第1部 今後の知的基盤整備に向けて ~今後取り組むべき重要事項(中間取りまとめ)~

(知的基盤整備委員会における調査・検討結果の取りまとめ)

第1部 目次

1.はじめに

2.知的基盤の定義・必要性と今後の検討に向けた基本的視点

 (1) 知的基盤の定義とその必要性
 (2) 2011年以降の知的基盤整備計画
 (3) 今後の検討に向けた基本的視点

3.知的基盤整備に係るこれまでの主な取組・現状

 (1) 研究用材料
 (2) 計量標準
 (3) 計測方法・機器等
 (4) データベース

4.知的基盤整備に関連した最近の動向

 (1) 「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」の施行(平成20年10月)
 (2) 第3期科学技術基本計画フォローアップの実施(平成21年6月 総合科学技術会議)
 (3) 未来開拓戦略(Jリカバリー・プラン)の策定(平成21年4月 経済財政諮問会議了承)
 (4) 将来の成長に向けた科学技術政策の重要課題(中間的なまとめ)(平成21年3月 総合科学技術会議)

5.今後取り組むべき重要事項(検討に当たっての留意事項や課題等)

 (1) これまでの取組に係る検証
 (2) 新たな計画の策定
 (3) 「知的基盤」の概念整理
 (4) 戦略目標の設定
 (5) 知的基盤整備体制の構築・確保
 (6) 利用者ニーズに応える知的基盤の充実・高度化
 (7) 国際的取組の推進

1.はじめに

 研究者等による知的創造活動や社会経済活動において幅広く利用される「知的基盤」は、科学技術分野における知の創造・イノベーションの創造、さらには我が国の持続的発展並びに国民生活の向上を図る上で必要不可欠なものである。そのため、継続的かつ安定的な知的基盤整備とその利活用促進に向け、国として推進していくことが必要である。

 我が国の知的基盤は欧米と比較し、これまで特に量においてかなり遅れていたことや、第2期科学技術基本計画(平成13年3月 閣議決定)では2010年を目途に世界最高水準の知的基盤整備を求めていたこと等を踏まえ、科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 知的基盤整備委員会を設置し検討を行い、その検討結果をもとに科学技術・学術審議会において平成13年8月に「知的基盤整備計画」をとりまとめた。

 「知的基盤整備計画」では、広く供用可能とされている、1. 研究用材料(生物遺伝資源等)、2. 計量標準(標準物質を含む。)、3. 計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、4. これらに関連するデータベース等の4つの領域のものを「知的基盤」として位置づけるとともに、国が重点的に整備すべき知的基盤、官民の役割分担、体制の構築、国際的な取り組み等に向けた具体的方策、及び2010年における戦略目標を設定した。

 その後、第3期科学技術基本計画が平成18年3月に策定され、量的観点のみならず、質的観点を指標とした整備を行うよう知的基盤整備計画の見直しを行うことや、公的研究機関を中核的な役割を担う機関とし拠点化を図ること等が求められることとなった。これを受け、知的基盤整備委員会において検討を行い、科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会において「知的基盤整備計画について」を平成19年9月に取りまとめ、「知的基盤整備計画」の見直しを図ってきたところである。

 「知的基盤整備計画」及び「知的基盤整備計画について」(以下、「知的基盤整備計画等」という。)は、我が国の知的基盤を2010年に世界最高の水準とすることを目指した計画である。知的基盤整備計画等で示す計画期間後、すなわち2011年以降における知的基盤整備の在り方について今後検討を開始する必要がある。このため、本年4月より、知的基盤整備委員会において、知的基盤整備計画等に対する我が国の取組状況の把握や達成状況の検証、2011年以降における知的基盤整備の方策について検討を行ってきた。本中間取りまとめは、知的基盤整備委員会におけるこれまでの検討結果を踏まえ、「今後の知的基盤整備に向けて~今後取り組むべき重要事項~」としてまとめたものである。

2.知的基盤の定義・必要性と今後の検討に向けた基本的視点

(1)知的基盤の定義とその必要性

 知的創造活動の成果として蓄積された知的資産を体系化し広く供用可能とした基盤は、更なる知的創造活動による利用だけでなく、社会経済活動においても幅広く利用されるものである。社会経済活動の発展に伴い、知的基盤の重要性が益々高まってきており、今後とも着実・安定的な知的基盤整備及びその利活用を図ることが必要とされている。
 知的基盤に係る計画や整備方策について検討を進めるためには、「知的基盤」の定義の整理・明確化が重要である。これまで、第3期科学技術基本計画(平成18年3月閣議決定)では「知的基盤」を、研究開発活動・経済社会活動全般を支える1.生物遺伝資源等の研究用材料、2.計量標準、3.計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器(以下、「計測方法、機器等」という。)、4.関連するデータベース等として位置づけられている。また、「知的基盤整備計画について」(平成19年9月 技術・研究基盤部会取りまとめ)では、次の3つの条件(1.知的創造活動のための材料、試資料等や知的創造活動の成果として蓄積されたもの、2.体系化され、広く供用可能なもの、3.さらなる知的創造活動や広く経済、社会活動において利用されるもの)を満たすものと定義できるとされているところであるが、今後新たな計画策定を検討する際においても、「知的基盤」の定義を明確にしておくことが非常に重要となる。

(2)2011年以降の知的基盤整備計画

 知的基盤整備は必ずしも単独の省庁・機関だけで進められるわけではなく、関係省庁及び整備機関が相互に連携し、効率的・効果的に整備を進めていくことが必要な場合もある。特に横断型の知的基盤整備については当初段階から総合的・一体的な計画・施策の推進を行うことが重要である。
 そのためには、知的基盤整備に向けて我が国全体としての戦略目標や目標実現に向けた具体的方策等を記載する新たな計画を策定することによって、関係省庁や機関が行う施策推進の根拠としたり、関係機関間の連携・協力を促したりすることが可能となる。また、広く対外的に知的基盤整備の重要性・必要性を認識、理解してもらうための有効なツールとなることも期待できる。なお、新たな計画策定に際しては、我が国全体として総合的かつ一体的な施策推進が可能となるよう、特に全体計画に関しては総合的な調整機能を有する機関等が中心となり、関係省庁等と連携・協力していくことが大切である。

