に新しい需要を創造すること、すなわち、科学技術駆動型の成長戦略が必要不可欠である。科学技術力による国際競争力強化と新しい需要の創造を怠った場合は、我が国における科学技術の空洞化が生じ、ひいては国力の衰退という取り返しのつかない事態を招くおそれがある。
 科学技術駆動型の成長戦略のためには、1.「知」の創出の源泉となる大学等において、独創的・先進的な研究成果を継続的に生み出し、2.その成果を活用し、広く社会に還元し、3.それにより我が国の産業を活性化し、雇用を創出し、4.一連のプロセスを通じて科学技術の発展を担う人材を持続的に創出することを目指して、産学官連携活動を積極的に推進していくことが必要である。

(2)地域振興・地域の発展と産学官連携

 経済のグローバル化、高齢化の進展、地域人口の減少、地域財政の逼迫など、地方は厳しい環境のただ中にある。
 これまで大学等は、地域振興につながることを目指し、地域の中小企業等と連携し「知的クラスター創成事業」等を実施してきた。これにより企業が集積し、イノベーション力を伸ばした地域もあるが、公共事業依存による地域振興モデルが重視される中、大学等の取組が地域全体の取組に広がっていない例も多かった。しかし、公共事業依存の限界が明らかになりつつある今、地域の特色を活かし、地域発イノベーション創出モデルにより、地域経済を活性化させることは、各地域にとり、喫緊の課題である。
 そのためには、地域の「知」の創造の拠点である大学等が、地域の中小企業の研究開発支援や農業分野等への科学技術の応用等を通して、地域振興と地域社会の発展に貢献することが期待され、産学官連携活動の活性化推進が重要である。

(3)国際貢献、地球規模課題の解決と産学官連携

 企業の海外事業展開は、研究開発のグローバル化を促し、大学等も国際レベルで評価される時代に入った。最先端の知、最適の研究リソースを求め、国境を越えて連携相手を選ぶ動きが加速する中、大学も国際的な産学官連携活動への取組が求められている。
 海外の企業や研究機関との連携においては、環境、エネルギー、感染症対策など、地球規模の課題への取組が求められる。国際的な産学官連携活動の推進は、同時に日本の科学技術力をもって、こうした地球規模の課題の解決を推進することを意味する。
 また、国際的な産学官連携活動は同時に、開発途上国等の人材育成に資すると共に、国際的に活躍する我が国の研究人材育成にも資するものである。国際貢献、地球規模の課題の解決のためにも、産学官連携活動の推進が求められる。

(4)科学技術人材の育成と産学官連携

 産学官連携活動は、社会が必要とする人材の育成、科学技術の新領域や融合領域への展開、大学等の研究成果の社会への還元のための重要な手段であり、大学等における教育、研究、社会貢献の発展にとってもその意義は大きい。
 ここ数年、米国、欧州、韓国、中国等は、科学技術人材の育成を重視する施策を打ち出し、重点的に予算を投入している。産学官連携は、大学等の教育の側面で見れば、企業等との協働による課題解決であり、優れて実践的な科学技術人材育成の場である。大学等、企業、研究開発独立行政法人等が人材交流も含めた人材育成の場を形成し、イノベーションの創出や社会の発展に貢献する科学技術人材の育成を強化していくためにも、産学官連携活動の推進が重要である。

2.これまでの産学官連携推進の施策とその成果

 以上の認識のもと、国は大学等の産学官連携体制の整備、イノベーション創出に向けた研究開発投資、地域における産学官連携の推進といった様々な施策を講じてきた。
 我が国の産学官連携活動は、当初、大学等における特許の個人帰属を前提とした研究者や研究室単位での活動を中心に進められてきたが、平成10年の大学等技術移転促進法、平成11年の産業活力再生特別措置法、平成16年度からの国立大学の法人化等により産学官連携を促進する制度的枠組が整備され、特許の機関帰属を前提とした大学等の組織的な活動に転換してきた。このような状況の中で、国は、大学等の産学官連携体制の整備や研究成果の権利保護等の支援を通じて産学官連携活動の主として量的な拡大を図ってきた。
 こうした国の施策と、大学等の努力によって、大学等における産学官連携体制の整備が進みつつあり、その結果、企業との共同研究、受託研究が増加し、企業による大学等の特許実施件数は飛躍的に増え、大学発ベンチャー企業の創出など、多様な成果が生まれつつある。他方、我が国の大学等の特許の実施料収入は米国の100分の1以下、特許利用率は20%以下、海外特許出願率は約20%にとどまるなど、大学等の研究成果の活用状況は未だ十分ではない。また、共同研究1件あたりの受入額は250万円程度に過ぎず平成15年度からはあまり増加していない、海外の企業との共同研究の受入額・件数は全体の2%以下にとどまっているなど、民間企業との共同研究はさらなる活性化が求められる。このため、これまでの取組により成果が生まれつつある産学官連携活動を停滞させることなく、産学官連携活動を一層深化させていくことが必要である。

3.産学官連携が直面している課題と解決の方向性

(1)深刻な経済不況による影響とグローバルレベルでの研究開発競争の加速

 我が国は、現在、世界規模での深刻な経済不況に直面しており、多くの企業で経営改善に向けて研究費や研究体制の縮減が行われるなど研究開発環境が悪化してきている。このような環境の下で、大学等との共同研究、受託研究、寄附金等についても見直しを図る企業も現れてきており、これまで総じて順調に漸進してきた産学官連携活動を巡る状況も厳しい局面を迎えつつある。
 一方で、EUの「欧州テクノロジー・プラットフォーム(ETP)」や、仏・グルノーブル・イゼール産学官国際研究拠点等、国際的な大規模産学官連携拠点が構築されるなど、グローバルなレベルでの先端技術の開発競争はいよいよ加速している。
 我が国は、これまで科学技術において優位性を保ってきたが、経済不況と国際的な研究開発競争の激化の状況下、我が国がこれからも科学技術力において優位な地位を占めることができるかは、予断を許さない状況であると言わざるをえない。

(2)産学官連携の実質化を促進する施策の必要性

 以上の状況下、持続可能なイノベーションの創出のためには、今後の産学官連携についての方向性を検討し、次のフェーズに向けた産学官連携の推進施策の構築が求められている。
 産学官連携の現場では、体験を積み重ねることによって、一定の成果をあげてきたが、同時に制度や体制整備だけでは解決できない課題があることも明らかになってきた。今後は、これまでの制度や体制整備といった取組の段階を越えて、産学官連携の実質化を図っていくことが必要である。以下に今後の重要課題を要約する。

1.実用化研究と特許ライセンスによる技術移転の枠組みでは、従来技術を超える革新的な技術開発の領域に十分な対応ができない。産学官連携の領域を基礎研究レベルにまで拡大することが求められるが、そのためには大学・公的研究機関・企業間の質の高い人的ネットワークが形成される必要がある。産学官連携の触媒として機能するソーシャル・ネットワーキングのプラットフォーム((1)「知」のプラットフォーム(共創の場))の形成が望まれる。

2.産学官連携では研究成果の知財化が重要だが、戦略性なき権利保護は、知識の流通・新たな知識の創出の妨げになり得る。研究開発の促進に知的財産を活用するため、知的財産の独占権を担保しつつも、知識の流通に支障を来さない仕組み((2)科学技術コモンズ)を整備することが望まれる。

3.大学等の研究成果が実際の成果に結びつくためには、研究人材のほか、研究成果の事業化の支援、研究マネジメントを行う人材の育成、研究成果を高付加価値の技術シーズに高める活動等が必要不可欠である。こうした「つなぎ」、「マネジメント」、「補完」の役割を担う人又は組織を埋め込むことが望まれる。さらに、産学官連携を戦略的に推進する仕組みの整備・強化や、国際的産学官連携等に対応できる専門人材の育成・確保が必要である((3)研究成果の創出と活用に向けた支援の充実及び(6)産学官連携のための機能強化や人材育成・確保)。

4.地域における産学官連携活動では、自治体の各種施策と有機的に組み合わせるなど、地域の自律的発展に結びつける仕組みが必要である((4)地域における産学官連携活動の推進)。

5.グローバルな吸引力を持つ研究拠点等での取組強化、大学間協働の促進等により、国際的産学官連携活動を一層推進する施策が必要である((5)国際的な産学官連携活動の推進)。

 このため、国は、これまでの施策により活性化してきた産学官連携活動を停滞させることなく、新たなフェーズに向けて、国として政策的観点から戦略的に推進する施策をメリハリを付けて実施していくことが重要である。
 また、持続可能なイノベーション創出能力の向上に向けては、「教育(人材育成)」と「研究(知の創造)」と「イノベーション(社会・経済的価値創出)」を三位一体で取り組んでいくことが重要であり、この視点に立って産学官連携の施策を推進することが必要である。

