[1]基本理念(基本計画第1章関連)

1.科学技術政策の進捗状況

 日本の科学技術の現状について、研究成果の指標のひとつである論文数で見ると、我が国は近年ほぼ横ばいであるが、中国の激しい追い上げにあっている。一方、相対被引用度では、我が国は米・英・独・加・仏に次ぐ6位を保持している。この他、論文数に関しては、研究開発費当たり、研究者当たりで比較した場合には、英米独と比肩するレベルにあるとのデータもある。
 また、特許登録件数を見ると、我が国は一貫して高いレベルを保っており、近年でも増加傾向が見られる。
 平成20年には、日本人4名がノーベル賞を受賞するなど、我が国の基礎科学力の高さが示された。また、近年の顕著な成果として、再生医療などにおける応用が期待されるiPS細胞作製が日本人により成功したことは記憶に新しい。この他にも、新興・再興感染症の制御のための研究開発の進展を始めとして、健康や安全に貢献する研究開発の成果が生み出されてきている。さらに、我が国は、小型情報機器用リチウムイオン電池の開発により現在その生産シェア世界一を誇るほか、液晶やプラズマに変わる次世代ディスプレイとして注目される有機ELの開発が進められるなど、産業競争力の強化に貢献する成果も創出されてきている。

2.科学技術をめぐる諸情勢と基本理念

(基本計画のポイント)

●科学技術基本計画の基本姿勢
 1.社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術
 2.人材育成と競争的環境の重視  ~モノから人へ、機関における個人の重視

●科学技術政策の理念と政策目標
 掲げられた3つの理念を実現するため、6つの大目標、12の中目標に向けて科学技術政策を推進し、説明責任の強化と社会・国民への成果還元の効果的な実現を図る。

<理念1>人類の英知を生む
 ~知の創造と活用により世界に貢献できる国の実現に向けて~
◆目標1 飛躍知の発見・発明 ‐ 未来を切り拓く多様な知識の蓄積・創造
 (1) 新しい原理・現象の発見・解明
 (2) 非連続な技術革新の源泉となる知識の創造
◆目標2 科学技術の限界突破 ‐ 人類の夢への挑戦と実現
 (3) 世界最高水準のプロジェクトによる科学技術の牽引

<理念2>国力の源泉を創る
 ~国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて~
◆目標3 環境と経済の両立 ‐ 環境と経済を両立し持続可能な発展を実現
 (4) 地球温暖化・エネルギー問題の克服
 (5) 環境と調和する循環型社会の実現
◆目標4 イノベーター日本 ‐ 革新を続ける強靱な経済・産業を実現
 (6) 世界を魅了するユビキタスネット社会 の実現
 (7) ものづくりナンバーワン国家の実現
 (8) 科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化

<理念3>健康と安全を守る
 ~安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて~
◆目標5 生涯はつらつ生活 ‐ 子どもから高齢者まで健康な日本を実現
 (9) 国民を悩ます病の克服
 (10) 誰もが元気に暮らせる社会の実現
◆目標6 安全が誇りとなる国 ‐ 世界一安全な国・日本を実現
 (11) 国土と社会の安全確保
 (12) 暮らしの安全確保

(参考) 諸外国における科学技術・イノベーション政策
 米国における競争力法の制定(2007 年)、英国における科学・イノベーション投資フレームワークの策定(2006 年)、中国の国家中長期科学・技術発展規画概要の策定(2006 年)、韓国の577イニシアティブの決定(2008 年)等、近年、イノベーションの強化を意識した政策が諸外国で次々と打ち出されている。さらに、現下の経済危機に対応するための追加経済対策においても、長期的な経済成長を促進するものとして、環境技術開発を始めとした科学技術関連の投資を充実させる動きが顕著となっている。

(所見)

