資料1‐2 わが国の中期的な科学・技術・イノベーション政策に関する論点整理

2009年7月
社団法人日本経済団体連合会
産業技術委員会科学技術政策部会

 本論点整理は、第4期科学技術基本計画(以下、第4期計画)の策定を睨み、わが国の中期的な科学・技術・イノベーション政策を検討するに際し現時点で想定される論点を中間的にとりまとめたものである。

1.現状認識(検討の前提)

1.これまでの科学・技術政策の評価

(1)総論

  総じて、第1期計画から第3期計画の現在まで、科学技術予算の拡充、資源配分の戦略重点化、競争的環境の醸成、研究開発税制の拡充、国立大学の法人化、産学連携や大学発ベンチャーの量的拡大等、科学・技術の基盤固めが一定程度進展した。しかしながら、近年、先進国の科学・技術・イノベーション重視の政策展開に加え、新興国の急速な追い上げ等を受け、わが国の相対的地位は停滞もしくは低下傾向にある。国際競争は厳しさを一層増しており、諸外国に遅れをとらぬよう、科学・技術基盤を一層強化することが求められる。
 また、経済社会の新たな発展に向けて、わが国の研究開発システムはインプットに相応しいアウトカム(イノベーション)を十分創出できなくなっており、量的な拡大の観点以上に、成果の社会還元という観点からの見直しが強く求められる。個人・組織、産・学・官のそれぞれの強みを活かしたオープン・イノベーションへの対応を急ぐとともに、わが国のみならず、人類の将来課題を見据えた課題解決指向のイノベーション実現に向けた研究開発システムの構築が急務となっている(※1)

(2)第3期計画の取組み

 第3期計画において、イノベーション(科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新)が基本姿勢の中で謳われ、「イノベーター日本」が政策目標に掲げられたことは評価される。政策目標や分野別推進戦略、戦略重点科学技術を設定するとともに、先端融合領域イノベーション創出拠点、社会還元加速プロジェクト、科学技術連携施策群等、様々な施策が打ち出されたほか、イノベーション創出総合戦略や革新的技術戦略、環境エネルギー技術革新計画等の政策課題対応型の戦略も策定された。
 基礎研究、戦略重点科学技術においても、一部成果が出始めており、今後、計画における各種施策が具体的な成果を生み、「知の創造」と「活力の創出」の好循環を生み出し、国民への成果の還元が実現することが求められる。同時に、政府研究開発投資、拠点形成、競争的資金比率、若手支援、女性研究者比率をはじめ、計画で掲げた具体的目標の実現に向けたさらなる取組みの充実が必要である。

(3)第4期計画策定に向けたこれまでの施策の評価の視点

 第4期計画の策定にあたっては、ファクト(エビデンス)・ベースの議論が不可欠である。そのためには、第3期計画のフォローアップ等を踏まえ、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」をはじめとする様々な目標(基本姿勢、理念、政策目標、研究開発目標等)についてどのように貢献をしたかを評価する必要がある。その際、第1期、第2期計画期間中にとられた施策・研究開発についても、その後イノベーション創出にどのように寄与しているかを検証することが重要である。同時に、昨今の環境変化も踏まえ現下の課題を整理するとともに、国際ベンチマークを通じたわが国国際競争力(分野別等)を把握することが、今後の議論の前提となる。


※1 イノベーションに対する経団連の考え方や、産業界等の役割については、「イノベーション創出に向けた産業界の見解」(2005年12月13日日本経団連産業技術委員会)、「国際競争力強化に資する課題解決型イノベーションの推進に向けて」(2008年5月20日日本経団連)を参照。

2.対応を要する昨今の環境変化

 わが国をめぐる諸情勢の変化に鑑み、以下のような点について抜本的な対応強化が必要となっている。

(1)わが国の経済・産業構造の脆弱性

 世界的な経済環境の急速な悪化に伴い、外需依存型経済の脆弱性が顕在化しており、内外需のバランスある成長が求められる。また、経済成長に対する全要素生産性の低迷、企業の研究生産性等の低下傾向に加え、企業の研究開発投資の抑制圧力が高まっており、わが国の中長期的な産業競争力の維持・強化に向けた企業の研究開発活動の底上げを含む抜本的な対応が求められる。

