3.重要な政策課題への対応

1.重要な政策課題に対応した研究開発の推進

 現下の厳しい財政状況等に鑑みると、我が国が優れた研究開発成果を上げるとともに、その成果の社会還元を進めていくためには、より一層効果的・効率的な研究開発投資を進めていくことが極めて重要であり、第3期基本計画までの研究開発の重点化に関する課題や、国内外の諸情勢等を踏まえ、国の方針の下で行われる研究開発対象の選択・集中及び資源の戦略的配分について、不断の見直しを行っていくことが必要である。
 国が政策的に推進する研究開発としては、科学技術イノベーション政策の2つの政策的アプローチに対応し、2.1.で掲げた「基礎科学力の強化に向けた研究」と、ここで掲げる「重要な政策課題に対応した研究開発」という2つに大別される。
 このうち後者については、国が主導して計画的・総合的に推進する研究開発という本来の趣旨に鑑みると、これらの研究開発は様々な価値の創出等を通じて、国民が、その利益を享受できるようにすることが特に要請されるものである。このような観点から、国の主導の下で行われる研究開発については、我が国や世界各国が解決すべき重要な政策課題(ニーズ)を明確に設定するとともに、イノベーションをも標榜しつつ、それぞれの課題に対応した研究開発への重点化を図っていくことが必要である。
 しかしながら、第2期、第3期基本計画において特に重点を置き優先的に資源配分するとされた「重点推進4分野」及び「推進4分野」については、政策目標と重点分野との関連が不明確であることや、研究開発分野の設定においてシーズ側の視点とニーズ側の視点が混在していること、また第3期基本計画で重点投資の対象として選定された戦略重点科学技術についても、対象が個別技術に限定され、必ずしもニーズに対応した総合的な科学技術になっていないこと等が問題点として指摘されている。さらに、研究資金配分の断絶等によるシーズから出口までの研究の不連続性や、分野の縦割り等による新興・融合分野の研究開発の停滞等の問題も指摘されている。
 これらの点を踏まえ、今後の科学技術政策においては、これまでの「重点推進4分野」及び「推進4分野」という分野での重点化の考え方は踏襲せず、新たに次に示す考え方に基づき、1.5.で述べた5つの「国の姿」に対応した「重要政策課題(仮称)」を複数設定(10数程度)し、「重要政策課題(仮称)」ごとに、その対応に必要となる科学技術イノベーションの「重点研究開発領域(仮称)」、及び、その下での個別の研究開発課題を導き出す形で重点化を行う(別添1~3参照)。
 なお、これらの「重点研究開発領域(仮称)」等の抽出に当たっては、「重要政策課題(仮称)」への対応に必要となる研究開発等について、これまでの重点推進4分野及び推進4分野において重点的に推進することが求められている研究開発課題とのマッチングの結果等に配慮する。
 さらに、「重要政策課題(仮称)」に基づく研究開発を確実に推進する観点から、具体的には、以下の取組を推進する。
 1)「重要政策課題(仮称)」に対応した研究開発の推進
 2)「科学技術イノベーション統合プログラム(仮称)」の創設
 3)「国家戦略基幹技術プロジェクト(仮称)」の創設
 4)多様な研究資金制度及び効果的なマネジメント体制の整備
 5)新興・融合研究開発の促進

<「重要政策課題(仮称)」設定の考え方>

1)質の高い国民生活の実現
  • 国民生活に密着した様々な課題について、一定期間に集中投資することで、イノベーションにつながり、現在及び将来にわたって、人々に対し、真に安心・安全で質の高い社会及び国民生活を実現することが可能となると見込まれるもの

【「重要政策課題(仮称)」の例】
再生医療・難病医療、がん対策、予防医療、こころの健康向上、環境保全・浄化対策、地震・火山・津波・風水害等対策、防犯・テロ対策、社会インフラ高度化・堅牢化 等

2)国際的優位性の保持
  • 我が国を取り巻く様々な「制約」の中にあって、経済社会上の国際的優位性を保持するため、一定期間に集中投資することで、イノベーションによる「制約」の克服、新産業の創出及び競争力の強化、社会システムの変革など、短中期的に社会的・経済的に大きな波及効果が見込まれるもの

【「重要政策課題(仮称)」の例】
エネルギー多様化・安定供給、省エネルギー対策、資源確保・利活用促進、アンビエント環境(人間・環境に適応した情報基盤)実現、公共・産業サービス高度化 等

3)地球規模の問題解決の先導
  • 地球規模で発生し、人類の生存をも脅かすおそれのある課題について、一定期間に集中投資することにより、中長期的に、イノベーションを通じた画期的な解決策を提示し、国際協調・協力の下で、世界を先導することが可能となると見込まれるもの

【「重要政策課題(仮称)」の例】
地球温暖化対策、資源・エネルギー対策、食糧・水対策、生物多様性保全、新興・再興感染症対策、大規模自然災害対策、核不拡散・平和利用対応 等

4)未知・未踏領域への挑戦
  • 世界に先駆けて未知・未踏領域に挑戦し、新たな「知」の獲得及びその蓄積を図るため、一定期間に集中投資することで、科学技術の限界突破が可能となると見込まれるもの

