資料1‐2 研究開発評価システム改革の方向性について(審議のまとめ)

平成21年8月4日
科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会研究評価部会

目次

はじめに
[1]基本的考え方
 1.目的に応じた評価システムの再構築
 2.階層構造と階層間の関係が明確化された評価システム群の形成
 3.一貫性のある評価とマネジメントの実施
[2]評価システムの当面講ずべき改革の方向性
1.評価の観点・基準・視点
 (1)研究開発に適した評価の観点
 (2)研究開発の性格に応じた多様な評価基準
 (3)研究活動を支える組織、次世代の人材を育成する組織やプログラムの役割を重視する評価の視点
 (4)研究コミュニティの活性化を促進する評価の視点
 (5)世界的な視点での評価
2.効果的・効率的な評価手法
3.研究開発評価に係わる専門人材の育成
 (1)評価者、評価専門人材、評価の専門家
 (2)PD、PO制度改革
4.評価文化の醸成

はじめに

  • 我が国の研究開発評価制度は、最近では、科学技術基本法に基づいた科学技術基本計画の策定を受け、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年)、その後、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の下で、各府省の評価指針(平成14年より)が整備され、その定着や改善が進められた。
  • 現行の「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成20年)(以下、「大綱的指針」という。)では、研究開発評価を、研究開発施策、研究開発課題、研究開発機関等、研究者等の業績の4つを対象とするものに分け、それぞれの評価の実施責任を有する府省や研究開発機関において評価システムの構築が進められてきた。しかし、国の研究開発評価システムの全体を見ると、評価コストの過重さが課題として顕在化しており、政策体系における階層構造を明確化し、各階層で真に必要な評価を検討する必要がある。
  • 研究開発評価では、評価結果を適切に活用することにより、研究開発活動における質の一層の向上や優れた人材の育成を促すとともに、現状の研究コミュニティが抱える課題の解決を推進し、日本における研究コミュニティの活性化に寄与する必要がある。同時に、公的資金に対する説明責任を果たすことで社会からの信頼とさらなる支援を得る努力が求められる。
  • 今回、海外の取り組み状況等を踏まえつつ、現在の課題を浮き彫りにし、その改善方策をとりまとめる。

[1]基本的考え方

1.目的に応じた評価システムの再構築

  • 評価は、何らかの意思決定(資金配分、改善・質の向上、進捗度の点検、アカウンタビリティ等)を行う目的のために実施される手段であり、その目的に応じて個々の評価システムが構築される必要がある。
  • しかしながら、現状は、評価自体が目的化している場合や、一つの評価に複数の目的が期待されることにより、評価が過重になったり、評価の焦点が不明瞭になったりしている場合がある。
  • この点については、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成21年2月17日 文部科学大臣決定)において、「評価が無駄となったり形式化したりすること等により、現場に徒労感を生み出す恐れがあることから、評価に当たっては、評価実施主体は、誰がどのような目的で評価を実施するのか、また、評価結果は誰がどのように活用し、どのような効果をねらっているのか等に関して、それぞれの主体、その役割と責任などをあらかじめ明確にし、それを関係者に周知するとともに、評価結果が適切に活用されるようにする。」と記述されており、取組みが実施されているところであるが、国及び研究開発機関等(注)は、改めて次の点を再検討し、これらの首尾一貫性を確保した評価システムを構築する。
    1.評価に当たっては、あらかじめ評価結果の活用方法と活用にあたって責任を有する主体を明確化する。
    2.評価方法、評価基準、評価に要する労力等を評価結果の活用方法と整合するように設計し、定期的にその効果や影響を確認する。
    3.評価結果の活用方法とその責任主体及び評価方法、評価基準等について、評価者、被評価者、評価結果の利用者等の関係者と事前に共有する。
  • これらの評価システムの再構築を通じて、評価の透明性をさらに確保するとともに、いわゆる「評価疲れ」を生じさせないようにする。

≪「評価」という言葉の定義について≫

  • 「評価」に当たる英語は、狭義での“evaluation”だけでなく、“assessment”、 “appraisal”、 “estimate”、 “estimation”、 “judgment”、 “opinion”、“ranking”、 “valuation”、 “monitoring”、 “review”と様々にある。我が国では、これらが皆「評価」と訳されてしまうことが多く、言葉を聞いた人が、異なった意味を想像し、誤解を生む要因となっている。
  • 英語の語句に対応する概念を反映するような日本語案を<別紙>に示すが、国はこれらを相互に区別して認識できるよう、概念の分節化を促し定着を図っていくことが必要である。

(注)「研究開発機関等」とは、大学及び大学共同利用機関、並びに研究開発法人等(『研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律』第2条第8項に規定する独立行政法人及びそれ以外で研究開発を実施する独立行政法人)をいう。

2. 階層構造と階層間の関係が明確化された評価システム群の形成

  • 政策から具体的な研究実施までの政策体系は概して、政策‐施策‐プログラム・制度(事務事業)‐研究開発課題に分けられる。同様に、研究実施者は、機関‐内部の組織‐研究者グループ‐個々の研究者の階層構造に分けられる。各評価の設計はこれらの階層構造を踏まえて行われる必要がある。(なお、政策体系に関しては、大綱的指針においては、研究開発施策と研究開発課題に区別し、施策やプログラム・制度をまとめて「施策」と称している。一方、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(以下、「政策評価法」という。)に基づく政策評価では、政策、施策、事務事業に区分しており、プログラム・制度は事務事業に相当し、競争的資金内部で行われる個々の研究開発課題は明示的に扱われていない。そのため、ここでは、上記のように、政策‐施策‐プログラム・制度‐研究開発課題の4つに分けている。)
  • 上位階層を実現する一つの手段として下位階層が実施される構造を前提とすれば、評価基準は上位階層との関係から自ずと策定されることになる。しかし、現状では階層間の関係が明確になっていない場合もあり、評価基準が抽象的・一般的であったり、評価基準が評価対象の活動内容自体から逆に策定されたりと、評価活動が形式化・自己目的化することにつながっている。
  • このため、国及び研究開発機関等は、各階層間の関係を明確化し、上位の目的の実現の点から、階層間の適合性、相互接続性を踏まえ、それに即した効率的かつ有効な評価システムを構築する。
  • 特に、施策やプログラム・制度の評価については、我が国では、あまり経験を積んでおらず、下位の個別の研究開発課題(プロジェクト)の評価が行われる場合や、研究開発課題(プロジェクト)の評価結果が一覧化されるだけの場合があるなど、施策やプログラム・制度レベルでの有効性の評価が十分になされていない。
  • 説明責任を評価目的とする場合や、社会経済的効果の評価を必要とする場合は、個々の研究開発課題(プロジェクト)を詳細に評価するよりも、施策やプログラム・制度レベルで評価したり、機関レベルに説明責任を課すほうが適当である。その方が施策やプログラム・制度、ならびに機関の内部での自律的なマネジメントを推進でき、また多様な優れた研究活動を長期的な視点から支援できるなど、評価が有効かつ効率的である場合も多い。このことから、国及び研究開発機関等は、施策やプログラム・制度の評価の推進を図る。
  • 同時に、国は、施策やプログラム・制度の評価において得られた知見や課題が、上位にある国の政策の改善や新たな政策に反映することが望ましい。