(2)地球規模の課題の深刻化、資源・エネルギー制約

 新興国の急速な経済発展、世界的な人口増等に伴い、食料・水を含む資源・エネルギー制約が一層深刻化することが見込まれる。わが国ならびに世界の持続的成長を実現するためにも、イノベーションを通じた低炭素・循環型社会への構造転換が急務となっている。また、グローバル化に伴い、安心・安全に対する国際協力の必要性が高まっている。

(3)グローバル化、オープン化、知識経済化

 知の急速な高度化・複雑化に伴い、オープン・イノベーションが潮流になっており、自前主義・改良型の研究開発で競争力を発揮してきた日本の強みが逆に弱みとして顕在化している。また、新興国の台頭等により、グローバル競争が激化しているのみならず、科学技術力の優位性も相対的に低下する恐れがある。知識経済化により収益モデルが変化している中、とりわけ、わが国競争力の源泉であるものづくりにおいては、最終的なソリューション(あるいはシステム)の提供に付加価値がシフトしていることから、優れた製造技術を確保するだけでは不十分であり、わが国としての成長モデルの再考が求められている。

(4)少子化・高齢化の進展

 本格的な人口減少・高齢化社会を迎えつつあり、国内の市場や労働力人口の縮小に対応した経済システム、高齢者に配慮した社会システムの構築が不可欠になっている。また、価値の源泉としての人材の重要性がこれまで以上に高まっており、世界的な獲得競争が激化している中、人口減少社会を迎えるわが国としての人材育成・確保・活用のあり方の見直しが求められる。

2.検討の基本的な方向性 

1.総論

 わが国のあるべき中長期的な経済社会像の実現や、地球規模の課題解決等に対する科学・技術の貢献を明確化し、その具体化に向けた研究開発課題やわが国イノベーション・システムの大きな方向性を打ち出すべきである。

(1)課題解決指向、成果重視の視点の強化

 第3期計画で掲げた「成果の社会還元」、イノベーションの視点を一層重視し、わが国の将来を見据えた課題や経済社会システム(1.成長力強化、2.低炭素・循環型社会、3.健康長寿、4.安全・安心・快適社会の実現等)を描いた上で、その解決・実現に向けた具体的な成果目標(具体的な製品やサービス、システムの実現を含む)を時間軸とともに明確化し、わが国が主導権を握るべき研究開発や実現に必要な施策等を戦略的に展開すべきである(ソリューション・ドリブン、デマンド・プル)。とりわけ、ユーザー側の視点(マーケティング的発想)を取り入れることが有用である。
 同時に、イノベーションは多様性のダイナミズムに依拠する部分も大きく、わが国の総合的な科学・技術基盤を強化する視点も必要である。そのため、課題解決指向を基本としつつも、革新的なイノベーションのシーズを創出(シーズ・プッシュ)する観点から、基礎研究に一定規模の予算を充て、多様性の確保、ハイリスク研究に対する資金の供給等に十分配慮する必要がある。なお、基礎研究の多様性を維持する中でも、国家的課題解決に資する分野への一定程度の重点化や研究領域のポートフォリオ管理は必要である。

(2)総合的なイノベーション政策への転換

 狭義の科学・技術政策を発展させ、科学・技術、教育、イノベーション等(規制、知的財産、ベンチャー等)の関連施策を整合的に推進するための体制や連携方策を検討すべきである。とりわけ、これまで手薄であった市場環境整備と一体となった取組みとともに、基礎研究の成果をイノベーションにつなげるための施策の強化が求められる。なお、基礎研究からイノベーションの実現に至る各段階において求められる視点や政策手法は異なる点もあることから、具体的な支援方策については、その性質に即した施策を講ずることが重要である。

(3)内外のオープン・イノベーションの促進(競争と協働)