【「重要政策課題(仮称)」の例】
生命の統合的理解、物質現象・機能等解明、宇宙の理解と解明、海洋・地球システム解明 等

<推進方策>

1)「重要政策課題(仮称)」に対応した研究開発の推進
  • 国は、上述した考え方に基づき、社会・国民からの要請等を踏まえつつ、科学技術イノベーション政策で対象とすべき「重要政策課題(仮称)」を複数設定(10数程度)する。「重要政策課題(仮称)」に対応した研究開発については、基礎から応用、開発段階、さらに社会実装の段階まで幅広いフェーズに及ぶとともに、実施主体も各省庁から資金配分機関、大学等、公的研究機関、産業界まで多岐にわたることから、これらの研究開発に参画する関係機関若しくは研究者等により構成される合議体として、新たに「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」を創設する(別添4参照)。本プラットフォームは、それぞれの「重要政策課題(仮称)」ごとに科学技術イノベーション政策を統括する役割を担う組織(以下、「統括組織」という。)等の中に置くこととする。
  • 本プラットフォームにおいては、それぞれの「重要政策課題(仮称)」に対応する個別戦略について、幅広い観点から検討を行う。具体的には、「重要政策課題(仮称)」への対応に不可欠な「重点研究開発領域(仮称)」や個別研究開発課題、それぞれの達成目標、研究開発の推進体制、研究開発の資金配分の在り方等について検討を行い、その結果に基づいて、統括組織が「重要政策課題総合戦略(仮称)」として策定する(別添3参照)。
  • また、本戦略の実効性を担保するためには、参画する関係機関等が連携・協力しつつ、研究開発を推進していくことが不可欠であり、その推進の場として、「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」を活用する。
  • さらに、本プラットフォームを主導し、府省横断的に、参画する関係機関間の研究開発の総合調整等に係る全体マネジメントを担う者として、本プラットフォームが置かれる統括組織等に、それぞれの「重要政策課題(仮称)」に対応する「戦略マネジャー(仮称)」及びその支援体制を整備する。
2)「科学技術イノベーション統合プログラム(仮称)」の創設
  • 国は、我が国が特に強みを有する科学技術を基盤として、産学官の総合力を結集し、イノベーションにより、5年程度の間にも、地球規模の問題に対する斬新な解決策の提示や、新たな世界市場の獲得等を目指す研究開発を対象とする「科学技術イノベーション統合プログラム(仮称)」を創設する(別添3参照)。
  • 本プログラムでは、複数策定された「重要政策課題総合戦略(仮称)」における「重点研究開発領域(仮称)」や個別研究開発課題の中から、統括組織等が対象課題を選定(3~5課題程度)し、集中投資を行う。
  • 本プログラムは、産学官の幅広い参画を得て、基礎研究から出口指向の研究開発、さらには社会実装の取組等までを、一貫性を持って推進するものであり、対象課題ごとに、「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」において、参画する関係機関等がロードマップやPDCAサイクルの在り方を含む推進戦略について検討を行い、その結果を踏まえ、統括組織が「科学技術イノベーション統合プログラム推進戦略(仮称)」を策定する。
  • また、本プログラムの推進に当たっては、研究開発成果の事業化等を通じたイノベーションを目指す観点から、研究開発成果を出口に橋渡しする役割を担うプログラムマネジャーの下、ビジネスモデルの検討を含む社会実装の取組を特に重視することとする。
3)「国家戦略基幹技術プロジェクト(仮称)」の創設
  • 国は、国益につながる競争力・外交力の確保・強化や国の独自性・自立性の確保、国の主権の確保、国の安全の確保等の必要性に由来し、それらの課題解決の成果が中長期にわたって国の存立基盤をなすとともに、国際的優位性を確保し、ひいては地球規模問題の解決にも貢献できるもの(「広義の安全保障」)であって、長期的視点から国自らが研究開発に継続的に取り組み、これらの成果やノウハウ等を長期間かつ広範な分野にわたって蓄積する必要があるものを対象とする「国家戦略基幹技術プロジェクト(仮称)」を創設する(別添3参照)。
  • 第3期基本計画の下で「国家基幹技術」として推進している5課題(高速増殖炉サイクル技術、宇宙輸送システム、海洋地球観測探査システム、次世代スーパーコンピュータ、X線自由電子レーザー(XFEL))については、上述した考え方に基づき改めて評価を行い、それを踏まえて「国家戦略基幹技術プロジェクト(仮称)」の対象とすべき課題を選定する。
  • その上で、統括組織は、複数策定された「重要政策課題総合戦略(仮称)」における「重点研究開発領域(仮称)」や個別研究開発課題の中から、新たに本プロジェクトの対象課題を選定し、集中投資を行う。
  • また、本プロジェクトの推進に当たっては、対象課題ごとに、プロジェクト全体のマネジメントを担うプロジェクトマネジャーの下、関係機関等が連携・協力しつつ、中核的実施機関の指定、実施計画の策定、国際協力・貢献の在り方、知的財産等の保全の在り方、さらには人材確保方策等に関する中長期的な戦略として「国家戦略基幹技術プロジェクト戦略(仮称)」を策定し、それに基づき、必要な法整備等も含め、国による特別な支援を受けて推進することとする。
4)多様な研究資金制度及び効果的なマネジメント体制の整備
  • 国は、「重要政策課題総合戦略(仮称)」に基づく個別の研究開発を確実に推進していくためには、基礎研究の段階から、より出口に近い研究開発の段階に至るまで、連続的な研究支援を行うとともに、研究推進に際して政策的な要請を適時適切に反映できる仕組みを構築することが不可欠であることに鑑み、研究開発の各段階に対応した多様な研究資金制度(非競争的資金を含む)を整備し、併せて、これらの制度間の円滑な接続を強化する。
  • また、国は「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」において検討される「重点研究開発領域(仮称)」の下での個別の研究開発課題や、これらの成果目標・達成時期、実施方法等の内容を踏まえ、研究資金制度の目的や特性等に応じて、それぞれの制度における対象課題の設定や研究費の配分等について、適時適切に見直しを行うための制度的枠組みを整備する。
  • その際、特に基礎段階にある研究や幅広い分野への応用が期待される基盤的な研究について、政策的な要請を反映しつつ、研究者の自由な発想に基づく研究で行われた優れた研究等の更なる進展を図る観点から集中的かつ重点的に支援するための研究資金を一層拡充する。
5)新興・融合研究開発の促進
  • 政策課題に対応した研究開発を推進し、成果目標を達成するためには、専門化・細分化された単一の研究分野における研究開発のみではなく、関連する分野の研究開発を融合させ、相乗的に発展させる異分野融合型の研究開発が不可欠であるとの認識の下、第3期基本計画において「新興・融合領域への対応」が掲げられたものの、未だこれらの研究開発を促進する基盤は未成熟である。
  • このため、国は、「重要政策課題(仮称)」に基づくアプローチにより、基礎研究段階から出口指向の研究開発段階まで、様々なフェーズや政策課題等に応じて新興・融合型の研究開発を促進するための仕組みを整備する。また、このような課題への対応に向けて、自然科学の分野のみならず、人文科学や社会科学の観点までも含めた、総合的な取組を推進する。大学等においても、研究分野を越えた新興・融合研究を促進するため、研究者を組織的・継続的に支援していくことなどが期待される。
  • さらに、異分野融合を促進するとともに、相乗的に研究開発を発展させることを目指し、飛躍的な技術革新を先導する研究開発や、幅広い分野に共通して用いられる基盤的な研究開発を推進する。

2.科学技術イノベーションの国際活動の推進

 今後、我が国が成熟した民主国家として、地球規模の問題解決に向けて先導的な役割を担い、また経済的にも世界の中で枢要な地位を占めていくためには、我が国の科学技術イノベーション政策を、国際競争のみならず、国際協調・国際協力の観点から戦略的に進めていくことが不可欠である。
 その一方で、中国、インド等の新興国の台頭による世界の多極化が急速に進展する中、科学技術活動についても、研究者や研究費等の規模を十分に確保していくことが不可欠であるが、これらについて国際社会における我が国の占める割合が、長期的に低下傾向となることは避けられず、より質を追求した重点的な国際協力活動と幅広い分野におけるネットワークの強化が一層重要となることを認識することが必要である。
 このため、今後の科学技術の国際活動の推進に当たっては、我が国が特に強みを有し重要と考えられる分野においては、相手国・地域と相互に有益な関係を構築し、人材の養成・確保を含めた質の高い科学技術協力を重点的に推進することにより、我が国の持続的な成長・発展と、地球規模あるいは地域共通の課題への対応で国際的な責務の遂行を目指し、また他国がリードする分野においては、その優れた点を積極的に取り入れた国際協力を推進し、我が国の当該分野における科学技術力の向上等を目指すなど、諸外国・地域との関係を勘案しつつ、国際的な視野と戦略を持った上で、重層的なネットワークを構築していくことが重要である。
 さらに、我が国の科学技術について、世界あるいは地球、さらには人類生存のための手段として捉え、諸外国・地域における人材の育成や科学技術水準の向上を目指した取組を推進するとともに、少子高齢化や地球温暖化の問題等に積極的に取り組み、また、核不拡散等に関する協力を強化するなど、当該国等の社会的・経済的な問題、ひいては地球規模で発生する課題の解決等を図ることにより、我が国に対する確かな信頼を築いていくことが重要である。
 上述した視点を踏まえ、今後の科学技術の国際活動については、以下の主要事項について推進する。さらに、統括組織を中心に、これらの国際活動を府省横断的に推進するための包括的かつ総合的な戦略として「科学技術イノベーション国際戦略(仮称)」を策定することが必要である。
 (1)科学技術外交の戦略的推進
 (2)頭脳循環(ブレインサーキュレーション)の促進
 (3)科学技術の国際活動を推進するための基盤強化

(1)科学技術外交の戦略的推進

 我が国は、世界の中でも高い科学技術水準を有しており、科学技術に関する先端的な研究開発活動や、そこで得られた成果等を、地球規模や地域共通の課題の解決等に向けた我が国の外交政策の一環として積極的に活用するとともに、これらの外交活動を我が国の科学技術の一層の発展に役立てるなど、科学技術と外交活動の相乗効果を高めるための取組を一層強化していくことが重要である。
 その際、科学技術分野で多層的な国際ネットワークを発展させていくためには、相手国や地域の特性や分野の特性に応じた取組を進めていくことが不可欠であり、我が国や相手国・地域の強み、弱みの分析や科学技術活動における国際動向等も勘案しながら、先進国から開発途上国まで多様で重層的な協力関係を構築していくことが必要である。
 現在、我が国は、48の国・地域との科学技術協力協定等を締結するとともに、G8や経済協力開発機構(OECD)等の多国間の枠組みを活用した科学技術の協力関係を構築しているところであるが、今後は、上述したような観点を踏まえ、二国間あるいは多国間の枠組みを有効に活用した科学技術外交の戦略的な推進に向けて、関係省庁、機関間で密接に連携・協力しつつ、これらを機動的に進めるための財政措置を一層拡充するとともに、科学技術外交の体系的かつ総合的な取組を進めていくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)先端科学技術に関する国際協力の推進
 2)地球規模の問題に関する開発途上国との協力の推進
 3)アジア諸国等との対等なパートナーシップによる協力
 4)多面的な国際協力の推進

