天然資源やエネルギーに乏しく、また少子高齢化や人口減少が急速に進展するなど、様々な制約のある我が国が、将来にわたり持続的な成長を実現するとともに、安心・安全で質の高い国民生活を保証していくためには、これらの制約を克服し、将来の国の成長・発展、さらには国民一人一人の生活を支える基盤を構築していくことが不可欠である。新たな「知」を生み出し、優れた人材によって支えられる科学技術は、これらの構築に向けた有力な手段かつ資源として極めて重要な役割を担っており、我が国の生命線であると言っても過言ではない。
このような観点から、我が国においては、平成7年に国の科学技術の総合的かつ計画的な振興を図ることを目的とする科学技術基本法が制定され、それに基づいて5カ年毎に策定される基本計画において、重要政策とともに、政府の研究開発投資の目標額が掲げられ、国を挙げて科学技術の推進が図られてきた。
実際、同計画に基づき、国の研究開発投資は一貫して増加が図られてきたが、その一方で、第1期基本計画の目標額約17兆円は達成したものの、近年、国及び地方公共団体の財政状況が厳しく、また、我が国のGDPが長期停滞傾向にあることを一因として、第2期基本計画で掲げた目標額約24兆円は達成できておらず(実績額約21.1兆円)、さらに、第3期基本計画における目標額約25兆円についても、現状のままでは達成することが極めて厳しい状況(平成21年度1次補正までで約17.3兆円)となっている。
ただし、この間、目標額の前提となっていたGDPが伸び悩む中(第2期基本計画期間中の名目成長率3.5%前提、実際の名目成長率平均0%)で、科学技術関係経費、特に科学技術振興費については、他の政策経費と比して、高い伸びを確保したことも事実であり、この点については評価すべきである。
しかしながら、近年、米国やEU各国等の先進国のみならず、中国等の新興国も含め、科学技術及びイノベーションが国の将来の成長・発展を左右する極めて重要な要素であるとの認識の下、国の研究開発投資の大幅な拡充を図っている。特に、平成20年に世界中を襲った金融危機・経済不況の後においては、その克服を科学技術やイノベーションに託し、これらに対する国の投資額を一層拡充していくという傾向が、より顕著に見られる。
このような中にあって、我が国は、上述したように政府研究開発投資の拡充が図られてはいるものの、ここ数年は、ほぼ横ばい若しくは微増にとどまっており、他国における投資額の伸び率等と比べると著しく見劣りする状況にあるのみならず、その差がさらに拡大する傾向にある。
このままでは、我が国の唯一の資産とも言うべき科学技術においても、他国から引き離され、国際競争力を失うことにより、結果として、我が国の国際的地位の低下を招くとともに、国の産業をはじめとする成長基盤が将来的に揺らいでいくことが強く懸念される。とりわけ、第3期基本計画の最終年度である平成22年度の国の当初予算においては、科学技術振興費が対前年比で減額となるなど、その危機感が一層高まっている。
このため、今一度、科学技術こそが我が国を支える鍵であるとの認識を国民全体が共有し、本報告書に基づき、社会・国民のための「科学技術イノベーション政策」を掲げ、その理解と協力の下で、科学技術を国家戦略として明確に位置付けた上で、これまで以上に強力に推進していくことが不可欠である。
このような観点から、科学技術イノベーション政策の推進を支える政府の研究開発投資についても強化していくことが必要であり、今後の政策と一体のものとして、国としての明確な投資目標額を掲げていくことが極めて重要である。したがって、今後策定されるべき科学技術の総合戦略においては、第2期及び第3期基本計画期間中に対GDP比で1%の達成を目標として掲げていたものの未達成であること(平成18年度~平成20年度までの対GDP比平均0.82%)、また、我が国の政府負担研究費割合が他国と比べて低い状況にとどまること(平成20年度で政府17.8%、民間81.9%)、その中で、近年、民間企業の研究開発投資が一層厳しい状況にあるが、政府研究開発投資が、いわゆる呼び水となり民間における投資が拡大するという官民の相乗効果が期待されること、さらに、米国やEU、中国等が研究開発投資を拡充する中で、その指標として対GDP比を掲げていること等を総合的に勘案し、我が国においても、政府の研究開発投資の一層の拡充を図るべく、その投資目標としては「政府研究開発投資の対GDP比1%を確保する」ことを基本として、投資総額を明示的に掲げるべきである。その際、本報告書で示した総合的な推進方策に基づき、研究開発の推進や、それに係るシステム改革等を併せて進めていくことが求められる。
また、科学技術イノベーションを推進する上で、その基盤を支える研究者の自由な発想に基づく研究をはじめとする基礎科学は極めて重要であり、また、米国をはじめとする各国も、基礎研究を特に重視して、積極的な推進を図っているところである。このため、我が国においても、新たな知を生み出し、大きなブレークスルーをもたらす可能性のある基礎科学を一層重視していくことが不可欠であり、このような観点から、例えば「特に、基礎科学に対する政府投資については、10年間で倍増を目指す」等を目標に掲げることも検討すべきである。さらに、知識基盤社会で活躍する人材の育成や「重要政策課題(仮称)」に対応した研究開発など、本報告書で示されている主要な取組に関して、取組の規模・目標、そのための投資額等を可能な限り、社会・国民に対して提示していくことも必要である。
加えて、我が国では、研究者の自由な発想に基づく研究を支え、多様な人材を輩出する源である大学等の高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比が、OECD平均の約半分であり、加盟国中で最低水準にある。このことは、科学技術及びそれを支える人材こそが資源である我が国にとって、極めて由々しき事態であると言わざるを得ない。このため、科学技術に対する政府研究開発投資の目標を設定するに当たっては、高等教育機関に対する公財政支出の在り方についても考慮していくべきである。
科学技術・学術政策局計画官付