[4]社会・国民に支持される科学技術(基本計画第4章関連)
1.科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組
(基本計画のポイント)
- 科学技術の社会的信頼を獲得するために、国及び研究者コミュニティ等は、社会に開かれたプロセスにより国際的な動向も踏まえた上でルールを作成し、科学技術を担う者がこうしたルールにのっとって活動するよう促す。
- 研究者・技術者の倫理観を確立するため、大学等における教育体制の構築を促す。
(達成状況)
1.生命倫理問題や研究者の倫理問題等に対する指針等の作成状況
- 文部科学省及び厚生労働省を中心として、ヒトES細胞、特定胚、ヒト幹細胞等に関して各種の指針が策定されている。
2.研究上の不正行為及び研究費の適切な管理のための取組
- 各府省は研究活動の不正行為に関して指針を策定している。研究機関は、それぞれ研究活動の不正行為への対応に関する規程等を策定している。
- 大学においては、その他、不正告発や研究費の管理に関する窓口を設置するなど、研究上の不正行為防止及び研究費の適切な管理のための取組が進んでいる。
2.科学技術に関する説明責任と情報発信の強化
(基本計画のポイント)
- 研究機関・研究者等は、多様な媒体を効果的・効率的に活用し、研究者等と国民が互いに対話しながら、国民のニーズを研究者等が共有するための双方向コミュニケーション活動であるアウトリーチ活動を推進する。
(達成状況)
- 科学技術に関する説明責任と情報発信の強化のため、各府省、大学、研究開発法人等において、成果の公開、施設の一般公開、サイエンスカフェ等の取組を実施している。
- 先端技術の情報発信とイノベーション創出の場として、国際見本市が活用されている。例えば、経済産業省等と連携した
FCEXPO(国際水素・燃料電池展)、PVEXPO(国際太陽電池展)では、これまで出展者数、来場者数ともに大幅に増加している。
3.科学技術に関する国民意識の醸成
(基本計画のポイント)
- 科学館・博物館等を充実させるとともに、科学館・博物館の活動に関連する人材の養成と確保を促進する。
- 施設の一般公開、出前講座等の活動を通じて、科学技術に対する国民意識の向上に貢献する。
(達成状況)
1.科学館・博物館の充実
- 全国の科学博物館及び博物館(いずれも類似施設を含む)の数は増加している。
- 全国の科学博物館及び博物館への入館者数は近年ほぼ横ばい傾向である。
- 三大科学館について、国立科学博物館及び日本科学未来館の入場者数は増加傾向、科学技術館の入場者数は微増傾向にある。
- 国公私立の16の科学館等における常勤職員数を見ると、国公立で減少傾向にある。またこれらの科学館等におけるボランティアの活用状況を見ると、登録者数は微減しているものの、活動のべ日数が増加している。
2.国民意識の向上
- 世論調査によると、科学技術に対する関心は高まっている。年齢層別では若年層ほど、科学技術への関心度が低い。
- 世論調査によると、国際的な競争力を高めるためには、科学技術を発展させる必要があると答えた人の割合は78.3%である。
- 世論調査によると、科学技術が貢献すべき分野では、72.8%の人が地球環境や自然環境の保全と回答し、第1位となっている。
- 定点調査では、研究機関や研究者による研究成果等の社会・国民に対する説明や、国や研究者コミュニティによる科学技術に関する倫理的・法的・社会的課題への対応が改善されているとの認識が高まっている。
4.国民の科学技術への主体的な参加の促進
(基本計画のポイント)
- 各府省が、社会的な影響や国民の関心の大きな研究開発プロジェクトを実施する際、その基本計画、研究内容及び進捗状況を積極的に公開し、それに対する意見等を研究開発プロジェクトに反映させるための取組を進める。
(達成状況)
- 文部科学省のビッグプロジェクトでは、専任の広報担当を置いて広報を行っているケース、分かりやすい記者発表を行っているケース、フォーラムやセミナー、シンポジウムを開催しているケースがある。
- 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構では、翌年度に開始予定の研究開発プロジェクトについて、広く国民、事業者の意見等を得て計画に反映すべく、ウェブサイト上で、意見、情報を募集する「NEDO
POST」を実施している。
(所見)
- クローン技術等の生命倫理問題、個人情報の取扱の問題、遺伝子組換え食品の安全性の問題等、研究開発の進展が必要である一方で、ある程度の規制が求められる分野については、引き続き法的・社会的側面からも議論を進めることが重要である。
- 科学技術コミュニケーションに関しては、第3期基本計画の下で、格段に進展を見せていることは高く評価できる。例えば、東北大学、北海道大学のサイエンスカフェ、大阪大学のサイエンスショップ、名古屋大学の理系女子学生による「あかりんご隊」の活動など、大学のアウトリーチ活動は盛んになってきている。国民の科学技術に対する関心を高め、優秀な若者が数多く科学技術を志すようにするためには、引き続き日本各地の大学や研究開発法人等において取組を充実・強化していくことが望まれる。国立国会図書館や全国のビジネス支援図書館が、サイエンスカフェや企画展示の実施や、インターネット上でのレファレンス(参考調査)事例、パスファインダー(特定テーマの情報探索案内)を提供するなど、科学技術コミュニケーションに関し、意欲的な取組を見せており、関係機関との一層の連携強化が望まれる。サイエンスアゴラなどの活動も非常に重要な科学技術コミュニケーションのチャネルであり、更なる発展が望まれる。なお、国民の科学技術への主体的な参加については、緒についたばかりであり、今後の充実が望まれる。
- 日本科学未来館等において社会と科学を結び付けるサイエンスコミュニケーターを育成する取組が活発化しており、高く評価できる。引き続き、サイエンスコミュニケーターが社会で広く活躍し、科学技術が国民から支持されるよう、実践的な取組の充実が望まれる。
- 各地の科学館・博物館の中には、企画展示に意欲的に取り組むことで来場者数を飛躍的に高めているものがあり、しかも、子どもだけでなく、大人も楽しめるような様々な情報発信の工夫をしており、その取組は高く評価できる。来場者数は、科学技術コミュニケーションのひとつの指標でもあり、国民各層の要望に適切に答えられているか否かの試金石でもあることから、各館における一層の努力に期待する。