2.産学官連携の現状と課題

1.産学官連携の進展状況

(1)これまでの国の取組

 1980年、米国において国費が充てられた研究成果であってもその知的財産権としての管理主体を大学等に委ねることを規定したバイドール法の制定を契機として、1980年代以降に欧米諸国が大学等における特許等の知的財産権の保護と活用の政策を実施し、イノベーションの源泉となる大学等を活用した産学官連携が積極的に推進されるようになってきた。
 我が国においては、平成8年に第1期科学技術基本計画(平成8年7月2日閣議決定)が策定され、産学官の連携・協力が一つの柱となり、産学官連携の振興方策が示されたことを契機に、国としての産学官連携の推進政策が積極的に進められることとなった。平成10年の大学等技術移転促進法(いわゆるTLO法)の制定により技術移転機関が制度化され、平成11年の日本版バイドール条項(※1)を含む産業活力再生特別措置法の制定により大学等の研究成果より生じる知的財産の機関帰属への制度的枠組みが整備され、平成12年の産業技術力強化法の制定により国立大学教員の役員兼業の規制緩和や特許料の減免措置が制度化されるなど、産学官連携の推進を図る制度の整備が進められた。
 また、平成13年に第2期科学技術基本計画(平成13年3月30日閣議決定)が策定され、産業技術力の強化と産学官連携の仕組みの改革の重要性が指摘された。これを受けて、文部科学省では、平成13年度より「産学官連携支援事業」を開始し、産学官連携コーディネーターによる大学等への支援を実施するとともに、地域における産学官連携を推進する観点から、平成14年度より「知的クラスター創成事業」を開始し、地域のイニシアティブの下に大学等を核とした技術革新のための集積の創成の支援を開始している。さらに、文部科学省では、平成15年度から「大学知的財産本部整備事業」を開始し、大学で生まれた研究成果を効果的に社会還元していくことを目指して、大学等の知的財産の戦略的な創出・管理・活用を図るモデル的な体制の整備を進めてきた。
 国立大学については、「国立大学法人法」の制定により、平成16年度より法人化され、大学等の研究成果より生じる知的財産の機関帰属が促進された。また、法人化により、経営協議会等を通じて企業経営の専門家や地域経済界の人材の知見を大学経営に活かすとともに、教職員の非公務員化による柔軟な人事管理や兼業等が可能となり、それぞれの法人において法人化のメリットを活かしつつ産学官連携活動が積極的に推進されるようになってきている。
 平成18年度から実施されている第3期科学技術基本計画(平成18年3月28日閣議決定)では、「科学の発展と絶えざるイノベーションの創出」に向けた戦略の一つとして、産学官が一体となってイノベーションを生み出すシステムを強化することを目指して、大学等における産学官連携体制の充実等を提言している。さらに、その後策定された「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)、「長期戦略指針『イノベーション25』」(平成19年6月1日閣議決定)等の政府の施策方針においても、イノベーション創出に向けた産学官連携活動の活性化を図ることが提言されている。
 このような状況を踏まえ、本委員会において、平成19年8月に平成19年報告を取りまとめ、イノベーションの創出に向け、大学等における産学官連携活動の体制の戦略的支援、国際的な産学官連携活動の推進、地域における産学官連携体制の強化等を提言している。
 文部科学省においては、平成19年報告の提言内容を実施していくため、平成15年度から5カ年計画で実施されてきた「大学知的財産本部整備事業」を戦略的に発展させた「産学官連携戦略展開事業」を平成20年度から実施しており、1.国際的な産学連携活動の推進、2.特色ある優れた産学官連携活動の推進、3.知的財産基盤の強化といった方向性で、大学等における産学官連携体制の整備や産学官連携活動の推進を支援してきている。 


※1 当初は産業活力再生特別措置法第30条において、現在は産業技術力強化法第19条において、国等の委託による研究から生じた特許権等を国等は譲り受けないことができる旨を規定。

(2)これまでの大学等の取組

 戦後、日本の大学等と企業の間では、大学等の研究室に対して企業から奨学寄附金を中心とした研究資金が提供され、大学等の研究者から企業に対して研究関係情報等が提供され、企業にとっては共同研究等を通した人的交流により優秀な学生の確保に資するといった、相互の厳密な契約によらない産学の日常的な連携関係を中心として産学連携が進んできた。
 その後、上述したように、平成8年の第1期科学技術基本計画の策定を契機として、組織的・体系的な産学連携活動の推進が十分に図られていなかった我が国において、大学等を軸とした産学連携の見直しの機運が高まり、平成10年の大学等技術移転促進法、平成11年の産業活力再生特別措置法、平成12年の産業技術力強化法といった産学官連携を推進する制度的枠組みが整備され、平成16年度から国立大学法人法により国立大学の法人化が行われた。
 このような情勢を受けて、大学等においては、これまで大学等全体として戦略的に実施しているとは言い難かった産学連携活動の推進に向けて、平成15年度から実施されている「大学知的財産本部整備事業」に採択された大学等を中心に、知的財産の戦略的な創出・管理・活用を図る知的財産本部等が次第に整備されてきた。国による支援等を受けて、大学等においては、1.副学長等をトップに据えた全学的・横断的な体制の整備、2.知的財産ポリシーなど基本的な学内ルールの策定、3.研修会の実施や手引書の作成などによる学内教職員への普及・啓発活動、4.発明届出に対する帰属機関・出願の決定などの審査体制の確立、5.出願からライセンスにいたるまでをカバーした知的財産の管理システムの導入など、組織的な体制整備が進展してきた。
 さらに、平成20年度から実施されている「産学官連携戦略展開事業」により、大学等における産学官連携の体制や活動はさらに充実しつつあり、当該事業に採択された大学等を中心に、1.基本特許の国際的な権利取得の促進、国際知財人材の育成確保等の国際的な産学官連携体制の強化、2.地方公共団体等との連携、国公私立大学間の連携、特定分野の課題に対応した知的財産活動の整備等の特色ある産学官連携活動の推進、3.「大学知的財産本部整備事業」の支援対象となっていなかった小規模大学や地方大学における知的財産活動基盤の強化等が図られてきている。また、「産学官連携戦略展開事業」に採択されなかった大学等も含めて、大学等においては、知的財産管理体制の整備が進められるとともに、産学官連携活動を組織的に推進していくため、産学連携ポリシー、知的財産ポリシー、利益相反ポリシー、共同研究取扱規程等の全学的な指針・規程の整備が進みつつある。

(3)産学官連携活動の現状と成果

 これまでの産学官連携の推進のための国の様々な施策とそれを踏まえた大学等における取組によって、知的財産の機関帰属への移行、大学等における産学官連携の体制の整備が進み、共同研究の実績や特許実施件数等が着実に増加するなど、産学官連携活動の活性化が進んできている。文部科学省の「産学連携等実施状況調査(平成20年度実績)」によれば、平成20年度において、国公私立の大学等全体で352機関が知的財産の帰属について原則機関帰属としており、特に国立大学等においては約98%の大学等が機関帰属としている。また、同調査によれば、平成20年度において、大学知的財産本部等の知的財産管理体制を整備している大学等は197機関となり、今後整備を予定している大学等の170機関とあわせると 367機関に上っている。さらに、同調査によれば、平成15年度から平成20年度にかけて、大学等の共同研究受入額は216億円から438億円と2倍以上増加し、共同研究受入件数は9,255件から17,638件と約2倍増加し、特許出願件数は2,462件から9,435件と4倍近く増加し、特許実施件数は185件から5,306件と約29倍増加している。(図1)
 このように、定量的なデータをみれば、産学官連携活動が総じて活性化してきている状況が見てとれるが、産学官連携活動の進展は、大学等における研究者にポジティブな影響を与えてもいる。科学技術政策研究所が実施した「イノベーションシステムに関する調査‐第1部産学官連携と知的財産の創出活用」(平成21年3月)(以下「イノベーション調査」という。)によれば、大学等の研究者にとって、産学官連携活動の目的として、「自身の研究成果の技術移転、実用化」を挙げる者が最も多く、「外部資金の獲得」の他にも、「研究室の活性化・学生に対する教育」や「地域への社会貢献、地域産業振興」を挙げる者も多い。また、産学連携の効果として、「(学生に対する教育的な効果等)研究室の活性化」、「出口(事業化)を意識した研究の実施」、「新たな研究テーマの創出や新しい領域での研究の進展」を挙げる者が多いなど、大学の教育、研究、社会貢献の発展にとっても、産学連携の波及的効果や意義は大きいと考えられる。(図2)

2.産学官連携を取り巻く課題

(1)大学等と産業界との協働によるイノベーション創出に向けた場の必要性

1.イノベーション創出の源泉となる「知」の創出の危機

 我が国の18歳人口は、平成4年には205万人を越えていたがそれ以降次第に減少が続いており、平成21年度は121万人となっており、今後も10年以上にわたって120~110万人前後の範囲で漸減しながら推移していくことが予想されている。(図3)
 また、大学院博士課程の入学者数は平成6年の11,852人から平成15年の18,232人へと順調に増加してきたが、平成9年以降は博士課程修了者数が大学の教員採用数を上回りアカデミック・ポストの不足状況が生じ、博士課程修了者(自然科学系)の就職率が6~7割に低迷していることなどから、平成16年度以降博士課程の入学者数は減少を続けており、平成20年度においては16,271人となっている。(図4)
 さらに、近年、子どもたちの理数系科目の学力は低下傾向にあるとの指摘もされており、小学校・中学校の学年が高くなるにつれて理数系の勉強が好きな子どもの割合が減少している、小学校教員の6割以上が理科の授業が苦手と考えているなど、若年層における理科離れが生じ、我が国の理数教育をめぐる不安な要素も現れてきている。(図5)
 このように、我が国における大学等からのイノベーションの源泉となる「知」の創出に対する将来的な不安要素が生じてきている。これまでの産学官連携については、大学等からの「知」の創出があって、その研究成果を知的財産として保護し、それを産業界における技術開発や実用化に結びつけていくとの考え方で進められてきたところであるが、今後は、イノベーションに向けた「知」の創出そのもののプロセスについてもより重視して産学官連携を深化させていくことが課題となっている。

2.大学等と産業界との意識のギャップ

 これまでの一連の施策を通じて、大学等における産学官連携活動が活性化してきている中で、大学等の研究者を対象とした調査結果(イノベーション調査)によれば、大学等の研究者にとって、アカデミックな研究と産学官連携活動とのバランスが最も大きな課題となっている。具体的には、企業は成果を短絡的に求める傾向がある、企業側の性急な応用研究のニーズに流されないことが重要、基礎研究と応用研究との労働バランスを維持することが困難であるなど、アカデミックな研究と産学官連携活動との狭間で悩む研究者の声が挙げられている。(図6)
 一方、産学連携を実施する企業を対象とした調査結果(社団法人研究産業協会「企業の研究開発関連の実態調査事業調査報告書」(平成19年3月))によれば、国内の大学を海外の大学と比較した場合、国内の大学はスピードが遅いことや事業化に対する意識が希薄なことなどを産学連携における問題点として挙げる企業が多くなっている。(図7)
 また、海外の大学が国内の大学より産学官連携で優れている点としては、海外の大学は実用になる可能性を秘めた研究を行う意識が高い、企業ニーズを積極的に吸収し学問・研究分野の活性化を図っている、教員が企業での研究活動を経験している場合が多く企業ニーズに対する理解度が高いといった意見が挙げられている(経済団体連合会「産学官連携に関するアンケート調査」(平成18年8月))。(図8)
 このように、一般的に中長期的な観点からのアカデミックな基礎研究を重視する傾向がある大学等と実用に結びつく可能性の高い研究のスピーディーな事業化を重視する傾向がある産業界との間には、依然として意識のギャップが生じている。このような意識のギャップを補完しつつ、産学官連携を深化させていく上で、大学等と産業界とのそれぞれの役割を踏まえつつ、大学等と産業界とが協働してイノベーションの源泉となる「知」を創出していくための研究・開発システムを構築していくことが課題となっている。