≪階層の定義について≫

 <政策>
  • 特定の行政課題に対応するための基本的な方針の実現を目的とする行政活動の大きなまとまり。(総務省「政策評価の実施に関するガイドライン」より)
  • 研究開発以外の政策との機能的連携を考慮し、各施策の政策的位置づけを行うとともに、政策全体のスケジュールも策定する。
  • その評価は、政策全体が国民生活等にどのように役に立ったのかなど、国の目標がどのように実現されているかといった観点から実施する。
<施策>
  • 上記の「基本的な方針」に基づく具体的な方針の実現を目的とする行政活動のまとまりであり、「政策(狭義)」を実現するための具体的な方策や対策ととらえられるもの。(「政策評価の実施に関するガイドライン」より)
  • その評価は、下位のプログラム・制度(事務事業)が施策目的のために適切に構成されているか、施策が上位の政策の実現に寄与しているのかという点から評価を行い、その後の施策の改善に用いる。
<プログラム・制度(政策評価における事業に相当)>
  • 上記の「具体的な方策や対策」を具現化するための個々の行政手段としての事務及び事業であり、行政活動の基礎的な単位となるもの。(「政策評価の実施に関するガイドライン」より)
  • 国や資金配分機関において実施される提案型研究開発公募事業などの研究開発事業、競争的研究資金による研究開発制度が相当する(大規模なプロジェクトであり、資金配分や運営の意思決定が単独のプロセスで行われるものはここに含まれる。)。
  • 特に科学技術政策においては、プログラムや制度は、社会、経済、国際政治、環境、文化などの様々な政策的課題(学術政策の課題も含む)と、最先端の研究動向とを結びつけるインターフェイスの役割を担う点に重要性がある。
  • その評価は、プログラム・制度の設定、研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等を図るとともに、評価の重複を避け、評価を効率的に実施するためにも極めて重要である。
<研究開発課題、プロジェクト>
  • プログラム・制度の中で選定・設定されて実施される個別の研究開発事業、課題。
  • プログラム・制度のもとで個々の研究課題を設定・選択し、その構成の適切さによって施策の目的を達成する。
  • その評価は、プログラム・制度の目的に沿って、事前評価(採択審査)、中間評価、事後評価が実施され、個別課題が、研究開発方法、成果の質などの内容的側面がいかに充実されるかを評価する。
<研究開発評価における機関>
  • 国から交付金等を得ている研究開発機関等。並びに、研究開発機関等内の内部機構・組織等。
  • その評価は、国の政策、機関の設置目的(ミッション)と、それから展開される研究目的・目標に即して実施する。
【文部科学省の政策評価における階層構造の例】
文部科学省事業評価‐平成21年度新規・拡充等‐

政策目標9 基礎研究の充実及び研究の推進のための環境整備
 施策目標9‐1 学術研究の振興
事業
 ・科学研究費補助金
 ・政策や社会の要請に対応した人文・社会科学研究推進事業‐近未来の課題解決を目指した実証的社会科学研究推進事業‐

政策目標10 科学技術の戦略的重点化
 施策目標10‐1 ライフサイエンス分野の研究開発の重点的推進
事業
 ・脳科学研究戦略推進プログラム
 ・革新的タンパク質・細胞解析研究イニシアチブ
 ・再生医療の実現化プロジェクト
 ・橋渡し研究支援推進プログラム

3. 一貫性のある評価とマネジメントの実施

  • 評価は、その実施時期により事前評価(アセスメント)、中間評価(モニタリング)、事後評価(エヴァリュエーション)、追跡評価に分類される。これらの評価は、あらゆる階層において、一連のマネジメントの中で設計される必要がある。
  • 資金配分機関は、採択のための審査を事前評価として明確に位置づけ、中間評価、事後評価等と適切な関係を持たせたシステムとして適切に運用する。たとえば、事前評価における採択理由や改善への提言が中間評価や事後評価において参照されることで首尾一貫した評価や支援が行われるようにすることや、研究開発課題(プロジェクト)の事後評価結果をもとにプログラム・制度における研究開発課題(プロジェクト)の事前評価基準の見直しを行うことが必要である。また、研究開発課題(プロジェクト)の公募を開始する前に、これらの位置づけを公表し、評価者、被評価者、評価結果の利用者等の関係者と事前に共有する。
  • 一方、これら一連の評価の場合、5年単位の長期の研究開発課題(プロジェクト)では、事前評価、中間評価、事後評価の途中で評価者が変わる可能性があり、評価の考え方など連続性と一貫性の維持を図る工夫をする。たとえば、資金配分機関は、評価者のうち1、2名は責任を持って継続して評価を行う仕組みを確立する。あるいは、プログラムディレクター(PD)、プログラムオフィサー(PO)がこの機能を果たす、あるいは、評価に係る情報を適切にアーカイブし、後継の評価で活用する。