 グローバル化や知の高度化・複雑化が進む中、オープン・イノベーションの視点を深めるべきである。わが国の強みが弱みとなる局面も多く見られ、非競争領域における産学官協働をはじめとする国内外での戦略的な連携、多様な知の融合を促進する基盤を強化することが急務である。とりわけ、わが国においては、海外からの研究人材、研究開発投資等の受け入れが諸外国に比べて少なく、魅力向上に向けた取組みが求められる。同時に、競争領域においては、非競争領域における協働の成果をベースに、企業等の多様性や活力を最大限活かし、革新的なイノベーションの創出につながる競争を促す環境を整備すべきである。

(4)イノベーション人材の育成・確保・活用の強化

 本格的な人口減少社会を迎える中、革新的なイノベーション創出を牽引する人材の育成が不可欠である。初等(理科離れ)から高等教育(大学院における博士人材教育)に至る一連の課程で、優秀な人材を惹き付け鍛え上げるための改革が望まれる。同時に、世界的な人材獲得競争が激化しており、海外の優秀な人材の確保に加え、あらゆる世代・性別の優秀な人材の積極的な活用についても一層の取組みが求められる。その一環として、理工系人材のキャリアパスの多様化等を通じたイノベーション人材の活躍の場の拡大が必要である。

(5)見える化の徹底

 PDCAサイクルを再構築し、目標に対する進捗状況、具体的成果、課題を「見える化」することで、国民理解の増進(説明責任の履行)、主体的な改革の促進につなげることが重要である。その際、進捗管理から成果評価へのシフト、評価指標の一貫性と多様性(目的に応じた評価軸の設定)のバランス確保に留意する必要がある。研究開発は中長期的な視点が不可欠であり、また、リスクが高いことから、短期的な成果を絶対視することがないよう配慮すべきであり、ポートフォリオとしてのパフォーマンスを評価する視点も必要であろう。
 また、諸外国における科学・技術・イノベーション政策や研究開発の動向を絶えずベンチマークし、計画を柔軟に見直すことで、国際的にみても優れた政策を実現することが重要である。

2.基本姿勢・目標の設定

(1)基本姿勢

 第3期計画で掲げた2つの基本姿勢の方向性は適当であると考えられる。この姿勢をさらに発展させ、「成果の社会還元」については、わが国の将来あるべき姿を見据え、科学・技術・イノベーションを通じて積極的に実現していく課題解決指向(ソリューション・ドリブン)の視点を強化すべきである。「人材育成と競争的環境の醸成」についても、多様なキャリアをもってイノベーションを牽引する人材の育成、オープン・イノベーション時代におけるグローバルレベルでの競争と協働の視点を一層強調すべきである。

(2)目標設定

 第3期計画の3理念6目標の枠組みに関しては、継続性に配慮しつつ、わが国をとりまく環境変化と国を挙げて取り組むべき国家的課題の観点から見直し、日本が目指すべき姿(成長力強化、低炭素・循環型社会、健康長寿、安全・安心・快適社会の実現等)とそれに対する科学・技術の貢献を成果目標(具体的な製品やサービス、システムの実現を含む)の形で明示することが重要である。なお、人材育成や基礎研究といった科学技術創造立国としての基盤についても目標を設定することも一案である。
 他方、中目標、個別目標については、上記成果目標との関係におけるあり方・位置付けを今一度見直すとともに、戦略的に優先順位付け等を行い、メリハリのあるものとする必要がある。同時に、効果的なPDCAサイクルの確立の観点から、成果目標に対する評価指標や評価方法を予め定めることが有用である(基礎研究、人材育成等についてもその性質に応じた手法を検討)。
 また、基本計画は成果目標に特化し、個別目標や取組み内容については、付属する戦略(課題別・目標別)等で明記することも一案である。 

3.科学技術予算・資源配分

(1)総額目標

 過去の計画において総額目標を提示した意義は大きい。第3期計画で掲げた総額目標(25兆円、対GDP比1%)の再掲示の可能性も含め、引き続き目標を掲げる方向で検討を進め、政治のコミットの下で決定すべきである。その際、科学技術振興費、運営費交付金、特別会計等における予算制約も併せて議論されるべきである。ただし、目標を引き続き掲げる前提として、目標の実現状況に対する国民への説明責任の履行と、戦略的重点化や研究開発マネジメント等を通じた研究開発の質の向上に向けた取組みが必要である。
 なお、第3期計画の総額目標の達成は予断を許さない状況にあり、達成に向け最大限の努力がなされるべきである。