3.大学等と産業界との協働によるイノベーション創出に向けた場の必要性

 我が国においては、個別の大学等と企業とが協働した取組は着実に活性化してきているものの、継続的なイノベーションの創出に向けて、大学等、研究開発独立行政法人等及び産業界が協働して中長期的な観点から研究戦略を策定し、それぞれの役割を尊重して基礎研究と研究開発を共創的に推進していくための「知」の創出の拠点が十分に整備されていない。
 一方、欧州連合(EU)においては、欧州内の主要企業を中心に欧州レベルで研究開発戦略が組める体制を作ることを目指して、大学等、公的研究機関及び産業界とで産学官の研究者が中長期的な視点から研究開発課題や研究戦略の策定から協働プロジェクトの実施を行う「欧州テクノロジー・プラットフォーム(ETP)」が設立され、研究開発が進められている。さらに、30を超えるETPの中でも戦略性が高く、欧州経済に与える影響も大きいものについて、研究開発に続くイノベーション段階をも実施できる仕組みとして「ジョイント・テクノロジー・イニシアティブ(JTI)」が構築された。JTIでは、特定技術分野の欧州大企業が中心になる企業コンソーシアムが運営する技術開発プログラムにEU27ヵ国が拠出した資金を投入することとなっており、2008年より、1.革新的医薬品イニシアティブ、2.一体型コンピューティング・システム、3.航空学及び航空輸送、4.ナノエレクトロニクス技術、5.水素・燃料電池といった分野においてプログラムが実施されている。(図9~11)
 また、フランスにおいては、フランス原子力庁電子・情報技術研究所(CEA‐LETI)、グルノーブル工科大学(INPG)、イゼール県投資促進局(AEPI)が中心となり、世界各国から約400社以上が参加し、グルノーブル・イゼール産学官国際研究拠点が形成されている。この拠点においては、教育・研究・技術移転を一体化し、リサーチ・センター機能と産業クラスター機能を備えた総合的なコーディネート力を有するサイエンスパークを形成して、広範な領域の研究開発を行っている。(図12)
 我が国においても、産業分野の重要課題ごとに、産学官が協働してそれぞれの役割・得意分野を活かして研究・開発を行い「知」を創造する場‐プラットフォームを構築していくことが課題となっている。

(2)研究推進のための自由の確保と知的財産制度のバランス

 平成11年の日本版バイドール条項を含む産業活力再生特別措置法の制定や平成16年度の国立大学の法人化を契機として、大学等の研究成果より生じる特許等の機関帰属が進み、大学等の保有する特許等が増加してきているが、その一方で利用されることのない特許等も増加している。具体的には、平成19年度における大学等やTLO等の保有特許の未利用率は8割以上となっており、我が国の産業界の業種別未利用率が4割から6割程度の範囲であることを考えると、相対的にかなり低い割合となっている。このように、産学官連携活動の推進のため、大学等に研究成果の知的財産化を促してきた結果、研究成果の利用が制限され、知的財産の価値の発掘の機会が失われ、活用が阻害されているおそれがある。(図13)
 大学等の研究者を対象とした調査結果(科学技術政策研究所「科学技術分野の課題に関する第一線研究者の意識定点調査(分野別定点調査2008)」)によれば、研究開発の進展に対し、特許制度が阻害要因として作用すると回答した研究者も多く、研究推進のための自由の確保と知的財産制度のバランスが課題となっている。(図14)
 知的財産制度においては保護と利用のバランスにより適切に運用されることが重要であり、総合科学技術会議において取りまとめられた「大学等における政府資金を原資とする研究開発等から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関する指針(以下「研究ライセンスに関する指針」という。)」(平成18年5月23日)において、研究の活性化の観点から、政府資金を原資として得られた研究成果に基づく大学等の知的財産を他の大学等が非営利目的の研究のために使用する場合の指針が示されている。この指針に基づき、それぞれの大学等において政府資金を原資として得られた研究成果に基づく大学等の知的財産についての研究ライセンスの運用が行われているが、大学等における研究の活性化や活用されていない知的財産の活用促進をより実効たらしめるためには、この指針の目指す方向性で、大学等の研究活性化のための知的財産の集合的利用を戦略的に促進するスキームを構築していくことが課題である。

(3)研究成果の創出と活用に向けた課題

1.産学が連携して共同研究等を推進する上での課題

 産学官連携活動の活性化が進む中で、大学等のシーズと企業のニーズを効果的に結びつける戦略的・計画的な共同研究のシステムを導入している大学等が現れてきている。例えば、東京大学においては、共同研究に入る前の段階で大学と産業界とで研究の目的、期間、分担者、アプローチ方法、期待される成果等について議論を重ね、共同研究のスコープを共有した上で共同研究を戦略的・計画的に実施する 「Proprius21(プロプリウス21)」を導入している。(図15)
 大阪大学においては、大学と企業が協議し、産業化を見据えた研究内容・期間を設定し、研究内容に合わせた研究スタッフを配置し、共同研究に専念する「共同研究講座」を導入することにより、社会の発展に資する学問領域の拠点を産業界と共同して大学内に確保する取組を行っている。(図16)
 一方で、文部科学省の「産学連携等実施状況調査(平成20年度実績)」(平成21年7月)によれば、平成15年度から20年度にかけて大学等と民間企業との共同研究の受入件数は7,248件から14,974件に、共同研究の受入額は約151億円から約339億円とそれぞれ大幅に増加しているものの、民間企業等との1件あたりの共同研究の金額は250万円程度にとどまっており、あまり増加していない。(図17)
 また、大学等の研究者を対象とした調査結果(イノベーション調査)によれば、イノベーションを目指す研究開発に関して、成果の実用化への道筋が弱い、大学と企業との連携の強化の必要性、産業界と大学のギャップを埋めるシステムの構築等が課題として挙げられている。(図18)
 このように、大学等において独創的、先進的な研究成果を生みだし、そこから見いだされた知的財産を企業との共同研究等に効果的に活用していくためのシステムが十分に構築されていないことが課題となっている。

2.研究環境に関する課題

 近年の競争的資金の増加に伴い、資金獲得に向けての作業や資金獲得後のマネジメントの時間の増大、産学官連携活動や地域社会貢献活動の活性化による業務の増加によって、平成15年度に比べて平成19年度においては、大学教員の研究に関する活動の時間が減少してきており、「知」の創出活動の活性化のためには、研究者がよりいっそう研究に専念できるような研究環境を整備していくことが必要となっている。(図19)
 また、大学等の研究者を対象とした調査結果(イノベーション調査)によれば、研究者をサポートする研究補助者等がいる場合には業務が分散される一方で、研究補助者等がいない研究室では、研究者自身や大学院生等に相当量の業務が集中する傾向にある。特に、研究現場から生まれた研究成果を知的財産に結びつけていくためには、知的財産活動に関する高度なマネジメントが必要であり、専門的な業務をサポートする人材の配置を含めた研究マネジメント体制の整備が課題となっている。(図20)

3.大学等で創出された研究成果を企業における研究開発に結びつけるための課題

 大学等で創出された研究成果は、研究開発のステージにつなげていくには早期段階であることが多く、そのために企業における実用化に向けた研究開発のステージにたどり着けないで死蔵してしまうケースが多い。研究者を対象とした調査結果(イノベーション調査)によれば、

  • 大学が提供できる研究成果と企業が求める成果にはかなりのギャップがあり、このような溝を埋められるような方策、仕組みが必要、
  • 大学の成果がより基礎的・独創的なものであるほど実用化との距離が隔たっていることが多く、中間部分を埋める研究・開発が重要、
  • 大学の研究の多くは成功の可能性の低い研究を行っている場合が多く、研究の初期段階では企業にとって魅力の低い研究であることは否めない、

といったことが課題として挙げられている。(図21)
 このように、有望な研究成果を企業における研究開発のステージにつなげていくためには大学等の内部でそれをある程度インキュベートしていくためのシステムを構築することが課題となっている。

4.大学発ベンチャーに関する課題

 大学発ベンチャーは大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い製品化につなげていく大学発イノベーションの担い手として期待されており、平成13年度に大学発ベンチャー創出促進を目的として制定された「大学発ベンチャー1,000社計画」以降、次第に増加してきており、平成20年度においては累計で1,900社を超えている。一方で、近年の経済情勢の変化等の影響を受けて、順調に増加してきた大学発ベンチャーも年間設立数については平成16年度の252件をピークに減少してきている。(図22)
 ベンチャー企業を5社以上輩出している大学に対する調査結果(日本経済研究所「大学発ベンチャーに関する基礎調査」(平成21年3月))によれば、大学からみたベンチャー支援の目的や意義については、「自学が培った技術や知財の還元ならびに事業化」が過半を越え(62.1%)、「地域社会や地域経済への貢献」(19.5%)が続いている。また、大学にもたらされる効果については、「事業可能性のある研究の進展や拡大により教員や研究者の刺激となる」(86.9%)を挙げる大学が最も多いなど、大学の研究や研究成果の社会還元の進展にとっても大学発ベンチャーの創発の支援は意義が大きいと考えられる。(図23)
 また、同調査によれば、大学発ベンチャーのうちコアベンチャー(大学で生まれた研究成果を基に起業したベンチャー等)にとって最も資金確保が困難な事業ステージは、シード(29.3%)及びアーリー(32.3%)のステージで6割を超えており、これらのステージにおける資金の使途は、研究開発費が大きな役割を占めている。このように、大学発ベンチャーの創出時の早期段階における研究開発費の支援が課題となっている。(図24)