(3)今後の検討に向けた基本的視点

 今後の知的基盤整備の方策を検討するに当たり、まず最初にこれまでの知的基盤整備に関する取組、投資に対する検証・評価を行うことが必要である。その際、知的基盤は「知の創造」のみならず、「社会的及び経済的価値の創造の具現化」という2つの役割も有している点を考慮しておく必要がある。知的基盤整備についてはこれまで、プラットフォームやハード、データベースをどう整備していくかといった視点が中心であり、社会的及び経済的価値の創出(イノベーションの創出)にどうつなげていくかという視点が不足していたと考えられる。
 また、「知的基盤整備計画について」では、利用者ニーズへの対応の度合いや利用頻度といった質的観点の指標追加がなされたが、今後は、そうした観点だけではなく、イノベーション創造に繋がる優れた成果を生み出せるかという観点を盛り込むべきである。具体的には利用ニーズに合致した、高い利用価値や付加価値を有する資源を、国全体として新たに創り出していく等の取り組みを図っていくことが必要である。その際、知的基盤を整備する側と知的基盤を利用する側との情報のフロー、インタフェースといった視点も踏まえつつ、目指すべき「質」は何かを追求していくことが望ましい。
 以上を基本的視点とし、今後の知的基盤整備の方策についての検討を進めていくことが適当である。

3.知的基盤整備に係るこれまでの主な取組・現状

(1)研究用材料

 各省庁が所管する研究機関や大学等の保有する生物遺伝資源(バイオリソース)の保有件数及びその提供件数は概ね順調に増加している。また、既にいくつかの実験動植物、細胞等の遺伝資源については2010年の戦略目標を達成しているものも見られる。
 生物遺伝資源については、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」により、27リソースについて、独立行政法人理化学研究所をはじめとする31機関(代表14機関、分担23機関)を中核的拠点として位置づけ、国が戦略的に整備することが重要なものについて体系的な収集、保存、提供等を行うための体制整備が進展している。本事業により、特性情報や遺伝情報が付加された疾患モデルラットリソースの系統を揃え、ヒト疾患の解明と予防の研究に貢献している。また、ミヤコグサは、イネやシロイヌナズナと同様にモデル植物としての地位を築き上げ、主に、植物と微生物との共生関係にある根粒および菌根形成に関わる研究などで利用されている。
 また、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターは生物遺伝資源のうちヒト・動物細胞の保存株数が世界一となり、また、管理するすべての生物遺伝資源において世界三極の一つ、またアジア最大のリソースセンターとなっている。
 独立行政法人医薬基盤研究所(以下、「基盤研」という。)は、細胞バンク事業として、疾患研究に資するヒト細胞等を保有・分譲するとともに、世界で初めて細胞株のウイルス検査を網羅的に実施し、マイコプラズマ検査、クロスコンタミネーション検査の実施など極めて高度な品質管理を行っている。また、基盤研の霊長類医科学研究センターは約2,000頭のカニクイザル等高品質の医科学研究用霊長類の繁殖、育成、品質管理、供給を行う日本唯一の機関であり、薬用植物資源研究センターは薬用植物に関する日本唯一の総合研究センターとして4,000種類を超える薬用植物を栽培、保存するとともに、種苗の供給等を行っている。さらに、基盤研では平成21年度から新たに難病研究資源バンク事業を実施しているところである。
 独立行政法人農業生物資源研究所は、「農業生物資源ジーンバンク事業」のセンターバンクとして他研究機関と連携し、食料農業分野における植物遺伝資源約24万点、微生物遺伝資源約2.5万点などの保存点数を有するなど、世界有数の保存点数を誇るジーンバンクとなっている。
 植物遺伝資源、水産生物遺伝資源、産業有用微生物、環境微生物、林木遺伝資源や動物細胞、実験動物等の収集、保存、提供に関しても公的研究機関である独立行政法人を中心とした取組が進められている。
 各種遺伝資源の整備が進んだことに伴い、体系的、網羅的に生物の多様性を踏まえた研究の進展や、日本工業規格(JIS)等の検定菌として利用する等の産業利用の拡大等に広く貢献している。今後は、増加し続けるリソースの保存方法、安全・効率的な発送方法、ゲノム情報など付加価値向上など、利用者ニーズも踏まえたリソースの質の一層の向上等を図っていく必要がある。

(2)計量標準

 物理標準については独立行政法人産業技術総合研究所計量標準総合センター(以下、「NMIJ」という。)を中心として整備が進められており、これまでに2010年の戦略目標が既に達成されている。また、標準物質についてはNMIJ、財団法人化学物質評価研究機構を中心として整備が進められているが、こちらについても2010年の戦略目標が既に達成されている。これまでに、日本から712種類の計量標準が国際度量衡局(BIPM)の基幹比較データベースに登録されており、登録数は世界第8位となっているなど、計測の基盤となる標準物質の供給の質、量については世界レベルに到達しつつある。一方、安全・安心に関連する標準物質や臨床検査用標準物質については我が国全体として見た場合、依然として欧米の整備水準とは隔たりが見られる。
 また、国際的な貢献については、NMIJにおいてタイに対して技術移転により計量標準を立ち上げる等、アジア諸国の計量システムの構築と向上に対する支援が行われている。
 各種計量標準の整備が進んでおり、例えば、極小の長さ(ナノメートル単位)の計量標準を世界で初めて開発したことによるナノテクノロジーの研究開発への貢献、また高温(1,100℃以上)の計量標準を世界で初めて開発したことによる高温で製造する材料等の研究開発への貢献、その他新製品・技術の普及・促進、先端的測定装置の開発、国際競争力の強化等に対し幅広く貢献している。