≪評価の種類について≫

<事前評価(アセスメント)>
  • 事前評価は、施策やプログラム・制度に関しては、国の政策や機関等の設置目的に照らした施策やプログラム・制度の位置づけ、実施の必要性、施策やプログラム・制度の担う範囲、目的や目標、実施手段、期待される効果、見直し方法等の妥当性等、また、研究開発課題(プロジェクト)に関しては、施策やプログラム・制度の目的に照らした実施の必要性、目標や計画の妥当性、実施者の研究遂行能力、期待される効果等を評価する機能であり、予算等の資源配分に関する意思決定に寄与する。
  • 事前評価結果は、後に続く中間評価、事後評価で参照されるべきことから、事前評価の段階で事業の意義、目的・目標、期待される効果、事業所掌範囲等を明確にし、中間評価、事後評価と適切な関係を持たせるシステムを構築することが重要である。
<中間評価(モニタリング)>
  • 中間評価は、事業が計画どおり、実施され、期待されている効果をあげているか、状況に応じた計画の前向きな変更や研究活動の加速が必要か、効果をあげる条件が充足されているかなど進捗状況や運営の状況を評価する機能である。
  • 中間評価は、関係者間で事業の方向性や成果の目標水準等を確認する機会として、また、被評価者が関連領域の専門家から有益なコメントを得る機会として重要である。
<事後評価(エヴァリュエーション)>
  • 事後評価は、事業の目的、目標が達成されたかや、得られた成果・インパクトを評価する機能である。
  • 事後評価は、事業終了時点における目的、目標の達成状況についての確認もさることながら、次の事業に活かすための知見を得ることが重要である。また、事後評価は、評価対象の質の保証を兼ねており、被評価者の実績になるとともに、別の形での評価に利用され、次の研究開発への資金供与の機会に結びつけることが重要である。
<追跡評価>
  • 追跡評価は、終了後長期間を経た後に効果が明らかになる事業について、事業終了後の適切な時期に、その効果を調査・評価する機能である。
  • 追跡評価は、主として、施策やプログラム・制度、あるいは大規模プロジェクトが対象となり、施策やプログラム・制度やその上位の政策等を見直す機会を与える機能として重要である。
  • また、追跡評価の時点で、事前評価、中間評価、事後評価が適切になされたかどうかという「評価の評価」を行うことは、評価システムの見直しや評価者選定の妥当性を確認する機会として有用である。

[2]評価システムの当面講ずべき改革の方向性

1.評価の観点・基準・視点

(1)研究開発に適した評価の観点

(視点)
○  現行の「必要性」、「有効性」、「効率性」に代わる研究開発に適したよりふさわしい評価の観点があるのではないか。

(現状と問題意識)

  • 現行では、政策評価法及び大綱的指針等で定めるところにより、施策やプログラム・制度、研究開発課題(プロジェクト)の評価は、「必要性」(重要性、緊急性等)、「有効性」(成果の有効性等)、「効率性」(実施方法、体制の効率性等)等の観点から行うことを要請している。
  • しかしながら、施策やプログラム・制度、研究開発課題(プロジェクト)の評価手法の違いや、それぞれの目的、性格、内容、規模等も多様であることから、これらに限定されることなく、それぞれの特性に適した観点で評価が行われるべきである。

(具体的な方策)

  • 施策やプログラム・制度レベルにおいては政策的活動の評価という側面が強いために、「必要性」、「有効性」、「効率性」の視点で概ね問題はないが、研究開発課題(プロジェクト)レベルの評価においては、研究の不確実性、研究成果がもたらすインパクトの多面性・長期性などを見越して観点を設定する必要がある。
  • 例えば、研究開発課題(プロジェクト)の評価の観点としては以下のものが考えられるが、国及び研究開発機関等は、研究開発課題(プロジェクト)が施策やプログラム・制度の目的に即した適切な観点となるよう再検討する。
    1. 施策やプログラム・制度との「関連性」
    2. 研究の内容や成果の「質」・「独創性」・「先進性」・「新規性」・「メリット」
    3. 研究活動全般の将来を十分に見据えた「インパクト」
    4. 研究活動全般の将来的な展開への「波及効果」

(2)研究開発の性格に応じた多様な評価基準

(視点)
○  研究開発の性格に応じて、評価方法は異なるはずであり、性格に応じた評価基準を明確化する必要があるのではないか。
1. 「研究者の自由な発想に基づく研究」もあれば「政策課題対応型研究」もある。その研究が実施されているプログラムの目的が、学術的な知識の創出の支援にあるのか、政策課題対応(問題解決)にあるのかで評価方法・基準が異なるはずであり、それらに適した評価のあり方があるのではないか。
2. 基礎研究からイノベーション創出に至るまでの広範で多様な研究開発の局面にそれぞれ適した多様な評価の視点があるのではないか。

(現状と問題意識)

  • 施策やプログラム・制度の目的が、「研究者の自由な発想に基づく研究」の支援であるのか、「政策課題の解決に直接/間接に結びつく研究」の支援であるのかで評価基準が変わるべきであるが、必ずしも適正に行われていない(ただし、両者は単純に二分できるものではなく、学術的な知識の創出と政策課題対応(問題解決)の両者を目的とする場合もある)。
  • 長期にわたる地道な研究活動が必ずしも評価されておらず、何の役に立つのか、いかに社会に貢献できるかといった短期的で実用的な成果ばかりを求める風潮があることから、研究者が、長期的な研究、重要ではあるが成果が現れにくい研究を敬遠し、目先の成果を重視する傾向にあるとの指摘もある。
  • 研究者の自由な発想に基づく研究について、既存の分野優先ではなく、例えば、学際的な自由な発想がきちんと採択される状況になっているかなど改善すべきところがある。

(具体的な方策等)

  • 個々の研究開発課題(プロジェクト)の評価基準は上位の施策やプログラム・制度により定められるものであることから、国及び研究開発機関等は、各施策やプログラム・制度の内部でその目的に即した適切な評価基準を作成するよう再検討する。
  • 国及び研究開発機関等は、説明責任の所在を研究開発課題(プロジェクト)より施策やプログラム・制度、機関におくことで、長期的研究や地道な研究を実現可能とするマネジメントが、それら施策やプログラム・制度、機関の内部で実施されるようにする。
  • 国及び研究開発機関等は、施策やプログラム・制度を新設・変更する際には、その内部で実施される研究開発課題 (プロジェクト)を選択する事前評価(アセスメント)基準を設定するだけでなく、その後に実施していく中で必要とされる施策やプログラム・制度等の中間評価(モニタリング)、事後評価(エヴァリュエーション)等の基準や、研究開発課題(プロジェクト)の中間評価、事後評価等もあわせて構築する。
  • 被評価者である研究開発課題(プロジェクト)の実施者が、評価作業に必要以上の労力をかけることの無いように、資金配分機関等は、評価活動への対応の仕方について支援や助言を行う仕組みを検討する。
  • 評価方法の設定においては学問上の特性を踏まえることが求められる。評価においては、定量的な情報を用いることにより客観性・透明性の向上や作業の効率化が求められるが、人文学及び社会科学の多くの分野及び自然科学の一部の分野では、論文数や(獲得した)研究費等を評価の代替指標として用いることには限界があり、その場合には定性的な評価を中心とした評価システムを構築し、その中で指標等を補助的に整えていくことが重要である。
3. 新たな研究領域を開拓する挑戦的な研究を促すような評価基準が必要ではないか。