(4)地域における産学官連携活動に関する課題

 地域においては、経済のグローバル化、高齢化の進展、地域人口の減少、地域財政の逼迫、地域間格差の拡大といった厳しい環境変化の中で、地域の個性や特色を活かして、地域発のイノベーション創出により地域の競争力を強化し、地域経済を活性化させていくことが重要課題となっている。
 このような観点から、これまで、地域の「知」の創造の拠点である大学等が、地域の企業等と連携して、知的財産を創造し、地域の振興につなげていくことを目指して、「知的クラスター創成事業」、「都市エリア産学官連携促進事業」、「地域イノベーション創出総合支援事業」等を実施してきている。これらの取組により、地域の中小企業と大学等との共同研究が進展しているケースもあるが、平成17年度から平成20年度にかけて、同一県内における中小企業との共同研究の件数及び受入額の割合は減少してきているなど、地域の経済状況が厳しくなってきている中で、地域の中小企業と大学等との産学官連携活動は必ずしも順調に進捗しているとはいいがたい側面もある。(図25)
 他方、地方公共団体との関係を密にしながら、地域における課題に対応して、地域の中小企業・ベンチャー企業との共同研究等を積極的に推進している例もある。例えば、三重大学においては、県内の地域の特性に応じて地域活性化プロジェクトを推進し、地域産業のニーズや課題を受け止めて、大学の研究力や人材を活用して共同研究を実施している。(図26)
 大学等を対象とした調査結果(イノベーション調査)によると、地域の中小企業等との産学官連携活動については、

  • 地域の中小企業における研究開発に割ける人材の質と量、
  • 共同研究を開始する以前での地域の中小企業のニーズを整理するフェーズの必要性、
  • 地域の中小企業との相談体制の整備、

といったこと等が課題として挙げられている。(図27)

 地域経済の活性化のためには、それぞれの地域の実情や特色を踏まえつつ、大学等の研究能力や研究人材を活用し、地域の中小企業・ベンチャーにおける技術開発・事業化を支援していくことが重要であり、大学等と地域の中小企業・ベンチャー企業との産学官連携活動の活性化を推進し、地域発イノベーション創出モデルを構築していくことが課題となっている。

(5)国際的な産学官連携活動に関する課題

1.大学等における国際的な産学官連携活動に関する課題

 研究開発のグローバル化が進む中で、大学等における外国企業との共同研究等の国際的な産学官連携活動は重要性を増してきている。「産学連携実施状況調査(平成20年度実績)」によれば、平成16年度から20年度にかけて、外国企業との共同研究・受託研究の件数・受入金額は増加傾向にあるが、全体の件数・受入額に占める割合は依然として低い水準にあり、平成20年度において、全体の共同研究受入額に占める外国企業との共同研究受入額は1.68%、全体の受託研究に占める外国企業からの受託研究受入額は0.27%にとどまっている。(図28)
 他方、海外企業との交渉実務を担う事務処理部門の強化、研究成果・知財情報の海外企業への積極的な発信、国際的な産学連携戦略の構築等の取組の成果として、外国の企業との共同研究を戦略的に推進している例もある。例えば、東京工業大学においては、産学連携推進本部における知財活動や契約面でのサポートを行い、太陽光を集光し、光を熱に変換し、この熱により発電を行う太陽光発電について、アラブ首長国連邦のエネルギー関連企業等と国際的な共同研究プロジェクトに結びつけている。(図29)
 大学等を対象とした調査結果(イノベーション調査)によると、国際的な産学官連携活動の主な課題としては、

  • 海外とのネットワークや海外への情報発信機能を強化すること、
  • 海外連携案件に対応するノウハウが少ないこと、
  • 国際化に対応した特許経費の確保、
  • 国際的な知的財産が扱える若手人材の育成・確保、

などが挙げられている。(図30)

 このようなことを踏まえると、海外の企業との共同研究等に成功している大学などのケースを参考にしつつ、大学等における産学官連携活動の体制の整備を図っていくことが課題となっている。

2.海外特許の出願・活用に関する課題

 また、我が国の知的財産の権利を国際的に保護・活用していくためには、海外特許の取得が重要となってきており、特許庁の「特許行政年次報告書2009年度版」(平成21年6月)によれば、大学等及び承認TLOからの特許のグローバル出願率は、平成14年度から17年度にかけて増加していたが、平成18年度以降減少してきている。(図31)
 海外特許出願に係る経費は、国内特許の出願経費に比べて出願者の負担が大きく、費用の捻出は重要な課題であり、多くの大学等において科学技術振興機構(JST)の支援による費用負担が最も多くなっている。(図32)
 経済のグローバル化の進展に対応して、国際的な知的財産の取得と活用が重要となってきている中で、特許の質の向上を図りつつグローバル出願率を向上させていくことが必要であり、海外特許出願経費の負担をはじめとする支援が課題となっている。また、取得された海外特許についても、それが活用されないことには維持経費の負担がかさむばかりであり、取得された海外特許がより一層の活用されるようにしていくことも課題となっている。

(6)大学等における産学官連携体制や人材の育成・確保に関する課題

1.産学官連携戦略展開事業による産学官連携体制の整備

 平成15年度から実施された「大学知的財産本部整備事業」(平成15~19年度)や、これを戦略的に展開し、平成20年度から実施されている「産学官連携戦略展開事業」(平成20~24年度)により、大学等における産学官連携の体制を整備するとともに企業・地域社会と大学等との橋渡し役を務める産学官連携コーディネーターによる大学等への支援により、産学官連携の持続的な発展に向けた戦略的な展開が図られてきている。(図33)
 国の産学官連携体制整備の支援事業等により、それぞれの大学等における産学官連携体制の整備が進んできているが、大学等を対象とした調査結果(イノベーション調査)によると、6割以上の機関が産学官連携担当部署運用のための公的支援制度を以前から積極的に活用しており今後も積極的に活用していきたいと回答し、2割近くの機関が以前は活用していなかったが今後は活用したいと回答しているなど、産学官連携体制の整備は進みつつあるが、依然として公的支援への要望は強い。(図34)
 また、大学等を対象とした調査結果(イノベーション調査)によると、産学官連携の体制の整備については、

  • 大学経営の観点からの産学官連携戦略、研究の初期からの知財戦略が必要、
  • 地域あるいは広域の多数の大学に対する知財業務を共通的に行う体制が必要、
  • 各機関のコーディネーター等の情報交換・交流の場が必要、
  • 国外との産学連携を推進する体制、制度の整備、

といったこと等が課題として挙げられている。(図35)

 産学官連携活動をめぐる環境の変化に対応して、大学等における産学官連携活動をより活性化していくために、将来的に産学官連携体制の支援の在り方を発展させていくことが課題となっている。 

2.承認TLOに関する課題

 平成10年の大学等技術移転促進法の施行後、承認を受けた技術移転機関(承認TLO)は着実に増加してきており、現在47機関となっている。承認TLOの増加に伴い、承認TLOの関与した技術移転件数・実施料等収入は順調に増加してきたが、技術移転件数については平成18年度を、実施料等収入は平成17年度をそれぞれピークに減少してきている。(図36、37)
 また、承認TLOの経営状況は総じて厳しい状況にあり、平成19年度において、国立大学法人及び学校法人内部の承認TLO(大学内部TLO)以外の32機関における経常利益は11機関(34%)が赤字の状況となっており、平成17年度から平成19年度にかけて、これらの承認TLOにおける赤字機関数は年々増加している。また、平成19年度には経済産業省による大学等技術移転促進事業(技術移転事業を実施するために必要な費用の一部を承認から5年間補助)が基本的に終了しており、今後、承認TLOの経営状況はますます厳しくなるおそれがある。(図38)
 このような状況の下、大学等の産学官連携活動の活性化に伴い、TLOの機能や位置付けを見直す動きが出てきており、1.大学が大学内部にTLOを設置する、2.大学に業務移管(内部化)する、3.大学がTLOに出資するといった取組が行われてきている。(図39)
 大学等の産学官連携本部等の体制整備が進み、産学連携活動を積極的に行う地方公共団体が現れてきている中で、それぞれのTLOの経営状況の実態を踏まえつつ、TLOと関連する大学等や地域との関係の役割を見直して、TLOの機能の最適化を図っていくことが課題となっている。

3.大学等における産学官連携活動を担う人材の確保・育成に関する課題

 大学等を対象とした調査結果(イノベーション調査)によると、5年前に比べ特に増員している業務としては渉外・コーディネート業務や知財専門業務が多くなっている。また、今後、特に増員していきたい業務としては渉外・コーディネート業務や契約・法務業務が多くなっており、産学官連携活動の活性化によりこのような分野の業務の重要度や人材のニーズが高まっている。(図40)
 同調査によれば、産学官連携担当部署の今後の人材確保の方策については、民間から有能な人材を雇用することを重視する機関が多い一方で、専任ポストの増員や大学等内の研究者、教職員のスキルアップを重視する機関も多いなど、大学等内の人材の育成・活用が重要な課題となっている。(図41)
 このような課題に対応して、例えば、立命館大学では、研究推進・産学官連携のプロフェッショナルスタッフをテクノプロデューサーとして雇用し、外部資金導入計画の立案、研究シーズや知的財産のマネジメント、個別研究プロジェクトのコーディネート、研究成果の社会での活用の推進などの業務を担当させるとともに、そのスキル形成のため、年間を通じた研修、徹底したOJT、チームレビューなどの育成プログラムを整備している。(図42)
 また、大学等を対象とした調査(イノベーション調査)によると、産学官連携担当部署の人材育成・確保については、

  • 職員の異動のスパンが短すぎること、
  • 内部人材の育成が重要、
  • 産学官連携業務担当者に対する正当な評価が必要、
  • 若手が安心してキャリアアップできる体制の構築、

といったことが課題として挙げられている。(図43)

