1.人材の育成、確保、活躍の促進
(1)個々の人材が活きる環境の形成
(公正で透明性の高い人事システムの徹底)
(基本計画のポイント)
- 研究者の採用において、幅広く候補者を求め、性別、年齢、国籍等を問わない競争的な選考を行う。
- 研究者の処遇において、能力や業績の公正な評価の上で、優れた努力に積極的に報いる。
- 大学や公的研究機関の人事システムを自己点検評価、第3者評価に適切に反映し、改革・改善につなげる。
- 組織に対する競争的な支援制度において、人事システム改革の状況を審査の一指標とする。
(達成状況)
1.公募の状況
- 大学における公募採用の割合は、平成18年度現在、全体採用数の約3割である。経年で見ると、公募採用数は増加しているが、割合としては低下している。職種別では助手等の若手で、大学別では私立大学で、公募率が低くなっている。
- 研究開発独立行政法人においては、平成18年度現在で、公募採用の全体採用数における割合は、近年ほぼ横ばいの80%程度となっている。
2.個人業績の評価への反映
- 国立大学法人に対する調査(平成20年)によると、教員個人評価を実施しているところは87.3%に上っている。個人評価の反映について、別の同様の調査(平成20年)では、検討中が多いものの(41%)、処遇反映をしない予定のところは少ない(9%)とのデータもあり、評価結果の活用に向けた意識の向上は進んでいる。
- 研究開発独立行政法人においては、平成18年度現在で、33法人中、30法人が業績評価を実施しており、残り3法人についても今後実施予定である。
3.人事システムの自己点検評価、第3者評価への反映状況
- 国立大学法人では、中期目標において「人事の適正化に関する目標」を掲げ、それに基づく業務実績報告書を毎年度作成し、国立大学法人評価委員会による評価を受けている。
- 研究開発独立行政法人においても同様に、中期目標に「人事」に関する事項を明確に位置付け、それに基づく業務実績報告書を毎年度作成し、独立行政法人評価委員会における評価を受けている。
- 研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律において、研究開発法人は、若年研究者等の能力の活用、卓越した研究者等の確保等、研究開発等に係る人事交流の促進に関する事項について人材活用等に関する方針を作成、公表しなければならないこととされた。
4.人事システム改革の状況を審査の指標とするプログラム
- 平成18年度開始の科学技術振興調整費「若手研究者の自立的研究環境整備促進」、平成19年度開始の「グローバルCOEプログラム」、「世界トップレベル研究拠点プログラム」など、人事システム改革を審査の指標とする競争的な支援制度が充実してきている。(文部科学省)
(若手研究者の自立支援)
(基本計画のポイント)
- 若手研究者に自立性と活躍の機会を与えることを通じて、活力ある研究環境の形成を指向する。
- 大学においてテニュア・トラック制(若手研究者が、厳格な審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付の雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組み)等の導入、助教の確保等を行うことが望まれる。
- 国において若手研究者のための環境整備等を支援するとともに、競争的資金制度において若手研究者への研究資金配分を相当程度高めることを目指す。
- 若手研究者の採用過程の透明化や自立支援を推進する中でポストドクター支援を行うとともに、ポストドクターへのキャリアサポートを推進する。
- 若手研究者やポストドクターが国際経験を積み、海外との交流機会を拡大すべく施策の充実を図る。
(達成状況)
1.若手研究者への自立性と活躍の機会の付与
- 若手研究者(博士課程修了者)の供給増(平成10~20年度で約1.5倍)に対し、国立大学における助手・助教の需要は減少傾向にある。
- 研究者に対するアンケート(平成20年)から博士課程修了者の就職状況を見ると、博士課程修了直後にポストドクターになった者が修了者全体(平成14~16年度修了者合計)の15%、大学教員職に就いた者が19%など、研究開発関連職に就いた者が約半数を占める。研究分野別では、理学・工学・農学で研究開発関連職に就いた者の割合が高い。
- 同アンケートによると、博士課程修了直後にポストドクターだった者は、年数の経過とともに、ポストドクター以外の研究開発関連職、特に専任の大学教員職に就く比率が高くなっている。
- 定点調査では、大学の若手研究者に自立と活躍の機会を与えるための環境整備が着実に進みつつあるとの認識が示されている。具体的に、テニュア・トラック制や科学研究費補助金(若手研究スタートアップ)の導入について述べる意見が多く見られた。また、望ましい能力を持つ人財が博士課程後期を目指していないという認識が継続しており、多くの回答者が、キャリアパスへの不安に注目した意見を述べている。
2.テニュア・トラック制等の導入、助教の確保等
- 大学におけるテニュア・トラック制の導入等を図る科学技術振興調整費「若手研究者の自立的研究環境整備促進」の採択大学は平成20年度までで28大学である。
- 大学等における助教ポストは微増傾向にある(平成19年 32,783 人→平成20年度
34,509 人)。
3.若手研究者に対する環境整備等の支援と競争的資金制度における研究資金配分の向上
- 国の施策としては、科学技術振興調整費「若手研究者の自立的研究環境整備促進」(平成18年度開始)において、大学におけるテニュア・トラック制の導入や自立した研究活動に必要なスタートアップ資金の提供、研究スペースの確保等研究環境の整備等を支援している。(文部科学省)
- 若手研究者を対象とした産業技術研究助成事業の追跡調査(平成19年11月)によると、採択研究から生まれた主要技術の約3割が、実用化研究段階もしくはそれ以上の段階に発展している。(経済産業省)
- 各省において、競争的資金における若手研究者枠を充実してきている。
- 研究スペースの確保を始め、若手研究者のスタートアップのための環境整備に取り組む大学がみられる。
- 大学等の研究組織の長に対するアンケート(平成20年)によると、研究資金面での支援について、新たに採用された研究員・ポストドクターに支援をしているところは2割弱だが、主任研究員・助教・講師クラスに対しては、部長・室長・教授クラスと比較してやや少ないもののほぼ同程度(約6割)が支援をしている。
4.ポストドクター支援
- 国の施策として、大学、研究機関等における若手研究人財のキャリアパス多様化のための組織的支援と環境整備の取組を促進する「科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業」(平成18年度開始)や、イノベーション創出の中核となる若手研究者等が、狭い学問分野の専門能力だけでなく国内外の多様な場で創造的な成果を生み出す能力を身につける研究人財養成を目指す科学技術振興調整費「イノベーション創出若手研究人材養成」(平成20年度開始)事業などを実施している。(文部科学省、経済産業省)
- 大学、研究開発法人等において、キャリアパス多様化などのポストドクター支援の独自の取組が進められている。
5.若手研究者の海外との交流機会の拡大
- 研究者の海外派遣件数は増加傾向であるが、30日を超える長期派遣はそのうち約3%に過ぎず、微減傾向にある。
- 研究者に対するアンケート(平成20年)を年齢別で集計すると、海外経験について、35~44歳の者は他の年齢層と比較して多いが(11%)、34歳以下の者で少なくなっている(5%)。
- 米国で研究活動を行う外国人研究者の推移を見ると、中国、韓国、インドからの人財が特に多く、増加傾向にある。日本はその次であり、人数もほぼ横ばいである(平成19年度
5,692 人)。
- 定点調査では、若手研究者が海外機関に就職・留学しない要因として、帰国後のポジションの保証がないことに対する不安が多く挙げられている。
(人材の流動性の向上)
(基本計画のポイント)
- 研究者の流動性を向上し活力ある研究環境を形成する。
- 大学及び公的研究機関は任期制の広範な定着に引き続き努める。
- 「若手一回異動の原則」を奨励する。
(達成状況)
1.研究者の流動性の向上
- セクター別の研究者の流動性を見ると、公的研究機関の人財の転出率が最も高く、微増傾向にあるが(平成13年度9.1%→平成19年度12.4%)、その他のセクターの転出率はほぼ横ばいである(大学で平成13年度6.3%→平成19年度7.4%、企業で平成13年度3.7%→平成19年度4.1%)。
- 転出入の流れを見ると、大学等から他のセクターへの転出よりも他のセクターから大学等への転入が多くなっており、大学が他のセクターから人財を吸収する形となっている。
- 研究者に対するアンケート(平成20年)によると、異動経験のある研究者は半数を超えている。
- 定点調査でも、人材流動性が高まりつつあるとの認識が、依然低いレベルではあるものの、増加している。
- 転職経験者による転職に関する感想は良好とのデータもある。
- 異動経験と論文生産性を見ると、異動経験がある方が英語論文において高い生産性を示すとのデータもある。
- 大学等の研究組織の長に対するアンケート(平成20年)によると、人財流動化のメリットとして、優れた人財を確保できたこと、新しい研究分野を開拓できたことなどが挙げられる一方で、優れた研究者を確保するための組織としての取組はほとんど行われていなかった。
2.任期制の広範な定着
- 教員数全体に占める任期付き任用の割合は増加傾向にあり、平成18年度で20%程度である。助手の任期付き任用の割合が27%であるなど、若手の職ほど任期付き任用割合が高い。
- 大学等の研究組織の長を対象としたアンケート(平成20年)によると、大学の研究組織の約17%で再審制が導入されている。一方、研究開発法人等では約3分の1の研究組織で再審制が導入されている。
- 企業の流動性が低い傾向にあり、転出率が低いとともに、大学、公的研究機関等の他のセクターからの転入も極めて少ない。
3.「若手一回異動の原則」の奨励
- 研究者に対するアンケート(平成20年)によると、若手ほど異動割合(在籍者のべ人数に対する転出者のべ人数の割合)が高いとの結果がある。
(自校出身者比率の抑制)
(基本計画のポイント)
1.教員の自校出身者比率に十分な配慮を行い、その比率が過度に高い大学にあってはその低減が図られることを期待する。
(達成状況)
- 自校出身者率は平成16~19年度で増加している。特に、国立大学においては公立、私立よりも高く、40%以上が自校出身者である。
- 研究者に対するアンケート(平成20年)によると、特に大規模国立大学において自校出身率が高く、学部入学から全く異動したことがない者の割合も他と比べて高い。
- 大学等の研究組織の長に対するアンケート(平成20年)では、採用に際して自校出身者が優先されることはないとするところが多かったが、公立、私立大学において自校出身者が優先されるとの割合が他よりも比較的高かった。
- なお、研究者に対するアンケート(平成20年)によると、自校出身者の生産性が劣るということはない。年齢が上がるにつれて自校出身者の中でも異動を経験した者の生産性が高いとのデータもある。
(女性研究者の活躍促進)
(基本計画のポイント)
- 競争的資金等において研究と出産・育児等の両立に配慮した措置を拡充する。
- 大学や公的研究機関等においては、環境整備のみならず意識改革を含めた取組を着実に実施する。
- 国は、他のモデルとなるような取組を行う研究機関に対する支援等を行う。
- 大学や公的研究機関は、公正な選考により女性研究者を積極的に採用すること、昇進・昇格や意思決定機関等への参画においても女性研究者を積極的に登用することが望まれる。
- 期待される女性研究者の採用目標は、自然科学系全体としては25パーセント(理学系20パーセント、工学系15パーセント、農学系30パーセント、保健系30パーセント)である。
- 女子の興味・関心の喚起・向上に資する取組を強化する。
(達成状況)
1.競争的資金等における両立に配慮した措置の拡充
- 国の施策として、特別研究員事業において、出産・育児によりやむを得ず研究活動を中断した優れた若手研究者が円滑に研究現場に復帰する環境を整備するための研究奨励金を一定期間支給している。(独立行政法人日本学術振興会)
- 各種競争的資金において、出産・育児等の研究に従事していない期間について配慮する制度などを導入している。
- 女性研究者による競争的資金の獲得状況は、件数ベースでは研究者割合とほぼ同じ12%であるが、金額ベースでは5%とかなり低くなっている。いずれも、若手ほど率が高い(30歳未満で件数ベース20%、金額ベース17%)。また、年代別一人当たり配分金額の男女別推移を見ると、40歳以上で男女差が非常に大きく、さらにその差は年々拡大しつつある。(平成19年度現在)
2.大学や公的研究機関等における環境整備、意識改革の取組
- 大学、研究開発法人等においては、育児期間中の勤務時間の短縮、出産・育児を考慮した業績評価及び任用期間の延長、育児期間中の職員の勤務環境整備等の取組を独自に行っている。
- 研究者に対するアンケート(平成15年及び平成19年)によると、女性研究者の家庭・育児と仕事の両立の困難さは相対的に増大している。その一因として、育児休業等の支援制度が充実しても、実際に活用されていないことなどが考えられる。一方、職場や家庭環境の影響、評価の不公平感は相対的に減少している。