<推進方策>

1)先端科学技術に関する国際協力の推進
  • 国は、我が国及び人類全体の持続可能かつ安心・安全で質の高い生活の実現に向けて、我が国の科学技術水準の一層の向上を図る観点から、高い科学技術水準を持つ諸外国との共同研究等において、環境・エネルギー技術など、我が国が強みを持つ分野等への重点化を図るとともに、幅広い分野での国際的なネットワークの充実を図りつつ、先端科学技術に関する国際協力を強力に推進する。
  • 国は、長期的な見通しに立った基本方針を持った上で、国際的な大規模プロジェクトへの参加を推進する。その際、それぞれの領域における我が国の国際的な位置づけや、当該プロジェクトに関する国民負担と社会還元との関係等を勘案した上で、主導的な立場を担うか、あるいは一定の参画にとどめるかの判断を行う。
2)地球規模の問題に関する開発途上国との協力の推進
  • 国は、アジア、アフリカ、中南米等の開発途上国における科学技術協力が国際社会における我が国の責務であるとともに、相手国及び我が国の科学技術、人材育成の一層の発展・向上に資するものであることに鑑み、関係省庁・機関の連携・協力の下、国際共同研究とODAによる技術協力を組み合わせた取組を充実・強化する。
  • 国は、留学制度との組み合わせを図りつつ、国際共同研究に関与した相手国の若手研究者が我が国で学位を取得することを支援するなど、人材育成での協力を進めるとともに、共同研究に我が国の若手研究者を活用するなど、多面的な人材育成を進める。
3)アジア諸国等との対等なパートナーシップによる協力
  • 国は、中国、韓国、シンガポール、インド、南アフリカ、ブラジルなど、科学技術力を高めてきているアジア・アフリカ・中南米諸国等との間で、対等なパートナーシップでの共同研究を推進するなど、これらの国々との科学技術協力を強化する。
  • 国は、今後、著しい科学技術の発展が見込まれるアジア地域において、リーダーシップを発揮しつつ、新興国の先進的な部分を柔軟に取り入れるなど、先見性を持ち、また域外にも開かれた形で相互利益の関係を構築する。具体的には、例えば地球温暖化や生物多様性等の領域において、アジア諸国と協力して、世界に開かれた国際的な研究ファンドの設置や大型の共同プロジェクトの実施等を通じて、アジアを中心とした科学技術コミュニティを構築し、将来の東アジア共同体構想を科学技術面で先導する「アジア・リサーチ・エリア構想(仮称)」について検討する。
  • 国は、アジア諸国のうち、特に中国について、欧米に匹敵する科学技術大国となりつつあることに鑑み、幅広い分野で人材交流、共同研究を強化する。また、韓国については、中国とともにアジアの科学技術を先導する国として、共通の課題の解決等に向けた協力を強化する。
4)多面的な国際協力の推進
  • 国は、G8、APEC、ASEAN等の国際的枠組みや、国連、先進諸国との協力におけるOECD、アジア・アフリカ諸国等とのネットワークを持つ国際連合教育科学文化機関(UNESCO)等の国際機関の活用を推進する。
  • 国は、各国の政策決定に大きな影響を与える会議(気候変動問題におけるIPCC、水問題に関する世界水フォーラム)等の議論において、我が国の科学技術を活かし、その初期段階から国際的な合意形成や新たな枠組み作りを先導する。
  • 国は、国際的な核不拡散体制の強化に向けて、核不拡散条約(NPT)を遵守し、また国際原子力機関(IAEA)と連携して、国内の保障措置体制を強化するとともに、国際的な核不拡散及び平和利用の取組を先導する。
  • 国は、科学技術閣僚会議等の開催を通じて、首脳や閣僚による諸外国との科学技術に関する政策対話を充実する。
  • 国及び関係機関は、これまで二国間あるいは多国間協力で培ってきた両国政府間・機関同士の連携の下、各種の政府間対話や科学技術協力協定に基づく協力等を、一層効果的に推進する。

(2)頭脳循環(ブレインサーキュレーション)の促進

1.日本の研究者等の海外派遣及び活躍促進

 我が国の研究者が国際的な研究環境に積極的に飛び込み、活躍する機会を得るとともに、海外で経験を積んだ後に帰国し、我が国の研究開発活動等に貢献する、また海外から留学生や研究者等を積極的に受け入れ、世界で活躍する人材として養成・輩出することにより、我が国の科学技術水準の向上やイノベーションの推進、さらには世界の問題解決に寄与する、という2つの観点から、世界規模で進む「頭脳循環(ブレインサーキュレーション)」の中で、我が国が枢要な一角を占めていくことが極めて重要である。
 このうち、我が国の研究者等の海外派遣に関しては、近年、特に若手研究者が帰国後のポストの確保が困難であることなどを一因として、海外での研究従事に消極的であると指摘されている。実際、欧米への長期派遣者数は近年減少傾向にあり、また、米国での博士号取得者についても、中国やインド国籍者の数が急増する中で、日本人の占める割合は低下傾向にある。このため、優れた資質能力を有する研究者等が、積極的に海外での研鑽を積むことができるよう、海外留学・派遣に際しての資金援助やその後の就職支援等の環境整備を充実していくことが不可欠である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)教育段階に応じた取組の推進
 2)海外経験に対するインセンティブの付与

<推進方策>

1)教育段階に応じた取組の推進
  • 国は、初等中等教育段階から、大学学部、大学院の段階を通じて、コミュニケーション能力や外国語運用力、リーダーシップ、交渉力など、将来、国際的なネットワークの中核として活躍するために不可欠な資質能力の育成に向けた取組を推進する。
  • 国は、大学学部、大学院段階の学生を対象に、海外企業へのインターンシップを含め、海外派遣や海外の大学への留学機会等を拡充する。
  • 大学は、海外の大学等や研究機関等との連携の下、単位互換や我が国の大学と海外の大学間におけるダブルディグリー等の国際的な教育連携をはじめとする大学間交流に関する協定の締結や奨学金の充実、海外における共同利用事務所の設置といった情報発信機能の強化等の環境整備を通じて、学生や研究者の相互交流を促進することが期待される。
  • 国は、自らの研究課題の遂行や国際共同研究に従事するなど目的意識の明確な若手研究者や、博士号取得直前に海外の研究所を訪問する学生等の主体的・実践的な取組を奨励するなど、若手研究者等の海外派遣を大幅に促進するための支援を一層拡充する。
  • 国は、若手や中堅の研究者を対象に、研究ネットワークの構築・強化に向けて、国際会議やシンポジウム等への参加に対する支援プログラムの拡充等を推進する。
2)海外経験に対するインセンティブの付与
  • 大学等及び公的研究機関は、海外での研究経験が若手研究者の採用等において適切に評価され、かつ透明で公平性の高い人事システムを構築することが期待される。また、大学等は、海外経験を積極的に得ることができる人事制度の確立や、海外研鑽の義務付けなど、海外経験に対するインセンティブの付与について検討することが期待される。
  • 国は、大学等及び公的研究機関における研究者等の海外留学・派遣を促進するため、組織的な取組に対する評価や支援の在り方を検討する。

2.海外からの研究者等の受入れ及び活躍促進

 我が国が、世界的にも高い科学技術水準の維持・向上を図っていくためには、優れた研究開発や魅力ある研究開発拠点の形成等を推進し、また海外から異なる価値観や多様なバックグラウンドを持つ研究者等を積極的に受け入れることで、大学等や公的研究機関等の国際化を進め、競争的環境を醸成することにより、研究活動の活性化を図っていくことが重要である。
 我が国においては、近年、海外からの受入れ研究者数は増加傾向にあるものの、長期については、研究環境や生活環境の不安等を一因として、近年、全ての地域からの受入れが減少傾向にある。一方で、米国や英国では、我が国と比べて博士課程における外国からの学生の比率が高く、優秀な学生を引きつけるための招へい活動を積極的に行うとともに、帰国する留学生や研究者等とのネットワークを維持するための資金提供や、再招へい等の活動を推進していることなどを踏まえ、我が国においても、海外からの留学生や研究者等の受入れの拡充に向けた取組を強化していくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)海外からの研究者等の受入れの拡充
 2)大学等における受入れ体制の整備と帰国後のネットワークの維持・発展
 3)周辺環境の整備

