科学技術・学術審議会
学術分科会 研究環境基盤部会
学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会
○ 学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会(以下、「本作業部会」)は、学術研究の大型プロジェクト(以下「大型プロジェクト」)について、中長期的な視点も含めて計画的な推進を図るための方策について審議を行うために設置された。
○ 本作業部会においては、現在、次期科学技術基本計画の策定に向けた科学技術・学術審議会の審議が行われていることも念頭に置きつつ、
を中心に審議を行ってきた。
○ 今後、幅広い関係者や研究者コミュニティ(各研究分野における学協会又は複数の学協会のネットワーク等)の参画も得つつ、更に議論を深めていく予定であるが、これまでの審議の経過を以下の通り報告する。
○ 我が国においては、これまで、「Bファクトリー」、「すばる望遠鏡」、「スーパーカミオカンデ」、「大型ヘリカル」等の大型プロジェクトを推進してきたが、こうしたプロジェクトは、最先端の技術や知識を集約して人類未到の研究課題に挑み、当該分野を飛躍的に発展させ、世界の学術研究を先導する画期的な成果を期するものである。
○ このようなプロジェクトの推進は、大学・大学共同利用機関における教育研究を支え、多様な研究分野や産業への波及効果を生み出すのみならず、国際舞台で我が国がリーダーシップを発揮して世界に貢献するものである。また、Bファクトリーにおける実験が小林・益川理論を実証し、平成20年のノーベル賞受賞に結びついたように、次代を担う子どもたちをはじめ国民の科学に対する関心を高め、国民に夢や希望、自信を与えるという意味でも、スポーツや文化の振興等と並ぶ極めて重要な意義を有する。
○ 大型プロジェクトには多額の投資を要するため、近年の厳しい財政状況の下で円滑な推進が困難になっているが、我が国が強みを有する基礎科学の分野においてこのようなプロジェクトを進めることは、人類の英知の創出と蓄積に貢献するものであり、我が国の持続的発展と世界への貢献の観点から、不可欠な取組である。このため、今後我が国においては、社会や国民の幅広い理解を得ながら、このような大型プロジェクトに一定の資源を継続的・安定的に投入していくことを、国の学術政策の基本として明確に位置づけることが必要である。
○ 大型プロジェクトの推進の具体的方策について検討を行うにあたり、本作業部会では、今後「大型プロジェクト」をどのように捉えるか(大型プロジェクトの定義)について、検討を行った。
○ 学術研究の大型プロジェクトの基本的な性格については、従前はおおむね下記のような性質を持つものを大型プロジェクトとして捉え、学術政策上の重要課題として、推進してきた経緯がある。
○ 今後もこれらの要素に該当することが大型プロジェクトの基本であると考えられるが、研究分野の特性や研究者コミュニティの要望、社会的な要請等に応じて、上記以外の要素(例えば、当該分野における研究を飛躍的に発展させるプロジェクト等)を考慮に入れることも必要である。
○ また、プロジェクトの態様としても、中核的な拠点に多数の研究者が集まって研究を行うもののほか、適切なマネジメントの下に複数の研究施設がネットワークを形成して、全体として大きなテーマに挑戦するものなども含めて柔軟に捉えていくことが必要である。
○ 大型プロジェクトの対象分野については、従前は(1)に列記した要素を満たし、かつ、大型装置の整備を前提とするプロジェクトが中心であった(分野も主として素粒子物理学や天文学等)。
○ 今後もこうしたタイプの大型プロジェクトは考えられるが、これら以外にも例えば、大型装置の整備は伴わないものの、「多数の研究者の長期間の参加を必要とするもの」等も対象として検討することが必要である。
○ 大型プロジェクトの実施主体や大型プロジェクトの推進に係る意思決定の在り方については、今後も大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点を実施主体として、研究者コミュニティによるボトムアップ型の意思決定により推進されるものが基本になると考えられる。
○ 一方で、例えば独立行政法人を実施主体としてトップダウン型の意思決定により行われる大型プロジェクトの中にも、当該プロジェクトの性格や期待される成果等を考慮すると、多数の研究者の積極的な参画がなければ円滑な推進が難しいものもある。このようなプロジェクトについては、計画の立案段階や実施段階等において、何らかの形で、研究者コミュニティのボトムアップ的な意思を反映することが望ましいと考えられる。
○ いずれにしても、まずは「各分野の研究者コミュニティが、どのような大型プロジェクトを推進することが必要と考えているか、また、どのような点に配慮して当該プロジェクトを進めることが適当と考えているか」を整理する必要があり、これを踏まえて、トップダウン型のプロジェクトへの関わり方についても検討していく必要がある。