- 定点調査によると、女性研究者の活躍は拡大しており、そのための環境改善や人事システムの整備は着実に進みつつあると見られている。ただし、未だ十分といえる状況ではないことから、更なる環境改善や人事システムの整備に向けた継続的な取組が必要と認識されている。
3.他のモデルとなるような取組を行う研究機関に対する支援
- 国の施策として、科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」において、女性研究者が研究と出産・育児等を両立し、研究活動を継続するための支援を行う仕組みを構築するモデルとなる優れた取組を支援しているほか、平成21年度からは科学技術振興調整費「女性研究者養成システム改革加速」において、特に女性研究者の採用割合等が低い分野である理学系、工学系、農学系の研究を行う優れた女性研究者の養成を加速する。(文部科学省)
4.女性研究者の積極的採用及び登用
- 女性研究者の数及び割合は増加傾向にあるが(平成14年 85,255 人、10.8%→平成18年
102,948 人、11.9% →平成20年 114,942 人、13%)、国際比較では、日本の女性研究者比率は未だ非常に低い水準にある。
- セクター別の女性割合は、企業等で低く(7.6%)、大学等で高い(22.7%)(平成20年)。
- 大学教員においては、職階が高くなるにつれて女性割合が低い(助手51.4%→教授11.6%)(平成20年度)。
5.女性研究者採用目標の達成状況
- 女性研究者の採用割合について、大学教員の採用については、平成18年度現在、自然科学系全体では目標の25%をほぼ達成する24.6%となっている。一方、研究分野別で見ると、達成しているのは保健系のみである。
- 女性学生数がもともと少ないことが女性研究者の採用割合と関係するともいわれるが、女性学生数で女性研究者の割合を正規化して比較しても、工学系、農学系の女性研究者割合は男性の約半分程度に過ぎない。
6.女子の興味・関心の喚起・向上に資する取組の強化
- 国の施策として、内閣府男女共同参画局において、女子高校生・学生等を対象に理工系分野に関する情報提供・意識啓発キャンペーン等を行っている。また、文部科学省において科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、大学生等と女子中高生の交流機会の提供や実験教室、出前授業の実施等を支援する「女子中高生の理系進路選択支援事業」を実施している。
(外国人研究者の活躍促進)
(基本計画のポイント)
- 世界一流の研究者をはじめとする優秀な人材が、国籍を問わず数多く日本の研究社会で活躍できるようにする。
- 優れた外国人研究者の招聘・登用を促進するため、
□ 国は、研究環境、生活環境に配慮した外国人研究者の受入態勢の構築を支援する。
□
大学や公的研究機関は、外国人研究者の活躍促進を図るための行動計画を策定する。
- 外国人研究者の受入れの円滑化を図るための制度整備を推進する。
- 優れた外国人留学生のわが国への定着のため、わが国で博士号を取得した留学生がポストドクター招聘制度に円滑に応募できるようにする。また、大学や公的研究機関は、研究者の採用の際、外国人研究者が応募しやすい環境を整備する。
(達成状況)
1.外国人研究者の日本の研究社会における活躍の促進
- 外国から日本への受入れ研究者数を大学種類別に見ると、国立大学、私立大学で増加しているが、依然として全研究者における割合は少ない(平成20年度3.5%)。
- 研究開発独立行政法人における外国人研究者の在籍人数は増加傾向にあるが(平成16年744人→平成19年862人)、比率は減少している(平成16年7.6%→平成19年5.8%)。
2.優れた外国人研究者の招聘・登用の促進
- 国の施策として、「大学国際戦略本部強化事業」(平成17年度開始)により、国内の大学の研究環境の国際化を支援している。(独立行政法人日本学術振興会)
- 大学、研究開発法人等において、外国人研究者の活躍促進のための独自の取組が実施されている。
- 定点調査では、海外の優秀な研究者について、大学における獲得活動や公的研究機関における受入れ態勢の整備が進んできているとの認識が微増している。
3.外国人研究者の受入れ円滑化を図るための制度整備の推進
- 国の施策としては、研究者の在留期間を5年とする運用の確保、在留資格変更手続の簡素化、学位取得者の就職活動のための滞在期間の一層の延長、特定の研究機関等で研究等を行う外国人の永住許可要件の緩和(構造改革特別区域計画の認定による)等の制度整備を進めている。(法務省)
4.日本で博士号を取得した留学生によるポストドクター招聘制度への応募促進と研究者の採用における外国人研究者が応募しやすい環境の整備
- 日本の大学で博士課程を修了した留学生のうち、国内で就職したポストドクターは、数・割合ともに増加傾向にある(平成14年229人、10.4%→平成18年347人、12.9%)。
- 大学等の研究組織の長を対象としたアンケート(平成20年)によると、研究者の公募情報について、一部でもインターネットにより広く提供しているというところは多いが(大学等で88%、研究開発法人等で91%)、英語で提供しているという機関は少ない(大学等で26%、研究開発法人等で42%)。
(優れた高齢研究者の能力の活用)
(基本計画のポイント)
- 研究者が定年後も競争的資金や外部資金等の活用により何らかの形で研究を継続できるようにする。また、定年後の研究者がその能力や知見を十分活かす取組を促進する。
(達成状況)
- 複数の研究開発法人等において、高齢研究者がその経験と知識を活かして活躍できるような再雇用制度等を設置している。
(所見)
- 基本計画に従ったこれまでの取組により、博士課程修了者の量的拡大、任期制の導入等人財の流動性の向上、競争の促進が実現されてきたことは評価できる。一方で、テニュア・トラック制の導入や博士課程修了者のキャリアパス確立に向けての取組は遅れており、若手研究者が将来展望を描きにくくなり、人生を賭するに値する天職としての研究者という仕事の魅力を失わせるといった状況を招いている。若手研究者が不安を抱かないように、複数・多様なキャリアパスを明確に提示し、大学等はこれにしたがって若手の指導に当たることが重要である。その際に、人財の大学間での異動、大学と研究開発法人間での異動、アカデミアと民間での異動など「人財の還流」が、多様性とともに創造的な研究環境にも資することに留意が必要である。また、大学から民間への異動が少ない点は今後改善が必要である。これらへの対応のため、大学等において若手研究者のポストを拡充するとともに、日本全体で、優秀な人財確保のため、単に海外の制度を表面的に取り入れるのではなく、研究環境を活性化させつつ、日本の雇用環境に合わせて、日本としての工夫を加えた人事システムを構築することが望まれる。
- 研究者のモチベーションや情熱を引き出し、努力がキャリアパスにつながるような評価システムを構築することが重要である。そのためには、評価の質を高める必要があり、本来優秀な潜在能力を持っているはずの人物を一律・形式的に採点するのではなく、その優れた潜在能力と情熱・やる気を引き出せるような動機付けやアドバイスの機会として評価を活用することも重要な視点となる。他方で、外部評価の形式をとっていても、実際には、閉ざされた仲間内の評価になっていることもあり、利益相反の確認や実質的な評価体制の確保が必要である。また、基礎、応用など、それぞれの研究段階に応じて、様々な評価指標を工夫する必要があり、今後の取組に期待する。
- 評価や任期制が浸透しつつある反面、研究開発を支える若手研究者が、短期的成果にばかり目を向け、本質的で深い挑戦への意欲を失っているように見受けられることを懸念する。任期付きポストであっても、次のポストを見つけるまで延長可能とするような柔軟な運用も試みられるべきである。
- ポストドクター後のキャリアパスが不透明であるといういわゆるポスドク問題については、制度の問題か、運用上の問題かを見極めた上で、ポストドクターが社会の多様な場で活躍するための方策を講じることが必要である。
- 若手研究者の海外派遣者数が減少し、研究者が、海外の研究者をはじめ、異分野・他のセクターと協力し、融合領域で新たな気付き、発見を得る機会が減りつつあることが懸念される。世界は「人財の還流」を指向しており、若手研究者を中心に海外武者修行の機会を数多く提供するとともに、海外における挑戦が国内におけるキャリアパス形成につながるようにするなど、このような挑戦を後押しするような支援をしていくことが重要である。
- 第3期基本計画で初めて女性研究者採用の数値目標が設定されたことを受け、様々な女性研究者支援の取組が充実・強化され実効を挙げつつあることは高く評価される。一方で、日本の女性研究者の割合はまだ低く、これらの取組を粘り強く続けていくことが極めて重要である。
- 若手、女性、外国人の研究者のための施策は充実してきているが、なぜこれらの人財を活用しなければならないか、何が本当の隘路かなどについての認識が欠けており、短絡的な対処のための施策になっていることが懸念される。多様性がイノベーションを活性化する重要な要因であることを十分認識し、総合的かつ有機的な取組となるよう関係府省、関係機関が相互に努力すべきである。
- 外国人研究者の活躍促進については、定着もあわせて議論されることが望ましい。
- アカデミア人財と産業人財では、共通して必要とされる能力が多い一方で、組織の中で果たすべき役割など異なる部分もあるため、それぞれを目指す人財にとってふさわしい育成方策やキャリアパス構築の工夫が必要である。
(2)大学における人材育成機能の強化
(大学における人材育成)
(基本計画のポイント)
- 大学における人材育成機能の強化を推進する。このため、各大学においては以下が期待される。
□
学部段階における多様で質の高い教育の展開、確実な基礎の上に広い視野と柔軟な思考力を培う教育
□
教員の教育・研究指導能力の向上
□ 教育活動に関する評価の積極的導入
(達成状況)
- 多くの大学において、必修・選択の見直しや科目区分の見直しなどのカリキュラム改革を進めている。
- 国立大学において、教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組(ファカルティ・ディベロップメント)が進んでいる。公立大学、私立大学においても、取り組む割合が増大してきている。
- 大学における教員の個人評価(教育面)の実施率は増加傾向にある。特に国立大学において、導入率が高い。
(大学院教育の抜本的強化)
(基本計画のポイント)
- 各大学院において、学際的な分野への対応能力を含めた専門的知識を活用・応用する能力を培う教育が望まれる。また、各大学院において、体系的な教育プログラムを編成して学位授与へと導くプロセス管理を徹底していけるよう、教育の課程の組織的展開の強化に焦点を当てた改革を進める。国は、魅力ある大学院教育の組織的取組への競争的・重点的な支援制度を本格的に展開する。
(達成状況)
- 国の施策として、平成17年度から平成19年度まで、現代社会の新たなニーズに応えられる創造性豊かな若手研究者の養成機能の強化を図るため、大学院における意欲的かつ独創的な研究者養成に関する取組に対し重点的に支援する「魅力ある大学院教育」イニシアティブを実施した。
また、平成19年度からは、国際的水準のコースワーク(学修課題を複数の科目等を通じて体系的に履修すること)の充実など大学院教育の優れた組織的・体系的な取組を支援する「大学院教育改革支援プログラム」を実施している。(文部科学省)
(大学院教育の改革に係る取組計画の策定)
(基本計画のポイント)
- 大学院における5か年程度の体系的・集中的な大学院教育振興施策要綱を策定し、これに基づいた施策展開を図る。
(達成状況)
- 国は、大学院教育振興施策要綱(平成18年3月)を策定して、1.大学院教育の実質化(教育の課程の組織的展開の強化)、2.国際的な通用性、信頼性(大学院教育の質の確保)の向上、3.国際競争力のある卓越した教育研究拠点の形成の3つの方向性を示し、これに基づき施策展開を図っている。(文部科学省)
(博士課程在学者への経済的支援の拡充)
(基本計画のポイント)
- 博士課程(後期)進学に伴う経済的負担を過度に懸念することなく進学できるようにする。
(達成状況)
- 博士課程学生の経済的支援としては、独立行政法人日本学生支援機構における奨学金、各種競争的資金のほか、各大学が独自に設けている制度もある。
- 基盤的経費や「グローバルCOEプログラム」、「大学院教育改革支援プログラム」において、優秀な大学院学生をTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)として雇用すること等を通じて、大学院生に対する経済的支援を拡充している。
- 経済的支援を受ける博士課程学生の率は約50%で、上昇傾向にあるが、月額5万円未満の支援が過半数であり、生活費相当にはなっていない。
- 独立行政法人日本学生支援機構の奨学金における成績優秀を理由とした返還免除者数については、平成19年度実績において、法令で定められた上限である年度の貸与終了者数の30%に達している。
- 日本は、他国と比較して、高等教育における私費負担割合が高いにもかかわらず、支援を受けている学生が少ない。
(所見)