(現状と問題意識)

  • 我が国では、競争的資金制度が増え、多様化しているが、新しい研究開発領域を開拓するハイリスク研究(研究者の自由な発想に基づく研究であるか、政策課題対応型研究であるかに拘らず、研究目標が計画期間内に達成されるかどうかには高いリスクがあるが、成果が出るとインパクトがあり、研究開発領域の進展に貢献するなど非常に大きな影響を与える)や関連領域の研究開発を相乗的に発展させる学際・分野融合を指向する研究を促進するような基盤が未成熟で、評価基準も不明確であることから、既存の研究分野の研究開発課題(プロジェクト)に比して、過度に低く評価される傾向にある。
  • 現状のままでは、リスクが高すぎて若い優秀な研究者の参加が困難であることから、こうした挑戦の芽を摘むことなく、その可能性を見出し、支援を行っていく評価基準の設定が必要である。

(具体的な方策)

  • 国及び研究開発機関等は、新たな研究領域を開拓していくハイリスク研究や学際・分野融合研究が適切に評価されるよう、事前評価(アセスメント)や事後評価(エヴァリュエーション)の方法・評価基準、マネジメントの仕組みを、施策やプログラム・制度の目的を踏まえて導入する。
  • ハイリスク研究や学際・分野融合研究の評価に当たっては、それぞれの施策やプログラム・制度の目的に応じて評価を行うことを推進し、事前評価においては、研究計画が既存の研究領域に変革をもたらし新たな研究領域を創出する可能性がある研究であるかを重視し、その研究を実現するマネジメント能力を有しているかを評価する。事後評価においては、挑戦的な研究開発課題(プロジェクト)が当初の目標達成に失敗しても、予期せざる波及効果に大きい意味がある場合には積極的に評価することを許容するような評価基準を作成する。また、マネジメントについては、施策やプログラム・制度レベルで管理し、成果は個別の研究開発課題(プロジェクト)レベルではなく、施策やプログラム・制度レベルで、長期的に新規領域が開拓できているかを評価することが重要である。なお、米国では、研究のアイデアが革新的であり、既存の概念を変える可能性を持っている研究を「トランスフォーマティブ(変換する力を持つ)(注)」と形容し、研究評価で重視しようとしている。
  • また、学際・分野融合研究には、施策やプログラム・制度がその目的として特定の社会的課題の解決などを挙げ、そのために多様な異分野融合型の研究開発をすすめる学際・融合研究がある。これらについては、目標達成への道筋や必要な技術課題群の明確化を行い、それらを踏まえた評価を行うことで、学際・融合研究が実施されるようにする必要がある。
  • なお、既存の新しい研究領域の開拓を目標とする施策やプログラム・制度以外の審査においても、学際・融合領域に不利にならないよう、扱い方を明記するなど、研究の芽を適切に拾い上げることが必要である。また、研究の進展に応じて、評価システムを見直していくことが重要である。

(注)トランスフォーマティブな(変換する力を持つ)研究とは、「既存の分野に大変革を起こしたり、新しい研究領域を生み出したり、パラダイム・シフトを引き起こしたり、発見を支えたり、抜本的に新しい技術を導いたりする研究」(National Science Board, 2020 Vision for the National Science Foundation, NSB‐05‐142, 2005, p.7)と定義されている。

(3)研究活動を支える組織、次世代の人材を育成する組織やプログラムの役割を重視する評価の視点

(視点)
○  第3期科学技術基本計画では、「モノから人へ、機関における個人の重視」の基本姿勢を示し、人材育成や競争的な研究環境の醸成が進められたが、一方で、現場では、個人を支える基盤の脆弱や次世代の若手研究者が育つ環境が整備されていない状況が見受けられることから、個人を支える機関の役割を重視するような評価の視点、あるいは次世代の人材育成を重視する評価の視点が必要ではないか。
1.“個人の重視”として、次世代の人材の育成を重視する評価の視点が必要ではないか。

(現状及び問題意識)

  • 「個人の重視」ということが、現世代の研究者個人の重視になっていて、個人やグループの成果を重視するあまり、次世代の若者の教育・育成への配慮を失わせている可能性がある。研究活動の持続的発展のためには次世代の若者の教育・育成が必須であり、研究コミュニティの責任であるという意識を研究者自身や研究開発機関等が共有する必要がある。
  • ポストドクターから常勤研究者としての就職につながるキャリアパスがきわめて少ないという社会状況が続き、短期間の生活基盤・研究基盤しか確保されないような人材育成のあり方が問われている。そして研究成果や効率が重視される時限付研究開発課題(プロジェクト)の中でポストドクターが使い捨てられているという状況がある。

(具体的な方策)

  • 国及び研究開発機関等は、研究自体の推進と同時に、若手研究者の育成等といった次世代の研究者・専門家等の養成、大学の学部生等への教育効果、アウトリーチあるいは啓蒙等についても、評価基準として積極的に位置づける。ただし、その実現は、個々の研究開発課題(プロジェクト)ごとに独立に行われるという方法に限られるわけではなく、機関、施策やプログラム・制度によって総合的に実現されうることを踏まえた上で、評価システムを設計し、運営する。
  • また、研究開発課題(プロジェクト)、施策やプログラム・制度の評価において次世代の研究者の養成を評価項目とする際にも、単純に養成数を確認するにとどまるのではなく、事前評価においては、ポストドクター(内容によっては大学院生も含む)が適正な環境・条件のもとに雇用され得るのか、どのように育成され得るのか、その後の就職等をどのように配慮されているのかを要件とし、中間・事後評価においては、それらの状況が良好であるか等を含めて評価を行う。これが実効性を持つようにするために、資金配分機関は連携して、研究開発課題(プロジェクト)の中でのポストドクターやリサーチアシスタント(RA)の処遇、育成、キャリア支援等の具体的な取り組みについてガイドラインを設定することが望まれる。なお、日本は女性研究者の割合が各国と比較して低く、その増加を促すことが重要であることから、その担い手である女性のポストドクターやリサーチアシスタント(RA)の処遇や支援や育成、キャリア支援等には特に考慮する必要がある。
2.“個人を支える機関の役割”を重視する評価の視点。
3.学際・分野融合やイノベーションは、個人だけでできるものではなく、個人と組織との相互連携、それらをつなぐ人の役割が重要。

(現状及び問題意識)

