[2]科学技術の戦略重点化(基本計画第2章関連)

1.基礎研究の推進

(基本計画のポイント)

  1. 多様な知と革新をもたらす基礎研究については、一定の資源を確保して着実に進める。
  2. 研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究があり、それぞれ、意義を踏まえて推進する。

(達成状況)

1.基礎研究の一定の資源の確保による推進

  • 平成18~21年度の基礎研究等予算は 1 兆 4,800 億円前後で推移しており、同期間の科学技術関係予算における基礎研究等予算の割合は、おおむね42%を維持している。

2.研究者の自由な発想に基づく研究と政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究の推進

  • 研究者の自由な発想に基づく研究を推進する科学研究費補助金について、予算規模は平成18年度以降毎年ほぼ1%増加している。採択数も毎年増加しているものの(平成18年度 54,609 件→平成20年度 56,582 件)、新規については採択数、採択率ともに平成20年度で減少している(平成19年度 24,196 件24.3%→平成20年度23,648 件22.7%)。
  • 政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究を推進する施策として戦略的創造研究推進事業があり、その予算規模は、平成18年度以降毎年増加している(平成18年度470億円→平成19年度474億円→平成20年度488億円→平成21年度498億円)
  • 科学研究費補助金及び戦略的創造研究推進事業の双方において、社会にブレークスルーをもたらす画期的な研究成果が創出されてきている。
  • 我が国の高等教育機関における論文数はここ10年間で増加傾向にあり、研究開発費当たりの論文生産性を分析すると、英国には及ばないものの、米国、ドイツより高くなっている。また、研究開発費当たりの論文生産性の伸び率では、我が国は英米独と比較して高くなっている。
  • 我が国の政府部門におけるここ10年間の論文数の伸びは著しく、また研究開発費当たりの論文生産性も高い伸びを示している。

(所見)

  • これまで何が行われ、何がどこまでわかっているかを調べ、次の時代に必要な課題を独創的に考え出し、その課題を明解に示すような研究が重要である。
  • 研究者の自由な発想は、研究の推進、展開に重要な要素であり、研究者が創造力を活かした研究ができるようにし、科学技術の基盤を維持、強化していくことが重要である。特に、芽が出る前の研究に対する支援がある程度確保されていることが必要であり、そのためにも基盤的経費の安定的な措置が重要である。また、比較的少額ずつの予算を多人数に与えることで、流行などにとらわれない裾野の広い多様性に富む研究を涵養していくことが重要であることにも留意すべきである。
  • 短期的にはインパクトが見えにくい基礎研究にも3~5年程度での厳格な定量的評価を求めることで、優れた研究であっても相応の評価が得られず、基礎研究の推進が歪んでいる印象があり、研究段階に応じた評価指標の工夫が必要である。
  • 出口を見据えた研究戦略も重要であるが、その上流に位置する基礎研究の効果的な活性化のための仕組み作り(人財確保・育成等)も併せて行うべきである。
  • 知の探求のための基礎研究も重要だが、イノベーションの推進の観点からは、基礎研究とそれ以外を分けず、達成すべき目的に向けて一貫して研究開発を実施すべき場合もあり、そのことも踏まえて、政策目的達成の観点から推進すべき基礎研究もあることに留意すべきである。 

2.政策課題対応型研究開発における重点化

(1)分野別推進戦略の策定と重点化

(基本計画のポイント)

  • ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテク・材料の「重点推進4分野」に優先的に資源配分を行うとともに、エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティアの「推進4分野」に適切に資源配分を行う。
  • 8分野において「分野別推進戦略」を策定し 、重要な研究開発課題を選定する。また、計画期間中に重点投資する「戦略重点科学技術」を選定する。
  • 戦略重点科学技術のうち「国が主導する一貫した推進体制の下で実施され世界をリードする人材育成にも資する長期的かつ大規模なプロジェクトにおいて、国家の総合的な安全保障の観点も含め経済社会上の効果を最大化するために計画期間中に集中的な投資が必要なもの」を「国家基幹技術」と位置付け、精選する。

(達成状況)