- 大学の機能として人財育成は重要だが、その評価が難しいのは事実である。博士等卒業生の質の確保を含め、人財育成の評価に関する蓄積を進めていくべきである。
- 大学は、社会のニーズ等を踏まえながら、どのような人財育成をするかという目標とプロセスを明確にする必要がある。
- 大学院における体系的な教育プログラムの編成については、学生や社会に見える形での取組が十分には進んでいない。今後、関係府省と各大学院は早急に対応策を講じるべきである。
- 学生にとって博士課程に進学する意義が見えにくく、博士課程進学への経済的な負担の重さなどから、優秀な学生から敬遠されつつあるのは、極めて憂慮される事態である。日本のイノベーション・システムの充実の観点からも、優秀な学生が博士課程を志望するよう、諸改革を早期に実行していくことが望まれる。
(3)社会のニーズに応える人材の育成
(産学が協働した人材育成)
(基本計画のポイント)
- 質の高い長期のインターンシップ体系の構築を支援し、普及を促進する。
- 産学協働による教育プログラムの開発・実施や産業界との共同研究等に、大学院生やポストドクターが指導教員の適切な指導・監督のもと、一定の責任を伴って参画する機会の拡充等を進める。
(達成状況)
1.質の高い長期のインターンシップ体系の構築支援及び普及促進
- 国の施策として、産学連携による質の高い長期インターンシッププログラムの開発等を目指す取組を支援している。(文部科学省)
- 大学におけるインターンシップの実施率は増大しており、平成19年度には約70%であった。高等専門学校における実施率は更に高く、同年度に100%を達成している。
2.産学協働による教育プログラムの開発・実施等
- 国の施策として、高等教育機関における高度専門職業人養成等の一層の強化を目的とし、国公私立の大学が行う産業界等との連携に基づいた教育方法等の充実に資する先導的な取組について支援する事業として「専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム」を実施している。(文部科学省)
- 学と産との対話を促し、両者間の認識等のミスマッチの解消や横断的・制度的課題、業種別課題の解決に取り組む「産学人材育成パートナーシップ」での検討結果を踏まえた産学連携による人財育成プログラムの開発とその実証等を行う「産学人材育成パートナーシップ事業」が推進されている。(平成20年度開始。経済産業省)
- 大学、研究開発法人等において、産学が協働した独自の人財育成の取組が進められている。
(博士号取得者の産業界等での活躍促進)
(基本計画のポイント)
- 社会の多様な場で活躍しうる博士号取得者の育成を強化する。
- 産業界においては、優れた博士号取得者に対し、弾力的で一律でない処遇を積極的に講じる。
- 各大学が博士課程修了者の進路等の情報を把握することが望まれる。
(達成状況)
1.社会の多様な場で活躍しうる博士号取得者の育成強化
- 国の施策として、科学技術振興調整費「イノベーション創出若手研究人材養成」(平成20年度開始)を始め、社会の多様な場で活躍しうる博士号取得者の育成のための各種の施策が実施されている。(文部科学省)
- 大学、研究開発法人等においてもキャリアパス多様化を始めとした独自の取組が進められている。
[3]1.(1)「(若手研究者の自立支援)」の項目参照)
2.産業界における優れた博士号取得者に対する処遇
- 若手研究者(博士課程修了者)の供給が増大する中で、民間企業における需要は少なく、平成19年から過去5年間ほとんどまたはまったく採用していない企業は、学士号取得者14%と比較し、博士課程修了者で60%に上る。
- 企業に対するアンケート(平成19年)によると、博士課程修了者の採用にあたって、給与・処遇面において同年齢の修士課程修了者等の技術系人財と比較して優遇しているかという問に対し、約7割が優遇していないと回答している。
3.大学における博士課程修了者の進路情報の把握
- 大学における修了者の進路の把握について、80%以上把握している大学は6割にすぎない。特に、規模が大きい大学において、80%以上把握しているところは54%である。
(知の活用や社会還元を担う多様な人材の養成)
(基本計画のポイント)
- 知的財産・技術経営等に係る人材の養成を促進する。
- 科学技術コミュニケーターの養成を促進する。
- 新たなニーズに対応した人材養成を促進する。
- 技術者の養成を促進する。
(達成状況)
1.知的財産・技術経営等に係る人材の養成
- 国の施策として、イノベーションを主導する技術経営人財を育成する教育プログラム等の開発・実証を行うとともに、技術経営の普及や定着、技術経営人財の育成を図るため、シンポジウム・プレスクール等の開催や教育プログラムの質の確保に向けた認定の検討を行う「技術経営人材育成プログラム導入促進事業」を実施した。(経済産業省)
- 知的財産に関する授業は大学全体の43%にあたる317大学において実施されている。
- 産学連携によるインターンシップの推進、大学等における知的財産講座の開設及び専門職大学院等の開設に対する支援等を通じ人材の育成・確保を図るほか、大学知的財産アドバイザー(平成20年度24大学・対平成14年約5倍)や、特許流通アドバイザー(平成21年3月106名)の派遣等により知的財産関連人材の補完を図ってきている。
2.科学技術コミュニケーターの養成
- コミュニケーター養成コースが多数開設されてきており、科学コミュニケーターとしての知識をもった多くの修了生が輩出されつつある。
- これらの研修修了者の就職先としては、 科学館、博物館だけでなく、研究機関の広報・普及担当や公務員、企業もあり、社会の多様な場で活躍しつつある。
3.新たなニーズに対応した人財養成
- 国の施策として、ソフトウェア・セキュリティ技術等の情報通信分野に関しては、「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」を実施している。(文部科学省)
4.技術者の養成
- 国の施策として、経済産業省において製造中核人材育成の取組を、文部科学省においてものづくり技術者育成、インターネットを用いた
e‐ラーニングによる技術者の継続的能力開発等の取組を支援している。
- 公共事業や製造現場などで活躍が見込まれる技術士の登録者数が着実に増加している。(平成14年度
49,625 人→平成19年度 61,794 人)
(所見)
- 世界が知識基盤社会(Science‐based Society)に進む中で、大学院修了者の活躍が、ますます期待されている。とりわけ、我が国においては社会のあらゆる分野で、博士号取得者の活躍が未だ不十分である。民間企業の採用意欲が必ずしも強くないのは、博士課程進学者の中で変化する企業ニーズに対応できる問題解決型の人財が育っていないためであることなどが指摘されており、産業人財として活躍できる高度人財育成への取組を早急に実施すべきである。
(4)次代の科学技術を担う人材の裾野の拡大
(知的好奇心に溢れた子どもの育成)
(基本計画のポイント)
- 初等中等教育段階から子どもが科学技術に親しみ、学ぶ環境を形成するため、
□
研究者の顔が子どもに見える機会を拡大する。
□ 学校等の実験器具等の設備の充実を図る。
□
子どもが分かりやすいデジタル教材・番組の開発・提供を進める。
- 分かりやすく魅力ある授業を行う教員の養成と資質向上を図る。
(達成状況)
1.子どもが科学技術に親しみ、学ぶ環境の形成
- 国の施策として、研究者・技術者・大学(院)等の有用な外部人財を理科支援員や特別講師として小学校(5、6学年)に配置する「理科支援員等配置事業」や、第一線の研究者・技術者を講師とする講座型学習活動や最先端の研究現場における合宿型活動等の取組を支援する「サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト」等を実施している。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 大学、研究開発法人等において、学生・一般向けの公開やセミナー、教育現場への講師派遣を始めとした独自の取組が進められている。
- 理科教育のための設備整備の予算額は微増傾向にあるが、1校あたり予算額は年間平均3万円程度で、必ずしも十分でない(平成20年現在)。中学校理科教員に対する実態調査(平成20年度)でも、理科の授業においては、準備等の時間不足に次いで、設備備品不足が障害となっているとされている。
- 国の施策として、教員や児童生徒が利用できる科学技術・理科学習用デジタル教材を開発し、インターネット等を通じて教育現場や一般家庭等へ提供する「理科教材開発・活用支援事業」を実施している。(独立行政法人科学技術振興機構)
2.教員の養成と資質向上
- 国の施策として、教員がその時々で求められる最新の知識技能を修得することを目的として、平成21年度から教員免許更新制を実施している。(文部科学省)
- 理数系教員の科学技術、理科・数学に関する観察・実験等の体験的・問題解決的な活動に係る実践的指導力の育成・向上を図るため、教育委員会と大学等が連携した教員研修を支援する「理数系教員指導力向上研修事業」を実施している。(独立行政法人科学技術振興機構)
(才能ある子どもの個性・能力の伸長)
(基本計画のポイント)
- 理科教育を重視する高等学校等に対する支援制度を拡充する。
- 国際科学技術コンテスト等への参加を促進する。
- 高大接続の改善を進める。
(達成状況)
1.理科教育を重視する高等学校等に対する支援拡充
- 国の施策として、先進的な理数教育等を行う高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として指定し、観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習や課題研究の推進、理数に重点を置いたカリキュラムの実施等を支援する取組を実施している。(文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構)
2.国際科学技術コンテスト等への参加促進
- 国の施策として、国内科学技術コンテストの参加者数を拡大するための取組や国際科学技術コンテストへの選手の出場等に対する支援を行う「国際科学技術コンテスト支援事業」を実施している。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 国際科学技術コンテストの国内大会の参加者数は増加している。国際科学オリンピック大会については、平成18年以降、物理や情報の分野にも日本から高校生を中心とした参加者があり、さらに数学及び情報の分野では金メダルを続けて獲得している。
3.高大接続の改善
- 国の施策として、「教育振興基本計画(平成20年7月1日閣議決定)」及び「学士課程教育の構築に向けて(平成20年12月中央教育審議会答申)」を踏まえ、高等学校と大学との接続の円滑化に関する取組を進めている。
(所見)
- 理科教育の充実のため、理科教材への支援など初等中等教育における環境整備が重要であり、これまでの取組は評価できる。
- 子どもの興味関心を高めるためには、とりわけ科学技術の面白さを教えることのできる教員の育成が重要である。
- 次代の科学技術を担う人材育成のため、才能ある子どもの能力を伸長させる取組を更に充実させるべきである。
2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出
(1)競争的環境の醸成
(競争的資金及び間接経費の拡充)
(基本計画のポイント)
- 競争的資金の拡充を目指す。
- 間接経費については、全ての制度において、30%の措置をできるだけ早期に実現する。
(達成状況)
1.競争的資金の拡充
- 競争的資金の総額は毎年1%程度の伸び率で増加しているが、第2期計画で掲げられた競争的資金の目標値(平成12年度約
3,000 億円を倍増し平成17年度に 6,000 億円)には達していない。
- 競争的資金制度の数で見ると、平成17年度に36制度であったものが、平成20年度には44制度に充実してきている。傾向としては、文部科学省において20億円未満の比較的小規模な制度が多くなったこと、全体的にイノベーション傾向の制度が増えたことなどが挙げられる。
2.間接経費30%の措置
- 競争的資金における間接経費率の平均は第3期基本計画中に急増しており、競争的資金制度44制度中40制度で間接経費の原則30%が達成されている(平成20年7月現在)。
(組織における競争的環境の醸成)
(基本計画のポイント)
- 大学等は、魅力的な研究環境の構築や研究者の処遇に努めることにより、優秀な研究者を確保しつつ、これら優秀な研究者が獲得する競争的資金の間接経費等を研究環境の改善等に充当し、優秀な研究者を惹きつけるという好循環が形成されることが望まれる。
- 政府研究開発投資全体の拡充を図る中で、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せを検討する。
(達成状況)
1.大学等による魅力的な研究環境の構築等による優秀な研究者と研究費獲得の好循環の形成
2.基盤的資金と競争的資金の有効な組合せの検討
- 文部科学省において、国立大学法人運営費交付金や私学助成等の基盤的経費の確保に努めつつ、競争的資金の拡充を目指すなど、政府研究開発投資全体の拡充を図る中で、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せを検討している。