  • 第3期科学技術基本計画の「モノから人へ、機関における個人の重視」という基本姿勢は、革新的な方針であったが、結果として、“個人を支える機関”の役割が軽視され、バランスを欠く影響を起こし、また、研究や評価の管理運営事務まで、個々の研究者に過重な負担をかける結果を招いている。
  • 学際・分野融合やイノベーションは、個人だけでできるものではなく、組織とその相互連携、それらをつなぐ人の役割が重要である。
  • 研究への取り組みそれ自体は個人が行う活動であるが、同時に個人は組織に所属し、組織が有する研究基盤や環境に大きく影響されている。豊富な資金や設備があり、刺激的な人材がいる組織からは、よい研究が生まれ、人も育つ。しかし、そのような研究環境がごく限られてきているのが大きな問題である。

(具体的な方策)

  • 機関や組織の評価においては、単に機関・組織の研究成果を総合的に評価するだけでなく、個々の研究者が研究活動を行う基盤や環境が適正に形成・維持されているかという点を重視する必要がある。
  • 研究評価関連活動(日常的なデータ集積等を含む)や研究プロジェクト管理等の研究活動に対する組織的な支援体制が必要である。現状では組織評価においても個々の教員に対して資料作成などの過重な負担がかかっていることから、研究開発機関等は、評価の説明責任の主体を明確にし、個人で対応するところと組織で対応するところを明確にする。
  • 国全体としての研究基盤をさらに活用するには、組織間の協働も有効であることから、国及び資金配分機関は、個別組織(拠点:センター・オブ・エクセレンス型組織)を研究実施機関として取り扱うだけではなく、(現在の科学研究費補助金や、一部の共同研究拠点が対象となり得るような施策やプログラム・制度のように複数の組織が協働する形の)ネットワーク・オブ・エクセレンス型組織も研究実施機関として取り扱いうることを再確認し、後者についても十分に適用可能となるような評価システム等を構築していく。たとえば、後者においては、すべての組織が同じ機能を保有するのではなく、特定の組織がもつ機能をネットワーク・オブ・エクセレンスに参画する他の組織も協働して活用することを許容するという方法も考えられる。
(4)研究コミュニティの活性化を促進する評価の視点
(視点)
○  独創的な研究や新たな研究領域の開拓を促す価値観の融合を活性化するため、既存の研究グループや研究プロジェクト等の枠組みを超えた、研究コミュニティの動的な研究展開を促進しうる評価とするべきではないか。

(現状と問題意識)

  • 世界トップ水準の独創的な研究や新たな研究領域の開拓を促すには、多様な研究分野や経歴の研究者が連携・共同することで、異なる価値観の融合が実現されることが重要であるが、現在の評価では十分には留意されていない。
  • 研究実施期間中、構成員等が固定化された研究開発課題(プロジェクト)や研究グループ・研究機関を単位として評価を行うことによって、それらの枠組みを超えて動的に展開する研究活動が適正に評価されない可能性がある。

(具体的な方策)

  • 国及び資金配分機関等は、事前評価においては、研究課題を実施するために必要な多様な経歴・分野の研究者による研究実施体制が構築されているかを評価する。また、研究実施体制の一員として登録されていない人材(学生を含む)との共同体制など、研究活動の実態や組織の柔軟性を反映した評価が行われるように配慮する。
  • 国及び資金配分機関等は、評価対象の研究開発課題(プロジェクト)を超えて、別の研究開発課題(プロジェクト)の成果に結び付くような波及性も含めて評価する。
(5)世界的な視点での評価
(視点)
○  世界的な視点での評価について、世界的なベンチマークの活用等、研究開発の特性に応じた世界水準の評価方法など、我が国にふさわしい評価方法を明確化する必要があるのではないか。

(現状と問題意識)

  • 我が国では、一部の機関や組織、研究開発課題(プロジェクト)等において、海外から評価者等を招へいし、世界的な視点での評価が行われており、第一線の研究者からのコメントが得られるとともに、日本の研究者と海外の研究者とのネットワーク形成や日本の研究機関のプレゼンスの向上に寄与している。
  • 世界的な視点での評価を推進するためには、日本と海外との背景の違いを考慮した上で世界的ベンチマークを行うことや、分野による違いを十分に考慮するなど、我が国にふさわしい評価方法の検討も必要である。
  • また、世界的な視点での評価を実施するためには、招へい旅費の負担、日程調整、資料の英訳など、事務的な負担が大きい。また、競争的資金の審査を行う場合、公募の際、英語による計画調書等の提出が求められるなど、研究者にとって負担となる。

(具体的な方策)

  • 世界的な視点での評価は、国際競争・協調の観点や研究開発水準における国際比較等の観点等からの評価を行うため、研究開発の特性や規模に応じて、実施されるよう取り組んでいくことが必要である。また、世界的な視点の評価を通じて戦略的に海外で活躍する研究者等との人的交流の維持・拡充していくことは極めて重要である。
  • しかしながら、事前評価(アセスメント)や中間評価(モニタリング)においては、海外で活躍する研究者を評価者に含む評価は、第一線の研究者からの率直な意見が得られる反面、研究アイデアの流出の可能性や英語の計画調書作成などの負担も懸念される。そのため、国及び研究機関等は、当面は、施策やプログラム・制度レベルや規模の大きな研究開発課題(プロジェクト)など、特に有効と思われる部分でその実施を支援するとともに、その効果・影響について検討し、常に見直しを図っていく。
  • また、海外で活躍する研究者を評価者として選任する場合は、被評価者(研究開発実施主体)から意見を聞くなどし、研究アイデアが流出しないように配慮する。
  • 世界的な視点での評価のあり方については継続的な調査研究が必要である。例えば、論文や引用のデータを用いた定量的指標によるベンチマークが求められる場合もあるが、非英語圏である日本においては研究分野によっては適用可能性が低いことや、分野を横断した単純な比較には意味がないことなど、国及び資金配分機関は、その限界について十分に調査研究を行う。そのうえで、適切な場合には参考指標として用いて評価の質を高める。

2.効果的・効率的な評価手法

(視点)
○  評価者・被評価者の双方にとって、過重な評価作業負担を回避し、効果的で効率的な評価のあり方の検討が必要ではないか。

(現状と問題意識)