(3)計測方法・機器等

 ライフサイエンス分野の計測機器の国内市場における国内企業シェアは依然として小さく、海外企業の機器に依存している状況にある。
 先端的な計測分析技術・機器開発については、独立行政法人科学技術振興機構(以下、「JST」という。)によって平成16年度より将来の創造的・独創的な研究開発に資する先端計測分析技術・機器及びその周辺システムの開発を推進する「先端計測分析技術・機器開発事業」が実施されている。世界最先端の研究者等のニーズに応えられる世界初のオンリーワン/ナンバーワンの技術、機器の開発を推進することにより、これまでに相当数のプロトタイプ機が完成している。また、従来計測分析できなかったデータ、例えば、質量顕微鏡による細胞内生体分子の質量スペクトル及び生体試料に含まれる糖タンパク質糖鎖プロファイルデータなどが大量に計測可能となり、新しくデータベース化すべき測定対象が多数得られている。従来にない新しい計測システムを実現する分析機器の分野での相当程度の進展も見られている。
 このほか、JSTの「戦略的創造研究推進事業」において文部科学省が定めた戦略目標「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」を踏まえ、研究領域を設定し戦略的な基礎研究を実施している。
 一方、大学や独立行政法人等が有する計測機器等の共用に関しては、大学等が有する先端的な研究施設の共用を促進し、産学官の研究者等による研究開発や、研究機関や研究分野を超えた横断的な研究開発を推進し、イノベーションにつながる成果創出を目指した「先端研究施設共用促進事業」が行われている。今後は、「先端計測分析技術・機器開発事業」により開発され、実証実用化された機器の共用促進が課題となる。
 このほか、独立行政法人物質・材料研究機構では、VAMAS(Versailles Projects on Ad‐vanced Materials and Standards)国際共同研究の分担機関として、表面化学分析技術・ナノ計測技術の確立や、超伝導材料・組織工学材料・高温材料の特性評価技術の標準化を推進している。大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構では、先端計測分析技術として素粒子実験で用いられた計測手法にて、タンパク質等の計測や透過イメージングする装置の開発を行っている。
 独立行政法人理化学研究所では、放射光研究事業として、大型放射光施設SPring‐8やProteinTechtonics Platform等を活用し、タンパク質機能・構造等の解析方法や機器の開発・向上を図っている。NMIJの物性分野では、バルク材料、薄膜、コーティングに関する熱膨張率、熱拡散率、比熱容量の国家標準を開発し、依頼試験や標準物質の供給を開始し、国際単位系(SI)に基づく不確かさの評価された計測方法の提供を可能とする等の取組が行われている。

(4)データベース

 ライフサイエンス分野では、DNA配列やタンパク質構造データがDDBJ(DNA Data Bank of Japan)やPDBj(Protein Data Bank Japan)に順調にデータベース化され、さらに「統合データベースプロジェクト」によりデータベースの利便性向上を図るための基盤技術開発、人材育成、データベース統合活用システムの構築が推進されている。統合データベースの整備が進んだことに伴い、計測データやそれらに付加した注釈情報のみならず、文献、特許情報までも含む複数かつ異種のデータベースの横断的な検索や情報抽出が可能となり、バイオインフォマティクス分野が進展しつつある。また、JSTでは、「バイオインフォマティクス推進センター事業」により生命情報データベースの高機能化に向け、データベース情報の高度化、標準化、高機能生体データベースの開発、普及活動、GBIF(Global Biodiversity Information Facility)参画のための活動が行われており、世界的にも評価されるデータベースの構築等が進められている一方で、その規模や継続的な利用を視野に入れた体制、活用状況等について更なる取組の必要性が指摘されている。平成23年度からは「統合データベースプロジェクト」と「バイオインフォマティクス推進センター事業」を一体化した「統合データベースセンター(仮称)」をJSTに整備することとしており、現在その具体化の検討が行われている。
 また、化学分野では、化学物質の総合管理に必要な情報(法規制、有害性、暴露等)を収集し、化学物質総合情報提供システムとして公開されている。収集の進展に伴い、化学物質の製造事業者のみならず、素材産業、加工組立産業等幅広い産業分野、特に中小企業の化学物質の管理充実に寄与している。
 材料物性データベース、人間特性データベース、製品事故情報データベース、地質データベースの整備については、公的研究機関である独立行政法人が中心となり実施されており、サービスの向上、製品開発や製品事故の未然防止、防災・減災対策等に大きく貢献している。そのほか、地理情報関係においては、国土交通省において、2.5万分の1地形図相当のGIS基盤情報について平成14年度末までに全国のデータ提供、インターネット閲覧が開始されている。
 今後は、利用者が欲する情報が提供できるデータベースや利用者視点に立ったサービス等の質の向上をより一層図っていく必要がある。

4.知的基盤整備に関連した最近の動向

(1)「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」の施行(平成20年10月)

 本法は、中国をはじめとする諸外国の台頭などによる国際的な競争条件の変化、急速な少子高齢化の進展等の経済社会情勢の変化に対応するため、国による資源配分から研究成果の展開に至るまでの研究開発システムの改革を行うことにより、公的研究機関、大学、民間も含めた我が国全体の研究開発力を強化し、イノベーションの創出を図り、我が国の競争力を強化することを目的としたものである。
 本法第35条に、知的基盤の供用の促進に関する規定が設けられており、具体的には、研究材料、計量の標準、科学技術に関する情報その他の研究開発の推進のための知的基盤をなすものの供用の促進を図るため、国、研究開発法人及び国立大学法人等が保有する知的基盤のうち研究者等の利用に供するものについて、研究者等が当該知的基盤を利用するために必要な情報の提供その他の当該知的基盤を広く研究者等の利用に供するために必要な施策を国が講ずることを求めている(第35条第1項)。
 また、研究開発法人及び国立大学法人等は、その保有する知的基盤のうち研究者等の利用に供するものについて、可能な限り、広く研究者等の利用に供するよう努めることを求めている(第35条第2項)。
 さらに本条においては、知的基盤の供用のみならず研究開発施設等の共用の促進についても必要な施策を国が講ずること等としている。