(競争的資金に係る制度改革の推進)
(基本計画のポイント)
- 審査業務の合理化を図りつつ、審査員の増員、研究計画書の充実、審査基準の見直し等の改革を進めるなど、公正で透明性の高い審査体制を確立する。
- 競争的資金に係る各制度において、審査結果が適切にフィードバックされるよう、その詳細な開示を推進する。
- 競争的資金の配分機能を独立した配分機関に移行させることを基本とし、方針が定まっている制度は着実な移行を進めるとともに、方針が定まっていない制度は実態を勘案しつつ早期に結論を得て適切に対応する。
- プログラムオフィサー(PO)、プログラムディレクター(PD)について、制度の規模に見合う人数で適切な資質を備えた者を確保できるよう処遇に配慮するとともに、大型の制度を中心として、できるだけ早期にPO・PDを専任へ転換していく。
- 年度間繰越や年複数回申請など競争的資金の効率的・弾力的運用を可能とするため、適切に予算措置を講じる。
(達成状況)
1.公正で透明性の高い審査体制の確立
- 研究開発管理に係る応募、審査、採択、成果報告を始めとするプロセスの電子化や、研究費の不合理な重複配分の排除支援等、審査業務合理化に資する、府省共通研究開発管理システム(e‐Rad)が、平成20年1月より運用を開始している。
- 多くの競争的資金制度において、審査員の多様性確保や不採択理由の研究者への開示などの公正で透明性の高い審査体制の確立が進んでいる。
- 若手研究者や外国人研究者等の審査員への登用について、平成17~19年度の全制度合計での登用状況をみると、外国人研究者は微増したが、若手研究者は減少している。
2.審査結果のフィードバック
- ほとんどの制度で評価結果の開示が行われているが、44制度中10制度では求めに応じて不採択理由等を開示するといった消極的な開示方法がとられている。(平成20年度現在)
3.競争的資金の配分機能の独立した配分機関への移行
- 競争的資金制度全部を本省直轄で行っているものは、平成20年度現在44制度中、移行を検討中のものも含め16制度であり、独立行政法人において配分しているものは18制度である。その他の制度は本省所管で独立行政法人に委託しているもの、本省と独立行政法人双方により配分しているものが混在している。厚生労働省において、厚生労働科学研究費補助金の一部の研究事業についての配分機能を平成18年度から国立の研究機関に移管するなど、配分機能の配分機関への移管は徐々に進んでいる。
4.PO、PDの確保
- PO・PDについては、各制度において配置が進んでいるものの、その役割は制度により異なっている。
- PO・PDを経験した者の処遇について、配慮している大学もある。
- 専任のPO・PDの配置については、予算額100億円以上の競争的資金制度においてもほとんど達成されていない。
- 定点調査では、PO・PD制度があまり機能していないとされており、特に公的研究機関及び民間企業の研究者の充足度は低下している。PO・PDの人財確保が困難、資質を高める必要があるなどの問題意識が指摘されている。
5.競争的資金の効率的・弾力的運用
- 複数年度契約、年度間繰越を導入する制度は増えている。また、科学研究費補助金において年度繰越の実績が大幅に増加している。
- 科学技術振興調整費において、平成21年度より、受入れ機関がシステム改革に主体的に取り組み、システムや予算を弾力的に運用できるようにして、システム改革の継続性と予算の効率的活用を確保するため、従来の委託費から補助金へと運用を改善した。
- 定点調査では、競争的資金の使いやすさについて、研究開始時期、人件費への支出、年度間繰越においてよい方向に変化しているとの意見が多い。
- 平成20年3月より、関係府省、研究資金配分法人、受入れ機関である大学が横断的に集まる「研究資金の効果的活用に向けた勉強会(日本版FDP※)」を開催し、そこで研究資金の課題を抽出し、研究資金に関する制度や運用の改善に取り組んでいる。
- 研究本務者一人当たりの支援者数を見ると、大学では研究本務者の規模に比べて支援人材が非常に少なく、研究者5人に1人程度である。
- 公的研究機関等においては、支援者数は横ばいだが、本務者数が減少傾向にあり、結果として研究者1人に対して1.1人程度を実現している。
- 大学の研究者が研究に関する活動に従事する時間は、各分野とも減少傾向にあるとの調査結果がある(平成19年現在)。
- 定点調査では、大学における基礎研究を行う研究環境に関して、研究支援者が著しく不充分との評価がされている。
※
日本版FDP:米国の Federal Demonstration Partnership に倣い、研究資金の効果的活用及び不正使用防止の観点から、研究費配分機関と研究費受入機関の関係者(19団体)が参集し、研究資金ルールの簡素化・標準化、弾力的運用及び研究費受入れ機関における管理運用の改善等を進めるための勉強会
(所見)
- 研究分野においても人財においても多様性が重要であり、選択と集中が行き過ぎる場合には、多様性が失われるおそれがあることには留意が必要である。
- 競争的資金が増加されるなど競争的環境は整いつつあるが、先端的研究ばかりが重視される傾向がある、短期間の評価のため、長期的な研究を実施しにくいといった課題もある。基礎、応用など、研究段階に応じて、適切な評価手法を蓄積し、実践していくべきである。
- 競争的環境の醸成によって、資金獲得のための書類の増大による本来の研究時間の減少や、一部の研究者への資金の集中、大学等研究機関間の格差等の影響も出てきているとの指摘がある。この点に関しては、府省共通研究開発管理システム(e‐Rad)の運用が開始され、高く評価できるが、これが効果的に運用されていくよう、今後、適切に評価、改善を実施していくことが重要である。さらに、研究者が本来の研究に集中できるよう、研究費の申請における要求資料の簡素化、実質的選抜といった工夫も進めるべきである。
- 第3期基本計画で指摘された研究費の使いやすさを向上させる取組については、例えば、科学研究費補助金で繰越明許制度の利用件数が大幅に増加しているほか、戦略的創造研究推進事業で新たに配分機関に返金せずに年度をまたがった予算繰越を可能とするなど、着実に進められており、高く評価できる。一方で、未だ取組が十分でない組織、制度も見受けられることから、日本版FDPなどの場を活用し、一層の徹底が必要である。
- 外部資金の飛躍的増加により研究者の研究以外の業務が増大しているが、大学の支援体制が脆弱なため、研究者の負担が増加し、研究時間が割かれている実態があり、研究支援体制の充実が望まれる。
- 研究資材の準備や機器の維持管理を主として担う技術的な研究支援者が不足しているとの指摘があり、これらの支援者を育成し、充実・強化していくことが必要である。
(2)大学の競争力の強化
(基本計画のポイント)
- 世界に伍し、さらには世界の科学技術をリードする大学作りを積極的に展開するため、世界トップクラスの研究教育拠点を目指す組織に対して、競争原理の下での重点投資を一層強力に推進する。
- イノベーション創出に向けては、世界を先導しうる研究領域を生み出すとの視点から、産業界の協力も得ながら、特定の先端的な研究領域に着目して研究教育拠点形成の重点投資の具体化を図る。
- 我が国の大学において、研究活動に関する各種評価指標により、世界トップクラスとして位置づけられる研究拠点、例えば、分野別の論文被引用数20位以内の拠点が、結果として30拠点程度形成されることを目指す。
- 地域における大学は国公私立を問わず地域にとって重要な知的・人的資源であり、地域に開かれた存在として地域全体の発展に一層寄与すべきである。
- 私立大学の人材育成機能、研究機能を一層活かしていくため、重点的に助成の充実を図る。
(達成状況)
1.世界トップクラスの研究教育拠点の育成
- 総合科学技術会議は、高水準の研究成果が生まれ、国際的研究コミュニティでの存在感のある大学・大学院の実現に向けた方策について検討し、平成19年11月に「大学・大学院の研究システム改革~研究に関する国際競争力を高めるために~」をとりまとめた。
- 平成14年度からの21世紀COEプログラムの成果を踏まえつつ、平成19年度より国際的に卓越した教育研究拠点の形成を支援するグローバルCOEプログラムを開始している。40大学131拠点を採択し、平成19、20年度で総額507億円が交付されている。(文部科学省)
- 日英トップグループの大学で総事業費あたりの論文生産性を比較した場合、日本は平成8年以降、20件/10億円を上回る一方、英国では平成14年以降20件/10億円を下回っており、日本のトップ大学の方が生産性が高い。
2.先端的研究領域の研究教育拠点の形成の取組
- 平成18年度より科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムが実施されている。10~15年後に新たな産業の芽となる先端技術を確立するため、実用化を見据えた基礎的段階から、産学が共同して先端融合領域における研究開発が推進されている。(文部科学省)
3.世界トップクラスと位置付けられる研究拠点の形成の取組
- 平成19年度より「世界トップレベル研究拠点形プログラム」を開始し、高いレベルの研究者を中核とした世界トップレベルの研究拠点形成を目指す構想に対して集中的な支援を行っている。10~15年の実施期間(5年ごとに評価を実施)で、5拠点を採択し、1拠点あたり平均14億円/年を支援している。また、平成20年度には、1拠点あたりの外国人研究者の割合が平均36%を占め、グローバルな研究環境を実現しつつある。(文部科学省)
- 分野別の論文被引用数20位以内の大学拠点数は、平成11年度までは20拠点に満たなかったが、平成12~15年で27拠点、平成16~19年では25拠点と、目標の30拠点に近付いている。
4.大学の地域全体の発展に対する寄与
- 平成19年2月に地域再生本部が決定した「地域の知の拠点再生プログラム」では、地域再生計画と連携した施策、地域と大学等の連携による地域再生の取組の支援に資する施策が推進されている。
- 平成18年度より、科学技術振興調整費「地域再生人材創出拠点の形成」プログラムにおいて、地域の大学等が地元の自治体との連携により、科学技術を活用して地域に貢献する優秀な人材を輩出する「地域の知の拠点」を形成し、地方分散型の多様な人材を創出するシステムの構築を図っている。(文部科学省)
5. 私立大学への助成の充実
- 私立大学等経常費補助金については、平成19年度に特別補助をメニュー化し、各大学等の特色を活かせるきめ細かな支援を行っており、平成20年度、21年度においても、補助項目を見直すなど、更なる支援の充実を図っている。(文部科学省)
- 「私立大学等に対する教育研究装置・施設の整備費に対する補助」事業等として、平成18年度
約179億円、平成19年度 約169億円、平成20年度 約158億円、平成21年度
約145億円が充てられている。(文部科学省)
(所見)
- 国際競争が激化する中、日本も国際競争力のある教育研究が実施できるような大学改革の取組を一層推進する必要がある。真に国際競争力のある大学の構築を目指すには、学長、学部長等の権限を明確化しつつ、そのチェック体制も整備し、しっかりとした研究マネジメントが行われるようにすべきである。その際には、総合的な大学ランキングのみを指標とするのではなく、分野別ランキングなども活用し、中堅大学・単科大学を含めて層としての厚みを形成しつつ、個々の大学がそれぞれの強みを活かして活躍できるようにすべきである。一定数の研究大学を育成し、層の厚みを確保することが、我が国の大学全体の国際競争力に資することについて、留意が必要である。
- 運営費交付金の減少、教員の研究時間の減少などにより大学が疲弊し、教育研究機能が低下しているとの指摘がある。基盤的経費の確保、研究環境の改善に関する取組の充実が必要である。
- 大規模大学へ資源が集中する傾向にあるが、資源が集中した大学では資金を管理する事務が追いついていないとの指摘があり、事務の効率化・簡素化、アウトソーシングなどの工夫を進めるべきである。
- 国境を越えたオープンイノベーションが活発化する中で、我が国が国際競争で優位になるには、世界から第一線の研究者が集まるグローバルな研究環境を整備した拠点を形成する必要がある。グローバル化の流れに乗り遅れないような国際戦略の一環として、優れた頭脳を引き付ける場としての世界トップレベル研究拠点の強化及び拡充を進めていくべきである。
- 研究費の減少や業務量の増大といった要因により、地域の中規模以下の大学において研究者が研究意欲を失う状況にあるとの指摘を踏まえ、これらの大学のあり方を再検討すべきである。
(3)イノベーションを生み出すシステムの強化
(研究開発の発展段階に応じた多様な研究費制度の整備)
(基本計画のポイント)
- 基礎研究を支える競争的資金制度においては、いわゆるピアレビューが基本であり、その改善を徹底する。
- 基礎研究を支える制度の一部において、研究者個人のアイディアの独創性や可能性を見極めて柔軟に課題選定を行う仕組みを設けること等により、ハイリスク研究に配慮する。
- 新たな価値創造に結びつく革新的技術を狙って目的基礎研究や応用研究を推進する競争的資金については、例えば、イノベーション志向の目標設定や研究進捗管理等を行う責任と裁量あるプログラムオフィサー(プログラムマネージャー)を置くなどにより、マネジメント体制を強化する。