 持続的なイノベーション創出のためには、大学等が組織全体として戦略的に産学官連携活動を担っていく人材を育成・確保していくことが重要であり、各大学等においてそれぞれの実情に応じて産学官連携人材の育成・確保を図るための取組を継続的に推進していくことが課題となっている。

3.イノベーション創出のための産学官連携の深化に向けて

1.産学官連携の深化に向けた取組の方向性について

(1)産学官協働によるイノベーション創出に向けた新たな場の形成

 我が国が国際競争力・成長力を強化し、科学技術を基盤としたサステイナブルなイノベーション創出を実現していくためには、独創的・先端的な研究成果、それを発展させた国際競争力を持つ知的財産、「知」を生み出す優れた人材を継続的に創出していくことが重要である。

このためには、

  • 教育、研究及びその成果の社会への提供を主な役割とする大学等、
  • 研究・開発の中核的な担い手として国の政策的課題の解決に貢献することを主な役割とする研究開発独立行政法人等、
  • 社会的に有用な製品・サービス等の創出を主な役割とする産業界、

とがそれぞれの役割を担い、協働しつつ、産学官連携の触媒として機能し、イノベーション創出の源泉となる新たな「知」のプラットフォーム(共創の場)を構築することが必要である。(図44)
 この「知」のプラットフォームにおいては、イノベーション創出の強化・促進に向けて、ソーシャルイノベーションをも展望しつつ、産業界の課題に対し、産学の対話により設定された研究領域において大学等が基礎研究を行い、その成果を踏まえた緊密な産学官の対話・交流を行うこととする。また、この「知」のプラットフォームにおいては、これまでのように大学等における研究成果を直線的に企業における技術開発・製品化につなげていくいわゆる「リニア(線形)モデル」とは異なり、大学等において基礎研究に立ち返って技術課題の解決を図る基盤を提供することにより、産業界の取組を加速するとともに、産業界の視点や知見を大学等の基礎研究にフィードバックし、大学等の基礎研究を活性化していくことが重要である。
 研究開発独立行政法人は、所管分野に関する大学等の「知」の結節点となり、「知」を体系化して産業界につないでいく役割を担うことが重要である。
 これらの一連の過程を通じて、産学官連携の領域を基礎研究の立案段階にまで拡大し、相互理解と連携関係を深化させるとともに、産学官の人材交流も含めた人材育成を図っていくことが必要である。
 なお、これらの研究活動の実施に際しては、分野ごとに研究・開発の進め方や産学官の協働の仕方が異なることから、プラットフォームの運営方法については、産業分野の特性に応じて柔軟に行うことが重要である。また、プラットフォームの運営に際しては、文部科学省、経済産業省等の関係省庁が相互に緊密な連携をとり、関係府省が一体となって「知」の創出をサポートしていくことが肝要である。

(2)研究活性化及び活用促進に向けた知的財産開放スキームの構築

 産学官連携では研究成果の知財化が重要だが、戦略性なき権利保護は知識の流通・新たな知の創出の妨げになり得る。長期的な視点で我が国の国際競争力を高めていくためには、「知」の創造者である研究者の能力が最大限活用され、活発な研究活動が展開されるような環境を形成して、我が国の「知」の集積・創造をイノベーションの創出につなげ、世界に発信していくことが重要である。
 このためには、総合科学技術会議が取りまとめた研究ライセンスに関する指針の目指す方向性で、知的財産の活用を促進するスキームを実体化していくことが必要である。
 具体的には、知的財産の独占権を担保しつつも知識の流通に支障を来さない仕組みとして、大学等が保有する特許を研究に限って無償開放する「リサーチ・パテントコモンズ」を構築し、個別にライセンス契約を結ぶことなく簡便に特許を研究に利用できる仕組みを整備することにより基礎研究を活性化する。この場合において、あくまで大学等のリサーチ・パテントコモンズへの参加は任意とし、対象特許は大学等が選択できることとすることが肝要である。
 また、戦略的に重点化が必要と認められる技術分野を選定し、「リサーチ・パテントコモンズ」の重点領域を構築するとともに、領域毎に特許マップ等の関連する科学技術情報も提供して知的財産の技術的価値の理解の容易化を図り、それらの取組を全体として「科学技術コモンズ」として運用していくことが必要である。(図45)
 なお、大学等においては、必要な知的財産の取得を進めることも重要であり、当該大学等の知財戦略上重要な特許までを開放する必要もないが、その権利が基礎研究の活性化の阻害要因とならないよう、一定の範囲において知的財産の開放を積極的に進めていくことは、「教育」、「研究」と並ぶ第三の使命である「研究成果の社会還元」に合致するものと考えられる。
 このような知的財産の開放スキームの構築により、

  • 他の研究者の特許に基づいた基礎研究を加速化する、
  • 複数の許諾を行う手間を省き、複数特許を活用した基礎研究を可能とする、
  • 研究者が大学等を移籍した後も、移籍元で自らが発明した特許を利用した基礎研究、を可能とする

といったことを通じて、大学等における基礎研究の活性化を図るとともに、このスキームを産業界にも開放していくことで、大学等の知的財産の活用を促進し、知的財産の新たな価値の発掘に繋げ、イノベーションの創出を促していくことが重要である。

(3)研究成果の創出と活用に向けた支援の充実

 長期的な視点に立って、イノベーションを継続的に創出していくためには、知の創出拠点である大学等における独創的・先進的な研究成果を生み出すための研究体制を構築していくとともに、その研究成果を企業における実用化につなげていくための研究システムを構築することが重要である。また、大学等の研究成果を企業との共同研究等の開発につなげ、それを大学発ベンチャー創出や技術移転等に結びつけていくためには、大学等における成果を企業における技術開発に橋渡ししていくための支援制度を整備することが重要である。このため、今後、以下のような取組を実施していくことが必要である。

1.戦略的・計画的な共同研究システムの構築

 持続的なイノベーションの創出のためには、大学等における独創的・先端的な研究の知見と企業における社会のニーズに基づいた技術開発の知見とを効果的に融合させつつ共同研究を活性化させていくことが重要である。
 このためには、共同研究の実施に入る前の段階から、産学官がそれぞれのニーズ・役割・特性を認識した上で、研究課題を設定する過程において、対話を行い、研究の目的、手法、役割分担、費用、期待される成果や予想される課題といった共同研究のスコープの合意形成を行うことが必要である。そのようなプロセスを踏まえた上で、産学官がゴールを共有しつつ、戦略的・計画的に共同研究に取り組むことで、連携の効果を高めていくような研究体制の構築を促進していくことが必要である。

2.研究者の相互交流による基礎研究力と技術開発力の強化

 産学官連携活動をスムーズかつ効果的に実施していくためには、大学等と産業界とがそれぞれの立場・役割を認識して、協働を進めていくことが重要であり、産学官連携活動に参加する大学等の研究者と産業界の研究者との相互理解を深めていくことが求められている。このため、企業研究者が大学等において、大学等教員が企業において、それぞれ研究を行うことにより、産学間の人材交流を活性化し、大学等と企業の人的結びつきを強化し、産学双方の視点を備えたハイブリッドな人材の養成、大学等と企業との共同研究等への展開、新たな研究領域の創出を図っていくことが必要である。
 このような取組は、

  •  大学等にとっては、大学等の研究者が企業の研究スタイルと事業化マインドの吸収等を通じて研究・開発能力を向上させるとともに、産業界の現場での知見や視点を大学等の基礎研究に反映させる効果があり、
  •  企業にとっては、企業研究者が大学等における基礎研究に対する理解を深め、大学等の研究の最前線での動向を技術開発や事業化に反映させる効果があり、大学等と企業の双方にとって相互理解を深め、基礎研究の重要性を認識しつつ実践的な研究・開発を遂行できる人材を育成していくことが期待できる。
3.リサーチアドミニストレーション体制の整備

 競争的資金の拡大、産学連携活動の進展等により増加した大学等の研究者の負担を軽減し、研究者が研究に向き合う時間を確保するため、研究開発に知見のある若手研究者を活用して、研究マネジメントや産学官連携活動等に従事するリサーチアドミニストレーターを育成・確保し、研究マネジメント体制の強化を図ることが必要である。
 例えば、米国の大学においては、リサーチアドミニストレーターが研究資金採択前のPre‐Award(研究資金をどのように獲得するかを検討する部門)と採択後のPost‐Award(獲得した資金をいかに効率的にマネジメントしていくのかを考える部門)とで、情報収集、申請書作成、資金管理、知的財産マネジメントなどの専門的な業務を担当し、研究支援を行う体制が確立されている。
 我が国においてもリサーチアドミニストレーターを導入することで、研究マネジメント体制を整備し、研究者が研究に向き合う時間を確保するとともに、事務部門のノウハウをアカデミアにつなぐ人材や研究開発のノウハウを事務部門に活かす人材など、将来的に大学のガバナンスに多面的に貢献する人材を育成することが期待される。
 このような取組を推進していくためには、例えば、国において、リサーチアドミニストレーターをOJTにより育成しつつ、研修プログラムの開発や他の大学等も含めた研修会を実施し、研究マネジメント体制のモデルとなるような大学等を支援していくことなども検討していくことが必要である。 

4.研究成果を事業化ステージにつなげるための体制の整備

 大学等の研究成果(シーズ)は一般的に不確実性が高く、実用化までのリスクが大きいため、企業における実用化に結びつけていくためには、大学等の内部でシーズをある程度インキュベートしていくことが重要である。このため、大学等の独創的・先進的な研究成果のうち、有望なシーズについて、その実現可能性を目利きした上で、プロトタイプ等による検証を行い、高付加価値の技術シーズに向上させることにより、共同研究等の開発ステージ、大学発ベンチャーの創出や技術移転等の事業化ステージにつなげることを支援する体制を大学等に整備することが必要である。このような取組により、大学等のシーズと企業のニーズとのギャップを埋めて、有望なシーズが死蔵されることなく、民間企業における技術移転、共同研究、大学発ベンチャーの創出等につながっていくことが期待される。