<推進方策>

1)海外からの研究者等の受入れの拡充
  • 国は、多様なキャリアを持つ海外からの優秀な研究者の受入れを大幅に促進するための支援措置を拡充するとともに、「留学生30万人計画」に基づき、留学生の受入れ体制の整備に関する大学への支援等を通じて、優秀な留学生の戦略的な獲得を進める。また、同計画に基づいて受け入れた優秀な留学生が再来日し、研究に従事するような招へいプログラムを充実する。
  • 国は、大学等及び公的研究機関における海外からの研究者の採用や、留学生の就職支援活動を促すため、組織的な取組に対する評価や支援の在り方について検討する。
2)大学等における受入れ体制の整備と帰国後のネットワークの維持・発展
  • 国は、海外からの優れた研究者や海外で活躍する日本人研究者を招へいするため、大学等や公的研究機関における海外と整合性のある制度を備えた研究環境の整備や、給与等の処遇面を国際水準にできるような条件整備等を支援する。
  • 国、大学等及び公的研究機関は、国際的な教育研究拠点や研究開発拠点を形成し、第一線の研究者の相互交流等を促進する。
  • 国及び公的研究機関は、帰国する留学生や研究者について、国際的に開かれたネットワーク構築において重要な役割を担う者として関係の維持・強化を図るため、再招へいや研究費支援等の取組を推進する。
  • 大学等及び公的研究機関は、優れた研究成果を国際的に発信するとともに、より研究に従事しやすい研究環境の整備や、生活面での支援を含めた専門性の高い職員を配置した事務局体制の整備等を推進することが期待される。
3)周辺環境の整備
  • 国は、研究機関等の集積している都市において、周辺自治体と連携し、海外からの研究者の子どもの教育や配偶者の就職、医療など、家族のいる研究者の招へいや定着に不可欠な環境整備を重点的に推進するとともに、それらに係る隘路の解消に向けた取組を進める。

(3)科学技術の国際活動を推進するための基盤強化

 我が国の科学技術に関する二国間あるいは多国間の国際協力活動を戦略的に推進し、国際的な人材流動の促進や国際研究ネットワークの強化を図っていくためには、科学技術外交や頭脳循環(ブレインサーキュレーション)の取組も含め、科学技術イノベーションに関わる幅広い国際活動を展開するための基盤を整備していくことが極めて重要である。
 特に、我が国においては、科学技術に関する海外動向についての情報の蓄積や、その体系化等が不十分であるとの指摘や、国の安全保障にも関わる機微技術や知的財産等の管理について課題が指摘されており、このような国際活動の推進に不可欠な共通基盤を強化していくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)日本の科学技術の情報発信及び海外動向情報の収集・分析体制の強化
 2)科学技術の国際活動を担う体制の強化
 3)我が国発の科学技術の知的財産としての国際展開
 4)機微技術・安全保障関連技術等の管理体制の強化

<推進方策>

1)日本の科学技術の情報発信及び海外動向情報の収集・分析体制の強化
  • 国は、我が国の科学技術に関する取組について、様々なメディア等を通じて、積極的な情報発信に努めるとともに、学会等の研究者コミュニティによる情報発信を支援する。
  • 国は、研究開発競争で先行する上で、諸外国の研究プログラムの立ち上げに向けた動向の早期把握や各国特有の背景の理解に基づくデータ等の的確な解釈のため、情報を継続的・組織的・体系的に収集・蓄積・分析し、横断的に利用する体制を構築するとともに、これらに携わる人材の育成等を進める。
2)科学技術の国際活動を担う体制の強化
  • 国は、在外公館の科学技術アタッシェの体制強化を進めるとともに、科学技術アタッシェと、在外の研究者や大学等の海外拠点等との情報交換や協力体制の構築等を進める。
  • 国は、大学等や公的研究機関等と連携・協力しつつ、これらの機関の海外拠点における国際業務を担う専門人材の養成・確保に向けて、博士号取得者の登用や、キャリアパスの整備等を推進する。
  • 国は、公的研究機関による海外の研究所の設置を促進するため、制度面の課題整理等に関する調査研究を推進する。
  • 国は、機関間や研究者同士のネットワーク、NGOや産業界等の国際活動を促進するため、諸外国の関係機関等との合同ワークショップ開催、短期の人材交流、NGO等が持つノウハウの官民連携での活用等の取組を支援する。
  • 大学等は、海外の研究者コミュニティとのネットワーク構築や研究機関の海外設置の際のサポート機能を強化する観点から、海外事務所の効果的な設置及び国内本部や他機関の海外事務所等との連携等を強化することが期待される。
3)我が国発の科学技術の知的財産としての国際展開
  • 国は、大学等や公的研究機関における国際的な産学連携活動を支援するとともに、海外特許の出願や維持、周辺特許の取得、標準化等を含めた事業化への展開等を支援する。また、大学等や公的研究機関と協力して、知的財産の適切な権利化の在り方について検討する。
  • 国は、我が国発の科学技術の普及・標準化につなげるため、当該分野の国際的なネットワーク形成を目指す共同研究や研究交流等を支援する。
  • 大学等、公的研究機関及び所属する研究者等は、国際標準化機構(ISO)等における専門委員会の議長の引受け等に関して、産業界との連携・協力を進め、積極的な役割を果たしていくことが期待される。
4)機微技術・安全保障関連技術等の管理体制の強化
  • 大学等及び公的研究機関は、国際共同研究や国際交流を進める際、機微技術や安全保障関連技術の適切な管理が不可欠であることに鑑み、研究者や関連する事務職員等の意識向上等に係る取組を推進することが求められる。
  • 大学等及び公的研究機関は、組織的な機微技術管理、研究者や留学生の受入れ時の経歴チェック等の対応を実施するための専門人材の育成・配置等を推進することが求められる。また、国は、これらの取組に対する支援を充実する。

3.政策課題への対応等に向けた研究開発システムの改革

 国の重要な政策課題への対応等に向けて、科学技術の一層の発展を図るとともに、科学技術によるイノベーションを実現していくためには、研究開発を推進する上で基盤となる仕組みや、研究開発により得られた成果を迅速かつ確実にイノベーションに結びつける仕組み等を構築していくことが不可欠であり、そのための研究開発システムの改革を強力に推進していくことが必要である。
 特に、イノベーションの萌芽となる基礎的な研究活動を担う大学等において、研究者が生み出した独創的・先進的な研究成果を活かしていくためには、それを活用する産業界との協力を推進していくことが極めて重要であり、産学での共同研究等を促進することはもとより、国においても、これらに対する支援や産学間の橋渡しの役割を強化するなど、産学官の連携活動を一層強力に推進していくことが必要である。これまでも大学等では、産学官連携に係る体制整備が進み、一定の成果を上げてきているが、研究活動の一層の活性化を図るとともに、その成果をより効果的にイノベーションに結びつける観点から、産学官連携を一層深化させていくことが求められる。
 また、地域において、大学等を中心に地域産業や地方公共団体との間で行われる産学官連携の活動は、研究により生まれた成果の産業化等を通じた活力のある地域づくりを進める上で極めて重要な手段であり、国の重要な政策課題の一つである地域活性化や、地域の自立的な発展等に資するものであることから、国と地方が協力しつつ、その着実な振興を図っていくことが必要である。
 その一方で、社会・経済のグローバル化が進展し、知をめぐる国際競争が激化する中、産学官の連携も、国境を越えた多様な活動が急速に進展しており、大学等が有する研究成果等の知的資産について、国際的な観点も含め、その適切な保護・権利化を図るとともに、有効な利活用を促進していくことが不可欠である。
 上述した視点を踏まえ、産学官連携をはじめとする研究開発システムの強化に関しては、以下の主要事項について推進する。
 (1)産学官の持続的・発展的な連携システムの強化
 (2)地域イノベーションシステムの強化
 (3)国際競争力強化のための知的財産戦略の推進
 (4)研究成果の社会実装の促進