  • 評価における過重な負担を回避するため、階層構造の中での評価において既に行われた評価結果の活用や評価システムとして重複がある場合は、統合化・簡素化等の合理化を図るなどの取り組みが行われているが、一方で、評価を実施する目的が明確でなく、さらに、中間評価、事後評価等の評価結果がどのように活用されるか(活用されたか)分らないといったことなどからによる、徒労感が指摘されている。評価者と被評価者にとって、評価が有意なものとなるように評価システムを改善し、評価に関わることの徒労感を払拭することが必要である。
  • また、評価に従事する者が質・量ともに不十分なため、過重な負担が一部の者にかかっていることを踏まえ、評価人材の育成・確保等評価支援体制の強化を図ることが必要である。

(具体的な方策等)

  • 評価者、被評価者とって、評価に伴う負担を軽減するためにも、評価の目的を明確にすることが重要であり、国及び研究開発機関等は、1.の「1.目的に応じた評価システムの再構築」を踏まえ、評価結果の活用と責任主体等を明確化し、関係者に周知した上で、評価を実施していくようにシステムを構築する。
  • また、施策やプログラム・制度ならびに機関のマネジメントにおいてPDCAサイクルを回すことは重要であり、この観点から、評価をマネジメントに活かすことを奨励する。
  • 国及び研究開発機関等は、1.の「2.階層構造と階層間の関係が明確化された評価システム群の形成」を踏まえ、階層間の関係を明確化し、上位にある目的の実現の点から、施策やプログラム・制度の評価を推進する。
  • 優れた成果が期待され、かつ研究開発の発展が見込まれる研究開発課題(プロジェクト)については、次の競争的資金(異なる競争的資金制度によるものも含む)により、切れ目なく研究開発が継続できる仕組みを構築する。
  • 大綱的指針では、研究開発課題(プロジェクト)評価等について、発展が見込まれる優れた研究開発成果を切れ目なく次につなげていくために、事後評価(エヴァリュエーション)を、研究開発課題(プロジェクト)が終了する前の適切な時期に実施することとされているが、結果として評価が頻繁に実施されて過重な負担となっている現状があることから、国は、各施策やプログラム・制度や研究開発課題(プロジェクト)の実状に応じた対応が可能なシステムを再考する必要がある。
  • 評価支援体制については、「3.研究開発評価に係わる専門人材の育成」を参照。
  • その他、過重な評価負担を回避する手段として、次の点が考えられるが、国及び研究開発機関等は、これらの取り組みを検討し、評価システムの効率化・合理化を図り、作業負担の軽減に努める。
    1.評価に活用可能なインフラデータを整備する。
    2.適当な評価期間を設定し、その間の実施活動中におけるアドバイザリー委員会などによるモニタリング・助言の活動を評価活動の一形態として積極的にとらえて推進する。
    3.分額に応じ、評価の過重を調整する。例えば、配分額の少ない研究開発課題(プロジェクト)、プログラム・制度についてはできるだけ評価の簡素化を図る一方、配分額の大きな課題、プログラム・制度については、それに見合うきめ細かくかつ厳格な評価を行う。
    4.評価者と被評価者の議論により、評価の重点項目を不断に見直す。
    5.事前、中間、事後の評価で共通に使える部分は、フォーマットを工夫するなどにより、評価を受ける側(とくに、研究者)の負担を減らす。
    6.研究開発課題(プロジェクト)の事後評価結果を次の研究開発に適切につなげていくためのシステムを整備する。
    7.研究拠点あるいは研究機関において実施される規模の大きなプロジェクト等のモニタリング等の場合に、客観的データや研究代表者等のみとの面接だけよりもはるかに多くの情報が得られ、妥当な判定につながる実地訪問(site visit)を活用することを検討する。
  • 評価支援体制を整備し、評価の質の向上や実効性を上げるためには、評価に対する投資が不可欠であり、国及び研究開発機関等は、必要な評価資源を確保し、評価環境を整備する。

3.研究開発評価に係わる専門人材の育成

(1)評価者、評価専門人材、評価の専門家

(視点)
○  研究開発評価に係わる人材について、機動的かつ体系的に養成する仕組みが必要ではないか。
 1.機関等において、評価の実務や運営に携わり、評価運営の実務的専門性を有する人材の育成とキャリアパスの確立。
 2.評価対象を分析するための高度な手法を活かし、評価対象の実態を深く把握し評価作業を専門的見地から遂行する人材の育成。
 3.評価機関、被評価機関の双方において、評価活動を支援することも広義の研究支援の一環であり、研究支援体制の充実に際しては、研究評価に関わる業務にも配慮すべきである。

(現状と問題意識)

  • 評価者については、評価に従事する者が質・量ともに不十分なため、過重な負担が一部の者にかかっている。また、評価者間で、評価の進め方や考え方に関する意思統一が不十分のケースが見受けられる。
  • 国及び研究開発機関等では、評価を担当する事務的職員がジョブローテーションで数年ごとに異動し、評価の経験・知識が蓄積されにくい傾向があり、人材の集積や人材育成の体制整備が進んでいない。
  • 今後、施策やプログラム・制度評価や政策評価を充実していく上では評価の専門家の役割が重要になるが、現状では評価の専門家が極めて少ない。

(具体的な方策)
≪評価者≫

  • 資金配分機関は、ピアレビューに当たる一段審査員などを想定した研修の機会(スクーリング(ネット上でも可能))を作り、評価の専門家から評価の考え方、適正な評価の方法、陥り易い問題点、評価作業を能率的に行うためのポイント、評価能力の向上方法等の視点から講義などによる教育を行う。
  • また、評価に関する研究者からの相談に応じる体制を整備し、評価方法の改良にフィードバックする。
  • ピアレビューは、優れた方法であるが、現実には一部の現役研究者に評価作業が集中している現状があるため、国及び資金配分機関は、退職した研究者をもあわせて評価者として活用する可能性、適否について調査、検討する。

≪評価専門人材(資金配分機関や機関等における評価の専門部署で業務を担う人材)≫

  • 評価専門人材には、日本の場合は資金配分機関のPD、PO(その多くは大学の教員等であり、非常勤としてPD、POの業務を行う)と、資金配分機関や機関等における常勤職員として評価の専門部署で業務を行う人材がいる。PD、POについては、次節の「(2)PD、PO制度改革」において言及する。
  • 国及び研究開発機関等は、評価とともに、研究戦略・企画、プロジェクト管理・運営など戦略的なマネジメントを含めた研究支援体制全般のあり方を検討し、あわせて、評価に関連する専門的知見と経験を有するマネジメント人材、研究支援人材の育成とキャリアパスの確立に向けた検討を行うとともに、それら人材の養成システムの構築についても検討する。
  • また、大学の研究推進部署や評価室の専門人材と、資金配分機関におけるプログラム・制度運営等を行う専門人材の交流を行うなど、評価に関する人材の高度化を行う仕組みを検討する。