(2)基盤的経費/競争的資金

 競争的資金の総額は年々増えており、競争的環境の醸成は今後も重要であると考えられる一方、運営費交付金の減少傾向の影響もあり、大学等における研究目標の短期化・保守化、教育基盤の劣化等の弊害が出ているとの指摘もある。第3期計画期間中の状況を精査し、基盤的経費、競争的資金が担うべき研究開発と両者の有効な組合せについて制度論を含め抜本的な議論を行い、方向性を示すことが求められる。とりわけ、基盤的経費については、予算規模に関する議論に加え、資源配分の基準(機関の目的・機能等に応じた配分や、研究分野単位の評価、ユーザー・受益者側の評価に基づく配分等)について検討することも必要である。

(3)基礎/応用開発/実証

 基礎研究から実用化に至るイノベーション・プロセスの各フェーズにおける資源配分のあり方についての総合的な検討が必要である。基礎研究の重要性は産学官で共有されているが、その定義が関係者により異なる。基礎研究を性質別に類型化し(※2)、その目的に応じた資源配分方法を検討すべきである。とりわけ、革新的なイノベーション創出や将来の経済活動の源泉となるような基礎研究への投資を拡充することが重要である。そうした観点から、資源配分にあたり、研究開発の成果を享受する側(ユーザー)の視点が反映される仕組みや研究内容・成果を「見える化」する仕組みの構築が重要である。また、わが国の科学・技術力の底上げを図るべく、必ずしも先端分野ではないもののわが国の産業競争力を支える基盤的な研究についても、一定程度安定的に資源が配分されることが必要である。
 応用開発についても、イノベーション創出の観点から、大学、公的研究機関が実施することが望ましいものを明確化するとともに、企業等の連携を促進する方策を検討すべきである。また、第1期計画開始から約13年経過していることもあり、芽が出てきたシーズを着実にイノベーションに結びつけるための方策も検討し、いわゆる死の谷を克服するための制度的枠組みを構築していくべきである。加えて、複数の技術を社会システムとして捉えた実証研究の重要性が高まっており、一定規模の予算が確保されることが重要である。

(4)企業への資源配分

 企業はイノベーション創出の出口を担っており、経済危機を克服し、その後の成長力を強化する上でも、研究開発税制のさらなる拡充とともに、マッチング・ファンドの拡充等による企業の研究開発支援の強化が求められる。とりわけ、経済危機等によりハイリスク・ハイインパクトの研究開発への投資が難しい状況にある中、革新的なイノベーションにつながる研究開発投資に対するインセンティブを高めるための政策的支援が望まれる。また、イノベーション創出の観点から、産学連携を目的とした資金についても、例えば、産業界をその申請主体としたり、産業界が審査により深く関わるなど、資源配分において出口の視点を一層配慮すべきである。


※2 例えばCOCN(産業競争力懇談会)では、学術指向研究(飛躍知、融合知、基盤知)に、技術指向研究(革新研究、応用研究、開発研究)のうちの革新研究を加えたものとして定義。

4.重点化戦略

(1)政策課題別戦略

 第3期計画中も、革新的技術戦略、環境エネルギー技術革新計画等が策定されており、「成果の社会還元」「課題解決指向」を一層推進する観点から、政策課題(目標)毎の戦略の策定を検討すべきである。その際、出口に責任を有する官庁(経済産業省、農林水産省、厚生労働省等)との関係(予算配分の見直しを含め)についても検討が必要である。とりわけ課題解決指向の目標に対しては、将来の姿を描きながら、そのために必要な技術等を遡って特定することも有用であると考えられる。また、わが国の科学・技術基盤の強化(純粋基礎研究、人材育成等)に関する課題についても、その目的に応じた戦略のあり方が検討されるべきである。