- 国は、産業界の積極的な参画を得て、我が国が世界を先導しうる先端的な融合研究領域に着目した研究教育拠点を大学等において重点的に形成する。
- 優れた成果を出しつつあり、かつ、イノベーションの創出へ発展する可能性がある研究について、制度や機関を超えて切れ間なく研究開発を発展させ、実用化につないでいく仕組みの構築に努める。
(達成状況)
1.競争的資金制度におけるピアレビューの改善
- 競争的資金制度の一つである科学研究費補助金においては、ピアレビュー審査の改善として、審査委員候補者データベースの拡充、一部種目におけるマスキング審査の導入が進められている。
2.基礎研究におけるハイリスク研究への配慮
- 革新的技術のシーズを生み育てる研究資金として、平成21年度は科学研究費補助金のうち160億円、戦略的創造研究推進事業のうち1億円を大挑戦研究型とした。
- ハイリスク研究については、大半の制度で、評価項目に「独創性」といった評価項目を設置することで対応がなされている。
3.マネジメント体制の強化
- 総合科学技術会議においては、平成19年6月「競争的資金の拡充と制度改革の推進について」報告において、競争的資金の現状と課題を分析し、若手研究者向け競争的資金の充実・強化、競争的資金の効率的な運用等の方策を示した。
4.先端的な融合領域研究拠点の形成
- 平成18年度より、科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムにおいて、長期的な観点からイノベーションの創出のために特に重要と考えられる先端的な融合領域において、産学官の協働により、次世代を担う研究者・技術者の育成を図りつつ、将来的な実用化を見据えた基礎的段階からの研究開発を行う拠点の形成を行っている。(文部科学省)
5.制度や機関を超えた切れ目ない研究開発制度への取組
- 文部科学省「元素戦略プロジェクト」と経済産業省「希少金属代替材料開発プロジェクト」の連携や、文部科学省「知的クラスター創成事業」と経済産業省「地域新生コンソーシアム研究開発事業」、「地域イノベーション創出研究開発事業」との連携等が行われている。
- 戦略的創造研究推進事業等の成果から、産業創出の礎となりうる技術を研究開発テーマとして設定の上、産学連携による複数研究開発チームの下で、長期一貫した研究開発を推進し、イノベーションの創出を図る仕組みとして、「戦略的イノベーション創出推進事業」を平成21年度から開始する。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 独立行政法人科学技術振興機構の実施する企業化開発関連事業の再編を行い、大学等と企業のマッチングの段階から、企業との共同研究開発、大学発ベンチャー創出に至るまで、研究開発課題の特性に応じた最適なファンディング計画を設定し、効果的・効率的に研究開発を推進する「研究成果最適展開支援事業(A‐STEP)」を平成21年度に開始する。
- 定点調査では、基礎研究から実用化研究まで個々の制度や機関を超えて切れ目なくつなぐ研究費制度が整備されているとの認識が増加している。
(産学官の持続的・発展的な連携システムの構築)
(基本計画のポイント)
- 大学等の優れたシーズを活かした従来型の共同研究や技術移転に加え、産学官が研究課題の設定段階から対話を行い、長期的な視点に立って基礎から応用までを見通した共同研究等に取り組むことで連携の効果を高めていくような戦略的・組織的な連携を促進する。
- 中小企業を含めた地域産業の技術課題や新技術創出に大学等が取り組む地域貢献型の共同研究を促進する。
- 大学等における民間企業からの研究費受入額の大幅な増加を目指す。
(達成状況)
1.産学官の戦略的・組織的な連携の促進
- 大学等における知的財産体制等の整備は、平成15年度からの「大学知的財産本部整備事業」(実施機関43件)による、副学長等をトップに据えた全学的な体制の構築、知的財産ポリシー等の基本的なルールの整備等を中心に進められてきており、平成20年度からは「産学官連携戦略展開事業」による主体的かつ多様な知的財産活動の取組も始まっている。(文部科学省)
- 国公私立大学等における民間企業との共同研究は、件数、受入額ともに年々増加している。平成15年度の
7,248 件、152億円から平成19年度には 13,790 件、311億円と4年間で件数では90%、金額では100%増加した。
- 定点調査では、大学や公的研究機関が民間企業の抱えている技術的課題に関心を持つようになっているとの意見が多くなっている。
2.地域貢献型の共同研究等の取組を促進
- 平成19年2月に地域再生本部が決定した「地域の知の拠点再生プログラム」では、地域再生計画と連携した施策、地域と大学等の連携による地域再生の取組の支援に資する施策が推進されている。<再掲>
3.大学等における民間企業等からの研究費受入額の大幅な増加
- 国公私立大学等における民間企業等からの研究費受入額は、平成15年度の約
1,075 億円から平成19年度には約 2,008 億円となり、約90%増加した。
(公的部門における新技術の活用促進)
(基本計画のポイント)
- 安全に資する科学技術分野や先端的機器開発等の研究開発において、公的部門側のニーズと研究開発側のシーズのマッチングや連携を促進する。また、安全に資する科学技術については、研究情報等のネットワーク構築に努める。
- 公的部門の新技術導入においては研究開発型ベンチャーからの調達に配慮する。
(達成状況)
1.安全に資する科学技術等における取組
- 安全に資する分野については、平成19年度から「安全・安心科学技術プロジェクト」において、安全安心な社会の構築に資する研究開発を促進するため、大学・研究機関等が有する技術シーズと公的機関・事業者の安全安心にかかわる現場ニーズとのマッチングを促進するための取組を推進している。(文部科学省)
- 当該プロジェクトにおいては、また、知・技術の共有化として、関係者の交流や情報が制限されやすいテロ対策について、テロ関連の対応機関と科学技術シーズを有する関連研究者等との情報及び人のネットワークの構築への取組が行われている。
- 「先端計測分析技術・機器開発事業」において、産と学・官の密接な連携により、将来の研究開発に資する先端計測分析技術・機器及びその周辺システムの開発が推進されている。(独立行政法人科学技術振興機構)
3. 公的部門の新技術導入
- 公的部門の新技術導入については、平成18年10月現在、34都道府県と1政令指定都市において地域内のベンチャー企業からの公的調達促進策が実施されている。独立行政法人における調達先企業では、1,600
万円以下の調達案件について、設立年数が10年以下かつ資本金比率50%以上の親会社がない調達先の割合は2.5%である。
(研究開発型ベンチャー等の起業活動の振興)
(基本計画のポイント)
- 大学発ベンチャーについては、その創出支援を引き続き行うとともに、創出されたベンチャーが成長・発展するよう競争的に支援する。
- イノベーション創出を狙う競争的資金により行う研究開発や、国や公的研究機関が委託等により行う研究開発においては、能力ある研究開発型ベンチャーの活用を積極的に検討する。
- ベンチャーへのリスクマネー供給の円滑化に努める。
- 大学において、学生等の起業活動の支援、人的交流による起業機会の創出、起業関連科目等の質の向上といった起業活動振興の取組を促進する。
(達成状況)
1.大学発ベンチャーの創出支援
- 「独創的シーズ展開事業(大学発ベンチャー創出推進)」において、大学等の研究成果を基に、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学等発ベンチャーの創出を目指した研究開発を実施しており、第3期基本計画期間中に42社起業している。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 平成20年度開始の「産学官連携戦略展開事業」において、大学発ベンチャー創出に当たり必要となる、専門人材の配置や事業化の可能性の大きい研究成果の特許等の取得の促進等に取り組む大学に対する支援を実施している。(文部科学省)
- 大学発ベンチャーは、平成16年を設立数のピーク(245社)とし、現在約 1,800
社である。
- 大学等発ベンチャー企業数を分野別に見ると、ライフサイエンスが27.6%、情報通信が26.1%となり、2分野で半数を超えている。
- 大学等発ベンチャー企業に関する調査(平成19年度)では、経済波及効果は約
5,100 億円で、36,000 人の雇用を産み出していると報告している。また、同調査では、ベンチャー設立数を大学別に見ると、8社の岡山大学が1位になり、中堅大学の健闘も示されている。
2.国や公的研究機関の委託による研究開発における研究開発型ベンチャーの活用
- 「独創的シーズ展開事業(革新的ベンチャー活用開発)」において、大学等の研究成果のうち、研究開発型ベンチャー企業を活用することによりイノベーションの創出が期待されるものについて開発を推進し、実用化の推進を支援している。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 平成21年度から開始する「研究成果最適展開支援事業(A‐STEP)」においては、フィージビリティスタディ(研究開発による実用化可能性の事前検証)の導入や、研究開発の進捗状況に応じた柔軟な支援形態の変更などにより、研究開発型ベンチャー企業を活用した研究開発の推進をより効果的・効率的に支援する。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 独立行政法人産業技術総合研究所の技術をもとに創出した「産総研技術移転ベンチャー」の累計数は、平成19年92社、平成20年98社となり、平成19年度売上総額は37.5億円、従業員数は728人にのぼっている。
- 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構では、平成19年度から「新エネルギーベンチャー技術革新事業」、平成20年度から「SBIR技術革新事業」に取り組んでいる。前者では、再生可能エネルギー及びその関連技術に関する技術課題を提示し、それらの解決策となる技術について、多段階選抜方式による開発テーマの支援を行っている。また、後者においても、国等が技術課題を提示し、その技術課題について多段階選抜方式による研究開発支援を行っている。
3.ベンチャーへのリスクマネーの供給の円滑化
- 平成9年度に創設されたエンジェル税制は、これまで累次に渡り拡充されてきているが、平成20年度税制改正では、ベンチャー企業への投資額をその年の総所得金額等から控除できる所得控除制度を導入した。
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構のベンチャーファンド(平成11年創設)は、平成21年3月までに
2,035 社に投資し、92社の株式公開を支援している。
- 産業活力再生特別措置法を改正し、オープンイノベーションにより新たな付加価値を創出する事業活動に対して、株式会社産業革新機構を通じて資金供給を行う体制を整備することとした。(後掲)
4.大学における起業活動振興の取組
- 大学等が有する起業支援組織(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー等)と連携を図りつつ、ベンチャー企業の創出や事業展開に必要な研究開発を推進することにより、起業意欲のある若手研究者によるベンチャー企業の創出に資する研究開発成果を得るとともに、若手研究者の起業家へのキャリアパス形成の促進を支援する「若手研究者ベンチャー創出推進事業」を平成21年度から開始する。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 大学に対するアンケート(平成19年)では、大学等発ベンチャー輩出実績のある186校のうち、68機関(36.6%)が起業関連科目を開設している。
(民間企業による研究開発の促進)
(基本計画のポイント)
- 民間企業における研究開発活動促進に資する税制措置の活用や、事業化に至るまでの研究開発のリスクを軽減する技術開発制度の充実を図る。
- 中小企業については、財政基盤・経営資源の脆弱性も勘案した上で、ものづくり技術の強化や高度化に向けた取組を支援する。
- 民間企業には、長期視点から大学や公的研究機関をイノベーションのパートナーと位置付け、相互に持続的に発展していく協働関係を構築する。
(達成状況)
1.民間企業における研究開発活動促進
- 実用化に近い研究開発制度として、経済産業省による「地域新規産業創造技術開発費補助事業」が展開されている。
- 試験研究費の一部を法人税額から控除する「研究開発促進税制」については、イノベーションの加速による成長力・競争力の強化を促進すべく、平成20年度に、試験研究費の総額に対する控除に加え高水準な試験研究費や増加分に対しても控除が可能となり、法人税額の最大30%が控除されるような拡充が行われた。
- オープンイノベーションに対応するため、鉱工業技術研究組合法が改正され、共同研究の迅速な実用化のため、企業同士の研究組合を株式会社に転換することを可能とするとともに、独立行政法人にも組合員への資格を付与できることとされた。
- 産業活力再生特別措置法を改正し、オープンイノベーションにより新たな付加価値を創出する事業活動に対して、株式会社産業革新機構を通じて資金供給を行う体制を整備することとした。