≪評価の専門家(評価を研究対象とする研究者)≫

  • 国は、科学技術政策、研究開発マネジメント、公共政策などといった評価に関連する専門領域の研究者に、評価で必要となる専門的な調査研究に関与してもらうなどして、研究評価の方法や理論の高度化を図るとともに、将来の専門人材の養成を図ることを検討する。

≪評価支援組織≫

  • 国及び研究開発機関等は、評価者の任務の助けになる科学的なデータを種々の観点から作成し提供する、評価者の系統的・短期的な教育育成にあたり、また一般への啓蒙活動を行う評価サポート機関の設置の可能性を検討する。

(2)PD、PO制度改革

(視点)
○  導入段階を経て、プログラムの特性に応じたPD、PO制度の一層の拡充を図るために、評価の視点における現状把握や今後の拡充方策を検討することが必要ではないか。
 1.PD、POの権限と責任の明確化。
 2.持続的、安定的、発展的にプログラム・マネジメントを行うために、PD、PO制度、PD、POの人事制度(キャリアパスを含む)の改革。

(現状と問題意識)

  • PD、POは、競争的資金制度の特性に応じて、制度毎に整備されている。たとえば、科学研究費補助金のPOは、資金配分機関と研究コミュニティのあいだのインターフェイスを果たすことが期待されている。しかし、制度によっては、PDやPOは、それらの権限と責任が明確でなく、また、多くが非常勤であることから、2~3年で交代してしまうため、役割等が十分に果たせていない。
  • 持続的、安定的、発展的にプログラム・マネジメントを行うために、PD、POを持続的に養成・確保していくための有効な対応策及び、キャリアパスとして評価される風土を形成することが必要ではないか。

(具体的な方策)

  • 国及び研究開発機関等は、PD、POを持続的に養成・確保していくために、大学や関係機関と協力して、大学院博士課程や若い教員・研究者の研修プログラム等において、競争的資金制度についての知識や、研究課題が申請・評価・採択される流れについての理解を得る機会を設ける。これにより、研究費配分システムにおけるPD、POの重要性についての共通認識を醸成するとともに、科学研究マネジメントに気概を持つ人材の育成に取り組む。また、資金配分機関は、PD、POを希望する若手研究者に機会を与える目的で、PD、POの空席があった時に一部を広く研究コミュニティから公募することを検討する。
  • 国及び資金配分機関は、PD、POの権限、責任を明確化しつつ十分に配置し、常勤のPOの導入、及び非常勤POと常勤POの協力による実施方式の構築など、競争的資金制度の特性に応じて、体制を強化・確立していく。必要に応じて、POらに大胆に権限と責任を持たせるケースも検討する。また、非常勤POの所属機関及び研究コミュニティ等に対し、PD、POの任務を周知し、理解を求める。
  • 研究開発機関等は、PD、POとして活動した実績を含め、キャリアパスとして評価する仕組みを明確化し、定着させるとともに、その知識や経験を自らの研究戦略の策定等に積極的に活かすことが期待される。また、国及び資金配分機関から公的資金を受けて研究開発を実施している研究開発機関等においては、本務での教育・研究活動を補完する措置を講ずるなど、この方策への取り組みを円滑にできるような仕組みを検討する。
  • 国及び資金配分機関は、非常勤のPOに対し、本務である教育や研究に活動に支障が生じることがないよう、POや所属機関に対し積極的な支援をする。

≪PD、POの役割の明確化≫

 PD、POに期待される機能は、課題の採択・評価等における専門性・機動性・戦略性の確保、研究費の執行を含むマネジメント等の説明責任の遂行である。その観点から、各制度においてPD、POが以下の基本的な役割を果たすこととする。また、各制度の趣旨や目的はそれぞれ異なることを踏まえ、PD、POの各制度における具体的な権限、責任は各制度で位置付け(評価委員会とPO・PD との適切な役割分担)を検討する。

プログラムディレクター(PD)の基本的役割

  • 競争的研究資金制度におけるマネジメントシステムの向上。
  • プログラムの方針決定。新規プログラムや新規領域設定を決定。
  • 各制度内の領域間・分野間・プログラム間等の資金の配分額や配分方式(個人研究とグループ研究等)を決定。
  • プログラムオフィサー間の調整。
  • 採択課題の決定。
  • プログラムオフィサーの評価。

プログラムオフィサー(PO)の基本的役割

  • プログラムの方針(案)(目的、目標、重点テーマ、新規テーマ設定)の作成。
  • 評価者の選任。
  • 外部評価(ピアレビュー)に基づき、採択課題候補(案)の作成(優先順位付け、研究費の査定、研究分担者の必要性、重複の排除)。
  • 評価内容や不採択理由の開示。それに対する申請者からの質問、不服申立への対応。
  • 採択課題について、研究計画の改善点の指摘。不採択の申請者にも助言。
  • 進捗状況や予算執行の状況を把握。必要に応じて、現地調査。
  • 研究計画の変更(中止・縮小・拡大を含む)の提言。
  • プログラム全体の運営見直し等の提案。

※  競争的研究資金制度改革について(意見)(平成15年4月21日 総合科学技術会議)より

4.評価文化の醸成

 (視点)
○  専門家が、そのプロフェッションとしての矜恃と専門的知識・知見に基づいて、さまざまな局面に応じて評価しあうことを通じて、結果としてその能力を相互に高めていくことにつながることの重要性を共有できるようにすることが望まれる。
○  機関・組織の運営や施策やプログラム・制度等の運営においては、現在の状況を評価し、その結果を将来の意思決定につなげていくというPDCAサイクルの確立が重要である。

(現状と問題意識)

  • 研究者が、評価されることに慣れていく、評価を受け入れる姿勢を持つことが大切である。例えば、研究費の応募に提案して、認められなかったら、研究計画において不足する部分を修正し改善し、また提案するという、評価を受け入れて研究を実施するスタイルに慣れていくことが必要である。
  • 評価活動は、研究開発を促進するひとつの方策であるが、それと同時に評価活動を通じて、被評価者・評価者の双方の立場にある研究者間で研究の意義、実現すべき目標の共有を図っていくことも大切である。良いモチベーションが促されるように柔軟性を持ちながら、内容に対しては厳格な評価を行うことが必要である。

(具体的な方策)