(1)産学官の持続的・発展的な連携システムの強化

1.産学官連携の深化に向けた「場」の形成

 産学官連携は、大学等で創出された独創的・先進的な研究成果をイノベーションにつなげ、その利益を社会に還元するための有効な手段であるとともに、国際競争力の強化や新興・融合領域への展開、社会において必要とされる人材の育成、さらには効果的・効率的な研究開発システムの構築等にも資するものであり、我が国の研究開発活動の活性化を図る上で極めて重要な役割を担っている。
 このため、これまでの科学技術政策においても、産学官連携活動の積極的な推進を図ってきたところであり、国による産学官連携を促進するための戦略策定や支援事業等の実施、また、大学等における企業との共同研究・受託研究の実施、大学発ベンチャー等の事業化支援活動や産学官連携体制の整備等により、産学官連携活動は着実に成果を上げてきたところである。
 その一方で、大学等が有する優れた研究成果を、企業等との連携により、イノベーションに効果的・効率的に結びつけていくための取組や、産学官連携をより円滑に進めるための企業等のニーズを踏まえた研究開発や人材育成等は、未だ十分とは言えず、産学官連携活動の一層の深化を図る観点から、国、大学等及び公的研究機関、さらには産業界が解決あるいは達成すべき課題の設定から、具体的な研究開発の推進に至るまで、組織的・戦略的な取組を可能とするための新たな産学官協働の仕組みを形成していくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」の創設
 2)「競争」と「協調」による新たな研究開発の仕組みの構築
 3)多様な産学官連携拠点の形成

<推進方策>

1)「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」の創設
  • 国は、大学等、公的研究機関及び産業界と協働して、1.で掲げた「重要政策課題総合戦略(仮称)」について検討を行う合議体として、統括組織等の中に、新たに「イノベーション共創プラットフォーム(仮称)」を創設する。本プラットフォームにおいては、「重要政策課題総合戦略(仮称)」に含まれる「重点研究開発領域(仮称)」の対象や個別研究開発課題の選定、それぞれの達成目標、研究開発の推進体制、研究開発資金配分の在り方等について、幅広い観点から検討を行う。
2)「競争」と「協調」による新たな研究開発の仕組みの構築
  • 国は、大学等、公的研究機関及び産業界と連携・協力して、オープンイノベーションに対応し、産学官の研究開発機関等の総合力を発揮する体制として、IMEC(Interuniversity Micro Electronics Center)(※7)等の例も踏まえ、中核的機関が複数の参画機関と利害関係を調整しつつ、共同で研究開発を行うとともに、自らの研究開発能力の向上を図る「競争」と「協調」による新たな研究開発の仕組みを構築する。その際、中核的機関として、大型施設・設備等を有し、また大学等と産業界との橋渡しの役割も期待される研究開発法人(研究開発力強化法でいう研究開発法人をいう。以下、同じ。)等の活用も検討する。
  • 国は、産業界の課題に対し、産学の対話により設定された研究領域において、大学等が基礎研究を行い、その結果を踏まえた緊密な産学官の対話等を行う研究開発と人材育成の「共創の場」を形成する。
3)多様な産学官連携拠点の形成
  • 国は、第3期基本計画に基づいて創設され、入口から出口まで一貫した産学協働によるイノベーションの「場」としての役割が期待されている「先端融合領域イノベーション創出拠点」の形成プログラムを推進する。
  • 国は、基礎研究や人材育成から、商業化・事業化までの活動を産学官が有機的に連携して推進し、持続的・発展的にイノベーションを起こすイノベーションエコシステムとしての産学官連携拠点の形成を支援する。
  • 大学等及び産業界は、組織的・戦略的な共同研究を推進するため、相互の人材交流を一層強化し、また大学等の研究者が企業等の保有する施設設備等を利用した研究を行うことができるよう、企業内研究室の設置も含めた産学連携体制を整備することが期待されている。

※7 1984年にベルギーのフランダース州政府が非営利法人として設立。年間収入244.5百万ユーロ、収益13.9万ユーロ(2007年度)。ナノエレクトロニクス、ナノテクノロジー、情報通信等の分野で3~10年先を見据えたビジョンを描き、それに必要となる先進的なコア技術について、関係機関(大学や民間企業等)との利害関係を調整しつつ開発を行うとともに、自らも知的財産を蓄積することを特徴とする機関。

2.研究成果の事業化支援の強化

 大学等や公的研究機関に豊富に存在する研究開発シーズを、イノベーションに結びつけ、それを事業化まで発展させていくためには、大学等及び公的研究機関と企業等とのマッチングを進めるとともに、シーズの創出から大学発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャー等の創出に至る各段階に応じた、幅広い支援方策を講じていくことが不可欠である。
 その一方で、我が国の大学発ベンチャーの設立数は、人材の育成・確保や研究開発の初期段階での資金確保等の問題を一因として、近年、急激に減少する傾向にあり、研究開発の初期段階から事業化までの連続的な支援や、起業や企業経営に関する知識を持つ人材育成等の事業化支援を充実・強化していくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)事業化までの切れ目ない支援の充実
 2)大学等における事業化支援体制の強化

<推進方策>

1)事業化までの切れ目ない支援の充実
  • 国は、大学等の独創的・創造的な研究成果について、その実用可能性を目利きするための人的支援や研究費支援等を総合的に行い、企業等との共同研究や、研究開発型ベンチャーの創出につながるシーズの発掘を促進する。また、国は、大学等における事業化を目指した研究開発の初期段階に係る経費を支援するとともに、その後の実用化までの一連のプロセスにつなげるなど、研究成果の創出から実用化までの切れ目ない支援を強化する。
2)大学等における事業化支援体制の強化
  • 大学等は、事業化の可能性の大きい研究成果の特許等の取得及び維持の支援、企業における製品化・事業化につなげていくためのプロトタイプ等による検証を含めた研究支援、大学等の研究者のベンチャーへの参加促進、さらには大学発ベンチャーの創出等に関する支援体制の整備を推進していくことが求められる。
  • 大学等及び産業界は、大学等の産学連携本部等と、中小企業やベンチャー企業等との連携体制を構築(ネットワーク化)していくことが期待される。また、国は、これらの体制構築を促進する。
  • 大学等は、起業意欲のある学生や研究者による研究成果の事業化を促進する観点から、産業界との協働により、起業に関する理解や意識向上を図るための教育プログラムの作成やインターンシップ支援、相談員の配置等の支援を強化していくことが期待される。

3.国際化をはじめ産学官連携活動を支える体制の整備

 経済のみならず企業等の研究開発の活動がグローバル化し、またオープンイノベーションの取組が活発化する中、産学官連携活動も、大学等と国内企業等との間のみにとどまらず、海外企業等との共同研究をはじめとする国際的な産学官連携活動を積極的に展開することは、大学等の教育研究活動の活性化を図るとともに、我が国の国際競争力を強化する観点から、極めて重要である。
 また、これまで多くの大学等において、それぞれの大学の個性や特色に応じた産学官連携体制の整備が進展してきたが、大学等がより自立的に産学官連携活動を推進していくためには、それぞれの大学等の個性や特色を踏まえつつ、多様な産学官連携活動を推進するための支援体制を強化していくことが必要である。
 しかしながら、大学等の外国企業との共同研究・受託研究は件数・受入金額ともに増加傾向にあるものの、全体に占める割合は極めて低い水準にとどまること、また近年、承認を受けた技術移転機関(TLO)の関与した技術移転件数・実施料収入が減少傾向にあること、さらに産学官連携活動を支える専門人材等の育成・確保が課題として指摘されていることなどを踏まえ、産学官連携活動を支える大学等の体制整備を進めていくことが不可欠である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)国際的な産学官連携活動の支援のための体制整備
 2)大学等における産学官連携体制の強化