○ これまでの大型プロジェクトの予算規模については、(1)に列記した要素を満たし、かつ概ね100億円以上の建設費を要するものとして捉えられてきた経緯がある。
○ 今後の大型プロジェクトの予算規模については、運転経費や運営費を含めて、研究システム全体として、通常の予算(運営費交付金、科学研究費補助金、その他競争的資金)では措置が困難な、例えば数十億円以上の経費を一応の目安とした上で、研究分野の特性等に応じて柔軟に取り扱う必要がある。
○ 今後、社会や国民の幅広い理解を得ながらプロジェクトを推進していくためには、これまでの大型プロジェクトが世界の学術を先導する画期的な成果を創出し、国民に夢や希望、自信を与えてきたこと、また、民間企業の参画も得つつ、最先端の技術開発を行ってきた副次効果として、数多くの技術革新をもたらし、産業技術力の向上や国際競争力の強化に多大な貢献をしてきたことなど、様々な波及効果を強調しておく必要がある。
○ 大型プロジェクトは、長期間にわたって多額の経費を重点的に投資する必要があるため、内外の学術研究の全体状況はもとより、学術研究に対する公財政支出の相対的状況や今後の見通しにも留意しつつ、社会や国民の幅広い理解を得ながら、長期的な展望をもって計画的・戦略的に推進していく必要がある。
○ また、大型プロジェクトを計画する際には、特定の研究分野だけでなく、広範な分野の研究者の参加にも配慮し、新たな学問領域の創成や異なる分野への波及効果の創出も含め、幅広い学術研究の推進に留意する必要がある。このため、計画段階から、幅広い研究者コミュニティの意向を踏まえる工夫が必要である。
○ さらに、プロジェクトの大規模化等に伴い、国際的な協力体制の下で推進することが重要な課題になってきており、経済協力開発機構(OECD)のグローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)やG8の科学技術大臣会合においても、新たな大規模研究施設建設の将来計画に関する国際的な情報交換を促進することが合意されている点にも留意する必要がある。
○ 以上のような基本的な視点を踏まえつつ、大型プロジェクトの推進の具体的方策を検討する必要があるが、本作業部会では、欧米において、研究分野毎に具体的な大型プロジェクトの将来構想をとりまとめたロードマップが策定され、科学的な政策決定や国際的な情報交換に活用されている点に注目し、このようなロードマップを我が国において策定する意義について検討した。
○ その結果は、おおむね下記のように整理することができる。
(a)トップダウン型の意思決定によるプロジェクトにおいても、何らかの形でボトムアップの意見を反映することが容易になること
(b)補正予算等により、大型プロジェクトへの新たな支援スキームができた場合にも、研究者コミュニティとして迅速かつ効果的に活用できること
(c)研究開発に関連する文部科学省以外の政府機関にとっても、各分野のニーズを把握することが容易となること
が可能となる。
○ 他方、欧米の経験を踏まえれば、ロードマップの策定手法や活用方法によっては、例えば下記のような問題を生ずることも懸念される。
○ しかしながら、ロードマップの策定には、上述のように、大型プロジェクトを安定的・継続的に推進していく上で極めて大きな意義があることから、上記のような課題に十分留意しつつ、我が国の事情に適合したロードマップ(以下、「日本版ロードマップ」)の策定に向けて具体的検討を行うことが適当である。
○ 日本版ロードマップについては、以下のような基本的考え方の下に策定することが考えられる。
○ 今後新たに推進する大型プロジェクトについては、ロードマップを基本としつつ、当該プロジェクトの学術研究上の意義や他の研究分野への波及効果、事業規模の妥当性や公財政支出への影響、国際的な競争・協調への対応等総合的な観点から、客観的かつ透明性の高い評価を行った上で、着実に推進していく必要がある。
○ 一方、 大型プロジェクトは、長期間にわたって多額の経費を要するものであり、社会や国民に対する説明責任を十分果たし理解を得ながら進めていくことが重要である。大型プロジェクトの推進に当たっては、学術研究の動向や当該プロジェクトを取り巻く諸状況の変化等に対応して迅速かつ適切に見直しを行うことに留意する必要がある。このため、国においては、現在進行中の大型プロジェクトや今後推進する大型プロジェクトについて定期的に厳格な評価を行い、評価結果をもとにプロジェクトの継続・中止・改善等の明確な対応方針を打ち出すことが必要である。
○ また、社会や国民の理解を得ながら大型プロジェクトを推進する観点からは、これまでプロジェクト開始後の取組が必ずしも十分とは言えなかった面もある。このため、今後新たな大型プロジェクトを推進するにあたっては、例えばプロジェクト 毎に国民とのコミュニケーションの担当を明確化するなど、プロジェクトの進捗や成果の状況、必要に応じて様々なリスクの状況等について、分かりやすい形で対外的な発信や双方向型の対話を行う体制を予め構築しておくことが必要である。特に、複数の研究施設がネットワークを組むようなプロジェクトを推進するに当たっては、この点の責任を明確にする観点から、特段の留意が必要である。