  • 評価者は、適切な助言を行うなど、創造へ挑戦する研究者を励まし、優れた研究開発を見出し、育て、さらに伸ばすような視点で評価を行うとともに、研究者は、申請に対する評価者からの示唆を尊重し、次の再申請に結びつけるというように、相互に前向きに取り組む。
  • また、国及び資金配分機関は、審査結果を被評価者に積極的に開示するとともに、再申請の際に、評価者の示唆を踏まえて改善している箇所についても的確に審査できるような仕組みを検討する。
  • 国及び資金配分機関等は、評価実施主体、評価者、被評価者が一緒に協力して、評価システムを作る、また、評価者が評価手法や評価基準を議論する機会を継続的に保持することを検討する。
  • 資金配分機関は、評価者と被評価者との関係が「循環的」となるようにする、たとえば、評価者候補群の推薦を一定の水準の被評価者が行うなどのシステムを構築していくことを検討する。

(別紙) 「評価」について

“evaluation”

  • 有用性の観点に主眼を置き、成果や結果を伴った評価
  • 物や人の価値を評価、あるものの価値を決定する意味、判断を下す行動
  • 政策評価法に基づき、行政機関が自らその所掌の政策の評価を行う場合
  • 実施結果の把握とそれを踏まえ教訓を導き出すための事後評価

“assessment”

  • 価値(value)を測定、評価
  • 判断(評価)を下す過程、これから先に行われる調査などに対しての評価
  • 現象を客観的に判断
  • 価値の測定、査定
  • (課税のための)資産評価

“appraisal”  

  • 金銭上の価値を専門的な立場から評価、査定
  • 代替案を含む事前評価
  • 個別課題の採択
  • 事前における規定類、基準類策定
  • 値踏み、見積価格、鑑定、評定

“estimate” 

  • 鑑定、見積、推定、概算、評価、価値判断
  • 価値、数量などを個人的判断で見積もる
  • 熟慮した結果である場合も思いつき程度の場合も含まれる

“estimation” 

  • (価値などの)判断、評価、意見
  • 見積、予測 → 事前評価

“judgment” 

  • 判定、審査、鑑定、(判断の結果による)意見

 “opinion”

  • 見解、評価、判定、鑑定
  • 物事に対する個人的判断や好み・感情に影響された結論に基づく意見
  • ある問題について考えた末の個人的な見解;誤りや異議の余地がある

“ranking”

  • 格づけ、等級づけ

“valuation” 

  • 価値評価、評定
  • (価格の)評価、査定;(能力、人格などの)評価、価値判断

“monitoring” 

  • 監視、観察、記録すること
  • 実施段階における情報収集
  • 施策が当初計画に沿って実施されているかの評価、目標に導くための途上評価

“review”

  • レビュー評価
  • 評価、概説
  • (新刊書・演劇などの)批評記事、論評

<引用文献>

  • 文部科学省における研究及び開発に関する評価指針(平成21年2月17日)
  • 文部科学省における科学技術政策の総合評価のあり方に関する調査報告書
    (平成15年度文部科学省委託調査)
  • 研究開発のアウトカム・インパクト評価体系
    (平成17年度科学技術振興調整費調査研究報告書)
  • 「研究開発評価の質の向上のための調査・分析」報告書
    (平成18年度文部科学省委託調査)
  • 研究社 新英和中辞典
  • ライフサイエンス辞書
  • 法令用語和英辞書

(参考資料1) 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 研究評価部会 委員名簿

  相原博昭 東京大学大学院理学系研究科教授
  有信睦弘 株式会社東芝顧問
  有本建男 独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター長
  伊地知寛博 成城大学社会イノベーション学部教授
  岩田博夫 京都大学再生医科学研究所教授
  大隅典子 東北大学大学院医学系研究科教授
  大泊巌 前早稲田大学理工学術院教授
  小川健司 独立行政法人情報処理推進機構IT人材育成本部参事
  小舘香椎子 日本女子大学マルチキャリアパスプロジェクト担当学長補佐
  後藤滋樹 早稲田大学理工学術院教授
  小林信一 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授
部会長 笹月健彦 国立国際医療センター名誉総長
  諏訪牧子 独立行政法人産業技術総合研究所生命情報工学研究センター主幹研究員
  田島文子 LMUミュンヘン大学地球科学部客員教授・東北大学大学院理学研究科客員教授
  田中啓 静岡文化芸術大学文化政策学部准教授
  東嶋和子 科学ジャーナリスト
部会長代理 中西友子 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
  西尾章治郎 大阪大学理事・副学長
  西島和三 持田製薬株式会社医薬開発本部主事
  野田哲二 独立行政法人物質・材料研究機構理事
  花木啓祐 東京大学大学院工学系研究科教授
  平野眞一 大学評価・学位授与機構長
  廣瀬幸雄 金沢大学大学院自然科学研究科特任教授
  持田澄子 東京医科大学医学部教授

(五十音順 平成21年8月4日現在)

(参考資料2) 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会研究評価部会
研究開発評価システム改革検討作業部会委員名簿

  阿部啓子 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
主査代理 有信睦弘 株式会社東芝顧問
  伊地知寛博 成城大学社会イノベーション学部教授
  小川温子 お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授
  北川宏 京都大学大学院理学研究科教授
  栗原和枝 東北大学多元物質科学研究所教授
  黒木登志夫 独立行政法人日本学術振興会学術システム研究センター副所長
  小林信一 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授
  小間篤 独立行政法人科学技術振興機構イノベーション推進本部(戦略的創造事業)研主監
  武田健二 独立行政法人理化学研究所理事
  沼尾正行 大阪大学産業科学研究所教授
  野田哲二 独立行政法人物質・材料研究機構理
主査 平野眞一 独立行政法人大学評価・学位授与機構長
  山本雅之 東北大学大学院医学系研究科長・医学部長

(五十音順 平成21年8月4日現在)

(参考資料3) 「研究開発評価システム改革の方向性について」の審議経過

平成21年

4月14日 研究評価部会(第34回)

○ 評価システム改革にむけた検討課題の審議
○ 研究開発評価システム改革検討作業部会の設置

5月21日 研究開発評価システム改革検討作業部会(第1回)

○ 評価システム改革にむけた検討課題、論点の審議

6月26日 研究開発評価システム改革検討作業部会(第2回)

○ 審議のまとめ(素案)の審議

7月28日 研究開発評価システム改革検討作業部会(第3回)

○ 審議のまとめ(案)の審議

8月4日 研究評価部会(第35回)

○ 審議のまとめ(案)の審議

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)