5.研究成果の実用化までの切れ目のない支援

 大学等の研究成果を企業における実用化につなげていくためには、シーズの発掘、シーズの育成、実用化のための開発研究等の一連のステージに対する切れ目のない支援が必要であり、これまでも科学技術振興機構(JST)において研究成果の実用化に向けての支援が行われているが、シーズ候補の発掘からシーズの顕在化にいたるまでのシード・アーリーステージにおける支援は必ずしも十分とは言えなかった。このため、大学等の独創的・先進的な研究成果について、その実用化可能性の確認・向上のために目利きによる助言等の人的支援やデータ追加取得費等の追加研究費支援を総合的に行い、共同研究や大学発ベンチャーの創出につながるシーズ候補を発掘するとともに、シード・アーリーステージにおける研究開発経費を支援し、その後の実用化までの一連のプロセスに載せていくことにより、研究成果の創出から実用化までの切れ目のない支援を行うことが必要である。

6.若手研究者によるベンチャー創出の支援

  大学等における研究成果を新技術や新産業に発展させていく上で、大学発ベンチャーの役割の重要性が高まっているが、大学発ベンチャーを持続的に創出させていくためには、特に次代を担う若手研究者によるベンチャー企業の創出を支援していくことが重要である。このため、若手研究者による大学発ベンチャー創出の推進に向けて、若手研究者の持つベンチャー企業創出の核となる優れた研究成果を基に、その発展のためのシード・アーリーステージにおける研究開発や事業計画作成等を支援していくことが必要である。

(4)地域における産学官連携活動の推進

 地域経済の活性化のためには、それぞれの地域の実情や特色を踏まえつつ、大学等や公設試験研究機関等と地域の中核となる企業、中小企業、ベンチャー企業(中小企業等)との産学官連携活動の活性化を促進し、地域発イノベーション創出モデルを構築していくことが重要であり、今後、以下のような取組を推進していくことが必要である。

1.地域の中小企業等との産学官連携の強化

 昨今の厳しい経済情勢において、地域の中小企業等においては、独創的なアイデアと卓越した技術力を有していても独自で研究開発を遂行していくことが困難となっている。
 また、中小企業等においては研究開発に割ける人材の質と量や研究開発のノウハウが不足しており、大学等や公設試験研究機関等のノウハウを活用して共同研究を促進することにより、中小企業等の技術開発を促進し、大学等や公設試験研究機関等の地域貢献・研究活性化を推進していくことが重要である。このため、中小企業等が有するアイデアをもとに、大学等や公設試験研究機関等からの積極的な働きかけにより地域の中小企業等と協働して研究課題を設定し、大学等や公設試験研究機関等の研究力と中小企業等の技術力を活用して、課題解決・事業化を目標とする共同研究を強化していくことが必要である。
 さらに、地域の中小企業等との産学官連携活動の推進に向けて、特に地域連携を重点的な目標として掲げる大学等においては、戦略的に地方公共団体や研究開発独立行政法人等との連携を図りつつ、地域の自律的発展を誘発し、地域振興と地域社会の発展に貢献することを目指して、地域イノベーションを生み出す共同研究の実施、地域振興人材の育成、相談体制等の支援体制の整備、地域における産学官連携のモデルケースの構築等、それぞれの地域の実情に応じて柔軟に取り組んでいくことが必要である。

2.地域の産学官連携拠点の構築

 地域における産学官連携活動を促進していくためには、地域ごとに大学等、産業界及び地方自治体等による産学官連携拠点を選定し、関係府省、自治体等の各種の施策を有機的に組み合わせて総合的・集中的に実施していくことが重要である。このため、平成21年度より文部科学省と経済産業省とが共同して、地域の特徴や強みを活かし、地域産業の競争力強化や新産業創出による産業構造改革などを目指して産学官連携活動を行う「地域中核産学官連携拠点」等を選定し、両省が実施している産学官連携施策をこれらの拠点に重点的に資源配分してきている。地域の活性化のためには、今後も関係府省が共同して、地域における産学官連携活動を総合的・集中的に実施していくことが肝要であり、関係する大学等や自治体等の自発的な活動を促しつつ、地域において持続的・発展的にイノベーションを創出するイノベーション・エコシステムの構築を図っていくことが必要である。

3.大学内外のマッチングシステムの充実

 地域の潜在力を十分に発揮するためには、個々の組織の枠を越え、企業ニーズ・地域ニーズと大学シーズのマッチングや産学官共同プロジェクトの企画・調整を推進し、企業・地域社会と大学等との橋渡し役を務める専門人材の充実や地域のリエゾン拠点の強化が重要である。
 このため、産学官連携コーディネーターの充実や独立行政法人等の地域オフィスのリエゾン機能の強化等を通じて大学内外のマッチングシステムを充実していくことが必要である。さらに、コーディネーターの充実に向けて、次代を担う若手のコーディネーターを育成していくため、経験のあるコーディネーターを講師とした研修を実施するとともに、個々の組織を越え、広域的なコーディネーター間の交流・情報交換ネットワークを構築していくことも必要である。

(5)国際的な産学官連携活動の推進

 研究開発のグローバル化が進展する中で、今後、より一層、大学等において、海外の企業との共同研究・受託研究等の推進を図り、有望な研究成果について海外特許出願を行い国際的な権利取得につなげるなど、国際的な産学官連携活動を推進していくことが重要である。また、海外の企業や研究機関との連携においては、環境、エネルギー、感染症対策等、地球規模の課題へのグローバルな取組が期待される。さらに、国際的な産学官連携活動を通じて、開発途上国等の人材育成に資するとともに、国際的に活躍する我が国の人材育成にも資することが期待される。
 このため、今後、以下のような取組を実施していくことが必要である。

1.海外の企業との共同研究の推進

 海外の企業との共同研究等を強化していくことは、海外の企業を通じて国際的な社会のニーズを把握することにより、大学等における教育・研究の活性化を図るとともに、研究プロジェクトに参画する教職員や大学院生等の国際的な対応力の養成といった観点からも意義は大きい。また、国際的に先端的な研究成果を有する海外企業との連携により、大学等における研究能力の向上、最先端の研究領域の開拓、国境を越えた産学官の協働による新たな融合領域の形成なども期待できる。このため、グローバルな吸引力を持つ拠点を中心とする国際的な産学官連携の強化が重要であり、海外の企業との共同研究等の促進を目指し、

  • 海外特許の戦略的な取得や国際的な産学官連携活動にあたっての大学等における国際戦略の確立、
  • 大学等における研究者情報や研究成果等の海外への情報発信力の強化、
  • 海外の企業等に対する継続的なリエゾン活動を行う人材の育成・配置、
  • 海外の企業との交渉実務を担う国際法務機能の充実、

 といった取組を実施することが必要である。
 この場合において、個々の体制整備が非効率となる小規模な大学等においては、ビジョンを共有する大学等の協働を促進し、国際的な産学官連携のためのネットワークを構築していくことも必要である。

2.戦略的な海外特許の取得と活用の強化

 優れた知的財産を国際的に保護し、我が国の国際競争力を強化し、技術流出を防止するため、大学等からの将来の発展可能性のある特許について、特許の質の向上との整合性を考慮しつつ、海外特許出願経費を含めた支援強化を戦略的に図ることが必要である。あわせて、取得した海外特許がより一層活用されるように、海外企業等に対してのプロモーション戦略を検討していくことが必要である。

(6)産学官連携のための機能強化や人材育成・確保に向けた取組

 これまでに整備されてきた産学官連携の制度や体制を実質的に機能させていくためには、イノベーション創出の加速化に向けて、大学等における産学官連携の体制・機能の強化、TLOの機能の最適化及び産学官連携を担う人材の育成・確保を図っていくことが重要であり、今後、以下のような取組を実施していくことが必要である。

1.大学等における産学官連携機能の強化

 平成15年度からの「知的財産本部整備事業」や、これを戦略的に発展させ、平成20年度から実施している「産学官連携戦略展開事業」を通じて、採択された大学等を中心に、それぞれの大学の個性や特色に応じた産学連携体制の整備が進んできているが、将来的に、大学等がより自立的に産学官連携活動を推進していくための支援方策を検討していくことが重要である。このため、これまでの大学等における産学官連携体制の整備の成果・課題を検証した上で、例えば、

  •  グローバルな産学官連携活動を推進していく競争力のある大学等を育成していくために、国際的な産学官連携機能の強化を支援する、
  •  地方の大学と地域の中小企業やベンチャー企業との連携を推進するため、中核となる大学等における地域連携機能の強化を支援する、
  •  知的財産基盤の構築が十分に進んでいない小規模な大学等を中心に、大学等間、研究開発独立行政法人、地方公共団体等との連携を通じた広域的な産学官連携機能の強化を支援する、

など、大学等における産学官連携活動をより活性化させていくために、将来的には産学官連携の機能強化の支援方策を戦略的に発展させていくことが必要である。

2.中長期的な視点に立ったTLOの機能の最適化

 大学等から生み出された研究成果を特許等の知的財産に発展させ、特許実施料等のライセンス収入に結びつけていく上で、TLOは重要な役割を果たしてきているが、国や地方からの助成金の減少により、今後、厳しい経営状況に直面するおそれもあるため、それぞれのTLOにおける中長期的な視点からの戦略を検討することが重要である。
 したがって、産学官連携機能や技術移転機能の最適化を図り、イノベーション創出を加速していくため、TLOの現状や課題を調査分析した上で、それぞれの地域や関連する大学等の特色・個性に即して、必要に応じて、

  • 広域的な機能を持つTLOへの統合、
  • 大学等の産学官連携本部とTLOの統合、
  • 専門領域や地域ごとの他のTLOとの連携強化、

 など、中長期的な観点に立ち、その位置づけ、機能、大学・地域等との関係等を再検討して、外部環境の変化に応じた柔軟な対応が求められる。 

3.大学等における産学官連携活動を担う人材の育成・確保

 大学等における産学官連携本部等においては、専門的な業務についての外部人材(弁護士、弁理士、企業OB等)の活用が進んでいるが、中長期的な観点から大学等における産学官連携活動を推進していくためには、外部人材を効果的に活用しつつ、大学等の内部人材を産学官連携活動を担う専門的人材として育成し、活用していくことが重要である。
 このためには、大学等における産学官連携活動が自立的に発展していくことを目指して、各大学等において、