<推進方策>

1)国際的な産学官連携活動の支援のための体制整備
  • 国は、大学等における効果的・効率的な海外特許の取得を支援するため、出願経費の支援、大学等の海外特許戦略の策定、海外特許出願に際しての助言、さらに人的支援等を強化する。
  • 大学等は、自らの研究者情報や研究成果等の海外への発信機能を強化するとともに、諸外国における海外企業の研究開発動向調査や海外大学等とのネットワークの構築等を行うことにより、海外企業との共同研究や受託研究を促進していくことが期待される。その際、複数大学が協働して行うことも考えられる。
  • 大学等は、海外大学のTLOとも連携しつつ、海外研修等を通じて海外訴訟や契約に精通し、国際的に通用する知財専門人材の育成・確保を進めることが期待される。また、海外企業向け窓口を一元化するとともに、弁理士等の外部専門家を活用し、契約・交渉や契約書の作成等を円滑に進めるための事務処理体制の整備が求められる。
2)大学等における産学官連携体制の強化
  • 国は、これまでの大学等における産学官連携体制の整備の効果及び課題等を検証した上で、例えばグローバルな産学官連携活動を推進する国際的な拠点形成や、地域の大学と地域の企業との連携を推進するための拠点形成、さらには大学等間や公的研究機関、地方公共団体等との連携を通じた広域的な産学官連携体制の構築など、大学等における産学官連携活動を、より活性化するための支援制度を整備する。
  • 国は、大学等の知的財産本部等やTLOの活動支援を強化する。また、大学等は、産学官連携機能や技術移転機能の最適化を図るため、個々の大学等の特性・実態を踏まえ、必要に応じて広域的な機能を持つTLOへの統合、産学官連携本部等とTLOの統合や連携強化等の取組を進めることが期待される。
  • 大学等は、産学官連携活動の強化に向け、内部専任職員の研修や、キャリアパスの確保、給与や処遇面でのインセンティブの付与など、産学官連携活動を担う専門人材の育成・確保に向けた取組を進めることが期待される。

(2)地域イノベーションシステムの強化

 今後、我が国全体として、持続的な成長・発展を遂げるとともに、国民生活の質を向上させていくためには、それぞれの地域が持つ多様性や独自性、独創性等を積極的に活用し、それらを地域の発展、ひいては国全体の成長力の強化等につなげていくことが極めて重要である。
 このような認識の下、国においては、これまで知的クラスター(※8)の形成をはじめとする地域科学技術の振興を図ってきており、研究成果の事業化や企業集積等で着実な進展が見られるが、地方公共団体における厳しい財政状況等の影響もあり、それぞれの地域において地域科学技術の振興が必ずしも定着していないなどの課題も指摘されている。
 このため、今後は地域が特色ある取組を自立的に行うことができるよう必要な支援を行うなど、国として推進すべき地域科学技術の振興策について重点化を図るとともに、大学等の知を積極的に活用することで、地域科学技術の新たな芽を育てていくことが求められている。このような観点から、国としては、関係省庁の連携の下、地域が持つ科学技術のポテンシャルを活かした新たな産業創出等を促進するとともに、これを支える人的・財政的基盤を強化するための広域的な地域連携や、大学等における地域貢献機能の強化に関する取組を支援することにより、科学技術による地域活性化を目指す総合的な取組としての「地域イノベーションシステム」を強化していくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)国際競争力のあるイノベーションクラスターの形成
 2)大学等における地域貢献機能の強化
 3)地域の特色を活かしたイノベーションシステムの構築


※8 地域の大学をはじめとする公的研究機関等を核に、民間企業等の参画も得て、有機的なネットワークを形成し、連鎖的に新商品・サービス等を創出する集積(クラスター)。

<推進方策>

1)国際競争力のあるイノベーションクラスターの形成
  • 国は、世界水準のクラスター形成を推進するとともに、クラスターとしての国際競争力を強化する観点から、単一の自治体単位の枠を越えた複数の自治体による広域的な地域連携を促進する。
  • 国は、都市エリア単位の小規模クラスターについて、これまでの成果等を踏まえつつ、地域の国際的な強みや特徴のある技術を核として、国際競争力を有するクラスターに発展させていくための地方公共団体の主体的な取組に対して、人材養成や事業化等に係る支援を重点的に行う。
  • 国及び地方公共団体は、効果的・効率的な地域イノベーションの推進に向け、各地域におけるクラスター形成や産学官連携の活動に関する情報の共有化を進めるとともに、これらの取組に関する共同での評価の実施や施策の推進など、関連する事業等を行う府省間等の連携を強化する。
  • 国は、地域における長期的な戦略に基づいたクラスター形成を促進するため、地域が目指すクラスターや地域イノベーションシステムの多様性等を踏まえ、地域の構想に柔軟に対応した支援の在り方を検討する。
2)大学等における地域貢献機能の強化
  • 国及び地方公共団体は、地域の「知」の拠点である大学等が行う地域の中小企業やベンチャー企業等と協働した新技術創出や地域課題対応等に関する研究活動や人材育成、産学官連携活動、知的財産活動等に関する取組を支援する。
  • 大学等は、地方公共団体等と連携・協力しつつ、中小企業等のニーズに対応した知的財産の管理・活用や人材育成など、地域における産学官連携活動の強化を進めることが期待される。
3)地域の特色を活かしたイノベーションシステムの構築
  • 国は、地域のニーズや特色を踏まえつつ、地方公共団体や大学等、公的研究機関、産業界、さらに市民団体等が連携・協力して、我が国全体の科学技術の高度化や社会システムの改革につながる国家的・社会的課題等に関して、地域を「場」として研究開発から技術実証、社会還元まで一貫して行う新たな研究開発システムを形成することを検討する。
  • 国は、各地域において、地域の特色を活かした地域イノベーション構想の立案等を担う優れたマネジメント人材や、産学官連携や知的財産活動を担うコーディネーター人材の養成・配置、さらに外部有識者の登用等を支援する。
  • 国は、地域イノベーションシステムの構築に当たっては、地域の主体性・自主性を尊重する観点から、地域の意見を把握し、具体的な政策等に的確に反映させる取組を推進する。

(3)国際競争力強化のための知的財産戦略の推進

 世界における社会・経済のグローバル化が進展し、また、新興国の台頭等により、国際競争が激化する中、我が国が国際的な優位性を保ちつつ持続的な成長・発展を遂げていくためには、独創的・先進的な知的財産を生み出し、それらを効果的・効率的にイノベーションに結びつけていくことが極めて重要であり、それらの活動を推進するための高度な知的財産戦略が不可欠である。
 特に、世界的に企業等におけるオープンイノベーションに関する取組が展開し、また研究活動や経済活動がグローバル化する中、我が国の企業等が、これらに適切に対応していくためには、知的財産を適切に保護するとともに、その円滑な利活用を促進するための国際的な知的財産戦略が必要である。
 その一方で、我が国では、大学等の特許実施料収入は増加傾向にあるものの、未だ低い水準にとどまること、大学等が保有する特許権の利用率が他に比べて低位であること、またオープンイノベーションに対応した知的財産権制度の在り方に課題があること等が指摘されており、これらの対応強化等に向けた取組を着実に推進していくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)知的財産権制度・運用の見直し
 2)知的財産の活用促進に向けた体制の構築
 3)知的財産活動に携わる人材の育成・確保