2.中小企業のものづくり技術の強化や高度化に向けた取組
- 中小企業庁では、中小企業支援施策として「中小企業もの作り支援」、「技術革新・IT化支援」といった取組が行われている。
3.民間企業と大学や公的研究機関の持続的な協働関係の構築
- 産学官連携による実用化に近い研究開発制度として、文部科学省及び独立行政法人科学技術振興機構による「産学共同シーズイノベーション化事業」「独創的シーズ展開事業」や経済産業省による「地域新生コンソーシアム研究開発事業」、「地域イノベーション創出研究開発事業」が展開されている。
- 独立行政法人科学技術振興機構の実施する企業化開発関連事業の再編を行い、大学等と企業のマッチングの段階から、企業との共同研究開発、大学発ベンチャー創出に至るまで、研究開発課題の特性に応じた最適なファンディング計画を設定し、効果的・効率的に研究開発を推進する「研究成果最適展開支援事業(A‐STEP)」を平成21年度に開始する。<再掲>
(所見)
- 世界は、従来型の閉鎖的な研究開発システムから、リスクマネーを供給するエクイティ・ファイナンスとともにベンチャーなど機動的・創造的な研究主体を活用した「オープンイノベーション」に大きくシフトしつつあり、こうした動きに適切に対応することが必要である。そうした観点からは、産業革新機構の創設や鉱工業技術研究組合制度の抜本的改革といった新たな取組は高く評価できるが、実効の挙がるような体制整備と運用が望まれる。また、アメリカを始めとして諸外国がエクイティ・ファイナンスや政府保証を活用して「クリーンテック」でのイノベーションを強力に推進しており、日本としても早急な対応が望まれる。
- 先端的な融合領域における基礎から実用化までを見据えた産学官が連携した研究拠点の形成は、我が国のイノベーションを生み出すシステムの強化に重要であり、今後とも、拠点の組織設計、チームの形成・運用など、参加主体が情報を持ち寄り、情熱をかけてイノベーションに協働して取り組める工夫を凝らしつつ、拠点形成を進めていくことが望まれる。
- 超LSI研究組合や欧州のIMECといった産学官連携の成功事例を十分に吟味し、我が国の国際競争力の再強化に資する先端的な研究開発に向けた産学官のプラットフォームを適切に構築し、民間投資と政府投資が有効に連動する仕組みを構築していく必要がある。
- 産学連携、技術移転等の実績は増えてきており、研究成果が実際に事業化に結び付いた例を示し、今後の展開に活かしていくことが重要である。
- 産学連携が十分に機能しない阻害要因として、「企業が大学に求めることについて明確にしきれていない」、「大学が企業のニーズを捉えた研究提案を十分できていない」「事務体制が未整備な大学がある」といった指摘があるが、企業と大学のマッチング、コーディネート活動について、経験の蓄積を重ねつつ、制度面での改善にも取り組む必要がある。
- 外部資金の飛躍的増加や産学官連携の進展で、研究者の研究以外の業務が増大し研究者の負担が増加しているとの指摘もあり、研究者が研究に専念できるような支援体制の構築が望まれる。
- 今後、イノベーションを生み出し、その成果を社会へ還元させるためには、規制、政府調達等の制度・運用上の隘路の解消と、それに対する官の役割、特に研究開発を担当する部局と規制・制度を担当する部局との連携・調整が重要であり、そのための所要の対策を一体的に講じるべきである。
- 大学等発ベンチャーの新規設立数が近年頭打ちになる中で、岡山大学や産業技術総合研究所での健闘も目立っており、大学や研究開発法人の研究開発からのイノベーション実現の重要な道筋として、引き続き支援を継続すべきである。その際には、従来のように数合わせではなく、質の高いシーズの選定と海外を含むベンチャーキャピタルや知財戦略等に関する外部の専門家との提携、グローバル市場への展開等を目指す「志の高い本格ベンチャー」を強力に支援すべきである。
(4)地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり
(基本計画のポイント)
- 地域の戦略的なイニシアティブや関係機関の連携の下で、地域クラスター形成のための長期的な取組を進める。
- 地域科学技術施策の推進にあたっては、府省連携を強化し、コーディネーターの支援等を行う。また、国の公的研究機関や自治体公設試験研究機関は地域の産学官連携に効果的な役割を果たすことが期待される。
(達成状況)
1.地域クラスターの形成
- 文部科学省の知的クラスター創成事業、経済産業省の産業クラスター計画などの事業が行われている。知的クラスター事業では、平成14~19年度において、特許の国内申請が
2,543 件、海外申請が429件となっている。また、産業クラスター事業では、全国18プロジェクトを展開し、約
11,000 社の中堅・中小企業が約290の大学・高等専門学校等と広域的な人的ネットワークを形成している。
- 定点調査では、国または地方自治体による、地域の知の拠点としての大学の支援について、評価が向上している。
2.地域科学技術施策の推進
- 総合科学技術会議は、地域科学技術施策ワーキンググループを設置し、平成20年5月にはその報告書として「科学技術による地域活性化戦略」を取りまとめた。
- 地域科学技術に係る関係府省連絡会、地域科学技術に係る地域ブロック協議会議等を通じて、府省が連携しつつ、地域科学技術の振興が進められている。また、文部科学省や経済産業省において、コーディネーター支援やネットワーク形成支援の施策が実施されている。
- 独立行政法人科学技術振興機構において、JSTイノベーションプラザ・サテライトを拠点として、地域に密着したコーディネート活動のもと、シーズの発掘から実用化に向けた研究開発支援を実施している。
- 独立行政法人産業技術総合研究所地域センター、自治体公設試験研究機関、大学、産業支援機関等の参加により地域イノベーション創出共同体を設立し、地域の中堅・中小企業の技術課題解決を支援している。(経済産業省)
- 各研究開発法人において、地域との連携を促進するための各種の取組を実施している。
(所見)
- 地域イノベーション・システムは、地域の特色を十分に活かした展開ができなければうまく機能しないものであることから、国と地域が連携し、地方独自のメリットを最大限活かせるような多様性のある活動の継続が望まれる。
- 地域クラスターの形成は重要であるが、地域内に閉じたままでは活動に限界があるため、多様なクラスター間の連携を進めるとともに、そのような中からグローバルに開かれた国際競争力のある強いクラスターが形成され発展するよう努力することが重要である。その際に、ドイツの「ソーラー・バレー」形成など世界の成功例に謙虚に学ぶとともに、ヒトこそが地域クラスターの成否を分ける鍵であることを再認識し、地域クラスターに情熱を持つ中核的な人財を配置し、あるいは育成することが望まれる。
(5)研究開発の効果的・効率的推進
(研究費の有効活用)
(基本計画のポイント)
- 府省共通の研究開発管理システムと政府研究開発データベースを構築し、これらの調整、活用により重複等をチェックし、配分決定に係る説明責任を果たす。
- 大学や公的研究機関は研究者のエフォートを管理する。
(達成状況)
6.府省共通研究開発管理システム及び政府研究開発データベースの構築
- 平成20年1月より府省共通研究開発管理システム(e‐Rad)の運用を開始した。府省横断的に競争的資金制度を中心として、研究開発に係る書類のオンライン化、応募・受付・審査・採択・採択課題管理・成果報告等の各府省や配分機関、研究機関、研究者における一連の研究開発管理業務を総合的に支援している。
- 総合科学技術会議は、府省共通研究開発管理システムと連携したかたちで競争的資金及びプロジェクト研究資金による研究開発に関する諸情報を網羅的・一元的に管理した政府研究開発データベースを構築し、データ整備を進めてきている。
2.研究者のエフォート管理
- 研究費の申請における研究者のエフォート記載率は、着実に100%に近づいてきている。
- 研究者一人あたりのエフォート合計分布では100を超える研究者が減少している。また、研究機関セクター別の研究者一人あたりのエフォート合計平均でも、各セクターとも概ね平均値の減少がみられるなど、管理意識が高まっていることが伺える。
- 定点調査では、大学を始めとする研究機関における、経費の管理・監査体制や、公正で透明な資金管理体制について、評価が向上している。
(研究費における人材の育成・活用の重視)
(基本計画のポイント)
7.各研究費制度において、研究費が人材の育成・活用に充てられるよう努めることとし、必要な制度改善を行う。
(達成状況)
1.各研究費制度における人材の育成・活用
- 競争的資金等の外部資金による経済的支援を受ける博士課程在籍者及び外部資金により雇用されるポストドクター等の数は、平成16年度から平成18年度でそれぞれ約2割増加している。(博士課程在籍者
8,429 人→10,012 人、ポストドクター等 6,407 人→7,543 人)
(評価システムの改革)
(基本計画のポイント)
- 研究開発評価は、大綱的指針及び大綱的指針に沿って各府省等が評価方法等を定めた具体的な指針等に則って実施する。さらに我が国の評価システムの一層の発展を図る観点から、研究開発評価の実施状況等を踏まえ、必要に応じ大綱的指針の見直しを行う。
- 独創的で優れた研究者・研究開発を見出し育てることのできる資質を持つ評価人材の養成・確保等に努める。
- 評価システムの運営に関する責任者を定め、評価の相互連携・活用や評価のための体制・基盤の整備等を行うことにより、評価システムの改善を図る。評価のための予算の確保、評価人材の養成・確保、データベースの構築・管理等を進める。
- 研究開発に係る政策目標を踏まえた評価項目・評価基準の設定に努める。
(達成状況)
1.研究開発評価の実施及び政府による大綱的指針の見直し
- 総合科学技術会議は、平成13年に内閣総理大臣決定した「国の研究開発評価に関する大綱的指針」について、各府省や研究独法が実施する評価における現行の問題点([1]評価結果がその後に継続する研究開発に生かされない、[2]評価の負担感の増大、[3]国際的視点の不足)を解決すべく、改定案(1.評価時期の見直し、2.自己点検の活用、3.国際的水準に照らした評価)を平成20年10月に決定した。
2.評価人財の養成・確保
- 文部科学省では、研究開発評価シンポジウム、同ワークショップを、経済産業省では、研究開発評価フォーラムを開催している。また、独立行政法人科学技術振興機構では、プログラムオフィサーセミナーを開催している。
3.評価システムの改善及びデータベースの構築管理
- 評価システムの改革として、各省において、評価のための指針を作成し、評価方法の改善に努めている。例えば、厚生労働科学研究費補助金については各研究開発事業の趣旨・目的に応じて基準を定め審査・評価を行うほか、経済産業省においては技術に関する施策の下に位置付けられる各事業のまとまりを俯瞰する形で、相互関係等に着目し、個々の事業に係る評価結果を踏まえて行う評価システムを導入している。
4.政策目標を踏まえた評価項目・評価基準の設定
- 各省の研究開発制度において、政策目標を踏まえた評価項目・評価基準を設定している。例えば、文部科学省「科学研究費補助金」については、学術振興を目的としており、評価基準として「研究課題の学術的重要性・妥当性」等が設定されている。農林水産省「イノベーション創出基礎的研究推進事業」では、生産性の飛躍的向上や農林水産物の高付加価値化等の生物系特定産業における諸課題の解決に必要な技術的障害の解決等を志向しており、評価基準として、「生物系特定産業や社会・経済への貢献」が設定されている。
(所見)
- 府省共通研究開発管理システム(e‐Rad)の導入により研究費配分における無駄の排除やエフォート管理等に向けた取組が始められたことは高く評価できる。当該システムが今後効果的に運用されていくよう、適切に評価、改善を実施していくことが重要である。
- 研究開発評価が実施される一方で、その結果がどのように活用されているかが不明確である。研究開発のPDCAサイクルを充実させるとともに、その適切な情報発信にも努めるべきである。
- 研究開発活動の成果にも、企業の売上・雇用といった経済的観点から測るものと、論文や他の研究への波及といった科学的観点から測るものがあり、それぞれの研究開発活動に即した観点から評価するとともに、国民にも分かりやすく伝えていくことが重要である。<再掲>
- 研究者のモチベーションや情熱を引き出し、努力がキャリアパスにつながるような評価システムを構築することが重要である。そのためには、評価の質を高める必要があり、人物を単に採点するのではなく、潜在能力を引き出せるような動機付けやアドバイスの機会として評価を活用することも重要な視点となる。他方で、外部評価の形式をとっていても、実際には、閉ざされた仲間内の評価になっていることもあり、利益相反の確認や実質的な評価体制の確保が必要である。また、基礎、応用など、それぞれの研究段階に応じて、様々な評価指標を工夫する必要があり、今後の取組に期待する。<再掲>
- 競争的資金が増加されるなど競争的環境は整いつつあるが、先端的研究ばかりが重視される傾向があること、短期間の評価のため、長期的な研究を実施しにくいといった課題がある。基礎、応用など、研究段階に応じて、適切な評価手法を蓄積し、実践していくべきである。<再掲>