(2)第3期科学技術基本計画フォローアップの実施(平成21年6月 総合科学技術会議)

 総合科学技術会議では、第3期科学技術基本計画に掲げられている施策の平成18年度から平成20年度における実施状況に関するフォローアップ調査を実施している。知的基盤関連については次の所見が示されている。
1) 知的基盤の整備について、ライフサイエンス分野でのナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)及び統合データベース整備事業などで進捗していることは、高く評価できる。
2) 大学や研究開発法人における運営費交付金の減少が、知的基盤の維持管理への資源投入を困難にしており、さまざまな取組にもかかわらず、知的基盤の整備及び当該整備に携わる人財の確保には未だ課題がある。各機関において費用対効果の高い手法がないか更に工夫を重ねるとともに、共通基盤的なものについては、共同して、あるいは、全国レベルでの整備などの工夫も望まれる。
3) 知的基盤の整備やその利活用に携わる研究支援者、技術者等の人財を適切に評価する仕組みを構築し、これらの人財を継続的に確保するための体制を整備する必要がある。
4) 先端的機器の開発につながる新たな要素技術を創出する体制を強化するとともに、開発された機器の普及を推進する取組を更に進める必要がある。

(3)未来開拓戦略(Jリカバリー・プラン)の策定(平成21年4月 経済財政諮問会議了承)

 経済危機克服に向け策定された本戦略においては、経済成長の原動力となる科学と技術の力を支えるのは、新たな価値を創造するイノベーション人材であるとし、そのためには、中長期的な視野に立った基礎科学力の強化や、出口を見据えた環境・エネルギー技術等の分野における戦略的な研究人材、研究支援人材の育成・活用が必要である、としている。
 知的基盤関連では、世界トップレベルの研究環境の実現を図るため、ポスドク・研究支援者等の大規模活用、多様な研究開発活動を支える研究基盤の整備・高度化、が重点プロジェクトの一つとされている。

(4)将来の成長に向けた科学技術政策の重要課題(中間的なまとめ)(平成21年3月 総合科学技術会議)

 総合科学技術会議において、昨今の激動の時代において、環境・資源制約を突破し、グローバル化する世界の中で日本が生き残り、日本社会の構造的危機(国力の低下)を回避するために、科学技術に対して何を期待されているのかの視点から喫緊の重要課題に関する検討が行われ、本年3月にそれまでの検討状況を中間まとめとして公表されている。
 知的基盤関連では、「研究基盤の整備及びオープン・アクセス化~世界と戦える研究インフラ整備~」の項目において、我が国が激しい国際的競争に勝ち抜くため、i) 集中維持・管理による研究設備の全国に開かれた共同利用体制の構築、ii) 多様な基礎研究から得られた成果を速やかにイノベーションに結びつけるための研究成果データベースの構築及び統合化を推進する、としている。

5.今後取り組むべき重要事項(検討に当たっての留意事項や課題等)

(1)これまでの取組に係る検証

 研究用材料、計量標準、計測方法・機器等、及びデータベースに対するこれまでの主な取組状況は、「3.知的基盤整備に係るこれまでの主な取組・現状」で示したとおりである。国、独立行政法人等を中心とし、大学等の関係機関と連携しながら様々な取組がなされてきたところである。
 知的基盤整備計画等では、2010年に世界最高水準の知的基盤整備を目指すという戦略目標が掲げられている。戦略目標として設定されている生物遺伝資源の保有件数や提供件数をはじめとし、全体的にみて概ね着実に増加している。また、計量標準や実験動植物、細胞等の遺伝資源の一部には、2010年の戦略目標を達成するなど、これまで順調に進捗してきたと判断できるが、重要な遺伝資源全てが順調と判断できるまでには至っていない。また、研究や技術開発の進展により、当初、予定してなかったような資源整備の可能性や研究需要も生まれている。
 一方、一部の機関を除き利用者の意見やニーズ、知的基盤の利用成果把握に対する取組が十分でなく、特に利用者側の視点から見たフォローアップが不足している等といった課題も見受けられる。また、知的基盤整備に係る人材の確保や育成に関する取組は不十分であり、必要人材の継続的確保や、知的基盤整備への貢献に対する適正な評価を実施している機関も少ない状況にある。
 さらに、知的基盤整備計画では世界最高水準を目指すことにプライオリティをおいて整備を進めてきたため、領域毎の知的基盤整備は順調に進んできているものの、領域間の連携は必ずしも十分に進んでいるとは言えない。例えば、基礎基盤研究向け生物遺伝資源は、研究者等の興味に基づく学術研究に関する資源が中心であり、出口指向の研究を視野に入れた整備が不足しているといったことが見られている。
 なお、知的基盤整備計画の最終年は2010年であることから、知的基盤整備計画で示す戦略目標の達成状況について現時点で評価を行うのは時期尚早である。来年度を目途に詳細な達成状況調査とその評価を行うことが望ましい。その際、知的基盤整備計画等で掲げた目標が達成されたか、未達成目標についてはその原因分析等を行うとともに、計画策定当時の目標設定の妥当性についての検証についてもあわせて行うことが適当である。

(2)新たな計画の策定

 知的基盤整備計画等に対するこれまでのフォローアップ調査結果からは、我が国として取り組んできた成果が着実に現れている。知的基盤は研究開発活動、経済社会活動全般を支える「基盤」となるものであり、この位置づけは今後(2011年以降)も変わらないと考えられる。今後とも、国として継続的に知的基盤整備を進めていく必要があり、新たな整備計画策定に向けた作業を進めていくことが必要である。
 新たな整備計画の策定にあたっては、以下に示す 1)「知的基盤」の概念整理、2)戦略目標の設定、3)知的基盤整備体制の構築・確保、4)利用者ニーズに応える知的基盤の充実・高度化、5)国際的取組の推進、についての検討が必要である。