(2)重点分野

 重点8分野と戦略重点科学技術の設定により、資源配分における一定の重点化が進展した。しかし、枠組みは評価するものの内容については改善が必要であるとの声が多く(環境、エネルギー分野の統合等)、この機に見直されるべきである。その際、前述の政策課題(目標)別戦略の可能性とともに、分野別戦略の必要性について議論し、例えば、重点分野の位置付けを研究開発のポートフォリオ管理等を目的とする等、そのあり方を見直すことも必要とみられる。また、研究開発の多様性の確保や融合領域に対しても、別途、対応が検討されるべきである。
 なお、第3期計画期間においては、8分野の中でもITやエネルギー分野での政策課題対応型研究開発の割合が結果的に減少している。今後、政策課題あるいは研究分野の重要性や、わが国全体(官民)の投資状況等を総合的に判断した上で、各課題・分野における計画期間中の望ましい投資水準を提示していくことも有用である。

5.研究開発システム改革

(1)総合科学技術会議

 近年、総合科学技術会議(CSTP)が扱う業務が多岐にわたる一方、健康研究推進会議、宇宙開発戦略本部等、特定重要分野を扱う枠組みも新設されている。そうした中、科学・技術・イノベーション政策の司令塔と期待されるCSTPこそが担うべき機能・役割を精査し、必要に応じて法的措置を含めた改革(予算権限付与、事務局・調査分析機能強化、議員構成の見直し、民間人材の有効活用等)について検討すべきである。その際、上述の関連枠組みをはじめ、経済財政諮問会議、知的財産戦略本部、規制改革会議等との連携のあり方についても検討されるべきである。

(2)研究開発法人(研究開発・資源配分)

 産学連携が進む中、各機関のミッション・機能を一層明確化し、役割に応じた資源配分(交付金)や組織運営がなされるべきである。また、ミッションの明確化および説明責任を強化した上で、各機関の独立性を強化すべきである。とりわけ、産業競争力強化等を目標とする機関においては、民間企業との連携に対するインセンティブが機能する運営がなされるべきである。また、資源配分機関においては、基礎研究から実用化まで切れ目ないファンディングを実現すべく、共同ファンディング含め、一層の連携強化が求められる。独法によっては、人材育成機能を強化し、博士やポスドク等の産業界への就職等を促進することも一案である。

(3)大学

 大学においては、知の創造とともに人材育成が強く期待される。世界トップレベルあるいは地域振興の研究拠点として知の創造力を強化し異なる知の融合を促進する仕組みや、大学(教員)の教育基盤を強化し教育に対するインセンティブを高めるための枠組みの検討が求められる。また、世界トップレベルの研究、専門職教育、生涯教育等、大学毎に重視する機能を明確にし、その目的に応じた運営と政策的支援(運営費交付金の配分等)が行われるべきである。その際、研究拠点であれば分野別評価、専門職教育であれば、ユーザー側評価等、機能別の評価指標を導入することも一案である。

6.オープン・イノベーションの促進(イノベーションの場の形成)

(1)ナショナル・プロジェクト

 オープン・イノベーション時代におけるナショナル・プロジェクトの意義を見直することが求められる。企業の協働の観点からは、民民ベースでは難しく、競合他社を含むトップランナー間の協働が不可欠なプロジェクトへの期待があり、プロジェクトにおける非競争領域・競争領域の適切な設定、知財・情報管理の高度化等による環境整備が求められる。とりわけ、スピード感あるイノベーション実現を目的とするプロジェクトについては、市場環境整備と一体的に推進することが重要である。

(2)拠点形成

 世界中の優秀な研究者や競合企業が集まる研究開発拠点(基礎科学、課題解決型イノベーション)が必要である。これまでの多様な取組み(グローバルCOE、世界トップレベル研究拠点、先端融合領域イノベーション創出拠点等)を総合的に精査し、わが国全体としての戦略を策定し、既存制度の見直し・拡充、新制度の創設等を行なうべきである。ナショナル・プロジェクト同様に知財・情報管理の高度化が求められることは無論、大規模な拠点を運営するアドミニストレーション機能の強化、適切な組織形態の選択、海外からの優秀な人材の受け入れ環境の整備等が求められる。また、大学との連携による研究開発拠点における人材育成機能を強化することも有用である。