(6)円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消
(基本計画のポイント)
- 総合科学技術会議は、科学技術政策と他の政策との境界領域への関与を積極的に深め、科学技術の振興上障害となる制度的隘路の解消や研究現場等で顕在化している制度運用上の諸問題の解決のため、関係府省や審議会等と連携して取り組む。
(達成状況)
- 総合科学技術会議は、平成18年12月に「科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた制度改革について」を策定し、平成20年5月には、関係各省協力の下、66項目について進捗状況等のフォローアップを報告した(繰越件数が平成16年の10件から平成19年の
1,297 件に増加、他。)。
(所見)
- 制度・運用上の隘路の解消のための努力は各省で行われているが、規制への対応、政府調達、研究機関を取り巻く地域の国際化等、未だ整備不足の感がある。今後、各府省ごとの施策では対応できていない境界的なものに対して活用可能な科学技術振興調整費の活用を含め、更なる解決策の検討を行い、制度・運用上の隘路の解消を着実に進める必要がある。
3.科学技術振興のための基盤の強化
(1)施設・設備の計画的・重点的整備
(国立大学、公的研究機関等の施設、設備の整備等)
(基本計画のポイント)
- 国立大学法人等の施設については、老朽施設の再生を最重要課題とし、長期的な視点での計画的な整備に向けて特段の予算措置を講じる。また、国は、第3期基本計画期間中の5年間に緊急に整備すべき施設を盛り込んだ施設整備計画を策定し、計画的な整備を支援する。
- 国立大学法人等は、全学的視点に立った施設運営・維持管理や弾力的・流動的スペースの確保等の施設マネジメント体制を一層強化する。また、産業界・地方公共団体との連携強化、寄付・自己収入・長期借入金・PFI(民間資金等活用事業)の活用等、自助努力に基づいた新たな整備手法による施設整備を推進することが求められる。
- 国は、国立大学法人等において長期的な視点で大型設備をはじめとする研究設備が計画的に整備されるよう支援する。
(達成状況)
1.施設整備計画に基づく計画的な整備
- 国立大学法人等の保有面積の合計は、平成20年5月1日現在で、2,575万m2である。
- 平成17年度補正予算から平成21年度当初予算までの整備の進捗状況は69%であり、整備目標毎の内訳は老朽再生整備、狭隘解消整備、大学附属病院の再生でそれぞれ、71%、52%、80%である。
- 改修の目安となる建築後25年以上経過している施設は、平成20年5月1日現在で、全施設の57%である。
2.国立大学法人等の施設マネジメント体制
- 国立大学法人等の保有面積に対する共同利用スペースの割合は、平成20年5月現在で平均約6%である。
- 若手研究者スペース確保に関する規定等を策定している国立大学法人等は、平成17年度の12法人から平成19年度には50法人へと増加している。
- 大学等の研究組織の長に対するアンケート(平成20年)によると、研究員・ポストドクターの新規採用者にもスペースを確保している研究組織の割合は、研究開発法人で71.3%、国立大学法人では37.0%である。
- 平成18~20年度の実績として、寄附や地方公共団体との連携等の新たな整備手法による整備が約46万m2行われている。また、その内訳は、寄附による整備が約10.1万m2、地方公共団体との連携による整備が約4.3万m2等となっている。
(先端大型共用研究設備の整備・共用の促進)
(基本計画のポイント)
1.次世代スーパーコンピュータや次世代放射光源のような最先端の大型共用研究設備は、国が責任を持って整備・共用を推進すべきであり、産学官の様々な組織から最も適した組織を選択し、公平で効率的に整備・共用を実施する。
このため、共用を促進するための法整備を含めてこれら設備の整備から運用まで一体的に推進するための仕組みを構築する。
2.国は、具体的な先端大型共用設備の選定に当たっては、厳格に評価を行った上で、大学共同利用機関等の大型研究施設・設備も含めて優先順位を付け、計画的かつ継続的に整備を行う。
(達成状況)
1.大型共用研究設備の整備・共用
- 特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(平成18年7月改正)において、大型放射光施設(SPring‐8)、X線自由電子レーザー(XFEL)施設及び次世代スーパーコンピュータを特定先端大型研究施設と位置付け、施設整備を進め、公平な利用、充実した支援のための体制を構築し、共用の促進を図っている。(文部科学省)
- すでに共用に供しているSPring‐8については、利用者数(平成9年681人→平成20年 12,686 人)、利用課題研究数(平成9年94件→平成20年 1,891 件)ともに着実に増加傾向にあり、また、世界的に評価の高い成果も数多く輩出されている。
2.先端大型共用設備の選定
- 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)中性子線施設の利用促進のため、平成21年に、新たにこれを特定先端大型研究施設に位置付けることなどを内容とする、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律の改正が行われた。
- 特定先端大型研究施設以外の先端的な研究施設・機器についても、平成19年度から「先端研究施設共用イノベーション創出事業」を開始し、産学官の研究者等への共用促進のための支援を実施している。(文部科学省)
(所見)
- 国立大学法人等の施設の整備は着実に進んできているが、施設の狭隘解消整備については、老朽再生整備や附属病院の再生に比べ、その整備目標に対する進捗に遅れが見られる。引き続き、「第2次5か年計画」の確実な達成に向けて、適切な財政規模を確保しつつ、整備を推進することが必要である。
- 全学的な視点に立った施設マネジメントや新たな整備手法等のシステム改革への取組を一層推進することが必要である。
- 「第2次5か年計画」の進捗状況や現在の社会的課題等を踏まえつつ、今後の国立大学法人等施設における中長期的な整備計画を策定し、計画的な整備を図っていくことが必要である。
- 大学の機能別分化を進めるため、各大学の特性を踏まえた施設整備を推進することが必要である。
- 施設・設備については、整備の推進とともに維持管理についても引き続き配慮することが必要である。
- 特定先端大型研究施設としては、すでにSPring‐8において利用者の増加や成果の創出といった実績が出ていることは評価でき、引き続き、各特定先端大型研究施設について、安定的な運転時間の確保、必要な支援体制の充実が必要である。
- 競争的資金等による研究終了後の研究設備についても、更に共用や再利用を促進していくことが必要である。
(2)知的基盤の整備
(知的基盤の戦略的な重点整備)
(基本計画のポイント)
- 知的基盤について、量的観点のみならず、質的観点を指標とした整備を行うよう、知的基盤整備計画を見直し、選択と集中を進めつつ、2010年に世界最高水準を目指して重点整備を進める。
- 先端的機器について、重要な分野の研究に不可欠な機器や我が国が比較的優位を持ちつつも諸外国に追い上げられている機器について、鍵となる要素技術やシステム統合技術を重点開発する。
(達成状況)
1.知的基盤整備計画の見直し
- 「知的基盤整備計画(平成13年8月30日科学技術・学術審議会)」において定められた2010年の戦略目標に質的観点を取り入れるなどの見直しを行い、「知的基盤整備計画について(平成19年9月4日科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会)」をとりまとめた。
2.先端的機器について、鍵となる要素技術やシステム技術の重点開発
- 「先端計測分析技術・機器開発事業」において、計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される要素技術の開発、最先端の研究やものづくり現場で活用される先端計測分析技術・機器及びその周辺システムの開発を推進してきたが、平成20年度より、実用化に向けた取組を強化するために、世界トップレベルのユーザーとのプロトタイプ機の性能実証や応用開発を行う「プロトタイプ実証・実用化プログラム」を実施している。また、平成21年度よりプロトタイプ機の実用化ならびに普及を促進するためのソフトウェア開発を目的とした「ソフトウェア開発プログラム」を新たに創設した。(独立行政法人科学技術振興機構)
(効率的な整備・利用を促進するための体制構築)
(基本計画のポイント)
- 知的基盤の各領域について、公的研究機関等を中核的なセンターに指定し育成することにより拠点化を図る。
(達成状況)
- ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)では、公的研究機関等17機関を採択し、基礎・基盤の各分野における中核的機関としての役割を担うべく、知的基盤の一層の整備が進められている。(平成19年4月現在、文部科学省)
(所見)
- 知的基盤の整備について、ライフサイエンス分野でのナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)及び統合データベース整備事業などで進捗していることは、高く評価できる。
- 大学や研究開発法人における運営費交付金の減少が、知的基盤の維持管理への資源投入を困難にしており、さまざまな取組にもかかわらず、知的基盤の整備及び当該整備に携わる人財の確保には未だ課題がある。各機関において費用対効果の高い手法がないか更に工夫を重ねるとともに、共通基盤的なものについては、共同して、あるいは、全国レベルでの整備などの工夫も望まれる。
- 知的基盤の整備やその利活用に携わる研究支援者、技術者等の人財を適切に評価する仕組みを構築し、これらの人財を継続的に確保するための体制を整備する必要がある。
- 先端的機器の開発につながる新たな要素技術を創出する体制を強化するとともに、開発された機器の普及を推進する取組を更に進める必要がある。
(3)知的財産の創造・保護・活用
(基本計画のポイント)
- 大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)の体制整備を支援する。
- 大学等の権利取得、活用の戦略的取組を支援する。
- 地域のニーズにあった知的財産の創造や活用を推進する取組を支援する。
(達成状況)
1.知的財産活動推進のための体制整備
- 平成15年度から19年度まで実施された大学知的財産本部整備事業により、大学等における知的財産の機関一元管理の体制や知的財産ルールの策定など知的財産に関する整備が進んだ。また、一部の大学においては、組織的な産学官連携活動を推進する体制の整備が進み、事業化支援、人材育成、技術指導等、多面的な産学官連携活動を行う体制へと移行する動きが見られた。このため、平成20年度より、大学等の戦略的な知的財産活動を支援する産学官連携戦略展開事業を開始し、大学等の研究成果の円滑な社会への提供を促進している。これらの事業により、大学等の大学知的財産本部を含む管理活用体制の整備が進み、平成20年4月現在で173機関に上る。(文部科学省)
- 経済産業省特許庁においては、戦略的な知財管理の重要性を啓発するとともに、質の高い特許の取得に向けた知財戦略の転換を促進するなどの知的財産戦略等推進事業を実施している。また、独立行政法人工業所有権情報・研修館においては、大学知的財産・特許流通及び特許情報アドバイザーの派遣を実施している。
- 承認TLOは平成21年5月現在で47機関に整備されている。
2.大学における権利取得・活用の戦略的取組
- 総合科学技術会議において、平成20年5月、知財フロンティアの開拓に向けて知的財産戦略を推進するため「知的財産戦略」を決定している。
- 技術移転支援センター事業において、大学の海外特許出願関連の費用等を支援するとともに、目利き人材の育成等により大学の技術移転活動を総合的に支援している。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 特許出願件数の増大に合わせ(平成14年829件→平成19年9,869件、いずれも国内外合計)、特許実施件数も増加している(平成14年58件→平成19年 4,390 件)。
3.知的財産による地域の振興
- 地域においては、地方公共団体による知的財産戦略の策定(平成21年1月32都道府県)が徐々になされており、さらに地域の知的財産に関する情報を発信するための産学官連携支援データベースの充実や、合同成果発表会等の開催を推進している。また、地域の中小企業や大学等からの特許出願ニーズに対応できる弁理士窓口を整備するといった取組を行っている。
(所見)
- 大学や研究開発法人で取得した特許数は増加傾向にあるが、数よりも質の確保が重要であり、費用対効果も十分に検証しながら、実用化を見据えた特許の取得・管理、更にグローバルな活用を戦略的に進めるべきである。そのためにも、知財戦略を含めた知財に関する人財の育成や専門家との連携の強化、知財情報の充実が重要である。
(4)標準化への積極的対応
(基本計画のポイント)
- 国際標準化機関の活動に対しては、関係府省間の連携及び産学官の連携を一層強化し、一貫性を持って迅速かつ効果的に参画する。
(達成状況)
