資料2‐2 大学院部会における審議経過

中央教育審議会大学分科会
大学院部会
平成21年7月31日

1.大学院教育振興施策要綱の検証

1.大学院に係る施策の経緯と今後の検証
 我が国の大学院は、昭和49年の大学院設置基準の制定以降、課程制大学院としての制度的な整備が行われ、平成3年の大学審議会答申等の下で量的拡大が進み、各大学における独立研究科・専攻の設置や大学院の最先端設備補助等重点的な予算措置等により、大学院固有の教員組織や施設・設備の充実が図られてきた。
 このように、課程制大学院としての制度の普及、大学院の量的拡大、及び大学院の国際競争力の強化や留学生等の受入拡大の必要性が増す中で、学術研究の後継者養成や高度専門職業人養成等といった複合的な目的を有する大学院教育の在り方に関し、従来のような研究者養成を中心とした研究指導に偏っていた教育手法だけでは限界があり、大学院の人材養成目的に対応した教育体制を確立することが求められてきた。
 こうした状況下で、平成17年9月に中央教育審議会において、大学院教育の実質化、国際的な通用性の確保や信頼性の向上を目指す目的で、「新時代の大学院教育」(答申)がまとめられ、同答申に基づき、大学院教育の改革の方向性と重点施策を明示し、体系的及び集中的な施策展開を図るために、平成18年3月に、平成22年度までの5カ年の振興計画として「大学院教育振興施策要綱」(以下「施策要綱」という。)が策定された。
 そして、施策要綱策定以来3年余りが経過し、現在、大学院設置基準改正や大学院教育の支援事業等を通じ、大学院教育の実質化が着実に進展してきている一方、大学院博士課程の志願者の減少や、博士課程修了者の就職問題等の新たな課題が顕在化しつつある状況が見られる。
 本部会においては、こうした状況を踏まえ、施策要綱の進捗状況等の把握と課題の検証を行ってきたが、今後の大学院教育のあるべき方向性を明らかにするために、現在までの議論の論点や改善のための基本的方向性等を審議経過として整理した。

2.今後、更に大学院教育改革の推進方策を明らかにしていくために、個々の大学院教育に関する事例における具体的な状況、学問分野別・学位レベル別の状況又は関係者の意識等について、引き続き多面的な検証を行っていく必要がある。

(今後の検証が必要な事項)

○ 施策要綱において整理された項目毎に、(a)各大学の取組状況、(b)各取組の実施を通じて得られた効果、(c)大学への施策の影響、及び(d)施策要綱で示した方向性の実現に向けて今後解決すべき課題等について、学問分野別・学位の種類別に把握・分析し、施策要綱の進捗状況について検証。

○ 施策要綱の進捗状況に関する検証に当たっては、既存の調査結果の整理・分析のほか、検証のためのデータが不十分な項目に関する新たな調査や、教員や学生等の大学院教育に関する意識調査、関係者等からのヒアリング等を多面的に実施し、大学院部会の下に分野別の作業グループを設けて、分野ごとに専門的な分析・検証を実施。

2 大学院の教育の実質化について

(1)現状の検証及び課題

 平成18年3月の大学院設置基準の改正によって、各大学院が研究科・専攻ごとに人材養成に関する目的等を定め公表することとされたが、本部会の議論において、人材養成目的が概して抽象的であり身に付けるべき知識・能力の体系等が教育プログラムに十分に反映されるに至っていない大学院や、博士課程修了者と修士課程修了者のそれぞれが身に付けるべき標準的な資質や能力があいまいなままである大学院があることが指摘された。
 また、学生や産業界等からみて、大学院における人材養成目的に即した教育研究活動の内容が十分に明らかになっていないところもあるとの指摘もされた。
 更に、大学院生の質に関し、大学院への入学時点での学力や意欲の適切な把握や、大学院教育における学位取得までのプロセスの中で、学生の学位取得に相応しい適性・能力の審査が求められるとの指摘もあった。こうした課題については、分野・学位ごとに状況や背景が異なることを踏まえつつ、今後、分野ごとに実態の更なる検証を行い、施策要綱の浸透度合いの把握やその更なる普及に向けた促進方策について一層の検討が必要である。