○ これまでの審議において、各分野の研究者コミュニティにおける大型プロジェクトの検討状況を把握したところ、例えば素粒子原子核分野や天文学分野のようにコミュニティとしての検討がある程度熟している分野がある一方で、コミュニティとして検討の途上にある分野、一部の研究者による構想ベースの議論にとどまっている分野もあることが判明した。
○ このため、全分野を見通した日本版ロードマップの策定に向けては、今後研究者コミュニティの代表機関としての日本学術会議と調整する必要があるが、おおむね以下のような手順で検討を行うことが考えられる。
○ いずれにしても、各研究者コミュニティの検討の熟度は一律でないことが見込まれることから、それぞれの今後の検討状況等に応じて、ロードマップは適宜改訂していくことが必要である。
○ また、以上の検討と並行して、今後大型プロジェクトを着実に推進していくためには、安定的・継続的な財政措置の在り方(整備費のほか、運転経費等の運用費を含む)について、新たな予算措置方策の可能性も含め、幅広い観点から検討を進めることが必要である。
○ 以上の検討を踏まえ、本作業部会としては、当面、次期科学技術基本計画の策定に向けた科学技術・学術審議会の審議に、おおむね以下のような趣旨が反映されることを期待する。
○ 学術研究の大型プロジェクト(以下、「大型プロジェクト」という)は、最先端の技術や知識を集約して人類未到の研究課題に挑み、当該分野を飛躍的に発展させ、世界の学術を先導する画期的な成果を期するものである。このようなプロジェクトの推進は、大学・大学共同利用機関における教育研究を支え、多様な研究分野や産業への波及効果を生み出すのみならず、国際舞台で我が国がリーダーシップを発揮して世界に貢献するものであり、国民に夢・希望・自信を与え、科学への関心を高めるという意味で、極めて重要な意義を有する。
○ 大型プロジェクトは、多くの物的・人的資源の投入を要するものであるが、その重要性に鑑み、今後、社会や国民の幅広い理解を得ながら、一定の資源を継続的・安定的に投入していくことを国の学術政策の基本として明確に位置づることが必要である。
○ 国においては、今後、各研究分野毎に大型プロジェクトの将来構想をまとめた「ロードマップ」を策定し、これを基本としつつ、学術研究上の意義や他の研究分野への波及効果、事業規模の妥当性や公財政支出への影響、国際的な競争・協調への対応等総合的な観点から、客観的かつ透明性の高い評価を行った上で、大型プロジェクトを着実に推進していく必要がある。
○ また、大型プロジェクトの推進に当たっては、学術研究の動向や当該プロジェクトを取り巻く諸状況の変化等に対応して迅速かつ適切に見直しを行うことも必要である。国においては、現在進行中の大型プロジェクトや今後推進する大型プロジェクトについて定期的に厳格な評価を行い、その結果をもとに継続・中止・改善等の明確な対応方針を打ち出すことが必要である。
(科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会)
○ 「Bファクトリー」や「すばる望遠鏡」、「スーパーカミオカンデ」等の学術研究の大型プロジェクトは、最先端の技術や知識を集約して人類未到の研究課題に挑戦し、世界の学術研究を先導する画期的な成果を期するもの。
○ 大学・大学共同利用機関における教育研究を支え、多様な研究分野や産業への波及効果を創出するのみならず、我が国がリーダーシップを発揮して世界に貢献するとともに、国民の科学に対する関心を高め、国民に夢や希望、自信を与える。
○ 社会や国民の幅広い理解を得つつ、大型プロジェクトに一定の資源を継続的・安定的に投入することを、学術政策の基本として位置づけることが必要。
○ 対象分野、プロジェクトの態様、予算規模等については、従前よりも柔軟に検討することが必要。
○ 長期間にわたり多額の投資を要するため、社会や国民の幅広い理解を得ながら、長期的な展望の下、計画的・戦略的に推進するとともに、広範な分野の研究者の参加にも配慮し、幅広い学術研究の推進にも留意することが必要。また、国際的な協力体制の下で推進することが重要な課題。
○ 欧米で策定されている、大型プロジェクトの将来構想を分野毎にとりまとめたロードマップには下記のような意義があり、我が国においてもロードマップの策定を検討すべき。
○ ロードマップの基本的考え方は以下のとおり。
○ ロードマップを基本としつつ、学術上の意義や波及効果、事業規模の妥当性、公財政支出への影響、国際競争・協調への対応等総合的な観点から、透明性の高い評価を行った上で、大型プロジェクトを着実に推進。
○ 既存のプロジェクトについては定期的に厳格な評価を行い、継続・中止・改善等の明確な対応方針を出すことが必要。
○ 日本学術会議を通じて、各分野のロードマップ案の策定を要請。同会議からのロードマップ案の提出後、関連分野のヒアリング等を行い、暫定的なロードマップをとりまとめ。
○ 安定的・継続的な財政措置について、新たな方策も含め、幅広い観点から検討が必要。
研究振興局学術機関課