<推進方策>

1)知的財産権制度・運用の見直し
  • 国は、イノベーションの推進、特にオープンイノベーションへの対応の観点から、特許等の知的財産権制度・運用の在り方について総合的な検討を行い、必要な見直しを行う。
2)知的財産の活用促進に向けた体制の構築
  • 国は、大学等が持つ特許等の活用促進や研究活動の活性化、さらにはイノベーションを促進するため、大学等や企業等が保有する特許について、研究に限り無償開放する「リサーチパテント・コモンズ」を構築する。これに加えて、戦略的な重点領域を選定するとともに、関連する科学技術情報をも併せて収集・公開することで、全体を「科学技術コモンズ」として運用する。
  • 国は、国等からの委託による研究開発の成果として創出された知的財産の円滑な利活用を図るため、必要に応じ、研究成果のプール管理等を促進する枠組みを検討する。また、国は、大学等や公的研究機関における研究成果の権利化や管理・活用等に必要な経費を確保するため、研究成果が生じた場合には、競争的資金等の間接経費を充当することを促進する。
  • 国は、研究活動や事業活動のグローバル化により、海外への技術移転が活発化する可能性の高い現状を勘案した上で、国の研究開発投資で得られた知的財産の海外への技術移転の在り方について基本的方針の策定を検討する。
  • 国は、知的財産関連の情報流通を促進するため、特許・論文情報統合検索システムの利用を促進するとともに、関連する特許や各種文献等をリンク・分析するシステム(J‐GLOBAL)を整備するなど、知的財産関連の情報のネットワーク化を推進する。
  • 大学等は、研究成果の効果的な活用を図るため、将来の研究の自由度の確保に配慮しつつ適切なタイミングで企業に譲渡するなど、成果の特性に応じた特許の権利化や、その管理・活用等を促進することが期待される。また、大学等は、学生等が創出した成果の取り扱いについて、対応方針の明確化を図ることが求められる。
3)知的財産活動に携わる人材の育成・確保
  • 国は、知的財産活動に携わる人材の育成・確保を推進するため、大学等における知的財産関係のカリキュラムの充実やポストドクター等の知財専門人材としての登用、分野に応じた知見を有する専門人材の育成・確保等に関する取組を支援する。
  • 国は、関係省庁及び産学官の連携の下、ISO等に対して、国際標準に関する提案を積極的に進めるとともに、国際標準化の活動に的確に対応できる人材の養成・確保に向けて、研修・教育プログラムの整備や国際標準化活動への参加支援等の取組を推進する。

(4)研究成果の社会実装の促進

 研究開発によって得られた成果を、イノベーションを通じて社会に還元し、我が国の成長力の強化等に結びつけていくためには、これらの成果が社会に実装されるための仕組みの整備や、それらを阻害する要因等を解決するための取組等を進めていくことが不可欠である。
 特に、科学技術によるイノベーションを阻む外部要因として、これまでも規制や人材交流、公共調達等の問題が指摘されており、研究交流制度や中小企業からの公共調達促進、中小企業技術革新制度(SBIR)の活用等において着実な進展が見られる。その一方で、公共部門における研究開発成果の活用や、医薬等に関する規制の問題等での課題も指摘されており、科学技術と市場や社会との隘路解消も含め、研究成果の社会実装の促進に向けた取組を一層強力に推進していくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)公共部門におけるイノベーションの促進
 2)社会実装の阻害要因となる隘路の解消

<推進方策>

1)公共部門におけるイノベーションの促進
  • 国は、市場の限られた公共部門において、技術を利用する側の府省等(出口側機関)と技術をもつ研究開発機関とが実装までの道筋を視野に入れた連携開発システムを構築し、公共部門におけるイノベーションを促進する。

(具体例)
‐ 国民の安心・安全を確保する上で重要であるが、市場が限られる分野において、出口側機関と研究開発機関が連携した体制を構築し、ニーズに基づいた研究開発テーマの設定及び研究開発の推進への助言等の実施
‐ 政府調達と連携することで、初期需要を創出し、民間企業による技術開発のインセンティブを付与
‐ 出口側機関に対し、研究開発費に加えて、運用のための調査研究費や国際動向の情報収集、基準・認証等の検討等に必要な経費等を措置

  • 国は、優れた技術を有しながら商品の市場化に至らない大学等や研究開発型ベンチャー等の成果について、初期需要を創出する観点から、透明性・公平性の確保を前提に、分野を限定した公共調達枠の設定を検討する。
2)社会実装の阻害要因となる隘路の解消
  • 国は、イノベーションの隘路となる規制分野に関し、科学的な審査指針・基準策定に向けたレギュラトリーサイエンスを充実する。特に、先端医療分野において、特区制度も活用した取組を推進する。

(具体例)
‐ リスクと効果を科学的に分析し、ガイドライン整備につなげ、イノベーションを実現するためのレギュラトリーサイエンスの充実
‐ 先端医療における治験承認の困難さを解消するため、臨床研究から治験までの一貫したガイドラインの整備、新審査制度や中央管理体制(レジストリ、倫理等)の構築、国際標準化に向けた取組の推進
‐ 臨床研究・実証研究・国際治験において発生する関連費用について、国による支援の実施
‐ 医療の実践の積み重ねによる臨床データベースの構築を行い、そのデータベースを基にした臨床研究による新たな課題の抽出

4.世界的な研究開発機関の形成及び先端研究基盤の整備

 我が国が国家戦略として科学技術イノベーション政策を強力に推進していくためには、国が取り組むべき研究開発等の主たる担い手である研究開発法人の果たすべき役割は大きく、これまでも世界最先端の研究開発の推進や、保有する研究開発施設・設備等の幅広い共用等の取組を着実に進めてきたところである。特に国として重要な政策課題に対応した研究開発を推進していくためには、このような研究開発法人の存在が極めて重要であり、その研究開発能力を一層高める観点から、研究開発法人の機能強化を図っていくことが必要である。
 また、科学技術によるイノベーションの実現に向けて、世界最先端の研究開発を推進するとともに、それを核に国内外から優れた研究者等を確保していくためには、研究開発法人をはじめ、世界トップレベルの研究開発水準や研究環境等を有する魅力ある拠点形成を一層促進していくことが必要となる。
 さらに、研究開発法人等は、これまで世界最先端の研究成果の獲得を目指す大規模な先端研究施設・設備や知的基盤の整備等を、中心となって進めてきたところであるが、今後、優れた研究成果の創出やイノベーションの速度と確実性等を一層高めていく観点から、これらの整備・運用等を確実に進めることはもとより、それらを幅広い研究機関や研究者等の利用に供していくことが求められている。
 上述した視点を踏まえ、世界的な研究開発機関の形成及び先端的な研究基盤の整備に関しては、以下の主要事項について推進する。
 (1)研究開発法人の機能強化
 (2)世界トップレベルの研究開発拠点の形成
 (3)先端研究施設・設備等の整備・運用及び共用促進
 (4)知的基盤の整備

(1)研究開発法人の機能強化

 研究開発法人は、将来的に我が国の社会・経済にとって大きな波及効果が見込まれるものの、現時点ではリスクが高い研究開発や、長期的視野に立った先行投資が必要な研究開発、また公共性が高く特定の事業者の利益につながらない研究開発など、民間や大学等では単独で実施することが難しい研究開発活動を実施する機関であり、我が国の科学技術イノベーションの推進において、極めて重要な役割を担っている。
 現在、このような研究開発法人としては、大規模な研究開発の推進を目的とするものから研究支援を目的とするものまで様々な特徴があるが、これらの機関は全て「独立行政法人通則法」(平成11年法律第103号)に基づく独立行政法人として設立されている。しかしながら、研究開発法人は、上述のような業務の特殊性から、同通則法に定める効率的な業務遂行等を目的とする他の独立行政法人と同一に取り扱うことが適切ではない側面を有しているため、その特性等を踏まえた法人制度の在り方について検討していくことが不可欠である。
 このような観点から、平成20年に制定された研究開発力強化法及びその附帯決議においては、研究開発法人の在り方について3年(平成23年10月)以内に必要な措置を講じるとされており、国として早急に検討を進めることが必要である。
 さらに、このような新たな制度の検討に加えて、研究開発法人における研究開発体制や運営体制等の機能強化を進めることにより、研究開発法人の研究開発能力について、一層の向上を図っていくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)新たな研究開発法人制度の検討
 2)研究開発法人の機能強化

<推進方策>

1)新たな研究開発法人制度の検討
  • 国は、研究開発力強化法及びその附帯決議を踏まえ、研究開発の特殊性、優れた人材の確保、国際競争力の確保等の観点から、新たな研究開発法人制度の在り方について、早急に検討を進める。

(主な論点の例)
‐ 国の計画等に基づき行われる研究開発業務の特殊性に応じた国の関与の在り方
 例えば、研究開発の特殊性に鑑み、国が一定の関与をしつつ、実際に業務を遂行するに当たっては、柔軟な研究開発を行えるようにする仕組み 等
‐ 研究開発の特性に応じた柔軟な財政措置の在り方
 例えば、現在の運営費交付金について、国の計画等に基づき、より柔軟な執行を可能とする仕組み 等
‐ 府省横断的な研究開発推進の在り方
 例えば、各省の枠を超えて研究開発力を結集し、府省横断的に研究開発を実施できるようにする仕組み 等
‐ 研究開発の特性を踏まえた目標管理及び評価の在り方
 例えば、研究開発業務については、より長期の目標設定を可能とするとともに、その評価については、研究開発の観点から相応しい体制で行う仕組み 等