(2)具体的な対応が必要な事項

○ 大学院研究科・専攻等における人材養成目的の明確化に向けた取組を促進するとともに、更なる取組の深化を図る観点から、各大学が、教育プログラムの基本的事項(1.達成すべき資質能力、2.これに基づく修得すべき知識・能力の体系、3.研究指導の方針など)を明らかにし、情報公開に取組むようにするための方策を検討すべきである。
 また、課程制の大学院教育の実質化を図るためには、各大学院において、1.人材養成目的の明確化、2.人材養成目的を達成するための目標の設定及び当該目標に応じた教育内容・方法の明確化、3.学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修するコースワークの充実、4.良質の教材の開発及び活用等を行うことが必要であるとともに、5.大学院生に研究計画、研究デザインなど自ら研究活動を遂行するための知識や経験等を修得させるべく、研究科・専攻単位で各分野に関する教育方法の開発及び展開を行うことが重要であり、国においては、各大学の取組を促進する方策を検討する必要がある。
 更に、国においては、大学院の研究科・専攻等におけるこれらの教育活動が、広く社会等から見て分かるものとするため、例えば、公表される大学院教育に関する情報を集約し、一覧できる仕組みの整備を検討すること等が求められる。

○ 各大学院において、学生の質を保証するために、入学の際に求める知識、能力等を明らかにして適切な選抜を行うことが必要である。
 大学院の入学者選抜の適切性を確保するための方策について、例えば、大学院の評価に関し、入学者定員の充足率に加え、教育の実質化のための取組の充実度や就職状況等を含めて多面的な評価が行われるよう、評価指標・手法等を含めた検討が必要である。

○  各大学院において、複数分野の広範な知識、研究企画能力及びコミュニケーション力などを育成し、研究者としての素養を身に付けさせるとともに、博士課程の中で本格的に論文作成の研究に着手するまでに、研究テーマや研究の遂行能力など学位取得に相応しい適性・能力が養われているか否かについて審査を適切に行うことが必要と考えられる。

3 大学院の適正な量的な規模について

(1)現状と課題

 高度な知的人材を育成する「知の拠点」としての我が国の大学院について、国際的な通用性・信頼性の向上を図り、存在感の高い社会的システムとして構築していくため、教育プログラムの整備と実施による大学院教育の実質化、公的な質保証システムの構築を進めることにより、大学院教育の質の保証や向上を図ることが不可欠である。
 このような大学院教育の質の保証の在り方等に関しては、今後の知識基盤社会の中で諸外国と比較して我が国の大学院在籍者数の対人口比率が少ない状況が見られ、特に人文・社会科学系においてその状況が顕著であること、専門分野の違いによって定員充足率や就職率をはじめ当該分野を取り巻く事情が大きく異なること、職業を持っている人等からの高度専門職業人養成に対する需要が今後どうなるか等の観点などを総合的に勘案しつつ、分野別・学位の種類別に検討していくことが必要である。
 また、博士課程入学志願者の減少傾向の現状や、進路に関して受け入れ先が十分でないこと等を踏まえ、大学院博士課程の規模を縮小していくべきとする議論も見られるが、この点については、諸外国との国際競争力の確保の観点から、大学院教育の質を確保し、それが社会から高い評価を受けるように大学院教育の改革を進めていくことが必要であり、その上で、今後、将来の社会の在り方又は大学院の人材育成機能の観点等を踏まえて、その量的規模についての議論をより広い視野から行うことが必要である。

(2)具体的な対応が必要な事項

○  今後、大学院の量的規模に関し、本部会の下に,人社系、理工農系、医療系等の作業グループを設置し、人口動態、産業界など社会的な需要動向や国際的な競争力の確保等について総合的に勘案しながら、学問分野別・学位の種類別の大学院の規模の在り方について検討していくことが必要である。 

○ また、各大学において、それぞれの研究科等の人材養成目的との関係又は学生収容定員の充足状況や大学院修了者の需要との関係等を総合的に勘案しつつ、大学院教育の質の保証の観点からその組織や入学定員等を見直すことが求められる。また、このため、各大学の自主的な取組を促すための方策について、入学定員の在り方等を含め検討することが重要である。

○ 我が国の大学院の在籍者は、職業経験のない新卒の学生が大半を占めるが、それ以外  の大学院での学修を希望する者についても入学しやすくなるような教育環境の整備や、  企業人の国内留学等のリカレント教育等における企業と大学院との連携を促すための方  策等について検討することが考えられる。

