(要旨) 我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて ~ポスト第3期科学技術基本計画における重要政策~
平成21年12月25日
科学技術・学術審議会
基本計画特別委員会
○ 「知」の創出、科学技術による飛躍的なイノベーション、優れた人材の育成こそが将来に向けた国力の源泉である。また、我が国は世界規模の問題に対して科学技術を基にした国際協調力をもって貢献するとともに、科学技術の力で自律的に存立すべきである。
○ 一方で、科学技術は、短期的な視点や経済的利益のみの視点から論じられるべきものではなく、未来への先行投資として中長期的な視点で「社会総がかり」で取り組むべきものである。また、科学技術は世界との競争であり、国際的なベンチマークに基づき、世界水準を超える取組でなければ、激しい競争に勝つことはできない。
○ このため、時代や世界の大きな変化に対応しつつ、社会・国民に夢と希望をもたらし、社会・国民の理解と共感を得られる科学技術の推進に向け、新たな科学技術政策を国家戦略の一つとして策定し、強力に推進すべきである。
1.これからの科学技術政策に関する基本認識
- 我が国及び世界を取り巻く諸情勢は近年大きく変化しており、それに対応できる政府の舵取りが一層重要となる。特に、近年、諸外国は科学技術に関する取組を重点的・積極的に推進しており、我が国が引き離されるリスクは極めて大きい。
- これまでも科学技術振興により、人々の長寿やGDP向上等、国民生活や人類の繁栄に大きく寄与してきた。今後の更なる発展を目指して、政策の成果と課題を検証し、政策を常に進化させていくことが必要である。
- 我が国の科学技術政策は、「社会・公共のための政策」の一つであるということを改めて明確にし、社会・国民との関わりを深めつつ、科学技術によるイノベーションを通じた持続可能で豊かな社会、国、さらには世界づくりを目指す政策へと発展させていくべきである。
<科学技術政策により「目指すべき国の姿」>
科学技術政策を中長期的な視点で立案・推進していくため、政策の大目標として5つの「目指すべき国の姿」を設定。
- 安心・安全で、質の高い社会及び国民生活を実現する国
- 様々な「制約」の中でも、国際的優位性を保持しつつ、持続的な成長・発展を遂げる国
- 世界各国と協調・協力し、地球規模問題の解決を先導する国
- 多様性があり、世界最先端の「知」の資産を創出し続ける国
- 科学技術を文化や文明の礎として育む国
<今後の科学技術政策における3つの基本的方針>
1.科学技術政策から「科学技術イノベーション政策」へと転換する
科学技術の一層の推進はもとより、社会ニーズ等に基づく重要な政策課題の解決を目指す観点から、科学技術政策と、科学技術に関連するイノベーションのための政策とを組み合わせた総合政策へと転換する。
2.科学技術イノベーション政策を「社会とともに創り、実現」する
「社会・公共のための政策」として、社会・国民の幅広い参画とともに、理解と信頼を得ていくための取組を推進。また、科学技術イノベーションに向け、人文科学や社会科学とも連携し、幅広い取組を推進する。
3.科学技術イノベーション政策において「人と、人を支える組織の役割」を一層重視する
第3期基本計画における基本姿勢である「モノから人へ、機関における個人の重視」の考え方を更に発展・強化し、「人材の育成・確保」と、イノベーションにおいて重要な「人と人のつながり」を支える組織の役割を重視する。
2.科学技術基本計画に基づく政策の発展
1.第1期基本計画
2.第2期、第3期基本計画
- 「科学技術の戦略的重点化」の推進(重点4分野、戦略重点科学技術等)
- 競争的資金の拡充、人材の養成・確保・活躍促進に向けた取組
- 社会・国民に支持される科学技術の推進
3.ポスト第3期基本計画
- 「基礎科学力の強化」と「重要な政策課題への対応」を車の両輪として推進
- 従来の「分野別の重点化」の考え方から、地球温暖化対策等の「課題対応での重点化」に転換
- 基礎科学力の強化に向けた創造的人材と、イノベーションのための多様な人材の養成・確保
- 社会との双方向での連携等、「社会・公共政策」としての新たな取組の推進
3.ポスト第3期基本計画としての科学技術の総合戦略に向けた主要事項
(1)基礎科学力の強化
我が国の持続的な成長発展や人類の存続に関わる諸課題の解決に向け、新たな知的資産の獲得等を目指す研究や、その担い手たる創造的人材の育成、研究発展のための制度改革等を推進し、科学技術先進国としての長期的視野での基盤と源泉を確保する。
1.基礎科学力の強化に向けた研究の推進
- 知的資産の獲得、イノベーションにつながる創造的研究を一層支援(基盤的経費や科学研究費補助金の拡充等)。併せて、研究者の社会に対する説明責任を強化。
2.知識基盤社会をリードする創造的人材の育成
- 大学院における教育プログラムの基本的事項の提示、大学と産業界の協働によるカリキュラム作成、大学教員の人材育成に係る意識改革等を推進。
- 大学院生への経済的支援の充実(TA、RA等の給付型経済的支援の大幅拡充等)と、修了後のキャリアパスの多様化を促進(研究管理関連職や知財関連職、産学連携コーディネーター、キャリアパス拡大に向けた人材育成)。