  • 産学官連携活動を専門的に担当するキャリアパスの確立による専門的な人材の育成・確保、
  • 諸外国における特許等の知的財産制度やビジネス慣習等を習熟させる教育・研修の充実、
  • 専門的な分野におけるポストドクター・大学院生等の知的財産活動への活用、
  • 渉外・コーディネート、契約・法務といった専門的な業務を担当できる人材の育成・確保、
  • ライフサイエンス分野等の研究分野に応じた専門的な知財人材の育成・確保戦略の検討、

 といった、産学官連携活動を担う人材の育成・確保に大学等が組織的に取り組んでいくことが必要である。

2.国として行うべき施策の方向性

 資源が乏しく少子高齢化による人口減少に直面している我が国が、今後も持続的な成長を達成していくためには、科学技術力により企業の国際競争力を高めると共に、環境等の課題に科学技術力を応用し、全世界的に新しい需要を創造すること、すなわち、科学技術駆動型の成長戦略が必要不可欠である。科学技術力による国際競争力強化と新しい需要の創造を怠った場合は、我が国における科学技術の空洞化が生じ、ひいては国力の衰退という取り返しのつかぬ事態を招くおそれがある。
 国は、これまでの取組により活性化が図られてきた大学等における産学官連携活動を停滞させることなく、イノベーション創出のプロセスをより実効的かつ持続可能に機能させ、産学官連携を実質化していくことを目指して、国として政策的観点から促進する施策を戦略的にメリハリを付けて実施していくことが重要である。
 産学官連携の一層の深化に向けて、国は、産業界や大学等のみでは実施することが困難であり、産学官連携を新たなフェーズに導く事業として、独創的・先端的な研究成果、それを発展させた国際競争力を持つ知的財産、知を生み出す優れた人材を継続的に創出していくための産学官協働の「知」のプラットフォームの構築や知的財産の運用性を高め、研究の活性化を推進する知的財産の開放スキームの構築を積極的に支援していくことが必要である。
 また、大学等において独創的・先進的な研究成果を創出し、その研究成果を共同研究等のステージ、技術移転や大学発ベンチャーの創発等のステージにつなげて、イノベーションの創出のサイクルを構築していくことを目指し、特にこれまでの施策では十分にカバーしきれなかった部分を強化していくために、国として必要な支援を行っていくことが必要である。
 大学等においては、それぞれの大学の機能やミッションを踏まえつつ、その大学等の個性・特長やその大学が置かれる地域の特性等を認識した上で、産学官連携活動の意義・在り方を大学の経営戦略の中で検討していくことが重要である。その上で、各大学等においては、産学連携活動のコストと期待される成果とを中長期的な視点で考えながら、自律的な運営を行っていくことが必要である。
 しかしながら、産学官連携活動から成果が生じるまでには時間がかかることが多く、不確実性が高い要素もあるため、これまでの施策によって活性化が図られてきた産学官連携活動が停滞することなく、新たなフェーズに向けて深化していくように、国は、産学官連携の機能強化のため、将来的には、これまでの事業の成果・課題を検証した上で、産学官連携の機能強化の支援方策を戦略的に発展させていくことが必要である。
 さらに、大学等における、国際的な産学官連携活動、地域の中小企業・ベンチャー企業との産学官連携活動、産学官連携活動を担う人材の育成・確保等について、先進的で特色のある新たな取組、地域社会や他の大学等にも波及することが見込まれる取組、個別の大学等のみでは実施が困難な取組等について、国として政策的観点から積極的に促進を図るべき活動を中心に支援を行っていくことが必要である。
 国は、これらの施策を実施していく際には、分野ごとに研究・開発の進め方や産学官の協働の仕方が異なることから、それぞれの分野ごとの特性・特色を踏まえて、それぞれの分野に対応して柔軟な運用を行っていくことが必要である。
 産学官連携については、文部科学省や経済産業省をはじめとして、それぞれの省庁の目的・役割・機能に応じて、様々な施策が実施されてきたが、今後は、国全体として、持続的なイノベーションの創出を図り、科学技術駆動型の成長を実現するために、これまで以上に関係府省の連携を緊密にして、関係府省が一体となって取り組む体制を構築していくことが重要である。
 今後、産学官連携の推進に関する国の施策に対して申請を行おうとする機関は、それぞれの機関の役割を踏まえて、産学官連携の一連のプロセスの中で、具体的にどのような部分を担当し、どのような成果をもたらすことができるかを明確にしていくことがこれまで以上に求められる。
 持続可能なイノベーション創出能力の向上のためには、「教育(人材育成)」と「研究(知の創造)」と「イノベーション(社会・経済的価値創出)」の三要素について、三位一体で取り組んでいくという視点に立って、国としては、産と学と官とのそれぞれの役割を踏まえつつ、産学官相互が協働して、これらの三要素を総合的に発展させていくことができるよう、産学官連携施策を推進していくことが必要である。

おわりに

 本報告は、平成23年度から実施予定の第4期の「科学技術基本計画」の策定に向けて、イノベーション創出のための産学官連携の深化を目指し、産学官連携の推進に関する今後の重要課題について、幅広い審議を行い、今後取り組むべき施策の方向性を取りまとめたものである。
 大学等の産学官連携体制の整備をはじめとするこれまでの様々な国の施策と大学等、公的研究機関、産業界のそれぞれの努力によって、大学等における産学官連携体制の整備が進みつつあり、産学官の連携強化が図られ、産学官連携に関する各種定量的実績も向上しつつあるなど、総じて、産学官連携活動が活性化してきている。
 一方、現在、我が国は世界的規模の深刻な経済不況に直面し、これまで着実に進捗してきた産学官連携活動をめぐる状況も厳しい局面を迎えつつある。また、これまでの産学官連携施策は、産学官連携の体制整備や知的財産の権利確保の取組に重点が置かれてきた傾向があるが、持続可能なイノベーションの創出に向けて、産学官連携の実質化を図っていくために、これまでの施策について必要な見直しを行い、産学官連携を一層深化させていくことが求められている。
 このような状況認識の下、本報告においては、大学等、公的研究機関及び産業界とがそれぞれの役割を踏まえつつ、産学官連携の深化に向けて実施していくべき取組を示し、国は、産学官が協働してイノベーションを創出していくことができるよう、戦略的に施策を実施していくことを提言している。
 文部科学省においては、関係府省との連携を図りつつ、我が国が科学技術を基盤としたイノベーションを持続的に創出し、国際競争力・成長力を強化していくことができるよう、本報告書の内容に沿った効果的な措置を講じていくことを期待する。
 本委員会としては、本報告において提言された施策が我が国の科学技術政策に反映されるよう、第4期科学技術基本計画の策定に向けた動向を注視していくこととしたい。
 さらに、本委員会では、本報告を踏まえた上で、大学等における産学官連携体制の将来像、地域における産学官連携の活性化、産学官連携を通じた人材育成の強化、分野に応じた産学官連携の在り方、国際的な産学官連携活動の発展、国際標準化への対応など、中長期的な視点から継続的に検討が必要と思われる産学官連携の推進に関する課題全般について検討を重ね、産学官連携のさらなる深化に向けて提言を行っていきたい。

科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会委員名簿

【委員:5名】
主査 白井克彦 早稲田大学総長
  柘植綾夫 芝浦工業大学長、三菱重工業株式会社特別顧問
  西山徹 味の素株式会社技術特別顧問
主査代理 野間口有 独立行政法人産業技術総合研究所理事長、三菱電機株式会社取締役
  原山優子 東北大学大学院工学研究科教授
【臨時委員:10名】
  石川正俊 東京大学大学院情報理工学系研究科教授
  石田正泰 東京理科大学専門職大学院知的財産戦略専攻教授
  竹岡八重子 光和総合法律事務所弁護士
  武田健二 独立行政法人理化学研究所理事
  西岡郁夫 モバイル・インターネットキャピタル株式会社代表取締役社長
  本田圭子 株式会社東京大学TLO取締役・弁理士
  三木俊克 山口大学学長特命補佐
  南砂 読売新聞東京本社編集委員
  森下竜一 大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授
  渡部俊也 東京大学先端科学技術研究センター教授
【専門委員:5名】
  秋元浩 日本製薬工業協会知的財産顧問
  井口泰孝 八戸工業高等専門学校長
  羽鳥賢一 慶應義塾大学知的資産センター所長
  平田光子 日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授、日本ベンチャー学会理事
  牧野圭祐 京都大学産官学連携本部長

(以上、計20名)

科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会産学官連携推進委員会審議経過

【産学官連携推進委員会(第5期)】

第1回 平成21年7月8日(水曜日)
○大学等における産学官連携の現状について

第2回 平成21年8月4日(火曜日)
○大学等における産学連携等実施状況について
○今後の産学官連携の推進に係る主な論点について

第3回 平成21年8月28日(金曜日)
○産学連携と知的財産の創出等に関する大学等における意識と動向について意見聴取
 ・長野裕子(科学技術政策研究所第3調査研究グループ総括上席研究官)
○海外の産学連携の動向について意見聴取
 ・西尾好司((株)富士通総研経済研究所主任研究員)
○産学官連携の推進に関する今後の重要課題について

第4回 平成21年9月3日(木曜日)
○国際的な産学官連携活動に関する大学関係者からの意見聴取
 ・田中正男(山梨大学理事(学術研究・産学官連携担当))
 ・辰巳政弘(新潟大学知的財産本部教授)
○地域における産学官連携活動に関する大学関係者からの意見聴取
 ・西村訓弘(三重大学社会連携研究センター社会連携推進戦略室長、社会連携担当・学長補佐)
○産学官連携の推進に関する今後の重要課題について

第5回 平成21年10月1日(木曜日)

○国際的な産学官連携活動に関する大学関係者からの意見聴取
 ・髙橋秀実(東京工業大学産学連携推進本部特任教授)
○産学官連携の推進に関する今後の重要課題について(論点整理)について
○産学官連携の推進に関する今後の重要課題について審議状況報告(案)について