4 産業界等と連携した人材育成について

(1)現状の検証と課題

 大学院における人材育成は、1.研究者等の養成、2.高度専門職業人の養成、3.大学教員の養成又は4.知識基盤社会を支える高度で知的な素養のある人材の養成の4つの養成機能を中心にその役割を担っており、現在の産業界等社会のニーズとは必ずしも人材育成目的が合致するものではない。また、大学院と産業界等とは、それぞれ異なる社会的役割を担っており、両者がそれぞれの役割を果たしながら分担と連携を行うことが社会の発展には必要である。その一方、大学院が人材養成の機能を適切に果たすためには、大学院修了者の主要な受け手である産業界等社会との間で、そのニーズと大学院教育のマッチングを可能な限り図っていくことが必要である。
 また、施策要綱において、産業界等との連携を強化するために、長期の実践的インターンシップ、ITスペシャリスト等の新たなプログラムの開発等の支援、企業と博士課程取得者との出会いの場の創出によるキャリア形成支援等が盛り込まれ、取組が進められてきた結果、一定の成果を上げているが、今後とも両者の連携の拡大が求められる。
 このような両者の連携拡大のためには、連携促進に向けた関係構築の場の設定を行うとともに、大学院教育と産業界等社会からのニーズとのマッチングに関する取組を促進することや産業界等において優秀な大学院修了者を受け入れる風土を醸成すること等の方策が必要と考えられる。

(2)具体的な対応が必要な事項

○  産業界等との連携強化の取組状況を引き続き検証するとともに、各大学院と企業等との間で教育プログラムの開発や実施を行う等の観点から、相互の人材交流を含めた継続的な連携協力に係る取組を促進することが必要である。

○ 分野ごとに人材養成に関する継続的な対話の場がすでに行われているところがあり、それらを更に活性化させるような促進方策について検討すべきである。

5 大学教員の意識改革をめぐる諸課題について

(1)現状の検証及び課題

 平成18年の大学院設置基準の改正、施策要綱の策定及び大学院教育の実質化に係る支援事業等を通じ、大学教員の間に大学院の教育機能の重要性に対する意識改革が着実に深まっている。一方、大学教員の中には、いまだに学生に対する教育活動やその進路等よりも自らの研究活動を重視する例も見られ、必ずしも学生に幅広い視野や自立した研究者として必要な資質能力を身に付けさせるための教育が実施されているとはいえないものもあることが、本部会において指摘されている。
 こうした現状の分析のためには今後とも更なる実態の検証が必要であるが、当面の改善の方向性として、1.教員の教育活動や大学院教育の組織的取組について、教員評価及び大学院組織の評価において、適切な評価のための手法の確立が必要であること、2.教員が教育活動により積極的に取組むための環境整備が求められること、3.大学院において教員及び学生の流動性の拡充を図ること、4.大学教員の教育研究活動に対する事務職員等からの支援体制の充実が必要であること等が考えられる。
 また、平成18年3月の大学院設置基準の改正において、大学院の授業及び研究指導の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究(FD:ファカルティ・ディベロップメント)の実施について義務化されたところであるが、それが教員の意識改革や教授能力の向上に対して実質的にどのような効果があったのかなど、その実質化については、今後とも、実態の更なる検証が必要である。
 更に、大学院の教員が、大学院生を自らの教育研究活動のために曖昧な立場で無償で活用するという事例があるとの指摘もあり、そのような場合には、TA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)等の形で大学院生の貢献を金銭的に評価するなどの取組が必要である。なお、このように大学院生が、TAとして実験・実習等の教育活動に参画することは、大学教育の充実に寄与するとともに、大学院生自身の将来の教員としての素養の涵養にも資するものである。

(2)具体的な対応が必要な事項

○ 各大学院においては、それぞれの専攻等における人材養成目的の明確化及び修得する ことが求められる知識等に関する教員間の協議等の具体的な作業を通じて、当該専攻等における教員の意識改革や教員間の共通認識が図られるようにすべきである。
 また、各大学院の教員等に対して、授業指導・研究指導以外に、専攻の運営や教授倫理、大学教員としての心構え等のプログラムを設けるなどFDの実質化を図るとともに、大学間連携によって効果的なプログラム開発や研修を担当する者の育成や、教員が日常の教育研究活動を離れて自己研鑽ができる機会(サバティカルリーヴ)の充実を図るなど様々な工夫があり、このような教員の意識改革に向けた多様な工夫に取組むことが求められる。