- テニュアトラック制の導入、女性研究者の登用(数値目標の設定等)、海外からの研究者の登用等を促進。
- 初等中等教育段階における理数教育の充実(教員の指導力向上、才能を見出し伸ばす取組)。
3.独創的な研究の発展に向けた研究開発システムの改革
- 競争的資金制度間の連続性の確保や、ハイリスク研究、異分野融合研究等への支援、研究資金の一層の弾力的な管理・運用等、創造的な研究開発システムの整備。
- 研究開発評価の効率化等、評価システムの改善と評価文化の醸成。
4.大学等の教育研究力の強化
- 研究活動を効果的に推進するための体制整備(研究管理専門職や研究技術専門職等)や大学等の施設・設備の整備及び共同利用・共同研究を推進。
(2)重要な政策課題への対応
国が政策的に推進すべき研究開発は、社会・国民に対する成果の提供を第一義として、我が国や世界各国が解決すべき重要な問題に対応すべく重点的に推進する。
特に、研究開発の重点化については、これまで2期10年間にわたって進められてきた「分野別の重点化」の成果を活かしつつも、「課題対応での重点化」へと大きく転換する。
また、アジア諸国との協力を重視し、共同プロジェクトの実施等を通じ、アジアにおけるリーダーシップを発揮するとともに、科学技術外交を多層的に展開。さらに、研究開発実施体制を強化する。
1.重要な政策課題に対応した研究開発の推進
- 「目指すべき国の姿」に対応した地球温暖化対策等の「重要政策課題(仮称)」を10数件程度設定し、各「重要政策課題(仮称)」への対応に向けて必要となる研究開発への重点化を図る。
- これらの研究開発の総合的な推進に向け、産学官の協働の下、府省横断的な研究開発戦略の策定及び研究開発体制の整備による総合力の発揮(「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」及び「戦略マネジャー(仮称)」による実効性あるマネジメント)。
- さらに「重要政策課題(仮称)」に対応した個別の研究開発課題の中で、以下について特に厳選して集中投資。
1)「科学技術イノベーション統合プログラム(仮称)」
5年程度の間にも新たな世界市場の獲得等を目指す研究開発(3~5課題程度)。
2)「国家戦略基幹技術プロジェクト(仮称)」
我が国の独自性・自立性や安全の確保等、長期的視点から国自ら研究開発に継続的に取組む必要のある研究開発。
2.科学技術イノベーションの国際活動の推進
- 各国との多層的な科学技術外交の推進。特に、アジア諸国との協力を重視し、研究ファンドの設置や大型共同研究プロジェクトの実施等を通じて、将来の東アジア共同体構想を科学技術面で先導(「アジア・リサーチ・エリア構想(仮称)」の検討)。
- 若手研究者をはじめ、人材の国際循環を促進(ブレインサーキュレーション)。
3. 政策課題への対応等に向けた研究開発システム改革
- 産学官連携の「場」の形成と、イノベーションのための協働や、地域イノベーションシステムの強化、研究目的に限って特許等を無償開放する仕組みの整備等。
- 初期需要の創出による研究成果の社会実装促進(分野を限定した公共調達枠の設定等)。
- イノベーションの阻害要因となる隘路解消に向けた取組の推進。
4.世界的な研究開発機関の形成及び先端研究基盤の整備
- 研究開発能力を一層高める観点から、新たな研究開発法人制度の検討。
- 世界トップレベルの研究拠点の形成や、世界最先端の研究施設・設備の整備・共用の促進。
(3)社会と科学技術イノベーションとの関係深化
社会と科学技術イノベーションとの双方向での関わりを深めるとともに、政策の実行機能や、他の政策との連携による相乗効果を高めつつ、「社会・公共政策」の一つとしての大きな役割を果たすための取組を推進する。
1.社会と科学技術イノベーションとの連携強化
- 政策への国民参画の促進。
- 科学技術の進展に伴い生じる倫理的・法的課題等(生命倫理、個人情報保護等)への対処や、影響評価(テクノロジーアセスメント)等への取組推進。
- 科学技術コミュニケーション活動の推進。
2.科学技術イノベーション政策に関する企画立案・推進機能の強化
- 科学技術を内閣の意思として推進するための強力な統括組織の整備と、その下での国の科学技術関係予算の総額確保と総合調整機能の強化。
3.科学技術イノベーション政策の実効性の確保
- 社会・国民と科学技術イノベーションをつなぐ人材の養成・確保(研究開発マネジメント人材、基礎的・基盤的な研究成果と産業界や社会との間の橋渡しを担う人材、科学技術コミュニケーター等)。
(4)政府研究開発投資の在り方
米国やEU各国等の先進国のみならず、中国等の新興国も含め、研究開発投資を大幅に拡充。一方、我が国ではここ数年、科学技術への投資は横ばいで推移し、特に平成22年度の国の当初予算においては科学技術振興費が対前年比で減額となるなど、他国との差がさらに拡がる危機的な状況にある。
また、我が国においては、国全体の研究開発費における政府負担割合が他国に比べて低く(2007年度で政府17.4%、民間82.5%)、この点でも他国に比べて大きく後れている。このため、科学技術こそ国を支える生命線との認識に立ち、対GDP比1%の政府研究開発投資を確保することを基本として投資総額を明示的に掲げ、大胆な投資により科学技術イノベーション政策を強力に推進すべきである。