- 産学官の連携を一層強化するため、平成20年7月、「ICT標準化・知財センター」を設立し、ICT分野の国際標準化に関する重点技術分野ごとの検討を行うほか、国際標準化人材の育成方法に関する検討を行っている。また、「ICT国際標準化推進ガイドライン」を作成、配布し、民間企業の経営者層等に対し標準化活動の重要性の普及・啓発に務めている。
- 我が国からのITU(国際電気通信連合)への提案件数は、例えば、ITU‐T(電気通信標準化部門)において平成13~16年で543件(10.9%)、平成17~20年で496件(12.0%)であり、我が国からの提案文書数の全体に占める割合は確実に増加している。また、我が国のITUにおける役職者数は、平成15年時点の議長2名、副議長8名から平成21年時点で議長3名、副議長9名に増加している。
- 我が国からのISO(国際標準化機構)及びIEC(国際電気標準会議)への国際標準の提案件数は、平成13~15年平均の63件から平成18~20年平均で102件に増加している。また、我が国のISOとIECを合わせた幹事国引受数は、平成18年2月時点の60件から平成21年4月時点で74件に増加している。
(所見)
- 国際標準化は、グローバル市場での実用化、商品化に向けてのステップであり、我が国企業がイニシアティブを取れる産業につながるよう戦略的に推進することが重要である。近年では、国際標準策定機関での日本人の活躍が目立ち始めているが、意味のある適切な標準の確保に戦略的に対応するとともに、国際標準作成をリードできる専門人財を息長く養成するなど、長期的視野に立った取組を国としても推進していくことが必要である。
(5)研究情報基盤の整備
(基本計画のポイント)
- 大型コンピュータや高速ネットワークなどは最先端の情報通信技術や国際動向に常に先行して整備していく。
- 研究機関において不可欠な論文誌などの研究情報の体系的収集・保存、効果的発信並びに研究者・研究機関間の連携や協力を促進することにより、研究情報基盤の効果的かつ効率的な運用を進める。具体的には、我が国の研究情報の蓄積を資産として国の内外に発信できるよう、論文誌等の電子アーカイブ化支援等を進める。
(達成状況)
1.大型コンピュータや高速ネットワークなどの整備
- 平成19年6月に本格運用を開始した学術情報ネットワーク(SINET3)において、基幹回線を世界トップレベルの 40Gbps に高速化するとともに、国際的な学術情報流通を促進するため平成20年4月に、米国回線(日本‐ロサンゼルス間)を 2.4Gbps から 10Gbps に増速している。(大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所)
2.論文誌などの研究情報の体系的収集・保存、効果的発信
- 国立国会図書館では、国全体の科学技術情報基盤整備の一環として科学技術情報の収集・保存・提供機能を拡充・強化することにより、国会に対し科学技術に関する情報を一層効果的に提供するとともに、研究者・技術者の情報需要を充足し、国民全体の科学技術情報の利用を促進している。
- 科学技術情報連携活用推進事業として、日本人著者の論文が掲載される論文誌を中心に書誌情報等をデータベース化し(毎年度100万件規模)、平成21年3月から文献情報、研究者情報、科学技術用語情報等を無料でシームレスに利用できる科学技術総合リンクセンター(J‐GLOBAL)試行版として提供を開始している。
また、文献情報提供事業として、抄録・索引等を付与した文献情報データベースを整備し、インターネット上で有料サービス(JDreamⅡ)として実施し、研究者等が必要とする科学技術に関する文献を容易に利用できるようにしている。(独立行政法人科学技術振興機構)
- 学術雑誌の電子化・国際化を強化する国際学術情報流通基盤整備事業(平成20年度45誌を支援)、学術雑誌や紀要を電子化して蓄積し、発信する学術コンテンツポータル事業(平成21年1月現在320万論文を発信)、機関リポジトリの構築と連携を促進する学術機関リポジトリ構築連携支援事業(平成21年2月末現在93大学等が公開)により、論文誌等の電子アーカイブ化等による集積及び情報発信機能の強化が図られている。(大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所)
(所見)
- 研究情報基盤について、科学技術振興機構の科学技術情報連携活用推進事業、文献情報提供事業、情報・システム研究機構国立情報学研究所の国際学術情報流通基盤整備事業、学術コンテンツポータル事業、学術機関リポジトリ構築連携支援事業などで大きく進捗し、また、機関リポジトリも国立大学を中心に急速に整備されてきていることは高く評価できる。機関リポジトリに関しては、研究情報基盤や国際的情報発信の素晴らしいチャネルであると同時に、掲載される博士論文等の質の確保にも重要な役割を果たすものであり、今後は、量とともに質をも重視する取組が必要である。
(6)学協会の活動の促進
(基本計画のポイント)
- 学協会の自助努力による改革を促し、機能を強化する。
- 学協会は、情報通信技術等を用いて研究情報の収集・分析・発信・流通の能力を高めるための基盤整備を行うとともに、海外研究者の招へいなど人材の活発な交流や情報通信技術の利用による情報発信の強化等により、研究集会の活性化を図ることが期待される。
(達成状況)
1.学協会の事業強化
- 学術団体を対象とした調査(平成19年)によると、研究成果の発表の場として、会員相互の交流の場として、また、他の学協会との連絡の場としての取組が強化されてきている。
2.学協会の国際競争力の強化
- 日本の学協会を対象に、論文の投稿から査読・審査、インターネットを通じた公開までの一貫した流れを電子的に行うシステム支援である「J‐STAGE」事業を実施している(平成20年度は69誌が新たに参加(累計:749 誌参加)。
また、Journal@rchive 事業として、過去の国内学協会発行の論文誌について平成20年度は選定した181誌と平成19年度までに選定したものを含めて実施可能なものを約50万論文作成した(累計約240誌、約70万件)。(独立行政法人科学技術振興機構)
(所見)
- 学協会の細分化が進んでいるが、若手研究者の減少や規模のメリット等にかんがみ、今後は連携・融合・集約化が望まれる。
(7)公的研究機関における研究開発の推進
(基本計画のポイント)
- 公的研究機関は、政策目的の達成を使命とし、我が国の科学技術の向上につながる基礎的・先導的研究や、政策的ニーズに沿った具体的な目標を掲げた体系的・総合的研究を中心に、重点的な研究開発を行う。
- 競争的資金等の獲得により研究開発を行うことも奨励されるが、機関の使命達成のために必要な経費が運営費交付金等により確実に措置されることがまず重要である。
(達成状況)
1.公的研究機関における予算配分状況
- 各研究開発法人においては、自律的、自発的な運営・改革、政策ニーズへの対応とイノベーションに向けた機能強化等において独自の取組を推進している。
2.運営費交付金の予算額推移
- 運営費交付金の総額は、法人の増加に伴って増加しているが、各機関に配分されている額はわずかに減少傾向にある。
(所見)
- 日本の研究開発の推進における研究開発法人の役割を明確にし、それぞれの研究機関の機能・組織等のメリットを活かした研究開発を推進していくことが重要である。
4.国際活動の戦略的推進
(1)国際活動の体系的な取組
(基本計画のポイント)
- 多層的なネットワーク形成(政府、研究機関、学協会、研究者)、我が国を含め共同で取り組むべき共通課題の抽出とその課題解決のための研究開発、技術開発の実施、新たな国際協力の苗床形成などを推進する。
- 国際活動を担う人材の養成にも努める。
(達成状況)
1.ネットワーク形成、共通課題解決のための研究開発、国際協力の苗床形成
- これまでに43カ国と二国間科学技術協力協定が締結されている。
- 多国間で取り組んでいるプロジェクトとしては、国際宇宙ステーション(ISS)、統合国際深海掘削計画(IODP)、国際熱核融合炉実験炉(ITER)、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)などが挙げられる。
- 新たな国際協力の苗床形成という観点から、「科学技術外交」の取組が推進されている。
2.国際活動を担う人財養成
- 国の施策として、外務省・文部科学省による地球規模課題に対応する科学技術協力や、文部科学省におけるアジア・アフリカ科学技術協力戦略的推進プログラム、農林水産省における国際共同研究人材育成推進・支援事業等が推進されている。
- 平成20年度より、科学技術振興調整費「戦略的環境リーダー育成拠点形成」プログラムにより、アジア・アフリカ諸国等からの留学生を受入れ、日本のソフトパワーの源となる日本の環境技術ネットワークをベースに、これら途上国における環境問題の解決に向けたリーダーシップを発揮する人財(環境リーダー)を育成する拠点の形成を図っている。(文部科学省)
(2)アジア諸国との協力
(基本計画のポイント)
- 内外から日本に期待される役割を果たしていくため、アジア諸国との間で科学技術の連携を強化する。
(達成状況)
1.アジア諸国との連携
- 中国、韓国との間で「日中韓科学技術協力担当大臣会合」、東南アジア諸国連合とは「ASEANCOST+3」による協力、「APEC 産業科学技術ワーキンググループ」による取組が進められている。
(3)国際活動強化のための環境整備と優れた外国人研究者受入れの促進
(基本計画のポイント)
- 大学、公的研究機関等による国際活動を担う事務体制の強化、関係機関の海外拠点活動の効果的推進及び連携促進、海外の科学技術動向を体系的に収集・分析する体制の整備など、国際活動を支える基盤の強化を図る。
- 海外拠点を中心とした、研究成果・研究者・研究機関に関する情報の積極的な海外への発信、日本での研究経験を有する者等の関係者のネットワークの形成を支援する。
- 外国人研究者の受入れの促進・活躍の拡大を図るための制度整備等を一層推進する
(達成状況)
1.国際活動の基盤強化
- 協定に基づく学生及び教員・研究者との交流については、アジアが派遣、受入れともに急増している中で、ヨーロッパへの派遣が減少している。
2.海外への情報発信
- 海外拠点を持つ大学の数の増加とともに(平成16年64機関→平成18年96機関)、大学の海外拠点の数も急増している(平成16年170箇所→平成18年276箇所)。
- 海外拠点の設置目的としては、現地の教育研究事情に関する情報収集、現地の大学等との共同研究等の活動サポートが主なものであるが、留学生受入れに向けたリクルート活動、現地の企業との連携のサポートも増加してきている。
3.外国人研究者の受入れ促進のための制度整備等
- 定点調査によると、外国人研究者受入れに関する子どもの教育、住宅の確保、家族の就労などの生活環境に関わる課題については、平成20年時点で、平成13年と比較して改善はあるものの、依然として不十分との認識が多い。研究者を含む高度人材の受入れが十分に進まない最大の要因は、わが国の制度・慣行面、生活環境面で制約が多いことであり、またその背景には医療・年金、住宅・子どもの教育などの生活環境に対する不安があるともいわれる。
- 特に子どもの教育については、国際バカロレア、WASC(米国西部地域私立学校大学協会)認定等の国際修了資格を我が国の大学250校以上が入学資格として認定している(※)にもかかわらず、国内の高校、インターナショナルスクールに殆ど適用されていないことが問題である。
※国際バカロレア機構HPより(http://www.ibo.org/country/JP/index.cfm)
(所見)
- 科学技術外交を重視する観点から、各種政策の充実が図られてきたことは評価できる。国際的なネットワーク構築等の観点からも、継続して取組が行われていくことが重要である。
- 第3期基本計画では国際戦略が見えにくいとの指摘もあり、国際社会における日本の役割を考慮し、総合的・体系的な科学技術の国際戦略が必要とされている。同時に、科学技術協力についてはアジア・アフリカの重要性が増しており、それらの国とのネットワークを重視することが必要である。
- 近年若手研究者の長期海外派遣が減少していることが問題視されている。我が国の国際競争力を強化し、我が国の国際的存在感を高めるためには、日本人研究者が海外で研鑽機会を積み、国際的に活躍していくことが重要であり、そのための取組の強化が必要である。
- 海外の優秀な人財を多く日本に招き、日本国内の研究環境の活性化・国際化を図ることが重要である。このためには、優秀な研究者にとって魅力的な研究環境を構築することはもちろん、研究環境の国際化への対応として、研究機関の事務系職員の英語対応能力の向上、ワンストップサービスの設置を始めとした事務局体制の整備、また、研究環境のみならず、その周辺環境への整備として、外国人研究者本人及び家族に対するきめ細かで温かみのある生活支援の充実といった基盤整備の努力も必要である。大学間競争だけでなく、日本全体の科学技術外交の視点で、大学や研究機関が共同で取り組む仕組み作りが望まれる。
- 外国人研究者の受入れについては、子どもの教育、家族の就労、医療、住居など生活環境の整備が大きな課題になっている。科学技術だけでなく高度人財の受入れに共通する日本全体の問題であるが、特に科学技術の進展に直接影響する重要な問題であり、地方自治体等とも連携し応分の負担を担うなどの対応を行っていく必要がある。