  • 総合科学技術会議は、重点推進4分野及び推進4分野について分野別推進戦略を策定し、各分野毎に「重要な研究開発課題」、「戦略重点科学技術」及び「推進方策」を定めた。
  • 「重要な研究開発課題」については、今後5年間に政府が取り組むべき重要な課題として273課題を選定し、研究開発目標及び成果目標を政府の責任部署とともに明記した。「戦略重点科学技術」については、62課題を選定し、集中投資の対象とした。さらに、このうちから、「国家基幹技術」として5課題を精選した。
  • 政策課題対応型研究開発費における戦略重点科学技術の予算及びその割合は、平成18年度2,850億円(16%)、平成19年度3,873 億円(23%)、平成20年度 4,419 億円(26%)、平成21年度 4,677 億円(28%)である。予算額、割合ともに、毎年増加してきており、順調に重点化が進んでいる。

(2)分野別推進戦略の効果的な実施

(基本計画のポイント)

  • 総合科学技術会議による資源配分方針の提示等の年間の政策サイクルを確立し、関係府省や研究機関のネットワーク・連携を進める基盤となる「活きた戦略」を実現していく。
  • 基本計画期間中であっても、必要に応じて重要な研究開発課題や戦略重点科学技術等に関しての変更・改訂を柔軟に行う。

(達成状況)

  • 総合科学技術会議は、概算要求に対する優先順位付けを通じて、分野別推進戦略の的確な推進に努めるとともに、毎年度末に推進戦略のフォローアップを行い、進捗状況の把握と今後の対応方策等のとりまとめを行った。
  • 分野別推進戦略の策定から3年を経過した時点で行われた詳細なフォローアップの結果は、「「分野別推進戦略」中間フォローアップについて」(平成21年5月27日基本政策推進専門調査会)として取りまとめた。

(所見)

  • 競争力の維持・強化のために、ある程度の選択と集中は必要であり、分野を設定したことは妥当だが、これまでの分野設定については見直しの余地がある。日本の得意分野はもちろん、環境やエネルギー、食料、健康に関わるものなど直接多くの人々の幸福につながるような研究開発を中心に集中投資するべきである。とりわけ、二酸化炭素の削減目標の達成に必要となる技術革新やライフスタイルの変更等、幅広いイノベーションを実現するための重点化に留意すべきである。
  • 第3期基本計画のポイントであった安全・安心は、引き続き重要であり、科学技術がどう貢献できるか、その実施体制はどうあるべきかについてよく検討し、人財育成も含め、適切に資源配分を行うべきである。
  • 分野別推進戦略に掲げる研究開発課題の研究開発目標は、数が多い上、非常に細分化されており、上位に位置する政策目標と各課題や研究開発目標との関係も分かりにくい。世界のパラダイムが転換しており、個々の技術を発展させることのみを目標とする発想は、今や古いものとなりつつある。日本の将来像を見据えた上で、解決すべき大きな課題を設定し、それを解決・実現するための戦略を策定するという一連の流れの中で、実効性のある研究開発課題を設定していくべきである 。
  • 第3期基本計画では、重要技術の選択の枠組みの設定にとどまり、若手人財育成や研究資金のあり方など、分野ごとに異なる状況や課題を踏まえたシステム改革は、必ずしも十分に進められていない。重点化のあり方や推進方法は、研究開発領域の性格、産業構造を始めとする様々な要因によってアプローチが異なるため、そうした特性に応じて、政策も複線化させることが必要である。
  • 国家基幹技術を含む戦略重点科学技術への重点化は、順調に進んでおり、一定の成果が上がっているが、長期間継続的に実施していく必要がある基盤的技術等への配慮が不足しているとの指摘もある。我が国が強みを持つ基盤的技術やシステム化技術を更に強化することが重要である。また、重点化対象とされた研究開発と、重点化対象とされていないが着実に推進すべき研究開発との資源配分のバランスには十分留意すべきである。
  • 課題解決型の科学技術政策を進めていく上では、現行分野だけでは対応できない問題もあり、重点分野ではないものの、少しの後押しで進展を見せる可能性のある領域に対する支援も含め、新たな施策を柔軟に取り込むことができる仕組みを構築すべきである。また、このように新たな施策を取り込むにあたっては、有望な研究開発を適時適切に見極められるような体制作りや評価人財の育成が重要である。
  • 分野の融合は重要であるが、現在は、前例のないテーマに研究費がつきにくい、分野間の研究者交流が少ないなど、新興・融合領域での斬新な研究開発を促進する環境や制度に欠けており、今後の充実が望まれる。
  • 第3期基本計画の策定後に海洋基本法に基づく海洋基本計画及びまた宇宙基本法に基づく宇宙基本計画が策定されており、これらの他の基本計画との整合性を十分踏まえる必要がある。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)