(3)プラットフォーム

 課題解決(社会システム)の観点から必要となる基礎研究、技術、国際標準化戦略等を産学官で共有(ロードマップ等)するプラットフォームが必要である。その際、欧州におけるETP(欧州テクノロジー・プラットフォーム)等の取組みも参考としつつ、イノベーションの主体たる企業やユーザーの意見が強く反映される仕組みとすることが重要である。また、要素技術の組合せ等によるシステムとしてのイノベーションを促進する観点から、各企業として守るべき技術等に十分配慮しつつ、協働のための環境整備を検討することも有用である。

(4)国際化対応

 知の高度化・複雑化に伴い、内外の多様な知の融合やオフショアを含めた研究分担等、グローバルレベルでの様々な協働の重要性が高まっている。とりわけ、国費を投ずるナショナル・プロジェクトについて、海外の研究者・研究機関・企業等の参加に関する基準の見直しが必要である。研究開発の目的、フェーズ、成果の活用方法、海外人材・資本受け入れの必要性等を総合的に考慮し、プロジェクトの性質に応じて柔軟に対応するとともに、プロジェクトの国際開放によりわが国企業の競争力に不利とならないよう、技術情報や知財等に係る法的環境等を整備することが求められる。
 また、科学技術外交を強化し、国際的な視点に立った課題解決等に向けた研究開発・実証の協力(先進国間、アジア)やODAの戦略的活用による国際貢献のあり方、さらにはわが国技術を活用した製品・サービスの海外展開に向けた環境整備(相手国における投資環境、知財環境、安全規制等の整備を含む)についても検討すべきである。

(5)ファンディング

 基礎研究の予算と応用研究等の予算、ボトム・アップ型の基礎研究、トップダウン型の課題解決研究の一体的運用(府省連携)を促進する制度的枠組み、政府投資と民間投資を連携させる仕組み等、研究開発フェーズや目的等に応じたファンディング制度に関する体系的な議論が必要である。とりわけ、課題解決指向の観点からの科学技術予算の配分構造(基礎研究からイノベーション創出までの一貫した配分)や、基礎研究においてイノベーションの芽が出てきた際の集中投資に向けた制度および目利き人材の育成は、重要な論点となり得る。
 同時に、ファンディングの規模の小額化、単年度主義、事務手続きの煩雑化等、運用に関する課題を継続的に改善するための仕組みが必要である。本年度補正予算においては、「最先端研究開発支援プログラム」として、多年度運用や研究者支援等、ファンディング上の課題を打破するための新たな施策も実施される予定であり、それらの成果を具体的な制度改革や産学官協働の研究開発拠点の整備等に着実につなげ、わが国の長期的な成長の基盤に発展させていくことも重要である。

(6)競争促進

 非競争領域における協働強化に加え、革新的なイノベーション創出に向けた競争を促進することも重要である。欧米の取組みも参考としつつ、研究開発の性質に応じて、解決策そのものを募集するコンテスト、報奨金、ステージゲート方式等の仕組みを活用し、企業等の多様性・活力が最大限活かされるようにすべきである。

7.成果の社会還元(社会システム改革)

(1)規制緩和・実証

 イノベーションを社会システムの改革につなげるためには、個々の技術ではなく全体システムの実証を支援する制度や、実用化等に必要な規制緩和を組み合わせる制度(社会還元加速プロジェクト、スーパー特区等の見直し)を一層充実させる必要がある。また、革新的な技術の社会での適用の障害となる規制・制度等について多様な関係者が協議する場の創設(規制改革会議の後継機関との連携含む)も一案である。

(2)需要創造

 課題解決・社会システム改革に資する研究開発の成果の実用化のための初期需要を創造すべく、政府調達や普及促進を目的とした助成・税制措置等を一層活用すべきである。また、実用化に向けた官民のマッチング・ファンドの充実も一案である。