2)研究開発法人の機能強化
  • 国は、研究開発法人が、大学等や民間では単独で実施することが困難な研究開発活動を実施する機関として重要な役割を担っていることに鑑み、これらの機関に対する財政措置を確実に行う。
  • 国は、研究開発法人の目的や特性に応じて、国からの確実な財政措置を前提に、施設・設備等の共用促進や民間企業との共同研究・受託研究の受入等による外部資金の導入を一層促進するための方策を講じる。
  • 研究開発法人は、その目的や特性等に応じて、大学等で生まれたシーズを出口側に結びつける「つなぎ」の役割も期待されることから、産学官連携を促進するための「場」の形成や、産学官の共同研究の推進等における中核的機関としての機能等を強化することが期待される。
  • 研究開発法人は、研究開発活動全体のマネジメントや研究に関わる技術的業務等を担う専門人材の養成・確保、研究企画を行う体制の整備・充実等に関して、大学等や企業等にとって参考となる取組を強化することが求められる。

(2)世界トップレベルの研究開発拠点の形成

 社会・経済のグローバル化が進展する中、研究者等の国際的な流動化が急速に進展しており、国内外から第一線の研究者等を惹きつけ、また科学技術イノベーションの推進を通じて優れた研究成果等を創出していくためには、国として、世界最高水準の施設・設備等を有し、かつ最先端の研究開発活動を行う世界トップレベルの魅力ある研究開発拠点を形成していくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。

<推進方策>

  • 国は、世界第一線の研究者の集積、意志決定や人事・給与体系の独立性、英語による研究活動、卓越した融合研究領域の開拓等のシステム改革を行うことにより、優れた研究環境と高い研究水準を誇る「目に見える拠点」の形成を目指す「世界トップレベル研究拠点(WPI)」事業を拡充する。
  • 国は、シーズから出口まで一貫した産学協働によるイノベーションの「場」としての役割が期待されている「先端融合領域イノベーション創出拠点」の形成プログラムを推進する。
  • 国は、オープンイノベーションに対応し、産学官連携による研究開発機関等の総合力を発揮し、「競争」と「協調」による新たな研究開発の仕組みの構築に向けて、大型施設・設備等を有し、また産学の「つなぎ」や異分野融合の促進等の役割も期待される研究開発法人等を中核的機関とする世界的な研究開発拠点を形成するための取組を推進する。

(3)先端研究施設・設備等の整備・運用及び共用促進

 整備・運用に多額の経費を要し、科学技術の広範な分野で広く共用に供することが適切な先端研究施設・設備等については、研究開発法人等が単独若しくは共同で整備・運用等を推進しており、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(平成6年法律第78号)」(以下、「共用法」という。)に基づき、これまでも大型放射光施設(SPring‐8)や大強度陽子加速器施設(J‐PARC)、次世代スーパーコンピュータ、X線自由電子レーザー(XFEL)等の世界最先端の研究施設・設備等の整備・運用を進めているところである。
 このような世界最先端の研究施設・設備等を国内外の幅広い研究者等が活用することで、優れた研究開発成果等を生み出し、また、人材育成等にも寄与していくことは、我が国の科学技術イノベーションの推進、さらには研究開発投資の効果的・効率的な活用を図る上で極めて重要である。
 その一方で、近年、研究開発法人の運営費交付金等が減少傾向にあり、多くの法人で保有する大型の施設・設備等の維持管理の在り方が問題となっていることから、これらの先端研究施設・設備等について適切な財政措置を行うとともに、優れた研究成果の創出に向けて、施設・設備等の整備・運用及び共用の促進を着実に進めていくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。

<推進方策>

  • 国は、研究開発法人を中心として、次世代スーパーコンピュータをはじめ、世界最先端の研究開発の推進に加え、幅広い研究分野への活用等が期待される先端研究施設・設備等の整備を確実に進めるとともに、これらの着実な運用や共用法に基づく共用促進を図るため、適切な財政措置を行う。
  • 研究開発法人等は、保有する施設・設備の共用を推進するための安定的な運転時間の確保及び利用者ニーズを把握した上での技術支援者の適切な配置など、利用者の支援体制を充実・強化する。また、保有する先端研究施設・設備等において優れた研究成果が創出されるよう、共用に際して、課題の公募・選定の在り方を含め、成果が期待される研究開発を戦略的に実施するための方策を講じる。
  • 国及び研究開発法人等は、分野融合やイノベーションの促進に向けて、飛躍的・非連続的な技術革新をもたらし、かつ幅広い研究開発課題に共通して用いられる基盤技術の高度化等を図る観点から、研究施設・設備等の整備を進めるとともに、これらの施設・設備等を有する機関間のネットワークを強化するための取組を推進する。
  • 国及び研究開発法人等は、最先端の研究施設・設備等に加えて、科学技術の広範な分野又は多様な研究等に活用され、複数の機関が共同して利用することが適当な基盤的・共通的研究施設・設備であって多額の経費を要するものについても整備・運用を行い、これらを広く共用に供するための方策を講じる。

(4)知的基盤の整備

 研究開発活動やイノベーションを効果的・効率的に推進していくためには、これらの知的創造活動で生み出された成果や収集された研究用材料等の知的資産をモノあるいは情報の形で体系化し、幅広い研究者等の利用に供することを可能とする知的基盤として整備していくことが必要である。
 これまでも、知的基盤の整備に関しては、研究用材料(生物遺伝資源等)の収集・保存数をはじめ、主として量的目標を掲げ、その達成に向け取り組んできたところであり、目的毎の整備は順調に進捗してきた。その一方で、利用者の意見やニーズ、利用成果等の把握や知的基盤整備に関わる人材の養成・確保等で課題が指摘されていることを踏まえ、引き続き国として知的基盤整備を着実に進めるとともに、より多様なユーザーに応えイノベーションに資する「質」の充実や、我が国全体での総合的かつ一体的な施策の実現という観点から、知的基盤整備を推進していくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)新たな知的基盤整備計画の策定及び推進
 2)知的基盤の充実・高度化及びその整備に係る体制構築

<推進方策>

1)新たな知的基盤整備計画の策定及び推進
  • 国は、平成13年に策定した「知的基盤整備計画」及び第3期基本計画に基づき一部見直しを行い平成19年に策定した「知的基盤整備計画について」の達成状況や国内外における科学技術の研究開発やイノベーションの動向等を踏まえ、中長期的な戦略策定という観点で新たな整備計画の検討を行い、知的基盤整備の促進を図る。その際、知的基盤4領域(生物遺伝資源等の研究用材料、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、関連するデータベース等)について、引き続き整備を進めるとともに、知の創造やイノベーションに向けて、今後重点的に整備すべき領域の設定や成果創出につながる質的目標の設定に配慮する。
  • 国は、知的基盤の計画的な整備や利用の促進を図るため、関係する研究開発機関等を主導する中核的機関を中心として、関係省庁、大学等や公的研究機関等との連携・協力による知的基盤の整備及びその利活用を進める。
2)知的基盤の充実・高度化及びその整備に係る体制構築
  • 国は、安定的かつ継続的な知的基盤整備が進展するよう、知的基盤の整備に対する財政措置を確実に行うとともに、知的基盤整備に携わる人材の養成・確保や整備機関等に対するインセンティブ付与等の取組を進める。
  • 国は、利用者ニーズを踏まえた成果の蓄積やデータベースの整備・統合化、それらの利活用、さらには既に整備された機器及び設備の有効活用等を促進することにより、知的基盤の充実・高度化を図る。
  • 国は、先端的な計測分析技術・機器について、開発当初から事業化の実施主体やユーザー等を交えた連携体制による開発を進めるとともに、開発された技術・機器の市場への普及を促進する。
  • 国は、大学及び公的研究機関等と連携・協力しつつ、知的基盤整備に関する国際的な取組への参画や、他国との共同研究の実施、知的基盤の相互利用の促進、さらには標準化の取組など、国際連携を進めるための戦略策定を検討する。

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