○ 各大学院においては、例えば、教員の教育活動の履歴を評価する手法の導入等により、教員の教育面における業績を可視化して適切に評価し、採用・昇任、再任用等の人事や処遇に反映することを含めて人事システムを工夫していくことが求められ、その際、各大学の判断で自己点検・評価に取組むことも効果的と考えられる。また、研究科・専攻等の単位で、大学院における教育活動の成果としての学生の学修状況や進路について把握及び公表することが必要である。国は、これらの取組を促進するような措置を講じるべきである。

○ 大学教員や学生が教育研究活動に専念できるようにするため、各大学において、大学事務職員の能力開発、教育研究関連業務の支援者やその組織体制等の整備、専門人材の育成等が必要であり、国はそのための方策を検討すべきである。

6 大学院生をめぐる諸課題について

(1)現状の検証及び課題

 大学院生をめぐる諸課題として、将来のキャリアに展望が開けないこと、在学中の生活保障がない不安等から、優秀な学生が博士課程に進学しにくいとの指摘がある。また、既に奨学金や授業料減免等の様々な経済的支援はあるものの十分ではないとの指摘がある。

(2)具体的な対応が必要な事項

○ 優秀な学生が経済的な不安を抱えることなく大学院に進学するような条件整備を行う 必要があるため、育英的な観点からの生活費相当額程度の経済的支援とともに、TA、RA及び研究奨励金(フェローシップ)等による経済的支援の大幅な拡充が必要である。
 その際、例えば、各大学において、競争的資金の一定割合等を大学院生の経済的支援に充てることを求めるなどの方策について検討すべきである。
 併せて、各大学は、大学院進学にかかるコストの提示及び学生に対する経済的支援等に関する見通し(ファイナンシャル・プラン)の提示を行うことが求められる。

○ 大学院において、学生への進路支援のために、キャリア情報の提供、インターンシップ等のキャリア教育の充実、キャリアアドバイザー等の体制の整備等、キャリア支援を強化することが効果的であり、国は、そのような大学院の取組を促進するための措置について、分野別に検討すべきである。

○ 各大学院においては、学生の学修状況、特に長期欠席者の実態や満期退学者の進路等に関する実態等の把握に努め、状況に応じた指導・支援を行うことが必要である。

○ 修士課程の学生の就職活動に関し、修士課程における学修や研究活動に支障を及ぼさないような在り方について、今後とも企業等と連携した検討が必要である。

7 その他

(1)修士課程・博士課程の在り方について

 修士課程の位置づけについて、博士課程(前期)との関係、専門職学位課程との関係、修士課程の修了要件(特に修士論文の在り方)の在り方、博士課程(後期)との接続等に関する検討が必要である。
 また、いわゆる「論文博士」については、その授与状況や学位に関する国際的な考え方、課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していく必要がある。

(2)国際的に卓越した大学院の形成について

 我が国が学術において世界を先導する為には、引き続き国際競争力のある卓越した大学院を形成することが必要であり、既存の学術分野を更に深化・発展させるだけでなく、新しい学問分野や異なる分野の融合領域の発展を効果的に促すことが必要である。
 その際、グローバルCOEプログラムの中間評価や取組状況の検証を行いつつ、例えば、新しい専攻の設置などの組織的・継続的な取組や、既存の拠点の全国共同利用化や大学以外の機関や海外拠点も含む卓越した拠点間のネットワーク形成、又は我が国の優位性を多角的に活用し世界から最優秀な大学院生と教員を確実に集めることを可能にする環境整備等の取組などを促進するための方策を検討すべきである。

8 大学院教育改革を推進するための計画と社会的環境の醸成

 施策要綱において示された方向性は、今後とも着実に進めることが必要であり、大学院教育改革の更なる推進のためには、施策要綱に基づくこれまでの成果と課題等について多面的に検証を行い、その検証の過程で必要と思われる取組について平成23年度以降の新たなプラットフォームとして整理し、ポスト「大学院教育振興施策要綱」として検討していく必要がある。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)