(3)知財・国際標準

 課題解決・社会システム改革に資する研究開発成果の迅速な権利化、グローバルかつ多様な関係者が絡むオープン・イノベーションにおける知財の保護・活用など、プロ・イノベーション時代に相応しい知財制度について本質的な議論が行われるべきである。
 また、イノベーションの成果のグローバルレベルでの普及を促進する観点から、研究開発の段階から、官民連携により戦略的に国際標準を狙うための枠組みを検討することも一案である。

(4)ベンチャー

 わが国おいても、起業にかかる制度環境が整備され、大学発ベンチャーの量的拡大が図られたが、我が国産業構造の高度化における存在感は薄い。研究開発型ベンチャーの創造からその後の発展(IPO、買収等も含む)にかかる実態を精査し、必要な施策について議論すべきである。

(5)サービス分野

 研究開発の成果の実用化の出口としてのサービス産業の潜在的重要性が高まっている。サービス分野におけるイノベーション創出、サービス業での成果の活用に関する議論をより深めることが必要である。また、製造業においても、付加価値の源泉が、モノの製造から、最終的なソリューションやシステムの提供に移ってきており、ソリューションやシステムに係る全体枠組みを構築する視点からの政策的支援が強く求められる。

(6)府省連携

 課題解決・社会システム改革に向け、基礎研究から実用化までのイノベーション・プロセスを一貫して推進するための体制整備や、文部科学省と出口に責任を有する官庁の連携強化(共同プロジェクト等)が必要である。とりわけ、府省横断的な対応を要するプロジェクト形成に向けたCSTPの司令塔としての役割は大きい。科学技術連携施策群、社会還元加速プロジェクト、スーパー特区、革新的技術推進費、最先端研究開発支援プログラム等の制度上・運用上の課題等を精査し、CSTPが果たすべき役割、府省連携のインセンティブ付与等について検討すべきである。

8.人材育成

(1)イノベーションを牽引する人材

 イノベーション創出の鍵は優秀な人材の育成にある。基盤的経費の減少が大学の教育機能に与えた影響を検証しつつ、イノベーションをプロデュースできる人材の育成に資する大学院教育のシステム改革を推進すべきである。経団連におけるIT人材育成等の取組み等も踏まえ、産業界において活躍できる人材の育成に向け、修士・博士の育成体系の改善を図る(コースワークの充実、文理融合の推進、授業や研究活動を通じた企業人との交流促進等)ことが必要である。こうした取組みは、キャリアパスの多様化にも資するものであり、産学官の様々な分野においてイノベーションを牽引することが期待される。また、将来的に必要となる研究者数(全体、分野別)や目的別の大学数等、長期的な見通しの検討も一案である。

(2)外国人材(留学生含む)の受け入れ・活用

 海外の優秀な研究者・学生の受入れに向けた施策(在留資格認定、受入体制等)の強化が必要である。研究開発法人や大学、研究開発拠点等において、特区の活用も含め、モデルケースを充実させていくべきである。

(3)研究支援人材等

 研究開発の効果的・効率的な実施に向けた、コーディネーター、研究支援人材、アドミニストレーター等の育成・活用に向けた環境整備(待遇含め)が必要である。

(4)理科離れ対策

 理数系の教育の充実に加え、ポスドク等の活用を含め科学の面白さや意義を伝えることのできる教員や教材・場の確保が重要である。また、科学技術創造立国がわが国の繁栄に不可欠であることを国民が強く認識するとともに、大人の科学への関心の増大、技術者の魅力の向上に努める必要がある。

(5)国民理解の増進

 研究開発成果の社会還元に加え、科学的視点にたった政策決定の強化に向け、国民の科学技術に対する理解増進が不可欠である。しかしながら、科学技術に対する国民意識は十分高いとは言いがたい状況にあり、若年層ほど、関心が低くなっている。そのため、バイオやナノテクなどの科学技術の社会的影響についての情報公開や、初等中等教育を含めた国民に対する理解増進活動を精力的に進めることが重要である。

以上

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)