(3)「知的基盤」の概念整理

 2.(1)で説明したとおり、知的基盤整備に向けた具体的方策を検討するうえで、関係者による共通認識を得ておくため、あらかじめ「知的基盤」の定義について整理しておく必要がある。その際、知的基盤整備計画等に記載されている「知的基盤」の概念、考え方を踏襲することが良いのか、あるいは再定義することが良いのか等の検討・整理が必要である。

(4)戦略目標の設定

a)知の創造及びイノベーション創造に資する知的基盤整備

 知的基盤整備計画等では、「知的基盤」として4つの領域を位置づけ、その整備方策等について整理してきた。既に述べたように、知的基盤は研究者による知的創造活動だけでなく、社会経済活動においても幅広く利用されるものであり、科学技術分野における知の創造・イノベーションの創造を図る上で必要不可欠なものである。これまでの4領域(研究用材料、計量標準、計測方法・機器等、データベース)については引き続き継続的かつ安定的な整備を図っていく必要があるが、それのみならず、知の創造・イノベーション創造につなげるうえで、今後重点的に整備すべき領域については4領域との関係も含め検討する必要がある。その際、研究開発活動等を支えていく基盤、先端的な研究機器及び設備の共用、再利用環境の構築や、今後予想されるイノベーションの進展を踏まえ、体系化された知的資産を広く共用可能とする知的財産の管理スキームも位置づけること等についても検討することが望ましい。生物遺伝資源については、生命現象の統合的理解の基礎・基盤研究から、人類の持続的発展のための健康、食料、環境の課題解決等の出口指向の研究まで、特に我が国の研究ニーズに応えるものであり、引き続き重点領域として整備することが必要である。
 データベースについては、これまでの取り組みを引き続き推進するとともに地球環境分野など国が今後重視し取り組むべき分野のデータベース構築といったものを対象とすることについて検討する必要がある。
 また計量標準については、基本的な計量標準の整備に目途が立ったことにより、今後、NMIJは新たな計量ニーズへフォーカスし、低炭素社会の実現や安心・安全など国の重要技術課題に係わる計量標準を迅速かつ効率的に構築していくことが必要である。
 さらには、複数領域にまたがる領域横断的な取り組みが必要とされる場合もある。このような場合には関係機関間の協力・連携が特に重要となり、5.(5)c)の項に記載のとおり、関係機関間での施策調整等により、円滑に実施出来るよう努めていく必要がある。

b)先端計測分析機器等の開発、普及・利用促進

 先端的な計測分析技術・機器開発は、新たな知見の発見を支える研究開発活動全般の知的創造基盤ともいえるものであり、多方面の分野に与える波及効果が大きい。今後は開発推進のみならず、これまでの開発成果の研究開発活動への普及、産業界及び市民社会を含めて社会還元の促進を一層進めていくことが必要である。
 ライフサイエンス分野で使用される先端計測分析機器における国内市場での国内企業シェアは小さく、依然として海外企業の機器に依存している状況にある。我が国として当該分野における基盤技術を構築するため、開発当初から、機器メーカや利用者等を交えた連携体制による開発を進めるとともに、開発された機器、技術の市場への普及方策について検討を進めていくことが必要である。
 また、次世代シーケンサー、NMR装置、放射光施設(SPring‐8など)、MRI装置、スーパーコンピューターなどの先端計測分析機器及び設備等を国としていち早く整備することは、今後のライフサイエンス研究等を国際的に先導できるか否かを決める前提条件になっている。このため、国として、これら先端施設等の中核的拠点を整備し、我が国全体で利活用できる体制構築を進めていくことが重要である。現在の欧米等の状況を踏まえて、今後、どのような先端機器等を重点的に整備・開発すべきか、これらの先端機器等を効果的に活用する技術基盤や共用体制をどのように発展・維持・継承していくべきか検討を深める必要がある。

c)創薬・医療技術支援基盤の構築

 上述の先端計測分析機器等の整備に加えて、近年、化合物ライブラリーの整備、イメージング技術・アッセイ技術の開発など、創薬プロセスや医療の現場で活用可能な技術基盤が整備されつつある。創薬・医療技術シーズを着実かつ迅速に医薬品等に結び付けられるよう、このようなポテンシャルを有効に活用して、我が国全体としての創薬・医療技術支援体制を構築し、外部供用していく基盤を整備していくべきである。

d)質的な取組の充実

 現行の知的基盤整備計画等では数値目標が中心となっているが、新たな計画においては、知の創造及びイノベーション創造に資するべく、利用者ニーズへの対応の度合いや利用頻度のほか、高い利用価値や付加価値を有する新たな資源創出に資する取組を重視したものとすべきである。その際、設定された戦略目標を達成するために求められる「質」の内容とは何かを明確にし、その達成状況等を適切に評価できるようにすることが適切である。また、知的基盤の「質」は、領域ごとに求められる内容が異なり、一律に設定することは困難であると考えられる。このため領域内容に応じて適切な目標設定を行うことが必要である。