1.第3期基本計画における基本姿勢
  • 第3期基本計画の基本姿勢として、社会・国民に成果を還元する科学技術を強調している点は重要である。一方で、その成果は直ちには顕在化しない場合があるので、短絡的な評価とならないよう配慮すべきである。
  • 研究開発活動の成果にも、企業の売上・雇用といった経済的観点から測るものと、論文や他の研究への波及といった科学的観点から測るものがあり、それぞれの研究開発活動に即した観点から評価するとともに、国民にも分かりやすく伝えていくことが重要である。
  • 競争的環境を重視することは、大切な視点であるが、他方で、しっかりした基盤が前提となることに十分留意すべきである。
2.科学技術を巡る諸情勢の変化
  • 我が国の科学技術政策を取り巻く情勢は劇的に変化している。
     世界的な金融危機・同時不況とともに、地球環境問題、水・食料・資源・エネルギーの枯渇という世界共通の深刻な諸問題が、世界の経済・社会全体を震撼させている。こうした中で、世界主要先進各国は、経済危機克服のための大型の財政出動策を次々に発表し、実行に移しているが、特に、地球環境問題に科学技術での対応を目指すクリーンテックを中核に据えたイノベーション政策の強化を前面に据え、国のトップのリーダーシップによって、予算の大幅な増額方針を打ち出している。これは、イノベーション創出が国家と世界の未来にとっての大きな柱となり、持続的成長に必須であるとの認識に基づくものである。我が国としても、深い科学的知見に基づくパラダイムシフトは、世界を大きく変革するイノベーションにつながることを改めて肝に銘じておくことが重要である。
  • また、世界各国は、90年代後半から自国のイノベーション・システムを大きく変革し、閉鎖的・自前主義の垂直統合型から、オープン、グローバル、フラットな国際水平分業型へと大きくシフトしてきている。その一環として、人財の環流(brain circulation)の重要性が強く認識され、従来からの資源としての人材(human resource)ではなく、資産・宝としての人財(human capital)への転換とともに、優秀な人財獲得競争が国際的に展開されてきている。
  • 日本は、モノについては今も高い技術力と品質の強みを有しているが、これだけでは機能しないことは明らかとなっている。地球的課題の解決には、出口を見据え、サービスを含めてトータルのシステムを提供し、解決策を提供する技術こそが必要であり、機能させてこそ真の技術と言える。日本が得意としてきたモノの重要性を保ちつつ、これまでの個々の単品技術を磨くことを至上とする習性を脱却し、複数の知を組み合わせてシステム化し、課題解決のソリューション技術として提案することで、今後の日本の強みとしていくことが求められている。他方で、2001 年には国の研究機関が独立行政法人となり、2004 年には国立大学等が法人化され、イノベーションに関わる責任主体の自由度が高められてきている。世界の情勢変化やイノベーションに関する仕組みの変化を踏まえて、我が国のイノベーション・システムを根本から再点検することが必須である。
  • 今後の科学技術政策は、このような流れを踏まえつつ、新たな価値創造と同時に、少子高齢化社会における健康長寿や複雑化する社会の中での安全・安心にも対応できるよう、新たな知識の創造とともに、これらをシステム化してソリューション技術として提案するところまでを円滑に行える仕組みを構築していくことが望まれる。この際、イノベーションにおける国や研究開発法人及び大学の役割・責任を明確にし、従来の科学技術政策の狭い範囲に閉じこもらずに、関連施策も巻き込んでイノベーションを実現できるよう、科学技術政策とイノベーション政策を一体的に実施していくことが強く求められる。
3.第4期基本計画に向けた科学技術政策の理念と政策目標
  • 第3期基本計画で示されている理念はいずれも妥当であるが、前項で示されるような諸情勢の変化は、第3期基本計画の策定時には必ずしも想定されていなかった劇的なものである。総合科学技術会議においては、これらの情勢に対応するため、毎年の科学技術政策の重要課題に加え、「革新的技術戦略」や「環境エネルギー技術革新計画」などの新たな方針を適時に打ち出してきているが、第4期基本計画の策定に当たっては、これらの情勢を踏まえつつ、「科学技術こそ日本の生きる道である」との認識の下で、各界の英知を結集して、従来にない新発想で、我が国独自の科学技術・イノベーション政策に取り組むことが必須である。その際、将来のあるべき姿を描き、科学技術が発展すべき方向性、社会システム変革の方向性を検討すべきである。 変革が求められる今こそ、我が国のイノベーション・システムそのものの革新を図る大きな機会であり、この絶好の機会を逃してはならない。
  • 第4期基本計画の策定に際しては、以下の点についても配慮が必要である。
    • 「低炭素革命」「健康長寿」「魅力発揮」といった我が国の重要戦略に整合的であること
    • 持続可能な社会システムをつくること
    • 国民の閉塞感を取り除き、希望を感じられるようにすること
    • 産業の国際競争力の強化に資すること
    • 顕在化している欲求に限らず、潜在的な欲求の満足も指向すること

3.政府研究開発投資

(基本計画のポイント)

  • 5カ年間の政府研究開発投資の総額の規模は、約25兆円とする。(注:計画期間中の政府研究開発投資の対GDP比率1%、GDPの名目成長率平均3.1%を前提としたもの)
  • 毎年度の予算編成に当たっては、厳しさを増している財政事情を踏まえ、財政構造改革に十分配慮した上で必要な経費を確保する。
  • 計画の実施に当たっては、成果目標の設定、評価の仕組みの確立、研究費配分の無駄の排除等の諸改革を徹底的に実行し、投資効果を最大限高める。

(達成状況)

 計画期間中の科学技術関係予算(当初予算)は、平成18年度 3 兆 5,743 億円、平成19年度 3 兆 5,113 億円(対前年度比-1.8%)、平成20年度 3 兆5,708 億円(対前年度比-1.7%)、平成21年度 3 兆 5,639 億円(対前年度比-0.2%)となった。加えて、補正予算として、平成18年度 1,451 億円、平成19年度 1,175 億円、平成20年度 2,400 億円、平成21年度1兆3,465億円がそれぞれ追加された。また、地方公共団体の研究開発投資は、平成18年度 4,206 億円、平成19年度 4,160 億円、平成20年度 4,219 億円となった。
 この結果、累計は 17 兆 3,279 億円となり、25兆円に対する進捗は69.3%である。対名目GDP比率は、平成18年度0.81%、平成19年度0.78%、平成20年度0.83%である。なお、計画期間中において、政策課題対応型研究開発予算の8分野別シェアに大きな変動は見られない。
 定点調査(※)では、科学技術に関する政府予算は、日本が現在おかれている科学技術の状況をかんがみて、十分ではないとの認識が増えている。

※文部科学省科学技術政策研究所が実施する「科学技術の状況に係る総合的意識調査(定点調査)」。日本の代表的な研究者・有識者や第一線級の研究者に対して科学技術の状況を尋ねる。平成18年以降、数回にわたり同じ質問を繰り返し、回答者の意識の変化を調査している。

(所見)

  • 現下の世界的諸課題を解決するためのイノベーションの重要性や、世界各国が科学技術政策及びイノベーション政策を一体的に強化している現状などを踏まえ、今後とも政府研究開発投資を充実することが必要 である。
  • 同時に、単に投資規模のみを目指すのではなく、研究者の立場に立った使い勝手のよい資金となるよう、研究資金の質を高めるべきである。また、研究開発の質が高められるよう、研究開発投資の費用対効果を測定・評価し、予算配分が適切となるよう絶えず点検し、更なる投資に対しての国民の理解と支持を十分に得られるようにすべきである。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)