第6回 平成21年11月11日(水曜日)
○産学官連携の推進に関する今後の重要課題について審議状況報告(案)のとりまとめ

審議状況報告(概要) 産学官連携の推進に関する今後の重要課題について

今後の産学官連携についての基本的な考え方

1.産学官連携推進の重要性

(1)科学技術駆動型の成長戦略と産学官連携

○ 我が国の持続的な成長のためには、科学技術力による企業の国際競争力強化及び環境等の課題に科学技術力を応用した全世界的な新需要創造、すなわち、科学技術駆動型の成長戦略が必要不可欠。
○ そのためには、1.大学等において、独創的・先進的な研究成果を継続的に生み出し、2.その成果を活用し、広く社会還元するため、産学官連携活動の積極的な推進が必要。

(2)地域振興・地域の発展と産学官連携

○ 地域発イノベーション創出モデルによる地域経済活性化は、各地域にとって喫緊の課題。
○ 大学等が、地域の中小企業の研究開発支援、農業分野等への科学技術の応用等を通して、地域振興と地域社会の発展に貢献することが期待され、産学官連携活動の活性化推進が重要。

(3)国際貢献、地球規模課題の解決と産学官連携

○ 企業の海外事業展開による研究開発のグローバル化に伴い、大学等も国際的に評価される時代に突入。最先端の知、最先端の研究リソースを求め、国境を越えて連携相手を選ぶ動きが加速。
○ 国際的産学官連携活動は、日本の科学技術力による環境等地球規模の課題解決の推進、開発途上国等の人材育成による国際貢献及び国際的に活躍する我が国の研究人材の育成に資するものであり、その推進が求められる。

(4)科学技術人材の育成と産学官連携

○ 産学官連携活動は、社会が必要とする人材の育成、科学技術の新領域や融合領域への展開、大学等の研究成果の社会還元のための重要な手段であり、大学等における教育、研究、社会貢献の発展にとってもその意義は大きい。

○ 産学官連携は、大学等教育の側面では、企業等との協働による課題解決であり、優れて実践的な科学技術人材育成の場であり、科学技術人材育成強化のため、産学官連携活動の推進が重要。

2.これまでの産学官連携推進の施策とその成果

○ 我が国の産学官連携活動は、当初、特許の個人帰属を前提とした研究者、研究室単位での活動を中心に推進されてきたが、平成10年の大学等技術移転促進法、平成11年の産業活力再生特別措置法、平成16年度からの国立大学法人化等により、特許の機関帰属を前提とした大学等の組織的な活動に転換。
○ このような状況の中、国は、大学等の産学官連携体制の整備や研究成果の権利保護等の支援を通じて産学官連携活動の主として量的拡大を図ってきた。
○ こうした国の施策と大学等の努力により、大学等における産学官連携体制の整備が進み、企業との共同研究、企業による大学等の特許実施件数、大学発ベンチャーの増加等、産学官連携活動が総じて活性化。

3.産学官連携が直面している課題と解決の方向性

(1)深刻な経済不況による影響とグローバルレベルでの研究開発競争の加速

○ 現在、世界規模での深刻な経済不況に直面し、多くの企業で研究開発環境が悪化。産学官連携活動を巡る状況も厳しい局面を迎えつつある。
○ EUの「欧州テクノロジー・プラットフォーム(ETP)」、仏・グルノーブル・イゼール産学官国際研究拠点等、国際的な大規模国際産学官連携拠点の構築などグローバルなレベルでの先端技術の開発競争は加速。
○ 我が国が科学技術力で優位な地位を占めることができるかは、予断を許さない状況。

(2)産学官連携の実質化を促進する施策の必要性

○ 持続可能なイノベーション創出のためには、今後の産学官連携についての方向性を検討し、次のフェーズに向けた産学官連携の推進施策の構築が求められる。
○ 今後は、これまでの制度や体制整備といった取組の枠を越えて、以下のような重要課題に対応し、産学官連携の実質化を図っていくことが必要。

  1. 産学官連携の領域を基礎研究レベルにまで拡大するため、大学・公的研究機関・企業間のネットワークを形成し、知のプラットフォーム(共創の場)を構築することが必要。
    → 取組1.産学官協働によるイノベーション創出に向けた新たな場の創出
  2. 研究開発の促進に知的財産を活用するため、知的財産の独占権を担保しつつも、知識の流通に支障を来さない仕組みを整備することが必要。
    → 取組2.研究活性化及び活用促進に向けた知的財産開放スキームの構築
  3. 研究成果の事業化支援、研究マネジメントを行う人材の育成、研究成果を高付加価値の技術シーズに高める活動等を推進するための「つなぎ」、「マネジメント」、「補完」の役割を担う人・組織の充実、産学官連携を戦略的に推進する仕組みの整備・強化、国際的産学官連携等に対応できる専門人材の育成・確保が必要。
    → 取組3.研究成果の創出と活用に向けた支援の充実
    → 取組6.産学官連携のための機能強化や人材育成・確保に向けた取組
  4. 地域における産学官連携活動では、自治体の各種施策と有機的に組み合わせるなど、地域の自律的発展に結びつける仕組みが必要。
    → 取組4.地域における産学官連携活動の推進
  5. グローバルな吸引力を持つ研究拠点等での取組強化、大学間協働の促進等による国際産学官連携活動を一層推進する施策が必要。
    → 取組5.国際的な産学官連携活動の推進

○ このため、国は、産学官連携活動を停滞させることなく、新たなフェーズに向けて、国として政策的観点から戦略的に推進する施策をメリハリを付けて実施していくことが重要。
○ 持続的なイノベーション創出能力の向上に向けて、「教育(人材育成)」「研究(知の創造)」「イノベーション(社会・経済的価値創出)」三位一体で取り組んでいくことが重要。この視点に立って産学官連携の施策を推進することが必要。

産学官連携の深化に向けた取組

1.産学官連携協働によるイノベーション創出に向けた新たな場の形成

○ 持続可能なイノベーション創出のため、大学等、産業界、研究開発独立行政法人等とがそれぞれの役割を担い、協働してイノベーション創出の源泉となる新たな「知」のプラットフォーム(共創の場)を構築することが必要。
○ 産業界の課題に対し、産学の対話により設定された研究領域において大学等が基礎研究を行い、その成果を踏まえた緊密な産学官の対話・交流を行う。
○ 産学官連携の領域を基礎研究の立案段階にまで拡大し、相互理解と連携関係を深化させると共に、産学官の人材交流も含めた人材育成を図っていくことが必要。

2.研究活性化及び活用促進に向けた知的財産開放スキームの構築

○ 知的財産の独占権を担保しつつも知識の流通に支障を来さない仕組みとして、大学等が保有する特許を企業を含む国内他機関における研究実施過程に限って無償開放する「リサーチ・パテントコモンズ」を構築し、個別にライセンス契約を結ぶことなく簡便に特許を研究に利用できる仕組みを整備(任意参加。対象特許は提供者が選択)。
○ 戦略的に重点化する技術分野を選定し、領域ごとに関連する科学技術情報(特許マップ等)も提供して知的財産の技術的価値の理解の容易化を図り、それら全体を「科学技術コモンズ」として運用。
○ これにより基礎研究を活性化するとともに、産業界にも開放していくことで、大学等の知的財産の活用を促進し、知的財産の新たな価値の発掘に繋げ、イノベーションの創出を促す。

3.研究成果の創出と活用に向けた支援の充実

○ 研究マネジメントや知財活動等に従事するリサーチ・アドミニストレーターを育成・確保し、大学等の研究マネジメント体制を強化。
○ 大学等の有望な研究成果について、実現可能性の目利きやプロトタイプ等による検証を通じて高付加価値の技術シーズに向上させていくことを支援。
○ 大学等の研究成果の事業化までの切れ目のない支援やベンチャー創出のため、シード・アーリーステージにおける研究開発経費等を充実。

4.地域における産学官連携活動の推進

○ 地域の中小企業等との産学官連携活動の活性化に向けて、大学等の研究力と中小企業・ベンチャー企業の技術力を活用して、課題解決・事業化を目標とする共同研究を強化。大学等は、戦略的に地方公共団体等と連携を図りつつ、地域イノベーションを生み出すため、地域振興人材の育成支援体制の整備等の取組を強化。
○ 地域の産学官連携拠点においては、関係府省、自治体等の各種施策を有機的に組み合わせて総合的に実施し、持続的・発展的にイノベーションを創出するイノベーションエコシステムの構築を推進。
○ 地域の潜在力を十分に発揮するためには、個々の組織の枠を越え、広域的な大学等のコーディネーターのネットワーク機能や独立行政法人等の地域オフィスのリエゾン機能の強化を踏まえた総合的マネジメントの仕組の確立が必要。

5.国際的な産学官連携活動の推進

○ ビジネスモデルや研究開発のグローバル化に鑑み、産学官連携の真価発揮のためには、グローバルな吸引力を持つ拠点を中心とする国際的な産学官連携戦略の一層の強化が必要。
○ 海外特許出願経費を含めた支援強化を図るとともに、大学等における取得した海外特許のより一層の活用を目指した海外企業等に対するプロモーション戦略の構築を促進。
○ 個々の体制整備が非効率となる小規模な大学等においては、ビジョンを共有する大学等の協働を促進し、国際的な産学官連携のためのネットワークを構築。

6.産学官連携のための機能強化や人材育成・確保に向けた取組

○ 産学官連携の戦略的な推進に当たっては、それぞれの機関や地域の特色・個性等に即して、国際性広域性、更には分野的な視点も加え、大学等における産学官連携本部といった組織やTLO(技術移転機関)の在り方について検討し、機能分担等の見直し連携強化統合等イノベーション創出を加速する仕組を整備する取組が必要。
○ 国内機関のみならず海外機関との対応能力やライフサイエンス等の重点分野の産学官連携活動を担える専門的知見を有するなど、新たなフェーズに対応できる専門人材の確保、育成・評価、キャリアパスの確立について、大学等が組織的に取り組むことが必要。

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

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(研究振興局研究環境・産業連携課)