(5)知的基盤整備体制の構築・確保

a)官民の役割分担、実施主体

 公共性、中立性が高いもの、市場性がなく研究開発投資が回収できないものといった、市場を通じての適正価格での安定供給が期待できないもの等については、引き続き国等が主体的に整備を進めていくことが必要である。また、効果的、効率的な知的基盤整備を促進するため、民間能力の更なる活用を図ることも重要である。

b)中核的な役割を担う機関の役割

 「知的基盤整備計画について」では、研究用材料領域に係る中核的な役割を担う機関に対し求められる機能として、1.関係諸機関との連携による知的基盤の整備等の推進(関係機関と連携・協力の上で、整備・提供等に係る基本的な推進方策を作成し整備を進める。利用者に対する窓口機能の整備、利用者に対する関係機関の紹介。)、2.知的基盤の所在や技術情報の集積・発信(関係機関を含めた知的基盤の所在及び提供可能性に係る情報の集積・発信。技術情報等の集積・発信。)が、また、計量標準領域に係る中核的な役割を担う機関においては、1.計量標準の整備に携わる人材の確保・評価、2.国家計量標準の研究開発・設定・供給、3.利用者の意見・ニーズ等の反映を効率的かつ効果的に進めることが重要であるとされている。
 中核的な役割を担う機関に求められてきた役割は、今後とも維持していくことが適当と考えられるが、「知的基盤整備計画について」により中核的な役割を担う機関として位置づけられた機関が、当該計画で求めた役割を十分に果たしていたか否かについての検証を行っておくことも必要である。
 さらに研究用材料である生物遺伝資源の今後の取組においては、生物遺伝資源に基づく研究成果を中核的な役割を担う機関にフィードバックする等して、質の向上等に力を入れていくことが重要である。しかしながら利用者の自主的なフィードバックを期待するだけではなく、成果情報収集システムの仕組みを構築することが必要である。さらに、中核的な役割を担う機関は最新の研究動向を把握し、新しい研究シーズやニーズに迅速かつ柔軟に対応できるよう配慮していくことや、専門人材の育成に努めていくことも必要である。
 このように研究用材料や計量標準の領域では、利用者ニーズの把握と整備への反映を効率的に行う上で、引き続き中核的な役割を担う機関を位置づけるとともに、中核的な役割を担う機関を中心として関係機関間で連携をとりながら知的基盤の整備、利用を推進していくことが適当である。

c)関係機関間の協力・連携

 知的基盤整備は一つの機関ですべて出来るものではなく、分散化、その統合化という観点も重要となる。関係機関が協力・連携して、統合化を図る仕組みや、さらにはイノベーション創出に向けたダイナミックな仕組みの検討が必要である。そのため、これまでの知的基盤整備計画等に基づく量的な充実整備(特に、成果の収集・蓄積や基準等の策定といった段階)から、利用ニーズに合致した整備や利活用といった質的観点の取り組みまで行っていくことが必要である。
 よって、我が国全体として総合的かつ一体的な取組推進、強化を図るためには、関係省庁・機関の密接な連携が重要である。これまでにも各分野に関係省庁による連絡会や実施機関協議会等を通じて、一定の情報共有や連携が図られているが、該当分野に限定されたものとなっている。既存の枠組みの活用も含め、効果的かつ効率的な整備実現のための関係機関の協力連携体制の仕組みについて検討することが必要である。また、知的基盤整備に係る施策は複数の省庁等に関係するものもあることから、各省庁の施策の調整等を行うことができるような仕組みについても考慮すべきである。
 特に生物遺伝資源については、基礎、産業応用、環境、医療など異なる目的に応じた整備が進められてきているが、複数の分野で利用される生物種も多いなど、よりフレキシブルな整備について検討する必要がある。
 計測方法、機器等については、最先端の研究開発ニーズと現場の利用者ニーズを取り込んだ開発を進めていくことが重要である。開発当初段階からの利用者参画など、産学官連携による効果的な開発推進が重要である。

d)人材確保、人材育成

 知的基盤整備を担う人材確保は、継続的・安定的な整備を進めていくための基礎といえる非常に重要な点である。本年7月に実施した知的基盤整備に関わる大学・公的研究機関に対するアンケート調査(以下、「アンケート調査」という。)では、知的基盤整備のための十分な人材が確保されていると回答した大学は全体の17%、公的研究機関は23%に留まっており、必要な人材が確保できていない現状が明らかとなった。また、知的基盤整備に貢献した研究者等に対する業績評価を実施又は実施予定の機関は、大学27%、公的研究機関36%である。また、知的基盤整備に携わる専門人材に対する評価方法を取り入れ又は検討中の大学は28%、公的研究機関は37%となっており、人材確保・育成に関する取組が十分には進んでいないことも明らかとなった。
 このため、知的基盤整備に携わる適切な人材確保・人材育成を図るためには、専任人材の確保、整備・利活用に関わる研究支援者等を適切に評価する仕組みの導入、人事・待遇面での適切な処遇、さらには知的基盤整備に貢献した者に対する表彰、報奨等の実施を一層推進していく必要がある。
 知的基盤整備に携わる研究支援者等の評価については、知的基盤整備への貢献度を評価する等、一般の研究者等の評価基準と異なる評価基準を設定することが望ましい。大学の現場では知的財産部門が設置され運用されているが、そこで活躍しているのは定年後の再雇用であったり、任期制であったりする場合がある。早い段階から知的財産部門を担う人材育成に向けた取組を促すことが極めて重要である。
 また、生物遺伝資源においては、広範な多様性を含む資源が含まれるなど未知の可能性を秘めた遺伝資源として確保すべきものがあり、分類学専門家の確保等も必要とされている。さらに計測方法、機器等の利用に関して特殊技能が必要とされる場合がある等、領域の事情に応じた課題への対応も必要である。例えば、人材育成プログラムの開発、知的基盤整備に携わる人材のキャリアパス形成促進のための支援を行う等の取組が必要である。このほか常勤職員等による継続的な維持整備の確保、構築に携わる研究支援者等の継続的・安定的な雇用確保、研究支援者等のスキルアップ向上やそのための経費確保も必要である。
 データベースについては、例えば、オミックス技術等の急速な進展により、近年、ライフサイエンス研究から膨大な試料付随情報が得られるようになってきており、これら膨大な生命情報をどのように処理し、読み解くか、といったバイオインフォマティクス(生命情報科学)及びこれを扱う人材の重要性が指摘され続けている。バイオインフォマティクスの分野は、データ処理・解析等の情報科学研究とシーケンシング等の実験・計測による生命科学研究が一体的・融合的に行われることが重要で、このため、ドライ(情報科学研究)とウェット(実験・計測による生命科学研究)の双方を扱える人材の育成が急務である。大学院、大学共同利用機関又は研究機関において、これらが一体となって人材育成を行える場を提供することが必要である。

e)知的基盤整備に対するインセンティブ

 知的基盤整備を促進するためには、知的基盤整備に対するインセンティブが知的基盤整備機関に働く仕組みとする必要がある。例えば、知的基盤整備に対する貢献度合いを評価(業務実績評価)する、機関における業務実施計画等に知的基盤整備を業務として明確に位置づける等が考えられる。既にこのような取組を行っている機関もあるが、全体的に見るとまだ不十分であり、今後より一層の取組が必要とされる重要な点である。特に知的基盤整備の中核的な役割を担う機関は一部の者によるボランティアベースの活動に頼ることなく、恒常的な業務運営を維持できる体制を整備することが必要である。

f)経費の確保

 知的基盤は維持管理が適切に行われ、その内容の充実が図られることにより、その利用価値が維持、向上していくものである。知的基盤の整備に継続的な予算措置がなされなければ、貴重な研究用材料や計測データの喪失や散逸、内容の劣化の発生、保存データの収集提供、大型共用施設の維持等に支障を及ぼすこととなる。このため、国等が知的基盤の整備に対する継続的、安定的な経費の確保や支援を行っていくことが重要である。
 また、個々の研究者等の努力や通常の研究費では整備することが難しい分野横断的に必要とされるサル等の大型の生物遺伝資源の開発や整備のための資金確保やそのシステム構築についても取り組んでいくことが必要である。

g)知的基盤の管理

 知的基盤はこれまで中核的な役割を担う機関や個々の機関により整備が進められてきたが、我が国全体として、知的基盤の効果的かつ効率的活用を促進するためには、どのような管理スキームが適切か検討していくことが必要である。なおその際には、利用者の要望や評価が適切に反映され、また、円滑な維持管理や情報発信が実現でき、さらには国際協力を進める基盤となり得るものであるといった面についても考慮することが重要である。

(6)利用者ニーズに応える知的基盤の充実・高度化

a)成果蓄積・成果展開

 知的基盤の利活用を促進するためには利用者ニーズを十分に踏まえた成果の蓄積・データベース整備等を進めていくことが重要である。アンケート調査では、利用者の意見・ニーズを把握し反映させる仕組みを整備している大学は25%、公的研究機関は55%、利用成果を把握する仕組みを構築している大学は23%、公的研究機関は48%である。さらに、デジタルアーカイブ化に向けた運営方針等を定めている大学は6%、公的研究機関は36%となっており、大学の取組が不足している。
 これらは、知的基盤整備に係る人材や資金の不足や、知的基盤整備の貢献に対するインセンティブの不足や、これまでハード面整備が中心でソフト面でのフォローが不十分であったためであると考えられる。さらに、整備された知的基盤が利用者によってどのように利活用され、どのような成果創出に繋がったかを客観的に評価していくことが必要である。そのためには知的基盤を利用した研究者等が、利用に係る研究成果を提供機関に対しフィードバックすることが必要であるが、フィードバックに対するインセンティブが十分でないこと等により、現状では必ずしも行われない場合もある。インセンティブ付与等といった方法により円滑なフィードバックが実現出来る仕掛けについて検討すべきである。
 利用者ニーズを踏まえた知的基盤の利活用促進を図るためには、国費により得られた研究用材料等の知的基盤については、その確保や再利用を確実なものとするため、中核的な役割を担う適切な機関への寄託等により、可能な限り集約し公開していくことが必要である。さらには、中核的な役割を担う機関及び関係機関が連携し、さらには国内だけでなく国際的なデータベースプロジェクトとの連携強化を一層進めていくことにより、知的基盤が活用された研究成果を継続的、網羅的に収集した研究開発成果データベースの構築及び統合化を図り、情報通信技術を効果的に活用することによりワンストップで検索可能なシステムを構築することが必要である。これにより多様な基礎研究から得られた成果を速やかにイノベーションに結びつけるための基盤とすることが可能となる。さらには、このようなシステムを活用することにより知的基盤整備の重要性を広く一般に対し認識、理解してもらうためのツールとして活用されることも期待できる。
 また、データが公開・共有されないまま、結果的に死蔵、散逸している場合も多く、データベース整備を促進させるうえで大きな阻害要因となっている。そのため、国費によって行われた研究成果のデータ公開・共有を図るためのしくみを設けることやデータベース提供者に対して適切なインセンティブを付与することも必要であり、そのための具体的な方策の検討、データベース構築費用・時間を確保するための支援を行う等の取組も必要である。
 生物遺伝資源については、その収集、保存、提供数が年々増加しており、効率的な維持・保存法の開発に取り組むことも必要である。例えば、同一種のものについてはその資源の所有者の合意を得て適切な機関への集約を進めることが適当である。また、生物種ごとに中核的な役割を担う機関と研究コミュニティ間、あるいは中核的な役割を担う機関同士のネットワーク化を図っていくことが適当である。
 このほか、生物遺伝資源の品質の高度化とそれを保証する品質管理、評価のためのルール作りも必要である。その際、世界共通ルールを我が国に適用するというよりも、むしろ独自のルールを構築し、それを世界のルール作りに貢献していくことが望まれる。また、再現性を保証する品質確保が、効果的・効率的な研究開発に不可欠である。生物遺伝資源の標準化は分子レベルでの検査方法がポイントとなってきており、標準化のための研究開発も必要とされている。
 また、データベース基盤の構築・統合・活用に当たっては、産業界等を含めたデータベース利用者の視点に立った取組が重要で、そのためには国や大学等が構築するデータベースとの早期からの連携を進める必要がある。

b)知的財産の管理

 オープンイノベーションへの対応として、研究成果が当初の意図以外の用途で有用となったり、当初の想定しなかった成果をもたらしたりした場合に、成果の活用や更なる研究への発展が円滑に行える知的財産管理スキームの検討が必要である。
 本来は研究成果の公開により更なる研究の発展を促進することも期待される特許制度が、研究の進展を阻害する場合もあるとの指摘もあることから、大学等の保有特許が増大し、更なる増加が見込まれる状況において、研究成果を共有し利用し合う学術研究の基本的機能と研究成果の特許化の拡大を両立するような枠組みについて検討を行うことが必要である。
 こうした要請に応える枠組みとして、大学等の研究成果である特許等の利用を研究目的に限り開放するパテント・コモンズや、また、この枠組みを技術情報のデータベースと組み合わせることにより、知的基盤として効果的に機能する枠組みについて検討を行うことが必要である。
 また、研究用材料に関する過度のリーチスルーライトを制限し、利用の促進、学術研究と発表の自由を確保できるようにしていくことも必要である。さらに、産業利用と派生物の定義を明確化することにより、産業界による利用を促進していくことが重要である。リサーチツールなどについては、大学間で相互利用を図るなどを検討することも一案であるが、その研究成果が実用化に近いものである場合や、すぐに事業化すべきものとそうでないものとでは異なる扱いが適当とも考えられる。発明の内容に沿ったきめ細かな検討が必要である。

c)既に整備された機器及び設備の有効利用、利用促進

 大学、独立行政法人等の保有する研究開発施設等の中には、多額の国費によって整備され、広範な分野や多様な研究に活用可能なものが多数あるが、かならずしも十分に活用されていない。またこれは、大型の施設に限らず、規模等の小さい設備、機器にあっても同様の状況であるといえる。基礎研究からイノベーションの創出に至るまでの科学技術活動全般の高度化を図るとともに、国の研究開発投資の効率化を図るためにも、既に整備等された機器や設備の有効利用、利用促進を図っていくことが重要である。
 大学、独立行政法人等の研究機関が有する先端的な研究施設・機器の共用を促進し、イノベーションにつながる成果を創出するため、文部科学省において平成19年度より「先端研究施設共用イノベーション創出事業」(委託事業)を実施し、さらに平成21年度からは新たに「先端研究施設共用促進事業」(補助事業)として、研究機関の自主的な取組を支援している。
 今後は、先端的な研究施設のみならず比較的規模の小さいその他機器の有効利用(共用利用・再利用の支援、それに係る情報提供の充実化)も図っていくことが必要であり、そのための体制整備等に必要な費用支援等を行っていくことが必要である。また、国費により開発、実用化された先端的な研究機器については広く普及促進させることが重要であり、そのための方策についても検討していくことが必要である。

(7)国際的取組の推進

 広く知的創造活動や社会経済活動において利用される知的基盤の供給を過度に海外に依存した場合、万一その供給を受けることが出来なくなると大きな支障を及ぼすこととなる。知的基盤の安定的・継続的な供給を確保し、その効率的利用を促進するためには国際的な取組に対し主導的に参画していくことが必要である。
 生物遺伝資源における収集、保存、提供数は爆発的に増加しており、1カ国のみでの対応が困難になってきている。現在、生物多様性条約に基づくアクセスと利益配分に関する国際的枠組みの構築等の国際的な取組が進められており、こういった取組に対し我が国が主導権をもった国際連携を進めていくことが必要である。関係省庁間等の参画による戦略構築、国際的取組(データベースプロジェクト等)への参画、共同研究の実施、知的基盤の相互利用、開発途上国に対する研修事業、国際標準化への貢献等、中長期的な視点から整備を進めている欧米や、進捗著しいアジア諸国等の状況をふまえつつ、国内外での適切な役割分担と連携を進めていくことが必要である。また、東アジア地域における計量標準の同等性の確保、主導的立場にある日中韓の連携を深めていくことも必要である。

科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会知的基盤整備委員会 委員名簿

【委員:2名】
主査 柘植綾夫 芝浦工業大学長、三菱重工業株式会社特別顧問
主査代理 原山優子 東北大学大学院工学研究科教授
【臨時委員:9名】
  石田英之 株式会社東レリサーチセンター常任顧問
  岩田修一 東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻教授
  長我部信行 株式会社日立製作所研究開発本部本部長付(兼)中央研究所ソリューション LSI 研究センタ長
  小幡裕一 独立行政法人理化学研究所筑波研究所長(兼)バイオリソースセンター長
  河瀬眞琴 独立行政法人農業生物資源研究所研究主幹、ジーンバンク長
  久保田正明 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問
  小原雄治 情報・システム研究機構理事、国立遺伝学研究所所長
  二瓶好正 東京理科大学副学長
  松尾由賀利 独立行政法人理化学研究所先任研究員
【専門委員:8名】
  漆原秀子 筑波大学大学院生命環境科学研究科教授
  大野英雄 財団法人高輝度光科学研究センター専務理事
  笠井文絵 国立環境研究所生物圏環境研究領域 微生物生態研究室長
  齋藤宗雄 財団法人実験動物中央研究所総務経理部長
  中村栄子 横浜国立大学教育人間科学部教授
  根岸正光 情報・システム研究機構国立情報学研究所教授
  藤田節 弁理士、平木国際特許事務所副所長、バイオグループリーダー
  安井至 独立行政法人製品評価技術基盤機構理事長

(以上、計19名)

科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会知的基盤整備委員会審議経過

【知的基盤整備委員会(第5期)】

第1回 平成21年4月23日

  • 知的基盤整備委員会における調査検討事項の検討

第2回 平成21年9月15日

  • 知的基盤整備計画等の進捗状況の報告
  • 知的基盤整備における今後の方向性についての検討

第3回 平成21年10月8日

  • 今後の知的基盤整備の在り方について(中間とりまとめ骨子案)の検討

第4回 平成21年11月16日

  • 今後の知的基盤整備の在り方について(中間とりまとめ案)の検討

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

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(研究振興局研究環境・産業連携課)